以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
まず、本実施形態に係る電動作業工具10の基本的な構成を図1〜図6を用いて説明を行う。ここで、図1は、本実施形態に係る電動作業工具の外観斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る電動作業工具の外観右側面図であり、図3は、本実施形態に係る電動作業工具の外観上面図である。さらに、図4は、図3中のIV−IV断面を示す本実施形態に係る電動作業工具の縦断面右側面図であり、図5は、図4で示した本実施形態に係る電動作業工具から先端工具を取り外した状態を示す縦断面右側面図である。またさらに、図6は、本実施形態に係る電動作業工具が備える駆動系ユニットを示した図であり、図中の分図(a)が駆動系ユニットの右側面視を示し、分図(b)が駆動系ユニットの正面視を示し、分図(c)が分図(b)中のVI−VI断面を示す縦断面右側面図である。
なお、以下の説明では、説明の便宜のために電動作業工具10の使用状態に応じた方向を定義することとする。すなわち、図1にて図示するように、先端工具21が設置される側を「前」、電源コード22が設置される側を「後」、図1における紙面上側を「上」、図1における紙面下側を「下」、図1における紙面手前側を「右」、図1における紙面奥側を「左」と呼ぶこととする。ただし、本明細書で定義した方向が、本実施形態に係る電動作業工具10の使用状態を限定するものではなく、当該電動作業工具10については、あらゆる姿勢方向で使用することが可能である。
本実施形態に係る電動作業工具10は、プレート状の先端工具21を駆動させて被加工材に対して加工作業を行うものであり、複数種類の先端工具を選択して付け替えることにより、切断作業、剥離作業あるいは研磨作業等の様々な作業に適用することが可能なマルチツールと呼ばれる電動作業工具である。この電動作業工具10の外郭は、樹脂やエラストマーによって構成されるハウジング11によって構成されている。このハウジング11は、左右2つ割構造をした半割構造体として構成されるものである。また、本実施形態に係るハウジング11は、電動作業工具10の前方側を構成する前側ハウジング11aと、電動作業工具10の後方側を構成する後側ハウジング11cと、これら後側ハウジング11cと前側ハウジング11aとの間を連結することで把持部として機能する中間ハウジング11bと、によって構成されている。そして、本実施形態に係るハウジング11において、作業者からの把持を受ける把持部となる中間ハウジング11bは、後側ハウジング11cおよび前側ハウジング11aよりも小さい縦断面積を有して構成されているので、操作者は非常に把持し易く、操作性の良い電動作業工具10が実現されている。
また、図4および図5にて示されるように、ハウジング11の後端側を構成する後側ハウジング11c内には、駆動源であるモータ12を有する駆動部が配置されている。本実施形態に係る駆動部を構成するモータ12は、電源コード22から供給される外部電源からの電力を供給されることで駆動されるように構成されており、モータ12が駆動されると、モータ12が有するモータ軸12aが回転駆動することで、駆動部の外部に対して回転駆動力を及ぼすことができるように構成されている。
なお、本実施形態では、後側ハウジング11c内における駆動部の下方の位置に、電動作業工具10の動作制御を行うための制御基板13が配置されており、例えば、操作者の使用状態や先端工具21に加わる負荷等に応じてモータ12の駆動制御を行い、モータ軸12aの回転数制御等を行うことが可能となっている。
一方、ハウジング11の前端側を構成する前側ハウジング11a内には、先端工具21を装着可能な加工部31が配置されている。本実施形態に係る加工部31の詳細構成は後述するが、この加工部31には、複数種類の先端工具を選択して付け替えることが可能となっており、そのための様々な機構を有して構成されている。
さらに、ハウジング11の中間位置に存在する把持部を構成する中間ハウジング11bの内部には、モータ12の駆動力を加工部31に対して伝達するための伝動軸15を有する伝動部が配置されている。この伝動部が有する伝動軸15は、軸の後端側でモータ軸12aと連結されることで、モータ軸12aから伝達される回転駆動力を受けて回転する部材である。また、伝動軸15は、軸の前端側で加工部31に接続して加工部31に対して駆動力を伝達可能となっており、最終的に、加工部31の微小角度範囲内での左右方向の揺動運動を実現することで、先端工具21が外部に対して作業を行うことを可能としている。
そして、本実施形態では、上述した駆動部(12)、加工部31、および伝動部(15)によって駆動系ユニットαが構成されており、この駆動系ユニットαは、図6で示すように、駆動部と加工部31とが伝動部を介して連結固定されて一体化されて構成されている。すなわち、本実施形態では、駆動部を構成するモータ12や、加工部31や、伝動部を構成する伝動軸15等の部材が、駆動系ユニットαとして一体的に構成されており、この一体化は、例えばアルミダイカストによって鋳造されたアルミケーシング16内に、モータ12や加工部31や伝動軸15等の部材が収納されることで実現されている(図6中の分図(c)等参照。)。なお、この様に一体化された駆動系ユニットαは、図4で示すように、樹脂やエラストマーによって構成される半割構造体としてのハウジング11内に収納設置すれば良いので、非常に組み立て性が良く、製造し易い構成となっている。特に、従来技術に係る伝動作業工具は、樹脂等で構成されるハウジングに対して直接、モータや加工部等を設置していたため、装置の組立精度はハウジングの形状寸法の誤差に影響されるものであった。しかしながら、本実施形態によれば、駆動部を構成するモータ12や、加工部31や、伝動部を構成する伝動軸15等の部材が、駆動系ユニットαとしてアルミケーシング16によって一体的に構成されており、この一体化された駆動系ユニットαをハウジング11内に設置するだけで電動作業工具10の組み立てが完了するので、樹脂等で構成されるハウジング11の寸法誤差の影響を受けることなく電動作業工具10の組み立てが可能となっている。また、この一体化により駆動系ユニットαの剛性を高めることができるので、加工作業時の負荷による変形や振動を低減することが可能となる。
なお、本実施形態に係る電動作業工具10では、中間ハウジング11bの内部であって、伝動軸15の下方の位置に、スイッチ本体17が設置されている(図4等参照。)。そして、このスイッチ本体17をオン・オフ操作するための押込式スイッチレバー18が、図2にてより詳細に示されるように、前側ハウジング11aにおける中間ハウジング11b寄りの左右方向側面であって、側面視で中間ハウジング11bの下面の延長線上の位置に配置されている。
そして、押込式スイッチレバー18は、スイッチ本体17と押込力伝達部材19を介して接続されており、電動作業工具10の左側面側から押込式スイッチレバー18を押し込むとスイッチ本体17がオンとなり、電動作業工具10の右側面側から押込式スイッチレバー18を押し込むとスイッチ本体17がオフとなるように構成されている。つまり、右利きの操作者が把持部である中間ハウジング11bを把持した状態を想定すると、操作者は、親指を使って電動作業工具10の左側面側から押込式スイッチレバー18を押し込むことで、電動作業工具10の電源をオンすることが可能となっており、また、操作者は、人差し指を使って電動作業工具10の右側面側から押込式スイッチレバー18を押し込むことで、電動作業工具10の電源をオフすることが可能となっている。
そして、本実施形態では、前側ハウジング11aにおける中間ハウジング11b寄りの左右方向側面であって、側面視で中間ハウジング11bの下面の延長線上の位置に、スイッチ本体17をオン・オフ操作するための押込式スイッチレバー18が配置されているので、電動作業工具10の電源をオンする場合には、短い親指を操作者が意識して動かさなければ電源オンができず、また、電源オフを行う際には、比較的長い人差し指を操作者が少し前側に伸ばすことで電源オフができる。したがって、本実施形態に係る電動作業工具10は、安全性と操作性が非常に高い電動作業工具10が実現されているということができる。また、本実施形態に係る押込式スイッチレバー18が配置される位置は、操作者が把持部である中間ハウジング11bを把持した状態のときに、操作者が誤って押込式スイッチレバー18を操作してしまう可能性の非常に少ない位置となっている。このことからも、本実施形態に係る電動作業工具10は、安全性が非常に高い電動作業工具10であるということができる。
以上、本実施形態に係る電動作業工具10の基本的な構成を図1〜図6を用いて説明した。次に、図7〜図13を参照図面に加えて、本実施形態に係る電動作業工具10の具体的な構成を説明する。ここで、図7は、本実施形態に係る電動作業工具において、伝動部から加工部に対して駆動力を伝達するための機構を説明するための図であり、図中の分図(a)が図2中のVII−VII断面を示し、分図(b)が分図(a)の状態から伝動軸が180°回転した状態を示している。また、図8は、本実施形態に係る電動作業工具が有する加工部周辺を示した要部拡大縦断面図であり、図中の薄墨で塗りつぶされた箇所が加工部を示し、その他の部位は塗りつぶしなく示されている。さらに、図9は、本実施形態に係る電動作業工具が有する加工部周辺を示した要部拡大縦断面図であり、本実施形態に係る電動作業工具から先端工具を取り外した状態が示されている。またさらに、図10は、図中の分図(a)が図2中のX−X断面を示し、分図(b)が分図(a)中のX(a)矢視を示している。さらにまた、図11は、本実施形態に係る電動作業工具を下面側から見た場合の外観斜視図であって先端工具を取り外した状態が示されている。また、図12は、本実施形態に係る電動作業工具に対して先端工具を取り付けるためのアダプタを説明するための図であり、図中の分図(a)がアダプタの底面視を示し、分図(b)が分図(a)中のXII(a)−XII(a)断面を示し、分図(c)が分図(b)中のXII(b)矢視を示している。また、図13は、本実施形態に係る電動作業工具を上面側から見た場合の外観斜視図であって、前側ハウジングの上面前方側に設置されたカバー部材が開いた状態が示されている。
まず、図4および図7を参照して、本実施形態に係る電動作業工具10において、伝動部を構成する伝動軸15から加工部31に対して駆動力を伝達するための機構を説明する。
上述したように、本実施形態に係る伝動部を構成する伝動軸15は、その後方端側の軸端部が、モータ12が有するモータ軸12aと接続している。また、モータ軸12aと伝動軸15とは共通に中心線を有して配置されている(図4参照。)。したがって、本実施形態に係る伝動軸15は、モータ12の駆動によって回転駆動するように構成されている。一方、本実施形態に係る伝動軸15の前方端側の軸端部は、図7にて示されるように、軸端部の軸径が細くなるように構成されており、さらに、前方端側の軸端部の軸中心が、伝動軸15本体の軸中心から僅かにずれるように構成されている。そしてさらに、この軸中心がずれた前方端側の軸端部には、円環形状をしたベアリング15aが固定設置されている。したがって、モータ12の駆動によって伝動軸15が回転駆動されると、前方端側の軸端部に固定設置されたベアリング15aは、伝動軸15本体の軸中心から偏心した状態で回転運動を行うことになるので、偏心運動を行うこととなる。
そして、上述した偏心運動を行うベアリング15aには、図7で示すように、上面視で略逆コ字形をした揺動力伝達部材25が設置されている。この揺動力伝達部材25は、略逆コ字形のコの字の開口部分側に対して、ベアリング15aと接触する2本のアーム部25aが形成されており、また、揺動力伝達部材25の略逆コ字形のコの字の反開口部分側には、円環形をした開口部25bが形成されている。開口部25bの開口内部には、加工部31が挿入設置されており、また、加工部31は、開口部25bに対して固定設置されている。
さらに、図8で示すように、図中の薄墨で塗りつぶされて示された加工部31は、アルミケーシング16内で一体的に回動(揺動)可能となっている。したがって、モータ12の駆動によって伝動軸15が回転駆動を行うと、ベアリング15aが偏心運動を行うこととなる。すると、ベアリング15aの偏心運動にしたがって揺動力伝達部材25の有する2本のアーム部25aは、図7中の分図(a)および分図(b)で示すように、左右方向で往復する水平移動を繰り返すこととなる。このとき、2本のアーム部25aの左右方向での往復水平移動によって、開口部25bも上面視で時計回りと反時計回りの小刻みな回転運動を繰り返すこととなるが、開口部25bと、この開口部25bに固定設置された加工部31とは、鉛直方向の回転中心軸がアルミケーシング16内でずれないように構成されているので、加工部31については、位置移動しない回転中心軸を回転中心として、上面視で時計回りと反時計回りの小刻みな揺動動作を繰り返すこととなる。かかる揺動動作が加工部31と一体に設置された先端工具21に対して伝達されるので、先端工具21が揺動動作を行い、被加工材に対する所定の加工作業を行うことが可能となる。
なお、上述した機構に基づく先端工具21の揺動動作の角度範囲は、本実施形態の場合、1.5°程度となっている。この先端工具21の揺動角度範囲については、電動作業工具10に対する要求仕様等によって任意に変更が可能であり、例えば、伝動軸15本体の軸中心に対する前方端側の軸端部の軸中心位置のずれ量を任意に変更することで調節が可能である。
以上、図4および図7を参照して、本実施形態に係る電動作業工具10において、伝動部を構成する伝動軸15から加工部31に対して駆動力を伝達するための機構を説明した。次に、図9〜図11を参照図面に加えることで、本実施形態に係る加工部31の詳細構成についての説明を行う。
図8を示して上述したように、図8中の薄墨で塗りつぶされて示された加工部31は、アルミケーシング16内で一体的に揺動可能となっている。そして、本実施形態に係る加工部31の内部構成は、先端工具21を好適に固定設置するための機構を有して構成されている。
まず、本実施形態に係る加工部31において、加工部31に固定設置される先端工具21は、図9や図11等で示すような、側面視略逆T字形をした工具クランプ部材41を利用して固定が実行されることとなる。工具クランプ部材41は、下方に配置される円柱形からなるクランプヘッド41aと、このクランプヘッド41aの上面中央部から上方に伸びる軸状のクランプピン41bによって構成されている。クランプピン41bの軸端部には溝群42が形成されており、この溝群42を利用することで、工具クランプ部材41の加工部31に対する固定が実行されることとなる。
次に、上述した工具クランプ部材41を固定するために加工部31が有する機構について、図9を参照して説明する。本実施形態に係る加工部31は、側面視で略逆Y字形をした主動軸32を有して構成されている。主動軸32は、加工部31において、上下方向に移動可能状態で、かつ回転不可状態で設置されている。主動軸32の上方側の軸端部にはネジ溝が形成されており、このネジ溝には、操作部材33が螺入されている。したがって、この操作部材33を螺進させて締め付けることで、主動軸32は加工部31の上方に向けて移動し、逆に、操作部材33を螺退させて締め付けを緩めることで、主動軸32は加工部31の下方に向けて移動するように構成されている。また、側面視で略逆Y字形をした主動軸32の下方側には、略円錐台形の巻線形態を有するコイルバネ34が設置されており、このコイルバネ34は、常時、主動軸32を下方側に向けて押圧する弾性力を及ぼすように構成されている。
さらに、側面視で略逆Y字形をした主動軸32の下面側には、2つの略円柱形の巻線形態を有する第二のコイルバネ35が設置されており、またさらに、これら2つの第二のコイルバネ35の下方には、工具クランプ部材41が有するクランプピン41bの軸端部に形成された溝群42に噛み合う溝群36aを有する2つの挟持部材36が設置されている。この挟持部材36は、内周面側に溝群36aが形成されるとともに、外周面側にテーパー形状36bが形成された部材である。テーパー形状36bは、下方に行くほど径が小さくなるような傾斜面として形成されている。
またさらに、挟持部材36の下方側には、テーパー形状36bに対応した傾斜面37aを有する保持部材37が設置されている。この保持部材37は、加工部31内で固定設置された部材であり、位置移動を行わない部材である。また、保持部材37の上面に形成されたテーパー形状36bに対応した傾斜面37aは、下方に行くほど径が小さくなるような傾斜面37aとして形成されており、主動軸32の下面側に対して第二のコイルバネ35を介して設置された挟持部材36が、この傾斜面37a上を摺動しながら移動できるように構成されている。
そして、図9で示す状態から、工具クランプ部材41が有するクランプピン41bを加工部31内に差し込むと、クランプピン41bの軸端部に形成された溝群42は、挟持部材36の内周面側に形成された溝群36aと接触することとなる。このとき、操作部材33を締め付けていない状態では、クランプピン41bからの差し込み力を受けた挟持部材36は、第二のコイルバネ35の弾性力よりも大きい差し込み力を受けることで一瞬上方に向けて移動するとともに、溝群36a,42同士が噛み合うと、第二のコイルバネ35の下方に向けた弾性力の作用によって下方に向けた力を受けることとなる。このときの挟持部材36の僅かな距離の上下動は、テーパー形状36bと傾斜面37aとの作用によって、斜め方向でスムーズな上下動作として実現されることとなる。この状態で、溝群36a,42同士の噛み合い状態は維持されることとなるが、挟持部材36が移動して溝群36a,42同士の噛み合い状態が解除されることを防止するために、操作部材33を主動軸32に対して螺進させて締め付けることで、主動軸32はコイルバネ34を押し潰しながら上方側へ移動する。この状態は、挟持部材36の溝群36aによるクランプピン41bの溝群42に対する噛み込み状態をもはや解除できない状態となっており、たとえ挟持部材36に対してどのような外力が加わったとしても、2つの挟持部材36が有する溝群36a同士の間隔は、拡大することがない。この様にして、操作部材33の締め付けによる工具クランプ部材41の固定が実行されることとなる。
上述した固定状態から、操作部材33を螺退させて締め付けを解除していくと、主動軸32は下方に向けて移動することとなる。またこのとき、主動軸32には、コイルバネ34からの弾性力によって下方に向けて押圧される力も作用することとなる。主動軸32が下方に向けた移動を進めると、クランプピン41bの溝群42に対する噛み込みを行っている挟持部材36は、テーパー形状36bと傾斜面37aとの作用によって傾斜面37a上を上方に移動し、2つの挟持部材36が有する溝群36a同士の間隔が拡大することとなる。これによって、挟持部材36の溝群36aによるクランプピン41bの溝群42に対する噛み込み状態が解除され、工具クランプ部材41を加工部31から抜き取ることが可能となる。以上のようにして、加工部31に対する工具クランプ部材41の固定と解除が実行されることとなる。
なお、本実施形態では、操作部材33の緩みを防止するための有意な特徴を備えている。その有意な特徴が、図10に示されている。すなわち、本実施形態に係る操作部材33は、操作者からの操作を受ける外周部材が樹脂製の操作ナット33aとして構成されるとともに、主動軸32の上方側の軸端部に形成されたネジ溝に螺合する箇所が金属製の凹凸係合部33bとして形成されている。また、操作ナット33aと凹凸係合部33bは、樹脂材料と金属材料との射出成形や2色成形等の一体成形化技術を用いて製造されており、さらに、樹脂材料からなる操作ナット33aの領域を大きくすることで、操作部材33全体の軽量化が図られている。操作部材33を軽量化することで、加工部31の揺動動作によって操作部材33による主動軸32の締め付けが緩んでしまう事を好適に防止することが可能となる。
また、本実施形態では、操作部材33の操作感を向上させるための有意な特徴を備えている。すなわち、本実施形態に係る操作部材33は、操作部材33を構成する凹凸係合部33bの下面に対して回転方向で等間隔に凹凸形状を形成するとともに、凹凸係合部33bの下面と対向する操作部材33の下方の位置に、スリーブ51が上下方向に移動可能状態で、かつ主動軸32に対して相対回転不可状態で設置されている。このスリーブ51の上面側には、凹凸係合部33bの下面に形成された凹凸形状に対応する凹凸形状が形成されており、また、スリーブ51の下方側には、スリーブ51に対して上向きの押圧力を及ぼす皿バネ52が設置されている。この構成により、本実施形態では、操作者による操作部材33の回転操作によって操作部材33が下方へ螺進していくと、操作部材33を構成する凹凸係合部33bの下面に形成された凹凸形状と、スリーブ51の上面側に形成された凹凸形状とが、噛合および噛合解除を繰り返した後、操作部材33が締め付けられることになる。具体的には、操作部材33の下方への螺進によって凹凸係合部33bと噛合状態になったスリーブ51が、操作部材33の回転操作に伴い、皿バネ52の押圧力(弾性力)に抗して下方へ移動させられることで噛合状態が解除され、再び噛合状態となることを繰り返した後、操作部材33が締め付けられることとなる。また、締め付けを解除するために操作部材33を上方へ螺退させる際は、螺退のための回転操作の初期段階において、螺進の場合と同様に、噛合および噛合解除を繰り返すことになる。したがって、操作者に対して適度な操作感を与えることができる。また、凹凸形状同士の噛合によって操作部材33の意図しない回転を防止することも可能となる。なお、本実施形態では、スリーブ51に対して上向きの押圧力を及ぼす部材として皿バネ52を採用したが、ウェーブワッシャ(波型座金)を採用することもできる。
また、本実施形態では、図11に示すように、工具クランプ部材41が有するクランプピン41bを加工部31内に差し込む際に、先端工具21の取付部形状に応じたアダプタ55を利用する構成が採られていた。このアダプタ55についての詳細構成が、図12に示されている。本実施形態の場合、加工部31の下端の形状は、六角の凸形状を有して構成されている。一方、本実施形態で示した先端工具21の取付部形状は、12個の孔が形成された形状を有している。したがって、図12で示す本実施形態に係るアダプタ55は、内周面に六角の開口部55aを有するとともに、下面側には6つの凸形状55bを有するものであった。内周面に形成された六角の開口部55aは、加工部31の下端に形成された六角の凸形状に対応しており、下面側に形成された6つの凸形状55bは、先端工具21の取付部形状として形成された12個の孔に対応して形成されているので、本実施形態に係るアダプタ55は、加工部31に対する先端工具21の好適な取付状態を実現している。
また、本実施形態に係るアダプタ55の内周面に形成された六角の開口部55aについては、上方側に行くほど開口径が拡大するテーパー形状を有して構成されている。本実施形態の場合、図12中の分図(c)で示すように、当該テーパー形状の形成角度は4.6°で構成されている。このようなテーパー形状を開口部55aに対して付与することで、加工部31に対してのアダプタ55の取り付けが容易になるとともに、取り付けた際に、加工部31から外れ難くなる作用効果も得られるので、取付性が向上する利点が得られる。さらに、このようなテーパー形状を六角の開口部55aに対して付与することで、加工部31の下端に形成される六角の凸形状と開口部55aとの隙間を低減することができる。したがって、加工部31に対するアダプタ55の揺動方向のガタツキを低減することができる。すなわち、アダプタ55のガタツキによって先端工具21の実際の揺動角度が設計値より小さくなることに起因する加工能力の低下を防止することが可能となる。
なお、本発明に係るアダプタは、図11および図12で示した形態には限られず、先端工具の取付部形状に対応したあらゆる形態を採用することが可能である。
さて、上述したように、本実施形態に係る電動作業工具10は、外郭を構成するハウジング11を有し、先端工具21を装着可能な加工部31が、ハウジング11の前端側を構成する前側ハウジング11a内に配置されるとともに、操作部材33を螺進させて締め付けることで先端工具21のクランプ固定を行うクランプ機構を備えたものであった。そして、かかる構成を有する電動作業工具10に対しては、図13に示すように、ハウジング11に対して操作部材33を覆う開閉式のカバー部材61を設けることが可能である。
そして、このカバー部材61については、図13で例示するように、前側ハウジング11aの上面前方側に形成された開口を塞ぐように構成するとともに、カバー部材61を開状態としたときに、前側ハウジング11aの前方側に向けて倒れた状態となるように構成されていることが好適である。この様に構成することで、開閉動作が容易なカバー部材61とすることができる。また、カバー部材61を閉状態としたときには、カバー部材61が、前側ハウジング11aの外郭形状と連続した外郭形状を形成するように構成されていることが好適である(図1等参照。)。本実施形態に係る電動作業工具10は、あらゆる姿勢や用途で使用される可能性があり、使用条件によっては、前側ハウジング11aの上面前方側のカバー部材61が設置される箇所に操作者が手を置いて操作する場合がある。その際、カバー部材61が、前側ハウジング11aの外郭形状と連続した外郭形状を形成するように構成されていれば、操作性が良く、使い易い電動作業工具10となり、好ましい。さらに、操作部材33を覆うカバー部材61を設けることで、操作者の手等が誤って操作部材33に触れることを防止できるので、安全上も好ましい。特に、本実施形態の電動作業工具10は、運転中は操作部材33が揺動動作を行っているため、誤って手等が触れた場合にその締め付けが緩んでしまう可能性がある。したがって、操作部材33を覆うカバー部材61を設けて操作者の手等が誤って操作部材33に触れないようにすることは、工具クランプ部材41の安定した固定状態の維持からも好ましい。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、加工部31に対する先端工具21の取り付けに際して、アダプタ55を用いた場合を例示した。しかしながら、本発明に係る電動作業工具は、図14で例示するように、アダプタを用いることなく、工具クランプ部材41のみを利用することで先端工具21を加工部31に対して取付固定することが可能である。なお、図14は、本発明が取り得る多様な変形形態の一例を示す外観斜視図であり、加工部31の下端の形状が、六角の凸形状を有して構成されており、一方で、先端工具21の取付部形状が、六角の凸形状を嵌め込むことが可能な12角の星型形状をした孔が形成された形状を有している。したがって、図14で示す形態例の場合、アダプタを用いることなく先端工具21を加工部31に取り付けることが可能となっている。
また例えば、上述した実施形態では、後側ハウジング11c内における駆動部の下方の位置に、電動作業工具10の動作制御を行うための制御基板13が配置されており、例えば、操作者の使用状態や先端工具21に加わる負荷等に応じてモータ12の駆動制御を行い、モータ軸12aの回転数制御等を行うことが可能となっている場合が例示されていた。しかしながら、制御基板13の設置は本発明の必須要件ではない。例えば、図15は、本発明が取り得る多様な変形形態の別の一例を示す外観斜視図であり、制御基板を有しない電動作業工具の形態例を示す図である。なお、図15では、図中の分図(a)が外観上面視を示し、分図(b)が分図(a)中のXV−XV断面を示し、分図(c)が外観右側面視を示している。図15で例示する電動作業工具のように、制御基板を有さない構成を採用することで、後側ハウジング11cの形状と重量を小さくすることができるので、電動作業工具としての機能は低下するものの、軽量化による作業性の向上した電動作業工具を得ることができる。
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。