JP2017190493A - Ni基超合金およびNi基超合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】固溶強化型のNi基超合金であって、合金内の粒界の長さに対して炭化物で被覆された粒界の長さの割合で定義される粒界被覆率を30%以上とし、その製造に際し、1050℃〜1200℃の温度範囲において溶体化熱処理し、その後、700〜750℃の温度範囲の時効処理または、前段で700〜750℃の温度範囲で行う加熱と、後段で630〜670℃の温度範囲で行う2回時効熱処理を行う。
【選択図】図1
Description
ただし、Mは合金中の炭化物形成元素である
1050℃〜1200℃の温度範囲において溶体化熱処理し、その後、時効処理を行うことを特徴とする。
高温において粒界は変形が起こりやすい弱化因子となる。炭化物により粒界を被覆すると、被覆された部分の粒界近傍での転位の集積およびサブグレイン化が抑制されるため、高温において粒界近傍での局所的かつ急激な変形が起こりにくくなる。そのため、変形は粒界近傍のみならず粒内でも起こり、伸びや絞りといった延性が向上する。このような効果を得るためには、炭化物による粒界被覆率を30%以上にする必要がある。なお、同様の理由で、下限を40%とするのが一層望ましい。
未固溶炭化物の大きさは母相内に固溶しているC原子の量に依存しているため、所望の粒界被覆率を確保するには未固溶炭化物の大きさを制御するのが望ましい。
未固溶炭化物の平均円相当径が0.95μmを超えると、母相内のC原子が欠乏し粒界被覆率が30%未満となる。一方、未固溶炭化物の平均円相当径が0.85μmを下回る場合、母相内に過剰なC原子が固溶し粒界炭化物の粗大化を招くおそれがある。従って、未固溶炭化物の大きさは平均円相当径換算で0.85〜0.95μmの範囲とすることが望ましい。なお、同様の理由で、下限を0.87μm、上限を0.93μmとするのが一層望ましい。
未固溶炭化物の量も母相内に固溶しているC原子の量を左右する。未固溶炭化物の平均数密度が2.4×10−2個/μm2を超えると、母相内のC原子が欠乏し、粒界被覆率が30%未満となる。一方、未固溶炭化物の平均数密度が1.8×10−2個/μm2を下回る場合、母相内に固溶しているC原子が過剰となり粒界炭化物の粗大化につながる可能性が懸念される。従って、未固溶炭化物の量は平均数密度で1.8×10−2〜2.4×10−2個/μm2の範囲とすることが望ましい。なお、同様の理由で、下限を1.9×10−2個/μm2、上限を2.2×10−2個/μm2とするのが一層望ましい。
Cは炭化物を形成して合金の結晶粒粗大化を抑制し、粒界に析出して高温強度を向上させる添加元素であるが、含有量が少ないと強度の向上に十分な効果がないため少なくとも0.01%以上の含有が必要である。しかし、含有量が多すぎると過剰な炭化物が形成されてγ´相など他の有用な析出量が減少するなど悪影響が懸念されるので、上限は0.15%とする。なお、同様の理由により下限を0.03%、上限を0.10%とするのが望ましい。
Crは合金の耐酸化性、耐食性、強度を高めるために必要な元素である。また、Cと結合して炭化物を生成し高温強度を高める。しかし、含有量が多すぎるとマトリクスの不安定化を招き、σ相やα−Crなどの有害なTCP相の生成を助長して延性や靭性に悪影響をもたらす。従って、Crの含有量は10〜25%に限定する。同様の理由により、下限は18%、上限は23%とするのが望ましい。
CoはAl、Ti、Nb、Wといった合金元素の分配係数を1に近づけて合金の偏析性を改善する元素である。Coを5%以上含まないと上記の効果が十分得られず、20%を超えると鍛造性を悪化させるだけでなく、ラーベス相を生成しやすくなるため、高温でのマトリクスの組織を却って不安定にするとともに高温組織安定性を悪化させる。したがってCoの含有量は5〜20%の範囲に限定する。同様の理由で、下限を10%、上限を15%とすることが望ましい。
Moは主にマトリクスに固溶してこれを強化するとともに、γ´相に固溶して同相のAlサイトに置換することにより同相の安定性を高めるので、高温強度と組織安定性をともに高めるのに有効である。Mo含有量が5%未満では上記効果が不十分であり、15%を超えるとラーベス相を生成しやすくなるため、高温でのマトリクスの組織を却って不安定にするとともに高温組織安定性を悪化させる。したがって、Moの含有量は5〜15%の範囲に限定する。同様の理由で下限を8%、上限を12%とするのが望ましい。
AlはNiと結合してγ´相を析出させ、合金の析出強化に寄与する。しかし含有量が多すぎるとγ´相が粒界に凝集して粗大化し、高温での機械的特性を著しく損ねるほか、熱間加工性も低下させる。従って、Al含有量は0.5〜2%に限定する。同様の理由で下限は0.8%、上限は1.2%とすることが望ましい。
Feは含有量を多くすると合金のコスト低減に効果があるため所望により含有させる。しかし過剰にFeを含有させるとラーベス相が生成し、熱間延性低下など材料特性の悪化を招く。そのため、所望により含有させるFeの含有量は3%以下とする。同様の理由で、下限は0.5%、上限は1.5%とすることが望ましい。
Tiは主にMC炭化物を形成して合金の結晶粒粗大化を抑制するとともに、Niと結合してγ´相を析出させ、合金の析出強化に寄与するため所望により含有させる。しかし過度に含有させると高温でのγ´相の安定性を低下させ、さらにη相を生成し強度や延性、靭性、高温長時間での組織安定性を損ねる。従って、所望により含有させるTiの含有量は1%以下に限定する。同様の理由により、下限は0.1%、上限は0.5%とすることが望ましい。
Bは粒界に偏析して高温特性に寄与するので所望により含有させる。但し、多過ぎる含有は硼化物を形成し易くなり、逆に粒界脆化を招く。したがって、所望により含有させるBの含有量は0.006%以下とする。なお、上記作用を十分に得るためには、0.001%以上含有するのが望ましく、また上記と同様の理由により、さらに下限を0.002%、上限を0.005%とするのが望ましい。
一般的に、固溶強化型Ni基超合金においては鍛造工程中に析出した炭化物が溶体化熱処理工程において母相に固溶し、続く時効熱処理において母相中に固溶したC原子や合金元素原子が粒界炭化物を形成する。
この一連の熱処理において、溶体化処理温度が1050℃を下回ると炭化物の固溶が進まず、時効熱処理において十分な量の粒界炭化物が析出しない。一方、溶体化熱処理温度が1200℃を上回ると結晶粒が著しく粗大化し、機械的性質や非破壊検査における超音波の浸透性などに悪影響をもたらす。例えば、Ni基超合金であるAlloy617では、溶体化熱処理温度が1050℃を下回ると鍛造工程中に析出した炭化物の固溶が進まず、粒界炭化物を形成するに十分な量のC原子や合金元素原子が母相に固溶しないため粒界被覆率が30%未満となる。一方、溶体化熱処理温度が1200℃を上回ると鍛造工程中に析出した炭化物が過剰に固溶し、粒界ピン止め効果が失われて、例えば結晶粒度番号が1以下になるなど結晶粒が著しく粗大化する。従って、溶体化処理温度は1050℃〜1200℃が望ましい。同様の理由により、溶体化処理温度の下限は1070℃が一層望ましく、上限は1120℃が一層望ましい。
なお、同様の理由で保持時間は下限を3時間とするのが一層望ましく、上限を7時間とすることが一層望ましい。
1段目 700〜750℃,1〜120時間
2段目 630〜670℃,1〜50時間
固溶強化型Ni基超合金では通常、溶体化熱処理のみを行って使用に供するが、その場合は十分な量の粒界炭化物を形成することが出来ず、粒界被覆率が30%未満となる。そのため、本発明においては時効熱処理を実施する。
1段目の時効熱処理温度の700〜750℃においては、粒内に強化相であるガンマプライム相が析出する一方で、粒界にはM6C型の炭化物が析出する。1段目時効温度が700℃を下回るとCおよび炭化物形成元素の拡散速度が小さくなるため、所望の量の粒界炭化物が析出しなくなる。また、1段目時効温度が750℃を超えると炭化物およびガンマプライム相の析出ノーズから外れるため、それぞれの析出量低下が懸念される。従って、1段目時効温度範囲は700〜750℃とすることが望ましい。
また、1段目の時効熱処理で所望の効果を発現させるには1時間以上の保持時間とする必要があるが、120時間を超えて時効熱処理を施すとガンマプライム相の粗大化による合金の強度低下が懸念される。そのため、1段目時効時間は1〜120時間の範囲とすることが望ましい。
2段目の時効熱処理温度の630〜670℃においては、粒界にM23C6型の炭化物が析出して粒界被覆率を上げることができる。2段目時効温度が630℃を下回るとCおよび炭化物形成元素の拡散速度が小さくなるため、所望の量の粒界炭化物が析出しなくなる。一方、M23C6型の炭化物は成長速度が比較的大きいため、2段目時効温度が670℃を超えるとM23C6型炭化物の粗大化が起こり、粒界を適切に被覆することができない。従って、2段目時効温度範囲は630〜670℃とすることが望ましい。
2段目時効の効果を十分に発現させるためには保持時間を1時間以上とする必要があるが、前述のようにM23C6型の炭化物は成長が速いため、保持時間が50時間を超えると粗大化するおそれがある。従って、2段目時効時間は1〜50時間の範囲とすることが望ましい。なお、結晶粒の大きさによっては1段目の時効熱処理を行えば粒界の炭化物析出サイトが消費され、続く2段目の時効熱処理でM23C6型炭化物の析出サイトが残されていない場合もある。そのため、2段目の時効熱処理は必ずしも必須ではない。
本発明のNi基合金は、固溶強化型のものであり、代表的には、ASME/ASTM UNSN06617/W.Nr.2.4663aで規定されるAlloy617などの組成が示される。
該Ni基合金は、溶製後、溶体化処理、時効処理を行う。
溶体化は、例えば1050〜1200℃で、1〜10時間の条件で行うことができる。また、時効処理は、少なくとも1段で行う処理が望ましく、700〜750℃で、1〜120時間の範囲で行うことができる。また、2段目を行う場合には、630〜670℃で、1〜50時間の範囲で行うことができる。
引張試験温度は室温と700℃とし、破断前後の標点間距離の比から伸び(塑性伸び)を求めた。
組織観察は電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて行い、各試料につき倍率3000倍で10視野(1視野面積:1080μm2)で撮影し、それぞれの視野内の全粒界長さに対して炭化物で被覆された粒界長さの比を求め、これを平均して粒界被覆率とした。
また、各視野内の未固溶炭化物の個数と面積を画像解析ソフトと用いて計測した。未固溶炭化物の大きさは、各視野における個々の未固溶炭化物の面積を画像解析ソフトで計測し、これと同じ面積を持つ円の直径、すなわち円相当径に換算し、換算した円相当径を平均して得られる平均円相当径として表記した。未固溶炭化物の数密度は、視野ごとの未固溶炭化物の個数を観察視野の面積で除した値を算出し、これを観察視野数で平均した平均数密度として表記した。
図1に粒界被覆率と室温および700℃における伸びの関係を示す。同図より、粒界被覆率が30%以上となる網掛けの領域であれば、700℃における伸びが30%以上となり、粒界被覆率に依らずほぼ一定であることが判った。また、同じく粒界被覆率が30%以上であれば、室温における伸びと700℃における伸びの差が10%以内となり、室温と同じ延性を有するとみなせる。粒界被覆率が30%を下回ると、粒界被覆率の低下に伴い700℃での伸びが低下する。
図2に粒界被覆率と未固溶炭化物の平均円相当径の関係を示す。粒界被覆率は平均円相当径の増加に伴い減少する傾向があるが、同図の網掛け部に示すように、平均円相当径が0.85〜0.95μmの範囲内では粒界被覆率が30%以上となることが判った。図3に粒界被覆率と未固溶炭化物の平均数密度の関係を示す。粒界被覆率は平均数密度の増加に伴い減少する傾向があるが、同図の網掛け部に示すように、平均数密度が1.8×10−2〜2.4×10−2個/μm2の範囲内では粒界被覆率が30%以上となることが判った。
Claims (10)
- 固溶強化型のNi基超合金であって、合金内の粒界の長さに対して炭化物で被覆された粒界の長さの割合で定義される粒界被覆率が30%以上であることを特徴とするNi基超合金。
- 粒界がM6CおよびM23C6型の炭化物の析出によって粒界強化されていることを特徴とする請求項1記載のNi基超合金。
ただし、Mは合金中の炭化物形成元素である - 未固溶炭化物の平均円相当径が0.85〜0.95μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のNi基超合金。
- 未固溶炭化物の平均数密度が、1.8×10−2〜2.4×10−2個/μm2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のNi基超合金。
- 質量%で、C:0.01−0.15%、Cr:10−25%、Co:5−20%、Mo:5−15%、Al:0.5−2%を含み、残部をNiおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のNi基超合金。
- 上記組成にさらに、質量%でFe:3%以下、Ti:1%以下、B:0.006%以下を含むことを特徴とする請求項5に記載のNi基超合金。
- 蒸気タービン材料に使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のNi基超合金。
- 固溶強化型のNi基超合金の製造方法であって、
1050℃〜1200℃の温度範囲において溶体化熱処理し、その後、時効処理を行うことを特徴とするNi基超合金の製造方法。 - 前記時効処理を、700〜750℃の温度範囲において行うことを特徴とする請求項7記載のNi基超合金の製造方法。
- 前記時効処理を、前段で700〜750℃の温度範囲で行う加熱と、後段で630〜670℃の温度範囲で行う2回時効熱処理で行うことを特徴とする請求項7記載のNi基超合金の製造方法。
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