JP2017172010A - 耐サワー鋼板及び耐サワー鋼管 - Google Patents
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本発明の一態様に係る耐サワー鋼板は、
(1)質量%で、C:0.020%以上、0.100%以下、Mn:1.00%以上、1.80%以下、S:0.0001%以上、0.0010%以下、Al:0.001%以上、0.020%以下、Ti:0.005%以上、0.020%以下、Ca:0.0005%以上、0.0030%以下、Mg:0.0003%以上、0.0030%以下、N:0.0015%以上、0.0050%以下、O:0.0010%以上、0.0030%以下、を含有し、Si:0.30%以下、P:0.015%以下、Nb:0.004%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物から構成され、下記式(1)を満足し、板厚方向で表面から板厚の1/4の位置におけるベイナイトの面積率が80%以上であり、有効結晶粒における円相当直径の平均値が25μm以下であり、前記有効結晶粒におけるアスペクト比の平均値が4以上である耐サワー鋼板である。
1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (1)
1.0≦〔(Ca+3.5×REM+2.3×Zr)×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (2)
(5)母材及び溶接部からなる鋼管であって、母材が上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の耐サワー鋼板からなる耐サワー鋼管である。
Cは、鋼の強度を高める元素であり、X80級の高強度を得るためにC量を0.020%以上とする。好ましくはC量を0.030%以上、より好ましくは0.035%以上、更に好ましくは0.040%以上とする。しかし、C量の増加は鋳片の中心偏析におけるMnやPの偏析を強めて耐HIC特性を著しく劣化させるため、その上限は0.100%である。好ましくはC量を0.095%以下、より好ましくは0.090%以下とする。
Siは、脱酸のために鋼に含有される場合があるが、Si量が多すぎると溶接性及びHAZ靭性が劣化するため、0.30%以下に制限する。本発明の鋼では、Al、Ti、Mgによって脱酸が可能であるから、下限は0%でもよいが、0.01%以上のSiを含有させることができる。HAZ靭性を考慮するとSi量を0.15%以下にすることが望ましい。より好ましくはSi量を0.10%以下とする。
Mnは、焼入れ性を高めて鋼の強化に寄与する元素であり、X80級の高強度を得るためにMn量を1.00%以上とする。好ましくはMn量を1.05%以上、より好ましくは1.10%以上、更に好ましくは1.15%以上とする。しかし、Mn量の増加は鋳片の中心偏析を強めて耐HIC特性を著しく劣化させるため、その上限は1.80%である。好ましくはMn量を1.75%以下、より好ましくは1.70%以下、更に好ましくは1.45%以下とする。
Pは、不純物であり、鋳片の中心偏析を強めて耐HIC特性を著しく劣化させるため、P量を0.015%以下に制限する。Pは少ないほど耐HIC特性が向上するため、下限は特に規定しないが、製造コストの観点からP量は0.001%以上が好ましい。
Sは、耐HIC特性に有害な、圧延によって延伸するMnSを形成する元素であり、S量を0.0010%以下に制限する必要がある。好ましくはS量を0.0008%以下、より好ましくは0.0006%以下とする。Sを低減することは母材及びHAZの靭性の観点からも好ましいが、製造コストの観点からS量を0.0001%以上とする。
Tiは、鋳片やHAZのγ粒成長をピン止め効果によって抑制するTiN粒子を形成する元素である。鋳片を加熱する時に十分なγ粒成長抑制効果を発現させるために、Ti量の下限を0.005%とする。好ましくはTi量を0.007%以上する。しかし、Ti量が0.020%を超えるとTiN粒子が粗大になり、十分なピン止め効果が得られず、母材及びHAZの靭性が劣化するため、これが上限である。好ましくはTi量を0.018%以下、より好ましくは0.016%以下とする。
本発明では、耐HIC特性を確保するために、Nbを実質的に含有しないことが望ましい。Nb量が0.004%を超えると、鋳片を加熱する際に中心偏析部で溶け残ったNb炭窒化物が耐HIC特性を劣化させる。したがって、Nb量は0.004%に制限することが必要である。本発明はBDWTT特性を確保する観点から、鋳片を例えば1100℃以下のような低温加熱することが好ましく、この場合、Nb炭窒化物の溶け残りを防止するためにNb量を0.003%以下に低減することが好ましい。より好ましくはNb量を0.002%以下とする。NbはHAZ靭性にも有害であるから、Nbを実質的に含有しないことはHAZ靭性を高める効果がある。
Alは、本発明において適正範囲に制御されるべき重要な元素である。Alは、Mg及びOと結合して、TiNの析出核となる0.01〜0.1μmの超微細なMg−Al系酸化物を構成するから、Al量は0.001%以上が必要である。好ましくはAl量を0.002%以上、より好ましくは0.003%以上とする。しかし、Al量が0.020%を超えると、鋳片加熱時の固溶Alが増加して、本発明の特徴であるTiNオストワルド成長抑制効果が低下するため、これが上限である。好ましくはAl量を0.018%以下、より好ましくは0.016%以下とする。
Caは、圧延で延伸化し難いCaS又はCa(O、S)を形成し、硫化物の形態を制御して、耐HIC特性を確保するために添加される重要な元素である。圧延によって伸長してHICの発生起点となるMnSの生成を防止するために、Ca量を0.0005%以上とする。好ましくはCa量を0.0007%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。しかし、Ca量が0.0030%を超えると、Ca系介在物が増加して、HICや脆性破壊の発生起点となるので、これが上限である。好ましくはCa量を0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下とする。
Mgは、Al及びOと結合して0.01〜0.1μmの微細な酸化物を形成する重要な元素である。微細なMg系酸化物は、TiNの析出核として機能し、鋳片加熱時のγ粒成長を強力にピン止めする複合形態のTiNを微細に分散させる。また、Mgは、ミクロンサイズの粗大な酸化物を形成し、粗大酸化物上へのTiNの析出を抑制する。その結果として、Mgを含まない鋼に比べてよりも微細なTiNが地鉄に析出する傾向を強め、鋳片加熱時のγ粒成長を有効にピン止めする。このように、Mgは微細な酸化物と粗大な酸化物を形成し、直接的又は間接的にTiNの微細分散化を促し、鋳片加熱時のTiN粒子によるγ粒成長抑制力を格段に高める。加えて、このようなγ粒成長抑制効果はHAZ組織の微細化にも有効であり、HAZ靭性を高める効果がある。
Nは、鋳片やHAZのγ粒成長をピン止めするTiN粒子を構成する元素である。鋳片加熱時に十分なγ粒成長抑制効果を発現するために、N量の下限を0.0015%として最低限のTiN粒子個数を確保する必要がある。好ましくはN量を0.0020%以上、より好ましくは0.0025%以上とする。一方、N量が0.0050%を超えると母材及びHAZの靭性が劣化するため、これが上限である。好ましくはN量を0.0045%以下、より好ましくは0.0040%以下とする。
Oは、MgやAlなどの脱酸元素と結合して0.01〜0.1μmの微細酸化物や数μmの粗大酸化物を形成する元素である。直接的又は間接的にTiNの微細分散に寄与するMg系酸化物を生成させるために、0.0010%以上のO量が必要である。しかし、Oが0.0030%を超えると、鋼の清浄度が低下して母材及びHAZの靭性が劣化する。HICの発生起点となる酸化物系介在物を低減し、Caによる硫化物形態制御を行うためにも、O量の上限は0.0030%である。
本発明の耐サワー鋼板では、耐HIC特性を確保するために、Sを可能な限り低減した上でCaを添加し、HIC発生起点となる延伸MnSの生成を抑えて、SをCaS又はCa(O、S)として固定する。このとき、SとCaとOのバランスが、1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)を満たさない場合、延伸MnSが残存してHICが発生する。一方、〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0を満たさない場合、Ca系介在物が増加して、HICが発生する。したがって、下記式(1)を満たす必要がある。
耐HIC性を高めるために、〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)の下限を好ましくは1.5、より好ましくは2.0、上限を好ましくは7.5、より好ましくは7.0とする。
Cuは、溶接性及びHAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靱性を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は熱間圧延時にCuクラックを発生し製造が困難となる場合や、溶接性に好ましくない場合があるため、Cu量の上限は1.0%が好ましい。より好ましくはCu量を0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下とする。
Niは、溶接性及びHAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靱性を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は経済性を損ない、溶接性に好ましくない場合があるため、Ni量の上限は1.0%が好ましい。より好ましくはNi量を0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。
Crは、連続鋳造鋳片において中心偏析し難く、かつ母材の強度を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は母材及びHAZの靱性、溶接性を劣化させる場合があるため、Cr量の上限は1.0%が好ましい。より好ましくはCr量を0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。
Moは、母材の強度、靱性をともに向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は母材及びHAZの靱性、溶接性の劣化を招く場合があるため、Mo量の上限は0.5%が好ましい。より好ましくはMo量を0.3%以下とする。
Wは、母材の強度、靱性をともに向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、ただし、過剰な添加は経済性を損ない、母材及びHAZの靱性、溶接性の劣化を招く場合があるため、W量の上限は0.5%が好ましい。より好ましくはW量を0.3%以下とする。
Coは、溶接性及びHAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靱性を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は経済性を損ない、溶接性に好ましくない場合があるため、Co量の上限は0.5%が好ましい。より好ましくはCo量を0.3%以下とする。
Vは、析出硬化による高強度化とミクロ組織の微細化による低温靱性の向上を可能にするため、0.01%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加はHAZ靱性や溶接性の劣化を招く場合があるため、V量の上限は0.10%が好ましい。より好ましくはV量を0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下とする。
Bは、焼き入れ性を高めて母材やHAZの強度、靭性を向上させるため、0.0003%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加によってHAZ靭性や溶接性が劣化する場合があるため、B量の上限は0.0030%が好ましい。より好ましくはB量を0.0020%以下、更に好ましくは0.0015%以下とする。
REMとは、La、CeやNdなどの希土類元素を意味する。REMは、Caと同様にMnに優先してSと結合し、硫化物や酸硫化物を形成して延伸MnSの生成を抑制し、耐HIC特性を高めるため、0.0001%以上を含有させてもよい。しかし、REMが0.004%を超えて添加されると、REM系介在物が増加して、HICや脆性破壊の発生起点となる場合があるので、REMの含有量の上限は0.004%が好ましい。
Zrは、CaやREMと同様にMnに優先してSと結合し、硫化物や酸硫化物を形成して延伸MnSの生成を抑制し、耐HIC特性を高めるため、0.0001%以上を含有させてもよい。しかし、Zrが0.005%を超えて添加されると、Zr系介在物が増加して、HICや脆性破壊の発生起点となる場合があるので、Zr量の上限は0.005%が好ましい。
上述した化学成分から構成される厚み280mm以上の連続鋳造鋳片を、400℃以下に冷却した後、900℃以上1050℃以下に加熱し、熱間圧延を施すことが好ましい。
鋳片を400℃以下に冷却せずにホットチャージで加熱炉に挿入すると、鋳造時に生成した粗大γ組織が加熱後に残存し、組織が十分に微細化せず低温靱性が劣化する場合がある。
Ar3(℃)=868−396×C+24.6×Si−68.1×Mn
−36.1×Ni−20.7×Cu−24.8×Cr
+29.1×Mo
上式におけるC、Si、Mn,Ni,Cu,Cr,Moは質量%で表した含有量を意味する。
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により表1と表2に示す化学成分を有する厚さ300mmの鋳片を製造した。
Claims (5)
- 質量%で、
C :0.020%以上、0.100%以下、
Mn:1.00%以上、1.80%以下、
S :0.0001%以上、0.0010%以下、
Al:0.001%以上、0.020%以下、
Ti:0.005%以上、0.020%以下、
Ca:0.0005%以上、0.0030%以下、
Mg:0.0003%以上、0.0030%以下、
N :0.0015%以上、0.0050%以下、
O :0.0010%以上、0.0030%以下
を含有し、
Si:0.30%以下、
P :0.015%以下、
Nb:0.004%以下
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ca、O、Sの含有量が下記(1)式を満足し、板厚方向で表面から板厚の1/4の位置におけるベイナイトの面積率が80%以上であり、有効結晶粒径における円相当直の平均値が25μm以下であり、有効結晶粒におけるアスペクト比の平均値が4以上であることを特徴とする耐サワー鋼板。
1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (1) - 更に、質量%で、
Cu:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:0.5%以下、
W :0.5%以下、
Co:0.5%以下、
V :0.10%以下、
B :0.0030%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐サワー鋼板。 - 更に、質量%で、
REM:0.004%以下、
Zr:0.005%以下
の一方又は両方を含有し、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐サワー鋼板。
1.0≦〔(Ca+3.5×REM+2.3×Zr)×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (2) - 板厚が、31mm以上50mm以下、
降伏応力が、555MPa以上、705MPa以下
引張強さが、625MPa以上、825MPa以下であり、
延性破面率が85%以上であるBDWTT破面の有効面積において、セパレーション長さの総和(mm)を有効面積(mm2)で除した値として評価されるセパレーション指数の最大値が0.02mm-1以上
であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐サワー鋼板。 - 母材及び溶接部からなる鋼管であって、母材が請求項1〜4の何れか1項に記載の耐サワー鋼板からなることを特徴とする耐サワー鋼管。
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