JP2017172010A - 耐サワー鋼板及び耐サワー鋼管 - Google Patents

耐サワー鋼板及び耐サワー鋼管 Download PDF

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Abstract

【課題】−20℃以下の低温における鋼板の母材BDWTT特性とHAZのシャルピー衝撃特性を同時に確保するAPI 5L X80級の耐サワー鋼板及び鋼管を提供する。【解決手段】Al、Ti、Mgを含有し、質量%で、S:0.0001〜0.0010%、Ca:0.0005〜0.0030%、O:0.0010〜0.0030%を含有し、Nb:0.004%以下に制限し、必要に応じて、REM:0.004%以下、Zr:0.005%以下の一方又は両方を含有し、下記式(2)を満足し、板厚1/4位置におけるベイナイトの面積率が80%以上、有効結晶粒の円相当直径の平均値が25μm以下かつアスペクト比の平均値が4以上である耐サワー鋼板。1.0≦〔(Ca+3.5×REM+2.3×Zr)×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・(2)。ただし、REM、Zrを含有しない場合は0として計算する。【選択図】なし

Description

本発明は、硫化水素を含む天然ガス、石油等を輸送する耐サワー鋼管や、耐サワー鋼管などの素材に好適な、サワー環境で使用される耐サワー鋼板に関するものである。
近年、原油・天然ガス井戸への海水の注入や、品質が劣る資源の開発に伴って、硫化水素が存在するサワー環境に鋼材が曝される機会が増えている。サワー環境で鋼材を使用する際には、水素誘起割れ(Hydrogen Induced Cracking:HIC)の発生が問題になる場合がある。また、ラインパイプに使用される耐サワー鋼板には、優れた耐水素誘起割れ特性(耐HIC特性)だけでなく、輸送効率の向上などの観点から高強度化と、厚手化とが同時に要求される場合がある。更には、エネルギー資源開発の寒冷地化が進んでおり、耐サワー鋼板には低温靭性も要求されるようになっている。
優れた耐HIC特性を有する鋼板を得るためには、S、Oなどの不純物の制限による鋼の高純度化や高清浄度化、Ca添加による硫化物系介在物の形態制御が有効である。また、加速冷却による中心偏析部のミクロ組織の改善、特に硬化組織の生成の抑制によって、耐HIC特性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、参照)。更に、連続鋳造時の軽圧下による中心偏析の低減や、熱間圧延前の鋼片の水素量の制限により、中心偏析部の未圧着部の残存を防止し、耐HIC特性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2、参照)。
ところで、高強度化を達成するためにNbを添加した鋼では、鋳片の加熱時に固溶せずに溶け残った粗大なNb析出物(Nb炭窒化物)が鋼板中でクラスターを形成し、これらが起点となって耐HIC特性を劣化させる場合がある。この傾向は、強度が高くなるほど顕著であり、例えばAPI 5L X80級のような高強度材では、耐HIC特性の安定性に及ぼす粗大Nb析出物の悪影響は無視できない。これに対して、Nb析出物を鋳片加熱時の限定された時間内で完全に固溶させるために、かなりの高温に鋳片を加熱すると、オーステナイト(γ)粒の粗大化やエネルギーコストの増大を招く。このような問題に対して、Nb量を制限した厚鋼板が提案されている(例えば、特許文献3、参照)。ただし、特許文献3の鋼板の強度は、API 5L X65級やX70級であり、X80級のような高強度材ではない。
一方、本発明者らの一部は、Nbを添加しない鋼に加速冷却を適用することにより、API 5L X65級の耐サワー鋼板を製造する方法を提案している(例えば、特許文献4、参照)。これは、−45℃以下の低温の環境で使用される耐サワー鋼板の製造技術を提案するものである。特許文献4は、(1)Nb量の制限による耐HIC特性の向上、(2)加熱温度の低温化によるγ粒の粗大化抑制、(3)1パス当りの圧下率を高めた低温域での圧延によるγ組織の微細化、(4)圧延後の加速冷却による耐HIC特性の確保と変態強化、を実現する製造技術である。
また、本発明者らの一部は、BDWTT破面に発生するセパレーションの発生量を増加させることで、耐サワー鋼板のBDWTT特性を向上させる方法を提案している(例えば、特許文献5、参照)。これは、制御圧延において、各パス圧下率と累積圧下率が大きい圧延を行い、γの集合組織を発達させることで変態後のベイナイトの集合組織を発達させ、セパレーションを発生させる技術である。具体的には、Ar3以上からAr3+100℃以下の温度範囲において、パス回数の60%以上は1パス圧下率が15%以上で、かつ、累積積圧下率が80%以上である圧延を行い、その後に加速冷却を適用することで、集合組織の発達したベイナイトが得られ、セパレーション発生量の多い鋼板を製造する技術である。この技術では、γ集合組織を発達させる上で、Nbが極めて重要な役割を担っており、0.01%以上のNbを添加する必要がある。この技術は、特許文献5の実施例では、API 5L X60以上X70以下の強度と30mm以下の板厚を有する鋼板に適用されている。
また、本発明者らの一部は、Ti添加鋼にMgを含有させることによって、鋳片加熱時のγ粒の成長を顕著に抑制する技術を提案している(例えば、特許文献6、参照)。この技術では、鋳片の加熱温度は1150〜1300℃という高温であるが、平均γ粒径は100μm以下である。しかし、鋳片加熱時のγ粒径を更に微細化するには、加熱温度の低温化と併せて新しいγ粒成長抑制技術の適用が必要になる。
特開2000−199029号公報 特開2010−209460号公報 特開2011−1607号公報 特開平7−316652号公報 特開平8−85841号公報 特開2001−254139号公報
特許文献4では、耐HIC特性の安定化を図るため、Nbを添加せず、鋳片を低温加熱し、圧延終了温度をAr3(冷却時の変態開始温度)よりも20〜30℃程度高めて、Ar3以上から加速冷却を開始する耐サワー鋼板の製造技術が提案されている。しかし、耐HIC特性を向上させる対策のうち、Nb無添加及び圧延終了温度の高温化は、熱加工制御プロセス(Thermo-Mechanical Control Process、TMCP)の効果を減じて、鋼板の金属組織の粗大化を招く。特に、鋼板の板厚が30mmを超える場合、鋼板の金属組織の微細化が不十分となり、加えてAPI 5L X80級のような高強度材の場合は、−20℃のような低温環境でBDWTT(Battelle Drop Weight Tear Test)特性を安定的に達成することは困難であった。ここで、BDWTT特性は、ラインパイプの低温靱性として重要な脆性亀裂伝播停止特性である。
更に、本発明の対象である低温靭性の優れた厚手耐サワー鋼板は、鋼板の母材のBDWTT特性に加えて、溶接熱影響部のシャルピー衝撃特性を具備する必要がある。本発明は、このような実情に鑑み、硫化水素を含む天然ガス、石油等のエネルギー資源を輸送するラインパイプに用いられる、板厚が31mm以上50mm以下のAPI 5L X80級の耐HIC特性に優れた耐サワー鋼板において、−20℃以下の低温における鋼板の母材のBDWTT特性と溶接熱影響部(HAZ)のシャルピー衝撃特性を同時に確保することを課題とするものである。
本発明者らは、TMCPの初期段階である鋳片加熱時において、新しいγ粒成長抑制技術を適用し、加熱時のγ粒径を従来に比べて著しく微細化することを検討した。そして、本発明者らは、耐HIC特性の観点からCa添加かつ極低Sとし、Nbを添加しない場合、Ti−Mg添加によるピンニング効果を更に高めるには、Al添加量を0.02%以下に制限する必要があることを見出した。特に、900〜1050℃の極低温加熱条件では、微細なMg含有酸化物を核として複合析出するTiNと、地鉄中に単独析出するTiNにより、極めて強力なγ粒成長抑制効果が発現することがわかった。更に、BDWTT特性を向上させるためには、結晶粒の微細化だけでなく、圧延方向に延伸させ、セパレーションの発生を促進させることが有効であるという知見を得た。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、以下の通りである。
本発明の一態様に係る耐サワー鋼板は、
(1)質量%で、C:0.020%以上、0.100%以下、Mn:1.00%以上、1.80%以下、S:0.0001%以上、0.0010%以下、Al:0.001%以上、0.020%以下、Ti:0.005%以上、0.020%以下、Ca:0.0005%以上、0.0030%以下、Mg:0.0003%以上、0.0030%以下、N:0.0015%以上、0.0050%以下、O:0.0010%以上、0.0030%以下、を含有し、Si:0.30%以下、P:0.015%以下、Nb:0.004%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物から構成され、下記式(1)を満足し、板厚方向で表面から板厚の1/4の位置におけるベイナイトの面積率が80%以上であり、有効結晶粒における円相当直径の平均値が25μm以下であり、前記有効結晶粒におけるアスペクト比の平均値が4以上である耐サワー鋼板である。
1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (1)
(2)また、上記(1)に記載の耐サワー鋼板において、更に、質量%で、Cu:1.0%以下、 Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下、 Co:0.5%以下、V:0.10%以下、B:0.0030%以下、に制限してもよい。
(3)また、上記(2)に記載の耐サワー鋼板において、更に、質量%で、REM:0.004%以下、Zr:0.005%以下、に制限し、上記式(1)に替えて下記式(2)を満足してもよい。
1.0≦〔(Ca+3.5×REM+2.3×Zr)×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (2)
(4)更に、上記(1)〜(3)の何れかに記載の耐サワー鋼板において、板厚が31mm以上50m以下、降伏応力が555MPa以上、705MPa以下、引張強さが625MPa以上、825MPa以下であり、延性破面率が85%以上であるBDWTT破面の有効面積において、セパレーション長さの総和(mm)を有効面積(mm2)で除した値として評価されるセパレーション指数の最大値が0.02mm-1以上、であってもよい。
また、本発明の一態様に係る耐サワー鋼管は、
(5)母材及び溶接部からなる鋼管であって、母材が上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の耐サワー鋼板からなる耐サワー鋼管である。
本発明によれば、米国石油協会(API)規格X80級の強度を有し、かつ、−20℃以下の低温において優れたBDWTT特性を有する、板厚が31mm以上50mm以下の、耐HIC特性に優れた耐サワー鋼板の提供が可能になる。そして、本発明によれば、低温のサワー環境における原油・天然ガスの生産、輸送に使用されるラインパイプを合理的に設計することが可能になる。したがって、本発明は産業上の貢献が極めて顕著である。
本発明は、(a)Ti−Mg添加、(b)耐サワー成分(Ca添加、極低S化、Nb無添加)、(c)Alの低減、(d)圧延方向に延伸化した微細なベイナイト主体組織、という特徴を有し、従来に比べて更に顕著なγ粒成長抑制効果が発現されるという知見に基づくものである。本発明では、γ中に存在する固溶Sと固溶Alとを低減することで、900〜1050℃に加熱したとき、即ち、特に、(e)極低温加熱、によって、TiNのオストワルド成長が抑制され、TiNの微細分散状態が維持される結果、極めて強力なγ粒成長抑制効果が発現される。
これは、TiNとγの界面(非整合界面)に偏析する固溶Cが、固溶S及び固溶Alを低減することで増加し、TiNのオストワルド成長を抑制するためと考えられる。γの界面に偏析する固溶Cは、低温になるほど増加することから、このTiNのオストワルド成長を抑制する効果(TiNオストワルド成長抑制効果)は加熱温度が低いほど顕著に現れる。したがって、上記(a)〜(e)により、本発明の耐サワー鋼板には、ピンニング粒子である超微細なMg含有酸化物を核とした複合析出TiNと地鉄中に単独析出したTiNが微細に多数存在する。本発明の耐サワー鋼板は、30mmを超える板厚であっても、鋼板の金属組織が微細化され、−20℃以下の低温でBDWTT特性を安定的に達成することが可能である。
このとき、板厚方向で表面から板厚の1/4の位置(以下、板厚1/4位置ということがある。)におけるベイナイトの面積率が80%以上であり、有効結晶粒における円相当直径の平均値は25μm以下である。更に、有効結晶粒におけるアスペクト比の平均値が4以上であり、延性破面率が85%以上であるBDWTT破面におけるセパレーション指数の最大値が0.02mm-1以上である。
ここで、有効結晶粒径とは、例えば、結晶方向の角度差が3度以内の領域の寸法であり、電子線後方散乱回折法(EBSD)によって測定することができる。金属組織がフェライトの場合は、結晶粒径が有効結晶粒径と同等である。一方、ベイナイトやマルテンサイトのような針状結晶である場合、有効結晶粒径は針状結晶の束の中で結晶の方向がほぼ揃った領域の寸法である。また、有効結晶粒のアスペクト比とは、有効結晶粒が圧延方向に延伸した程度を表しており、圧延方向の最大径を板厚方向の最大径で除した値である。
更に、セパレーション指数(mm-1)とは、BDWTT破面の有効面積において、セパレーション長さの総和(mm)を有効面積(mm2)で除した値である。BDWTT特性を向上させるために、有効結晶粒の微細化に加えて、セパレーションの発生が有効であることは従来から知られているが、本発明では、Nbを添加せず、API 5L X80級の高強度と、30mmを超える板厚で、有効結晶粒の微細化とセパレーション発生量の増加を両立する点に特徴がある。
以下、本発明の一実施形態に係る耐サワー鋼板について説明する。
(C:0.020%以上、0.100%以下)
Cは、鋼の強度を高める元素であり、X80級の高強度を得るためにC量を0.020%以上とする。好ましくはC量を0.030%以上、より好ましくは0.035%以上、更に好ましくは0.040%以上とする。しかし、C量の増加は鋳片の中心偏析におけるMnやPの偏析を強めて耐HIC特性を著しく劣化させるため、その上限は0.100%である。好ましくはC量を0.095%以下、より好ましくは0.090%以下とする。
(Si:0.30%以下)
Siは、脱酸のために鋼に含有される場合があるが、Si量が多すぎると溶接性及びHAZ靭性が劣化するため、0.30%以下に制限する。本発明の鋼では、Al、Ti、Mgによって脱酸が可能であるから、下限は0%でもよいが、0.01%以上のSiを含有させることができる。HAZ靭性を考慮するとSi量を0.15%以下にすることが望ましい。より好ましくはSi量を0.10%以下とする。
(Mn:1.00%以上、1.80%以下)
Mnは、焼入れ性を高めて鋼の強化に寄与する元素であり、X80級の高強度を得るためにMn量を1.00%以上とする。好ましくはMn量を1.05%以上、より好ましくは1.10%以上、更に好ましくは1.15%以上とする。しかし、Mn量の増加は鋳片の中心偏析を強めて耐HIC特性を著しく劣化させるため、その上限は1.80%である。好ましくはMn量を1.75%以下、より好ましくは1.70%以下、更に好ましくは1.45%以下とする。
(P:0.015%以下)
Pは、不純物であり、鋳片の中心偏析を強めて耐HIC特性を著しく劣化させるため、P量を0.015%以下に制限する。Pは少ないほど耐HIC特性が向上するため、下限は特に規定しないが、製造コストの観点からP量は0.001%以上が好ましい。
(S:0.0001%以上、0.0010%以下)
Sは、耐HIC特性に有害な、圧延によって延伸するMnSを形成する元素であり、S量を0.0010%以下に制限する必要がある。好ましくはS量を0.0008%以下、より好ましくは0.0006%以下とする。Sを低減することは母材及びHAZの靭性の観点からも好ましいが、製造コストの観点からS量を0.0001%以上とする。
(Ti:0.005%以上、0.020%以下)
Tiは、鋳片やHAZのγ粒成長をピン止め効果によって抑制するTiN粒子を形成する元素である。鋳片を加熱する時に十分なγ粒成長抑制効果を発現させるために、Ti量の下限を0.005%とする。好ましくはTi量を0.007%以上する。しかし、Ti量が0.020%を超えるとTiN粒子が粗大になり、十分なピン止め効果が得られず、母材及びHAZの靭性が劣化するため、これが上限である。好ましくはTi量を0.018%以下、より好ましくは0.016%以下とする。
(Nb:0.004%以下)
本発明では、耐HIC特性を確保するために、Nbを実質的に含有しないことが望ましい。Nb量が0.004%を超えると、鋳片を加熱する際に中心偏析部で溶け残ったNb炭窒化物が耐HIC特性を劣化させる。したがって、Nb量は0.004%に制限することが必要である。本発明はBDWTT特性を確保する観点から、鋳片を例えば1100℃以下のような低温加熱することが好ましく、この場合、Nb炭窒化物の溶け残りを防止するためにNb量を0.003%以下に低減することが好ましい。より好ましくはNb量を0.002%以下とする。NbはHAZ靭性にも有害であるから、Nbを実質的に含有しないことはHAZ靭性を高める効果がある。
(Al:0.001%以上、0.020%以下)
Alは、本発明において適正範囲に制御されるべき重要な元素である。Alは、Mg及びOと結合して、TiNの析出核となる0.01〜0.1μmの超微細なMg−Al系酸化物を構成するから、Al量は0.001%以上が必要である。好ましくはAl量を0.002%以上、より好ましくは0.003%以上とする。しかし、Al量が0.020%を超えると、鋳片加熱時の固溶Alが増加して、本発明の特徴であるTiNオストワルド成長抑制効果が低下するため、これが上限である。好ましくはAl量を0.018%以下、より好ましくは0.016%以下とする。
(Ca:0.0005%以上、0.0030%以下)
Caは、圧延で延伸化し難いCaS又はCa(O、S)を形成し、硫化物の形態を制御して、耐HIC特性を確保するために添加される重要な元素である。圧延によって伸長してHICの発生起点となるMnSの生成を防止するために、Ca量を0.0005%以上とする。好ましくはCa量を0.0007%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。しかし、Ca量が0.0030%を超えると、Ca系介在物が増加して、HICや脆性破壊の発生起点となるので、これが上限である。好ましくはCa量を0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下とする。
(Mg:0.0003%以上、0.0030%以下)
Mgは、Al及びOと結合して0.01〜0.1μmの微細な酸化物を形成する重要な元素である。微細なMg系酸化物は、TiNの析出核として機能し、鋳片加熱時のγ粒成長を強力にピン止めする複合形態のTiNを微細に分散させる。また、Mgは、ミクロンサイズの粗大な酸化物を形成し、粗大酸化物上へのTiNの析出を抑制する。その結果として、Mgを含まない鋼に比べてよりも微細なTiNが地鉄に析出する傾向を強め、鋳片加熱時のγ粒成長を有効にピン止めする。このように、Mgは微細な酸化物と粗大な酸化物を形成し、直接的又は間接的にTiNの微細分散化を促し、鋳片加熱時のTiN粒子によるγ粒成長抑制力を格段に高める。加えて、このようなγ粒成長抑制効果はHAZ組織の微細化にも有効であり、HAZ靭性を高める効果がある。
このような効果を発揮するためには0.0003%以上のMg量が必要であり、これが下限である。好ましくはMg量を0.0005%以上とし、より好ましくは0.0008%以上、更に好ましくは0.0010%以上とする。一方、0.0030%を超えてMg量を含有させてもTiNの微細分散効果は飽和するので、これ以上のMgは金属学的に何ら効果をもたらさない。Mgは蒸気圧が高くて酸化力が強い非常に活性な元素であることから、必要以上に鋼中に含有させることは製造コストの上昇を招き好ましくない。したがって、Mg量の上限は0.0030%である。好ましくはMg量を0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下とする。
(N:0.0015%以上、0.0050%以下)
Nは、鋳片やHAZのγ粒成長をピン止めするTiN粒子を構成する元素である。鋳片加熱時に十分なγ粒成長抑制効果を発現するために、N量の下限を0.0015%として最低限のTiN粒子個数を確保する必要がある。好ましくはN量を0.0020%以上、より好ましくは0.0025%以上とする。一方、N量が0.0050%を超えると母材及びHAZの靭性が劣化するため、これが上限である。好ましくはN量を0.0045%以下、より好ましくは0.0040%以下とする。
(O:0.0010%以上、0.0030%以下)
Oは、MgやAlなどの脱酸元素と結合して0.01〜0.1μmの微細酸化物や数μmの粗大酸化物を形成する元素である。直接的又は間接的にTiNの微細分散に寄与するMg系酸化物を生成させるために、0.0010%以上のO量が必要である。しかし、Oが0.0030%を超えると、鋼の清浄度が低下して母材及びHAZの靭性が劣化する。HICの発生起点となる酸化物系介在物を低減し、Caによる硫化物形態制御を行うためにも、O量の上限は0.0030%である。
(1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0)
本発明の耐サワー鋼板では、耐HIC特性を確保するために、Sを可能な限り低減した上でCaを添加し、HIC発生起点となる延伸MnSの生成を抑えて、SをCaS又はCa(O、S)として固定する。このとき、SとCaとOのバランスが、1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)を満たさない場合、延伸MnSが残存してHICが発生する。一方、〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0を満たさない場合、Ca系介在物が増加して、HICが発生する。したがって、下記式(1)を満たす必要がある。
1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (1)
耐HIC性を高めるために、〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)の下限を好ましくは1.5、より好ましくは2.0、上限を好ましくは7.5、より好ましくは7.0とする。
必要に応じて、Cu、Ni、Cr、Mo、W、Co、V、B、REM、Zrの1種又は2種以上を含有させてもよい。
(Cu:1.0%以下)
Cuは、溶接性及びHAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靱性を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は熱間圧延時にCuクラックを発生し製造が困難となる場合や、溶接性に好ましくない場合があるため、Cu量の上限は1.0%が好ましい。より好ましくはCu量を0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下とする。
(Ni:1.0%以下)
Niは、溶接性及びHAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靱性を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は経済性を損ない、溶接性に好ましくない場合があるため、Ni量の上限は1.0%が好ましい。より好ましくはNi量を0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。
(Cr:1.0%以下)
Crは、連続鋳造鋳片において中心偏析し難く、かつ母材の強度を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は母材及びHAZの靱性、溶接性を劣化させる場合があるため、Cr量の上限は1.0%が好ましい。より好ましくはCr量を0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。
(Mo:0.5%以下)
Moは、母材の強度、靱性をともに向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は母材及びHAZの靱性、溶接性の劣化を招く場合があるため、Mo量の上限は0.5%が好ましい。より好ましくはMo量を0.3%以下とする。
(W:0.5%以下)
Wは、母材の強度、靱性をともに向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、ただし、過剰な添加は経済性を損ない、母材及びHAZの靱性、溶接性の劣化を招く場合があるため、W量の上限は0.5%が好ましい。より好ましくはW量を0.3%以下とする。
(Co:0.5%以下)
Coは、溶接性及びHAZ靱性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靱性を向上させるため、0.1%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加は経済性を損ない、溶接性に好ましくない場合があるため、Co量の上限は0.5%が好ましい。より好ましくはCo量を0.3%以下とする。
(V:0.10%以下)
Vは、析出硬化による高強度化とミクロ組織の微細化による低温靱性の向上を可能にするため、0.01%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加はHAZ靱性や溶接性の劣化を招く場合があるため、V量の上限は0.10%が好ましい。より好ましくはV量を0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下とする。
(B:0.0030%以下)
Bは、焼き入れ性を高めて母材やHAZの強度、靭性を向上させるため、0.0003%以上を含有させてもよい。ただし、過剰な添加によってHAZ靭性や溶接性が劣化する場合があるため、B量の上限は0.0030%が好ましい。より好ましくはB量を0.0020%以下、更に好ましくは0.0015%以下とする。
(REM:0.004%以下)
REMとは、La、CeやNdなどの希土類元素を意味する。REMは、Caと同様にMnに優先してSと結合し、硫化物や酸硫化物を形成して延伸MnSの生成を抑制し、耐HIC特性を高めるため、0.0001%以上を含有させてもよい。しかし、REMが0.004%を超えて添加されると、REM系介在物が増加して、HICや脆性破壊の発生起点となる場合があるので、REMの含有量の上限は0.004%が好ましい。
(Zr:0.005%以下)
Zrは、CaやREMと同様にMnに優先してSと結合し、硫化物や酸硫化物を形成して延伸MnSの生成を抑制し、耐HIC特性を高めるため、0.0001%以上を含有させてもよい。しかし、Zrが0.005%を超えて添加されると、Zr系介在物が増加して、HICや脆性破壊の発生起点となる場合があるので、Zr量の上限は0.005%が好ましい。
REM、Zrを含有する場合、REMはCaの3.5倍、ZrはCaの2.3倍の効果を奏するとして扱うことで、SとOのバランスを適正化することができる。したがって、上記式に代えて、下記式(2)を満足するように、REM、Zrの含有量を調整することが望ましい。なお、REM、Zrの一方を含有しない場合は、これらを0として計算すればよい。耐HIC性を高めるために、下記式(2)の下限を好ましくは1.5、より好ましくは2.0、上限を好ましくは7.5、より好ましくは7.0とする。
1.0≦〔(Ca+3.5×REM+2.3×Zr)×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (2)
本発明の耐サワー鋼板の金属組織は、板厚1/4位置におけるベイナイトの面積率が80%以上であることが必要である。ベイナイトは、ラス状、板状、塊状フェライト間に炭化物(残留オーステナイト、M−Aのうち1種または2種以上)を含むもの、又はラス状フェライト内、板状フェライト内に炭化物(残留オーステナイト、M−Aのうち1種または2種以上)を含む組織と定義される。ここで、M−Aはマルテンサイトとオーステナイトの混成物である。マルテンサイトは、ラス状フェライト間、板状フェライト間、又はラス状フェライト内、板状フェライト内に炭化物が析出していない組織である。残留オーステナイトは、高温で生成したオーステナイトが変態せず、残留したオーステナイトである。 すなわち、本発明では、ベイナイトは、いわゆる上部ベイナイト、下部ベイナイトやこれらの混合組織だけでなく、転位密度が高いフェライトで、場合によってはその内部にセメンタイトを含むようなミクロ組織もベイナイトとして扱う。例えば、慣例的にベイニティックフェライトやアシキュラーフェライトと呼称されるミクロ組織もベイナイトに含む。本発明においては、転位密度が低いフェライトと、パーライトとを差し引いた残りのミクロ組織をベイナイトと扱い、その面積率が80%以上である。
ベイナイト面積率が80%未満であると、API 5L X80級の強度と耐HIC特性を同時に達成することができない。また、ベイナイトの残部は、フェライト、パーライトの1種又は2種からなり、マルテンサイトはほとんど生成せず、その面積率は無視できる。このような混合組織である場合、光学顕微鏡によって観察される結晶粒よりも、有効結晶粒の方が靱性との相関が強く、靭性を向上させるために有効結晶粒を微細化することが望ましい。
更に、本発明の耐サワー鋼板は、板厚1/4位置における有効結晶粒のアスペクト比の平均値が4以上であることが必要である。有効結晶粒のアスペクト比の平均値は、セパレーションの発生量と相関のある集合組織の発達の指標である。したがって、有効結晶粒のアスペクト比の平均値が4未満で集合組織の発達が不十分であると、−20℃以下の低温でBDWTT特性を安定的に達成することができない。具体的には、本発明の対象であるAPI 5L X80級の強度と31mm以上50mm以下の板厚を有する鋼板の場合は、延性破面率が85%以上であるBDWTT破面におけるセパレーション指数の最大値が0.02mm-1未満となってしまう。
また、本発明の耐サワー鋼板は、耐サワー鋼管の素材として好適である。本発明の耐サワー鋼管は、母材及び溶接部からなる鋼管であって、母材が本発明に係る耐サワー鋼板からなる耐サワー鋼管である。本発明の耐サワー鋼管は、UOEプロセスやロールベンド法によって本発明に係る鋼板を素材として造管してなる溶接鋼管である。
次に、本実施形態に係る耐サワー鋼板の製造方法を説明する。
上述した化学成分から構成される厚み280mm以上の連続鋳造鋳片を、400℃以下に冷却した後、900℃以上1050℃以下に加熱し、熱間圧延を施すことが好ましい。
鋳片を400℃以下に冷却せずにホットチャージで加熱炉に挿入すると、鋳造時に生成した粗大γ組織が加熱後に残存し、組織が十分に微細化せず低温靱性が劣化する場合がある。
鋼片の加熱温度は、圧延終了温度をAr3 以上にするため、900℃以上が好ましい。一方、加熱温度が高いと、加熱γ粒が粗大化し、組織が十分に微細化せず低温靱性が劣化する場合があるため、1050℃以下が好ましい。より好ましくは、加熱温度を1000℃以下とする。
その後の熱間圧延では、γ低温域のうち、限られた温度範囲において、累積圧下率の大きな圧延を行うことによって、ミクロ組織が十分に微細化し、集合組織が十分に発達し、セパレーション発生量が増加し、高強度であっても非常に良好な低温靱性が得られる。そのため、熱間圧延では、Ar3以上からAr3+50℃の温度範囲において、累積圧下率が80%以上であることが好ましく、パス回数の80%以上は、1パスあたりの圧下率が15%以上であることが好ましい。Ar3以上からAr3+50℃の温度範囲での累積圧下率が80%未満であったり、1パス当りの圧下率が15%以上となるパス回数の割合が80%未満であったりすると、変態後のミクロ組織が微細化せず、集合組織が発達せず、セパレーション発生量が減少し、良好な低温靱性が得られない場合がある。
板厚が31mm以上50mm以下になるように熱間圧延を行い、Ar3以上で圧延を終了することが好ましい。熱間圧延の終了温度がAr3未満であると、フェライト変態に伴って中心偏析部へCが濃化し、硬化組織が形成されて耐HIC特性が劣化する場合がある。また、加速冷却をAr3以上の温度から開始するためにも、熱間圧延をAr3以上で終了することが好ましい。
熱間圧延後は、Ar3以上から加速冷却を行うことが好ましい。加速冷却は中心偏析部のミクロ組織を改善して耐HIC特性を向上させるとともに、変態強化による高強度化と結晶粒微細化による高靭性化を可能にする。加速冷却の冷却速度は3℃/秒以上50℃/秒以下が好ましく、550℃以下300℃以上の範囲内で加速冷却を終了し、その後空冷することが好ましい。
冷却開始温度がAr3未満であったり、冷却速度が3℃/秒未満であったり、冷却停止温度が550℃を超えたりすると、フェライト変態に伴う中心偏析部へのCの濃化によって硬化組織が形成されて耐HIC特性が劣化するとともに、変態強化が不十分となって強度が不足する場合がある。一方、冷却速度が50℃/秒を超えたり水冷停止温度が300℃未満であったりすると、低温変態生成物が大量に生成して耐HIC特性及び低温靱性が劣化する場合がある。
ここで、Ar3は下記で計算される冷却時の変態開始温度であり、鋼の化学成分を用いて計算される。
Ar3(℃)=868−396×C+24.6×Si−68.1×Mn
−36.1×Ni−20.7×Cu−24.8×Cr
+29.1×Mo
上式におけるC、Si、Mn,Ni,Cu,Cr,Moは質量%で表した含有量を意味する。
なお、本発明による鋼板をAc1(加熱時の変態開始温度)以下の温度に焼戻し処理することは何ら本発明鋼の特性を損なうものではない。本発明による鋼板は耐サワーラインパイプのほか、耐サワー圧力容器用や耐サワー構造鋼管用など、耐HIC特性が必要な用途に広く適用できる。
以下に本発明の実施例を示すが、以下に示す実施例は本発明の一例であり、本発明は以下に説明する実施例に制限されるものではない。
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により表1と表2に示す化学成分を有する厚さ300mmの鋳片を製造した。
Figure 2017172010
Figure 2017172010
得られた鋳片を、室温まで冷却した後、980〜1030℃に加熱し、熱間圧延を行った。このとき、Ar3以上からAr3+50℃の温度範囲において、累積圧下率を80〜90%、パス回数の80%以上は1パスあたりの圧下率を15%以上とした。また、圧延終了温度をAr3以上からAr3+20℃以下とし、熱間圧延に引き続き、Ar3以上からAr3+20℃の範囲内から5〜35℃/秒の加速冷却を適用し、350〜450℃の範囲内で加速冷却を停止し、その後、空冷した。ただし、表2の符号B22は、上記の製造条件のうち、Ar3以上からAr3+50℃の温度範囲における累積圧下率を70%とした。また、表2の符号B23は、上記の製造条件のうち、加速冷却の停止温度を560℃とした。
得られた鋼板から圧延方向に垂直な幅方向を長手方向として、API5L規格に準拠した全厚試験片を採取し、API規格の2000に準拠して、室温で引張試験を行った。また、BDWTT試験片を採取し、片側表面を切削して3/4インチに減厚して落重引裂試験を行った。低温靭性は延性破面率遷移温度(BDWTT85%SATT[℃])で評価した。このとき、延性破面率が85%以上であるBDWTT破面の有効面積において、セパレーション長さの総和(mm)を有効面積(mm2)で除した値をセパレーション指数(mm-1)と定義した。
板厚1/4位置におけるベイナイトの面積率および有効結晶粒の粒径とアスペクト比は、その部分のミクロ試験片の断面において、0.02mm2以上の面積にわたってEBSDを用いて測定した。光学顕微鏡によるミク組織観察では、ベイナイトとフェライトの識別が難しい場合がある。そこで、EBSDにおけるKernel Average Misorientation(KAM)法によってフェライトの面積率を測定した。
KAM法とは、測定データの中の、ある正六角形のピクセルの隣り合う6個(第一近似)、さらに、その外側の12個(第二近似)、また、さらに、その外側の18個(第三近似)のピクセル間の方位差を平均し、その値を、その中心のピクセルの値とする計算を各ピクセルに行う方法である。本発明では、隣接するピクセル間の方位差が、第三近似で1度以下と算出されたピクセルの面積率をフェライトの面積率と定義した。
一方、パーライトの面積率は、EBSD測定した領域をナイタール腐食し、光学顕微鏡観察によって測定した。そして、EBSD測定領域において、フェライト面積率とパーライト面積率を差し引いた残りをベイナイト面積率と定義した。また、EBSD測定において、結晶方位差が3度以内の領域を有効結晶粒とみなし、円相当直径の平均値を有効結晶粒径として求めた。さらに、有効結晶粒の圧延方向の最大径を板厚方向の最大径で除した値をアスペクト比と定義し、その平均値を求めた。
また、母材のHIC試験は、NACE TM0284に準拠し、NACE溶液(H2Sを1気圧で飽和した5%NaCl+0.5%酢酸水溶液、pH2.7)を用いて実施し、HIC面積率CARとHIC長さ率CLRを測定した。
更に、HAZ靭性を評価するためにUO鋼管のシーム溶接部に相当する内面1パスと外面1パスのサブマージアーク溶接を行い、溶接継手を作製した。なお、溶接金属は、−50℃で100J以上の靭性が得られるように、低温仕様の溶接材料を用いた。溶接継手の会合部を基準にシャルピー衝撃試験片を採取し、溶接金属とHAZとの比率が50:50になるように2mmVノッチを施し、−20℃で3本の試験を行って平均値と最低値を測定した。
表3、表4に鋼板の板厚、機械的性質、耐HIC特性、溶接部のHAZ靭性を示す。
Figure 2017172010
Figure 2017172010
表3に示すように、本発明鋼は、板厚31〜50mmの鋼板において、API 5L X80級(降伏強度YS:555MPa以上、705MPa以下、引張強度TS:625MPa以上、825MPa以下)を満足する母材の強度と、落重引裂試験における延性破面率遷移温度が−20℃以下の低温となっており、良好なBDWTT特性を有する。ベイナイト面積率は80%以上であり、有効結晶粒径は25μm以下であり、アスペクト比は4以上である。同時に、本発明鋼は優れた耐HIC特性を有する。更に、本発明鋼は−20℃で優れたHAZ靭性を有する。
一方、表2に示すように、比較鋼(符号B1〜B21)は化学成分が本発明の範囲から外れているため、表4に示すように、母材の機械的性質、耐HIC特性、溶接部のHAZ靭性が劣ったりする場合がある。符号B22及びB23は、化学成分は本発明の範囲内であるが、上述のように、好ましい範囲外の製造条件を採用したため、表4に示すように、母材の機械的性質、耐HIC特性、溶接部のHAZ靭性が劣ったりする場合がある。
符号B1はC量が低すぎ、符号B4はMn量が低すぎるために強度が不足している。符号B2はC量が高すぎるために耐HIC特性が劣化し、HAZ靭性も劣化傾向にある。符号B3はSi量が高すぎるためにHAZ靭性が劣化している。符号B5はMn量が高すぎるために耐HIC特性が劣化している。
符号B6はP量が高すぎるために耐HIC特性が劣化し、HAZ靭性も劣化傾向にある。符号B7はS量が高すぎるために耐HIC特性が劣化している。符号B8はAl量が低すぎ、符号B10はTi量が低すぎるために有効結晶粒径が25μmを超えて粗大化し、BDWTT特性とHAZ靭性が劣化している。符号B9はAl量が高すぎるために有効結晶粒径が25μmを超えて粗大化し、BDWTT特性が劣化している。符号B11はTi量が高すぎるために有効結晶粒径が25μmを超えて粗大化し、BDWTT特性とHAZ靭性が劣化している。
符合B12はNb量が高すぎるために耐HIC特性が劣化し、HAZ靭性も劣化傾向にある。符号B13はCa量が低すぎるために耐HIC特性が劣化している。符号B14はCa量が高すぎるために耐HIC特性とHAZ靭性が劣化している。符号B15はMg量が低すぎるために有効結晶粒径が25μmを超えて粗大化し、BDWTT特性とHAZ靭性が劣化している。
符号B16はN量が低すぎるために有効結晶粒径が25μmを超えて粗大化し、BDWTT特性とHAZ靭性が劣化している。符号B17はN量が高すぎるために耐HIC特性が劣化傾向にあり、HAZ靭性が劣化している。符合B18はO量が低すぎるため有効結晶粒径が15μmを超えて粗大化し、BDWTT特性とHAZ靭性が劣化している。符号B19はO量が高すぎるため耐HIC特性とHAZ靭性が劣化している。
符号B20は硫化物形態制御の指標である式(1)の値が低すぎるため耐HIC特性が劣化している。符号B21は硫化物形態制御の指標である式(1)の値が高すぎるため耐HIC特性が劣化している。
符号B22は、Ar3以上からAr3+50℃の温度範囲における累積圧下率が低い例であり、有効結晶粒のアスペクト比が低すぎるため、セパレーション指数が低くなり、BDWTT特性が劣化している。符号B23は、加速冷却の停止温度が高い例であり、ベイナイト面積率が低すぎるため、強度が不足し、耐HIC特性が劣化している。
更に、表1及び表3の本発明例に係る鋼板を用いて、Uプレス及びOプレスによって成形し、継目に内面1パスと外面1パスのサブマージアーク溶接を行い、拡管するUOEプロセスにより、鋼管を製造した。そして、上記の特性を評価した結果、全ての鋼管が表3とほぼ同等の性能を有していることを確認した。
本発明は、優れた耐HIC特性とAPI 5L X80級の強度を有し、かつ従来よりも格段に優れた低温靱性を有するラインパイプなどの鋼管や、該鋼管の素材に好適な鋼板に関するものであり、鉄鋼業においては厚板ミルに適用することが望ましい。また、本発明に係る鋼管は、母材及び溶接部を有し、本発明に係る鋼板を母材とするものであって、UOEプロセスやロールベンド法によって製造することが望ましい。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0.020%以上、0.100%以下、
    Mn:1.00%以上、1.80%以下、
    S :0.0001%以上、0.0010%以下、
    Al:0.001%以上、0.020%以下、
    Ti:0.005%以上、0.020%以下、
    Ca:0.0005%以上、0.0030%以下、
    Mg:0.0003%以上、0.0030%以下、
    N :0.0015%以上、0.0050%以下、
    O :0.0010%以上、0.0030%以下
    を含有し、
    Si:0.30%以下、
    P :0.015%以下、
    Nb:0.004%以下
    に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Ca、O、Sの含有量が下記(1)式を満足し、板厚方向で表面から板厚の1/4の位置におけるベイナイトの面積率が80%以上であり、有効結晶粒径における円相当直の平均値が25μm以下であり、有効結晶粒におけるアスペクト比の平均値が4以上であることを特徴とする耐サワー鋼板。
    1.0≦〔Ca×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (1)
  2. 更に、質量%で、
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.0%以下、
    Cr:1.0%以下、
    Mo:0.5%以下、
    W :0.5%以下、
    Co:0.5%以下、
    V :0.10%以下、
    B :0.0030%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐サワー鋼板。
  3. 更に、質量%で、
    REM:0.004%以下、
    Zr:0.005%以下
    の一方又は両方を含有し、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐サワー鋼板。
    1.0≦〔(Ca+3.5×REM+2.3×Zr)×(1−124×O)〕/(1.25×S)≦8.0 ・・・ (2)
  4. 板厚が、31mm以上50mm以下、
    降伏応力が、555MPa以上、705MPa以下
    引張強さが、625MPa以上、825MPa以下であり、
    延性破面率が85%以上であるBDWTT破面の有効面積において、セパレーション長さの総和(mm)を有効面積(mm2)で除した値として評価されるセパレーション指数の最大値が0.02mm-1以上
    であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐サワー鋼板。
  5. 母材及び溶接部からなる鋼管であって、母材が請求項1〜4の何れか1項に記載の耐サワー鋼板からなることを特徴とする耐サワー鋼管。
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