以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置G1の断面図、図2は、その要部拡大断面図である。また、図3は、図1の矢視III−III線に沿う断面図である。
概略から説明すると、本偏心揺動型の減速装置G1は、第1外歯歯車11と、該第1外歯歯車11と軸方向に並んで配置された第2外歯歯車12と、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12と噛合う内歯歯車20と、を備える。
減速装置G1は、内歯歯車20の軸心C20からオフセットした位置に配置され、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12を揺動回転させる複数のクランク軸22を備えている。第1外歯歯車11の軸方向一側には第1キャリヤ31が配置されている。第2外歯歯車12の軸方向他側には第2キャリヤ32が配置されている。第1キャリヤ31と第2キャリヤ32は、キャリヤピン(連結部材)33によって連結されている。
第1外歯歯車11と第2外歯歯車12は、軸方向に当接しておらず、該第1外歯歯車11および第2外歯歯車12との間には、差し輪40が備えられている。差し輪40は、第1外歯歯車11と第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制している。この減速装置G1では、差し輪40は、複数のクランク軸22の各々に外嵌されている。
以下、詳述する。
この偏心揺動型の減速装置G1は、装置全体の伝達容量を大きく確保するために、軸方向に並んで配置された第1外歯歯車11と第2外歯歯車12を備えている。また、減速装置G1は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12を揺動回転させるために、内歯歯車20の軸心C20からr22だけオフセットした位置に、複数(この例では3本)のクランク軸22を備えている。
各クランク軸22は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12を揺動回転させるために、第1外歯歯車11が外嵌される第1偏心体51と、第2外歯歯車12が外嵌される第2偏心体52と、を一体的に有している。なお、この例では、クランク軸22は、第1偏心体51および第2偏心体52を同一の素材で一体的に有しているが、別の偏心体部材を連結してクランク軸22と一体化した構成であってもよい。
第1偏心体51の軸心C51および第2偏心体52の軸心C52は、それぞれクランク軸22の軸心C22に対して偏心している。つまり、第1偏心体51および第2偏心体52は、クランク軸22の軸心C22に対して偏心した外周を有している。第1偏心体51と第2偏心体52の偏心位相差は、この例では180度である(互いに離反する方向に偏心している)。
3本のクランク軸22は、それぞれ同様の構成とされ、各クランク軸22の軸方向同位置にある第1偏心体51同士の位相は同一である。また、各クランク軸22の軸方向同位置にある第2偏心体52同士の位相も同一である。
クランク軸22(の第1偏心体51)と第1外歯歯車11との間には、第1偏心体軸受61が配置されている。クランク軸22(の第2偏心体52)と第2外歯歯車12との間には、第2偏心体軸受62が配置されている。第1偏心体軸受61は、ころで構成された第1転動体61Aと、該第1転動体61Aを支持する第1リテーナ61Bを備える。第2偏心体軸受62は、ころで構成された第2転動体62Aと、該第2転動体62Aを支持する第2リテーナ62Bを備える。
第1外歯歯車11および第2外歯歯車12は、内歯歯車20に内接噛合している。内歯歯車20は、内歯歯車本体20Aと、支持ピン20Bと、内歯ローラ20Cと、を有している。内歯歯車本体20Aは、減速装置G1のケーシング21と一体化され、複数のピン溝20A1を有している。支持ピン20Bは、円柱状の部材で構成され、ピン溝20A1に嵌入されている。内歯ローラ20Cは、支持ピン20Bの外周に回転自在に組み込まれ、該内歯歯車20の内歯を構成している。内歯歯車20の歯数(内歯ローラ20Cの個数)は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の歯数よりも僅かだけ(この例では2だけ)多い。
第1外歯歯車11の、軸方向反負荷側(軸方向一側)には、第1キャリヤ31が配置されている。第2外歯歯車12の軸方向負荷側(軸方向他側)には、第2キャリヤ32が配置されている。
第1キャリヤ31と第2キャリヤ32は、キャリヤピン(連結部材)33を介して連結されることによってキャリヤ30を構成している。具体的には、キャリヤピン33は、第1キャリヤ31から一体的に突出形成され(第1キャリヤ31と同一の部材で一体的に構成され)、第2キャリヤ32とキャリヤボルト38を介して連結されている。
第2キャリヤ32は、出力軸35と一体化されている(出力軸35と同一の部材で一体的に構成されている)。出力軸35は、一対のテーパローラ軸受(図1ではそのうちの反負荷側のテーパローラ軸受36の一部のみ表示)によってケーシング21に支持されている。
第1外歯歯車11は、第1外歯歯車11の第1軸心C11の位置に第1センタ貫通孔11Aを有し、第1軸心C11からオフセットした位置にキャリヤピン33が挿入される第1オフセット貫通孔11Bを有している。第2外歯歯車12は、第2外歯歯車12の第2軸心C12の位置に第2センタ貫通孔12Aを有し、第2軸心C12からオフセットした位置にキャリヤピン33が挿入される第2オフセット貫通孔12Bを有している。キャリヤピン33は、第1オフセット貫通孔11Bおよび第2オフセット貫通孔12Bを非接触で(隙間を有して)貫通している。
本減速装置G1においては、各クランク軸22は、正面合わせで組み込まれた一対のテーパローラ軸受54、55を介して第1キャリヤ31および第2キャリヤ32に支持されている。クランク軸22は、第1キャリヤ31から軸方向反第1外歯歯車側に突出する突出部22Aを有している。このクランク軸22の突出部22Aには、振り分け歯車47が設けられている。本減速装置G1は、クランク軸22を3本有しているため、振り分け歯車47は、各クランク軸22に1個ずつ、計3個設けられている(図1では1個のみ表示)。3個の振り分け歯車47は、入力軸48に設けられた入力ピニオン49と同時に噛合している。入力軸48は、図示せぬモータ等の駆動源の回転によって回転可能である。なお、入力軸48は、第1キャリヤ31に組み込まれたローラ軸受56およびケーシング21に組み込まれた玉軸受58によって支持されている。
ここで、主に図2および図3を参照して、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向の間隔を規制するために配置される差し輪40およびキャリヤ30(特にキャリヤピン33)の構成について詳細に説明する。
本減速装置G1の第1外歯歯車11および第2外歯歯車12は、軸方向に当接していない。第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向の間隔は、第1外歯歯車11と第2外歯歯車12の間に配置された差し輪40によって規制(あるいは確保)されている。
なお、第1外歯歯車11の軸方向反負荷側への移動は、後述するキャリヤピン33の段差部33Aによって規制されている。第2外歯歯車12の軸方向負荷側への移動は、第2キャリヤ32の軸方向反負荷側の端面32Bによって規制されている。
従来は、この差し輪40は、複数のキャリヤピン33の各々に外嵌されていた。しかし、本減速装置G1では、差し輪40は、キャリヤピン33の各々にではなく、クランク軸22の各々に外嵌される。なお、「クランク軸22に外嵌される」とは、クランク軸22の外周を取り囲むようにして組み込まれる態様をいう。差し輪40は、クランク軸22自体とは、当接していてもよいし、当接していなくてもよい。
差し輪40は、金属で構成されている(樹脂で構成してもよい)。
差し輪40は、無端リング状の位置決め部40Aと、該位置決め部40Aの軸方向中央から内側(クランク軸22の軸心C22に近い側)に向けて突出・延在された被位置決め部40Bを有している。
位置決め部40Aは、第1外歯歯車11に当接する第1当接面41と第2外歯歯車12に当接する第2当接面42を有し、該第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制している。差し輪40のクランク軸22の軸心C22を通る断面(図1、図2の断面)の形状は、該差し輪40の第1当接面41と第2当接面42の軸方向中央線C1に対して線対称であり、軸方向中央線C1がクランク軸22の軸心C22と交わる点P1に対して点対称である。
一方、被位置決め部40Bは、差し輪40の内側(クランク軸22の軸心C22に近い側)に位置する部材と当接する内周当接面43を有し、差し輪40自体の径方向位置を規制している。この例では、被位置決め部40Bの内周当接面43は、第1偏心体軸受61の第1リテーナ61Bおよび第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bの両方と径方向から見て重なっており、第1リテーナ61Bの最大偏心側最外部61B1および第2リテーナ62Bの最大偏心側最外部62B1と当接している。
ここで、第1リテーナ61Bの最大偏心側最外部61B1とは、第1リテーナ61Bの最大偏心位置(第1リテーナ61Bがクランク軸22の軸心C22から最も離れる位置:図2の例では下側の位置)における、第1リテーナ61Bのクランク軸22から最も遠い部位を指している。第2リテーナ62Bの最大偏心側最外部62B1とは、第2リテーナ62Bの最大偏心位置(第2リテーナ62Bがクランク軸22の軸心C22から最も離れる位置:図2の例では上側の位置)における、第2リテーナ62Bのクランク軸22から最も遠い部位を指している。
差し輪40は、このような構成で第1偏心体軸受61の第1リテーナ61Bおよび第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bによって径方向に位置決めされ、クランク軸22の軸心C22と同心の状態でクランク軸22に外嵌される。
差し輪40は、その位置決め部40Aの外周45が、第1外歯歯車11の第1センタ貫通孔11Aが揺動によってクランク軸22の軸心C22に対して最も近づいたときでも、第1センタ貫通孔11Aと径方向に離れている。図1〜図3では図示されていないが、第2外歯歯車12の第2センタ貫通孔12Aも同様の関係にある。すなわち、差し輪40の位置決め部40Aの外周45は、第1外歯歯車11に形成された第1センタ貫通孔11Aとも、第2外歯歯車12に形成された第2センタ貫通孔12Aとも軸方向から見たときに重なっていない(干渉することはない)。
また、差し輪40は、第1転動体61Aおよび第2転動体62Aとの干渉(接触)を避けるために、位置決め部40Aと被位置決め部40Bとの間に段部44、46を有している。別言するならば、差し輪40の位置決め部40Aの軸方向厚さW40Aは、段部44、46の分だけ、被位置決め部40Bの軸方向厚さW40Bよりも大きい(W40A>W40B)。なお、ここで、位置決め部の軸方向厚さとは、第1当接面と第2当接面の間の軸方向長さを指し、被位置決め部の軸方向厚さとは、内周当接面の軸方向長さを指す。
一方、前述したように、第1キャリヤ31と第2キャリヤ32はキャリヤピン33によって連結され、第1キャリヤ31、第2キャリヤ32、キャリヤピン33の3者によってキャリヤ30が構成されている。キャリヤピン33は、第1キャリヤ31から一体的に突出形成され(第1キャリヤ31と同一の部材で一体的に構成され)、第2キャリヤ32とキャリヤボルト38を介して連結されている。
キャリヤピン33の軸と直角の断面(図3の断面)の形状は、差し輪40が外嵌されないことから、形状的な自由度を高められるため、非円形の形状とされている。具体的には、キャリヤピン33の断面形状は、各辺が丸められた台形に近い三角形とされ、径方向外側の周方向厚さが(円形の断面形状の径方向外側の周方向厚さと比較して)より大きくなるような断面形状とされている。断面積も、(差し輪がない分)従来より大きく設計されている。つまり、このキャリヤピン33は、従来の単純な円形の断面のキャリヤピンと比較して、形状および断面積の両面でより高い剛性を有している。
また、このキャリヤピン33は、第1キャリヤ31の近傍において段差部33Aを有し、該段差部33Aを境にして軸方向第1キャリヤ31側が、一層大きい断面積の断面とされている。
次に、この偏心揺動型の減速装置G1の作用を説明する。
入力軸48が回転すると、該入力軸48に組み込まれている入力ピニオン49が回転する。入力ピニオン49は、3個の振り分け歯車47と同時に噛合している。したがって、入力ピニオン49の回転により3個の振り分け歯車47が同一の方向に同一の回転速度で回転する。各振り分け歯車47が回転することで、3本のクランク軸22が同一の方向に同一の回転速度で回転し、各クランク軸22の第1偏心体51および第2偏心体52が180度の偏心位相で偏心回転する。
これにより、各クランク軸22の第1偏心体51に外嵌されている(3個の)第1偏心体軸受61を介して第1外歯歯車11が揺動回転し、各クランク軸22の第2偏心体52に外嵌されている(3個の)第2偏心体軸受62を介して第2外歯歯車12が揺動回転する。
第1外歯歯車11および第2外歯歯車12は、内歯歯車20に内接噛合しており、かつ、内歯歯車20の歯数(内歯ローラ20Cの数)は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の歯数よりも2だけ多い。そのため、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12が1回揺動回転する毎に(クランク軸22が1回回転する毎に)、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12は、ケーシング21と一体化されている内歯歯車20に対して、歯数差分(2歯分)だけ相対的に回転する(自転する)。
この第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の自転によって各クランク軸22は、内歯歯車20の軸心C20の周りで公転する。クランク軸22の公転により、該クランク軸22を支持している第1キャリヤ31および第2キャリヤ32がキャリヤピン33を介して1個の大きなキャリヤ30として一体的に回転する。本減速装置G1では、第2キャリヤ32が出力軸35と一体化されているため、第2キャリヤ32の回転により出力軸35が回転する。
この一連の減速作用がなされるときに、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12は、差し輪40によって軸方向の間隔が規制される。つまり、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12は、差し輪40の位置決め部40Aの軸方向厚さW40Aに相当する間隔が維持される。なお、差し輪40の被位置決め部40Bの内周当接面43は、第1偏心体軸受61の第1リテーナ61Bおよび第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bのそれぞれと径方向から見て重なっており、かつ第1リテーナ61Bの最大偏心側最外部61B1および第2リテーナ62Bの最大偏心側最外部62B1と当接している。このため、差し輪40は、第1偏心体軸受61の第1リテーナ61Bおよび第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bによって径方向に位置決めされる。
ここで、差し輪40は、第1偏心体軸受61の第1リテーナ61Bの最大偏心側最外部61B1および第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bの最大偏心側最外部62B1の2箇所によって径方向に位置決めされる。そのため、径方向位置が常に変化する第1リテーナ61Bおよび第2リテーナ62Bによって径方向に位置決めされる構成でありながら、差し輪40自体の構造を簡素化できる。
一方、キャリヤ30の捻れによって歯車部の噛合性や各部の摺動性が悪化すると、運転効率が低下したり運転騒音が増大したりする要因となる。しかし、従来は、差し輪40がキャリヤピン(33)に外嵌されていたため、キャリヤ(30)の捻れ剛性を高めるべくキャリヤピン(33)の剛性を高めようとすると、装置全体も大型化してしまうという問題があった。
これに対し、本減速装置G1においては、差し輪40が、(キャリヤピン33にではなく)複数のクランク軸22の各々に外嵌されている。そのため、キャリヤピン33の周囲に空間的余裕が生じるため、該キャリヤピン33の断面形状に関する設計の自由度が高まり、例えば、キャリヤピン33をより大径化したり、より変形しにくい形状としたりする設計が容易となる。また、キャリヤピン33の径(あるいは断面積)を大きくすることができるようになる。
本減速装置G1では、このメリットを活用して、キャリヤピン33の断面形状を「非円形」とし、特に径方向外側の周方向厚さが(円形の断面形状の径方向外側の周方向厚さと比較して)より大きくなる断面形状としてある。そのため、キャリヤピン33は、形状的に、(円形の断面形状のキャリヤピン33と比較して)より高い剛性を有している。また、差し輪40が外嵌されないため、従来より断面積を大きく設計している。さらには、キャリヤピン33を第1キャリヤ31から直接一体的に突出させ(第1キャリヤ31と同一の部材によって構成し)、しかも、第1キャリヤ31の近傍に段差部33Aを設け、該段差部33Aを境にして軸方向第1キャリヤ31側の断面積を一層大きくしている。
本減速装置G1においては、これらの相乗作用により、キャリヤ30の捻れ剛性を、非常に高く維持することができ、その結果、運転効率の向上、あるいは運転騒音の低減等の基本的な運転性能をより向上させることができる。
特に、この図1〜図3の構成例では、差し輪40は、第1偏心体軸受61の第1リテーナ61Bおよび第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bによって径方向に位置決めされている。より具体的には、第1リテーナ61Bの最大偏心側最外部61B1および第2リテーナ62Bの最大偏心側最外部62B1によって径方向に位置決めされている。そのため、差し輪40の形状を、あまり複雑にすることなく、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔の規制と、差し輪40自体の径方向の位置決めを両立させることができる。
さらに、差し輪40は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12と当接して第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制する位置決め部40Aと、差し輪40以外の部材(第1リテーナ61Bおよび第2リテーナ62B)と当接することで差し輪40の径方向の位置決めが行われる被位置決め部40Bと、を有する構成とされている。そして、位置決め部40Aの軸方向厚さW40Aが、被位置決め部40Bの軸方向厚さW40Bよりも大きい。
このため、差し輪40は、第1転動体61Aおよび第2転動体62Aよりも外側(クランク軸22の軸心C22から遠い側)の位置で第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制しつつ、当該第1転動体61Aおよび第2転動体62Aとの接触を回避して第1リテーナ61Bおよび第2リテーナ62Bに当接することができる。
なお、差し輪40の具体的な形状や位置決めのための構成は、上記構成例に限定されない。
図4および図5に、他の構成例を示す。なお、差し輪の形状および位置決めの態様以外の構成は、先の図1〜図3の構成例と同一である。
図4および図5の構成例における差し輪70も、全体が無端のリング状に形成され、クランク軸22の各々に外嵌される。
差し輪70のクランク軸22の軸心C22を通る断面(図4の断面)の形状は、軸方向中央線C1がクランク軸22の軸心C22と交わる点P1に対して点対称である。ただし、この差し輪70は、軸方向中央線C1に対しては線対称ではない。
具体的には、差し輪70は、無端リング状の位置決め部70Aと、該位置決め部70Aから内側(クランク軸22の軸心C22に近い側)に向けて突出・延在された被位置決め部70Bを有している。
差し輪70の位置決め部70Aは、第1外歯歯車11に当接する第1当接面71と第2外歯歯車12に当接する第2当接面72を有し、該第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制している。この差し輪70は、軸方向中央線C1に対しては線対称ではない。
差し輪70の被位置決め部70Bは、差し輪70より内側(クランク軸22の軸心C22に近い側)に位置する部材と当接する内周当接面73a〜73dを有し、差し輪70自体の径方向位置を規制している。なお、内周当接面73a〜73dのうち、内周当接面73aと内周当接面73dは、偏心量の2倍相当分だけ軸心がずれて連続する単一の内周当接面を形成している。内周当接面73bと内周当接面73cも、偏心量の2倍相当分だけ軸心がずれて連続する単一の内周当接面を形成している。
より具体的に説明すると、先ず、差し輪70の被位置決め部70Bは、第1リテーナ61Bの最大偏心側最外部61B1と当接する内周当接面73bおよび第2リテーナ62Bの最大偏心側最外部62B1と当接する内周当接面73aを有する。この位置決め機能は、基本的に先の構成例のおける内周当接面43による位置決め機能と類似している。
しかし、この差し輪70の被位置決め部70Bは、さらに、第1リテーナ61Bの最小偏心側最外部61B2と当接する内周当接面73cおよび第2リテーナ62Bの最小偏心側最外部62B2と当接する内周当接面73dを有する。ここで、第1リテーナ61Bの最小偏心側最外部61B2とは、第1リテーナ61Bの最小偏心位置(第1リテーナ61Bがクランク軸22の軸心C22に最も近づく位置:図4の例では上側の位置)における、第1リテーナ61Bのクランク軸22から最も遠い部位のことである。第2リテーナ62Bの最小偏心側最外部62B2とは、第2リテーナ62Bの最小偏心位置(第2リテーナ62Bがクランク軸22の軸心C22に最も近づく位置:図4の例では下側の位置)における、第2リテーナ62Bのクランク軸22から最も遠い部位のことである。
差し輪70の位置決め部70Aの軸方向厚さW70Aは、段部74、76の分だけ、被位置決め部70Bの軸方向厚さ(内周当接面73a〜73dの軸方向長さ)W70Bよりも大きい(W70A>W70B)。
図4および図5の構成例の差し輪70は、図1〜図3の構成例の差し輪40と比較して、第1リテーナ61Bおよび第2リテーナ62Bに対し、より多くの面積範囲(内周当接面73a〜73d)で当接した態様で位置決めされる。そのため、差し輪70をより安定した態様で径方向に位置決め可能である。
図6および図7に、さらに他の構成例を示す。
図6および図7の差し輪80も、全体が無端の円形のリング状に形成され、クランク軸の各々に外嵌される。ただし、この差し輪80の被位置決め部80Bの内周当接面83は、第1偏心体51および第2偏心体52の両方と径方向から見て重なっており、第1偏心体最外部51Mおよび第2偏心体最外部52M、の両方に当接することで、径方向に位置決めされる。なお、第1偏心体最外部51Mとは、第1偏心体51の最大偏心位置での該第1偏心体51のクランク軸22の軸心C22から最も遠い部位のことであり、第2偏心体最外部52Mとは、第2偏心体52の最大偏心位置での該第2偏心体52のクランク軸22の軸心C22から最も遠い部位のことである。換言するならば、この差し輪80は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12と当接して該第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制する位置決め部80Aと、当該差し輪80以外の部材である第1偏心体51および第2偏心体52と当接することで該差し輪80の径方向の位置決めが行われる被位置決め部80Bと、を有する。
この構成は、差し輪80が完全に一体的に回転するクランク軸22の第1偏心体51および第2偏心体52によって径方向に位置決めされているため(差し輪80と第1偏心体51および第2偏心体52との間に摺動がないため)、第1リテーナ61Bおよび第2リテーナ62Bと当接するこれまでの構成例と比較して、差し輪80が径方向に対してぶれにくいという利点がある。
差し輪80は、段部84、86の存在によって第1偏心体軸受61の第1リテーナ61B、第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bとの干渉を回避している。なお、差し輪80の形状および位置決めの態様以外の構成は、先の図1〜図3の構成例と同一である。
図8および図9に、さらに他の構成例を示す。
図8および図9の差し輪90も、全体が無端の円形のリング状に形成され、クランク軸22の各々に外嵌される。
ただし、この構成例では、クランク軸22は、第1外歯歯車11が外嵌される第1偏心体51と、第2外歯歯車12が外嵌される第2偏心体52と、該第1偏心体51と第2偏心体52との間に設けられクランク軸22の軸心C22と一致する軸心を有する中央リング部23を有している。中央リング部23は、全周に渡って偏心体よりも径方向外側に突出するように外径d23が設定される。
そして差し輪90は、該中央リング部23の外周に内周当接面93が外周に渡って当接することによって径方向に位置決めされている。差し輪90自体の基本的形状は、図1〜図3、あるいは図6、図7の差し輪40、80と類似している。具体的には、差し輪90は、第1外歯歯車11および第2外歯歯車12と当接して該第1外歯歯車11および第2外歯歯車12の軸方向間隔を規制する位置決め部90Aと、当該差し輪90以外の部材であるクランク軸22の中央リング部23と当接することで該差し輪90の径方向の位置決めが行われる被位置決め部90Bと、を有している。
差し輪90は、段部94、96の存在によって第1偏心体軸受61の第1リテーナ61B、第2偏心体軸受62の第2リテーナ62Bとの干渉を回避している。
これまで説明してきた差し輪40、70、80は、その形状が、減速装置G1の減速比によって変化する第1偏心体51の偏心量と第2偏心体52の偏心量に依存した形状となるため、偏心量が異なる(減速比が異なる)減速装置ごとに、異なる形状の差し輪を設計する必要がある。
しかし、この図8および図9の構成例の差し輪90によれば、中央リング部23の軸心C23はクランク軸22の軸心C22と一致しているため、偏心量が異なる複数の減速装置間において、当該中央リング部23の外径d23を一定に設定しておくことにより、同一の差し輪90を偏心量が異なる(減速比が異なる)減速装置に共用で使用することができるようになる。より具体的には、偏心量が最大の減速装置でも、全周に渡って中央リング体の外周が偏心体の最外部よりも径方向外側に突出するような一定の値に外径d23を設定する。このため、差し輪の設計および在庫管理が容易となるというメリットが得られる。
このように、差し輪の構成は、種々のバリエーションが考えられ、上記構成例に限定されない。要は、第1外歯歯車と第2外歯歯車との間に配置され、クランク軸の各々に外嵌されることによって、第1外歯歯車と第2外歯歯車の軸方向の間隔を規制できる構成となっていればよい。
また、第1キャリヤ、第2キャリヤ、およびキャリヤピン(連結部材)の構成も上記構成には限定されない。例えば、キャリヤピンは、第1キャリヤおよび第2キャリヤの双方に対して別の部材で構成されていてもよい。
また、キャリヤピンの軸と直角の断面は、円形であってもよいし、さらに別の形状の変形断面であってもよい。断面積も必ずしも従来より大きくしなければならないものではない。
例えば、装置全体のコンパクト性を重視する場合には、形状的により高い剛性を有するキャリヤピンを採用することにより、従来のキャリヤピンの断面積よりもより小さな断面積のキャリヤピンで第1キャリヤおよび第2キャリヤを連結するようにしてもよい。つまり、本発明は、必ずしも発明のメリットを、キャリヤの捻れ剛性の「向上」の方向で活用する必要はなく、同等の捻れ剛性を有する減速装置をよりコンパクトな大きさで実現するという方向で活用してもよい。