以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
<1.水洗大便器の構成>
図1は、実施形態に係る水洗大便器を斜め後方から眺めた模式斜視図である。図1に示すように、水洗大便器10は、便器本体100と、排水ソケット200と、操作部20とを備える。
本願明細書においては、便器本体100の前に立った使用者からみて手前側を「前方」とし、奥側を「後方」とする。また、便器本体100の前に立った使用者からみて右側を「右側方」とし、左側を「左側方」とする。また、便器本体100の前に立った使用者からみて上方を「上方」とし、下方を「下方」とする。
便器本体100は、汚物を受けるボウル部110と、ボウル部110に接続され、ボウル部110内の汚物を排水管300へ導く排水トラップ管路120とを備える。
ボウル部110には、排水トラップ管路120に向けて洗浄水を吐出するジェット吐水口111と、ボウル部110上部のリムから洗浄水を吐出してボウル部110内に洗浄水の旋回流を形成するリム吐水口113とが形成される。
排水トラップ管路120は、その入口から上方へ延びる上昇路部分と、上昇路部分の末端から下方に延びて排水ソケット200に接続される下降路部分とを有する。なお、ボウル部110から排水トラップ管路120の上昇路部分にかけては、水封状態を形成するための洗浄水(溜水)が貯留される。
排水ソケット200は、接続流路211を備え、排水トラップ管路120と排水管300との間に設けられる。そして、排水ソケット200は、排水トラップ管路120と排水管300とを接続流路211を介して接続する。
このように、本実施形態に係る水洗大便器10においては、排水トラップ管路120および接続流路211によって、ボウル部110と排水管300とを接続する排水路305が形成される。
上記のように構成された便器本体100は、ジェット吐水口111から吐出される洗浄水によってサイホン作用を効率的に発生させつつ、ボウル部110内の汚物を上記サイホン作用を利用して排水路305へ引き込んで排水管300へ排出する。
<2.排水ソケットの構成>
次に、排水ソケット200の構成について図2Aおよび図2Bをさらに参照して具体的に説明する。図2Aおよび図2Bは、排水ソケット200の内部構成を示す模式断面図である。なお、図2Aには、開閉弁240が開いた状態を、図2Bには、開閉弁240が閉じた状態をそれぞれ示している。
図1に示すように、排水ソケット200は、床排水方式の排水ソケットであり、ソケット本体210と、パッキン220とを備える。パッキン220は、ソケット本体210の上端部に設けられ、例えばゴムなどの弾力性を有する材料により形成される。パッキン220は、上下方向に貫通する貫通孔を有し、この貫通孔に、排水トラップ管路120の下流側の端部が接続される。
図2Aおよび図2Bに示すように、ソケット本体210は、上記した接続流路211を備え、排水トラップ管路120と排水管300とを接続する。
また、排水ソケット200は、開閉弁240と、回転軸243とを備える。開閉弁240は、排水路305の一部である接続流路211に設けられ、排水路305(正確には接続流路211)を開閉する。なお、開閉弁240としては、例えばフラッパー弁を用いることができるが、これに限定されるものではない。
回転軸243は、開閉弁240を回転可能に軸支する。かかる回転軸243には、操作部20(図1参照)が接続される。
図1に示すように、操作部20は、把持部30と、第1ワイヤ部80と、図示しない第2ワイヤ部90(後述の図3参照)とを備える。把持部30は、例えば、停電時に便器洗浄を行う際に、使用者の手動操作を受け付けるリング状の部材である。なお、把持部30は、手動受付部の一例である。
第1、第2ワイヤ部80,90としては、例えばレリースワイヤを用いることができる。具体的に第1ワイヤ部80は、アウターチューブ80aと、アウターチューブ80aの内部に挿設されたインナーワイヤ80bとを備える。なお、第2ワイヤ部90も同様の構成である(後述の図10参照)。
第1ワイヤ部80のインナーワイヤ80bは、一端が開閉弁240の回転軸243に接続される一方、他端が把持部30に接続される。なお、操作部20や第2ワイヤ部90の詳しい構成については、後述する。
そして、例えば把持部30に対して使用者が引っ張る等の手動操作を行うと、第1ワイヤ部80のインナーワイヤ80bが移動して、回転軸243を回転させて開閉弁240を回動させる。
詳しくは、使用者によって操作部20が操作されていない通常時において、開閉弁240は、図2Aに示す開状態に維持される。したがって、開閉弁240は、通常時においては接続流路211の流路断面積を変化させてはいない。
一方、使用者が操作部20の把持部30を引っ張ると、インナーワイヤ80bの移動に伴って開閉弁240が回転軸243を中心に回動して、図2Bに示す閉状態、すなわち、接続流路211の流路断面積を狭くした状態となる。
なお、開閉弁240は、接続流路211を完全に閉鎖する必要はない。すなわち、リム吐水口113およびジェット吐水口111から供給される洗浄水によりボウル部110の内部の水位を初期水位よりも上昇させることができればよく、開閉弁240と接続流路211との間に多少の隙間が存在していてもよい。
ここでは、排水ソケット200が、接続流路211の流路断面積を変化させる構成として、開閉弁240を備える場合の例について説明したが、排水ソケット200は、開閉弁240に代えて、例えばターントラップを備えていてもよい。ターントラップは、電動で上下回動し、ボウル部110内に貯水された洗浄水を汚水と共に排出させることができる。また、ここでは、開閉弁240が接続流路211に設けられる場合の例について説明したが、開閉弁240やターントラップ等の可動部は、排水トラップ管路120に設けられていてもよい。
なお、操作部20は、便器本体100の後方に設けられた図示しない化粧パネルの内部に配置され、外部から視認できない状態となっている。そして、使用者は、化粧パネルを取り外すことにより、操作部20の把持部30を手動操作可能となる。
<3.便器洗浄装置の構成>
次に、水洗大便器10において便器洗浄を行う便器洗浄装置の構成について図3を参照して説明する。図3は、便器洗浄装置の構成を示す図である。
図3に示すように、便器洗浄装置150は、便器本体100の後方付近に配置される。便器洗浄装置150は、図示しない外部電源に接続されており、非停電時には、かかる外部電源から供給される外部電力を用いて電磁弁等の部品を駆動させることによって、ボウル部110に洗浄水を供給する。
便器洗浄装置150は、定流量弁155と、電磁弁156と、リム吐水用バキュームブレーカ164とを備える。給水路151には、貯水タンク177への給水とリム吐水とを切り替える切替弁157と、貯水タンク177と、加圧ポンプ173と、ジェット吐水用バキュームブレーカ166と、水抜栓171と、が内蔵される。また、便器洗浄装置150には、電磁弁156の開閉動作、切替弁157の切換動作、および、加圧ポンプ173の加圧動作等を制御する制御部174が内蔵される。
定流量弁155は、止水栓152、ストレーナ153、および分岐金具154を介して流入した洗浄水を、所定の流量以下に絞る。例えば、定流量弁155は、洗浄水の流量を16リットル/分以下に制限する。定流量弁155を通過した洗浄水は、電磁弁156に流入し、電磁弁156を通過した洗浄水は、切替弁157により、リム吐水口113または貯水タンク177に供給される。
電磁弁156は、制御部174の制御に従って開閉するダイヤフラム式の電磁開閉弁である。詳しくは、給水路151には、ダイヤフラム310が設けられ、かかるダイヤフラム310と隣接して圧力室311が設けられる。そして、電磁弁156は、圧力室311の圧力を変化させることで、ダイヤフラム310を動作させ、給水路151における洗浄水の流れを制御する。
具体的には、電磁弁156は、制御部174から開信号が入力されると開状態となり、これによって圧力室311が低下してダイヤフラム310は給水路151を開放し、供給された洗浄水を切替弁157へ流入させる。一方、電磁弁156は、制御部174から閉信号が入力されると閉状態となり、これによって圧力室311が上昇してダイヤフラム310は給水路151を閉塞し、切替弁157への洗浄水の供給を停止させる。なお、電磁弁156やダイヤフラム310の詳細な構成は、図5および図6を用いて後述する。
切替弁157は、制御部174の制御信号により切り替えられ、電磁弁156を介して流入した洗浄水をリム吐水口113から吐出させ、または、貯水タンク177に流入させる。
リム吐水用バキュームブレーカ164は、切替弁157を通過した洗浄水をリム吐水口113へ導くリム側給水路159の途中に配置され、洗浄水のリム吐水口113からの逆流を防止している。また、リム吐水用バキュームブレーカ164は、ボウル部110の上端面よりも上方に配置され、これにより、逆流を確実に防止している。さらに、リム吐水用バキュームブレーカ164の大気開放部から溢れた洗浄水は、戻り管路165を通ってフロート式逆止弁169を介して貯水タンク177に流入する。
貯水タンク177は、ジェット吐水口111から吐水すべき洗浄水を貯水する。例えば、貯水タンク177は、約2.5リットルの内容積を有する。
さらに、本実施形態においては、タンク側給水路161の先端(下端)はフロート式逆止弁167に接続されており、貯水タンク177からタンク側給水路161への逆流を防止している。また、貯水タンク177の内部には、上端フロートスイッチ175および下端フロートスイッチ176が配置されており、貯水タンク177内の水位を検出できるようになっている。上端フロートスイッチ175は、貯水タンク177内の水位が所定の貯水水位に達するとオンに切り替わり、制御部174はこれを検知して、電磁弁156を閉鎖させる。一方、下端フロートスイッチ176は、貯水タンク177内の水位が所定の水位まで低下するとオンに切り替わり、制御部174はこれを検知して、加圧ポンプ173を停止させる。
加圧ポンプ173は、貯水タンク177に貯水された洗浄水を加圧して、ジェット吐水口111から吐出させる。加圧ポンプ173は、貯水タンク177から延びるポンプ側給水路162により接続され、貯水タンク177内に貯水された洗浄水を加圧する。例えば、加圧ポンプ173は、貯水タンク177内の洗浄水を加圧して、洗浄水を最大約120リットル/分の流量でジェット吐水口111から吐出させる。
また、水抜栓171は、貯水タンク177の下端部付近であって、また、加圧ポンプ173よりも下方の位置に配置されている。このため、水抜栓171を開放することにより、メンテナンス時等に貯水タンク177内および加圧ポンプ173内の洗浄水を排出することができる。また、加圧ポンプ173の下方には、水受けトレイ172が配置されている。水受けトレイ172は、結露した水滴や漏水を受ける。
一方、加圧ポンプ173の流出口は、ジェット側給水路163を介して、ボウル部110の底部のジェット吐水口111に接続されている。このジェット側給水路163の途中は、上方に向けて凸型に形成されており、この凸型部分の最も高い部分であるジェット側給水路頂部163aは、貯水タンク177からジェット吐水口111に至る洗浄水管路の中で最も高い部分になっている。また、ジェット側給水路163のジェット側給水路頂部163aよりも下流側は、前述したジェット吐水口111と同じ高さに設定されている。
ジェット側給水路163には、一端にオーバーフロー口168aを有するオーバーフロー流路168が接続されている。オーバーフロー口168aは、上端フロートスイッチ175よりも上方に設けられている。貯水タンク177内の水位が上端フロートスイッチ175よりも高くなった場合には、貯水タンク177内の水は、オーバーフロー口168aからオーバーフロー流路168に流入し、加圧ポンプ173により加圧され、フラッパー弁178を介してジェット吐水口111から吐出される。
ジェット吐水用バキュームブレーカ166は、切替弁157を通過した洗浄水を貯水タンク177へ導くタンク側給水路161の途中に配置され、洗浄水の貯水タンク177からの逆流を防止している。また、ジェット吐水用バキュームブレーカ166の大気開放部から溢れた洗浄水は、戻り管路165を通ってフロート式逆止弁169を介して貯水タンク177に流入するようになっている。
制御部174は、使用者による便器洗浄スイッチ(図示せず)の操作により、電磁弁156、切替弁157、加圧ポンプ173を順次作動させ、リム吐水口113およびジェット吐水口111からの吐水を順次開始させて、ボウル部110を洗浄する。さらに、制御部174は、洗浄終了後、電磁弁156を開放し、切替弁157を貯水タンク177側に切り替えて洗浄水を貯水タンク177に補給する。貯水タンク177内の水位が上昇し、上端フロートスイッチ175が規定の貯水量を検出すると、制御部174は、電磁弁156を閉鎖して給水を停止する。
<4.非停電時における便器洗浄動作>
ここで、非停電時すなわち外部電源により電磁弁156を動作させる場合における便器洗浄動作について説明する。
非停電時において、例えば図示しない便器洗浄スイッチが操作されると、1回目のリム吐水(前リム洗浄)が開始される。具体的には、制御部174は、電磁弁156に開信号を入力して電磁弁156を開放させるとともに、切替弁157をリム吐水口113の側に切り替える。これにより、水道の給水圧力によりリム吐水口113から洗浄水が吐出される。リム吐水口113から吐出された洗浄水は、ボウル部110内を旋回しながら下方へ流下し、ボウル部110の内壁面が洗浄される。
その後、ジェット吐水が開始されるが、この間もリム吐水口113からは洗浄水の吐水が続いている。まず、制御部174は、加圧ポンプ173に信号を送って加圧ポンプ173を起動させる。加圧ポンプ173が起動されると、貯水タンク177内に貯水されていた洗浄水は、加圧ポンプ173に流入して加圧される。加圧ポンプ173によって加圧された洗浄水は、ジェット側給水路163のジェット側給水路頂部163aを通って、ボウル部110の底部に開口したジェット吐水口111から吐出される。
ジェット吐水口111から吐出された洗浄水は排水トラップ管路120内に流入し、排水トラップ管路120を満水にしてサイホン作用を引き起こす。このサイホン作用により、ボウル部110内の溜水および汚物は、排水トラップ管路120に吸引され、排水管300から排出される。
加圧ポンプ173によってジェット吐水口111から洗浄水が吐出されると、貯水タンク177内の水位が降下し、下端フロートスイッチ176がONになる。下端フロートスイッチ176がONになると、制御部174は、貯水タンク177内に貯水されていた洗浄水が無くなったことを検知し、加圧ポンプ173に信号を送ってこれを停止させ、ジェット吐水を終了させる。継続的に行われているリム吐水口113からの吐水によりボウル部110内の溜水の水位は上昇し、所定のリム吐水時間経過後、ボウル部110内は所定の溜水水位に到達する(リフィール)。
リム吐水終了後、制御部174は、電磁弁156を開放状態に保持した状態で、切替弁157に信号を送って、切替弁157を貯水タンク177側に切り替える。これにより、洗浄水が貯水タンク177内に流入して、貯水タンク177に洗浄水が補給される。
貯水タンク177内に洗浄水が補給され、貯水タンク177内の水位が規定の貯水水位に達すると、上端フロートスイッチ175がONになる。上端フロートスイッチ175がONになると、制御部174は、電磁弁156に閉信号を送り、電磁弁156を閉鎖させる。また、制御部174は、切替弁157に信号を送って、これをリム吐水口113の側に切り替える。そして、水洗大便器10は、待機状態となる。
このように、本実施形態にかかる水洗大便器10は、外部電源から供給される電力を用い、制御部174からの信号により電磁弁156、切替弁157、および加圧ポンプ173などの動作を制御して便器洗浄を行う。
ところで、上記したように、便器洗浄装置150は、非停電時には外部電源からの外部電力を用いて電磁弁156等を動作させて便器洗浄を行うことができるが、停電時には電磁弁156等を動作させることができない。また、電池などの非常用電源を用いるように構成した場合であっても、電池の残量分しか便器洗浄を行うことができず、洗浄回数に制限があった。
そこで、本実施形態に係る水洗大便器10にあっては、電力の供給を要さず、かつ、停電時であっても洗浄回数が制限されることなく、便器洗浄を行うことができる構成とした。具体的には、水洗大便器10は、上記した開閉弁240と、ボウル部110に対する給水および止水の切り替えを行う切替部180とを備え、かかる開閉弁240および切替部180を使用者の手動操作によって共に動作させる構成とした。
<5.停電時に便器洗浄を行うための水洗大便器の構成>
以下、水洗大便器10において、停電時に便器洗浄を行うための構成についてさらに詳しく説明する。図3に示すように、切替部180は、上記した圧力室311に接続される流路312に設けられる。なお、流路312は、圧力室311の水を流出させて圧力室311の圧力を開放する流路であり、以下では「パイロット流路312」と記載する場合がある。
また、切替部180には、上記した操作部20が接続される。詳しくは、切替部180には、操作部20の第2ワイヤ部90が接続される。このように、操作部20の第1ワイヤ部80は開閉弁240に、第2ワイヤ部90は切替部180に接続される。すなわち、操作部20は、開閉弁240と切替部180とにそれぞれ接続され、使用者の手動操作によって開閉弁240および切替部180を共に動作させることが可能な構成とされる。
第1ワイヤ部80と第2ワイヤ部90とは、並列に設けられる。これにより、例えば仮に、第1、第2ワイヤ部80,90が直列に設けられた場合、全体のワイヤ長が長くなるため、水洗大便器10に配設する際のワイヤの取り回しが難しくなるが、並列に設けられることで、第1、第2ワイヤ部80,90にそれぞれ適したレイアウトで配設することが可能となり、施工性を向上させることができる。
図4は、切替部180を含む便器洗浄装置150を示す模式斜視図である。図4に示すように、便器洗浄装置150は、上記した電磁弁156や切替弁157、切替部180などが一体に構成され、ユニット化されるが、これに限定されるものではなく、構成要素の一部あるいは全部が別体に構成されていてもよい。
図5および図6は、便器洗浄装置150における電磁弁156および切替部180付近の模式断面図である。図5は、図4のV−V線断面図であり、図6は図4のVI−VI線断面図である。
電磁弁156および切替部180は共に、給水路151を開放または閉塞することで、ボウル部110に対する給水および止水の切り替えを行う。先ず、電磁弁156について説明する。
電磁弁156は、ダイヤフラム式の電磁開閉弁であることから、図5に示すように、便器洗浄装置150は、ダイヤフラム310と、圧力室311と、パイロット流路312とを備え、電磁弁156は、弁体156aと、ソレノイド156bとを備える。
ダイヤフラム310は、ボウル部110への給水路151に設けられる弁座251に着座可能に構成される。これにより、給水路151は、ダイヤフラム310が弁座251に着座している状態のとき、ダイヤフラム310によって閉塞され、上流側給水路151aと下流側給水路151bとに区画される。なお、この明細書において「上流」「下流」は、洗浄水の流れ方向における「上流」「下流」の意味で用いられるものとする。
圧力室311は、ダイヤフラム310において給水路151とは反対側の位置に隣接して設けられる。また、ダイヤフラム310には、かかる圧力室311と上流側給水路151aとを連通する孔310aが形成される。これにより、圧力室311には、上流側給水路151aの水が孔310aを介して流入する。すなわち、圧力室311は、上流側給水路151aから流入する水で満たされている。
パイロット流路312は、一端が圧力室311に接続される一方、他端がタンク側給水路161(図6参照)に接続される。
電磁弁156は、パイロット流路312を開閉する。詳しくは、電磁弁156は、弁体156aがパイロット流路312に設けられた弁座313に着座される状態のとき、パイロット流路312を閉塞する。
パイロット流路312が電磁弁156によって閉塞されると、圧力室311には、上流側給水路151aからの水圧が作用する、すなわち、圧力室311は、内部の圧力が上昇し、ダイヤフラム310を弁座251へ向かって移動させる。これにより、ダイヤフラム310は、弁座251に着座して給水路151を閉止する止水状態となる。
そして、電磁弁156は、例えば制御部174から開信号が入力されると、ソレノイド156bを通電し、弁体156aを引き上げて弁座313から離間させ、パイロット流路312を開放する。
これにより、圧力室311の水は、図5に矢印A1で示すように、圧力室311からパイロット流路312へ流出する。なお、パイロット流路312に流出した水は、弁体156aと弁座313との間を通過した後、図6に矢印A2で示すように、パイロット流路312の出口部312aからタンク側給水路161を通って貯水タンク177へ流出する。
このように、パイロット流路312が電磁弁156によって開放されると、圧力室311の水が流出する、すなわち、圧力室311は、内部の圧力が低下し、ダイヤフラム310を弁座251から離間するように移動させる。これにより、ダイヤフラム310は、給水路151を開放する給水状態となる、詳しくは、上流側給水路151aと下流側給水路151bとが連通し、矢印Bで示すように、洗浄水が切替弁157へ流入する。
このように、ダイヤフラム310は、給水路151を閉止する止水状態と、給水路151を開放する給水状態とを切り替える。
次に、切替部180について説明する。図5,6に示すように、切替部180は、接続用レバー181と、シャフト182と、カム部183と、ポペット弁184とを備える。
接続用レバー181は、図4に示すように、便器洗浄装置150において露出するように配置され、一端181aには操作部20の第2ワイヤ部90(図6参照)が接続される。なお、図6においては、図示の簡略化のため、第2ワイヤ部90を、模式的に破線の四角いブロックで示した。
接続用レバー181の他端181bには、シャフト182が接続される。シャフト182は、接続用レバー181と接続される一端182aとは、反対側の他端182bが、上記したパイロット流路312内に位置されるとともに、回転軸182c周りに回転可能に支持される。
従って、操作部20の第2ワイヤ部90が使用者によって手動操作されると、かかる手動操作の操作力が接続用レバー181を介してシャフト182へ伝達され、シャフト182は回転軸182c周りに回転することとなる。
カム部183は、上記のように回転可能なシャフト182の他端182b側に設けられる。そのため、カム部183も、操作部20の手動操作によるシャフト182の回転に伴い、回転軸182c周りに回転することとなる。
また、図5に示すように、カム部183は、当接部位183aと、非当接部位183bとを備える。当接部位183aは、回転軸182c周りに回転してポペット弁184と対向するときにポペット弁184と当接する部位であり、非当接部位183bは、ポペット弁184と対向するときにポペット弁184と当接しない部位である。
なお、図5は、操作部20が手動操作されない状態、すなわち、シャフト182やカム部183が回転していない状態を示している。かかる状態のとき、カム部183は、図示しないばねの付勢力によって、非当接部位183bがポペット弁184と対向する位置となるように配置される。
ポペット弁184は、パイロット流路312に設けられ、弁体184aと、プランジャ184bと、固定部材184cと、ばね184dとを備える。
図5に示すように、パイロット流路312には、電磁弁156の弁体156aの上流側と下流側とをバイパスするバイパス路314が形成され、かかるバイパス路314の上流側の端部に、弁座315が設けられる。そして、ポペット弁184の弁体184aは、バイパス路314の弁座315に着座可能とされる。
弁体184aの中央付近には、挿通孔184a1が形成され、プランジャ184bが挿通されて固定される。
プランジャ184bは、長尺状の部材であり、先端184b1がバイパス路314を貫通して、パイロット流路312において電磁弁156の下流側に位置されたカム部183の近傍まで突出するように配置される。
固定部材184cは、パイロット流路312の入口付近の適宜位置に固定される。なお、固定部材184cには、圧力室311から流出した水が流通可能な流通路184c1が形成される。
ばね184dは、固定部材184cとプランジャ184bとの間に配置され、プランジャ184bおよび弁体184aを弁座315に着座させる方向(図5では紙面右方向)へ付勢する。
上記のように構成された切替部180は、操作部20に対する使用者の手動操作に応じて動作する。具体的には、操作部20の第2ワイヤ部90が手動操作されると、接続用レバー181、シャフト182およびカム部183が回転軸182c周りに回転する。
カム部183の回転に伴って、当接部位183aがポペット弁184のプランジャ184bと対向する位置になると、当接部位183aがプランジャ184bの先端184b1に当接する。そして、プランジャ184bは、カム部183の当接部位183aから、ばね184dの付勢力およびパイロット流路312の水圧に抗する押圧力を受けると、弁体184aを弁座315から離間させ、パイロット流路312を開放する。
これにより、圧力室311の水は、圧力室311からパイロット流路312へ流出し、パイロット流路312に流出した水は、図5に破線矢印Cで示すように、弁体184aと弁座315との間を通過してバイパス路314へ流入する。バイパス路314へ流入した水は、電磁弁156を開弁したときと同様のルート(図6の矢印A2参照)を通って貯水タンク177へ流出する。
このように、ポペット弁184は、カム部183と当接するときに動作して、圧力室311の水を、電磁弁156を開弁したときと同じく、パイロット流路312を介して流出させる。
言い換えると、パイロット流路312にあっては、ポペット弁184によって開放されるときの水のルートの一部と、電磁弁156によって開放されるときの水のルートの一部とを同じにして、パイロット流路312の共用化を図るようにした。
本実施形態にあっては、上記したパイロット流路312の共用化を図ることで、便器洗浄装置150を小型化でき、ひいては水洗大便器10全体を小型化することができる。
上記のように、パイロット流路312がポペット弁184によって開放されると、圧力室311の水が流出し、圧力室311は、内部の圧力が低下し、ダイヤフラム310を弁座251から離間するように移動させる。これにより、ダイヤフラム310は、給水路151を開放する給水状態となる。
このように、本実施形態に係る水洗大便器10にあっては、切替部180および操作部20などを備えることで、使用者の手動操作によって、ボウル部110に対する給水および止水の切り替えを行うことができる。
<6.停電時における便器洗浄動作>
次に、停電時における便器洗浄動作について図7および図8A〜図8Eを参照して説明する。図7は、停電時における開閉弁240の開閉タイミング、および、切替部180におけるボウル部110に対する給水・止水タイミングを示すタイミングチャートである。また、図8A〜図8Eは、停電時における便器洗浄動作の説明図である。
図7に示すように、使用者が排泄行為を行う前において、開閉弁240は開状態、すなわち、接続流路211の流路断面積を変化させていない状態となっている(図7のタイミングt1)。また、切替部180においては、ボウル部110への給水を行っていない止水状態となっている。
使用者は、停電時において排泄行為を行った後、操作部20を手動操作し、開閉弁240および切替部180を共に動作させる。具体的には、使用者は、操作部20の把持部30を把持して第1、第2ワイヤ部80,90を引っ張る。これにより、第1ワイヤ部80に接続された回転軸243を中心として開閉弁240が回動して、開閉弁240が閉状態、すなわち、開閉弁240によりソケット本体210の流路断面積を狭くさせた状態となる(図7のタイミングt2および図8A)。
一方、第2ワイヤ部90に接続された切替部180にあっては、上記したように、カム部183が回転してポペット弁184と当接し、パイロット流路312を開放する。これにより、圧力室311は、内部の圧力が低下し、ダイヤフラム310を弁座251から離間するように移動させ、給水路151を開放する給水状態となる(図7のタイミングt2)。
これにより、停電時において、リム吐水口113およびジェット吐水口111の少なくともいずれかからボウル部110に対して洗浄水を供給することができる。開閉弁240は、上記したように、閉状態であり、接続流路211を閉鎖しているため、図8Bに示すように、ボウル部110に洗浄水が貯留されてボウル部110内の水位が上昇する。
つづいて、ボウル部110の内部の水位がボウル部110を洗浄可能な水位となると、使用者は、操作部20に対する手動操作を中止する(例えば引っ張っていた把持部30を戻す)。ここで、「ボウル部110を洗浄可能な水位」とは、例えば、ボウル部110の内部の水を排出可能あるいは置換可能な水位である。あるいは、「ボウル部110を洗浄可能な水位」とは、例えば、サイホン作用を発生させることが可能な水位である。
操作部20に対する手動操作が中止されると、切替部180にあっては、図示しないばねの付勢力によって、カム部183が操作前の元の位置まで回転してポペット弁184との当接が解除され、パイロット流路312を閉塞する。これにより、圧力室311は、内部の圧力が増加し、ダイヤフラム310を弁座251へ向かって移動させ、給水路151を閉止する止水状態となる(図7のタイミングt3)。これにより、ボウル部110への洗浄水の供給が停止する。
また、操作部20に対する手動操作が中止されると、開閉弁240は開状態とされる(図7のタイミングt3)。すると、図8Cに示すように、ボウル部110に貯留された洗浄水が排水トラップ管路120に流れ込むことで、排水トラップ管路120が満水となり、サイホン作用が発生してボウル部110に滞留した大量の洗浄水が排出される。
ここで、例えば、図8Dに示すように、上記した排水動作によってボウル部110内の水位が低下すると、排水管300からの臭気等が室内へ逆流するおそれがあるため、使用者は、ボウル部110へ洗浄水を再度供給する(リフィール)。
具体的には、操作部20を再度手動操作する。これにより、切替部180にあっては、上記したように、給水路151を開放する給水状態となり、ボウル部110に対して洗浄水を供給する(図7のタイミングt4)。
つづいて、図8Eに示すように、低下したボウル部110内の水位が初水位付近まで戻ると、使用者は、操作部20に対する手動操作を中止する。これにより、ボウル部110への洗浄水の供給が停止する(図7のタイミングt5)。このように、ボウル部110内の水位を初水位付近まで戻す(リフィールを行う)ことにより、初水位を安定化させ、ボウル部110の内部の水がボウル面から溢れたり、排水管300から室内へ臭気等が進入したりすることを抑制することができる。
このように、本実施形態では、操作部20が、使用者の手動操作によって開閉弁240および切替部180を共に動作させることから、停電時であっても洗浄回数が制限されることなく、便器洗浄を行うことができる。
なお、上記では、リフィールを行うようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば排水動作によってボウル部110内の水位が低下せず、初水位付近であった場合は、リフィールを省略してもよい。
ところで、上記した水洗大便器10においては、例えば、開閉弁240を動作させる第1ワイヤ部80のストローク(動作距離)と、切替部180を動作させる第2ワイヤ部90のストロークとが異なる場合がある。かかる場合、第1、第2ワイヤ部80,90が使用者に手動操作されても、開閉弁240と切替部180とが適切に動作しないおそれがあった。
詳しく説明すると、水洗大便器10における排水方式は、例えば床排水方式と壁排水方式とがある。また、排水ソケット200は、排水方式によって種類が異なる。具体的には、上記した排水ソケット200は、図2A,2Bに示すように、床排水方式のものであり、壁排水方式のものとは形状が異なる。
図9は、壁排水方式の排水ソケット1200を示す模式断面図である。図9に示すように、排水ソケット1200において、接続流路1211は、排水トラップ管路120(図2A参照)と、トイレ室の壁Wに設けられる排水管1300とを接続する。
図2Aと図9との比較で分かるように、床排水方式の排水ソケット200の接続流路121は、鉛直方向に沿った側面視I字状であるのに対し、壁排水方式の排水ソケット1200の接続流路1211は、途中で湾曲する側面視L字状である。
上記した形状の違いに起因して、床排水方式の開閉弁240と壁排水方式の開閉弁1240とでは、その動作範囲が互いに異なる。具体的には、床排水方式の開閉弁240の動作範囲は、回転軸243周りに約90度である(図2A,2B参照)。他方、図9に示すように、壁排水方式の開閉弁1240の動作範囲は、回転軸1243周りに約45度である。なお、図9には、開閉弁1240が開いた状態を実線で、閉じた状態を想像線で示している。
そのため、第1ワイヤ部80においては、ストロークが排水方式によって変わることとなる。具体的には、床排水方式の開閉弁240を動作させる第1ワイヤ部80のストロークが、壁排水方式の開閉弁1240を動作させる第1ワイヤ部80のストロークよりも長くなる。
従って、排水方式によっては、第1ワイヤ部80のストロークと、切替部180を動作させる第2ワイヤ部90のストロークとが比較的大きく異なる場合がある。かかる場合、第1、第2ワイヤ部80,90が使用者によって手動操作されても、例えば切替部180の動作が完了した時点で、開閉弁240,1240は動作するものの、排水路305たる接続流路211,1211を閉じることができないなど、上記したストロークの差に起因して、開閉弁240,1240と切替部180とが適切に動作しないおそれがあった。
そこで、本実施形態に係る水洗大便器10にあっては、第1ワイヤ部80のストロークと第2ワイヤ部90のストロークとが異なる場合であっても、開閉弁240,1240と切替部180とを適切に動作させることができる構成とした。
詳しくは、操作部20においては、第1ワイヤ部80および第2ワイヤ部90のうちストロークの短い方の操作が完了した後に、ストロークの長い方のみを操作することのできる空走機構40を備えるようにした。
以下、空走機構40を含む操作部20について詳しく説明する。図10は、操作部20の分解斜視図である。図10に示すように、操作部20は、上記した把持部30、第1、第2ワイヤ部80,90に加え、ケース部44と、移動部50と、空走機構40とを備える。
ケース部44は、第1ケース部45と、第2ケース部46とを備える。第1ケース部45は、第1ワイヤ部80のインナーワイヤ80bに取り付けられる。第2ケース部46は、第2ワイヤ部90のインナーワイヤ90bに取り付けられる。
移動部50は、第1移動部60と、第2移動部70とを備える。第1移動部60は、円柱状の部材であり、第1ワイヤ部80のインナーワイヤ80bに取り付けられることで、把持部30に接続される。また、第1移動部60は、第1ケース部45に第1ワイヤ部80の軸線方向にスライド移動可能に収容される。
従って、操作部20においては、把持部30への手動操作によって第1移動部60が第1ケース部45内を移動させられることで、手動操作の操作力を第1ワイヤ部80を介して開閉弁240へ伝達する。かかる操作力が伝達された開閉弁240は、図2A,2Bに示すように、回転軸243回りに回転して排水路305(正確には接続流路211)を開閉する。これにより、本実施形態にあっては、使用者による簡易な操作で、開閉弁240を安定して回転動作させることができる。
第1ケース部45には、第1移動部60の他に、第1移動部60に対して把持部30の引張り方向とは反対方向に向けて付勢力を付与するばね62、および、第1ワイヤ部80が第1ケース部45から外れることを防止するフック63も収容される。そして、第1移動部60などが収容された第1ケース部45には、カバー65が取り付けられる。なお、カバー65まで取り付けられた状態の第1ケース部45を図13に示すが、これについては後述する。
第2移動部70は、円柱状の部材であり、第2ワイヤ部90のインナーワイヤ90bに取り付けられる。このとき、第2ワイヤ部90は、第2移動部70に対して空転可能に接続される。詳しくは、第2移動部70は、インナーワイヤ90bの径よりも大きな径の貫通孔70aが軸線方向に沿って形成され、かかる貫通孔70aにインナーワイヤ90bおよび先端のカシメ部90b1が挿通される。このように構成することで、第2ワイヤ部90は、例えば第2移動部70が回転しても貫通孔70aに引っ掛かり難くなり、よって第2移動部70に対して空転可能とされる。
第2移動部70は、後述するように把持部30に対して手動操作がなされると回転運動するが、そのような場合であっても、上記のように空転することで、第2ワイヤ部90に捩れなどが生じること、および、その捩れに起因して接続用レバー181の一端181a(図6参照)から第2ワイヤ部90が外れてしまうことを抑制することができる。
また、第2移動部70は、第2ケース部46に第2ワイヤ部90の軸線方向にスライド移動可能に収容される。なお、第2ケース部46は、第1収容部46aと、第2収容部46bとを備え、第2移動部70は第2収容部46bに収容される。また、第1収容部46aには、第1移動部60などが収容された第1ケース部45全体が収容される。
なお、第2移動部70が収容された状態の第2ケース部46を図13に示すが、これについては後述する。また、上記した第1、第2移動部60,70としては、スライダを用いることができるが、これに限定されるものではなく、対応するケース部44内を往復運動できれば、その他の部材であってもよい。
上記した第1移動部60と第2移動部70とは、後述するように連結され、把持部30への手動操作によって並進運動するが、第1、第2ワイヤ部80,90のストロークが互いに異なると、第1、第2移動部60,70の移動距離(スライド距離)も異なる。
空走機構40は、移動距離の異なる第1、第2移動部60,70に対応するため、把持部30への手動操作によって、第1移動部60および第2移動部70のうち一方を移動させ、他方を移動させないようにする機構である。ここでは、第1、第2移動部60,70のうちの一方が「第1移動部60」、他方が「第2移動部70」である場合を例にとって説明するが、これに限定されるものではなく、一方が「第2移動部70」、他方が「第1移動部60」であってもよい。
空走機構40は、第1移動部60の突起部61と、第2移動部70の周溝71、長溝72(図10で見えず。後述の図11B参照)、螺旋溝73と、第2ケース部46のケース側突起部47(図10で見えず。後述の図12参照)とを備える。
突起部61は、第1移動部60の周面において、移動方向に対して略垂直な方向で、かつ、カバー65側に向けて突出するように形成される。カバー65には、第1移動部60の移動方向に沿ってスリット65aが開口され、突起部61は、かかるスリット65aから先端が露出するように配置される(後述の図13参照)。
次いで、第2移動部70の周溝71などについて、図11Aおよび図11Bを用いて説明する。図11Aは第2移動部70の模式正面図であり、図11Bは第2移動部70の模式右側面図である。
図11A,11Bに示すように、周溝71は、第2移動部70の切替部180側の端部において、第2移動部70の周方向に沿って形成される。なお、図11A等に示す例では、周溝71は、第2移動部70の周方向の全周に亘って形成されるようにしたが、これに限定されるものではなく、周方向の一部に形成されてもよい。
また、周溝71は、第1移動部60の突起部61と係止可能となるように構成される。すなわち、例えば周溝71の溝幅は、第1移動部60の突起部61が係止可能な値に設定される。
長溝72は、第2移動部70の長手方向Dに沿って周溝71と連続するように形成される。なお、第2移動部70の長手方向Dは、第2移動部70の移動方向と平行または略平行である。
また、長溝72は、周溝71と同様、第1移動部60の突起部61と係止可能となるように構成される。すなわち、例えば長溝72の溝幅は、第1移動部60の突起部61が係止可能な値に設定される。また、長溝72の長手方向Dの長さは、任意の値に設定可能であるが、例えば第1、第2ワイヤ部80,90のストロークの差に設定されてもよい。
螺旋溝73は、第2移動部70の周面に形成される。また、螺旋溝73は、複数、例えば2本形成される。なお、図11Aでは、2本の螺旋溝73のうち、裏側に形成されて見えない螺旋溝73を破線で示した。
2本の螺旋溝73は、長手方向Dに沿う方向から見た場合に回転対称となるように配置されるようにしてもよい。なお、ここでは、螺旋溝73が2本であることから、2回対称、すなわち点対称とされるが、これに限定されるものではない。また、上記では螺旋溝73を2本としたが、これに限られず、1本あるいは3本以上であってもよい。
また、図11Aに示す例では、螺旋溝73は、第2移動部70の周方向に沿って半周未満の溝としたが、これはあくまでも例示あって限定されるものではなく、例えば半周以上の溝であってもよい。
図12は、空走機構40を備えた第2移動部70等の動作を説明するための模式断面図であり、また、第2ケース部46のケース側突起部47を説明するための図である。
図12の左図に示すように、ケース側突起部47は、第2ケース部46において、第2移動部70が収容される部分、すなわち、第2収容部46bの内周面に形成される。ケース側突起部47は、第2収容部46bの内周面から、収容されている第2移動部70へ向けて、正確には、第2移動部70の螺旋溝73へ向けて突出するように形成される。
なお、第2収容部46bの内周面において、ケース側突起部47が形成される位置は、任意に設定可能であるが、図12に示す例では、側面視において第2収容部46bの内周面の中央付近に形成される。
ケース側突起部47は、第2移動部70の螺旋溝73と係止可能とされるとともに、螺旋溝73と同じ複数(ここでは2個)形成される。
すなわち、本実施形態に係る水洗大便器10にあっては、螺旋溝73およびケース側突起部47は、複数形成される。これにより、本実施形態において、第2移動部70は、第2ケース部46の第2収容部46b内において、複数ヶ所で支持されることとなるため、がたつきを抑制することができ、第2移動部70を第2収容部46b内に安定して収容することができる。
また、2個のケース側突起部47は、第2ケース部46の第2収容部46bにおいて互いに対向する位置に形成されるようにしてもよい。これにより、第2移動部70は、第2収容部46b内において、ケース側突起部47によって両側から支持されることとなるため、がたつきを効果的に抑制することができ、第2移動部70を第2収容部46bにより安定して収容することができる。
<7.第1、第2移動部の動作>
次に、上記のように構成された空走機構40を備えた、第1、第2移動部60,70の動作について、図12を用いて説明する。図12の左図は、操作部20が手動操作される前の状態を示し、中央図および右図は、操作部20が手動操作されたときの第1、第2移動部60,70の動作の推移を示している。また、図12では、理解の便宜のため、第1移動部60、第1ワイヤ部80および把持部30を破線で示し、第2移動部70等を実線で示している。
図12の左図に示すように、操作部20が手動操作される前の状態においては、第1移動部60の突起部61と第2移動部70の周溝71とが係止され、また、ケース側突起部47と螺旋溝73とが係止されている。なお、長溝72は、突起部61に対してずれた位置、図12の左図に示す例では、周方向に約90度ずれた位置とされる。
そして、停電時に把持部30に対して使用者が引っ張る等の手動操作を行うと、突起部61と周溝71とが係止されているため、図12の中央図に示すように、第1移動部60と第2移動部70は、紙面下方に向けて並進運動する。
かかる並進運動に伴い、第1、第2ワイヤ部80,90も共に引っ張られて移動する。そのため、第1ワイヤ部80に接続される開閉弁240が回動し始める。同様に、第2ワイヤ部90に接続される切替部180も動作して、ボウル部110に対する給水を開始する。
このとき、第2移動部70にあっては、螺旋溝73とケース側突起部47とが係止されているため、下方へ移動するにつれて、長手方向D回りに回転運動する。また、長溝72は、かかる回転運動に伴い、突起部61に近づく。なお、図12の中央図に示す例では、長溝72は、突起部61に対して周方向に約45度ずれた位置とされる。
把持部30に対して使用者がさらに引っ張ると、突起部61と周溝71とが係止されているため、第1移動部60と第2移動部70は、さらに並進運動し、その後、図12の右図に示すように、第2移動部70が第2ケース部46の端部まで並進運動する。
このとき、第2移動部70に第2ワイヤ部90を介して接続される切替部180にあっては、動作が完了している、すなわち、ボウル部110に対する給水を行っており、これ以上の手動操作は不要であるものとする。
他方、第1、第2ワイヤ部80,90は、ストロークに差があることから、第1移動部60に第1ワイヤ部80を介して接続される開閉弁240は、まだ排水路305を閉じることができないものとする。
そこで、本実施形態では、第2移動部70が第2ケース部46の端部まで並進運動するとき、第1移動部60の突起部61と第2移動部70の長溝72とを係止させ、第1移動部60のみを移動させて空走させ、第1ワイヤ部80のみを動作させるようにした。
詳しくは、第2移動部70の長溝72は、第2移動部70の回転運動に伴い、突起部61にさらに近づき、第2移動部70が第2ケース部46の端部まで並進運動するとき、突起部61と係止可能な位置となる。
把持部30に対して使用者がさらに引っ張ると、周溝71に係止していた第1移動部60の突起部61が長溝72と係止されて長溝72内を移動し、これによって第1移動部60のみを移動させつつ第2移動部70を移動させない、すなわち、第1移動部60を空走させる。なお、図12の右図においては、空走させられた第1移動部60などを想像線で示している。
これにより、第1移動部60に第1ワイヤ部80を介して接続される開閉弁240は、さらに回動することから、排水路305を確実に閉じることができ、よって図8A〜図8Eに示すような便器洗浄を行うことができる。
このように、本実施形態に係る操作部20にあっては、上記した空走機構40を備えることで、開閉弁240を動作させる第1ワイヤ部80のストロークと切替部180を動作させる第2ワイヤ部90のストロークとが異なる場合であっても、開閉弁240と切替部180とを適切に動作させることができる。また、空走機構40についても上記のようにすることで、簡易な構成とすることができる。
<8.操作部の便器本体への組み付け>
次に、上記のように構成された操作部20の便器本体100への組み付け(施工)について図13を参照して説明する。図13は、操作部20の便器本体100への組み付けを説明するための模式斜視図である。
図13に示すように、操作部20は、開閉弁240(図3参照)に接続される部分と、切替部180(図3参照)に接続される部分とに分割可能に構成される。なお、図13では、開閉弁240に接続される部分(以下「開閉弁側部分」と記載する)を破線で囲んで符号20aを付し、切替部180に接続される部分(以下「切替部側部分」と記載する)を破線で囲んで符号20bを付した。
操作部20において、開閉弁側部分20aには、例えば第1ワイヤ部80、第1移動部60(図10参照)、第1ケース部45、カバー65および把持部30などが含まれる。切替部側部分20bには、第2ワイヤ部90、第2移動部70および第2ケース部46などが含まれる。
そして、切替部側部分20bは、便器本体100に設けられる、詳しくは、工場などで便器本体100に予め組み付けられて固定される。また、切替部側部分20bは、例えば第2ケース部46の第1収容部46aの開口が露出した状態で便器本体100に設けられる。
他方、開閉弁側部分20aは、便器本体100に設けられた切替部側部分20bに対して着脱可能に構成される。これにより、本実施形態に係る水洗大便器10にあっては、操作部20や排水ソケット200等の施工の容易性を向上させることができる。
すなわち、開閉弁240を備える排水ソケット200は、水洗大便器10が実際に設置されるトイレ室で、施工者によって組み付けられる。そのため、例えば切替部側部分20bと開閉弁側部分20aとを一体にした操作部20を便器本体100に予め固定した場合、排水ソケット200の可動範囲が操作部20によって制限されることから、排水ソケット200等の組み付けがし難くなるおそれがあった。
本実施形態にあっては、操作部20を上記のように分割可能に構成したことから、排水ソケット200を組み付けた後で、開閉弁側部分20aを切替部側部分20bに組み付けることが可能となり、よって操作部20や排水ソケット200等の施工の容易性を向上させることができる。
上述してきたように、実施形態に係る水洗大便器10は、開閉弁240と、切替部180と、操作部20とを備える。開閉弁240は、ボウル部110と排水管300とを接続する接続流路211に設けられ、接続流路211を開閉する。切替部180は、ボウル部110に対する給水および止水の切り替えを行う。操作部20は、開閉弁240と切替部180とにそれぞれ接続され、使用者の手動操作によって開閉弁240および切替部180を共に動作させる。これにより、水洗大便器10においては、洗浄回数が制限されることなく、便器洗浄を行うことができる。
また、切替部180は、カム部183と、ポペット弁184とを備える。カム部183は、操作部20の手動操作に応じて回転する。ポペット弁184は、回転したカム部183と当接するときに動作して、ボウル部110への給水に切り替える。これにより、切替部180を簡易な構成とすることができる。
また、上述してきたように、実施形態に係る水洗大便器10は、開閉弁240と、切替部180と、操作部20とを備える。開閉弁240は、ボウル部110と排水管300とを接続する接続流路211に設けられ、接続流路211を開閉する。切替部180は、ボウル部110に対する給水および止水の切り替えを行う。操作部20は、開閉弁240と切替部180とにそれぞれ接続され、使用者の手動操作によって開閉弁240および切替部180を共に動作させる。また、操作部20は、把持部30と、第1、第2移動部60,70と、第1ワイヤ部80と、第2ワイヤ部90と、空走機構40とを備える。把持部30は、使用者の手動操作を受け付ける。第1、第2移動部60,70は、把持部30に接続されるとともに、把持部30への手動操作によって移動可能とされる。第1ワイヤ部80は、第1移動部60と開閉弁240とを接続するとともに、開閉弁240を動作させる。第2ワイヤ部90は、第2移動部70と切替部180とを接続するとともに、第1ワイヤ部80とは異なるストロークで切替部180を動作させる。空走機構40は、把持部30への手動操作によって、第1移動部60および第2移動部70のうち一方を移動させる。これにより、水洗大便器10において、開閉弁240を動作させる第1ワイヤ部80のストロークと切替部180を動作させる第2ワイヤ部90のストロークとが異なる場合であっても、開閉弁240と切替部180とを適切に動作させることができる。
<9.空走機構の変形例>
上記した実施形態では、空走機構40を図10等に示すような構成としたが、これは例示であって限定されるものではなく、第1移動部60および第2移動部70のうち一方を移動させる構成であれば、どのような機構であってもよい。
次に、空走機構40の変形例について図14を参照して説明する。図14は、変形例に係る空走機構400を備えた、第1、第2移動部60,70の動作を示す模式断面図である。
なお、図14の左図は、操作部20が手動操作される前の状態を示し、右図は、操作部20が手動操作されたときの第1、第2移動部60,70の動作の推移を示している。また、以下の説明では、既に説明した部分と同様の部分については、既に説明した部分と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図14の左図に示すように、変形例において、第1移動部60および第2移動部70は共に、ケース部44に第1、第2ワイヤ部80,90の軸線方向にスライド移動可能に収容される。また、第1移動部60および第2移動部70は、ケース部44内で隣接して収容される。
そして、変形例に係る空走機構400は、第2移動部70の係止爪75、突起部76と、ケース部44の嵌合孔48、ばね49とを備える。
係止爪75は、第2移動部70の切替部180側の端部とは反対側の端部付近において、第2移動部70の側面から第1移動部60へ向けて突出するように形成される。そして、操作部20の把持部30が手動操作される前の状態において、係止爪75には、第1移動部60の端部が係止される。
突起部76は、第2移動部70においてケース部44の内周面と対向する側の側面に形成されるとともに、ケース部44側へ向けて突出するように形成される。そして、操作部20の把持部30が手動操作される前の状態において、突起部76は、ケース部44の内周面に対して先端が当接するように配置される。
ケース部44の嵌合孔48は、ケース部44の内周面に形成されるとともに、突起部76と嵌合可能とされる。なお、図14の左図に示すように、把持部30が手動操作される前の状態において、突起部76は、嵌合孔48には嵌合されない位置とされる。
ばね49は、嵌合孔48に配置され、突起部76が嵌合孔48に侵入して嵌合されるとき、突起部76に対して嵌合孔48から押し出す向きの付勢力を付与する。
そして、変形例においては、停電時に把持部30に対して使用者が引っ張る等の手動操作を行うと、係止爪75と第1移動部60の端部とが係合されているため、図14の左図に矢印で示すように、第1移動部60と第2移動部70は、紙面下方へ並進運動する。このとき、突起部76は、ケース部44の内周面に対して摺動される。
かかる並進運動に伴い、第1、第2ワイヤ部80,90も共に引っ張られて移動する。そのため、第1ワイヤ部80に接続される開閉弁240が回動し始める。同様に、第2ワイヤ部90に接続される切替部180も動作して、ボウル部110に対する給水を開始する。
把持部30に対して使用者がさらに引っ張ると、図14の右図に示すように、突起部76が嵌合孔48に侵入して嵌合する。これにより、係止爪75と第1移動部60の端部との係止が解除される。
このとき、第2移動部70に第2ワイヤ部90を介して接続される切替部180にあっては、動作が完了している、すなわち、ボウル部110に対する給水を行っており、これ以上の手動操作は不要であるものとする。
他方、第1、第2ワイヤ部80,90は、ストロークに差があることから、第1移動部60に第1ワイヤ部80を介して接続される開閉弁240は、まだ排水路305を閉じることができないものとする。
そこで、変形例では、第2移動部70との係合が解除された第1移動部60のみを移動させて空走させ、第1ワイヤ部80のみを動作させるようにした。なお、図14の右図においては、空走させられた第1移動部60などを想像線で示している。
なお、このとき、嵌合孔48に嵌合した第2移動部70は、ばね49によって嵌合孔48から押し出す向きの付勢力が付与されるが、係止爪75の先端が第1移動部60と当接しているため、嵌合孔48から押し出されることはない。
これにより、第1移動部60に第1ワイヤ部80を介して接続される開閉弁240は、さらに回動することから、排水路305を確実に閉じることができ、よって図8A〜図8Eに示すような便器洗浄を行うことができる。
なお、把持部30に対する使用者の手動操作が終わると、第1移動部60は、開閉弁240の回転軸243に設けられたばね(図示せず)の付勢力を受けて元の位置に戻る。その戻る途中で、係止爪75の先端と第1移動部60との当接が解除され、よって第2移動部70がばね49によって嵌合孔48から押し出される。そして、係止爪75と第1移動部60の端部とが係合された初期の状態となる(図14の左図参照)。
このように、変形例に係る水洗大便器10において、第1ワイヤ部80のストロークと第2ワイヤ部90のストロークとが異なる場合であっても、開閉弁240と切替部180とを適切に動作させることができる。
なお、上記した実施形態において、水洗大便器10は、電池などの非常用電源も備えるようにしてもよい。本実施形態に係る水洗大便器10は、手動操作で便器洗浄が可能であることから、例えば非常用電源の電池が切れた場合であっても、停電時に電池の交換作業をすることなく、手動で便器洗浄を行うことができる。
また、上記では、開閉弁240や切替部180を第1、第2ワイヤ部80,90を用いて動作させるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば回転可能なハンドルなどを用いて開閉弁240や切替部180を動作させるようにしてもよい。また、上記では、ばね49,62,184dとしてコイルばねを用いるようにしたが、これは例示であって限定されるものではなく、例えば板ばねや皿ばねなど、付勢力を生じるように弾性変形するものであれば他の種類の弾性部材であってもよい。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。