次世代の超高速ネットワークを構成する規格の1つとして、100ギガビットイーサネット(100GbE)の開発が進んでいる(非特許文献1参照)。特に、中・長距離のビル間(〜10km)・遠隔ビル間(〜40km)のデータのやり取りをする100GBASE−LR4・100GBASE−ER4が有望視されている。上記の規格では、定められた4つの光の波長帯(例えば、1294.53nm〜1296.59nm、1299.02nm〜1301.09nm、1303.54nm〜1305.63nm、1308.09nm〜1310.19nmの4波長帯)の信号に対し、それぞれに25Gb/s(または28Gb/s)のデータを乗せた後、それらを重ね合わせて100Gb/sの信号を生成するという、LAN−WDMの方法が用いられる。
LAN−WDMでは、波長多重光送信器モジュールが使われる。波長多重光送信器モジュールでは、小型化・低消費電力化・低チャープ化が重要とされ、チャーピング(波長変動)の小さい外部変調方式が用いられている。なかでも、電界吸収効果を利用した電界吸収型(EA:Electroabsorption)変調器は、小型化、低消費電力化、半導体レーザに対する集積性などの観点から優れた特長を持つ。特に、EA変調素子と単一波長性に優れる分布帰還型(DFB:Distributed Feedback Laser)レーザとを一つの半導体基板上にモノリシックに集積した半導体光集積素子(EA−DFBレーザ)は、高速・長距離伝送用発光装置として広く用いられる。
EA−DFBレーザを駆動するためには、DFBレーザへの電流Iopの注入、EA変調器へのDCバイアスVbの印加及びEA変調器への高周波バイアスVppの印加を必要とする。DCバイアスVbに負の電圧を印加し、そしてその絶対値を大きくしていくと、変調光が有するチャープ値βcが減少し、長距離伝送においても波形劣化を抑えることができる。
図4は、光信号波形(光パルス波形)と伝送距離との関係についてのチャープ値依存性を示す。図4(a)はチャープ値βc=1のときの光波形と伝送距離との関係を示し、図4(b)はチャープ値βc=−0.7のときの光波形と伝送距離との関係を示す。図4(a)に示されるように、チャープ値βcが正値(例えばβc=1)である場合は、伝送距離40km以上の長距離伝送後における光波形が大きく劣化している。それに対して、図4(b)に示されるように、チャープ値βcが負値(例えばβc=−0.7)である場合は、伝送距離40km以上の長距離伝送後における光波形の劣化を抑えることができる。
図5は、100GbEで使用される、従来の波長多重光送信器モジュール300の構成を示す。図5には、1つの半導体チップである波長多重光送信器310と、空間光学系320とを備え、光ファイバ330に接続された波長多重光送信器モジュール300が示されている。波長多重光送信器310及び光ファイバ330は、空間光学系320を介して光学的に結合している。
波長多重光送信器310は、EA−DFB3110〜3113と、1つの多モード干渉(MMI)型の4対1の光合波器315と、EA−DFB3110〜3113及び光合波器315をそれぞれ接続する入力導波路3140〜3143と、光合波器315の出力導波路316と、を含む。EA−DFB3110〜3113は、それぞれ、DFBレーザ3120〜3123及び4つのEA型光変調器3130〜3133が集積されている。
DFBレーザ3120〜3123はいずれも連続光を出力し、DFBレーザ3120〜3123の各レーザ発振波長帯は、それぞれ、1294.53nm〜1296.59nm、1299.02nm〜1301.09nm、1303.54nm〜1305.63nm、1308.09nm〜1310.19nmである。ここで、通常、上記4波長帯を短波長側から、lane0、lane1、lane2、lane3と呼ぶ。
EA変調器3130〜3133は、同一組成の吸収層を持ち、別々の電気信号(25Gb/sもしくは28Gb/s)の電気入力に従って、DFBレーザ3120〜3123の連続光を25Gb/sもしくは28Gb/sの変調信号光に変換する。EA変調器3130〜3133で生成される変調信号光は、それぞれ入力導波路3140〜3143を介して光合波器315に出力される。
光合波器315は、EA−DFB3110〜3113からそれぞれ入力された波長の異なる4つの変調信号光を合波し、1つに束ねた波長多重光として出力導波路316を介して空間光学系320に出力する。
空間光学系320は、第1のレンズ321と、アイソレータ322と、第2のレンズ323と、を含む。光合波器315で1つに束ねられて出力された波長多重光は、拡散光340となって空間に放射され、第1のレンズ321によって平行光341に直され、アイソレータ322を通過し、第2のレンズ323によって収束光342に集光され、光ファイバ330に結合される。
尚、図には示していないが、波長多重光送信器モジュール300は、上記以外にも波長多重光送信器310の温度センサ(例えばサーミスタ)、温度制御用のペルチェ素子、DFBレーザ3120〜3123やEA型光変調器3130〜3133に電源を供給するための直流電源を有することができる。また、波長多重光送信器モジュール300は、EA型変調器3130〜3133を駆動するための変調器ドライバ・高周波線路終端抵抗、変調器ドライバの振幅・バイアス電圧・電気クロスポイントを制御するための信号線や制御回路を有することができる。さらに、波長多重光送信器モジュール300では、変調器ドライバの前段に、電気信号の波形整形回路やクロック抽出回路、さらには電源電圧変動の影響を抑制する回路を設ける場合もある。
EA型光変調器3130〜3133としては、消光比に優れ、正孔のパイルアップ抑制にも有効なInGaAlAs系引張歪量子井戸を用いることができる。入力導波路3140〜3143及び出力導波路316としては、高周波の帯域を確保するために、低誘電率BCB埋め込みのリッジ型導波路を用いることができる。光合波器315としては、光閉じ込めが強く、放射損失の小さなハイメサ型導波路を用いることができる。
波長多重光送信器310のチップの大きさは、例えば2,000×2,600μmとすることができ、4つのDFBレーザ3120〜3123の共振長を400μm、DFBレーザ3120〜3123とEA型光変調器3130〜3133との間の導波路長を50μmとすることができ、EA型光変調器3130〜3133の素子長を150μmとすることができる。
波長多重光送信器モジュール300は、作製した波長多重光送信器310を12mm×20mmという超小型のパッケージに実装したもので、40℃において100Gbit/s動作させたとき、シングルモードファイバ上での40kmエラーフリー伝送が可能である。これらの結果が示すように、波長多重光送信器モジュール300は将来世代の100GbE用トランシーバとして十分な性能を有する。
図6は、100GbEで使用される、従来の集積波長多重光送信器モジュール400の構成を示す(非特許文献2参照)。図6には、半導体チップである波長多重光送信器4101及び4102と、空間光学系420とを備え、光ファイバ430に接続された波長多重光送信器モジュール400が示されている。波長多重光送信器4101及び4102と、光ファイバ430とは、空間光学系420を介して光学的に結合している。
波長多重光送信器4101は、2つのDFBレーザ4120〜4121及び2つのEA型光変調器4130〜4131がそれぞれ集積された2つのEA−DFB4110〜4111と、MMI型の2対1の光合波器4151と、EA−DFB4110〜4111及び光合波器4151をそれぞれ接続する入力導波路4140〜4141と、光合波器4151の出力導波路4161と、を含む。波長多重光送信器4102も同様に、2つのDFBレーザ4122〜4123及び2つのEA型光変調器4132〜4133がそれぞれ集積された2つのEA−DFB4112〜4113と、MMI型の2対1の光合波器4152と、EA−DFB4112〜4113及び光合波器4152をそれぞれ接続する入力導波路4142〜4143と、光合波器4152の出力導波路4162と、を含む。
DFBレーザ4120〜4123はいずれも連続光を出力し、DFBレーザ4120〜4121の各レーザ発振波長帯は、1294.53nm〜1296.59nm、1299.02nm〜1301.09nmであり、DFBレーザ4122〜4123の各レーザ発振波長帯は、それぞれ1303.54nm〜1305.63nm、1308.09nm〜1310.19nmである。
EA変調器4130〜4133は、同一組成の吸収層を持ち、別々の電気信号(25Gb/sもしくは28Gb/s)の電気入力に従って、DFBレーザ4120〜4123の連続光を、それぞれ、25Gb/sもしくは28Gb/sの変調信号光に変換して、入力導波路4140〜4143を介して光合波器4151及び4152に出力される。
光合波器4151及び4152は、波長の異なる2つの変調信号光をそれぞれ合波し、1つに束ねた波長多重光として出力導波路4161及び4162を介して空間光学系420にそれぞれ出力する。
空間光学系420は、第1のレンズ4211及び4212と、ミラー422と、半波長板423と、偏波フィルタ424と、アイソレータ425と、第2のレンズ426と、を含む。光合波器4151及び4152でそれぞれ1つに束ねられて出力された波長多重光は、拡散光4401及び4402となって空間に放射され、第1のレンズ4211及び4212によって平行光4411及び4412に直される。平行光4411は、ミラー422によって直角に進路が変わり、ミラー422と偏波フィルタ424との間に設けられた半波長板423によって偏光が90°変わり、偏波フィルタ424によってさらに直角に進路が変わってアイソレータ425に入射する。一方で、平行光4412は、半波長板を通過しておらず偏光が変わっていないため偏波フィルタ424を透過し、アイソレータ426に入射する。すなわち、偏波フィルタ425により、2つの波長多重光が合波され、波長多重合波光になる。アイソレータ426を通過した平行光4411及び4412は、第2のレンズ426によって収束光442に集光され、光ファイバ430に結合される。
波長多重光送信器4101及び4102のチップの大きさはそれぞれ1,500×1,000μm、4つのDFBレーザ4120〜4123の共振長を400μm、LCレセプタクルを含めた波長多重光送信器モジュール400の大きさは8.7mm×29mmとすることができる。波長多重光送信器モジュール400は、40℃において100Gbit/s動作させたとき、40kmのエラーフリー動作が可能である。
図7は、DFBレーザ、EA変調器および光合波器が形成された半導体チップの断面図を示す。図7には、n電極501と、n電極501上に設けられたn−InP基板502と、n−InP基板502上に設けられたn−InPクラッド層503とを含み、n−InPクラッド層503上に、DFB半導体レーザ部520と、EA変調器部530と、導波路・光合波器部540とが設けられた半導体チップが示されている。
DFB半導体レーザ部520は、n−InPクラッド層503上に設けられた活性層504と、活性層504上に設けられたガイド層505と、ガイド層505上に設けられたp−InPクラッド層506と、p−InPクラッド層506上に設けられた電極507と、で構成される。ガイド層505には、EB(electron beam)描画により、回折格子が形成されている。
EA変調器部530は、吸収層508と、吸収層508上に設けられたp−InPクラッド層506と、p−InPクラッド層506上に設けられた電極509と、で構成される。また、導波路・光合波器部540は、導波路(もしくは光合波器)のコア層510と、ノンドープのInP層511と、で構成される。
DFB半導体レーザ部520の中心部分には、発振波長の単一モードを実現するために、回折格子を四分の一波長だけ位相シフトした四分の一波長位相シフト512が設けられている。1つの半導体チップ内では、活性層504の組成は同一で、波長を変えるには回折格子のピッチを変えることにより行う。また、1つの半導体チップ内では、EA変調器の吸収層508の組成も同一である。
さて、図5に示す従来の波長多重光送信器モジュール及び図6に示す従来の集積波長多重光送信器モジュールは有用ではあるものの、チャーピングの問題が残る。図4に示すように、EA−DFBレーザから出射される変調光の波形の形状は、チャーピングに起因して伝送距離が長距離になるにつれて劣化する。そのため、例えば光波形の劣化を抑えるためにEA変調器に印加するDCバイアスVbに負の電圧を印加し、その絶対値を大きくしチャープ値βcを負値にして伝送を行うことも考えられる。しかし、その反面、DCバイアスVbの絶対値を大きくすることによりEA変調器の損失が増加し、DFBレーザから出力される光の光強度が大きく損失してしまうため、長距離伝送に十分な光強度を得ることが困難になってしまう。
一般に、EA変調器に印加するDCバイアスVbは、大きな光出力を得るためにはその絶対値が小さいほうがよく、長距離伝送可能な光波形を得るためにはその絶対値が大きいほうがよいというトレードオフの関係を有する。このトレードオフを打破するために、非特許文献3に、EA変調器の出力端に半導体光増幅器(SOA)を集積する方法が報告されている。非特許文献3に記載の構成においては、EA変調器の出力端に集積されたSOAに電流注入を行うことにより、EA変調器から出力された変調光が有する正のチャープ値がSOAを伝搬するときにチャープ値変換されて負値チャープとなるため、長距離伝送に適した状態を実現することができる。
しかしながら、非特許文献3に記載の構成のように、EA変調器の出力端にSOAを単純に集積しただけでは、SMF(Single Mode Fiber)長距離伝送に対して十分なチャープ変換値を得ることができない。また、非特許文献3に記載の構成では、SOAに電流を印加するための制御用端子が別途必要であり、制御端子数が増加するとともに、消費電力量が増大してしまう。
これらを解決するのが特許文献1に記載された、EA−DFBレーザにSOAを集積したSOA集積EA−DFBレーザである。SOA集積EA−DFBレーザでは、制御端子数の増加を防ぐため、同一端子を用いてDFBレーザ部及びSOA部を制御してそれぞれの電流注入を行っている。
図8は、特許文献1に記載の構成をそのまま図5に示す波長多重光送信器モジュールに適用した構成を示す。図8に記載の構成は、図5に記載のEA−DFB3110〜3113に、SOA6120〜6123をそれぞれ追加してSOA集積EA−DFBレーザ6110〜6113を構成している。SOA6120〜6123の長さは例えば50μmである。図示していないが、DFBレーザ3120とSOA6120、DFBレーザ3121とSOA6121、DFBレーザ3122とSOA6122、DFBレーザ3123とSOA6123は、それぞれ同一端子でもって制御される。
図9は、同じように、特許文献1に記載の構成をそのまま図6に示す波長多重光送信器モジュールに適用した構成を示す。図9に記載の構成は、図6に記載のEA−DFB4110〜4113に、SOA7120〜7123をそれぞれ追加してSOA集積EA−DFBレーザ7110〜7113を構成している。SOA7120〜7123の長さは例えば50μmである。図示していないが、DFBレーザ4120とSOA7120、DFBレーザ4121とSOA7121、DFBレーザ4122とSOA7122、DFBレーザ4123とSOA7123は、それぞれ同一端子でもって制御される。
図10は、DFBレーザ、EA変調器、SOAおよび光合波器が形成された半導体チップの断面図を示す。図10(a)には、図7に記載の断面構造におけるEA変調器部530と導波路・光合波器部540との間にSOA部810を追加したSOA集積EA−DFBレーザが示されている。SOA部810は、n−InPクラッド層503上に設けられた活性層801と、活性層801上に設けられたガイド層802と、ガイド層802上に設けられたp−InPクラッド層506と、p−InPクラッド層506上に設けられた電極803と、で構成される。一般的にはDFB半導体レーザ部520の活性層504と活性層801の組成は同じで、DFB半導体レーザ部520のガイド層505とガイド層802の組成も同じである。ただし、ガイド層802に回折格子はない。
上述したように、図8及び図9に記載の構成は、チャーピングの問題を解決する。しかしながら、なお、lane間の光強度に差が生じる問題があった。一般に、SOAは、図10(b)に示すように、入力波長によって、利得の度合いが異なるような利得スペクトルを有する。また、利得スペクトルは、SOAへの注入電流によって変化する。利得のピークに近いlaneの利得は高く、利得ピークから離れたlaneの利得は低いため、結果として(同じSOAをlane0〜3に並べると)lane間の光強度に差が生じてしまう。
また一方、lane間の光強度の差はSOAばかりではなく、EA変調器によっても生じる。これについて説明する。SOAの影響を排除するため図5及び図6に記載の波長多重光送信器モジュールで検討すると、図5及び図6に記載の波長多重光送信器モジュールでは、同一の半導体チップで短波長の変調信号光と長波長の変調信号光が存在し、短波長の光の光強度が長波長の光の光強度に比較して1dB程度弱いという欠点があった。以下、その理由を説明する。
EA変調器の吸収層は、多重量子井戸(Multi−Quantum−Well)構造からなり、電圧を印加することで光の吸収端をシフトする量子シュタルク(QCSE)効果を利用する。ここで、図11を用いて、EA変調器の吸収層の吸収曲線とDFBレーザの発振波長との関係を説明する。図11(a)はEA変調器に電圧が印加されていない場合を示す、図11(b)はEA変調器に電圧が印加されている場合を示し、図11(c)はEA変調器への電圧印加の有無により生成されるデジタル信号を示す。
図11(a)に示すように、EA変調器に電圧が印加されていない場合、吸収層の吸収曲線がDFBレーザの発振波長にかからず、レーザ光はそのまま外部に出射されて光オン状態になる。一方、図11(b)に示すように、EA変調器に電圧が印加された場合、吸収端がシフトして吸収曲線がDFBレーザの発振波長にかかり、レーザ光が吸収されて光オフ状態になる。EA変調器への電圧印加の有無により、図11(c)に示すように、光のオン、オフのデジタル信号が生成できる。
ここで、上述のように、同一チップ内ではEA変調器の組成は同一であり、つまり複数のEA−DFBが同一チップ内に存在しようとも、EA変調器の吸収曲線の動き方は一定である。これに対して、複数のEA−DFBでそれぞれ発振波長が異なるため、各EA−DFBのEA変調器に印加する電圧を調整することで最適な変調条件に合わせる。典型的には、EA変調器に印加する電圧は、lane0に対して0.1V(オフ)/2.1V(オン)、lane1に対して0.3V/2.3V、lane2に対して0.5V/2.5V、lane3に対して0.7V/2.7V程度であり、±0.2V程度の微調整を行う。
しかしながら、各laneの変調条件をそれぞれ調整しても、実際には全てのlaneに対して完全に同等に最適な状態に合わせることは困難である。図11(d)は、発振波長が短波長の場合と長波長の場合とで、それら2つの波長に対するオン状態の吸収曲線のかかり方を示す。図11(d)に示されるように、オン状態であるので、長波は吸収曲線から完全に離れているが、短波は一部が吸収曲線にかかってしまっている。このため、一般に、最短波のlane0は、より長波のlane1−lane3に対してオン状態での光損失が大きく、lane0の変調信号光は、他のlaneに比較して1dB程度光強度が弱い。また、EA変調器による光の損失を減らす場合には、電圧を減らす方向に調整する必要があるが、上述のようにlane0のオフ電圧は典型的に0.1V程度であるため、±0.2Vの微調整を行おうにも十分な調整余地がなく、lane間の光強度に差が生じてしまう。
これを補うためには、例えば、lane0のEA変調器による光の損失を補償するために、lane0のDFBレーザの出力を上げることが考えられる。図12に、図5の波長多重光送信器における、lane0、lane2及びlane3の注入電流と光出力との関係を示す。典型的な光出力は1mW程度(45℃での変調時の平均光出力)であり、典型的なDFBレーザの注入電流は100mAであるが、lane0は光出力が1dBダウン(0.79倍)になっている。そのため、同じ光出力を確保するため、lane0の注入電流を125mAにする。注入電流を100mAから125mAにあげることで、DFBレーザの光出力が1.27倍になり、lane0の光出力がlane2、3の光出力と同等となる。
しかしながら、lane0のみDFBレーザの駆動電流を1.25倍に上げることは、DFBレーザの活性層内の動作電流密度(もしくは単純に、DFBレーザ単位長さあたりの電流量)を1.25倍に上げることになる。一般に、DFBレーザの劣化速度が動作電流密度と相関を持つことが知られているが、lane0は動作電流密度の増加により活性層内部における発熱量が増加し、lane2及びlane3に対して劣化が加速され、この劣化によりlane間のDFBレーザの光出力にばらつきが生じる。
また、lane1の光出力は、lane2及びlane3に比較して、典型的には0.4dBダウン(0.91倍)であるため、lane1の注入電流を110mAにあげることで、DFBレーザの光出力を1.11倍に上げることになる。従って、lane1でも、lane2及びlane3に比べ、DFBレーザの劣化が進むことになる。
このようなDFBレーザの劣化のばらつきは、図6に示す構成においても同様に存在する。図6に示す波長多重光送信器モジュールでは、2つの半導体チップ(波長多重光送信器)があり、lane0はlane1に対して、lane2はlane3に対して、典型的には0.4dB出力が低い(0.91倍)。つまり、lane0及びlane2の注入電流を110mAに上げることで、DFBレーザの光出力を1.11倍に上げる必要がある。
すなわち、DFBレーザの発振波長が短波にあるlaneの方が、長波にあるものより、オン状態でのEA変調器による光の損失が大きく、それを補償するためにDFBレーザの駆動電流を上げる必要があった。そのために、発振波長が短波にあるlaneのDFBレーザの単位長さあたりの電流量が増加し、発振波長によりDFBレーザの劣化にばらつきが生じてしまう。
以上説明したように、波長多重光送信器ではlane間の光強度が異なっており、このlane間の光強度を、(光強度の弱いlaneの)DFBレーザの電流量を増やすことで対処したのでは、lane間のDFBレーザの劣化にばらつきが生じ、その結果、lane間のDFBレーザの光出力にばらつきが生じてしまうという問題があった。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る波長多重光送信器モジュールの構成を示す。図1には、1つの半導体チップである波長多重光送信器110と、空間光学系120とを備え、光ファイバ130に接続された波長多重光送信器モジュール100が示されている。波長多重光送信器110及び光ファイバ130は、空間光学系120を介して光学的に結合している。
波長多重光送信器110は、4つのSOA集積EA−DFBレーザ1110〜1113と、MMI型の4対1の光合波器116と、SOA集積EA−DFBレーザ1110〜1113及び光合波器116をそれぞれ接続する入力導波路1150〜1153と、光合波器116の出力導波路117と、を含む。SOA集積EA−DFBレーザ1110〜1113は、それぞれ、DFBレーザ1120〜1123と、EA型光変調器1130〜1133と、SOA1140〜1143とが集積されている。
DFBレーザ1120〜1123は、いずれも連続光を出力し、DFBレーザ1120〜1123の各レーザ発振波長帯は、1294.53nm〜1296.59nm、1299.02nm〜1301.09nm、1303.54nm〜1305.63nm、1308.09nm〜1310.19nmである。
EA変調器1130〜1133は、同一組成の吸収層を持ち、別々の電気信号(25Gb/sもしくは28Gb/s)の電気入力に従って、DFBレーザ1120〜1123の連続光を、それぞれ、25Gb/sもしくは28Gb/sの変調信号光に変換する。EA変調器1130〜1133で生成される変調信号光は、それぞれ、入力導波路1150〜1153を介して光合波器116に出力される。
SOA1140〜1143は、DFBレーザ1120〜1123と同じ組成の活性層を有する。
SOA集積EA−DFBレーザ1110〜1113は、(SOAを集積しない)EA−DFBに許容されるDFBレーザへの最大許容電流を例えば80mAから、例えば60mAに削減することができる(削減する電流をΔIDFBとする)。それによって、DFBレーザ1120〜1123で削減できた各消費電力ΔPDFB及びEA変調器1130〜1133で削減できた各消費電力ΔPEAの合計分を超えない消費電力の範囲内で高出力化及び低消費電力化を実現できるような電流をSOA1140〜1143に注入することが可能となる。
DFBレーザ1120〜1123とSOA1140〜1143に電流を注入するための端子は、それぞれ異なるものとしても構わない。しかしながら、DFBレーザ1120とSOA1140、DFBレーザ1121とSOA1141、DFBレーザ1122とSOA1142、DFBレーザ1123とSOA1143を同一の電流端子で制御することで、端子数を減らすことができ、より有効である。この場合、DFBレーザ1120〜1123に注入される電流と、SOA1140〜1143に注入される電流の比は、DFBレーザ1120〜1123とSOA1140〜1143の光伝播方向の長さの比にほぼ一致する。DFBレーザとSOAとを同一の電流端子で制御する場合、SOAの長さをLSOAとし、SOAに注入する電流をISOAとすると、SOAの長さは、ISOAがある一定の範囲、例えばISOA=115[mA/mm]×LSOA[mm]+10[mA]±ΔIDFB/2[mA]の範囲に入るような長さにするとよい。
光合波器116は、SOA集積EA−DFBレーザ1110〜1113からそれぞれ入力された波長の異なる波長の異なる4つの変調信号光を合波し、1つに束ねた波長多重光として出力導波路117を介して空間光学系120にそれぞれ出力する。
空間光学系120は、第1のレンズ121と、アイソレータ122と、第2のレンズ123と、を含む。光合波器116で合波されて出力された波長多重光は、拡散光140となって空間に放射され、第1のレンズ121によって平行光141に直され、アイソレータ122を通過し、第2のレンズ123によって収束光342に集光され、光ファイバ130に結合される。
尚、図には示していないが、波長多重光送信器モジュール100は、上記以外にも波長多重光送信器110の温度センサ(例えばサーミスタ)、温度制御用のペルチェ素子、DFBレーザ1120〜1123やEA型光変調器1130〜1133に電源を供給するための直流電源を有することができる。また、波長多重光送信器モジュール100は、EA型変調器1130〜1133を駆動するための変調器ドライバ・高周波線路終端抵抗、変調器ドライバの振幅・バイアス電圧・電気クロスポイントを制御するための信号線や制御回路を有することができる。さらに、波長多重光送信器モジュール100では、変調器ドライバの前段に、電気信号の波形整形回路やクロック抽出回路、さらには電源電圧変動の影響を抑制する回路を設ける場合もある。
EA型光変調器1130〜1133としては、消光比に優れ、正孔のパイルアップ抑制にも有効なInGaAlAs系引張歪量子井戸を用いることができる。入力導波路1150〜1153及び出力導波路117としては、高周波の帯域を確保するために、低誘電率BCB埋め込みのリッジ型導波路を用いることができる。光合波器116としては、光閉じ込めが強く、放射損失の小さなハイメサ型導波路を用いることができる。
波長多重光送信器110のチップの大きさは、例えば2,000×2,600μmとすることができ、4つのDFBレーザ1120〜1123の素子長300μm、SOA1140〜1143の素子長50μm前後とすることができる。この場合、DFBレーザ1120〜1123とSOA1140〜1143の長さの比がおよそ1:6になるため、素子の抵抗はおよそ6:1となる。そのため、同一の制御端子から例えば70mAの電流を注入すると、SOA1140〜1143には10mA前後、DFBレーザ1120〜1123には60mA前後の電流がそれぞれ流れることになる。
本発明では、図10(b)に示すSOAの利得のばらつきを補償するため、SOA1140〜1143はそれぞれ異なる長さを有している。本実施形態1では、SOAの利得がlane1で最も大きく、lane3で最も小さい場合の例を示しており、例えばSOA1140とSOA1142の長さ50μmに対し、SOA1141の長さを48μm、SOA1143の長さを52μmにすることにより、lane1とlane3間のSOAの利得のばらつきを補償している。
SOAの利得のばらつきは、SOAの組成・注入電流・温度・偏光・素子端面反射率等、さまざまな条件によって大きく変わるため、lane1の利得が常に大きく、lane3の利得が常に小さいわけではない。SOAの利得が比較的小さいlaneのSOA長を比較的長く、利得が比較的大きいlaneのSOA長を比較的短くすることで、SOAの利得のばらつきを補償することができる。本発明では、合波器116から出力される波長多重光に含まれる複数の信号光の強度がそれぞれ等しくなるようにSOA1140〜1143の長さが設定されていることが好ましい。以下の実施形態でも同様である。
DFBレーザとSOAとを同一の電流端子で制御する場合には、上記のようにSOA長を調整した上で、さらに、ISOAがある一定の範囲、例えばISOA=115[mA/mm]×LSOA[mm]+10[mA]±ΔIDFB/2[mA]を満たす範囲に収まるように全てのSOAの長さを調整することが重要になる。
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2に係る波長多重光送信器の構成を示す。本発明の実施形態2に係る波長多重光送信器によると、短波長のlane0のみEA変調器の損失が大きい場合に生じる、lane間のDFBレーザの劣化のばらつき及びlane間のDFBレーザの光出力のばらつきを抑制することができる。
本発明の実施形態2に係る波長多重光送信器では、図2に示されるように、損失の大きいlane0におけるSOA1140のみ、SOA長を長くしている(例えば52μm)。実際には、上記劣化及び光出力のばらつきの問題を解決する必要があるため、例えば光ファイバ130に入力する光の強度が同じになるように、SOA1140〜1143の長さを調整することになる。
(実施形態3)
図3は、本発明の実施形態3に係る波長多重光送信器の構成を示す。図3には、2つの波長多重光送信器2101及び2102と、空間光学系220とを備え、光ファイバ230に接続された波長多重光送信器モジュール200が示されている。波長多重光送信器2101及び2102及び光ファイバ230は、空間光学系220を介して光学的に結合している。
波長多重光送信器2101は、2つのDFBレーザ2120〜2121と、2つのEA型光変調器2130〜2131と、2つのSOA2140〜2141とがそれぞれ集積された2つのSOA集積EA−DFB2110〜2111と、MMI型の2対1の光合波器2161と、SOA集積EA−DFB2110〜2111及び光合波器2161をそれぞれ接続する入力導波路2150〜2151と、光合波器2161の出力導波路2171と、を含む。波長多重光送信器2102も同様に、2つのDFBレーザ2122〜2123と、2つのEA型光変調器2132〜2133と、2つのSOA2142〜2143とがそれぞれ集積された2つのSOA集積EA−DFB2112〜2113と、MMI型の2対1の光合波器2162と、SOA集積EA−DFB2112〜2113及び光合波器2162をそれぞれ接続する入力導波路2152〜2153と、光合波器2162の出力導波路2172と、を含む。
図3に示されるように、SOA2140〜2143は、それぞれ異なる長さを有している。本発明の実施形態3に係る波長多重光送信器においても同様に、SOAの長さを調整することにより、lane間のDFBレーザの劣化のばらつき及びlane間のDFBレーザの光出力のばらつきを抑制することができる。
以上、本発明の各実施形態について説明した。上記実施形態1〜3に係る波長多重光送信器モジュール100及び200では、作製した波長多重光送信器110、2101及び2102を12mm×20mmという超小型のパッケージに実装したものであり、40℃において100Gbit/s動作させたとき、シングルモードファイバ上での40kmエラーフリー伝送を達成することができた。これらの結果が示すように、上記実施形態1〜3に係る波長多重光送信器モジュール100及び200は、将来世代の100GbE用トランシーバとして十分な性能を有する。
尚、本発明では、SOA集積EA−DFBが4台、光合波器としてMMI型4対1光合波器の例を説明したが、SOA集積EA−DFBの数、合波器の分岐数は上記に限られない。つまり、SOA集積EA−DFBの数は例えば2台、8台、16台もしくはそれ以上でもよく、光合波器は2対1、8対1、16対1でも構わない。また、光合波器としてはMMI型に捕われるものではなく、方向性結合器、Y分岐、マッハ・ツエンダ、誘電体多層膜フィルタ、アレイ導波路格子型、もしくはその組み合わせでも構わない。
通常、各laneで出力される光の波長は、lane0が1294.53nm〜1296.59nm、lane1が1299.02nm〜1301.09nm、lane2が1303.54nm〜1305.63nm、lane3が1308.09nm〜1310.19nmの範囲にあり、EA変調器による変調レートは25Gb/sもしくは28Gb/sであるが、本発明は上記に限定されるものではない。EA−DFBの台数が変化すれば、laneの数も間隔も変わるからである。
また、通常、波長多重光送信器モジュールは、25Gb/s×4波長=100Gb/sで使用されるが、例えば50Gb/s×8波長=400Gb/s、25Gb/s×16波長=400Gb/s、10Gb/s×10波長=100Gb/sで使用しても構わない。さらに、lane0−3を上から順番に(101−104の順で)設定した例を説明したが、laneの順番は任意であり、上記に限定されるものではない。