以下に、本発明の実施の形態にかかるバレル研磨用容器治具、バレル研磨装置およびバレル研磨方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態にかかるバレル研磨装置1を示す模式図である。バレル研磨装置1は、研磨槽の振動によって起こるバレル槽内の被加工物と研磨剤との相対運動差により被加工物と研磨剤との相互に摩擦運動を利用した研磨処理が行われる振動バレル研磨装置である。そして、バレル研磨装置1は、異なる複数の大きさの被加工物を、それぞれの被加工物に適した研磨剤を用いて、個別に且つ同時に研磨処理を行うことができるバレル研磨装置である。
なお、以下では、大きさの異なる2種類の被加工物に対して同時に研磨処理を行う場合について説明する。すなわち、以下では、大きさが相対的に大きい第1被加工物21と、大きさが相対的に小さい第2被加工物22と、をバレル研磨装置1において同時に研磨処理する場合について説明する。また、図1においては、理解の容易のため、研磨剤の大きさを拡大して大きめに示している。
バレル研磨装置1は、上部が開口した研磨槽11と、研磨槽11が載置される上部ハウジング12と、スプリング13を介して上部ハウジング12を支持する台座14とを備える。研磨槽11は、底部が上部ハウジング12の上面に固定されている。上部ハウジング12は、スプリング13を介して台座14の上部に、変動可能に設置されている。
上部ハウジング12内における底部には、回転軸15が挿通されたベアリング16が配置されている。ベアリング16には、一部にアンバランスウェイト17が固定された回転軸15が、該ベアリング16を介して回転自在に固定されている。回転軸15は、台座14に固定されて該回転軸15を回転させるモータ18に接続されている。
研磨槽11は、図1に示すように、バレル研磨装置1において同時に研磨処理が行われる大きさの異なる2種類の被加工物のうち、大きさが相対的に大きい第1被加工物21と、該第1被加工物21の研磨に適した第1被加工物21用の研磨剤である第1研磨剤31と、が直接投入される。第1被加工物21は、樹脂または金属からなる。第1被加工物21の研磨に適した研磨剤とは、第1被加工物21を効率的に且つ確実に研磨処理可能な材質および大きさで構成された研磨剤である。研磨剤は、金属製の研磨剤、樹脂製の研磨剤、セラミック製の研磨剤など、用途に合わせて各種材料の研磨剤を使用可能である。また、研磨剤は、用途に合わせて各種形状の研磨剤を使用可能である。なお、場合によっては、潤滑液も併せて研磨槽11に投入される。
バレル研磨において用いられる研磨剤には、複数種類の被加工物のバレル研磨に対応するために、種々の材料および大きさで構成された研磨剤が存在する。しかしながら、各被加工物に適した研磨剤を用いて研磨処理を行わないと、研磨効率が悪く処理時間が多くなる、被加工物が確実に研磨されない、被加工物が必要以上に研磨されてしまう、などの不具合が生じる。したがって、各被加工物に適した研磨剤を用いることが、品質の高いバレル研磨を行う上で重要である。
研磨槽11は、樹脂材料または金属材料により構成されている。研磨槽11は、縦断面形状がU字型形状のものを用いると、研磨槽11内における第1被加工物21および第1研磨剤31の流動が滑らかになるため好ましい。
また、バレル研磨装置1において異なる複数の大きさの被加工物を同時に研磨する場合には、バレル研磨用容器治具が研磨槽11に投入される。バレル研磨用容器治具は、樹脂または金属からなり、複数の分割部品に分割可能に構成されている。図2は、本発明の実施の形態にかかるバレル研磨用容器治具の第1の例である第1バレル研磨用容器治具41を示す模式図である。図2では、第1バレル研磨用容器治具41を斜め上方から見た図を示している。図3は、本発明の実施の形態にかかる第1バレル研磨用容器治具41の断面図である。図4は、本発明の実施の形態にかかる第1バレル研磨用容器治具41を分解した状態を示す断面図である。以下、第1バレル研磨用容器治具41を第1容器治具41と呼ぶ。
実施の形態にかかる第1容器治具41は、図2に示すように、端部が半球形状とされた円筒形状の外形形状を有する。また、第1容器治具41は、図3および図4に示すように、外面の厚みが均一とされて、外形形状に沿った内面形状を有し、内部が中空とされた中空容器とされている。第1容器治具41には、第2被加工物22と第2研磨剤32とが封入される。なお、場合によっては、潤滑液も併せて第1容器治具41に封入される。
ここで、第2被加工物22は、研磨槽11内に直接投入される第1被加工物21よりも大きさが相対的に小さい被加工物であり、第1被加工物21と異なる材料から構成されている。第2被加工物22は、樹脂または金属からなる。また、第2研磨剤32は、第2被加工物22の研磨に適した第2被加工物22用の研磨剤であり、第1研磨剤31とは異なる研磨剤である。第2被加工物22の研磨に適した研磨剤とは、第2被加工物22を効率的に且つ確実に研磨処理可能な材質および大きさで構成された研磨剤である。すなわち、第2被加工物22は、第1被加工物21よりも小さく、構成材料が異なるため、第1被加工物21と第2被加工物22とは、それぞれ適した研磨剤が異なる。
なお、第2被加工物22が第1被加工物21よりも大きさが相対的に小さく、第1被加工物21と同じ材料から構成されている場合も、第2被加工物22の研磨に適した研磨剤は第1研磨剤31とは異なる。さらに、第2被加工物22は、大きさ、形状および材質のうち少なくとも1つが第1被加工物21と異なる場合も、第2被加工物22の研磨に適した研磨剤は第1研磨剤31とは異なる。
第1容器治具41は、内側面および内面における長手方向の両端側が曲面を利用して構成されている。すなわち、第1容器治具41は、内側面が円柱形状を有し、内面における長手方向の両端側が半球形状とされている。第1容器治具41の内面を曲面を利用して構成することにより、研磨処理時に第1容器治具41の内部で第2被加工物22および第2研磨剤32が流動し易くなり、効率的に且つ確実に第2被加工物22の研磨を行うことができる。
また、第1容器治具41は、外面における長手方向の両端側が曲面を利用して構成されている。すなわち、第1容器治具41は、外面における長手方向の両端側が半球形状とされている。第1容器治具41の外面を曲面を利用して構成することにより、研磨処理時に研磨槽11内における第1容器治具41の周囲で第1被加工物21および第1研磨剤31が流動し易くなり、効率的に第1被加工物21の研磨を行うことができる。したがって、本実施の形態にかかるバレル研磨用容器治具の外形形状は球形、楕円体形状、円筒形および端部が半球形状とされた筒形のように、曲面を利用した構造とされることが好ましい。
また、第1容器治具41は、第1研磨剤31に対する耐摩耗性を有する材料により構成される。これにより、バレル研磨装置1において繰り返し使用した場合でも、第1容器治具41の寿命が長くなる。
第1容器治具41は、図4に示すように、長手方向における中央領域で第1分割部42と第2分割部43とに分割可能とされている。第1分割部42は、開口端42aに隣接する内面に、第1容器治具41の軸回りの周方向において同一幅で段差部42cが設けられた、リング形状の取り付け部42bを有する。第2分割部43は、開口端43aに隣接する外面に、第1容器治具41の軸回りの周方向において同一幅で段差部43cが設けられた、リング形状の取り付け部43bを有する。
そして、第1分割部42に設けられた取り付け部42bの内周部に、第2分割部43に設けられた取り付け部43bの外周部を当接させて取り付け部42bを取り付け部43bに圧入することにより、第1分割部42と第2分割部43とを合体および固定させて第1容器治具41が構成される。なお、第1分割部42と第2分割部43との固定構造は、圧入により第1分割部42と第2分割部43とを固定する圧入構造の他に、ネジ止めにより第1分割部42と第2分割部43とを固定するネジ止め構造とされてもよい。
つぎに、第1被加工物21と第2被加工物22とをバレル研磨装置1において同時に研磨処理する処理について説明する。図5は、本発明の実施の形態にかかるバレル研磨装置1において第1被加工物21と第2被加工物22とを同時に研磨する研磨処理の手順を示すフローチャートである。バレル研磨装置1により第1被加工物21と第2被加工物22とのバレル研磨を行うには、まず、第1工程であるステップS10において、所望の数量の第1被加工物21と既定量の第1研磨剤31とが研磨槽11に投入される。また、場合によっては、潤滑液も併せて研磨槽11に投入される。
つぎに、第2工程であるステップS20において、第2被加工物22および第2研磨剤32が第1容器治具41の中に封入される。また、場合によっては、潤滑液も併せて第1容器治具41の中に投入される。そして、第2被加工物22および第2研磨剤32が封入された第1容器治具41が、第1被加工物21と第1研磨剤31とが投入された研磨槽11内に投入される。なお、第1工程と第2工程との行われる順序は逆でもよい。
続いて、第3工程であるステップS30において、バレル研磨装置1が起動される。すなわち、モータ18が駆動することにより回転軸15が回転する。この際、回転軸15の一部にアンバランスウェイト17が固定されているため、回転軸15は水平方向に振れながら回転する。回転軸15が水平方向に振れて傾くことにより、研磨槽11も傾く。そして、傾く研磨槽11を弾性部材であるスプリング13で支持することにより、研磨槽11が、アンバランスウェイト17の回転に対応して、振動しながら水平方向において略円形の軌道を描きながら回転する。
したがって、上部ハウジング12と、スプリング13と、台座14と、回転軸15と、ベアリング16と、アンバランスウェイト17と、モータ18とにより、研磨槽11に振動を付与する振動付与部が構成されている。
この研磨槽11の振動により研磨槽11内に投入された第1被加工物21と第1研磨剤31とが流動する。これにより、研磨槽11内の第1被加工物21と第1研磨剤31とが研磨槽11内において相対運動することとなり、第1被加工物21が第1研磨剤31により研磨処理される。
また、第1被加工物21と第1研磨剤31との流動とともに、第1容器治具41も研磨槽11内において第1被加工物21と同様に回転流動する。そして、第1容器治具41が研磨槽11内において回転流動することにともない、第1容器治具41内の第2被加工物22および第2研磨剤32が相対運動することとなり、第2被加工物22が第2研磨剤32により研磨処理される。すなわち、第1容器治具41が研磨槽11内の第1研磨剤31の流動に連動して振動または回転運動することにより、第1容器治具41内の第2研磨剤32と被加工物とが相対運動する。
上記の処理が行われることにより、バレル研磨装置1においては、大きさの異なる第1被加工物21と第2被加工物22とを、異なる処理空間において個別に研磨処理することができる。これにより、適合する研磨剤が異なる第1被加工物21と第2被加工物22とを、同一バッチで、各被加工物に適合する研磨剤により研磨処理することが可能となる。また、研磨処理中に第1被加工物21と第2被加工物22とが衝突することがなく、第1被加工物21と第2被加工物22との衝突に起因した衝突打痕および傷の発生を防止することができ、第1被加工物21と第2被加工物22との研磨加工における歩留が向上する。
研磨処理後は、第4工程であるステップS40において、第1容器治具41が研磨槽11より取り出され、第1容器治具41が分解される。これにより、第2被加工物22を容易に選別することができ、第2被加工物22の選別に要する時間が低減できる。すなわち、研磨処理の完了後の第2被加工物22の取り出しは、第1容器治具41内からの第2被加工物22の選別となるため、小型の部品である第2被加工物22の選別時間を短縮できる。また、小型の部品である第2被加工物22を紛失するリスクが低減される。
また、複数の第1容器治具41に、第1被加工物21よりも小さく、且つそれぞれ大きさの異なる複数の被加工物を、複数の第1容器治具41に大きさ毎に封入してもよい。この場合は、第1容器治具41に封入する被加工物に適した研磨剤が第1容器治具41に合わせて封入される。そして、各第1容器治具41が研磨槽11に投入されて、上記と同様にして研磨処理が行われる。これにより、適合する研磨剤が異なる3種類以上の被加工物を、同一バッチで、各被加工物に適合する研磨剤により研磨処理することが可能となる。
また、上記においては、第2被加工物22は、第1被加工物21よりも小さく、第1被加工物21と異なる材料から構成されている場合について示したが、第2被加工物22の、大きさ、形状および材質のうち少なくとも1つが第1被加工物21と異なる場合も、第2被加工物22の研磨に適した研磨剤は第1研磨剤31とは異なる。したがって、第2被加工物22の、大きさ、形状および材質のうち少なくとも1つが第1被加工物21と異なる場合に、上記と同様に第2被加工物22および第2研磨剤32を第1容器治具41に封入して研磨処理を行うことにより、同一バッチ中で、大きさ、形状および材質のうち少なくとも1つが異なる複数の異種の被加工物を、それぞれの被加工物に適した研磨剤により研磨加工することが可能となる。
図6は、本発明の実施の形態にかかるバレル研磨用容器治具の第2の例である第2バレル研磨用容器治具51を示す模式図である。図6では、第2バレル研磨用容器治具51を斜め上方から見た図を示している。図7は、本発明の実施の形態にかかる第2バレル研磨用容器治具51の断面図である。図8は、本発明の実施の形態にかかる第2バレル研磨用容器治具51を分解した状態を示す断面図である。以下、第2バレル研磨用容器治具51を第2容器治具51と呼ぶ。
実施の形態にかかる第2容器治具51は、図6に示すように、外形形状が円柱形状とされている。また、第2容器治具51は、図7および図8に示すように、外面の厚みが均一とされて、外形形状に沿った内面形状を有し、内部が中空とされた中空容器とされている。第2容器治具52には、第2被加工物22と第2研磨剤32とが封入される。なお、場合によっては、潤滑液も併せて第2容器治具52に封入される。
第2容器治具51は、内側面が曲面を利用して構成されている。すなわち、第2容器治具51は、内側面が円柱形状とされている。第2容器治具51の内面を曲面を利用して構成することにより、研磨処理時に第2容器治具51の内部で第2被加工物22および第2研磨剤32が流動し易くなり、効率的に且つ確実に第2被加工物22の研磨を行うことができる。
また、第2容器治具51は、第1容器治具41と同様に、第1研磨剤31および第1研磨剤31に対する耐摩耗性が高い材料により構成されることが好ましい。これにより、バレル研磨装置1において繰り返し使用した場合でも、第2容器治具51の寿命が長くなる。
第2容器治具51は、図8に示すように、長手方向における中央領域で第1分割部52と第2分割部53とに分割可能とされている。第1分割部52は、開口端52aに隣接する内面に、第2容器治具52の軸回りの周方向において同一幅で段差部52cが設けられた、リング形状の取り付け部52bを有する。第2分割部53は、開口端53aに隣接する外面に、第2容器治具51の軸回りの周方向において同一幅で段差部53cが設けられた、リング形状の取り付け部53bを有する。
そして、第1分割部52に設けられた取り付け部52bの内周部に、第2分割部53に設けられた取り付け部53bの外周部を当接させて取り付け部52bを取り付け部53bに圧入することにより、第1分割部52と第2分割部53とを合体および固定させて第2容器治具51が構成される。なお、第1分割部52と第2分割部53との固定構造は、圧入により第1分割部52と第2分割部53とを固定する圧入構造の他に、ネジ止めにより第1分割部52と第2分割部53とを固定するネジ止め構造とされてもよい。
上記のように構成された第2容器治具51を第1容器治具41の代わりに用いて、バレル研磨装置1により第1被加工物21と第2被加工物22とのバレル研磨を行う場合も、上述したバレル研磨装置1の効果が得られる。また、第2容器治具51は、端部の球状の加工が不要のため、作成が容易である。
なお、上記においては研磨液を使用しない乾式のバレル研磨装置1について説明したが、上述したバレル研磨用容器治具は、研磨液を使用する湿式のバレル研磨装置に適用してもよい。この場合は、研磨槽11の上方には、所望の研磨液を研磨槽11へ供給するための研磨液供給装置が設けられる。また、研磨槽11の底部には廃液口が設けられており、廃液口に接続された廃液管により研磨槽11内の切り屑を含む余剰の研磨液を排出可能に構成される。そして、バレル研磨用容器治具内には、研磨剤とともに研磨液も封入される。
また、上記においては、バレル研磨装置1が振動バレル研磨装置である場合について説明したが、バレル研磨装置1が回転バレル研磨装置または渦流バレル研磨装置などの他の方式のバレル研磨装置である場合においても、本実施の形態にかかるバレル研磨用容器治具を適用することにより、上述したバレル研磨装置1と同じ効果が得られる。
上述したように、本実施の形態にかかるバレル研磨装置1は、第1被加工物21と、該第1被加工物21に適合した第1研磨剤31と、第1被加工物21よりも小さい第2被加工物22および該第2被加工物22に適合した第2研磨剤32が封入された第1容器治具41と、が研磨槽11に投入された状態で研磨処理が行われる。これにより、バレル研磨装置1においては、同一バッチ中で、大きさ、形状および材質のうち少なくとも1つが異なる複数の異種の被加工物を、それぞれの被加工物に適した研磨剤により研磨加工することが可能となる。
また、研磨処理中における異種の被加工物間の接触を防止できるため、異種の被加工物間の衝突に起因した衝突打痕および傷の発生を防止することができ、被加工物の研磨加工における歩留が向上する。
また、研磨処理後は、第1容器治具41を研磨槽11より取り出し、第1容器治具41を分解することにより、第2被加工物22を容易に選別することができ、第2被加工物22の選別に要する時間が低減できる。また、研磨処理後に小型の部品である第2被加工物22を紛失するリスクが低減される。
また、本実施の形態にかかるバレル研磨装置1は、各被加工物に適した研磨剤を用いて大型製品と小型製品とを同一バッチで処理できる。このため、特に、大型製品と小型製品とを同一時期に混在して生産しなければならない多品種少量生産の製造現場においては、本実施の形態にかかるバレル研磨装置1は、コスト削減および工期短縮に寄与する。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。