しかしながら、エッチング方式によるコイルは、メッキを積み上げて銅の肉厚を厚くしようとしても、それにも限界があることから銅を厚くとれない。このため、モータの出力を大きくするには限界がある。
また、丸線を圧延することで製造される角線あるいは平角線によるコイルは、巻線過程でどうしても線が捻れてしまうことから、角と角とが当たり絶縁が剥がれたりするので非常に巻き難いという問題がある。特に、断面形状が長方形である平角線の場合には、曲がり易さにも方向性がでてくるため、その点でも巻き難さ(曲げ加工性の低下)が伴う。
また、丸線を圧延することで帯状に製造される平角線は、丸線に比べて占積率が向上しても、巻線用電線としての断面積(導体断面積)は変わらないので、渦電流の発生に関して改善されるわけではない。つまり、渦電流の原因はコイル導体の断面積に比例して大きくなる為、渦電流の発生による発熱で回転機の出力効率を低下させる。この渦電流を抑制するためには巻線用電線の断面積を小さくする必要があるが、電流値に制約を受けるので、出力の大きい回転機を実現することができなくなる。
また、細い丸線を多数撚り合わせたリッツ線は、可撓性を有し小さなコアに巻き付け易くコンパクトなモータに適用する上で好ましいが、それを巻いてコイルを形成すると、隙間が生ずる点では、丸線を巻くのと変わりがない。つまり、リッツ線を巻いて作製したコイルは、丸線を巻いて作製したコイルに対して占積率が改善されるわけではない。
以上、従来の巻線用電線並びにそれを用いたコイルや回転機では、占積率を上げようとすると、巻き難くなったり、渦電流を抑えることができなかったりして、小型・軽量・高出力・高効率の全てを同時に実現することは難しい。
本発明は、巻線加工が容易でありながら占積率を上げ得ると共に渦電流を抑えることができる巻線用電線を提供することを目的とする。また、本発明は、渦電流を抑えると共に占積率の高いコイルを提供することを目的とする。さらに本発明は、小型・軽量・高出力・高効率化が可能な回転機を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために請求項1記載の巻線用電線は、1本又は複数本の細いエナメル素線を編組し、平らに成型した平編組線によって平角線あるいは角線に成形するようにしている。
また、請求項2記載の発明にかかる回転機用コイルは、請求項1記載の平編組線から成る平角線あるいは角線の巻線用電線を巻回して成る。
また、請求項3記載の発明にかかる回転機用コイルは、請求項1記載の平編組線から成る平角線あるいは角線を巻回することによって、周方向に少なくとも2分割され、機械角で180°以下に分割された複数のセパレートコイルによって構成され、各セパレートコイルは、永久磁石のN極側に対応する磁束鎖交部と、永久磁石のS極側に対応する磁束鎖交部と、N極側磁束鎖交部とS極側磁束鎖交部の導体を繋ぐ渡り線部とを有し、複数のセパレートコイルを周方向に連結することによって、軸平面形状コ形のコアレスコイルを構成するようにしている。
また、請求項4記載の発明にかかる回転機は、請求項2記載または請求項3記載の回転機用コイルを備えることを特徴とする。
本発明にかかる巻線用電線及びそれを用いた回転機用コイルによれば、エナメル素線を編組し、平らに成型した平編組線によって平角線あるいは角線に成形しているので、可撓性に優れ、コイルを作製する際に巻き易い。したがって、回転機用コイルを作製する際に、小さなコアにも巻き付けることができるし、コアが小さくてもあるいはコアレスであっても巻き易く作業が容易になる。
しかも、平編組線によって平角線あるいは角線に成形された本発明の巻線用電線は、各々絶縁された細いエナメル素線の束であるため、回転機用コイルにしたときに、丸線を圧延することで製造される同じ導体断面積の平角線あるいは角線に比べて、渦電流の発生が抑制され、それに伴う発熱も抑制される。同時に、平角線あるいは角線であることにより面接触による放熱性の向上効果もあるため、電流をより多く流すことが可能になる。換言すれば、電気抵抗が小さくなるので、電流をより多く流すことが可能になり、回転機用コイルの効率が良くなる。
さらに、平角線あるいは角線であるため、回転機用コイルにしたときの占積率が例えば20%〜30%アップすることから、同外寸の丸線から成るコイルの場合よりも抵抗値を低くくすることができると共に、巻数を増やすことも可能であり、単位断面積当たりのアンペアターンを高められる。同性能(抵抗値、巻数)のコイルの場合は、コイルの小型化の効果がある。
さらに、請求項3記載のコアレスコイルによれば、機械角で180°以下に周方向に少なくとも2分割された軸平面形状コ形の複数のセパレートコイルを周方向に連結することによって円環状箱形に構成できるので、界磁束を構成する一方の永久磁石あるいは界磁ヨークを挟むように組み立てることで、箱形のコイル内に界磁束を構成する一方の永久磁石あるいは界磁ヨークを収めることができる。即ち、界磁束を構成する一方の永久磁石あるいは界磁ヨークを囲繞する軸平面形状コ形の円環状箱形のコアレスコイルを構成できる。したがって、ギャップを必要最小限にすることができるので、鎖交磁束の減少を防いで回転機の更なる高効率化を実現することができる。しかも、ラジアル方向並びに軸方向の双方においてコアレスコイルの寸法を最小限のものにすることができるので、更なる回転機の小型化・軽量化を可能とする。さらに、組み立てられたコアレスコイルは軸平面形状コ形の円環状箱形を成すため、機械的強度を有すると共に両持ち支持となって機械的支持強度が高くなるので、巻線用電線の導体断面積を大きくすることが可能となり、高出力・高効率が可能となる。
また、請求項4記載の回転機によれば、細いエナメル素線の平編組線によって平角線あるいは角線に成形された巻線用電線は可撓性に優れコイルを巻き易い上に、渦電流が抑制されると共に占積率も高くなるので、電気抵抗が小さくなり、より多くの電流を流して効率が良くなる。したがって、本発明の回転機は、単位断面積当たりのアンペアターンを高めて、小型・軽量・高出力・高効率化が可能となる。
特に、本発明の回転機において、周方向に機械角で180°以下に分割された複数のセパレートコイルを、ロータを挟んで向かい合わせに組み合わせて周方向に連結することでロータを囲む中が空洞の円環状箱形のコアレスコイルを構成する場合には、永久磁石とコアレスコイルとの間に必要最小限の僅かなギャップを隔てて対向するように組み込んで永久磁石型回転機を構成することができるので、鎖交磁束の減少を防いで回転機の高出力化並びに高効率化を実現すると共に、ラジアル方向並びに軸方向のコアレスコイルの寸法を最小限のものとして、回転機の小型化・軽量化を可能とすることができる。また、大電流のコアレスモータを作製することができる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1に本発明の巻線用電線の一実施形態を示す。この巻線用電線1は、1本又は複数本の細いエナメル素線1aを編組し、平らに成型した平編組線によって平角線あるいは角線としたものである。例えば、巻線用電線1は、1あるいは複数本のエナメル素線1aを並べたものを1束としてあるいは複数本を撚り合わせたものを1単位として編組することにより中空の丸編組線を作製し、その後中空部を圧縮し平らに成型することにより平編組線として平角線あるいは角線として整形されるものである。尚、図中の符号1bはエナメル素線1aの束あるいは撚り線の1単位を指し、1b1〜1b12は各エナメル素線の束を区別するための添え字を付したものである。
本実施形態の巻線用電線1は、複数本のエナメル素線1a(丸線)、例えば4本1束として12束(1b1〜1b12)を編組し、筒状の中空の丸編組線(図2(A)参照)を形成し、次いで、例えばプレスで潰して中空部を圧縮し平らに成型した平編組線(図2(B)参照)とする。エナメル素線1aを編んで、筒状の編線(bridge wire;braided wire)を作製する際には、中芯を用いて編むことが好ましい。この場合には、平編組線としたときのエナメル素線1aの並びが揃えられて密に配置されるので、占積率をさらに高めることができる。プレスで潰しながら丸編組線の中空部を圧縮し平らに成型する際には、引っ張ることが好ましい。これにより平編組線が延びた状態で平角線あるいは角線に整形されてるので、コイルを巻くときにテンションがかかっても、そのときに延びることがない。尚、図1に例示する巻線用電線1は、複数本のエナメル素線1aを横に並べて束として編組しているが、これに特に限られるものではなく複数本のエナメル素線1aを撚り合わせることで1単位(1束)として編組しても良いし、1本のエナメル素線1aを単位に編組するようにしても良い。さらに、本実施形態における編み方は一重編組であるが、場合によっては二重編組あるいは三重編組としても良い。
さらに好ましくは、複数本のエナメル素線1aから成る束1bを、120℃程度の耐熱樹脂などから成る絶縁塗料で固めてから、プレスなどで中空部を圧縮し平らに成型して平編組線とすることである。これにより、エナメル素線1aの並びが揃えられ且つ乱れないので、プレスで潰して平編組線とする際にエナメル素線1aが動いてエナメル皮膜が剥がれる虞が少なくなる。
ここで、平編組線を構成するエナメル素線1aの束1bのピッチP0は、図3(A)に示すように、回転機に組み込まれる磁石の幅A(円盤状の磁石であれば直径)以上の長さとなることが好ましい。この場合、磁束と鎖交するエナメル素線1aの束1bの向きが鎖交領域内で同じ向きとなるので効率が良くなる。他方、ピッチP0が磁石の幅A(円盤状の磁石であれば直径)よりも短いと、例えば、図3(B)に示すように、図3(A)の半分の場合には、磁束と鎖交するエナメル素線1aの束1bの向きが鎖交領域内で必ず逆向きとなる部分が生ずるので効率が悪くなる。また、ピッチP0が短いと、コイルを巻くときにかかるテンションで引っ張られて延びる不具合が生ずる虞もある。
エナメル線は、絶縁性樹脂のワニスを導体に焼き付けたものの総称であり、さまざまな絶縁性樹脂の使用が可能であり、例えばポリウレタン銅線(UEW)、ポリエステル銅線(PEW)、ポリエステルイミド銅線(EIW)、ポリアミドイミド銅線(AIW)、ポリイミド銅線(PIW)などが一般的なものとして挙げられるが、これらに限られるものではない。ここで、エナメル線のなかでもポリウレタン銅線の使用が好ましい。このポリウレタン銅線の場合、熱を加えるとエナメルが剥げることから、コイルを半田浴に漬けるだけでエナメルを剥がして多数の素線毎の接続作業が容易となる。しかも、ポリウレタン銅線の場合、一旦中空の丸編組線に編組してから(図2(A))中空部を圧縮し平らに成型した平編組線とする際に(図2(B))、エナメル素線1aを編むときにかかるテンション(張力)とプレス時の圧力によってエナメル素線1aが動いて素線間隔が変動したり位置ずれを起こしたりするのを防いで、エナメル素線1aのエナメル皮膜の剥がれを防いだり、エナメル素線1aの配列の乱れを効果的に防ぐことができる。尚、エナメル素線1aの素材は、一般的には銅線であるが、これに特に限られず、アルミ線、OFC(無酸素銅線)、ニッケルメッキ軟銅線なども使用可能である。
エナメル素線1aは、その断面形状が特定の形状であることを要求されず、丸線でも良いし、角線あるいは平角線でも良い。また、エナメル素線1aを編組した筒形の編線の形状も、図2(A)に示すような円筒に特に限られず、楕円筒であっても、多角形筒であっても良い。
ここで、エナメル素線1aは、巻線用電線1としての平編組線から成る平角線あるいは角線の導体断面積に比べて細いものであり、平編組線とした場合において十分な可撓性を保持しうる線径であることが望ましい。例えば、一般に市販されている直径0.05mm〜1.2mm程度の丸エナメル線や、0.05mm×0.05mm〜1.2×1.2mmmm程度の角エナメル線あるいは多角形エナメル線などが使用可能である。もっとも、渦電流の抑制の観点からは直径1mm以内のエナメル線の使用が好ましく、例えば0.05mm〜1mmの範囲内で、特に比較的出力が大きくない場合には0.05mm〜0.6mm、好ましく0.05mm〜0.26mm程度の範囲内で適宜線径を選択しても良い。
図1の実施形態の巻線用電線1の場合には、直径0.3mmφのエナメル素線1a(丸線)を4本1束として12束を編組し、筒状の中空の丸編組線を形成してから中空部を圧縮し平らに成型した平編組線とすることによって、幅3.6mm×厚み1.2mmの平角線から成る可撓性のある巻線用電線1が作製できる。
以上のように構成された平編組線から成る平角線あるいは角線の巻線用電線1を用いることによって、丸エナメル線と同様に、様々のコイル並びに回転機を作製することができる。例えば、図4に本発明にかかる巻線用電線1でアキシャル型2極単相交流発電機(永久磁石型回転機)用のコアレスコイル・ステータコイルを構成した一例を示す。尚、本明細書中において、角度に関しては特に電気角であると断りがない場合には機械角で言及されているものとする。また、本明細書においては、対向させて配置されている一対の永久磁石の間のギャップ(磁気的空隙)に配置されている導体領域(トルク発生あるいは発電に寄与する有効コイル領域)を磁束鎖交部6N,6Sと呼び、ギャップの外に配置されて永久磁石と重ならない導体領域(トルク発生あるいは発電に寄与しないコイル端領域)を渡り線部7と呼び、その中でも磁束鎖交部6N,6Sの径方向外側の渡り線部を外側渡り線部7oと、径方向内側の渡り線部を内側渡り線部7iと呼ぶ。
このアキシャル型コアレスコイル2は、図5(B)及び図4(C)に示すように、内側に配置される界磁束を構成する一方の永久磁石9(あるいは図示していない界磁ヨーク)に跨がるような円環状箱形(太鼓状)を成すものであり、周方向に少なくとも2分割され、機械角で180°以下となる複数のセパレートコイル2A,2Bによって構成されている。各セパレートコイル2A,2Bは、ロータシャフト4と交わる(直交していても良いが、場合によっては直交していなくとも良い)2つのラジアル面5のそれぞれにロータシャフト4と平行な界磁束が通過する磁束鎖交部6N,6Sを備えると共にそれらを外側渡り線部7oと内側渡り線部7iとで繋いで、中が空洞の半円環状箱形に形成されている。したがって、複数のセパレートコイル2A,2Bを、界磁束を構成する一方の永久磁石あるいは界磁ヨークを挟むように向かい合わせに組み合わせて周方向に連結することによって、永久磁石あるいは界磁ヨークを囲む円環状箱形のコアレスコイル2を構成することができる。
ここで、平編組線から成る平角線の巻線用電線1は、例えば符号11で示すコイル巻始めから径方向内側に向けてロータシャフト4と交わるラジアル面5に沿って求心方向に引き回されてから反対側の極(図4(C)においてN極となる側)となる領域へ向けて遠心方向に更に引き回され、周縁部で軸方向に折り曲げられ、内ロータ磁石9に跨がるような軸平面形状コの字形の外側渡り線部7oを形成しつつ反対側のラジアル面5に沿って再び求心方向に引き回されてS極側となる領域へ向けて遠心方向に更に引き回され、S極側の周縁部で軸方向に折り曲げられ、内ロータ磁石9に跨がるような軸平面形状コの字形のS極側の外側渡り線部7oを形成ようにして1周分が巻かれる。これを順次周方向に1ピッチずつ繰り返しながら巻線を行う。勿論、同じ位置で所望回数巻いてから周方向にずらすようにしても良い。
例えば、本実施形態におけるセパレートコイル2A,2Bは、平角線の巻線用電線1を横(径方向に厚みが配置されるように)にして機械角で周方向に10°(電気角で20°)ずつのピッチでずらしながら巻くことにより、70°(電気角で140°)の範囲にそれぞれ8箇所のN極側磁束鎖交部6NとS極側磁束鎖交部6Sとを配置するように巻線されている。そして、N極側磁束鎖交部6NとS極側磁束鎖交部6Sの内側の領域、即ち内側渡り線部7iの領域では、図2(B)に示すように、ラジアル方向に真っ直ぐに配線される部分13と軸方向外側に膨らむように変形して隣るコイルと重なるように配線される部分14とを交互に1つ置きに形成している。これによって、内側渡り線部7iにおける配線面積を実質的に増して磁束鎖交部6N,6Sに配置される導体・コイルの巻数(導体本数)を増やすようにしている。また、コイルの中央部分のシャフトが貫通する領域では、コイルがシャフトを迂回するように屈曲しており、シャフトが貫通するスペースが確保されている。一対のセパレートコイル2A,2Bが周方向に組み合わされることによって、ほぼ円環状の箱形のコアレスコイル2が構成される。この円環状のコアレスコイル2は、図上、上半分に機械角で145°の範囲に周方向に10°(電気角で20°)ずつのピッチで16分割されたN極側磁束鎖交部6Nと、下半分に機械角で145°の範囲に周方向に10°(電気角で20°)ずつのピッチで16分割されたS極側磁束鎖交部6Sとが形成される。
尚、上述のコアレスコイル2はN極側磁束鎖交部6NとS極側磁束鎖交部6Sを構成する領域を除いた部分が樹脂で固められることによって形を保つように設けられている。しかしながら、場合によっては、巻線用電線1を内側から支持するコイルケースを併用することによって、コイルの機械的強度を高めるようにしても良い。コイルケースを併用する場合には、コイルケースに形成された巻線用電線1の溝あるいは導体のおおまかな配置領域だけを定めるコイル位置決め溝を用いて、汎用巻線機や汎用フォーミング加工機あるいは専用巻線機などを使って巻線用電線1を巻き付けたり、あるいは予め巻かれたセパレートコイル2を嵌め込んで接着などで固定される。
このステータコアレスコイル2は、例えば、内ロータ3Aを挟み込むように一対のセパレートコイル2A,2Bを突き合わせた状態で、歯車のような外観を成しているステータコアレスコイル2の凹凸の空隙を利用して図示していない固定用ボルトなど通し、同じく図示していない静止物に固定される円環状のコイル固定プレートなどに連結することによって、組み立てられる。尚、内ロータ3Aは、シャフト4に固定された円盤状のヨーク板8と、同極複数分割式磁石9と、非磁性体磁石ホルダ10とで構成される。また、外ロータ3Bも、シャフト4に固定された円盤状のヨーク板8と、同極複数分割式磁石9と、非磁性体磁石ホルダ10とで構成される。
この2極単相交流発電機によれば、巻線用電線1を巻いて永久磁石を包み込む円環状箱形のコアレスコイル2を構成することができるので、1つの内ロータ3Aでツインアキシャル型回転機を構成することができる。しかも、外ロータ3Bの永久磁石9の内側のスペースを利用して軸方向に膨れた内側渡り線部7iが収められる。このため、2つのディスク型コアレスコイル2を2組みのロータ磁石9で挟む構造のツインアキシャル型回転機を構成する場合に比べて、薄型化・軽量化を可能とする。また、内ロータ25を囲む円環状の箱形コアレスコイル21とすることで両端支持可能で且つ機械的強度が高くなるので、太い線即ち平編組線から成る平角線あるいは角線としての全体の導体断面積を大きくしたものが巻け、プリント基板にエッチングによりコイルを形成したディスク型コアレスコイル2よりも流れる電流を大きくすることができる。しかも、必要最小限のギャップにすることができるので、鎖交する磁束密度の減少が少なくなる(結果として磁束密度が大きくなり)。したがって、高出力を可能とする。
また、本発明の巻線用電線1は、平編組線から成る平角線あるいは角線であり可撓性に優れるため、配線の途中で容易に捩ったり、折り曲げたりすることが可能である。そこで、図6(A)に示すように、セパレートコイル2A,2Bの内側渡り線部7iの領域では、平角線を90°捩ることで立てに配線することにより、隣りの巻線用電線1とラジアル方向に重なるようにしても良い。これによって、内側渡り線部7iにおける配線面積を実質的に増して磁束鎖交部6N,6Sに配置される導体・コイルの巻数(導体本数)を増やすようにしている。この実施形態のステータコアレスコイル21によれば、内側渡り線部7iの領域部分が軸方向外側に膨らむ図2(B)に示す実施形態のものに比べて、図6(B)に示すように軸方向の厚みを薄くでき、コンパクト化できる利点がある。
また、図示していないが、セパレートコイル2A,2Bは、外側渡り線部7iの領域並びにN極側磁束鎖交部6NとS極側磁束鎖交部6Sとの領域では平角線を立て(径方向に平角線の幅が配置されるように)にして周方向にずらしながら巻く一方、内側渡り線部7iの領域では、ラジアル方向に真っ直ぐに配線される部分と軸方向外側に膨らむように変形させて隣るコイルと重なるように配線される部分とを交互に1つ置きに形成したものとしても良い。この場合においても、図4(A)のコイルと同じ働きをさせることができる。
また、上述の実施形態では、2分割方式のコアレスコイル2の例を挙げたが、これに特に限定されるものではなく、3分割以上の多分割方式としても良い。さらには、各セパレートコイル2A,2Bを複数のセグメントコイルで構成し、例えば互いに周方向にずらして入り込ませながら組み合わせる入れ子構造にして、各セグメント毎に独立したコイルの巻始めと巻き終りとを選択的に他のセパレートコイル半体の各セグメントの巻始めあるいは巻き終りと接続することで、単相あるいは複相のコアレスコイル2を構成することもできる。
また、本発明にかかるコアレスコイル2は、図示していないが、永久磁石型回転機のラジアル型ステータコイルとしても構成できる。この場合のコアレスコイル2は、中が空洞の軸平面形状コ形の円環状箱形(太鼓状)を成すものであり、周方向に少なくとも2分割され、機械角で180°以下となる複数のセパレートコイル2A,2Bによって構成されている。各セパレートコイル2A,2Bには、径方向に形成される界磁束が通過するN極側及びS極側の磁束鎖交部と、これらの導体を繋ぐ渡り線部ラジアル面に沿って径方向内側に折り曲げられ、内ロータ磁石(図示省略)に跨がるような円環状箱形に形成されている。つまり、外周面にあたる位置にロータシャフトと平行に巻かれた導体によって構成されるN極側磁束鎖交部とS極側磁束鎖交部とを有し、胴の両面には渡り線がロータシャフトと交わらないように引き回されて巻線される。
そして、複数のセグメントによってセパレートコイル半体を構成する場合には、各セグメント毎に独立したコイルの巻始めと巻き終りとを選択的に他のセパレートコイル半体の各セグメントの巻始めあるいは巻き終りと接続することで、単相あるいは複相のコアレスコイル21を構成することができる。また、各セパレートコイルの各セグメントを構成す
る導体は、1本でも良いが、複数本で構成しても良い。そして、複数本の導体を必要に応じて直列または並列に接続するようにしても良い。
また、本発明の巻線用電線1を適用するコアレスコイル2は、上述した分割方式である必要はなく、一体型であっても良い。例えば、図7(A)に示す多角形一体型2極用コアレスコイル2のように、外側渡り線部7oを内ロータ3Aの半径よりも外側に配置するように矩形状の箱形コイルとして、側方から内ロータ3Aの部品(予め一体化された円盤状のヨーク板8、同極複数分割式磁石9及び非磁性体磁石ホルダ10)を挿入し、シャフト4を貫通させて組み立てる構造としても良い。
また、コアレスコイル2は、上述の内ロータを囲う箱形のコイルには限られない。例えば、コアレス波巻き多相コイル(例えば3相コイル)のように、平板状のコイルとしても良い。ここで、平編組線から成る平角線あるいは角線の巻線用電線1は、可撓性に富むので、コイルを巻く際に自在に変形させ得る。したがって、並巻でも、重ね巻やその他の巻き方でも良いし、必要に応じて折り返したり、あるいは折り返さずに曲げるようにしても良い。例えば、図示していないが、円環状に配置された磁石の上を径方向内側から外側、径方向外側から内側へと交互に鎖交するコアレス波巻きコイルを形成する場合などには(所謂、プリントモータのディスク状電機子コイル・銅箔のコイルの場合の表側から裏側へ移る箇所に相当する部位では)、折り返すことが好ましい。折り返しの際に生ずる段差を利用して、他の相のコイルを重ねることにより、三相のコアレスコイル2を平編組線の厚さの2倍の厚さで平たく成形できる。勿論、平編組線のエナメル線は可撓性に富むので、折り返さないでコイルを形成することもできる。この場合には、そのままでは、平角編み線の3倍の厚みとなるが、磁界の外(磁束と交差しない部分)で軸方向に折り曲げるようにオフセットさせることで、磁束と鎖交する部分での厚みを2倍に収めることもできる。また、折り返しを含まないことで平編組線のエナメル線の長さは短くできるのでコスト削減を可能とする。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、コアレスコイル及びコアレスモータについて適用した例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、コアを有するコイル及びモータにも適用できることはいうまでもない。この場合においても、平編組線のエナメル平角線は小さなコアに容易に巻付けることができると共に高占積率のコイルにできるので、小型・軽量・高出力・高効率のコイル及びモータにできる。
また、上述の実施形態では、永久磁石型回転機に適用した例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、全ての回転機に適用できることは言うまでもない。また、誘導機単体としても使用できるし、誘導機ばかりでなく、同期機のステータコイルあるいはロータコイルなどとしても組み込むことができる。また、上述の実施形態では、ステータコイルの例を挙げて説明しているが、これに特に限られず、ローターコイルとしても良いことは言うまでもない。また、コイルとしての利用が、ラジアル型でもアキシャル型でも良いことも言うまでもない。