この発明の対象とすることができる車両の一例を図5に模式的に示している。図5に示す車両Veは、エンジン1と、エンジン1に連結された変速機2と、その変速機2にプロペラシャフト3、デファレンシャルギヤ4、ドライブシャフト5を介して連結された駆動輪6とを備えた、フロントエンジンリアドライブ式の車両である。また、前輪7が操舵輪であり、上記駆動輪6と前輪7とには、それぞれブレーキ8が設けられている。この変速機2は、変速比をステップ的に変化させるように構成された有段式変速機である。なお、変速機2は、変速比を連続的に変化させることができる無段式変速機であってもよい。
また、この車両Veは、運転者による加減速操作を含む運転操作に応じて駆動力や制動力あるいは舵角を制御する手動運転モードと、運転者による運転操作によらずに駆動力や制動力あるいは舵角を制御する自動運転モードとを選択することができるように構成されている。そのような運転モードに応じてエンジン1や変速機2などの動作を制御するための電子制御装置(以下、ECUと記す)9が設けられている。このECU9が、この発明の実施例におけるコントローラに相当する。このECU9には、車両各部のセンサ・車載装置類10からの検出信号や情報信号などが入力されるように構成されている。なお、図5では1つのECU9が設けらた例を示しているが、ECU9は、例えば制御する装置や機器毎に、複数設けられていてもよい。
センサ・車載装置類10のうち、車両Veの走行状態および各部の作動状態や挙動等を検出する主な内部センサとして、例えば、アクセル開度を検出するアクセルセンサ、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ、ステアリング機構の舵角を検出する舵角センサ、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ、変速機2の出力軸回転数を検出するアウトプット回転数センサ、図示しない車輪の回転数を検出して車速を求める車速センサ、車両Veの前後加速度を検出する前後加速度センサ、車両Veの横加速度を検出する横加速度センサ、車両Veのヨーレートを検出するヨーレートセンサなどが設けられている。
また、センサ・車載装置類10のうち、車両Veの周辺情報や外部状況を検出する主な外部センサとして、例えば、車載カメラ、レーダー、およびライダーなどが設けられている。さらに、センサ・車載装置類10には、上述した運転モードを運転者が選択するために操作するスイッチが設けられている。
上記車載カメラは、例えば車両Veのフロントガラスの内側に設置され、車両Veの外部状況に関する撮像情報をECU9に送信するように構成されている。車載カメラは、単眼カメラであってもよく、あるいはステレオカメラであってもよい。ステレオカメラは、両眼視差を再現するように配置された複数の撮像部を有している。ステレオカメラの撮像情報によれば、車両前方の奥行き方向の情報も取得することができる。
レーダーは、ミリ波やマイクロ波などの電波を利用して車両Veの外部の他車両や障害物等を検出し、その検出データをECU9に送信するように構成されている。例えば、電波を車両Veの周囲に放射し、他車両や障害物等に当たって反射された電波を受信して測定・分析することにより、他車両や障害物等を検出する。
ライダーは、レーザー光を利用して車両Veの外部の他車両や障害物等を検出し、その検出データをECU9に送信するように構成されている。例えば、レーザー光を車両Veの周囲に放射し、他車両や障害物等に当たって反射されたレーザー光を受光して測定・分析することにより、他車両や障害物等を検出する。
上記のような内部センサや外部センサの他に、GPS受信部、地図データベース、および、ナビゲーションシステム等が備えられている。GPS受信部は、複数のGPS衛星からの電波を受信することにより、車両Veの位置(例えば、車両Veの緯度および経度)を測定し、その位置情報をECU9に送信するように構成されている。地図データベースは、地図情報を蓄積したデータベースであり、例えばECU9内に形成されている。あるいは、例えば車両Veと通信可能な情報処理センタなどの外部施設のコンピュータに記憶されたデータを利用することもできる。ナビゲーションシステムは、GPS受信部が測定した車両Veの位置情報と、地図データベースの地図情報とに基づいて、車両Veの走行ルートを算出するように構成されている。
上記のような各種のセンサ・車載装置類10からの検出データや情報データが、ECU9に入力されるように構成されている。そして、それら入力されたデータおよび予め記憶させられているデータ等を使用して演算を行い、その演算結果を基に、エンジン1、ブレーキ、変速機2、操舵装置等の車両各部のアクチュエータに対して、制御指令信号を出力するように構成されている。
車両Veを自動運転走行させるための主なアクチュエータとして、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、および操舵アクチュエータ等を備えている。スロットルアクチュエータは、ECU9から出力される制御信号に応じてエンジン1のスロットル開度を制御するように構成されている。ブレーキアクチュエータは、ECU9から出力される制御信号に応じて制動装置を作動させ、各車輪6,7へ付与する制動力を制御するように構成されている。操舵アクチュエータは、ECU9から出力される制御信号に応じて電動パワーステアリング装置のアシストモータを駆動し、操舵トルクを制御するように構成されている。
ECU9は、車両Veを自動運転走行させるための主な制御部として、例えば、車両位置認識部、外部状況認識部、走行状態認識部、走行計画生成部、および、走行制御部等を有している。
車両位置認識部は、GPS受信部で受信した車両Veの位置情報および地図データベースの地図情報に基づいて、地図上における車両Veの車両位置を認識するように構成されている。なお、ナビゲーションシステムで用いられる車両位置を、そのナビゲーションシステムから取得することもできる。あるいは、道路上や道路脇の外部に設置されたセンサで車両Veの車両位置を測定可能な場合は、そのセンサとの通信によって車両位置を取得することもできる。
外部状況認識部は、例えば車載カメラの撮像情報やレーダーもしくはライダーの検出データに基づいて、車両Veの外部状況を認識するように構成されている。外部状況としては、例えば、走行車線の位置、道路幅、道路の形状、路面勾配、および、車両周辺の障害物に関する情報等が取得される。また、走行環境として車両周辺の気象情報や路面の摩擦係数などを取得してもよい。
走行状態認識部は、内部センサの各種の検出データに基づいて、車両Veの走行状態を認識するように構成されている。車両Veの走行状態としては、例えば、車速、前後加速度、横加速度、および、ヨーレートなどが取得される。
走行計画生成部は、例えば、ナビゲーションシステムで演算された目標ルート、車両位置認識部で認識された車両位置、および、外部状況認識部で認識された外部状況等に基づいて、車両Veの進路を生成するように構成されている。進路は、目標ルートに沿って車両Veが進行する軌跡である。また、走行計画生成部は、目標ルート上で、安全に走行すること、法令を順守して走行すること、および、効率よく走行すること等の基準に沿って、車両Veが適切に走行することができるように進路を生成する。
そして、走行計画生成部は、生成した進路に応じた走行計画を生成するように構成されている。具体的には、少なくとも、外部状況認識部で認識された外部状況および地図データベースの地図情報に基づいて、予め設定された目標ルートに沿った走行計画が生成される。
走行計画は、車両Veの将来の要求駆動力を含む車両Veの走行状態を予め設定するものであり、例えば現在時刻から数秒先の将来のデータを基に生成される。車両Veの外部状況や走行状況によっては、現在時刻から数十秒先の将来のデータを用いることもできる。走行計画は、例えば、目標ルートに沿った進路を車両Veが走行する際に、車速、加速度、および、操舵トルク等の推移を示すデータとして走行計画生成部から出力される。
また、走行計画は、車両Veの速度パターン、加速度パターン、および、操舵パターンとして走行計画生成部から出力することもできる。速度パターンとは、例えば、進路上に所定間隔で設定された目標制御位置に対して、各目標制御位置毎に時間に関連付けられて設定された目標車速からなるデータである。加速度パターンとは、例えば、進路上に所定間隔で設定された目標制御位置に対して、各目標制御位置毎に時間に関連付けられて設定された目標加速度からなるデータである。操舵パターンとは、例えば、進路上に所定間隔で設定された目標制御位置に対して、各目標制御位置毎に時間に関連付けられて設定された目標操舵トルクからなるデータである。
走行制御部は、走行計画生成部で生成された走行計画に基づいて、駆動力や制動力あるいは舵角を定め、その定められた駆動力や制動力あるいは舵角に応じて、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、変速機2、および操舵アクチュエータ等に対して信号を出力するように構成されている。それによって、車両Veが自動運転走行される。
また、上記ECU9は、運転者によるスイッチ操作などにより手動運転モードが選択されている場合には、従来知られているように運転者によるアクセル操作や、ブレーキ操作、またはステアリング操作に基づいて各アクチュエータを制御し、または変速機2を制御するように構成されている。
ここで、上記変速機2として有段式変速機を用いた場合における変速制御の一例について説明する。図1は、その制御例を説明するためのフローチャートである。なお、このフローチャートは所定時間毎に繰り返し実行される。この制御例では、まず、自動運転モードが選択されているか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1は、運転モードを切り替えるスイッチの信号に基づいて判断することや、ECU9で実行される他の制御で自動運転モードを実行するフラグが成立しているか否かに基づいて判断することができる。
手動運転モードが選択されており、ステップS1で否定的に判断された場合は、ECU9に予め記憶されている第1変速線図を選択して(ステップS2)、このルーチンを一旦終了する。この第1変速線図の一例を図2(b)に示している。ここに示す第1変速線図は、従来知られている車両の制御装置に設けられた変速線図と同様に、車速と要求駆動力とをパラメータとして変速段(変速比)を設定するように構成されている。なお、図2(b)に示す例では、要求駆動力としてスロットル開度をパラメータとしている。
一方、自動運転モードが選択されており、ステップS1で肯定的に判断された場合は、ECU9に予め記憶されている第2変速線図を選択して(ステップS3)、このルーチンを一旦終了する。この第2変速線図の一例を図2(a)に示している。なお、変速比が小さい変速段に切り替えるためのアップシフト線を実線で示し、変速比が大きい変速段に切り替えるためのダウンシフト線を破線で示し、手動運転モードが選択されている際におけるアップシフト線およびダウンシフト線を一点鎖線で示している。
この図2(a)に示す第2変速線図は、自動運転モード用に予め定められたものであって、車速と要求駆動力とをパラメータとして変速段(変速比)を設定するように構成されている。なお、要求駆動力に代えてスロットル開度やアクセル開度をパラメータとして使用してもよい。また、第2変速線図は、第1変速線図よりも低車速でアップシフトし、また要求駆動力が高いうちにアップシフトするように定められている。なお、図2(a)に示す例では、更に第1変速線図よりも低車速でダウンシフトし、また要求駆動力が高くなった時にダウンシフトするように構成されている。すなわち、自動運転モードが選択されている時には、手動運転モードが選択されている時よりも変速比が小さい変速段が選択されやすく構成されている。これは、上述したように自動運転モードは、予め生成された進路を走行する際に要求される駆動力を出力することができればよく、手動運転モードのように運転者の操作の変化に起因して要求駆動力が急激に変化することなどを考慮する必要性、言い換えると、出力することができる駆動力に余裕も持たせる必要性が、比較的低いためである。なお、上記各変速線図は、予め実験者シミュレーションあるいは演算などにより、アップシフトを行う運転点(走行状態)とダウンシフトを行う運転点(走行状態)とを定め、それらの各運転点を結んだ線であり、上記第2変速線図においてアップシフトを行うように定められたアップシフト線上の各運転点が、この発明における「アップシフト点」に相当する。
上述したように自動運転モードが選択されている時に、手動運転モードが選択されている時よりも変速比が小さい変速段を選択しやすくなるように構成することにより、同一の車速でのエンジン回転数を、自動運転モードが選択されている時の方が低回転数とすることができる。そのため、エンジン回転数に起因したエンジン音を低減することができるとともに、燃費の悪化を抑制することができる。
図3は、自動運転モードが選択されている時に設定される変速段と、手動運転モードが選択されている時に設定される変速段との違いを説明するためのタイムチャートである。なお、図3には、定常走行時であって要求される駆動力を一定として示している。また、図3に示す例では、前進第6速段を設定している時に出力可能な駆動力よりも、要求駆動力が小さい時の例を示しており、前進第6速段を設定している時に出力可能な駆動力を、第1線L1で示し、前進第6速段を設定している時に出力可能な駆動力を、第2線L2で示している。
図3に示すように前進第6速段を設定している時に出力可能な駆動力は、前進第5速段を設定している時に出力可能な駆動力よりも、その変速比の差に基づいた分、小さくなる。また、前進第6速段と要求駆動力との差は比較的小さく、かつ運転者がアクセル操作量を増大させた時に、前進第5速段に変速しなければその変化後における要求駆動力を出力することができないものとする。
このような場合には、手動運転モードでは、運転者がアクセル操作量を増大させた時の応答性を考慮して、出力可能な駆動力に余裕を持たせるために前進第5速段が選択されるように第2変速線図が構成されている。一方、自動運転モードでは、上記のような運転者によるアクセル操作が行われないので、手動運転モードが選択されている時のように出力可能な駆動力に余裕を持たせる必要性が低い。そのため、自動運転モードでは、前進第6速段が選択されるように第1変速線図が構成されている。なお、前進第6速段を選択することによる駆動力の低下分を、エンジン1の出力トルクを増大させる。
さらに、上述したように自動運転モードでは、生成された進路に応じて駆動力が制御されるので、所定時間後までに要求される駆動力を事前に予測することができる。そのため、変速段を選択する際には、所定時間後までに要求される駆動力の最大値に基づいて変速段を選択するように構成してもよい。そのように変速段を選択することにより、変速段が頻繁に変化させられることを抑制することができる。その結果、変速段が変化させられることによりショックが生じることや、エンジン回転数の変化に伴うエンジン音の変化が生じることを抑制することができる。
また、この車両Veの制御装置は、発進時におけるエンジン回転数を低下させるために、発進に要する駆動力が比較的小さい時には、変速比が最も大きい前進第1変速段よりも変速比が小さい変速段を設定するように構成してもよい。その制御の一例を図4に示している。なお、図4に示すフローチャートは、停車時に所定時間毎に繰り返し実行される。図4に示す例では、まず、自動運転モードが選択されているか否かが判断される(ステップS11)。このステップS11は、図1におけるステップS1と同様に、運転モードを切り替えるスイッチの信号に基づいて判断することや、ECU9で実行される他の制御で自動運転モードを実行するフラグが成立しているか否かに基づいて判断することができる。
手動運転モードが選択されており、ステップS11で否定的に判断された場合は、発進時に設定する変速段を、変速比が最も大きい前進第1速段として(ステップS12)、このルーチンを一旦終了する。これは、発進時に運転者が大きな駆動力を要求した場合における加速応答性が低下することを抑制するためである。それとは反対に自動運転モードが選択されており、ステップS11で肯定的に判断された場合には、目標駆動力が予め定められた閾値α以下であるか否かが判断される(ステップS13)。この目標駆動力とは、現在停車している路面の勾配角度や、上記生成された進路に基づいて定められた駆動力である。したがって、路面の勾配角度が大きい場合や、比較的大きな加速度で発進することが要求されている場合などには、目標駆動力が大きくなる。また、上記閾値αは、前進第1速段よりも変速比が小さい前進第2速段を設定した場合に、出力することができる程度の値に定められている。すなわち、ステップS13は、前進第2速段で発進することができるか否かは判断するステップと言い得る。
目標駆動力が閾値αよりも大きくステップS13で否定的に判断された場合には、ステップS12に進む。すなわち、発進時に設定する変速段を前進第1速段とする。それとは反対に目標駆動力が閾値α以下であってステップS13で肯定的に判断された場合には、発進時に設定する変速段を前進第2速段として(ステップS14)、このルーチンを一旦終了する。
上述したように自動運転モードが選択されている際における発進時の変速段を、手動運転モードが選択されている際における発進時の変速段よりも、変速比が小さい変速段とすることにより、発進時にエンジン回転数を低下させることができる。そのため、エンジン音を低下させることができる。また、変速比が小さい変速段を設定することにより、発進時におけるエンジン1の出力トルクの変化に対する駆動力の変化を小さくすることができる。その結果、発進時におけるエンジン1の出力トルクの制御精度を緩和することができる。言い換えると、エンジン1の出力トルクの変動に起因するショックの発生を抑制することができる。
なお、上述したように自動運転モードでは、所定時間後に要求される駆動力の大きさを事前に予測することができるので、図4におけるステップS13では、所定時間後までの間に要求される駆動力が閾値α以下か否かを判断するように構成してもよい。そのように構成することにより、発進後に前進第1速段に変速するような事態が生じることを抑制することができ、その結果、その変速に伴うショックの発生を抑制することができる。
また、自動運転モードが選択されている際における発進時の変速段を、手動運転モードが選択されている際における発進時の変速段よりも、変速比が小さい変速段とするために、図4に示すような個別の制御を用いずに、例えば、図2(a)における前進第1速段から前進第2速段へ変速するアップシフト線を、車速およびスロットル開度が「0」の位置に合わせるように構成していてもよい。
さらに、この発明の実施例における変速機2は、変速比を連続的に変化させることができる無段式変速機であってもよい。その場合には、手動運転モードが選択されている時には、従来知られている制御と同様に、エンジン回転数が最適燃費線に沿うように変速比を設定し、自動運転モードが選択されている時には、手動運転モードで設定される変速比よりも小さい変速比を設定すればよい。そのようにエンジン回転数が低回転数となるように変速機2を制御することにより、図1に示す例と同様にエンジン回転数に起因したエンジン音を低減することができる。