本発明の非水二次電池に係る負極は、負極活物質およびバインダなどを含有する負極合剤層が、負極集電体の片面または両面に形成された構造を有している。そして、負極活物質には、SiOxと炭素材料との複合体を使用する。
SiOxは、Siの微結晶または非晶質相を含んでいてもよく、この場合、SiとOの原子比は、Siの微結晶または非晶質相のSiを含めた比率となる。すなわち、SiOxには、非晶質のSiO2マトリックス中に、Si(例えば、微結晶Si)が分散した構造のものが含まれ、この非晶質のSiO2と、その中に分散しているSiを合わせて、前記の原子比xが0.5≦x≦1.5を満足していればよい。例えば、非晶質のSiO2マトリックス中に、Siが分散した構造で、SiO2とSiのモル比が1:1の材料の場合、x=1であるので、構造式としてはSiOで表記される。このような構造の材料の場合、例えば、X線回折分析では、Si(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合もあるが、透過型電子顕微鏡で観察すると、微細なSiの存在が確認できる。
そして、SiOxは、炭素材料と複合化した複合体であり、例えば、SiOxの表面が炭素材料で被覆されていることが好ましい。SiOxは導電性が乏しいため、これを負極活物質として用いる際には、良好な電池特性確保の観点から、導電性材料(導電助剤)を使用し、負極内におけるSiOxと導電性材料との混合・分散を良好にして、優れた導電ネットワークを形成する必要がある。SiOxを炭素材料と複合化した複合体であれば、例えば、単にSiOxと炭素材料などの導電性材料とを混合して得られた材料を用いた場合よりも、負極における導電ネットワークが良好に形成される。
SiOxと炭素材料との複合体としては、前記のように、SiOxの表面を炭素材料で被覆したものの他、SiOxと炭素材料との造粒体などが挙げられる。
また、前記の、SiOxの表面を炭素材料で被覆した複合体を、更に導電性材料(炭素材料など)と複合化して用いることで、負極において更に良好な導電ネットワークの形成が可能となるため、より高容量で、より電池特性(例えば、充放電サイクル特性)に優れた非水二次電池の実現が可能となる。炭素材料で被覆されたSiOxと炭素材料との複合体としては、例えば、炭素材料で被覆されたSiOxと炭素材料との混合物を更に造粒した造粒体などが挙げられる。
また、表面が炭素材料で被覆されたSiOxとしては、SiOxとそれよりも比抵抗値が小さい炭素材料との複合体(例えば造粒体)の表面が、更に炭素材料で被覆されてなるものも、好ましく用いることができる。前記造粒体内部でSiOxと炭素材料とが分散した状態であると、より良好な導電ネットワークを形成できるため、SiOxを負極活物質として含有する負極を有する非水二次電池において、重負荷放電特性などの電池特性を更に向上させることができる。
SiOxとの複合体の形成に用い得る前記炭素材料としては、例えば、低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などの炭素材料が好ましいものとして挙げられる。
前記炭素材料の詳細としては、繊維状またはコイル状の炭素材料、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む)、人造黒鉛、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。繊維状またはコイル状の炭素材料は、導電ネットワークを形成しやすく、かつ表面積の大きい点において好ましい。カーボンブラック(アセチレンブラック,ケッチェンブラックを含む)、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素は、高い電気伝導性、高い保液性を有しており、更に、SiOx粒子が膨張収縮しても、その粒子との接触を保持しやすい性質を有している点において好ましい。
また、黒鉛をSiOxと炭素材料との複合体に係る炭素材料として使用することもできる。黒鉛も、カーボンブラックなどと同様に、高い電気伝導性、高い保液性を有しており、更に、SiOx粒子が膨張収縮しても、その粒子との接触を保持し易い性質を有しているため、SiOxとの複合体形成に好ましく使用することができる。
前記例示の炭素材料の中でも、SiOxとの複合体が造粒体である場合に用いるものとしては、繊維状の炭素材料が特に好ましい。繊維状の炭素材料は、その形状が細い糸状であり柔軟性が高いために電池の充放電に伴うSiOxの膨張収縮に追従でき、また、嵩密度が大きいために、SiOx粒子と多くの接合点を持つことができるからである。繊維状の炭素としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどが挙げられ、これらの何れを用いてもよい。
なお、繊維状の炭素材料は、例えば、気相法にてSiOx粒子の表面に形成することもできる。
また、SiOxと炭素材料との複合体は、粒子表面の炭素材料被覆層を覆う材料層(難黒鉛化炭素を含む材料層)を更に有していてもよい。
SiOxと炭素材料との複合体において、SiOxと炭素材料との比率は、炭素材料との複合化による作用を良好に発揮させる観点から、SiOx:100質量部に対して、炭素材料が、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、前記複合体において、SiOxと複合化する炭素材料の比率が多すぎると、負極合剤層中のSiOx量の低下に繋がり、高容量化の効果が小さくなる虞があることから、SiOx:100質量部に対して、炭素材料は、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
前記のSiOxと炭素材料との複合体は、例えば下記の方法によって得ることができる。
まず、SiOxを複合化する場合の作製方法について説明する。SiOxが分散媒に分散した分散液を用意し、それを噴霧し乾燥して、複数の粒子を含む複合粒子を作製する。分散媒としては、例えば、エタノールなどを用いることができる。分散液の噴霧は、通常、50〜300℃の雰囲気内で行うことが適当である。前記の方法以外にも、振動型や遊星型のボールミルやロッドミルなどを用いた機械的な方法による造粒方法においても、同様の複合粒子を作製することができる。
なお、SiOxと、SiOxよりも比抵抗値の小さい炭素材料との造粒体を作製する場合には、SiOxが分散媒に分散した分散液中に前記炭素材料を添加し、この分散液を用いて、SiOxを複合化する場合と同様の手法によって複合粒子(造粒体)とすればよい。また、前記と同様の機械的な方法による造粒方法によっても、SiOxと炭素材料との造粒体を作製することができる。
次に、SiOx粒子(SiOx複合粒子、またはSiOxと炭素材料との造粒体)の表面を炭素材料で被覆して複合体とする場合には、例えば、SiOx粒子と炭化水素系ガスとを気相中にて加熱して、炭化水素系ガスの熱分解により生じた炭素を、粒子の表面上に堆積させる。このように、気相成長(CVD)法によれば、炭化水素系ガスが複合粒子の隅々にまで行き渡り、粒子の表面や表面の空孔内に、導電性を有する炭素材料を含む薄くて均一な皮膜(炭素材料被覆層)を形成できることから、少量の炭素材料によってSiOx粒子に均一性よく導電性を付与できる。
炭素材料で被覆されたSiOxの製造において、気相成長(CVD)法の処理温度(雰囲気温度)については、炭化水素系ガスの種類によっても異なるが、通常、600〜1200℃が適当であり、中でも、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることが更に好ましい。処理温度が高い方が不純物の残存が少なく、かつ導電性の高い炭素を含む被覆層を形成できるからである。
炭化水素系ガスの液体ソースとしては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどを用いることができるが、取り扱いやすいトルエンが特に好ましい。これらを気化させる(例えば、窒素ガスでバブリングする)ことにより炭化水素系ガスを得ることができる。また、メタンガスやアセチレンガスなどを用いることもできる。
また、気相成長(CVD)法にてSiOx粒子(SiOx複合粒子、またはSiOxと炭素材料との造粒体)の表面を炭素材料で覆った後に、石油系ピッチ、石炭系のピッチ、熱硬化性樹脂、およびナフタレンスルホン酸塩とアルデヒド類との縮合物よりなる群から選択される少なくとも1種の有機化合物を、炭素材料を含む被覆層に付着させた後、前記有機化合物が付着した粒子を焼成してもよい。
具体的には、炭素材料で被覆されたSiOx粒子(SiOx複合粒子、またはSiOxと炭素材料との造粒体)と、前記有機化合物とが分散媒に分散した分散液を用意し、この分散液を噴霧し乾燥して、有機化合物によって被覆された粒子を形成し、その有機化合物によって被覆された粒子を焼成する。
前記ピッチとしては等方性ピッチを、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、フラン樹脂、フルフラール樹脂などを用いることができる。ナフタレンスルホン酸塩とアルデヒド類との縮合物としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を用いることができる。
炭素材料で被覆されたSiOx粒子と前記有機化合物とを分散させるための分散媒には、例えば、水、アルコール類(エタノールなど)を用いることができる。分散液の噴霧は、通常、50〜300℃の雰囲気内で行うことが適当である。焼成温度は、通常、600〜1200℃が適当であるが、中でも700℃以上が好ましく、800℃以上であることが更に好ましい。処理温度が高い方が不純物の残存が少なく、かつ導電性の高い良質な炭素材料を含む被覆層を形成できるからである。ただし、処理温度はSiOxの融点以下であることを要する。
負極活物質には、SiOxと炭素材料との複合体のみを使用してもよく、SiOxと炭素材料との複合体と共に他の負極活物質を使用してもよい。SiOxと炭素材料との複合体と共に使用する他の負極活物質には、非水二次電池用の負極活物質として従来から知られている各種の材料が挙げられるが、比較的容量が大きく、また、電池の充放電に伴う体積変化量がSiOxよりも小さいことから、高結晶の天然黒鉛、人造黒鉛といった黒鉛材料が好ましい。なお、天然黒鉛を使用する場合には、更に高温で熱処理を施したり、人造黒鉛の微粒子(粒状、扁平状など)を被覆させたり、樹脂などの有機物を被覆させて用いてもよい。
SiOxと炭素材料との複合体の、負極活物質全量中における含有量は、電池の高容量化を図る観点から、40質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、負極活物質にはSiOxと炭素材料との複合体のみを使用してもよいため、負極活物質全量中の、SiOxと炭素材料との複合体の含有量は、100質量%であってもよい。なお、前記の通り、黒鉛材料などを併用することで、電池の充放電サイクル特性を更に高めることもできるが、この場合、負極活物質全量中の、SiOxと炭素材料との複合体の含有量は、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
負極合剤層における負極活物質の含有量(全負極活物質の合計含有量)は、70〜95質量%であることが好ましい。
負極合剤層に係るバインダには、ポリアミドイミド(PAI)およびポリイミド(PI)よりなる群から選択される少なくとも1種のイミド系バインダと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、ポリビニルピロリドン(PVP)とを使用する。
そして、イミド系バインダ、PVDFおよびPVPの負極合剤層における含有量を、それぞれA(質量%)、B(質量%)およびC(質量%)としたとき、1≦{A/(B+C)}≦5の関係を満たすようにする。
SiOxと炭素材料との複合体を負極に使用した非水二次電池において、負極合剤層のバインダにPAIやPIといったイミド系バインダを用いた場合には、前記複合体や導電助剤を強固に接着できるため、電池の充放電に伴ってSiOxの体積変化が生じても、前記複合体同士が離れたり、前記複合体と導電助剤とが離れたりすることを抑制できることから、非水二次電池の充放電サイクル特性を高めることができる。ところが、イミド系バインダと共にPVDFおよびPVPを使用し、更にこれらの各バインダの含有量の関係が前記の式を満たすようにした場合には、非水二次電池の充放電サイクル特性を更に高めることが可能となる。
負極において、イミド系バインダと共にPVDFおよびPVPをバインダとして使用し、更にこれらの各バインダの含有量の関係が前記の式を満たすようにした場合に、何故、非水二次電池の充放電サイクル特性をより高め得るのかは定かではないが、下記の理由によるのではないかと推測している。
バインダにイミド系バインダを単独で使用すると、負極合剤層が硬くなってしまうが、PVDFとPVPとを組み合わせることにより、次の(1)および(2)のようになると考えられる。
(1)負極合剤層の柔軟性が向上する。
(2)負極合剤層内の充放電特性の均一性が向上するため、負極合剤層内での場所による膨張のばらつき(局所的な膨張)が低減する。
そして、これらの(1)および(2)によって負極合剤層の膨張による損傷を緩和・抑制することが可能になり、これにより、電池の充放電サイクル特性がより向上すると考えられる。
ただし、負極合剤層におけるPVDFおよびPVPの量が少ないと前記(1)および(2)による作用が弱く、また、負極合剤層におけるこれらの量が過剰であると負極合剤層の強度が弱くなってしまう。そのため、負極合剤層の強度向上に寄与するイミド系バインダと、負極合剤層の柔軟性並びに充放電特性の均一性向上に寄与するPVDFおよびPVPとを、適切な質量比で組み合わせる必要があると考えられる。
また、負極合剤層におけるイミド系バインダとPVDFおよびPVPとの含有量の関係を、前記の式を満たすようにした場合には、負極合剤層の強度と柔軟性とのバランスが良好となるため、電池の充放電に伴う負極の変形を抑制することもできる。よって、例えば特許文献1に記載の非水二次電池に係る負極で採用していた多孔質層を形成しなくても、前記の通り、充放電サイクル特性をより向上させ得るため、本発明の非水二次電池では、その生産性も良好である。
イミド系バインダのうち、PAIとしては、各種のPAIを用いることができるが、例えば、電子の移動性が良好であるなどの理由から、下記[1]〜[3]に示すように分子鎖中に芳香環を有するものが好ましい。
[1] 下記(1)式で表されるアラミド構造単位と、下記(2)式で表されるアミドイミド単位とを有し、前記アラミド構造単位と前記アミドイミド構造単位との合計を100モル%としたときに、前記アラミド構造単位が18〜55モル%であるアラミド−アミドイミド共重合体。
前記(1)式中、Ar1は、m−フェニレン基またはp−フェニレン基である。また、前記(2)式中、Ar2は、1つの芳香環を有する3価の芳香族残基である。更に、前記(1)式中のR1および前記(2)式中のR2は、下記(3)式で示される構造単位または下記(4)式で示される構造単位であり、かつR1とR2とを合計したとき、下記式(3)で示される構造単位と、下記式(4)で示される構造単位とのモル比が、55:45〜85:15である。
[2] 下記(5)式で表されるアラミド構造単位と、下記(6)式で表されるアミドイミド構造単位とを有し、前記アラミド構造単位と前記アミドイミド構造単位との合計を100モル%としたとき、前記アラミド構造単位が18〜80モル%であるアラミド−アミドイミド共重合体。
前記(5)式中、Ar3は、m−フェニレン基またはp−フェニレン基である。また、前記(6)式中、Ar4は、1つの芳香環を有する3価の芳香族残基である。更に、前記(5)式中のR3および前記(6)式中のR4は、下記(7)式で示される構造単位または下記(8)式で示される構造単位であり、かつR3およびR4は、いずれも下記(7)式で表される構造単位を60モル%以上含有している。なお、R3とR4とを合計したとき、下記式(7)で示される構造単位と、下記式(8)で示される構造単位とのモル比は、60:40〜80:20であることが好ましい。
[3] 下記(9)式で表される構造単位と、下記(10)式で表される構造単位とを有し、前記両構造単位の合計を100モル%としたときに、下記(9)式で表される構造単位が60〜80モル%であるPAI。
なお、前記[3]のPAIにおいては、イミド化が完全に完了しておらず、一部が下記(11)式で示されるポリアミック酸の状態で留まっていることが好ましい。この場合には、電極合剤層内の各構成成分同士や、電極合剤層と集電体との接着性が更に向上する。この場合、ポリアミック酸の状態で留まっている部分は、例えば、特開2007−246680号公報に記載の方法により測定されるPAI中の残存カルボキシル基量で評価でき、かかる残存カルボキシル基量が、0.05〜0.40mmolであることが好ましい。
前記(11)式中、R5は、前記(3)式で表される構造単位または前記(4)式で表される構造単位である。
また、イミド系バインダのうち、PIとしては、公知の各種ポリイミドが挙げられ、熱可塑性PI、熱硬化性PIのいずれも使用することができる。また、熱硬化性PIの場合には、縮合型のPI、付加型のPIのいずれであってもよい。より具体的には、例えば、東レ社製「セミコファイン(商品名)」、日立化成デュポンマイクロシステムズ社製「PIXシリーズ(商品名)」、日立化成社製「HCIシリーズ(商品名)」、宇部興産社製「U−ワニス(商品名)」などの市販品を使用することができる。なお、PAIの場合と同じ理由から、分子鎖中に芳香環を有するもの、すなわち芳香族PIがより好ましい。
イミド系バインダには、PAIのうちの1種または2種以上を使用してもよく、PIのうちの1種または2種以上を使用してもよく、また、PAIの1種以上とPIの1種以上とを共に使用してもよい。
負極合剤層におけるイミド系バインダの含有量Aは、SiOxと炭素材料との複合体や必要に応じて使用される導電助剤の結着強度を高める観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。他方、負極合剤層中のイミド系バインダの量をある程度制限して負極合剤層内のバインダの総含有量を抑え、負極の容量や負極合剤層内の導電性を高める観点から、負極合剤層におけるイミド系バインダの含有量Aは、25質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
また、負極合剤層におけるPVDFの含有量Bは、PVDFの使用による負極合剤層の柔軟性の向上作用を良好に発揮させる観点から、0.45質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。他方、負極合剤層中のPVDFの量をある程度制限して負極合剤層内のバインダの総含有量を抑え、負極の容量や負極合剤層内の導電性を高める観点から、負極合剤層におけるPVDFの含有量Bは、4質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
更に、負極合剤層におけるPVPの含有量Cは、PVPの使用による充放電特性の均一性の向上作用を良好に発揮させる観点から、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。他方、負極合剤層中のPVPの量をある程度制限して負極合剤層内のバインダの総含有量を抑え、負極の容量や負極合剤層内の導電性を高める観点から、負極合剤層におけるPVPの含有量Cは、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
負極合剤層には、従来の非水二次電池の負極に係る負極合剤層で使用されているバインダ、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)なども、イミド系バインダ、PVDFおよびPVPと共に使用することができる。
負極合剤層におけるバインダの含有量(総含有量)は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、また、35質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。よって、負極合剤層のバインダに、イミド系バインダ、PVDFおよびPVP以外のバインダも使用する場合には、負極合剤層中のイミド系バインダの含有量A、PVDFの含有量BおよびPVPの含有量Cが、それぞれ前記の各好適値を満たしつつ、バインダの総含有量が前記の好適値を満たす範囲内で、イミド系バインダ、PVDFおよびPVP以外のバインダを用いることが好ましい。
負極合剤層には、導電助剤を含有させることもできる。負極合剤層に含有させる導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料を用いることが好ましく、また、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることもできる。導電助剤には、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
負極合剤層に導電助剤を含有させる場合、負極合剤層における導電助剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを含有する負極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水などの溶剤に分散させてペースト状やスラリー状の負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することができる。ただし、負極は、前記の方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は4μmであることが望ましい。
なお、本発明の非水二次電池においては、負極で使用するSiOxの不可逆容量が大きく、電池の初期の充電で正極(正極活物質)から放出されたLiイオンのうちの比較的多くが次回の放電で正極に戻り得ないため、正極が本来備えている容量を十分に引き出すことができない虞がある。よって、本発明の非水二次電池では、組み立て時において、SiOxの不可逆容量分を埋めるためのLi供給源(プレドープ用Li供給源)を、正極とは別に有していることが好ましい。
Li供給源としては、Li金属箔、Li合金箔(以下、両者を纏めて「Li箔」と記載する)などが挙げられ、電池の外装体内のいずれかの箇所(非水電解液と接触可能な箇所)に、このLi供給源を配置すればよい。具体的には、例えば、集電体となる銅箔などの金属箔に、Li供給源となるLi箔を貼り付けるなどして形成したLi極を使用することができ、このLi極を負極と電気的に接続しておくことで、Li極のLi箔がLi供給源として機能する。なお、Li供給源(前記のLi箔)は、前記の通り、そこから放出されるLiイオンがSiOxの不可逆容量を埋めるためにSiOxに取り込まれるため、組み立てから時間が経過した電池内には存在していない場合がある。
そして、非水二次電池が前記Li供給源を備える場合には、負極合剤層内のSiOxの全体にわたって、Li供給源から供給されるLiイオンがより高い均一性で取り込まれ得るようにする観点から、負極集電体内をLiイオンが通過できるようにすることが好ましく、具体的には、負極集電体が、その片面から他面まで貫通する複数の貫通孔を有していることが好ましい。
負極集電体の前記貫通孔については、例えば、孔径が10〜1000μmであることが好ましい。また、前記貫通孔を有する負極集電体においては、空孔率が5〜80%であることが好ましい。
負極集電体における前記貫通孔の配置については特に制限はなく、各貫通孔が規則的に配置されていてもよく、不規則に配置されていてもよいが、負極集電体の全体にわたって強度の均一性を高める観点からは、各貫通孔が規則的に配置されていることが好ましい。
負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。
また、負極には、必要に応じて、非水二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
本発明の非水二次電池に係る正極には、正極活物質を含有する正極合剤層を、正極集電体の片面または両面に有する構造のものを使用する。
正極活物質には、リチウムと遷移金属とを含むリチウム含有複合酸化物、より具体的には、公知の非水二次電池で使用されているリチウム含有複合酸化物、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、Li2MnO3などのリチウムマンガン酸化物;LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物;LiCo1−xNiO2などの層状構造のリチウム含有複合酸化物;LiMn2O4、Li4/3Ti5/3O4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO4などのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物;などを使用することができる。
正極合剤層には、通常、導電助剤およびバインダを含有させる。正極合剤層に係る導電助剤には、負極合剤層に使用し得るものとして先に例示したものと同じものを使用することができる。
また、正極合剤層に係るバインダには、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、SBRなどを用いることができる。
正極は、例えば、正極活物質、バインダおよび導電助剤などを、NMPなどの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理などのプレス処理を施す工程を経て製造される。ただし、正極の製造方法は、前記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が65〜98質量%であることが好ましく、バインダの量が0.5〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が0.5〜20質量%であることが好ましい。
集電体は、従来から知られている非水二次電池の正極に使用されているものと同様のものが使用でき、例えば、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好ましい。
また、非水二次電池が前記Li供給源を備える場合には、負極集電体と同様に、正極集電体も片面から他面へ貫通する複数の貫通孔を有していることが好ましい。
正極集電体の前記貫通孔については、例えば、孔径が10〜1000μmであることが好ましい。また、前記貫通孔を有する正極集電体においては、空孔率が5〜80%であることが好ましい。
また、正極には、必要に応じて、非水二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
本発明の非水二次電池において、負極と正極とは、セパレータを介して重ね合わせた積層体(積層電極体)や、この積層体を更に渦巻状に巻回した巻回体(巻回電極体)として用いることができる。
セパレータには、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタンなどの樹脂で構成された多孔質膜を使用することができるが、セパレータにシャットダウン機能を持たせる観点から、ポリオレフィン製の多孔質膜を使用することが好ましい。
ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、2種以上のポリオレフィンを使用した多孔質膜としては、例えば、PP層上にPE層を介してPP層を積層した三層構造の多孔質膜が挙げられる。
これらのポリオレフィンの中でも、融点、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、DSCを用いて測定される融解温度が、80〜150℃のものを使用することが好ましい。このような融点のポリオレフィンを含有する多孔質膜であれば、前記ポリオレフィンが軟化してセパレータの空孔が閉塞されるシャットダウン特性の開始温度が90〜150℃のセパレータとすることができるため、かかるセパレータを使用することで、非水二次電池の安全性を更に高めることが可能となる。
セパレータに使用する多孔質膜としては、例えば、従来から知られている溶剤抽出法や、乾式または湿式延伸法などにより形成された孔を多数有するイオン透過性の多孔質膜(電池のセパレータとして汎用されている微多孔膜)を用いることができる。
また、前記の多孔質膜(微多孔膜)の表面に、耐熱性の無機フィラーを含有する耐熱性の多孔質層を形成した積層型のセパレータを用いてもよい。このような積層型のセパレータを用いた場合には、電池内の温度が上昇してもセパレータの収縮が抑制されて、正極と負極との接触による短絡を抑えることができるため、より安全性の高い非水二次電池とすることができる。
耐熱性の多孔質層に含有させる無機フィラーとしては、ベーマイト、アルミナ、シリカ、酸化チタンなどが好ましく、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
また、耐熱性の多孔質層には、前記の無機フィラー同士を結着したり、耐熱性の多孔質層と微多孔膜とを接着したりするためのバインダを含有させることが好ましい。バインダには、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などを用いることが好ましく、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
耐熱性の多孔質層における無機フィラーの含有量は、耐熱性の多孔質層を構成する成分の全体積中(空孔部分を除く全体積中)、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、99体積%以下であることがより好ましい(残部は、前記のバインダであればよい)。
セパレータ(ポリオレフィン製の微多孔膜からなるセパレータや、前記積層型のセパレータ)の厚みは、電池反応に関与しない成分の電池内容積の占有率を低減して正負極の活物質量を多くすることを可能にすることで、電池の設計容量や出力密度を高める観点から、30μm以下であることが好ましく、16μm以下であることがより好ましい。ただし、セパレータの強度を十分に保つ観点からは、セパレータの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
また、前記積層型のセパレータの場合、耐熱性の多孔質層の厚みは、1〜8μmであることが好ましい。また、耐熱性の多孔質層の空孔率は、40〜70%であることが好ましい。
本発明の非水二次電池に係る非水電解液には、下記の非水系溶媒中に、リチウム塩を溶解させることで調製した溶液が使用できる。
溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒を1種単独で、または2種以上を混合した混合溶媒として用いることができる。
非水電解液に係るリチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのリチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.6〜1.8mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.6mol/lとすることがより好ましい。
また、非水電解液には、充放電サイクル特性の更なる改善や、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
更に、非水電解液には、ポリマーなどの公知のゲル化剤を添加してゲル化したもの(ゲル状電解質)を用いることもできる。
本発明の非水二次電池に係る外装体には、金属ラミネートフィルム外装体を使用することが好ましい。金属ラミネートフィルム外装体は、例えば金属製の外装缶に比べて変形が容易であることから、電池の充電によって負極が膨張しても、負極合剤層や負極集電体の破壊が生じ難いからである。
金属ラミネートフィルム外装体を構成する金属ラミネートフィルムとしては、例えば、外装樹脂層/金属層/内装樹脂層からなる3層構造の金属ラミネートフィルムが使用される。
金属ラミネートフィルムにおける金属層としてはアルミニウムフィルム、ステンレス鋼フィルムなどが、内装樹脂層としては熱融着樹脂(例えば、110〜165℃程度の温度で熱融着性を発現する変性ポリオレフィンアイオノマーなど)で構成されたフィルムが挙げられる。また、金属ラミネートフィルムの外装樹脂層としては、ナイロンフィルム(ナイロン66フィルムなど)、ポリエステルフィルム(ポチエチレンテレフタレートフィルムなど)などが挙げられる。
金属ラミネートフィルムにおいては、金属層の厚みは10〜150μmであることが好ましく、内装樹脂層の厚みは20〜100μmであることが好ましく、外装樹脂層の厚みは20〜100μmであることが好ましい。
外装体の形状については特に制限はないが、例えば、平面視で、3角形、4角形、5角形、6角形、7角形、8角形などの多角形であることが挙げられ、平面視で4角形(矩形または正方形)が一般的である。また、外装体のサイズについても特に制限はなく、所謂薄形や大型などの種々のサイズとすることができる。
金属ラミネートフィルム外装体は、1枚の金属ラミネートフィルムを二つ折りにして構成したものであってもよく、2枚の金属ラミネートフィルムを重ねて構成したものであってもよい。
なお、外装体の平面形状が多角形の場合、正極外部端子を引き出す辺と、負極外部端子を引き出す辺とは、同じ辺であってもよく、異なる辺であってもよい。
外装体における熱融着部の幅は、5〜20mmとすることが好ましい。
本発明の非水二次電池は、充放電サイクル特性に優れており、また、高容量にできることから、モバイル機器の電源用途のような小型で高容量であることが求められる用途に好適に用い得るほか、従来から知られている非水二次電池が適用されている各種用途と同じ用途にも適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
実施例1
<正極の作製>
正極活物質であるLiCoO2:96.5質量部と、バインダであるPVDFを10質量%の濃度で含むNMP溶液:20質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.5質量部とを、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、厚みが15μmで、片面から他面への貫通孔(孔径:300μm)を備えたアルミニウム箔(空孔率:15%)の片面または両面に塗布し、120℃で12時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の片面または両面に正極合剤層を形成し、プレス処理を行い、所定の大きさで切断して、帯状の正極を得た。なお、アルミニウム箔への正極合剤含有ペーストの塗布の際には、アルミニウム箔の一部が露出するようにし、アルミニウム箔の両面に正極合剤含有ペーストを塗布したものでは、表面で塗布部とした箇所は裏面も塗布部とした。得られた正極の正極合剤層の厚み(アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成したものでは、片面あたりの厚み)は、65μmであった。
アルミニウム箔の片面に正極合剤層を形成した帯状の正極、およびアルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した帯状の正極を、タブ部とするためにアルミニウム箔(正極集電体)の露出部の一部が突出するように、かつ正極合剤層の形成部が四隅を曲線状とした略四角形状になるようにトムソン刃で打ち抜いて、正極集電体の片面に正極合剤層を有する電池用正極と、正極集電体の両面に正極合剤層を有する電池用正極とを得た。図1に、前記電池用正極を模式的に表す平面図を示している(ただし、正極の構造の理解を容易にするために、図1に示す正極のサイズは、必ずしも実際のものと一致していない)。正極10は、正極集電体12の露出部の一部が突出するように打ち抜いたタブ部13を有する形状とし、正極合剤層11の形成部の形状を四隅を曲線状にした略四角形とし、図中a、bおよびcの長さを、それぞれ5mm、30mmおよび2mmとした。
<負極の作製>
SiOの表面を炭素で被覆した複合体(平均粒子径:8μm、複合体における炭素の量が20質量%。以下、「SiO/炭素複合体」と記載する。)と人造黒鉛(平均粒子径:20μm)を、80:20の比率(質量比)で混合した混合物:90質量部、PAI:6質量部、PVDF:1.8質量部、PVP:0.2質量部、および導電助剤であるケッチェンブラック(KB):2質量部をNMPと混合して、負極合剤含有ペーストを調製した。
前記負極合剤含有ペーストを厚みが10μmで、片面から他面への貫通孔(孔径:100μm)を備えた銅箔(空孔率:35%)の両面に塗布し乾燥を行って、銅箔の片面または両面に負極合剤層を形成し、プレス処理を行い、所定の大きさで切断して、帯状の負極を得た。なお、銅箔への負極合剤含有ペーストの塗布の際には、銅箔の一部が露出するようにし、表面で塗布部とした箇所は裏面も塗布部とした。得られた負極の負極合剤層の厚み(負極集電体である銅箔の片面あたりの厚み)は、39μmであった。また、負極合剤層におけるA/(B+C)の値は3とした。
前記帯状の負極を、タブ部とするために銅箔(負極集電体)の露出部の一部が突出するように、かつ負極合剤層の形成部が四隅を曲線状とした略四角形状になるようにトムソン刃で打ち抜いて、負極集電体の両面に負極合剤層を有する電池用負極を得た。図2に、前記電池用負極を模式的に表す平面図を示している(ただし、負極の構造の理解を容易にするために、図2に示す負極のサイズは、必ずしも実際のものと一致していない)。負極20は、負極集電体22の露出部の一部が突出するように打ち抜いたタブ部23を有する形状とし、負極合剤層21の形成部の形状を、四隅を曲線状にした略四角形とし、図中d、eおよびfの長さを、それぞれ6mm、31mmおよび2mmとした。
<Li供給源用のLi極の作製>
負極の作製で用いたトムソン刃を用いて、厚みが6μmの銅箔を前記電池用負極と同じ形状に打ち抜き、準備し、幅3mm、長さ25mm、厚み230μmのLi金属箔をこの銅箔の片面に圧着して、Li供給源用のLi極を作製した。
<電池の組み立て>
正極集電体の片面に正極合剤層を形成した電池用正極2枚、正極集電体の両面に正極合剤層を形成した電池用正極14枚、および負極集電体の両面に負極合剤層を形成した電池用負極15枚を用いて、積層体を形成した。前記積層体では、上下の両端を正極集電体の片面に正極合剤層を形成した電池用正極として、それぞれの集電体が外側を向くように配置し、それらの間に負極集電体の両面に負極合剤層を形成した電池用負極と正極集電体の両面に正極合剤層を形成した電池用正極とを交互に配置し、各正極と各負極との間にはPE製セパレータ(厚み16μm)を介在させた。
Li供給源用のLi極2枚を用意し、それぞれのLi極を、前記積層体の上下の両端に、PE製セパレータ(厚み16μm)を介して重ねた。なお、各Li極は、Li金属箔側がセパレータ側を向くように配置した。
前記積層体の、全ての正極のタブ部を集めて溶接し、また、全ての負極のタブ部と全てのLi極のタブ部とを集めて溶接して、積層電極体とした。そして、前記積層電極体が収まるように窪みを形成した厚み:0.15mm、幅:34mm、高さ:50mmのアルミニウムラミネートフィルムの、前記窪みに前記積層電極体を挿入し、その上に前記と同じサイズのアルミニウムラミネートフィルムを置いて、両アルミニウムラミネートフィルムの3辺を熱溶着した。そして、両アルミニウムラミネートフィルムの残りの1辺から非水電解液(ECとDECとの体積比3:7の混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、更にビニレンカーボネートを3質量%となる量で添加し、かつフルオロエチレンカーボネートを2質量%となる量で添加した溶液)を注入した。その後、両アルミニウムラミネートフィルムの前記残りの1辺を真空熱封止して、図3に示す外観で、図4に示す断面構造の非水二次電池を作製した。負極へのLiのプレドープのために、作製後の電池を室温で2週間保管した。
ここで、図3および図4について説明すると、図3は非水二次電池を模式的に表す平面図であり、図4は、図3のI−I線断面図である。非水二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成したアルミニウムラミネートフィルム外装体101内に、正極と負極とをセパレータを介して積層して構成した積層電極体102と、非水電解液(図示しない)とを収容しており、アルミニウムラミネートフィルム外装体101は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、図4では、図面が煩雑になることを避けるために、アルミニウムラミネートフィルム外装体101を構成している各層や、積層電極体を構成している正極、負極、セパレータおよびLi極を区別して示していない。
積層電極体102の有する各正極は、タブ部同士を溶接して一体化し、この溶接したタブ部の一体化物を電池100内で正極外部端子103と接続しており、また、図示していないが、積層電極体102の有する各負極(および各Li極)も、タブ部同士を溶接して一体化し、この溶接したタブ部の一体化物を電池100内で負極外部端子104と接続している。そして、正極外部端子103および負極外部端子104は、外部の機器などと接続可能なように、片端側をアルミニウムラミネートフィルム外装体101の外側に引き出している。
実施例2〜12および比較例1〜10
負極合剤層における各成分の含有量、負極集電体の片面あたりの負極合剤層の厚み、およびLi極におけるLi金属箔の厚みを、後記の表1〜表4に記載するように変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、これらの負極を用いた以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
なお、表2および表4において、「負極合剤層の厚み」は、前記の通り、負極集電体の片面あたりの厚みを意味している(後記の表8においても、同様である)。
なお、実施例1〜12および比較例1〜10の非水二次電池においては、後記の0.2C放電容量が200mAhとなるように、負極合剤層の厚み(負極合剤層中の負極活物質の量)を調整すると共に、後記の初回充放電効率が94%となるように、負極に合わせてLi極に係るLi金属箔の厚みを調整した。
実施例1〜12および比較例1〜10の非水二次電池について、下記の各評価を行った。
<初回充放電効率および0.2C放電容量の測定>
各非水二次電池について、0.5Cの電流値で電圧が4.4Vになるまで定電流で充電を行い、引き続いて4.4Vの定電圧充電を、電流値が0.05Cになるまで行って、初回充電容量を求めた。充電後の各電池について、0.2Cの電流値で電圧が2.0Vになるまで定電流放電を行って、初回放電容量(0.2C放電容量)を求めた。そして、初回放電容量を初回充電容量で除した値を百分率で表して、各電池の初回充放電効率を算出した。
<充放電サイクル特性評価>
各非水二次電池について、前記の0.2C放電容量測定のための放電に引き続いて、1Cの電流値で電圧が4.4Vになるまで定電流で充電を行い、更に4.4Vの定電圧充電を、電流値が0.05Cになるまで行った後に、1Cの電流値で電圧が2.0Vになるまで定電流放電を行う一連の操作を繰り返し、199回目に0.5Cの電流値で電圧が4.4Vになるまで定電流で充電を行い、引き続いて4.4Vの定電圧充電を電流値が0.05Cになるまで行った後、0.2Cの電流値で電圧が2.0Vになるまで定電流放電を行った。この定電流−定電圧充電および定電流放電の最終のサイクルでの放電容量を、前記初回の0.2C放電容量で除した値を百分率で表して容量維持率を求め、各電池の充放電サイクル特性を評価した。
前記の各評価結果を表5および表6に示す。
表5に示す通り、イミド系バインダであるPAIと、PVDFと、PVPとをバインダに使用し、これらの負極合剤層における含有量の関係「A/(B+C)」を適正な値とした負極を用いた実施例1〜12の非水二次電池は、充放電サイクル特性評価時の容量維持率が高く、優れた充放電サイクル特性を有していた。
これに対し、表6に示す通り、「A/(B+C)」の関係が不適な負極を用いた比較例1〜8の電池、PVPを使用していない負極を用いた比較例9の電池、およびPVDFを使用していない負極を用いた比較例10の電池は、充放電サイクル特性評価時の容量維持率が実施例の電池よりも低く、充放電サイクル特性が劣っていた。
実施例13
PAIに代えてPIを使用した以外は実施例4と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例4と同様にして非水二次電池を作製した。
実施例14、比較例11、12
負極合剤層における各成分の含有量、負極集電体の片面あたりの負極合剤層の厚み、およびLi極におけるLi金属箔の厚みを、後記の表7、8に記載するように変更した以外は、実施例13と同様にして負極を作製し、これらの負極を用いた以外は、実施例13と同様にして非水二次電池を作製した。
実施例13、14および比較例11、12の各非水二次電池について、実施例1の電池などと同じ評価を行った。これらの結果を表9に示す。
表9に示す通り、イミド系バインダにPIを使用した場合であっても、負極合剤層における「A/(B+C)」を適正な値にした負極を用いた実施例13、14の非水二次電池は、これらの値が不適な比較例11、12の電池に比べて、充放電サイクル特性評価時の容量維持率が高く、優れた充放電サイクル特性を有していた。