以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1. 化合物の定義>
本明細書において、化学式中の基に使用される接頭辞「n」はノルマルを、「i」若しくは「iso」はイソを、「s」若しくは「sec」はセカンダリーを、「t」若しくは「tert」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを、それぞれ意味する。
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1〜C6アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても6個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチル-n-ブチル、2-メチル-n-ブチル、3-メチル-n-ブチル、1,1-ジメチル-n-プロピル、1,2-ジメチル-n-プロピル、2,2-ジメチル-n-プロピル、1-エチル-n-プロピル、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル、2-メチル-n-ペンチル、3-メチル-n-ペンチル、4-メチル-n-ペンチル、1,1-ジメチル-n-ブチル、1,2-ジメチル-n-ブチル、1,3-ジメチル-n-ブチル、2,2-ジメチル-n-ブチル、2,3-ジメチル-n-ブチル、3,3-ジメチル-n-ブチル、1-エチル-n-ブチル、2-エチル-n-ブチル、1,1,2-トリメチル-n-プロピル、1,2,2-トリメチル-n-プロピル、1-エチル-1-メチル-n-プロピル及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル等の直鎖又は分枝鎖のC1〜C6アルキルを挙げることができる。また、好適なアルキルは、限定するものではないが、例えば、C1〜C6アルキルに包含される前記基に加えて、1-メチル-1-エチル-n-ペンチル、1-ヘプチル、2-ヘプチル、1-エチル-1,2-ジメチル-n-プロピル、1-エチル-2,2-ジメチル-n-プロピル、1-オクチル、3-オクチル、4-メチル-3-n-ヘプチル、6-メチル-2-n-ヘプチル、2-プロピル-1-n-ヘプチル、2,4,4-トリメチル-1-n-ペンチル、1-ノニル、2-ノニル、2,6-ジメチル-4-n-ヘプチル、3-エチル-2,2-ジメチル-3-n-ペンチル、3,5,5-トリメチル-1-n-ヘキシル、1-デシル、2-デシル、4-デシル、3,7-ジメチル-1-n-オクチル、3,7-ジメチル3-n-オクチル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル及びn-エイコシル等の直鎖又は分枝鎖のC1〜C20アルキルを挙げることができる。
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ペンテニル及びヘキセニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C6アルケニルを挙げることができる。また、好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えば、C2〜C6アルケニルに包含される前記基に加えて、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、n-ウンデセニル、n-ドデセニル、n-トリデセニル、n-テトラデセニル、n-ペンタデセニル、n-ヘキサデセニル、n-ヘプタデセニル、n-オクタデセニル、n-ノナデセニル及びn-エイコセニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C20アルケニルを挙げることができる。
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ペンチニル及びヘキシニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C6アルキニルを挙げることができる。また、好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えば、C2〜C6アルキニルに包含される前記基に加えて、ヘプチニル、オクチニル及びノニニル、デシニル、n-ウンデシニル、n-ドデシニル、n-トリデシニル、n-テトラデシニル、n-ペンタデシニル、n-ヘキサデシニル、n-ヘプタデシニル、n-オクタデシニル、n-ノナデシニル及びn-エイコシニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C20アルキニルを挙げることができる。
本明細書において、「アルキレン」、「アルケニレン」及び「アルキニレン」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルからさらに1個の水素原子を取り除いた構造を有する2価の遊離基を意味する。
本明細書において、「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、脂環式アルキルを意味する。例えば、「C3〜C6シクロアルキル」は、少なくとも3個且つ多くても6個の炭素原子を含む、環式の炭化水素基を意味する。好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、1-メチルシクロブチル、2-メチルシクロブチル、3-メチルシクロブチル、1,2-ジメチルシクロプロピル、2,3-ジメチルシクロプロピル、1-エチルシクロプロピル、2-エチルシクロプロピル、シクロヘキシル、1-メチルシクロペンチル、2-メチルシクロペンチル、3-メチルシクロペンチル、1-エチルシクロブチル、2-エチルシクロブチル、3-エチルシクロブチル、1,2-ジメチルシクロブチル、1,3-ジメチルシクロブチル、2,2-ジメチルシクロブチル、2,3-ジメチルシクロブチル、2,4-ジメチルシクロブチル、3,3-ジメチルシクロブチル、1-n-プロピルシクロプロピル、2-n-プロピルシクロプロピル、1-イソプロピルシクロプロピル、2-イソプロピルシクロプロピル、1,2,2-トリメチルシクロプロピル、1,2,3-トリメチルシクロプロピル、2,2,3-トリメチルシクロプロピル、1-エチル-2-メチルシクロプロピル、2-エチル-1-メチルシクロプロピル、2-エチル-2-メチルシクロプロピル及び2-エチル-3-メチルシクロプロピル等のC3〜C6シクロアルキルを挙げることができる。また、好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えば、C3〜C6シクロアルキルに包含される前記基に加えて、シクロオクチル等の直鎖又は分枝鎖のC3〜C20シクロアルキルを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルケニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニル等のC4〜C6シクロアルケニルを挙げることができる。また、好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えば、C4〜C6シクロアルケニルに包含される前記基に加えて、シクロオクテニル等の直鎖又は分枝鎖のC4〜C20シクロアルケニルを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルキニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えばシクロブチニル、シクロペンチニル及びシクロヘキシニル等のC4〜C6シクロアルキニルを挙げることができる。また、好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えば、C4〜C6シクロアルキニルに包含される前記基に加えて、シクロオクチニル等の直鎖又は分枝鎖のC4〜C20シクロアルキニルを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロシクロアルキル」は、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立して窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)から選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル及びピペラジニル等の3〜6員のヘテロシクロアルキルを挙げることができる。
本明細書において、「アルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルに置換された基を意味する。好適なアルコキシは、限定するものではないが、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、1-メチル-n-ブトキシ、2-メチル-n-ブトキシ、3-メチル-n-ブトキシ、1,1-ジメチル-n-プロポキシ、1,2-ジメチル-n-プロポキシ、2,2-ジメチル-n-プロポキシ、1-エチル-n-プロポキシ、n-ヘキシルオキシ、1-メチル-n-ペンチルオキシ、2-メチル-n-ペンチルオキシ、3-メチル-n-ペンチルオキシ、4-メチル-n-ペンチルオキシ、1,1-ジメチル-n-ブトキシ、1,2-ジメチル-n-ブトキシ、1,3-ジメチル-n-ブトキシ、2,2-ジメチル-n-ブトキシ、2,3-ジメチル-n-ブトキシ、3,3-ジメチル-n-ブトキシ、1-エチル-n-ブトキシ、2-エチル-n-ブトキシ、1,1,2-トリメチル-n-プロポキシ、1,2,2-トリメチル-n-プロポキシ、1-エチル-1-メチル-n-プロポキシ、及び1-エチル-2-メチル-n-プロポキシ等のC1〜C6アルコキシを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えばシクロプロポキシ、シクロブトキシ、1-メチル-シクロプロポキシ、2-メチル-シクロプロポキシ、シクロペンチルオキシ、1-メチル-シクロブトキシ、2-メチル-シクロブトキシ、3-メチル-シクロブトキシ、1,2-ジメチル-シクロプロポキシ、2,3-ジメチル-シクロプロポキシ、1-エチル-シクロプロポキシ、2-エチル-シクロプロポキシ、シクロヘキシルオキシ、1-メチル-シクロペンチルオキシ、2-メチル-シクロペンチルオキシ、3-メチル-シクロペンチルオキシ、1-エチル-シクロブトキシ、2-エチル-シクロブトキシ、3-エチル-シクロブトキシ、1,2-ジメチル-シクロブトキシ、1,3-ジメチル-シクロブトキシ、2,2-ジメチル-シクロブトキシ、2,3-ジメチル-シクロブトキシ、2,4-ジメチル-シクロブトキシ、3,3-ジメチル-シクロブトキシ、1-n-プロピル-シクロプロポキシ、2-n-プロピル-シクロプロポキシ、1-イソプロピル-シクロプロポキシ、2-イソプロピル-シクロプロポキシ、1,2,2-トリメチル-シクロプロポキシ、1,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ、2,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ、1-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ、2-エチル1-メチル-シクロプロポキシ、2-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ及び2-エチル-3-メチル-シクロプロポキシ等のC3〜C6シクロアルコキシを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロシクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えば3〜6員のヘテロシクロアルコキシを挙げることができる。
本明細書において、「アリール」は、芳香環基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、o-ビフェニル、m-ビフェニル、p-ビフェニル、テルフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル及びアントラセニル等のC4〜C20アリールを挙げることができる。
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、ビフェニルメチル、テルフェニルメチル及びスチリル等のC7〜C20アリールアルキルを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリール」は、前記アリールの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立してN、S及びOから選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロアリールは、限定するものではないが、例えばフラニル、チエニル(チオフェンイル)、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル及びインドリル等の5〜15員のヘテロアリールを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばピリジルメチル等の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルを挙げることができる。
本明細書において、「アリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフェノキシ、ビフェニルオキシ、ナフチルオキシ及びアントリルオキシ(アントラセニルオキシ)等のC6〜C15アリールオキシを挙げることができる。
本明細書において、「アリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールアルキルに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えばベンジルオキシ、1-フェネチルオキシ、2-フェネチルオキシ及びスチリルオキシ等のC7〜C20アリールアルキルオキシを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフラニルオキシ、チエニルオキシ(チオフェンイルオキシ)、ピロリルオキシ、イミダゾリルオキシ、ピラゾリルオキシ、トリアゾリルオキシ、テトラゾリルオキシ、チアゾリルオキシ、オキサゾリルオキシ、イソオキサゾリルオキシ、オキサジアゾリルオキシ、チアジアゾリルオキシ、イソチアゾリルオキシ、ピリジルオキシ、ピリダジニルオキシ、ピラジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、キノリニルオキシ、イソキノリニルオキシ及びインドリルオキシ等の5〜15員のヘテロアリールオキシを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えば5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシを挙げることができる。
前記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、或いは1個以上の前記で説明した1価基によってさらに置換することもできる。
本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
本発明は、式(I-1):
又は式(I-2):
で表される化合物の製造方法に関する。式(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、光学活性なヒドロキシル基を有する脂肪酸である。本明細書において、式(I-1)及び(I-2)で表される化合物を、「光学活性なヒドロキシ脂肪酸」と記載する場合がある。式(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、式(I):
で表される化合物に包含される。本明細書において、式(I)で表される化合物を、「ヒドロキシ脂肪酸」と記載する場合がある。ヒドロキシ脂肪酸は、脂質及び/又は糖等の代謝改善のような活性を有する有用な化合物である。これらの有用な活性は、通常はヒドロキシ脂肪酸の特定の光学活性体が有する。光学活性なヒドロキシ脂肪酸の製造方法としては、特定の酵素を用いる方法が知られている。本発明者らは、特定の保護基を用いて保護された一級ヒドロキシケトンを、立体選択的還元触媒を用いて還元することにより、光学活性なヒドロキシ脂肪酸を立体選択的に得られることを見出した。また、本発明者らは、特定の保護基を用いて保護された一級ヒドロキシ基を有するラセミ体の二級アルコールをリパーゼ処理することにより、光学活性なヒドロキシ脂肪酸を合成的手段及び酵素的手段の組み合わせによって立体選択的に得られることを見出した。本発明の方法は、合成的手段、又は合成的手段及び酵素的手段の組み合わせを用いることから、酵素的手段のみを用いる従来技術の方法と比較して、製造コストを大幅に削減することができる。また、合成的手段を用いる本発明の方法は、酵素反応の基質として使用し得る化合物に限定されず、多様な構造を有する生成物に適用することができる。それ故、本発明の方法により、低製造コスト及び高立体選択性で、多様な構造を有する式(I-1)又は(I-2)で表される化合物を製造することができる。
なお、反応の立体選択性は、例えば、反応生成物の鏡像体過剰率(e.e.)に基づき、評価することができる。鏡像体過剰率は、NMR、HPLC及び/又はGC等の分析手段を用いて測定された各エナンチオマーのモル分率を用いて、下記の式:
[式中、A
R及びA
Sは、各エナンチオマーのモル分率を表す。]
に基づき算出することができる。
式(I)、式(I-1)及び(I-2)において、
R1は、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C20アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2〜C20アルキニルであり、
L1は、単結合、置換若しくは非置換のC1〜C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2〜C20アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC2〜C20アルキニレンであることが必要である。
R1は、置換若しくは非置換のC1〜C10アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C10アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2〜C10アルキニルであることが好ましく、非置換のC1〜C10アルキル、非置換のC2〜C10アルケニル、又は非置換のC2〜C10アルキニルであることがより好ましい。或いは、R1は、置換若しくは非置換のC6〜C20アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C20アルケニル、又は置換若しくは非置換のC6〜C20アルキニルであることが好ましく、置換若しくは非置換のC6〜C10アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C10アルケニル、又は置換若しくは非置換のC6〜C10アルキニルであることがより好ましく、置換若しくは非置換のC6〜C8アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C8アルケニル、又は置換若しくは非置換のC6〜C8アルキニルであることがさらに好ましく、非置換のC6〜C8アルキル、非置換のC6〜C8アルケニル、又は非置換のC6〜C8アルキニルであることが特に好ましい。R1は、好ましくは、非置換の前記基である。R1は、メチル、エチル、1-プロピル、1-ブチル、1-ペンチル、1-ヘキシル、1-ヘプチル、1-オクチル、1-ノニル又は1-デシルであることが特に好ましく、1-オクチルであることがとりわけ好ましい。R1が前記基である場合、本発明の方法により、低製造コスト及び高立体選択性で、多様な構造を有する式(I-1)又は(I-2)で表される化合物を製造することができる。
L1は、置換若しくは非置換のC3〜C13アルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C13アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC3〜C13アルキニレンであることが好ましく、非置換のC3〜C13アルキレン、非置換のC3〜C13アルケニレン、又は非置換のC3〜C13アルキニレンであることがより好ましい。或いは、L1は、単結合、置換若しくは非置換のC6〜C20アルキレン、置換若しくは非置換のC6〜C20アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC6〜C20アルキニレンであることが好ましく、置換若しくは非置換のC6〜C13アルキレン、置換若しくは非置換のC6〜C13アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC6〜C13アルキニレンであることがより好ましく、非置換のC6〜C13アルキレン、非置換のC6〜C13アルケニレン、又は非置換のC6〜C13アルキニレンであることがさらに好ましい。L1は、好ましくは、非置換の前記基である。L1は、メチレン、エチレン、1,3-プロピレン、1,4-ブチレン、1,5-ペンチレン、1,6-ヘキシレン、1,7-ヘプチレン、1,8-オクチレン、1,9-ノニレン、1,10-デシレン又は1,11-ウンデシレンであることが特に好ましく、1,8-オクチレンであることがとりわけ好ましい。L1が前記基である場合、本発明の方法により、低製造コスト及び高立体選択性で、多様な構造を有する式(I-1)又は(I-2)で表される化合物を製造することができる。
一般に、ヒドロキシ脂肪酸は、分子量が増大するに従って溶解性が低下することが知られている。具体的な溶解性は、ヒドロキシ脂肪酸の炭素数及び溶媒によって変動し得る。例えば、飽和ヒドロキシ脂肪酸において、水及びオクタノールを含む混合溶媒に対する25℃における質量溶解度は、10-ヒドロキシオクタデカン酸(C18)が3.3 g/L、エイコサン酸(C20)が0.89 g/L、10-ヒドロキシテトラコサン酸(C24)が0.054 g/L、トリアコンタン酸(C30)が1.4×10-3g/Lである(Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) ソフトウェアV11.02 (ACD/Labs社)を用いて計算した値である)。前記データに示されるように、飽和ヒドロキシ脂肪酸の場合、炭素数が30(C30)を超えると、多くの溶媒に対して難溶性となる。このため、式(I)、式(I-1)及び(I-2)で表される化合物の炭素数が30を超えると、反応系における溶解性が低下し、反応性が低下する可能性がある。それ故、式(I)、式(I-1)及び(I-2)において、R1及びL1の炭素数の合計は、28以下であることが好ましく、23以下であることがより好ましい。R1及びL1が前記特徴を満たす場合、本発明の方法により、低製造コスト及び高立体選択性で、多様な構造を有する式(I-1)又は(I-2)で表される化合物を製造することができる。
R1及びL1の定義において、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、3〜6員のヘテロシクロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C3〜C6シクロアルコキシ、3〜6員のヘテロシクロアルコキシ、C4〜C20アリール、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリール、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基であることが好ましい。
好ましくは、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、
R1が、置換若しくは非置換のC1〜C10アルキル、置換若しくは非置換のC2〜C10アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2〜C10アルキニルであり、
L1が、置換若しくは非置換のC3〜C13アルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C13アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC3〜C13アルキニレンであり、
前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、3〜6員のヘテロシクロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C3〜C6シクロアルコキシ、3〜6員のヘテロシクロアルコキシ、C4〜C20アリール、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリール、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。
或いは、好ましくは、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、
R1が、置換若しくは非置換のC6〜C10アルキル、置換若しくは非置換のC6〜C10アルケニル、又は置換若しくは非置換のC6〜C10アルキニルであり、
L1が、置換若しくは非置換のC6〜C13アルキレン、置換若しくは非置換のC6〜C13アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC6〜C13アルキニレンであり、
前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、3〜6員のヘテロシクロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C3〜C6シクロアルコキシ、3〜6員のヘテロシクロアルコキシ、C4〜C20アリール、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリール、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。
より好ましくは、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、
R1が、非置換のC1〜C10アルキル、非置換のC2〜C10アルケニル、又は非置換のC2〜C10アルキニルであり、
L1が、非置換のC3〜C13アルキレン、非置換のC3〜C13アルケニレン、又は非置換のC3〜C13アルキニレンである。
或いは、より好ましくは、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、
R1が、非置換のC6〜C8アルキル、非置換のC6〜C8アルケニル、又は非置換のC6〜C8アルキニルであり、
L1が、非置換のC6〜C13アルキレン、非置換のC6〜C13アルケニレン、又は非置換のC6〜C13アルキニレンである。
さらに好ましくは、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、
R1が、1-オクチルであり、
L1が、1,8-オクチレンである;又は
R1が、1-ブチルであり、
L1が、1,11-ウンデシレンである。
特に好ましくは、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物は、
R1が、1-オクチルであり、
L1が、1,8-オクチレンである。
R1及びL1が前記特徴を満たす場合、本発明の方法により、低製造コスト及び高立体選択性で、多様な構造を有する式(I-1)又は(I-2)で表される化合物を製造することができる。
本発明において、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物、並びに以下において説明する式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII-1)、(VIII-1’)、(VIII-2)、(IX-1)、(IX-2)、(X-1)、(X-2)及び(A)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、存在し得る場合、その塩も包含する。本発明の前記各式で表される化合物の塩としては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオンとの塩、又は塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸若しくはリン酸のような無機酸、又はギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはナフタレンスルホン酸のような有機酸アニオンとの塩が好ましい。前記式で表される化合物が前記の塩の形態である場合であっても、本発明の方法に適用することができる。
本発明において、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物、並びに以下において説明する式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII-1)、(VIII-1’)、(VIII-2)、(IX-1)、(IX-2)、(X-1)、(X-2)及び(A)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、存在し得る場合、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1〜6の炭素数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素数を有するアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン若しくは酢酸エチルのような有機溶媒、又は水が好ましい。前記式で表される化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合であっても、本発明の方法に適用することができる。
本発明において、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物、並びに以下において説明する式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII-1)、(VIII-1’)、(VIII-2)、(IX-1)、(IX-2)、(X-1)、(X-2)及び(A)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数の官能基(例えばヒドロキシル基又はカルボン酸基)に保護基が導入された形態を意味する。本明細書において、前記各式で表される化合物の保護形態を、前記各式で表される化合物の保護誘導体と記載する場合がある。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、ヒドロキシル基の保護基の場合、シリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)若しくはtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS))、アルコキシ(例えば、ベンジル(Bn)、メトキシメトキシ(MOM)若しくはメトキシ(Me))又は環状アセタール(例えば、ベンジリデンアセタール若しくはジメチルアセタール)が、カルボン酸基の保護基の場合、アルキルエステル(例えばメチル、エチル若しくはイソプロピルエステル)、アリールアルキルエステル(例えばベンジルエステル)、又はアミドが、それぞれ好ましい。前記保護基による保護化及び脱保護化は、公知の反応条件に基づき、当業者が適宜実施することができる。前記式で表される化合物が前記の保護基による保護形態である場合であっても、本発明の方法に適用することができる。
本発明において、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物、並びに以下において説明する式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII-1)、(VIII-1’)、(VIII-2)、(IX-1)、(IX-2)、(X-1)、(X-2)及び(A)で表される化合物が1又は複数の互変異性体を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々の互変異性体の形態も包含する。
また、本発明において、式(I)、(I-1)及び(I-2)で表される化合物、並びに以下において説明する式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII-1)、(VIII-1’)、(VIII-2)、(IX-1)、(IX-2)、(X-1)、(X-2)及び(A)で表される化合物が1又は複数の立体中心(キラル中心)を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のようなそれらの混合物も包含する。但し、前記式において、絶対立体配置が特定されているキラル中心については、該特定されている絶対立体配置のみを有する。
<2. 合成的手段による光学活性なヒドロキシ脂肪酸の製造方法>
本発明の一態様は、式(I-1)で表される化合物である光学活性なヒドロキシ脂肪酸の製造方法に関する。本態様において、本発明の方法は、炭素鎖連結工程、第二酸化工程、立体選択的還元工程、及び第三酸化工程を含むことが必要である。本態様において、本発明の方法はまた、所望により、第一酸化工程を含むことができる。以下、各工程について、詳細に説明する。
[2-1. 第一酸化工程]
一態様において、本発明の方法は、所望により、式(II):
で表されるジオールを酸化して、式(IV):
で表されるアルデヒドを得る、第一酸化工程を含むことができる。
本工程は、所望により、式(II)で表されるジオールの一方の一級ヒドロキシル基を保護して、式(III):
で表される化合物を得る、一級ヒドロキシル基保護化工程;及び
一級ヒドロキシル基保護化工程で得られた式(III)で表される化合物を酸化して、式(IV)で表されるアルデヒドを得る、保護化アルデヒド形成工程をさらに含むことができる。
式(II)、(III)及び(IV)において、L1は、前記と同義である。
式(II)で表される化合物は、予め調製された該化合物を購入等して準備することができる。
式(III)及び(IV)において、PG1は、一級ヒドロキシル基の保護基である。本発明者らは、一級ヒドロキシル基の保護基PG1として嵩高い基を選択することにより、以下において説明する立体選択的還元工程における立体選択性が顕著に向上することを見出した。PG1は、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、t-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)及びベンジル(Bn)からなる群より選択される保護基であることが好ましく、TBS又はTBDPSであることがより好ましく、TBSであることがさらに好ましい。PG1が前記の嵩高い保護基である場合、立体選択的還元工程における立体選択性が顕著に向上して、所望の絶対立体配置を有する式(I-1)で表される化合物を高収率で得ることができる。
一級ヒドロキシル基保護化工程において、式(II)で表されるジオールの一方の一級ヒドロキシル基を保護基PG1で保護する反応の条件は、使用される保護基PG1による保護化の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。PG1による保護化に使用される保護化試薬は、式(II)で表されるジオールに対して通常は0.5〜1.5当量の範囲、好ましくは通常は0.8〜1.2当量の範囲、より好ましくは約1当量である。前記条件で一級ヒドロキシル基保護化工程を実施することにより、式(II)で表されるジオールの一方の一級ヒドロキシル基のみを保護基PG1で選択的に保護することができる。
保護化アルデヒド形成工程において、式(III)で表される化合物を酸化する反応の条件は、一級アルコールからアルデヒドを形成させる酸化反応の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。前記酸化反応に用いる触媒又は酸化剤としては、例えば、Dess-Martinペルヨージナン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)触媒、テトラプロピルアンモニウムペルルテナート(TPAP)触媒、DMSO及び塩化オキザリルの組み合わせ、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、並びに二クロム酸ピリジニウム(PDC)を挙げることができる。当該技術分野において、DMSO及び塩化オキザリルの組み合わせを用いる酸化反応は、スワン(Swern)酸化としても知られている。前記触媒又は酸化剤を用いて酸化反応を実施する場合、反応溶媒は、ジクロロメタンが好ましい。反応温度は、使用される触媒、酸化剤又は酸化反応に基づき適宜設定することができる。例えば、スワン酸化の場合、反応温度は、-100〜-60℃の範囲であることが好ましい。前記で例示した他の触媒、酸化剤又は酸化反応の場合、反応温度は、0〜30℃の範囲であることが好ましい。反応時間は、0.25〜1時間の範囲であることが好ましい。前記触媒又は酸化剤を用いる酸化反応により、式(III)で表される化合物から式(IV)で表されるアルデヒドを形成させることができる。
[2-2. 炭素鎖連結工程]
一態様において、本発明の方法は、式(IV):
で表されるアルデヒドと式(V):
で表される化合物とを反応させて、式(VI):
で表される二級アルコールを得る、炭素鎖連結工程を含むことが必要である。
式(IV)、(V)及び(VI)において、R1、L1及びPG1は、前記と同義である。
式(V)で表される化合物は、グリニヤール試薬としても知られる化合物である。式(V)で表される化合物は、予め調製された該化合物を購入等して準備してもよく、グリニヤール試薬の調製方法として当該技術分野で公知の反応条件に基づき調製してもよい。例えば、式(V)で表される化合物は、R1-Hal(式中、Halはハロゲンである)で表されるハロゲン化アルキルとマグネシウムとを反応させることにより、調製することができる。
本工程において、式(IV)で表されるアルデヒドと式(V)で表される化合物とを反応させる条件は、グリニヤール反応の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。本工程の反応は、例えば、式(IV)で表されるアルデヒドと式(V)で表される化合物とを、THF又はジエチルエーテル等の溶媒中で反応させることにより、実施することができる。この場合、反応温度は、0〜30℃の範囲であることが好ましい。反応時間は、0.5〜2時間の範囲であることが好ましい。前記反応により、式(IV)で表されるアルデヒドと式(V)で表される化合物とを反応させて、式(VI)で表される二級アルコールを形成させることができる。
[2-3. 第二酸化工程]
一態様において、本発明の方法は、式(VI)で表される二級アルコールを酸化して、式(VII):
で表されるケトンを得る、第二酸化工程を含むことが必要である。
式(VII)において、R1、L1及びPG1は、前記と同義である。
本工程において、式(VI)で表される二級アルコールを酸化する反応の条件は、二級ヒドロキシル基を酸化してケトンを形成させる酸化反応の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。前記酸化反応に用いる酸化剤としては、例えば、Dess-Martinペルヨージナン、TPAP触媒、DMSO及び塩化オキザリルの組み合わせ(スワン酸化)、PCC、並びにPDCを挙げることができる。前記酸化剤を用いて酸化反応を実施する場合、反応溶媒は、ジクロロメタンが好ましい。反応温度は、使用される酸化剤又は酸化反応に基づき適宜設定することができる。例えば、スワン酸化の場合、反応温度は、-100〜-60℃の範囲であることが好ましい。前記で例示した他の酸化剤又は酸化反応の場合、反応温度は、0〜30℃の範囲であることが好ましい。反応時間は、0.25〜1時間の範囲であることが好ましい。前記酸化剤を用いる酸化反応により、式(VI)で表される二級アルコールから式(VII)で表されるケトンを形成させることができる。
[2-4. 立体選択的還元工程]
一態様において、本発明の方法は、式(VII)で表されるケトンを、式(A):
で表されるキラル触媒とボラン還元剤との組み合わせからなる立体選択的還元触媒を用いて還元して、式(VIII-1):
で表される化合物を得る、立体選択的還元工程を含むことが必要である。
本発明者らは、前記特徴を有する保護基PG1を用いて一級ヒドロキシル基が保護された式(VII)で表される一級ヒドロキシケトンを、式(A)で表されるキラル触媒とボラン還元剤との組み合わせからなる立体選択的還元触媒媒を用いて還元することにより、光学活性なヒドロキシ脂肪酸を立体選択的に得られることを見出した。前記立体選択的還元触媒媒を用いるケトンから二級アルコールへの還元反応は、コーリー・バクシ・柴田還元(CBS還元)としても知られる反応である。本発明者らは、一級ヒドロキシル基の保護基PG1として前記で開示した特定の嵩高い基を選択することにより、CBS還元における立体選択性が顕著に向上して、式(VIII-1)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得られることを見出した。
式(VIII-1)において、R1、L1及びPG1は、前記と同義である。本工程の反応は、一級ヒドロキシル基の保護基PG1として前記で開示した特定の嵩高い基を選択することにより、CBS還元における高い立体選択性を発現することができる。このため、R1及びL1は、前記で開示した基の範囲内の任意の組み合わせから選択することができる。R1及びL1が、前記で開示した基の如何なる組み合わせであっても、式(VIII-1)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得ることができる。
式(A)において、R2は、水素、又は置換若しくは非置換のC1〜C6アルキルであることが好ましく、非置換のC1〜C6アルキルであることがより好ましく、メチルであることがさらに好ましい。前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、3〜6員のヘテロシクロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C3〜C6シクロアルコキシ、3〜6員のヘテロシクロアルコキシ、C4〜C20アリール、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリール、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基であることが好ましい。前記特徴を有する式(A)で表されるキラル触媒を含む立体選択的還元触媒媒を用いることにより、式(VIII-1)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得ることができる。
本工程で使用されるボラン還元剤は、ボラン-テトラヒドロフラン錯体、ボラン-ジメチルスルフィド錯体、カテコールボラン又はピナコールボランであることが好ましく、ボラン-テトラヒドロフラン錯体であることがより好ましい。前記特徴を有するボラン還元剤を含む立体選択的還元触媒媒を用いることにより、式(VIII-1)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得ることができる。
好ましくは、本工程で使用される立体選択的還元触媒媒は、R2がメチルであるキラル触媒とボラン-テトラヒドロフラン錯体との組み合わせからなる。前記特徴を有する立体選択的還元触媒媒を用いることにより、式(VIII-1)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得ることができる。
[2-5. 第三酸化工程]
一態様において、本発明の方法は、式(VIII-1)で表される化合物を酸化して、式(I-1)で表される化合物を得る、第三酸化工程を含むことが必要である。
本工程は、所望により、式(VIII-1)で表される化合物の保護基PG
1を脱保護して、式(IX-1):
で表される化合物を得る、一級ヒドロキシル基脱保護工程;
一級ヒドロキシル基脱保護工程で得られた式(IX-1)で表される化合物の一級ヒドロキシル基を選択的に酸化して、式(X-1):
で表される化合物を得る、ヒドロキシアルデヒド形成工程;
ヒドロキシアルデヒド形成工程で得られた式(X-1)で表される化合物のアルデヒド基を選択的に酸化して、式(I-1)で表される化合物を得る、ヒドロキシカルボン酸形成工程をさらに含むことができる。
式(IX-1)及び(X-1)において、R1及びL1は、前記と同義である。
一級ヒドロキシル基脱保護工程において、式(VIII-1)で表される化合物の保護基PG1を脱保護する反応の条件は、使用される保護基PG1による脱保護の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。
ヒドロキシアルデヒド形成工程において、式(IX-1)で表される化合物の一級ヒドロキシル基を選択的に酸化する反応の条件は、一級ヒドロキシル基及び二級ヒドロキシル基を有するジオールの一級ヒドロキシル基を選択的に酸化して、ヒドロキシアルデヒドを形成させる酸化反応の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。前記酸化反応に用いる触媒としては、例えば、TEMPO触媒を挙げることができる。前記触媒を用いて酸化反応を実施する場合、反応溶媒は、ジクロロメタンが好ましい。反応温度は、0〜30℃の範囲であることが好ましい。反応時間は、0.25〜1時間の範囲であることが好ましい。前記触媒又は酸化剤を用いる酸化反応により、式(IX-1)で表される化合物から式(X-1)で表される化合物を形成させることができる。
ヒドロキシカルボン酸形成工程において、式(X-1)で表される化合物のアルデヒド基を選択的に酸化する反応の条件は、アルデヒド基及び二級ヒドロキシル基を有するヒドロキシアルデヒドのアルデヒド基を選択的に酸化して、ヒドロキシカルボン酸を形成させる酸化反応の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。前記酸化反応に用いる酸化剤としては、例えば、亜塩素酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム及び2-メチル-2-ブテンの組み合わせを挙げることができる。当該技術分野において、亜塩素酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム及び2-メチル-2-ブテンの組み合わせを用いるアルデヒドからカルボン酸への酸化反応は、ピニック(Pinnick)酸化としても知られている。前記酸化剤を用いて酸化反応を実施する場合、反応溶媒は、t-ブタノールが好ましい。反応温度は、0〜30℃の範囲であることが好ましい。反応時間は、1〜3時間の範囲であることが好ましい。前記酸化剤を用いる酸化反応により、式(X-1)で表される化合物から式(I-1)で表される化合物を形成させることができる。
<3. 合成的手段及び酵素的手段の組み合わせによる光学活性なヒドロキシ脂肪酸の製造方法>
本発明の別の一態様は、式(I-2)で表される化合物である光学活性なヒドロキシ脂肪酸の製造方法に関する。本態様において、本発明の方法は、炭素鎖連結工程、速度論的光学分割工程、及び第三酸化工程を含むことが必要である。本態様において、本発明の方法はまた、所望により、第一酸化工程を含むことができる。以下、各工程について、詳細に説明する。
[3-1. 第一酸化工程]
一態様において、本発明の方法は、所望により、式(II):
で表されるジオールを酸化して、式(IV):
で表されるアルデヒドを得る、第一酸化工程を含むことができる。
本工程は、所望により、式(II)で表されるジオールの一方の一級ヒドロキシル基を保護して、式(III):
で表される化合物を得る、一級ヒドロキシル基保護化工程;及び
一級ヒドロキシル基保護化工程で得られた式(III)で表される化合物を酸化して、式(IV)で表されるアルデヒドを得る、保護化アルデヒド形成工程をさらに含むことができる。
式(II)、(III)及び(IV)において、L1は、前記と同義である。
式(III)及び(IV)において、PG1は、一級ヒドロキシル基の保護基である。本発明者らは、一級ヒドロキシル基の保護基PG1として嵩高い基を選択することにより、以下において説明する速度論的光学分割工程における立体選択性が顕著に向上することを見出した。PG1は、前記と同義である。PG1が前記の嵩高い保護基である場合、速度論的光学分割工程における立体選択性が顕著に向上して、所望の絶対立体配置を有する式(I-2)で表される化合物を高収率で得ることができる。
一級ヒドロキシル基保護化工程において、式(II)で表されるジオールの一方の一級ヒドロキシル基を保護基PG1で保護する反応の条件は、使用される保護基PG1による保護化の公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。
本工程は、前記で説明した式(I-1)で表される化合物の製造方法における第一酸化工程と同様の条件で実施することができる。
[3-2. 炭素鎖連結工程]
一態様において、本発明の方法は、式(IV):
で表されるアルデヒドと式(V):
で表される化合物とを反応させて、式(VI):
で表される二級アルコールを得る、炭素鎖連結工程を含むことが必要である。
式(IV)、(V)及び(VI)において、R1、L1及びPG1は、前記と同義である。
本工程は、前記で説明した式(I-1)で表される化合物の製造方法における炭素鎖連結工程と同様の条件で実施することができる。
[3-3. 速度論的光学分割工程]
一態様において、本発明の方法は、式(VI)で表される二級アルコールをリパーゼで処理して、式(VIII-2):
で表される化合物を得る、速度論的光学分割工程を含むことが必要である。
本発明者らは、前記特徴を有する保護基PG1を用いて一級ヒドロキシル基が保護された式(VI)で表される二級アルコールをリパーゼで処理することにより、光学活性なヒドロキシ脂肪酸を立体選択的に得られることを見出した。ラセミ体の二級アルコールをリパーゼで処理すると、特定の絶対立体配置を有するエナンチオマーが優先的にアセチル化され、他方の絶対立体配置を有するエナンチオマーのアセチル化の反応速度は有意に遅い。このような性質を利用して特定のエナンチオマーのみを得る方法は、速度論的光学分割として知られる方法である。しかしながら、リパーゼを用いて長い炭素鎖を有する二級アルコールを速度論光学分割する場合、二級ヒドロキシル基が炭素鎖の中央付近に存在すると、キラル中心の炭素に結合する基の立体的環境の差が少なくなるため、酵素による基質認識の速度が低下する場合がある。それ故、このような場合では、速度論的光学分割による立体選択性が低下する可能性がある。本発明者らは、一級ヒドロキシル基の保護基PG1として前記で開示した特定の嵩高い基を選択することにより、リパーゼを用いる速度論的光学分割における立体選択性が顕著に向上して、式(VIII-2)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得られることを見出した。
式(VIII-2)において、R1、L1及びPG1は、前記と同義である。本工程の反応は、一級ヒドロキシル基の保護基PG1として前記で開示した特定の嵩高い基を選択することにより、速度論的光学分割における高い立体選択性を発現することができる。このため、R1及びL1は、前記で開示した基の範囲内の任意の組み合わせから選択することができる。R1及びL1が、前記で開示した基の如何なる組み合わせであっても、式(VIII-2)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得ることができる。
本工程において使用されるリパーゼとしては、例えば、リパーゼAK Amano(商標)、リパーゼPS(商標)及びCHIRAZYME(商標)を挙げることができる。式(VI)で表される二級アルコールを速度論的光学分割するための反応の条件は、使用されるリパーゼの公知の反応条件に基づき、当業者が適宜設定することができる。前記リパーゼを用いることにより、式(VIII-2)で表される絶対立体配置を有する二級アルコールを高い立体選択性で得ることができる。
[3-4. 第三酸化工程]
一態様において、本発明の方法は、式(VIII-2)で表される化合物を酸化して、式(I-2)で表される化合物を得る、第三酸化工程を含むことが必要である。
本工程は、所望により、式(VIII-2)で表される化合物の保護基PG
1を脱保護して、式(IX-2):
で表される化合物を得る、一級ヒドロキシル基脱保護工程;
一級ヒドロキシル基脱保護工程で得られた式(IX-2)で表される化合物の一級ヒドロキシル基を選択的に酸化して、式(X-2):
で表される化合物を得る、ヒドロキシアルデヒド形成工程;
ヒドロキシアルデヒド形成工程で得られた式(X-2)で表される化合物のアルデヒド基を選択的に酸化して、式(I-2)で表される化合物を得る、ヒドロキシカルボン酸形成工程をさらに含むことができる。
式(IX-2)及び(X-2)において、R1及びL1は、前記と同義である。
本工程は、前記で説明した式(I-1)で表される化合物の製造方法における第三酸化工程と同様の条件で実施することができる。
以上説明したように、本発明の方法は、合成的手段、又は合成的手段及び酵素的手段の組み合わせを用いることにより、光学活性なヒドロキシ脂肪酸を立体選択的に得ることができる。それ故、本発明の方法により、低製造コスト及び高立体選択性で、多様な構造を有する式(I-1)又は(I-2)で表されるヒドロキシ脂肪酸を製造することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<実験1:10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸の製造>
[実験1-1:アルコール(5)の合成]
5 gの1,10-デカンジオール (28.69 mmol)を30 mlのDMFに溶解させた。この溶液に、4.32 gのTBSCl (28.69 mmol)及び1.95 gのイミダゾール (28.69 mmol)を加えて、溶液を15時間攪拌した。得られた反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止させた。反応溶液を、ヘキサン:酢酸エチル=1:1混合溶媒で抽出した。有機層を、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、12.56 gの粗生成物を得た。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、8.44 gのアルコール(5) (29.25 mmol)を無色油状物として得た。アルコール(5)のFT-IRスペクトルを図1に示す。
[実験1-2:アルデヒド(2)の合成]
1 gのアルコール(5) (3.47 mmol)を5 mlのジクロロメタンに溶解させた。この溶液に、1.91 gのDess-Martinペルヨージナン (4.50 mmol)を加えて、溶液を30分攪拌した。得られた反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止させた。反応溶液を、ジクロロメタンで抽出した。有機層を、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、粗生成物を得た。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(ショートカラム、ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、0.894 gのアルデヒド(2) (3.12 mmol)を無色油状物として得た。アルデヒド(2)のFT-IRスペクトルを図2に示す。
[実験1-3:二級アルコール(3)の合成]
窒素雰囲気下、894 mgのアルデヒド(2) (3.12 mmol)を含む3 mlのTHF溶液に、3.43 mlの1 MオクチルマグネシウムブロミドのTHF溶液 (3.43 mmol)を滴下して加えた。溶液を2時間攪拌した後、該溶液に純水を加えて、反応を停止させた。反応溶液を、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、1.43 gの粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、1.32 gの二級アルコール(3)を無色油状物として得た。二級アルコール(3)のFT-IRスペクトルを図3に示す。
[実験1-4:ケトン(8)の合成]
556 mgの二級アルコール(3) (1.39 mmol)を3 mlのジクロロメタンに溶解させた。この溶液に、886 mgのDess-Martinペルヨージナン (2.09 mmol)を加えて、溶液を20分攪拌した。得られた反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止させた。反応溶液を、ジクロロメタンで抽出した。有機層を、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、801 mgの粗生成物を得た。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、557 mgのケトン(8) (1.39 mmol)を無色油状物として得た。
[実験1-5:ケトン(8)の立体選択的還元による二級アルコール(3-R)の合成]
反応容器を窒素置換した後、該反応容器に、557 mgのケトン(8) (1.39 mmol)を含む5 mlのジクロロメタン溶液を加えた。反応溶液を、氷浴で0℃に冷却した。反応溶液に、39 mgの(S)-5,5-ジフェニル-2-メチル-3,4-プロパノ-1,3,2-オキサザボロリジン (0.139 mmol)を加えた。次いで、反応溶液を0℃で攪拌しながら、該反応容器に1.7 mlの0.9 M ボラン-THF錯体 (1.53 mmol)を滴下した。反応溶液を0℃で1時間攪拌後、該反応溶液に5 mlのメタノールを滴下して、反応を停止した。反応溶液に、ジクロロメタン及び純水を順次加えて抽出した。有機層を、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、635 mgの粗生成物を得た。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、560 mgの二級アルコール(3-R) (1.40 mmol)を白色固体として得た。
[実験1-6:ジオール(6-R)の合成]
560 mgの二級アルコール(3-R) (1.40 mmol)を8 mlのメタノールに溶解させた。この溶液に、0.5 mlの2 M塩酸を加えて、溶液を3時間攪拌した。得られた反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩酸を中和した。反応溶液を、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、粗生成物を得た。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、360 mgのジオール(6-R) (1.26 mmol)を白色固体として得た。ジオール(6-R)のFT-IRスペクトルを図4に示す。
[実験1-7:アルデヒド(7-R)の合成]
360 mgのジオール(6-R) (1.26 mmol)を20 mlのジクロロメタンに溶解させた。この溶液に、2.03 mgの2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)触媒 (0.013 mmol)及び311 mgの次亜塩素酸ナトリウム・五水和物(1.89 mmol)を加えて、溶液を1時間攪拌した。攪拌後、得られた反応溶液に、飽和食塩水及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を順次加えて反応を停止し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、402 mgのアルデヒド(7-R)の粗生成物を得た。この粗生成物を、そのまま次反応に用いた。
[実験1-8:Pinnick酸化による(R)-カルボン酸の合成]
402 mgのアルデヒド(7-R)の粗生成物を、20 mlのt-ブタノールに溶解させた。この溶液に、5 mlの純水を加えて攪拌した。次いで、この溶液に、1.4 mlの2-メチル-2-ブテン (12.6 mmol)、393 mgのリン酸二水素ナトリウム (2.52 mmol)、及び342 mgの亜塩素酸ナトリウム (3.78 mmol)を加えて、溶液を1時間攪拌した。攪拌後、得られた反応溶液に飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することで、332 mgの10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸 (1.10 mmol)を白色固体として得た。10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸のFT-IRスペクトルを図5に示す。
常法(原田宜之, TCIメール, 2003.1, 第117号)に従い、10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸の10位ヒドロキシル基において(S)-2-メトキシ-2-(1-ナフチル)プロピオン酸((S)-MαNP)又は(R)-2-メトキシ-2-(1-ナフチル)プロピオン酸((R)-MαNP)と反応させた。得られた10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸の(S)-MαNPエステル及び(R)-MαNPエステルの
1H-NMRスペクトルを測定した(装置:UNITY INOVA600型(バリアン社製)、周波数:600 MHz、溶媒:CDCl
3)。(S)-MαNPエステル及び(R)-MαNPエステルの脂肪酸部位のNMR化学シフト(δ
S及びδ
R)並びにその差分(Δδ(δ
R-δ
S))を表1に示す。
表1に示すΔδから、得られた10-ヒドロキシオクタデカン酸の絶対立体配置が(R)-体であることを確認した。
常法(原田宜之, TCIメール, 2003.1, 第117号)に従い、10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸の10位ヒドロキシル基においてMαNPと反応させて、10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルを得た。得られたMαNPエステルを、順相シリカゲルHPLCで定量分析した。ラセミ体の10-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルを、同一条件の順相シリカゲルHPLCで定量分析した。順相シリカゲルHPLCクロマトグラムを図6に示す。図中、Aは、10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルのクロマトグラムを、Bは、ラセミ体の10-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルのクロマトグラムを、それぞれ示す。シリカゲルHPLCクロマトグラムから、得られた10-ヒドロキシオクタデカン酸は、99% e.e.以上の(R)-エナンチオマーであることを確認した。
<実験2:10-(S)-ヒドロキシオクタデカン酸の製造>
[実験2-1:二級アルコール(3)の速度論的光学分割による二級アルコール(3-S)の合成]
1 gの二級アルコール(3) (2.50 mmol)を5 mlのジイソプロピルエーテルに溶解させた。この溶液に、2.3 mlの酢酸ビニル (25.0 mmol)及び0.5 gのリパーゼAK Amano(商標)(和光純薬工業)を加えて、溶液を8時間攪拌した。反応溶液からセライト濾過によってリパーゼを除去した。得られた反応溶液を濃縮することで、0.786 gの粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)で精製し、0.43 gの二級アルコール(3-S)(0.107 mmol)を無色油状物として得た。
[実験2-2:ジオール(6-S)の合成]
60 mgの二級アルコール(3-S) (0.150 mmol)を1 mlのメタノールに溶解させた。この溶液に、1 mlの2 M塩酸を加えて、溶液を15時間攪拌した。得られた反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩酸を中和した。反応溶液を、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、45.7 mgのジオール(6-S)の粗生成物を白色固体として得た。
[実験2-3:アルデヒド(7-S)の合成]
43 mgのジオール(6-S)の粗生成物を1 mlのジクロロメタンに溶解させた。この溶液に、0.23 mgのTEMPO触媒 (0.0015 mmol)及び27.1 mgの次亜塩素酸ナトリウム・五水和物 (0.165 mmol)を加えて、溶液を1時間攪拌した。攪拌後、得られた反応溶液に、飽和食塩水及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を順次加えて反応を停止し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、42.4 mgのアルデヒド(7-S)の粗生成物を白色固体として得た。
[実験2-4:Pinnick酸化による(S)-カルボン酸の合成]
42.4 mgのアルデヒド(7-S)の粗生成物を、1 mlのt-ブタノールに溶解させた。この溶液に、0.25 mlの純水を加えた。次いで、この溶液に、0.16 mlの2-メチル-2-ブテン (1.5 mmol)、46.8 mgのリン酸二水素ナトリウム (0.30 mmol)、及び40.7 mgの亜塩素酸ナトリウム (0.45 mmol)を加えて、溶液を3時間攪拌した。攪拌後、得られた反応溶液を、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮することで、86.3 mgの粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル:酢酸=10:1:1)で精製することで、18.3 mgの10-(S)-ヒドロキシオクタデカン酸 (0.061 mmol)を白色固体として得た。
常法に従い、10-(S)-ヒドロキシオクタデカン酸の10位ヒドロキシル基においてMαNPと反応させて、10-(S)-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルを得た。得られたMαNPエステルを、順相シリカゲルHPLCで定量分析した。ラセミ体の10-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルを、同一条件の順相シリカゲルHPLCで定量分析した。順相シリカゲルHPLCクロマトグラムを図7に示す。図中、Aは、10-(S)-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルのクロマトグラムを、Bは、ラセミ体の10-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルのクロマトグラムを、それぞれ示す。シリカゲルHPLCクロマトグラムから、得られた10-ヒドロキシオクタデカン酸は、99% e.e.以上の(S)-エナンチオマーであることを確認した。また、図7Aに示すクロマトグラム上のピークの保持時間から、得られた10-ヒドロキシオクタデカン酸の絶対立体配置が(S)-体であることを確認した。
<実験3:異なる一級ヒドロキシル基の保護基を用いる10-(R)-ヒドロキシオクタデカン酸の製造>
[実験3-1:TBDPSを用いる(R)-カルボン酸の合成]
実験1において、一級ヒドロキシル基の保護基をTBSからTBDPSに変更した他は、実験1と同様の手順により、10-ヒドロキシオクタデカン酸を合成した。実験1-8と同様の手順で、10-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルを得た。得られたMαNPエステルを、順相シリカゲルHPLCで定量分析した。順相シリカゲルHPLCクロマトグラムを図8に示す。シリカゲルHPLCクロマトグラムから、一級ヒドロキシル基の保護基としてTBDPSを用いて得られた10-ヒドロキシオクタデカン酸は、一級ヒドロキシル基の保護基としてTBSを用いた場合と同様、99% e.e.以上の(R)-エナンチオマーであることを確認した。
[実験3-2:TMSを用いる(R)-カルボン酸の合成]
実験1において、一級ヒドロキシル基の保護基をTBSからTMSに変更した他は、実験1と同様の手順により、10-ヒドロキシオクタデカン酸を合成した。実験1-8と同様の手順で、10-ヒドロキシオクタデカン酸のMαNPエステルを得た。得られたMαNPエステルを、順相シリカゲルHPLCで定量分析した。順相シリカゲルHPLCクロマトグラムを図9に示す。シリカゲルHPLCクロマトグラムから、一級ヒドロキシル基の保護基としてTMSを用いて得られた10-ヒドロキシオクタデカン酸は、ラセミ体であることを確認した。
以上の結果から、本発明の方法において、一級ヒドロキシル基の保護基として特定の嵩高い基を選択することにより、立体選択性が顕著に向上して、所望の絶対立体配置を有するヒドロキシ脂肪酸を得られることが明らかとなった。一級ヒドロキシル基の保護基としてTBS又はTBDPSを用いた場合には、99%e.e.以上で目的物が得られたことから、一級ヒドロキシル基の保護基としてはTBSと同等又はそれ以上の嵩高さを有する基を選択することが必要と推測される。
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。