JP2017166010A - 準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯または鋼板 - Google Patents
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ところで、近年、小型電装部品に装着される高出力かつ低損失の小型高速モーターやドローンなどに代表される屋外や過酷環境で使用される小型高速モーターなどの市場拡大により、軟磁気特性に加えて、耐食性と高強度を兼備した素材の出現が待ち望まれている。しかし、上述したように、フェライト系SUS430ステンレス鋼板や電磁鋼板などは強度が低いため、高磁束密度とともに高強度が要求される用途には適用し難いという課題があった。
優れた耐食性を有するステンレス鋼では、強磁性のフェライト相からなるフェライト系ステンレス鋼は電磁用途に使用される例はあるが、飽和磁束密度は電磁鋼板に及ばないばかりか硬さもHV200〜300程度である。
従来のSUS631は、高強度であるものの磁束密度(B10k)10kG未満と低く、そのままでは上述した高磁束密度とともに高強度が要求される用途に適用することはできない。
そこで本発明者らは、このステンレス鋼の金属組織を微細粒化することにより、高強度を維持しつつ、高磁束密度かつ低保磁力の軟磁性特性が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、上記した高強度、高耐食性、優れた軟磁気特性という特性を全て兼備した鋼帯または鋼板であり、高強度電磁ステンレス鋼の範疇に属する。
なお、高強度電磁ステンレス鋼としては、ソレノイド用鉄心材として析出硬化型電磁ステンレス鋼(非特許文献1参照)などが開示されている。ただし、このステンレス鋼は、線材を対象とした技術であり、組成はNi/Alが3%を超えない範囲に規定したフェライト相を主相とするステンレス鋼であって、本発明の金属組織とは異なる。
この様な金属組織は従来にない新規な組織であり、この様な組織を得ることによりα’相自体が、10kG以上の磁束密度(B10k)を発現し、加えて圧延方向(parallel)と圧延直角方向(perpendicular)における磁気異方性が無くなることを見出した。このことは、当業者が予期できなかった、新規な発見であった。
また本発明では、上記の基本成分に、更に質量%で0.75〜1.5%のAlを添加した鋼に上記の組織制御を行った後に450℃〜500℃で熱処理を行うことによって、HV≧500(引張強度≧1500N/mm2)の高強度を有しながら保磁力(Hc)を20Oe以下まで低減できることも見出した。
さらにまた、本発明では、上記の基本成分に、更に質量%で、Cu:0.4〜1.0%、Mo:1.5〜3.5%の一種又は二種含有することにより、軟磁気特性や強度を劣化させることなく加工誘起変態後の主相であるα´相の耐食性と耐孔食性を一層向上させることができることを見出した。
(組成について)
本発明に係るステンレス鋼帯または鋼板は、軟磁性準安定オーステナイト系ステンレス鋼からなり、質量%で、C:0.05〜0.12%、Mn:1.4%以下、Cr:16〜18%、Ni:4.0〜8.0%を含有する。
Cは、冷間圧延時の加工誘起変態と変態後のα´相に必要な強度を付与するために0.05%以上添加する。しかし、0.12%を超えて添加するとオーステナイト相が安定化するため冷間圧延時の加工誘起変態が発現しにくくなると同時に、打抜き等の二次加工性を劣化させるため0.12%以下とした。
MnはNiとともにオーステナイト相を安定化させる元素であり、多量に添加すると通常の冷間圧延では90%以上の加工誘起α´相を主相とする組織が得られない。そのため、本発明ではその上限を1.4%に規定する。下限は特に規定しないが、熱間圧延時の熱間割れ対策として0.1%とするのが好ましい。
Crは、ステンレス鋼としての耐食性を付与するため16%以上添加する。しかし、18%を超えて添加するとオーステナイト相が安定化するため、通常の冷間圧延工程では十分な量の加工誘起変態α´相を出現させることが出来ない。そのため本発明では上限を18%に限定した。
Niはオーステナイト安定化元素であり、冷間圧延前の組織を準安定オーステナイト状態に維持するため所定量の添加が必須である。本発明では溶体化処理後に準安定オーステナイト相とするための下限として4.0%以上添加する。しかし、8.0%を超えて添加するとオーステナイト相が安定となるため通常の冷間圧延で加工誘起変態α´相を主相とする組織が得られなくなる。そのため上限を8.0%に限定した。
上記の基本成分に更に質量%でAl:0.75〜1.5%を添加して、時効硬化能を付与する事ができる。0.75%未満では十分な時効硬化能が得られず、1.5%を超えて添加すると靱性の低下をもたらすため、Al含有量は上記範囲とした。
また、耐孔食性を向上するために、質量%でMo:1.5〜3.5%配合することも可能である。1.5%未満では、耐孔食性の著しい改善効果が認められず、逆に3.5%を超えると、耐孔食性に対する効果が飽和すると同時に合金コストの高騰が問題となる。
本発明の鋼帯または鋼板には不可避的不純物として、P,N,S,O等が含まれるが、その不純物量は、通常の製造工程で含まれる程度であれば本発明の目的を阻害することがないので、許容される。
本発明に係るステンレス鋼帯またはステンレス鋼板は、90%以上の加工誘起マルテンサイト相(α´相)を主相として、結晶粒径(直径)をデータ群としてその変動係数が0.85以下、重み付き平均結晶粒径は10μm以下、好ましくは変動係数が0.65以下、重み付き平均結晶粒径は5μm以下である。
このような金属組織とすることにより、ナノレベルでの構造変化が起こり磁区のサイズと分布が均一になることで、磁壁が整然と速やかに移動できるようになるため、本発明に係る磁気特性が得られていると発明者は推定する。このことは本発明者が見出した新規な知見であり、ナノ結晶軟磁性材料のコンセプトからも支持されるメカニズムと考えられる。変動係数と重み付き平均結晶粒径が、それぞれ0.85、10μmを超え、或は、加工誘起マルテンサイト相が90%未満であると、磁区のサイズと分布が不均一になるばかりか、非磁性のオーステナイト相が残留してしまい、磁壁の移動が遅滞するため、本発明で要求する磁気特性が得られ難いと考えられる。なお、重み付き平均結晶粒径は10μm以下であればよいが、実操業上その下限は0.05μm程度である。
ここで変動係数CVは式1により算出する。
本発明に係る組成及び金属組織を有するステンレス鋼帯または鋼板は、硬さ(HV)が350以上でかつ磁束密度(B10k)が10kG以上である。この特性は、今までのステンレス鋼帯または鋼板では得られなかった優れた強度と磁気特性とを兼ね備えた特性である。
またAlを添加することにより、Hv≧500(引張強度≧1500N/mm2)の高強度を有し、かつ、保持力(Hc)を15Oeまで低減することができる。
上述した本発明に係る金属組織及び特性を得るための製法の一例を、従来から行われている常套的なステンレス鋼帯の製法と対比して、以下に説明する。
このような処理により、HVが550程度の硬さのステンレス鋼帯が得られるが、磁束密度(B10k)は10kG未満と低い値である。
第1工程:この工程では、常套的な手段により得られた本発明の組成を有するスキンパス上がりのステンレス鋼帯(例えばSUS631(17-7PH))を圧延する。この圧延工程は、重み付き平均結晶粒径を10μm以下にすることを意図したものである。そのため、冷間加工率はスキンパス上がりの鋼帯の組成、板厚などにより異なるが、冷間加工率を50%〜90%の範囲、好ましくは60%以上の加工率とする。
これらの工程を経た本発明の組成を有する鋼帯または鋼板は、重み付き平均結晶粒径の微細化が促進され、本発明の強度、磁気特性を有するようになる。
なお、上述した本発明に係るステンレス鋼帯または鋼板の製法は、あくまで一例であって、本発明は、この製法に限定されるものではない。
これにより従来の軟磁性材料では実施することのできなかった、構造上高強度が求められる磁気回路や部品構造の設計を可能にするものである。
ベースとなる準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯は、Cr、Niの含有量が多く、一般的な鉄ベースの軟磁性材料と比べて耐食性も優位であることから、強度や軟磁性特性だけでなく、耐食性が必要とされる用途への活用も期待できる。
従来公知の準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯では、冷間加工率の増加に伴い磁気異方性や保磁力が増加し、ヒステリシス損失が増大する。これにより、磁気回路中のエネルギー損失が増大してしまう。
これに対し、本発明では、冷間加工率を問わず磁気異方性が無く、保磁力も一般鋼と比べて大幅に小さくすることができる。
本発明の化学組成を有する鋼(SUS631)と本発明から外れる化学組成を有する鋼(SUS430,電磁鋼板)を用意し(表1参照)、これらを下記表4に示す製造条件で製造した。得られた供試材について、変動係数、重み付き平均結晶粒径を測定し、その測定結果を表2に示す。また、硬さ(HV)、引張強度(N/mm2)、磁束密度B10k(kG)、保磁力Hc(Oe)、磁気異方性の有無を測定し、その測定結果を表3に示す。なお、表1〜3において、左側に「*」が付いている数値は、本発明から外れている値を示す。
※また、本表には、比較例3及び比較例4の特性(変動係数、重み付き平均結晶粒径)は記載されていない。これは、比較例3及び比較例4においてはフェライトを主相とした本発明とは金属組織が本質的に異なる材料であるためである。なお、比較例1-1、比較例1-2は、本発明と同様に、準安定オーステナイト系ステンレスをベースとしているため、その特性を記載している。
※磁束密度B10k(kG)及び保磁力(Hc)並びに磁気異方性の有無は振動試料型磁気測定機(VSM)を用いて測定した。
※硬さはJIS Z 2244に基づいて測定した。
※引張強度はJIS Z 2241に基づいてJIS13号B試験片を用いて測定した。
※磁気異方性は0〜10kOeの磁場におけるヒステリシスをparallel及びperpendicularの2方向から測定し、その差の有無から判断した。
※比較例4は汎用電磁鋼板の特性を参考として示したものである。
※1:冷間圧延の温度は通常実施される冷間圧延の定義範囲内であり、加工温度は各種材質の変態点以下の温度で実施した。
※2:熱処理工程の加熱時間は、熱処理設備の特性に応じて所定の温度に到達する時間以上の範囲で実施した。
※3:低温熱処理の加熱温度及び時間は、目的とする特性を得られる様に、熱処理設備の能力に応じて自由に実施した。
これにより従来の軟磁性材料では実施することのできなかった、磁気回路や部品構造の設計を可能にするものである。
ベースとなる準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、Cr、Niの含有量が多く、一般的な鉄ベースの軟磁性材料と比べて耐食性も優位であることから、強度や軟磁性特性だけでなく、耐食性が必要とされる用途への活用も期待できる。
一般の準安定オーステナイト系ステンレス鋼では、冷間加工率の増加に伴い磁気異方性や、保磁力が増加しヒステリシス損失が増加する。これにより、磁気回路中のエネルギー損失が増加してしまう。これに対し、本発明では、冷間加工率を問わず磁気異方性が無く、保磁力も一般鋼と比べて大幅に小さくすることができる。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.05〜0.12%、Mn:1.4%未満、Cr:16〜18%、Ni:4.0〜8.0%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、90%以上の加工誘起マルテンサイト相(α´相)を主相とし、結晶粒径(直径)をデータ群としてその変動係数が0.85以下、重み付き平均結晶粒径が10μm以下の組織を有することを特徴とする準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯または鋼板。
- Feの一部に代えて、質量%で、Al:0.75〜1.50%を更に含有し、硬さ(HV)が350以上であることを特徴とする請求項1に記載の準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯または鋼板。
- Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.4〜1.0%及びMo:1.5〜3.5%から選択され一種又は二種を更に含有する請求項1又は2に記載の準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯または鋼板。
- 硬さ(HV)が350以上でかつ磁束密度(B10k)が10kG以上の軟磁気特性を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯または鋼板。
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