以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
図1は、本発明の実施の形態のトルクコンバータの断面図である。図1では、トルクコンバータ1の上半部分のみを図示している。トルクコンバータ1は、トランスミッションと一体となっている。トランスミッションは、図1におけるトルクコンバータ1の左方に設けられ、図1におけるトルクコンバータ1の右方には動力源としてのエンジンが設けられる。トルクコンバータ1、及びエンジンの出力軸61(図2参照)は、トランスミッションの入力軸51と同軸に配置されている。なお、本実施の形態において、単に軸方向、径方向、周方向という場合には、この入力軸51の軸心を基準とした方向を指すものとする。
エンジンは、燃料の燃焼による動力を出力する原動機であり、例えば、ガソリンエンジン等の火花点火機関やディーゼルエンジン等の圧縮着火機関などを用いることができる。トランスミッションは、入力軸51の回転速度を所定の変速比で変速して出力する変速機構である。トランスミッションは、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に備える有段の自動変速機構であっても、変速比を無段階に変更可能な自動の無段変速機構であってもよい。なお、トランスミッションから出力されたトルクは、出力用作動歯車機構を介して左右二つの車輪に分配されて伝達される。
トルクコンバータ1は、エンジンのトルクをトランスミッションに伝達する流体継ぎ手である。トルクコンバータ1は、図示しないクラッチを係合(接続)することでエンジンの出力軸61と一体回転するように駆動連結されるポンプシェル11と、入力軸51と一体回転するように駆動連結されたタービンシェル12と、これらの間に設けられたステータ13と、これらを収容するハウジング14を備えて構成されている。トルクコンバータ1は、ハウジング14の内部に充填されたオイルを介して、駆動側のポンプシェル11と従動側のタービンシェル12との間のトルクの伝達を行う。
ハウジング14は、トランスミッション側の第1ハウジング部材141とエンジン側の第2ハウジング部材142とを溶接等により一体的に接合して構成されている。第1ハウジング部材141は、トルクコンバータ1のトランスミッション側を覆うように形成されたカバー部材である。第1ハウジング部材141は、径方向中間部分がトランスミッション側に向かって膨出した円弧状の断面形状を有する環状部材である。第1ハウジング部材141にはポンプシェル11が固定される。よって、ポンプシェル11は、ポンプ中間部材としてのハウジング14を介してエンジンの出力軸61と接続されて、出力軸61と一体となって回転する。
第2ハウジング部材142は、トルクコンバータ1のエンジン側を覆うように形成された円筒状部材である。第2ハウジング部材142は、径方向中間部分に段差部が形成された段付き円筒状部材である。すなわち、第2ハウジング部材142は、エンジン側の部分にハウジング14の外周部となる外周円筒状部142aと、当該外周円筒状部142aより小径であって径方向中間部分の段差部を構成する中間円筒状部142bとを備えている。中間円筒状部142bの内部には、後述する増速用プラネタリギア列41やリターダ作動切替クラッチ44等が収容されている。
第2ハウジング部材142の中間円筒状部142bの外側の径方向に延びる部分の内側には、ロックアップクラッチ21が設けられている。ロックアップクラッチ21はタービンシェル12に対して軸方向でエンジン側に配置されている。ロックアップクラッチ21は、トルクコンバータ1を選択的にロックアップするためのロックアップ係合装置である。具体的には、ロックアップクラッチ21は、ポンプシェル11とタービンシェル12とを選択的に係合することにより、オイルを介した駆動力の伝達を止めてこれらを直結状態(ロックアップ状態)にする。すなわち、ロックアップクラッチ21が係合すると、タービンシェル12は、ダンパ31を介してハウジング14と接続されて、ハウジング14と一体的に回転する。上述のように、ハウジング14にはポンプシェル11が固定されているので、ロックアップによってポンプシェル11とタービンシェル12とが接続されて、ポンプシェル11とタービンシェル12が一体的に回転することになる。
第1ハウジング部材141のトランスミッション側部分における径方向内側の端部には、トランスミッション側へ延びるポンプ駆動軸15が一体的に設けられている。ポンプ駆動軸15は、トルクコンバータ1のハウジング14と一体回転する円筒状の軸部であって、入力軸51と同軸に入力軸51の径方向外側に配置されている。
タービンシェル12は、ハウジング14の内部におけるポンプシェル11に対してエンジン側に、ポンプシェル11と対向して配置されている。このタービンシェル12は、タービン中間部材としてのキャリア42を介して入力軸51に接続されており、入力軸51と一体回転する。キャリア42の径方向内側端部は、入力軸51とスプライン係合されている。ステータ13は、軸方向におけるポンプシェル11とタービンシェル12との間に配置されている。このステータ13は、ワンウェイクラッチ16を介してステータシャフト17に支持されている。
ステータシャフト17は、円筒状の軸部であって、径方向における入力軸51とポンプ駆動軸15との間に配置されている。ステータシャフト17は、トランスミッション側で回転不能に固定されている。これにより、トルクコンバータ1は、ハウジング14の内部に充填されたオイルを介して、駆動側のポンプシェル11と従動側のタービンシェル12との間のトルクの伝達を行うことが可能となっている。
トルクコンバータ1は、ロックアップ機能付きのトルクコンバータである。すなわち、トルクコンバータ1は、ポンプシェル11とタービンシェル12とを係合してトルクコンバータ1をロックアップするロックアップクラッチ21を備えている。ポンプシェル11とタービンシェル12とは、ロックアップクラッチ21を介して選択的に一体回転するように駆動連結される。
ダンパ31は、軸方向におけるロックアップクラッチ21とタービンシェル12との間に配置される。ダンパ31は、ロックアップクラッチ21が係合したときに、ポンプシェル11とタービンシェル12との間で伝達される駆動力の振動を吸収する。ダンパ31は、入力要素としてのドライブ部材311と、複数の外周スプリング312と、複数の外周スプリング312を介して第1中間部材313と係合するとともに第1中間部材313とともに中間要素を構成する第2中間部材314と、複数の内周スプリング315と、複数の内周スプリング315を介して第2中間部材314と係合する出力要素としてのドリブン部材316とを備えている。ドリブン部材316は、タービンシェル12及び入力軸51と一体回転するように連結されている。
ダンパ31において、複数の外周スプリング312は、それぞれドライブ部材311と第1中間部材313及び第2中間部材314との相対回転によって圧縮され、複数の内周スプリング315は、第2中間部材314とドリブン部材316との相対回転によって圧縮される。これにより、ロックアップクラッチ21が係合したときに、エンジンの出力軸61と一体回転する第2ハウジング部材142からロックアップクラッチ21を介してドライブ部材311に与えられたトルクは、複数の外周スプリング、第1中間部材313、第2中間部材314、内周スプリング315の順に伝達されて、最終的にタービンシェル12と一体回転するドリブン部材316に伝達される。
本実施の形態のトルクコンバータ1には、ステータシャフト17に対して、シングルピニオンの増速用プラネタリギア列41が一列追加されている。増速用プラネタリギア列41は、ダンパ31よりも径方向の内側の軸方向のエンジン側に設けられる。この増速用プラネタリギア列41は、サンギア411が固定され、複数のピニオンギア412が自転をしながらキャリア42とともにサンギア411の周りを公転しリングギア413が自転をするようにして用いられる。増速用プラネタリギア列41は、後述のように、トルクコンバータ1をリターダブレーキ及び非常用ブレーキとして機能させる場合に用いられるが、このとき、サンギア411が固定されているので、キャリア42が入力となり、リングギア413が出力となる。
サンギア411は、ステータシャフト17に回転不能に固定される。ピニオンギア412はサンギア411と係合する。キャリア42は、増速用プラネタリギア列41のトランスミッション側に配置された第1タービンハブ421と、増速用プラネタリギア列41のエンジン側に配置された第2タービンハブと、ピニオンギア412を貫通して第1タービンハブ421と第2タービンハブ422とを連結する連結軸423とからなる。
第1タービンハブ421は、ステータシャフト17に対して回転可能なドーナツ状部材である。第1タービンハブ421は、ドリブン部材316及びタービンシェル12に対して固定される。第2タービンハブ422は、入力軸51にスプライン嵌合して、入力軸51と一体回転する。連結軸423は、複数のピニオンギア412の各々に対応して設けられ、各ピニオンギア412の中心を貫通している。各連結軸423は、各ピニオンギア412に対して回転可能である。
すなわち、キャリア42の一端である第1タービンハブ421はタービンシェル12と接続されており、キャリア42の他端である第2タービンハブ422は従来のタービンステータの役割を担っており、従来構造と同様にタービンシェル12と入力軸51は、キャリア42を介して接続されている。以上のような構成により、上述のようにドリブン部材316及びタービンシェル12の軸周りの回転トルクは、キャリア42を介して入力軸51に伝達される。
図2は、増速用プラネタリギア列41におけるサンギア411、キャリア42、及びリングギア413の回転数の比を示すグラフである。上述のように、サンギア411は固定されており、回転数は常に0である。キャリア42の回転数(すなわち、タービンシェル12の回転数)をNcとし、リングギア413の回転数(すなわち、ポンプシェル11の回転数)をNrとし、サンギア411及びリングギア413の歯数をそれぞれZs及びZrとすると、以下の式(1)が成り立つ。
Nc=Nr(Zr/(Zr+Zs)) ・・・(1)
すなわち、キャリア42の回転数Ncに対するリングギア413の回転数Nrの比は、Nr/Nc=(Zr+Zs)/Zr(>1)となり、キャリア42の回転数Ncが増速されてリングギア413の回転数Nrとなる。
リングギア413の径方向外側にはリターダ作動切替クラッチ44が設けられている。リターダ作動切替クラッチ44は、湿式多版クラッチであり、摩耗材441と、クラッチドラム442を備えている。摩耗材441は、リングギア413の外周に固定されて、リングギア413と一体回転する。クラッチドラム442は、ハウジング14に固定されて、ハウジング14と一体回転する。クラッチドラム442は、摩耗材441を軸方向に挟むように設けられている。
リターダ作動切替クラッチ44に隣接してピストン43が設けられている。ピストン43は、トルクコンバータ1内の油圧によって作動し、クラッチドラム442に接触してクラッチドラム442を摩耗材441に押圧することで、リターダ作動切替クラッチ44を係合(接続)する。リターダ作動切替クラッチ44が係合すると、リングギア413とハウジング14及びポンプシェル11とがリターダ作動切替クラッチ44を介して連結されて一体回転する。
図3は、上記で説明したトルクコンバータ1の構成を示す模式図である。なお、図3では、ダンパ31は図示を省略している。図1とともに図3を参照して、トルクコンバータ1の動作を説明する。
まず、エンジンENGの出力軸61が回転すると、これと一体となってハウジング14及びハウジング14に固定されたポンプシェル11が回転する。このポンプシェル11の回転によってタービンシェル12が回転し、タービンシェル12に固定されたトランスミッションT/Mの入力軸51が回転する。これにより、エンジンENGの出力軸61の回転トルクがトランスミッションT/Mの入力軸51に伝達される。ロックアップクラッチ21を係合(接続)すると出力軸61がキャリア42を介して入力軸51に駆動連結されて、出力軸61と入力軸51とが一体的に回転する。
トルクコンバータ1をリターダブレーキとして用いる場合は、トルクコンバータ1は以下のように動作する。すなわち、ロックアップクラッチ21を切断した状態で、リターダ作動切替クラッチ44を係合すると、入力軸51は、増速用プラネタリギア列41を介して、ハウジング14に駆動連結される。これにより、ハウジング14及びそれに固定されたポンプシェル11は、入力軸51の回転数よりも大きい回転数で回転する。入力軸51の回転数は即ちタービンシェル12の回転数であるので、ポンプシェル11とタービンシェル12との間には回転数差が生じ、これによってトルクコンバータ1が補助ブレーキとしてリターダ機能を発揮する。
ロックアップクラッチ21が係合し、かつ、リターダ作動切替クラッチ44も係合するとインターロック状態となる。図4は、インターロック状態を説明するブロック図である。ロックアップクラッチ21及びリターダ作動切替クラッチ44がいずれも係合した場合には、図4に示すように、トランスミッションT/Mを介して車両の慣性によって回転数Ncで回転する入力軸51及びキャリア42は、一方でダンパ31及びロックアップクラッチ21を介して回転数Ncでハウジング14を回転させるように作用し、一方で増速用プラネタリギア列41で増速されて、リングギア413及びリターダ作動切替クラッチ44を介して回転数Nr(=((Zr+Zs)/Zr)Nc)でハウジング14を回転させるように作用する。
このように、ロックアップクラッチ21とリターダ作動切替クラッチ44をいずれも係合した場合には、異なる回転数でハウジング14を回転させる複数の回転伝達経路が形成されるので、すべての部材が回転不能となり、インターロック状態が実現される。ロックアップクラッチ21をスリップさせながら、すなわち半クラッチ状態にしながら、係合度合(ないし係合力)を制御することで徐々に完全係合させていくと、このロックアップクラッチ21におけるスリップによって制動力が発生して、補助ブレーキとして機能する。以下、このようなインターロック状態を利用した補助ブレーキをインターロック補助ブレーキという。
次に、トルクコンバータ1を用いた補助ブレーキの制御について説明する。図5は、制動システムを構成する車両の構成要素を示すブロック図である。制動システム100は、トルクコンバータ1と、トルクコンバータ1を駆動するための油圧機構70と、油圧機構70を制御する制御部80とを備えている。油圧機構70は、オイルポンプ71と、レギュレータ72と、リターダ作動切替用油圧回路73と、ロックアップ油圧制御回路74と、オイルクーラ75と、オイルパン76とを備えている。また、制御部80は、要求制動力演算部81と、制動力制御部82と、トランスミッション制御部83を備えている。制動システム100において、油圧機構70は、ロックアップクラッチ21及びリターダ作動切替クラッチを作動し、制御部80は、油圧機構70を制御することでロックアップクラッチ及びリターダ作動切替クラッチを制御する。
オイルポンプ71は、オイルを送るための油圧を発生する油圧機器である。レギュレータ72は、オイルポンプ71から供給される油圧の最大値を調整する圧力調整弁である。レギュレータ72で油圧を調整されたオイルは、リターダ作動切替用油圧回路73及びロックアップ油圧制御回路74に供給される。リターダ作動切替用油圧回路73は、ピストン43に作用する油圧を制御する回路であり、トランスミッション制御部83から与えられるリターダ制御信号に従って、ピストン43を、リターダ作動切替クラッチ44のクラッチドラム442を押圧するか、クラッチドラム442から離間するように制御する。ロックアップ油圧制御回路74は、ロックアップクラッチ21に作用する油圧を制御する回路であり、トランスミッション制御部83から与えられるロックアップ制御信号に従って、ロックアップクラッチ21の係合度合(係合力)を完全係合と係合解除との間で任意に制御する。
オイルクーラ75は、ロックアップ油圧制御回路74から排出されるオイルを冷却する冷却装置である。オイルパン76は、オイルクーラ75で冷却されたオイルを貯めておく容器である。
要求制動力演算部81は、ブレーキペダルの踏込み量を示すブレーキペダル信号と、車速の情報を入力して、それらに基づいてユーザ要求制動力を算出する。このために、要求制動力演算部81は、ブレーキペダルの踏込み量と車速とユーザ要求制動力との関係を規定した計算式を持っており、ブレーキペダル信号と車速が入力されるとそれらをその計算式に入れてユーザ要求制動力を算出する。これに代えて、要求制動力演算部81は、ブレーキペダル信号と車速の組み合わせとユーザ要求制動力との対応関係を規定したテーブルを持っておいて、ブレーキペダル信号と車速の組が入力されると、テーブルを参照してその組に対応するユーザ要求制動力を求めてもよい。
制動力制御部82は、要求制動力演算部81にて求められたユーザ要求制動力と、トランスミッションを制御するためのトランスミッション制御情報と、エンジンを制御するためのエンジン制御情報とに基づいて、補助ブレーキの要求制動力及び主ブレーキの要求制動力を求める。制動力制御部82は、トランスミッション制御部83に対して補助ブレーキの作動要求(リターダ作動要求、インターロック作動要求)を出力し、主ブレーキに対して制動要求を出力する。
トランスミッション制御部83は、制動力制御部82からの補助ブレーキの作動要求に応じて、リターダ作動切替用油圧回路73に対してリターダ制御信号を出力し、ロックアップ油圧制御回路74にロックアップ制御信号を出力する。具体的には、トランスミッション制御部83は、制動力制御部82からのリターダ制動要求に応じてリターダ作動切替用油圧回路73に対してリターダ制御信号を出力し、制動制御部82からのインターロック作動要求に応じてロックアップ油圧制御回路74にロックアップ制御信号を出力する。
(リターダブレーキの作動制御)
制動力制御部82は、車両の各部の温度情報に基づいて、主ブレーキとリターダブレーキにおける要求制動力の配分を決定する。このために、制動力制御部82は、トルクコンバータ1がリターダブレーキとして作動しているときに、そこで発生している制動力を演算(推定)する。図6は、トルクコンバータ1の性能線図である。トルクコンバータ1をリターダブレーキとして機能させる際には、リターダ作動切替クラッチ44を係合し、ロックアップクラッチ21の係合を解除することで、車両の運動エネルギを入力軸51から増速用プラネタリギア列41に伝達する。
タービンシェル12の回転数は入力軸51の回転数Ncと同じであり、ポンプシェル11の回転数は増速用プラネタリギア列41で増速されてNr(>Nc)となる。このときのタービンシェル12とポンプシェル11の回転速度比(Nr/Nc)は、増速用プラネタリギア列41のギア比((Zr+Zs)/Zr)で固定される。
タービンシェル12とポンプシェル11との回転数差(Nr−Nc)によって、トルクコンバータ1の内部のオイルが攪拌されて、入力軸51より入力された運動エネルギが熱エネルギに変換されて制動力が発生する。従って、トルクコンバータ1がリターダブレーキとして機能するときにトルクコンバータ1で発生する熱エネルギを求めることで、リターダブレーキによる発生制動力を推定できる。
例えば、図6に示すように、タービンシェル12とポンプシェル11との回転速度比が0.7であるときは、効率ηは80%程度となり、図6において矢印で示した残りの20%が熱エネルギとなり、これが発生制動力に相当する。
制動力制御部82は、推定されたリターダブレーキの発生制動力とユーザ要求制動力とに基づいて、主ブレーキとリターダブレーキとの間の制動力の配分を行う。すなわち、ユーザ要求制動力に対してリターダブレーキにより発生する制動力が不足している場合は、不足している制動力を主ブレーキに要求する。
図7及び図8は、リターダブレーキの制御方法を示すフロー図である。車両100は、図7に示すリターダブレーキ作動判定処理を経てリターダブレーキを作動させる。まず、リターダ作動の前提条件を判定する。具体的には、アクセルペダルの踏込み量を検出して(ステップS71)、アクセルがOFFであるか否かが判断される(ステップS72)。アクセルがOFFである場合には(ステップS72にてYES)、要求制動力演算部81は、ブレーキペダルの踏込み量を検出して(ステップS73)、ブレーキ要求、すなわち、ユーザによる減速要求があるか否かを判断する(ステップS74)。
ブレーキ要求がある場合には(ステップS74にてYES)、要求制動力演算部81は、車速を検出して(ステップS75)、車速が所定の範囲内にあるか否かを判断する(ステップS76)。車速が所定の範囲内にある場合には(ステップS76にてYES)、要求制動力演算部81は、ブレーキペダルの踏込み量と車速に基づいてユーザ要求制動力を演算して制動力制御部82に出力する(ステップS77)。制動力制御部82は、ユーザ要求制動力が所定の範囲内にあるか否かを判断する(ステップS78)。
リターダ作動の前提条件が満たされない場合、即ち、アクセルの踏込みがあり(ステップS72にてNO)、ブレーキ要求がなく(ステップS74にてNO)、車速が所定の範囲内になく(ステップS76にてNO)、又はユーザ要求制動力が所定の範囲内にない場合には(ステップS78にてNO)、制動力制御部82は、トランスミッション制御部83に対して、リターダ解除要求をする(ステップS79)。
アクセルペダルの踏込みがなく(ステップS72にてYES)、ブレーキペダルの踏込みがあり(ステップS74にてYES)、車速が所定の範囲内であり(ステップS76にてYES)、かつ、ユーザ要求制動力が所定の範囲内にある場合(ステップS78にてYES)、すなわち、リターダ作動の前提条件が満たされる場合は、次に、制動力制御部82は、リターダ作動時の発生制動力を推定する。具体的には、制動力制御部82は、エンジン制御情報を検出し(ステップS80)、トランスミッション制御情報を検出し(ステップS81)、リターダ作動時の発生制動力を推定する(ステップS82)。
そして、制動力制御部82は、リターダ作動条件が成立するか否かを判断する(ステップS83)。リターダ作動条件は、リターダ発生制動力がユーザ要求制動力より小さく、ATF(Automatic transmission fluid)、即ちトランスミッションの作動油であるオイルの温度が所定値以下であり、かつ、エンジンがフュエルカット制御中であるときに成立する。なお、アクセルペダルの踏込みがない場合にはフュエルカット制御が行われるが、オートマチック車では、エンジンの回転数が所定の値を下回るとフュエルカット制御が終了してエンジンが回転し始める。このような場合には、リターダ作動条件が成立しないことになる。
リターダ作動条件が成立すると(ステップS83にてYES)、制動力制御部82は、トランスミッション制御部83にリターダ作動要求をする(ステップS84)。このリターダ作動要求を受けたトランスミッション制御部83は、ロックアップ油圧制御回路74にロックアップクラッチ21の係合を解除するロックアップ制御信号を出力し、リターダ作動切替用油圧回路73にリターダ作動切替クラッチ44を係合するリターダ制御信号を出力する。これにより、リターダブレーキが有効になる。また、トランスミッション制御部83は、トランスミッションに変速段制御要求をすることで、リターダブレーキによって発生する制動力を制御する。
制動力制御部82は、主ブレーキとリターダブレーキとの間の制動力の配分を演算する(ステップS85)。具体的には、制動力制御部82は、ユーザ要求制動力からリターダブレーキの発生制動力を引いて主ブレーキに対する要求制動力を求める。制動力制御部82は、求められた主ブレーキに対する要求制動力に従って、主ブレーキに制動要求をする(ステップS86)。主ブレーキへの制動要求がされると、ステップS71に戻って上記の処理を繰り返す。
上記の処理を繰り返して、リターダ作動条件が成立しなくなると(ステップS83でNO)、制動力制御部82は、トランスミッション制御部83にリターダ解除要求をする(ステップS87)。トランスミッション制御部83は、このリターダ解除要求を受けると、リターダ作動切替用油圧回路73に、リターダ作動切替用クラッチ44の係合を解除するリターダ制御信号を出力する。これによって、トルクコンバータ1ではリターダブレーキとしての機能が解除される。トランスミッション制御部83は、トランスミッションに対しては、通常の変速制御を指示し、ロックアップ油圧制御回路74にも通常の制御に従ってロックアップ制御信号を出力する。
制動力制御部82は、主ブレーキとリターダブレーキとの間の制動力の配分を演算する(ステップS88)。具体的には、制動力制御部82は、ステップS83と同様に、ユーザ要求制動力からリターダブレーキの発生制動力を引いて主ブレーキに対する要求制動力を求めるが、リターダブレーキの機能は解除されており、リターダブレーキの発生制動力は0であるので、ここでは、ユーザ要求制動力をそのまま主ブレーキに対する要求制動力とする。制動力制御部82は、主ブレーキに対する要求制動力に従って、主ブレーキに制動要求をする(ステップS86)。
このように、本実施の形態の制動システム100によれば、リターダブレーキと主ブレーキとの間でユーザ要求制動力を配分することができる。また、ユーザの減速要求時にロックアップクラッチ21の係合を解除し、リターダ作動切替クラッチ44を係合することで、トルクコンバータ1のポンプシェル11とタービンシェル12の回転数比を所定の速度比で固定することが可能となり、トルクコンバータ1のスリップロス(差回転)による制動力を得ることができ、トルクコンバータ1にリターダ機能を付与することができる。このリターダブレーキでは、減速エネルギをトランスミッションに設けられたトルクコンバータ1で熱エネルギに変換するので、高効率でトランスミッションの暖機が可能となり、暖機促進によりトランスミッションの効率が向上し、燃費を向上できる。
(熱エネルギ発生優先処理)
低温始動時やユーザによる暖房要求がある場合には、エンジンの暖機や暖房に使う熱を発生させるため、エンジンの駆動時間が長くなり、燃料消費量が増加して燃費が悪化してしまう。そこで、本実施の形態では、補助ブレーキにおける制動によって生じた減速エネルギを効率よく活用してエンジンの暖機や暖房に使う熱を発生させる処理を行う。
図9及び図10は、熱エネルギ発生優先処理の制御のフロー図である。この熱エネルギ発生優先処理は、リターダブレーキが有効となっている状態で実行することができ、例えば、図8のステップS84にてトランスミッションにリターダ作動要求がされたときに実行されてよい。
熱エネルギ発生優先処理では、まず、制動力制御部82が、車両の各部の温度を検出する(ステップS91)。ここで検出される温度は、例えば、エンジン冷却水温、ATF油温等である。次に、要求制動力演算部81は、熱供給要求を検出する(ステップS92)。ここで検出される熱供給要求は、ユーザの操作に基づく熱供給の要求であり、例えば、ヒータ、デフォグ、デアイス、各部の暖機要求等である。
制動力制御部82は、各部の検出温度に基づいて暖機要求があるかを判断し、暖機要求があるかを判断する(ステップS93)。暖機要求又は熱供給要求がある場合は(ステップS93にてYES)、制動力制御部82は、ATF油温が所定値以下であるか否かを判断する(ステップS94)。ATF油温が所定値以下である場合は、制動力制御部82は、熱エネルギ発生優先処理要求をする(ステップS96)。
熱エネルギ発生優先処理では、まず、要求制動力演算部81がブレーキペダルの踏込み量及び踏込み速度を検出する(ステップS97)。制動力制御部82は、トランスミッション制御情報を検出し(ステップS98)、上述の方法でリターダ作動時の制動力を推定する(ステップS99)。制動力制御部82は、さらに、トランスミッションによる変速可能幅を算出し(ステップS100)、変速可能な上下限での発生制動力を算出する(ステップS101)。
なお、暖機要求も熱供給要求もない場合(ステップS93にてNO)、及びATF油温が所定値に以上である場合には(ステップS94にてNO)、制動力制御部82は、熱エネルギ発生優先処理を解除する要求をする(ステップS102)。
次に、制動力制御部82は、要求制動力が発生制動力より大きいか否かを判断する(ステップS103)。要求制動力が発生制動力より大きい場合には(ステップS103にてYES)、制動力制御部82は、シフトダウンが可能であるか否かを判断し(ステップS104)、可能である場合には(ステップS104にてYES)、トランスミッション制御部83に対してシフトダウン要求を行って(ステップS105)、ステップS103に戻って要求制動力が発生制動力より大きいか否かを判断する。
このようにしてシフトダウンを繰り返し、発生制動力が要求制動力に満たないままシフトダウンがそれ以上できなくなったときは(ステップS104にてNO)、制動力制御部82は、インターロック作動状況を検出する(ステップS106)。具体的には、制動力制御部82は、ロックアップクラッチ21の累積の作動時間及びインターロックによる累積の制動エネルギ量を検出する。
次に、制動力制御部82は、インターロック作動が許可されるか否かを判定し(ステップS107)、インターロックによる制動許可の判定結果が許可であるか不許可であるかを判断する(ステップS108)。インターロック作動の許否の判定は、ステップS106で検出されたインターロック作動状況に基づいて行う。具体的には、制動力制御部82は、ロックアップクラッチ21の累積の作動時間及び/又はインターロックによる累積の制動エネルギが所定の閾値を超えない場合に、インターロック作動を許可する。
インターロックによる作動が許可される場合には(ステップS108にてYES)、まず、トランスミッション制御部83は、リターダ作動切替用油圧回路73に対して、リターダ作動切替クラッチ44を係合するリターダ制御信号を出力してリターダ作動切替クラッチ44を完全係合する(ステップS110)。
次に、制動力制御部82は、ロックアップクラッチ21のスリップ量、即ち入力軸51と出力軸61との回転数差を算出して(ステップS110)、トランスミッション制御部83に対してインターロック作動要求を行う(ステップS111)。トランスミッション制御部83は、インターロック作動要求を受けると、ロックアップクラッチ21をスリップ制御する(ステップS112)。このスリップ制御では、トランスミッション制御回路83は、ロックアップ油圧制御回路74に、ロックアップクラッチ21に投入する油圧、すなわち、ロックアップクラッチ21の係合度合(係合力)を所定のステップ幅で増大するロックアップ制御信号を出力する。
次に、制動力制御部82は、要求制動力と発生制動力との差の絶対値が所定の乖離量より小さいか否かを判断する(ステップS113)。要求制動力と発生制動力との差の絶対値が所定の乖離量より小さくなっている場合には(ステップS113にてYES)、処理を終了する。要求制動力と発生制動力との差の絶対値が所定の乖離量以上である場合は(ステップS113にてNO)、ロックアップクラッチ21のスリップ量の算出(ステップS110)、インターロック作動要求(ステップS111)、及びロックアップクラッチ21のスリップ制御(ステップS112)を繰り返す。
なお、ステップS108において、インターロックによる制動が許可されない場合には(ステップS108にてNO)、リターダブレーキでは足りない制動力を主ブレーキに要求制動力として出力する(ステップS114)。
ステップS103にて要求制動力が発生制動力より小さくなった場合には(ステップS103にてNO)、制動力制御部82は、要求制動力と発生制動力との乖離量を算出し(ステップS115)、要求制動力を発生させるための目標とするリターダクラッチのスリップ量を算出する(ステップS116)。この場合には、発生制動力が要求制動力以上となっているので、制動力制御部82は、リターダブレーキによって発生する制動力を弱めるように、スリップ量を算出する。なお、要求制動力が発生制動力より小さくなる場合としては、例えばユーザによるブレーキペダルの踏込み量の減少が考えられる。
そして、制動力制御部82は、トランスミッション制御部83に、リターダ作動切替クラッチ44のスリップ動作を要求する(ステップS117)。このリターダ作動切替クラッチ44のスリップ制御では、トランスミッション制御回路83は、リターダ作動切替用油圧回路734に、リターダ作動切替クラッチ44に投入する油圧、すなわち、リターダ作動切替クラッチ44の係合度合(係合力)を所定のステップ幅で低減するリターダ制御信号を出力する。
制動力制御部82は、要求制動力と発生制動力との差の絶対値が所定の乖離量より小さくなっているかを判断し(ステップS118)、なっていない場合には、要求制動力と発生制動力との乖離量の算出(ステップS115)、目標とするリターダ作動切替クラッチ44のスリップ量の算出(ステップS117)、リターダ作動切替クラッチ44のスリップ作動の要求(ステップS117)を繰り返す。このようにして要求制動力と発生制動力との差が所定の乖離量より小さくなると(ステップS118にてYES)、処理を終了する。
以上のように、本実施の形態の制動システム100によれば、補助ブレーキとして搭載されている流体リターダがトルクコンバータ1と一体になっており、制動力はトルクコンバータ1の内部で熱エネルギに変換されるので、この熱エネルギを車内で利用可能である。特に、熱エネルギ発生優先処理では、リターダブレーキが機能しているがリターダブレーキの発生制動力が要求制動力に満たない場合に(ステップS103にてYES)、不足している制動力を主ブレーキで賄うのではなく、トルクコンバータ1におけるインターロック補助ブレーキにて賄う(ステップS110〜S113)。このように、本実施の形態の制動システム100によれば、補助ブレーキで発生する減速エネルギを熱エネルギとして有効に暖機や熱供給に利用でき、燃料消費量を低減できる。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1による補助ブレーキは、発生する制動力を0から車両停止まで任意に制御できるので、制動力を空気中に熱として放熱してしまう主ブレーキを使用せずに、積極的に補助ブレーキを利用して、多くの減速エネルギを効率よく熱エネルギとして回収できる。なお、この補助ブレーキの制動力の調整は、トルクコンバータ1の内部のクラッチをスリップさせて行うので、ATFの粘度が高い低温時に実施するのが望ましい。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、主ブレーキの使用頻度を低減できるので、主ブレーキの摩擦材の摩耗を低減できる。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、リターダ作動中にエンジンのフュエルカット制御も実施できるので、燃費を悪化させることなく上記の効果が得られる。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、リターダ作動により、非作動時に比べてエンジン回転数が引き上げられているため、より低い車速までフュエルカット制御を持続でき、減速中の燃料消費量をより低減できる。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、減速中にエンジン回転数が引き上げられるので、従来よりエンジンフリクションが多く発生し、エンジン内部で減速エネルギが熱エネルギに変換されてエンジンの暖機が促進される。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、リターダ作動中にトランスミッションのシフト操作を行うことで、発生する制動力を制御でき、ユーザの要求した制動力を発生させることができる。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、上記の効果を得つつ、従来のトルクコンバータの機能を維持できている。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、ユーザの減速要求時に、リターダ作動切替クラッチ44及びロックアップクラッチ21の一方を完全係合させた状態で、もう一方を係合させることで、インターロック状態を実現し、制動力を得ることができる。
また、トルクコンバータ内の構成のみでブレーキ作動が可能であるため、変速機の構成に関わらず、トルクコンバータを搭載する車両であれば、様々な形式ないしは仕様の変速機をもつ車両に適用可能である。
また、本実施の形態のトルクコンバータ1によれば、減速要求時に、リターダ作動切替クラッチ44のみを係合させることで、流体式リターダの機能を実現できる。
また、本実施の形態では、ロックアップクラッチ21とリターダ作動切替クラッチ44とをいずれも係合することによるインターロック状態を実現するにあたって、先にリターダ作動切替クラッチ44を完全係合した後に、ロックアップクラッチ21を図7に示した制御によって徐々に係合していくので、その間はリターダブレーキが機能して制動力を発生させることができる。
なお、上記の実施の形態では、駆動源がエンジンである例を説明したが、駆動源は、エンジンンに加えて、又はエンジンに代えて、モータであってもよい。