JP2017026522A - 自動分析装置、遺伝子検査装置及び温度制御方法 - Google Patents
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Abstract
Description
図1に、自動分析装置の全体構成を示す。自動分析装置は、装置本体10と、制御回路30と、インタフェースとしてのコンピュータ40とで構成される。装置本体10は、サンプルディスク11、試薬ディスク12、反応ディスク13の3種類のディスクと、これらのディスク間でサンプルや試薬を反応セル14に移動させる分注機構(サンプルプローブ15、試薬プローブ16)、反応セル14に光源光を照射する光源17、その透過光を検出する検出器18、反応ディスク温度を一定に保つための反応槽水流路19、ヒーター20、保冷庫21で構成される。
図2に、温度制御の分類を記す。実施形態に係る温度制御は、「温度差を利用したS制御」にあたる。図2では、「温度差を利用したS制御」に対応する分類を破線で囲んで示している。
自動分析装置では、反応セル14の温度が目標温度に保たれるように、反応槽水流路19に沿って配置されるヒーター20や保冷庫21を駆動制御する。図3に、反応ディスク13の全体を収容する反応槽23と、その周囲に形成される温度制御系とを模式的に示す。反応槽23は反応槽水24で満たされている。反応槽23から排出された反応槽水24は、保冷庫21、ヒーター20を順に経て反応槽23に戻る。すなわち、反応槽水24は、図中の矢印25の方向に循環している。
制御回路30(又はコンピュータ40)は、目標温度(設定温度)と現在温度との差に比例した設定値(以下、「設定温度差」という。)を算出する。設定温度差は、各処理時点における温度センサ26の測定温度と参照用温度センサ27の測定温度との差の目標値として用いられる。
制御回路30(又はコンピュータ40)は、現在温度と参照温度との温度差(以下、「現在温度差」という。)を算出する。なお、現在温度差は、温度センサ26と参照用温度センサ27の取付位置の違いによる距離微分値に相当する。
制御回路30(又はコンピュータ40)は、設定温度差と現在温度差とに基づいてヒーター20の出力熱量を制御する。例えば設定温度差と現在温度差との大小関係に基づいて熱源をオン/オフ制御する手法、PI制御する手法、PID制御する手法、D制御する手法などがある。具体的な制御手法については後述する。
「温度差を利用したS制御」の理解のため、まず、古典的な制御手法について説明する。図2に示すように、古典的な制御手法は、おおよそON/OFF制御、PI制御、PID制御に分類できる。
ON/OFF制御の場合、図5におけるコンピュータ40は、制御周期ごとに、以下の条件に基づいて熱源を切り替え制御する。
・Ttemp(n) > Tsetの場合:
ヒーター20をオフ制御し、保冷庫21をオン制御する。
・Ttemp(n) ≦ Tsetの場合:
ヒーター20をオン制御し、保冷庫21をオフ制御する。
PI制御の場合、図5におけるコンピュータ40は、以下の計算式に従って制御周期ごとにY(n)を算出し、熱源を制御する。
・ΔT(n) = Tset − Ttemp(n) …(1-1)
・Yp(n) = ΔT(n) × P …(1-2)
・YI(n) += ΔT(n) × I …(1-3)
・Y(n) = Yp(n) + YI (n) …(1-4)
ここで、ΔTは偏差(温度の時間微分)であり、Pは比例係数であり、Iは積分係数であり、Yは熱源の出力量であり、Ypは比例出力量であり、YIは積分出力量であり、+=は「制御周期ごとに積算する」という意味である。
PID制御の場合、図5におけるコンピュータ40は、以下の計算式に従って制御周期ごとにY(n)を算出し、熱源を制御する。
・ΔT(n) = Tset − Ttemp(n) …(2-1)
・Yp(n) = ΔT(n) × P …(2-2)
・YI(n) += ΔT(n) × I …(2-3)
・YD(n) = (ΔT(n) −ΔT(n−1))×D …(2-4)
・Y(n) = Yp(n) + YI(n) + YD(n) …(2-5)
ここで、Dは微分係数であり、YDは微分出力量であり、+=は「制御周期ごとに積算する」という意味である。
図6に、古典的な温度制御系の他の例を示す。この温度制御系は、流量センサ28によって測定される反応槽水24の流量の情報を、古典的な制御手法による制御の補正に用いる手法である。以下の説明では、流量センサ28によって測定される流量をQtemp(n)と表現する。
PI制御とフィードフォワード制御を組み合わせる場合、図6におけるコンピュータ40は、以下の計算式に従って制御周期ごとにY(n)を算出し、熱源を制御する。
・ΔT(n) = Tset − Ttemp(n) …(3-1)
・ΔQ(n) = Qtemp(n) − Qtemp(n−1) …(3-2)
・Yp(n) = ΔT(n) × P …(3-3)
・YI(n) += ΔT(n) × I …(3-4)
・YF(n) =ΔQ(n) × F …(3-5)
・Y(n) = Yp(n) + YI(n) + YF(n) …(3-6)
ここで、ΔTは偏差、ΔQは外乱(この場合は流量変化)、Pは比例係数、Iは積分係数、Fはフィードフォワード係数、Yは熱源の出力量、Ypは比例出力量、YIは積分出力量、YFはフォードフォワード出力量、+=は「制御周期ごとに積算する」という意味とする。ただし、外乱検知方法は制御系に依存するため、(3-2)式は一例である。
特許文献1の制御手法は、古典的な制御手法と同じく1つの温度センサを使用する制御手法であり、現在の制御周期の温度と前回の制御周期の温度との差分(温度の時間微分、つまり速度)を使用する。具体的には、[1]制御周期ごとに設定温度と現在温度の差に比例した設定温度変化速度を算出し、[2]実際の温度変化速度(以下、「現在温度変化速度」という。)を算出し、[3]設定温度変化速度と現在温度変化速度を比較し、その偏差から出力量を計算する、という手順で出力量を計算する。つまり、フィードバック制御でいう「設定値」と「現在値」は「温度変化速度」である。
ON/OFF制御の場合、図5のコンピュータ40は、以下の条件に基づいて熱源を切り替え制御する。
・Tspeed(n) = (Tset −Ttemp(n))×Gspeed×Δn …(4-1)
・Mspeed(n) = Ttemp(n) − Ttemp(n−1) …(4-2)
・Mspeed(n) > Tspeed (n)の場合:
ヒーター20をオフ制御し、保冷庫21をオン制御する。
・Mspeed(n) ≦ Tspeed (n)の場合:
ヒーター20をオン制御し、保冷庫21をオフ制御する。
ここで、Gspeedは勾配係数(速度)であり、Δnは制御周期間隔であり、Tspeedは設定温度変化速度(各制御周期おける温度変化速度の設定値)であり、Mspeed(n)は現在温度変化速度(各制御周期おける実際の温度変化速度)という意味である。
PI制御の場合、図5におけるコンピュータ40は、以下の計算式に従って制御周期ごとに熱源を制御する。
・Tspeed(n) = (Tset −Ttemp(n))×Gspeed×Δn …(5-1)
・Mspeed(n) = Ttemp(n) − Ttemp(n−1) …(5-2)
・ΔT(n) = Tspeed(n) −Mspeed(n) …(5-3)
・Yp(n) = ΔT(n) ×P …(5-4)
・YI(n) += ΔT(n) ×I …(5-5)
・Y(n) = Yp(n) + YI(n) …(5-6)
ここで、ΔTは偏差であり、Pは比例係数であり、Iは積分係数であり、Yは熱源の出力量であり、Ypは比例出力量であり、YI は積分出力量であり、+=は「制御周期ごとに積算する」という意味である。
PID制御の場合、図5におけるコンピュータ40は、以下の計算式に従って制御周期ごとに熱源を制御する。
・Tspeed(n) = (Tset −Ttemp(n))×Gspeed×Δn …(6-1)
・Mspeed(n) = Ttemp(n) − Ttemp(n−1) …(6-2)
・ΔT(n) = Tspeed(n) −Mspeed(n) …(6-3)
・Yp(n) = ΔT(n) ×P …(6-4)
・YI(n) += ΔT(n) ×I …(6-5)
・YD(n) = (ΔT(n) −ΔT(n−1))×D …(6-6)
・Y(n) = Yp(n) + YI(n) +YD(n) …(6-7)
ここで、Dは微分係数であり、YD は微分出力量であり、+=は「制御周期ごとに積算する」という意味とする。
「速度を利用したS制御」は、古典的な制御手法が抱える技術課題を解決できるものの、温度の変化速度を計算するために、前回の制御周期で測定した温度を、次回の制御周期における計算用に記憶する必要がある。また、「速度を利用したS制御」では、多くの場合、プログラムを介しての制御が必要である。
図7を使用し、実施形態に係る制御が前提とする原理について説明する。反応槽水24の流速は、図7に示すように、一般に流路中心付近で速く、流路壁付近で遅くなる。図7は、ヒーター20がオン制御された直後において、X1-Y1流路断面が、ヒーター20から受け取る熱量は均一であり、その際の温度も均一であるものとして描いている。
・現在温度が目標温度と離れているとき(加熱期)
参照用温度センサ27と温度センサ26の温度差を大きくして、温度センサ26の温度上昇を速くしたい。
・現在温度が目標温度と近いとき(目標温度付近)
参照用温度センサ27と温度センサ26の温度差を小さくして、温度センサ26の温度上昇を遅くしたい。
・現在温度が目標温度に到達するとき(安定期)
参照用温度センサ27と温度センサ26の温度差を0(ゼロ)にして、温度センサ26の温度を目標温度に留めたい。
・任意時間での温度センサ26の測定温度と参照用温度センサ27の測定温度の差
=(目標温度−現在値)×Gdeff …(7-1)
ここで、Gdeff、は勾配係数(温度差)とする。(7-1)式は、理想的な温度変化を表現している。
・Tdiff (n) = (Tset − Ttemp(n))×Gdiff …(7-2)
ここで、Tdiff (n)は設定温度差、Tsetは温度センサ26における目標温度、Ttemp(n)は温度センサ26における現在温度とする。なお、「温度差を利用したS制御」は、「速度を利用したS制御」とは異なり、制御周期を必須としない。
・Mdiff(n) = Trefe(n) −Ttemp(n) …(7-3)
ここで、Mdiff(n)は現在温度差、Trefe(n)は参照用温度センサ27における現在温度とする。
ON/OFF制御の場合、制御回路30(図3)は、処理時点毎に、以下の条件に基づいて熱源を切り替え制御する。処理時点は、ランダムに与えられても良いし、周期的に与えられても良い。
・Tdiff (n) = (Tset − Ttemp(n))×Gdiff …(8-1)
・Mdiff(n) = Trefe(n) − Ttemp(n) …(8-2)
・Mdiff(n) > Tdiff (n)の場合:ヒーター20をオフ制御し、保冷庫21をオン制御する。
・Mdiff(n) ≦ Tdiff (n)の場合:ヒーター20をオン制御し、保冷庫21をオフ制御する。
ただし、温度センサ26よりも参照用温度センサ27の方が熱源に近くに位置するものとし、加熱制御を想定する。
PI制御の場合、制御回路30(図3)は、以下の計算式に従って処理時点ごとにYを求め、熱源を制御する。処理時点は、ランダムに与えられても良いし、周期的に与えられても良い。
・Tdiff (n) = (Tset − Ttemp(n))×Gdiff …(9−1)
・Mdiff(n) = Trefe(n) − Ttemp(n) …(9−2)
・ΔT(n) = Tdiff (n) − Mdiff(n) …(9−3)
・Yp(n) = ΔT(n) × P …(9−4)
・YI(n) += ΔT(n) × I …(9−5)
・Y(n) = Yp(n) + YI(n) …(9−6)
ここで、ΔTは偏差、Pは比例係数、Iは積分係数、Yは熱源の出力量、Ypは比例出力量、YIは積分出力量、+=は「処理時点ごとに積算する」という意味である。なお、温度センサ26よりも参照用温度センサ27の方が熱源の近くに位置するものとし、加熱制御を想定する。
PID制御の場合、図3における制御回路30は、以下の計算式に従って制御周期ごとにYを求め、熱源(ヒーター20/保冷庫21)を制御する。この制御では、処理時点が一定間隔で現れる。
・Tdiff (n) = (Tset− Ttemp(n))×Gdiff …(10−1)
・Mdiff(n) = Trefe(n) −Ttemp(n) …(10−2)
・ΔT(n) = Tdiff (n) − Mdiff(n) …(10−3)
・Yp(n) = ΔT(n) × P …(10−4)
・YI(n) += ΔT(n) × I …(10−5)
・YD(n) = (ΔT(n) −ΔT(n−1))×D …(10−6)
・Y(n) = Yp(n) + YI(n) + YD(n) …(10−7)
ここで、Dは微分係数、YDは微分出力量、+=は「制御周期ごとに積算する」という意味とする。なお、温度センサ26よりも参照用温度センサ27の方が熱源の近くに位置するものとし、加熱制御を想定する。
D制御は、PID制御の簡易版である。従って、D制御の場合、制御回路30(図3)は、PID制御の場合の(10−1)〜(10−3)と(10−6)に基づいて制御周期ごとに熱源を制御する。
・Tdiff (n) = (Tset− Ttemp(n))×Gdiff …(11−1)
・Mdiff(n) = Trefe(n) −Ttemp(n) …(11−2)
・ΔT(n) = Tdiff (n) − Mdiff(n) …(11−3)
・YD(n) = (ΔT(n) −ΔT(n−1))×D …(11−4)
なお、温度センサ26よりも参照用温度センサ27の方が熱源の近くに位置するものとし、加熱制御を想定する。
実施形態に係る手法である「温度差を利用したS制御」のうちPID制御やD制御は、制御周期を考慮する必要があり、その制御内容は、ON/OFF制御やPI制御の場合に比べて複雑化する。このため、以下では、基本的に、ON/OFF制御やPI制御について説明する。また、前述の説明では、「温度差を利用したS制御」を反応槽23の温度制御系に適用しているが、固体間の温度制御系にも適用することができる。反応槽23の温度制御系が流路を介して熱移動するのに対し、固体の温度制御系は、熱伝導を介して熱移動する点で異なる。
図8に示したように、「温度差を利用したS制御」では、現在温度(温度センサ26の測定温度)が目標温度を超える前に、熱源のオン制御とオフ制御を切り替える制御を理想とする。ここでは、制御回路30による制御タイミングを最適化するために行う調整作業について説明する。
ここでの目的は、勾配係数(温度差)Gdiff値を最適値に調整することである。
(1)作業1:温度センサ26と参照用温度センサ27の距離の探索
まず、作業者は、ヒーター20をON制御し、反応槽水24の加熱を開始する。このときの加熱は、ヒーター20の最大出力で行う。作業者は、最大出力での加熱中における温度センサ26の測定温度と参照用温度センサ27の測定温度を確認し、2つの測定温度の間に所定の温度差を確認できる距離(取付位置)を探す。所定の温度差は、温度センサ(温度センサ26、参照用温度センサ27)自体の誤差、水流による誤差よりも大きいことが望ましい。また、参照用温度センサ27は熱源(ここではヒーター20)に近いことが望ましい。
作業1で確定した取付位置に温度センサ26と参照用温度センサ27を配置した状態で、作業1と同様、ヒーター20をON制御し、反応槽水24の加熱を開始する。ここでの加熱も、ヒーター20の最大出力で行う。作業者は、最大出力での加熱中、温度センサ26の測定温度と参照用温度センサ27の測定温度の温度差を確認する。この温度差を、おおよそのGdiff値に決定する。
作業2で決定した「おおよそのGdiff値」を基準値に用いて新たに設定したGdiff値を使用して温度制御を実施し、制御結果を確認するという作業を繰り返す。精度の高い温度制御結果になるGdiff値を見つけたら、その値をGdiff値に決定する。このときの作業は、最適なGdiff値を探すのではなく、不安定になるGdiff値を探して避けるように設定するのが望ましい。その理由は、「温度差を利用したS制御」は精度が高いため、少しだけGdiff値を変更しても、制御結果に影響を与えるとは限らないためである。図9に、勾配係数Gdiffを可変した場合における制御結果の精度の変化を示す。図9の場合、値(a)より低い範囲、又は、値(b)より高い範囲で制御結果の精度が低下している。そこで、値(a)と値(b)の中点にあたる値(c)を、勾配係数Gdiffの値に決定する。
ここでの目的は、勾配係数(温度差)Gdiff値、比例係数P値、積分係数I値のそれぞれを最適値に調整することである。調整作業は、勾配係数(温度差)Gdiff値の決定→比例係数P値の決定→積分係数I値の決定の順に行う。
(1)作業1:温度センサ26と参照用温度センサ27の距離の探索
ON/OFF制御の場合の作業1と同じ手順で、温度センサ26と参照用温度センサ27の取付位置を決定する。
(2)作業2:おおよその勾配係数(温度差)Gdiffの決定
ON/OFF制御の場合の作業2と同じ手順で、おおよそのGdiff値に決定する。
(3)作業3:おおよその比例係数P値と積分係数I値の決定
ここでは、比例係数P値と積分係数I値を求める。「温度差を利用したS制御」のPI制御では、古典制御とは異なり、比例出力量と積分出力量を互いに補正し合うように動作させる必要はない。なぜなら、温度制御に必要な情報は、以下の2点に絞られるためである。
(a)温度センサ26が目標温度で安定しているときは、目標温度を維持する出力量を熱源が出し続けること
(b)温度センサ26が目標温度から外れたときは、迅速に熱源の出力量を調節すること
上述の通り、「速度を利用したS制御(特許文献1の制御手法)」では、現在温度の変化速度を求めるために、複数の制御周期に対応する各種の情報を記憶しておく必要がある。一方で、「温度差を利用したS制御(実施形態に係る制御方法)」におけるON/OFF制御方式では、処理時点における情報だけで温度制御を実現することができる。また、「温度差を利用したS制御(実施形態の制御方法)におけるPI制御方式の場合も、通常、積分出力量は固定値であるため、処理時点の情報だけで温度制御を実現することができる。
さらに、「温度差を利用したS制御(実施形態の制御方法)」に属する各種の制御方式のうち少なくともON/OFF制御方式とPI制御方式では、「速度を利用したS制御(特許文献1の制御手法)」のように温度の変化速度を出力しないため、制御周期を設定する必要がない。このため、「温度差を利用したS制御(実施形態の制御方法)」では、時間分解能を自由に設定することも、可変することもできる。そこで、前述の「(7)実施形態の制御(温度差を利用したS制御)」の項では、「処理時点」なる表現を用いている。
前述の説明では、単一の温度センサ対(温度センサ26及び参照用温度センサ27)から計測される温度差に基づいて、単一の熱源(ヒーター20及び保冷庫21)の出力量を制御する場合について説明した。
図10に示すように、温度センサ1の測定温度には、ペルチェ1からの熱伝導82だけでなく、ペルチェ2からの熱伝導82も影響する。温度センサ2の測定温度には、ペルチェ2からの熱伝導82だけでなく、ペルチェ1からの熱伝導82とペルチェ3からの熱伝導82も影響する。温度センサ3の測定温度には、ペルチェ3からの熱伝導82だけでなく、ペルチェ2からの熱伝導82も影響する。
そこで、各温度センサ対について計算される熱源の出力量を、隣接領域との温度差から計算される熱源の出力量によって補正することを考える。補正の仕方には幾つかの方法が考えられる。以下、代表的な仕組みを説明する。
ここでは、温度センサ1〜3のうちの1つを基準センサに設定する。例えば温度センサ1を基準センサに設定する。
ペルチェ1の出力量Y1(n)は、Ttemp1(n)とTrefe1(n)との間の「温度差を利用したS制御」により計算する。出力量Y1(n)の補正は行わない。
ペルチェ2の出力量Y2(n)は、Ttemp2(n)とTrefe2(n)との間の「温度差を利用したS制御」により計算した値を、Ttemp1(n)とTtemp2(n)との間の「温度差を利用したS制御」により計算した値で補正することにより求める。
ペルチェ3の出力量Y3(n)は、Ttemp3(n)とTrefe3(n)との間の「温度差を利用したS制御」により計算した値を、Ttemp1(n)とTtemp3(n)との間の「温度差を利用したS制御」により計算した値で補正することにより求める。以上の計算方法を式で表すと以下のようになる。
・Y1(n) = Y(refe1-temp1)deff-PI(n) …(12-1)
・Y2(n) = Y(refe2-temp2)deff-PI(n)+ Y(temp2)-(temp1)diff-PI(n) …(12-2)
・Y3(n) = Y(refe3-temp3)deff-PI(n)+ Y(temp3)-(temp1)diff-PI(n) …(12-3)
ここで、Y(refeN-tempN)deff-PI(n)は、温度センサNと参照用温度センサNとの間の「温度差を利用するS制御」のうちPI制御方式で計算した出力量を意味し、Y(tempN)-(tempM)diff-PI(n)は、温度センサNと温度センサMとの間の「温度差を利用するS制御」のうちPI制御方式で計算した出力量を意味する。なお、Y(temp2)-(temp1)diff-PI(n)とY(temp3)-(temp1)diff-PI(n)の出力量の計算において、目標温度は、温度センサ1の現在温度を目標温度とする。
ここでも、温度センサ1〜3のうち温度センサ1を基準センサに設定する。ここでは、全てのペルチェの出力量のベース値を、基準センサに対応するペルチェ1の出力量に統一し、各ペルチェに固有の補正値で補正する手法について説明する。以上の計算方法を式で表すと以下のようになる。
・Y1(n) = Y(refe1-temp1)deff-PI(n) …(13-1)
・Y2(n) = Y1(n)+ Y(temp2)-(temp1)diff-PI(n) …(13-2)
・Y3(n) = Y1(n)+ Y(temp3)-(temp1)diff-PI(n) …(13-3)
ここでは、温度センサ1〜3の中から基準センサを設定しないものとする。この場合、ベースとなる出力量は、各ペルチェに対応する温度センサ対の温度差を利用したS制御で計算し、対応する温度センサへの熱伝導82を生じさせる温度センサ対の温度差を利用したS制御で計算される値で補正する。以上の計算方法を式で表すと以下のようになる。
・Y1(n) = Y(refe1-temp1)deff-PI(n)+ Y(temp2)-(temp1)diff-PI(n) …(14-1)
・Y2(n) = Y(refe2-temp2)deff-PI(n)+ {Y(temp2)-(temp1)diff-PI(n)+ Y(temp2)-(temp3)diff-PI(n)}/2 …(14-2)
・Y3(n) = Y(refe3-temp3)deff-PI(n)+ Y(temp2)-(temp3)diff-PI(n) …(14-3)
前述の組み合わせバリエーションでは、いずれの場合も、出力量のベース値とその補正値を「温度差を利用したS制御」で計算しているが、一方の計算に、「速度を利用したS制御速度」に記載の計算手法を用いることもできる。
ここでは、温度制御系が単一の入力部(温度センサ)と単一の出力部(熱源)で構成される場合における応用例を説明する。具体的には、温度制御に「速度を利用したS制御」と「温度差を利用したS制御」とを組み合わせた手法を用いる場合について説明する。なお、本明細書において、入力についての「単一」とは、「一対」又は「一組」の意味で使用する。
・Y(n) = Yspeed-PI(n) + Ydiff-I(n) …(15-1)
ここで、Yspeed-PI(n)は、温度センサ26の測定温度のみを使用する「速度を利用したS制御」のPI制御によって計算した出力量であり、Ydiff-I(n)は、温度センサ26と参照用温度センサ27の各測定温度を使用する「温度差を利用したS制御」のI制御で計算した出力量である。なお、(15-1)式は一例であり、様々な制御方式(PI制御、PID制御など)との組み合わせも可能である。
この手法によれば、外乱が温度センサ26の測定温度に影響を与える前に(「速度を利用したS制御」が開始する前に)、出力量の補正を行うことができる。
前述した「温度差を利用したS制御」は、基本的に複雑なプログラムを必要としないため、自動分析装置における温度制御への適用及び調整が容易である。このため、前述した「温度差を利用したS制御」は、生化学、免疫、血液凝固分析用の自動分析装置以外の装置、例えば遺伝子検査装置(バッチ処理)やDNAシーケンサにおける高精度なPCR温度制御にも適用することができる。
以下では、自動分析装置の一例として、生化学/免疫自動分析装置(以下では、「生化学自動分析装置」という。)への適用例を説明する。なお、生化学自動分析装置の基本構成は図1に示す装置構成と同じであるものとする。
ここでは、図3に示す温度制御系を採用する生化学自動分析装置における温度制御に、「温度差を利用したS制御」のON/OFF制御方式(「(7−1)ON/OFF制御」の項に示す。)を適用する場合について説明する。この場合、図3における制御回路30をロジック回路で実現することができる。Gdeff係数に該当する回路部分は、予め「(8−1)ON/OFF制御」の項に示す手順に従って調整しておく。
ここでは、図3に示す温度制御系を採用する生化学自動分析装置における温度制御に、「温度差を利用したS制御」のPI制御方式(「(7−2)PI制御」の項に示す。)を適用する場合について説明する。この場合も、図3における制御回路30をロジック回路で実現することができる。
ここでは、免疫自動分析装置における温度制御に、「速度を利用したS制御」と「温度差を利用したS制御」を組み合わせた制御手法を適用する場合について説明する。図13に、免疫自動分析装置90の全体構成を示す。図13には、図1との対応部分に同一符号を付して示している。
図3又は図11に示す構成を有する免疫自動分析装置90(図13)では、反応槽23以外の機構部(例えば測定機構92、リザーバ機構93、プレウォッシュ機構94)でも、温度制御が必要になる。図14に、これらの機構部の代表例として、プレウォッシュ機構94の概略構成を示す。プレウォッシュ機構94には、ペルチェ96、温度センサ26、参照用温度センサ27が取り付けられている。この種の構成を有する機構部の温度制御には、「温度差を利用したS制御」のPI制御方式((9-1)〜(9-6)式)を用いるように設計し、いずれも温度センサ26の測定温度が28℃になるように温度制御する。
前述の実施形態では、反応槽以外の機構部の温度制御に「温度差を利用したS制御」のPI制御方式を用いたが、温度差を利用したS制御のD制御方式((11-1)〜(11-4)式)を適用することもできる。この場合、(11-4)式で計算されるYD(n)に基づいて、各機構部をいずれも28℃に温度制御する。
(12−2−1)温度差を利用したS制御同士の組み合わせ(多入力/多出力)
図15に、実施形態に係る遺伝子検査装置/DNAシーケンサの全体構成を示す。なお、図15には、図1及び図10との対応部分に同一符号を付して示している。温調ブロック81には、反応セル14、ペルチェ71〜73、温度センサ51〜53、参照用温度セン61〜63が取り付けられている。温調ブロック81は、その温度を一定に保つ反応槽(恒温槽)103に格納されている。反応セル14には、光源17から発せられた励起光が照射される。反応セル14からの蛍光は、光学ミラー102、光学フィルタ101を通じて、検出器18で検出される。これらの各部は、コンピュータ40を通じて制御される。
図15に、実施形態に係る遺伝子検査装置/DNAシーケンサの制御には、前述の(16-1)式で示す多入力/多出力の温度制御系のうち、「温度差を利用したS制御」の項に前述の(13-1)〜(13-3)式等で与えられる補正方法を適用して、PCR温度制御を行うこともできる。
以下、前述の実施形態で説明した制御手法の実験結果について説明する。
(13−1)単一入力/単一出力の温度制御シミュレーション
図16に、温度差を利用したS制御のうちON/OFF制御方式(「(7−1)ON/OFF制御」の項の制御技術)を採用する場合における温度制御シミュレーションの結果を示す。本シミュレーションモデルでは、説明を簡潔にするため、反応槽、ヒーター、保冷庫の代わりに温調ブロックとペルチェを使用するものとし、それぞれ表1に示す条件を満たすものとする。なお、アルミブロックは、温調ブロックの構成部品である。
図18及び図19に、温度差を利用したS制御におけるPI制御方式(「(11−2)組み合わせバージョン1」の項の制御技術)を組み合わせる場合における温度制御シミュレーションの結果を示す。本シミュレーションモデルでは、説明を簡潔にするため、反応セル、温度センサ、コンピュータの実態は考慮せず、表2に示す条件を満たすものとする。なお、アルミブロックは、温調ブロックの構成部品である。
11…サンプルディスク
12…試薬ディスク
13…反応ディスク
14…反応セル
15…サンプルプローブ
16…試薬プローブ
17…光源
18…検出器
19…反応槽水流路
20…ヒーター
21…保冷庫
22…矢印(反応ディスクの回転方向)
23…反応槽
24…反応槽水
25…矢印(反応槽水の流れの方向)
26…温度センサ
27…参照用温度センサ
28…流量センサ
30…制御回路
31…流速分布
32…熱移動
40…コンピュータ
51…温度センサ1
52…温度センサ2
53…温度センサ3
61…参照用温度センサ1
62…参照用温度センサ2
63…参照用温度センサ3
71…ペルチェ1
72…ペルチェ2
73…ペルチェ3
81…温調ブロック
82…熱伝導
90…免疫自動分析装置
91…検体
92…測定機構
93…リザーバ機構
94…プレウォッシュ機構
95…ドロワ
96…ペルチェ
101…光学フィルタ
102…光学ミラー
103…反応槽
Claims (13)
- 出力熱量を可変又は切り替えることが可能な熱源と、
温度監視領域の近くに位置し、第1の測定温度を出力する第1の温度センサと、
前記第1の温度センサとは異なる位置において、第2の測定温度を出力する第2の温度センサと、
各処理時点における前記第1の測定温度と目標温度との差分値に比例する第1の差分値ΔTAと、前記各処理時点における前記第1の測定温度と前記第2の測定温度との間の第2の差分値ΔTBとに基づいて前記熱源の出力熱量を制御する制御部と
を有する自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記第2の温度センサは、前記熱源と前記第1の温度センサとの中間に位置する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、ロジック回路である
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、
前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBを比較し、
前記第1の差分値ΔTAが前記第2の差分値ΔTBより大きいとき、前記熱源をオン制御し、
前記第1の差分値ΔTAが前記第2の差分値ΔTBより小さいとき、前記熱源をオフ制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
冷却源を更に有し、
前記制御部は、
前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBを比較し、
前記第1の差分値ΔTAが前記第2の差分値ΔTBより大きいとき、前記熱源をオン制御すると共に、前記冷却源をオフ制御し、
前記第1の差分値ΔTAが前記第2の差分値ΔTBより小さいとき、前記冷却源をオン制御すると共に、前記熱源をオフ制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、
前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBとの偏差(=ΔTA−ΔTB)を計算し、
前記各処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)に比例係数を乗算して第1の値を計算し、
前記各処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)に積分係数を乗算した値を積分することにより第2の値を計算し、
前記第1の値と前記第2の値の加算値により前記熱源を制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、
前記各処理時点に、前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBとの偏差(=ΔTA−ΔTB)を計算し、
前記各処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)に比例係数を乗算して第1の値を計算し、
前記各処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)に積分係数を乗算した値を積分することにより第2の値を計算し、
前回の前記処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)と現在の前記処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)との差分値に微分係数を乗算して第3の値を計算し、
前記第1の値、前記第2の値及び前記第3の値の加算値により前記熱源を制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、
前記各処理時点に、前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBとの偏差(=ΔTA−ΔTB)を計算し、
前回の前記処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)と現在の前記処理時点における前記偏差(=ΔTA−ΔTB)との差分値に微分係数を乗算した値により前記熱源を制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記熱源と、前記第1の温度センサと、前記第2の温度センサで構成される組を複数有し、
前記制御部は、
第1の組について、各処理時点における前記第1の測定温度と目標温度との差分値に比例する第1の差分値ΔTAと、前記各処理時点における前記第1の測定温度と前記第2の測定温度との間の第2の差分値ΔTBとの差分(=ΔTA−ΔTB)から計算される第1の出力熱量によって前記熱源を制御し、
前記第1の組とは異なる第2の組について、前記各処理時点における前記第1の測定温度と目標温度との差分値に比例する前記第1の差分値ΔTAと、前記各処理時点における前記第1の測定温度と前記第2の測定温度との間の第2の差分値ΔTBとの差分(=ΔTA−ΔTB)から計算される第1の出力熱量を、前記第1の組における前記第1の測定温度と前記第2の組における前記第1の測定温度との差分から計算される第2の出力熱量によって補正し、補正後の出力熱量により前記熱源を制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記熱源と、前記第1の温度センサと、前記第2の温度センサで構成される組を複数有し、
前記制御部は、
第1の組について、各処理時点における前記第1の測定温度と目標温度との差分に比例する第1の差分値ΔTAと、前記各処理時点における前記第1の測定温度と前記第2の測定温度との間の第2の差分値ΔTBとの差分(=ΔTA−ΔTB)から計算される第1の出力熱量によって前記熱源を制御し、
前記第1の組とは異なる第2の組について、前記各処理時点における前記第1の組に対応する前記第1の測定温度と前記第2の組に対応する前記第1の測定温度との差分から計算される第2の出力熱量によって、前記第1の出力熱量を補正し、
補正後の出力熱量により前記熱源を制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、
(a)現在の前記処理時点における前記第1の測定温度と前記目標温度との偏差量に、所定の勾配係数と制御周期間隔とを乗算して求められる値と、(b)前回の前記処理時点における前記第1の測定温度と現在の前記処理時点における前記第1の測定温度との間の変化量と、から計算される第1の出力熱量を、
前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBに基づいて計算される第2の出力熱量で補正し、
補正後の出力熱量により前記熱源を制御する
ことを特徴とする自動分析装置。 - 検体と試薬を混合した反応液を収容する少なくとも1つの反応容器を保持する温調ブロックと、
前記温調ブロックに与える出力熱量を可変又は切り替えることが可能な熱源と、
温度監視領域の近くに位置し、第1の測定温度を出力する第1の温度センサと、
前記第1の温度センサとは異なる位置において、第2の測定温度を出力する第2の温度センサと、
各処理時点における前記第1の測定温度と目標温度との差分値に比例する第1の差分値ΔTAと、前記各処理時点における前記第1の測定温度と前記第2の測定温度との第2の差分値ΔTBとに基づいて前記熱源の出力熱量を制御する制御部と
を有する遺伝子検査装置。 - 出力熱量を可変又は切り替えることが可能な熱源と、温度監視領域の近くに位置し、第1の測定温度を出力する第1の温度センサと、前記第1の温度センサとは異なる位置において、第2の測定温度を出力する第2の温度センサと、前記熱源の出力熱量を制御する制御部とを有する自動分析装置における温度制御方法において、
前記制御部は、
各処理時点における前記第1の測定温度と目標温度との差分値に比例する第1の差分値ΔTAを計算し、
前記各処理時点における前記第1の測定温度と前記第2の測定温度との第2の差分値ΔTBを計算し、
前記第1の差分値ΔTAと前記第2の差分値ΔTBに基づいて前記熱源の出力熱量を制御する
ことを特徴とする温度制御方法。
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