JP2017170958A - 作業車両 - Google Patents

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Abstract

【課題】トラクタのような作業車両において、伝動経路の高効率化とともに操作性の向上を図る。
【解決手段】作業車両は、走行機体2に搭載するエンジン5と、エンジン5動力に基づいて駆動する走行部3と、エンジン5からの出力を変速して直進用動力を出力する第1無段変速装置500と、エンジン5からの出力を変速して旋回用動力を出力する第2無段変速装置701と、直進用動力と旋回用動力とを合成する動力合成機構703とを備える。動力合成機構703からの動力により左右の走行部3を独立して駆動させる。エンジン5と第2無段変速装置701との間に旋回用クラッチ機構300が設けられており、エンジン5の始動時において、エンジン5の冷却水温が所定温度以下である場合に、旋回用クラッチ機構300を切断する。
【選択図】図25

Description

本願発明は、例えばトラクタやコンバイン等の農作業機やクレーン車やバックフォー等の特殊作業機のような作業車両に関するものである。
従来、トラクタ、コンバインといった農作業車やクローラクレーンなどの建設機械といった作業車両の中には、エンジンからの動力が伝達される2つの油圧式無段変速機(HST)を備えており、2つの油圧式無段変速機それぞれからエンジン出力に基づき直進動力と旋回動力を出力させるものがある(例えば、特許文献1参照)。本願出願人は、2つの油圧式無段変速機それぞれから出力させた直進動力と旋回動力を左右の遊星ギヤ機構で合成させることで旋回可能とした作業車両を、特許文献2において提案している。
また、従来の作業車両の中には、エンジンから動力伝達されるミッションケースに、油圧式無段変速機よりも伝達効率の高い油圧機械式変速機(HMT)を備えたものがある。本願出願人は以前に、油圧ポンプの入力軸と油圧モータの出力軸とが同心状に位置するように油圧ポンプと油圧モータとを直列に配置した直列型(インライン型)の油圧機械式変速機を、特許文献3において提案している。
直列型の油圧機械式変速機では、エンジンから動力伝達される入力軸に、出力軸を相対回転可能に被嵌している。更に、入力軸には、油圧ポンプとシリンダブロックと油圧モータとを被嵌している。シリンダブロックは単独で油圧ポンプ用と油圧モータ用とを兼ねていて、油圧モータから出力軸に動力伝達される。このため、直列型の油圧機械変速機では、一般的な油圧機械式変速機とは異なり、遊星ギヤ機構を介在させずに油圧による変速動力とエンジンの動力とを合成して出力でき、高い動力伝達効率が得られるという利点を有している。
また、本願出願人は、エンジンからの出力が入力されて変速するミッションケースを備える作業車両において、ミッションケース内に、前後進クラッチ、主変速機構、及び副変速機構を設け、主変速機構からの出力を油圧機械式変速機により旋回動力として、副変速機構からの出力と合成するものを提案している。
特開2002−200925号公報 特開平10−271905号公報 特開2005−083497号公報 特開2005−212612号公報
ところで、特許文献3における油圧機械式変速機を中型又は大型の作業車両に搭載するには、油圧機械式変速機の高出力化を図る必要がある。油圧機械式変速機の高出力化のためには、例えば油圧機械式変速機を大容量化することが挙げられる。しかし、単に油圧機械式変速機を大容量化しただけでは、油圧機械式変速機自体が大型化して製造コストが嵩むだけでなく、動力伝達効率(特に低負荷域での効率)が犠牲になるという問題があった。
また、特許文献4の走行車両では、旋回系伝動経路にのみ油圧機械式変速機を配置した構成であるため、直進系伝動経路については、主変速機構又は副変速機構のギヤ比による段階的な切換となり、オペレータの所望する動力が得られない場合がある。更に、旋回系伝動経路へ入力される動力は、エンジンから主変速機構を介して入力されるものであることから、油圧機械式変速機における斜板位置や作動油の粘度により、ミッションケース内の主変速機構や副変速機構の駆動だけでなくエンジン始動に影響を及ぼす恐れがある。
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施した作業車両を提供することを技術的課題としている。
本願発明の作業車両は、走行機体に搭載されるエンジンと、前記エンジン動力に基づいて駆動する走行部と、前記エンジンからの出力を変速して直進用動力を出力する第1無段変速装置と、前記エンジンからの出力を変速して旋回用動力を出力する第2無段変速装置と、前記直進用動力と前記旋回用動力とを合成する動力合成機構とを備え、前記動力合成機構からの動力により左右の前記走行部を独立して駆動させる作業車両において、前記エンジンと前記第2無段変速装置との間に旋回用クラッチ機構が設けられており、前記エンジンの始動時において、前記エンジンの冷却水温が所定温度以下である場合に、前記旋回用クラッチ機構を切断するものである。
上記作業車両において、前記エンジンの始動時において、前記エンジンの回転数が所定回転数以上となったときに、前記旋回用クラッチ機構を接続するものとしてもよい。
上記作業車両において、前記第1無段変速装置と前記動力合成機構との間に直進用クラッチ機構が設けられており、前記直進用クラッチ機構が切断されている場合に、前記エンジンの始動が許可されるものとしてもよい。
上記作業車両において、前記直進用クラッチ機構は、前記第1無段変速装置からの回転動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構を備えており、前記前後進切換機構が中立位置となる場合に、前記エンジンの始動が許可されるものとしてもよい。
上記作業車両において、前記直進用クラッチ機構は、前記第1無段変速装置からの回転動力を変速する副変速ギヤ機構を備えており、前記副変速ギヤ機構が中立位置となる場合に、前記エンジンの始動が許可されるものとしてもよい。
本願発明によると、エンジンの始動時において、エンジンの冷却水温が所定温度以下である場合に、旋回用クラッチ機構を切断するため、低温環境下で作動油の粘度が高くなる場合であっても、第2無段変速装置との連結が解放されるため、エンジンの低温始動時における負荷を低減し、安定してエンジンを始動できる。
本願発明によると、エンジンの始動時において、エンジンの回転数が所定回転数以上となったときに、旋回用クラッチ機構を接続するため、第2無段変速装置による負荷が大きくなる場合であっても、エンジンが十分な回転数で駆動しているため、エンジンがエンジンストールを起こすことがない。
また、本願発明によると、エンジンからの回転動力が第2無段変速装置に円滑に伝達されるため、エンジンのハンチング動作を防止できるとともに、第2無段変速装置の急激な作用による旋回をも防止でき、安全にエンジンを始動できる。更に、エンジンが安定した回転となった後で第2無段変速装置を作動することになり、始動時の負担が更に軽減されて、エンジンの耐久性を向上できると同時に、第2無段変速装置を確実に駆動できる。
更に、本願発明によると、エンジンの低温始動時において、直進用クラッチ機構における動力伝達系統が切断された状態となり、旋回系動力伝達系統と直進系動力伝達系統との間で、相互に影響を与えない状態とできる。そのため、始動時にエンジンにかかる負荷を抑制することができ、低温時であっても、円滑にエンジンが始動する。
トラクタの左側面図である。 トラクタの右側面図である。 トラクタの平面図である。 走行機体の左側面図である。 走行機体の右側面図である。 走行機体の平面図である。 操縦座席部の平面説明図である。 操縦ハンドル周辺の構成を示す斜視図である。 ブレーキ機構とブレーキペダルの連結構造を示す斜視図である。 油圧機械式変速機の作動油吐出量と車速との関係を示す説明図である。 トラクタの動力伝達系統のスケルトン図である。 トラクタの油圧回路図である。 走行機体の前方拡大斜視図である。 旋回用ミッションケース内部の構成を示す斜視図である。 旋回用クラッチ機構の構成を示す斜視図である。 旋回用ミッションケースの一部断面図である。 旋回用ミッションケースにおける動力伝達系統のスケルトン図である。 旋回用クラッチ機構の構成を示す拡大断面図である。 旋回用クラッチ機構とクラッチ位置切換機構との関係を示す説明図である。 クラッチ位置切換機構の動作を示す説明図である。 トラクタの制御系統の構成を示すブロック図である。 トラクタの走行制御系統の構成を示すブロック説明図である。 減速率テーブル及び旋回/直進比テーブルに記憶されたパラメータの関係を示す説明図である。 トラクタの走行制御を示すフロー図である。 トラクタのエンジン始動制御を示すフロー図である。 エンジン始動制御の別例を示すフロー図である。
以下に、本願発明を具体化した実施形態について、農作業用トラクタを図面に基づき説明する。図1〜図6に示す如く、トラクタ1の走行機体2は、走行部としての左右一対の走行クローラ3で支持されている。走行機体2の前部にディーゼルエンジン5(以下、単にエンジンという)を搭載し、走行クローラ3をエンジン5で駆動することによって、トラクタ1が前後進走行するように構成されている。エンジン5はボンネット6にて覆われている。走行機体2の上面にはキャビン7が設置される。該キャビン7の内部には、操縦座席8と、走行クローラ3を操向操作する操縦ハンドル9とが配置されている。キャビン7の左右外側には、オペレータが乗降するステップ10が設けられている。キャビン7の左右側方下側に、エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11が設けられており、燃料タンク11は左右のリヤフェンダー21によって覆われている。キャビン7の左側方には、燃料タンク11前方に電力供給するバッテリ817が設けられており、燃料タンク11と共に左のリヤフェンダー21によって覆われている。
走行機体2は、前バンパー12及び旋回用ミッションケース(ドライブアクスル)13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部に着脱自在に固定した左右の機体フレーム15とにより構成されている。旋回用ミッションケース13の左右両端側から外向きに、車軸16を回転可能に突出させており、車軸16を覆う車軸ケース90を旋回用ミッションケース13の左右両側面に設けている。旋回用ミッションケース13の左右両端側に車軸16を介して駆動スプロケット62を取り付けている。機体フレーム15の後部は、エンジン5からの回転動力を適宜変速して駆動スプロケット62に伝達するための直進用ミッションケース17と連結している。
図1〜図4に示す如く、走行機体2の下面側に左右のトラックフレーム61を配置する。トラックフレーム61は前後方向に延設されて左右一対設けられて、エンジンフレーム14及び機体フレーム15の両外側に位置している。左右のトラックフレーム61は左右方向に延設するロアフレーム67によりエンジンフレーム14及び機体フレーム15と連結される。左右のトラックフレーム61それぞれの前端は、旋回用ミッションケース13の左右両側面に設けた車軸ケース90と連結している。左右のトラックフレーム61それぞれの外側には、オペレータが乗降するステップ10aが設けられている。
ロアフレーム67の左右中央部は、連結ブラケット72を介して、エンジンフレーム14の後部側面に固設されている。左右のトラックフレーム61の前後中途部分に、左右方向に延設させた梁フレーム68の左右両端が連結されている。また、梁フレーム68の中央は、前後方向に設けた補強フレーム70を介してロアフレーム67中央と連結されている。左右のトラックフレーム61後部で内方向に突設したリヤビーム73を、直進用ミッションケース17の左右側面に固設したリヤハウジング74に連結して、トラックフレーム61後部を直進用ミッションケース17左右側面で固定させる。
トラックフレーム61には、走行クローラ3にエンジン5の動力を伝える駆動スプロケット62と、走行クローラ3のテンションを維持するテンションローラ63と、走行クローラ3の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ64と、走行クローラ3の非接地側を保持する中間ローラ65とを設けている。駆動スプロケット62によって走行クローラ3の前側を支持し、テンションローラ63によって走行クローラ3の後側を支持し、トラックローラ64によって走行クローラ3の接地側を支持し、中間ローラ65によって走行クローラ3の非接地側を支持する。テンションローラ63はトラックフレーム61の後端より後方に伸縮可能に構成したテンションフレーム69の後端に回転自在に支持される。トラックローラ64はトラックフレーム61の下部に前後揺動自在に支持したイコライザフレーム71の前後に回転自在に支持される。
また、トラクタ1の前部にはフロントドーザ80を装着可能に構成している。左右一対のドーザブラケット81が、エンジンフレーム14の前部側面と車軸ケース90とロアフレーム67に固定されており、フロントドーザ80の平面視U字状(コ字状)の支持アーム83が左右のドーザブラケット81の外側(機外側)に着脱可能に枢支される。左右ドーザブラケット81は、前端内側(機内側)が左右エンジンフレーム14側面に連結されており、後端下側がロアフレーム67中途部の上面に連結されており、中途部が車軸ケース90中途部を上下で狭持するように連結されている。ドーザブラケット81は、エンジンフレーム14と車軸ケース90とロアフレーム67の3体に強固に固定されることで、フロントドーザ80による重作業に耐えられる強度を確保できる。
直進用ミッションケース17の後部には、例えばロータリ耕耘機などの対地作業機18を昇降動させる油圧式昇降機構22を着脱可能に取付けている。対地作業機18は、左右一対のロワーリンク23及びトップリンク24からなる3点リンク機構111を介して直進用ミッションケース17の後部に連結される。直進用ミッションケース17の後側面には、対地作業機18にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸25を後ろ向きに突設している。
図4〜図6に示す如く、エンジン5の後側面から後ろ向きに突設するエンジン5の出力軸(ピストンロッド)5a後端には、フライホイル26を直結するように取付けている。両端に自在軸継手を有する動力伝達軸29を介して、フライホイル26から後ろ向きに突出した主動軸27と、直進用ミッションケース17前面側から前向きに突出した入力カウンタ軸28とを連結している。直進用ミッションケース17の前面下部から前向きに突出した直進用出力軸30には、両端に自在軸継手を有する動力伝達軸31を介して、旋回用ミッションケース13から後向きに突出した直進用入力カウンタ軸508を連結している。エンジン5の前側面から前向きに突設するエンジン5の出力軸(ピストンロッド)5a前端には、両端に自在軸継手を有する動力伝達軸711を介して、旋回用ミッションケース13から後ろ向きに突出した旋回用入力カウンタ軸712を連結している。
図1〜図6に示すように、油圧式昇降機構22は、作業部ポジションダイヤル51等の操作にて作動制御する左右の油圧リフトシリンダ117と、直進用ミッションケース17の上面蓋体にリフト支点軸を介して基端側を回動可能に軸支する左右のリフトアーム120と、左右のロワーリンク23に左右のリフトアーム120を連結させる左右のリフトロッド121を有している。右のリフトロッド121の一部を油圧制御用の水平シリンダ122にて形成し、右のリフトロッド121の長さを水平シリンダ122にて伸縮調節可能に構成している。トップリンク24と左右のロワーリンク23に対地作業機18を支持した状態下で、水平シリンダ122のピストンを伸縮させて、右のリフトロッド121の長さを変更した場合、対地作業機18の左右傾斜角度が変化するように構成している。
次に、図7〜図9等を参照しながら、キャビン7内部の構造を説明する。キャビン7内における操縦座席8の前方にステアリングコラム32を配置している。ステアリングコラム32は、キャビン7内部の前面側に配置したダッシュボード33の背面側に埋設するような状態で立設している。ステアリングコラム32上面から上向きに突出したハンドル軸の上端側に、平面視略丸型の操縦ハンドル9を取り付けている。そして、ステアリングコラム32内のハンドル軸下端に、操縦ハンドル9の操舵角を検出する操舵角センサ821を備えた操舵角(ハンドル切れ角)検出機構880を連結している。
ステアリングコラム32の右側には、油圧式昇降機構22を昇降操作するための作業機昇降レバー34と、走行機体2を制動操作するためのブレーキペダル35を配置している。ステアリングコラム32の左側には、走行機体2の進行方向を前進と後進とに切り換え操作するための前後進切換レバー36(リバーサレバー)と、動力継断用の油圧クラッチ537,539,541を遮断操作するためのクラッチペダル37とを配置している。ステアリングコラム32の背面側には、ブレーキペダル35を踏み込み位置に保持するための駐車ブレーキレバー43が配置されている。
ステアリングコラム32の左側で前後進切換レバー36の下方には、前後進切換レバー36に沿って延びる誤操作防止体38(リバーサガード)を配置している。接触防止具である誤操作防止体38を前後進切換レバー36下方に配置することによって、トラクタ1に乗降する際に、オペレータが前後進切換レバー36に不用意に接触するのを防止している。ダッシュボード33の背面上部側には、液晶パネルを内蔵した操作表示盤39を設けている。また、ステアリングコラム32上には、トラクタ1を緊急停止させる緊急停止スイッチ58が配置されている。
キャビン7内にある操縦座席8前方の床板40においてステアリングコラム32の右側には、エンジン5の回転速度または車速などを制御するアクセルペダル41を配置している。なお、床板40上面の略全体は平坦面に形成している。操縦座席8を挟んで左右両側にはサイドコラム42を配置している。操縦座席8と左サイドコラム42との間には、トラクタ1の走行速度(車速)を強制的に大幅に低減させる超低速レバー44(クリープレバー)と、直進用ミッションケース17内の走行副変速ギヤ機構の出力範囲を切換えるための副変速レバー45と、PTO軸25の駆動速度を切換え操作するためのPTO変速レバー46とを配置している。
操縦座席8と右サイドコラム42との間には、操縦座席8に着座したオペレータの腕や肘を載せるためのアームレスト49を設けている。アームレスト49は、操縦座席8とは別体に構成すると共に、トラクタ1の走行速度を増減速させる主変速レバー50と、ロータリ耕耘機といった対地作業機18の高さ位置を手動で変更調節するダイヤル式の作業部ポジションダイヤル51(昇降ダイヤル)と、油圧式昇降機構22を昇降操作するための作業機昇降スイッチ57を備えている。なお、アームレスト49は、後端下部を支点として複数段階に跳ね上げ回動可能な構成になっている。また、本実施形態においては、主変速レバー50を前傾操作したとき、走行機体2の車速が増加する一方、主変速レバー50を後傾操作したとき、走行機体2の車速が低下する。更に、アームレスト49は、主変速レバー50の前後傾動を検出するポテンショメータ(可変抵抗器)型の主変速センサ822(図13参照)を備える。
右サイドコラム42には、前側から順に、タッチパネル機能を有してトラクタ1各部への指令操作が可能な操作用モニタ55と、エンジン5の回転速度を設定保持するスロットルレバー52と、PTO軸25からロータリ耕耘機等の対地作業機18への動力伝達を継断操作するPTOクラッチスイッチ53と、直進用ミッションケース17の上面側に配置する油圧外部取出バルブ430を切換操作するための複数の油圧操作レバー54(SCVレバー)と、リヤハウジング74前面に配置する複動バルブ機構431を切換操作するための単複動切換スイッチ56を配置している。ここで、油圧外部取出バルブ430は、トラクタ1に後付けされるフロントローダといった別の作業機の油圧機器に作動油を供給制御するためのものである。複動バルブ機構431は、直進用ミッションケース17の上面側に配置する昇降バルブ機構652とともに動作することで油圧リフトシリンダ117を複動式で作動させるためのものである。
次に、主として図8及び図9を参照しながら、ブレーキペダル35とブレーキ機構(直進用ブレーキ機構)751との関係について説明する。ステアリングコラム32前方において、ブレーキペダル軸755を軸支するブレーキペダル支持ブラケット916がボード支持板(エアカットプレート)901背面(操縦座席8側)に固定されている。ブレーキペダル軸755にはブレーキペダル35の基端ボス部35aを被嵌しており、ブレーキペダル35の基端ボス部35aをブレーキペダル軸755と一体回動するように連結している。
ブレーキペダル軸755の両端部には、前向きに突出するペダル軸アーム756を固着しており、ペダル軸アーム756はブレーキペダル軸755と共に回動する。なお、ブレーキペダル軸755には、クラッチペダル37の基端ボス部も回動可能に被嵌している。そして、ブレーキペダル軸755の左右両端それぞれに、クラッチ位置センサ829(図13参照)及びブレーキ位置センサ828を固定している。また、ブレーキペダル35のペダルアーム35bに対向する位置にブレーキスイッチ851を配置する一方、クラッチペダル37のペダルアーム37bに対向する位置にクラッチスイッチ852(図13参照)を配置する。
ボード支持板(エアカットプレート)901の左右下部側には、左右一対で横向きのブレーキ操作軸757を支持させている。左のブレーキ操作軸757には、旋回用ミッションケース13内のブレーキ機構751の制動アーム752と連結するリンクボス体758を回動可能に被嵌している。リンクボス体758外周面に突設させたリンクアーム759に、左側ペダル軸アーム756と連結した上下長手のリンクロッド762の下端と、ブレーキ機構751の制動動作を段階的なものとする二段階伸縮リンク体763の上端とが連結されている。二段階伸縮リンク体763の下端が、ブレーキロッド766後端のリンクアーム767の先端と連結している。ブレーキロッド766は、エンジンフレーム14に固定されたリンク支持ブラケット764,765に支持されるとともに前後方向に延設されている。そして、ブレーキロッド766前端のリンクアーム768が、連結プレート753を介して、旋回用ミッションケース13内のブレーキ機構751の制動アーム752と連結している。
すなわち、ブレーキペダル軸755左端は、リンクロッド762、二段階伸縮リンク体763、及びブレーキロッド766を介して、ブレーキ機構751の制動アーム752と連結している。従って、ブレーキペダル35の踏み込みに従って、ブレーキペダル軸755が回動することで、制動アーム752を回動させることができ、ブレーキ機構751による制動動作を実行できる。このとき、二段階伸縮リンク体763が作用することで、走行速度を調整する踏み込み量が少ない時(ブレーキ機構751の遊び領域)に比べて、急ブレーキをかける踏み込み量が多い時(ブレーキ機構751による制動領域)には、ブレーキペダル35への踏力が大きくなる。
右のブレーキ操作軸757には、リンクアーム761を有するリンクボス体760を回動可能に被嵌している。右側ペダル軸アーム756に、ブレーキペダル35への踏み込みを段階的なものとする二段階伸縮リンク体769の上端が連結され、リンクボス体760外周面に突設させたリンクアーム761に、二段階伸縮リンク体769の下端が連結されている。ブレーキペダル35の踏み込みに従って、ブレーキ操作軸757を回動させたとき、二段階伸縮リンク体769が作用することで、走行速度を調整する踏み込み量が少ない時(ブレーキ機構751の遊び領域)に比べて、急ブレーキをかける踏み込み量が多い時(ブレーキ機構751による制動領域)には、ブレーキペダル35への踏力が大きくなる。
駐車ブレーキレバー43は、駐車ブレーキアーム770を介して係止部材771の一端と連結している。側面視弓形の係止部材771は、ブレーキペダル支持ブラケット916に軸止されている。ブレーキペダル35のペダルアーム35bの左側面には、係止部材771の係止爪に係合させる係止板775を設けている。これにより、ブレーキペダル35を踏み込んだ状態で駐車ブレーキレバー43を操作することで、係止部材771を係止板775に係止させて、トラクタ1の制動状態(駐車状態)を維持させる。
次に、主として図4〜図6、図10〜図15を参照しながら、直進用ミッションケース17及び旋回用ミッションケース13の内部構造とトラクタ1の動力伝達系統について説明する。直進用ミッションケース17の前室内には、直進用の油圧機械式無段変速機500と、後述する前後進切換機構501を経由した回転動力を変速する機械式のクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503とを配置している。直進用ミッションケース17の中間室内には、油圧機械式無段変速機500からの回転動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構501を配置している。直進用ミッションケース17の後室内には、エンジン5からの回転動力を適宜変速してPTO軸25に伝達するPTO変速機構505を配置している。直進用ミッションケース17の右外面前部には、エンジン5の回転動力で駆動する作業機用油圧ポンプ481及び走行用油圧ポンプ482を収容したポンプケース480を取り付けている。
直進用ミッションケース17は、直進用クラッチ機構の一部である前後進切換機構501を備えている。すなわち、前後進切換機構501を中立とすることによって、後段のクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503に対する油圧機械式無段変速機500からの回転動力の伝達が停止される。クリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503は、直進用クラッチ機構の一部であり、前後進切換機構501経由の変速出力を多段変速する走行変速ギヤ機構に相当するものである。
エンジン5の後側面から後ろ向きに突設するエンジン5の出力軸5aにはフライホイル26を直結している。フライホイル26から後ろ向きに突出した主動軸27に、両端に自在軸継手を有する動力伝達軸29を介して、直進用ミッションケース17前面側から前向きに突出した入力カウンタ軸28を連結している。エンジン5の回転動力は、主動軸27及び動力伝達軸29を経由して直進用ミッションケース17の入力カウンタ軸28に伝達され、油圧機械式無段変速機500とクリープ変速ギヤ機構502又は走行副変速ギヤ機構503とによって適宜変速される。クリープ変速ギヤ機構502又は走行副変速ギヤ機構503を経由した変速動力は、直進用出力軸30、動力伝達軸31及び直進用入力カウンタ軸508を介して、旋回用ミッションケース13内のギヤ機構に伝達される。
直進用の油圧機械式無段変速機(HMT)500は、主変速入力軸511に主変速出力軸512を同心状に配置し且つ油圧ポンプ部521とシリンダブロックと油圧モータ部522とを直列状に配置した直列型(インライン型)のものである。入力カウンタ軸28の後端側には主変速入力ギヤ513を相対回転不能に被嵌している。主変速入力軸511の後端側には、主変速入力ギヤ513に常時噛み合う入力伝達ギヤ514を固着している。従って、入力カウンタ軸28の回転動力は、主変速入力ギヤ513、入力伝達ギヤ514及び主変速入力軸511を介して油圧機械式無段変速機500に伝達される。主変速出力軸512には、走行出力用として、主変速高速ギヤ516、主変速逆転ギヤ517及び主変速低速ギヤ515を相対回転不能に被嵌している。主変速入力軸511の入力側と主変速出力軸512の出力側とは、同一側(油圧機械式無段変速機500から見ていずれも後方側)に位置している。
油圧機械式無段変速機500は、可変容量形の油圧ポンプ部521と、当該油圧ポンプ部521から吐出する高圧の作動油によって作動する定容量形の油圧モータ部522とを備えている。油圧ポンプ部521には、主変速入力軸511の軸線に対して傾斜角を変更可能して作動油供給量を調節するポンプ斜板523を設けている。ポンプ斜板523には、主変速入力軸511の軸線に対するポンプ斜板523の傾斜角を変更調節する主変速油圧シリンダ524を連動連結している。実施形態では、油圧機械式無段変速機500に主変速油圧シリンダ524を組み付けていて、一つの部材としてユニット化している。
主変速レバー50の操作量に比例して主変速油圧シリンダ524を駆動させると、これに伴い主変速入力軸511の軸線に対するポンプ斜板523の傾斜角が変更される。実施形態のポンプ斜板523は、傾斜略ゼロ(ゼロを含むその前後)の中立角度を挟んで一方(正)の最大傾斜角度と他方(負)の最大傾斜角度との間の範囲で角度調節可能であり、且つ、走行機体2の車速が最低のときにいずれか一方に傾斜した角度(この場合は負で且つ最大付近の傾斜角度)に設定している。
ポンプ斜板523の傾斜角が略ゼロ(中立角度)のときは、油圧ポンプ部521では入力側プランジャ群が押し引きされない。シリンダブロックが主変速入力軸511と同一方向且つ略同一回転速度で回転するものの、油圧ポンプ部521からの作動油供給がないため、シリンダブロックの出力側プランジャ群ひいては油圧モータ部522が駆動せず、主変速入力軸511と略同一回転速度にて主変速出力軸512が回転する。
次に、前後進切換機構501を介して実行する前進と後進との切換構造について説明する。入力カウンタ軸28の後部側に、前進高速ギヤ機構である遊星ギヤ機構526と、前進低速ギヤ機構である低速ギヤ対525とを配置している。遊星ギヤ機構526は、入力カウンタ軸28に回転可能に軸支した入力側伝動ギヤ529と一体的に回転するサンギヤ531、複数の遊星ギヤ533を同一半径上に回転可能に軸支したキャリア532、並びに内周面に内歯を有するリングギヤ534を備えている。サンギヤ531及びリングギヤ534は入力カウンタ軸28に回転可能に被嵌している。キャリア532は入力カウンタ軸28に相対回転不能に被嵌している。サンギヤ531はキャリア532の各遊星ギヤ533と半径内側から噛み合っている。また、リングギヤ534の内歯は各遊星ギヤ533と半径外側から噛み合っている。入力カウンタ軸28には、リングギヤ534と一体回転する出力側伝動ギヤ530も回転可能に軸支している。低速ギヤ対525を構成する入力側低速ギヤ527と出力側低速ギヤ528とは一体構造になっていて、入力カウンタ軸28のうち遊星ギヤ機構526と主変速入力ギヤ513との間に回転可能に軸支している。
直進用ミッションケース17には、入力カウンタ軸28、主変速入力軸511及び主変速出力軸512と平行状に延びる走行中継軸535並びに走行伝動軸536を配置している。伝達軸としての走行中継軸535に前後進切換機構501を設けている。すなわち、走行中継軸535には、湿式多板型の前進高速油圧クラッチ539で連結される前進高速ギヤ540と、湿式多板型の後進油圧クラッチ541で連結される後進ギヤ542と、湿式多板型の前進低速油圧クラッチ537で連結される前進低速ギヤ538とを被嵌している。走行中継軸535のうち前進高速油圧クラッチ539と後進ギヤ542との間には、走行中継ギヤ543を相対回転不能に被嵌している。走行伝動軸536には、走行中継ギヤ543と常時噛み合う走行伝動ギヤ544を相対回転不能に被嵌している。主変速出力軸512の主変速低速ギヤ515が入力カウンタ軸28側にある低速ギヤ対525の入力側低速ギヤ527と常時噛み合い、出力側低速ギヤ528が前進低速ギヤ538と常時噛み合っている。主変速出力軸512の主変速高速ギヤ516が入力カウンタ軸28側にある遊星ギヤ機構526の入力側伝動ギヤ529と常時噛み合い、出力側伝動ギヤ530が前進高速ギヤ540と常時噛み合っている。主変速出力軸512の主変速逆転ギヤ517が後進ギヤ542と常時噛み合っている。
前後進切換レバー36を前進側に操作すると、前進低速油圧クラッチ537又は前進高速油圧クラッチ539が動力接続状態となり、前進低速ギヤ538又は前進高速ギヤ540と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から低速ギヤ対525又は遊星ギヤ機構526を介して走行中継軸535に、前進低速又は前進高速の回転動力が伝達され、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。前後進切換レバー36を後進側に操作すると、後進油圧クラッチ541が動力接続状態となり、後進ギヤ542と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から主変速逆転ギヤ517及び後進ギヤ542を介して走行中継軸535に、後進の回転動力が伝達され、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。
なお、前後進切換レバー36の前進側操作によって、前進低速油圧クラッチ537及び前進高速油圧クラッチ539のどちらが動力接続状態になるかは、主変速レバー50の操作量に応じて決定される。また、前後進切換レバー36が中立位置のときは、全ての油圧クラッチ537,539,541がいずれも動力切断状態となり、主変速出力軸512からの走行駆動力が略ゼロ(主クラッチ切りの状態)になる。ここで、図10は、油圧機械式無段変速機500の作動油吐出量(ポンプ斜板523の傾斜角度)とトラクタ1の車速との関係を示している。実施形態において、前後進切換レバー36の操作状態に拘らず主変速レバー50を中立操作した場合は、主変速油圧シリンダ524の駆動によってポンプ斜板523が負で且つ最大付近の傾斜角度(逆転傾斜角)となり(白抜き丸印参照)、主変速出力軸512や走行中継軸535は最低速回転状態(略ゼロ)になる。ひいてはトラクタ1の車速が略ゼロになる。
前後進切換レバー36を前進側に操作した状態で主変速レバー50を中立から中間速程度まで増速側に操作した場合は、主変速油圧シリンダ524の駆動によってポンプ斜板523が負で且つ最大付近の傾斜角度(逆転傾斜角)からゼロを介して正で且つ最大付近の傾斜角度(正転傾斜角)まで変化し(白抜き四角印参照)、油圧モータ部522から主変速出力軸512への変速動力を略ゼロから高速まで増速させる。このとき、前進低速油圧クラッチ537が動力接続状態となり、前進低速ギヤ538又は前進高速ギヤ540と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から低速ギヤ対525を介して走行中継軸535に、前進低速の回転動力が伝達され、主変速出力軸512への増速動力によって走行中継軸535が最低速回転状態から前進中間速回転状態まで変化する(前進低速域FL参照)。そして、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。
前後進切換レバー36を前進側に操作した状態で主変速レバー50を中間速から最高速程度まで増速側に操作した場合は、主変速油圧シリンダ524の駆動によって正で且つ最大付近の傾斜角度(正転傾斜角)からゼロを介して負で且つ最大付近の傾斜角度(逆転傾斜角)まで変化し、ポンプ斜板523が油圧モータ部522から主変速出力軸512への変速動力を高速から略ゼロまで減速させる。このとき、前進高速油圧クラッチ539が動力接続状態となり、前進高速ギヤ540と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から遊星ギヤ機構526を介して走行中継軸535に、前進高速の回転動力が伝達される。すなわち、遊星ギヤ機構526においてエンジン5からの動力と主変速出力軸512への減速動力とが合成されてから、当該合成動力によって走行中継軸535が前進中間速回転状態から前進最高速回転状態まで変化する(前進高速域FH参照)。そして、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。走行機体2は最高速となる。
前後進切換レバー36を後進側に操作した状態で主変速レバー50を中立から増速側に操作した場合は、主変速油圧シリンダ524の駆動によってポンプ斜板523が負で且つ最大付近の傾斜角度(逆転傾斜角)からゼロを介して正で且つ最大付近の傾斜角度(正転傾斜角)まで変化し、油圧モータ部522から主変速出力軸512への変速動力を略ゼロから高速まで増速させる。このとき、後進油圧クラッチ541が動力接続状態となり、後進ギヤ542と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から主変速逆転ギヤ517及び後進ギヤ542を介して走行中継軸535に、後進の回転動力が伝達され、主変速出力軸512への増速動力によって走行中継軸535が最低速回転状態から後進高速回転状態まで変化する(後進域R参照)。そして、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。
次に、走行変速ギヤ機構であるクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503を介して実行する超低速と低速と高速との切換構造について説明する。直進用ミッションケース17内には、前後進切換機構501を経由した回転動力を変速する機械式のクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503と、走行伝動軸536と同軸状に延びる走行カウンタ軸545と、走行カウンタ軸545と平行状に延びる副変速軸546とを配置している。
走行カウンタ軸545の後部側には伝達ギヤ547とクリープギヤ548とを設けている。伝達ギヤ547は、走行カウンタ軸545に回転可能に被嵌すると共に、走行伝動軸536に一体回転するように連結している。クリープギヤ548は走行カウンタ軸545に回転可能に被嵌している。走行カウンタ軸545のうち伝達ギヤ547とクリープギヤ548との間には、クリープシフタ549を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合させている。超低速レバー44を入り切り操作することによって、クリープシフタ549がスライド移動して、伝達ギヤ547及びクリープギヤ548が走行カウンタ軸545に択一的に連結される。副変速軸546のうち前室内の箇所には、減速ギヤ対550を回転可能に被嵌している。減速ギヤ対550を構成する入力側減速ギヤ551と出力側減速ギヤ552とは一体構造になっていて、走行カウンタ軸545の伝達ギヤ547が副変速軸546の入力側減速ギヤ551に常時噛み合い、クリープギヤ548が出力側減速ギヤ552に常時噛み合っている。
走行カウンタ軸545の前部側には低速中継ギヤ553と高速中継ギヤ554とを設けている。低速中継ギヤ553は走行カウンタ軸545に固着している。高速中継ギヤ554は走行カウンタ軸545に相対回転不能に被嵌している。副変速軸546のうち減速ギヤ対550よりも前部側には、低速中継ギヤ553に噛み合う低速ギヤ555と、高速中継ギヤ554に噛み合う高速ギヤ556とを回転可能に被嵌している。副変速軸546のうち低速ギヤ555と高速ギヤ556との間には、副変速シフタ557を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合させている。副変速レバー45を操作することによって、副変速シフタ557がスライド移動して、低速ギヤ555及び高速ギヤ556が副変速軸546に択一的に連結される。なお、低速ギヤ555と高速ギヤ556との中間位置が、低速ギヤ555及び高速ギヤ556と副変速シフタ557とを非連結とする副変速中立位置となる。
更に、走行カウンタ軸545や副変速軸546と平行状に延びる直進用中継軸568及び直進用出力軸30を配置している。副変速軸546の前端側に相対回転不能に被嵌した主動ギヤ569に、直進用中継軸568に相対回転不能に被嵌した従動ギヤ570を常時噛み合わせている。直進用中継軸568の後端側に相対回転不能に被嵌した直進用中継ギヤ582に、直進用出力軸30に相対回転不能に被嵌した直進用出力ギヤ583を常時噛み合わせている。
副変速軸546の主動ギヤ569と、直進用中継軸568の従動ギヤ570及び直進用中継ギヤ582と、直進用出力軸30の直進用出力ギヤ583とが、副変速軸456の回転を直進用出力軸30に動力伝達させる直進用出力ギヤ機構509を構成している。直進用出力ギヤ機構509に、直進用ピックアップ回転センサ(直進車速センサ)823を設けて、直進用ピックアップ回転センサ823によって、直進出力の回転数(直進車速)を検出するように構成している。例えば、直進用中継ギヤ582に直進用ピックアップ回転センサ823を対向させて配置し、直進用中継ギヤ582の回転数により、直進出力の回転数(直進車速)を検出する。
実施形態では、超低速レバー44を入り操作すると共に副変速レバー45を低速側に操作すると、クリープギヤ548が走行カウンタ軸545に相対回転不能に連結されると共に、低速ギヤ555が副変速軸546に相対回転不能に連結され、直進用出力軸30より超低速の走行駆動力が旋回用ミッションケース13に向けて出力される。超低速レバー44を切り操作すると共に副変速レバー45を低速側に操作すると、伝達ギヤ547が走行カウンタ軸545に相対回転不能に連結されると共に、低速ギヤ555が副変速軸546に相対回転不能に連結され、直進用出力軸30より超低速の走行駆動力が旋回用ミッションケース13に向けて出力される。超低速レバー44を切り操作すると共に副変速レバー45を高速側に操作すると、伝達ギヤ547が走行カウンタ軸545に相対回転不能に連結されると共に、高速ギヤ556が副変速軸546に相対回転不能に連結され、直進用出力軸30より高速の走行駆動力が旋回用ミッションケース13に向けて出力される。また、副変速レバー45を中立位置に操作すると、副変速軸546と低速ギヤ555及び高速ギヤ556それぞれとが非連結となり、走行伝動軸536からの動力が走行副変速ギヤ機構503で遮断される。
旋回用ミッションケース13は、エンジン5からの回転動力を適宜変速する旋回用の油圧式無段変速機(HST)701と、油圧式無段変速機701からの出力回転を左右の走行クローラ3(駆動スプロケット62)に伝達する差動ギヤ機構702と、差動ギヤ機構702からの回転動力と直進用ミッションケース17からの回転動力とを合成する左右一対の遊星ギヤ機構703とを備える。また、旋回用ミッションケース13から後ろ向きに突出する直進用入力カウンタ軸508と、直進用ミッションケース17の前面下部から前向きに突出する直進用出力軸30とを、動力伝達軸31によって連結している。
油圧式無段変速機701は、1対の油圧ポンプ部704及び油圧モータ部705を並列に配置しており、ポンプ軸706に伝達された動力にて、油圧ポンプ部704から油圧モータ部705に向けて作動油が適宜送り込まれる。なお、ポンプ軸706には、油圧ポンプ部704及び油圧モータ部705に作動油を供給するためのチャージポンプ707が取付けられている。旋回用油圧式無段変速機701は、油圧ポンプ部704におけるポンプ斜板708の傾斜角度を変更調節して、油圧モータ部705への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、油圧モータ部705から突出したモータ軸709の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
油圧式無段変速機701のポンプ軸706は、旋回用クラッチ機構300の出力側(前方側)に連結されており、旋回用クラッチ機構300の入力側(後方側)に、クラッチ入力軸301が連結されている。旋回用クラッチ機構300を継断させる旋回用シフタ302が、旋回用ミッションケース13に設置された電動アクチュエータ303によって変位する。すなわち、電動アクチュエータ303により旋回用シフタ302がクラッチ入力軸301に沿って変位することで、旋回用クラッチ機構300を継断させ、クラッチ入力軸301とポンプ軸706とを連結又は解結する。
旋回用ミッションケース13は、旋回用入力カウンタ軸712をクラッチ入力軸301と平行に配置しており、旋回用入力カウンタ軸712に旋回用入力ギヤ713を相対回転不能に被嵌している。旋回用入力カウンタ軸712とクラッチ入力軸301の間には、旋回用中継軸714を旋回用入力カウンタ軸712及びクラッチ入力軸301と平行に配置しており、旋回用入力ギヤ713と常時噛合させた旋回用中継ギヤ715を旋回用中継軸714に対して相対回転不能に被嵌している。クラッチ入力軸301には、旋回用中継ギヤ715と常時噛合させたポンプ入力ギヤ710を相対回転不能に被嵌しており、旋回用入力カウンタ軸712に伝達されたエンジン5からの回転動力が、旋回用中継軸714を介してクラッチ入力軸301に伝達される。
旋回用ミッションケース13内において、モータ軸709後端に相対回転不能に被嵌させたピニオンギヤ716の両側に左右一対のサイドギヤ717を噛合させたベベルギヤ機構にて、差動ギヤ機構702を構成している。また、差動ギヤ機構702は、一端にサイドギヤ717を相対回転不能に被嵌させた左右一対の旋回用出力軸718を左右側方に向けて延設している。左右一対の旋回用出力軸718それぞれの他端に、左右一対の遊星ギヤ機構703に動力伝達させる旋回出力ギヤ719を、相対回転不能に被嵌させている。
モータ軸709から出力される油圧モータ部705からの回転動力(旋回回転動力)は、差動ギヤ機構702により、正逆回転動力に分岐して左右一対の旋回用出力軸718を介して、左右一対の遊星ギヤ機構703に伝達される。すなわち、差動ギヤ機構702において、左サイドギヤ717を被嵌させた左旋回用出力軸718を介して逆転回転動力として、左遊星ギヤ機構703に伝達される一方、右サイドギヤ717を被嵌させた右旋回用出力軸718を介して正転回転動力として、右遊星ギヤ機構703に伝達される。
旋回用油圧式無段変速機701の油圧モータ部705に、旋回用ピックアップ回転センサ(旋回車速センサ)824を設けて、旋回用ピックアップ回転センサ824によって、旋回出力の回転数(旋回車速)を検出するように構成している。本実施形態では、モータ軸709上に旋回用パルス発生回転輪体738を設け、旋回用パルス発生回転輪体738に旋回用ピックアップ回転センサ824を対向させて配置し、旋回用パルス発生回転輪体738の回転数により、直進出力の回転数(旋回車速)を検出する。
旋回用ミッションケース13内において、直進用ミッションケース17からの回転動力が伝達される直進用入力カウンタ軸508上に、ブレーキペダル35の動作にあわせて連動する直進用ブレーキ機構751を設けている。そして、直進用入力カウンタ軸508前端に、直進用入力ギヤ720を相対回転不能に被嵌させている。また、直進用中継軸721を直進用入力カウンタ軸508と平行に配置しており、直進用入力ギヤ720と常時噛合させた直進用中継ギヤ722を直進用中継軸721に対して相対回転不能に被嵌している。
直進用中継軸721後端に相対回転不能に被嵌させたピニオンギヤ723にリングギヤ724を噛合させたベベルギヤ機構を設けており、左右に延設させた直進用出力軸725にリングギヤ724を相対回転不能に被嵌させている。直進用出力軸725の両端がそれぞれ、左右一対の遊星ギヤ機構703それぞれと連結している。直進用入力カウンタ軸508に入力される直進用ミッションケース17からの回転動力(直進回転動力)は、直進用出力軸725を介して、左右一対の遊星ギヤ機構703に伝達される。また、ブレーキペダル35の操作に応じて直進用ブレーキ機構751が制動作動することで、直進用出力軸725の回転動力を減衰又は停止させる。
左右各遊星ギヤ機構703は、1つのサンギヤ726と、サンギヤ726に噛合する複数の遊星ギヤ727と、旋回出力ギヤ719に噛合させたリングギヤ728と、複数の遊星ギヤ727を同一円周上に回転可能に配置するキャリア729とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構703のキャリア729は、同一軸線上において適宜間隔を設けて相対向させて配置されている。左右の各サンギヤ726は、中途部にリングギヤ724を被嵌させた直進用出力軸725の両端に固着している。
左右の各リングギヤ728は、直進用出力軸725に回転可能に被嵌しているとともに、その外周面の外歯を左右の各旋回出力ギヤ719に噛合させて、旋回用出力軸718と連結している。リングギヤ728に固定されたキャリア729は、遊星ギヤ727を回転可能に軸支している。左右の各キャリア729が、左右の各差動出力軸730に回転可能に被嵌している。また、左右の各遊星ギヤ727と一体回転する左右の各出力側伝動ギヤ731は、左右の各差動出力軸730に対して回転不能に被嵌している左右の差動入力ギヤ732に噛合している。左右の差動出力軸730が、中継ギヤ733,734を介して左右の中継軸735と連結しており、左右の中継軸735が、ファイナルギヤ736,737を介して左右の車軸16に連結している。
左右の各遊星ギヤ機構703は、直進用中継軸721及び直進用出力軸725を介して、直進用ミッションケース17からの回転動力を受けて、サンギヤ726を同方向の同一回転数にて回転させる。即ち、左右のサンギヤ726は、直進用ミッションケース17からの回転動力を直進回転として受け、遊星ギヤ727及び出力側伝動ギヤ731を介して、差動出力軸730に伝達する。従って、直進用ミッションケース17から左右の遊星ギヤ機構703に伝達された回転動力は、左右の車軸16から各駆動スプロケット62に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ3を同方向の同一回転数にて駆動して、走行機体2を直進(前進、後退)移動させる。
一方、左右の各遊星ギヤ機構703は、差動ギヤ機構702及び旋回用出力軸718を介して、油圧モータ部705からの回転動力を受けて、リングギヤ728を同一回転数にて互いに逆方向で回転させる。即ち、左右のリングギヤ728は、油圧モータ部705からの回転動力を旋回回転として受け、キャリア729によりサンギヤ726からの直進回転に旋回回転を重畳させ、遊星ギヤ727及び出力側伝動ギヤ731を回転させる。これにより、左右の差動出力軸730の一方には、遊星ギヤ727及び出力側伝動ギヤ731を介して、直進回転に旋回回転を加算させた回転動力が伝達され、左右の差動出力軸730の他方には、遊星ギヤ727及び出力側伝動ギヤ731を介して、直進回転に旋回回転を減算させた回転動力が伝達される。
直進用入力カウンタ軸508及びモータ軸709からの変速出力は、左右の各遊星ギヤ機構703を経由して、左右の走行クローラ3の駆動スプロケット62にそれぞれ伝達され、走行機体2の車速(走行速度)及び進行方向が決定される。すなわち、油圧式無段変速機701の油圧モータ部705を停止させて左右リングギヤ728を静止固定させた状態で、直進用ミッションケース17からの回転動力が直進用入力カウンタ軸508に入力されると、直進用入力カウンタ軸508の回転が左右サンギヤ726に左右同一回転数で伝達され、左右の走行クローラ3が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体2が直進走行する。
逆に、直進用ミッションケース17の直進用出力軸30による回転が停止して左右サンギヤ726が静止固定した状態で、油圧式無段変速機701の油圧モータ部705を駆動させると、モータ軸709からの回転動力にて、左のリングギヤ728が正回転(逆回転)し、右のリングギヤ728は逆回転(正回転)する。その結果、左右の走行クローラ3の駆動スプロケット62のうち、一方が前進回転し、他方が後退回転し、走行機体2はその場で方向転換(信地旋回スピンターン)される。
また、直進用ミッションケース17からの直進回転によって左右サンギヤ726を駆動しながら、油圧式無段変速機701の油圧モータ部705の旋回回転によって左右リングギヤ728を駆動することによって、左右の走行クローラ3の速度に差が生じ、走行機体2は前進又は後退しながら信地旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回(Uターン)する。このときの旋回半径は左右の走行クローラ3の速度差に応じて決定される。
次に、PTO変速機構505を介して実行するPTO軸25の駆動速度の切換構造(正転三段及び逆転一段)について説明する。直進用ミッションケース17には、エンジン5からの動力をPTO軸25に伝達するPTO変速機構505を配置している。この場合、主変速入力軸511の後端側に、動力伝達継断用のPTO油圧クラッチ590を介して、主変速入力軸511と同軸状に延びるPTO入力軸591を連結している。また、直進用ミッションケース17には、PTO入力軸591と平行状に延びるPTO変速軸592、PTOカウンタ軸593及びPTO軸25を配置している。PTO軸25は直進用ミッションケース17後面から後方に突出している。
PTOクラッチスイッチ53を動力接続操作すると、PTO油圧クラッチ590が動力接続状態となって、主変速入力軸511とPTO入力軸591とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速入力軸511からPTO入力軸591に向かって回転動力が伝達される。PTO入力軸591に、複数の変速用入力ギヤと逆転用入力ギヤとが設けられており、PTO変速軸592に、複数の変速用ギヤとPTO伝動ギヤが設けられており、PTOカウンタ軸593に、PTO中継ギヤとPTO逆転ギヤとPTO出力ギヤが設けられている。
PTO変速レバー46を変速操作すると、PTO変速シフタがPTO変速軸592に沿ってスライド移動し、複数の変速用ギヤの一つがPTO変速軸592に択一的に連結される。その結果、PTO変速出力が、PTO変速軸592からPTOカウンタ軸593を介してPTO軸25に伝達される。副PTOレバー48を入り操作すると、逆転用入力ギヤ(逆転シフタギヤ)がPTOカウンタ軸のPTO逆転ギヤと噛み合い、PTO入力軸591の回転動力が、PTOカウンタ軸593を介してPTO軸25に伝達される。
上述したように、本実施形態のトラクタ1は、エンジン5と旋回用の油圧式無段変速機701との間に旋回用クラッチ機構300が設けられている。一方、動力合成機構となる遊星ギヤ機構703と直進用の油圧機械式無段変速機500との間には、前後進切換機構501、クリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503等による直進用クラッチ機構が設けられる。
従って、エンジン5から油圧式無段変速機701への動力伝達の継断と、油圧機械式無段変速機500からの動力伝達の継断とが、それぞれ独立して制御されることとなり、走行機体2の旋回動作と直進動作とを最適に制御できる。すなわち、直進用の油圧機械式無段変速機500及び旋回用の油圧式無段変速機701のいずれかに異常が発生して緊急停止させる場合であっても、各油圧機械式無段変速機500,701における動力伝達を切断して、安全にトラクタ1を停止させることができる。
また、エンジン5始動時において、旋回用の油圧式無段変速機701のポンプ斜板708が傾いている場合であっても、油圧式無段変速機701への動力伝達を切断することで、油圧式無段変速機701からの出力を停止させて、予期せぬ旋回動作を防止できる。更に、低温時にエンジン5を始動させる場合など、作動油の粘度が高い場合に、油圧式無段変速機701とエンジン5との連結を解放させることにより、エンジン5にかかる負荷を低減させ、エンジン5を円滑に始動させることができる。
次に、図12を参照しながら、トラクタ1の油圧回路620構造について説明する。トラクタ1の油圧回路620は、エンジン5の回転動力によって駆動する作業機用油圧ポンプ481及び走行用油圧ポンプ482を備えている。実施形態では、直進用ミッションケース17が作業油タンクとして利用されていて、直進用ミッションケース17内の作動油が作業機用油圧ポンプ481及び走行用油圧ポンプ482に供給される。走行用油圧ポンプ482は、直進用の油圧機械式無段変速機500における油圧ポンプ部521と油圧モータ部522とをつなぐ閉ループ油路623に接続している。エンジン5の駆動中は、走行用油圧ポンプ482からの作動油が閉ループ油路623に常に補充される。
また、走行用油圧ポンプ482は、油圧機械式無段変速機500の主変速油圧シリンダ524に対する主変速油圧切換弁624と、PTO油圧クラッチ590に対するPTOクラッチ電磁弁627及びこれによって作動する切換弁628とに接続している。更に、走行用油圧ポンプ482は、前進低速油圧クラッチ537を作動させる前進低速クラッチ電磁弁632と、前進高速油圧クラッチ539を作動させる前進高速クラッチ電磁弁633と、後進油圧クラッチ541を作動させる後進クラッチ電磁弁634と、前記各クラッチ電磁弁632〜634への作動油供給を制御するマスター制御電磁弁635とに接続している。
また、作業機用油圧ポンプ481が、直進用ミッションケース17の上面後部側にある油圧式昇降機構22の上面に積層配置した複数の油圧外部取出バルブ430と、油圧式昇降機構22における油圧リフトシリンダ117上側への作動油供給を制御する複動制御電磁弁432と、右リフトロッド121に設けた水平シリンダ122への作動油供給を制御する傾斜制御電磁弁647と、油圧式昇降機構22における油圧リフトシリンダ117下側への作動油供給を制御する上昇油圧切換弁648及び下降油圧切換弁649と、上昇油圧切換弁648を切換作動させる上昇制御電磁弁650と、下降油圧切換弁649を作動させる下降制御電磁弁651とに接続している。なお、複動バルブ機構431が、複動制御電磁弁432を含む油圧回路で構成されており、昇降バルブ機構652が、上昇油圧切換弁648及び下降油圧切換弁649と上昇制御電磁弁650及び下降制御電磁弁651による油圧回路で構成される。
傾斜制御電磁弁647を切換駆動させると、水平シリンダ122が伸縮動して、前部側にあるロワーリンクピンを支点にして右側のロワーリンク23が上下動する。その結果、左右両ロワーリンク23を介して対地作業機18が走行機体2に対して左右に傾動して、対地作業機18の左右傾斜角度が変化する。複動制御電磁弁432を切換制御することにより、油圧リフトシリンダ117の駆動方式として、単動式又は複動式のいずれかを選択できる。すなわち、単複動切換スイッチ56の切換動作に従って、複動制御電磁弁432を切り換えることで、油圧リフトシリンダ117の駆動方式が設定される。
油圧リフトシリンダ117を単動式で駆動させる場合、上昇油圧切換弁648又は下降油圧切換弁649を切換作動させると、油圧リフトシリンダ117が伸縮動し、リフトアーム120及び左右両ロワーリンク23が共に上下動する。その結果、対地作業機18が昇降動し、対地作業機18の昇降高さ位置が変化する。一方、油圧リフトシリンダ117を複動式で駆動させる場合、上昇油圧切換弁648又は下降油圧切換弁649を切換作動させると同時に複動制御電磁弁432を切換駆動させて、油圧リフトシリンダ117を伸縮動させる。これにより、対地作業機18が昇降動させることができるとともに、対地作業機18を下降させたときに地面に向かって加圧し、対地作業機18を下降位置に保持できる。
また、トラクタ1の油圧回路620は、エンジン5の回転動力によって駆動するチャージポンプ707を備え、チャージポンプ707が、旋回用の油圧式無段変速機701における油圧ポンプ部704と油圧モータ部705とをつなぐ閉ループ油路740に接続している。実施形態では、直進用ミッションケース17が作動油タンクとして利用されていて、直進用ミッションケース17内の作動油が、オイルフィルタ(サクションフィルタ)743を介してチャージポンプ707に供給される。そして、エンジン5の駆動中は、チャージポンプ707からの作動油が、オイルフィルタ(ラインフィルタ)744を介して閉ループ油路740に常に補充される。トラクタ1の油圧回路620は、油圧式無段変速機701における油圧ポンプ部704のポンプ斜板708角度を変更させる旋回油圧シリンダ741と、旋回油圧シリンダ741に対する旋回油圧切換弁742とを備える。
トラクタ1の油圧回路620は、前述の作業機用油圧ポンプ481及び走行用油圧ポンプ482以外に、エンジン5の回転動力で駆動する潤滑油ポンプ518も備えている。潤滑油ポンプ518には、PTO油圧クラッチ590の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給するPTOクラッチ油圧切換弁641と、油圧機械式無段変速機500を軸支する主変速入力軸511の潤滑部と、前進低速油圧クラッチ537の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給する前進低速クラッチ油圧切換弁642と、前進高速油圧クラッチ539の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給する前進高速クラッチ油圧切換弁643と、後進油圧クラッチ541の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給する後進クラッチ油圧切換弁644とに接続している。なお、油圧回路620には、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等を備えている。
次いで、旋回用ミッションケース13周辺の構成について、図13〜図20を参照して以下に説明する。図13〜図16に示す如く、旋回用ミッションケース13は、油圧式無段変速機701を内蔵する旋回用変速機ケース91と、旋回用クラッチ機構300及びモータ軸709を内装する中継ケース92と、エンジン5及び直進用ミッションケース17からの回転動力が入力されるとともに車軸16に回転動力を出力するギヤ機構を備えた入出力ケース93とから構成される。旋回用変速機ケース91は、前面にチャージポンプ707が配置されており、その上面に旋回油圧切換弁742が配置されている。旋回用変速機ケース91の後方に、中継ケース92を介して入出力ケース93が連結されており、入出力ケース93の両側に車軸ケース90が連結されている。
図13及び図15等に示す如く、オイルフィルタ743,744が、旋回用ミッションケース13前方に併設されている。オイルフィルタ743,744は、左右エンジンフレーム14前端を連結させるフレーム連結部材12aの左右上縁に架設されているフィルタ固定ブラケット459に吊り下げ固定されている。また、旋回用ミッションケース13上方には、左右のエンジンフレーム14に架設された仕切り板460が設けられている。仕切り板460は、中継ケース92と入出力ケース93との境界位置より前側に設けられる。
旋回用ミッションケース13に作動油を循環させる油圧配管450が、直進用ミッションケース17から旋回用ミッションケース13に向かって延設されている。直進用ミッションケース17側の油圧配管450は、走行機体2(エンジンフレーム14及び機体フレーム15)外側で走行機体2に沿って配設される。一方、旋回用ミッションケース13側の油圧配管450は、走行機体2内側に配設され、走行機体2内側に設けたフィルタ743,744を介して旋回用ミッションケース13に接続され、油圧配管450の一部が仕切り板460により支持されている。
図15〜図19に示す如く、旋回用クラッチ機構300は、エンジン5からの入力側と油圧式無段変速機701への出力側とを継断するメインクラッチ304と、メインクラッチ304の継断動作における衝撃を緩和させる緩衝クラッチ305とを備えている。メインクラッチ304が噛み合わせクラッチ(ドグクラッチ)で構成されており、緩衝クラッチ305が摩擦クラッチで構成されている。
このように構成することで、旋回用クラッチ機構300を接続する際に、緩衝クラッチ305により徐々に入力側の回転を出力側に伝達させた後に、メインクラッチ304を接続できる。従って、旋回用クラッチ機構300の接続時にかかる衝撃を低減し、旋回用クラッチ機構300の構成部品の破損や劣化を抑制できる。また、エンジン5からの動力が油圧式無段変速機701に急激に伝達されることがないことから、旋回用クラッチ機構300の接続時において急激な旋回動作を防止でき、走行時の安全性を確保できる。更に、旋回用クラッチ機構300の接続時においてエンジン5に対して油圧式無段変速機701からの負荷が急激にかかることがなく、エンジン5のエンジンストールを防止するだけでなく、エンジン5を円滑に始動できる。
旋回用クラッチ機構300は、ポンプ軸706と連結したクラッチ出力軸306と、クラッチ出力軸306に対して同心状に配置されたクラッチ中継軸307とを備えている。クラッチ入力軸301及びクラッチ出力軸306は、それぞれが相対する一端に、クラッチ入力爪部308及びクラッチ出力爪部309を有しており、クラッチ入力爪部308及びクラッチ出力爪部309によりメインクラッチ304を構成する。クラッチ中継軸307は、スラスト軸受310を介してクラッチ出力軸306に相対回転不能且つ軸線方向にスライド可能に被嵌されている。クラッチ中継軸307が、クラッチ出力軸306に対して軸方向にスライドすることで、クラッチ入力爪部308及びクラッチ出力爪部309が接離し、メインクラッチ304が継断する。
クラッチ入力軸301は、両端部が入出力ケース93で軸支されており、クラッチ入力爪部308が設けられた一前端の中央部分に挿入穴311が穿設されている。クラッチ出力軸306は、その前端が中継ケース92に軸支される一方、その後端が挿入穴311に挿入され、緩衝クラッチ305を介してクラッチ入力軸301に回転可能に軸支されている。クラッチ出力軸306は、その前端の中央部分に連結穴312が穿設されており、連結穴312に挿入されたポンプ軸706と相対回転不能に連結している。
円筒状のクラッチ中継軸307は、その前端にリング状の挿入溝313が穿設されて複数のバネ314が挿入されており、その後端にクラッチ出力爪部309が突設けられている。複数のバネ314の前端が、クラッチ出力軸306の後端に固着されたバネ止めリング315に固定されて、複数のバネ314がクラッチ出力軸306の外周に周設され、クラッチ中継軸307をクラッチ入力軸301側(後側)に付勢する。クラッチ中継軸307の中途部の外周面に係止溝316が刻設されており、この係止溝316に旋回用シフタ302先端が係止されている。旋回用シフタ302が前後方向に移動することで、クラッチ中継軸307が連動して、クラッチ入力軸301及びクラッチ出力軸306に対して軸方向に相対移動する。
クラッチ中継軸307の内周壁の前方側に段差部317が設けられており、バネ止めリング318が段差部317で固定されている。バネ止めリング318は、クラッチ出力軸306外周面に軸方向にスライド可能に嵌合されており、クラッチ出力軸306後端から嵌合されたバネ319の前端を固着している。バネ319の後端には、同じくクラッチ出力軸306後端から嵌合された押圧リング320が固着されている。すなわち、クラッチ中継軸307の段差部317と緩衝クラッチ305との間に、後端に押圧リング320を有するバネ319が設置されている。バネ319が、クラッチ中継軸307と共に、クラッチ入力軸301及びクラッチ出力軸306に対して軸方向に相対移動し、押圧リング320と緩衝クラッチ305とを接離させ、緩衝クラッチ305が継断する。
メインクラッチ304及び緩衝クラッチ305が共に切断された状態にあるとき、クラッチ入力軸301前端とクラッチ中継軸307後端との間隔L1が、緩衝クラッチ305前端と押圧リング320後端との間隔L2に比べて広くなる。従って、旋回用クラッチ機構300が接続される際に、旋回用シフタ302によりクラッチ中継軸307が後方にスライド移動されると、クラッチ中継軸307によりバネ319及び押圧リング320が押動されて、まず、緩衝クラッチ305と押圧リング320が当接する。このようにして、緩衝クラッチ305が接続された後、クラッチ中継軸307が更に後方にスライド移動されると、クラッチ中継軸307のクラッチ出力爪部309がクラッチ入力軸301のクラッチ入力爪部308に噛合して、メインクラッチ304が接続される。
すなわち、旋回用クラッチ機構300が接続される際、まず、押圧リング320が緩衝クラッチ305と当節することで、緩衝クラッチ305が半クラッチ状態となり、クラッチ入力軸301からの回転がクラッチ出力軸306及びクラッチ中継軸307に伝達される。そして、クラッチ中継軸307がクラッチ入力軸301に近接するにつれて、押圧リング320に対するバネ319の付勢力が大きくなる。これにより、クラッチ出力軸306及びクラッチ中継軸207それぞれの回転速度がクラッチ入力軸301の回転速度に近づいた状態で、クラッチ中継軸307のクラッチ出力爪部309がクラッチ入力軸301のクラッチ入力爪部308に噛合して、メインクラッチ304が接続される。
旋回用クラッチ機構300は、油圧式無段変速機701への出力側に旋回用ブレーキ機構321が設けられており、旋回用クラッチ機構300の切断時において、旋回用ブレーキ機構321が油圧式無段変速機701への入力を制動する。旋回用ブレーキ機構321は、クラッチ中継軸307の前端側外周面に嵌着されており、クラッチ中継軸307吐と共に軸方向に移動することで、中継ケース92の内壁面に設けた段差部322に対して接離する。
旋回用クラッチ機構300が切断された状態にあるとき、クラッチ中継軸307が前方に移動しており、クラッチ中継軸307前方に設けられた旋回用ブレーキ機構321が中継ケース92の段差部322に押圧され、クラッチ中継軸307の回転が制動される。すなわち、旋回用クラッチ機構300の切断時において、旋回用ブレーキ機構321の制動作用により、クラッチ出力軸306及びクラッチ中継軸307の回転が確実に停止されるため、油圧式無段変速機701のポンプ軸706の回転が停止される。従って、旋回用クラッチ機構300の切断時において、油圧式無段変速機701のポンプ斜板708の傾きにかかわらず、ポンプ軸706の回転を強制的に停止でき、走行機体2の予期せぬ旋回を防止できる。
電動アクチュエータ(モータ)303は、クラッチ位置切換機構330を介して、シフタ制御軸331に軸支された旋回用シフタ302を回動させて、旋回用クラッチ機構300を継断させる。図15、図19及び図20に示す如く、クラッチ位置切換機構330は、電動アクチュエータ303からの回転を入力アーム332で受けると、中継アーム333を介してカム334を回転させることで、シフタ制御軸331と連結した出力アーム335のローラ336を変位させて、シフタ制御軸331を回転させることで、旋回用シフタ302を回動させる。
電動アクチュエータ303は、クラッチ位置切換機構330を固定する筐体337の天板上面に載置されており、電動アクチュエータ303のモータ軸338が、筐体337の天板下側に貫通して、入力アーム332の一端と連結している。なお、筐体337は、中継ケース92の天板上面に固定されている。入力アーム332の他端には、突起部339が下側に突設されており、中継アーム333の一端側に設けられた長孔340に突起部339が係止されている。中継アーム333の他端が、中継アーム333の下側に設けられたカム334と連結するカム軸341と連結しており、カム軸341が筐体337の軸受部342に軸支されている。
出力アーム335は、その一端上面にローラ336を軸支する一方で、その他端にシフタ制御軸331を下側に立設し、シフタ制御軸331を軸芯として旋回用シフタ302と共に回動する。シフタ制御軸331は、その中途部に旋回用シフタ302の基端側が連結されており、中継ケース92に軸支されることで、出力アーム335の回転に合わせて、旋回用シフタ302の先端を前後方向に変位させ、クラッチ中継軸307を前後方向にスライド移動させる。
電動アクチュエータ303のモータ軸338が回転すると、入力アーム332の回転により中継アーム333が回動することで、カム軸341の下端に連結したカム334が回動する。このとき、中継アーム333の突起部339は、中継アーム333の長手方向に沿って設けられた長孔340をスライド移動する。カム軸341の回転により、カム334の外周面に当接しているローラ336が変位する。このとき、ローラ336を軸支している出力アーム335が、シフタ制御軸331を中心として回動することで、シフタ制御軸331を回転させ、旋回用シフタ302の先端を前後方向に変位させる。これにより、旋回用シフタ302により前後方向に旋回用シフタ302が押動されて、旋回用クラッチ機構300が継断する。
次に、図21〜図24を参照しながら、トラクタ1の走行制御を実行するための構成について説明する。図21に示す如く、トラクタ1は、対地作業機18の状態制御等を行う作業機コントローラ810と、エンジン5の駆動を制御するエンジンコントローラ811と、ダッシュボード33搭載の操作表示盤(メーターパネル)39の表示動作を制御するメータコントローラ812と、走行機体2の速度制御等を行う直進コントローラ813及び旋回コントローラ814と備えている。
上記コントローラ810〜814及び操作用モニタ55はそれぞれ、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるためのROM、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、時間計測用のタイマ、及び入出力インターフェース等を備えており、CAN通信バス815を介して相互に通信可能に接続されている。上記コントローラ810〜814は、電源印加用キースイッチ816を介してバッテリ817に接続されている。
エンジンコントローラ811による制御に基づき、エンジン5では、燃料タンクの燃料が燃料ポンプによってコモンレールに圧送され、高圧の燃料としてコモンレールに蓄えられる。そして、エンジンコントローラ811が、各燃料噴射バルブをそれぞれ開閉制御(電子制御)することで、不図示のコモンレール内の高圧の燃料が、噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)を高精度にコントロールされた上で、各インジェクタ(図示せず)からエンジン5の各気筒に噴射される。また、エンジンコントローラ811の入力側には、エンジン5の冷却水温度を検出する冷却水温センサ846、及び、エンジン5の回転速度(エンジン出力軸のカムシャフト位置)を検出するエンジン回転センサ847を接続しており、エンジンコントローラ811の出力側には、始動用モータ848及びグローヒータ849を接続している。
メータコントローラ812の出力側には、メータパネル39における液晶パネルや各種警報ランプなどを接続している。そして、メータコントローラ812は、メータパネル39に各種信号を出力し、警報ランプの点消灯動作及び点滅動作、液晶パネルの表示動作、警報ブザーの発報動作などを制御する。
直進コントローラ813の入力側には、主変速レバー50の操作位置を検出する主変速センサ(主変速ポテンショ)822、直進出力の回転数(直進車速)を検出する直進用ピックアップ回転センサ(直進車速センサ)823、前後進切換レバー36の操作位置を検出する前後進センサ(前後進ポテンショ)825、副変速レバー45の操作位置を検出する副変速センサ826、超低速レバー44の操作位置を検出するクリープセンサ827、ブレーキペダル35の踏み込み量を検出するブレーキ位置センサ828、クラッチペダル37の踏み込み量検出するクラッチ位置センサ829、ブレーキペダル35の踏み込みを検出するブレーキスイッチ851、クラッチペダル37の踏み込みを検出するクラッチスイッチ852、及び、駐車ブレーキレバー43の操作を検出する駐車ブレーキスイッチ853を接続している。
直進コントローラ813の出力側には、前進低速油圧クラッチ537を作動させる前進低速クラッチ電磁弁632、前進高速油圧クラッチ539を作動させる前進高速クラッチ電磁弁633、後進油圧クラッチ541を作動させる後進クラッチ電磁弁634、及び、主変速レバー50の傾動操作量に応じて主変速油圧シリンダ524を作動させる主変速油圧切換弁624を接続している。
旋回コントローラ814の入力側には、緊急時に走行機体2を非常停止させる緊急停止スイッチ58、操縦ハンドル9の回動量(操舵角)を検出する操舵角センサ(操舵ポテンショ)821、及び、旋回出力の回転数(旋回車速)を検出する旋回用ピックアップ回転センサ(旋回車速センサ)824を接続している。一方、旋回コントローラ814の出力側には、旋回用クラッチ機構300の継断を制御する電動アクチュエータ303、及び、操縦ハンドル9の回転操作量に応じて旋回油圧シリンダ741を作動させる旋回油圧切換弁742を接続している。
作業機コントローラ810の入力側には、作業機昇降レバー34、PTOクラッチスイッチ53、作業機昇降スイッチ57、走行機体2の左右傾斜角度を検出するローリングセンサ864、走行機体2に対する対地作業機18の相対的な左右傾斜角度を検出するポテンショメータ型の作業部ポジションセンサ865、及び油圧式昇降機構22と左右ロワーリンク23とをつなぐリフトアーム120の回動角度を検出するポテンショメータ型のリフト角センサ866を接続している。作業機コントローラ810の出力側には、複動制御電磁弁432、PTOクラッチ油圧切換弁641、傾斜制御電磁弁647、上昇制御電磁弁650、及び下降制御電磁弁651を接続している。
図22に示す如く、直進コントローラ813は、油圧機械式無段変速機(第1無段変速機)500を有する直進系伝動経路の出力を制御する直進走行演算部831と、操縦ハンドル9の操舵角に対する直進車速の減速率を格納した減速率テーブルTAを記憶するメモリ832と、CAN通信バス815と接続する通信インターフェース833とを備える。メモリ832内の減速率テーブルTAは、図23に示す如く、後述する「スピンターンモード(第1モード)」、「ブレーキターンモード(第2モード)」、「緩旋回モード(第3モード)」、及び「走行モード(第4モード)」の4モードに対して、操縦ハンドル9の操舵角に対する直進車速の減速率TA1〜TA4を記憶している。
なお、図23に示す減速率テーブルTAは、各モードにおける操縦ハンドル9を右側に回転させたとき(トラクタ1の右旋回時)の減速率を示しているが、操縦ハンドル9を左側に回転させたとき(トラクタ1の左旋回時)の減速率についても同様である。即ち、操縦ハンドル9を左右方向それぞれに回転させたとき(トラクタ1を左右旋回させたとき)、指定されたモードによる減速率を、操縦ハンドル9の中立位置(0°)から回転させた操舵角により減速率テーブルTAから読み取って、直進車速の減速率を設定する。また、減速率は、直進速度に乗算される比率であり、減速率が100%のときは、直進速度は減速されず、減速率が低くなるほど、直進速度が減速される。また、操縦ハンドル9は、操舵角検出機構(ステアリングボックス)880により、中立位置となる0°から左右にθe(例えば、250°)以上の回転が規制されている。
図23に示す如く、減速率テーブルTAは、操縦ハンドル9の操舵角が0°(中立位置)からθmi(例えば、15°)であるとき、操縦ハンドル9の中立領域(いわゆる遊びの領域であり、不感帯)とし、各モードの減速率TA1〜TA4を100%とする。そして、操縦ハンドル9の操舵角がθmiからθma(例えば、245°)であるとき、操縦ハンドル9の操作領域とし、スピンターンモード、ブレーキターンモード、及び走行モードそれぞれの減速率TA1,TA2,TA4を操舵角に応じて単調減少させる一方、緩旋回モードの減速率TA3を100%で一定とする。すなわち、操舵角θmiが制御上における中立位置(0°)であり、操舵角θmaが制御上における最大操舵角となる。このとき、走行モード、ブレーキターンモード、スピンターンモードの順で、操舵角に対する減速率の変化率が大きくなっている。また、操縦ハンドル9の操舵角がθmaからθeであるとき、操縦ハンドル9の最大領域とし、スピンターンモード、ブレーキターンモード、及び走行モードにおいては、減速率TA1,TA2,TA4が最小値De1〜De3(0<De1<De2<De3<100)%となる。
図22に示す如く、旋回コントローラ814は、油圧式無段変速機(第2無段変速機)701を有する旋回系伝動経路の出力を制御する旋回走行演算部841と、操縦ハンドル9の操舵角に対する直進車速と旋回車速との旋回/直進比を格納した旋回/直進比テーブルTBを記憶するメモリ842と、CAN通信バス815と接続する通信インターフェース843とを備える。メモリ842内の旋回/直進比テーブルTBは、図23に示す如く、後述する「スピンターンモード(第1モード)」、「ブレーキターンモード(第2モード)」、「緩旋回モード(第3モード)」、及び「走行モード(第4モード)」の4モードに対して、操縦ハンドル9の操舵角に対する旋回/直進比TB1〜TB4を記憶している。
なお、図23に示す旋回/直進比テーブルTBは、各モードにおける操縦ハンドル9を右側に回転させたとき(トラクタ1の右旋回時)を正とするものとした旋回/直進比を示している。また、旋回/直進比は、減速率により減速された直進速度に乗算される比率であり、旋回/直進比が0のときは、旋回速度がなく、左右の走行クローラ3がともに同一の直進速度で駆動し、旋回/直進比が高くなるほど、旋回速度が大きくなるため、左右の走行クローラ3の速度差が大きくなる。以下では、主に、操縦ハンドル9を右側に回転させた場合(右旋回時)の旋回/直進比について説明するものとし、操縦ハンドル9を左側に回転させた場合(左旋回時)の旋回/直進比については、括弧書きで補足する。
図23に示す如く、旋回/直進比テーブルTBは、操縦ハンドル9の操舵角が0°〜θmi(−θmi〜0°)となる中立領域では、各モードの旋回/直進比TB1〜TB4を0とする。そして、操縦ハンドル9の操舵角がθmi〜θma(−θma〜−θmi)となる操縦ハンドル9の操作領域では、スピンターンモード、ブレーキターンモード、緩旋回モード、及び走行モードそれぞれの旋回/直進比TB1〜TB4を操舵角に応じて単調増加させる。このとき、緩旋回モード、走行モード、ブレーキターンモード、スピンターンモードの順で、操舵角に対する旋回/直進比の変化率が大きくなっている。
また、操縦ハンドル9の操舵角がθma〜θe(−θe〜−θma)となる最大領域では、各モードにおいて、旋回/直進比が最大値Ra1〜Ra4(最小値−Ra1〜−Ra4)となる。なお、図23に示す如く、最大旋回/直進比Ra1〜Ra4(−Ra1〜−Ra4)は、0<Ra1<Ra2<Ra3<Ra4(−Ra4<−Ra3<−Ra2<−Ra1<0)の関係となっており、操縦ハンドル9の操舵角を最大領域としたとき、緩旋回モードにおいて最大旋回/直進比Ra1(−Ra1)となり、走行モードにおいて最大旋回/直進比Ra2(−Ra2)となり、ブレーキターンモードにおいて最大旋回/直進比Ra3(−Ra3)となり、スピンターンモードにおいて最大旋回/直進比Ra4(−Ra4)となる。
直進コントローラ813において、図24に示す如く、直進走行演算部831は、前後進センサ825からの信号を受けて、「前進」「中立」「後進」のいずれが指定されているかを認識し、副変速センサ826及びクリープセンサ827からの信号を受けて、「高速」「低速」「超低速」「中立」のいずれが指定されているかを認識する(STEP1)。直進走行演算部831は、主変速センサ822からの信号を受けて、直進状態(操舵角が0°の状態)における直進車速の目標値(以下、「直進基準目標値」とする。)を算出する(STEP2)。
直進コントローラ813は、旋回コントローラ814を通じて、操舵角センサ821からの信号を通信インターフェース833で受信し、直進走行演算部831に操舵角センサ821からの信号を与える(STEP3)。直進走行演算部831は、操舵角センサ821からの信号を受けて、操縦ハンドル9の操舵角を認識すると、メモリ832内の減速率テーブルTAを参照して、指定されたモードにおける操縦ハンドル9の操舵角に応じた直進車速の減速率を読み出す(STEP4)。
そして、直進走行演算部831は、主変速センサ822からの信号に基づく直進基準目標値に、読み出した減速率を乗算することにより、操舵角に応じた直進車速の目標値(以下、「直進目標値」とする。)を算出する(STEP5)。なお、直進基準目標値及び直進目標値における「直進車速」は、エンジン5の回転速度に対する直進用ミッションケース17における走行伝動軸536の回転速度の相対速度とする。
直進走行演算部831は、ブレーキ位置センサ828、クラッチ位置センサ829からの信号を受けて、ブレーキペダル35及びクラッチペダル37それぞれの踏み込みの有無を確認する(STEP6)。そして、直進走行演算部831は、ブレーキペダル35への機体停止操作の有無、クラッチペダル37への操作の有無、前後進切換レバー36又は副変速レバー45が中立位置にあるか否かを確認する(STEP7)。
直進走行演算部831は、機体停止操作があった場合、又は、クラッチペダル37に踏み込み操作がある場合、又は、前後進切換レバー36又は副変速レバー45が中立位置にある場合(STEP7でYes)、直進用ピックアップ回転センサ823からの信号(以下、「直進実測値」とする)を、通信インターフェース833から旋回コントローラ814に送信する(STEP8)。その後、直進走行演算部831は、前進の場合は、前進低速クラッチ電磁弁632、前進高速クラッチ電磁弁633、及び、後進クラッチ電磁弁634の動作を制御して、前進低速油圧クラッチ537、前進高速油圧クラッチ539、及び後進油圧クラッチ541を切断する(STEP9)。
一方、直進走行演算部831は、機体停止操作がなく、且つ、クラッチペダル37両方に踏み込み操作がなく、且つ、前後進切換レバー36が前進位置又は後進位置にあり、且つ、副変速レバー45が超低速位置、低速位置又は高速位置のいずれかにある場合(STEP7でNo)、算出した直進目標値を、通信インターフェース833から旋回コントローラ814に送信する(STEP10)。その後、直進走行演算部831は、算出した直進目標値に基づき、前進の場合は、前進低速クラッチ電磁弁632、前進高速クラッチ電磁弁633、及び主変速油圧切換弁624の動作を制御する一方、後進の場合は、後進クラッチ電磁弁634、及び主変速油圧切換弁624の動作を制御する(STEP11)。これにより、全ての油圧クラッチ537,539,541がいずれも動力切断状態となり、主変速出力軸512からの走行駆動力が略ゼロ(主クラッチ切りの状態)になる。
すなわち、STEP11において、直進走行演算部831は、直進実測値(直進用ピックアップ回転センサ823からの信号)と直進目標値とに基づき、直進系伝動経路の出力(直進用出力軸30による回転速度)をフィードバック制御(主変速制御)する。なお、副変速センサ826及びクリープセンサ827からの信号により指定される変速ギヤ比に基づき、直進用ピックアップ回転センサ823からの信号から走行伝動軸536の回転速度を確認し、直進目標値と比較することで、直進系伝動経路の出力を制御する。
旋回コントローラ814において、図24に示す如く、旋回走行演算部841は、操舵角センサ821からの信号を受けて、操縦ハンドル9の操舵角を認識する(STEP51)。旋回走行演算部841は、メモリ842内の旋回/直進比テーブルTBを参照して、指定されたモードにおける操縦ハンドル9の操舵角に応じた旋回/直進比を読み出す(STEP52)。
また、旋回コントローラ814は、直進コントローラ813を通じて、副変速センサ826及びクリープセンサ827からの信号を通信インターフェース843で受信し、旋回走行演算部841に与える(STEP53)。旋回走行演算部841は、副変速センサ826及びクリープセンサ827からの信号により、副変速として「高速」「低速」「超低速」のいずれが指定されているかを認識する。旋回走行演算部841は、指定された副変速に基づいて旋回/直進比の補正値をメモリ842から読み出し、指定された副変速に基づいて旋回/直進比を補正する(STEP54)。
また、旋回コントローラ814は、直進コントローラ813で算出された直進目標値又は直進実測値(直進用ピックアップ回転センサ823からの信号)を、通信インターフェース843で受信し、旋回走行演算部841に与える(STEP55)。旋回走行演算部841は、直進目標値又は直進実測値より直進車速を確認し、当該直進車速に補正後の旋回/直進比を乗算することで、旋回車速となる旋回目標値を算出する(STEP56)。なお、旋回目標値における「旋回車速」は、エンジン5の回転速度に対する旋回用ミッションケース13におけるモータ軸709の回転速度の相対速度とする。
旋回走行演算部841は、旋回目標値を算出すると、旋回油圧切換弁742の動作を制御する。このとき、旋回走行演算部841は、旋回用ピックアップ回転センサ824からの信号(以下、「旋回実測値」とする)と旋回目標値とに基づき、旋回系伝動経路の出力(モータ軸709による回転速度)をフィードバック制御(旋回制御)する(STEP57)。
直進コントローラ813は、主変速制御を実行している際に、前後進センサ825からの信号が「前進から後進」又は「後進から前進」に切り換えられたとき、前進低速クラッチ電磁弁632及び後進クラッチ電磁弁634を制御して、前進低速油圧クラッチ537及び後進油圧クラッチ541を切り換える。このように、前進低速油圧クラッチ537及び後進油圧クラッチ541を切り換える際、直進コントローラ813は、前進低速油圧クラッチ537及び後進油圧クラッチ541のいずれか一方が必ずつながっているように制御する。
このとき、直進基準目標値(又は直進目標値)を変化させることで、主変速油圧切換弁624を制御して、主変速出力軸512や走行中継軸535は最低速回転状態にした後に、再び、元の回転数となるように、主変速出力軸512や走行中継軸535の回転数を増速させる。従って、旋回コントローラ814は、直進コントローラ813からの直進目標値を受けることによって、旋回目標値を直進目標値と同様に変化させることができる。これにより、旋回コントローラ814は、走行機体2の前進時と後進時で操縦ハンドル9の操作に対する旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を逆転させて、オペレータに円滑な操縦性を寄与できる。
直進コントローラ813は、主変速制御を実行している際に、前後進センサ825からの信号が「前進」の状態で主変速レバー50により高速側又は低速側に操作された場合、前進低速クラッチ電磁弁632及び前進高速クラッチ電磁弁633を制御して、前進低速油圧クラッチ537及び前進高速油圧クラッチ539を切り換える。このように、前進低速油圧クラッチ537及び前進高速油圧クラッチ539を切り換える際、直進コントローラ813は、前進低速油圧クラッチ537及び前進高速油圧クラッチ539のいずれか一方が必ずつながっているように制御する。
このとき、直進コントローラ813は、直進目標値に合わせて、主変速油圧切換弁624を制御する。また、旋回コントローラ814は、直進コントローラ813からの直進目標値を受けることによって、操縦ハンドル9の操作に対する旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を設定させるため、前進低速油圧クラッチ537及び前進高速油圧クラッチ539の切換に影響なく、複雑な演算を行うことなく、直進系伝動経路の出力(直進車速)に応じた旋回系伝動経路の出力(旋回車速)をできる。
直進コントローラ813は、クラッチペダル37等が踏み込まれるなどして、前進低速油圧クラッチ537、前進高速油圧クラッチ539、及び、後進油圧クラッチ541のそれぞれを切った状態に制御する場合、直進実測値(直進用ピックアップ回転センサ823からの信号)を旋回コントローラ814に送信する。そして、旋回コントローラ814は、直進実測値(直進用ピックアップ回転センサ823からの信号)により旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を設定する。従って、前進高速油圧クラッチ539、及び、後進油圧クラッチ541の全てが切れており、直進系伝動経路の出力(直進車速)が直進目標値に対応していない場合でも、旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を最適に設定できるため、オペレータは違和感なく車両を操作できる。
直進コントローラ813は、ブレーキペダル35が踏み込まれて、急ブレーキ操作などによる機体停止操作がなされたとき、走行速度(直進車速)が所定速度以上の高速領域では、前進低速油圧クラッチ537、前進高速油圧クラッチ539、及び、後進油圧クラッチ541のそれぞれを切った状態に制御する。このとき、旋回コントローラ814は、直進実測値(直進用ピックアップ回転センサ823からの信号)により旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を設定する。従って、ブレーキペダル35操作による制動制御が実行されている際に、直進系伝動経路の出力(直進車速)が直進目標値に対応していない場合でも、旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を直進系伝動経路の出力(直進車速)に合わせて減速できるため、オペレータは違和感なく車両を操作できる。
一方で、ブレーキペダル35に対して機体停止操作がなされた状態であっても、走行速度(直進車速)が所定速度未満の低速領域となる場合は、直進コントローラ813は、車両の前後進に合わせて、前進低速油圧クラッチ537又は後進油圧クラッチ541を繋いだ状態で、油圧機械式無段変速機500のポンプ斜板523が中立状態(0°)となるように直進目標値を設定し、主変速制御(フィードバック制御)を実行する。このとき、旋回コントローラ814は、直進実測値により旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を設定するものとしてもよいし、直進目標値により旋回系伝動経路の出力を設定するものとしてもよい。
旋回コントローラ814は、直進系伝動経路の出力(直進車速)の減速に伴って旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を減速させる。そして、操縦ハンドル9が操作された場合、旋回コントローラ814が、旋回系伝動経路の出力(旋回車速)を増速させ、旋回コントローラ814が、直進系伝動経路(直進車速)の出力を減速させて、操縦ハンドル9の切れ角(操舵角)に基づいて旋回時の左右の走行クローラ3の速度比を決定する。
また、オペレータは、操作用モニタ55を操作することにより、ハンドル切れ角が大きい場合に旋回内側を逆転させて小回り(スピンターン)ができる「スピンターンモード(第1モード)」と、スピンターンモードに比べて切れが鈍くハンドル切れ角が最大近くとなったときに旋回内側を停止させるブレーキターンまで実行できる「ブレーキターンモード(第2モード)」と、ブレーキターンモードに比べて更に切れが鈍い「緩旋回モード(第3モード)」と、高速車速に対応可能な「走行モード(第4モード)」とを選択できる。なお、超低速レバー44及び副変速レバー45により超低速走行又は低速走行が指定されている場合、「スピンターンモード」、「ブレーキターンモード」、及び「緩旋回モード」のいずれかによる旋回動作が許可される。一方、超低速レバー44により高速走行が指定される場合、「走行モード」による旋回動作のみが許可される。
更に、オペレータは、操作用モニタ55を操作することにより、旋回時の旋回力を複数段階に調節できる。従って、オペレータは、操作用モニタ55を操作することにより、複数のモードから択一的に選択できる上、段階的な調節も可能なため、圃場状況等に見合った適切な走行特性(旋回特性)を手軽に選定できる。
「スピンターンモード」を指定した場合、操縦ハンドル9の切れ角が角度θt1(θmi<θt1<θma)となったときに、内側の走行クローラ3を停止させて、走行機体2をブレーキターンにより旋回させ、操縦ハンドル9の切れ角が角度θt1を超えると、内側の走行クローラ3を逆回転させて、走行機体2をスピンターンにより旋回させる。また、「ブレーキターンモード」を指定した場合、操縦ハンドル9の切れ角を制御上の最大角θmaに近い角度θt2(θt1<θt2<θma)となったとき、走行機体2をブレーキターンにより旋回させる。「緩旋回モード」を指定した場合、操縦ハンドル9の切れ角を制御上の最大角θma以上としても、内側の走行クローラ3は停止にいたらず、走行機体2を緩旋回させる。また、「走行モード」においても、ブレーキターン及びスピンターンによる旋回動作を実行できない。
旋回コントローラ814は、STEP56で旋回目標値を算出する際、直進用ミッションケース17(直進系伝動経路)内の動力継断機構により油圧機械式無段変速機500からの出力が遮断されている場合、内側の走行クローラ3による逆回転動作を禁止する。これにより、直進用ミッションケース17内での動力伝達が遮断された際に、旋回用ミッションケース13から走行クローラ3へ出力される反転動力を制限でき、走行機体2による信地旋回が連続して実行されることを防止できる。
エンジンコントローラ811は、エンジン5を始動させる際に、エンジン5の冷却水温に基づいて、旋回用クラッチ機構300の継断を旋回コントローラ814に要求する。以下では、エンジンコントローラ811によるエンジン5の始動制御について、図25のフローチャートを参照して説明する。
図25に示す如く、エンジンコントローラ811は、キースイッチ816がONとなったことを確認すると(STEP101でYes)、冷却水温センサ846からの信号を受信するとともに、前後進ポテンショ825及びPTOクラッチスイッチ53それぞれの信号を直進コントローラ813及び作業機コントローラ810それぞれから受信する(STEP102〜STEP104)。
エンジンコントローラ811は、前後進ポテンショ825からの信号に基づき、前後進切換レバー36が中立位置にない場合は(STEP105でNo)、前後進切換レバー36を中立位置とするように、メータコントローラ812を介してメータパネル39に表示させるなどして、オペレータに通知する(STEP106)。また、エンジンコントローラ811は、PTOクラッチスイッチ53からの信号に基づき、PTO油圧クラッチ590が切断されていない場合は(STEP107でNo)、PTO油圧クラッチ590が切断するように、メータコントローラ812を介してメータパネル39に表示させるなどして、オペレータに通知する(STEP108)。
エンジンコントローラ811は、前後進切換機構501が中立状態であり(STEP105でYes)、且つ、PTO油圧クラッチ590が切断されている(STEP107でYes)ことを確認すると、エンジン5の冷却水温が所定温度TE1以下であるか否かを確認する(STEP109)。尚、所定温度TE1は、エンジン5の始動に支障のある低温環境であるか否かを判定する閾値であり、例えば、−20℃に設定してもよく、更に安定して始動させる場合は、−10°に設定してもよい。
エンジンコントローラ811は、エンジン5の冷却水温が所定温度TE1以下である場合(STEP109でYes)、グローヒータ849を作動させてエンジン5に吸気される空気を加熱させる(STEP110)。そして、エンジンコントローラ811は、旋回用コントローラ814を介して、電動アクチュエータ303に信号を送信し、旋回用クラッチ機構300を切断させる(STEP111)。エンジンコントローラ811は、クラッチ位置切換機構330のカム334が回転して、旋回用クラッチ機構300が確実に切断された状態となるまで待機した後、始動用モータ848を駆動させる(STEP112)。
その後、エンジンコントローラ811は、エンジン回転センサ847からの信号を受信すると(STEP113)、エンジン5のエンジン回転数が所定回転数Rp1以上であるか否かを確認する(STEP114)。エンジン5のエンジン回転数が所定回転数Rp1以上となった場合(STEP114でYes)、旋回用コントローラ814を介して、電動アクチュエータ303に信号を送信し、旋回用クラッチ機構300を接続させる(STEP115)。尚、所定回転数Rp1は、エンジンストールの可能性の低い回転数として、例えば、200rpmとしても構わないし、更に安定して始動させる場合は、500rpmとしてもよい。
エンジンコントローラ811は、エンジン5の冷却水温が所定温度TE1より高い場合(STEP109でNo)、始動用モータ848を駆動させる(STEP116)。その後、旋回用クラッチ機構300が接続されていない場合(STEP117でNo)、エンジン回転センサ847からの信号を受信して、エンジン5のエンジン回転数が所定回転数Rp1以上となったときに、旋回用クラッチ機構300を接続させる(STEP113〜STEP115)。
本実施形態のトラクタ1は、エンジン5の始動時において、エンジン5の冷却水温が所定温度TE1以下である場合に、旋回用クラッチ機構300を切断する。従って、低温環境下で作動油の粘度が高くなる場合であっても、油圧式無段変速機701との連結が解放されるため、エンジン5の低温始動時における負荷を低減し、安定してエンジン5を始動できる。
本実施形態のトラクタ1は、エンジン5の始動時において、エンジン5の回転数が所定回転数Rp1以上となったときに、旋回用クラッチ機構300を接続する。従って、油圧式無段変速機701による負荷が大きくなる場合であっても、エンジン5が十分な回転数で駆動しているため、エンジン5がエンジンストールを起こすことがない。
また、エンジン5からの回転動力が油圧式無段変速機701に円滑に伝達されるため、エンジン5のハンチング動作を防止できるとともに、油圧式無段変速機701の急激な作用による旋回をも防止でき、安全にエンジン5を始動できる。更に、エンジン5が安定した回転となった後で油圧式無段変速機701を作動することになり、始動時の負担が更に軽減されて、エンジン5の耐久性を向上できると同時に、油圧式無段変速機701を確実に駆動できる。
また、油圧機械式無段変速機500からの回転動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構501を備える構成であって、前後進切換機構501が中立位置となる場合に、エンジン5の始動が許可される。したがって、エンジン5の低温始動時において、前後進切換機構501における動力伝達系統が切断された状態となり、旋回用ミッションケース13における旋回系動力伝達系統と直進用ミッションケース17における直進系動力伝達系統との間で、相互に影響を与えない状態とできる。そのため、始動時にエンジン5にかかる負荷を抑制することができ、低温時であっても、円滑にエンジン5が始動する。
尚、本実施形態において、エンジン始動制御として、図25のフローチャートに基づく制御動作を例に説明したが、例えば、図26のフローチャートに示すように、エンジン5の低温始動時において、副変速ギヤ機構305が中立の状態であるか否かを確認するものであってもよい。この場合、図26に示す如く、エンジン5の冷却水温が所定温度TE1以下となり(STEP109でYes)、グローヒータを作動させると(STEP110)、エンジンコントローラ811は、副変速センサ826からの信号を受信する(STEP131)。そして、エンジンコントローラ811は、副変速レバー45の操作位置が中立位置にあることを確認すると(STEP132でYes)、STEP111に移行し、旋回コントローラ814を通じて旋回用クラッチ機構300を切断する。
すなわち、図26のフローチャートにおける別例では、油圧機械式無段変速機500からの回転動力を変速する副変速ギヤ機構503を備える構成であって、副変速ギヤ機構503が中立位置となる場合に、エンジン5の始動が許可される。したがって、エンジン5の低温始動時において、副変速ギヤ機構503における動力伝達系統が切断された状態となり、旋回用ミッションケース13における旋回系動力伝達系統と直進用ミッションケース17における直進系動力伝達系統との間で、相互に影響を与えない状態とできる。そのため、始動時にエンジン5にかかる負荷を抑制することができ、低温時であっても、円滑にエンジン5が始動する。
更に、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
2 走行機体
3 走行クローラ
5 エンジン
8 キャビン
9 操縦ハンドル
13 旋回用ミッションケース
17 直進用ミッションケース
300 旋回用クラッチ機構
301 クラッチ入力軸
302 旋回用シフタ
303 電動アクチュエータ
304 メインクラッチ
305 緩衝クラッチ
306 クラッチ出力軸
307 クラッチ中継軸
308 クラッチ入力爪部
309 クラッチ出力爪部
310 スラスト軸受
311 挿入穴
312 連結穴
313 挿入穴
314 バネ
315 バネ止めリング
316 係止溝
317 段差部
318 バネ止めリング
319 バネ
320 押圧リング
321 旋回用ブレーキ機構
322 段差部
330 クラッチ位置切換機構
331 シフタ制御軸
332 入力アーム
333 中継アーム
334 カム
335 出力アーム
336 ローラ
337 筐体
338 モータ軸
339 突起部
340 長孔
341 カム軸
342 軸受部
500 油圧機械式無段変速機(HMT)
501 前後進切換機構
502 クリープ変速ギヤ機構
503 副変速ギヤ機構
511 主変速入力軸
512 主変速出力軸
521 油圧ポンプ部
522 油圧モータ部
523 ポンプ斜板
524 主変速油圧シリンダ
526 遊星ギヤ機構
535 走行中継軸
537 前進低速油圧クラッチ
539 前進高速油圧クラッチ
541 後進油圧クラッチ
624 主変速油圧切換弁
642 前進低速クラッチ油圧切換弁
643 前進高速クラッチ油圧切換弁
644 後進クラッチ油圧切換弁
701 油圧式無段変速機(HST)
702 差動ギヤ機構
703 遊星ギヤ機構
704 油圧ポンプ部
705 油圧モータ部
706 ポンプ軸
707 チャージポンプ
708 ポンプ斜板
709 モータ軸
741 旋回油圧シリンダ
742 旋回油圧切換弁
751 ブレーキ機構

Claims (5)

  1. 走行機体に搭載されるエンジンと、前記エンジン動力に基づいて駆動する走行部と、前記エンジンからの出力を変速して直進用動力を出力する第1無段変速装置と、前記エンジンからの出力を変速して旋回用動力を出力する第2無段変速装置と、前記直進用動力と前記旋回用動力とを合成する動力合成機構とを備え、前記動力合成機構からの動力により左右の前記走行部を独立して駆動させる作業車両において、
    前記エンジンと前記第2無段変速装置との間に旋回用クラッチ機構が設けられており、
    前記エンジンの始動時において、前記エンジンの冷却水温が所定温度以下である場合に、前記旋回用クラッチ機構を切断することを特徴する作業車両。
  2. 前記エンジンの始動時において、前記エンジンの回転数が所定回転数以上となったときに、前記旋回用クラッチ機構を接続することを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
  3. 前記第1無段変速装置と前記動力合成機構との間に直進用クラッチ機構が設けられており、前記直進用クラッチ機構が切断されている場合に、前記エンジンの始動が許可されることを特徴とする請求項1又は2に記載の作業車両。
  4. 前記直進用クラッチ機構は、前記第1無段変速装置からの回転動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構を備えており、
    前記前後進切換機構が中立位置となる場合に、前記エンジンの始動が許可されることを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
  5. 前記直進用クラッチ機構は、前記第1無段変速装置からの回転動力を変速する副変速ギヤ機構を備えており、
    前記副変速ギヤ機構が中立位置となる場合に、前記エンジンの始動が許可されることを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
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