JP2017072922A - 軸流ファンの解析方法,解析装置及び解析プログラム - Google Patents

軸流ファンの解析方法,解析装置及び解析プログラム Download PDF

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実証 秋枝
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Abstract

【課題】軸流ファンの通風解析に際し、解析精度を向上させる。【解決手段】MRFモデルをファンモデルとし、回転数Nf及び体積力Ffを入力値とするCFD解析により軸流ファンの圧損P,風量Qを計算する解析ステップ(ステップT20,T22)を設ける。また、圧損補正係数ηPを用いて圧損Pを補正した補正圧損値P′を算出する補正ステップ(ステップT36,T38)を設ける。さらに、軸流ファンのPQ特性マップ上において、補正圧損値P′及び風量Qから定まるPQ点とPQカーブとのずれ量Gが所定値Gthを超える場合に、体積力Ffの値を変更して解析ステップ,補正ステップを再実施させる算出ステップ(ステップT50,T52)を設ける。ここで、ずれ量Gが所定値Gth以下となったときの体積力Ffの値を、回転数Nfで生成される流れ場の軸流成分の圧力損失を補正するための体積力Ffの値とする(ステップT54)。【選択図】図5

Description

本発明は、数値流体力学解析の手法を用いた軸流ファンの解析方法,解析装置及び解析プログラムに関する。
近年、自動車製品の性能向上に伴い、エンジンルーム内の熱管理に対する要求が高まる傾向にある。このため開発現場では、開発初期の段階から積極的に数値流体力学(CFD; Computational Fluid Dynamics)解析ソフトウェアを活用し、エンジンルーム内の空気の流れ場や温度場をコンピュータシミュレーションにより予測することで設計検討の効率化を図っている。エンジンルーム内の空気の流れは、ラジエータに付設された冷却ファンによって生成されるとともに走行風の影響を受けることから、CFD解析では、冷却ファンを含んだ解析モデルが設定され、車速の影響も考慮してシミュレーションが実施される。なお、ファンを含んだモデルをシミュレーションする流体解析方法としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
特開2005-309755号公報
ところで、実車解析で多用されるファンモデルとして、運動量モデルとMRFモデル(Multiple Reference Flame)とが知られている。運動量モデルに基づくCFD解析では、軸流ファンのブレード形状がモデル化されず、圧力・流量特性を表すPQカーブ,ブレード角,ファン回転数などを入力値としてPQカーブに一致する運動量ソースを与える計算手法が採用される。この手法は、流体の軸流成分の計算精度は得られるものの、ブレード形状が流れ場に反映されにくく、旋回成分の計算精度がやや低い。
一方、MRFモデルに基づくCFD解析では、解析対象領域内に座標系の異なる回転領域と静止領域とが設定され、回転領域内にブレード形状がモデル化されるとともに、ファン回転数を入力値として静止領域の運動量ソースを与える手法が採用される。この手法では、ブレード形状に沿った流れ場が再現されることから、運動量モデルに基づくものと比較して旋回成分の計算精度が向上し、軸流ファンの下流側から上流側への熱気回り込み現象を精度よく把握することが可能である。しかし、ブレードの回転運動が正確に再現されるわけではないため、ブレードの運動に伴って生じる圧損(圧力損失)が過大評価されやすく、流体の軸流成分の計算精度にやや劣る。
上記の通り、前者の手法と後者の手法とのそれぞれには得手,不得手があり、解析目的に応じて使い分けられている。例えば、軸流ファンの通風量を精度よく計算したい場合には運動量モデルに基づく計算手法が用いられ、熱気回り込み現象を精度よく計算したい場合にはMRFモデルに基づく計算手法が用いられている。しかし、軸流ファンの通風量と熱気回り込み現象とをともに精度よく計算したい場合に、両者の要求を同時に満たすような高精度な計算手法は未だ存在しない。
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、運動量モデルに基づく計算手法とMRFモデルに基づく計算手法とを融合し、流体の軸流成分と旋回成分とをともに精度よく計算できるようにした、軸流ファンの解析方法,解析装置及び解析プログラムを提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
(1)開示の軸流ファンの解析方法は、MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析(数値流体力学解析)において、所定の回転数で生成される流れの軸流成分の圧力損失を補正するための体積力を算出する処理をコンピュータに実行させる解析方法であって、コンピュータソフトウェアによる軸流ファンの解析方法である。また、開示の軸流ファンの解析プログラムは、本解析方法に則った処理を実行するコンピュータプログラムである。本解析方法は、解析ステップ,補正ステップ,算出ステップを備える。
前記解析ステップでは、前記回転数及び前記体積力を入力値とする前記CFD解析により前記軸流ファンの圧損及び風量を計算する。前記補正ステップでは、前記圧損に対する前記軸流ファンの作動時における実圧損の比率を表す圧損補正係数を用いて前記圧損を補正した補正圧損値を算出する。前記算出ステップでは、前記軸流ファンのPQ特性マップ上において、前記補正圧損値及び前記風量から定まるPQ点とPQカーブとのずれ量が所定値を超える場合に、前記体積力の値を変更して前記解析ステップ及び前記補正ステップを再実施させる。また、前記ずれ量が前記所定値以下となったときの前記体積力の値を、前記回転数に対応する体積力の値として算出する。
なお、前記算出ステップでは、前記ずれ量が前記所定値以下となるまで前記体積力の値を変更するとともに、前記解析ステップ及び前記補正ステップでの処理を繰り返し実施させることが好ましい。また、前記算出ステップで用いられる前記PQカーブは、前記解析ステップで使用された前記回転数に対応するPQカーブであることが好ましい。
(2)前記補正ステップでは、前記圧損を軸流成分と旋回成分とに分解した各成分の補正係数をモデル計算により算出し、二つの前記補正係数と所定の圧損配分とに基づいて前記圧損補正係数を算出することが好ましい。
(3)前記解析ステップでは、前記軸流ファンのブレードを含むファン領域でのスワール比を計算し、前記補正ステップでは、前記スワール比と前記軸流ファンの形状データとに基づいて前記二つの補正係数を算出することが好ましい。
(4)前記補正ステップでは、前記スワール比の関数で表現された前記ブレードの軸流投影面積比を用いて軸流成分の前記補正係数を算出することが好ましい。
(5)前記補正ステップでは、前記スワール比で線形近似された前記ブレードと旋回方向の流体粒子との衝突頻度を用いて旋回成分の前記補正係数を算出することが好ましい。
(6)前記補正ステップでは、前記圧損に対する、前記軸流ファンの停止時における圧損の実測値の比率を、前記圧損配分として算出することが好ましい。
(7)前記算出ステップでは、前記ずれ量が前記所定値を超える場合に、前記PQカーブと、直近の二つの前記PQ点と、当該二つのPQ点を設定するために前記解析ステップで用いられた二つの前記体積力とに基づいて、変更後の前記体積力を算出することが好ましい。
(8)ここで開示する軸流ファンの解析装置は、MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析において、所定の回転数で生成される流れ場の軸流成分の圧力損失を補正するための体積力を算出する処理を実行する解析装置である。
本装置は、前記回転数及び前記体積力を入力値とする前記CFD解析(数値流体力学解析)により前記軸流ファンの圧損及び風量を計算する解析部を備える。また、前記圧損に対する前記軸流ファンの作動時における実圧損の比率を表す圧損補正係数を用いて、前記圧損補正係数で前記圧損を補正した補正圧損値を算出する補正部を備える。さらに、前記軸流ファンのPQ特性マップ上において、前記補正圧損値及び前記風量から定まるPQ点とPQカーブとのずれ量が所定値を超える場合に、前記体積力の値を変更して前記解析部及び前記補正部での処理を再実施させるとともに、前記ずれ量が前記所定値以下となったときの前記体積力の値を、前記回転数に対応する体積力の値として算出する算出部を備える。
なお、前記算出部は、前記ずれ量が前記所定値以下となるまで前記体積力の値を変更するとともに、前記解析部及び前記補正部での処理を繰り返し実施させることが好ましい。また、前記算出部で用いられる前記PQカーブは、前記解析部で使用された前記回転数に対応するPQカーブであることが好ましい。
MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析において、軸流ファンの回転数に対応する体積力の値を精度よく算出することができる。これにより、流体の軸流成分と旋回成分とをともに高精度に算出することが可能となり、解析精度を向上させることができる。
軸流ファンの模式的な正面図である。 軸流ファンの解析装置の構成を例示するブロック図である。 (A)はスワール比と軸流補正係数との関係を例示するグラフ、(B)はスワール比と旋回補正係数との関係を例示するグラフである。 (A)は軸流ファンのPQカーブとPQ点との関係を例示するPQマップ、(B)は図3(A)の部分拡大図、(C)は体積力の値の調整方法を説明するための図である。 軸流ファンの解析方法の手順を例示するフローチャートである。
図面を参照して、実施形態としての軸流ファンの解析方法,解析装置及び解析プログラムについて説明する。以下に示す各実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の各実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
[1.概要,解析モデル]
本実施形態では、MRFモデルに基づくCFD解析をベースとして、軸流成分の圧力損失を補正するためのパラメータとして体積力Ffを導入した解析を実施する。体積力Ffとは、軸流ファンで生成される流れの軸流成分の圧力損失を補正するための「力の体積密度」を意味する。つまり、所定の回転数Nfで回転する軸流ファンから周囲の流体へと与えられる力の体積密度のうち、軸流成分の力の体積密度を補正するもののことを、体積力Ffと定義する。
本実施形態の軸流ファンの解析方法,解析装置,解析プログラムでは、MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析において、軸流ファンの圧損Pを補正するための体積力Ffが算出される。ここで算出される体積力Ffの値は、その後の熱流動場解析(流体解析)において、所定の回転数Nfに対応する通過風速をシミュレートするための入力値として、回転数Nfとともに用いられる。ここで、適切な体積力Ffの値を求めるための解析のことを「通風解析」と呼ぶ。通風解析は、本処理である熱流動場解析に先立って実施される前処理であり、CFD解析で計算される軸流ファンの通過風速(計算値)を実際の軸流ファンの通過風速(実現象)に近付ける(計算値と実現象とのギャップを補正する)ために実施される。
通風解析では、MRFモデルを用いたCFD解析(第一工程)と、CFD解析で計算された圧損Pを補正するための補正計算(MRF補正計算,第二工程)と、CFD解析及びMRF補正計算で得られた結果を用いた体積力Ffの算出(第三工程)とが実施される。
第一工程では、軸流ファンの回転数Nfと予め設定された体積力Ffの初期値とがCFD解析の入力値として使用され、軸流ファンの圧損Pと風量Qとが算出される。また、第二工程では、圧損Pが軸流成分と旋回成分とに分解され、各々の成分が固有の補正係数に基づいて補正されるとともに、補正後の圧損値(補正圧損値)P′が算出される。さらに、第三工程では、補正圧損値P′と風量Qとから定まるPQ点が算出されるとともに、軸流ファンのPQ特性を表すPQカーブを基準としたPQ点のずれ量Gが算出され、そのずれ量Gが所定値Gth以下となるように体積力Ffの値が再設定される。
再設定された体積力Ffの値は、軸流ファンの回転数Nfとともに再びCFD解析の入力値として使用され、演算が第一工程から繰り返される。これにより、新たな圧損Pと風量Qとが算出されることになる。このような演算を繰り返して、ずれ量Gが所定値Gth以下となったときの体積力Ffの値が、軸流ファンの回転数Nfに対応する最終的な体積力Ffの値となる。
なお、その後の熱流動場解析では、通風解析で算出された回転数Nf及び体積力Ff、あるいはこれらに基づいて計算される軸流ファンの通過風速のほか、車速や温度情報等が初期条件,境界条件として設定され、具体的な解析が実施される。この熱流動場解析は従来と同様の手法で実施されるため、詳細な説明を省略する。
解析対象となるファン装置1を図1に例示する。このファン装置1は車両のエンジンルーム内に配置されるラジエータを空冷するための送風装置である。直方体状のケーシング5には二つの円筒状の貫通部6が形成され、その内部に二つのファン2(軸流ファン)が設けられる。各々のファン2には、回転中心となるハブ3とその周面に取り付けられた複数のブレード4とが設けられる。ハブ3は、支持部7を介してケーシング5に対して回転可能に支持される。なお、二つのファン2は同一の構成でなくてもよく、例えばファン径やブレード枚数が異なっていてもよい。
通風解析では、まず、解析対象となる物体の形状を再現したCAD(Computer Aided Design)モデルが作成される。本実施形態のCFD解析ではMRFモデルが用いられることから、ファン2を含む領域(すなわち貫通部6)がファン領域として設定され、ファン領域の周囲の領域が周辺領域として設定される。ファン領域(回転領域)では、ファン2の周りの流れ場の計算を実施するために回転座標系が設定されるとともに、ファン2のハブ3及びブレード4の形状がモデル化される。また、周辺領域(静止領域)では静止座標系が設定されるとともに、ケーシング5の形状がモデル化される。
次いで、モデル化された物体の形状及び周囲の空間(ファン領域の内部)のメッシュ(計算格子,セル)が作成され、物体の形状及び周囲の空間が離散化される。メッシュの形状,大きさ,個数(分割数),分割位置等は、コンピュータの解析処理能力や所望の解析精度などに応じて適宜設定される。複数のメッシュのそれぞれには様々な数値データが設定される。例えば、ブレード4に対応するメッシュには、メッシュの大きさや形状等を規定するためのパラメータが設定される。また、ファン領域の内部に対応するメッシュには、メッシュの大きさや形状等を規定するパラメータに加えて、回転速度及び回転方向(回転ソース)が設定される。すなわち、ブレード4は固定した状態とし、ブレード4の周辺の空気には回転ソースを与える。
[2.装置構成]
本実施形態の通風解析装置は、通風解析プログラム20を実行可能な汎用のコンピュータによって実現される。図2は、コンピュータ10を用いて通風解析装置を構成する場合の概略構成図である。コンピュータ10(解析装置)には、プロセッサ11〔中央処理装置,Central Processing Unit(CPU)〕,メモリ12〔主記憶装置,Read Only Memory(ROM),Random Access Memory(RAM)等〕,補助記憶装置13〔Hard Disk Drive(HDD),Solid State Drive(SSD),光学ドライブ,フラッシュメモリ・リーダライター等〕,入力装置14(キーボード,マウス等),出力装置15(ディスプレイ,プリンター装置等),通信装置16(無線・有線の送受信装置)が設けられる。これらは、コンピュータ10の内部に設けられたバス17(制御バス,データバス等)を介して、互いに通信可能に接続される。通風解析プログラム20は、補助記憶装置13にインストールされる。以下、通風解析プログラム20のことを単にプログラム20とも呼ぶ。
本実施形態のプロセッサ11は、補助記憶装置13にインストールされたプログラム20をメモリ12上に読み込んで実行し、計算結果を補助記憶装置13に記録するとともに出力装置15に出力する。解析モデルとなるファン2を備えたファン装置1の形状は、例えば汎用の三次元CADソフトウェアで作成されたデータをプログラム20に流用することによって、あるいは入力装置14からの入力によって設定される。また、通風解析に必要なデータは、入力装置14からの入力に基づいて、あるいは予め与えられた値として設定される。なお、光学ドライブ,フラッシュメモリ・リーダライター等で読み取り可能な記録媒体18にプログラム20を記録しておいてもよい。あるいは、コンピュータ10が接続可能なネットワーク上のオンラインストレージ19にプログラム20を記録しておいてもよい。いずれにしても、プログラム20をコンピュータ10のHHD,SSD等にダウンロードすることで、あるいはプロセッサ11,メモリ12に読み込むことで実行可能となる。
通風解析に必要なデータには、ファン2の形状データ,ファン2のPQカーブが規定されたPQ特性マップ,ファン2の停止時における圧損の実測値(以下「実測圧損値Paoff」という),CFD解析において初期入力値として使用される回転数Nf,第一体積力Ff1,第二体積力Ff2,車速等が含まれる。第一体積力Ff1,第二体積力Ff2は、予め設定された値であってもよいし、CFD解析の過程で推定されるレポート値に基づいて設定される値としてもよい。形状データとしては、ファン領域の軸流方向投影面積AF,ブレード4の軸流方向投影面積Ab,ファン2の半径R,ファン領域の厚みd,ブレード4の枚数Mb,ファン2の個数Mfが挙げられる。ファン領域の軸流方向投影面積AFは、ファン領域をファン2の回転軸に沿った方向(軸流方向)に投影したときの面積であり、ブレード4の軸流方向投影面積Abは、ブレード4を同じく軸流方向に投影したときの面積である。ファン2の半径Rは、ファン2の回転軸中心からブレード4の外周縁までの長さであり、ファン領域の厚みdは、ファン領域における回転軸方向の長さである。また、ブレード4の枚数Mb,ファン2の個数Mfは、図1に示すファン装置1ではそれぞれがMb=7,Mf=2となる。なお、二つのファン2の構成が異なる場合には、ファン2毎に通風解析に必要なデータが設定される。
ファン2のPQカーブは、ファン2の静圧(圧損)と風量との関係を表す線図(曲線)であり、回転数Nf毎に異なる特性が予め与えられている。また、PQ特性マップとは、回転数Nf毎に圧損(P)と風量(Q)との関係を曲線グラフで表現したものである。通風解析では、少なくとも所定の回転数NfでのPQカーブが予め設定されたPQ特性マップが用いられる。また、実測圧損値Paoffは、ファン2をオフにした(回転を拘束した)状態で、ファン2の上流側から下流側へと風を強制的に流通させたときの圧損を実際に測定した値であり、容易に取得することができる。
通風解析プログラム20の機能を図2中に模式的に示す。このプログラム20には、解析部21,補正部22,算出部23が設けられる。なお、これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはこれらの機能の一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
解析部21は、上述した解析モデルを設定するとともに、MRFモデルを用いたCFD解析を実施することでファン2の圧損P及び風量Qを計算するものである。具体的には、解析部21は、図1のファン装置1に対してファン領域及び周辺領域を設定するとともに、各領域の物体形状及び周囲の空間のメッシュを作成することで解析モデルを設定する。次いで、複数のメッシュのそれぞれに対して様々な数値データを設定し、ファン2の回転数Nf及び体積力Ffを入力値として与えてCFD解析を繰り返し実施する。一回目のCFD解析では、所定の回転数Nfと第一体積力Ff1とが入力値として使用され、二回目のCFD解析では、一回目と同一の回転数Nfと第二体積力Ff2とが入力値として使用される。また、三回目以降のCFD解析では、後述の算出部23から伝達される体積力Ffの値を入力値として用いる。このとき、回転数Nfの値は一定とする。このようにして、ファン2を回転数Nfで回転させたときの、計算上の圧損P及び風量Qが得られる。
解析部21は、計算した風量Q(単位時間あたりの体積流量)をファン領域の軸流方向投影面積AFで除することで軸流方向の速度(軸流速度VA)を計算し、軸流速度VAに対する旋回速度VRの比率で表されるスワール比S(=VR/VA)を計算する。旋回速度VRは、ファン2の半径Rとファン2の角速度ωとの積で算出される。すなわち、解析部21は、以下の式1に従ってファン領域でのスワール比Sを計算する。なお、ファン2の角速度ωは、回転数Nfに2πを乗ずることで計算される(ω=2π×Nf)。解析部21は、計算した圧損P,風量Q,スワール比Sの情報を算出部23に伝達する。
Figure 2017072922
補正部22は、解析部21で計算された圧損Pを補正するための圧損補正係数ηPを算出して、圧損Pを圧損補正係数ηPで補正するものである。MRFモデルを用いたCFD解析は、ブレード4を固定した状態で周囲の流体に回転ソースを与える計算方法であるため、流体とブレード4との旋回方向の相対速度が過大評価されやすく、その結果として計算される圧損Pも過大評価されうる。圧損補正係数ηPは、この過大評価された圧損Pを減少補正して、実際の圧損(実圧損)に近付けるための係数である。補正部22は、圧損Pに圧損補正係数ηPを乗じることで圧損Pを補正し、補正後の圧損値P′(=ηP×P,以下「補正圧損値P′」という)の情報を算出部23に伝達する。
圧損補正係数ηPは、解析部21で計算された圧損Pに対する、ファン2の作動時における実圧損の比率を意味する。したがって、ファン2が実際に作動したときの実圧損が既知であれば、圧損補正係数ηPを求めることができる。一方、本解析は実圧損が未知である場合にも実施されうる。そこで、補正部22は、ファン2の作動時の実圧損を用いる代わりに、モデル計算によって圧力補正係数ηPを算出する。
本実施形態の補正部22は、全体の圧損Pを軸流成分(軸流圧損PA)と旋回成分(旋回圧損PR)とに分解して、軸流成分の補正係数ξA(軸流補正係数ξA)及び旋回成分の補正係数ζR(旋回補正係数ζR)のそれぞれをモデル計算により算出する。そして、式2に示すように、二つの補正係数ξA,ζRと所定の圧損配分λAとに基づき、圧損補正係数ηPを算出する。軸流補正係数ξAは、「補正前のCFD解析で得られた軸流圧損PA」に対する、「ファン2の作動時における実測された圧損Pの軸流成分」の比率を表す。一方、旋回補正係数ζRは、「ファン2の作動時における実測された圧損Pの旋回成分」に対する、「補正前のCFD解析で得られた旋回圧損PR」の比率を表す。
Figure 2017072922
二つの補正係数ξA,ζRの算出方法について説明する。補正部22は、スワール比Sとファン2の形状データとに基づいて軸流補正係数ξA及び旋回補正係数ζRを算出する。具体的には、補正部22は、スワール比Sの関数で表現されるブレード4の軸流投影面積比を用いて軸流補正係数ξAを算出する。また、ブレード4と旋回方向の流体粒子との衝突頻度をスワール比Sで線形近似することで、旋回補正係数ζRを算出する。軸流補正係数ξA,旋回補正係数ζRの算出式のそれぞれを式3,式4に示す。何れの補正係数ξA,ζRも1以上の値となるように、算出された値が1を下回る場合には1でクリップされる。スワール比Sと軸流補正係数ξAとの関係を図3(A)に例示し、スワール比S旋回補正係数ζRとの関係を図3(B)に例示する。
Figure 2017072922
次に、圧損配分λAの算出方法について説明する。圧損配分λAは、二つの補正係数ξA,ζRをどの程度の割合で圧損補正係数ηPに反映させるのか(圧損補正係数ηPに反映させる度合い)を決めるための係数である。圧損配分λAは、式5に示すように、全体の圧損Pに対する軸流圧損PAの比率を表す。一方、軸流圧損PAは、低車速域においてファンオフ時の圧損特性と一致する傾向にあるため、本実施形態では実測圧損値Paoffで近似する(PA≒Paoff)。また、圧損Pに対する実測圧損値Paoffの比率が1.0を超える場合には1.0でクリップする。例えば式6に示すように、解析部21で計算された圧損Pに対する実測圧損値Paoffの比率を、圧損配分λAとして算出する。
Figure 2017072922
算出部23は、ファン2のPQ特性マップ上において、補正圧損値P′及び風量Qから定まるPQ点がPQカーブ上に乗るような体積力Ffを算出するものである。ここではまず、補正圧損値P′及び風量Qに基づき、PQ特性マップ上における計算上のPQ点が設定される。このPQ点は、CFD解析により計算された圧損P及び風量Qの関係を示す点に関し、特に圧損Pのみを圧損補正係数ηPで補正することで得られた補正圧損値P′及び風量Qの関係を示す点である。本実施形態の算出部23は、図4(A)に示すように、横軸に風量Q,縦軸に圧損Pをとり、所定の回転数NfにおけるPQカーブが設定されたPQ特性マップ上に、設定したPQ点〔すなわち座標(P′,Q)〕をプロットしてPQマップを作成する。算出部23は、CFD解析が実施される毎にPQ点を設定する。このため、PQマップにはCFD解析の実施回数と同じ個数のPQ点がプロットされる。
図4(A)は、四つのPQ点(PQ1〜PQ4)がプロットされたPQマップの例である。PQの下付き添え字は、そのPQ点が何回目のCFD解析の結果に基づいて設定されたものであるのかを示す数であり、CFD解析の実施回数に対応する。例えば図中の「PQ1」は、一回目のCFD解析(すなわち初回のCFD解析)の結果に基づいて設定されたPQ点を示す。また、図中の破線で示す矢印はPQ点の変化を示すものである。
また、算出部23は、上述のPQ点と回転数NfにおけるPQカーブとのずれ量Gが所定値Gth以下となる体積力Ffの値を算出する。すなわち、算出部23は、G≦Gthとなるまで体積力Ffの値を調整して、調整後の体積力Ffの値を次回の入力値として解析部21に伝達することで、CFD解析を繰り返し実施させる(CFD解析,圧損補正,PQ点の設定を再実施させる)。そして、G≦Gthとなったときの体積力Ffの値を、所定の回転数Nfに対応する最終的な体積力Ffの値として算出する。
ずれ量Gは、PQ点からPQカーブまでの最短距離(G≧0)とされる。また、所定値Gthは、通風解析の精度及び時間(回数)を考慮して適宜設定される。例えば、「通風解析の精度」を「解析に要する時間(最終的な体積力Ffの値が得られるまでの時間)」よりも重視する場合には、所定値Gthを0に近い小さな値にすればよい。
本実施形態の算出部23は、図4(B)に示すように、PQカーブの上方及び下方のそれぞれに所定値GthだけPQカーブを平行移動させた二本の判定線(図中一点鎖線)を設け、PQ点が二本の判定線の内側にあればG≦Gthであると判定し、外側にあればG>Gthであると判定する。図4(B)に示す例では、三回目のCFD解析で得られたPQ点(PQ3)が二本の判定線の外側に位置することから、算出部23はこのPQ点(PQ3)の設定に用いられた体積力Ffの値を調整して次回のCFD解析で用いる体積力Ffを算出する。一方、四回目のCFD解析で得られたPQ点(PQ4)は二本の判定線の内側にあることから、算出部23は今回(四回目)のCFD解析で用いられた体積力Ffの値を最終的な体積力Ffの値とする。
G>Gthである場合の演算内容に関して、算出部23は、PQカーブと、直近の二つのPQ点と、これら二つのPQ点を設定するために解析部21で用いられた二つの体積力Ffとに基づいて、次回のCFD解析で用いる体積力Ffの値を算出する。ここでいう「直近の二つのPQ点」とは、複数のPQ点がプロットされている場合に、直近の二回のCFD解析で得られたPQ点を意味する。すなわち、現在設定中のPQ点(以下「現在のPQ点」という)と、前回設定されたPQ点(以下「前回のPQ点」という)とが「直近の二つのPQ点」となる。
具体的には図4(C)に示すように、算出部23は、現在のPQ点(PQi)からPQカーブに対して水平線(X軸に平行な直線)及び垂直線(Y軸に平行な直線)を引き、これらの水平線,垂直線とPQカーブとの交点同士を直線で結ぶことでPQカーブを直線近似する。次いで、現在のPQ点(PQi)から、この直線に下ろした垂線の長さLを算出する。また、直近の二つのPQ点(PQi,PQi-1)の座標に基づき、現在のPQ点と前回のPQ点との距離Dを算出する。そして、距離Dに対する長さLの比率に、二つの体積力Ffの差の絶対値を乗じることで、体積力Ffの調整量ΔFfを求める。
さらに、現在のPQ点(PQi)の位置が、PQカーブ(あるいはPQカーブを直線近似した直線)よりも下側か上側かを判断する。そして、解析部21で用いられた今回の入力値(体積力Ffi)に対して、PQ点が下側であれば調整量ΔFfを加算し、PQ点が上側であれば調整量ΔFfを減算する。このようにして、算出部23は次回のCFD解析で用いる体積力Ffの値を求める。調整後の体積力Ffの値Ffi+1の算出方法を数式で表すと、式7,8の通りとなる。式7はPQ点が下側にあるときの数式であり、式8はPQ点が上側にあるときの数式である。
Figure 2017072922
つまり、現在のPQ点がPQカーブよりも下側にあれば〔例えば図4(A)中のPQ1,PQ2では〕、次回の体積力Ffが増大方向に調整され、反対に、現在のPQ点がPQカーブよりも上側にあれば〔例えば図4(A)中のPQ3では〕、次回の体積力Ffが減少方向に調整される。これにより、PQ点が徐々にPQカーブに近づいていく。PQ点がPQカーブの曲線上に対して十分に近づいたときの体積力Ffは、CFD解析において、所定の回転数Nfに対応する実際の通過風速がシミュレートされうる圧損の軸流成分を与える体積力Ffとなる。算出部23は、その後の熱流動場解析で利用可能なデータとしてこれを補助記憶装置13内に記録する。
[3.フローチャート]
図5は、上記のコンピュータ10がプログラム20を実行する際の手順(解析方法)を示すフローチャートである。
ステップT10は、初期設定のステップである。ここでは、解析モデルとなるファン2を備えたファン装置1の元データと、通風解析に必要なデータとが用意され、あるいは補助記憶装置13や入力装置14等から入力される。例えば、ファン2の形状データ,回転数Nf,回転数NfでのPQカーブが規定されたPQ特性マップ,ファン2の実測圧損値Paoff,第一体積力Ff1,第二体積力Ff2,車速等の値がユーザーによって設定される。
ステップT20,T22は、解析部21において実施される処理(解析ステップ)である。ステップT20では、前ステップで用意された元データに基づき、ファン装置1を模した解析モデルが設定される。続くステップT22では、回転数Nf及び体積力Ffを入力値としたCFD解析が実施され、ファン2の圧損P及び風量Qが計算されるとともに、風量Qからファン領域でのスワール比Sが計算される。なお、一回目及び二回目のCFD解析では、ステップT10で設定された回転数Nfと第一体積力Ff1,第二体積力Ff2のそれぞれとが入力値として用いられる。図5に示すように、以上の三つの処理(ステップT10〜T22)が、通風解析における第一工程(MRFモデルを用いたCFD解析)である。
ステップT30〜T38は、補正部22において実施される処理(補正ステップ)である。ステップT30では、スワール比Sで表現されるブレード4の軸流投影面積比を用いて軸流補正係数ξAが算出される。すなわち、ステップT20で計算されたスワール比SとステップT10で設定された形状データとが上記の式3に代入され、軸流補正係数ξAが算出される。続くステップT32では、ブレード4と旋回方向の流体粒子との衝突頻度をスワール比Sで線形近似することで旋回補正係数ζRが算出される。すなわち、ステップT20で計算されたスワール比SとステップT10で設定された形状データとが上記の式4に代入され、旋回補正係数ζRが算出される。
ステップT34では、ステップT22で計算された圧損PとステップT10で設定された実測圧損値Paoffとが上記の式6に代入され、圧損配分λAが算出される。続くステップT36では、ステップT30及び32で算出された二つの補正係数ξA,ζRとステップT34で算出された圧損配分λAとが上記の式2に代入され、圧損補正係数ηPが算出される。ステップT38では、前ステップで算出された圧損補正係数ηPとステップT22で計算された圧損Pとが乗算されて、補正圧損値P′が算出される。以上の五つの処理(ステップT30〜T38)が、通風解析における第二工程(MRF補正計算)である。
ステップT40,T42は、算出部23において実施される処理(設定ステップ)である。ステップT40では、ステップT22で計算された風量Qと前ステップで算出された補正圧損値P′とが計算上のPQ点として設定される。これにより、例えば一回目のCFD解析では、図4(A)中における一番目のPQ点(PQ1)が算出される。続くステップT42では、ステップT10で設定されたPQ特性マップ上に、前ステップで設定されたPQ点がプロットされてPQマップが作成される。なお、PQカーブは回転数Nfが変更されない限り同一であるため、再びステップT42が実行されたときは新たなPQ点のプロットのみが行われる。
ステップT50〜T54も、算出部23において実施される処理(算出ステップ)である。ステップT50では、PQ点とPQカーブとのずれ量Gが所定値Gth以下であるか否かが判定される。G>Gthであれば、ステップT52において次のCFD解析で用いられる体積力Ffの値が算出される。なお、二回目のCFD解析では第二体積力Ff2が使用される。一方、三回目以降のCFD解析では、PQカーブと、直近の二つのPQ点と、これら二つのPQ点を設定するためにステップT22で用いられた二つの体積力Ffの値とに基づき(例えば式7,式8に従って)、次回の体積力Ffの値(調整後の体積力Ffの値)が算出される。そして、ステップT52からステップT22へ戻り、ステップT22からの処理が再び実施される。
ステップT50においてG≦Gthであると判定されると、ステップT54において、直前のステップT22で用いられた体積力Ffの値が最終的な体積力Ffの値であるとみなされ、補助記憶装置13に記録されるとともに、出力装置15から出力される。すなわち、G≦Gthとなった時点での体積力Ffの値が、所定の回転数Nfに対応する体積力Ffの値であるものと判断され、このフローを終了する。以上の五つの処理(ステップT40〜T54)が、通風解析における第三工程である。
なお、熱流動場解析で複数の回転数Nfに対応する体積力Ffの値が必要な場合には、ステップT10において新たな回転数NfでのPQカーブや第一体積力Ff1,第二体積力Ff2等が設定され、上述と同様の処理(ステップT20〜T54)が再び実施される。これにより、その後の熱流動場解析で利用可能な、複数の回転数Nfに対応する体積力Ffのデータが取得される。
[4.作用,効果]
(1)上述の通風解析方法,通風解析装置及び通風解析プログラム20によれば、MRFモデルをファンモデルとした軸流ファン2のCFD解析において、軸流ファン2の回転数Nfに対応する体積力Ffの値を精度よく算出することができる。つまり、軸流ファン2から周囲の流体へと与えられる軸流成分の体積力Ffを精度よく求めることができる。これにより、流体の軸流成分の圧損だけでなく、旋回成分の圧損も高精度に算出することが可能となり、流体解析精度を向上させることができる。したがって、軸流ファン2の通風量と熱気回り込み現象とをともに精度よく計算することができ、解析精度を向上させることができる。
また、算出部23では、ずれ量Gが所定値Gth以下となるまで体積力Ffの値を調整し、調整後の体積力Ffを解析部21へと伝達してCFD解析からやり直させる処理が実施される。そして、ずれ量Gが所定値Gth以下となったときの体積力Ffを最終的な体積力Ff(適正な体積力Ff)として算出する。このように、体積力Ffを調整しながらCFD解析を繰り返すことで、PQカーブに対してPQ点を着実に近づけていくことができる。これにより、通過風速の実測値を用いることなく、熱流動場解析の精度を高めることができる。
(2)補正部22では、圧損Pが二つの成分に分離され、各成分を補正するための補正係数ξA,ζRがモデル計算により算出される。そして、これらの補正係数ξA,ζRと圧損配分λAとに基づいて圧損補正係数ηPが算出され、圧損Pが補正される。これにより、圧損補正係数ηPの算出精度が向上することになり、圧損Pの補正精度を高めることができ、ひいては熱流動場解析の精度を向上させることができる。
(3)さらに、二つの補正係数ξA,ζRは、スワール比S(=旋回速度VR/軸流速度VA)とファン2の形状データとに基づいて算出されることから、ファン2の作動状態に応じた圧損補正係数ηPを算出することができる。これにより、圧損Pの補正精度をより高めることができ、ひいては熱流動場解析の精度をより向上させることができる。
(4)MRFモデルを用いたCFD解析では、実際には回転するファン2のブレード4を固定した状態で計算することから、軸流方向の投影面積比に違いが生じ、計算上の軸流圧損が過小評価されうる。これに対し、上述の通風解析では、スワール比Sの関数で表現されるブレード4の軸流投影面積比に、ブレード4が回転することによる掃引面積の影響を加味して軸流補正係数ξAをモデル化している。このため、流体だけでなくブレード4の回転効果も簡易的に計算できるとともに、ファン2の作動状態に応じた圧損補正係数ηPを簡単に算出することができる。これにより、圧損Pの補正精度をより高めることができ、ひいては熱流動場解析の精度をより向上させることができる。
(5)また、MRFモデルを用いたCFD解析では、実際には回転するファン2のブレード4を固定した状態で計算することから、旋回方向のブレード4と流体との間における衝突頻度に違いが生じ、計算上の旋回圧損が過大評価されうる。これに対し、上述の通風解析では、ブレード4と旋回方向の流体粒子との衝突頻度にブレード4が回転することによる低減効果を加味し、衝突頻度をスワール比Sで線形近似した旋回補正係数ζRをモデル化している。このため、流体だけでなくブレード4の回転効果も簡易的に計算できるとともに、ファン2の作動状態に応じた圧損補正係数ηPを簡単に算出することができる。これにより、圧損Pの補正精度をより高めることができ、ひいては熱流動場解析の精度をより向上させることができる。
(6)補正部22では、圧損Pに対する実測圧損値Paoff(ファンオフ時の圧損の実測値)の比率が圧損配分λAとして算出される。実測圧損値Paoffは、ファン2の実際の通過風速を測定する場合と比較して容易に測定,取得できることから、圧損配分λAを簡単に算出することができる。これにより、ファン2をオフにした状態で実測された実測圧損値Paoffが反映された圧損補正係数ηPを用いて圧損Pを補正することが可能となり、圧損Pの補正を高い精度で簡単に実施することができる。
(7)調整後の体積力Ffは、PQカーブと、直近の二つのPQ点と、これら二つのPQ点を設定するためにCFD解析で用いられた二つの入力値(体積力Ff)とに基づいて算出される。このように、直近の情報に基づき次回のCFD解析の入力値となる体積力Ffを算出することで、PQ点をPQカーブに速やかに近づけていくことができ、通風解析の収束性を高めることができる。
[5.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、軸流成分の圧力損失を補正するための体積力Ffを算出する手法について詳述したが、これに加えて、旋回成分の圧力損失を補正するための第二体積力を算出することで、シミュレーション精度を向上させてもよい。ただし、MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析では、軸流成分よりも旋回成分の精度が得られやすい特性があることから、少なくとも軸流成分に関する体積力Ffを導入することで、トータルの解析精度を向上させることが可能である。
また、上述の通風解析では、圧損補正係数ηPを、二つの補正係数ξA,ζRと圧損配分λAとに基づいて求めているが、圧損補正係数ηP,二つの補正係数ξA,ζR,圧損配分λAのそれぞれの求め方は上述した方法に限られない。例えば何れかの係数を予め設定された固定値としてもよいし、スワール比S以外の関数で表現される数式を用いて二つの補正係数ξA,ζRをモデル化(算出)してもよい。
なお、上述の実施形態では、解析対象としてファン2を例示したが、解析対象は軸流ファンであればよく、エンジンルーム内に配置されるラジエータのファン装置1に限られない。
1 ファン装置
2 ファン(軸流ファン)
10 コンピュータ(解析装置)
20 通風解析プログラム
21 解析部
22 補正部
23 算出部
Nf 所定の回転数
Ff 体積力
Q 風量
P 圧損
P′ 補正圧損値
G ずれ量
Gth 所定値
S スワール比
ηP 圧損補正係数
ξA 軸流補正係数
ζR 旋回補正係数
λA 圧損配分

Claims (9)

  1. MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析において、所定の回転数で生成される流れの軸流成分の圧力損失を補正するための体積力を算出する処理をコンピュータに実行させる解析方法であって、
    前記回転数及び前記体積力を入力値とする前記CFD解析により前記軸流ファンの圧損及び風量を計算する解析ステップと、
    前記圧損に対する前記軸流ファンの作動時における実圧損の比率を表す圧損補正係数を用いて前記圧損を補正した補正圧損値を算出する補正ステップと、
    前記軸流ファンのPQ特性マップ上において、前記補正圧損値及び前記風量から定まるPQ点とPQカーブとのずれ量が所定値を超える場合に、前記体積力の値を変更して前記解析ステップ及び前記補正ステップを再実施させるとともに、前記ずれ量が前記所定値以下となったときの前記体積力の値を、前記回転数に対応する体積力の値として算出する算出ステップと、
    を備えたことを特徴とする、軸流ファンの解析方法。
  2. 前記補正ステップでは、前記圧損を軸流成分と旋回成分とに分解した各成分の補正係数をモデル計算により算出し、二つの前記補正係数と所定の圧損配分とに基づいて前記圧損補正係数を算出する
    ことを特徴とする、請求項1記載の軸流ファンの解析方法。
  3. 前記解析ステップでは、前記軸流ファンのブレードを含むファン領域でのスワール比を計算し、
    前記補正ステップでは、前記スワール比と前記軸流ファンの形状データとに基づいて前記二つの補正係数を算出する
    ことを特徴とする、請求項2記載の軸流ファンの解析方法。
  4. 前記補正ステップでは、前記スワール比の関数で表現された前記ブレードの軸流投影面積比を用いて軸流成分の前記補正係数を算出する
    ことを特徴とする、請求項3記載の軸流ファンの解析方法。
  5. 前記補正ステップでは、前記スワール比で線形近似された前記ブレードと旋回方向の流体粒子との衝突頻度を用いて旋回成分の前記補正係数を算出する
    ことを特徴とする、請求項3又は4記載の軸流ファンの解析方法。
  6. 前記補正ステップでは、前記圧損に対する、前記軸流ファンの停止時における圧損の実測値の比率を、前記圧損配分として算出する
    ことを特徴とする、請求項2〜5の何れか1項に記載の軸流ファンの解析方法。
  7. 前記算出ステップでは、前記ずれ量が前記所定値を超える場合に、前記PQカーブと、直近の二つの前記PQ点と、当該二つのPQ点を設定するために前記解析ステップで用いられた二つの前記体積力とに基づいて、変更後の前記体積力を算出する
    ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の軸流ファンの解析方法。
  8. MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析において、所定の回転数で生成される流れ場の軸流成分の圧力損失を補正するための体積力を算出する処理を実行する解析装置であって、
    前記回転数及び前記体積力を入力値とする前記CFD解析により前記軸流ファンの圧損及び風量を計算する解析部と、
    前記圧損に対する前記軸流ファンの作動時における実圧損の比率を表す圧損補正係数を用いて、前記圧損補正係数で前記圧損を補正した補正圧損値を算出する補正部と、
    前記軸流ファンのPQ特性マップ上において、前記補正圧損値及び前記風量から定まるPQ点とPQカーブとのずれ量が所定値を超える場合に、前記体積力の値を変更して前記解析部及び前記補正部での処理を再実施させるとともに、前記ずれ量が前記所定値以下となったときの前記体積力の値を、前記回転数に対応する体積力の値として算出する算出部と、
    を備えたことを特徴とする、軸流ファンの解析装置。
  9. MRFモデルをファンモデルとした軸流ファンのCFD解析において、所定の回転数で生成される流れ場の軸流成分の圧力損失を補正するための体積力を算出する処理を実施するプログラムであって、
    前記回転数及び前記体積力を入力値とする前記CFD解析により前記軸流ファンの圧損及び風量を計算する解析ステップと、
    前記圧損に対する前記軸流ファンの作動時における実圧損の比率を表す圧損補正係数を用いて、前記圧損補正係数で前記圧損を補正した補正圧損値を算出する補正ステップと、
    前記軸流ファンのPQ特性マップ上において、前記補正圧損値及び前記風量から定まるPQ点とPQカーブとのずれ量が所定値を超える場合に、前記体積力の値を変更して前記解析ステップ及び前記補正ステップを再実施させるとともに、前記ずれ量が前記所定値以下となったときの前記体積力の値を、前記回転数に対応する体積力の値として算出する算出ステップと、
    をコンピュータに実行させることを特徴とする、軸流ファンの解析プログラム。
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