以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図7を参照して、第1実施形態による列車制御システム1000の構成の一例について説明する。
図1に示すように、列車制御システム1000は、線路R上を走行する列車100と、線路Rの分岐部に設けられる地上装置200とを主として備える。
また、図2に示すように、列車100は、車上検出手段11と、TG(速度発電機)12と、車上子13と、車上通信手段14と、アンテナ15と、車上制御手段16と、記憶手段17とを備える。また、図2には図示していないが、列車100は、運転士が操作する主幹制御器や、自動列車運転装置(ATO)や、主制御器(たとえば、電力変換装置)や、主電動機や、ブレーキ装置なども備える。
車上検出手段11は、車軸に設置されたTG12から情報を取得したり、車上子13を介して線路R上の地上子300から情報(たとえば、TG12から取得した情報により計算した現在位置に含まれる誤差をリセットするための位置情報を含む)を取得したりすることにより、自身が設けられている列車100(自列車)の現在位置および速度を検出する。なお、自列車の位置および速度の検出方法はこれに限られるものではなく、たとえば、GPS(Global Positioning System)などを利用して自列車の位置および速度を検出してもよい。
車上通信手段14は、アンテナ15を介して他の列車100(他列車)および地上装置200と無線通信を行う。また、車上制御手段16は、自列車の速度を制御するための制御指令を出力する。たとえば、車上制御手段16は、自列車が先行列車に追突するのを回避するために、車上通信手段14を介して取得した先行列車の位置情報に基づいて停止限界位置を算出し、算出した停止限界位置を超えないように自列車の速度を制御する。なお、記憶手段17には、線路Rの線形情報や、自列車の性能に関する情報などが記憶されている。
また、図2に示すように、地上装置200は、分岐器21と、分岐器制御装置22とを備える。分岐器制御装置22は、地上制御手段23と、地上通信手段24と、アンテナ25とを備える。分岐器21は、線路Rの分岐部に対応するように設けられ、列車100の進路の転換および鎖錠を行う。地上制御手段23は、分岐器21の制御を行う。地上通信手段24は、アンテナ25を介して列車100と無線通信を行う。
ここで、線路R上の各列車100が自列車の位置情報のみを無線通信により送受信する構成では、先行列車の位置情報を先行列車から直接的に取得することしかできないため、先行列車が自列車と通信不可能な距離まで離れてしまった場合には、先行列車の正確な位置情報を取得できず、適切な停止限界位置を算出できない場合がある。具体的には、先行列車の位置情報を取得できない場合では、安全性を確保するために、最後に受信した先行列車の位置情報を保持し続けることになり、先行列車の位置情報が更新されなくなる。そして、先行列車の位置情報が更新されないと、先行列車の位置情報に基づく停止限界位置を更新することができなくなり、停止限界位置より前に自列車を進行させることができず、運行が滞ってしまう。
また、線路R上に分岐部が設けられた構成では、分岐部によって先行列車の入れ替わりが発生する場合があるため、以前の先行列車よりも後ろを走行する新たな先行列車を自列車が見落とす可能性があり、自列車が新たな先行列車に追突してしまう可能性がある。
そこで、第1実施形態では、線路R上の各列車100に、自列車以外の他列車も含む複数の列車100の位置情報を送受信させることにした。これにより、先行列車が自列車と通信可能な距離に存在しない場合や、分岐部によって先行列車が入れ替わった場合でも、対向車線を走行する列車100(前に先行列車とすれ違った列車100)などから先行列車の正確な位置情報を間接的に取得することができる。この結果、遅れはあるものの先行列車の位置情報を正確に特定することができるので、先行列車の後端位置による停止限界位置を更新することができ、運行が滞ったり追突が発生したりするのを抑制することができる。
すなわち、第1実施形態では、車上通信手段14は、図3に示すような在線位置情報51を他列車との間で送受信するように構成されている。この在線位置情報51は、自列車の位置情報のみならず、他列車の位置情報も登録することが可能なように構成されている。以下では、自列車から他列車に送信される在線位置情報51を第1位置情報群とし、他列車から自列車に送信される在線位置情報51を第2位置情報群として説明する。
在線位置情報51には、少なくとも、在線位置情報51を生成した列車の位置情報が登録されている。すなわち、各列車100の車上制御手段16は、車上検出手段11を介して所定の制御周期毎に自列車の位置情報を検出し、少なくともその位置情報を用いて在線位置情報51を生成・更新する。このとき、車上制御手段16は、他列車から受信された第2位置情報群(少なくとも受信元の他列車の位置情報を含む位置情報群)に登録された、自列車以外の位置情報も、上記自列車の位置情報と併せて在線位置情報51に登録する。このように、車上制御手段16は、車上検出手段11により検出された自列車の位置情報と、車上通信手段14により受信された第2位置情報群とに基づいて、第1位置情報群としての在線位置情報51を生成する。
車上制御手段16は、上記のように生成した在線位置情報51を他列車に向けて送信する。また、車上制御手段16は、上記のように生成した在線位置情報51を記憶手段17に記憶し、記憶した在線位置情報51に基づいて、先行列車に追突するのを回避するように自列車の速度を制御する。すなわち、車上制御手段16は、在線位置情報51に基づいて自列車の1つ前を走行する先行列車の位置情報を特定し、その先行列車の位置情報に基づいて停止限界位置を算出する。そして、車上制御手段16は、算出した停止限界位置を超えないように自列車の速度を制御する。以下、図3を参照して、在線位置情報51のデータ構造について説明する。
図3に示すように、在線位置情報51は、編成IDと、送信タイミング情報と、運転方向と、番線と、列車先頭位置と、列車後端位置と、受信状態とを含む。
編成IDとは、各列車100に固有の識別番号である。また、送信タイミング情報とは、列車先頭位置や列車後端位置などの位置情報が車上検出手段11により検出されたタイミングを判断するためのものである。このような送信タイミング情報としては、タイムスタンプや、通し番号などが用いられる。
運転方向とは、列車100の進行方向を示すものである。この運転情報は、運転台に設けられるレバーサにより設定されたり、位置補正結果や、GPSの検出結果などにより設定されたりする。なお、第1実施形態では、スイッチバックなどにより走行中に列車の進行方向が逆転することはないものとする。番線は、列車100が走行する線路Rの番号を示すものである。この番線は、列車100が分岐器21を通過する際における分岐器21の開通方向や列車の位置などから判断される。
列車先頭位置および列車後端位置は、線路R上における列車100の先頭の位置および後端の位置を示すものである。これらの列車先頭位置および列車後端位置は、TG12などにより検出される列車の現在位置や、記憶手段17に記憶された列車長や、想定される検出誤差などから算出される。
受信状態とは、他列車から自列車への第2位置情報群の受信状態を示す情報である。この受信状態として、「正常」、「受信なし」または「異常」のいずれかが登録される(詳細は、後述する)。以下では、第1位置情報群に登録された各列車100の受信状態を第1受信情報群とし、第2位置情報群に登録された各列車100の受信状態を第2受信情報群として説明する。
第1実施形態では、車上制御手段16は、他列車から第2位置情報群が受信された場合に、受信された第2位置情報群と、自列車が保持している第1位置情報群とを列車毎に比較して、互いに共通する列車の位置情報については、送信タイミング情報がより新しい新たな位置情報になるように第1位置情報群を更新する。これにより、各列車100が保持する第1位置情報の登録内容は、車上検出手段11により検出された自列車の位置情報と、車上通信手段14により受信された第2位置情報群とに基づいて、車上制御手段16の制御周期毎に最新の状態に更新される。
また、第1実施形態では、車上制御手段16は、第1位置情報群のうちの上記新たな位置情報以外の位置情報については、元の登録内容をそのまま維持する。たとえば、車上制御手段16は、第2位置情報群が所定時間以上受信されない場合に、現在保持している第1位置情報群のうちの該当する列車の位置情報をそのまま維持する。これにより、たとえば先行列車が故障(通信異常)などにより情報を送信できなくなった状態で前方に停止していても、以前に取得された先行列車の位置情報がそのまま第1位置情報群に登録されているので、以前に取得された先行列車の位置情報に基づいて、先行列車に追突する前に自列車を停止させることができる。このように第2位置情報群を受信できない状態が所定時間以上継続する場合、車上制御手段16は、第1受信情報群のうちの該当する列車の受信状態を「受信なし」として登録する。
また、第1実施形態では、車上制御手段16は、異常な第2位置情報群が受信された場合にも、元の第1位置情報群の登録内容をそのまま維持する。なお、異常な第2位置情報群が受信された場合としては、たとえば、受信した第2位置情報群がエラーを含んでいる場合や、第2位置情報群に登録されたある列車の送信タイミング情報が所定時間以上変化しない場合や、第2位置情報群に登録されたある列車の送信タイミング情報が急に所定値以上変化した場合や、第2位置情報群に登録された自列車の送信タイミング情報と、自列車が保持する第1位置情報群に登録された自列車の送信タイミング情報とが所定値以上離れている場合などが挙げられる。これらの場合において、車上制御手段16は、異常な第2位置情報群を破棄し、元の第1位置情報群の登録内容をそのまま維持する。そして、車上制御手段16は、異常な第2位置情報群が受信されている状態が所定時間以上継続するときは、受信元の列車に何らかの異常が発生していると判断し、第1受信情報群のうち、該当する列車の受信状態を「異常」として登録する。
また、第1実施形態では、車上制御手段16は、第2受信情報群に基づいて、自列車から他列車に対する第1位置情報群の受信状態が異常であると判断した場合に、自列車の受信状態が異常である旨を第1受信情報群に登録する。より具体的には、車上制御手段16は、第2受信情報群のうちの自列車の受信状態が「異常」と登録されている場合には、自列車が保持している第1受信情報群のうちの自列車の受信状態を「異常」として登録する。そして、車上制御手段16は、上記のように自列車の受信状態が異常であると判断した場合に、自列車の非常停止を含む非常制御を行うように構成されている。これにより、車上通信手段14の故障などに起因する通信異常が自列車に発生した場合に自列車を非常停止させることができるので、安全性を確保することができる。なお、上述したような「受信なし」および「異常」のいずれにも該当しない状況では、車上制御手段16は、受信状態を「正常」として登録する。
ここで、線路Rが分岐部を有する構成では、自列車が進行する予定の進路上に先行列車が在線していなくても、他の進路を走行している列車と自列車とが分岐部の近傍で接触・追突してしまう場合がある。また、自列車の進路上に設けられた分岐器21が、他列車の進路上の分岐器21としても使用される場合には、適切な順番で分岐器21を転換・鎖錠する必要がある。
そこで、第1実施形態では、図4に示すようなリスト52を地上制御手段23に管理させ、このリスト52を各地上装置200から各列車100常時送信させることにした。そして、車上制御手段16に、自列車が進入する予定の進路上に設けられた分岐器21が他列車により現在使用されているか否かをリスト52に基づいて判断させ、他列車による分岐器21の使用が終了するまでの間は、進路上に設けられた分岐器21の位置に基づく停止限界位置を超えないように自列車の速度を制御させることにした。
リスト52には、分岐器21の現在の予約情報および使用状況が登録されている。具体的には、リスト52には、分岐器21を使用したいという要望がどれぐらいあるかを示す情報や、分岐器21が現在どの列車100に使用されているかを示す情報や、分岐器21がどの列車100にも使用されていないことを示す情報などが登録されている。なお、リスト52は、線路R上の全ての分岐器21に対応するように、分岐器21の個数と同じ数だけ存在する。以下、図4を参照して、リスト52のデータ構造について説明する。
図4に示すように、リスト52は、登録状態と、進路IDと、方向と、編成IDと、使用開始予定時刻とを登録可能に構成されている。登録状態は、分岐器21の現在の予約状況および使用状況を示す情報であり、「予約」、「使用中」または「使用済」のいずれかのステータスをとる。なお、「予約」というステータスは、使用開始予定時刻の早さに応じた予約順位と併せて登録される。
「予約」というステータスは、編成IDにより識別される列車100から分岐器21に対して予約依頼が行われたことを示す。また、「使用中」というステータスは、編成IDにより識別される列車100から分岐器21に対して使用依頼が行われることにより、その列車100によって分岐器21が現在使用されていることを示す。また、「使用済」というステータスは、編成IDにより識別される列車100から分岐器21に対して解除依頼が行われることにより、その列車100による分岐器21の使用が既に終了したことを示す。
進路IDは、分岐器21が使用される進路を識別するための識別情報である。方向は、進路IDに対応する進路を構成するために分岐器21がどの方向に転換する必要があるかを示す情報であり、「定位」または「反位」のいずれかのステータスをとる。編成IDは、列車100に固有の識別番号である。使用開始予定時刻は、編成IDにより識別される列車100がどの時刻から分岐器21の使用を希望しているかを示す情報である。この使用開始予定時刻は、各列車100が送信する予約依頼に含まれる。
第1実施形態では、車上通信手段14は、自列車が進行する予定の進路上に分岐器21が設けられている場合に、その進路に進入する前に、進路上の全ての分岐器21(地上装置200)に対して予約依頼を送信する。このとき、車上制御手段16は、進路の始端に位置する分岐器21の位置情報に基づいて停止限界位置を算出し、この停止限界位置を超えないように列車100の速度を制御する。
地上制御手段23は、列車100から予約依頼を受信した場合に、予約依頼の内容を使用開始予定時刻が早い順に順位付けてリスト52に登録する。なお、使用開始予定時刻が互いに等しい複数の予約依頼が受信された場合には、進路に対して予め設定された優先順位に従って予約順位を決める。このとき、登録状態は「予約」にしておく。そして、地上通信手段24は、最新のリスト52を列車100に送信する。
車上制御手段16は、受信された最新のリスト52の内容を確認し、登録状態が「使用中」というステータスになっているものがリスト52中に存在するか否かを判断する。そして、車上制御手段16は、登録状態が「使用中」というステータスになっているものがリスト52中に存在しておらず、かつ、自らが行った予約依頼の予約順位がリスト52中で最上位になっていると判断した場合、さらに第1位置情報群に基づいて進路上に他列車が在線しないことが確認できたら、分岐器21(地上装置200)に対して使用依頼を送信する。
地上制御手段23は、列車100から使用依頼を受信した場合に、分岐器21の転換方向を確認し、進路IDに対応する進路を構成するために必要な方向に転換していない場合には、分岐器21に転換指令を送信する。そして、地上制御手段23は、分岐器21が正しい方向に転換したことを確認したら、対応するリスト52の登録状態を「予約」から「使用中」に更新する。これに伴って、地上制御手段23は、登録状態が「予約」となっている他の予約依頼の予約順位を1つ繰り上げる。そして、車上制御手段16は、登録状態が「使用中」というステータスになったことを確認した場合に、前回算出した停止限界位置を、進路の末端に位置する分岐器21に基づく停止限界位置に更新する。
車上制御手段16は、使用依頼を送信した分岐器21を通過して、競合する進路を他列車が走行しても列車同士が接触しないだけの安全距離が確保された後に、通過した分岐器21(地上装置200)に対して解除依頼を送信する。そして、車上制御手段16は、使用依頼を送信した全ての分岐器21を通過した後に、前回算出した停止限界位置を、他列車から受信した第2位置情報群に基づいて算出したものに更新する。
地上制御手段23は、列車100から解除依頼を受信した場合に、対応するリスト52の登録状態を「使用中」から「使用済」に更新する。そして、登録状態が「使用済」になっている情報をリスト52から削除する。なお、「使用済」の情報を複数登録可能な構成になっている場合には、「使用済」となったタイミングが最も古いものから順にリスト52から削除するような構成にしてもよい。
上記の構成により、線路R上の分岐部によって先行列車の入れ替わりが発生した場合でも、リスト52を参照することによって、新たな先行列車の位置情報を対向列車から取得する前に新たな先行列車の在線範囲をある程度絞り込むことができる。以下、図5を参照して、新たな先行列車の在線範囲をどのように絞り込むのかについて具体的に説明する。
図5に示した例では、列車100Aは、先行列車100Bが列車100Cを追い抜いたことを、対向列車100Dから送信される在線位置情報51によって確認する。ここで、自列車100Aが分岐器21A(地上装置200)と通信できる距離まで分岐器21Aに接近したにも関わらず、駅Sに停車中だったはずの新たな先行列車100Cと通信できない場合について考える。
上記の場合では、列車100Aは、線路R上の各地上装置200から送信されるリスト52を参照しない限り、列車100Cが列車100Dとすれ違った後で駅Sを進出してしまったのか、列車100Cが駅Sを進出する途中で通信できなくなっているのか、列車100Cが駅Sに停車したまま通信できなくなっているのかを区別することができない。したがって、列車100Aは、次の対向列車100Eから列車100Cが駅Sを進出済みであることを教えてもらうまでは、安全を確保するために、列車100Cが在線していない番線に進入する進路C1のみを使用することができ、列車100Cの在線していた番線に進入する進路C2や、分岐器21Bを進出する進路C3を使用することができない。
ここで、たとえば分岐器21B(地上装置200)から受信されたリスト52において列車100Bに対応する登録状態が「使用済」である場合、最後に分岐器21Bを通過したのは列車100Bであり、列車100Cはまだ進路C4の使用権を持たず進路C4に進入していないことが分かる。したがって、この場合、列車100Aは、列車100Cが在線していない番線に進入する進路C1に加えて、分岐器21Bを進出する進路C3を使用することができる。
また、たとえば分岐器21B(地上装置200)から受信されたリスト52において列車100Cに対応する登録状態が「使用中」である場合、列車100Cが分岐器21Bを含む進路C4上またはその手前に在線していることが分かる。したがって、この場合、列車100Aは、列車100Cが在線していない番線に進入する進路C1を使用することはできるが、分岐器21Bを進出する進路C3は、列車100Cが使用中の進路C4と競合するため、使用することができない。
また、たとえば分岐器21B(地上装置200)から受信されたリスト52において列車100Cの登録状態が「使用済」である場合、列車100Cが分岐器21Bを進出したことがわかる。したがって、この場合、列車100Aは、進路C1〜C4の全てを使用することができる。
このように、第1実施形態によれば、線路R上の分岐部によって先行列車の入れ替わりが発生した場合でも、リスト52を参照することによって、新たな先行列車の位置情報を対向列車から取得する前に新たな先行列車の在線範囲をある程度絞り込むことができ、それに応じて、適切に進路選択を行うことができる。
次に、図6を参照して、第1実施形態による列車制御システム1000の車上制御手段16により実行される処理フローの一例について説明する。
この処理フローでは、まず、図6に示すように、ステップS1において、自列車の位置情報を車上検出手段11によって検出する処理が実行され、ステップS2に進む。
次に、ステップS2において、上記ステップS1において検出された自列車の位置情報と、他列車から受信された在線位置情報51(第2位置情報群)とに基づいて、自列車の在線位置情報51(第1位置情報群)を生成・更新する処理が実行され、ステップS3に進む。
次に、ステップS3において、自列車が保持する在線位置情報51の電文を作成する処理が実行される。具体的には、自列車が保持する在線位置情報51を、車上通信手段14を用いて送信可能な電文形式にデータ化する処理が実行される。そして、ステップS4に進む。
次に、ステップS4において、進路上の分岐器21に対する予約依頼、使用依頼または解除依頼の電文を作成する処理が実行される。具体的には、自列車が進入する予定の進路上の全ての分岐器21に対する予約依頼または使用依頼の電文を作成する処理か、または、自列車が既に通過済の進路上の全ての分岐器21に対する解除依頼の電文を作成する処理が実行される。なお、このステップS4の処理は、自列車の進路上に分岐器21が設置されている場合にのみ実行される。そして、ステップS5に進む。
次に、ステップS5において、自列車が保持する在線位置情報51に基づいて先行列車の位置情報を特定し、先行列車の位置情報に基づいて停止限界位置を算出する処理が実行される。そして、ステップS6に進む。
次に、ステップS6において、地上装置200から受信されたリスト52に基づいて、進路に関する停止限界位置を算出する処理が実行される。たとえば、地上装置200から受信されたリスト52に基づいて、自列車が進入する予定の進路上に設けられた分岐器21が他列車により使用中であると判断された場合には、進路の始端に位置する分岐器21を支障位置として停止限界位置が算出される。なお、このステップS6の処理は、自列車の進路上に分岐器21が設けられている場合にのみ実行される。そして、ステップS7に進む。
次に、ステップS7において、上記ステップS5またはS6において算出された停止限界位置を超えないように自列車の速度を制御する処理が実行される。そして、ステップS8に進む。
次に、ステップS8において、自列車が保持する最新の在線位置情報51を他列車に送信するとともに、予約依頼、使用依頼または解除依頼を地上装置200に送信する処理が実行され、処理が終了する。なお、予約依頼、使用依頼または解除依頼を送信する処理は、自列車の進路上に分岐器21が設けられている場合にのみ実行される。
上記ステップS1〜S8の処理は、車上制御手段16の制御周期毎に繰り返し実行される。
次に、図7を参照して、第1実施形態による列車制御システム1000の地上制御手段23により実行される処理フローの一例について説明する。
この処理フローでは、図7に示すように、まず、ステップS11において、列車100からの予約内容を示すリスト52に基づいて分岐器21を制御する処理が実行される。具体的には、列車100から使用依頼が受信された場合に、その使用依頼に基づいて、リスト52に登録された方向に分岐器21を転換する処理が実行される。そして、ステップS12に進む。
次に、ステップS12において、列車100から受信された予約依頼、使用依頼または解除依頼、および、分岐器21の転換方向に基づいてリスト52を生成・更新する処理が実行される。具体的には、列車100から予約依頼または解除依頼が受信された場合には、その予約依頼または解除依頼に基づいてリスト52を生成・更新する処理が実行される。また、列車100から使用依頼が受信され、その依頼内容と一致する方向に分岐器21が転換していることが確認された場合には、リスト52の登録状態を「予約」から「使用中」に更新する処理が実行される。そして、ステップS13に進む。
次に、ステップS13において、最新のリスト52を列車100に送信する処理が実行され、処理が終了する。
以上説明したように、第1実施形態では、各列車100の車上通信手段14は、自列車の位置情報のみならず他列車の位置情報をも登録可能な在線位置情報51を他列車との間で送受信する。そして、各列車100の車上制御手段16は、車上検出手段11により検出された自列車の位置情報と、車上通信手段14により他列車から受信された在線位置情報51とに基づいて、自列車が保持する在線位置情報51を生成・更新する。また、各列車100の車上制御手段16は、自列車が保持する在線位置情報51に基づいて先行列車の位置情報を特定し、特定した先行列車の位置情報に基づいて停止限界位置を算出し、算出した停止限界位置を超えないように自列車の速度を制御する。これにより、先行列車の位置情報を先行列車から直接的に取得できない場合でも、対向車線を走行する列車100などから先行列車の位置情報を間接的に取得することができるので、全列車の位置を追跡する設備を地上側に設けることなく、安全に列車を運行することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、分岐器制御装置22は、分岐器21の現在の予約状況および使用状況が登録されたリスト52を管理し、そのリスト52を線路R上の各列車100に送信する。そして、車上制御手段16は、自列車が進入する予定の進路上に設けられた分岐器21が他列車により現在使用されているか否かをリスト52に基づいて判断し、他列車による分岐器21の使用が終了するまでの間は、進路上の分岐器21の位置に基づいて停止限界位置を算出し、算出した停止限界位置を超えないように自列車の速度を制御する。これにより、線路Rの分岐部によって先行列車の入れ替わりが発生した場合でも、リスト52を参照することによって、新たな先行列車の位置情報を対向列車から取得する前に新たな先行列車の在線範囲をある程度絞り込むことができ、それに応じて、適切に進路選択を行うことができる。この結果、全列車の位置を追跡する設備を地上側に設けることなく、スムーズに列車を運行することができる。
(第2実施形態)
次に、図2、図3および図8〜図11を参照して、第2実施形態による列車制御システム1000aの構成の一例について説明する。
第2実施形態では、車上通信手段14a(図2参照)は、通信可能距離が比較的短く、その分データ量が比較的大きいデータを送受信可能な第1の無線通信と、通信可能距離が比較的長く、その分データ量が比較的小さいデータを送受信可能な第2の無線通信との2種類の無線通信を、アンテナ15aを介して行うことが可能なように構成されている。ここで、第2の無線通信の通信可能範囲は、線路R全体をカバーできる範囲であるものとする。
より具体的には、第2実施形態による車上通信手段14aは、第1の無線通信を行うことにより、上記第1実施形態と同様の在線位置情報51(図3参照)を他列車との間で送受信する。また、車上通信手段14aは、第2の無線通信を行うことにより、図8に示すような在線エリア情報53を他列車との間で送受信する。在線エリア情報53は、在線位置情報よりもデータ量が小さい。以下では、自列車から他列車に送信される在線エリア情報53を第1エリア情報とし、他列車から自列車に送信される在線エリア情報53を第2エリア情報として説明する。
在線エリア情報53とは、線路Rを複数のエリア(図9のエリアAx〜Ax+4参照)に分割した場合に、それら複数のエリアのうちのどのエリアに列車100が在線しているかを示す情報である。在線エリア情報53は、車上検出手段11aなどによって、車上制御手段16aの制御周期毎に検出される。なお、複数のエリアは、たとえば線路R上に設置される複数の軌道回路に対応するように設けられる。
図9に示した例では、列車100FがエリアAx+1とエリアAx+2とに跨って在線しているので、列車100Fは、自列車がエリアAx+1とエリアAx+2とに跨って在線していることを示す在線エリア情報53を送信する。同様に、列車100Gは、自列車がエリアAx+3に在線していることを示す在線エリア情報53を送信し、列車100Hは、自列車がエリアAx+1に在線していることを示す在線エリア情報53を送信し、列車100Iは、自列車がエリアAx+2とエリアAx+3とに跨って在線していることを示す在線エリア情報53を送信する。以下、図8を参照して、在線エリア情報53のデータ構造について説明する。
図8に示すように、在線エリア情報53は、編成IDと、送信タイミング情報と、運転方向と、在線エリアIDと、受信状態とを登録可能に構成されている。
編成IDは、自列車の識別番号を示すものである。また、送信タイミング情報とは、自列車の在線エリアIDが車上検出手段11aにより検出されたタイミングを判断するためのものである。運転方向とは、自列車の進行方向を示すものである。在線エリアIDとは、線路Rが分割されることにより設けられる複数のエリア(図9のエリアAx〜Ax+4参照)の各々に固有の識別番号であり、自列車が複数のエリアのうちのどのエリアに在線するかを示すものである。受信状態とは、自列車から他列車への在線エリア情報53の受信状態を示すものである。
第2実施形態では、車上制御手段16aは、車上検出手段11aにより検出された自列車の位置情報と、車上通信手段14aにより受信された在線位置情報51(第2位置情報群)および在線エリア情報53(第2エリア情報)とに基づいて、自列車が保持する在線位置情報51(第1位置情報群)を生成・更新する。これにより、第2位置情報群を受信することが不可能な距離にある列車100についても、第2エリア情報に基づいて、第1位置情報群に登録された列車先頭位置や列車後端位置などの位置情報を更新することができる。具体的には、第1位置情報群に登録された列車先頭位置および列車後端位置を、第2エリア情報に基づいて特定されるエリアの両端の位置によって更新することができる。
第2実施形態によれば、在線位置情報51を受信することが不可能な距離にある列車100についても、在線エリア情報53に基づいて、ある程度の精度で先行列車の位置情報を特定することができる。
すなわち、第2実施形態によれば、図9に示す例において、列車100Fと列車100Gおよび100Hとが第1の無線通信を行うことが不可能な程離れている場合でも、列車100Fは、列車100Gから受信した在線エリア情報53に基づいて、列車100Gが在線するエリアAx+3の端部に近い位置P1を停止限界位置として速度制御を行う。なお、点々の網目を付した曲線Q1は、列車100Fの速度の減速パターンを示す。
ここで、図10に示す比較例において、列車100F´と列車100G´および100H´とが第1の無線通信を行うことが不可能な程離れている場合であって、かつ、第2実施形態のような在線エリア情報53の送受信が行われない場合について考える。この場合では、列車100F´は、列車100I´に近づいて列車100I´から列車100G´の最新の位置情報を取得するまでは、過去にすれ違った列車100H´から取得した列車100G´の過去の位置情報(点線参照)に基づく点P2を停止限界位置として速度制御を行う。このため、図10に示す比較例では、上記図9に示した第2実施形態に比べて、先行列車に対してより離れた位置で停車することになる。なお、点々の網目を付した曲線Q2は、列車100F´の速度の減速パターンを示す。
このように、第2実施形態によれば、古い位置情報に基づいて停止限界位置を算出することに起因する無駄な停止を抑制することができるので、運用効率を向上させることができる。
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
次に、図11を参照して、第2実施形態による列車制御システム1000aの車上制御手段16aにより実行される処理フローの一例について説明する。
この処理フローでは、まず、図11に示すように、ステップS21において、自列車の位置情報と在線エリア情報53とを車上検出手段11aによって検出する処理が実行され、ステップS22に進む。
次に、ステップS22において、上記ステップS21において検出された自列車の位置情報と、他列車から受信された在線位置情報51(第2位置情報群)および在線エリア情報53(第2エリア情報)とに基づいて、自列車の在線位置情報51(第1位置情報群)を生成・更新する処理が実行され、ステップS23に進む。
次に、ステップS23において、自列車が保持する在線位置情報51および在線エリア情報53(第1エリア情報)の電文を作成する処理が実行される。具体的には、自列車が保持する在線位置情報51および在線エリア情報53を、車上通信手段14aを用いて送信可能な電文形式にデータ化する処理が実行される。そして、ステップS24に進む。
ステップS24〜S27の処理は、それぞれ、上記図6に示した第1実施形態の処理フローにおけるステップS4〜S7の処理と同様であるため、説明を省略する。第2実施形態の処理フローでは、ステップS27が実行された後に、ステップS28に進む。
ステップS28においては、自列車が保持する最新の在線位置情報51および在線エリア情報53を他列車に送信するとともに、予約依頼、使用依頼または解除依頼を地上装置200に送信する処理が実行され、処理が終了する。なお、予約依頼、使用依頼または解除依頼を送信する処理は、自列車の進路上に分岐器21が設けられている場合にのみ実行される。
上記ステップS21〜S28の処理は、車上制御手段16aの制御周期毎に繰り返し実行される。
以上説明したように、第2実施形態では、通信可能距離が比較的短い第1の無線通信によって在線位置情報51を送受信するのに加えて、通信可能距離が比較的長い第2の無線通信によって在線エリア情報53を送受信する。そして、在線位置情報51に加えて、在線エリア情報53をも参照することにより、先行列車の位置情報を特定する。これにより、在線位置情報51を受信することが不可能な距離にある列車100についても、在線エリア情報53に基づいて、ある程度の精度で先行列車の位置情報を特定することができる。この結果、古い位置情報に基づいて停止限界位置を算出することに起因する無駄な停止を抑制することができるので、運用効率を向上させることができる。
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
たとえば、上記第1および第2実施形態では、線路R上の複数の分岐器21に対してそれぞれ1つずつ設けられた分岐器制御装置22を用いる例(図2参照)を示したが、図12に示す変形例のような分岐器制御装置22aを用いてもよい。この変形例による分岐器制御装置22aは、複数(図12では、4つ)の分岐器21をまとめて管理するように構成されている。