JP2017002998A - 衝撃吸収用炭素繊維樹脂構造体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】前後方向に炭素繊維21〜23が延びるように配列された複数の第1炭素繊維層20aと、これら第1炭素繊維層20aの炭素繊維21〜23に略直交状に交差して炭素繊維24,25が延びるように配列された複数の第2炭素繊維層20bとを備えた炭素繊維樹脂板材10で形成されたクラッシュカン1であって、圧縮荷重が入力されたとき、炭素繊維樹脂板材10の第1,第2端部12,13を第2炭素繊維層20bを介して夫々剥離させるように、炭素繊維樹脂板材10の左端側近傍部分と右端側近傍部分とに第2炭素繊維層20bからなる第1,第2途中部14,15を夫々配設した。
【選択図】 図2
Description
そこで、車体重量の軽量化を狙いとして、衝撃吸収体を強化繊維樹脂で構成することが検討されている。
このような強化繊維樹脂では、強化繊維が強度等の力学的特性を分担し、母材樹脂が繊維間の応力伝達機能と繊維の保護機能を分担している。
特に、炭素繊維樹脂(Carbon-Fiber-Reinforced-Plastic: CFRP)は、高比強度(強度/比重)と高比剛性(剛性/比重)、所謂軽さと強度・剛性とを併せ持つ特性を有するため、航空機や車両等の構造材料として広く使用に供されている。
これにより、圧縮荷重を受ける状態のとき、剥離破壊が厚さ方向に貫通する拘束糸が切断される荷重を超えた状態で発生するため、剥離破壊の発生エネルギをエネルギ吸収に利用することができ、EA量が増加される。
そこで、本発明者は、炭素繊維樹脂構造体の逐次破壊挙動のメカニズムを検討するにあたり、第1,第2の検証試験を行った。
まず、第1の検証試験の基本的な考え方について説明する。
図12に示すように、円筒状の試験片A1〜A3を試験装置50の支持台51に固定し、昇降可能な加圧部52を一定速度(30mm/min及び15km/h)の下降移動させることによって試験片A1〜A3の圧縮破壊を行い、試験片A1〜A3のEA量の計測及び破壊現象の撮像を行った。
尚、試験片A1〜A3は、熱硬化性エポキシ系合成樹脂を母材としてオートクレーブ成形したCFRP材を使用し、径を60mm、高さを150mmの円筒構造体に形成した。
試験片A2は、圧縮荷重入力方向に炭素繊維が延びるように配列された配向0度炭素繊維層と、圧縮荷重入力方向に対して45度交差した方向に炭素繊維が延びるように配列された配向45度炭素繊維層と、圧縮荷重入力直交方向に炭素繊維が延びるように配列された配向90度炭素繊維層と、圧縮荷重入力方向に対して−45度交差した方向に炭素繊維が延びるように配列された配向−45度炭素繊維層とを順に積層した擬似等方繊維強化樹脂板材(図13(b))によって形成した。
試験片A3は、圧縮荷重入力方向に炭素繊維が延びるように配列された配向0度炭素繊維層と、圧縮荷重入力直交方向に炭素繊維が延びるように配列された配向90度炭素繊維層とを交互に積層した0/90度繊維強化樹脂板材(図13(c))によって形成した。
試験片A1のEA量は試験片A2のEA量よりも大きく、試験片A2のEA量は試験片A3のEA量よりも大きくなることが確認された。
図14(a)〜図14(c)に示すように、試験片A1,A2には、板厚方向中間部分に加圧部52に略直交して圧縮破壊される柱状部(以下、ピラー部という)と、板厚方向両端部分においてピラー部から剥離されて加圧部52に略湾曲状に当接する枝部(以下、フロンズ部という)が観察され、試験片A3には、ピラー部が殆ど観察されなかった。
また、試験片A1のピラー部の幅は、試験片A2のピラー部の幅よりも広く形成されていることが可視的に確認された。
以上により、ピラー部の幅が広い(太い)程、所謂フロンズ部が薄い程、EA量が大きくなることが知見された。
図15(a),図15(b)に示すように、先端がテーパ状のCFRP製試験片B1と、直方体状のCFRP製試験片B2とを準備し、試験装置50(図12参照)によって圧縮破壊を行い、試験片B1,B2の変位と反力とを夫々計測した。
試験片B1は、圧縮荷重入力方向に炭素繊維が一様に延びるように配列された複数の配向0度炭素繊維層を積層した繊維強化樹脂板材(図13(a)参照)によって直方体構造を形成し、その先端部を上方程幅狭になるテーパ形状に加工した。
試験片B2は、試験片B1と同様に、圧縮荷重入力方向に炭素繊維が一様に延びるように配列された複数の配向0度炭素繊維層を積層した繊維強化樹脂板材によって直方体構造を形成した。
図16(a)に示すように、試験片B1は、先端部が加圧部52に押圧されることにより、板厚方向中間部分に剥離破壊の起点が形成され、この起点が加圧部52の下降移動に伴って下方に移行する。つまり、荷重による影響に先行して剥離破壊の起点が下方に移行するため、試験片B1の起点よりも下方部分には荷重が殆ど作用することなく、強度低下が発生しない。それ故、試験片B1は、剥離破壊によって一定の反力(荷重)を発生させることができ、安定した逐次破壊を進行させることができるものと推測される。
図16(b)に示すように、試験片B2は、先端部が一様に加圧部52に対して面当接するため、先端部には剥離破壊の起点が形成されない。それ故、応力が中段部分に集中し、試験片B2は剥離破壊を生じることなく、中段部分に座屈が発生するものと推測される。
以上により、安定的な逐次破壊を発生させるためには、荷重伝搬に追従且つ先行して安定的に剥離破壊する起点を形成する必要があることが知見された。
しかし、通常、剥離破壊が発生するか否かは成り行き任せであるため、剥離破壊が発生しない場合には、剥離破壊の発生エネルギをエネルギ吸収に利用することができず、座屈が発生することにより、十分なEA量を確保することができない虞がある。
しかも、剥離破壊が発生する場所についても任意に設定することができないため、例え、剥離破壊を発生させることができたとしても、ピラー部の幅を安定的に広く確保することができず、ピラー部の幅が細い場合やピラー部が発生しない場合等には、期待するEA量を確保できない虞もある。
これにより、第2炭素繊維層を境界部分として、第2炭素繊維層よりも板厚方向内側の第1炭素繊維層によってピラー部を形成することができ、第2炭素繊維層よりも板厚方向外側の第1炭素繊維層によってフロンズ部を形成することができる。
この構成によれば、第2炭素繊維層の圧縮荷重入力方向に対する強度を第1炭素繊維層の圧縮荷重入力方向に対する強度よりも一層低下させることができ、確実に第2炭素繊維層を剥離破壊の起点にすることができる。
この構成によれば、第2炭素繊維層によって形成された第1,第2途中部を境界部分として、中間部をピラー部、第1,第2端部をフロンズ部に形成することができる。
しかも、第1,第2途中部の第2炭素繊維層の炭素繊維を中間部の炭素繊維と第1端部の炭素繊維及び中間部の炭素繊維と第2端部の炭素繊維とに夫々連結できるため、剥離破壊の発生エネルギを増加することができ、エネルギ吸収性能を一層向上させることができる。
以下の説明は、本発明を車両のクラッシュカンに適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
尚、図において、矢印Fは前方を示し、矢印Lは左方を示し、矢印Uは上方を示すものとして説明する。
車両(図示略)には、左右1対のフロントサイドフレーム(図示略)の前端に左右1対のクラッシュカン1(炭素繊維樹脂構造体)の後端が夫々取り付けられている。
前方からの軽衝突等のように衝撃荷重が比較的小さい場合には、フロントサイドフレームを破損させることなく、クラッシュカン1のみが潰れることによって衝撃を吸収し、また、クラッシュカン1の変形のみで衝撃を吸収できない場合には、フロントサイドフレームが屈曲変形することにより衝撃を吸収して、車室に伝達される衝撃荷重を低減している。
左右1対のクラッシュカン1は、左右対称構造であるため、右側のクラッシュカン1について主に説明する。
クラッシュカン1は、炭素繊維21〜25を強化材とした炭素繊維樹脂(CFRP)板材10(繊維強化樹脂板材)を成形(例えばホットプレス等)することによって形成されている。
図2に示すように、炭素繊維樹脂板材10は、左右方向中間部分に設けられた中間部11と、左右両側端部に夫々設けられた第1,第2端部12,13と、中間部11と第1端部12との間の左側部分に設けられた第1途中部14と、中間部11と第2端部13との間の右側部分に設けられた第2途中部15とを備えている。
車両の正突時、クラッシュカン1に対して前方から後方に向かう圧縮荷重が入力されるため、以下、前後方向を炭素繊維樹脂板材2の圧縮荷重入力方向(配向0度)、左右方向を炭素繊維樹脂板材2の厚さ方向(配向90度)として説明する。
尚、図2では、説明の便宜上、母材(マトリックス)16を省略している。
炭素繊維21〜23は、炭素繊維樹脂板材10の前端から後端に亙って連続して一様に延びる単繊維(フィラメント)が所定数(例えば12k)束ねられた繊維束(トウ)で構成され、炭素繊維24,25は、炭素繊維樹脂板材10の上端から下端に亙って連続して一様に延びる単繊維が所定数束ねられた繊維束で構成されている。
炭素繊維21〜25の単繊維の直径は、例えば7〜10μmである。
炭素繊維樹脂板材10の母材16には、熱硬化性エポキシ系合成樹脂が使用されている。
中間部11は、左右方向に18層積層された第1炭素繊維層20aによって形成され、第1,第2端部12,13は、単一の第1炭素繊維層20aによって夫々形成されている。
前後に整列された炭素繊維24(25)は、左右方向に対して直交するように配設された第2炭素繊維層20bを構成している。
第1,第2途中部14,15は、左右方向に2層積層された第2炭素繊維層20bによって夫々形成されている。
これにより、第1,第2途中部14,15の前後方向の強度を中間部11及び第1,第2端部12,13の前後方向の強度よりも数桁低く設定している。
図3に示すように、クラッシュカン1の製造工程は、プリプレグ工程と、積層工程と、成形工程とからなっている。
プリプレグ工程では、炭素繊維21〜25を、一旦、一方向に揃えた状態で配列し、これら一方向に配列された炭素繊維21〜25を合成樹脂と一体化することによりフィルム状の一次中間体を形成する。そして、一次中間体の炭素繊維21〜25に母材16(例えば、熱硬化性エポキシ系合成樹脂)を含浸させたプリプレグ(第1炭素繊維層20a,第2炭素繊維層20bに相当)を作成する。
成形工程では、プリプレグ積層体を所定の熱間プレス機にセットし、加熱しながらプレス加工する。これらの工程により、炭素繊維樹脂板材10を素材としたクラッシュカン1を生産している。
作用、効果の説明に当り、試験装置50(図12参照)によって実施例1に係るクラッシュカン1の圧縮破壊を行い、クラッシュカン1の破壊現象を撮像すると共にクラッシュカン1の変位(mm)と反力(kN)を計測した。
左右のフロンズ部は、第1,第2端部12,13に対応するように略一定で且つ中間部11の左右幅に対して非常に小さな左右幅を形成し、左右幅の大きなピラー部を安定的に形成している。
ここで、炭素繊維樹脂板材10の左右幅(板厚)は設計上規定された固定値であるため、第1,第2端部12,13の左右幅を最小にすること自体、中間部11の左右幅を最大化することと同等であり、結果的に、クラッシュカン1として最大のEA量を確保している。
しかも、剥離破壊が生じる際、剥離破壊の起点となる第1途中部14の炭素繊維24が、中間部11の炭素繊維21と第1端部12の炭素繊維22とを連結するファイバーブリッジ26を形成し、第2途中部15の炭素繊維25が、中間部11の炭素繊維21と第2端部13の炭素繊維23とを連結するファイバーブリッジ26を形成しているため、炭素繊維22,23の切断エネルギをエネルギ吸収に利用してEA量の増加を図っている。
即ち、クラッシュカン1は、衝突時、高い衝撃エネルギ吸収性能を発揮しつつ、潰れ残りが少ないことが確認された。
これにより、第1,第2途中部14,15を境界部分として、第1,第2途中部14,15よりも板厚方向内側の中間部11によってピラー部を形成することができ、第1,第2途中部14,15よりも板厚方向外側の第1,第2端部12,13によってフロンズ部を形成することができる。
この構成によれば、第2炭素繊維層20bによって形成された第1,第2途中部14,15を境界部分として、中間部11をピラー部、第1,第2端部12,13をフロンズ部に形成することができる。
しかも、第1,第2途中部14,15の第2炭素繊維層20bの炭素繊維24,25を中間部11の炭素繊維21と第1端部12の炭素繊維22及び中間部11の炭素繊維21と第2端部13の炭素繊維23とに夫々連結できるため、剥離破壊の発生エネルギを増加することができ、エネルギ吸収性能を一層向上させることができる。
実施例1のクラッシュカン1は、前後方向に直交する面に沿った断面が略波型に構成されたのに対し、実施例2のクラッシュカン1Aは、前後方向に直交する面に沿った断面が円型に構成されている。
尚、実施例1と同じ部材には、同じ符号を付している。
炭素繊維樹脂板材10Aは、径方向中間部分に設けられた中間部31と、径方向外側端部に設けられた外側端部32と、径方向内側端部に設けられた内側端部33と、中間部31と外側端部32との間に設けられた外側途中部34と、中間部31と内側端部33との間に設けられた内側途中部35とを備えている。
クラッシュカン1Aは、炭素繊維樹脂板材10Aの周方向一側端部と周方向他側端部とを突き合わせて接合することにより略円筒状に構成されている。
中間部31は、径方向に18層積層された第1炭素繊維層40aによって形成され、外側及び内側端部32,33は、単一の第1炭素繊維層40aによって夫々形成されている。
前後に整列された炭素繊維44(45)は、径方向に直交するように配設された第2炭素繊維層40bを構成している。
外側及び内側途中部34,35は、径方向に2層積層された第2炭素繊維層40bによって夫々形成されている。
これにより、外側及び内側途中部34,35によって外側及び内側端部32,33の剥離破壊の起点を確実に形成でき、特に外側端部32の剥離破壊を促進することができる。
1〕前記実施形態においては、本発明を車両のクラッシュカンに適用した例を説明したが、これに限られず、衝撃吸収機能が必要な構造フレーム等の衝撃吸収体に適用することができる。
また、プリプレグを用いなくても成形は可能である。一般に知られているCFRPの成形方法を使用しても良い。例えば、炭素繊維のプリフォームを上下分離可能な成形型のキャビティ内にセットし、このキャビティ内に溶融させた合成樹脂を射出するRTM法によって成形しても良い。
10,10A 炭素繊維樹脂板材
11 中間部
12 第1端部
13 第2端部
14 第1途中部
15 第2途中部
20a,40a 第1炭素繊維層
20b,40b 第2炭素繊維層
21〜25 炭素繊維
26 ファイバーブリッジ
31 中間部
32 外側端部
33 内側端部
34 外側途中部
35 内側途中部
41〜45 炭素繊維
Claims (3)
- 圧縮荷重入力方向に炭素繊維が延びるように配列された複数の第1炭素繊維層と、これら第1炭素繊維層の炭素繊維に交差して炭素繊維が延びるように配列された複数の第2炭素繊維層とを備えた繊維強化樹脂板材で形成された炭素繊維樹脂構造体において、
圧縮荷重が入力されたとき、前記繊維強化樹脂板材の厚さ方向両端部分を前記第2炭素繊維層を介して夫々剥離させるように、前記繊維強化樹脂板材の厚さ方向一端側近傍部分と他端側近傍部分とに1以上の前記第2炭素繊維層を夫々配設したことを特徴とする衝撃吸収用炭素繊維樹脂構造体。 - 前記第2炭素繊維層の炭素繊維が前記第1炭素繊維層の炭素繊維に対して45〜90度で交差するように配列されたことを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収用炭素繊維樹脂構造体。
- 前記繊維強化樹脂板材が、前記繊維強化樹脂板材の厚さ方向中間部分に前記第1炭素繊維層によって形成された中間部と、前記繊維強化樹脂板材の厚さ方向一側端部に前記第1炭素繊維層によって形成された第1端部と、前記繊維強化樹脂板材の厚さ方向他側端部に前記第1炭素繊維層によって形成された第2端部と、前記中間部と第1端部との間に前記第2炭素繊維層によって形成された第1途中部と、前記中間部と第2端部との間に前記第2炭素繊維層によって形成された第2途中部とを備え、
圧縮荷重が入力されて前記第1端部と第2端部とが前記中間部から剥離したとき、前記第1,第2途中部の炭素繊維が、前記中間部と第1端部との間及び前記中間部と第2端部との間にファイバーブリッジを夫々形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の衝撃吸収用炭素繊維樹脂構造体。
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