JP2017149708A - 縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜 - Google Patents

縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜 Download PDF

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Abstract

【課題】照射架橋法によって得られる線維化コラーゲン架橋膜であって、縫合可能なものを開発することを課題とする。
【解決手段】水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理された、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜である。この線維化コラーゲン架橋膜は、積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を密着させた状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程を含む製造方法により製造される。また、この線維化コラーゲン架橋膜は、未架橋の線維化コラーゲン膜の上面及び下面を押圧した状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程を含む製造方法により製造される。
【選択図】図1

Description

本発明は、照射による架橋処理が施され、縫合可能な強度を有する線維化コラーゲン架橋膜に関する。
従来、生体組織から取得したコラーゲンを主成分とするコラーゲン膜を医用材料に適用するために、様々な技術開発がおこなわれてきた。しかし、コラーゲン膜は力学的特性が十分ではなく、特に湿潤状態でその強度が低下する傾向にある。そのため、例えば体液等と接触する移植用材料としては取扱いが難しい場合があり、臨床現場においてその使用用途が限定されていた。
高強度のコラーゲン膜については、例えば、特許文献1及び2に開示されている。特許文献1に記載の高強度コラーゲン膜は、乾燥状態の引張強度が30MPa以上であり、重量法による密度が0.4g/cm3以上であるという特徴を有している。特許文献2には、湿潤下での引張強度が1MPa以上であり、重量法による密度が0.4g/cm3以上である線維化架橋処理コラーゲン膜が開示されている。
特許文献3には、縫合可能な人工血管に関する技術が開示されている。その製造方法の概要は、可溶化コラーゲン溶液を湿式紡糸して得たコラーゲン糸複数本をほぼ平行に配列するように巻き取り、この巻き取りを角度を変えて複数回行って層状物を得た後、架橋処理によって作製した不織布を管状に成型するものである。
再公表特許第2012−70679号公報 特許第5633880号公報 特開2004−188037号公報
特許文献2に記載された湿潤下での引張強度は、縫合時の線維化架橋処理コラーゲン膜について測定された所謂縫合強度ではない。特許文献2には、水性溶媒の存在下で、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射するという架橋処理の具体的な態様が開示されているが、当該態様によって得られる線維化架橋処理コラーゲン膜に縫合糸を通した場合、当該膜又は縫合糸を少し引張る程度の外力の作用によって、縫合によって生じた穴を起点とした亀裂が容易に生じる、という問題があった。
一般に、生体親和性の観点から、コラーゲンの形態としては線維化コラーゲンが要望されている。しかし、特許文献3は、湿式紡糸法における凝固浴として親水性有機溶媒を用いており、可溶化コラーゲン溶液中のコラーゲン分子は親水性有機溶媒中では線維化しないため、得られるコラーゲン糸を構成するコラーゲンは非線維化コラーゲンである。
ところで、特許文献3は、段落[0023]において、公知文献に記載された湿式紡糸法に関する技術も特許文献3のコラーゲン糸を得るための技術として取り込んでいる。そのうち、特開2000−93497号公報、特開2000−210376号公報及び特開2000−271207号公報は、いずれも実施例では親水性有機溶媒を凝固浴として用いているが、明細書中では無機塩類水溶液も凝固浴として用いていることができる旨が記載されている。凝固浴としての無機塩類水溶液のうち、濃厚塩類水溶液を用いる方法は例えば特開平8−35193号公報において開示されており、また、生理的な等張液又は緩衝液を用いる方法は例えば特開2016−69783号において開示されている。得られるコラーゲン糸を構成するコラーゲンについて、一般に、前者の濃厚塩類水溶液を用いた場合は非線維化コラーゲンであり、また、後者の生理的な等張液又は緩衝液を用いた場合は線維化コラーゲンである。但し、後者によって得られるコラーゲン糸は含水量が多く糸として扱うことは困難であるため、特許文献3の用途に好適なものとは言えない。
本発明の課題は、臨床現場からの要望をも満足しうる、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の提供である。
本発明者らは、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射による架橋法によって得られる線維化コラーゲン架橋膜であって、縫合可能なものを開発すべく鋭意検討した結果、未架橋の線維化コラーゲン膜を所定の状態において、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理することで、得られる線維化コラーゲン架橋膜の縫合可能性が有意に向上することを見出し、係る知見を基に本発明を完成した。
本発明は、以下のとおりである。
〔1〕膜を構成するコラーゲンが、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理された線維化コラーゲンであって、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜。
〔2〕下記引張試験により算出される引張強度Tが2MPa以上である上記〔1〕記載の線維化コラーゲン架橋膜。
(1)上記線維化コラーゲン架橋膜から、短辺の長さが1cmであり、長辺の長さが1.5cmである長方形状の試験片を作製する。
(2)縫合針付き縫合糸(縫合糸:4-0、縫合針:C-1)を用いて、(1)の試験片の一方の短辺の中点から試験片の中心に向かって5mmの位置に縫合糸を通し、輪状に結節する(以下、縫合糸を通して結節した短辺を短辺Aとし、他方の短辺を短辺Bとする)。
(3)(2)で得られた縫合糸付き試験片を、20℃のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)に1日間浸漬する。
(4)上記D-PBSから縫合糸付き試験片を取り出し、輪状に結節した縫合糸を引張試験機の下側チャックで固定し、短辺Bを引張試験機の上側チャックで固定する。
(5)上記縫合糸付き試験片の湿潤状態を保ちつつ、速度0.1mm/secで上側チャック及び下側チャックを引き離して、縫合糸付き試験片が破断するまでの最大荷重Fを測定する。
(6)試験片の平均膜厚t及び縫合糸の平均直径dから、下記(式1)により、試験片と縫合糸との接触面積Sを計算し、(5)で得られた最大荷重F及び接触面積Sから、下記(式2)により、引張強度Tを算出する。
S(mm2)=t(mm)×d(mm)×3.14÷2 (式1)
T(MPa)=F(N)/S(mm2) (式2)
〔3〕積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を密着させた状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程、を含む縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の製造方法。
〔4〕未架橋の線維化コラーゲン膜の上面及び下面を押圧した状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程、を含む、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の製造方法。
本発明に係る線維化コラーゲン架橋膜は、縫合可能な強度を有するため、とりわけ縫合処置を伴う医療用用途に好適に使用することができる。
図1は、実施例2の線維化コラーゲン架橋膜を2針縫合して、これを吊り下げたときの写真である。
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明されるが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
〔線維化コラーゲン架橋膜〕
本発明の線維化コラーゲン架橋膜は、膜を構成するコラーゲンが、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理された線維化コラーゲンであって、縫合可能な強度を有するものである。本発明の線維化コラーゲン架橋膜には、膜全面が縫合可能な強度を有するもののみならず、膜の一部だけが縫合可能な強度を有するものも含まれる。
尚、本願明細書において、「コラーゲン」とは、3重螺旋構造を有するコラーゲン分子及びこのコラーゲン分子からなる会合体や集合体を意味する。本願明細書における「コラーゲン」の概念には、3重螺旋構造が解けた熱変性コラーゲン(ゼラチン)及びコラーゲンペプチドは含まれない。また、「線維化コラーゲン」とは、コラーゲン分子が会合して生体内のコラーゲン線維に類似した構造をなしているものを意味し、その特徴としてはD周期性の横縞を有するものである。
本発明に係る線維化コラーゲン架橋膜が縫合可能であることを示す指標の好適な一例として、次の方法による引張試験により算出される引張強度Tがある。好ましくは、この引張強度Tは2MPa以上である。前述した通り、本発明の線維化コラーゲン架橋膜には、部分的に縫合可能な強度を有するものも含まれる。このような部分的に縫合可能な強度を有する線維化コラーゲン架橋膜については、縫合可能性の高い部位から下記引張試験に供する試験片を作製することが好ましい。特に、再現性等の観点から、試験片の性状は、全体として均一であることが好ましい。
(引張試験方法)
(1)線維化コラーゲン架橋膜から、短辺の長さが1cmであり、長辺の長さが1.5cmである長方形状の試験片を作製する。
(2)縫合針付き縫合糸(縫合糸:4-0、縫合針:C-1)を用いて、(1)の試験片の一方の短辺(短辺A)の中点から試験片の中心に向かって5mmの位置に縫合糸を通し、輪状に結節する。
(3)(2)で得られた縫合糸付き試験片を、20℃のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)に1日間浸漬する。
(4)D-PBSから縫合糸付き試験片を取り出し、輪状に結節した縫合糸を引張試験機の下側チャックで固定し、試験片の他方の短辺Bを引張試験機の上側チャックで固定する。
(5)縫合糸付き試験片の湿潤状態を保ちつつ、速度0.1mm/secで上側チャック及び下側チャックを引き離して、縫合糸付き試験片が破断するまでの最大荷重Fを測定する。
(6)試験片の平均膜厚t及び縫合糸の平均直径dから、下記(式1)により、試験片と縫合糸との接触面積Sを計算し、(5)で得られた最大荷重F及び接触面積Sから、下記(式2)により、引張強度Tを算出する。
S(mm2)=t(mm)×d(mm)×3.14÷2 (式1)
T(MPa)=F(N)/S(mm2) (式2)
なお、この実施形態では、引張試験機として、Stable Micro Systems製の「TEXTURE ANALYSER TA.XT.plus」を使用し、チャックとして、Stable Micro Systems社製の「Mini Tensile Grips Part Code. A/MTG」を使用し、縫合針付き縫合糸として、ETHICON INC.製の商品名「PERMA-HAND SILK」を使用した。
上記縫合糸の平均直径dは、簡便には、(直径の最小値+直径の最大値)/2によって求められる。例えば、ETHICON INC.製の商品名「PERMA-HAND SILK」の号数4-0の縫合糸については、同社の規格表に記載された直径の最小値150μmと最大値200μmとを用いて、上記式により、平均直径dが175μmと算出される。
上記試験片の平均膜厚tは、1枚の試験片について5箇所で測定した膜厚の平均値である。膜厚の測定方法は特に限定されず、マイクロメータ、ノギス等の既知の測定手段が用いられ得る。
上記接触面積Sは、引張試験中に、縫合糸の下側チャックに近い側面のみが線維化コラーゲン架橋膜と接触することから、縫合糸の外周の2分の1と設定することにより、上記式(1)としたものである。
本発明に係る線維化コラーゲン架橋膜が縫合可能であることを示す指標として、好適な他の一例は、線維化コラーゲン架橋膜に、待ち針、縫合針等の針を突き刺した状態で、この針を左右に動かしたとき、又は膜を少し引張ったときに、亀裂が発生しないことである。
(架橋)
本発明の線維化コラーゲン架橋膜は、線維化コラーゲンで構成されたコラーゲン膜が、水性溶媒の存在下で、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋されたものである。以下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射による架橋を、「照射架橋」とも称する。
ここで、本発明の線維化コラーゲン架橋膜を特定するにあたって、架橋処理の規定を設けた理由を説明する。コラーゲンの架橋法として、物理的架橋法と化学的架橋法が知られている。物理的架橋法の代表例として、照射架橋と熱脱水架橋があり、化学的架橋法の代表例として、水溶性化学架橋剤又は気化能を有する化学架橋剤による架橋がある。以下、架橋法を問わず、架橋されたコラーゲンを「架橋体」と称する。
まず、物理的架橋法について、照射架橋によって得られた架橋体と、熱脱水架橋によって得られた架橋体とは、架橋体同士を見比べても外観的な違いを見出すことは極めて困難であり、また、分析によってもいずれの架橋法によって架橋されたものかを区別することは極めて困難である。
次に、照射架橋によって得られた架橋体と、化学的架橋法によって得られた架橋体とは、架橋体同士を見比べても外観的な違いを見出すことは極めて困難である。化学的架橋法のうち、化学的架橋剤として、例えば、グルタルアルデヒドやポリエポキシ化合物(エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)を用いた場合は、化学的架橋剤がコラーゲンと結合して架橋反応が起きるために、化学的架橋剤を検出できれば、両者の判別は可能である。しかし、化学的架橋剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩等のコラーゲンと結合しないタイプのものを用いたときには、架橋体を分析しても化学的架橋剤の痕跡を見出すことはほぼ不可能である。
また、架橋されていないコラーゲン(「未架橋体」と称する)と架橋体との区別も極めて困難である。例えば、分析によって未架橋体と架橋体の違いを見出すことは、特に照射架橋体においては架橋点の多寡の違いしかないため、極めて困難である。未架橋体は架橋体よりも一般に強度的に弱く、水中保存安定性も低い傾向があるが、それら物理的傾向の違いが架橋処理の有無に起因したものであることを立証することも極めて困難である。
以上の区別の困難性から、本発明の線維化コラーゲン架橋膜が照射架橋によって架橋されたものであることを発明特定事項としたのである。
ところで、水性溶媒の存在下で照射架橋された架橋体の一特性は、例えば、特許文献2に記載されているように、細胞培養環境や生体内環境において分解し難いというものである。例えば、この架橋体をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)中に37℃で5日間浸漬した場合の溶解率が10質量%以下であるとき、この架橋体が上記特性を有するといえる。尚、溶解率とは、D-PBS中への架橋体からの溶出成分の質量の、浸漬前の架橋体の質量に対する割合(%)である。溶解率は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPS)によってD-PBS中の溶出成分の分子量分布を測定する方法、又はD-PBS中の溶出成分の質量を測定する方法によって評価できる。本発明の線維化コラーゲン架橋膜の溶解率も、10質量%以下である。
本発明の線維化コラーゲン架橋膜は、その製造方法により、単層膜及び単層膜が積層した積層膜のいずれに由来したものであっても構わない。積層膜由来の膜として、例えば、積層膜全体が一体化したもの、積層膜の一部のみが一体化しているもの等が挙げられるが、上述のように膜の一部だけであっても縫合可能な強度を有していれば、本発明の線維化コラーゲン架橋膜の範疇に含まれる。なお、本発明の線維化コラーゲン架橋膜においては、単層膜と積層膜のいずれに由来したかを判別する必要性はない。
(その他構成要素)
本発明の目的が阻害されない限り、使用目的に応じて、本発明の線維化コラーゲン架橋膜に、その他構成要素として各種添加剤が配合されてもよい。その他構成要素の例として、フィブリン、トロンビン、ゼラチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸等が挙げられる。
(密度)
本発明の線維化コラーゲン架橋膜の有する物性のうち、平均膜厚t及び密度ρについては、当該膜が縫合可能な性状を有する限り特に限定されるものではない。平均膜厚tの好適な一態様は、0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上である。ここで、密度ρは、架橋処理された線維化コラーゲンの密度を意味する。よって、本発明の線維化コラーゲン架橋膜がその他構成要素を含有しているときは、可能な限りその他構成要素が除去された状態で得られる密度を意味する。この密度ρは、寸法法によって測定される嵩密度であり、その好適な一態様は、100mg/cm3以上である。より好ましくは、150mg/cm3以上である。密度の別の一指標である面密度ρa(mg/cm2)=密度ρ(mg/cm3)×平均膜厚t(cm)について言えば、3mg/cm2以上であることが好ましく、より好ましくは4mg/cm2以上であり、さらに好ましくは5mg/cm2以上である。
本発明の線維化コラーゲン架橋膜の好適な一形態においては、密度ρが100mg/cm3以上且つ面密度ρaが3mg/cm2以上である。より好ましくは、密度ρが100mg/cm3以上且つ面密度ρaが4mg/cm2以上、又は密度ρが150mg/cm3以上且つ面密度ρaが3mg/cm2以上であり、さらに好ましくは、密度ρが150mg/cm3以上且つ面密度ρaが4mg/cm2以上であり、さらにより好ましくは、密度ρが150mg/cm3以上且つ面密度ρaが5mg/cm2以上である。
〔製造方法〕
本発明の縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の製造方法の好適な一形態である第1製法は、積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を密着させた状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程を含む方法である。上記「積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を密着させた状態」には、積層した部分(積層部)の全部が密着した状態のみならず、積層部の一部だけが密着した状態も含まれる。なお、本発明の目的が達成される限り、第1製法は、更に他の工程を含んでもよい。以下、本願明細書において特に限定しない限り、「線維化コラーゲン膜」とは、未架橋の線維化コラーゲン膜を意味する。
(未架橋の線維化コラーゲン膜)
未架橋の線維化コラーゲン膜は、線維化コラーゲンゲルから作製された膜状のものであり、線維化コラーゲンを主要構成要素とするものである。好適な一形態として、例えば、特許文献1及び2等に記載の架橋前の線維化コラーゲン膜が挙げられる。具体的には、可溶化コラーゲン溶液中のコラーゲンを線維化させて線維化コラーゲンゲルを調製し、これを脱塩した後乾燥させる。脱塩においては、エタノール/水の容量比を50/50〜100/0まで段階的に変化させた混合液に順次浸漬させることが好ましい。また、乾燥においては、膜の上下面をポリスチレン板で覆い、側面のみから脱媒させることが好ましい。尚、用いられるコラーゲンの種類は特に限定されないが、生体内での存在量が多いI型コラーゲンが好ましく、抗原決定基であるテロペプタイドが除去されたアテロコラーゲンがより好ましい。また、通常、哺乳類、魚介類、鳥類、爬虫類等の生物原料由来のコラーゲンが使用されうるが、ヒトと共通のウイルスを有しない魚介類由来のコラーゲンが好適に用いられる。
(積層)
未架橋の線維化コラーゲン膜を積層させるには、例えば、複数枚の未架橋の線維化コラーゲン膜を重ね合わせる。複数枚の線維化コラーゲン膜の積層状態は特に限定されない。複数枚の線維化コラーゲン膜を、その全面が重なり合うように積層させてもよいし、部分的に重なり合うように積層させてもよい。部分的に重なり合うように積層する場合、その重ね合わせ度合い、即ち、複数枚の線維化コラーゲン膜の全面積に占める重ね合わせ部分の割合は用途によって適宜設定すればよい。例えば、本発明の線維化コラーゲン架橋膜の外周付近までを縫合可能としたいときは、同じ大きさの未架橋の線維化コラーゲン膜を複数枚用意し、これを重ね合わせ度合いが最大となるように積層させることが好ましい。また、別の例として、本発明の線維化コラーゲン架橋膜の外周部分の一部に重ね合わせの無い部分を設けるように積層させることも可能である。未架橋の線維化コラーゲン膜の積層化の方法は上記に限定されるものではなく、例えば、1枚の未架橋の線維化コラーゲン膜を折り畳んで重ね合わせる方法が挙げられ、上記複数枚の未架橋の線維化コラーゲン膜の重ね合わせに関する事例を準用することができる。また、1枚の未架橋の線維化コラーゲン膜を折り畳んだものを複数用意し、これらを積層させてもよい。
(密着)
積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を相互に密着させるためには、積層した未架橋の線維化コラーゲン膜に対して力学的負荷をかけることが好ましい。密着した部分(密着部)は、積層部の少なくとも一部であればよく、用途に応じて適宜設定すればよい。密着部は、例えば、積層部の全部としてもよいし、そのうちの一部としてもよい。以下、積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を「積層体」と称し、この積層体において、積層部のうち少なくとも一部に密着状態を有するものを「密着積層体」と称する。
密着積層体の照射架橋において、水性溶媒が存在しても密着部の密着性を保持させるためには、密着部に力学的負荷をかけることが好ましい。好例は、部材を用いて密着部に力学的負荷をかける方法である。以下、このような部材を「密着部材」と称する。密着部材を用いる場合の一例として、密着部の上下面を一対の密着部材で挟み込んで上下面から押圧する方法が挙げられる。また、別の一例として、異なる形状の部材で密着部の上下面を挟み込む方法、具体的には、平板上又は容器の底面に設置した積層体の上面を別の形状の部材を用いて、その上面から押圧する方法が挙げられる。積層体の全面を密着部材で挟み込んで密着積層体としてもよいし、例えば、ドーナツ状の密着部材を用いて挟み込むことで、積層体の周辺部は密着しているが中央部は密着していない状態としてもよい。
密着部材として、非通水性の部材を用いてもよいが、得られる線維化コラーゲン架橋膜の架橋度を高めたいときは、通水性の部材を用いることが好ましい。通水性密着部材の一例は、多孔質部材である。多孔質の孔構成は規則的であっても不規則であってもよい。また、密着部に接する部分以外は非通水性であり、密着部に接する部分のみが通水性を有する密着部材であってもよい。
密着部材の材質は、コラーゲンとの相性や架橋方法を勘案して選択すればよい。例えば、コラーゲンが付着し難い材質や照射架橋に対する耐久性の高い材質を選択することも好ましい態様である。材質の具体例として、熱可塑性樹脂、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン(TPU)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、スチロール樹脂等が挙げられ、また、熱硬化性樹脂、例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。また、無機材料、例えば、金属、ガラス等を材質として選択することも可能である。これらのうち、熱硬化性樹脂であるウレタン樹脂、シリコーン樹脂等がより好ましく、特に好ましくはウレタン樹脂である。
本発明の縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の製造方法の別の好適な一形態である第2製法は、未架橋の線維化コラーゲン膜の上面及び下面を押圧した状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程を含む方法である。上記「押圧した状態」には、未架橋の線維化コラーゲン膜の全面を押圧した状態のみならず、その一部だけを押圧した状態も含まれる。なお、本発明の目的が達成される限り、第2製法は、更に他の工程を含んでもよい。
第2製法においては、未架橋の線維化コラーゲン膜の枚数は1枚以上である。即ち、未架橋の線維化コラーゲン膜は1枚だけであってもよいし、2枚以上であってもよい。1枚だけの場合は、得られる本発明の線維化コラーゲン架橋膜は単層膜に由来したものであると言える。第2製法のうち、2枚以上を重ね合わせる方法、1枚を折り畳む方法等によって積層化したものを押圧して膜を相互に密着させることを伴う製造方法は、第1製法にも該当する。第2製法では、押圧によって縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜が得られるように、押圧強度、線維化コラーゲン膜の膜厚、密度等の諸条件を適宜設定することが好ましい。好適には、押圧により未架橋の線維化コラーゲン膜が所定の厚みに圧縮される。押圧に用いる部材については、第1製法で示した密着部材と同様のものを用いることができる。
以下、第1製法に関して説明するが、適宜第2製法について読み替えることができる。具体的には、第1製法の密着部材を、第2製法の押圧に用いる部材に適宜読み替えることができる。また、第1製法の密着積層体を第2製法の未架橋の線維化コラーゲン膜と適宜読み替えることができる。尚、以下では、第1製法と第2製法をまとめて称するときに、「本製造方法」というときがある。
(水性溶媒)
水性溶媒は、例えば、水、生理食塩水、緩衝液、緩衝生理食塩水、酸性塩水溶液、中性塩水溶液、アルカリ性塩水溶液等が挙げられ、これらに有機溶媒を添加した混合溶媒でもよい。可溶化コラーゲン溶液に適当な水溶液を添加し適度なイオン強度及び適度なpHとすることによって、コラーゲンが線維化することが知られている。よって、好適な一形態は、線維化コラーゲンとしての形態を架橋処理の間維持させる観点から、可溶化コラーゲン溶液から線維化コラーゲンを得るために用いた水溶液と同様の水溶液を水性溶媒として選択することである。当該水溶液のpHについては、例えば3〜10の範囲内でコラーゲンの種類(酸可溶化コラーゲン、酵素可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン等)に応じて適宜設定することが好ましい。一例として、酵素可溶化コラーゲンについては、pH6〜8の範囲の緩衝液、緩衝生理食塩水、中性塩水溶液等を用いることが好ましい。なお、線維化コラーゲンを比較的溶解し易い水性溶媒であっても、この水性溶媒への浸漬及び架橋処理を短時間でおこなう場合には使用可能である。好適な水性溶媒として、緩衝液及び緩衝生理食塩水を例示でき、具体例は、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等である。
(架橋処理方法)
架橋処理方法は、照射架橋法である。γ線照射、電子線照射、UV照射及びプラズマ照射のうち2種以上を組み合わせてもよい。好適な照射架橋法は、透過力が高く、均一に架橋させることができるγ線照射による架橋法である。特に、γ線照射による架橋処理では、照射線量を適宜設定することによって、高強度の線維化コラーゲン架橋膜を得ることもできる。γ線照射では、線量率が固定の線源を用い、照射時間等の条件を適宜設定することにより、所定の照射線量を簡便に得ることができる。例えば、コバルト60線源を用いる場合、照射線量5〜75kGyで架橋処理を行うことができる。照射線量として、好ましくは5〜50kGyであり、より好ましくは10〜50kGyであり、さらに好ましくは15〜30kGyである。照射時間は、密着積層体の量や大きさに応じて架橋反応が十分に進行するように設定することが好ましい。さらに、照射条件を適宜設定すれば架橋処理と同時に滅菌処理を行うことができる。そのため、架橋処理中及び架橋処理後の密封状態を保つようにすることで、滅菌済み製品として、そのまま市場に流通させることも可能である。
(架橋処理と水性溶媒)
本製造方法では、作用機序については定かではないが、水性溶媒の存在下で照射架橋をおこなうことによって、照射(γ線等)により発生した水のラジカルがコラーゲンの未架橋部分に作用し、これによって架橋反応を開始又は進行させると推測される。また、この架橋反応は、1枚の線維化コラーゲン膜の内部だけでなく、密着積層体において互いに密着している線維化コラーゲン膜間でも進行しているものと推測される。この理由として、ある一定以上の架橋度まで架橋が進行した線維化コラーゲン架橋膜では、その断面構造を観察しても層構造を確認することが困難だからである。
特に好適な一形態は、照射架橋処理中に、密着部材と接触している部分の密着積層体には水性溶媒が少なくとも分子レベルで流通又は浸潤しており、密着部材と接触していない部分の密着積層体にも水性溶媒が少なくとも分子レベルで流通している状態とすることである。即ち、密着部材と接触していない部分は当然のことながら、たとえ密着部材と接触している部分であっても、少なくとも水分子の流動性が少なからず確保されている状態とする。これによって、水分子の流動とともに、新たに発生した水のラジカルが順次コラーゲンの未架橋部分に作用して架橋反応を進行させ、より高い架橋度を得ることも可能になると考えられる。このように、本発明の好適な一形態においては、たとえ撹拌等による外力が作用しなくても、水分子のレベルで線維化コラーゲン膜の内部から外部へ、またその逆方向への動きが確保されている状態であればよいと考えられる。
本製造方法において、使用する水性溶媒の量は、特に限定されず、密着積層体の外形や大きさに応じて調整される。例えば、少なくとも密着積層体の表面全体が水性溶媒で覆われる状態であり、好適には、密着積層体が水性溶媒に浸漬した状態である。また、密着積層体が水性溶媒に完全に浸漬していない状態、例えば、密着積層体の一部が水性溶媒に浸漬していない場合であっても、当該部分における浸潤性が確保できていれば、密着積層体が水性溶媒に浸漬した状態と言える。本願明細書では、以上例示したような密着積層体に対する水性溶媒の状態を含めて、「水性溶媒の存在下」と称するものである。水性溶媒の量として、例えば、密着積層体の容量に対して、2〜100倍の範囲が好ましく、5〜100倍の範囲がより好ましく、10〜50倍の範囲が更に好ましい。
(乾燥工程)
本製造方法では、架橋処理後の密着積層体を脱溶媒することにより乾燥させる乾燥工程を更に含んでもよい。乾燥の程度は、用途に応じて適宜設定すればよい。乾燥方法は、公知の方法を用いればよく、特に限定されることはない。
(その他構成要素の配合)
前述したその他構成要素を本発明の線維化コラーゲン架橋膜に配合する場合は、その他構成要素の種類、目的とする用途等に応じて、その他構成要素の配合タイミングを適切に選択することが好ましい。配合タイミングとして、例えば、架橋処理前、架橋処理後等が挙げられる。
(用途)
本発明の線維化コラーゲン架橋膜は、移植用材料、創傷被覆用材料、癒着防止用材料等への適用が可能であり、とりわけ、縫合を伴う用途に好適に用いることができる。
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
(可溶化コラーゲン溶液の調製)
・ティラピアの鱗から製造された多木化学(株)製「セルキャンパス FD-08G」(凍結乾燥品)をpH3のHCl溶液に溶解した後、コラーゲン濃度1.1%、pH3に調整して、無色透明の可溶化コラーゲン溶液Aを得た。
・コラーゲン濃度を2.2%とした以外は、可溶化コラーゲン溶液Aの調製と同様にして、可溶化コラーゲン溶液Bを得た。
(線維化コラーゲン膜の作製)
・可溶化コラーゲン溶液Aの9容量部と、10倍濃度のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)の1容量部とを混合し、コラーゲン/D-PBS混合液を得た。コラーゲン/D-PBS混合液0.79mlをシリコーン製成形器(直径20mm、高さ2.5mm)に注入した。水分の蒸発を防ぐために、成形器の上面をスライドグラスで覆い、25℃で12時間保持して線維化コラーゲンゲルを得た。当該線維化コラーゲンゲルを、エタノール/水混合液(容量比50/50)に浸漬した。続いて、容量比70/30、90/10、100/0のエタノール/水混合液に順次浸漬して、この線維化コラーゲンゲルを脱塩した。その後、成形器から取り出した線維化コラーゲンゲルの上下面をポリスチレン板で覆い、側面のみから脱溶媒することにより乾燥させて膜状の線維化コラーゲン膜1を得た。
・可溶化コラーゲン溶液Aの代わりに可溶化コラーゲン溶液Bを用いた以外は、線維化コラーゲン膜1の作製と同様にして、線維化コラーゲン膜2を得た。
・コラーゲン/D-PBS混合液2.34mlをシリコーン製成形器(直径20mm、高さ7.5mm)に注入した以外は、線維化コラーゲン膜1の作製と同様にして、線維化コラーゲン膜3を得た。
・コラーゲン/D-PBS混合液2.34mlをシリコーン製成形器(直径20mm、高さ7.5mm)に注入した以外は、線維化コラーゲン膜2の作製と同様にして、線維化コラーゲン膜4を得た。
(線維化コラーゲン架橋膜の製造)
〔実施例1〕
2枚の線維化コラーゲン膜1を、重ね合わせ度合いが最大となるように積層した。当該積層体の上面及び下面をあらかじめD-PBSに浸漬した2枚のポリウレタンスポンジ(密着部材)で挟んで押圧することにより、2枚の線維化コラーゲン膜1を密着させ、クリップで固定して密着状態を保持した。当該密着積層体をD-PBS中に投入して、25kGyのγ線を照射することにより、実施例1の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
(断面観察)
実施例1の線維化コラーゲン架橋膜の断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製「JSM-6010LA」)で観察した。その結果、断面に層構造は確認できず、2枚の線維化コラーゲン膜1が一体化されたものであることがわかった。
(溶解率)
実施例1の線維化コラーゲン架橋膜を、6wellプレートに配し、D-PBS 5ml中に37℃で5日間浸漬した。5日後、上澄みのみをサンプリングし、80℃で1日間乾燥した後、溶解重量を測定し、溶解率を求めた。その結果、溶解率は3%であった。
〔実施例2〕
線維化コラーゲン膜1の枚数を3枚にした以外は、実施例1と同様の方法にして、実施例2の線維化コラーゲン架橋膜を得た。実施例2の線維化コラーゲン架橋膜の走査型電子顕微鏡による断面観察においても、層構造は認められず、3枚の線維化コラーゲン膜1が一体化していることを確認した。また、実施例2の線維化コラーゲン架橋膜を2針縫合して縫合糸を通し、これを縫合糸で吊り下げたときの写真を図1に示した。縫合及び縫合後の取扱いにおいても、実施例2の線維化コラーゲン膜に亀裂は生じなかった。
〔実施例3〕
線維化コラーゲン膜1の枚数を4枚にした以外は、実施例1と同様の方法にして、実施例3の線維化コラーゲン架橋膜を得た。実施例3の線維化コラーゲン架橋膜走査型電子顕微鏡による断面観察においても、層構造は認められず、4枚の線維化コラーゲン膜1が一体化していることを確認した。
〔実施例4〕
1枚の線維化コラーゲン膜2の上面及び下面をあらかじめD-PBSに浸漬した2枚のポリウレタンスポンジ(密着部材)で挟んで押圧した状態で、D-PBS中に投入して、25kGyのγ線を照射することにより、実施例4の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔実施例5〕
線維化コラーゲン膜2の代わりに線維化コラーゲン膜3を用いた以外は、実施例4と同様にして、実施例5の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔実施例6〕
線維化コラーゲン膜2の代わりに線維化コラーゲン膜4を用いた以外は、実施例4と同様にして、実施例6の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔実施例7〕
押圧強度を高めた以外は、実施例4と同様にして、実施例7の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔実施例8〕
線維化コラーゲン膜2の代わりに線維化コラーゲン膜3を用いた以外は、実施例7と同様にして、実施例8の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔実施例9〕
線維化コラーゲン膜2の代わりに線維化コラーゲン膜4を用いた以外は、実施例7と同様にして、実施例9の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔比較例1〕
線維化コラーゲン膜1の枚数を1枚とし、密着部材を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にして、比較例1の線維化コラーゲン架橋膜を得た。得られた線維化コラーゲン架橋膜の主要構成要素は、架橋された線維化コラーゲンである。
〔比較例2〕
比較例1と同様にして作製した2枚の線維化コラーゲン架橋膜を積層することにより、比較例2の線維化コラーゲン架橋膜を得た。比較例2の線維化コラーゲン架橋膜は、密着積層体ではなく、一体化されたものでもない。
〔比較例3〕
比較例1と同様にして作製した3枚の線維化コラーゲン架橋膜を積層することにより、比較例3の線維化コラーゲン架橋膜を得た。比較例3の線維化コラーゲン架橋膜は、密着積層体ではなく、一体化されたものでもない。
(引張試験)
上記実施例1〜9及び比較例1〜3の各線維化コラーゲン架橋膜を引張試験に供した。試験方法は、次のとおりである。
(1)各線維化コラーゲン架橋膜から、短辺の長さが1cmであり、長辺の長さが1.5cmである長方形状の試験片をそれぞれ作製した。
(2)縫合針付き縫合糸(ETHICON INC.製の商品名「PERMA-HAND SILK」、縫合糸:4-0、縫合針:C-1)を用いて、(1)の試験片の一方の短辺の中点から試験片の中心に向かって5mmの位置に縫合糸を通し、輪状に結節した(以下、縫合糸を通して結節した短辺を短辺Aとし、他方の短辺を短辺Bとする)。
(3)(2)で得られた縫合糸付き試験片を、20℃のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)に1日間浸漬した。
(4)D-PBSから縫合糸付き試験片を取り出し、輪状に結節した縫合糸を引張試験機の下側チャックで固定し、短辺Bを引張試験機の上側チャックで固定した。
(5)上記縫合糸付き試験片の湿潤状態を保ちつつ、速度0.1mm/secで上側チャック及び下側チャックを引き離して、縫合糸付き試験片が破断するまでの最大荷重Fを測定した。
(6)試験片の平均膜厚t及び縫合糸の平均直径dから、下記(式1)により、試験片と縫合糸との接触面積Sを計算し、(5)で得られた最大荷重F及び接触面積Sから、下記(式2)により、引張強度Tを算出した。
S(mm2)=t(mm)×d(mm)×3.14÷2 (式1)
T(MPa)=F(N)/S(mm2) (式2)
なお、使用した引張試験機は、Stable Micro Systems製の「TEXTURE ANALYSER TA.XT.plus」であり、チャックは、Stable Micro Systems社製の「Mini Tensile Grips Part Code. A/MTG」である。ETHICON INC.の規格表によれば、縫合糸:4-0の直径の最小値は150μmであり、直径の最大値は200μmであり、従って縫合糸の直径の平均値dは175μmであった。
実施例1〜9及び比較例1〜3の線維化コラーゲン架橋膜の平均膜厚t(mm)、密度ρ(mg/cm3)、面密度ρa(mg/cm2)及び上記引張試験により算出した引張強度F(MPa)が、下記表1に示されている。平均膜厚tは、マイクロメータを用いて最低5点の膜厚を測定し、その平均を求めたものである。密度ρは、寸法法により3回測定して得たものの平均値である。面密度ρaは、密度ρ及び平均膜圧tからの計算値である。また、引張強度Fは3回測定したものの平均値である。表1において、実施例1〜9の引張強度は、比較例1〜3の引張強度よりも大きい。
Figure 2017149708
(突き刺し試験)
上記実施例1〜9及び比較例1〜3の各線維化コラーゲン架橋膜の外周から5mm内側の位置に市販の裁縫用待ち針(軸の太さ約0.6mm)を突き刺した。この状態で、待ち針を固定し、待ち針が直近の外周方向に向かうように膜を手で少しずつ引張りながら、肉眼で膜の状態を観察した。その結果、実施例1〜9の膜では全く亀裂の発生が認められなかった。一方、比較例1〜3の膜は、待ち針を突き刺した部分から発生した亀裂により破断した。
上記試験結果に示される通り、本発明に係る線維化コラーゲン架橋膜は縫合可能である。以上の試験結果から、本発明の優位性は明らかである。

Claims (4)

  1. 膜を構成するコラーゲンが、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理された線維化コラーゲンであって、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜。
  2. 下記引張試験により算出される引張強度Tが2MPa以上である請求項1記載の線維化コラーゲン架橋膜。
    (1)上記線維化コラーゲン架橋膜から、短辺の長さが1cmであり、長辺の長さが1.5cmである長方形状の試験片を作製する。
    (2)縫合針付き縫合糸(縫合糸:4-0、縫合針:C-1)を用いて、(1)の試験片の一方の短辺の中点から試験片の中心に向かって5mmの位置に縫合糸を通し、輪状に結節する(縫合糸を通して結節した短辺を短辺Aとし、他方の短辺を短辺Bとする)。
    (3)(2)で得られた縫合糸付き試験片を、20℃のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)に1日間浸漬する。
    (4)上記D-PBSから縫合糸付き試験片を取り出し、輪状に結節した縫合糸を引張試験機の下側チャックで固定し、短辺Bを引張試験機の上側チャックで固定する。
    (5)上記縫合糸付き試験片の湿潤状態を保ちつつ、速度0.1mm/secで上側チャック及び下側チャックを引き離して、縫合糸付き試験片が破断するまでの最大荷重Fを測定する。
    (6)試験片の平均膜厚t及び縫合糸の平均直径dから、下記(式1)により、試験片と縫合糸との接触面積Sを計算し、(5)で得られた最大荷重F及び接触面積Sから、下記(式2)により、引張強度Tを算出する。
    S(mm2)=t(mm)×d(mm)×3.14÷2 (式1)
    T(MPa)=F(N)/S(mm2) (式2)
  3. 積層した未架橋の線維化コラーゲン膜を密着させた状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程、
    を含む、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の製造方法。
  4. 未架橋の線維化コラーゲン膜の上面及び下面を押圧した状態で、水性溶媒の存在下、γ線照射、電子線照射、UV照射又はプラズマ照射により架橋処理する工程、
    を含む、縫合可能な線維化コラーゲン架橋膜の製造方法。
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