JP2017025390A - 軟磁性粉体及びこれを用いた磁性シート - Google Patents

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【課題】 Fe−Si−Cr合金と同等程度の透磁率特性を有する一方で、より高い耐食性を有するRFID用磁性シートを得るための軟磁性粉体及びこれを用いたRFID用磁性シートの提供。【解決手段】 扁平形状を有する軟磁性粉体をシート材に配向分散させてなるRFID用磁性シートの該軟磁性粉体である。質量%で、Si:7.0〜13.0%、Cr:1.0〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。また、RFID用磁性シートは、扁平形状を有する軟磁性粉体をシート材に配向分散させてなる。【選択図】なし

Description

本発明は、扁平な軟磁性粉体を配向分散させた磁性シートに使用される該軟磁性粉体及び該磁性シートに関し、特にRFID用の磁性シートに使用される軟磁性粉体及び該磁性シートに関する。
扁平な軟磁性粉体を樹脂中に配向分散させた磁性シートのうち、電波(電磁波)による無線通信媒体としてのRFIDタグに使用され、電波を介した通信距離を可及的に長くする目的で使用される通信補助用途のRFID用磁性シートが知られている。かかる磁性シートは、アンテナの周囲にある金属部材の表面に与えられて、電波が該金属部材に渦電流を生じさせアンテナの動作特性を低下させることを防止するものである。そこでこの磁性シートの透磁率特性においては、実数透磁率μ’及び虚数透磁率μ”の比で表される磁気損失tanδμ=μ”/μ’を低く抑え、特に、虚数透磁率μ”を低く抑えるように設計される。
ところで、近年、RFIDタグは荷物の配送管理など屋外や冷蔵施設などでも広く使用され、その使用環境も過酷さを増している。上記したように、RFID用の磁性シートには金属からなる軟磁性粉体が使用されているが、高温湿潤環境などでは錆の発生があって透磁率特性に変化を与え、また外観の劣化を与えてしまう。そこで錆を抑制すべくその耐食性を向上させることが必要となる。
磁性シートの耐食性を向上させる方法の1つとしては、軟磁性粉体と樹脂との密着性を向上させ、水分が樹脂内部の軟磁性粉体に到達しないようにすることである。また、軟磁性粉体自体の透磁率特性を劣化させることなく、耐食性を向上させる合金組成の探索も検討されている。
例えば、特許文献1では、軟磁性粉体に従来から使用されているFe−Si−Al系合金、特にセンダストは高い磁気特性を示すものの酸化されやすいことを指摘している。これに対して、酸化されにくい合金としてFe−Ni−Cr系合金、Fe−Si−Cr系合金、Fe−Ni−Si−Cr系合金を挙げ、これら合金を用いた軟磁性粉体を含む磁性シートを開示している。かかる合金では、いずれもCrによって耐食性を高めその酸化を抑制できるとしている。
更に、特許文献2でも、Fe−Si−Cr系合金からなる軟磁性粉体を用いたRFID用の磁性シートを開示している。かかる軟磁性粉体の合金組成において、Crの含有量を1重量%以上にするとともに、Si及びCrの合計の含有量を5重量%以上にすることで耐食性を高め得るとしている。一方で、Crの含有量については、5重量%を越えると実数透磁率μ’が低下し、Si及びCrの合計の含有量については12重量%を越えると虚数透磁率μ”が大きくなってしまうことも述べている。これに対し、Siを7〜9重量%、Crを1〜3重量%与えることで耐食性と虚数透磁率μ”との良好なバランスを得られると述べている。
特開2006−37078号公報 特開2007−27687号公報
高い透磁率を与える合金としてFe−Si−Cr合金が既にRFID用磁性シートに広く使用され、特許文献2に開示されるようなCrによる耐食性の研究がなされている。一方で、上記したような近年の過酷環境下でのRFIDタグの使用に合わせ、より一層の耐食性が求められている。
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、Fe−Si−Cr合金と同等程度の透磁率特性を有する一方で、より高い耐食性を有するRFID用磁性シートを得るための軟磁性粉体及びこれを用いたRFID用磁性シートの提供にある。
本発明による軟磁性粉体は、扁平形状を有する軟磁性粉体をシート材に配向分散させてなるRFID用磁性シートの該軟磁性粉体であって、質量%で、Si:7.0〜13.0%、Cr:1.0〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。
かかる発明によれば、従来のFe−Si−Cr合金からなる軟磁性粉体による磁性シートと同等程度の透磁率特性を有する一方、より高い耐食性を有する磁性シートを与えることができるのである。
また、本発明によるRFID用磁性シートは、扁平形状を有する軟磁性粉体をシート材に配向分散させてなるRFID用磁性シートであって、前記軟磁性粉体は、質量%で、Si:7.0〜13.0%、Cr:1.0〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。
かかる発明によれば、従来のFe−Si−Cr合金からなる軟磁性粉体による磁性シートと同等程度の透磁率特性を有する一方、より高い耐食性が得られるのである。
軟磁性粉体を用いた磁性シートの(a)斜視図及び(b)断面図である。 軟磁性粉体及び磁性シートの製造方法を示すフロー図である。 軟磁性粉体の合金組成と評価試験の結果を示す図である。 軟磁性粉体の合金組成と評価試験の結果を示す図である。 軟磁性粉体の合金組成と評価試験の結果を示す図である。
本発明による1つの実施例としての軟磁性粉体、及びこれを配向分散させた磁性シートについて図1を用いて説明する。
図1に示すように、磁性シート10は、塩素化ポリエチレンなどのゴム系樹脂による薄膜状のゴムシート2に、扁平薄片状の軟磁性粉体1をその主面に沿う方向に配向分散させた複合シート体である。磁性シート10は、例えばRFIDタグなどの無線通信媒体と一体的に設けられ、その通信補助に適する。すなわち、磁性シート10は、アンテナの受信した電磁波を周辺の金属部材などに到達する前に磁性シート10内に誘導するとともに、アンテナからの発信をできるだけ損失なく行い得るようにする。
軟磁性粉体1は、Fe−Si−Cr合金にMoを所定量だけ添加した合金からなり、質量%で、Siを7.0〜13.0%、Crを1.0〜3.0%、Moを0.1〜1.5%含有するFe基合金である。
特に、Fe−Si−Cr合金にMoを添加した合金からなる軟磁性粉体を用いた磁性シートでは、従来のFe−Si−Cr合金からなる軟磁性粉体を用いた磁性シートに比べ、透磁率特性、少なくとも実数透磁率(複素比透磁率の実数部)を同等程度にできるとともに、耐食性を大幅に向上させ得るのである。
次に、本発明による1つの実施例としての軟磁性粉体の製造方法、及び、かかる軟磁性粉体を用いた磁性シートの製造方法について、図2を用いて詳細を説明する。
図2に示すように、上記した所定量のMoを添加した合金組成のFe−Si−Cr合金の合金溶湯を粉体化して、合金粉体を得る(S1)。ここではアトマイズ法により粉体化を行う。すなわち、アトマイズ装置にて合金溶湯を流下させつつ水又はガスを吹きつけて、合金溶湯を分断して落下させ、急冷し凝固させて、合金粉体を得るのである。
続いて、合金粉体を扁平化加工処理する(S2)。すなわち、合金粉体を有機溶媒や、粉砕助剤などとともにアトライター装置の容器内部に投入し、更にこの中に鋼球などの粉砕媒体を装填する。そして、周面に回転羽根を設けられた攪拌棒を回転させて、容器内を攪拌すると、粉砕媒体が合金粉体に衝突し衝撃を与えて合金粉体を粉砕させながら平たく変形させ扁平化させていくのである。所定の粒度となるまで扁平化処理した後、所定のアスペクト比の軟磁性粉体1が得られる。さらに、必要に応じて所定の平均粒径とするように分級処理してもよい。
得られた軟磁性粉体1を必要に応じて熱処理する(S3)。熱処理では、例えば、N雰囲気下で300〜900℃の所定の温度に加熱し所定時間保持する。
さらに、かかる軟磁性粉体1をシートに分散させつつシート化する(S4)。詳細には、軟磁性粉体1を塩素化ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂やその他のゴム系樹脂、希釈溶剤及び架橋化材とともにペースト状になるまで混練しペースト体を作成する。これを基材上に塗工することで軟磁性粉体が配向分散されたシート体が形成できる。そして、シート体をカレンダーロールなどで圧延して、所定の温度で架橋プレスし、所定の厚さの磁性シート10が得られる。連続架橋によって長尺のロール状のシート体を得てもよい。なお、シート化においては、希釈溶剤を加えずにペースト体を得て、これを圧延して架橋プレス又は連続架橋を行うなど、適宜、公知の方法を用いることができる。
以上のようにして軟磁性粉体1及びかかる軟磁性粉体1を用いた磁性シート10を得ることができる。
[特性評価試験]
上記した製造方法によって図3〜図5に示す各実施例及び比較例の合金組成からなる軟磁性粉体を得た上で、磁性シートを作製しその特性を評価した。各磁性シートの特性評価は、高温高湿環境試験(以下、単に環境試験と称する。)前後の実数透磁率μ’(図中、単に「透磁率」と表記する。)の測定、及び、塩水噴霧試験後の外観観察により行った。その結果は、図3〜5に示したが、各試験における後述する目標値を満たす場合には「○」、満たさない場合には「×」を記している。
ここで、磁性シートに用いた軟磁性粉体は、アスペクト比を3以上とした扁平粉体であって、平均粒径(D50)を46〜60μmとするように分級した上で用いた。また、シート化においては、軟磁性粉体をペースト体に80〜90質量%の充填量で与え、厚さを0.1mmとするようにシート化した。更に、環境試験には、外径10mm×内径6mmのリング形状に打ち抜いたシートを、塩水噴霧試験には、50mm×50mmの正方形に加工したシートを用いた。
環境試験は、磁性シートを85℃で相対湿度85%の雰囲気下に500時間曝露させて行った。実数透磁率μ’(複素比透磁率の実数部)の測定は、市販のネットワーク・アナライザーを用いて13.56MHzでのインピーダンス特性を測定し、実数透磁率μ’を算出して行った。なお、環境試験前の実数透磁率の目標値は、一般的なFe−Si−Cr合金による軟磁性粉体から得られる磁性シートと同等の65.0(比透磁率)以上とした。また、高温高湿環境下での耐食性の目標値は、環境試験前後の実数透磁率μ’の変化率で10%以内である。
塩水噴霧試験は、JIS Z2371に従って磁性シートに塩水を噴霧する方法で行った。つまり、磁性シートの主面を鉛直線から20±5°となるよう噴霧室内に傾斜させて配置し、50±5g/Lの濃度の中性塩水を48時間噴霧し、乾燥後、さらに洗浄し乾燥させて外観試験用の磁性シートとした。なお、塩分存在環境下での耐食性の目標値は、塩水噴霧試験後の磁性シートの噴霧面外観において、その面全体の20%以上の変色のないことである。
(試験1)
まず、Fe−Si−Cr合金に対してMo、Co、Cuの各元素を添加した合金からなる軟磁性粉体を用いた磁性シートについて評価した。
図3に示すように、軟磁性粉体の合金には、Siを13質量%、Crを2.0質量%含有させたFe基合金に対して、実施例1ではMoを1質量%、比較例1ではCoを1質量%、及び、比較例2ではCuを1質量%それぞれ添加した合金を用い、比較例3ではこのような添加を行わないFe−Si−Cr合金を用いた。
まず、環境試験前の実数透磁率は実施例及び比較例ともほとんど差はなく、いずれも目標値を満たしていた。
一方、高温高湿環境下での耐食性に関し、環境試験後において、実施例1では、実数透磁率が70と高く、環境試験前後の実数透磁率の変化率も1.4%と非常に小さかった。更に、塩分存在環境下での耐食性も目標値を満たしていた。しかしながら、比較例1では、環境試験前後の実数透磁率の変化率が4.3%と比較的小さかったものの、塩分存在環境下での耐食性は目標値を満たさなかった。また、比較例2では、環境試験前後の実数透磁率の変化率が15.7%と大きくなって目標値を満たさず、塩分存在環境下での耐食性の目標値も満たさなかった。また、比較例3では比較例1と同様に、環境試験前後の実数透磁率の変化率が1.4%と比較的小さかったものの、塩分存在環境下での耐食性は目標値を満たさなかった。つまり、Co又はCuを添加した比較例1及び2や、添加を行わなかった比較例3に比べて、Moを添加した実施例1では耐食性の高いことが判る。
(試験2)
次に、Fe−Si−Cr合金に対してMo量を変化させて添加した合金からなる軟磁性粉体を用いた磁性シートについて評価した。
図4に示すように、軟磁性粉体の合金には、Siを8質量%、Crを2.0質量%含有させたFe基合金に対して、実施例2及び3ではMoをそれぞれ0.2質量%及び1.3質量%、比較例4及び5ではMoをそれぞれ0.05質量%及び2質量%添加した合金を用いた。
まず、環境試験前の実数透磁率については実施例2、3及び比較例4ではほとんど差はなく、いずれも目標値を満たしていた。しかし、比較例5の実数透磁率は63であり、目標値を下回った。
一方、高温高湿環境下での耐食性に関し、環境試験後において、実施例2及び3では、実数透磁率が69と高く、環境試験前後の実数透磁率の変化はほとんどなかった。更に、塩分存在環境下での耐食性も目標値を満たしていた。しかしながら、比較例4では、環境試験前後の実数透磁率の変化率は目標値を満たしたものの比較的大きく、塩分存在環境下での耐食性は目標値を満たさなかった。また、比較例5では、環境試験前後の実数透磁率の変化率が1.6%と小さく、塩分存在環境下での耐食性の目標値も満たしていたが、上記したように環境試験前の実数透磁率の目標値を満たしていなかった。すなわち、Moの添加により耐食性を向上させ得るが過剰に添加すると実数透磁率を低下させる。つまり、Moの含有量には好適な範囲があり、0.1〜1.5質量%の範囲内である。好ましくは、実数透磁率の変化率の小さい0.2〜0.25質量%の範囲内である。
(試験3)
次に、Moを添加したFe−Si−Cr合金に対して各元素の含有量を変化させた合金からなる軟磁性粉体を用いた磁性シートについて評価した。
図5に示すように、実施例4の軟磁性粉体には、上記した実施例2で用いた合金に対してSiの含有量を7質量%と減じた合金を用いた。また、実施例5〜8の軟磁性粉体には、上記した実施例1で用いた合金に対してMoの含有量を0.25〜1.5質量%の間で変化させた合金を用いた。なお、実施例7は実施例1と同じ合金組成の軟磁性粉体を用いている。また、実施例9の軟磁性粉体は、実施例8で用いた合金に対してSiの含有量を12質量%と減じた合金を用いた。また、実施例10では、実施例9で用いた合金に対してSiの含有量を10質量%と減じるとともにCrの含有量を1.0質量%と減じた合金を用いた。
まず、環境試験前の実数透磁率についてはいずれの実施例においても上記した目標値を満たしていた。
一方、高温高湿環境下での耐食性に関し、いずれの実施例においても、環境試験前後の実数透磁率の変化率は目標値を満たし、更に、塩分存在環境下での耐食性も目標値を満たしていた。この結果から、Si及びCrの含有量がそれぞれ、7.0〜13.0質量%及び1.0〜2.0質量%の範囲内であれば、透磁率特性及び耐食性を維持できる。なお、Crは、その含有量を増加させると耐食性を向上させ得るが、3.0質量%を越えると実数透磁率を低下させる。すなわち、上記と併せて、透磁率特性及び耐食性を維持できるCrの含有量は1.0〜3.0質量%の範囲内である。
上記したように、軟磁性粉体の材料をFe−Si−Cr合金に所定量のMoを添加した合金とすることで、磁性シートの透磁率特性を従来のFe−Si−Cr合金による場合と同等程度として、耐食性を向上させ得る。
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるだろう。
1 軟磁性粉体
10 磁性シート

Claims (2)

  1. 扁平形状を有する軟磁性粉体をシート材に配向分散させてなるRFID用磁性シートの該軟磁性粉体であって、質量%で、Si:7.0〜13.0%、Cr:1.0〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする軟磁性粉体。
  2. 扁平形状を有する軟磁性粉体をシート材に配向分散させてなるRFID用磁性シートであって、前記軟磁性粉体は、質量%で、Si:7.0〜13.0%、Cr:1.0〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とするRFID用磁性シート。

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