JP2017186391A - 電着塗料組成物、その製造方法及び電着塗膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】被塗装物に対して優れた耐食性を付与し得る電着塗料組成物の提供。【解決手段】イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド(PAS)微粒子分散液と、イオン性官能基含有水性樹脂とを含むことを特徴とする、電着塗料組成物;PASを溶媒中で加熱して溶解液とする工程、水にイオン性基含有高分子化合物を添加して溶解させPAS溶解液を加えてPAS微粒子を形成させる工程、PAS微粒子の表層に存在する官能基を酸又は塩基で中和し、析出によりイオン性基含有高分子で被覆されたPAS微粒子を沈殿させる工程、被覆されたPAS粒子をろ別洗浄して、被覆PAS微粒子ウェットケーキを得る工程、被覆PAS粒子ウェットケーキが有する官能基を酸又は塩基で中和し、被覆PAS微粒子分散液を得る工程と、被覆PAS微粒子分散液と、水性樹脂とを混合して電着塗料組成物を得る工程とを有する製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、イオン性官能基含有水性樹脂とを含む電着塗料組成物、その製造方法及びそれを用いて得られた電着塗膜に関する。
電着塗装は、水性塗料液中に被塗装物と電極とを浸漬し、一方の電極とする被塗装物と電極との間に直流電流を流すことにより被塗装物に塗装を行う方法である。電着塗装では、被塗装物が特殊表面を有する場合(例えば、凹凸等の複雑な表面形状を有する場合や、パイプ内壁表面を塗装する場合等)においても、被塗装物の表面に平滑且つ均一な塗装皮膜を形成可能であることから、塗膜形成の際のコスト、品質、生産性等の点において非常に優れた塗装方法である。そのため、金属の下地処理として、耐食塗料等の塗装に広く用いられている。また、電着塗装は、塗装の際に有機溶剤をほぼ使用せずに塗装を行うことが可能であるため、VOC対策の観点からも非常に優れた塗装方法である。
電着塗装に用い得る電着塗料組成物としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む電着塗料組成物(特許文献1〜2参照)や、特定構造を有するシリカ変性リン酸化合物を含む電着塗料組成物(特許文献3参照)が提案されている。
特開2008−202122号公報 特開2012−31429号公報 特開2006−16598号公報
上述のように電着塗装は非常に優れた塗装方法であって、その応用範囲が拡大する中、電着塗料組成物として用い得る組成物に対しても、さらなる耐食性を達成し得る材料が求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、被塗装物に対して優れた耐食性を付与し得る電着塗料組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、高い機械的強度、耐熱性、耐薬品性等を有し、エンジニアプラスチックとして注目されているポリアリーレンスルフィド(以下PASと略すことがある)に着目し、PASを電着塗料組成物に応用することに想到した。その上で本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ポリアリーレンスルフィド微粒子をイオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆することにより得られる分散液に、さらにイオン性官能基含有水性樹脂を含有させて得られる電着塗料組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の電着塗料組成物等は、以下の特徴を有する。
(1)イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、イオン性官能基含有水性樹脂とを含むことを特徴とする、電着塗料組成物。
(2)前記ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液は、ポリアリーレンスルフィド微粒子、イオン性官能基含有水性高分子化合物、酸又は塩基、及び水性媒体からなる、(1)の電着塗料組成物。
(3)前記イオン性官能基含有水性高分子化合物のイオン性官能基が、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基及びリン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種のアニオン性基である、(1)又は(2)の電着塗料組成物。
(4)前記アニオン性官能基含有水性高分子化合物の酸価が、10〜300mgKOH/gである、(3)の電着塗料組成物。
(5)前記イオン性官能基含有水性高分子化合物のイオン性官能基が、カチオン性基であって、3級アミノ基である、(1)又は(2)の電着塗料組成物。
(6)前記カチオン性官能基含有水性高分子化合物のアミン価が、10〜300mgKOH/gである、(5)の電着塗料組成物。
(7)前記イオン性官能基含有水性高分子化合物の主骨格が、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性高分子化合物である、(1)〜(6)のいずれかの電着塗料組成物。
(8)前記イオン性官能基含有水性高分子化合物において、イオン性官能基の中和に用いられる酸又は塩基が、無機酸、スルホン酸、カルボン酸及びビニル性カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸、又は、金属水酸化物及び有機アミンからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩基である、(1)〜(7)のいずれかの電着塗料組成物。
(9)前記ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液中のポリアリーレンスルフィド粒子の体積平均粒径が、1μm以下である、(1)〜(8)のいずれかの電着塗料組成物。
(10)ポリアリーレンスルフィドを有機溶媒中で加熱して、溶解液とする工程(A)と、
水にイオン性官能基含有水性高分子化合物を添加して溶解させた樹脂水溶液に、工程(A)で得られたポリアリーレンスルフィド溶解液を加えて、ポリアリーレンスルフィド微粒子を形成させる工程(B)と、
工程(B)で得られたポリアリーレンスルフィド微粒子の表層に存在するイオン性官能基含有水性高分子化合物の官能基を酸又は塩基で中和し、ポリアリーレンスルフィド微粒子表面にイオン性官能基含有水性高分子化合物を析出させて、イオン性官能基含有水性高分子で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子を沈殿させる工程(C)と、
工程(C)で得られたイオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子をろ別、洗浄して、含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子ウェットケーキを得る工程(D)と、
工程(D)で得られた含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子ウェットケーキが有する官能基を酸又は塩基で中和し、イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液を得る工程(E)と、
工程(E)で得られた被覆ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、水性樹脂とを混合して電着塗料組成物を得る工程(F)と、
を有することを特徴とする、電着塗料組成物の製造方法。
(11)前記工程(A)に用いる有機溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、1−クロロナフタレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンの中から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、(10)の電着塗料組成物の製造方法。
(12)前記工程(B)の後に、工程(B)で得られたポリアリーレンスルフィド粒子分散液に対し、機械的粉砕を行う、(10)又は(11)の電着塗料組成物の製造方法。
(13)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の電着塗料組成物を用いて得られた電着塗膜。
(14)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の電着塗料組成物を用いて被塗装物を電着塗装する工程、及び前記工程で得られた塗膜を乾燥させる乾燥工程を含む、電着塗膜の製造方法。
(15)導電性を有する被塗装物を、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の電着塗料組成物中に浸漬する浸漬工程、
前記浸漬工程で浸漬した被塗装物に対して、20〜300Vの電圧で30秒〜10分間通電する通電工程、及び
前記通電工程で得られた塗膜を乾燥させる乾燥工程、
を含むことを特徴とする電着塗膜の製造方法。
本発明によれば、電着塗装に用いることにより、優れた耐食性を被塗装物に付与し得る電着塗料組成物が得られる。
本発明の電着塗料組成物は、金属に対して特に良好な密着性を示すことから、高い機械的強度、高い耐熱性、高い耐薬品性等が求められる金属部材、金属設備用の電着塗料(例えば、パイプラインのライニング剤等)として、好適に使用可能である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<電着塗料組成物>
本発明の電着塗料組成物は、イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、イオン性官能基含有水性樹脂とを含むものである。
[ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液]
本発明において、ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液は、本発明のポリアリーレンスルフィド(イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド)が分散されたものであれば特に限定されるものではないが、ポリアリーレンスルフィド粒子、イオン性官能基含有水性高分子化合物、酸又は塩基、及び水性媒体からなるものであることが好ましい。
以下、ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液中の各成分について説明する。
・ポリアリーレンスルフィド微粒子
ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液に含有されるポリアリーレンスルフィド微粒子は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が、イオン性官能基含有水性高分子化合物を用いて、水性媒体中に微粒子として分散されたものである。ポリアリーレンスルフィド微粒子の分散方法の詳細については後述する。
本発明においてポリアリーレンスルフィド樹脂とは、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものである。より具体的には、下記式(1)で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂が挙げられる。
Figure 2017186391
[式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基又はエトキシ基を表す。]
ここで、前記式(1)で表される構造部位において、式中のR及びRは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが特に好ましい。
また、R及びRが共に水素原子である場合、芳香族環における結合位置としては、下記式(2)で表されるパラ位で結合するものが好ましい。
Figure 2017186391
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。また、パラ位で結合した構造とメタ位で結合した構造、パラ位で結合した構造とオルト位で結合した構造を混合して使用することも可能である。
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(3)〜(6)で表される構造部位を、前記式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。
Figure 2017186391
特に本発明では、上記式(3)〜(6)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記式(3)〜(6)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合、ブロック共重合の何れであってもよい。
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、下記式(7)で表される3官能性の構造部位、或いは、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
Figure 2017186391
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば下記(1)〜(3)の方法により製造することができる。
(1)ジハロゲノ芳香族化合物と、ポリハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合成分とを、硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法。
(2)ジハロゲノ芳香族化合物と、ポリハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合成分とを、極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、重合させる方法
(3)p−クロルチオフェノールと、更に必要ならばその他の共重合成分とを自己縮合させる方法。
これらの方法のなかでも、(2)の方法が汎用的であり好ましい。
重合反応の際、重合度を調節するため、カルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加したりしても良い。
上記(2)の方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物と、ポリハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に、含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物と、ポリハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させ、且つ、反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)が特に好ましい。
また、上記(2)の方法としては、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物と、ポリハロゲノ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩とを、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モルの範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)も特に好ましい。
ジハロゲノ芳香族化合物の具体例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。
ポリハロゲノ芳香族化合物の具体例としては、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン等が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては特に限定されないが、例えば下記(i)〜(iii)の方法が挙げられる。
(i)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、或いは、酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は、低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法。
(ii)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、且つ、少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法。
(iii)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥する方法。
上記(i)〜(iii)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよく、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸素濃度が5〜30体積%の範囲の酸化性雰囲気中又は減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させることもできる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、例えば以下のような物性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が好ましい。
(溶融粘度)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、0.1〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから0.1〜100〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に0.1〜50〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。
(非ニュートン指数)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
Figure 2017186391
[SRは剪断速度(秒−1)を示し、SSは剪断応力(ダイン/cm)を示し、Kは定数を示す。]
N値は1に近いほどポリアリーレンスルフィド樹脂は線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
上述のようなポリアリーレンスルフィド樹脂を水性媒体中に分散して得られる微粒子は、その体積平均粒径が1μm以下であることが好ましく、500nm未満であることがさらに好ましい。
体積平均粒径の測定方法、及び上記のような体積平均粒径を有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法については後述する。
・イオン性官能基含有水性高分子化合物
本発明において、イオン性官能基含有水性高分子化合物は、イオン性官能基をその構造内に有し、且つ、親水性を呈し得る高分子化合物であれば特に限定されるものではない。イオン性官能基は、アニオン性官能基であってもカチオン性官能基であってもよい。
イオン性官能基含有水性高分子化合物の主骨格は、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル−エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、リン酸基等が挙げられる。なかでも、前記カルボキシル基やスルホン酸基の一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散安定性を付与する上で好ましい。
また、カチオン性官能基としては、例えば3級アミノ基が挙げられ、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等が挙げられる。
イオン性官能基含有水性高分子化合物がアニオン性である場合、その酸価は、良好な分散安定性の観点から10〜300mgKOH/gが好ましく、50〜240mgKOH/gが好ましい。
また、イオン性官能基含有水性高分子化合物がカチオン性である場合、そのアミン価は、良好な分散安定性の観点から10〜300mgKOH/gが好ましく、50〜240mgKOH/gが好ましい。
上記イオン性官能基含有水性高分子化合物としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
・酸又は塩基
本発明のポリアリーレンスルフィド微粒子分散液が含有する酸又は塩基は、上記イオン性官能基含有水性高分子化合物を、当該酸又は塩基中で溶解させる際に使用された酸又は塩基である。具体的には、イオン性官能基含有水性高分子化合物がアニオン性である場合には、溶解の際に用いられる塩基が当該分散液中に含まれる。一方、イオン性官能基含有水性高分子化合物がカチオン性である場合には、溶解の際に用いられる酸が当該分散液中に含まれる。
塩基としては、アンモニアや、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機の金属水酸化物;メチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミンの如きアルキルアミン類;N−メチルアミノエタノール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N−ジエチルアミノエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンの如きヒドロキシルアミン類;エチレンジアミン、ジエチレントリアミンの如き多価アミン類等の有機アミン等が好ましい。
塩基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機の酸性物質(無機酸);メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;酢酸、ギ酸、シュウ酸、アクリル酸、メタクリル酸、アスコルビン酸、メルドラム酸等のカルボン酸類;ビニル性カルボン酸類等の有機の酸性物質が好ましい。
酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
イオン性官能基含有水性高分子化合物に対する酸又は塩基の量としては、高分子化合物を完全に溶解させるため、イオン性官能基含有水性高分子化合物のアミン価又は酸価に対して、70〜300%が好ましい。
・水性媒体
水性媒体としては、水単独であってもよく、水と水溶性溶媒からなる混合溶媒でもよい。水溶性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。
また、その他、水性媒体に溶解しうる水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;あるいは、スルホラン;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類;グリセリンおよびその誘導体、ポリオキシエチレンベンジルアルコールエーテルなど、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種または2種以上混合して用いることができる。
[イオン性官能基含有水性樹脂]
本発明において、イオン性官能基含有水性樹脂としては、イオン性官能基をその構造内に有し、且つ、親水性を呈し得る高分子化合物であれば特に限定されるものではない。
イオン性官能基は、アニオン性官能基であってもカチオン性官能基であってもよいが、上述のポリアリーレンスルフィド微粒子分散液が有する官能基の電荷、すなわち、ポリアリーレンスルフィドを被覆するイオン性官能基含有水性高分子化合物が有する官能基の電荷と同じであることが好ましい。ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液がアニオン性官能基を有する場合には、水性樹脂もアニオン性官能基を有することが好ましく、ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液がカチオン性官能基を有する場合には、水性樹脂もカチオン性官能基を有することが好ましい。
イオン性官能基含有水性樹脂としては、例えば、アニオン性官能基含有ポリウレタン樹脂、カチオン性官能基含有ポリウレタン樹脂などのポリウレタン樹脂類;(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸N,N−ジアルキルアミノアルキルエステル共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂類;(メタ)アクリル酸エステル−スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン−(メタ)アクリル酸N,N−ジアルキルアミノアルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−(メタ)アクリル系樹脂類;スチレン−マレイン酸共重合体;スチレン−無水マレイン酸共重合体;ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、及び該水性樹脂の塩が挙げられる。
なかでも、アニオン性官能基含有ポリウレタン樹脂、カチオン性官能基含有ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン−(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル共重合体が好ましい。
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、リン酸基等が挙げられる。なかでも、前記カルボキシル基やスルホン酸基の一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散安定性を付与する上で好ましい。
また、カチオン性官能基としては、例えば3級アミノ基が挙げられ、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等が挙げられる。
なかでも、上述のようなアニオン性官能基又はカチオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーと、共重合可能なその他のモノマーとを共重合して得られるアクリル系水性樹脂、又は、上述のようなアニオン性官能基又はカチオン性官能基を有するウレタン樹脂が好ましい。
イオン性官能基を有するウレタン樹脂は、具体的には、イオン性官能基を有するポリオールとポリイソシアネート、さらに必要に応じて汎用のイオン性官能基を有さないポリオールや鎖伸長剤を反応させて得たウレタン樹脂があげられる。
イオン性官能基としてカルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多塩基酸無水物との反応によって得られるエステル、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸などのジヒドロキシアルカン酸等が挙げられる。好ましい化合物としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が挙げられる。中でも、ジメチロールプロピオン酸、又はジメチロールブタン酸の入手が容易であり好ましい。
また、イオン性官能基としてスルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸、及びそれらの塩と、前記低分子量ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
イオン性官能基含有水性樹脂がアニオン性である場合、その酸価は、良好な分散安定性の観点から10〜300mgKOH/gが好ましく、30〜240mgKOH/gが好ましい。
また、イオン性官能基含有水性樹脂がカチオン性である場合、そのアミン価は、良好な分散安定性の観点から10〜300mgKOH/gが好ましく、30〜240mgKOH/gが好ましい。
上記イオン性官能基含有水性樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の電着塗料組成物において、イオン性官能基含有水性樹脂の使用量は特に限定されるものではないが、ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液1質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましく、0.1〜2質量部がさらに好ましく、0.1〜1.5質量部が特に好ましい。
<電着塗料組成物の製造方法>
本発明の電着塗料組成物の製造方法は、以下の工程(A)〜(F)を有するものである。
工程(A):ポリアリーレンスルフィドを有機溶媒中で加熱して、溶解液とする工程。
工程(B):水にイオン性官能基含有水性高分子化合物を添加して溶解させた樹脂水溶液に、工程(A)で得られたポリアリーレンスルフィド溶解液を加えて、ポリアリーレンスルフィド微粒子を形成させる工程。
工程(C):工程(B)で得られたポリアリーレンスルフィド微粒子の表層に存在するイオン性官能基含有水性高分子化合物の官能基を酸又は塩基で中和し、ポリアリーレンスルフィド微粒子表面にイオン性官能基含有水性高分子化合物を析出させて、イオン性官能基含有水性高分子で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子を沈殿させる工程。
工程(D):工程(C)で得られたイオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子をろ別、洗浄して、含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子ウェットケーキを得る工程。
工程(E):工程(D)で得られた含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子ウェットケーキが有する官能基を酸又は塩基で中和し、イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液を得る工程。
工程(F):工程(E)で得られた被覆ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、水性樹脂とを混合して電着塗料組成物を得る工程。
以下、詳細に説明する。
[加熱溶解工程(A)]
まず工程(A)として、PAS分散体を得るため、PAS樹脂を有機溶媒で溶解させる。
本工程に用いることのできるPAS樹脂の形態は特に問わないが、具体的に例示するならば粉体、顆粒、ペレット、繊維、フィルム、成形品等が挙げられ、操作性及び溶解に要する時間を短縮させる観点から、粉末、顆粒又はペレットが望ましい。これらの中でも特に粉体のPAS樹脂が好ましく用いられる。
通常、PAS樹脂及び有機溶媒を容器中に投入した後、溶解を行うが、容器へ投入する順序は問わない。
容器としては、高温下で使用することから、耐圧製容器を用いる方が好ましい。
容器中の雰囲気は、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下のいずれでもよいが、PAS樹脂と反応し得るような雰囲気や、PAS樹脂自身を劣化させるような雰囲気を避けるべきであるため、不活性ガス雰囲気下が好ましい。
ここでいう不活性ガスとは、窒素ガス、二酸化炭素、ヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガスなどが挙げられ、経済性、入手容易性を勘案して、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスが望ましく、より好ましくは窒素ガス或いはアルゴンガスが用いられる。
本工程では、さらに無機塩を用いてもよい。
無機塩として、特に制限はないが、通常、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニアなどの塩化物、臭化物、炭酸塩、硫酸塩等が用いられる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム等の塩化塩;臭化ナトリウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化アンモニウム等の臭化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム等の硫酸塩等が用いられるが、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム等の塩化物が好ましい。これらは一種または二種以上で用いることができる。
無機塩を加える場合のPAS樹脂に対する無機塩の質量比率は、PAS樹脂1質量部に対して0.1〜10質量部の範囲、好ましくは、0.5〜5質量部の範囲である。
溶媒としては、PAS樹脂を溶解するものであれば、特に制限はないが、例えば、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、1−クロロナフタレン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン系溶媒;N−メチル−2−ピロリジノン、N−エチル−2−ピロリジノン等のN−アルキルピロリジノン系溶媒;N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム系溶媒;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N、N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン等の極性溶媒の中から少なくとも一種選ばれる溶媒が挙げられ、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、1−クロロナフタレン、o−ジクロロベンゼン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンの中から選ばれる少なくとも一種の溶媒である。これらの中でも特に、作業性、水溶性を考慮するとN−メチル−2−ピロリドン、1−クロロナフタレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
溶媒に対するPAS樹脂の質量比率は、溶媒にPASが溶解する限り特に制限はないが、溶媒100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲を例示することができ、好ましくは、0.1〜10質量部であり、より好ましくは、0.1〜5質量部である。PAS樹脂を溶解させるために、混合した反応液を、PAS樹脂が溶解するために必要な温度まで上昇させる。
溶解に必要な温度は、溶媒により異なるが、150℃以上が好ましく、さらに好ましくは200℃以上であり、より好ましくは、250℃以上である。上限としてはPAS樹脂が分解しない温度以下であり、400℃以下が好ましい。上記溶解は必要に応じ加圧下で行われる。
上記温度にすることにより、PAS樹脂を均一に溶解することが可能になり、PAS粗粒子を安定に製造することができる。
また、反応液を攪拌してもしなくても良いが、好ましくは攪拌したほうが良く、これにより溶解に要する時間を短くすることができる。
所定の温度まで上昇させた後、反応液をしばらくの時間維持することが好ましい。維持する時間は、10分〜10時間の範囲であり、好ましくは、10分〜6時間、より好ましくは20分〜2時間の範囲である。
この操作を行うことにより、PAS樹脂をより十分に溶解させることができる。
次に上記で得られたポリアリーレンスルフィド溶解液を基に、本発明に用いるポリアリーレンスルフィド分散体について、製造工程順に詳細に説明する。
[晶析工程(B)]
工程(B)では、まず、イオン性官能基含有水性高分子化合物水溶液を予め調整する。イオン性官能基含有水性高分子化合物については、上述の通りである。
イオン性官能基含有水性高分子化合物を、酸性水溶液又は塩基性水溶液中で完全に溶解させる。このとき、イオン性官能基含有水性高分子化合物がアニオン性である場合には、塩基性水溶液が用いられ、イオン性官能基含有水性高分子化合物がカチオン性である場合には、酸性水溶液が用いられる。
酸性水溶液又は塩基性水溶液における酸又は塩基としては、上述の通りである。
さらに、本発明では、イオン性官能基含有水性高分子化合物により、PAS粒子の一部または表面全体を被覆しても、分散安定性に効果が得られる。そのため、PAS100質量部に対して、1質量部〜200質量部を使用することが好ましい。中でも5質量部〜150質量部になるように使用するのが、最も分散安定性が高くなるため好ましい。
工程(B)では次いで、調整したイオン性官能基含有水性高分子化合物水溶液に、上記工程(A)で調整したPAS溶解液を注ぐことで、PAS分散液(晶析液)を得ることができる。
なお、この時点で得られるPAS分散液(晶析液)は、本発明の「イオン性官能基含有水性高分子化合物により被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液」とは異なるものである。この晶析工程にけるPAS粒子状態については後述の通りである。
調整したイオン性官能基含有水性高分子化合物水溶液は、撹拌羽根等の撹拌機で高速撹拌された水流を作製する。乱流、または層流でも構わないが、周速は速い方が晶析した粒子サイズを細かく出来るため好ましい。
PAS溶解液の注水速度は、遅いほど細かい粒子を形成し得る上で好適である。注水方法としては、調整したイオン性官能基含有水性高分子化合物溶液を強撹拌した溶液に、直接注水する方法がある。ここで、イオン性官能基含有水性高分子化合物溶液の撹拌は、微細なPAS粒子を形成するために、強撹拌が好ましい。
また、PAS溶解液を注ぎ終えた後に得られたPAS分散液(晶析液)に対して機械的粉砕を行うことにより分散させる工程[分散工程]を経ることもできる。これにより、より良好な分散安定性を保持することができる。
ここで機械的粉砕は機械的粉砕装置を用いて行うことができ、機械的粉砕装置としては市販の機械的粉砕装置を挙げることができる。特にPAS粗粒子を効率よく分散、粉砕し、粒径の小さなPAS微粒子の分散液を作製するために好適な機械的粉砕装置として、ボールミル装置、ビーズミル装置、サンドミル装置、コロイドミル装置、ディスパー分散攪拌装置、湿式微粒化装置(例えば、スギノマシン製のアルティマイザー、Hielscher社製の超音波分散機等)が挙げられるが、なかでもボールミル装置、ビーズミル装置、サンドミル装置、湿式微粒化装置、から選択される装置が好ましい。機械的粉砕の際の粉砕の力は一般に大きくなるほど、また粉砕時間が長くなるほど得られる微粒子の体積平均粒径は、小さくなる方向にあるが、これらが過度になると凝集が生じやすくなるので、適切な範囲に制御される。例えばビーズミルではビーズ径やビーズ量の選択、周速の調整で、その制御が可能である。
この晶析工程にけるPAS粒子状態は、イオン性官能基含有水性高分子化合物がPAS樹脂粒子の表層に存在しており、まだ強固に固着している状態ではないと思われる。イオン性官能基含有水性高分子化合物末端の酸性基又は塩基性基がアルカリ金属とのイオン結合状態であるため、柔軟にPAS粒子の表層上に存在していると推測されるためである。後工程の酸析・塩基析工程で酸又は塩基により、イオン性官能基含有水性高分子化合物の官能基の塩交換反応がおき、PAS表面に固着されるものである。
[酸析・塩基析工程(C)]
工程(C)は、上記工程(B)で得られた水溶性樹脂が表層に存在するPAS樹脂粒子を、酸によって酸析出させる、或いは塩基によって塩基析出させることにより、イオン性官能基含有水性高分子化合物により被覆されたPAS樹脂粒子を沈殿させたスラリーを作製する工程である。
酸析出に使用される酸としては、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸等が挙げられ、なかでも塩酸が好ましい。
酸濃度は、各種アニオン性官能基含有水性高分子化合物、各種PAS樹脂にもよるが、アニオン性官能基含有水性高分子化合物の末端置換基数による設定が必要で、酸により系内のpHを2〜5に調整する。
塩基析出に使用される塩基としては、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、N,N−ジメチルアミノエタノール等が挙げられ、なかでも水酸化カリウムが好ましい。
塩基濃度は、各種カチオン性官能基含有水性高分子化合物、各種PAS樹脂にもよるが、カチオン性官能基含有水性高分子化合物の末端置換基数による設定が必要で、塩基により系内のpHを10〜13に調整する。
[ウェットケーキ作製工程(D)]
工程(D)は、上記酸析・塩基析工程(C)で得られた、イオン性官能基含有水性高分子化合物により被覆されたPAS樹脂粒子を沈殿させたスラリーから、イオン性官能基含有水性高分子化合物により被覆されたPAS樹脂粒子をろ別し、ウェットケーキにする工程である。
ろ別する方法としては、ろ過や遠心分離等、粒子と液体が分離可能であれば如何なる方法でも構わない。ろ別されたウェットケーキ中の水分量は、15〜55%の範囲が好ましく、水分量が低すぎると後段の工程での再分散でほぐれにくくなり、再分散性が悪くなるため、好ましい水分量は、20〜45%である。
ウェットケーキは、残存する有機溶媒や、未析出の樹脂を洗浄するため、イオン交換水、蒸留水、純水、水道水等で洗浄を行う。洗浄方法は、ウェットケーキ上から、洗浄溶媒をかけてろ過洗浄してもよいし、ウェットケーキを洗浄溶媒に再解膠して洗浄してもよい。
[分散液作製工程(E)]
工程(E)は、上記ウェットケーキ作製工程(D)で得られたウェットケーキを水にビーズミルや超音波分散機等で、再解膠し、酸又は塩基でpHを6〜10に調整して、被覆PAS分散液を得る工程である。
工程(E)で用いる酸又は塩基としては、工程(C)で酸析を行った場合には塩基が用いられ、工程(C)で塩基析を行った場合には酸が用いられる。酸、塩基はそれぞれ、工程(C)の酸析・塩基析に用いる酸、塩基として挙げられたものと同様のものを用いることができる。
ここで得られた分散液中の不揮発分は、15〜40%であり、従来のPAS分散液が5〜10%程度であることから、顕著に高濃度のPAS分散液が得られることがわかる。
[塗料組成物作製工程(F)]
工程(F)は、上記分散液作製工程(E)で得られたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、水性樹脂とを混合して電着塗料組成物を得る工程である。
工程(F)における水性樹脂としては上記同様である。
工程(F)における混合は、常温下で行ってもよく、加熱条件下で行ってもよい。また、空気中で行ってもよく、窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
工程(F)における混合は、市販の撹拌装置等を用いて行うことができる。
ただし、水性樹脂を加えるタイミングについては必ずしも前記工程(F)に限定されるものではない。
例えば、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物の製法の別の態様としては、前記工程(D)で得られた含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子ウェットケーキに、イオン性官能基含有水性樹脂を混合した後で、酸又は塩基で中和する方法によっても本発明のポリアリーレンスルフィド組成物を得ることができる。
上述のようにして得られる電着塗料組成物においても、場合によっては沈殿物を含む場合もある。その際には、沈殿部と分散部を分離して利用してもよい。分散液のみを得る場合には、沈殿部と分散部の分離を行えばよく、そのためには、デカンテーション、ろ過などを行えば良い。また、より粒径の細かい粒子まで必要な場合には、遠心分離などを行い、粒径の大きなものを完全に沈降させ、デカンテーションやろ過を行い、沈殿部分を除去すればよい。
本発明で得られた電着塗料組成物は、通常24時間静置してもPAS微粒子とイオン性官能基含有水性高分子化合物水溶液とが分離しない。
このようにして得られた電着塗料組成物は、金属部材等の電着塗装の際の塗料として好適に用いられる。
本発明で得られた電着塗料組成物に対しては、電着塗料に使用される従来公知のレベリング剤、消泡剤、増粘剤、ワックスなどの塗料用添加剤類;防錆顔料、体質顔料、着色顔料などの顔料類などを添加することができる。
本発明の電着塗料組成物を用いた電着塗装の方法は特に限定されず、通常の電着塗装方法を採用することができる。具体的には例えば、本発明の電着塗料組成物の浴温を15〜40℃、好ましくは20〜30℃として、浴液中に被塗装物を浸漬し、20〜300V、好ましくは20〜200Vで30秒〜10分間通電することによって電着塗膜を形成することができる。
形成される電着塗膜の膜厚は特に限定されるものではなく、用途や被塗装物の種類に応じて5〜100μm等の範囲で適宜決定することができる。
以下、実施例を挙げることにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(製造例1)ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS−1と表記)の製造
圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、45%水硫化ソーダ(47.55重量%NaSH)14.148kg、48%苛性ソーダ(48.8重量%NaOH)9.541kgと、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)38.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水 12.150kgを留出させた(残存する水分量はNaSH 1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。) 17.874kg及びNMP 16.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。昇温して260℃になった時点でオートクレーブ上部を散水することで冷却しながら、260℃で2時間反応した。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。反応中の最高圧力は、0.87MPaであった。反応後、冷却し、100℃で底弁を開き、反応スラリーを150リットル平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過した。得られたケーキに70℃温水50kgを加え撹拌したのち、濾過し、さらに温水25kgを加え濾過した。次に温水25kgを加え1時間撹拌し、濾過したのち、温水25kgを加えろ過する操作を2回繰り返した。得られたケーキを、熱風循環乾燥機を用いて120℃で15時間乾燥し、PAS−1を得た。得られたPAS−1の溶融粘度は10Pa・sであった。
(製造例2)ポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS−2)の製造
150リットルオートクレーブに、フレーク状のNaS(60.9質量%) 19.222kgと、NMP 45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら204℃まで昇温して、水4.438kgを留出させた(残存する水分量はNaS 1モル当り1.14モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB 22.999kg、m−DCB 2.555kg(m−DCBとp−DCBの合計に対して15モル%)及びNMP 18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温220℃で3時間攪拌しつつ、オートクレーブ上部の外側に巻き付けたコイルに80℃の冷媒を流し冷却した。その後昇温して、液温260℃で3時間攪拌し、次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.87MPaであった。
得られたスラリーを常法により濾過温水洗を二回繰り返し、水を約50質量%含む濾過ケークを得た。次に、この濾過ケークに水60kg及び酢酸100gを加えて再スラリー化し、50℃で30分間攪拌後、再度濾過した。この際、上記スラリーのpHは4.6であった。ここで得られた濾過ケークに、水60kgを加え30分間攪拌後、再度濾過する操作を5回繰り返した。その後に得られた濾過ケークを120℃で、4.5時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、白色粉末状のパラ−メタポリアリーレンスルフィド共重合樹脂(以下、PAS−2と表記する)を得た。得られたPAS−2は融点230℃、リニア型、V6溶融粘度8.5Pa・sであった。
(製造例3)カチオン性基含有有機高分子化合物(KR−1)の製造
攪拌装置、モノマー専用滴下装置、開始剤専用滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)240部とイソブチルアルコール(iBuOH)240部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、モノマー専用滴下装置より、スチレン240部、メタクリル酸メチル198.3部、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル360部、アクリル酸ブチル0.8部、アクリル酸イソブチル0.8部、メタクリル酸0.08部の混合液、および開始剤専用滴下装置より、「ABN−E(登録商標)」(有効成分2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル、(株)日本ファインケム製)40.0部とPGMAc312部の混合液を5時間かけて滴下した。滴下終了2時間後に「パーブチルO(登録商標)」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日油(株)製)1.6部とPGMAc8.0部の混合液を添加した。その後、同温度で4時間反応を継続させた後、不揮発分を50%に調整し、カチオン性基含有有機高分子化合物(KR−1)のPGMAc/iBuOH溶液を得た(固形分アミン価160.8mgKOH/g)。
(製造例4)カチオン性基含有有機高分子化合物(KR−2)の製造
スチレン240部、メタクリル酸メチル80部、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル360部、アクリエステルSL(三菱レイヨン社製)120部を全単量体とする以外は、前記したKR−1の製造例と同様にして、不揮発分50%のカチオン性基含有有機高分子化合物(KR−2)のPGMAc/iBuOH溶液を得た(固形分アミン価160.8mgKOH/g)。
(製造例5)アニオン性基含有有機高分子化合物(AR−1)の製造
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器に重合溶剤として2−プロパノール(以下、IPAと表記する)720部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ベンジル120部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル49.8部、メタクリル酸153.72部、スチレン180部、メタクリル酸グリシジル0.6部、メタクリル酸n−ブチル34.62部、アクリル酸ブチル60.66部、メタクリル酸メチル0.6部および「パーブチル(登録商標)O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日油(株)製)48部、チオグリセロール24部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させた後、樹脂分濃度を45%に調整し、実測酸価157mgKOH/gのアニオン性基含有高分子化合物である、スチレン(メタ)アクリル系共重合体(AR−1)のIPA溶液を得た。
(製造例6)アニオン性基含有ウレタン化合物(U−1)の製造
数平均分子量2,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(n=27.5、PTMG2000)480部、イソホロンジイソシアネート(IPDI)282部、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)0.007部仕込み、窒素雰囲気下100℃で1時間反応させた。その後65℃以下に冷却し、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)0.007部、ネオペンチルグリコール(NPG)およびMEK448部を添加し、80℃で16時間反応させた後、MEK408部、メタノールを加えて反応を停止し、不揮発分50%、酸価55mgKOH/gの直鎖状のポリウレタンのMEK溶液(U−1)を得た。
(製造例7)イオン性官能基含有水性樹脂(B−1)の製造
3リットルのステンレス容器に、前記製造例6で得られたポリウレタンのMEK溶液(U−1)1000g、5%水酸化カリウム水溶液550g、イオン交換水1200gを混合し、1時間攪拌後、混合液を3リットルのセパラブル丸底フラスコに移し変えて、MEK全量と水の一部を留去した。室温まで冷却後、イオン交換水にて濃度調節し、固形分20%のポリウレタン水溶液である、イオン性官能基含有水性樹脂(B−1)を得た。
(製造例8)イオン性官能基含有水性樹脂(B−2)の製造
3リットルのステンレス容器に、前記製造例4で得られたカチオン性基含有有機高分子化合物(KR−2)のPGMAc/iBuOH溶液500g、イオン交換水2000gを混合し、析出した白色沈殿物をろ集してイオン交換水で洗浄した。イオン交換水で洗浄して得られた白色沈殿物 480g(不揮発分50%)、酢酸41.3g、イオン交換水1000gを3リットルのガラスビーカー内で混合し、1時間攪拌後、混合液を3リットルのセパラブル丸底フラスコに移し変えて、水の一部を留去した。室温まで冷却後、イオン交換水にて濃度調節し、固形分20%のイオン性官能基含有水性樹脂(B−2)を得た。
(製造例9)イオン性官能基含有水性樹脂(B−3)の製造
酢酸41.3gを20%塩酸とする以外は、前記したイオン性官能基含有水性樹脂(B−2)の製造例と同様にして固形分20%のイオン性官能基含有水性樹脂(B−3)を得た。
(製造例10)非イオン性水性樹脂(B−4)の製造
1リットルのステンレス容器に、ポリビニルピロリドンK30 100gと、イオン交換水 400gを入れて攪拌することにより固形分20%の非イオン性水性樹脂(B−4)を得た。
(製造例11)アニオン性基含有有機高分子化合物被覆PAS微粒子水性分散体(D−1)の製造
・工程(A)[溶解工程]
下部に開閉可能なバルブを有するオートクレーブ[1]に上記製造例1で製造したPAS−1 50gとNMP 1200gを入れた。系内に窒素を通気させ、攪拌しながら加圧下で内温250℃まで上昇させた後、30分間攪拌した。
・工程(B)[晶析工程]
前記工程(A)に用いたオートクレーブの開閉可能なバルブとパイプで連結させたオートクレーブ[2]に、予め、上記製造例5で製造したAR−1 22.2gと25%KOH水溶液6.6gと水6000gを混合させたアニオン性基含有有機高分子化合物水溶液を入れた。このオートクレーブ[2]に、前記工程(A)で溶解させたPASのNMP溶液をオートクレーブ[1]のバルブを開くことで流し込み、オートクレーブ[2]内に晶析液を得た。PASのNMP溶解液をアニオン性基含有有機高分子化合物水溶液に流し込む操作を10回繰り返して得られた晶析液72.6kgから、目開き45μmの金属メッシュを用いて溶け残りを除去した(得られた晶析液のpHは9.0であった)。
・工程(C)[酸析工程]
前記工程(B)で得られた晶析液に2%塩酸を773.6g滴下することで表面にアニオン性基含有有機高分子化合物が被覆したPAS微粒子を凝集させた酸析スラリーを得た(得られた液のpHは2.7であった)。
・工程(D)[ウェットケーキ作製工程]
前記工程(C)で得られた酸析スラリーより水性媒体を吸引ろ過し、ろ集した残渣の洗液の電気伝導度が0.5mS/cm以下になるまでイオン交換水で洗浄して、不揮発分28%の含水アニオン性基含有有機高分子化合物被覆PAS粒子ウェットケーキを1960g得た。
・工程(E)[微粒子分散体作製工程]
前記工程(D)で得られた含水アニオン性基含有有機高分子化合物被覆PAS粒子ウェットケーキ1960gと50%ジメチルアミノエタノール水溶液41.6gを5Lのステンレスカップに入れて、Hielscher社製超音波分散機 UP400ST(出力400W、周波数24kHz)にて45分間超音波を照射し、イオン交換水にて不揮発分20%になるように調整してPAS微粒子分散体(D−1)を得た。得られた分散体の分散粒径(D50)は170nmだった。
(製造例12)カチオン性基含有有機高分子化合物被覆PAS微粒子水性分散体(D−2)の製造
・工程(A)[溶解工程]
下部に開閉可能なバルブを有するオートクレーブ(A)に上記製造例1で製造したPAS−1 50gとNMP 1200gを入れた。系内に窒素を通気させ、攪拌しながら加圧下で内温250℃まで上昇させた後、30分間攪拌した。
・工程(B)[晶析工程]
前記工程(A)に用いたオートクレーブの開閉可能なバルブとパイプで連結させたオートクレーブ[2]に、予め、上記製造例3で製造したカチオン性基含有有機高分子化合物KR−1 10gと2%塩酸 26.2gと水 6000gを混合させたカチオン性基含有有機高分子化合物水溶液を入れた。このオートクレーブ[2]に、前記工程(A)で溶解させたPASのNMP溶液をオートクレーブ[1]のバルブを開くことで流し込み、オートクレーブ[2]内に晶析液を得た。PASのNMP溶解液をカチオン性基含有有機高分子化合物水溶液に流し込む操作を10回繰り返して得られた晶析液72.6kgから目開き180μmの金属メッシュを用いて溶け残りを除去した(得られた晶析液のpHは3.2であった)。
・工程(C)[塩基析工程]
工程(B)で得られた晶析液に25%水酸化カリウム水溶液を滴下してpHを12.8に調整し、25%食塩水 3000gを添加することで表面にカチオン性基含有有機高分子化合物が被覆したPAS微粒子を凝集させた塩基析スラリーを得た。
・工程(D)[ウェットケーキ作製工程]
前記工程(C)で得られた塩基析スラリーより水性媒体を吸引ろ過し、ろ集した残渣の洗液の電気伝導度が0.5mS/cm以下になるまでイオン交換水で洗浄して、不揮発分30.0%の含水カチオン性基含有有機高分子化合物被覆PAS粒子ウェットケーキを1613.3g得た。
・工程(E)[微粒子分散体作製工程]
前記工程(D)で得られた含水カチオン性基含有有機高分子化合物被覆PAS粒子ウェットケーキ1613.3gと10%酢酸 68.9g、イオン交換水253.8gを5Lのステンレスカップに入れて、Hielscher社製超音波分散機 UP400ST(出力400W、周波数24kHz)にて45分間超音波を照射した後、ナイロン製200メッシュにて沈殿物を除き、イオン交換水にて不揮発分20%になるように調整してPAS微粒子分散体(D−2)を得た。得られた分散体の分散粒径(D50)は149nmだった。
(製造例13)電着塗料EA−1の製造
前記製造例11で得られたPAS微粒子分散体(D−1) 200gと前記製造例7で得られたイオン性(アニオン性)官能基含有水性樹脂(B−1) 200gを容器に入れ、よくかき混ぜて電着塗料EA−1を作製した。
(製造例14〜18)電着塗料EA−2〜EA−3、電着塗料EB−1〜EB−3の製造
前記製造例13と同様に、下表(第1表)の数量の通りに容器に入れ、よくかき混ぜて電着塗料EA−2〜EA−3、電着塗料EB−1〜EB−3を作製した。
(実施例、比較例)電着塗料EA−1〜3、EB−1〜3を用いた電着塗膜の作製並びに電着塗膜の観察
(電着塗膜の作製)
上記製造例で得た電着塗料に、有機溶剤で表面を脱脂した金属を浸漬し、これを電極として、浴温度を20〜30℃に調整し、被塗装物を浸漬した後、負荷電圧20〜200Vで30秒〜10分間通電することによって電着塗膜を作製した。
上述のようにして得られた電着塗膜を、電着過程の終了後、水洗いした後、室温で乾燥(セッティング)を行った。
(電着塗膜の観察)
室温乾燥を行ったセッティング膜塗面の外観を目視で評価した。
◎:付着性が良好で問題なし。
○:常温乾燥後、塗膜の脱落がやや見られた。
×:洗浄工程での塗膜の脱落が見られた。
Figure 2017186391

Claims (11)

  1. イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、イオン性官能基含有水性樹脂とを含むことを特徴とする、電着塗料組成物。
  2. 前記ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液は、ポリアリーレンスルフィド微粒子、イオン性官能基含有水性高分子化合物、酸又は塩基、及び水性媒体からなる、請求項1に記載の電着塗料組成物。
  3. 前記イオン性官能基含有水性高分子化合物のイオン性官能基が、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基及びリン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種のアニオン性基である、請求項1又は2に記載の電着塗料組成物。
  4. 前記アニオン性官能基含有水性高分子化合物の酸価が、10〜300mgKOH/gである、請求項3に記載の電着塗料組成物。
  5. 前記イオン性官能基含有水性高分子化合物のイオン性官能基が、カチオン性基であって、3級アミノ基である、請求項1又は2に記載の電着塗料組成物。
  6. 前記カチオン性官能基含有水性高分子化合物のアミン価が、10〜300mgKOH/gである、請求項5に記載の電着塗料組成物。
  7. 前記イオン性官能基含有水性高分子化合物の主骨格が、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル−エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性高分子化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電着塗料組成物。
  8. 前記イオン性官能基含有水性高分子化合物において、イオン性官能基の中和に用いられる酸又は塩基が、無機酸、スルホン酸、カルボン酸及びビニル性カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸、又は、金属水酸化物及び有機アミンからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩基である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電着塗料組成物。
  9. 前記ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液中のポリアリーレンスルフィド粒子の体積平均粒径が、1μm以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電着塗料組成物。
  10. ポリアリーレンスルフィドを有機溶媒中で加熱して、溶解液とする工程(A)と、
    水にイオン性官能基含有水性高分子化合物を添加して溶解させた樹脂水溶液に、工程(A)で得られたポリアリーレンスルフィド溶解液を加えて、ポリアリーレンスルフィド微粒子を形成させる工程(B)と、
    工程(B)で得られたポリアリーレンスルフィド微粒子の表層に存在するイオン性官能基含有水性高分子化合物の官能基を酸又は塩基で中和し、ポリアリーレンスルフィド微粒子表面にイオン性官能基含有水性高分子化合物を析出させて、イオン性官能基含有水性高分子で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子を沈殿させる工程(C)と、
    工程(C)で得られたイオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子をろ別、洗浄して、含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子ウェットケーキを得る工程(D)と、
    工程(D)で得られた含水イオン性官能基含有水性高分子により被覆されたポリアリーレンスルフィド粒子ウェットケーキが有する官能基を酸又は塩基で中和し、イオン性官能基含有水性高分子化合物で被覆されたポリアリーレンスルフィド微粒子分散液を得る工程(E)と、
    工程(E)で得られた被覆ポリアリーレンスルフィド微粒子分散液と、水性樹脂とを混合して電着塗料組成物を得る工程(F)と、
    を有することを特徴とする、電着塗料組成物の製造方法。
  11. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の電着塗料組成物を用いて得られた電着塗膜。
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