JP2017048424A - 油井管 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い耐食性及び耐疲労性を有する油井管を提供する。【解決手段】油井管は、管本体(12)と、ピン(11)とを備える。ピン(11)は、管本体の少なくとも一方の端に連続して形成される。ピン(11)は、その外周に形成された雄ねじ部(111)を含む。ピン(11)は、他の油井管(10)のボックス(21)又はカップリング(20)のボックス(21)に挿入される。雄ねじ部(111)は、管軸(CL)を含む平面での断面で見て、複数のねじ谷底面(111b)と、複数の荷重フランク面(111r)とを含む。複数の荷重フランク面(111r)は、複数のねじ谷底面(111b)に対応して設けられる。複数の荷重フランク面(111r)の各々は、対応する1のねじ谷底面(111b)と円弧面(111a)を介して接続される。各円弧面(111a)は、0.3mm以上の曲率半径を有する。【選択図】図15

Description

本開示は、油井管に関し、より詳細には、他の油井管と直接又はカップリングを介して連結される油井管に関する。
従来から、油井環境において、マルテンサイト系ステンレス鋼が広く使用されてきた。従来の油井環境は、炭酸ガス(CO)及び/又は塩素イオン(Cl)を含有する。13質量%前後のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼(以下、13%Cr鋼という)は、このような従来の油井環境において、優れた耐食性を有する。
近年、原油価格の高騰に起因して、深層油井の開発が進んでいる。深層油井の深度は深い。そして、深層油井は腐食性が高く、高温である。より具体的には、深層油井は、高温の腐食性ガスを含有する。腐食性ガスは、CO及び/又はClを含有し、さらに、硫化水素ガスを含有する場合もある。高温での腐食反応は、常温での腐食反応よりも激しい。そのため、深層油井に使用される油井用鋼は、13%Cr鋼よりも高い強度及び耐食性を求められる。
ここで、二相ステンレス鋼は、13%Cr鋼よりもCr含有量が高い。そのため、二相ステンレス鋼は、13%Cr鋼よりも高い耐食性を有する。二相ステンレス鋼は例えば、22%のCrを含有する22%Cr鋼や、25%のCrを含有する25%Cr鋼などである。しかしながら、二相ステンレス鋼は合金元素を多く含有するため高価である。したがって、13%Cr鋼よりも高い耐食性を有し、二相ステンレス鋼よりも安価なステンレス鋼が求められている。
この要求に応じて、15.5〜18%のCrを含有し、高温の油井環境において高い耐食性を有するステンレス鋼が提案されている。特開2005−336595号公報(特許文献1)は、高強度を有し、230℃の高温環境において耐炭酸ガス腐食性を有するステンレス鋼管を提案する。この鋼管の化学組成は、15.5〜18%のCrと、1.5〜5%のNiと、1〜3.5%のMoとを含有し、Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧19.5を満たし、さらに、Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5を満たす。この鋼管の金属組織は、10〜60%のフェライト相と、30%以下のオーステナイト相とを含有し、残部はマルテンサイト相からなる。
国際公開第2010/050519号(特許文献2)は、200℃の高温炭酸ガス環境において耐食性を有し、さらに、原油又はガスの回収が一時的に停止されることにより油井又はガス井の環境温度が低下した場合であっても高い耐硫化物応力腐食割れ性を有するステンレス鋼管を提案する。この鋼管の化学組成は、16%超〜18%のCrと、2%超〜3%のMoと、1〜3.5%のCuと、3〜5%未満のNiとを含有し、[Mn]×([N]−0.0045)≦0.001を満たす。この鋼管の金属組織は、体積率で10〜40%のフェライト相と、10%以下の残留オーステナイト相とを含有し、残部はマルテンサイト相である。
国際公開第2010/134498号(特許文献3)は、高温環境で優れた耐食性を有し、常温で優れた耐SSC性を有する高強度のステンレス鋼を提案する。この鋼の化学組成は、16%超〜18%のCrと、1.6〜4.0%のMoと、1.5〜3.0のCuと、4.0超〜5.6%のNiとを含有し、Cr+Cu+Ni+Mo≧25.5を満たし、−8≦30(C+N)+0.5Mn+Ni+Cu/2+8.2−1.1(Cr+Mo)≦−4を満たす。この鋼の金属組織は、マルテンサイト相と、10〜40%のフェライト相と、残留オーステナイト相とを含有し、フェライト相分布率が85%よりも高い。
ところで、これらの文献に開示された15.5〜18%のCrを含有する高Crステンレス鋼において、低温靱性が不十分な場合がある。特開2010−209402号公報(特許文献4)は、低温靱性に優れた油井用高強度ステンレス鋼管を提案する。この鋼管は、15.5〜17.5%のCrを含有し、ミクロ組織内の結晶粒のうち最も大きいものにおいて、当該結晶粒内の任意の2点間の距離が200μm以下である(換言すれば、結晶粒径が200μm以下である)。また、国際公開第2013/179667号(特許文献5)には、肉厚方向に引いた線分の単位長さ当たりに存在するフェライト−マルテンサイト粒界の数として定義されるGSI値が肉厚中心部で120以上である組織を有することで、優れた耐食性及び低温靱性を兼備することができると記載されている。
油井や天然ガス井等(以下、総称して油井という)の探査、試掘、又は生産では、油井管と呼ばれる鋼管が用いられる。油井管は、一般に、ねじ継手によって互いに連結されて油井に設置される。
油井の開発においては、まず、下穴をあける作業を実施する。すなわち、ドリルパイプとドリルビットとを用いて坑井を掘削する。坑井がある程度の深さに到達すると、ドリルパイプを一旦引き抜き、ケーシングパイプと呼ばれる大径の油井管を埋設して坑壁を補強する。その後、再びドリルパイプを用い、坑井の内側をさらに深く掘り進む。これらの作業を何回か繰り返したのち、最終的に生産物の貯留層に到達すると、坑井の最も内側にチュービングパイプと呼ばれる汲み上げ用の油井管を設置する。これにより、油井の開発が完了する。
上述の手順で深い油井を開発するため、油井にはケーシングパイプが何層にも設置される。これらのケーシングパイプでは、通常、最も外側に配置されたものが最大径を有し、且つ深度が最も浅い。内側に配置されるケーシングパイプほど径が小さく、深度が深くなる。地中におけるケーシングパイプの構造(ストリングデザイン)は油井毎に異なるが、概ね、多層構造のケーシングパイプのうち最も外側に配置されたものをコンダクタ、内側に向かうにつれてサーフェスケーシング、インターメディエートケーシング、プロダクションケーシングと称する。これらのケーシングの間には、ライナーと呼ばれる油井管が挿入される場合もある。
近年、井戸の開発の効率化や軟弱地盤での掘削等のために、ドリリングウィズケーシング(Drilling with Casing、略してDwC)と呼ばれる井戸開発技術が広まりつつある。DwCでは、ドリルパイプを用いて下穴をあける作業を行わず、先端にドリルビットが取り付けられたパイプによって掘削を行う。掘削完了後は、パイプを引き上げることなくそのまま埋設してしまう。これにより、ドリルパイプを一旦引き抜いてケーシングパイプを挿入するという作業を省略することができるとともに、掘削に使用したパイプをそのままケーシングパイプとして設置することができる。このため、軟弱地盤であっても坑壁が崩れるおそれがない。
特開2005−336595号公報 国際公開第2010/050519号 国際公開第2010/134498号 特開2010−209402号公報 国際公開第2013/179667号
従来、DwCは、比較的深度が浅いサーフェスケーシングを中心に適用されてきた。しかしながら、近年、掘削技術の発達によってより深く掘削することができるようになったため、インターメディエートケーシング又はプロダクションケーシングにもDwCを適用する動きが広まりつつある。
これまで、DwCで用いられる油井管としては、API(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会))規格の炭素鋼からなるものが主流であった。しかし、油井の深度が深くなると、炭酸ガスや硫化水素等の腐食性ガスが多くなる。DwCで用いられる油井管についても、掘削する深度が深くなるに伴い、高い耐食性が求められるようになる。
さらに、DwCを行う際、地中の坑井の屈曲部において、油井管及びこれらを連結するねじ継手に動的な回転曲げが長時間負荷される。そのため、特にねじ継手において、従来はほとんど要求されることがなかった耐疲労性が求められるようになっている。
本開示は、高い耐食性及び耐疲労性を有する油井管を提供することを目的とする。
本開示に係る油井管は、ステンレス鋼からなる。油井管は、他の油井管と直接又はカップリングを介して連結される。ステンレス鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.001〜0.06%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%未満、Cr:15.5〜18.0%、Ni:2.5〜6.0%、V:0.005〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.06%以下、O:0.01%以下、Cu:0〜3.5%、Co:0〜1.5%、Nb:0〜0.25%、Ti:0〜0.25%、Zr:0〜0.25%、Ta:0〜0.25%、B:0〜0.005%、Ca:0〜0.01%、Mg:0〜0.01%、及びREM:0〜0.05%を含有する。ステンレス鋼は、さらに、Mo:0〜3.5%及びW:0〜3.5%からなる群から選択された1種又は2種を式(1)を満たす範囲で含有する。ステンレス鋼は、残部がFe及び不純物からなる。マトリクス組織は、体積率で、40〜70%の焼戻しマルテンサイト相と、10〜50%のフェライト相と、1〜15%のオーステナイト相とを有する。マトリクス組織を100倍の倍率で撮影して得られた1mm×1mmのミクロ組織画像を、肉厚方向をx軸としかつ長さ方向をy軸とするxy座標系に配置し、1024×1024の各画素をグレースケールで表したとき、式(2)で定義されるβが1.55以上である。
1.0≦Mo+0.5W≦3.5 (1)
ここで、Mo,Wは、Mo,Wの含有量(質量%)である。
ただし、式(2)において、Suは式(3)で定義され、Svは式(4)で定義される。
式(3)及び式(4)において、F(u,v)は式(5)で定義される。
式(5)において、f(x,y)は座標(x,y)の画素の階調を表す。
本開示に係る油井管は、管本体と、ピンとを備える。ピンは、管本体の少なくとも一方の端に連続して形成される。ピンは、その外周に形成された雄ねじ部を含む。ピンは、他の油井管のボックス又はカップリングのボックスに挿入される。雄ねじ部は、管軸を含む平面での断面で見て、複数のねじ谷底面と、複数の荷重フランク面とを含む。複数の荷重フランク面は、複数のねじ谷底面に対応して設けられる。複数の荷重フランク面の各々は、対応する1のねじ谷底面と円弧面を介して接続される。各円弧面は、0.3mm以上の曲率半径を有する。
本開示に係る油井管によれば、高い耐食性及び耐疲労性を確保することができる。
図1は、実施形態に係る油井管用のステンレス鋼のミクロ組織の一例を示すミクロ組織画像である。 図2は、図1のミクロ組織画像を2次元離散フーリエ変換して得られた対数周波数スペクトル図である。 図3は、比較例であるステンレス鋼のミクロ組織の一例を示す写真である。 図4は、図3のミクロ組織画像を2次元離散フーリエ変換して得られた対数周波数スペクトル図である。 図5は、実施形態に係る油井管用のステンレス鋼のミクロ組織の一例を示すミクロ組織画像である。 図6は、図5のミクロ組織画像を2次元離散フーリエ変換して得られた対数周波数スペクトル図である。 図7は、比較例であるステンレス鋼のミクロ組織の一例を示す写真である。 図8は、図7のミクロ組織画像を2次元離散フーリエ変換して得られた対数周波数スペクトル図である。 図9は、βと延性脆性の遷移温度との関係を示すグラフである。 図10は、構造の検討のために用いた油井管の管軸方向の一方端部の縦断面を示す図である。 図11は、雄ねじ部のねじ谷底面と荷重面とを接続する円弧面について、応力集中係数と曲率半径との関係を示すグラフである。 図12は、一実施形態に係る油井管の部分断面図である。 図13は、図12に示す油井管の管軸方向の一方端部の縦断面を示す図である。 図14は、図13に示す完全ねじ部のXIV部分の拡大図である。 図15は、図13に示す不完全ねじ部のXV部分の拡大図である。 図16は、図12に示す油井管と異なる構造を有する油井管の部分断面図である。 図17は、βと疲労限度との関係を示すグラフである。 図18は、ねじ谷底面と荷重面とを接続する円弧面の曲率半径と、疲労限度との関係を示すグラフである。 図19は、各実施例及び比較例に係る油井管において、ピンの先端からの距離と雄ねじ部の各ねじ谷底部における応力集中との関係を示す図である。
<1.油井管の材料について>
実施形態に係る油井管は、ステンレス鋼からなる。以下、実施形態に係る油井管の材料として用いられるステンレス鋼について説明する。
ステンレス鋼のマトリクス組織は、フェライト相と、焼戻しマルテンサイト相及びオーステナイト相(以下、実質マルテンサイト相という)とを含む。マトリクス組織において、フェライト相及び実質マルテンサイト相が圧延方向(長さ方向)に沿って延びかつ層状に配列される場合、ステンレス鋼は低温靱性に優れる。一方、マトリクス組織において、フェライト相が網目状に不規則に分布する場合、ステンレス鋼の低温靱性は低い。ステンレス鋼が鋼板の場合、圧延により延びた鋼板の中心軸を圧延方向とする。ステンレス鋼が鋼管の場合、鋼管の中心軸を圧延方向とする。
ここで、本発明者等は、ステンレス鋼のフェライト相及び実質マルテンサイト相が、長さ方向に長く伸びることを特徴とする、ミクロ組織層状度を、ミクロ組織画像を2次元離散フーリエ変換することにより、肉厚方向及び長さ方向の両方を評価して定量化することができることを見出した。以下、この点について詳述する。
ステンレス鋼の任意の板幅方向に垂直な断面から、観察倍率100倍であって1mm×1mmのミクロ組織画像を光学顕微鏡を用いて、グレースケール(256階調)にて撮影して得る。ミクロ組織画像の一例を図1に示す。図1では、ミクロ組織画像をxy座標系に配置している。図1中のy軸は長さ方向であり、x軸は長さ方向に垂直な肉厚方向である。図1において、灰色部分が実質マルテンサイト相であり、実質マルテンサイト相の粒の間に位置する白い部分がフェライト相である。ミクロ組織画像は、x軸方向にM=1024個の画素を有し、y軸方向にN=1024個の画素を有する。つまり、ミクロ組織画像は、M×N=1024×1024の画素数を有する。
ミクロ組織画像から各画素(x、y)(x=0〜M−1、y=0〜N−1)の2次元データf(x,y)を得る。f(x,y)は座標(x,y)の画素のグレースケールでの階調を表す。得られた2次元データに対して、式(5)で定義される2次元離散フーリエ変換(2D DFT)を実施する。M−1=1023、N−1=1023である。
ここで、F(u,v)は、2次元データf(x,y)の2次元離散フーリエ変換後の2次元周波数スペクトルである。周波数スペクトルF(u,v)は一般に複素数であり、2次元データf(x,y)の周期性及び規則性の情報を含む。換言すれば、周波数スペクトルF(u,v)は、図1に示すようなミクロ組織画像内における、フェライト相及び実質マルテンサイト相の組織の周期性及び規則性に関する情報を含む。
図2は、図1に示すミクロ組織画像の対数周波数スペクトル図である。図2の横軸はv軸であり、縦軸はu軸である。図2の周波数スペクトル図は、白黒階調画像(グレースケール画像)であり、周波数スペクトルの最大値が白色、最小値が黒色である。周波数スペクトルの高い部分(図2中の白色部分)は、例えば図2の場合、u軸に延びた形状であり、境界は明確ではない。
ここで、周波数スペクトル図の周波数スペクトルF(u,v)において、u軸上のスペクトルの絶対値の総和Suは、式(3)で定義される。周波数スペクトルF(u,v)において、v軸上のスペクトルの絶対値の総和Svは、式(4)で定義される。さらに、Svに対するSuの比は、式(2)で定義されるβである。なお、Su,Svは、(u,v)空間で座標(0,0)のスペクトル強度を含まない。
また、同様の方法により、図3,5,7に示すステンレス鋼のミクロ組織画像を得る。さらに、図3,5,7に示すミクロ組織画像の各々から対数周波数スペクトル図を求める。図4は、図3に示すミクロ組織画像の対数周波数スペクトル図であり、図6は、図5に示すミクロ組織画像の対数周波数スペクトル図であり、図8は、図7に示すミクロ組織画像の対数周波数スペクトル図である。以下、図1に示すミクロ組織を、組織1といい、図3に示すミクロ組織を、組織2といい、図5に示すミクロ組織を、組織3といい、図7に示すミクロ組織を、組織4という。
組織1の画像(図1)と組織2の画像(図3)とを比較すると、組織1は組織2よりもフェライト相及び実質マルテンサイト相が圧延方向(長さ方向)に延びた形状である。さらに、組織1は、組織2よりもフェライト相及び実質マルテンサイト相の積層周期(肉厚方向に並ぶ周期)が短く、規則的である。組織1の画像と組織3の画像(図5)とを比較すると、組織1及び組織3のいずれも、各相が長さ方向に延びた形状である。さらに、組織3は、組織1と同様に、積層周期が短く、規則的である。組織3の画像と組織4の画像(図7)とを比較すると、組織3は組織4よりも各相が長さ方向に延びた形状である。さらに、組織3は、組織4よりも積層周期が短く、規則的である。
また、組織1〜組織4各々の対数周波数スペクトル図はいずれも、白色部分がu軸に沿って延びる。しかしながら、組織1及び組織4は、組織2及び組織4に比べて白色部分のv軸方向の幅が狭い。βは、組織1が2.024であり、組織2が1.458であり、組織3が2.183であり、組織4が1.395である。要するに、βが低いほど、白色部分はu軸方向に短くなり、v軸方向に広がる。
また、延性脆性の遷移温度は、組織1が−82℃であり、組織2が−12℃であり、組織3が−109℃であり、組織4が−19℃である。なお、遷移温度は後述の実施例と同じ条件での結果である。図9は、βと遷移温度(℃)との関係を示す図である。図9は、次の方法により得られた。化学組成は後述の本実施形態の範囲内であり、βが異なる複数のステンレス鋼を製造した。各ステンレス鋼に対して、後述の低温靱性評価試験を実施して、遷移温度を得て、図9を作成した。図9中の直線は図9中の全てのプロットから最小2乗法により得た線であり、Rは相関関数である。
このように、βが大きくなると、低温靱性に優れる傾向があることが分かった。以上より、βは、前記層状度を指標するものと考えることができる。
本発明者等は、前述の知見に基づいて、実施形態に係る油井管に用いるステンレス鋼を完成させた。以下、当該ステンレス鋼について説明する。
実施形態に係る油井管用のステンレス鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.001〜0.06%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%未満、Cr:15.5〜18.0%、Ni:2.5〜6.0%、V:0.005〜0.25%、Al:0.05%以下、N:0.06%以下、O:0.01%以下、Cu:0〜3.5%、Co:0〜1.5%、Nb:0〜0.25%、Ti:0〜0.25%、Zr:0〜0.25%、Ta:0〜0.25%、B:0〜0.005%、Ca:0〜0.01%、Mg:0〜0.01%、及びREM:0〜0.05%を含有する。さらに、Mo:0〜3.5%、及びW:0〜3.5%からなる群から選択された1種又は2種を式(1)を満たす範囲で含有する。残部がFe及び不純物からなる。マトリクス組織が、体積率で、40〜70%の焼戻しマルテンサイト相と、10〜50%のフェライト相と、1〜15%のオーステナイト相とを有する。マトリクス組織を100倍の倍率で撮影して得られた1mm×1mmのミクロ組織画像を、肉厚方向をx軸としかつ長さ方向をy軸とするxy座標系に配置し、1024×1024の各画素をグレースケールで表したとき、式(2)で定義されるβが1.55以上である。
1.0≦Mo+0.5W≦3.5 (1)
ここで、Mo,Wは、Mo,Wの含有量(質量%)である。
ただし、式(2)において、Suは式(3)で定義され、Svは式(4)で定義される。
式(3)及び式(4)において、F(u,v)は式(5)で定義される。
式(5)において、f(x,y)は座標(x,y)の画素の階調を表す。
このステンレス鋼は、βが1.55以上であることで、延性脆性の遷移温度が−30℃以下となる。その結果、このステンレス鋼は、低温靱性に優れる。さらに、このステンレス鋼は、高強度を有し、高温での耐SCC性及び常温での耐SSC性に優れる。
上記ステンレス鋼の化学組成は、質量%で、Cu:0.2〜3.5%、及びCo:0.05〜1.5%からなる群から選択された1種又は2種を含有してもよい。
上記ステンレス鋼の化学組成は、質量%で、Nb:0.01〜0.25%、Ti:0.01〜0.25%、Zr:0.01〜0.25%、及びTa:0.01〜0.25%からなる群から選択された1種又は2種以上を含有してもよい。
上記ステンレス鋼の化学組成は、質量%で、B:0.0003〜0.005%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%、及びREM:0.0005〜0.05%からなる群から選択された1種又は2種以上を含有してもよい。
[化学組成]
実施形態に係る油井管用のステンレス鋼は、以下の化学組成を有する。以降、元素に関する「%」は、質量%を意味する。
C:0.001〜0.06%
炭素(C)は鋼の強度を高める。しかしながら、C含有量が多すぎれば、焼戻し後の硬度が高くなり過ぎ、耐SSC性が低下する。さらに、本実施形態の化学組成では、C含有量が増加するに従い、Ms点が低下する。そのため、C含有量が増加するに従い、オーステナイトが増加しやすくなり、降伏強度が低下しやすくなる。したがって、C含有量は、0.06%以下である。C含有量は、好ましくは0.05%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。また、製鋼工程における脱炭処理に掛かるコストを考慮すれば、C含有量は0.001%以上である。C含有量は、好ましくは0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.005%以上である。
Si:0.05〜0.5%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。しかしながら、Si含有量が多すぎれば、鋼の靱性及び熱間加工性が低下する。Si含有量が多すぎればさらに、フェライトの生成量が増加し、降伏強度が低下しやすくなる。したがって、Si含有量は0.05〜0.5%である。Si含有量は、好ましくは0.5%未満であり、さらに好ましくは0.4%以下である。Si含有量は、好ましくは0.06%以上であり、さらに好ましくは、0.07%以上である。
Mn:0.01〜2.0%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸及び脱硫し、熱間加工性を高める。Mn含有量が少なすぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、焼入れ時にオーステナイトが過剰に残留しやすくなり、鋼の強度を確保することが困難になる。したがって、Mn含有量は0.01〜2.0%である。Mn含有量は、好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。Mn含有量は、好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.04%以上である。
P:0.03%以下
リン(P)は不純物である。Pは鋼の耐SSC性を低下する。したがって、P含有量はなるべく少ない方が好ましい。P含有量は0.03%以下である。P含有量は、好ましくは0.028%以下、さらに好ましくは0.025%以下である。また、P含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製鋼コストの増大を招く。そのため、P含有量は、好ましくは0.0005%以上であり、さらに好ましくは0.0008%以上である。
S:0.005%未満
硫黄(S)は不純物である。Sは鋼の熱間加工性を低下する。したがって、S含有量はなるべく少ない方が好ましい。S含有量は0.005%未満である。S含有量は、好ましくは0.003%以下であり、さらに好ましくは0.0015%以下である。また、S含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製鋼コストの増大を招く。そのため、S含有量は、好ましくは0.0001%以上であり、さらに好ましくは0.0003%以上である。
Cr:15.5〜18.0%
クロム(Cr)は鋼の耐食性を高める。具体的には、Crは腐食速度を低くし、鋼の耐SCC性を高める。C含有量が少なすぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Cr含有量が多すぎれば、鋼中のフェライト相の体積率が増加して鋼の強度が低下する。したがって、Cr含有量は15.5〜18.0%である。Cr含有量は、好ましくは17.8%以下であり、さらに好ましくは17.5%以下である。Cr含有量は、好ましくは16.0%以上であり、さらに好ましくは16.3%以上である。
Ni:2.5〜6.0%
ニッケル(Ni)は鋼の靱性を高める。Niはさらに、鋼の強度を高める。Ni含有量が少なすぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Ni含有量が多すぎれば、オーステナイトが多く生成し、その結果、鋼の強度が低下する。したがって、Ni含有量は2.5〜6.0%である。Ni含有量は、好ましくは6.0%未満であり、さらに好ましくは5.9%以下である。Ni含有量は、好ましくは3.0%以上であり、さらに好ましくは3.5%以上である。
V:0.005〜0.25%
バナジウム(V)は、鋼の強度を高める。しかしながら、V含有量が多すぎれば、靱性が低下する。したがって、V含有量は0.005〜0.25%とする。V含有量は、好ましくは0.20%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。V含有量は、好ましくは0.008%以上であり、さらに好ましくは0.01%以上である。
Al:0.05%以下
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。しかしながら、Al含有量が多すぎれば、鋼中の介在物が増加して鋼の靱性が低下する。そのため、上限は0.05%とする。Al含有量は、好ましくは0.048%以下であり、さらに好ましくは0.045%以下である。Al含有量は、好ましくは0.0005%以上であり、さらに好ましくは0.001%以上である。
N:0.06%以下
窒素(N)は鋼の強度を高める。しかしながら、N含有量が多すぎれば、オーステナイトが過剰に生成し、鋼中の介在物も増加する。その結果、鋼の靱性が低下する。したがって、N含有量は0.06%以下である。N含有量は、0.05%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。N含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製鋼コストの増大を招く。そのため、N含有量は、好ましくは0.001%以上であり、さらに好ましくは0.002%以上である。
O:0.01%以下
酸素(O)は不純物である。Oは鋼の靭性及び耐食性を低下させる。したがって、O含有量は0.01%以下である。O含有量は、好ましくは0.01%未満であり、より好ましくは0.009%以下、さらに好ましくは0.006%以下である。O含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製鋼コストの増大を招く。そのため、O含有量は、好ましくは0.0001%以上であり、さらに好ましくは0.0003%以上である。
Mo:0〜3.5%、W:0〜3.5%
モリブデン(Mo)及びタングステン(W)は互いに置換可能な元素であり、両方を含有してもよく、一方だけを含有してもよい。Mo及びWは、少なくとも一方を含有することが必須である。これらの元素は鋼の耐SCC性を高める。一方、これらの元素の含有量が多すぎれば、その効果が飽和する。したがって、Mo含有量は0〜3.5%であり、W含有量は0〜3.5%であり、Mo及びWからなる群から選択された1種又は2種を式(1)を満たす範囲で含有する必要がある。Mo含有量は、好ましくは3.3%以下であり、さらに好ましくは3.0%以下である。Mo含有量は、好ましくは0.01%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。W含有量は、好ましくは3.3%以下であり、さらに好ましくは3.0%以下である。W含有量は、好ましくは0.01%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。
1.0≦Mo+0.5W≦3.5 (1)
本実施形態によるステンレス鋼の化学組成は、下記の選択元素を含有しても良い。すなわち、下記の元素は、いずれも本実施形態によるステンレス鋼に含有されていなくても良い。また、一部だけが含有されていても良い。
Cu:0〜3.5%、Co:0〜1.5%
銅(Cu)及びコバルト(Co)は互いに置換可能な元素である。これらの元素は選択元素である。これらの元素は、焼戻しマルテンサイト相の体積分率を増加させ、鋼の強度を高める。さらに、Cuは焼戻し時にCu粒子として析出し、その強度をさらに高める。これらの元素の含有量が少なすぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、これらの元素の含有量が多すぎれば、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜3.5%とし、Co含有量は0〜1.5%とする。さらに、上記効果を十分に得るためには、Cu:0.2〜3.5%及びCo:0.05〜1.5%からなる群から選択された1種又は2種を含有することが好ましい。Cu含有量は、好ましくは3.3%以下であり、さらに好ましくは3.0%以下である。Cu含有量は、好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。Co含有量は、好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.8%以下である。Co含有量は、好ましくは0.08%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
Nb:0〜0.25%、Ti:0〜0.25%、Zr:0〜0.25%及びTa:0〜0.25%
ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びタンタル(Ta)は互いに置換可能な元素である。これらの元素は選択元素である。これらの元素は鋼の強度を高める。これらの元素は鋼の耐孔食性及び耐SCC性を向上させる。これらの元素が少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、これらの元素の含有量が多すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.25%であり、Ti含有量は0〜0.25%であり、Zr含有量は0〜0.25%であり、Ta含有量は0〜0.25%である。さらに、上記効果を十分に得るためには、Nb:0.01〜0.25%、Ti:0.01〜0.25%、Zr:0.01〜0.25%、及びTa:0.01〜0.25%からなる群から選択された1種又は2種を含有することが好ましい。Nb含有量は、好ましくは0.23%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。Nb含有量は、好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。Ti含有量は、好ましくは0.23%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。Ti含有量は、好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。Zr含有量は、好ましくは0.23%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。Zr含有量は、好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。Ta含有量は、好ましくは0.24%以下であり、さらに好ましくは0.23%以下である。Ta含有量は、好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。
Ca:0〜0.01%、Mg:0〜0.01%、REM:0〜0.05%及びB:0〜0.005%
カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、希土類元素(REM)及びボロン(B)は互いに置換可能な元素である。これらの元素は選択元素である。これらの元素は製造時の熱間加工性を改善する。これらの元素が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca、Mg及びREMの含有量が多すぎれば、酸素と結合して合金の清浄性を著しく低下させ、耐SSC性を劣化させる。また、B含有量が多すぎれば、鋼の靭性を低下させる。したがって、Ca含有量は0〜0.01%であり、Mg含有量は0〜0.01%であり、REM含有量は0〜0.05%であり、B含有量は0〜0.005%である。また、上記効果を十分に得るためには、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%、REM:0.0005〜0.05%及びB:0.0003〜0.005%からなる群から選択された1種又は2種を含有することが好ましい。Ca含有量は、好ましくは0.008%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。Ca含有量は、好ましくは0.0008%以上であり、さらに好ましくは0.001%以上である。Mg含有量は、好ましくは0.008%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。Mg含有量は、好ましくは0.0008%以上であり、さらに好ましくは0.001%以上である。REM含有量は、好ましくは0.045%以下であり、さらに好ましくは0.04%以下である。REM含有量は、好ましくは0.0008%以上であり、さらに好ましくは0.001%以上である。B含有量は、好ましくは0.0045%以下であり、さらに好ましくは0.004%以下である。B含有量は、好ましくは0.0005%以上であり、さらに好ましくは0.0008%以上である。
REMとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドの合計17元素の総称である。本実施形態において、REM含有量とは、上述の17元素の1種又は2種以上の総含有量を意味する。
なお、本実施形態によるステンレス鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここでいう不純物とは、ステンレス鋼を工業的に製造する際に、原料として利用される鉱石やスクラップから混入する元素、又は製造過程の環境等から混入する元素を意味する。
[ミクロ組織]
本実施形態によるステンレス鋼のマトリクス組織は、体積率で、40〜70%の焼戻しマルテンサイト相と、10〜50%のフェライト相と、1〜15%のオーステナイト相とを有する。以降、マトリクス組織のこれらの体積率(分率)に関する%は、体積%を意味する。
マトリクス組織中のフェライト相の体積率(フェライト分率:%)、オーステナイト相の体積率(オーステナイト分率:%)及び焼戻しマルテンサイト相の体積率(マルテンサイト分率:%)は次の方法で測定する。
[フェライト分率の測定方法]
ステンレス鋼の任意の位置からサンプルを採取する。ステンレス鋼の断面に相当するサンプルの表面(以下、観察面という)を研磨する。王水とグリセリンとの混合溶液を用いて、研磨された観察面をエッチングする。エッチングにより白く腐食された部分がフェライト相であり、このフェライト相の面積率を、JIS G0555(2003)に準拠した点算法で測定する。測定された面積率は、フェライト相の体積分率に等しいと考えられるため、これをフェライト分率(%)と定義する。
[オーステナイト分率の測定方法]
オーステナイト分率は、X線回折法を用いて求める。ステンレス鋼の任意の位置から、15mm×15mm×2mmのサンプルを採取する。サンプルを用いて、フェライト相(α相)の(200)面及び(211)面、オーステナイト相(γ相)の(200)面、(220)面及び(311)面の各々のX線強度を測定し、各面の積分強度を算出する。算出後、α相の各面とγ相の各面との組み合わせ(合計6組)毎に、以下の式(6)を用いて体積率Vγを求める。各面の体積率Vγの平均値を、オーステナイト分率(%)と定義する。
Vγ=100/{1+(Iα×Rγ)/(Iγ×Rα)} (6)
ここで、Iαはα相の積分強度であり、Rγはγ相の結晶学的理論計算値であり、Iγはγ相の積分強度であり、Rαはα相の結晶学的理論計算値である。
[マルテンサイト分率の測定方法]
マトリクス組織のうち、フェライト相及びオーステナイト相以外の残部を、焼戻しマルテンサイト相の体積率(マルテンサイト分率)と定める。つまり、マルテンサイト分率(%)は100%からフェライト分率(%)及びオーステナイト分率(%)を引いた値である。
[β]
本実施形態のステンレス鋼は、式(2)で定義されるβが1.55以上である。βは、次の方法で求める。ステンレス鋼の任意の板幅方向に垂直な断面(鋼管の場合は、管軸に平行な肉厚断面)から、マトリクス組織を100倍の倍率で撮影する。得られた1mm×1mmのミクロ組織画像を、肉厚方向をx軸としかつ長さ方向をy軸とするxy座標系に配置し、1024×1024の各画素をグレースケールで表す。したがって、グレースケール(256階調)で表されるミクロ組織画像は、ステンレス鋼のうち、肉厚方向及び長さ方向を含む面での断面から得られる。さらに、2次元離散フーリエ変換を用いて、グレースケールで表されるミクロ組織画像から、式(2)で定義されるβを求める。
ただし、式(2)において、Suは式(3)で定義され、Svは式(4)で定義される。
式(3)及び式(4)において、F(u,v)は式(5)で定義される。
式(5)において、f(x,y)は座標(x,y)の画素の階調を表す。
上述のとおり、βと低温靱性とは図9に示す関係を有する。本発明の一実施形態によるステンレス鋼は、マトリクス組織から求めたβが1.55以上であれば、図9に示すとおり、延性脆性の遷移温度が−30℃以下となる。したがって、本発明の一実施形態によるステンレス鋼は通常要求される−10℃において優れた低温靱性を示す。βは、好ましくは、1.6以上であり、さらに好ましくは、1.65以上である。
以上のことから、本実施形態によるステンレス鋼は、高強度を有し、高温での耐SCC性及び常温での耐SSC性に優れ、かつ優れた低温靱性を有する。
[製造方法]
本実施形態のステンレス鋼の製造方法の一例を説明する。上述の化学組成を有する鋼素材(スラブ、ブルーム、ビレット等の鋳片又は鋼片)を適切な温度範囲においてなるべく高い圧延率で熱間圧延することにより、βが1.55以上のマトリクス組織が得られる。本例では、ステンレス鋼の製造方法の一例として、ステンレス鋼板の製造方法について説明する。
上述の化学組成を有する鋼素材を準備する。素材は、連続鋳造により製造された鋳片であってもよいし、鋳片又はインゴットを熱間加工して製造された板材であってもよい。
準備された素材を加熱炉又は均熱炉に装入し、加熱する。加熱された素材を熱間圧延して、中間材(熱間圧延後の鋼素材)を製造する。このとき、熱間圧延工程での圧延率40%以上とする。ここで、圧延率(r:%)は、次の式(7)で定義される。
r={1−(熱間圧延後の鋼素材の肉厚/熱間圧延前の鋼素材の肉厚)}×100 (7)
熱間圧延時における鋼材温度(圧延開始温度)を1200〜1300℃にする。ここでいう鋼材温度とは、素材の表面温度を意味する。素材の表面温度は、例えば、熱間圧延開始時に測定される。素材の表面温度は、素材の軸方向に沿って測定された表面温度の平均である。素材を加熱炉にて、例えば、1250℃の加熱温度で均熱した場合、鋼材温度は実質的に加熱温度に等しくなり、1250℃になる。さらに、熱間圧延終了時の鋼材温度(圧延終了温度)は、1100℃以上が好ましい。
製造工程中、複数の熱間圧延工程が存在する場合、圧延率は、1100〜1300℃の鋼材温度の素材に対して連続して実施された熱間圧延工程の累積の圧延率を意味する。
熱間圧延時に鋼材温度が1100℃を下回る場合、熱間加工性の低下により鋼材表面に多量の疵が発生することがある。したがって、鋼材の加熱温度は高い方が好ましい。一方、層状度を高めるためには高い圧延率で圧延することが好ましい。
熱間圧延後の素板(中間材)に対して焼入れ及び焼戻しを実施する。中間材に焼入れ及び焼戻しを実施することにより、ステンレス鋼板の降伏強度を758MPa以上にすることができる。さらに、マトリクス組織が焼戻しマルテンサイト相を有する。
好ましくは、焼入れ工程では、中間材を一旦常温近傍の温度まで冷却する。そして、冷却された中間材を850〜1050℃の温度範囲に加熱する。加熱された中間材を、水等で冷却し、焼入れしてステンレス鋼板を製造する。好ましくは、焼戻し工程では、焼入れ後の中間材を650℃以下の温度に加熱する。つまり、焼戻し温度は好ましくは650℃以下である。焼戻し温度が650℃を超えると、鋼中にオーステナイトが増加し、強度が低下しやすくなるからである。好ましくは、焼戻し工程では、焼入れ後の中間材を500℃を超えた温度に加熱する。つまり、焼戻し温度は好ましくは500℃を超えた温度である。
以上の製造工程により、βが1.55以上であるステンレス鋼板が製造される。ステンレス鋼は、鋼板に限定されず、鋼板以外の他の形状であってもよい。好ましくは、素材を1200〜1250℃の温度で所定時間均熱し、その後、圧延率50%以上で圧延終了温度1100℃以上の熱間圧延を実施する。この場合、表面疵の発生を抑えつつ高い層状度をもつステンレス鋼材を得ることができる。
<2.油井管の材料と構造との関係について>
上述したように、近年、DwCに用いられる油井管にも耐食性が求められるようになっている。また、DwCに用いられる油井管には、坑井の屈曲部において回転曲げが負荷されることから、耐疲労性が要求される。本発明者等は、油井管の材料として上述の化学組成及びマトリクス組織を有するステンレス鋼を採用することにより、高い耐食性を確保した。さらに、本発明者等は、当該ステンレス鋼からなる油井管において、その構造を工夫すれば耐疲労性が著しく向上することを見出した。
油井管は、少なくとも一方の端部の外周に雄ねじ部が形成されている。雄ねじ部は、他の油井管又はカップリングの内周に形成された雌ねじ部にねじ込まれて締結される。一般に、雄ねじ部が形成された油井管の端部は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことからピンと称される。雌ねじ部が形成された油井管又はカップリングの端部は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことからボックスと称される。
雄ねじ部においてねじ谷底面と荷重面との境界部分に丸みをつけることにより、当該境界部分における応力集中が緩和される。すなわち、雄ねじ部においてねじ谷底面と荷重面とを円弧面によって接続することにより、応力集中係数が低下し、油井管の耐疲労性を向上させることができる。本発明者等は、深い深度でのDwC等にも好適な耐疲労性を確保するため、上記円弧面の適切な曲率半径を検討した。
高圧ガス保安協会(KHK)技術基準KHKS1222「ねじ構造の強度設計指針」によれば、のこ歯ねじにおいて、雌ねじとの接触により雄ねじのねじ山に作用する荷重に基づいて雄ねじのねじ谷底部に生じるピーク応力σsは、Heywoodの式から導かれた以下の各式で表わすことができる。
ここで、式(8)中のaはねじピッチである。式(9)中、αはねじ荷重面角度、βはねじ挿入面角度、ρはねじ谷底のフィレット半径、hはねじ山の実高さである。式(8)中のwは、ねじ山つる巻き線の単位長さ当たりのねじ山荷重(N/mm)の軸方向成分であり、次の式(10)で表される。
式(10)中、Hはねじ山荷重の分布係数、wはねじの噛合い有効長さにおけるwの平均値、Wはねじを介して伝達されるトータル軸力、つまりねじ継手に作用するトータル軸力(N)、Dはねじの平均有効径である。nは、有効噛合いねじ山数であり、有効噛合いねじ長さをねじピッチaで割ったものである。
次に、雄ねじ部材に直接作用する軸荷重に基づいて雄ねじのねじ谷底部に生じるピーク応力σaを考える。軸応力による多重切欠き底の応力集中について、KHKS技術基準ではNeuberの式を採用しており、次の各式で表わすことができる。
式(11)中、Wはトータル軸力、Aは雄ねじ部材の有効断面積、Kt2は平均応力に対する多重切欠き底の応力集中係数、hはねじ山の実高さ、ρはねじ谷底のフィレット半径である。γは、切欠きの多重による応力緩和係数と呼ばれるもので、ねじピッチaとねじ山の実高さhとの比a/hの関数として与えられる。KHKでの検討の結果、JISメートルねじ、JIS台形ねじ、又はBSのこ歯ねじ等、ねじ山形状が変わってもKt2はほとんど変わらず2.1〜2.5程度であった。このため、KHKS技術基準では、ねじの種類及び形状にかかわらず、Kt2=2.5と規定している。
雄ねじのねじ谷底部の最大応力σmax上述したσとσとを重ね合わせたものである。ただし、σとσの各々の発生位置が角度差Δθだけ異なるため、その重ね合わせには、次に示すHeywoodの合成応力の式を用いる。
式(13)中のCは重畳係数であり、実験的にC=(Δθ/44)と表わせることがわかっている。
以上の各式は、例えばテーパ台形ねじ等、油井管用のねじ継手に多く用いられるねじにも適用可能と考えられる。そこで、本発明者等は、公知のねじ継手(VAMTOP(登録商標))を例にとり、当該ねじ継手において疲労主き裂が発生する位置について、上述の円弧面における応力集中係数を理論的に求める式を考えた。図10に、本検討で例にとったねじ継手のピン部分の概略構成を示す。
図10に示すように、雄ねじ部において、不完全ねじ部の切れ上がり端から管軸方向にLi/3(Li:不完全ねじ部の長さ)だけ離れた位置を実質的にねじが噛合う最端部であると仮定し、当該最端部で疲労破断が起こるものとする。雄ねじ部のねじ谷底部の円弧面における応力集中係数Kは、ねじ谷底部の最大応力σmaxを平均応力σmeanで割ったものであるから、以下の式(14)で表される。
ここで、次の式(15)を式(14)に代入すると、式(16)が得られる。
上記の各式において、Wは雄ねじ部に作用するトータル軸力、Aは有効噛合い部の最端部におけるねじ谷底部の断面積、Le(=na)は有効噛合い部の長さ、Dは雄ねじ部の平均径(有効噛合い部の中央における径)、C=(Δθ/44)である。A,Le,Dは図10に示されている。本検討で例にとったねじ継手では、荷重面角度α=−3(deg)、挿入面角度β=10(deg)であるので、Δθ=6.5(deg)となる。
公知の油井管(VAMTOP(登録商標) 9−5/8“ 53.5#(外径:244.5mm、肉厚:13.8mm))に関して別途実施した弾性解析により得られた100%引張下のねじ山荷重分布結果によれば、有効噛合い部の最端部のねじ山では、最もねじ山荷重分担が大きくなり、トータル軸力の約9%が作用することがわかっている。これを利用すると、分布係数Hは次の式(17)で表すことができる。
t1は、上述の式(9)を使用して算出する。その際、ねじ谷底のフィレット半径ρとして、ねじ谷底面と荷重面とを接続する円弧面の曲率半径R、ねじ山の実高さhとしてh/2(h:完全ねじ部のねじ山の高さ)を用いる。本検討で例にとったねじ継手の場合、ねじピッチa=5.08、完全ねじ部のねじ山の高さh=1.575である。ねじテーパTTは、6.25%である。
以上の手順により、雄ねじ部において、ねじ谷底面と荷重面とを接続する円弧面での応力集中係数Kと、当該円弧面の曲率半径Rとの関係を導き出した。図11及び表1に、本発明者等によって得られた応力集中係数Kと曲率半径Rと関係を示す。
図11及び表1より、ねじ谷底面と荷重面とを接続する円弧面の曲率半径Rが大きくなるにつれて応力集中係数Kが小さくなっていることがわかる。本発明者等は、円弧面の曲率半径Rが0.3mmになれば応力集中係数Kが4.6程度まで低下し、高い耐疲労性を得ることができると考えた。
本発明者等は、以上の知見に基づき、実施形態に係る油井管を完成させた。
実施形態に係る油井管は、上述の化学組成及びマトリクス組織を有するステンレス鋼からなる。油井管は、管本体と、ピンとを備える。ピンは、管本体の少なくとも一方の端に連続して形成される。ピンは、その外周に形成された雄ねじ部を含む。ピンは、他の油井管のボックス又はカップリングのボックスに挿入される。雄ねじ部は、管軸を含む平面での断面で見て、複数のねじ谷底面と、複数の荷重フランク面とを含む。複数の荷重フランク面は、複数のねじ谷底面に対応して設けられる。複数の荷重フランク面の各々は、対応する1のねじ谷底面と円弧面を介して接続される。各円弧面は、0.3mm以上の曲率半径を有する。
上記実施形態に係る油井管は、上述の化学組成及びマトリクス組織を有するステンレス鋼からなるため、高い耐食性を有する。また、当該油井管では、ピンに設けられた雄ねじ部において、各ねじ谷底面が円弧面を介して荷重フランク面と接続されている。円弧面の曲率半径は、ねじ谷底部における応力集中の緩和の効果が高い0.3mm以上に設定されている。このため、当該油井管は、高い耐疲労性を有する。
上記油井管において、雄ねじ部は、完全ねじ部と、不完全ねじ部とを有する。不完全ねじ部は、完全ねじ部よりも管本体側に配置される。不完全ねじ部は、管軸を含む平面での断面で見て、対応する1の荷重フランク面と傾斜面を介して接続される少なくとも1つのねじ山頂面を含む。傾斜面は、管軸に垂直な方向の長さが、完全ねじ部のねじ山の高さの6〜13%である。
上記構成によれば、雄ねじ部の不完全ねじ部において、少なくとも1つのねじ山頂面が傾斜面を介して荷重フランク面と接続されている。これにより、疲労き裂が発生しやすい不完全ねじ部において、応力の再配分を生じさせることができる。
特に、傾斜面の管軸方向の長さを完全ねじ部のねじ山の高さの6〜13%とすることにより、適切な応力の再配分を生じさせることができる。よって、不完全ねじ部において、各ねじ谷底部における応力集中をより緩和することができ、油井管の耐疲労性をさらに向上させることができる。
上記油井管において、不完全ねじ部は、応力集中領域を含んでいてもよい。応力集中領域は、第1位置から第2位置までの領域である。第1位置は、不完全ねじ部の管軸方向の長さをLiとして、不完全ねじ部の管本体側の端から0.1×Liの距離にある。第2位置は、不完全ねじ部の管本体側の端から0.5×Liの距離にある。少なくとも1つのねじ山頂面は、応力集中領域に配置されている。
応力集中領域は、不完全ねじ部の中でもねじ谷底部の応力が高くなりやすい領域である。この応力集中領域に、上述の傾斜面と連続するねじ山頂面を設けることにより、応力集中領域付近で応力の再配分を生じさせることができるため、応力集中の緩和の効果をさらに高めることができる。よって、油井管の耐疲労性をさらに向上させることができる。
[油井管の構造]
以下、油井管の構造について、図12〜図16を参照しつつ、さらに詳しく説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
図12は、一実施形態に係る油井管の概略構成を示す部分断面図である。図12では、一の油井管10が他の油井管10と連結された状態を示している。油井管10,10は、管状のカップリング20を介して互いに連結される。油井管10,10及びカップリング20は、上述の化学組成及びマトリクス組織を有するステンレス鋼からなる。
油井管10は、ピン11と、管本体12とを備える。ピン11は、管本体12の管軸方向の一方の端に連続して形成される。図示を省略するが、管本体12の管軸方向の他方の端にもピン11が連続して形成されている。すなわち、油井管10の両端部は、それぞれピン11によって構成されている。
ピン11は、カップリング20のボックス21に挿入され、ボックス21と締結される。ピン11は、その外周に設けられた雄ねじ部111を備える。本実施形態では、ピン11は、さらに、ノーズ部112と、ピンシール面113と、ピンショルダ面114とを備えている。
雄ねじ部111は、ピン11において、ノーズ部112よりも管本体12側に配置されている。雄ねじ部111は、例えば、テーパねじで構成される。ピン11の外周において、雄ねじ部111とノーズ部112との間にはピンシール面113が配置されている。ピンショルダ面114は、ピン11の先端面に形成された環状面である。
詳しくは後述するが、雄ねじ部111は、管軸CLを含む平面での断面で見て、それぞれ複数のねじ山頂面、ねじ谷底面、荷重フランク面(以下、荷重面ともいう)、及び挿入フランク面(以下、挿入面ともいう)を有する。各挿入面は、ボックス21に対するピン11のねじ込みで先行する面である。各荷重面は、各挿入面の反対側に配置されている。
カップリング20は、管軸方向の両端部各々にボックス21を有する。各ボックス21は、油井管10のピン11が挿入され、当該ピン11と締結される。一方のボックス21を一の油井管10のピン11と締結し、他方のボックス21を他の油井管10のピン11と締結することにより、油井管10,10が連結される。
各ボックス21は、雌ねじ部211を備える。本実施形態に係る各ボックス21は、さらに、ボックスシール面213と、ボックスショルダ面214とを備えている。
雌ねじ部211は、ピン11の雄ねじ部111に対応して、ボックス21の内周に形成されている。雌ねじ部211は、雄ねじ部111を構成するねじと噛合うねじで構成される。
図示を省略するが、雌ねじ部211は、管軸CLを含む平面での断面で見て、それぞれ複数のねじ谷底面、ねじ山頂面、荷重面、及び挿入面を有する。ピン11とボックス21との締結状態において、雌ねじ部211の複数のねじ谷底面、ねじ山頂面、荷重面、及び挿入面は、それぞれ、雄ねじ部111の複数のねじ山頂面、ねじ谷底面、荷重面、及び挿入面と対向する。締結状態では、少なくとも、雄ねじ部111及び雌ねじ部211の荷重面同士が接触する。
ボックスシール面213は、ピンシール面113に対応して、ボックス21の内周に形成されている。ボックスシール面213は、ピン11とボックス21との締結状態において、ピンシール面113に接触する。
締結状態において、ボックスシール面213は、ピンシール面113とともにメタル−メタル接触によるシール部を形成する。すなわち、ピンシール面113の径は、ボックスシール面213の径よりもわずかに大きい。ピンシール面113とボックスシール面213との径差を干渉量という。この干渉量により、締結によってピンシール面113とボックスシール面213とが嵌め合わされたときに、ピンシール面113及びボックスシール面213の各々が元の径に戻ろうとする弾性回復力が生じ、ピンシール面113及びボックスシール面213に接触圧力が発生する。これにより、ピンシール面113とボックスシール面213とが全周密着する。
ノーズ部112は、締結状態においてボックス21と干渉しないことにより、ピンシール面113の弾性回復力を増幅させる。これにより、シール部の接触圧力が高くなり、ピン11とボックス21との密封性能が向上する。
ボックスショルダ面214は、ピンショルダ面114に対応し、ボックス21の管軸方向の端面に形成されている。ボックスショルダ面214は、締結状態においてピンショルダ面114に接触する。
ピンショルダ面114及びボックスショルダ面214は、ボックス21に対するピン11のねじ込みにより、互いに接触して押し付けられる。ピンショルダ面114及びボックスショルダ面214は、このような互いの押圧接触により、ショルダ部を形成する。
図13は、油井管10の管軸方向の一方端部の縦断面を示す図である。図13に示すように、ピン11の雄ねじ部111は、完全ねじ部111pと、不完全ねじ部111iとを有する。不完全ねじ部111iは、完全ねじ部111pよりも管本体12側に配置されている。
図14は、図13に示す完全ねじ部111pのXIV部分の拡大図である。図14に示すように、管軸CLを含む平面での断面で完全ねじ部111pを見たとき、ねじ谷底面111bは、円弧面111aを介して隣接する荷重面111rと接続されている。すなわち、ねじ谷底面111bと荷重面111rとの境界部分には、丸みがつけられている。円弧面111aの曲率半径Rは、0.3mm以上である。
完全ねじ部111pのねじ山は、高さhを有する。高さhは、完全ねじ部111pにおいて、ねじ谷底面111b同士を結ぶ直線SLからねじ山頂面111tまでの、管軸CLに垂直な方向の距離である。
図15は、図13に示す不完全ねじ部111iのXV部分の拡大図である。不完全ねじ部111iにおいても、完全ねじ部111pと同様に、隣接するねじ谷底面111bと荷重面111rとが円弧面111aを介して接続されている。
図14及び図15には示していないが、完全ねじ部111p及び不完全ねじ部111iは、それぞれ、管軸CLを含む平面での断面で見て、複数のねじ谷底面111bと、複数のねじ谷底面111bに対応する複数の荷重面111rとを有する。各ねじ谷底面111bは、対応する1の荷重面111rと円弧面111aを介して接続されている。要するに、雄ねじ部111では、ねじ谷底面111bと荷重面111rとの境界部分の全てに、曲率半径が0.3mm以上の丸みがつけられている。
図15に示すように、管軸CLを含む平面での断面で不完全ねじ部111iを見たとき、ねじ山頂面111tは、傾斜面111sを介して荷重面111rと接続されている。すなわち、互いに隣接するねじ山頂面111tと荷重面111rとの境界部分には、面取りが施されている。
傾斜面111sは、管軸CLを含む平面での断面で見て、外周側の端が内周側の端よりもピン11の先端側に位置するように傾倒している。傾斜面111sと管軸CLに垂直な面とがなす角は、特に限定されるものではないが、例えば10°程度とすることができる。
傾斜面111sの管軸CLに垂直な方向の長さ、つまり面取り高さは、完全ねじ部111pのねじ山の高さh(図14)の6〜13%である。すなわち、面取り高さをλhで表した場合、λは次の式(18)を満たす。
0.06≦λ≦0.13 (18)
不完全ねじ部111iでは、少なくとも1つのねじ山頂面111tが傾斜面111sを介して荷重面111rと接続されている。より好ましくは、複数のねじ山頂面111tが各々対応する荷重面111rと傾斜面111sを介して接続される。
傾斜面111sと連続するねじ山頂面111tは、図13に示す応力集中領域Aに配置されていることが好ましい。応力集中領域Aは、不完全ねじ部111iに配置されている。応力集中領域Aは、不完全ねじ部111iの管本体12側の端Ei1を0%、完全ねじ部111p側の端Ei2を100%として、好ましくは10〜50%の領域であり、より好ましくは15〜40%の範囲である。
言い換えると、応力集中領域Aは、位置P1から位置P2までの領域である。位置P1は、不完全ねじ部111iの管本体12側の端Ei1から管軸方向に0.1×Liの距離だけ離れている。Liは、不完全ねじ部111iの管軸方向の長さである。位置P2は、端Ei1から管軸方向に0.5×Liの距離だけ離れている。より好ましくは、端Ei1と位置P1との管軸方向の距離は0.15×Liであり、端Ei1と位置P2との管軸方向の距離は0.4×(Li+Lp)である。
図14及び図15に示す雄ねじ部111のねじ形状は、管軸CLを含む平面での断面において、略台形状である。しかしながら、雄ねじ部111のねじ形状は、特に限定されるものではない。雄ねじ部111のねじ形状は、例えばダブテイル形状等であってもよい。雌ねじ部211は、雄ねじ部111に対応するねじ形状を有する。
[構造による主な効果]
以上のように、本実施形態に係る油井管10は、上述の化学組成及びマトリクス組織を有するステンレス鋼からなるため、高い耐食性を有する。また、油井管10は、ピン11の雄ねじ部111において、各ねじ谷底面111bが対応する荷重面111rと円弧面111aを介して接続されている。各円弧面111aの曲率半径Rは、ねじ谷底部における応力集中の緩和の効果が高い0.3mm以上に設定されている。このため、高い耐疲労性を確保することができる。
本実施形態では、不完全ねじ部111iにおいて、少なくとも1つのねじ山頂面111tが傾斜面111sを介して荷重面111rと接続されている。これにより、疲労き裂が発生しやすい不完全ねじ部111iにおいて、応力の再配分が生じ、各ねじ谷底部における応力集中を緩和することができる。
特に、本実施形態では、傾斜面111sの管軸方向の長さ(面取り高さ)が完全ねじ部111pのねじ山の高さhの6〜13%となるように構成されている。これにより、不完全ねじ部111iにおいて、より適切な応力の再配分を生じさせることができ、各ねじ谷底部における応力集中を効果的に緩和することができる。その結果、油井管10の耐疲労性をさらに向上させることができる。
不完全ねじ部111iにおいて、応力集中領域Aは、管本体12側の端Ei1を0%、完全ねじ部111p側の端Ei2を100%としたときに、10〜50%の領域である。一般に、油井管は、この応力集中領域A付近でねじ谷底部の応力が高くなりやすく、疲労き裂が生じやすい。本実施形態によれば、応力集中領域Aにおいて、少なくとも1つのねじ山頂面111tと荷重面111rとの間に傾斜面111sが形成されている。よって、油井管10において、疲労き裂が生じやすい領域で応力の再配分を生じさせることができ、耐疲労性を向上させることができる。
本開示に係る油井管の構造は、上記のものに限定されない。例えば、上述した油井管10では、雄ねじ部111の不完全ねじ部111iにおいて、少なくとも1つのねじ山頂面111tと荷重面111rとの境界部分に面取りが施されている。しかしながら、当該面取りは必須ではない。つまり、不完全ねじ部111iにおける全てのねじ山頂面111tが、傾斜面111sを介することなく、対応する荷重面111rと接続されていてもよい。
上述した油井管10のピン11は、ノーズ部112、ピンシール面113、及びピンショルダ面114を備える。しかしながら、ノーズ部112、ピンシール面113、及びピンショルダ面114は、ピン11において必須の構成ではない。
図12では、一の油井管10がカップリング20を介して他の油井管10と連結されている。しかしながら、油井管同士が直接連結されるように構成することもできる。
図16は、直接連結された油井管10A,10Aを示す部分断面図である。各油井管10Aは、管軸方向の一方の端部にピン11を有する。各油井管10Aは、管軸方向の他方の端部にボックス21を有する。一の油井管10Aのピン11は、他の油井管10Aのボックス21に挿入され、当該ボックス21と締結される。これにより、油井管10A,10Aは、カップリング20(図12)を介することなく、直接連結される。
ピン11は、さらに、管本体12側の端部において、その外周にピンシール面115を有していてもよい。この場合、ボックス21の内周には、ピンシール面115に対応するボックスシール面215が設けられる。ピン11とボックス21との締結状態において、ピンシール面115及びボックスシール面215は、メタル−メタル接触によるシール部を形成する。
ピン11は、さらに、管本体12側の端面にピンショルダ面116を有していてもよい。この場合、ボックス21には、ピンショルダ面116に対応するボックスショルダ面216が設けられる。締結状態において、ピンショルダ面116及びボックスショルダ面216は、互いに押圧接触してショルダ部を形成する。
以上、実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
<1.油井管の材料について>
表2に示す化学組成を有する鋼種A〜Vの鋼を溶製し、インゴットを製造した。鋼種A〜Vの化学組成は、本実施形態の範囲内である。各インゴットを熱間鍛造して、幅100mm、高さ30mmの板材を製造した。製造された板材を、番号1〜36の鋼素材として準備した。なお、表2に示す化学組成において、各元素の含有量は質量%であり、残部はFe及び不純物である。
準備された複数の素材を加熱炉で加熱した。加熱された素材を加熱炉から抽出し、抽出後速やかに熱間圧延を実施し、番号1〜36の中間材を製造した。熱間圧延時の素材各々の鋼材温度を、表3に示す。本実施例においては、素材を加熱炉にて十分な時間で加熱したため、鋼材温度は加熱温度に等しかった。各番号の熱間圧延での圧延率を、表3に示す。
番号1〜36各々の中間材に対して、焼入れ及び焼戻しを実施した。焼入れ温度は、950℃であった。焼入れ温度での保持時間(熱処理時間)は15分であった。水冷により、中間材に焼入れを実施した。焼戻し温度は、番号1、23〜30、32、33の中間材が550℃であり、番号2〜22、31、34〜36の中間材が600℃であった。焼戻し温度での保持時間は30分であった。以上の製造工程により、各番号の鋼板を製造した。
[ミクロ組織観察試験]
番号1〜36各々の鋼板を幅中央で長さ方向に切断した。切断面(長さ方向をy軸、肉厚方向をx軸とする)のうち、鋼板の中心部分からミクロ組織観察用のサンプルを採取した。採取されたサンプルから、上述の方法で面積率を測定し、フェライト相の体積率と定義した。さらに、オーステナイト相の体積率を、上述のX線回折法により求めた。さらに、焼戻しマルテンサイト相の体積率を、フェライト相の体積率及びオーステナイト相の体積率を用いて上述の方法により求めた。
さらに、観察面内の任意の位置から、観察倍率100倍であって1mm×1mmのミクロ組織画像(たとえば図1に示すような画像)を得た。得られたミクロ組織画像を用いて、上述の方法により、各番号の鋼板のβを算出した。
[降伏強度評価試験]
番号1〜36各々の鋼板の肉厚方向の中央部分から、引張試験用の丸棒を採取した。丸棒の長手方向は、鋼板の圧延方向に平行な方向(L方向)であった。丸棒の平行部の直径は6mmであり、標点間距離は40mmであった。採取された丸棒に対して、JIS Z2241(2011)に準拠して、室温で引張試験を実施し、降伏強度(0.2%耐力)を求めた。
[低温靱性評価試験]
低温靱性評価試験としてシャルピー衝撃試験を実施した。番号1〜36各々の鋼板の肉厚方向の中央部分から、ASTM E23に準拠したフルサイズ試験片を採取した。試験片の長手方向は、板幅方向に平行であった。採取された試験片を用いて、20℃〜−120℃の温度範囲においてシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギー(J)を測定し、延性脆性の破面遷移温度を求めた。
[高温耐SCC性評価試験]
番号1〜36各々の鋼板から、4点曲げ試験片を採取した。試験片の長さは75mmであり、幅は10mmであり、厚さは2mmであった。試験片に4点曲げによるたわみを付与した。このとき、ASTM G39に準拠して、試験片に与えられる応力が試験片の0.2%オフセット耐力と等しくなるように、試験片のたわみ量を決定した。30bar(3.0MPa)のCOと0.01bar(1kPa)のHSとが加圧封入された200℃のオートクレーブを番号1〜36各々に準備した。たわみをかけた試験片をオートクレーブに収納した。試験片は、オートクレーブ内で25mass%のNaCl溶液に720時間浸漬した。溶液は、0.41g/lのCHCOONaを含有したCHCOONa+CHCOOH緩衝系によりpH4.5に調整した。浸漬後の試験片に対して応力腐食割れ(SCC)の発生の有無を観察した。具体的には、試験片に対して、引張応力が付加された部分の断面を100倍の倍率で光学顕微鏡を用いて観察し、割れの有無を判定した。表4において、割れ無しが○であり、割れ有りが×であり、○の場合が×の場合よりも耐SCC性に優れる。さらに、試験片に対して、試験前の重量及び浸漬後の重量の変化量に基づいて、腐食減量を求めた。得られた腐食減量から年間腐食量(mm/Year)を計算した。
[常温での耐SSC性評価試験]
番号1〜36各々の鋼板から、NACE TM0177 METHOD A用の丸棒試験片を採取した。試験片の直径は6.35mmであり、平行部の長さは25.4mmであった。試験片の軸方向に引張応力を負荷した。このとき、NACA TM0177−2005に準拠して、試験片に与えられる応力が、試験材の実測の降伏応力の90%になるように調整した。試験片は、0.01bar(1kPa)のHSと0.99bar(0.099MPa)のCOとを飽和させた25mass%のNaCl溶液に720時間浸漬した。溶液は、0.41g/lのCHCOONaを含有したCHCOONa+CHCOOH緩衝系によりpH4.0に調整した。さらに、溶液の温度は25℃に調整した。浸漬後の試験片に対して、硫化物応力割れ(SSC)の発生の有無を観察した。具体的には、番号1〜36の試験片のうち、試験中に破断した試験片、及び破断しなかった試験片の各々に対して、平行部を肉眼にて観察し、クラック又は孔食の発生の有無を判定した。表4において、クラック又は孔食の発生が無い場合が○であり、クラック又は孔食の発生がある場合が×であり、○の場合が×の場合よりも耐SSC性に優れる。
[試験結果]
表4に試験結果を示す。番号1〜36の鋼板はいずれも、フェライト相の体積率(α分率)、オーステナイト相の体積率(γ分率)及び焼戻しマルテンサイト相の体積率(M分率)が、本実施形態の範囲内であった。番号1〜36の鋼材はいずれも、降伏強度が758MPa以上であり、年間腐食量が0.01mm/Year以下であり、耐SCC性及び耐SSC性が優れた。
番号1、4、7、10、12〜16、19〜36の各鋼材はいずれも、βが1.55以上であった。これらの鋼材は遷移温度が−30℃以下であり、低温靭性に優れる。
また、番号2、3、5、6、8、9、11、17、18の各鋼材はいずれも、βが1.5未満であり、遷移温度が−30℃を上回った。これらの鋼材は低温靭性に劣る。
<2.油井管の材料と構造との関係について>
上述の番号1〜36の鋼材と同様の化学組成及びマトリクス組織を有する各ステンレス鋼からなる複数の油井管のサンプルを製造した。各油井管は、寸法が9−5/8“ 53.5#(外径:244.5mm、肉厚:13.8mm)であり、図12に示す基本構造を有する。
全ての油井管の雄ねじ部(111)において、各ねじ谷底面(111b)と各荷重面(111r)とを接続する円弧面(111a)を設けた。ただし、円弧面(111a)の曲率半径Rは0.1mm、0.3mm、0.4mmと変化させている。
一部の油井管では、雄ねじ部(111)の不完全ねじ部(111i)において、ねじ山頂面(111t)と対応する荷重面(111r)とを接続する傾斜面(111s)を設けた。傾斜面(111s)は、不完全ねじ部(111i)の荷重面(111r)の外径側端部斜面の10%を面取りすることにより形成した。
各油井管のサンプルについて、締結状態での疲労試験を実施した。疲労試験方式は、共振型実体疲労試験とした。サンプル端部の偏心ウェイトをモータで回転させて1次共振モードを発生させ、繰り返し曲げモーメントをねじ継手部分に負荷した。試験周波数は20−25Hzとした。サンプル内には、1.0MPa程度の空気圧を封入し、き裂の貫通又はシール部からのリークにより内圧が低下し始めた時点を疲労寿命と定義した。2×10回サイクル時の応力振幅σaを疲労限度とした。得られた試験結果を表5A〜5Fに示す。
表5A〜5F中の番号1〜36は、それぞれ、上述の番号1〜36の鋼材と対応する。つまり、表5A〜5F中の番号1〜36は、それぞれ、上述の番号1〜36の鋼材と同様の化学組成及びマトリクス組織を有するステンレス鋼からなる油井管であることを意味している。
番号1〜36の各々について枝番1、2で示す油井管は、円弧面(111a)の曲率半径Rを0.3mmとしたものである。枝番3、4で示す油井管における円弧面(111a)の曲率半径Rは0.4mm、枝番5、6で示す油井管における円弧面(111a)の曲率半径Rは0.1mmである。
番号1〜36の各々について、枝番2、4、6の油井管には、雄ねじ部(111)の不完全ねじ部(111i)において、ねじ山頂面(111t)と荷重面(111r)とを接続する傾斜面(111s)を設けた。傾斜面(111s)は、不完全ねじ部(111i)の荷重面(111r)の外径側端部斜面の10%を面取りすることにより形成した。
番号1、4、7、10、12〜16、19〜36で示す油井管は、いずれもβが1.55以上のステンレス鋼からなる。表5A〜5F及び図17より、これらの油井管は、その構造が同じであれば、βが1.55未満である番号2、3、5、6、8、9、11、17、18の油井管と比較して疲労限度が著しく高いことがわかる。これは、マルテンサイト組織及びフェライト組織が疲労き裂の進展方向に対して直角方向に層状になっているためと考えられる。油井管を構成するステンレス鋼の組織が層状になるほど、油井管におけるき裂進展速度が低下する。
表5A〜5Fより、円弧面(111a)の曲率半径Rが0.3mm以上である枝番1〜4の油井管は、曲率半径Rが0.3mm未満である枝番5、6の油井管よりも疲労限度が高いことがわかる。疲労限度は、曲率半径Rが大きくなるほど上昇した。特に、βが1.55以上である番号1、4、7、10、12〜16、19〜36の油井管では、βが1.55未満である番号2、3、5、6、8、9、11、17、18の油井管と比較して、疲労限度の上昇率が大きい。
図18に、円弧面(111a)の曲率半径Rと疲労限度との関係を示す。βが1.55以上の油井管では、曲率半径Rが0.3及び0.4の場合に疲労限度が著しく上昇している。βが1.55未満の油井管では、曲率半径Rが大きくなれば疲労限度が徐々に上昇するが、疲労限度の上昇率は小さい。
疲労限度が上昇する理由は、円弧面(111a)を設けることによって雄ねじ部(111)のねじ谷底部における応力集中係数が低下し、ねじ谷底部に作用する応力が緩和されるためである。応力集中と疲労限度との関係は一般に知られているところではあるが、βが1.55以上の本開示に係るステンレス鋼からなる油井管の場合、曲率半径Rを0.3mm以上とすれば、公知の鋼からなる油井管と比較して疲労限度が著しく上昇する。これは、マルテンサイト組織とフェライト組織とが層状になっている本開示に係るステンレス鋼特有の現象であると考えられる。
枝番2、4、6の油井管は、雄ねじ部(111)の不完全ねじ部(111i)において面取りを実施して傾斜面(111s)を設けたことにより、傾斜面(111s)がない枝番1、3、5の油井管と比べて疲労限度が上昇している。これは雄ねじ部(111)のねじ谷底部に作用する応力が再配分されることに起因している。応力の再配分については、後で詳しく説明する。
なお、面取りを実施していない油井管のサンプルについて、疲労限度よりも高い応力で、2×10回サイクル時における疲労限度を求める疲労試験を実施したところ、不完全ねじ部(111i)において、管本体(12)側の端を0%、完全ねじ部(111p)側の端を100%として、概ね15〜40%の位置で油井管が破断した。有限要素法を用いた計算でも、不完全ねじ部(111i)において面取りを実施すると疲労限度が上昇することがわかっている。よって、不完全ねじ部(111i)において、少なくとも10〜50%の範囲、より好ましくは15〜40%の範囲にあるねじ山に面取りを施すことで、油井管の破断をより確実に防止することができると考えられる。
<3.傾斜面の管軸方向の長さについて>
上述の傾斜面の管軸方向の長さ(面取り高さ)の適切な範囲を確認するため、弾塑性有限要素法による数値シミュレーション解析を実施した。解析条件は以下の通りである。
・解析対象:VAMTOP(登録商標) 9−5/8“ 53.5#(外径:244.5mm、肉厚:13.8mm) LL−PNBN
・材料:弾性(ヤング率E=210GPa、ポアソン比ν=0.3)
・解析パラメータ:不完全ねじ部における傾斜面の位置及び面取り高さ
・荷重条件:RASC1/100ターンで締結後、降伏強度(110ksi相当)の10%の引張荷重を負荷
解析結果を図19及び表6に示す。
図19及び表6に示す実施例1〜3は、いずれも、雄ねじ部において、応力が最も高いねじ谷底面と連続する荷重面N1にのみ面取りを施したものである。すなわち、荷重面N1は、傾斜面を介してねじ山頂面と接続されている。当該傾斜面と管軸に垂直な面とがなす角(面取り角)は10°である。ただし、実施例1〜3は、荷重面N1の面取り高さが各々異なる。比較例では、いずれの荷重面にも面取りが施されていない。
図19には、比較例及び実施例1〜3の各々について、雄ねじ部のねじ谷底部の応力分布が示されている。なお、公称応力は、管本体部分の平均応力とした。図19より、管本体側の不完全ねじ部でねじ谷底部の応力が高くなっていることがわかる。ピンの先端側にある不完全ねじ部においてもねじ谷底部の応力は高いが、ピンの先端側ではき裂が進展せず、油井管の破断が生じない。よって、ここでは、管本体側の不完全ねじ部の結果に着目した。
図19より、実施例1〜3では、荷重面N1を含む管本体側の不完全ねじ部において、ねじ谷底部の応力の再配分が生じていることがわかる。また、図19及び表6より、この応力の再配分には、荷重面N1の面取り高さが影響を与えていることがわかる。
詳述すると、実施例1は、面取り高さが最も小さく、完全ねじ部のねじ山の高さに対する面取り高さの比λが5%強である。実施例1では、荷重面N1と連続するねじ谷底面での応力は比較例よりも若干低くなっている。しかしながら、荷重面N1の両隣の荷重面N0、N2と連続する各ねじ谷底面での応力は比較例とほぼ変わらず、応力集中緩和の効果は小さい。
実施例3は、面取り高さが最も大きく、λが16%弱である。実施例3では、荷重面N1と連続するねじ谷底面での応力は著しく低くなっているが、荷重面N0、N2と連続する各ねじ谷底面での応力は比較例よりも高くなっている。つまり、面取りが施された荷重面N1の周囲で応力集中が生じている。
実施例2では、λが10%程度であり、荷重面N1と連続するねじ谷底面での応力は比較例よりもかなり低い。また、荷重面N0、N2と連続する各ねじ谷底面での応力は、比較例よりもわずかに高いだけである。すなわち、実施例2では、応力が突出して高くなる箇所がなく、応力の再配分が適切に生じているといえる。
以上より、雄ねじ部の管本体側の不完全ねじ部において、少なくとも1つの荷重面に面取りを施せば、ねじ谷底部の応力の再配分が生じ、応力集中が緩和され得ることがわかった。特に、面取り高さが完全ねじ部のねじ山の高さの6〜13%であれば、適切な応力の再配分を生じさせることができ、より確実に応力集中を緩和することができる。
10,10A:油井管
11:ピン
111:雄ねじ部
111p:完全ねじ部
111i:不完全ねじ部
111t:ねじ山頂面
111b:ねじ谷底面
111r:荷重フランク面
111a:円弧面
111s:傾斜面
20:カップリング
21:ボックス

Claims (6)

  1. ステンレス鋼からなり、他の油井管と直接又はカップリングを介して連結される油井管であって、
    前記ステンレス鋼は、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.001〜0.06%、
    Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.01〜2.0%、
    P:0.03%以下、
    S:0.005%未満、
    Cr:15.5〜18.0%、
    Ni:2.5〜6.0%、
    V:0.005〜0.25%、
    Al:0.05%以下、
    N:0.06%以下、
    O:0.01%以下、
    Cu:0〜3.5%、
    Co:0〜1.5%、
    Nb:0〜0.25%、
    Ti:0〜0.25%、
    Zr:0〜0.25%、
    Ta:0〜0.25%、
    B:0〜0.005%、
    Ca:0〜0.01%、
    Mg:0〜0.01%、及び
    REM:0〜0.05%を含有し、さらに、
    Mo:0〜3.5%、及び
    W:0〜3.5%からなる群から選択された1種又は2種を式(1)を満たす範囲で含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    マトリクス組織が、体積率で、40〜70%の焼戻しマルテンサイト相と、10〜50%のフェライト相と、1〜15%のオーステナイト相とを有し、
    前記マトリクス組織を100倍の倍率で撮影して得られた1mm×1mmのミクロ組織画像を、肉厚方向をx軸としかつ長さ方向をy軸とするxy座標系に配置し、1024×1024の各画素をグレースケールで表したとき、式(2)で定義されるβが1.55以上であり、
    1.0≦Mo+0.5W≦3.5 (1)
    ここで、Mo,Wは、Mo,Wの含有量(質量%)である。
    ただし、式(2)において、Suは式(3)で定義され、Svは式(4)で定義される。
    式(3)及び式(4)において、F(u,v)は式(5)で定義される。
    式(5)において、f(x,y)は座標(x,y)の画素の階調を表す。
    前記油井管は、
    管本体と、
    前記管本体の少なくとも一方の端に連続して形成され、外周に形成された雄ねじ部を含み、前記他の油井管のボックス又は前記カップリングのボックスに挿入されるピンと、
    を備え、
    前記雄ねじ部は、管軸を含む平面での断面で見て、
    複数のねじ谷底面と、
    前記複数のねじ谷底面に対応して設けられ、各々が、対応する1のねじ谷底面と0.3mm以上の曲率半径を有する円弧面を介して接続される複数の荷重フランク面と、
    を含む、油井管。
  2. 請求項1に記載に油井管であって、
    前記雄ねじ部は、
    完全ねじ部と、
    前記完全ねじ部よりも前記管本体側に配置される不完全ねじ部と、
    を有し、
    前記不完全ねじ部は、管軸を含む平面での断面で見て、対応する1の荷重フランク面と傾斜面を介して接続される少なくとも1つのねじ山頂面を含み、
    前記傾斜面は、管軸に垂直な方向の長さが、前記完全ねじ部のねじ山の高さの6〜13%である、油井管。
  3. 請求項1又は2に記載の油井管であって、
    前記不完全ねじ部は、管軸方向の長さをLiとして、前記管本体側の端から0.1×Liの距離にある第1位置から、前記管本体側の端から0.5×Liの距離にある第2位置までの応力集中領域を含み、
    前記少なくとも1つのねじ山頂面は、前記応力集中領域に配置されている、油井管。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の油井管であって、
    前記ステンレス鋼は、
    前記化学組成が、質量%で、
    Cu:0.2〜3.5%、及び
    Co:0.05〜1.5%からなる群から選択された1種又は2種を含有する、油井管。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の油井管であって、
    前記ステンレス鋼は、
    前記化学組成が、質量%で、
    Nb:0.01〜0.25%、
    Ti:0.01〜0.25%、
    Zr:0.01〜0.25%、及び
    Ta:0.01〜0.25%からなる群から選択された1種又は2種以上を含有する、油井管。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の油井管であって、
    前記ステンレス鋼は、
    前記化学組成が、質量%で、
    B:0.0003〜0.005%、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    Mg:0.0005〜0.01%、及び
    REM:0.0005〜0.05%からなる群から選択された1種又は2種以上を含有する、油井管。
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