JP2017047473A - 皮膜、熱間成形用金型及び熱間成形方法 - Google Patents

皮膜、熱間成形用金型及び熱間成形方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼の熱間成形用金型において優れた耐摩耗層として機能する皮膜、当該皮膜を有する熱間成形用金型、及び当該熱間成形用金型が用いられる熱間成形方法を提供する。
【解決手段】皮膜12は、鋼板10の熱間成形に用いられる熱間成形用金型1において耐摩耗層として形成される皮膜である。皮膜12は、タングステンカーバイドと、3重量%以上15重量%以下の残部コバルトと、からなることを特徴とする。熱間成形用金型1は、鋼板10の熱間成形に用いられる熱間成形用金型であって、成形面11Aを有する基材11と、成形面11A上に形成された皮膜12と、を備えている。熱間成形方法は、鋼板10を加熱する工程と、加熱された鋼板10を上記熱間成形用金型1を用いて成形する工程と、を備えている。
【選択図】図1

Description

本発明は、皮膜、熱間成形用金型及び熱間成形方法に関する。
従来、熱間成形に用いられる金型において、耐摩耗性や耐熱衝撃性の向上を目的として、金属セラミックス複合材からなる皮膜層を表面に形成することが知られている。この種の技術が下記特許文献1に開示されている。下記特許文献1には、熱間成形に用いられる金型の基材表面において、チタン(Ti)、ジルコニム(Zr)及びハフニウム(Hf)のいずれか一種の金属層からなる下地層と、(Ti1−xAl)Nの組成式により表される複合窒化物層からなる表面層と、を順に積層して形成することが開示されている。
特開2013−146778号公報
上記特許文献1に開示された金型では、熱伝導率が大きく異なる基材と表面層との間において、その中間的な熱伝導率を有する下地層を形成することにより、表面層と基材との間での急激な熱伝達が緩和され、クラックの発生を抑制することができる。しかし、上記金型は、鋼からなる被成形体の熱間成形に使用された場合において、Ti、Alの複合窒素化物からなる表面層によって十分な耐摩耗性が得られないという問題がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼の熱間成形用金型において優れた耐摩耗層として機能する皮膜、当該皮膜を有する熱間成形用金型、及び当該熱間成形用金型が用いられる熱間成形方法を提供することである。
本発明の一局面に係る皮膜は、鋼からなる被成形体の熱間成形に用いられる金型において耐摩耗層として形成される皮膜である。上記皮膜は、タングステンカーバイドと、3重量%以上15重量%以下のコバルトと、からなることを特徴とする。
上記皮膜は、溶射法により形成されたものであってもよい。また倍率2000倍で前記皮膜の断面観察を行ったときに、前記皮膜に含有されるタングステンカーバイドの粒子の95%以上が直径10μmの円内に含まれる大きさであってもよい。
上記皮膜において、前記被成形体は、0.5重量%以上3重量%以下のシリコンを含有する鋼からなっていてもよい。
上記皮膜において、前記被成形体は、0.05重量%以上1.0重量%以下のクロムを含有する鋼からなっていてもよい。
上記皮膜において、前記被成形体は、0.15重量%以上0.35重量%以下の炭素を含有する鋼からなっていてもよい。
本発明の他局面に係る熱間成形用金型は、鋼からなる被成形体の熱間成形に用いられる熱間成形用金型である。上記熱間成形用金型は、成形面を有する基材と、前記成形面上に形成された上記皮膜と、を備えている。
本発明の他局面に係る熱間成形方法は、鋼からなる被成形体を加熱する工程と、加熱された前記被成形体を成形する工程と、を備えている。前記成形する工程では、上記熱間成形用金型を用いて前記被成形体を成形する。
本発明によれば、鋼の熱間成形用金型において優れた耐摩耗層として機能する皮膜、当該皮膜を有する熱間成形用金型、及び当該熱間成形用金型が用いられる熱間成形方法を提供することができる。
本発明の実施形態に係る熱間成形用金型の構成を示す模式図である。 上記熱間成形用金型における皮膜の成膜装置を示す模式図である。 上記熱間成形用金型を用いて実施される熱間成形方法の流れを示すフローチャートである。
まず、本発明の実施形態に係る皮膜、熱間成形用金型及び熱間成形方法の概要について説明する。
本実施形態に係る皮膜は、鋼からなる被成形体の熱間成形に用いられる金型において耐摩耗層として形成される皮膜である。上記皮膜は、タングステンカーバイドと、3重量%以上15重量%以下のコバルトと、からなることを特徴とする。
本発明者は、鋼の熱間成形用金型に用いられる優れた耐摩耗層を提供するために鋭意検討を行った結果、以下の知見を得て、本発明に想到した。
鋼を加熱成形する工法の一つとして、鋼が高温加熱された後、当該鋼が金型により成形されると共に冷却により焼入されるホットプレス(ダイクエンチ)法があり、本実施形態では以下ホットプレス法に使用される金型を鋼の熱間成形法の一例として説明を行う。ホットプレス以外の熱間成型方法としては熱間鍛造などがある。ここで、高温加熱時において、鋼の表面には鉄酸化物を主体とする酸化物層(スケール)が生成する。スケールは、鋼の組成や成形条件により変化するが厚さが数μm〜数十μmであり、内層にFeO、外層にFe及びFeを主に有している。本発明者は、当該スケールが生成した鋼を金型により成形するとき、当該スケールと金型との摺動により金型が摩耗により損傷してしまうことに着目し、当該損傷を防止するための方策について検討した。その結果、本発明者は、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、3重量%以上15重量%以下のコバルト(Co)を含有する皮膜を耐摩耗層として用いた場合に、耐摩耗性が著しく改善されることを見出した。
上記本実施形態に係る皮膜は、WCと3重量%以上15重量%以下の残部Coと、からなっており、鋼の熱間成形用金型において優れた耐摩耗層として機能する。Coの含有量が3重量%未満である場合には、皮膜が脆くなり、成形時に皮膜が欠けて損傷が進行する。一方で、Coの含有量が15重量%を超える場合には、皮膜中において軟質なCoが多く存在し過ぎるため、摩耗速度が速くなる。このため、Coの含有量は、3重量%以上15重量%以下の範囲内となっており、5重量%以上10重量%以下の範囲内であることが好ましい。
上記皮膜は、WCと残部Coとからなるものであるが、不可避的に混入される不純物を含んでいてもよい。
上記皮膜の厚みは、耐久性を確保する観点から、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。
上記皮膜は、溶射法により形成されたものであってもよい。また倍率2000倍で前記皮膜の断面観察を行ったときに、前記皮膜に含有されるタングステンカーバイドの粒子の95%以上が直径10μmの円内に含まれる大きさであってもよい。
皮膜を構成する個々のタングステンカーバイドの粒子が大きい場合、皮膜と被成形体との摺動中においてタングステンカーバイドの粒子が脱落し、摺動表面の粒子欠落による摩耗が発生する。これに対して、95%以上のタングステンカーバイドの粒子を直径10μmの円内に収まる大きさにすることで、摺動中における粒子の脱落を防ぐことができる。
上記皮膜において、前記被成形体は、0.5重量%以上3重量%以下のシリコンを含有する鋼からなっていてもよい。また前記被成形体は、0.05重量%以上1.0重量%以下のクロムを含有する鋼からなっていてもよい。
鋼の成分中にシリコン(Si)及びクロム(Cr)の元素が含まれる場合には、スケールの成長速度が遅くなり、スケールが全体的に薄く形成され、FeやFeのスケール成分がリッチになる。これらのスケール成分は、FeOに比べて硬質な成分であるため、Si及びCrを含む鋼の熱間成形においては金型の摩耗量がより大きくなる傾向がある。これに対して、上記本実施形態に係る皮膜を耐摩耗層として用いることで、従来の皮膜を用いた場合に比べて、Si及びCrを含む鋼の熱間成形においても摩耗量の増加を防ぐことができる。
Si及びCrの含有量は、被成形体を構成する鋼の特性から上記範囲内に規定されている。Si及びCrは、その含有量が増加するのに伴いFeやFeのスケール成分が増加し、金型の摩耗量が増加する。Crの含有量が0.05重量%以上である場合には、スケール組成への影響があり、特に0.1重量%以上である場合にはスケール組成への影響が顕著になる。
上記皮膜において、前記被成形体は、0.15重量%以上0.35重量%以下の炭素を含有する鋼からなっていてもよい。
炭素(C)の含有量は、Si及びCrと同様に、被成形体を構成する鋼の特性から上記範囲内に規定されている。また当該鋼は、C、Si及びCrの他の元素として、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、チタン(Ti)、ホウ素(B)又はAlを含有していてもよい。これらの元素の含有量は、数重量%以下であってもよい。
本実施形態に係る熱間成形用金型は、鋼からなる被成形体の熱間成形に用いられる熱間成形用金型である。上記熱間成形用金型は、成形面を有する基材と、前記成形面上に形成された上記本実施形態に係る皮膜と、を備えている。
上記熱間成形用金型では、WCと3重量%以上15重量%以下の残部Coとからなる上記皮膜が基材上に形成されている。このため、鋼からなる被成形体の熱間成形を行った場合でも、当該鋼の表面に形成されるスケールにより金型が摩耗して損傷することを抑制することができる。
本実施形態に係る熱間成形方法は、鋼からなる被成形体を加熱する工程と、加熱された前記被成形体を成形する工程と、を備えている。前記成形する工程では、上記本実施形態に係る熱間成形用金型を用いて前記被成形体を成形する。
上記熱間成形方法では、WCと3重量%以上15重量%以下の残部Coとからなる上記皮膜が形成された上記熱間成形用金型を用いて被成形体が成形される。このため、被成形体を加熱する工程において生成したスケールにより金型表面が摩耗し、損傷することを抑制することができる。これにより、金型の耐久性が向上するため、熱間成形中において金型のメンテナンス間隔を広くすることができるなどの利点がある。
[熱間成形用金型]
次に、本発明の実施形態に係る熱間成形用金型1について、図1を参照して説明する。図1は、熱間成形用金型1において被成形体である鋼板10が設置された状態を示している。
熱間成形用金型1は、鋼板10の熱間成形に用いられる金型であって、上下方向(図1中矢印)において互いに離れて配置された上金型1A及び下金型1Bを有している。上金型1Aは凸部1Cを有し、下金型1Bは当該凸部1Cと嵌め合う凹部1Dを有している。上金型1A及び下金型1Bは、不図示の駆動源からの駆動力によって互いに接近するように又は互いに離れるように変位可能となっている。図1に示すように、加熱された鋼板10が下金型1B上に設置された状態で、鋼板温度が低下しないように、時間をおかずに上金型1Aを下降させる。これにより、凸部1Cによって鋼板10がプレスされ、鋼板10を下金型1Bの凹部1Dに沿った形状に成形することができる。
上金型1A及び下金型1Bの各々は、基材11と、基材11上に形成された皮膜12と、を有している。基材11は、熱間成形用金型1の本体を構成する金属製の部材であり、熱間成形時において鋼板10を押圧する面である成形面11Aを有している。凸部1Cは上金型1Aの成形面11Aにおいて下金型1B側に出っ張った部分であり、凹部1Dは下金型1Bの成形面11Aにおいて上金型1Aと反対側に凹んだ部分である。皮膜12は、当該成形面11上において熱間成形用金型1の耐摩耗層として形成されている。
上記皮膜12は、WCと、WCの粒子同士を結合する結合剤(バインダー)である残部Coと、からなっている。皮膜12は、膜の耐久性を確保する観点から、10μm以上の厚みT1を有することが好ましく、50μm以上の厚みT1を有することがより好ましく、100μm以上の厚みT1を有することがさらに好ましい。
上記皮膜12は、WCとCoとを混合した焼結体を物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法又は溶射方法により、成形面11A上に成膜することにより形成されている。PVD法としては、スパッタリング法やアークイオンプレーティング法を用いることができる。また溶射方法としては、プラズマ溶射や高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxygen Flame)を用いることができる。溶射方法では、WCとCoの焼結体粉末が高速で基材11に吹き付けられることにより皮膜12が成膜される。この方法は、成膜速度が速いため、厚みT1が50μm以上の厚膜の形成に適している。
溶射法により皮膜12が形成される場合、上記のようにタングステンカーバイド(WC)は粉末状の原料を用いて形成される。ここで、最終的に皮膜12中に含有されるWC粒子は、95%以上が直径10μmの円内に含まれる。すなわち、皮膜12中に含有されるWC粒子の95%以上において、各方向における最大長さが10μm以下となっている。WC粒子の大きさを観察する方法としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)などを用いた観察方法を採用することができる。具体的には、皮膜12を厚さ方向に切断し、その断面をSEMなどにより倍率2000倍程度で100μm×100μm程度の視野内において観察することができる。そして、当該視野内における個々のWC粒子の大きさを計測することができる。
溶射法は成膜レートが速いことから、上記のように50μm以上の厚みT1を有する厚膜を形成することができる。しかし、皮膜12を構成する個々のWC粒子が大きい場合、熱間成形用金型1と鋼板10との摺動中においてWC粒子が脱落し、摺動表面の粒子欠落による摩耗が発生する。これを防ぐため、上記のように皮膜12の断面観察を行ったときに、少なくとも95%以上のWC粒子が直径10μmの円内に含まれる必要がある。また、少なくとも95%以上のWC粒子が直径5μm以下の円内に含まれることがより好ましい。
上記皮膜12において、Coの含有量は3重量%(wt%)以上に調整されている。Coの含有量が3wt%未満である場合には、皮膜12が脆くなり、鋼板10の熱間成形時において皮膜12に欠けが発生して皮膜12の損傷が進行する場合がある。これを防止する観点から、Coの含有量は、3wt%以上となっており、4wt%以上であることがより好ましく、5wt%以上であることがさらに好ましい。
上記皮膜12において、Coの含有量は15wt%以下に調整されている。Coの含有量が15wt%を超える場合には、皮膜12中において軟質なCoの量が過大になり、皮膜12の摩耗速度が速くなる。このため、Coの含有量は、15wt%以下となっており、12wt%以下であることがより好ましく、10wt%以下であることがさらに好ましい。
上記皮膜12におけるCoの含有量は、EDX(Energy Dispersion
X−ray Spectroscopy)分析などを用いて測定することができる。
鋼板10は、熱間成形用金型1を用いて熱間成形される被成形体である。鋼板10は、0.15wt%以上0.35wt%以下のCと、0.5wt%以上3wt%以下のSiと、0.05wt%以上1.0wt%以下のCrと、を含有し、残部鉄及び不純物からなっている。Siの含有量は、1wt%以上であってもよく、1.5wt%以上であってもよく、2.5wt%以上であってもよい。またCrの含有量は、0.1wt%以上であってもよく、0.5wt%以上であってもよい。
鋼板10は、上記成分組成を有するものに限定されず、Crを含有せずSiの含有量が上記範囲のものであってもよいし、Siを含有せずCrの含有量が上記範囲のものであってもよいし、C、Si及びCrのいずれの成分元素も含有しないものであってもよい。また、Mn、P、S、Ti、B又はAlなどの他の成分元素をさらに含有するものであってもよく、その含有量は数wt%以下であってもよい。
鋼板10は、図1に示すように熱間成形用金型1に設置される前において、不図示の加熱炉において大気下で加熱処理される。このとき、鋼板10を構成する鉄成分が大気中の酸素によって酸化され、当該鋼板10表面にスケール(酸化物層)10Aが薄く形成される。スケール10Aは、FeO、Fe、Feなどの鉄酸化物を主に含有しており、その内側にはFeOが主に存在し、外側にはFe及びFeが主に存在している。特に、鋼板10は、Si及びCrの成分元素を含有するため、Si及びCrを含有しないものに比べてFe及びFeを多く含むスケール10Aを生成する。Fe及びFeは、FeOに比べて硬度がより大きい酸化物である。
鋼板10の熱間成形時においては、鋼板10の表面に形成されたスケール10Aと熱間成形用金型1の表面とが接触し、摺動する。当該摺動による金型の摩耗を抑制するため、本実施形態に係る熱間成形用金型1では、基材11上において耐摩耗層としての皮膜12が形成されている。つまり、鋼板10の熱間成形時には、基材11がスケール10Aと直接接触せず、皮膜12とスケール10Aとが接触するため、基材11がスケール10Aとの摺動により摩耗し、損傷を受けることを抑制することができる。
[皮膜の成膜方法]
次に、上記皮膜12の成膜手順について説明する。図2は、皮膜12の成膜に用いられる成膜装置2の装置構成を示している。まず、成膜装置2の構成について、図2を参照して説明する。
成膜装置2は、チャンバー21と、複数(2つ)のアーク電源22及びスパッタ電源23と、基材ステージ24と、バイアス電源25と、複数(4つ)のヒータ26と、放電用直流電源27と、フィラメント加熱用交流電源28と、を有する。チャンバー21には、真空排気するためのガス排気口21Aと、チャンバー21内にガスを供給するためのガス供給口21Bと、が設けられている。アーク電源22には、ターゲットが配置されるアーク蒸発源22Aが接続されている。スパッタ電源23には、ターゲットが配置されるスパッタ蒸発源23Aが接続されている。基材ステージ24は、回転可能に構成され、成膜対象である基材11を支持するための支持面を有する。バイアス電源25は、基材ステージ24を通して基材11に負バイアスを印加する。
次に、基材11上への皮膜12の成膜手順について説明する。本実施形態では、アークイオンプレーティング法により皮膜12が成膜される場合について説明する。
まず、基材11が準備され、基材ステージ24上にセットされる。一方、Co含有量が3wt%以上15wt%以下に調整されたWC−Co焼結体が準備され、成膜用のターゲットとしてアーク蒸発源22Aにセットされる。
次に、ガス排気口21Aよりチャンバー21内が所定の圧力まで減圧され、真空状態とされる。次に、ガス供給口21BからArガスがチャンバー21内に導入され、ヒータ26により基材11が所定の温度に加熱される。そして、基材11の表面がArイオンにより所定時間エッチングされる。これにより、基材11の表面に形成された酸化皮膜などが除去される。
次に、所定のアーク電流を流すことによりアーク蒸発源22Aにセットされたターゲットを蒸発させると共に、基材ステージ24を所定の回転速度で回転させる。これにより、蒸発したターゲットが基材11上に付着し、皮膜12が成膜される。成膜速度は、アーク電流の条件や基材ステージ24の回転速度の条件により調整され、所望の膜厚に達するように成膜時間が調整される。
そして、所望の膜厚に達した後、アーク電流の供給及び基材ステージ24の回転が停止される。その後、チャンバー21内が大気開放され、成膜後の基材11がチャンバー21の外に取り出される。以上のような手順により、基材11上に皮膜12が成膜される。
また、スパッタリング法によって皮膜12が成膜される場合には、Co含有量が3wt%以上15wt%以下に調整されたWC−Co焼結体がスパッタ蒸発源23Aにおいてターゲットとしてセットされる。そして、スパッタ蒸発源23Aに所定の電力を投入することによりターゲットを蒸発させ、かつ基材ステージ24を回転させることにより皮膜12が成膜される。
[熱間成形方法]
次に、上記皮膜12が耐摩耗層として形成された上記熱間成形用金型1を用いて実施される熱間成形方法について、図3のフローチャートに沿って説明する。上記熱間成形方法は、鋼板10の成形と冷却による焼入硬化とが同時に実施されるホットプレス(ダイクエンチ)法によって実施される。
まず、被成形体を加熱する工程S10が実施される。この工程S10では、まず、熱間成形を行う被成形体として、0.15wt%以上0.35wt%以下のCと、0.5wt%以上3wt%以下のSiと、0.05wt%以上1.0wt%以下のCrと、を含有し、残部鉄及び不純物からなる鋼によって構成され、平板状に加工された鋼板10が準備される。
次に、鋼板10が加熱炉(図示しない)内に配置され、大気下においてオーステナイトになるまで所定の温度(900℃程度)で加熱される。この加熱によって、鋼板10の表面には、FeO、Fe、Feなどの鉄酸化物を主に含むスケール10Aが形成される(図1)。
次に、被成形体を成形する工程S20が実施される。この工程S20では、図1に示すように、上記工程S10で加熱された鋼板10が所定の搬送手段(図示しない)によって熱間成形用金型1に搬送され、下金型1B上に設置される。次に、駆動源(図示しない)からの駆動力によって上金型1Aを下金型1Bに向かって下降させる。これにより、上金型1Aの凸部1Cによって鋼板10が押圧され、鋼板10が下金型1Bの凹部1Dに沿った形状にプレス成形される。このプレス成形と同時に、鋼板10は、熱間成形用金型1と接触した状態で所定時間保持されることによりMs点(マルテンサイト変態点)以下の温度にまで急冷され、焼入硬化される。
この工程(S20)では、鋼板10のプレス成形を行うため、鋼板10の表面に形成されたスケール10Aが熱間成形用金型1と接触する。ここで、基材11上に皮膜12が形成されていない場合には、硬質なスケール10Aとの摺動により基材11が摩耗し、基材11が損傷を受ける場合がある。これに対して、本実施形態では、基材11の成形面11A上においてCo含有量が適量に調整された皮膜12が耐摩耗層として形成されているため、スケール10Aとの摺動による基材11の摩耗及びこれによる損傷の発生を抑制することができる。以上の手順により、鋼板10が成形及び焼入硬化され、本実施形態に係る熱間成形方法が完了する。
[作用効果]
次に、上記本実施形態に係る皮膜12、熱間成形用金型1及び熱間成形方法の特徴及びその作用効果について説明する。
上記皮膜12は、鋼からなる被成形体(鋼板10)の熱間成形に用いられる熱間成形用金型1において耐摩耗層として基材11上に形成される皮膜である。皮膜12は、WCと、3wt%以上15wt%以下の残部Coと、からなっている。上記熱間成形用金型1は、成形面11Aを有する基材11と、成形面11A上に形成された上記皮膜12と、を備えている。上記熱間成形方法は、鋼板10を加熱する工程S10と、上記工程S10において加熱された鋼板10を上記熱間成形用金型1を用いて成形する工程S20と、を備えている。
上記皮膜12は、WCと3wt%以上15wt%以下の残部Coとからなっており、熱間成形用金型1において優れた耐摩耗層として機能する。Coの含有量が3wt%未満である場合には、皮膜が脆くなり、熱間成形時に皮膜が欠けて損傷が進行する。一方で、Coの含有量が15wt%を超える場合には、皮膜中において軟質なCoが多く存在し過ぎるため、摩耗速度が速くなる。上記皮膜12は、Co含有量が適量に調整されることにより、熱間成形用金型1において優れた耐摩耗層として機能することができる。つまり、上記熱間成形用金型1を用いて鋼板10の熱間成形を行った場合でも、当該鋼板10の表面に形成されるスケール10Aによって金型が摩耗して損傷することを抑制することができる。また上記熱間成形用金型1を用いた熱間成形方法によれば、金型の摩耗による損傷を抑制することで金型の耐久性を向上させることができるため、金型のメンテナンス間隔を広くすることが可能となり、効率的に熱間成形を行うことができる。
上記皮膜12は、溶射法により形成されていてもよい。そして、倍率2000倍で皮膜12の断面観察を行ったときに、皮膜12に含有されるタングステンカーバイドの粒子の95%以上が直径10μmの円内に含まれる大きさとなっている。これにより、皮膜12と鋼板10との摺動による粒子の脱落を防ぎ、耐摩耗性をより向上させることができる。
上記鋼板10は、0.5wt%以上3wt%以下のSiと、0.05wt%以上1.0wt%以下のCrと、を含有し、残部鉄及び不純物からなる鋼によって構成されている。鋼板10中にSi及びCrが含まれる場合には、当該鋼板10に形成されるスケール10AにおいてFeやFeの成分がFeOに比べてリッチになる。これらのスケール成分は、FeOに比べて硬質な成分であるため、Si及びCrを含む鋼板10の熱間成形においてはスケール10Aによる金型の摩耗量がより大きくなる傾向がある。これに対して、上記皮膜12が耐摩耗層として形成された上記熱間成形用金型1によれば、Si及びCrを含む鋼板10の熱間成形においても摩耗量の増加を防ぐことができる。
[その他の実施形態]
上記実施形態では、アークイオンプレーティング法やスパッタリング法により皮膜12が成膜される場合について説明したが、これに限定されない。例えば、Co含有量が3wt%以上15wt%以下に調整されたWC−Co焼結体が溶射材として使用され、当該溶射材を加熱して基材11に対して高速で吹き付ける溶射方法が用いられてもよい。より具体的には、酸素と燃料ガスの燃焼炎を熱源として利用して溶射材を溶融させるフレーム溶射が用いられてもよいし、電極間の放電により発生させたプラズマを熱源として利用したプラズマ溶射が用いられてもよい。このような溶射方法によれば、PVD法に比べて成膜速度をより速くすることができるため、厚みT1が大きい場合(例えば50μm以上)でも、皮膜12を短時間で効率的に成膜することができる。
上記実施形態において、熱間成形用金型1は図1の形状に限定されず、鋼板10の成形形状に応じて種々のものを用いることができる。また被成形体は鋼板10に限定されず、熱間成形によって加工される種々の鋼材を用いることができる。
[実施例1]
スケールが形成された鋼材に対する耐摩耗性を評価する実験を行った。
JIS規格SKD11製のボール(直径10mm、HRC60)を準備し、その表面に下記表1のNo.1〜11に示す皮膜を形成した。No.1では、皮膜を形成しなかった。No.2では、TiAlNからなる皮膜を形成した。No.3では、Cоを含有しないWCからなる皮膜を形成した。No.4〜11では、1〜20wt%のCoとWCとからなる皮膜を形成した。No.2,11はPVD法により成膜し、No.3〜10は溶射法により成膜した。
一方、0.22wt%のCと1.2wt%のSiとを含む鋼板を準備し、当該鋼板を大気中において950℃まで加熱し、その後大気中において放冷することにより、鋼板上にスケールを生成させた。
下記表1に示すNo.1〜11の皮膜が形成されたボールとスケールが生成した鋼板とを摺動させ、その接触部分に形成される摩耗部分の面積を測定することにより摺動試験を行った。この摺動試験では、垂直荷重を5N、摺動速度を0.1m/s(摺動幅30mmの往復動)、摺動距離を72mとし、摩耗部分の面積を測定することにより耐摩耗性を評価した。表1にその測定結果を示す。
Figure 2017047473
表1から明らかなように、Co含有量が3wt%以上15wt%以下である皮膜が形成された場合(No.5〜8,11)では、摩耗面積が0.3mm以下となり、スケールが生成した鋼板に対して良好な耐摩耗性を示すことが分かった。また、PVD法を用いた場合には10μm程度が膜厚の上限であるのに対し(No.2,11では膜厚5μm)、溶射法では100μm以上の膜厚を有する皮膜を形成することが可能であり(No.3〜10では膜厚100μm)、膜厚が大きい皮膜を形成することで、皮膜の寿命をより長くすることができる。
[実施例2]
JIS規格SKD11製のボールを準備し、その表面にCo(7wt%)とWCからなる皮膜(膜厚100μm)を溶射法により形成し、又はTiAlNからなる皮膜(膜厚10μm)をPVD法により形成した。また、下記表2のNo.1〜11に示すように、Si及びCrの含有量が異なる鋼板を準備し、上記実施例1と同様に大気中で高温加熱することにより鋼板上にスケールを生成させた。そして、ボールと鋼板との摺動試験を行い、皮膜の耐摩耗性に対する鋼板の組成の影響について調査した。表2にその結果を示す。
Figure 2017047473
表2から明らかなように、Co(7wt%)とWCからなる皮膜を形成した場合、及びTiAlNからなる皮膜を形成した場合のいずれにおいても、Si及びCrの含有量の増加と共に皮膜の摩耗部分における面積は増加した。しかし、TiAlNからなる皮膜を形成した場合では、Si含有量が0.5〜3wt%でかつCr含有量が0wt%である場合(No.3〜7)、及びSi含有量が1wt%でかつCr含有量が0.5〜1wt%である場合(No.9,10)において、摩耗面積が0.3mm以上にまで増加したのに対し、Co(7wt%)とWCからなる皮膜を形成した場合には、摩耗面積が0.3mm以下に抑えられ、優れた耐摩耗性が発揮されることが分かった。
[実施例3]
下記の表3のNo.1〜6に示すように、溶射時の原料として用いたWC粉末の粒径(最大粒径(μm))を変化させ、上記実施例1と同様にJIS規格SKD11製のボールの表面にWC−Co皮膜を溶射法により形成した。WC−Co皮膜の厚さは、100μmとした。
次に、成膜したWC−Co皮膜を厚さ方向に切断し、樹脂埋め込みを行い、切断面に対して研磨処理を行った。そして、WC−Co皮膜の断面をSEMにより倍率2000倍で観察した。そして、観察視野内における個々のWC粒子の最大長さを計測した。この計測結果に基づいて、観察視野内における全WC粒子の数に対して、直径10μmの円内に含まれるWC粒子の数の比率(%)を算出した。
その後、下記の表3のNo.1〜6の各サンプルについて、上記実施例1と同様の条件で摺動試験を行い、摩耗量(mm)を比較した。
Figure 2017047473
表3から明らかなように、直径10μmの円内に含まれるWC粒子の比率が95%以上である場合(Co量が6wt%又は8wt%)、当該比率が95%未満である場合に比べて摩耗面積(mm)が小さくなり、耐摩耗性が向上することが分かった。これは、皮膜を構成する個々のWC粒子を小さくすることにより、皮膜の摺動表面におけるWC粒子の脱落を防ぐことができるためであると考えられる。
1 熱間成形用金型
10 鋼板(被成形体)
11 基材
11A 成形面
12 皮膜

Claims (7)

  1. 鋼からなる被成形体の熱間成形に用いられる金型において耐摩耗層として形成される皮膜であって、
    タングステンカーバイドと、3重量%以上15重量%以下のコバルトと、からなることを特徴とする、皮膜。
  2. 溶射法により形成され、
    倍率2000倍で前記皮膜の断面観察を行ったときに、前記皮膜に含有されるタングステンカーバイドの粒子の95%以上が直径10μmの円内に含まれる大きさであることを特徴とする、請求項1に記載の皮膜。
  3. 前記被成形体は、0.5重量%以上3重量%以下のシリコンを含有する鋼からなる、請求項1又は2に記載の皮膜。
  4. 前記被成形体は、0.05重量%以上1.0重量%以下のクロムを含有する鋼からなる、請求項1〜3の何れか1項に記載の皮膜。
  5. 前記被成形体は、0.15重量%以上0.35重量%以下の炭素を含有する鋼からなる、請求項1〜4の何れか1項に記載の皮膜。
  6. 鋼からなる被成形体の熱間成形に用いられる熱間成形用金型であって、
    成形面を有する基材と、
    前記成形面上に形成された請求項1〜5の何れか1項に記載の皮膜と、を備えた、熱間成形用金型。
  7. 鋼からなる被成形体を加熱する工程と、
    加熱された前記被成形体を成形する工程と、を備え、
    前記成形する工程では、請求項6に記載の熱間成形用金型を用いて前記被成形体を成形する、熱間成形方法。
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