以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のモータ1(回転電機)を径方向に切断したときの概略断面図、図2は第1実施形態のモータと比較するためのモータ(以下、「比較例のモータ」という。)をロータシャフト6の一方向Aからみたモータ1の断面図である。
モータ1は毎極毎相スロット数が2個の分布巻モータの一例である。毎極毎相スロット数が2個の分布巻きモータは、ステータの周方向に並んでいるスロットに対して、連続して2個の同じ相のコイルを収容するものである。毎極毎相スロット数が2個以上の分布巻きモータでは、三相モータの場合、モータの極数をp、スロット数をNとしたとき、N/3p≧2の関係を有する。
なお、モータ1は、埋め込み磁石型モータ(IPMモータ)の一例でもある。ここで、埋め込み磁石型モータは、磁石穴が周方向に複数穿設された電磁鋼板をロータシャフト方向に積層してロータコア3を構成した後で、前記磁石穴に磁石5を挿入したものである。埋め込み磁石型モータによれば、磁石トルクだけでなく、リラクタンストルクも有効に活用することができ、モータのトルク密度を向上させることができるため、埋め込み磁石型モータは電動車の駆動・発電用モータなどに広く用いられている。
具体的に説明すると、モータ1は、ロータ2と、ステータ11と、制御装置41と、三相ケーブル42と、を備える。
ロータ2は、ロータコア3、磁石5、ロータシャフト6を含んでいる。ロータコア3は、電磁鋼板で形成される薄板円盤状部材4をロータシャフト6の軸方向(以下、単に「ロータシャフト方向」という。)に複数積層した構造からなる。薄板円盤状部材4の外周側には、周方向に8等分した位置に磁石5を収納する8個の穴が穿設されている。この8個の穴に磁石5がロータシャフト方向から挿入され固定される。
8個の磁石のうち、1つ飛ばしの4個の磁石5は、ロータコア3の外周側がN極となり、ロータコア3の内周側がS極となるように配置される。残り4個の磁石はロータコア3の外周側がS極となり、ロータコア3の内周側がN極となるように配置される。このように、8個の磁石5は、ロータ2の径方向に着磁され、磁石5の極性が隣接する磁石間で反転している。そして、8個の磁石5に対向して、後述するステータコイル31が配置される。
実施形態では、1極当たり1枚の磁石を配置した場合を示しているが、この場合に限定されるものでない。1極当たり複数の磁石を配した場合であってよい。
また、薄板円盤状部材4には、部材4の中心位置にロータシャフト6を収納する1個の穴が穿設されている。この1個の穴にロータシャフト6がロータシャフト方向から挿入され、ロータコア3と連結される。ロータシャフト6は、モータハウジング(図示しない)に対して回動自在に支持される。
ステータ11は、ロータ2の外周に配置され、モータハウジングに固定される。ステータ11は、ステータコア12、ステータコイル31を含んでいる。ステータコア12は、電磁鋼板で形成される薄板リング状部材13をロータシャフト方向に複数積層した構造とすることによって、全体として中空円筒状となっている。
薄板リング状部材13の外周側はバックヨーク14として構成され、薄板リング状部材13の内周側には、同じ形状の48個のティース15が周方向に同じ間隔で配列される。ティース15の個数は、ロータ2に含まれる磁石5の磁極数(8個)の6倍(整数倍)になるように決定される。ステータ11の内周側でロータ2が回動するため、ステータコア12の内周面12aとロータコア3の外周面3aとの間にエアギャップ26が形成されている。
ティース15の周方向の両脇には同じ形状の48個のスロット25を有する。1つのスロット25は、径方向の内側から径方向の外側に向けて末広がりの形状となっている。
断面がほぼ円の電線を用いて構成され、上記48個のスロット25に収容されるステータコイル31は、U相コイル群、V相コイル群およびW相コイル群からなり、これら3つのコイル群の端子が三相ケーブル42に接続される。ここでは、三相の交流電流の場合で説明するが、三相の交流電流の場合に限定されるものでない。
制御装置41は、モータ1が出力すべきトルク指令値TRをモータ1の外部に設けられたECU(Electrical Control Unit)から受け、その受けたトルク指令値TRに従ったトルクを出力するためのモータ制御電流を生成する。制御装置41で生成されたモータ制御電流は三相ケーブル42を介してステータコイル31へと供給される。
三相ケーブル42は、制御装置41とステータコイル31を接続する。三相ケーブル42は、U相ケーブル43と、V相ケーブル44と、W相ケーブル45とからなる。
毎極毎相スロット数が2個の分布巻モータであるため、周方向に配列された48個のティース15は、異相間ティース(第1のティース)と同相間ティース(第2のティース)とで構成される。ここで、異相間ティースとは、周方向の両脇に配された2個のスロットに互いに異なる相のコイルが収容されるティースのことである。同相間ティースとは、周方向の両脇に配された2個のスロットに互いに同じ相のコイルが収容されるティースのことである。以下、異相間ティース及び同相間ティースをまとめていうときには、「2種類のティース」ともいう。
次に、上記異相間ティース及び同相間ティース、つまり2種類のティースを具体的に説明する。図3は比較例のモータ1についての、図4は第1実施形態のモータ1についてのステータ11の一部拡大平面図である。
まず、比較例のモータを構成するステータ11と第1実施形態のモータを構成するステータ11の共通分から先に説明する。なお、以下では、比較例のモータを構成するステータを、単に「比較例のステータ」という。一方、第1実施形態のモータ、ステータについては、これらを区別することなく単に「第1実施形態」ともいう。U相スロットを25a、V相スロットを25b、W相スロットを25cで区別する。ステータ11には、図3,図4に示したように左側からU相スロット25a、V相スロット25b、V相スロット25b、W相スロット25c、W相スロット25c、U相スロット25a、というように、同じ相のコイルが周方向に2個連続して収納される。図示しないが、右端のU相スロットの右側にはもう一つのU相スロットが、左端のU相スロットの左側にはもう一つのU相スロットがある。ここで、U相スロット(図では+U、−Uで略記。)とはU相コイルが収納されるスロットのことである。V相スロット(図では+V、−Vで略記。)とはV相コイルが収納されるスロットのことである。W相スロット(図では+W、−Wで略記。)とはW相コイルが収納されるスロットのことである。
周方向に連続的に配置された7個のティース15を区別するため左側から右側に向けて15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gとする。まず、15bは、周方向の両脇のスロットにU相コイル25aとV相コイル25bが収容されるので、異相間ティース21である。同様に、15dは、周方向の両脇のスロットにV相コイル25bとW相コイル25cが収容されるので、異相間ティース21である。また、15fは、周方向の両脇のスロットにW相コイル25cとU相コイル25aが収容されるので、異相間ティース21である。
一方、15aは、周方向の両脇のスロットにU相コイル25a,25aが収容されるので同相間ティース22である。15cは、周方向の両脇のスロットにV相コイル25b,25bが収容されるので、同相間ティース22である。同様に、15eは、周方向の両脇のスロットにW相コイル25c,25cが収容されるので、同相間ティース22である。
なお、図2と相違して、図3,図4では簡単化のため、全てのティース15は全体として直方体状であるとする。つまり、ティース15の先端部からティース15の根元部まで、ティース15の周方向の幅(以下、「周方向幅」という。)は同じであるとする。2種類のティース21,22で先端部と根元部を区別するため、異相間ティース21のティース先端部を16、ティース根元部を17、同相間ティース22のティース先端部を18、ティース根元部を19とする。
このように、毎極毎相スロット数が2個の分布巻モータにおいては、異相間ティース21と同相間ティース22とが、ステータコア12に周方向に沿って交互に配置されている。そして、ステータコイル31に三相の交流電流からなるモータ制御電流が供給されると、ステータコア12の内部に磁束が発生する。ステータコア12の内部に発生した磁束は、ステータコア12の外周側の部位であるバックヨーク14から2種類のティース21,22へと向かう。2種類のティース21,22へと向かった磁束は、ティース根元部17,19からティース先端部16,18へと通過し、ステータコア12の内周面12aとロータコア3の外周面3aとの間のエアギャップ26を介して、ロータコア3の内部へと流れ込む。
さて、上記の制御装置41に含まれるインバータによって、モータ1が駆動される。インバータの駆動方式はPWM方式である。インバータでは、IGBT等の半導体素子を高速でスイッチングすることにより、三相の交流電流が作り出される。インバータにより高速でスイッチングすると、交流電流の各相電流がきれいな正弦波とならず、リップルを含む波形となる。基本波(正弦波)が得られるようにインバータに指令するけれども、スイッチングにより、インバータからは、基本波にリップル成分が重畳された波形の電流が出力されるわけである。本来はきれいな正弦波の各相電流がステータコイル31に供給されて欲しいのであるが、スイッチングによってやむを得ずリップルを含む電流波形となることで、ステータ11に損失が発生する。モータを構成している電磁鋼板や磁石5に渦電流が流れることによって、いわゆるキャリア損失が発生するのである。
この対策を行う従来例として、インバータのスイッチングを早くする、つまり所定時間当たりのスイッチング回数を増やすことが考えられる。インバータのスイッチング回数を増やしてやると、リップル成分が減少しキャリア損失を減らすことができる。しかしながら、インバータのスイッチング回数が増えることで、インバータのスイッチング損失が却って大きくなってしまう。
そこで本発明の第1実施形態では、インバータのスイッチング周波数を変更するのではなく、ステータそのものの形状を工夫することによってキャリア損失を減らすことを考える。このため、図4に示したように、異相間ティース21(15b,15d,15f)の周方向幅wd2を同相間ティース22(15a,15c,15e,15g)の周方向幅wd3より広くする。すなわち、比較例のステータ11では、図3のように2種類のティース21,22の周方向幅wd1が同じである。言い換えると、ステータコア12の中心から径方向に同じ距離をとった異相間ティース21と同相間ティース22の周方向幅を比較したとき、異相間ティース21の周方向幅と同相間ティース22の周方向幅とが同じである。一方、第1実施形態では、図4のように2種類のティースの周方向幅を相違させ、異相間ティース21の周方向幅wd2を同相間ティース22の周方向幅wd3より大きくする。言い換えると、ステータコア12の中心から径方向に同じ距離をとった異相間ティース21と同相間ティース22の周方向幅を比較したとき、異相間ティース21の周方向幅wd2のほうを同相間ティース22の周方向幅wd3より大きくするのである。このため、3つの周方向幅wd1,wd2,wd3の間には、wd2>wd1>wd3の関係が成立する。なお、図3と図4とでは、2種類のティース21,22の周方向幅が相違するだけで、残りの部分は同様である。
このように第1実施形態において2種類のティース21,22の間で周方向幅を相違させた理由を次に説明する。
図5は、ステータコア12を流れる基本波成分の作る磁束によって得られる磁束密度実効値とキャリア成分の作る磁束によって得られる磁束密度実効値を分析した結果を示したものである。以下、基本波成分の作る磁束を「主磁束」と、キャリア成分の作る磁束を「キャリア磁束」という。また、基本波成分の作る磁束によって得られる磁束密度実効値を単に「基本波成分の磁束密度実効値」とも、キャリア成分の作る磁束によって得られる磁束密度実効値を「キャリア成分の磁束密度実効値」ともいう。ここでは、インバータから出力される三相の交流電流波形を周波数分析することにより、基本波成分とキャリア成分の2つに分けている。基本波成分とは正弦波の波形を有する各相電流のことである。キャリア成分とは、図6に示したように基本波成分に重畳される、基本波成分よりも高周波の波形を有する電流のことである。
ステータコア12には回転磁界が作用するため、磁束密度が時々刻々と変化する。ここでは磁束密度の瞬時値ではなく、所定時間当たりで平均した磁束密度、つまり磁束密度の実効値(以下「磁束密度実効値」という。)を採用する。図5の上下左右に示す4つの磁束密度実効値の分布図では、磁束密度実効値の相違を5つから7つの複数のパターンに置き換えて示している。すなわち、上下左右の4つの磁束密度実効値の分布図の下方に5つから7つの複数のパターンを水平方向に並べている。水平方向に並んだ列のうち、右側のパターンほど磁束密度実効値が相対的に高いことを、左側のパターンほど磁束密度実効値が相対的に低いことを表している。なお、各図において複数のパターンは相対値を示すに過ぎない。例えば、図5上段左側の右端のパターンと図5上段右側の右端のパターンを同じパターンとしているが、磁束密度実効値の単位は全く異なっている。基本波成分の磁束密度実効値とキャリア成分の磁束密度実効値とでスケールは同じでなく、キャリア成分の磁束密度実効値のほうが基本波成分の磁束密度実効値より格段に低いのである。このため、主磁束がモータのトルクに寄与する磁束となる。
2種類のティース21,22の磁束密度実効値は、実際には基本波成分の磁束密度実効値と、キャリア成分の磁束密度実効値の両方が重なったものである。本発明者が基本波成分の磁束密度実効値と、キャリア成分の磁束密度実効値とに分けることによって、図5に示したように、特にキャリア成分の磁束密度実効値の分布が初めて可視化されたのである。図5の分析結果は公知でなく、本発明者によって初めて得られたものである。
図5において、上段は比較例のステータの場合、下段は本実施形態の場合である。まず比較例のステータ11の場合から説明すると、基本波成分については、図5上段の左側に示したように、2種類のティース21,22で均一な磁束密度実効値の分布が得られている。
一方、キャリア成分については、図5上段の右側に示したように、2種類のティース21,22の間で磁束密度実効値が相違し、異相間ティース21のほうが同相間ティース22より磁束密度実効値が高くなっている。言い換えると、異相間ティース21にばかりキャリア磁束が流れて、同相間ティース22にはあまりキャリア磁束が流れていないということが判明したのである。
キャリア磁束によって得られる異相間ティース21の磁束密度実効値のほうが、キャリア磁束によって得られる同相間ティース22の磁束密度実効値より高くなる理由は、概ね次のようなものであると本発明者が推測している。すなわち、同相間ティース22の場合、周方向の両脇のコイル、例えばW相コイルとW相コイルに同じ相の電流が流れて同じキャリア磁束を発生させるので、W相スロットとW相スロットの間のティース(同相間ティース)に、あまりキャリア磁束が流れ込まない。一方、異相間ティース21の場合には、周方向の両脇のコイル、例えばW相コイルとU相コイルに同じ相の電流が流れない。このように違う相の電流が周方向の両脇を流れるティース(異相間ティース)にキャリア磁束が集中する結果、異相間ティースで磁束密度実効値が同相間ティースより高くなるのでないかと推測している。
このように、2種類のティース21,22の間でキャリア磁束によって得られる磁束密度実効値がバラツクと、特に磁束密度実効値が高い異相間ティース21で損失が大きくなる。ここでは、インバータより出力される各相電流の波形を基本波成分とキャリア成分に分けたのであるから、キャリア磁束によってステータ11に発生する損失を「キャリア損失」で定義する。すると、キャリア損失として、(1)銅損、(2)鉄損、(3)渦電流損失の3つが発生する。
電動車用やハイブリッド車用の車両駆動用モータにおいては、低速回転速度かつ低トルクの運転領域を使用する頻度が比較的高くなる。当該運転領域では、ステータコイル31に流れる電流が少ないため、ステータコイル31で発生するジュール損失(上記(1)の銅損)が比較的小さく、キャリア損失としては、特に上記(2)の鉄損が相対的に大きくなる。これは、キャリア成分の周波数は基本波成分よりずっと高く、周波数が高いと鉄損が大きくなるためである。上記(3)の渦電流損失(電磁鋼板や磁石に渦電流が流れることによる損失)は、上記(2)の鉄損ほど高くないイメージであるが、本実施形態(本発明)では扱わない。従って、本実施形態では、キャリア損失として主に上記(2)の鉄損に着目している。
ステータコア12で発生する鉄損は、磁束密度実効値が高ければ高いほど多く発生し、かつ磁束密度実効値の二乗に比例するといわれている。このため、キャリア磁束によって得られる磁束密度実効値について、2種類のティース21,22の間に大きなバラツキがあると(図5上段の右側参照)、磁束密度実効値が大きいところ、つまり異相間ティース21で鉄損が増えてしまうのである。
この増えた鉄損を低減するための対策として、キャリア磁束によって得られる異相間ティース21の磁束密度実効値と、キャリア磁束によって得られる同相間ティース22の磁束密度実効値とが同等となるようにする(均一化する)ことがポイントになる。そのためには、キャリア磁束によって得られる異相間ティース21の磁束密度実効値を比較例のステータ11より低下させ、キャリア磁束によって得られる同相間ティース22の磁束密度実効値を比較例のステータ11より高くすることである。
この場合、キャリア磁束によって得られる2種類のティース21,22の磁束密度実効値を、比較例のステータ11より変化させるといっても、1つのティース全体で磁束密度実効値が一様でないティースが存在する。例えば、図5上段の右側では、2種類のティース21,22とも、ティース先端部やティース根元部と、これらを除いた残りの部分とで異なる磁束密度実効値を有している。このように1つのティースの内部で一様でない状態の磁束密度実効値をそのままで扱うことは制御上困難である。そこで、磁束密度実効値を1つのティース全体で平均した値(以下、「平均磁束密度実効値」という。)で扱う。1つのティース全体に対応する磁束密度実効値の物理量として、平均磁束密度実効値という用語を導入するのである。このように平均磁束密度実効値を導入したとき、主磁束によって得られる平均磁束密度実効値を単に「基本波成分の平均磁束密度実効値」とも、キャリア磁束によって得られる平均磁束密度実効値を「キャリア成分の平均磁束密度実効値」ともいう。
キャリア磁束が異相間ティース21にだけ集中しているのであるから、キャリア磁束が集中しないように、つまりキャリア磁束によって得られる異相間ティース21の平均磁束密度実効値を同相間ティース21より低下させればよいことになる。しかしながら、キャリア成分を制御上で直接扱うことは困難である。これは、基本波成分が得られるようにインバータに制御電流を与えたとき、インバータから基本波成分にキャリア成分が重畳した電流が結果として現れるので、インバータを制御する際にキャリア成分を直接扱うことは困難であるためである。
ここで、1つのスロットの基本波成分の平均磁束密度実効値が低下すれば、同じスロットのキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下することが分かっている。この場合、基本波成分の平均磁束密度実効値とキャリア成分の平均磁束実効値が比例するものではない。しかしながら、基本波成分の平均磁束密度実効値が低下すればキャリア成分の平均磁束密度実効値も低下することが判明している。そして、基本波成分の平均磁束密度実効値であれば、基本波成分を制御することによって変化させることができるので、インバータを制御する際に直接的に扱うことができる。
そこで、本実施形態では、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータ11よりも低くし、同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータ11よりも高くする。言い換えると、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値を同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値よりも低くする。
ここで、基本波成分の平均磁束密度実効値を変化させる方法の一つとして、磁路としてのティース15の断面積に着目する。磁路はティース根元部からティース先端部に向けて形成されるので、ここでいう断面積はこの磁路に対して直交する方向の断面積のことである。平均磁束密度実効値は、磁路としての1つのティース15の断面積Stに反比例する。1つのティース15の断面積Stはティース15の周方向幅wdとティース15のロータシャフト方向の幅(以下、ロータシャフト方向の幅を「厚さ」という。)DP(図1参照)との積、つまりSt=wd×DPである。いま、ティース15の厚さDPを変えないとすると、ティース15の断面積Stとティース15の周方向幅wdが比例する。結果として、平均磁束密度実効値はティース15の周方向幅wdに反比例する。つまり、基本波成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータより低下させるには、ティース15の周方向幅wdを比較例のステータより広くすればよいこととなる。
従って、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータ11より低くするため、異相間ティース21の周方向幅wd2を比較例のステータ11の異相間ティース21の周方向幅wd1より広くする(図3,図4参照)。また、同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータ11より高くするため、同相間ティース22の周方向幅wd3を比較例のステータ11の同相間ティース22の周方向幅wd1より狭くする(図3,図4参照)。
異相間ティース21の周方向幅wd2を比較例のステータ11の異相間ティース21の周方向幅wd1より広くすれば、主磁束によって得られる異相間ティース21の平均磁束密度実効値が比較例のステータ11より低下する。主磁束によって得られる異相間ティース21の平均磁束密度実効値が比較例のステータ11より低下すると、キャリア磁束によって得られる異相間ティース21の平均磁束密度実効値も比較例のステータ11より低下する。
また、同相間ティース22の周方向幅wd3を比較例のステータ11の同相間ティース22の周方向幅wd1より狭くすれば、同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値が比較例のステータ11より高くなる。同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値が比較例のステータ11より高くなると、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値も比較例のステータ11より高くなる。
このように、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータ11より低下させ、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値を比較例のステータ11より高くする。これによって、図5下段の右側に示したように、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化される。具体的には、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化されるように、2種類のティース21,22の各周方向幅wd2,wd3を適合するのである。2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化すれば、ステータコアトータルの鉄損(つまりキャリア損失)を比較例のステータ11より低下させることができる。
ステータの鉄損がどのように変化したかを検証したところ、2種類のティース21,22の間で鉄損が同等となっている(均一化されている)ことが確かめられている。
さらに詳述すると、異相間ティース21の周方向幅wd2を同相間ティース22の周方向幅wd3より広くしたことで、基本波成分の平均磁束密度実効値が影響を受ける。すなわち、図5下段の左側に示したように、同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値が異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値より高くなっている。これを比較例のステータ11と比較したとき、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値について、図5下段の左側に示す本実施形態のほうが図5上段の左側に示す比較例のステータ11より却って低下している。このことは、異相間ティース21を流れる主磁束が比較例のステータ11より小さくなることを意味する。主磁束がモータのトルクに寄与する磁束となるのであるから、本実施形態のように異相間ティース21を流れる主磁束が比較例のステータ11より小さくなると、本実施形態のモータが発生するトルクが比較例のモータより低下する。
次に、異相間ティース21を流れる主磁束の減少に伴うトルク減少について、モータの用途との関係で考察する。インバータでスイッチングするとキャリア成分が必ず発生する。つまり、モータに要求されるトルクによらずキャリア損失が発生する。
一方、モータの用途は広い。例えばモータでトルクをたくさん発生しようとすると、その分多くの電流(基本波成分)をステータコイル31に流すことが必要になる。モータを自動車に用いてトルクが高いところで運転させようとすると、上記主磁束の減少に伴うトルク減少分だけ多くステータコイル31に電流を流さないといけないので、主磁束の減少に伴うトルク減少は好ましくない。これに対してトルクをほとんど使わない運転領域では、主磁束の減少に伴うトルク減少は微微たるものとなるため、主磁束の減少に伴うトルク減少が問題となることはない。トルクをほとんど使わない運転領域では、むしろキャリア損失の方が問題となるのである。
電気自動車やハイブリッド車において、モータに大きなトルクを発生させて走るシーンは非常に少なく、登坂時や加速時が大きなトルクを発生させて走ることが主なシーンである。日本のように低速での走行頻度が高い運転環境では、キャリア損失の方が影響が大きいといえる。主磁束の減少に伴ってトルクが減ることによるデメリットはあるものの、キャリア損失のほうがトルク減少より程度の高いシーンが多い場合において本実施形態を適用するときに、キャリア損失を下げたほうが大きなメリットが出てくるのである。このように、キャリア損失のほうが主磁束の減少に伴うトルク減少より程度の高いシーンが多い場合に、本実施形態が適用される余地がある。また、ハイブリッド車において、大きなトルクが必要とされる運転域で、モータがエンジンと連れ回り、エンジンだけでは不足する要求トルクの一部をモータが補助することがある。このようなハイブリッド車に用いられるモータには本実施形態の適用が非常に有効である。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
インバータより出力される電流波形を基本波成分とキャリア成分とに分けて、各成分の磁束密度実効値を本発明者が可視化したところ、次のことが判明した。すなわち、異相間ティース21のキャリア成分の磁束密度実効値が同相間ティース22のキャリア成分の磁束密度実効値より高くなっていることが初めて見出された。この知見に基づき、本実施形態では、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値が同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値よりも低くなるようにした。すると、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が高くなる側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化される。言い換えると、2種類のティース21,22にキャリア磁束が均一に流れることとなり、インバータのスイッチング周波数を変更することなしに、ティース15で発生するキャリア損失を低下させることができる。
本実施形態によれば、異相間ティース21の磁路断面積が同相間ティース22よりも大きいので、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値が同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値よりも低くなる。すると、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が高くなる側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化することができる。
本実施形態によれば、ティース15の厚さが同じとすれば、異相間ティース21の周方向幅が同相間のティース22よりも広いので、異相間ティース21の磁路断面積が同相間ティース22よりも大きくなる。異相間ティース21の磁路断面積が同相間ティース22よりも大きくなると、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値が同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値よりも低くなる。すると、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が高くなる側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化することができる。
(第2実施形態)
図7は第2実施形態のステータ11の一部拡大平面図である。比較例のステータ11を示す図3と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、異相間ティース21の周方向幅を同相間ティース22の周方向幅より広くすることで、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値を同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値より低下させた。すると、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が増大する側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化された。
2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化する方法は、この場合に限らず、他の方法でも、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化することができる。例えば、同相間ティース22よりも異相間ティース21にキャリア磁束が入り込まないようにすることによって、2種類の異相間ティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化する方法がある。
これについて先に比較例のステータ11を説明すると、図3に示したように、2種類のティース21,22ともティース先端部16,18の周方向幅wd1は同じであった。ここで、1つのティースのギャップ対向面積Sgはティース15の周方向幅wdとティースの厚さdpの積、つまりSg=wd×dpである。このため、ティース15の厚さdpが一定で、かつティース15の周方向幅wd1が同じであるときには、2種類のティース21,22ともギャップ対向面積Sgは同じである。なお、ステータコア12の内周面12aとロータコア3の外周面11aとの間のギャップ26の径方向距離は、比較例のステータ11、第2実施形態のステータ11とも、2種類のティース21,22の間で同じとする。以下、第2実施形態のモータ、ステータについても、これらを区別することなく単に「第2実施形態」ともいう。
一方、第2実施形態では、図7に示したように、2種類のティース21,22のティース先端部16,18の間でティース先端部16,18の形状を相違させる。すなわち、同相間ティース22のティース先端部18にだけ、周方向の両側に広がる突起部20を形成する。一方、異相間ティース21のティース先端部16の形状は、比較例のステータ11と同じ、つまり異相間ティース21は全体として直方体状であるとする。これによって、同相間ティース22のギャップ対向面積を比較例のステータ11より広くする。
上記のように、1つのティースのギャップ対向面積Sgは、ティース先端部の周方向幅wdと厚さdpの積であるので、ティースの厚さdpを変えないとすれば、ギャップ対向面積Sgとティース先端部の周方向幅wdが比例する。そこで、同相間ティース22のギャップ対向面積を、異相間ティース21のギャップ対向面積より広くするため、同相間ティース22のティース先端部18の周方向幅wd4を、異相間ティース21のティース先端部16の周方向幅wd1より広くする。これによって、異相間ティース21のギャップ対向面積Sg1より同相間ティース22のギャップ対向面積Sg2が広くなる。言い換えると、異相間ティース21のティース先端部16の周方向幅wd1を、同相間ティース22のティース先端部18の周方向幅wd4より相対的に狭くするのである。
同相間ティース22のティース先端部18の周方向幅wd4が異相間ティース21のティース先端部16の周方向幅wd1より広くなると、異相間ティースよりも同相間ティース22をキャリア磁束が比較例のモータの場合より流れ易くなる。同相間ティース22をキャリア磁束が流れ易くなる分、異相間ティース21をキャリア磁束が流れにくくなるのである。この結果、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に変化し、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が高くなる側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化されることとなる。
2種類のティース21,22の周方向幅wdが同じでも、ティース先端部16,18の周方向幅を変化させればキャリア成分の平均磁束密度実効値が変化する。そこで、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化されるように、同相間ティース22のティース先端部18の周方向幅wd4を適合するのである。
第2実施形態によれば、異相間のティース21のギャップ対向面積Sg1が同相間ティース22のギャップ対向面積Sg2より狭いので、異相間ティースよりも同相間ティース22をキャリア磁束が流れ易くなる。同相間ティース22をキャリア磁束が流れ易くなる分、異相間ティース21をキャリア磁束が流れにくくなる。この結果、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に変化し、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が増大する側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化される。このように第2実施形態においても、インバータのスイッチング周波数を変更することなしに、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化できる。
(第3実施形態)
図8は第3実施形態のステータ11の一部拡大平面図である。第1実施形態の図4、第2実施形態の図7と同一部分には同一の符号を付している。
第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせたものである。すなわち、第3実施形態では、第1実施形態と同じに異相間ティース21の周方向幅wd2を同相間ティース22の周方向幅wd3よりも広くする。かつ、第2実施形態と同じに同相間ティース22のティース先端部18の周方向幅wd4を、異相間ティース21のティース先端部16の周方向幅wd2より広くする。従って、3つの周方向幅wd3,wd2,wd4の間には、wd3<wd2<wd4の関係が成立する。第3実施形態においても、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化されるように、上記3つの周方向幅wd3,wd2,wd4を適合する。
第3実施形態においても、第1、第2の実施形態と同様の作用効果が得られる。
(第4実施形態)
図9は第4実施形態のステータ11の一部拡大平面図である。第1実施形態の図4と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、毎極毎相スロット数が2個の分布巻モータを対象とした。一方、第4実施形態では、毎極毎相スロット数が3個の分布巻モータを対象とする。毎極毎相スロット数が3個の分布巻モータでは、ステータコア12の内周側に、左側から3つのU相スロット、3つのV相スロット、3つのW相スロットというように、同じ相の巻線が周方向に3個連続してスロットに収容される。ここでもU相スロットを25a、V相スロットを25b、W相スロットを25cで区別すると、左側から3つのU相スロット25a、3つのV相スロット25b、3つのW相スロット25cと並ぶこととなる。
図9においても、周方向に連続的に配置された10個のティースを区別するため左側から15a,15b,15c,15d,15e,15f,15g,15h,15i,15jとする。このとき、15a,15d,15g,15jの4つが異相間ティース21、15b,15c,15e,15f,15h,15iの6つが同相間ティース22である。
図9に示したように、第4実施形態においても、磁路としての異相間ティース21の断面積St1を、磁路としての同相間ティース22,22の断面積St2より大きくする。このため、ティース15の厚さDPを変えないとすると、第1実施形態と同じに異相間ティース21の周方向幅wd11を同相間ティース22,22の周方向幅wd12,wd12より広くする。
なお、第4実施形態では、ティース先端部16,18,18の全てに周方向の両側に広がる突起部23,24,24を形成している。そして、異相間ティース21のティース先端部16の周方向幅wd13と、同相間ティース22,22のティース先端部18,18の周方向幅wd14,wd14がほぼ同様となるようにしている。
第4実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。すなわち、異相間ティース21の周方向幅wd11を同相間ティース22,22の周方向幅wd12,wd12より広くすることで、異相間ティース21の磁路断面積が同相間ティース22よりも大きくなる。異相間ティース21の磁路断面積が同相間ティース22よりも大きいと、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値が同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値よりも低くなる。すると、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が高くなる側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化することができる。
第4実施形態では、毎極毎相スロット数が3個の分布巻モータを対象としたが、この場合に限られない。毎極毎相スロット数が4個以上の分布巻モータを対象とすることができる。
(第5実施形態)
図10は第5実施形態のステータ11の一部拡大平面図である。第1実施形態の図4と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態では、図4に示したように、2種類のティース21,22の周方向幅wd2,wd1が径方向に関係なく一定であった。このため、2種類のティース21,22の周方向の両脇にあるスロット25a,25b,25cは、径方向の外側にゆくほど周方向幅が広がってゆく形状となっている。
さて、第5実施形態でも、図10に示したようにスロット61のうちのU相スロットを61a、V相スロットを61b、W相スロットを61cで区別する。このとき、第5実施形態では、2種類のティース21,22の周方向の両脇にあるスロット61a,61b,61cの周方向幅wd21を、径方向に関係なく一定としている。このようにスロットの周方向幅wd21が一定であるスロット61を「平行スロット」という。
第1と第5の実施形態でスロット25(25a,25b,25c),61(61a,61b,61c)の形状が相違するのは、ステータコイル31に用いる電線の種類が異なるためである。すなわち、第1実施形態のスロット25の形状は、ステータコイル31に使用される電線の断面が円の場合のものである。一方、第5実施形態の平行スロット61の形状は、ステータコイル31に平角線が用いられる場合のものである。ここで、平角線とは、引き抜きまたは圧延によって、電線の断面が長方形(正方形を含む)に仕上げられた電線のことである。平角線をステータコイル31に用いるときには、巻線占積率(ステータコア12のスロット断面積に対して電線が閉める面積の割合)を上げることができる。
第5実施形態では、平行スロット61とすることで2種類のティース21,22が径方向の外側にゆくにつれて周方向幅が広がる形状となる。すなわち、異相間ティース21についてティース先端部16の周方向幅wd22より、ティース根元部17の周方向幅wd23のほうが広くなっている。同様に、同相間ティース22についてもティース先端部18の周方向幅wd24より、ティース根元部19の周方向幅wd25のほうが広くなる。なお、2種類のティース21,22のティース先端部16,18には、ギャップ対向面積を拡大するため、周方向の両側に広がる突起部23,24を形成している。
図10において周方向に配置された7個のティース15を区別するため、左側から15a,15b,15c,15d,15e,15f,15gとすると、15a,15c,15e,15gの4つが異相間ティース21である。15b,15d,15fの3つが同相間ティース22である。このように、第1と第5の実施形態でスロットやティースの形状に相違があっても、スロットやティースの機能は第1と第5の実施形態で変わらない。
第5実施形態のように、径方向の外側にゆくにつれて周方向幅が広がってゆく2種類のティース21,22を有する場合であっても、本発明を適用することができる。すなわち、ティースの厚さdpを変えないとすれば、ステータコア12の中心から径方向に同じ距離をとった位置で2種類のティース21,22の周方向幅を比較する。そして、同じ距離をとった位置での異相間ティース21の周方向幅を、同じ距離をとった位置での同相間ティース22の周方向幅より広くする。第5実施形態においても、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化されるように、2種類のティース21,22の実際の形状や寸法を適合する。
第5実施形態でも、ステータコア12の中心から径方向に同じ距離をとった異相間ティース21と同相間ティース22の周方向幅を比較したとき、異相間ティース21の周方向幅が同相スロット22よりも広い。異相間ティース21の周方向幅が同相間ティース22よりも広いと、ステータコアのロータシャフト方向の幅が同じとすれば、異相間ティースの磁路断面積が同相間ティースよりも大きくなる。異相間ティース21の磁路断面積が同相間ティース22よりも大きくなると、異相間ティース21の基本波成分の平均磁束密度実効値が同相間ティース22の基本波成分の平均磁束密度実効値よりも低くなる。すると、異相間ティース21のキャリア成分の平均磁束密度実効値が低下する側に、同相間ティース22のキャリア成分の平均磁束密度実効値が高くなる側に変化する。これによって、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値が均一化される。2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化することで、キャリア損失を低下させることができる。
(第6実施形態)
図11は第6実施形態のステータ11の一部拡大平面図、図12は図11のX−X線断面図、図13は図11のY−Y線断面図である。
第1実施形態では、異相間ティース21の周方向幅wd2を同相間ティース22の周方向幅wd3より広くすることで、2種類のティース21,22の間でキャリア成分の平均磁束密度実効値を均一化した。これによって、ステータコアトータルの鉄損(キャリア損失)を低下させた。
一方、第6実施形態では、キャリア磁束が生じさせる鉄損そのものを扱う。すなわち、異相間ティースにキャリア磁束が集中することで異相間ティースの平均磁束密度実効値が同相間ティースより高くなる。異相間ティースの平均磁束密度実効値が同相間ティースより高くなると、異相間ティースにキャリア磁束が生じさせる鉄損が同相間ティースより大きくなる。そこで第6実施形態では、平均磁束密度実効値を扱うのではなく、直接キャリア磁束が生じさせる鉄損そのものを扱う。異相間ティースにキャリア磁束が生じさせる鉄損が同相間ティースにキャリア磁束が生じさせる鉄損より大きくなるのであれば、異相間ティースに同相間ティースよりもキャリア磁束が生じさせる鉄損が小さい材料を用いればよいと発想するものである。この場合、同相間ティースに方向性電磁鋼帯や無方向性電磁鋼帯などの一般的な電磁鋼板を用いるとすれば、異相間ティースには一般的な電磁鋼板より鉄損が小さい材料を用いればよいこととなる。これは、鉄損が小さい材料であれば、キャリア磁束が生じさせる鉄損を含む全ての鉄損を低減できるためである。
このように、第6実施形態では、異相間ティースに同相間ティースよりも鉄損が小さい材料を用いることで、2種類のティースの間で同等の鉄損となるようにする。
ここで、一般的な電磁鋼板より鉄損が小さい材料は一般的な電磁鋼板より高価であるので、ステータコア12の全体を一般的な電磁鋼板より鉄損が小さい材料にしたのではコストが上昇する。
そこで、第6実施形態では、キャリア磁束が生じさせる鉄損が大きい異相間ティースのみを一般的な電磁鋼板より鉄損が小さい材料にする。これによって、ステータコア全体を一般的な電磁鋼板より鉄損が小さい材料にする場合よりもコストを抑えつつ、キャリア磁束が生じさせる鉄損を小さくする。
鉄損は電磁鋼板に渦電流が流れることにより発生するので、抵抗値を上げるような添加物(例えばシリコン)を電磁鋼板に混入する。これによって、添加物を混入する前の電磁鋼板より渦電流が流れにくい材料となり、キャリア成分に起因する鉄損を小さくすることができる。
具体的に説明する。第1実施形態では、電磁鋼板を打ち抜くこと等によって薄板円盤状部材4を形成した後に、複数の薄板円盤状部材4をロータシャフト方向に積層してステータコア12を構成している。つまり、薄板円盤状部材4によって、バックヨーク14とティース15とを一体で形成している。
一方、第6実施形態では、バックヨーク部材71(バックヨーク)と、異相間ティース部材81と、同相間ティース部材91との3つを別体で構成する。すなわち、図11に示したように、電磁鋼板を打ち抜く等することによって、内周側にティースが嵌り込む穴73を周方向に沿って48個穿設した薄板リング状部材72を形成する。そして、複数の薄板リング状部材72をロータシャフト方向に積層して、円筒状のバックヨーク部材71を形成する。
一方、バックヨーク部材71の穴73に嵌り込む異相間ティース81と同相間ティース部材91を用意する。以下、異相間ティース部材及び同相間ティース部材をまとめていうときには、「2種類のティース部材」という。
2種類のティース部材81,91は全体として直方体状である。この2種類のティース部材81,91には、周方向の両側に突出する嵌合部82,92を図11に示したように径方向の外側端に設けておく。一方、2種類のティース部材81,91の径方向の内側端には、ギャップ対向面積を拡大するため、図11に示したように周方向の両側に広がる拡大部83,93を設けている。
異相間ティース部材81としては、バックヨーク部材71の鉄損よりも低い鉄損の材料を選択する。これに対して同相間ティース部材91としては、バックヨーク部材71の鉄損と同じ特性の材料でよい。
異相間ティース部材81は、電磁鋼板を打ち抜く等することによってほぼ長方形の薄板を形成し、この薄板をロータシャフト方向に複数積層させることで全体を直方体状としても良いし、異相間ティース部材81を一体で形成してもよい。同様に、同相間ティース部材91についても、電磁鋼板を打ち抜く等することによってほぼ長方形の薄板を形成し、この薄板をロータシャフト方向に複数積層させることで全体を直方体状としても良いし、同相間ティース部材91を一体で形成してもよい。この場合に、2種類のティース部材81,91とも、外形寸法は同じに形成する。
次に、2種類のティース部材81,91をバックヨーク部材71の穴73に圧入することで、2種類のティース部材81,91をバックヨーク部材71に嵌合固定し、ステータコア12を完成させる。そして、異相間ティース部材81が異相間ティースとして、同相間ティース部材91が同相間ティースとして機能するように、ステータコイル31を巻く。
異相間ティース部材81を同相間ティース部材91より鉄損の低い材料とすることで、2種類のティース部材81,91の間で、キャリア磁束が生じさせる鉄損を同等にすることができる。言い換えると、2種類のティース部材81,91の間で、キャリア磁束が生じさせる鉄損が均一化されるように、2種類のティース部材81,91の材質を選択するのである。
第6実施形態では、バックヨーク部材71と異相間ティース部材81と同相間ティース部材91の3つを別体とし、3つを合体させてステータコア12を構成し、異相間ティース部材81に同相間ティース部材91よりも鉄損が小さい材料を用いる。すると、インバータのスイッチング周波数を変更することなしに、2種類のティース部材81,91の間でキャリア磁束が生じさせる鉄損が均一化される。これによって、ステータコア12の全体を鉄損の低い材料で構成する場合よりコストを抑えつつ、キャリア損失(鉄損)を低下させることができる。
第6実施形態では、2種類のティース部材81,91の鉄損特性を相違させることにより、2種類のティース部材81,91の間でキャリア磁束が生じさせる鉄損が均一化されるようにした。2種類のティース部材81,91の間でキャリア磁束が生じさせる鉄損を均一化する方法はこの場合に限定されない。
たとえば、2種類のティース部材81,91を、複数の電磁鋼板をロータシャフト方向に積層して構成する場合に、同じ材質であっても、1枚の電磁鋼板の板厚が厚いほどキャリア磁束が生じさせる鉄損が大きくなる。そこで、異相間ティース部材81に用いる1枚の電磁鋼板の板厚を同相間ティース部材91に用いる1枚の電磁鋼板の板厚より薄くする。これによって、異相間ティース部材81にキャリア磁束が生じさせる鉄損を小さくさして、2種類のティース部材81,91にキャリア磁束が生じさせる鉄損を均一化することができる。この場合、2種類のティース部材81,91で電磁鋼板の枚数が同じであるとすると、異相間ティース部材81の厚さが同相間ティース部材91の厚さより短くなる。
実施形態では、ロータが筒状のステータの内部で回動する、いわゆるインナーロータ型の場合で説明したが、ロータがステータの外周側で回動する、いわゆるアウターロータ型であってもよい。また、回転同期モータか誘導モータかを問わずに本発明の適用がある。
図3,図4で示したように、第1実施形態では、異相間ティース21の周方向幅wd2を比較例のステータ11の異相間ティース21より広くし、同相間ティース22の周方向幅wd3を比較例のステータ11の同相間ティース22より狭くする場合で説明した。言い換えると、ステータ11の寸法(モータの寸法)を変えたくないために、異相間ティース21の周方向幅wd2を、同相間ティースの周方向幅wd3より相対的に広くするものであった。本発明は、ステータの寸法(モータの寸法)を維持する場合に限られるものでなく、ステータ11の寸法を変える場合にも適用がある。例えば、異相間ティースの周方向幅を比較例のステータの異相間ティースより広くし、同相間ティースの周方向幅を比較例のステータの同相間ティースと同じにする場合にも適用がある。また、異相間ティースの周方向幅を比較例のステータの異相間ティースと同じにし、同相間ティースの周方向幅を比較例のステータの同相間ティースより狭くする場合にも適用がある。