以下、本発明に係る変形抵抗同定方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。先ず、本発明に係る変形抵抗同定方法で用いる変形抵抗の数値モデルを創案した経緯について説明する。図1は、一回圧下の熱間鍛造において元材に生じる変形抵抗σとひずみεとの関係の一例と、逐次熱間鍛造において元材に生じる変形抵抗σとひずみεとの関係の一例と、の比較例を示す図である。
図1に示すように、本願の発明者は、一回圧下の熱間鍛造の試験を行って取得した元材に生じた変形抵抗σとひずみεとの関係及び逐次熱間鍛造の試験を行って取得した元材に生じた変形抵抗σとひずみεとの関係をグラフG11に示し、比較した。その結果、グラフG12に示すように、逐次熱間鍛造の試験における三回目以降の圧下時に元材が降伏したときの変形抵抗σの変化率(傾き)が、一回圧下の熱間鍛造の試験における、当該降伏したときのひずみε2よりも小さいひずみε1のときの変形抵抗σの変化率と一致することを知見した。
また、本願の発明者は、元材を加熱する温度や圧下条件を変えて同様の試験を行った。その結果、本願の発明者は、上記とは反対に、逐次熱間鍛造の試験における各圧下時に元材が降伏したときの変形抵抗σの変化率が、一回圧下の熱間鍛造の試験における、当該降伏したときのひずみεよりも大きいひずみεのときの変形抵抗σの変化率と一致する場合があることも知見した。
尚、本願の発明者は、一回圧下の温間鍛造の試験を行ったときに元材に生じた変形抵抗σ及び逐次温間鍛造の試験を行ったときに元材に生じた変形抵抗σとひずみεとの関係を比較した結果からも同様の知見を得た。
本願の発明者は、これらの知見に基づき、逐次熱間(又は温間)鍛造における元材のひずみεを所定量シフトする(減少する又は増大する)ことにより、逐次熱間(又は温間)鍛造における元材のひずみεから元材の軟化の影響を排除し、逐次熱間(又は温間)鍛造における元材のひずみεを一回圧下の熱間(又は温間)鍛造における元材が軟化していないときのひずみに換算できると考えた。
そこで、本願の発明者は、逐次熱間(又は温間)鍛造における元材のひずみεを一回圧下の熱間(又は温間)鍛造におけるひずみに換算したひずみを、従来から一回圧下の熱間(又は温間)鍛造を行う場合に用いられている、下記の式(1)で表される数値モデルに適用した。これにより、本願の発明者は、下記の式(2)で表される変形抵抗σの数値モデルを創案した。
尚、上記式(1)、(2)において、定数A、ひずみ依存性指数n、ひずみ速度依存性指数m、活性化エネルギーQ、ガス定数Rは、元材の素材によって異なる定数である。また、元材の温度Tの単位は、K(ケルビン)である。
例えば、元材の素材が、JIS(Japanese Industrial Standards)規格のSQV2(ASME(American Society for Mechanical Engineers)規格のSA508)であるとする。この場合、定数Aは、元材の温度Tによっても異なり、例えば、当該元材の温度が「1073.15K(=800℃)」の場合は「253」であり、当該元材の温度が「1373.15K(=1100℃)」の場合は「92」である。また、ひずみ依存性指数nは「0.34」、ひずみ速度依存性指数mは「0.09」、活性化エネルギーQは「0.06」、ガス定数Rは「8.314」である。
また、本願の発明者は、グラフG13に示すように、逐次熱間鍛造の試験における各圧下時に元材が降伏したときの変形抵抗σの変化率を、それぞれ、一回圧下の熱間鍛造の試験における変形抵抗σの変化率に一致させた。その結果、本願の発明者は、上記換算のためにひずみεをシフトさせる量(以下、ひずみのシフト量)は、ひずみεの大きさに応じて異なることを知見した。また、変形抵抗は、元材の軟化の度合によって変わり、一般的に、元材の温度、ひずみ速度、及び圧下間隔で変動することが知られている。
これらの知見に基づき、本願の発明者は、式(2)に示すように、ひずみのシフト量を、元材のひずみ、元材の温度、ひずみ速度及び圧下間隔を変数とする関数で表すようにした。したがって、式(2)で表される変形抵抗の数値モデルに基づき変形抵抗を同定するためには、ひずみのシフト量を示す関数を適切に定める必要があった。
そこで、本願の発明者は、式(2)で表される変形抵抗の数値モデルに含まれるひずみのシフト量を示す関数を適切に定め、これにより、変形抵抗を適切に同定する本発明の変形抵抗同定方法を創案した。以下、その方法について詳述する。尚、逐次熱間鍛造及び逐次温間鍛造における元材の変形抵抗同定方法は同様であるので、以下では、逐次熱間鍛造における元材の変形抵抗同定方法についてのみ説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る変形抵抗同定方法を示すフローチャートである。図2に示すように、作業者は、先ず、ステップS1〜S3において、逐次熱間鍛造を行う対象の元材と同一素材の試験材(第一試験材)を所定の温度(以下、第一温度)に加熱し、所定のひずみ速度(以下、第一ひずみ速度)で試験材の圧下を継続する一回圧下の熱間鍛造の試験(以下、第一試験)を行う。そして、作業者は、当該第一試験における試験材のひずみ(以下、第一ひずみ)と試験材に生じた変形抵抗(以下、第一変形抵抗)との関係を示す第一データを取得する。作業者は、この第一試験の実行及び第一データの取得を、第一温度及び第一ひずみ速度のうち少なくとも一方を異ならせて複数回行う。
より具体的には、作業者は、ステップS1において、第一試験の試験条件として、第一温度及び第一ひずみ速度の組み合わせを複数組決定する(S1)。
図3は、第一温度及び第一ひずみ速度の組み合わせC1_1〜C1_5の一例を示す図である。本実施形態では、具体例として、ステップS1において、図3に示す五組の第一温度及び第一ひずみ速度の組み合わせC1_1〜C1_5が決定されたものとして説明する。ただし、ステップS1において決定される第一温度及び第一ひずみ速度の組み合わせは、図3に示す五組の組み合わせC1_1〜C1_5に限らず、他の互いに異なる複数の組み合わせであってもよい。
続いて、作業者は、ステップS2において、ステップS1で定めた組み合わせC1_1〜C1_5のうち、未選択の一の組み合わせを選択する。そして、作業者は、逐次熱間鍛造を行う対象の元材と同一素材の新たな試験材を用意する。その後、作業者は、用意した試験材を当該選択した組み合わせが示す第一温度に加熱し、当該選択した組み合わせが示す第一ひずみ速度で当該試験材の圧下を継続する第一試験を行う。そして、作業者は、当該第一試験における試験材の第一ひずみと試験材に生じた第一変形抵抗との関係を示す第一データを取得する(S2)。
本実施形態では、具体例として、逐次熱間鍛造を行う対象の元材及び試験材を構成する素材が、上述した、JIS規格のSQV2(ASME規格のSA508)であるものして説明する。ただし、元材及び試験材を構成する素材は、これに限らず、他の素材であってもよい。
作業者は、ステップS1で定めた全ての組み合わせC1_1〜C1_5が示す第一温度及び第一ひずみ速度を用いた第一試験の実行及び第一データの取得を完了するまで(S3;NO)、ステップS2を繰り返す。その後、作業者は、ステップS1で定めた全ての組み合わせC1_1〜C1_5が示す第一温度及び第一ひずみ速度を用いた第一試験の実行及び第一データの取得を完了すると(S3;YES)、ステップS4〜S6を行う。
作業者は、ステップS4〜S6において、元材と同一素材の試験材(第二試験材)を第一温度と同じ温度(以下、第二温度)に加熱し、第一ひずみ速度と同じひずみ速度(以下、第二ひずみ速度)で試験材を所定の圧下量圧下することを、所定の圧下間隔おきに間欠的に繰り返す逐次熱間鍛造の試験(以下、第二試験)を行う。そして、作業者は、当該第二試験における試験材のひずみ(以下、第二ひずみ)と試験材に生じた変形抵抗(以下、第二変形抵抗)との関係を示す第二データを取得する。作業者は、この第二試験の実行及び第二データの取得を、圧下間隔を異ならせて複数回行う。
より具体的には、作業者は、ステップS4において、第二試験の試験条件として、第二温度、各圧下時に試験材を圧下する圧下量、圧下間隔、及び第二ひずみ速度の組み合わせを複数組決定する(S4)。
図4は、第二温度、各圧下時に試験材を圧下する圧下量、圧下間隔及び第二ひずみ速度の組み合わせC2_1〜C2_14の一例を示す図である。本実施形態では、具体例として、ステップS4において、図3に示す五組の組み合わせC1_1〜C1_5が示す第一温度及び第一ひずみ速度と同じ第二温度及び第二ひずみ速度を用いた、図4に示す十四組の組み合わせC2_1〜C2_14が決定されたものとして説明する。また、圧下量は、試験材の圧下開始前の高さ(元の高さ)に対する試験材を圧下させる量の比率(パーセント)で表すものとする。
ただし、ステップS4で決定する組み合わせは、図4に示す十四組の組み合わせC2_1〜C2_14に限らず、第一温度及び第一ひずみ速度と同じ第二温度及び第二ひずみ速度を含んだ、他の互いに異なる複数の組み合わせであってよい。
続いて、作業者は、ステップS5において、ステップS2で定めた組み合わせC2_1〜C2_14のうち、未選択の一の組み合わせを選択する。そして、作業者は、逐次熱間鍛造を行う対象の元材と同一素材の新たな試験材を用意する。その後、作業者は、当該選択した組み合わせが示す第二温度、圧下量、圧下間隔及び第二ひずみ速度を把握する。そして、作業者は、試験材を当該第二温度に加熱し、当該第二ひずみ速度で当該試験材を当該圧下量圧下することを当該圧下間隔おきに間欠的に繰り返す第二試験を行う。そして、作業者は、当該第二試験における試験材の第二ひずみと試験材に生じた第二変形抵抗との関係を示す第二データを取得する(S5)。
作業者は、ステップS4で定めた全ての組み合わせC2_1〜C2_14が示す第二温度、圧下量、圧下間隔、及び第二ひずみ速度を用いた第二試験の実行及び第二データの取得を完了するまで(S6;NO)、ステップS5を繰り返す。その後、作業者は、ステップS4で定めた全ての組み合わせC2_1〜C2_14が示す第二温度、圧下量、圧下間隔、及び第二ひずみ速度を用いた第二試験の実行及び第二データの取得を完了すると(S6;YES)、ステップS7を行う。
ステップS7において、作業者は、ステップS5で取得した各第二データと、当該第二データの取得に用いた第二温度及び第二ひずみ速度と同じ第一温度及び第一ひずみ速度で取得した第一データと、を比較する。そして、作業者は、第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみと当該第二ひずみのシフト量との関係を示すデータを取得し、グラフ化する(S7)。
より具体的には、ステップS7において、作業者は、図1のグラフG12に示すように、第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二変形抵抗の変化率(太字実線部)と一致する第一変形抵抗の変化率(太字破線部)を示すときの第一ひずみε1を、当該降伏したときの第二ひずみε2から減算する。作業者は、当該減算の結果εa(=ε2−ε1)を当該第二ひずみε2のシフト量εaとして取得する。そして、作業者は、第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該第二ひずみε2のシフト量εaとの関係を示すデータをグラフ化する。
図5及び図6は、各第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該第二ひずみε2のシフト量εaとの関係の一例を示すグラフである。例えば、ステップS7において、作業者は、第二試験を行って取得した第二データと、第一試験を行って取得した第一データと、を比較する。具体例として、当該第二試験は、図4に示す組み合わせC2_1が示す、第二温度「800(℃)」、圧下量「5(%)」、圧下間隔「100(s)」及び第二ひずみ速度「0.002」を用いて行ったものとする。当該第一試験は、図3に示す組み合わせC1_1が示す、第二温度「800(℃)」及び第二ひずみ速度「0.002」と同じ第一温度「800(℃)」及び第一ひずみ速度「0.002」を用いて行ったものとする。そして、作業者は、当該第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2のシフト量εaを算出する。その後、作業者は、図5に示すように、当該第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該算出した第二ひずみε2のシフト量εaとの関係を示すグラフG511を生成する。
同様にして、作業者は、ステップS7において、図4に示す組み合わせC2_2を用いた第二試験を行って取得した第二データと、図3に示す組み合わせC1_1を用いた第一試験を行って取得した第一データと、の比較結果に基づき、グラフG512を生成する。作業者は、ステップS7において、図4に示す組み合わせC2_3〜C2_5を用いた第二試験を行って取得した各第二データと、図3に示す組み合わせC1_2を用いた第一試験を行って取得した第一データと、の比較結果に基づき、グラフG521〜G523を生成する。作業者は、ステップS7において、図4に示す組み合わせC2_6〜C2_8を用いた第二試験を行って取得した各第二データと、図3に示す組み合わせC1_3を用いた第一試験を行って取得した第一データと、の比較結果に基づき、グラフG531〜G533を生成する。
同様にして、作業者は、ステップS7において、図4に示す組み合わせC2_9〜C2_11を用いた第二試験を行って取得した各第二データと、図3に示す組み合わせC1_4を用いた第一試験を行って取得した第一データと、の比較結果に基づき、図6に示すグラフG641〜G643を生成する。また、作業者は、ステップS7において、図4に示す組み合わせC2_12〜C2_14を用いた第二試験を行って取得した各第二データと、図3に示す組み合わせC1_5を用いた第一試験を行って取得した第一データと、の比較結果に基づき、図6に示すグラフG651〜G653を生成する。
図2に参照を戻す。続いて、作業者は、ステップS8において、各第二データが示す第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該第二ひずみε2のシフト量εaとに基づき、当該第二ひずみε2を変数として当該第二ひずみε2のシフト量εaの近似値を算出する近似式を生成する。
より具体的には、作業者は、ステップS8において、ステップS7で生成した各グラフG511〜G653が示す、第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該第二ひずみε2のシフト量εaとの関係を示すデータを用いて、切片を0とし、且つ、第二ひずみε2の3乗、第二ひずみε2の2乗及び第二ひずみε2の1乗をそれぞれ変数X3、X2、Xとして、当該第二ひずみε2のシフト量εaの近似値Yを算出する三次の多項式近似を行う。これにより、作業者は、各グラフG511〜G653に近似するグラフによって表される、切片を0とし、且つ、第二ひずみε2の3乗、第二ひずみε2の2乗及び第二ひずみε2の1乗を変数X3、X2、Xとして、当該第二ひずみε2のシフト量εaの近似値Yを算出する三次多項式を生成する。
図7は、図5に示す一のグラフG511の近似式の一例を示す図である。例えば、作業者は、ステップS8において、ステップS7で生成した図5に示すグラフG511が示すデータを用いて上記の三次の多項式近似を行う。これにより、作業者は、図7に示すように、グラフG511に近似するグラフG711によって表される三次多項式の近似式を生成する。同様にして、作業者は、ステップS8において、ステップS7で生成した図5に示す各グラフG512〜G653が示すデータを用いて、各グラフG512〜G653に近似するグラフによって表される三次多項式の近似式をそれぞれ生成する。
図2に参照を戻す。続いて、作業者は、ステップS9において、ステップS8で生成した各近似式における各変数の係数をそれぞれ目的変数とし、各近似式を生成する場合に用いた第二データの取得に用いた第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔に関する複数の因子を説明変数としてそれぞれ重回帰分析する(S9)。
ここで、第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔に関する複数の因子とは、第二温度、第二ひずみ速度、圧下間隔を用いて表すことができる因子を示す。具体的には、当該複数の因子には、第二温度、第二ひずみ速度、圧下間隔、第二温度の逆数、第二ひずみ速度の逆数及び圧下間隔の逆数や、第二温度、第二ひずみ速度、圧下間隔、第二温度の逆数、第二ひずみ速度の逆数及び圧下間隔の逆数のうちの何れか二以上の積等が含まれる。
そして、作業者は、ステップS10において、ステップS9の各重回帰分析により導出した各重回帰式によって各変数の係数を表した式において、変数X3、X2、Xを、それぞれ元材のひずみの3乗、当該ひずみの2乗及び当該ひずみの1乗を示す変数ε3、ε2、εとし、上記複数の因子が示す第二温度、圧下間隔及び第二ひずみ速度を、それぞれ、逐次熱間鍛造における元材の温度T、圧下間隔S及びひずみ速度εドットとしたものを、式(2)で表される変形抵抗の数値モデルに含まれるひずみεのシフト量εaを示す関数として生成する(S10)。
より具体的には、作業者は、ステップS9において、ステップS8で生成した各近似式の変数X3の係数を目的変数A1とし、各近似式を生成する場合に用いた第二データの取得に用いた、第二温度、圧下間隔及び第二ひずみ速度に関する以下の式(3)に示す28個の因子「T、S、εドット、T・S、・・・、exp(−S)」を説明変数として重回帰分析する。これにより、作業者は、以下の式(3)に示す重回帰式を得る。尚、式(3)、後述する式(4)及び式(5)では、説明の便宜上、第二温度をT、圧下間隔をS、第二ひずみ速度をεドットと示している。
同様にして、作業者は、ステップS9において、ステップS8で生成した各近似式の変数X2の係数を目的変数A2とし、上記28個の因子「T、S、εドット、T・S、・・・、exp(−S)」を説明変数として重回帰分析することにより、以下の式(4)に示す重回帰式を得る。
同様にして、作業者は、ステップS9において、ステップS8で生成した各近似式の変数Xの係数を目的変数A3とし、上記28個の因子「T、S、εドット、T・S、・・・、exp(−S)」を説明変数として重回帰分析することにより、以下の式(5)に示す重回帰式を得る。
図8は、各近似式における変数X3、X2、Xの係数を重回帰分析することにより得た各重回帰式に関する情報の一例を示す図である。図8の因子欄は、ステップS9における重回帰分析において説明変数とした28個の因子を示している。図8のX3の係数A1欄は、式(3)の重回帰式における切片b1及び各因子の係数a101〜a128を示している。図8のX2の係数A2欄は、式(4)の重回帰式における切片b2及び各因子の係数a201〜a228を示している。図8のXの係数A3欄は、式(5)の重回帰式における切片b3及び各因子の係数a301〜a328を示している。切片bk、各因子の係数ak01〜ak28(k=1、2、3)は、元材の素材によって異なる材料定数となる。
そして、作業者は、ステップS10において、ステップS9の各重回帰分析により導出した式(3)〜式(5)の各重回帰式によって、各変数X3、X2、Xの係数を表した式を生成する。そして、作業者は、当該生成した式における各変数X3、X2、Xをそれぞれ元材のひずみεの3乗、元材のひずみεの2乗及び元材のひずみεの1乗を示す変数ε3、ε2、εとする。また、作業者は、当該生成した式における28個の因子が示す第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔を、それぞれ、逐次熱間鍛造における元材の温度T、元材のひずみ速度εドット及び圧下間隔Sとする。
これにより、作業者は、変数ε3、ε2、ε、逐次熱間鍛造における元材の温度T、元材のひずみ速度εドット及び圧下間隔Sを用いて表される29×3個の因子を用いた下記の式(6)を生成する。そして、作業者は、当該生成した式(6)を、式(2)で表される変形抵抗の数値モデルに含まれるひずみεのシフト量を示す関数として生成する。
図2に参照を戻す。そして、作業者は、ステップS11において、ステップS10で生成した式(6)によって示される関数の精度を確認する(S11)。
より具体的には、作業者は、ステップS11において、ステップS1〜S3で行った複数回の第一試験の実行及び第一データの取得に相当する処理を、一回圧下の熱間鍛造における元材の変形状況を予測する数値シミュレーション(以下、第一シミュレーション)を複数回実行することによって行う。尚、作業者は、第一シミュレーションを実行する場合、式(1)によって示される変形抵抗σの数値モデルを用いる。また、作業者は、例えば、FORGE2D、3D(TRANSVALOR社の商標)、DEFORM−2D、3D(SFT社の商標)、NASKA2D、3D(自社開発ソフト)等の数値シミュレーションソフトを用いて、第一シミュレーションを実行する。
更に、作業者は、ステップS11において、ステップS4〜S6で行った複数回の第二試験の実行及び各第二データの取得に相当する処理を、逐次熱間鍛造における元材の変形状況を予測する数値シミュレーション(以下、第二シミュレーション)を複数回実行することによって行う。尚、作業者は、第二シミュレーションを実行する場合、ステップS10で生成した式(6)によって示される関数を適用した式(2)によって示される変形抵抗σの数値モデルを用いる。また、作業者は、例えば、FORGE2D、3D(TRANSVALOR社の商標)、DEFORM−2D、3D(SFT社の商標)、NASKA2D、3D(自社開発ソフト)等の数値シミュレーションソフトを用いて、第二シミュレーションを実行する。
そして、作業者は、ステップS7と同様にして、複数回の第一シミュレーションの実行により得られた各第一データに相当するデータ(以下、第一予測データ)と、複数回の第二シミュレーションの実行により得られた各第二データに相当するデータ(以下、第二予測データ)とを比較する。そして、作業者は、ステップS7と同様にして、当該比較結果に基づき、各第二シミュレーションにおける各圧下時に元材が降伏したときのひずみεのシフト量εaを算出する。その後、作業者は、当該第二シミュレーションにおける各圧下時に元材が降伏したときのひずみεと当該ひずみεのシフト量εaとの関係を示すグラフを生成する。
そして、作業者は、当該生成した各グラフが示す、元材のひずみεのシフト量εaの予測値と、ステップS7において生成した各グラフが示す試験材の第二ひずみεのシフト量εaの実測値と、ステップS8において当該実測値を用いて生成した近似式を示すグラフと、を対比する。これにより、作業者は、ステップS10において生成した式(6)によって示される関数の精度を確認する。
図9は、数値シミュレーションの実行により得られたひずみεのシフト量εaの予測値、第一試験及び第二試験の実行により得られた第二ひずみε2のシフト量εaの実測値及び当該実測値の近似式の一例を示す図である。
例えば、図9に示すグラフG22は、元材の温度T「1073.15(K)」、ひずみ速度εドット「0.02(1/s)」、及び圧下間隔S「100(s)」を用いた第二シミュレーションの実行により取得した第二予測データを用いて生成した、ひずみεのシフト量εaの予測値を示すグラフである。図9に示すグラフG522は、ステップS7において第二温度「1073.15(K)」、圧下間隔「100(s)」及び第二ひずみ速度「0.02(1/s)」を用いた第二試験の実行により取得した第二データを用いて生成した、図5のグラフG522が示すデータのみを示すグラフである。図9に示すグラフG722は、ステップS8で当該グラフG522が示すデータを用いて生成した近似式を示すグラフである。
作業者は、グラフG22と、グラフG522と、グラフG722と、を対比する。この場合、作業者は、グラフG22と、グラフG522と、グラフG722と、が略同じ曲線上に存在していることから、ステップS10で生成した式(6)によって示される関数の精度が良いことを把握する。
図9に示すグラフG42は、元材の温度T「1373.15(K)」、ひずみ速度εドット「0.02(1/s)」、及び圧下間隔S「100(s)」を用いた第二シミュレーションの実行により取得した第二予測データを用いて生成した、ひずみεのシフト量εaの予測値を示すグラフである。図9に示すグラフG642は、ステップS7において第二温度「1373.15(K)」、圧下間隔「100(s)」及び第二ひずみ速度「0.02(1/s)」を用いた第二試験の実行により取得した第二データを用いて生成した、図5に示すグラフG642が示すデータのみを示すグラフである。図9に示すグラフG742は、ステップS8で当該グラフG642が示すデータを用いて生成した近似式を示すグラフである。
同様にして、作業者は、グラフG42と、グラフG642と、グラフG742と、を対比する。この場合も、作業者は、グラフG42と、グラフG642と、グラフG742と、が略同じ曲線上に存在していることから、ステップS10で生成した式(6)によって示される関数の精度が良いことを把握する。
尚、作業者が、ステップS11において、対比した3つのグラフが同じ曲線上に存在しているとは考えられず、ステップS10で生成した式(6)によって示される関数の精度が良くないと判断する場合がある。この場合、作業者は、再びステップS1以降を行えばよい。そして、作業者は、この場合のステップS1において決定する第一試験の試験条件(第一温度及び第一ひずみ速度の組み合わせ)と、この場合のステップS4において決定する第二試験の試験条件(第二温度、各圧下時に試験材を圧下する圧下量、圧下間隔、及び第二ひずみ速度の組み合わせ)と、をそれぞれ、これまでに決定したものとは異なる試験条件に決定すればよい。
上記実施形態によれば、元材と同一素材の試験材に対し、一回圧下の熱間(又は温間)鍛造に相当する第一試験を行うことによって第一データを取得する。また、元材と同一素材の試験材に対して逐次熱間(又は温間)鍛造に相当する第二試験を行うことによって第二データを取得する。そして、当該取得した第一データ及び第二データに基づき、式(2)によって表される変形抵抗σの数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数を生成する。
このため、上記数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数を、元材に対する熱間(又は温間)鍛造に相当する試験の結果に基づいた精度の良い関数として生成することができる。その結果、元材を逐次熱間(又は温間)鍛造する場合における変形抵抗σを、当該数値モデルを用いて精度良く同定することができる。
また、上記実施形態によれば、式(2)によって表される変形抵抗σの数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数を、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材のひずみεを変数とし、当該変数の係数を逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材の温度T、ひずみ速度εドット及び圧下間隔Sに関する複数の変数を用いて表した式(6)によって表すことができる。つまり、上記数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数を、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材のひずみε、元材の温度T、ひずみ速度εドット及び圧下間隔Sを変数とする関数として適切に生成することができる。
また、上記実施形態によれば、ひずみεのシフト量εaを示す関数が、切片が0、且つ、元材のひずみの3乗、元材のひずみの2乗及び元材のひずみの1乗を変数とする三次多項式となる。このため、逐次熱間鍛造及び逐次温間鍛造における各圧下時に元材が降伏したときのひずみεのシフト量εaが、正、負又は0の値の何れであっても、当該生成された三次多項式によって当該シフト量εaを適切に示すことができる。
尚、上記実施形態では、ステップS8で生成する近似式を、切片が0であり、且つ、第二ひずみε2の3乗、第二ひずみε2の2乗及び第二ひずみε2の1乗をそれぞれ変数X3、X2、Xとする三次多項式としていた。しかし、これに限らず、ステップS8で生成する近似式を、切片が0ではない三次多項式としてもよいし、第二ひずみε2のk乗(k≧1)を示す変数を用いて、一次式、二次の多項式、又は、四次以上の多項式としてもよい。
また、上記実施形態では、作業者は、ステップS9において、図8の因子欄に示す、第二温度、圧下間隔及び第二ひずみ速度に関する28個の因子を説明変数として重回帰分析を行っていた。しかし、当該説明変数は、当該28個の因子に限らず、例えば、第二温度の2乗や、第二温度の2乗と圧下間隔との積等、第二温度、圧下間隔及び第二ひずみ速度のうちの一以上をk乗(k≧2)にした因子が含まれていてもよい。
この場合、式(2)によって表される変形抵抗σの数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数における、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材の温度T、ひずみ速度εドット及び圧下間隔Sに関する複数の変数に、元材の温度T、ひずみ速度εドット及び圧下間隔Sのうちの一以上がk次(k≧2)となっている変数が含まれるようになる。これにより、元材の温度、ひずみ速度及び圧下間隔のうちのk次となっているものの影響を特に考慮して、ひずみのシフト量を同定することができる。
また、上記実施形態では、式(2)によって表される変形抵抗σの数値モデルに含まれるひずみεのシフト量εaを示す関数を、逐次熱間鍛造における元材のひずみε、温度T、ひずみ速度εドット及び圧下間隔Sを変数とする関数としていた。しかし、元材を構成する粒子の粒径が異なれば、元材の軟化の度合が異なり、これにより変形抵抗σも異なると考えられる。そこで、当該関数を、更に、元材を構成する粒子の粒径Gを変数とする関数としてもよい。つまり、変形抵抗σの数値モデルを下記の式(7)によって表すようにしてもよい。
これに合わせて、ステップS9において、元材を構成する粒子の粒径Gに関する因子を説明変数として更に含めて重回帰分析を行うようにしてもよい。元材を構成する粒子の粒径Gに関する因子とは、粒径Gを用いて表すことができる因子を示す。例えば、粒径Gを用いて表すことができる因子には、粒径G及び粒径Gの逆数や、上記の第二ひずみ、第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔に関する複数の因子それぞれと当該粒径Gとの積や、当該複数の因子それぞれと当該粒径Gの逆数との積等が含まれる。
この場合、変形抵抗σの数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数を、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材のひずみεを変数とし、当該変数の係数を、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材の温度T、ひずみ速度εドット、及び圧下間隔Sに関する複数の変数と、元材を構成する粒子の粒径Gに関する変数と、を用いて表した式によって表すことができる。つまり、上記数値モデルにおけるひずみεのシフト量εaを示す関数を、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材のひずみε、元材の温度T、ひずみ速度εドット、圧下間隔S、及び元材を構成する粒子の粒径Gを変数とする関数として適切に生成することができる。これにより、元材を構成する粒子の粒径Gの影響を更に考慮して、ひずみεのシフト量εaを同定することができる。
また、ステップS1において、第一試験の試験条件として、第一温度及び第一ひずみ速度の組み合わせを一組だけ設定し、当該設定した一の試験条件で、第一試験の実行及び第一データの取得を一回以上行うようにしてもよい。これに合わせて、ステップS4においても、第二試験の試験条件として、第二温度、各圧下時に試験材を圧下する圧下量、圧下間隔、及び第二ひずみ速度の組み合わせを一組だけ設定し、当該設定した一の試験条件で、第二試験の実行及び第二データの取得を一回以上行うようにしてもよい。
また、ステップS8〜S10に代えて、ステップS7で生成した各グラフが示す、第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該第二ひずみε2のシフト量εaとの関係を示すデータと、ステップS7において各グラフを生成するために用いた第二データの取得に用いた第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔と、に基づき、式(2)によって表される変形抵抗σの数値モデルに含まれる、ひずみεのシフト量εaを示す関数を生成してもよい。
例えば、ステップS7で生成した各グラフが示す、第二試験における各圧下時に試験材が降伏したときの第二ひずみε2と当該第二ひずみε2のシフト量εaとの関係を示すデータと、ステップS7において各グラフを生成するために用いた第二データの取得に用いた第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔と、の関係を機械学習するようにしてもよい。
そして、学習結果によって、第二ひずみ、第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔を変数として、第二ひずみε2のシフト量εaを算出する最適な関数を導出するようしてもよい。そして、当該関数における第二ひずみ、第二温度、第二ひずみ速度及び圧下間隔を示す変数を、それぞれ、逐次熱間鍛造又は逐次温間鍛造における元材のひずみε、温度T、ひずみ速度εドット及び圧下間隔Sを示す変数に代えた関数を、式(2)によって表される変形抵抗σの数値モデルに含まれる、ひずみεのシフト量εaを示す関数としてもよい。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。