以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本実施形態に係る診断装置100は、車両10の運転状態を診断するための装置である。先ず、図1を参照しながら車両10の構成について説明する。車両10は、内燃機関20とモーターMとを備えた所謂ハイブリッド車両として構成されている。
内燃機関20は、ガソリンを燃料として駆動される4サイクルレシプロエンジンである。内燃機関20は、シリンダヘッド21とシリンダブロック22とを有している。これらの内部には不図示の気筒が複数形成されている。各気筒において吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程の各行程が繰り返し行われ、これにより車両10の走行に必要な駆動力が生じる。
モーターMは三相交流モーターである。車両10には、バッテリーと電力変換器が搭載されている(いずれも不図示)。バッテリーから出力された直流電力は、電力変換器によって三相交流電力に変換され、モーターMに供給される。モーターMに三相交流電力が供給されると、車両10の走行に必要な駆動力が生じる。当該駆動力の大きさは、電力変換器のスイッチング動作によって調整される。
車両10は、内燃機関20の駆動力、及びモーターMの駆動力の両方により走行することができる。また、内燃機関20の駆動力のみによって走行したり、モーターMの駆動力のみによって走行したりすることもできる。
車両10には、以上に説明した内燃機関20やモーターMのほか、冷却装置50と、電流センサ60と、報知装置70と、を備えている。
冷却装置50は、運転中において多量の熱を発生させる内燃機関20を冷却し、適温に維持するための装置である。冷却装置50は、循環流路510と、ウォーターポンプ520と、ラジエータ530と、バイパス流路540と、温度調整弁560と、を有している。
循環流路510は、内燃機関20と、後述のラジエータ530との間で冷却水を循環させるための流路である。以下では、循環流路510のうち、冷却水が内燃機関20からラジエータ530に向かって流れる流路を「第1流路511」とも表記する。また、循環流路510のうち、冷却水がラジエータ530から内燃機関20に向かって流れる流路を「第2流路512」とも表記する。
内燃機関20の内部には、内部流路210が形成されている。第2流路512を通って内燃機関20に供給された冷却水は、内部流路210を通りながら内燃機関20から熱を奪う。これにより高温となった冷却水は、内部流路210から第1流路511へと排出される。
第1流路511のうち内燃機関20寄りとなる位置には、内燃機関20から排出された直後における冷却水の温度を測定するための水温センサ570が設けられている。水温センサ570で測定された水温に基づく信号は、診断装置100に入力されている。以下では、水温センサ570によって測定される冷却水の温度のことを「出口水温」とも表記する。
第2流路512のうち内燃機関20寄りとなる位置には、内燃機関20に供給される直前における冷却水の温度を測定するための水温センサ571が設けられている。水温センサ571で測定された水温に基づく信号は、診断装置100に入力されている。以下では、水温センサ571によって測定される冷却水の温度のことを「入口水温」とも表記する。
ウォーターポンプ520は、冷却水が循環流路510を循環するように、冷却水を圧送する電動ポンプである。ウォーターポンプ520は、第2流路512のうち内燃機関20寄りとなる位置に配置されている。ウォーターポンプ520の動作は、車両10の全体を制御するECU(不図示)によって制御される。また、診断装置100が、ECUを介してウォーターポンプ520の動作を制御することも可能となっている。
ウォーターポンプ520は、その回転数を示す信号を外部に出力する。当該信号は、診断装置100及びECUの両方に入力される。ECUは、ウォーターポンプ520からの信号を参照しながら、ウォーターポンプ520の動作を制御する。
ラジエータ530は、循環流路510を流れる冷却水と、車両10の外部から導入された空気とを熱交換させることにより、冷却水の温度を低下させる熱交換器である。ラジエータ530の近傍にはラジエータファン531が設けられている。ラジエータファン531は、ラジエータ530における熱交換が効率的に行われるよう、ラジエータ530に空気を送り込むためのものである。
バイパス流路540は、第1流路511と第2流路512とを繋ぐように形成された流路である。後述の温度調整弁560の動作によって、ラジエータ530を通ることなくバイパス流路540のみを冷却水が流れる状態とすることができる。また、ラジエータ530及びバイパス流路540の両方を冷却水が流れる状態とすることもできる。
バイパス流路540の途中には、ヒータコア550が設けられている。ヒータコア550は、車両10に備えられた暖房装置の一部を構成するものである。ヒータコア550は、内部を流れる高温の冷却水と、ヒータコア550を通過する空気とを熱交換させることにより、当該空気の温度を上昇させる熱交換器である。ヒータコア550の近傍にはブロア551が設けられている。ブロア551は、ヒータコア550における熱交換が効率的に行われるよう、ヒータコア550に空気を送り込むためのものである。ヒータコア550を通過してその温度を上昇させた空気は、不図示のダクトを通って車両10の車室内に供給される。
冷却水は、ヒータコア550を通過する際、空気との熱交換によってその温度を低下させる。ヒータコア550を通過する際において冷却水が失う熱量は、ヒータコア550を含む暖房装置の動作状態によって変化する。
温度調整弁560は、第1流路511とバイパス流路540とが分岐する部分に設けられている。温度調整弁560は、冷却水の温度に応じて開閉が切り替えられるサーモスタットである。温度調整弁560は、その内部に不図示の弁体を有している。冷却水の温度が所定温度よりも低くなると、当該弁体が移動して、温度調整弁560からラジエータ530に向かう流路が閉塞される。これにより、内燃機関20から排出された冷却水は、その全てがバイパス流路540を流れ、ラジエータ530を通ることなく内燃機関20へと戻るようになる。ラジエータ530において冷却水の熱が奪われないので、始動直後における内燃機関20の暖機が速められる。
冷却水の温度が上昇し、上記所定温度以上となると、温度調整弁560の内部では弁体が移動する。これにより、温度調整弁560からラジエータ530に向かう流路が開放される。内燃機関20から排出された冷却水は、その一部がバイパス流路540を流れ、その残部がラジエータ530を流れるようになる。ラジエータ530において冷却水の熱が奪われるようになるので、冷却水の温度が過度に上昇してしまうことが防止される。このように、温度調整弁560により、冷却水の温度が適温となるように調整される。
以下では、温度調整弁560からラジエータ530に向かう流路が開放されている状態のことを、「開状態」とも表記する。また、温度調整弁560からラジエータ530に向かう流路が閉塞されている状態のことを、「閉状態」とも表記する。
電流センサ60は、車両10に搭載された各種の電力消費機器において消費される電流の大きさを計測するための電流計である。電流センサ60により、ウォーターポンプ520を含む全ての電力消費器で消費される電流の合計値が計測される。当該合計値のことを、以下では「消費電流値」とも称する。電流センサ60で計測された消費電流値に基づく信号は、診断装置100に入力される。
報知装置70は、診断装置100により行われた車両10の診断結果を運転者に報知するための装置である。車両10において何らかの異常が生じていることが診断装置100により診断されると、報知装置70は、フロントパネルに設けられた警告灯を点灯させることによって運転者への報知を行う。
診断装置100は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムとして構成されている。診断装置100は、車両10の全体の制御を行うECUとは別の装置として構成されていてもよいのであるが、ECUと一体の装置として構成されていてもよい。つまり、以下に説明する診断装置100の機能の一部又は全てが、車両10のECUに備えられていてもよい。
診断装置100は、機能的な制御ブロックとして、水温取得部110と、状態取得部120と、発熱量取得部130と、異常判定部140と、を備えている。
水温取得部110は、水温センサ570から受信される信号に基づいて、内燃機関20から排出される冷却水の温度、すなわち出口水温を算出し取得する部分である。
状態取得部120は、車両10の運転状態を取得する部分である。運転状態としては、例えばウォーターポンプ520の回転数等、車両10の動作状態を示す種々の項目が挙げられる。ただし、水温取得部110で取得される出口水温は、ここでいう運転状態には含まれないものとする。本実施形態では、水温センサ571で測定される入口水温が、運転状態として状態取得部120により取得される。
発熱量取得部130は、現時点における内燃機関20の発熱量を算出し取得する部分である。図2を参照しながら、発熱量取得部130による発熱量の算出方法について説明する。図2に示されるのは、内燃機関20の運転状態と、冷却水の受熱量との関係を示すマップである。冷却水の受熱量とは、循環流路510を循環する冷却水に対して単位時間あたりに加えられる熱量のことである。
図2のマップの横軸には内燃機関20の回転数が示されており、縦軸には、内燃機関20に取り込まれる空気量が示されている。図2では、横軸の回転数及び縦軸の空気量で定まる運転状態毎に、当該状態における受熱量が等高線で描かれている。図2のマップは予め作成され、診断装置100が有するROMに記憶されている。
太線WOTで示されるのは、それぞれの回転数において内燃機関20に取り込まれる空気量の上限値、すなわち、スロットルバルブが全開の状態で内燃機関20に取り込まれる空気の流量である。
図2の線Q0に沿うような運転状態のときには、冷却水の受熱量は、単位時間あたりに冷却水から外部に放出される熱量(以下、「放熱量」とも表記する)と概ね一致する。一方、図2の線Q1に沿うような運転状態のときには、冷却水の受熱量は放熱量よりも大きくなる。このため、ラジエータ530を冷却水が通らない場合には、冷却水の温度は上昇傾向となる。
また、図2の線Q2に沿うような運転状態のときには、冷却水の受熱量は更に大きくなる。このため、ラジエータ530を冷却水が通らない場合には、冷却水の温度は更に上昇傾向となる。
図2の線Q3に沿うような運転状態のときには、冷却水の受熱量は放熱量よりも小さくなる。このため、ラジエータ530を冷却水が通らない場合であっても、冷却水の温度は低下傾向となる可能性がある。
このように、図2に示されるマップでは、内燃機関20の運転領域が右上にあるほど、冷却水の受熱量は大きな値となる。逆に、内燃機関20の運転領域が左下にあるほど、冷却水の受熱量は小さな値となる。尚、内燃機関20で生じるトルクをマップの縦軸としてもよい。その場合でも、概ね図2と同様のマップが描かれることとなる。
図2のマップで算出される受熱量と、内燃機関20の発熱量とは概ね一致する。そこで、本実施形態の発熱量取得部130では、図2のマップを参照することによって現時点における受熱量を算出し、当該受熱量をそのまま内燃機関20の発熱量として取得することとしている。このような態様に替えて、内燃機関20の発熱量を直接的に算出するマップが予め作成され、当該マップに基づいて、発熱量取得部130による発熱量の算出が行われるような態様であってもよい。
異常判定部140は、温度調整弁560に異常が生じたか否かを判定する部分である。例えば、出口水温が低い状態が長時間に亘り継続されている場合には、温度調整弁560が開状態のまま動かなくなってしまっているものと推測される。つまり、温度調整弁560が閉状態とはならないため、冷却水がラジエータ530を通って冷却され続けているものと推測される。以下、温度調整弁560が上記のように開状態のまま動かなくなってしまっている状態のことを「開故障」とも表記する。
ただし、異常判定部140によって行われる判定は、水温取得部110で取得された出口水温にのみ基づいて行われるのではなく、出口水温及び状態取得部120で取得された運転状態の両方に基づいて行われる。
異常判定部140で行われる判定の概要について、図3を参照しながら説明する。図3の線G1は、冷却水の流量と、ウォーターポンプ520の吐出圧との関係を示すものである。線G1で示されるように、ウォーターポンプ520の吐出圧、すなわちウォーターポンプ520の出口部分における冷却水の圧力は、循環流路510を流れる冷却水の流量が大きくなるに伴って低下する傾向がある。
線DL10及び線DL20は、いずれも、冷却水の流量と、循環流路510を構成する配管内における圧力損失との関係を示すものである。このうち、線DL10には、温度調整弁560が閉状態となっているときにおける圧力損失が示されている。また、線DL20には、温度調整弁560が開状態となっているときにおける圧力損失が示されている。
線DL10及び線DL20で示されるように、冷却水の流量が大きくなると、それに伴って圧力損失も大きくなる。また、温度調整弁560が閉状態となっているときにおける圧力損失は、温度調整弁560が開状態となっているときにおける圧力損失よりも大きくなる。
ウォーターポンプ520が動作しているときの動作点、すなわち、冷却水量と吐出圧のそれぞれの値は、線G1と線DL10との交点、又は、線G1と線DL20との交点で表されることとなる。つまり、温度調整弁560が閉状態となっているときには、冷却水の流量は流量F10となり、ウォーターポンプ520の吐出圧は圧力P10となる。また、温度調整弁560が開状態となっているときには、冷却水の流量は流量F20となり、ウォーターポンプ520の吐出圧は圧力P20となる。流量F20は流量F10よりも大きい。
このように、温度調整弁560が開状態となっているときには、閉状態となっているときに比べて圧力損失が小さくなる結果、冷却水の流量が大きくなる。
ここで、内燃機関20における単位時間当たりの発熱量Qは、以下の式(1)により表すことができる。
Q=mcΔT・・・・・(1)
式中のmは、内燃機関20を通過する冷却水の質量流量である。また、cは冷却水の比熱である。ΔTは、内燃機関20を通過する際における冷却水の温度上昇量である。つまり、出口水温と入口水温との差である。
内燃機関20の運転状態が変化せず、発熱量Qが概ね一定であると仮定すれば、質量流量であるmが大きくなるほどΔTは小さくなる。温度調整弁560が開状態となっているときには、循環流路510を通る冷却水の流量が大きくなり、これに伴ってΔTは小さくなる傾向がある。
そこで、本実施形態では、出口温度のみならずΔTをも参照することにより、温度調整弁560に開故障が生じているか否かの判定を行うこととしている。
図4を参照しながら、診断装置100で行われる具体的な処理の内容について説明する。図4に示される一連の処理は、所定の周期が経過する毎に異常判定部140で繰り返し実行されている。
最初のステップS01では、水温取得部110で取得された出口水温が、所定の判定閾値を下回っている否かが判定される。判定閾値とは、暖機完了後において温度調整弁560が正常に動作しているのであれば、出口水温がこれを下回るはずのない値、として予め設定された閾値である。従って、出口水温が判定閾値以上であれば、ステップS02に移行し、温度調整弁560は正常であると判定される。
ステップS01において、出口水温が判定閾値を下回っていると判定された場合には、ステップS03に移行する。ステップS03では、現時点における内燃機関20の発熱量、すなわち発熱量取得部130によって取得された発熱量が、所定の最低発熱量以上となっているか否かが判定される。
ステップS03において、取得された発熱量が最低発熱量未満である場合にはステップS04に移行する。ステップS04では、内燃機関20の発熱量を増加させるための処理が行われる。本実施形態では、診断装置100から車両10のECUへと信号が送信される。ECUは、当該信号を受信すると、内燃機関20の回転数を増加させるとともに、内燃機関20に取り込まれる空気量を増加させる。つまり、図2に示されたマップの右上に示される運転領域となるように、内燃機関20の状態を変化させる。ステップS04の処理が完了するとステップS05に移行する。
ステップS03において、取得された発熱量が最低発熱量以上である場合には、ステップS04を経ることなくステップS05に移行する。
ステップS05では、温度差閾値の設定が行われる。温度差閾値とは、式(1)のΔT、すなわち、出口水温と入口水温との温度差に基づいて温度調整弁560の開故障を判定する際において、温度差と比較を行うための閾値である。本実施形態では、温度差閾値は固定値ではなく、内燃機関20の発熱量に基づいて設定される値となっている。
図5に示されるように、発熱量が大きくなるほど、温度差閾値は大きな値として設定される。発熱量と温度差閾値との関係は、図5に示されるようなマップとして予め作成され、診断装置100が有するROMに記憶されている。図4のステップS05では、図5のマップを参照することにより、現時点の発熱量に対応した温度差閾値が設定される。
ステップS05に続くステップS06では、水温センサ571で計測される冷却水の温度、すなわち入口水温が、状態取得部120によって取得される。ステップS06に続くステップS07では、出口水温から入口水温を差し引くことによって温度差が算出される。
ステップS07に続くステップS08では、ステップS07で算出された温度差が、ステップS05で設定された温度差閾値よりも小さいか否かが判定される。温度差が温度差閾値よりも小さい場合にはステップS09に移行する。
ステップS09に移行したということは、温度差が比較的小さいということである。この場合、式(1)を参照しながら説明したように、内燃機関20を通過する冷却水の流量が比較的大きいということであるから、温度調整弁560は開状態となっている可能性が高い。
しかしながら、ステップS01において出口水温は判定閾値を下回っていたのであるから、温度調整弁560は本来ならば閉状態となっているはずである。このような状況において、温度差が温度差閾値よりも低くなっているのであるから、温度調整弁560で開故障が生じているものと推測される。このため、ステップS09では、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。
ステップS08において、温度差が温度差閾値以上である場合にはステップS02に移行する。温度差が温度差閾値以上であるということは、内燃機関20を通過する冷却水の流量が比較的小さいということである。このため、温度調整弁560は閉状態となっている可能性が高い。つまり、出口水温は判定閾値を下回っているのであるが、出口水温が低下している原因は、温度調整弁560の開故障ではない可能性が高い。このため、ステップS02では、温度調整弁560は正常であると判定される。
以上に説明したように、本実施形態に係る診断装置100では、出口水温のみに基づいて温度調整弁560の異常が判定されるのではなく、出口水温と、状態取得部120で取得された入口水温との両方に基づいて温度調整弁560の異常が判定される。具体的には、出口水温が所定の判定閾値を下回っており、且つ、出口水温と入口水温との差が所定の温度差閾値を下回っているときに、温度調整弁560に異常が生じたとの判定がなされる。
このため、温度調整弁560の開故障以外の原因で出口水温が低下したような場合において、温度調整弁560に異常が生じたとの誤判定がなされてしまうことが防止される。「開故障以外の原因」としては、暖房装置が動作を開始し、ヒータコア550を通過する際において冷却水が失う熱量が増加したこと、等が考えられる。
本実施形態では、内燃機関20における発熱量を取得する発熱量取得部130を備えている。異常判定部140は、取得された発熱量に応じて温度差閾値を変更する。具体的には、図5を参照しながら説明したように、発熱量が大きい程、温度差閾値を大きくなるように変更する。
温度調整弁560で開故障が生じているか否かに拘らず、内燃機関20の発熱量が大きくなると、出口温度と入口温度との差も大きくなる。このため、上記のように発熱量に基づいて温度差閾値が適宜変更されることにより、温度調整弁560に異常が生じたか否かの判定をより正確に行うことが可能となっている。
ところで、内燃機関の発熱量が比較的小さいときには、出口温度と入口温度との温度差も小さくなる。この場合、図4のステップS08で行われる処理は微小値同士の比較となるので、正確な判定を行うことが難しくなってしまう。つまり、温度差に基づいて温度調整弁560の異常を判定することが難しくなってしまう。
そこで、本実施形態では、発熱量取得部130で取得された発熱量が所定の最低発熱量よりも小さいときには、異常判定部140による判定を行う前において(具体的には図4のステップS04において)、内燃機関20の発熱量を増加させる制御が行われる。当該制御によって、出口温度と入口温度との温度差が大きくなるので、温度差に基づいた判定を比較的容易に行うことが可能となる。
異常判定部140による判定が以上のように行われる際における、冷却水の温度や発熱量等の変化の一例を、図6を参照しながら説明する。図6(A)に示されるのは、水温取得部110で取得された出口水温の変化である。この例では、時間の経過とともに出口水温が低下しており、時刻t10において出口水温が判定閾値TTを下回っている。
図6(B)に示されるのは、内燃機関20の発熱量、すなわち、発熱量取得部130で取得される発熱量の変化である。この例では、時刻t10の時点における発熱量は、最低発熱量TQを下回っている。このため、時刻t10よりも僅かに後の時刻t20では、内燃機関20の発熱量を増加させる処理が行われる。当該処理は、図4のステップS04で示される処理である。時刻t20以降における内燃機関20の発熱量は、最低発熱量TQよりも大きくなっている。
図6(C)に示されるのは、出口水温から入口水温を差し引いて得られる温度差の変化である。この例では、時刻t20よりも前の期間における温度差が一定となっている。内燃機関20の発熱量が増加する時刻t20においては、温度差が増加する。その後は、温度差が再び一定となっている。
図6(C)の符号TD1で示されるのは、時刻t20よりも前の期間において設定されていた温度差閾値である。以下では、当該温度差閾値のことを「温度差閾値TD1」とも表記する。図6(C)の符号TD2で示されるのは、時刻t20以降の期間において設定される温度差閾値である。以下では、当該温度差閾値のことを「温度差閾値TD2」とも表記する。
時刻t20においては、内燃機関20における発熱量の増加に伴い、温度差閾値が温度差閾値TD1から温度差式値TD2へと変更されている。温度差閾値TD2は、温度差閾値TD1よりも大きい。
時刻t20よりも前の期間においては、算出される温度差が温度差閾値TD1よりも大きい。このため、図4のステップS08で説明したように、温度調整弁560は正常であると判定される。これに対し、時刻t20以降の期間においては、算出される温度差が温度差閾値TD2よりも小さい。このため、図4のステップS08で説明したように、温度調整弁560で異常が生じたと判定される。
尚、温度調整弁560で異常が生じたとの判定は、温度差が温度差閾値を下回っていることが確認された時点において直ちに行われてもよいのであるが、異なる時点において行われてもよい。例えば、温度差が温度差閾値を下回っていることが確認された後、当該状態が所定期間継続された時点において、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされるような態様であってもよい。
そのような態様で判定がなされる例について説明する。図6(D)に示されるのは、温度差が温度差閾値を下回っている時間、の積算値の変化である。この例では、時刻t20以降において当該積算値が増加し続けており、時刻t30において所定の積算上限値TAを超えている。この場合、積算値が積算上限値TAを超えた時刻t30において、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされることとなる。
本発明の第2実施形態に係る診断装置100について説明する。第2実施形態においては、状態取得部120によって取得される運転状態の種類、及び診断装置100によって行われる処理の内容についてのみ、第1実施形態と異なっている。その他の点においては第1実施形態と同じである。
異常判定部140で行われる判定の概要について、図7を参照しながら説明する。図7には、内燃機関20を通過する冷却水の流量と、ウォーターポンプ520の回転数との関係が示されている。図7に示されるように、冷却水の流量が大きいときには、ウォーターポンプ520の回転数も大きくなっている。
図3を参照しながら説明したように、温度調整弁560が開状態となっているときにおける冷却水の流量は、温度調整弁560が閉状態となっているときにおける冷却水の流量よりも大きい。従って、温度調整弁560が開状態となっているときにおけるウォーターポンプ520の回転数は、温度調整弁560が閉状態となっているときにおけるウォーターポンプ520の回転数よりも大きくなる。
そこで、本実施形態では、出口温度のみならずウォーターポンプ520の回転数をも参照することにより、温度調整弁560に開故障が生じているか否かの判定を行うこととしている。本実施形態では、ウォーターポンプ520の回転数が、運転状態として状態取得部120により取得される。
図8を参照しながら、診断装置100で行われる具体的な処理の内容について説明する。図8に示される一連の処理は、所定の周期が経過する毎に異常判定部140で繰り返し実行されている。
最初のステップS11では、水温取得部110で取得された出口水温が、所定の判定閾値を下回っている否かが判定される。ステップS11で行われる処理は、図4のステップS01で行われる処理と同一である。出口水温が判定閾値以上であれば、ステップS12に移行する。ステップS12では、温度調整弁560は正常であると判定される。
ステップS11において、出口水温が判定閾値を下回っていると判定された場合には、ステップS13に移行する。ステップS13では、回転数閾値の設定が行われる。回転数閾値とは、ウォーターポンプ520の動作に基づいて温度調整弁560の開故障を判定する際において、後述の回転数偏差と比較を行うための閾値である。本実施形態では、回転数閾値が常に同じ値として設定される。このような態様に替えて、車両10の運転状態に応じて異なる回転数閾値が設定されるような態様であってもよい。
ステップS13に続くステップS14では、ウォーターポンプ520の回転数が状態取得部120によって取得される。この回転数の取得は、ウォーターポンプ520から送信される信号を受信することによって行われる。
ステップS14に続くステップS15では、回転数偏差が算出される。回転数偏差とは、実際の回転数から、固定値である基準回転数を差し引くことによって算出される値である。実際の回転数が大きくなるほど、算出される回転数偏差も大きくなる。
ステップS15に続くステップS16では、ステップS15で算出された回転数偏差が、ステップS13で設定された回転数閾値よりも大きいか否かが判定される。先に説明した回転数閾値は、温度調整弁560が閉状態となっているのであれば、上記のように算出された回転数偏差がこれを上回るはずのない値、として設定されている。
従って、ステップS16において回転数偏差が回転数閾値以下であれば、ステップS12に移行し、温度調整弁560は正常であると判定される。回転数偏差が回転数閾値よりも大きい場合には、ステップS17に移行する。
ステップS17に移行したということは、ウォーターポンプ520の回転数が大きく、冷却水の流量も大きいということである。このため、温度調整弁560は開状態となっている可能性が高い。
しかしながら、ステップS11において出口水温は判定閾値を下回っていたのであるから、温度調整弁560は本来ならば閉状態となっているはずである。このような状況において、回転数偏差が回転数閾値よりも大きくなっているのであるから、温度調整弁560で開故障が生じているものと推測される。このため、ステップS17では、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。
以上に説明したように、本実施形態に係る診断装置100では、状態取得部120によって取得される運転状態として、ウォーターポンプ520の回転数が用いられる。具体的には、出口水温が所定の判定閾値を下回っており、且つ、実際の回転数と所定の基準回転数との差である回転数偏差が所定の回転数閾値よりも大きいときに、温度調整弁560に異常が生じたとの判定がなされる。このような態様でも、第1実施形態と同様の効果を奏する。
異常判定部140による判定が以上のように行われる際における、冷却水の温度やウォーターポンプ520の回転数等の変化の一例を、図9を参照しながら説明する。図9(A)に示されるのは、水温取得部110で取得された出口水温の変化である。図6(A)と同様に、この例でも時間の経過とともに出口水温が低下しており、時刻t10において出口水温が判定閾値TTを下回っている。
図9(B)に示されるのは、図8のステップS15で算出される回転数偏差の変化である。この例では、回転数偏差は一定となっており、常に回転数閾値TRよりも大きくなっている。このため、時刻t10以降においては、図8のステップS16で説明したように、温度調整弁560で異常が生じたと判定される。
尚、温度調整弁560で異常が生じたとの判定は、回転数偏差が回転数閾値を上回っていることが確認された時点において直ちに行われてもよいのであるが、異なる時点において行われてもよい。例えば、回転数偏差が回転数閾値を上回っていることが確認された後、当該状態が所定期間継続された時点において、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされるような態様であってもよい。
そのような態様で判定がなされる例について説明する。図9(C)に示されるのは、回転数偏差が回転数閾値を上回っている時間、の積算値の変化である。この例では、時刻t10以降において当該積算値が増加し続けており、時刻t20において所定の積算上限値TAを超えている。この場合、積算値が積算上限値TAを超えた時刻t20において、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされることとなる。
本発明の第3実施形態に係る診断装置100について説明する。第3実施形態においては、状態取得部120によって取得される運転状態の種類、及び診断装置100によって行われる処理の内容についてのみ、第1実施形態と異なっている。その他の点においては第1実施形態と同じである。
異常判定部140で行われる判定の概要について、図10を参照しながら説明する。図10には、内燃機関20を通過する冷却水の流量と、電流センサ60で計測される消費電流値との関係が示されている。図10に示されるように、冷却水の流量が大きいときには、消費電流値も大きくなっている。これは、ウォーターポンプ520の回転数が増加することに伴って、ウォーターポンプ520で消費される電流も増加するためである。
図3を参照しながら説明したように、温度調整弁560が開状態となっているときにおける冷却水の流量は、温度調整弁560が閉状態となっているときにおける冷却水の流量よりも大きい。従って、温度調整弁560が開状態となっているときにおいてウォーターポンプ520で消費される電流は、温度調整弁560が閉状態となっているときにおいてウォーターポンプ520で消費される電流よりも大きくなる。このため、温度調整弁560が開状態となっているときの消費電流値は、温度調整弁560が閉状態となっているときの消費電流値よりも大きくなる傾向がある。
そこで、本実施形態では、出口温度のみならず消費電流値をも参照することにより、温度調整弁560に開故障が生じているか否かの判定を行うこととしている。本実施形態では、電流センサ60で計測される消費電流値が、運転状態として状態取得部120により取得される。
図11を参照しながら、診断装置100で行われる具体的な処理の内容について説明する。図11に示される一連の処理は、所定の周期が経過する毎に異常判定部140で繰り返し実行されている。
最初のステップS21では、水温取得部110で取得された出口水温が、所定の判定閾値を下回っている否かが判定される。ステップS21で行われる処理は、図4のステップS01で行われる処理と同一である。出口水温が判定閾値以上であれば、ステップS22に移行する。ステップS22では、温度調整弁560は正常であると判定される。
ステップS21において、出口水温が判定閾値を下回っていると判定された場合には、ステップS23に移行する。ステップS23では、電流閾値の設定が行われる。電流閾値とは、消費電流値に基づいて温度調整弁560の開故障を判定する際において、消費電流値と比較を行うための閾値である。本実施形態では、電流閾値が常に同じ値として設定される。このような態様に替えて、車両10の運転状態に応じて異なる電流閾値が設定されるような態様であってもよい。
ステップS23に続くステップS24では、消費電流値が状態取得部120によって取得される。消費電流値の取得は、電流センサ60から送信される信号を受信することによって行われる。
ステップS24に続くステップS25では、ステップS24で取得された消費電流値が、ステップS23で設定された電流閾値よりも大きいか否かが判定される。先に説明した電流閾値は、温度調整弁560が閉状態となっているのであれば、消費電流値がこれを上回るはずのない値、として設定されている。
従って、ステップS25において消費電流値が電流閾値以下であれば、ステップS22に移行し、温度調整弁560は正常であると判定される。消費電流値が電流閾値よりも大きい場合には、ステップS26に移行する。
ステップS26に移行したということは、ウォーターポンプ520で消費される電流が大きく、冷却水の流量も大きいということである。このため、温度調整弁560は開状態となっている可能性が高い。
しかしながら、ステップS21において出口水温は判定閾値を下回っていたのであるから、温度調整弁560は本来ならば閉状態となっているはずである。このような状況において、消費電流値が電流閾値よりも大きくなっているのであるから、温度調整弁560で開故障が生じているものと推測される。このため、ステップS26では、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。
以上に説明したように、本実施形態に係る診断装置100では、状態取得部120によって取得される運転状態として、電流センサ60で測定される消費電流値が用いられる。具体的には、出口水温が所定の判定閾値を下回っており、且つ、消費電流値が所定の電流閾値よりも大きいときに、温度調整弁560に異常が生じたとの判定がなされる。このような態様でも、第1実施形態と同様の効果を奏する。
異常判定部140による判定が以上のように行われる際における、冷却水の温度や消費電流値等の変化の一例を、図12を参照しながら説明する。図12(A)に示されるのは、水温取得部110で取得された出口水温の変化である。図6(A)と同様に、この例でも時間の経過とともに出口水温が低下しており、時刻t10において出口水温が判定閾値TTを下回っている。
図12(B)に示されるのは、図11のステップS24で取得される消費電流値の変化である。この例では、消費電流値は一定となっており、常に電流閾値TIよりも大きくなっている。このため、時刻t10以降においては、図11のステップS25で説明したように、温度調整弁560で異常が生じたと判定される。
尚、温度調整弁560で異常が生じたとの判定は、消費電流値が電流閾値を上回っていることが確認された時点において直ちに行われてもよいのであるが、異なる時点において行われてもよい。例えば、消費電流値が電流閾値を上回っていることが確認された後、当該状態が所定期間継続された時点において、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされるような態様であってもよい。
そのような態様で判定がなされる例について説明する。図12(C)に示されるのは、消費電流値が電流閾値を上回っている時間、の積算値の変化である。この例では、時刻t10以降において当該積算値が増加し続けており、時刻t20において所定の積算上限値TAを超えている。この場合、積算値が積算上限値TAを超えた時刻t20において、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされることとなる。
以上の説明においては、消費電流値が電流閾値よりも大きいときに、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる例について説明した。このような態様に替えて、消費電流値の積算値が電流閾値よりも大きくなったときに、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされるような態様としてもよい。
このような態様の例を、図13を参照しながら説明する。図13(A)は図12(A)と同一の図である。図13(B)に示されるのは消費電流値の変化である。この例では、出口水温が判定閾値TTを下回った時刻t10よりも僅かに後の時刻t20において、ウォーターポンプ520の回転数をステップ状に増加させるような制御が行われている。これに伴い、時刻t20以降においては消費電流値が一時的に増加している。
図13(C)に示されるのは、消費電流値の積算値の変化である。この例では、ウォーターポンプ520の回転数をステップ状に増加させるような制御、が開始される時刻t20において、積算値が一旦リセットされている。また、時刻t20よりも前における積算値の変化については図示が省略されている。
時刻t20から所定の期間TM1が経過するまでの間に、積算値が所定の電流閾値TASを上回る場合には、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされることとすればよい。これに対し、時刻t20から期間TM1が経過するまでの間に、積算値が電流閾値TASを上回らなかった場合には、温度調整弁560は正常であるとの判定がなされることとすればよい。
図13(C)に示される例では、時刻t20から期間TM1が経過した時刻t30よりも前の時点で、積算値が電流閾値TASを上回っている。従って、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。
このように、消費電流値ではなくその積算値が電流閾値を上回ったか否かに基づいて、温度調整弁560で異常が生じたか否かの判定が行われてもよい。特に、図13の例のように、判定時においてウォーターポンプ520の回転数をステップ状に変化させるような制御が行われるのであれば、消費電流値の瞬時値ではなく積算値に基づいて判定が行われる方が望ましい。
本発明の第4実施形態に係る診断装置100について説明する。第4実施形態においては、状態取得部120によって取得される運転状態の種類、及び診断装置100によって行われる処理の内容についてのみ、第1実施形態と異なっている。その他の点においては第1実施形態と同じである。
ウォーターポンプ520の回転数をステップ状に変化させる制御が行われた際には、温度調整弁560が開状態であれば、実際の回転数の変化率は比較的大きくなる。つまり、回転数の指令値の変化に対して、実際の回転数が比較的素早く追従する。これは、循環流路の圧力損失が小さいためであると考えられる。
これに対し、温度調整弁560が閉状態であれば、実際の回転数の変化率は比較的小さくなる。つまり、回転数の指令値の変化に対する、実際の回転数の追従が遅くなる。これは、循環流路内の圧力が高くなっているためであると考えられる。
つまり、ウォーターポンプ520の回転数の変化率は、温度調整弁560の状態に応じて異なるものとなる。そこで、本実施形態では、温度調整弁560の異常が判定される際に、ウォーターポンプ520の回転数をステップ状に変化させる制御が行われる。その際における実際の回転数の変化率が、運転状態として状態取得部120により取得される。
図14を参照しながら、診断装置100で行われる具体的な処理の内容について説明する。図14に示される一連の処理は、所定の周期が経過する毎に異常判定部140で繰り返し実行されている。
最初のステップS31では、水温取得部110で取得された出口水温が、所定の判定閾値を下回っている否かが判定される。ステップS31で行われる処理は、図4のステップS01で行われる処理と同一である。出口水温が判定閾値以上であれば、ステップS32に移行する。ステップS32では、温度調整弁560は正常であると判定される。
ステップS31において、出口水温が判定閾値を下回っていると判定された場合には、ステップS33に移行する。ステップS33では、変化率閾値の設定が行われる。変化率閾値とは、ウォーターポンプ520の回転数の変化率に基づいて温度調整弁560の開故障を判定する際において、変化率と比較を行うための閾値である。本実施形態では、変化率閾値が常に同じ値として設定される。このような態様に替えて、車両10の運転状態に応じて異なる変化率閾値が設定されるような態様であってもよい。
ステップS33に続くステップS34では、ウォーターポンプ520の回転数をステップ状に増加させる制御が行われる。具体的には、回転数の指令値をステップ状に増加させるように、診断装置100から車両10のECUに向けて信号が送信される。ECUは、当該信号に基づいてウォーターポンプ520の回転数をステップ状に増加させる。
これ以降、ウォーターポンプ520の回転数は増加し始める。ただし、実際の回転数はステップ状に増加するのではなく、目標値の変化に遅れて次第に増加して行く。
ステップS34に続くステップS35では、ウォーターポンプ520の回転数の変化率が算出され、状態取得部120によって取得される。回転数の変化率は、ウォーターポンプ520から送信される信号を繰り返し受信することによって得られる回転数、に基づいて診断装置100により算出される。
例えば、回転数の指令値をステップ状に増加させてから所定期間が経過するまでの間における回転数の増加分を、上記所定期間で除することにより、回転数の変化率を算出することができる。
ステップS35に続くステップS36では、ステップS25で取得された変化率が、ステップS33で設定された変化率閾値よりも大きいか否かが判定される。先に説明した変化率閾値は、温度調整弁560が閉状態となっているのであれば、回転数の変化率がこれを上回るはずのない値、として設定されている。
従って、ステップS36において変化率が変化率閾値以下であれば、ステップS32に移行し、温度調整弁560は正常であると判定される。変化率が変化率閾値よりも大きい場合には、ステップS37に移行する。
ステップS37に移行したということは、ウォーターポンプ520の回転数が比較的速く変化し得る程度に循環流路510内の圧力が低くなっている、いうことである。このため、温度調整弁560は開状態となっている可能性が高い。
しかしながら、ステップS31において出口水温は判定閾値を下回っていたのであるから、温度調整弁560は本来ならば閉状態となっているはずである。このような状況において、変化率が変化率閾値よりも大きくなっているのであるから、温度調整弁560で開故障が生じているものと推測される。このため、ステップS37では、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。
以上に説明したように、本実施形態に係る診断装置100では、状態取得部120によって取得される運転状態として、ウォーターポンプ520の回転数の変化率が用いられる。具体的には、出口水温が所定の判定閾値を下回っており、且つ、変化率が変化率閾値よりも大きいときに、温度調整弁560に異常が生じたとの判定がなされる。このような態様でも、第1実施形態と同様の効果を奏する。
異常判定部140による判定が以上のように行われる際における、冷却水の温度や回転数等の変化の一例を、図15を参照しながら説明する。図15(A)に示されるのは、水温取得部110で取得された出口水温の変化である。図6(A)と同様に、この例でも時間の経過とともに出口水温が低下しており、時刻t10において出口水温が判定閾値TTを下回っている。
図15(B)に示されるのは、ウォーターポンプ520の回転数の変化である。この例では、出口水温が判定閾値TTを下回った時刻t10よりも僅かに後の時刻t20において、回転数の目標値が変更されている。具体的には、回転数の目標値が、目標値SR1からステップ状に増加して目標値SR2となるように、ステップ状に変更されている。時刻t20以降においては、実際の回転数も増加して行く。
この例では、目標値SR2よりも低い閾値TRRが設定されている。閾値TRRは、例えば、目標値SR2に所定の割合(例えば80%)を掛けることにより得られる値である。
この例における変化率閾値は、時刻t20から所定の期間TM2が経過するまでの間において、回転数が閾値TRRに到達するような変化率として設定されている。つまり、時刻t20から期間TM2が経過した時刻t30において、回転数が閾値TRRを上回っている場合には、このときの回転数の変化率が回転数閾値を上回ったと判定される。
図15(B)に示される例では、時刻t20から期間TM2が経過するよりも前の時刻t25において、回転数が閾値TRRに到達している。つまり、回転数の変化率は回転数閾値を上回っている。従って、この場合には温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。
本発明の第5実施形態に係る診断装置100について説明する。第5実施形態においては、診断装置100によって行われる処理の内容についてのみ、第1実施形態と異なっている。その他の点においては第1実施形態と同じである。
本実施形態において行われる判定の概要について、図2を再び参照しながら説明する。以下では、線Q0よりも上方側となる運転領域、すなわち、図2において符号Aが付されている運転領域のことを「A領域」と称する。また、線Q0よりも下方側となる運転領域、すなわち、図2において符号Bが付されている運転領域のことを「B領域」と称する。A領域は、冷却水の受熱量が放熱量よりも大きくなるような運転領域である。また、B領域は、冷却水の受熱量が放熱量よりも小さくなるような運転領域である。
既に述べたように、冷却水が低温となっているときには、温度調整弁560に開故障が生じている可能性がある。しかしながら、温度調整弁560に開故障が生じておらず、温度調整弁が閉状態となっているときであっても、B領域で運転が行われているのであれば冷却水の温度は上昇しにくい。
A領域の運転頻度が高いときにおいて出口水温が判定閾値を下回った場合には、その原因が温度調整弁560の開故障であると推定される。逆に、B領域の運転頻度が高いときには、出口水温が判定閾値を下回っていたとしても、その原因が温度調整弁560の開故障であるとは限らない。
そこで、本実施形態では、A領域の運転頻度が高いときには、出口水温のみに基づいて温度調整弁560の異常判定を行うように構成されている。これに対し、B領域の運転頻度が高いときには、出口水温のみに基づいた異常判定を保留する。この場合、図4のステップS03以降と同様の処理を行い、出口水温及び状態取得部120で取得された運転状態の両方に基づいて温度調整弁560の異常判定を行う。
図16を参照しながら、出口水温のみに基づいた異常判定が保留される場合の例について説明する。図16(A)には、内燃機関20で発生するトルクの変化が示されている。図16(A)の例では、時刻t0から時刻t10までの期間において、閾値NTよりも高い値N10のトルクが発生している。このとき、内燃機関20の運転領域は、受熱量の大きなA領域となっている。
時刻t10以降においては、内燃機関20が停止し、車両10はモーターMの駆動力のみによって走行する。内燃機関20のトルクは0となり、閾値NTよりも小さくなる。これ以降、内燃機関20の運転領域は、受熱量の小さなB領域となる。
図16(B)には、時刻t0以降における運転時間の積算値を示す線G10と、B領域での運転が行われている時間の積算値を示す線G20とが示されている。また、図16(C)には、運転時間の積算値に対する、B領域での運転が行われている時間の積算値、の比率の変化が示されている。つまり、線G10で示される値に対する、線G20で示される値の比率の変化が示されている。時刻t10以降は、B領域で運転されることにより当該比率が次第に大きくなって行く。
B領域で運転される比率が所定の閾値STを超えると、診断装置100は、出口水温のみに基づいた異常判定を保留する。図16(D)は、当該判定が許可されている状態から、保留されている状態に切り替わる様子を示すグラフである。図16の例では、時刻t20においてB領域の比率が閾値STを超えており、同時刻以降においては出口水温のみに基づいた異常判定が保留される。尚、本実施形態では、閾値STとして50%が設定されている。
以上のような、B領域で運転されている時間の積算や、当該積算値の比率の算出は、冷却水の温度の測定値によることなく、診断装置100においては継続的に行われている。
尚、以上の説明においては、A領域とB領域との境界を示す線Q0(図2を参照)が固定されているものとして説明したが、当該境界が、現時点における放熱量の推定値に基づいてリアルタイムに変更されるような態様であってもよい。
例えば、冷却水の温度と外気温度、及び内燃機関20の回転数に基づいて、現時点における放熱量を推定することができる。図2のマップで求められる受熱量と、推定される放熱量とを比較して、受熱量の方が大きいときには、現在はA領域での運転が行われていると判断することができる。逆に、放熱量の方が大きいときには、現在はB領域での運転が行われていると判断することができる。
図17を参照しながら、診断装置100で行われる具体的な処理の内容について説明する。図17に示される一連の処理は、所定の周期が経過する毎に異常判定部140で繰り返し実行されている。
最初のステップS41では、水温取得部110で取得された出口水温が、所定の判定閾値を下回っている否かが判定される。ステップS41で行われる処理は、図4のステップS01で行われる処理と同一である。出口水温が判定閾値以上であれば、ステップS42に移行する。ステップS42では、温度調整弁560は正常であると判定される。
ステップS41において、出口水温が判定閾値を下回っていると判定された場合には、ステップS43に移行する。ステップS43では、冷却水の温度が低下しやすいB領域で運転される頻度が高いか否かが判定される。具体的には、図16(C)に示される積算値の比率が、閾値STを超えたか否かが判定される。
積算値の比率が閾値ST以下である場合には、ステップS44に移行する。ステップS44に移行したということは、受熱量の方が大きいA領域での運転が行われているにも拘らず、出口水温が判定閾値を下回っているということである。このため、ステップS44では、温度調整弁560で異常が生じたとの判定がなされる。つまり、出口水温のみに基づいて温度調整弁560の異常判定が行われる。
一方、ステップS43において積算値の比率が閾値STを超えている場合には、ステップS45に移行する。ステップS45に移行すると、出口水温のみに基づいた異常判定が保留される。
ステップS45に続くステップS46では、図4のステップS03以降と同じ処理が行われる。つまり、出口水温と、状態取得部120で取得された運転状態との両方に基づいて温度調整弁560の異常が判定される。
尚、ステップS46において行われる処理は、図8のステップS13以降の処理と同じ処理であってもよく、図11のステップS23以降の処理と同じ処理であってもよく、図14のステップS33以降の処理と同じ処理であってもよい。
以上に説明したように、本実施形態に係る診断装置100では、出口水温及び運転状態の両方に基づいた温度調整弁560の異常判定が、常に行われるのではなく、B領域で運転される頻度が高い場合にのみ行われる。つまり、仮に温度調整弁560が正常に動作したとしても、出口水温が判定閾値よりも低くなる、と推定される状況においてのみ、出口水温及び運転状態の両方に基づいた温度調整弁560の異常判定が行われる。これにより、複数の要素を考慮した複雑な判定が行われる頻度が抑制されるので、診断装置100の処理負荷を軽減することができる。
本実施形態においては、温度調整弁560として、冷却水の温度に応じて開閉が切り替えられるサーモスタットが用いられている。つまり、外部からの電気的な制御によって開閉が切り替えられるのではなく、内部の機構が冷却水の温度に感応することにより開閉が切り替えられるものとなっている。
しかしながら、本発明を実施するに当たっては、温度調整弁560の種類は特に限定されない。温度調整弁560として、電動式のものが用いられてもよい。以下では、図1の温度調整弁560を、電動式の温度調整弁に置き換えた場合について説明する。尚、電動式の温度調整弁についても、これまでと同様に「温度調整弁560」と表記する。
図18に示されるのは、電動式の温度調整弁560の動作特性を示すグラフである。グラフの横軸は、温度調整弁560の内部に設けられた弁体の回転角度である。グラフの縦軸は開口率、すなわち温度調整弁560の開度である。線G30で示されるのは、温度調整弁560からヒータコア550に向かう流路の開度の変化である。線G40で示されるのは、温度調整弁560からラジエータ530に向かう流路の開度の変化である。
電動式の温度調整弁560は、外部からの制御信号に基づいてその弁体を回転させる。弁体の回転角度がd10よりも小さいときには、ヒータコア550に向かう流路、及びラジエータ530に向かう流路のいずれもが閉じられている。
回転角度がd10よりも大きくなると、回転角度の変化に伴ってヒータコア550に向かう流路の開度のみが大きくなって行く。回転角度がd20になると、ヒータコア550に向かう流路のみが全開となる。
その後、回転角度がd30よりも大きくなると、回転角度の変化に伴ってラジエータ530に向かう流路の開度が大きくなって行く。このとき、ヒータコア550に向かう流路は全開のままである。回転角度がd40になると、ラジエータ530に向かう流路、及びヒータコア550に向かう流路、の両方が全開となる。
このような電動式の温度調整弁560が用いられても、これまでに説明したものと同様の効果が得られる。尚、例えば図4のステップS01において出口水温が判定閾値を下回っているときには、ラジエータ530に向かう流路が全閉となるように温度調整弁560の制御が行われた後、ステップS03の処理が行われることとなる。図11のステップS21、図14のステップS31、及び図17のステップS41においてもそれぞれ同様である。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。