JP2017149605A - 導電性dlc構造体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】導電性DLC層を有する導電性DLC構造体及びその製造方法の提供。
【解決手段】基材層と、基材層の表面に設けられた導電性DLC層と、を含む、導電性DLC構造体。基材層と、基材層の表面に設けられた導電性DLC層と、導電性DLC層と基材層との間に介在し、導電性DLCと基材層を構成する材料とが混在するミキシング層と含む、導電性DLC構造体。基材表面に高分子材料を含む高分子膜を形成する工程(X)と、基材表面に形成された高分子膜に、該高分子膜を透過可能な加速エネルギーを有するイオンビームを、照射量3×1015/cm2〜1×1018/cm2の範囲で照射し、導電性DLC層を有する構造体を得る工程(Y)と、を含む、導電性DLC構造体の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、導電性DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層を有する導電性DLC構造体及びその製造方法に関する。
DLCの定義は厳密ではないが、DLCとは、通常、高硬度(HV900以上)、低摩擦係数、ガスバリア性、生体適合性などの特性を有し、多くの場合水素原子を含むアモルファス状の炭素材料に対してつけられた呼び名である。そして、種々の特性を示すDLC層を有するDLC構造体が開発され、その特性に応じて、工具、摺動部品等の様々な用途に応用され、広く市場に提供されつつある。
DLC層の形成方法としては、炭化水素ガスを原料とする化学気相成長法(CVD法)が主流であったが、近年アーク放電により生じる炭素イオンを用いて水素原子を含まないDLC層を形成するフィルター型カソーディック真空アーク(FCVA)方式の物理気相成長法(PVD法)が開発され、超高硬度を有するDLC層の形成方法として広がりつつある。これらの従来法で得られるDLC層は絶縁性である。しかし、電子、電気分野の応用の中には絶縁性のみならず導電性が求められる応用も多く存在する。
従来の報告の中には、基板を加熱して成膜する方法(このときボロン原子やリン原子が添加される場合もある)により、導電性DLC層が得られたという報告がある。しかしながら、このような報告には、形成された物質がDLC層の範疇に含まれることを示唆する硬度や摩擦係数等の物性やDLC層に特有のラマンスペクトル等の情報が欠落しており、導電性DLC層が形成されたことを明確に示すデータはない。また、導電性DLC層が実際の応用に供されている報告もない。
従来の報告の一つである特許文献1は、真空容器内に被加工基材を設置し、該被加工基材を200℃以上に加熱し、かつ1kV以上のパルス電圧を印加した状態で、該真空容器内にアセチレンガスやメタンガス等の炭化水素系原料ガスを導入して放電プラズマを発生させ、放電プラズマと被加工基材と接触させることにより、被加工基材表面に導電性DLC層を形成する方法を開示する。特許文献1のDLC層は、非晶質炭素の中に、グラファイト微結晶とダイヤモンド微結晶とが混在したものと記載されている(段落[0029])。しかしながら、当業者の技術常識によれば、ダイヤモンドとグラファイトとが同時に生成することはあり得ない。
また、従来の燃料電池のセパレータは、耐食性、耐久性、機械強度、導電性等の観点から、主にステンレス等の鉄系材料から構成されている。しかし、燃料電池車等の開発に伴って、燃料電池の大型化が進む中、比較的大きな重量を有する鉄系材料は燃料電池の高重量化をもたらし、燃料電池車の燃費性能に影響を及ぼすことから、鉄系材料よりも軽い材料が求められている。また、燃料電池のセパレータには、複数の流路の形成が必要になることから、鉄系材料よりも成形加工性に優れた材料が求められている。鉄系材料よりも軽量でかつ成形加工性に優れた材料として、例えば、アルミニウムが挙げられる。しかしながら、アルミニウムは、燃料電池のセパレータとして用いるには、耐食性、耐久性、機械強度等の点で、十分満足できるものではない。
また、燃料電池のセパレータに、耐食性や機械強度を高める観点から、DLC層を利用する報告もなされている。特許文献2は、セパレータ基板と、セパレータ基板表面に設けられたDLC層とを有し、DLC層がSi、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選ばれる金属の酸化物を含む、燃料電池用セパレータを開示する。しかしながら、前記の金属酸化物は絶縁性(非導電性)であることから、金属酸化物をDLC層に含有させても、DLC膜を低抵抗化する効果は極めて少ない。
特許文献3は、セパレータ基板表面に、導電性DLC層を有する燃料電池用セパレータを開示する。しかしながら、ここで用いられる導電性DLC層は、特許文献1に開示の製造方法により得られたものである。
特開2010−24476号公報 特開2007−134107号公報 特開2012−146616号公報
成膜法により導電性DLC層形成を試みた報告では、いずれもDLC層を形成する基板(基材)の温度を250〜350℃程度まで昇温した状態で成膜を行なっている。しかしながら、非晶質炭素膜は水素原子を含むか否かに関係なく熱に対して弱く、250℃を超える温度環境では水素原子の離脱、非晶質状態からグラファイト結合への再結晶が始まる。従って、基板を250〜350℃に加熱する条件では、導電性は有するものの、低硬度の多結晶グラファイト構造を有する炭素膜が形成されている可能性が高い。
例えば、CVD法により基板を350℃に加熱して形成された導電性DLC層の走査型電子顕微鏡写真がインターネット上に公開されている(www.kiss.or.jp/number1/pdf/45_
ecR9l)。該電子顕微鏡写真は、まさにグラファイトの多結晶が柱状に成長した構造を示している。このような構造では粒界にピンホールが発生し易くなり、用途として例えば固体高分子型燃料電池用金属セパレータ保護膜のような用途には適さないし、そもそもDLCを特徴づけるに充分な高硬度(HV900以上)と化学的な安定性を有するとは考え難い。
また、一般に硬度の小さい金属材料上への高硬度のDLC層の形成は、密着力において問題を生じる場合が多く、中間層の挿入等、密着力の低下を避ける工夫がなされる。しかしながら、特にアルミニウムのような材料においては、充分な密着力を持つDLC層の形成自体が課題である。また、金属表面にDLC層を形成する場合には、密着力の問題とともに表面の平坦性の問題がある。例えば、等方的な成膜であるCVDの場合には、表面に機械加工痕、傷等が存在しようがDLC層の付きまわりに問題がない場合が多いが、FCVA方式のように異方性が強くなる成膜の場合には平坦性の悪さにより生じる膜厚のばらつき、あるいは成膜ぬけが発生する可能性が高いことも解決すべき課題である。
本発明の目的は、高分子材料にイオンビームを照射してDLCを形成する方法を利用して、導電性DLC層を有する新規な導電性DLC構造体及びその製造方法、並びに該導電性DLC構造体の用途を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高分子材料を基材に塗布し、得られた高分子膜にイオンビームを照射してDLC層を形成する技術において、イオンビームの照射条件を所定の範囲に設定することにより、グラファイト粒子の混在による導電化ではなく、DLC層全体が導電化したと考えられる導電性DLC層が形成され、該導電性DLC層が基材に対して優れた密着力を示し、また高い硬度や耐食性を有し、基材に対する保護膜としての信頼性の高いものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)の導電性DLC構造体、下記(6)〜(11)の導電性DLC構造体の製造方法、及び下記(12)の固体高分子型燃料電池セパレータを提供する。
(1)基材層と、基材層の表面に設けられた導電性DLC層と、を含む、導電性DLC構造体。
(2)導電性DLC層と基材層との間に介在し、導電性DLC層を構成する導電性DLCと基材層を構成する材料とが混在するミキシング層をさらに含む、上記(1)の導電性DLC構造体。
(3)ミキシング層は、導電性DLC構造体の厚み方向に、導電性DLCの含有量が連続的又は段階的に変化する濃度勾配を有する、上記(2)の導電性DLC構造体。
(4)基材層が金属材料からなる、上記(1)〜(3)のいずれかの導電性DLC構造体。
(5)金属材料がアルミニウムである、上記(4)の導電性DLC構造体。

(6)基材の表面に高分子材料を含む高分子膜を形成する工程Xと、基材の表面に形成された高分子膜に、該高分子膜を透過可能な加速エネルギーを有するイオンビームを、照射量3×1015/cm2〜1×1018/cm2の範囲で照射し、該高分子膜を導電性DLC層に変換し、導電性DLC層を有する構造体を得る工程Yと、を含む、導電性DLC構造体の製造方法。
(7)工程Yにおける、高分子膜に照射するイオンビームのエネルギー密度が0.2W/cm2以上である、上記(6)の導電性DLC構造体の製造方法。
(8)工程Xと、工程Yと、を交互に繰返し実施する、上記(6)又は(7)の導電性DLC構造体の製造方法。
(9)工程Xにおいて、高分子膜が高分子材料の硬化層である、上記(6)〜(8)のいずれかの導電性DLC構造体の製造方法。
(10)基材が金属材料からなり、かつ基材の平坦度がシリコンウエハの平坦度よりも相対的に低い、上記(6)〜(9)のいずれかの導電性DLC構造体の製造方法。
(11)上記(1)〜(5)のいずれかの導電性DLC構造体からなる、固体高分子型燃料電池セパレータ。
本発明によれば、基材に対する密着力が高く、ピンホールのない導電性DLC層を有する導電性DLC構造体が提供される。
SRIM(2体衝突過程シミュレーションソフト)を用いて評価した、ポリビニルピロリドン(PVP)中でのヘリウムイオン(He)、窒素イオン(N)、アルゴンイオン(Ar)の加速エネルギー(横軸)と到達距離(縦軸)との関係を示すグラフである。 実施例1で作製された試料A又は試料Bの表面に形成されたDLC層の抵抗率とイオンビーム照射量との関係を示すグラフである。 イオンビームの照射量を3×1016/cm2とするときの、試料A表面に形成されたDLC層の抵抗率とイオンビームのエネルギー密度との関係を示すグラフである。 イオンビームの照射量を1×1017/cm2とするときの、試料A表面に形成されたDLC層の抵抗率とイオンビームのエネルギー密度との関係を示すグラフである。 本発明の導電性DLC層のラマン散乱スペクトルを示すグラフである。 本発明の導電性DLC層のラマン散乱スペクトルをさらに詳しく示すグラフである。 導電性DLC層の硬度とイオンビーム照射量との関係を示すグラフである。 本発明の導電性DLC構造体のXPSによる深さ組成分析結果を示すグラフである。 実施例2で得られた導電性DLC構造体Cのロックウェル圧痕試験後の表面状態を示す顕微鏡写真である。 実施例2で得られた導電性DLC構造体Dのロックウェル圧痕試験後の表面状態を示す顕微鏡写真である。
本発明のDLC構造体は、基材層と、基材層表面の少なくとも一部に設けられた導電性DLC層と、を有する。ここで、本発明における導電性DLC層は、非導電性であるDLC層中にグラファイト粒子が混在することにより導電性を示すものではなく、導電性高分子として知られているポリアセチレンに近い構造によるものと考えられ、その四探針法による抵抗率は通常10mΩ・cm以下である。本発明のDLC構造体において、導電性DLC層は、高導電性だけでなく、従来の非導電性DLC層に遜色のない高硬度(HV900以上)低摩擦係数、ガスバリア性、生体適合性等の特性を有し、さらに基材層に対する密着性が高く、緻密性に優れてピンホールの発生が非常に少なく、例えば、基材層の保護膜として極めて有用である。
本発明の導電性DLC層は、従来のDLC層と異なり、ラマンシフト1570/cm付近のGバンドと、ラマンシフト1350/cm付近のDバンドだけでは説明できないラマン散乱スペクトルを有している。従来のDLC層のラマン散乱スペクトルは、Gバンドのラマン散乱強度とDバンドのラマン散乱強度との差が比較的大きく、2つの高さの異なる山頂が繋がった形状となっている。これに対し、本発明の導電性DLC層の抵抗率が減少するにつれて、すなわち導電性が高まるにつれて、Gバンドのラマン散乱強度が低下し、Gバンド及びDバンドの各頂点を繋いだ線が台形の上底となる、ほぼ台形状の特異的な形状を有するラマン散乱スペクトルとなり、従来の非導電性DLC層とは明らかに異なっている。
この台形状のスペクトルを解析するためには、Gバンド、Dバンド以外に1150/cmおよび1500/cm付近にピークを持つ2成分について考察する必要がある。これらの成分はそれぞれ導電性高分子であるポリアセチレンのC−C結合およびC=C結合に対応するとみなされる場合があることから、本発明のDLC層の導電性が、グラファイト構造とは全く異なる1次元的な構造に由来するものと考えられる。
また、本発明の導電性DLC構造体は、後述するように基材層表面に形成した高分子膜にイオンビームを照射することにより得られるものであるが、イオンビームの照射量に応じて、基材層と、導電性DLC層と、これらの間に介在し、基材層を構成する材料と導電性DLCとが混在したミキシング層と、を有する別形態の導電性DLC構造体とすることができる。この別形態の導電性DLC構造体は、ミキシング層の存在により、基材層と導電性DLC層との接着性又は導電性DLC層の基材層に対する密着性がより一層向上したものとなる。
上記別形態の導電性DLC構造体において、ミキシング層は,基板であるSUS304上に導電性DLCを形成したときの深さ方向の組成の変化を図4に示すように、組成の傾斜的な変化を伴うものであり、実際には導電性DLCの含有量が、導電性DLC構造体の厚み方向に連続的又は段階的に変化する濃度勾配を有する層となっているものと考えられる。この構造は成膜手法においては作製が困難であり、イオンビーム照射法により初めて可能となったものである。このような濃度勾配が、ミキシング層による基材層と導電性DLC層との密着性のより一層の向上がもたらされる一因になっているものと考えられる。
本発明において、上記基材層を構成する材料としては特に限定されず、例えば、金属材料、半導体材料、樹脂材料、ゴム材料、セラミック材料、ガラス材料、木質材料等が挙げられるが、得られた導電性DLC構造体の電気、電子デバイスへの応用等の観点から、金属材料、半導体材料等が好ましい。金属材料としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、錫、亜鉛、アルミニウム合金、銅合金、錫合金、鉄、ステンレス鋼等が挙げられる。基材層は、これらの金属材料の1種又は2種以上を含むものでもよい。これらの金属材料の中でも、軽量性が求められる用途には軽金属材料が好ましく、アルミニウムやアルミニウム合金がより好ましく、アルミニウムがさらに好ましい。また、半導体材料としては特に限定されず、例えば、単結晶シリコン、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、ガリウム砒素リン、窒化ガリウム、炭化珪素等が挙げられる。基材層は、これらの半導体材料の1種又は2種以上を含むものでもよい。
本発明において、基材層を構成する材料が樹脂材料である場合、その表面に直接所定の照射量でイオンビームを照射することにより、本発明の導電性DLC層を形成してもよく、また、後述するように、例えば、基材層を構成する樹脂材料とは同種又は異種の樹脂材料からなる高分子膜をその表面に形成した後、該高分子膜に所定の照射量でイオンビームを照射することにより、本発明の導電性DLC層を形成してもよい。
本発明において、基材層は、得られる導電性DLC構造体の設計用途等に応じて所望の形状に成形したものでもよい。このように、所望の形状に成形された基材層に対して、本発明の製造方法により導電性DLC層を形成することにより、該設計用途にそのまま使用できるような導電性DLC構造体を得ることができる。本発明の導電性DLC構造体の具体的な用途としては、例えば、燃料電池(特に固体高分子型燃料電池)用セパレータ等が挙げられる。
本発明の導電性DLC構造体からなる燃料電池用セパレータは、例えば、金属板の表面に、所定の間隔を空けて一方向にかつほぼ平行に延びる複数の溝を形成した後、該金属板表面に導電性DLC層を形成することにより作製できる。該金属板の表面に形成される複数の溝は、燃料電池用セパレータにおける燃料流路や酸化剤流路の形状及び寸法に適合するように形成される。本発明では、セパレータ表面に導電性DLC層が形成されているので、発電効率や集電効率を向上させることができる。
ここで、該金属板を構成する材料としては特に限定されないが、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等の軽金属が好ましく、アルミニウムがより好ましい。アルミニウム等の軽金属は耐食性や機械強度の点で劣ることから、燃料電池用セパレータの材質としては不適切であるとされていた。これに対し、本発明では、金属板の表面に導電性DLC層の形成により、耐食性や機械強度が顕著に向上することから、軽金属の軽量性や金属材料の中では良好な成形加工性等を生かすことが可能になる。その結果、車載用燃料電池の大型化に伴う重量増及びそれに伴う燃費増加の問題が解消され、燃料電池用セパレータの製造工程の簡略化、コストダウンなどにも大きく寄与する、本発明の燃料電池用セパレータを提供することができる。
本発明の導電性DLC構造体は、例えば、基材表面に高分子材料を含む高分子膜を形成する工程Xと、基材表面に形成された高分子膜に、該高分子膜を透過可能な加速エネルギーを有するイオンビームを、照射量3×1015/cm2〜1×1018/cm2の範囲で照射し、導電性DLC層を有する構造体を得る工程Yと、を含む製造方法により製造できる。以下、工程X及び工程Yについてより具体的に説明する。
工程Xにおいて、基材とは、本発明の導電性DLC構造体中の基材層と同じものである。従来技術では、基材はシリコン基板のように表面平坦性に優れ、鏡面仕上げがなされたものが、DLC層と基材との密着性を高める上で好ましいとされていた。しかしながら、本発明の製造方法では、基材の表面平坦性を調整することなく、イオンビームの加速エネルギー、及び照射量を所定の範囲とすることによって、基材表面に密着性の高い導電性DLC層を形成することができる。従って、金属材料からなり、その表面平坦性が低く(シリコン基板よりも表面平坦性が相対的に低く)、一定の加工痕が残ったような基材に対しても、密着性の良い導電性DLC層を形成できるので、工業的に有利である。
基材表面に付着させる高分子材料としては、導電性DLC層を形成するための炭素原子を含みかつフッ素原子を含まないものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。なお、フッ素原子を含む高分子材料からなる高分子膜にイオンビームを照射しても、DLC層は形成されず、高分子材料はイオンビームにより分解されてしまうので好ましくない。高分子材料は有機溶剤に溶解可能であることから、高分子材料の有機溶剤溶液を基材表面に塗布すれば、薄膜状の高分子膜を容易に形成でき、また、金属材料からなる基材のように、一般的に平坦性の悪い基材に対しても、一定の膜厚の高分子膜を形成することが容易である。
炭素原子を含みかつフッ素原子を含まない高分子材料の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、(メタ)アクリル酸樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、セルロース、カルボキシメチルセルロース等の多糖系高分子材料、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル鹸化物、ポリアルキレングリコール、水溶性アクリル樹脂等の親水性樹脂等が挙げられる。これらの高分子材料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
基材表面への高分子膜の形成方法としては、基材表面の任意の箇所に高分子膜を形成することが可能であること、高分子材料が均一に分散した高分子膜を形成できること、厚さの制御が容易であること等の観点から、高分子材料液(溶液又は分散液)を基材表面に塗布する方法が好ましい。高分子材料液は、例えば、高分子材料を有機溶剤又は水に溶解又は分散させることにより調製できる。ここで、有機溶剤の種類は特に限定されず、高分子材料に対する溶解性、取り扱いの容易性、低毒性等の観点を考慮して、適宜選択できる。例えば、低毒性の観点からは、純水、メチルアルコール、エチルアルコール等が好ましい。高分子材料に対する溶解性の観点からは、テトラヒドロフラン等が好ましい。高分子材料液における高分子材料の濃度は、基材表面に塗布した高分子材料液の塗膜がその形状を保ち得る程度の粘度を有する範囲で適宜選択すればよい。
高分子材料液の基材表面への塗布方法としては、特に限定されず、固形物表面に液状物を塗布するのに採用される公知の塗布方法をいずれも利用できるが、例えば、刷毛塗り、浸漬法、スプレー塗布法、転写法、印刷法、スピンコート法等が挙げられる。これらの中でも、基材表面に膜厚のほぼ均―な塗膜を形成し、塗膜をほぼ均―にDLC化することやDLC層の基材に対する接着強度等の観点から、スピンコート法、浸漬法、スプレー塗布法等が好ましい。但し、スピンコート法は精密な膜厚制御が可能であるが、基材のサイズ、重量、形状に制限があり、半導体基板のように円形でせいぜい直径300mm程度のものか、それよりも小さなものにしか塗布することはできない。一方、スプレー塗布法、浸漬法は大きな基材に対して塗布可能な方法であるが、塗布膜厚の均一性、膜厚制御性等はスピンコート法よりも劣る。
こうして基材表面に高分子材料液の塗膜が形成される。該塗膜を風乾又は乾燥して、塗膜に含有される有機溶剤や水を除去し、高分子材料からなる高分子膜が形成される。また、該塗膜が加熱や光照射等により硬化又は重縮合する高分子材料やその他の有機材料を含む場合には、該塗膜を加熱するか又は該塗膜に光や紫外線を照射することにより、化学的に安定な硬化層(硬化した高分子膜)を形成してもよい。また、部分的な加熱、光照射によリパターニングを行なってもよい。こうして形成される高分子膜の膜厚は、後述するイオンビームの加速エネルギー(運動エネルギー)等を考慮すると、好ましくは5〜1000nm程度、より好ましくは10nm〜数100nm程度とすることが望ましい。
次に、工程Yについて説明する。工程Yでは、基材表面に形成された高分子膜に、該高分子膜を透過可能な加速エネルギーを有するイオンビームを所定の照射量で照射する。
本発明の製造方法では、高分子膜に照射するイオンビームが、該高分子膜を透過する加速エネルギー(運動エネルギー)を有していることが必要である。高分子膜を透過するとは、イオンビームが到達する距離(深さ)が高分子層を貫通して基材に達することを意味する。なお、イオンビームが到達する距離は、同じ加速エネルギーでもイオン種(元素)によって到達距離及び照射量に影響が生じる場合がある。イオンビームの元素種、高分子膜を構成する高分子化合物の種類、及び高分子膜の厚さを適宜変更して予備実験を行なうことにより、高分子膜を透過可能なイオンビームの加速エネルギーをイオンビームの元素種に応じて容易に求めることができる。
図1に、SRIM(2体衝突過程シミュレーションソフト)を用いて評価したポリビニルピロリドン(PVP)中でのヘリウムイオン(He)、窒素イオン(N)、アルゴンイオン(Ar)の加速エネルギー(横軸)と到達距離(縦軸)との関係を示す。このように軽い元素ほど同じ運動エネルギーでも深く到達することがわかる。しかし、高分子材料にDLC化をもたらすイオン照射による分子の損傷(分解)は加速エネルギーが高分子材料に与えるエネルギー密度に比例するので、深く到達するほど与える損傷が小さく、DLC形成に必要な同じ損傷を与えるためには照射量が多くなければならない。したがって、到達位置が深くなる分、照射量を増やす必要がある。DLC化のためには塗布した高分子材料の厚さを評価して、高分子材料を充分透過するだけの加速エネルギーを選択しなければならない。
導電性DLC層を得るためのイオンビーム照射量は、3×1015/cm2〜1×1018/cm2の範囲である。この範囲を外れた量のイオンビームを照射しても、本発明の導電性DLC層を得ることはできない。図2に最適値を示す測定結果の例を示す。図2は、PVP、ポリスチレン(PS)に対してアルゴンイオンビーム、窒素イオンビームを照射した場合の照射量(横軸)と抵抗率(縦軸)の関係を示している。図2から、導電性DLC層の抵抗率は、高分子材料にもイオン種にもあまり大きな影響を受けないであろうことが推測される。
また、イオンビームの照射量を上記所定範囲から選択すると共に、イオンビーム照射時のエネルギー密度(加速(運動)エネルギー×ビーム電流密度)も抵抗率を決定する大きな要素となる。本発明では、イオンビームのエネルギー密度を0.2W/cm2以上とすることが好ましい。これにより、安定的に低抵抗率すなわち高導電性のDLC層を得ることができる。
図3はPVP膜に対して窒素イオンビームを3×1016/cm2照射した場合の、図4はPVP膜に対して窒素イオンビームを1×1017/cm2照射した場合の、照射エネルギー密度(横軸)と抵抗率(縦軸)の関係を示す。照射エネルギー密度がある値(この場合には0.4W/cm2)以上であればほぼ一定の抵抗率になっていることが示されている。
イオン照射に用いる装置はイオン源、質量分離器、加速部、ビームスキャナーから構成されるいわゆるイオン注入装置であれば多種のイオン種を用いることができるが、本発明の目的におけるイオンビーム装置ではイオン種に制限はないので、ヘリウム、窒素、ネオン、アルゴン等のガスを原料とするイオン源、加速部、試料ステージのみからなるような簡易な低コストの装置を利用することができる。
所望の導電性DLC層の膜厚が大きい場合には高分子材料の塗布する厚みを大きくして高エネルギーのイオンビームを用いればよい。しかし、現実にはイオンビーム装置は加速エネルギーが大きくなるほど大規模で高価な装置となることから、実用的なコストを実現するためにはイオンビームの加速エネルギーの上限値は自ずから決まってくる。加速エネルギーに上限のある使用可能な装置でより厚いDLC層を形成するためには、高分子材料の塗布、イオンビームの照射という工程を繰り返して、DLC層を重ねて形成する手法が考えられる。また、この手法は高分子材料中に塗布時に生じた気泡、ごみなどに起因するDLC層中のピンホール(ある程度大きなものも含めて)を防ぐために用いることもできる。
すなわち、従来のCVDやPVD等の気相成長法では、粒子間に隙間が生じるのを避けることができなかったが、本発明のように高分子膜にイオンビームを照射する方法では、高分子膜の形成及びイオンビーム照射という工程を繰り返し実施することにより、ピンホールがない導電性DLC層を容易に形成することができる。このようなピンホールのない導電性DLC層が形成された構造体は、例えば高耐久性の燃料電池用セパレータとして好適に使用できる。
金属表面のように通常加工痕とか傷が多くある場合、当然ながら高分子材料の塗布が均一にできるとは限らず、またイオンビーム照射においてビームが届かない部分が生じることは容易に予想できることである。たとえば塗布時には傾斜が付いている部分(傷の山の部分)では塗布される高分子材料の厚みは薄くなり、逆に谷の部分では膜厚が大きくなるものと考えられる。谷の部分はビーム照射してもDLC部分の下に元の高分子材料がそのままで残りDLC膜の剥離が生じたり、山の部分でイオンビームの照射量が足りなくなったり(斜め注入の効果)、あるいは影が生じてイオンビームが当たらない部分が生じた場合には、DLC化しない高分子材料が部分的に残るものと考えられる。この場合には、イオンビームの照射前に塗布した高分子材料を硬化する(化学的に安定な材料に変性する)ことによりDLC化しない部分が生じたとしても絶縁領域として残るものの、DLC層全体としての導電性や保護膜としての機能は、保持される。
例えばPVPは水にもアルコール類にも容易に溶解する材料であるが、熱処理あるいは紫外線照射によりそれらには不溶性の化学的に安定な層となる。化学的にさらに安定な熱硬化性の樹脂を使用すればより安定な層が形成される。したがって、イオンビーム照射前にこれらの処理により安定な材料に硬化することにより、導電性DLCにならない部分が生じても、導電性機能や保護膜としての機能は保持される。この工夫により、上述したように、固体高分子型燃料電池のセパレータを一般的な素材として流通しているアルミニウムを用いて製造することが可能となる。
以下に実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本実施例において、イオンビームの照射は、イオン照射装置(商品名:SR20、日新イオン機器(株)製)を用いて実施した。
(実施例1)
酸化層(SiO2層)100nmを表面に持つシリコン基板上に、ポリビニルピロリドン(商品名:Polyvinylpyrolidone K−90、ナカライテスク(株)製)の約0.5重量%メチルアルコール溶液をスピンコータで塗布し、メチルアルコールを乾燥により除去し、厚さ約200nmのポリビニルピロリドン膜(高分子膜)を形成し、試料Aとした。
酸化層(SiO2層)100nmを表面に持つシリコン基板上に、ポリスチレン(商品名:Polystylene MW.800-5000、ポリサイエンス社製)の約1.0重量%テトラヒドロフラン溶液をスピンコータで塗布し、テトラヒドロフランを乾燥により除去し、厚さ約200nmのポリスチレン膜(高分子膜)を形成し、試料Bとした。
上記で得られた試料A及びBの高分子膜に、Nイオンビーム(加速エネルギー:25keV、50keV又は75keV)又はArイオンビーム(加速エネルギー:150keV)を照射して導電性DLC層を形成し、本発明の各種の導電性DLC構造体を作製した。イオンビーム照射量は3×1015/cm2〜1×1017/cm2の範囲とした。イオンビーム照射時の電流密度は0.7μA/cm2〜9.6μA/cm2の範囲とした。なお、電流密度×加速エネルギー=エネルギー密度である。DLC層を形成した、得られた導電性DLC構造体を用い、DLC層の導電性(抵抗率)、ラマン散乱スペクトル、及び硬度を測定した。
[導電性(抵抗率)]
導電性DLC構造体の表面に形成されたDLC層の抵抗率(mΩ・cm)を、抵抗率計(商品名:ロレスタ、四探針法、三菱化学アナリテック(株)製)により評価した。結果を図2、図3及び図4に示す。図2は、試料A及び試料Bにおいて導電性DLC構造体の表面に形成されたDLC層の抵抗率とイオンビーム照射量との関係を示すグラフである。この時のイオン照射のエネルギー密度はArビームが1.4W/cm2、Nビームが0.44W/cm2であった。イオンビーム照射量と表面に形成されたDLC層の抵抗率の関係を示すが、同時にNイオン、Arイオンといったイオン種の影響、PVP、PSといった高分子材料の影響は小さく、どの組合せでも抵抗率が10mΩ・cm以下となり得ることを示している。図3、図4は、試料Aから作製された導電性DLC構造体の表面に形成されたDLC層の抵抗率とイオンビーム照射時のエネルギー密度との関係を示すグラフである。図3は、Nイオンをエネルギー50keV、25keV、15keVで3×1016/cm2照射した時のDLC層の抵抗率とエネルギー密度との関係を、図4は、Nイオンをエネルギー50keV、25keV、15keVで1×1017/cm2照射した時のDLC層の抵抗率とエネルギー密度との関係を示す。図3及び図4に示されているように、所定の加速エネルギーを有するイオンビームを所定の照射量、所定のエネルギー密度で高分子膜に照射することにより、抵抗率が10mΩ・cmの水準又はそれを下回り、良好な導電性を有するDLC層が形成されることが判る。
[ラマン散乱スペクトル]
試料Aに、加速エネルギー50keVのNイオンビームを照射量1×1016/cm2、3×1016/cm2又は1×1017/cm2で照射し、3種の抵抗率の異なる導電性DLC層を形成した。これらの試料の抵抗率はそれぞれ224mΩ・cm、8.6mΩ・cm、4.8mΩ・cmであった。得られた各導電性DLC層のラマン散乱スペクトルを、ラマン分光光度計(商品名:Labram HR−CNT、ホリバ・ジョバンイボン社製)により測定した。結果を図5及び図6に示す。図5は、本発明の導電性DLC層のラマン散乱スペクトルを示すグラフである。図6は、図5に示すラマン散乱スペクトルをさらに詳しく解析するために、GバンドとDバンド以外に観測された1150/cm付近のピークと1500/cm付近のピークを書き加えたものである。
図5から、本発明の導電性DLC層は、ビームを照射量1×1016/cm2試料においてはDLC層の典型的な特徴であるラマンシフト1570/cm付近のGバンドと、ラマンシフト1350/cm付近のDバンドと、を有するラマン散乱スペクトルを有し、PVP膜がイオンビームの照射によりDLC化したものであることが判る。
また、DLC層の通常のラマン散乱スペクトルでは、Gバンド及びDバンドのラマン散乱強度はある程度分離され、2つの高さの異なる山頂が繋がった形状となる。これに対し、図5に示されるラマン散乱スペクトル、特にビーム照射量3×1016/cm2試料およびビーム照射量1×1017/cm2試料では、導電性DLC層のイオンビーム照射量が多くなるほど、言い換えれば導電性DLC層の抵抗率が低くなるほど、通常のDLCにおいてみられるスペクトルの形状から外れてスペクトルの形状が台形に近似した特異的な形状となることが判る。
特に照射量が1×1017/cm2である場合には、その傾向が非常に顕著である。すなわち、本発明によって形成された導電性DLC層は、ラマン散乱スペクトルの形状が低抵抗になるほど、ほぼ台形状であるという特徴を有している。この特徴は、ラマン散乱スペクトルの解析にあたって、通常のGバンドとDバンド以外に1150/cm付近と1500/cm付近にピークを持つ4成分に注目して図6に示すラマン散乱スペクトルを分析することにより、一層明確になる。1150/cm付近と1500/cm付近にピークを持つ2成分は導電性高分子であるポリアセチレン構造のC−C結合とC=C結合にそれぞれ対応すると考えられる。従って、本発明導電性DLC層の導電性発現の原理は、CVD等の成膜手法で形成された導電性DLC層がグラファイト成分の成長によって導電性がもたらされると考えられているものとは異なり、ポリアセチレン構造に近い成分が形成され導電性がもたらされているものと推定される。
[硬度]
試料Aを用い、イオンビームの元素種、及びイオンビーム照射時の電流密度を下記表1のように変更し、導電性DLC層を形成し、導電性DLC層の硬度と、イオンビーム照射量との関係を求めた。なお、導電性DLC層の硬度は、ナノインデンター(商品名:ENT−1100、(株)エリオニクス製)を用いて測定した。結果を図7に示す。図7は、導電性DLC層の硬度とイオンビーム照射量との関係を示すグラフである。
図7から、全ての導電性DLC層が、DLCの範疇に入るか否か境界線であるHV900(ほぼ9GPa)と同程度かそれを超えていることが明らかである。
(実施例2)
試料C:基材(SUS316、表面研磨品)上に、スピンコータでPVPの0.5重量%メチルアルコール溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させ、厚さ約100nmのPVP膜を形成した。
試料D:基材(アルミニウム5052)上に、スピンコータでPVPの0.5重量%メチルアルコール溶液塗布し、得られた塗膜を乾燥させ、厚さ約100nmのPVP膜を形成した。
試料C及びDのPVP膜に、加速エネルギー50keVのNイオンビームを1×1017/cm2の照射量で照射し、表面にDLC層を形成し、DLC構造体を作製した。得られたDLC層は、シリコン基板(酸化層付)を基材表面に形成された導電性DLC層とほぼ同形状の図5に示すラマン散乱スペクトルを有し、同様の導電性DLC層が形成されていることが確認された。次に、表面に導電性DLC層が形成された試料Cを用い、深さ分析を行なった。
[深さ分析(深さ方向の組成分析)]
表面に導電性DLC層が形成された試料Cを、X線光電子分光分析装置(商品名:Quantera SXM、アルバック・ファイ(株)製)により、導電性DLC層の表面を始点として、Arビームスパッタリングでエッチングしながら深さ方向の組成分析を行なった。結果を図8に示す。図8は、本発明の導電性DLC構造体の組成分布をXPSによる深さ分析結果を示すグラフである。
図8から、基材のSUS316と導電性DLC層の間には、傾斜的に組成が変化するミキシング層が形成され、明確な界面がなくなっていることが判る。このような深さ方向に10nmを超えるようなミキシング層の形成は他の手法では困難であり、イオンビーム照射法の大きな特徴となる。また、このようなミキシング層の形成は通常成膜手法によりDLCを形成する場合に密着性(付着力)で問題を生じやすい材料、たとえばアルミニウム上にDLC膜を形成する場合に特に有利に機能する。
図8から、本発明の導電性DLC構造体において、導電性DLC層とステンレス鋼基材との間に、導電性DLCとステンレス鋼に含有される成分とが混在した導電性のミキシング層が形成されることが推定され、DLC層とステンレス鋼基材間には界面において発生する抵抗は発生していないものと考えられる。
次に、イオンビーム照射法により金属製の基材上に形成した導電性DLC層が、該基材に対して優れた密着性を持つことを示すために、試料CおよびDを用いてそれぞれ作製した導電性DLC構造体C及びDについて、ロックウェル圧痕試験を行なった。ダイヤモンド圧子を押込み試験機により60kgfの力で導電性DLC構造体CおよびDに打ち込み、光学顕微鏡により得られた像(倍率はどちらも100倍)を図9および図10に示す。図9及び図10は、それぞれ、実施例2得られた導電性DLC構造体C及びDのロックウェル圧痕試験後の表面状態を示す顕微鏡写真である。図9及び図10には、通常の成膜手法DLCでは通常みられる端面付近の亀裂、剥離は観察されず、優れた密着性を持つことが示されている。
(実施例3)
アルミニウム5052上にスピンコータで0.5重量%PVPの0.5重量%メチルアルコール溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥し、厚さ約100nmのPVP膜を形成し、これをオーブンにて250℃で30分間熱処理し、試料Eとした。
得られた試料Eに、加速エネルギー50keVのNイオンビームを3×1016/cm2の照射量で照射し、PVP膜の表面に厚さ約40nmのDLC層を形成した。このDLC層の表面にスピンコータでPVPの0.5重量%メチルアルコール溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥し、厚さ約100nmのPVP膜を形成した。形成されたPVP膜に加速エネルギー50keVのNイオンビームを3×1016/cm2の照射量で照射した。この結果、およそ80nmの導電性DLC層が形成され、本発明の導電性DLC構造体E1を作製した。
また、上記の導電性DLC構造体E1の製造過程において、2回目のPVP膜形成後に、オーブンにて250℃で30分間熱処理を行なった後、上記と同様の条件でNイオンビームを照射し、本発明の導電性DLC構造体E2を作製した。
上記で得られた導電性DLC構造体E1及びE2において、導電性DLC層はいずれも抵抗率が10mΩ・cm以下で導電性を示し、そのラマン散乱スペクトルも図5とほぼ同様のものであった。
アルミニウム5052上にスピンコータで0.5重量%PVPの0.5重量%メチルアルコール溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥し、厚さ約100nmのPVP膜を形成し、これをオーブンにて250℃で30分間熱処理した。この結果、PVPの水溶性やアルコール類に対する溶解性が失われた。このPVP膜は熱による架橋反応によりPVPP層になっているものと考えられる。次いで、この高分子膜の表面に、スピンコータでPVPの0.5重量%メチルアルコール溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させ、厚さ約100nmのPVP膜を重ね、厚さ約200nmの高分子膜を形成し、試料Fとした。
上記で得られた試料Fに、加速エネルギー50keVのNイオンビームを1×1017/cm2の照射量で照射し、高分子膜の表面に厚さ約50nmの導電性DLC膜を形成し、本発明の導電性DLC構造体Fを作製した。この導電性DLC構造体Fにおいて、導電性DLC層は抵抗率が10mΩ・cm以下で導電性を示し、そのラマン散乱スペクトルも図5とほぼ同様のものであった。
実施例2で得られた導電性DLC構造体D、及び本実施例で得られた導電性DLC構造体E1、Fを用い、各導電性DLC層におけるピンホールの評価を行うために、PH3.0の硫酸中での耐蝕試験を行った。耐蝕試験の手順は電気化学的な手法に基づく金属溶出量の評価によりおこなった。この試験の結果、構造体E1、F、Dはいずれも耐蝕性の高いものであったが、金属(アルミニウム)溶出量の少ない順で、構造体E1、F、Dとなった。
以上の結果から、用途によりどれだけの耐蝕性が求められるかに応じて、作製方法を適宜選択することにより、所望の用途に適した耐蝕性を有する導電性DLC構造体が得られることが判る。また、さらにピンホールが少ないことが求められる場合、あるいは試料の表面の平たん性が悪い場合には、塗布回数、塗布とイオン照射の回数を増やすことにより対応することができることが判る。

Claims (11)

  1. 基材層と、前記基材層の表面に設けられた導電性DLC層と、を含む、導電性DLC構造体。
  2. 前記導電性DLC層と前記基材層との間に介在し、導電性DLCと前記基材層を構成する材料とが混在するミキシング層をさらに含む、請求項1に記載の導電性DLC構造体。
  3. 前記ミキシング層は、前記導電性DLC構造体の厚み方向に、前記導電性DLCの含有量が連続的又は段階的に変化する濃度勾配を有する、請求項2に記載の導電性DLC構造体。
  4. 前記基材層が金属材料からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性DLC構造体。
  5. 前記金属材料がアルミニウムである、請求項4に記載の導電性DLC構造体。
  6. 基材の表面に高分子材料を含む高分子膜を形成する工程Xと、
    前記基材の表面に形成された前記高分子膜に、該高分子膜を透過可能な加速エネルギーを有するイオンビームを、照射量3×1015/cm2〜1×1018/cm2の範囲で照射し、導電性DLC層を有する構造体を得る工程Yと、を含む、導電性DLC構造体の製造方法。
  7. 前記工程Yにおける、前記高分子膜に照射する前記イオンビームのエネルギー密度が0.2W/cm2以上である、請求項6に記載の導電性DLC構造体の製造方法。
  8. 前記工程Xと、前記工程Yと、を交互に繰返し実施する、請求項6又は7に記載の導電性DLC構造体の製造方法。
  9. 前記工程Xにおいて、前記高分子膜が前記高分子材料の硬化層である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の導電性DLC構造体の製造方法。
  10. 前記基材が金属材料からなり、かつ前記基材の平坦度がシリコンウエハの平坦度よりも相対的に低い、請求項6〜9のいずれか1項に記載の導電性DLC構造体の製造方法。
  11. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性DLC構造体からなる、固体高分子型燃料電池セパレータ。
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