本発明の目的は、さまざまな基材上のドットサイズの制御を改善する方法を提供することである。
この目的を達成するために、本発明による方法は、基材の種類に依存している制御された雰囲気において酸素対窒素の比を調整するステップを含む。
したがって、本発明によれば、制御された雰囲気の酸素含有量が、処理エネルギーに加えて、前処理条件を制御するための別のパラメータとして使用される。これにより、基材のそれぞれの種類に応じてより適切に前処理を調整することができる。
制御された雰囲気が本質的に窒素から成る場合、すなわち雰囲気には実際に酸素がない場合、および他の条件すべてが変わっていないままであるのに前処理の強度が徐々に増加される場合には、結果として生じるドットサイズは増大することになり、次いであるレベルに達することになる。強度がさらに増加されると、ドットサイズはさらに増大するのではなく、本質的に、到達しているレベルに留まることになる。換言すれば、処理強度に応じてドットサイズ曲線は、大きな強度に対する平坦部を示す。
しかし、前処理が外気において行われる場合は、少なくともいくつかの基材については、ドットサイズ曲線は、最大値に達し、次いで、強度がさらに増加されると純水窒素に対する平坦部に決して達することなく再び減少し始めることが見出されている。この効果の理由は、空気に含まれる酸素が基材表面に酸基を形成するように基材と反応するということが推定される。これは、一般にアルカリ性であるラテックスまたは顔料インクが酸基と反応する傾向があり、これらの化学反応が液体の広がりを損ない、その結果、基材表面が処理エネルギーの増加によってますます酸性になる場合は、ドットサイズが減少する程度まで広がり速度が減少されるという結論を導く。
ドットサイズ曲線が本質的に平坦である範囲に、すなわち外気の場合にはドットサイズ曲線の最大値に近い値に、かつ純水窒素の場合には平坦部の範囲内の値に前処理エネルギーが保たれるということが一般に要求される。これは、たとえば、基材の表面粗さまたは他の表面凹凸によって引き起こされ得る処理強度の任意の起こり得る変動とドットサイズが無関係であるという利点を有する。
次に、本発明は、ドットサイズ曲線のピークの高さを変えるために酸素含有量をパラメータとして使用する可能性を提供する。このような方法で、ドットサイズ曲線が平坦であり、かつそれにもかかわらず基材の異なる種類に関係なく、基材すべてについて同じドットサイズを本質的に得る範囲に処理強度を保つことが可能になる。大きな利点は、インクの顔料濃度がそのドットサイズについて最適化され得ることである。これにより、基材のさまざまな種類の間の差異に関係なく、色域を最適化し、より安定した色管理を実現することができる。
本発明のより特定の随意的な特徴は、従属請求項に示されている。
処理雰囲気の組成は、任意の適切な方法で、たとえば純水窒素ガスおよび純水酸素ガスを適切に調整された流量によって処理ゾーンに供給することによって制御され得る。しかし、好ましい実施形態においては、ガス組成により、外気が、一般に酸素の場合よりも窒素の場合により高い透過性を有するガス分離膜を通過しなければならなくなることによって制御される。任意の理論に制限するつもりはないが、窒素が酸素よりも小さい分子サイズを有するという事実によって引き起こされると考えられる。この場合、膜を通過している(すなわち、膜の浸透側における)ガスの窒素含有量は、膜の厚さ、外気の流量、および/またはガスが膜を通して押し出されている圧力に依存することになる。窒素の選択的な浸透により、膜の浸透側のガスは、窒素が富化されることになる。したがって、膜を通過していない、すなわち膜の保持側におけるガスは、酸素が富化される。したがって、本方法は、まさに外気を使用しながら、純水ガスを供給するいかなる必要もなしに実施され得る。
一実施形態においては、使用される膜は、管状ガス分離膜である。管状膜を通る(加圧された)外気の圧力および流量に応じて、管状ガス分離膜が使用される場合は、膜の浸透側は、窒素富化空気を提供し、膜の保持側は、酸素富化空気を提供する。
前処理は、ガス洗浄器の下で行われ得ることが好ましい。
本発明を実施するための装置は、使用されている基材の種類に関する入力情報に適応するユーザインターフェース、および基材の種類に応じて制御された雰囲気の酸素含有量を自動的に調整するのに適応しているコントローラを有する。コントローラは、酸素含有量および処理エネルギーの対応する値に基材のさまざまな種類を結び付ける電子テーブルのアクセスを含むことができ、またはそれを有することができる。
前処理装置は、スタンドアロン装置であってもよく、またはプリンタに組み込まれ得る。
次に、一実施形態の例が、図面と共に説明されることになる。
図1Aに示されるインクジェットプリンタは、印刷基材12、14、16のシートのスタックを収容するための3つのビン10を有する。各ビン10は、異なる種類の、たとえば紙、プラスチックフィルム透明材、等の異なる性質の、基材を含むように想定され得る。
基材搬送通路18は、モータ駆動型エンドレスコンベヤベルトによって構成される。供給機構20は、スタックの頂部から1つずつ基材シートをビン10のうちの1つに引き込むために、かつシートを搬送通路に供給するように設けられる。
ビン10は、搬送通路18と同じ高さの位置にビン10のうちの選択されたものを持ち上げるように配置されるリフト機構22に取り付けられ、その結果、基材シートは、そのビンから引き入れられ得る。供給機構20は、ビン10の垂直移動を妨げない位置に離れて上下され得る。
インクジェット印字ヘッド24が、通過する基材の各々に画像を印刷するために基材搬送通路18の上方に配置される。前処理ステーション26が、印字ヘッド24の上流の位置に搬送通路18のところに配置される。
前処理ステーション26は、この実施例においては、プラズマ処理装置140を備える前処理装置を含む。
図1Bは、本発明の一実施形態による方法に使用され得る前処理ステーション26(図1A)に存在しているプラズマ処理装置140の側面図である。前処理装置を通る媒体搬送方向は図1Aに示される媒体搬送方向と反対に示されていることにどうか留意されたい。実際には、前記搬送方向は、同じである。記録基材のシートPは、プラズマ装置140に沿って矢印Xに示される方向に搬送通路148を通してシート搬送手段によって搬送される。搬送通路148は、高さHを有し、これは、搬送された切断されたシート材の厚さを受け入れるのに十分である。図1Bの搬送通路の高さHは、概略的に示されており、通常、1mmから3mmの範囲にあることに留意されたい。シート搬送手段は、駆動ローラ158および回転自在なローラ157を備え、これは、一緒に搬送ピンチを形成する。
プラズマ装置140は、本体146、高電圧電極142を備えるプラズマ発生手段、およびシート案内手段144を備える。シート案内手段144は、高電圧電極142と搬送通路148との間に配置される。シート案内手段144は、搬送通路148と高電圧電極142との間に所定の距離PDguidを提供する。図1Bの所定の距離PDguidは、概略的に示されており、通常、1mmと3mmとの間の範囲にあり、好ましくはおよそ1.5mmである。シート案内手段144は、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、または炭化珪素(SiC)などのセラミック材料から構成され得る。プラズマ発生手段は、対向電極150をさらに備える。対向電極150は、電気的に接地されている。さらに、シート搬送手段は、高電圧電極142に沿ってシート搬送通路148の方向に搬送中にシートPを支持するためのシート支持面152を備える。
矢印Aで示される空気流が、プラズマ装置140の内部に形成される。空気流は、大気汚染物質を除去し、これは、高電圧電極142と対向電極150との間に生成され、空気ポンプ装置(図示せず)の方へ汚染物質を方向付ける。空気ポンプ装置は、空気流からオゾンなどの大気汚染物質を除去するためにフィルタをさらに含む(ガス洗浄器)。
この実施形態においては、記録基材のシートは、高電圧電極と熱くされた対向電極との間に搬送され得る。この形態においては、基材の気孔(たとえば、エアポケット)内の存在するガスがまた、イオン化され、したがって、対向電極がガンに含まれるプラズマガンによる処理とは違って、基材の厚さ全体が、プラズマ処理される。
別の実施形態においては、シート支持面152は、電気絶縁層、たとえばガラス層などのセラミック層、またはポリマー層を含む。対向電極150と搬送通路148との間に配置される電気絶縁層は、切断されたシート材の表面の方へ高電圧電極142のプラズマ処理工程中に、記録基材のシートの表面処理がある一定の処理拡張を達成することを可能にする。これにより、記録基材Pのシートの表面処理の均一性および品質が改善される。
ガス洗浄器は、前処理装置28の動作範囲において、制御された酸素含有量から成る窒素および酸素の混合物によって主として形成される雰囲気を作り出すために設けられる。
空気の酸素含有量は、図1Cに示されるガス分離膜で制御され得る。
示された実施例においては、酸素含有量は、外気を吸い込み(矢印B)、その出口浸透側204がプラズマ装置140の本体146に接続される管状ガス分離膜203を通して空気を押し込む送風機200によって制御され、それによって、プラズマ領域でイオン化されるガスの組成が制御され得る。
ガス分離膜203の供給ラインの圧力および/または質量流量は、センサ202によって測定され、この信号によって、ガス分離膜203の供給流量が制御される。
(矢印Dで示される)ガス分離膜203を通して加圧される空気流は、窒素が富化される。(矢印Cで示される)膜の保持側を通過する空気流は、酸素富化空気を含む。ガス分離膜203の厚さの設計特性は、窒素含有量の所望の範囲がガス分離膜の入口で圧力および/または流量を変えることによってカバーされ得るように選択される。
一実施形態においては、ガス分離膜は、定常状態で作用されることができ、すなわち(図1Cの矢印CおよびDで示される)出口ガス流は、一定の窒素含有量を有する(C:酸素富化;D:窒素富化)。窒素および酸素の所望の濃度は、浸透されるガス流(D)を出口ガス流(C)とおよび/または外気と混合することによって得られ得る。
電子コントローラ36は、印字ヘッド24、シート搬送機構、リフト機構22、およびまた送風機200を有する前処理ステーション26、質量流量コントローラ201、および前処理装置28を含む、インクジェットプリンタのさまざまな構成要素を制御するために設けられる。
ユーザインターフェース38は、コントローラ36に接続され、ユーザがビン10に現在含まれている基材12、14、16の種類を(数ある中で)特定できるようにするディスプレイ画面40および入力セクション42を含む。ビンおよび基材の搭載される種類は、ディスプレイ画面40に示され、それによってユーザは印刷のためにビンのうちの1つ、および基材の対応する種類を選択できるようになる。
コントローラ36は、基材12、14、16の各々について、前処理装置28によって供給されるべき処理エネルギーの関連する値、およびガス洗浄器30に生成されるべき雰囲気の酸素含有量の関連する値を格納する電子テーブル44を含む。この実施例においては、酸素含有量は、送風機32の排気量または出力圧力の対応する値によって暗黙的に示され得る。また、テーブル44は、基材12、14、16の代わりにビン10に搭載されるかもしれない基材の他の種類の追加のデータセットを含むことができる。
ユーザが特定のビン、およびそれと共に、基材の特定の種類を選択している場合には、コントローラ36は、要求される前処理条件を与えるように、前処理装置28および送風機32を自動的に制御することになる。
基材の前処理の効果が、図2および図3に示されている。
図2においては、インク液滴46が、前処理されていない基材シート14aの表面に噴射されている。この場合は、基材の表面エネルギーは、液滴46の液体インクの表面張力と比べて小さい。これは、(水性インクの場合には)基材表面が疎水性であり、基材と液体インクとの間の付着力が液体の凝集力よりも小さく、インクが基材を濡らさないという結果となって、インク液滴と基材表面との間の接触角αが90°よりも小さいことを意味する。
比較のために、図3は、前処理されており、したがってより高い表面エネルギーを有する基材シート14b上のインク液滴48を示している。この場合は、基材シートの基材−空気表面と、基材シートの基材−液体表面との間の表面張力の差が、インク液滴48(液体−空気)の表面張力よりも大きく、その結果、基材表面はインクで濡らされ、90°よりも著しく大きい接触角αで平衡状態に達するまでインク液滴48は広げられる。
時が経つにつれて、液体内の溶媒が蒸発することになり、インクの一部がまた基材シートの深さに吸収されることができ、その結果、基材の表面に最後に残されるものは、所定のサイズのインクドットである。このドットサイズは、インク液滴48が上に説明された機構により広がる速度に決定的に依存することになる。したがって、基材シート14bの表面張力は、これが前処理に起因するので、ドットサイズに重大な影響を有する。
他方では、インク液滴48の広がりおよび結果として生じるドットサイズはまた、基材シートの表面の化学的性質に影響される。基材表面は酸性であるが(大抵のラテックスおよび顔料インクの場合のように)インクがアルカリ性である場合には、基材とインクとの間の化学反応は、インク液滴48の広がりを遅らせ、結果として生じるドットサイズを縮小する。処理された基材表面の化学的性質は、処理の強度(単位面積当たりのエネルギー)、しかしまた組成、特に処理ゾーンの雰囲気の酸素含有量に依存することになる。
図4は、基材の特定の種類(たとえば、図1Aの基材14)に対して、およびそれぞれ、0%(純水窒素)、5%、10%、および21%(外気)の酸素含有量に対して処理強度に応じてドットサイズを示すドットサイズ曲線の実施例を示している。
酸素が存在する場合は、ドットサイズは、ある一定の処理強度においてピークを有し、次いで、強度がさらに増加されると再び減少する傾向があるということが理解できる。ピークの高さは、通常、酸素含有量がより高い場合により低い。
図5は、基材の異なる種類(たとえば、図1Aの基材16)に対する対応するドットサイズ曲線を示している。ドットサイズ曲線の全体形状は、同様であるが、ピークの高さおよび最大値に達する強度値は、基材の異なる表面特性のために異なっている。
コントローラ36は、(たとえば、この実施例では90μmの)均一なドットサイズが(インク液滴の体積および他の条件すべてが同じ場合は)基材の種類すべてに対して達成されるように前処理条件を制御することになる。実際には、図4および図5において理解できるように、これは、単に処理強度を(図4の場合はおよそ20W min/m2、および図5の場合はおよそ30W min/m2に)適切に調整することによって、純水窒素雰囲気(0%に対するドットサイズ曲線)で達成されることもできる。しかし、この強度範囲においては、0%に対するドットサイズ曲線は非常に急峻であり、これは、ドットサイズが処理強度の正確な値に決定的に依存することになり、強度の僅かな変動でもドットサイズの目に見える変動、したがって画質の低下をもたらすことになることを意味する。
これが、本発明によれば、ドットサイズは処理強度と雰囲気の酸素含有量の両方を調整することによって制御される理由である。図4においては、10%の酸素含有量の雰囲気が使用され、強度は、ドットサイズが90μmのその最大値に達するように調整される。この範囲においては、10%に対するドットサイズ曲線は、平坦であり、その結果、ドットサイズは、処理強度の変動に十分に鈍感である。
図5においては、90μmの同じドットサイズが、5%のみの酸素含有量から成る雰囲気を用い、強度を5%に対するドットサイズ曲線の最大値に調整することによって達成される。再び、この曲線は、選択された強度値の近傍で平坦であり、その結果、ドットサイズはまた、強度変動に鈍感であることになる。
雰囲気の酸素含有量を変え、処理強度を適切に調整することによって、結果として生じるドットサイズが比較的広い範囲に変化されることができ、それでも、ドットサイズは、使用されている基材の種類すべてについて同じであることが理解されよう。一般に、ドットサイズが強度変動に鈍感であるためには、ドットサイズ曲線が選択された強度値の近傍で平坦であること、すなわち、曲線が極大値またはピークではなくてやはり極小値または鞍点であり得る導関数の零点を有さなければならないということで十分である。