以下に、本発明の角度推定装置、モータ駆動装置、及びそれを備えたモータ駆動システム、並びにそれを適用した画像形成装置、及び搬送装置について、幾つかの実施例を挙げ、図面を参照して詳細に説明する。
最初に、本発明の理解を助けるため、非特許文献1に係る回転子駆動装置(ブラシレスモータ駆動装置)における高調波重畳方式のセンサレス駆動手法について、図面を参照して説明する。尚、以下の信号名の末尾に付した*は指令値を示すものとする。
図1は、非特許文献1に係るブラシレスモータ駆動装置の全体的構成を示すブロック図である。図1を参照し、このブラシレスモータ駆動装置による高調波信号の注入からブラシレスモータ10の角度の推定までの処理機能の流れを説明すれば、まず略図する外部から入力されるか、或いは予め設定されたブラシレスモータ10における回転子11に対する回転速度の目標を示す速度指令Wmt*と後述する機械角相当の推定速度Wmestとを入力した速度制御部30が発生すべきトルクの目標であるトルク指令Te*を出力し、これを受けた電流制御部35がdq軸成分の制御指令Vd*、Vq*を重畳部60へ出力する。
重畳部60では、数1式(高調波電圧指令を示す式)に示される演算機能に従って周期で符号が反転する高周波入力振幅Acの矩形波の高調波指令Vdh*、Vqh*を内蔵する高周波生成部61で生成し、電流制御部35が出力する制御指令Vd*、Vq*のd軸成分にのみを対象として内蔵する加算器62で高調波指令Vdh*、Vqh*に加算した結果を出力指令Vmd*、Vmq*として出力する。なお、数1式中のnは高調波指令Vdh*、Vqh*の周期毎のカウント数であって、n回目のカウント数を示すもので、符号の反転の都度、整数型の変数の値を1増やす処理のインクリメント処理が行われることを示す。
重畳部60の加算器62からの出力指令Vmd*、Vmq*を受けた座標逆変換部46では、図2の座標逆変換における座標系の定義を示す模式図を参照すれば、後述する角度推定(速度推定)部50で生成される電気角相当の推定角度Thestで回転する回転直交座標系であるdq軸座標系から互いに120度の位相差を持つ固定座標系であるUVW軸座標系へd軸成分のみの高調波が重畳されるように出力指令を変換し、3相(u相、v相、w相)分の端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*として出力する。インバータ80は、この端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に従ってパルス幅変調(PWM)した電圧をブラシレスモータ10のコイル端子12へ印加して回転子11に付設されるコイル13へ三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流を供給する。このとき、コイル電流は図3に示されるように、ブラシレスモータ10を駆動するための周期の遅い基本波成分に高調波成分が重畳された波形となる。
また、三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流を検出する電流検出器20は、インバータ80が出力するアナログデジタル(AD)変換器を用いたトリガtrgに従ってコイル電流をサンプリングして取り込み、検出交流電流値dIu、dIvとして座標変換部40へ出力する。座標変換部40では、この検出交流電流値dIu、dIvを図2に示されるUVW軸座標系からdq軸座標系へ角度推定(速度推定)部50で生成された電気角相当の推定角度Thestに従って座標変換し、検出直流電流値dId、dIqとして出力する。このときの検出直流電流値dId、dIqのq軸成分は、数2式[q軸電流iqを示す式であり、非特許文献1での(31)式に該当]で表わされる。
数2式による検出直流電流値dId、dIqのq軸成分は、モータ特性及び装置仕様により決まる定数kc、kfと、装置から直接計測できない電気角相当の回転子11の角度The及び機械角相当の回転子11の速度Weを用いて表わされ、第1項が高調波成分であり、第2項がブラシレスモータ10を駆動する基本波成分となる。復調部70では、高調波指令Vdh*、Vqh*に従って検出直流電流値dId、dIqに基づいて数3式の関係(q軸電流iqの高調波の復調した信号を示す式)に示されるような高調波の復調処理を実施し、復調後のq軸電流iqdemを生成して角度推定(速度推定)部50へ出力する。
復調部70は、数3式の1段目に示されるように検出直流電流値dId、dIqのq軸成分iqに対してカウント数nに応じて符号反転することにより高調波の復調処理を実施すると共に、電気角相当の推定角度Thestと電気角相当の回転子11の角度Theとの差値(Thest−The)が十分小さいとして、近似を利用して2段目の式が得られる。これは差値(Thest−The)に比例係数が掛かった格好となる。因みに、数2式中に示される基本波成分は、復調処理によって高い周波数となるが、非特許文献1のFig.6等を参照すれば明らかであるように、角度推定(速度推定)部50を用いた推定ループの閉ループ特性により十分に減衰される。この角度推定(速度推定)部50では、略図するオブザーバを備え、電気角相当の推定角度Thestと電気角相当の回転子11の角度Theとの誤差に相当する復調後のq軸電流iqdemを零に収束するように電気角相当の推定角度Thestを生成する。
このように、非特許文献1のブラシレスモータ駆動装置によれば、電気角相当の回転子11の角度Theを直接測定することはできないが、高調波重畳を利用して電気角相当の推定角度Thestと電気角相当の回転子11の角度Theとの誤差を検出することができる。尚、ここでは位置・速度制御、電流制御についての説明を省略するが、多くの場合、誤差検出動作は電流検出器20の一部を除き、マイコン機能のプロセッサで実行されるソフトウェア、マイコン機能の周辺回路、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)等により実現される。
図4は、このブラシレスモータ駆動装置の誤差検出動作に要する演算を周期Ts毎に順番に実行する際のフロー処理を信号波形との関係で示したタイミングチャートである。但し、図4中では、三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流をインバータ80から電流検出器20に送出されるコイル電流サンプリングのタイミングを示すトリガtrgは、矩形波の高調波の符号が反転するタイミング(高調波電圧Vdhや高調波電流Iqhが周期Ts毎に反転するタイミング)で周期的に生成されるものとする。
図4を参照すれば、ここでのフロー処理では、カウント数n番目の電流サンプリングタイミング(トリガ)trgを起点として順に、AD変換(コイル電流検出)、係る変換時間を経た後の座標変換、復調、角度推定の処理が完了すると、電気角相当の推定角度Thestの値が更新される様子を示している。また、この後は位置・速度・電流制御、及び高調波重畳に係る各種制御演算/高調波加算の処理が完了してから座標逆変換が行われ、更新された端子電圧指令が次のカウント数(n+1)番目のトリガtrgのタイミングで端子へ印加する電圧に反映されて電圧反映タイミングとなる様子を示している。
以下の説明は非特許文献1に記述されたものでないが、係る非特許文献1記載の技術を解析すると、図4中でカウント数n番目の電圧反映タイミングで端子電圧へ反映される高調波を含む端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の生成に係る座標逆変換部46での座標逆変換は、カウント数(n−1)番目の電気角相当の推定角度Thest(n−1)を対象として行われる。次に、カウント数n番目の電圧反映タイミングで反映された電圧の高調波成分の電流応答は、カウント数(n+1)番目のトリガtrgでサンプリングされ、このときの電流検出器20で得られる検出交流電流値dIu、dIvは、カウント数n番目の電気角相当の推定角度Thest(n)を対象として座標変換部40で座標変換される。即ち、ここでは入力の座標逆変換に用いる電気角相当の推定角度の値と入力対応する応答の座標変換に用いる電気角相当の推定角度の値とが異なることになる。そこで、カウント数n番目とカウント数(n+1)番目との電気角相当の推定角度Thestの差分をdThと置けば、数4式に示される関係(1サンプル後の推定角度との差分dThを定義する式)が得られる。
数4式では、座標逆変換と座標変換とで使用する電気角相当の推定角度Thestの差分dThを示しており、このときの数3式で示したq軸電流iqdemは数5式の関係式(q軸電流iqの高調波を復調した信号を示す式)のように導出することができる。因みに、数5式において、定数k0はモータ特性や装置仕様により決まる定数であり、L0、L1はd軸のインダクタンスLd、q軸のインダクタンスLqにより決まる定数である。
更に、電気角相当の推定角度Theta(n)と電気角相当の回転子11の角度Theとが十分に近いとする(推定角度が実際の角度に追従している)と、q軸電流iqdemを数6式の関係(数5を近似した式)で示すことができる。
尚、数6式においても、定数k0はモータ特性や装置仕様により決まる定数であり、L0、L1はd軸のインダクタンスLd、q軸のインダクタンスLqにより決まる定数である。ここでの第2項にある推定角度誤差の項は、上述した数3式にはない第1項に差分dThの項が残ることを示している。この差分dThは、連続時間ならば電気角相当の推定角度Thestの微分に相当する項である。因みに、図1に示すブラシレスモータ駆動装置において、ブラシレスモータ10の回転子11を対象にしてコイル端子12へ三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流を供給する際の回転子11の角度推定を行う機能構成部分については、回転子角度推定装置とみなすことができる。
図5は、図4のフロー処理で電気角相当の推定角度Thestから復調部70の復調処理により生成されるq軸電流iqdemまでの開ループにおける周波数に対するゲイン(利得)[dB]伝達特性の実測結果を例示した図である。
図5を参照すれば、復調部70での高調波の復調処理が数3式通りに行われるならば、図中に示される特性にはならないが、実際には実線で示す特性通りに或る周波数を境にして低い周波数域は比例特性であり、高い周波数域では20[dB/dec]の微分特性を示すことになり、これは数6式の形態と一致する。即ち、非特許文献1記載の技術では推定角度誤差の検出は時間に依存しないものの、実際には誤差の差分である微分特性を持つため、角度推定ループの安定性が不足して高帯域化を具現できないという難点がある。そこで、本発明ではこうした問題を解決することを技術的要旨とする。
図6は、本発明の実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置の全体的構成を示すブロック図である。
図6を参照すれば、実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置は、図1に示した装置構成と比較すると、機能構成上で重畳部600における高調波生成部610で高調波電圧振幅Vhfの矩形波の高調波指令Vdh*、Vqh*を生成する点と、復調部71が重畳部600の高周波生成部610で生成される矩形波の高調波指令Vdh*、Vqh*を利用せず、座標変換部40からの検出直流電流値dId、dIqの高調波成分に基づいて電気角相当の回転子11の角度Theと電気角相当の推定角度Thestとの誤差を示す推定角度誤差Difを出力する点と、角度推定(速度推定)部500が後文で説明する低域通過フィルタ(LPF)51を有し、復調部71からの推定角度誤差Difに基づいて推定角度誤差Difを零に収束するように低域通過フィルタ51を通過させて平滑化させた上で速度制御に供される機械角相当の推定速度Wmestを生成すると共に、電気角相当の推定角度Thestを生成する点とが相違している。
また、実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置の場合も、高調波重畳式のセンサレス駆動手法が適用されており、処理機能として位置推定、ベクトル制御、速度制御が含まれている。細部構成を説明すれば、ブラシレスモータ10は、互いに120度の位相差を持ち、Y字結線されたU相、V相、W相の3相で構成されるコイル13と、コイル13と対向する位置に配置され、S極、N極が交互に並んだ図示されない永久磁石である回転子11とにより構成され、コイル端子12からコイル13へと回転子11の角度に応じて適切に転流された電流が供給されることによって回転子11が回転する。尚、実施例1における回転子11の永久磁石は2×p極(pは極ペア数)とする。
インバータ部80は、その細部構成を示す図7を参照すれば、パルス幅変調(PWM)81及び駆動回路部85を備え、端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の値に従ってパルス幅変調(PWM)された電圧をコイル端子12へ印加し、コイル13へ三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流を供給する。駆動回路部85は、電源電圧Vccに接続されたスイッチング素子88とダイオード89とが並列に接続された上側アーム86と、同様な構成の接地GNDに接続された下側アーム87とが3相分接続されて構成されており、それぞれのスイッチング素子は、ゲート信号UH、VH、WH、UL、VL、WLによりON・OFFが駆動される。また、各相の上側アーム86と下側アーム87との接続点でブラシレスモータ10のコイル端子12に接続され、パルス幅変調された電圧を印加し、コイル13へ電流を供給して回転子11を回転駆動する。パルス幅変調81は、コイル端子12へ印加すべき電圧値を示す3相の端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*をパルス幅変調(PWM)して所定の論理に基づき、3相のU相、V相、W相のそれぞれのゲート信号UH、VH、WH、UL、VL、WLを生成する。上側アーム86のゲート信号UH、VH、WHと、下側アーム87のゲート信号UL、VL、WLは、各相毎に上側アーム86と下側アーム87とのスイッチング素子の短絡破壊防止を目的に設けられた短絡防止区間(デッドタイム)tdを挟んで相補的にスイッチング素子をON・OFFするように生成する(詳細は周知技術を適用できるために略図する)。また、パルス幅変調81は、図4を参照して説明した場合と同様に、三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流をサンプリングするタイミング、及び端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を端子電圧に反映するタイミングを示すトリガtrgを出力する。実施例1でのトリガtrgは、端子電圧に反映された矩形波の高調波符号が反転するタイミングとする。
電流検出器20は、コイル13に流れる三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流のうちのU相の交流電流Iu、V相の交流電流Ivを検出して検出交流電流値dIu、dIvを出力する。その細部構成を示す図8を参照すれば、一般にU相、V相、W相のうちの少なくとも2相を対象として検出処理機能を構成するもので、実施例1ではU相及びV相を検出対象とする。即ち、U相について、シャント抵抗21Uは、コイル端子12とインバータ80との間の電流経路上に挿入された抵抗であり、抵抗を流れる電流の大きさに比例した電圧降下が生じる。シャント抵抗21Uの両端に接続された差動アンプ22Uは、シャント抵抗21Uに流れる電流の大きさに比例して生じる電圧降下を検出し、所定の倍率で増幅して出力する。この倍率は、モータの動作条件から想定されるコイル電流の振幅とシャント抵抗21Uの抵抗値とに基づいて作動アンプ22Uの出力が伝送されるAD変換部23Uにおける入力のフルスケールの範囲内に収まるように設定する。AD変換部23Uは、トリガtrgが到来する毎に差動アンプ22Uの出力信号をサンプリングした値を所定の量子化分解能を最小単位とするデジタル値に変換してU相の検出交流電流値d_Iuとして出力する。V相についても同様であり、シャント抵抗21Vの両端に接続された差動アンプ22Vがシャント抵抗21Vに流れる電流の大きさに比例して生じる電圧降下を検出し、所定の倍率で増幅して出力し、AD変換部23Vではトリガtrgが到来する毎に差動アンプ22Vの出力信号をサンプリングした値を所定の量子化分解能を最小単位とするデジタル値に変換してV相の検出交流電流値d_Ivとして出力する。
速度制御部30は、図1の装置の場合と同様に、外部から入力されるか、或いは予め設定されたブラシレスモータ10における回転子11に対する回転速度の目標を示す速度指令Wmt*と後述する機械角相当の推定速度Wmestとを入力し、発生すべきトルクの目標であるトルク指令Te*を出力する。電流制御部35は、図1の装置の場合と同様に、トルク指令Te*に基づいてd軸及びq軸の座標系上でそれぞれ流すべき電流指令を生成する図示されない電流指令生成部と、d軸及びq軸のそれぞれに図示されない比例積分制御部と、を備え、比例積分制御部がd軸及びq軸の電流目標値と検出交流電流値d_Iu、d_Ivとに基づいてd軸及びq軸のそれぞれへ印加すべき電圧の指令値である制御指令Vd*、Vq*を生成する。
重畳部600は、高調波生成部610で数7式の関係(高調波電圧指令を示す式)に従って生成した高調波電圧振幅Vhfの矩形波の高調波指令Vdh*、Vqh*を加算器62で制御指令Vd*、Vq*に重畳し、出力指令Vmd*、Vmq*として出力する。
この数7式に従えば、d軸の高調波指令Vdh*については高調波電圧振幅Vhfであり、所定の周期Tsでカウント数nがインクリメントされることにより符号が反転する矩形波となるが、q軸の高調波指令Vqh*については常にゼロとなることを示している。
座標逆変換部46は、角度推定(速度推定)部500からの電気角相当の推定角度Thestに従って重畳部600の加算器62からの出力指令Vmd*、Vmq*を従来装置の場合と同様に、図2に示す電気角相当の推定角度Thestで回転する回転直交座標系であるdq軸座標系から互いに120度の位相差を持つ固定座標系であるUVW軸座標系へ座標逆変換し、U相、V相、W相のそれぞれのコイル端子12に印加すべき電圧である端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*として出力する。具体的には、数8式に示される変換行列C(UVW軸からdq軸への変換行列Cを示す式)を用い、数9式で示される行列演算(端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*のdq軸からUVW軸への変換を示す式)によって座標逆変換を行う。
座標変換部40は、角度推定(速度推定)部500からの電気角相当の推定角度Thestに従って電流検出器20で検出したU相、V相の検出交流電流値d_Iu、d_Ivを、図2に示した固定座標系のUVW軸座標系から回転直交座標系のdq軸座標系へ座標変換し、検出直流電流値d_Id、d_Iqとして出力する。具体的には、数8式に示される変換行列Cを用い、数10式で示される行列演算(検出交流電流値d_Iu、d_Ivの検出直流電流値d_Id、d_Iqへの変換を示す式)によって座標変換を行う。
復調部71は、q軸の検出直流電流値d_Iqの高調波成分を復調し、電気角相当の推定角度Thestと実際の電気角相当の回転子11の角度Theとの誤差を示す推定角度誤差Difとして出力する。具体的には、数11式に示される関係(高調波成分の復調処理を示す式)に従って復調処理を行う。
数11式では、非負の整数mを用い、高調波におけるカウント数nが(n=2m)の場合、推定角度誤差Dif(n)の値は1カウント前の値Dif(n−1)を保持し、カウント数nが(n=2m+1)の場合、q軸直流データd_Iq(n)と1カウント前のq軸直流データd_Iq(n−1)との差を推定角度誤差Dif(n)の値として更新することを示している。
復調部71の復調動作の効果について、実施例1のq軸の検出直流電流値dIqに相当する従来装置における上述した数2式を用いて説明すると、q軸成分iqの連続する2サンプル(カウント数n、n+1)の差分とすることにより、第1項の高調波成分の符号を復調すると共に、第2項の周波数の遅い基本波成分を減衰することにより、復調処理と同時に角度推定でノイズとなる基本波成分を減衰することができる。それ故、復調部71は復調処理に際して三相交流電流Iu、Iv、Iwのモータ電流について、2回のサンプリングに基づいて生成された検出直流電流値dIqの差分を出力する差分フィルタ機能を持つものとみなせる。
角度推定(速度推定)部500は、その細部構成を示す図9を参照すれば、1次の低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)51、誤差収束部56、及び積分部57を備え、復調部71からの推定角度誤差Difに基づいてその推定角度誤差Difを零に収束するように低域通過フィルタ51を通過させることで高周波数域が平滑化された平滑化誤差Dif_fとして出力し、誤差収束部56が平滑化誤差Dif_fを誤差収束処理して機械角相当の推定速度Wmestを生成し、積分部57が機械角相当の推定速度Wmestを積分(1/s)処理して電気角相当の推定角度Thestを生成する。
低域通過フィルタ51の汎用例であるデジタルフィルタの細部構成について、図10を参照して説明すれば、実用的には周期Ts毎の演算処理で実行されるため、或る推定角度誤差Dif(n)を低域通過させた後の平滑化誤差出力Dif_f(n)の一部についてのフィードバック分をディレイ(D)58を介在させて一定量遅延させて次の実行周期Tsまで値を保持するホールド機能を持たせて入力側で推定角度誤差Dif(n)に対して加減算を行わせると共に、予め設定されたカットオフ周波数flpfに周期Ts及び2πを乗算した値で帯域濾波を行った結果に遅延されたフィードバック分を加算させて平滑化誤差出力Dif_f(n)を得る構成としている。
図11に示す周波数[Hz]に対するゲイン(利得)の特性図を参照し、カットオフ周波数flpfの設定について説明すれば、ここでは技術的課題とした微分特性の折れ点と一致するよう設定する。これにより、図5を参照して説明した電気角相当の推定角度Thestに対する高調波重畳による推定角度誤差Difの検出系が持つ微分特性をキャンセルすることができる。因みに、実施例1では、低域通過フィルタ51として、1次LPFを用いるものとしたが、この構成に限定されるものではなく、例えばカットオフ周波数flpfよりも高い周波数に別の折れ点を持ち、高周波数の信号を更に減衰するよう構成した2次LPFを適用することも可能である。また、低域通過フィルタ51の配置は、図9に示した位置に限定されるものではないが、機械角相当の推定速度Wmest及び電気角相当の推定角度Thestを生成するための推定角度誤差Difが必ず通過する位置とする必要がある。
また、誤差収束部56は、低域通過フィルタ51が出力する平滑化誤差Dif_fについて、積分(1/s)して積分ゲインKiを乗じた値と比例ゲインKpを乗じた値との和を出力するPI制御器によって構成されるものであり、演算結果を機械角相当の推定速度Wmestとして出力する。この機械角相当の推定速度Wmestから電気角相当の推定角度Thestを生成する積分部57は、図12に汎用的な細部構成を示すように、実用的には周期Ts毎の演算処理で実行されるため、図10に示したデジタルフィルタの場合と同様な機能のディレイ59を介在させて出力の一部を所定量遅延させたフィードバック分を加算するようにして電気角相当の推定角度Thestを出力する。因みに、機械角相当の推定速度Wmestと電気角相当の推定角度Thestとは数12式の関係(機械角相当の推定速度Wmestと電気角相当の推定角度Thestの関係を示す式)で示されるように、機械角相当の推定速度Wmestの積分結果に極ペア数pを乗じた値が電気角相当の推定角度Thestとして得られるものである。
実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置の各部の処理機能は以上に説明した通りであるが、誤差検出動作に要する演算を周期Ts毎に順番に実行する際のフロー処理は、図4に示した従来装置の場合と同様にスケジュールが実行される。
図13は、実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置における電気角相当の回転子11の角度Theから電気角相当の推定角度Thestまでの角度推定ループの開ループ特性を周波数[Hz]に対するゲイン(利得)の関係で示した図である。
図13を参照すれば、実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置の開ループ特性において、低域では−40[dB/dec]の傾きであり、上述した比例ゲインKp、積分ゲインKiで決まる折れ点より高い周波数域では−20[dB/dec]の傾きとなることが判る。また、技術的課題とした高調波重畳式による推定誤差検出系の微分特性がある場合には傾きが0[dB/dec]になるが、実施例1の角度推定(速度推定)部500の場合のように復調部71からの推定角度誤差Difに対して低域通過フィルタ51を通過させることにより、図13中の点線で示されるように−20[dB/dec]の傾きを保つことができる。この結果、推定ループの安定性を保つことができ、角度推定ループの帯域を上げることができる。
以上に説明した通り、実施例1に係るブラシレスモータ駆動装置によれば、ブラシレスモータ10の回転子11を回転駆動するための電流制御部35からの電圧の指令値である制御指令Vd*、Vq*に対して重畳部600の高周波生成部610で生成した高調波指令Vdh*、Vqh*を加算器62で重畳し、コイル端子12を介してコイル13に供給される応答信号である三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流の高調波成分に基づいて電気角相当の回転子11の角度Theをセンサレスで推定する際、復調部71から推定角度誤差Difが入力される角度推定(速度推定)部500において、入力直後に低域通過フィルタ51を通過させて推定角度誤差Difを零に収束するように平滑化させた上で機械角相当の推定速度Wmestと電気角相当の推定角度Thestとを生成するため、実用時に生じる推定角度誤検出系の微分特性がキャンセルされ、角度推定ループの安定性が改善化され、高帯域化対応を具現できるようになる。因みに、図6に示すブラシレスモータ駆動装置においても、ブラシレスモータ10の回転子11を対象にしてコイル端子12へ三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流を供給する際の回転子11の角度推定を行う機能構成部分については、角度推定装置とみなすことができる。この場合の角度推定装置における特徴的な構成部分は、ブラシレスモータ10を回転駆動させる駆動電流を制御する制御信号(制御指令Vd*、Vq*)と高周波成分(高調波指令Vdh*、Vqh*)とが重畳された信号(出力指令Vmd*、Vmq*)に応じて生成される三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流を検出する電流検出器20と、電流検出器20により検出されたコイル電流の高調波成分に基づいて回転子11の角度と推定角度との誤差を示す推定角度誤差Difを出力する復調部70と、推定角度誤差Difの高周波数域を平滑化した平滑化誤差Dif_fに基づいて回転子11の角度を推定する角度推定(速度推定)部500と、が該当する。
実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置の基本構成は、図6に示した実施例1の装置構成と同様であり、ここでの角度推定(速度推定)部500は推定角度誤差Difに基づいて推定角度誤差Difを零に収束させて速度制御に供される機械角相当の推定速度Wmestを生成すると共に、電気角相当の推定角度Thestを生成する機能も同じであるが、低域通過フィルタ51を用いておらず、それに代えて座標逆変換部46及び座標変換部40において、角度推定(速度推定)部500からの電気角相当の推定角度Thestの値に基づいて座標逆変換部46により変換されて生成された端子電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の高調波成分に対する応答となる電流検出器20で検出される検出交流電流値d_Iu、d_Ivの高調波成分に対して座標変換部40が電気角相当の推定角度Thestの同一の値に基づいて図2を参照して説明したように座標変換して検出直流電流値d_Id、d_Iqを生成することにより、実施例1の場合と同様に実用時に生じる推定角度誤検出系の微分特性をキャンセルし、角度推定ループの安定性が改善化され、高帯域化対応を具現できるようにしたものである。このため、角度推定(速度推定)部500は、電流検出器20で所定の周期Tsでサンプリングして検出される検出交流電流値d_Iu、d_Ivを1周期前の電気角相当の推定角度Thest_dに従って座標変換部40で座標変換して生成された検出直流電流値d_Id、d_Iqから復調部71で生成した推定角度誤差Difに基づいて1サンプル分遅れた電気角相当の推定角度Thest(n−1)を生成して同一の値とすることになる。
具体的に云えば、周期Ts毎に実行される都度、数8式の変換行列Cを用いて、数10式の行列演算により座標変換する。但し、実施例2では、変換行列Cにおいて電気角相当の推定角度Thestに代えて1サンプル前の電気角相当の推定角度Thest_dを用いる。
図14は、本発明の実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置の誤差検出動作に要する演算を周期毎に順番に実行する際のフロー処理を信号波形との関係で示したタイミングチャートである。
図14を参照すれば、1サンプル前の電気角相当の推定角度Thest_dは、1つ前の実行周期Tsで入力された電気角相当の推定角度Thestの値であり、座標変換部40で座標変換処理が終了した後に入力されている電気角相当の推定角度Thestの値を1サンプル前の電気角相当の推定角度Thest_dとして更新することを示している。
実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置の角度推定(速度推定)部500は、その細部構成を示す図15を参照すれば、誤差収束部56及び積分部57を備え、復調部71からの推定角度誤差Difに基づいて誤差収束部56がその推定角度誤差Difを零に収束させるように誤差収束処理して機械角相当の推定速度Wmestを生成し、積分部57が機械角相当の推定速度Wmestを積分(1/s)処理して電気角相当の推定角度Thestを生成する。ここでの誤差収束部56は、推定角度誤差Difについて、積分(1/s)して積分ゲインKiを乗じた値と比例ゲインKpを乗じた値との和を出力するPI制御器によって構成されるものであり、演算結果を推定速度Wmestとして出力する。この機械角相当の推定速度Wmestから電気角相当の推定角度Thestを生成する積分部57は、実施例1と同様であり、図12に示した構成を適用できる。
実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置において、周期Tsで実行される処理フローは、図14に示したように各処理の順序が従来装置や実施例1の場合と同様に行われるが、座標変換部40で座標変換に用いる電気角相当の推定角度Thestが1サンプル周期遅れた値の電気角相当の推定角度Thest_dを用いている点が異なる。ここで、図14中の(a)を起点にフローを説明すれば、(a)では制御指令Vd*、Vq*と高調波指令Vdh*、Vqh*とが加算された出力指令Vmd*、Vmq*が更新される。次に、座標逆変換部46で座標逆変換により、電気角相当の推定角度Thest(n−1)を用いて端子電圧指令Vu*、Vv*、Vwが更新された後、更新された端子電圧指令Vu*、Vv*、Vwはカウント数n番目の電圧反映タイミングで三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流に反映される。更に、インバータ80に印加された端子電圧指令Vu*、Vv*、Vwに対する電流応答は、カウント数(n+1)番目のADトリガtrgでAD変換され、電流検出器20で検出交流電流値d_Iu、d_Ivとしてサンプリングされる。引き続いて、図14中の(b)に該当する座標変換部40の座標変換により、電気角相当の推定角度Thest(n−1)を用いて検出直流電流値d_Id、d_Iqが更新される。以降の復調、角度推定の処理順序については説明を省略する。
即ち、実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置では、端子電圧指令Vu*、Vv*、Vwの座標逆変換に用いた電気角相当の推定角度Thest(n−1)と、電流検出器20で検出した検出交流電流値d_Iu、d_Ivの座標変換部40での座標変換に用いた電気角相当の推定角度Thest(n−1)と、が同じ値になるように構成している。これにより、数4式に示した差分dThが零となるため、数6式の第1項も零となり、技術的課題とした推定誤差検出系の微分特性が生じないことになる。この結果、微分特性を持たず、角度推定ループの安定性が優れて高帯域化を具現できるようになる。
以上に説明した通り、実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置によれば、ブラシレスモータ10の回転子11を回転駆動するための電流制御部35からの電圧の指令値である制御指令Vd*、Vq*に対して重畳部600の高周波生成部610で生成した高調波指令Vdh*、Vqh*を加算器62で重畳し、コイル端子12を介してコイル13に供給される応答信号である三相交流電流Iu、Iv、Iwのコイル電流の高調波成分に基づいて電気角相当の回転子11の角度Theをセンサレスで推定する際、座標逆変換部46で出力指令Vmd*、Vmq*を座標逆変換して端子電圧指令Vu*、Vv*、Vwを生成する際に用いる電気角相当の推定角度Thestの値と、その応答である電流検出器20で検出された検出交流電流値d_Iu、d_Ivを座標変換して検出直流電流値d_Id、d_Iqを生成する座標変換部40で用いる電気角相当の推定角度Thestの値とを1サンプル分遅れた電気角相当の推定角度Thest(n−1)として同じ値にしているため、実用時に生じる推定角度誤検出系の微分特性をキャンセルすることができる。
因みに、実施例2のブラシレスモータ駆動装置における角度推定(速度推定)部500は、低域通過フィルタ51を持たない構成として説明したが、座標逆変換部46及び座標変換部40で同じ値の電気角相当の推定角度Thestを用いる機能を維持しつつ、実施例1の場合のように角度推定(速度推定)部500に低域通過フィルタ51を持つ構成として変形することもできる。何れにしても、こうしたブラシレスモータ駆動装置と機械角相当の推定速度Wmestに従ってトルク指令Te*を生成するために必要な速度指令Wmt*を与える中央演算処理機能の制御部と、を備えてモータ駆動システムを構成すれば、各種分野の回転駆動機器へ適用することが可能となる。
図16は、実施例1又は実施例2に係るブラシレスモータ駆動装置が適用される機器の一例である画像形成装置100の概略構成を示した側面図である。
図16を参照すれば、ここでの画像形成装置100は、プリンタ、複写機、スキャナ、ファクシミリ等の複数の機能を一つの筐体に纏めたデジタル複合機である多機能周辺装置(MFP:MultiFunction Peripheral)仕様であり、スキャナ部101とレーザ記録部102とによって画像形成と用紙への印字とを行い、トレー103へ搬出紙を揃えて後処理を行うもので、上述したモータ駆動システムにおけるモータ駆動装置がレーザ記録部102の用紙搬送部107内に設けられる給紙ローラ117を駆動するDCモータや電子写真プロセス部109内に設けられるカラー印刷(ブラックk、マゼンタm、シアンc、イエローy)用の感光体であるドラム119を回転駆動するドラム駆動モータ等の少なくとも何れかに適用される。
図16に示す画像形成装置100自体の基本構成及び処理機能は良く知られているために簡略的に説明する。ここでのスキャナ部101は、透明ガラス体の原稿台104の上面に原稿を給送する自動両面原稿送り装置(RADF:Reverse Automaic Document Feeder)105と、原稿台104の上面に載置された原稿の画像を読み取るスキャナユニット106とによって構成される。スキャナ部101において読み取られた画像データは、レーザ記録部102に出力される。自動両面原稿送り装置105は、略図する原稿トレイから原稿台104を経由して同様に略図する排出トレイに至る片面原稿給送路、スキャナユニット106による片面の画像の読み取りが完了した原稿の表裏面を反転して再度原稿台に導く両面原稿給送路を有し、片面・両面の原稿何れでも対応できるようになっている。
スキャナユニット106は、原稿を半導体レーザが発生する光で照射し、レンズやミラー等で原稿の反射光を光電変換素子の受光面に結像させる。その光電変換素子は原稿の画像面における反射光を電気信号に変換し、略図する画像処理ボード(上述した中央演算処理機能の制御部に該当する)に出力する。レーザ記録部102は、上述した給紙ローラ117が備えられて用紙を搬送する用紙搬送部107、レーザ書込ユニット108、及び電子写真プロセス部(画像形成部)109を備えている。用紙搬送部107は、用紙の両面に画像を形成する両面複写モード時、定着ローラを通過した用紙に対してその表裏面を反転して再度電子写真プロセス部109に導く副搬送路を備えている。レーザ書込ユニット108は、画像処理ボードから供給される画像データに基づいてレーザ光Lを照射する半導体レーザを備え、その半導体レーザから照射されたレーザ光Lをミラーやレンズを通して電子写真プロセス部109のドラム119の表面に配光する。ドラム119の表面には静電潜像が形成され、現像装置からトナーが供給されることにより、トナー画像に顕在化される。このトナー画像は用紙搬送部107から導かれた用紙上に転写され、その後に定着ローラによる加熱及び加圧を受け、トナー画像が溶融して用紙の表面に定着する。このようにして、用紙に画像データの書き込みが終了した後、一部分の搬出用紙が揃えられた上でトレイ103に排出されて後処理が行われる。