JP2017096775A - 混合マトリックスを用いる質量分析法 - Google Patents

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Abstract

【課題】親水性から疎水性までの広範囲のペプチドを、容易に且つ効率よく、質量分析におけるイオン化効率を向上させることができる質量分析法を提供する。【解決手段】一般式(I)(式中、Rは、炭素数3〜12のアルキル基を表す。)で示される化合物と、式(I)で示される化合物(Rが、炭素数3のアルキル基のもの)よりも親水性である質量分析用マトリックス(II)とを混合マトリックスとして用いるMALDI質量分析法。【選択図】なし

Description

本発明は、医療及び創薬分野において応用されうる質量分析法、特に、MALDI−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析)アプリケーションに関する。より詳しくは、本発明は、特定化合物を混合マトリックスとして用いる質量分析法に関する。
MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)質量分析法において、測定対象分子の効率的なイオン化を実現する条件が探索されている。例えば、特開2005−326391号公報(特許文献1)に、疎水性ペプチドを予め2−ニトロベンゼンスルフェニル基によって修飾し、α−シアノ−3−ヒドロキシケイ皮酸(3−CHCA)、3−ヒドロキシー4−ニトロ安息香酸(3H4NBA)、又はそれらの混合物をマトリックスとして用いた質量分析を行うことで、一般的マトリックスであるα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)や2,5−ジヒドロ安息香酸(DHB)に比べ、疎水性ペプチドを効率よくイオン化する方法が記載されている。上記特許文献1のMALDI質量分析法においては、測定対象分子の修飾が行われる場合にはある程度のイオン化促進効果が得られるが、修飾が行われない場合には、イオン化効率は十分でない。このように、特に疎水性ペプチドのようなMALDIイオン化が難しい分子種は、MALDI質量分析法においてイオン化効率が低いという問題がある。
3−CHCA
3H4NBA
上記問題を解決すべく、WO2014/136779号公報(特許文献2)には、特定の2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン(ATHAP)[alkylated trihydroxyacetophenone]、例えば、1-(2,4,6-trihydroxyphenyl)octan-1-oneをマトリックスとして用いる質量分析法が開示されている。上記特許文献2のMALDI質量分析法においては、疎水性ペプチドを高感度に検出することができる。この分析においては、親水性ペプチドのイオン化は抑制され、親水性ペプチドの分析は困難である。“Alkylated Trihydroxyacetophenone as a MALDI Matrix for Hydrophobic Peptides”, by Yuko Fukuyama et al., Anal.Chem. 2013, 85, 9444-9448(非特許文献1)も参照される。
ATHAPの例:1-(2,4,6-trihydroxyphenyl)octan-1-one
特開2013−190250号公報(特許文献3)及びUS 2015/0276756号公報(特許文献4)には、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)等の一般的マトリックスに、2,5−又は3,5−ジヒドロキシ安息香酸エステル(Alkylated dihydroxybenzoic acid;ADHB,例えば、octyl 2,5-dihydroxybenzoate)をマトリックス添加剤として用いる質量分析法が開示されている。上記特許文献3及び4のMALDI質量分析法においては、疎水性ペプチドを高感度に検出することができる。質量分析の際に、疎水性ペプチドは、質量分析プレート上において、試料/マトリックス混合結晶の外縁部に濃縮される。“Alkylated Dihydroxybenzoic Acid as a MALDI Matrix Additive for Hydrophobic Peptide Analysis”, by Yuko Fukushima et al., Anal. Chem. 2012, 84, 4237-4243(非特許文献2); 及びその訂正版Anal. Chem. 2014, 86, 5187-5187(非特許文献3)も参照される。
ADHBの例:octyl 2,5-dihydroxybenzoate
4−CHCA
US 2011/0217783号公報(特許文献5)及びUS 2006/0240562号公報(特許文献6)には、一般的マトリックスであるα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)のヒドロキシル基にアルキルオキシメチル基を導入した2−シアノ−3−[4−[(ドデシルオキシ)メトキシ]フェニル]アクリル酸(1)、及び一般的マトリックスであるシナピン酸(SA)のヒドロキシル基にアルキルオキシメチル基を導入した3−(4−ドデシルオキシメチルオキシ−3,5−ジメチルオキシフェニル)アクリル酸(2)が開示され、これらは、難溶解性タンパク質に対する溶解剤(界面活性剤)として機能した後、酸性条件下で、リンカ−部からアルキル鎖部を切断することでマトリックスとして機能し、一連の工程として疎水性ペプチドの感度を向上する質量分析法が開示されている。Anal. Chem. 2005, 77, 5036-5040(非特許文献4)も参照される。
US 2009/0269855号公報(特許文献7)には、2−ヒドロキシ−5−オクチルオキシ安息香酸(2-hydroxy-5-octyloxybenzoic acid)をマトリックスとして用いて、dynorphinという疎水性ペプチドのS/N比を向上する質量分析法が開示されている。
特開2013−164382号公報(特許文献8)には、下記構造のケイ皮酸誘導体をマトリックス添加剤として用いて、疎水性ペプチドのイオン化効率を高める質量分析法が開示されている。式中、Rは炭素数4〜16のアルキル基を表し、−OR基と−CH=C(CN)COOH基とは互いにメタ位又はパラ位に置換している。
特開2013−217695号公報(特許文献9)には、下記構造のp-ニトロアニリンのアミド化物をマトリックス添加剤として用いて、疎水性ペプチドのイオン化効率を高める質量分析法が開示されている。式中、Rは炭素数4〜14のアルキル基を表す。
特開2013−134102号公報(特許文献10)には、炭素数4〜14のアルキルアルコールをマトリックス添加剤として用いて、疎水性ペプチドのイオン化効率を高める質量分析法が開示されている。
特開2014−174015号公報(特許文献11)には、下記構造のジアルコキシ安息香酸誘導体(I)又は(II)をマトリックス添加剤として用いて、疎水性ペプチドのイオン化効率を高める質量分析法が開示されている。式(3)中、Meはメチル基を表し、R11及びR12は、同一又は異なっていてもよく、炭素数2〜8のアルキル基を表す。また、式(4)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、R21及びR22は、同一又は異なっていてもよく、炭素数2〜8のアルキル基を表す。
US 2011/0207227号公報(特許文献12)には、疎水性領域を有するMALDI用サンプルプレートに予めマトリックスの微細結晶スポットを形成し、マトリックスの微細結晶スポット上にサンプルをアプライし、マトリックスの微細結晶スポット上のサンプルを洗浄し、サンプルをMS測定により分析する、質量分析法が開示されている。
Org. Mass Spectrom. 28, 1476-1481, 1993(非特許文献5)には、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)と5−メトキシサリチル酸(5-methyoxysalicylic acid)との混合マトリックスsuper-DHBが開示されている。この混合マトリックスでは、DHBに対して、タンパク質及び糖鎖の感度が向上する。
特開2005−326391号公報 WO2014/136779号公報 特開2013−190250号公報 US 2015/0276756号公報 US 2011/0217783号公報 US 2006/0240562号公報 US 2009/0269855号公報 特開2013−164382号公報 特開2013−217695号公報 特開2013−134102号公報 特開2014−174015号公報 US 2011/0207227号公報
Anal.Chem. 2013, 85, 9444-9448 Anal. Chem. 2012, 84, 4237-4243 Anal. Chem. 2014, 86, 5187-5187 Anal. Chem. 2005, 77, 5036-5040 Org. Mass Spectrom. 1993, 28, 1476-1481
上記のように、MALDI質量分析法において、一般的マトリックスであるα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)や2,5−ジヒドロ安息香酸(DHB)を用いると疎水性ペプチドに対する感度が低いことを改良するために、種々の検討がなされてきた。しかしながら、上記特許文献2のように、2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン(ATHAP)をマトリックスとして用いると、疎水性ペプチドを高感度に検出することができるが、一方、親水性ペプチドのイオン化は抑制され、親水性ペプチドの分析は困難である。
このように、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)のペプチドを分析できるマトリックスは見当たらないのが現状である。
また、例えば、特許文献3のように、質量分析の際に、疎水性ペプチドは、質量分析プレート上において、試料/マトリックス混合結晶の外縁部に濃縮される場合もある。このような場合には、混合物試料を質量分析する際に、混合結晶の外縁部にレーザ照射することにより、疎水性ペプチドのイオン化を起こさせ、疎水性ペプチドを感度よく分析することができる。しかしながら、疎水性ペプチドが試料/マトリックス混合結晶の外縁部に濃縮されないような場合には、レーザ照射の同一部位に試料中の複数の物質が存在し、いずれかの物質のイオン化が抑制され、それにより前記いずれかの物質の感度低下が生じることがある。
また、一般的マトリックス(DHBなど)を用いた場合において、スィ−トスポットが偏り、分析時間がかかるという問題もある。
本発明の目的は、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)のペプチドを、容易に且つ効率よく、質量分析におけるイオン化効率を向上させることができる混合マトリックスを用いる質量分析法を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン[alkylated trihydroxyacetophenone]と、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)や2,5−ジヒドロ安息香酸(DHB)、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)等の一般的マトリックスとを混合マトリックスとして用いることにより、疎水性化合物のようなイオン化が難しい分子種をも効率よくイオン化できると共に、それよりも親水的な分子種をもイオン化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の発明を含む。
(1) 下記一般式(I):
(式中、Rは、炭素数3〜12のアルキル基を表す。)
で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノンと、
前記式(I)で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン(ここで、Rが、炭素数3のアルキル基のもの)よりも親水性である質量分析用マトリックス(II)とを混合マトリックスとして用いて、試料を分析するMALDI質量分析法。
(2) 前記一般式(I)で示される化合物が、下記構造の1−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)オクタン−1−オンである、請求項1に記載の質量分析法。
(3) 前記質量分析用マトリックス(II)が、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、及び2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)からなる群から選ばれる、上記(1)又は(2)に記載の質量分析法。
(4) 疎水性フォーカスプレートを用いる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の質量分析法。
(5) 分析すべき試料が、ペプチド及びペプチド以外の他の化合物を含む混合試料である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の質量分析法。
(6) 分析すべき試料が、疎水性の異なるペプチドを含む混合試料である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の質量分析法。ペプチドにはタンパク質も含まれる。
(7) 分析すべき試料が、タンパク質消化物を含む混合試料である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の質量分析法。
特に、分析すべき試料が、膜タンパク質消化物を含む混合試料である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の質量分析法。
本発明において、炭素数3〜12のアルキル基(一般式(I)おけるR)を有する2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノンと、前記式(I)で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン(ここで、Rが、炭素数3のアルキル基のもの)よりも親水性である一般的な質量分析用マトリックス(II)とを、質量分析のマトリックスとして併用する。炭素数3〜12のアルキル基Rを有する2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノンを質量分析のマトリックスとして用いると、疎水性化合物、特に疎水性ペプチドのようなイオン化が難しい分子種のイオン化効率を向上させることができる。そして、より親水性である一般的な質量分析用マトリックス(II)を併用することにより、疎水性ペプチドのみならず、より親水的な分子種をもイオン化できる。それにより、本発明によれば、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)のペプチドやペプチド以外の化合物を容易に且つ効率よくイオン化させ、分析することができる。このように、本発明によれば、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)のペプチドの質量分析測定による検出感度が向上すると共に、各種試料の網羅性が向上する。
また、本発明において、疎水性フォーカスプレートを用いると、プレ−ト上で、親水性ペプチドと疎水性ペプチドのイオン検出部位が分離される。そのことにより、分析対象試料に含まれる化合物の疎水性度に応じて、レーザ照射部位を特定でき、迅速な分析が可能となる。
図1(a)は、実施例1におけるC8−ATHAP及び4−CHCAを混合マトリックスとして用いた場合の疎水性度の異なる14種のペプチド混合物のマススペクトル結果を示す。図1(b)は、比較例1におけるC8−ATHAPを単独マトリックスとして用いた場合の前記14種のペプチド混合物のマススペクトル結果を示す。図1(c)は、比較例1における4−CHCAを単独マトリックスとして用いた場合の前記14種のペプチド混合物のマススペクトル結果を示す。横軸は質量/電荷(m/z)、縦軸はイオンの相対強度(%Int.)を表す。各図において、マスレンジm/z:3000〜5000を示す。 図1(a),(b),(c)とそれぞれ同一測定のマススペクトル結果であるが、図2(a),(b),(c)は、マスレンジm/z:1000〜5000を示す。 実施例1及び比較例1におけるMALDIプレ−ト上のウェル内の疎水性ペプチド NF-kB Inhibitor 及び親水性ペプチドAmyloid β 1-11の質量イメージング画像を示す。
[マトリックス]
本発明は、下記一般式(I)で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノンと、前記式(I)で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン(ここで、Rが、炭素数3のアルキル基のもの)よりも親水性である質量分析用マトリックス(II)とを混合マトリックスとして用いて、試料を分析するMALDI質量分析法である。
一般式(I)において、Rは、炭素数3〜12、例えば炭素数3〜11のアルキル基を表す。すなわち、カルボニル基を含めたアシル基(−CO−R)の炭素数は4〜13、例えば4〜12である。本明細書において、一般式(I)で示される化合物(R=炭素数C3〜12のアルキル基)をATHAP(Alkylated trihdroxyalkylyphenone)と表記することがある。例えば、カルボニル基を含めたアシル基(−CO−R)の炭素数がC8(アルキル基Rがヘプチル基)の場合、C8−ATHAPと表記する。また、一般式(I)の範囲外の化合物2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(R=CH3基)をTHAPと表記する。
一般式(I)においてRが表す炭素数C3〜12のアルキル基としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。これらのアルキル基は直鎖状であってもよいし、又は分岐状であってもよい。分岐状のものとしては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、炭素数C5〜11のアルキル基が好ましく、炭素数C5〜9のアルキル基がより好ましく、炭素数C7のアルキル基(カルボニル基を含めたアシル基としては、炭素数8のオクタン−1−オン基;すなわち、C8−ATHAP)が特に好ましい。分析対象が疎水性化合物である場合には、疎水性化合物のイオン化のために、Rが表すアルキル基がある程度の疎水性を有することが必要であると考えられる。
C8−ATHAP
炭素数3〜12、例えば炭素数3〜11のアルキル基を有する2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノンを質量分析のマトリックスとして用いると、疎水性化合物、特に疎水性ペプチドのようなイオン化が難しい分子種のイオン化効率を向上させることができる。
本発明において、前記一般式(I)のマトリックスATHAP(R=C3〜12)と、前記式(I)において最も疎水性の低いRが炭素数3のアルキル基のものよりも親水性である質量分析用マトリックス(II)とを混合マトリックスとして用いる。より親水的な質量分析用マトリックス(II)を用いることにより、疎水性ペプチドのみならず、より親水的な分子種をもイオン化できる。それにより、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)のペプチドやペプチド以外の化合物を容易に且つ効率よくイオン化させ、分析することができる。このようにして、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)のペプチドの質量分析測定による検出感度が向上すると共に、各種試料の網羅性が向上する。
前記質量分析用マトリックス(II)としては、公知のマトリックスの中から適宜選択することができる。例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)が挙げられる。
本発明において、一般式(I)で示されるマトリックスATHAPとマトリックス(II)とを含むマトリックス溶液の濃度については、例えば、次のようにすることができる。一般式(I)で示されるマトリックスATHAPの溶液濃度は、例えば、0.01mg/mL〜10mg/mL(飽和濃度)程度、好ましくは0.05mg/mL〜5mg/mL程度、より好ましくは0.05mg/mL〜1mg/mL程度とすることができる。マトリックス(II)の溶液濃度は、例えば、0.01mg/mL〜10mg/mL(飽和濃度)程度、好ましくは0.05mg/mL〜5mg/mL程度、より好ましくは0.05mg/mL〜1mg/mL程度とすることができる。
本発明において、上記濃度で作成したマトリックス溶液におけるマトリックスATHAP(I)とマトリックス(II)との混合比率は、測定対象に応じて特に限定されないが、例えば、一般式(I)で示されるマトリックスATHAPの溶液に対するマトリックス(II)の溶液の体積比[(I):(II)]で表して、例えば50:1〜1:10程度とするとよく、好ましくは10:1〜1:10程度とするとよく、より好ましくは10:1程度とするとよい。
[質量分析対象]
本発明の混合マトリックスを用いる質量分析対象は特に限定されない。例えば、分子量が500〜30,000、好ましくは1,000〜10,000の分子(ペプチド、及びペプチド以外の分子を含む)でありうる。好ましくは、本発明のマトリックスは、疎水性物質及び親水性物質両者のイオン化を促進できるので、疎水性物質及び親水性物質両者の混合物の質量分析に好適に用いられる。すなわち、試料中には、分析対象としての疎水性物質以外に、他の物質(例えば親水性物質)が混在していてもよい。
本発明の混合マトリックスは、実施例で示すように、従来のマトリックスであるα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)単独を用いた場合と比べ、疎水性物質のイオン化を促進することができる。また、ATHAP単独を用いた場合と比べ、親水性物質のイオン化を促進することができる。このため、試料中に疎水性物質と親水性物質とが混在していても、疎水性物質及び親水性物質両者を容易に分析することができる。この点から、本発明のマトリックスは、疎水性物質及び親水性物質両者の混合物の質量分析に好適に適用できる。もちろん、試料中に疎水性物質又は親水性物質のいずれかのみが含まれていても、それを容易に分析することができる。
疎水性の程度としては特に限定されるものではなく、様々な公知の疎水性指標や疎水性度算出法に基づいて、疎水性と判断し得る程度であればよい。例えば、疎水性物質の疎水性の程度は、当業者がBBインデックス(Bull and Breese Index)によって疎水性と判断しうる程度であればよい。より具体的には、BBインデックスは、例えば1000以下、好ましくは−1000以下でありうる。この場合、親水性物質の親水性の程度は、例えば1000より大きい、好ましくは2000より大きい値でありうる。
あるいは、疎水性物質の疎水性の程度は、当業者がHPLCインデックスによって疎水性と判断しうる程度であればよい。HPLCインデックスは、C.A.Brownw, H.P.J.Bennett, S.SolomonによりAnalytical Biochemistry, 124, 201-208, 1982で報告された、0.13%ヘプタフルオロ-n-酪酸(HFBA)を含むアセトニトリル水溶液を溶離液として使用した逆相HPLC保持時間に基づく疎水性指数で、HPLC/HFBA retentionとも称される。より具体的には、HPLCインデックスは、例えば40以上、例えば40〜10,000、好ましくは100〜1,000でありうる。この場合、親水性物質の親水性の程度は、例えば40より小さい、好ましくは20より小さい値でありうる。
さらに、本発明における疎水性物質の疎水性の程度は、当業者がSSRCalc Hydrophobicityによって疎水性と判断しうる程度であればよい。SSRCalc Hydrophobicityは、Oleg V. Krokhin によりAnalytical Biochemistry, 78, 7785-7795, 2006に報告されている。SSRCalc Hydrophobicityは、ペプチドのRP−HPLC(逆相高速液体クロマトグラフィー)の保持時間に対するペプチド配列特異的なアルゴリズムsequence-specific retention calculator (SSRCalc)に基づく疎水性指標である。HPLCインデックスあるいはBBインデックスがアミノ酸組成情報のみを基に保持時間を推算するのに対し、SSRCalc Hydrophobicityはペプチドの一次構造・二次構造までを含めて保持時間を推算する。本発明において、分析対象が、疎水性ペプチドである場合には、疎水性の程度は、SSRCalc Hydrophobicityを指標とすることが適している。より具体的には、SSRCalc Hydrophobicity(by the Manitoba Centre for Proteomics and Systems Biology, available at http://hs2.proteome.ca/SSRCalc/SSRCalcX.html)は、例えば30以上、好ましくは40〜70でありうる。この場合、親水性物質の親水性の程度は、例えば30より小さい、好ましくは25より小さい値でありうる。本発明において、広範囲の疎水性度合い(親水性から疎水性まで)、例えば、SSRCalc Hydrophobicityが、0〜90程度の物質の混合試料を分析することができる。
本発明においては、マトリックスATHAP(I)により特に疎水性ペプチド(本発明においては、ペプチドにはタンパク質も含まれる)のイオン化能増強効果が高い。疎水性ペプチドであるか否かについては、BBインデックス、HPLCインデックス、又はSSRCalc Hydrophobicity、好ましくはSSRCalc Hydrophobicityを指標とすることができるが、具体的には、ペプチドを構成するアミノ酸に、疎水性度のより高いアミノ酸をより多く含むものであってよい。例えば疎水性アミノ酸としては、イソロイシン、ロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、グリシンなどが挙げられる。また、システイン、チロシンなどを含むこともある。疎水性ペプチドは、このようなペプチドの一次構造のみによらず、より疎水性度の高い高次構造を持つものでもありうる。例えば、逆相HPLCカラムが使用される疎水性の固定相表面と相互作用が起こりやすい構造を持つペプチドが挙げられる。さらに、より親水的な質量分析用マトリックス(II)を用いることにより、疎水性ペプチドのみならず、より親水的な分子種をもイオン化できる。
[質量分析用結晶の作成]
質量分析用結晶は、分析対象とマトリックスとを溶媒中に少なくとも含む混合液の液滴を質量分析用ターゲットプレート上に形成する工程と、形成された前記混合液の液滴から前記溶媒を除去し、前記混合液中の不揮発分(すなわち少なくとも分析対象、及びマトリックス)を残渣として得る工程とによって得ることができる。得られた残渣が、すなわち質量分析用結晶である。本明細書においては、質量分析用結晶と残渣とは同義である。
質量分析用ターゲットとしては、通常MALDI質量分析用として用いられる導電性を有する金属製プレートを使用することができる。具体的には、ステンレス製又は金製のプレートを用いることができる。疎水性フォーカスプレートを用いると、疎水性物質を該プレートのフォーカス部に濃縮できる。
前記混合液の液滴をターゲットプレート上に用意する具体的方法としては特に限定されない。例えば、まず、分析対象を含む試料溶液とマトリックス溶液とをそれぞれ別々に調製する。次に、それら溶液を混合させて混合液を得て、得られた混合液をターゲットプレート上に滴下する。又は、それら溶液をそれぞれターゲットプレート上の同じ位置に滴下することにより、ターゲットプレート上で混合させる(on-target mix法)。on-target mix法の場合、溶液の滴下順序は任意である。
前記混合液の溶媒としては、アセトニトリル(ACN)、トリフルオロ酢酸(TFA)、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスホキシド(DMSO)及び水などからなる群から選ばれうる。より具体的には、混合液の溶媒としては、例えば、ACN−TFA水溶液、ACN水溶液、MeOH−TFA、MeOH水溶液、EtOH−TFA水溶液、EtOH水溶液、THF−TFA水溶液、THF水溶液、DMSO−TFA水溶液、DMSO水溶液などが用いられ、より好ましくは、ACN−TFA水溶液やACN水溶液を用いることができる。ACN−TFA水溶液におけるACNの濃度は例えば10〜90体積%、好ましくは25〜75体積%であり、TFAの濃度は例えば0.05〜1体積%、好ましくは0.05〜0.1体積%でありうる。
前記混合液の液滴の体積としては特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。ターゲットプレート上にウェルが設けられている場合、混合液の液滴は、ウェル内に形成することができる。この場合、液滴は、当該ウェル内に収まる程度の体積をもって形成される。具体的には、0.1μL〜2μL程度、例えば0.5μL程度の液滴を形成することができる。
次に、ターゲットプレート上の混合液の液滴から溶媒を除去する。溶媒の除去には溶媒の自然蒸発が含まれる。蒸発によって生じる残渣(すなわち質量分析用結晶)1個当たりに含まれるマトリックスの量は、例えば1pmol〜1,000nmol、好ましくは10pmol〜100nmolを目安にすることができる。分析対象の量は、例えば、マトリックス10nmolに対し、試料1amol〜100pmol、又は100amol〜50pmolの範囲で許容される。
残渣は、ターゲットプレートとの接触面において、略円の形状をなす。すなわち、残渣の外縁は略円の形状である。前記の略円の平均直径は、試料量、滴下量、マトリックス量及び溶媒組成等によって異なりうるが、例えば0.1〜3mm、好ましくは0.5〜2mmである。なお、平均直径とは、1個の残渣において、前記の略円の重心を通る直線が残渣の外縁で切り取られた線分の長さの平均である。
質量分析用ターゲットとして通常の金属製プレートを用いた場合には、溶媒の除去によって得られる略円形の残渣において、分析対象物質は主に前記略円内に存在する。そのため、イオン化の際のレーザー照射位置を特定することなく、分析対象物質のイオン化を容易に行うことができる。一方、質量分析用ターゲットとして疎水性フォーカスプレートを用いた場合には、疎水性物質を該プレートのフォーカス部に濃縮しやすいので、前記フォーカス部へのレーザ照射により、疎水性物質を検出しやすくなる。
[質量分析装置]
本発明において使用される質量分析装置としては、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)イオン源が組み合わされたものであれば特に限定されない。例えば、MALDI−TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間) 型質量分析装置、MALDI−IT(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−イオントラップ)型質量分析装置、MALDI−IT−TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−イオントラップ−飛行時間)型質量分析装置、MALDI−FTICR(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析装置などが挙げられる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
本実施例においては、C8−ATHAP(1-(2,4,6-trihydroxypheny)octane-1-one)、及び4−CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)を混合マトリックスとして用いた。
疎水性度の異なる14種類のペプチドとして、
No.1:NF-kB Inhibitor (SSRCalc Hydrophobicity: 54.76)、
No.2:Melittin (SSRCalcHydrophobicity: 53.82)、
No.3:Amyloid β 1-42 (SSRCalc Hydrophobicity: 51.06)、
No.4:OVA-BIP hybrid peptide (SSRCalc Hydrophobicity: 50.23)、
No.5:Humanin (SSRCalcHydrophobicity: 49.95)、
No.6:[Gly14]-Humanin (SSRCalc Hydrophobicity: 49.51)、
No.7:Temporin A, amide (SSRCalc Hydrophobicity: 45.59)、
No.8:MPGΔNLS (SSRCalc Hydrophobicity: 45.15)、
No.9:Amyloid β 22-42 (SSRCalc Hydrophobicity: 42.37)、
No.10:ACTH 18-39 (SSRCalc Hydrophobicity: 37.86)、
No.11:Amyloid β 1-28 (SSRCalc Hydrophobicity: 36.31)、
No.12:Amyloid β 1-11 (SSRCalc Hydrophobicity: 13.47)、
No.13:GPHRSTPESRAAV (SSRCalc Hydrophobicity: 10.58)(配列番号1)、及び
No.14:β-conglydnin 165-178 (SSRCalcHydrophobicity: 7.19)
を用いた。
(1)試料溶液として、上記14種類のペプチド混合物(SSRCalc Hydrophobicity: 7.19〜54.76)の、0.02〜20 fmol/μL 50%ACN waterを作成した。
(2)マトリックス溶液として、C8−ATHAPの0.1mg/mL 75% ACN, 0.1% TFA waterを作成し、4−CHCAの0.1mg/mL 75% ACN, 0.1% TFA waterを作成した。
(3)脱塩用添加剤として、methylenediphosphonic acid (MDPNA)を、0.02% MDPNA in water、あるいは、0.02% MDPNA in 75% ACN, 0.1% TFA waterで作成した。
(4)混合マトリックス溶液として、(2)のC8−ATHAP溶液と4−CHCA溶液を10:1 (v/v)で混合し、この溶液に、等量の(3)の0.02% MDPNA溶液のいずれかを加え、C8−ATHAP+4−CHCA(10+1)溶液をそれぞれ作成した。
(5)hydrophobic μFocus 600 μm MALDIplate (Hudson Surface Technology Inc., NJ, USA)上に、(1)の試料溶液0.5 μLを滴下した後、(4)の混合マトリックス溶液を0.5 μL滴下した(on-target mix法)。
(6)溶媒が揮発した後、MALDI TOFMS [AXIMA Performance(登録商標), Shimadzu/Kratos, UK]の、ポジティブイオンモード、リニアモ−ドで、ラスタ−分析により、計測した。
[比較例1]
本比較例においては、実施例1で用いたのと同じC8−ATHAP(1-(2,4,6-trihydroxypheny)octane-1-one)、又は4−CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)を単独マトリックスとして用いた。
疎水性度の異なる14種類のペプチドとして、実施例1で用いたのと同じものを用いた。
(1)試料溶液として、上記14種類のペプチド混合物(SSRCalc Hydrophobicity: 7.19〜54.76)の、0.02〜20 fmol/μL 50%ACN waterを作成した。
(2)マトリックス溶液として、C8−ATHAPの0.1mg/mL 75% ACN, 0.1% TFA waterを作成し、4−CHCAの0.1mg/mL 75% ACN, 0.1% TFA waterを作成した。
(3)脱塩用添加剤として、methylenediphosphonic acid (MDPNA)を、0.02% MDPNA in water、あるいは、0.02% MDPNA in 75% ACN, 0.1% TFA waterで作成した。
(4)単独マトリックス溶液として、(2)のC8−ATHAP溶液に、等量の(3)の0.02% MDPNA溶液のいずれかを加え、C8−ATHAP単独マトリックス溶液をそれぞれ作成した。
同様に、(2)の4−CHCA溶液に、等量の(3)の0.02% MDPNA溶液のいずれかを加え、4−CHCA単独マトリックス溶液をそれぞれ作成した。
(5)hydrophobic μFocus 600 μm MALDIplate (Hudson Surface Technology Inc., NJ, USA)上に、(1)の試料溶液0.5 μLを滴下した後、(4)のC8−ATHAP単独マトリックス溶液を0.5 μL滴下した(on-target mix法)。同様に、hydrophobic μFocus 600 μm MALDIplate (Hudson Surface Technology Inc., NJ, USA)上に、(1)の試料溶液0.5 μLを滴下した後、(4)の4−CHCA単独マトリックス溶液を0.5 μL滴下した(on-target mix法)。
(6)溶媒が揮発した後、MALDI TOFMS [AXIMA Performance(登録商標), Shimadzu/Kratos, UK]の、ポジティブイオンモード、リニアモ−ドで、ラスタ−分析により、計測した。
図1〜3、及び表1に得られた結果を示す。
図1(a)は、実施例1におけるC8−ATHAP及び4−CHCAを混合マトリックスとして用いた場合(1fmol/well)のマススペクトル結果を示す。図1(b)は、比較例1におけるC8−ATHAPを単独マトリックスとして用いた場合(1fmol/well)のマススペクトル結果を示す。図1(c)は、比較例1における4−CHCAを単独マトリックスとして用いた場合(1fmol/well)のマススペクトル結果を示す。いずれも、マスレンジm/z:3000〜5000の部分が示されている。図2(a),(b),(c)は、図1(a),(b),(c)とそれぞれ同一測定のマススペクトル結果であるが、マスレンジm/z:1000〜5000の部分が示されている。
図1によると、C8−ATHAPを単独マトリックスとして用いた場合、1fmol/wellの試料濃度では、親水性ペプチド:Amyloid β 1-28 (SSRCalc Hydrophobicity: 36.31)、疎水性ペプチド:Amyloid β 1-42 (SSRCalcHydrophobicity: 51.06)のいずれも検出されなかった[図1(b)]。4−CHCAを単独マトリックスとして用いた場合、Amyloid β 1-28、及びAmyloid β1-42 の両者が検出されたが、S/Nは低く、疎水性ペプチド:Amyloid β 1-42の検出感度は低かった[図1(c)]。C8−ATHAP及び4−CHCAを混合マトリックスとして用いた場合、Amyloid β 1-28、及びAmyloid β1-42 の両者が、S/Nが高く、感度も高く検出された[図1(a)]。
図2(a),(b),(c)によると、C8−ATHAP及び4−CHCAを混合マトリックスとして用いた場合、広いマスレンジにおいて、親水性から疎水性に至る上記14種のペプチドを、S/Nが高く、感度も高く検出されたことがわかる。図2(a),(b),(c)中のピーク上のNo.は、上記14種のペプチドNo.に対応しており、各ペプチド由来のピークを示す。
表1において、ATHAP(C8−ATHAP)、ATHAP+CHCA(C8−ATHAP+4−CHCA)(10+1)、及びCHCA(4−CHCA)を用いた14種混合ペプチドの検出限界を、ペプチドの疎水性の高い順に示す。その結果、ATHAP単独を用いた場合は親水性ペプチド数種が未検出(ND)、CHCA単独を用いた場合は疎水性ペプチド数種が未検出(ND)であった。これに対して、混合マトリックスATHAP+CHCA (10+1)を用いた場合は、疎水性から親水性まで全ペプチド試料No.1〜14(SSRCalc Hydrophobicity: 7.19〜54.76)を検出した。さらに、ATHAP+CHCA (10+1)を用いることにより、ATHAP単独あるいはCHCA単独に比べ、全ペプチド試料の感度が、同程度あるいは10〜100倍以上向上した。なお、表1において、S/N<2の場合には、未検出として“ND”と表記している。
図3は、ATHAP、ATHAP+4−CHCA(10+1)、及び4−CHCAをそれぞれ用いた場合の、比較的疎水性の高いペプチドであるNF-kB Inhibitor (SSRCalc Hydrophobicity: 54.76)と、比較的親水性のペプチドであるAmyloid β 1-11 (SSRCalc Hydrophobicity: 13.47)のMSイメ−ジングを示す。
その結果、混合マトリックスATHAP+4−CHCA(10+1)を用いた場合は、疎水性ペプチドのイオンは、結晶内部の全域で、親水性ペプチドのイオンがその外縁部で、検出されていることが確かめられた。これにより、疎水性ペプチドと親水性ペプチドの分離による試料の抑制効果あるいは濃縮効果が、網羅性や感度の向上に影響している可能性が考えられた。さらに、この分離効果により、レーザ照射位置の選定ができ、迅速な分析が可能となる。なお、図3において、S/N<2の場合には、未検出として“ND”と表記している。

Claims (7)

  1. 下記一般式(I):
    (式中、Rは、炭素数3〜12のアルキル基を表す。)
    で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノンと、
    前記式(I)で示される2,4,6−トリヒドロキシアルキルフェノン(ここで、Rが、炭素数3のアルキル基のもの)よりも親水性である質量分析用マトリックス(II)とを混合マトリックスとして用いて、試料を分析するMALDI質量分析法。
  2. 前記一般式(I)で示される化合物が、下記構造の1−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)オクタン−1−オンである、請求項1に記載の質量分析法。
  3. 前記質量分析用マトリックス(II)が、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(4−CHCA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、及び2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)からなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の質量分析法。
  4. 疎水性フォーカスプレートを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析法。
  5. 分析すべき試料が、ペプチド及びペプチド以外の他の化合物を含む混合試料である、請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析法。
  6. 分析すべき試料が、疎水性の異なるペプチドを含む混合試料である、請求項1〜5のいずれかに記載の質量分析法。
  7. 分析すべき試料が、タンパク質消化物を含む混合試料である、請求項1〜6のいずれかに記載の質量分析法。
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