JP2016214183A - 脂質の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】特定の炭素数の脂肪酸、又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法を提供する。【解決手段】下記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主に導入して得た形質転換体を培養して脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質【選択図】なし

Description

本発明は、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の製造方法、並びにこれに用いる形質転換体及びβ−ケトアシル−ACPシンターゼに関する。
脂肪酸は脂質の主要構成成分の1種であり、生体内においてグリセリンとのエステル結合により生成するトリアシルグリセロール等の脂質を構成する。また、多くの動植物において脂肪酸はエネルギー源として貯蔵され利用される物質でもある。動植物内に蓄えられた脂肪酸や脂質(油脂)は、食用又は工業用として広く利用されている。
例えば、炭素数12〜18前後の高級脂肪酸を還元して得られる高級アルコールの誘導体は、界面活性剤として用いられている。アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等は陰イオン性界面活性剤として利用されている。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやアルキルポリグリコシド等は非イオン性界面活性剤として利用されている。そしてこれらの界面活性剤は、いずれも洗浄剤又は殺菌剤に利用されている。同じく高級アルコールの誘導体としてアルキルアミン塩やモノ又はジアルキル4級アミン塩等のカチオン性界面活性剤は、繊維処理剤や毛髪リンス剤又は殺菌剤に日常的に利用されている。また、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩は殺菌剤や防腐剤に日常的に利用されている。さらに、植物油脂はバイオディーゼル燃料の原料としても利用されている。
植物の脂肪酸合成経路は葉緑体に局在する。葉緑体ではアセチル−ACP(acyl-carrier-protein)を出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素数16又は18のアシル−ACP(脂肪酸残基であるアシル基とアシルキャリアプロテインとからなる複合体)が合成される。この脂肪酸合成経路に関与する酵素のうち、β−ケトアシル−ACPシンターゼ(β-Ketoacyl-acyl-carrier-protein synthase、以下「KAS」ともいう)はアシル基の鎖長制御に関与する酵素である。植物では、KAS I、KAS II、KAS III、KAS IV、のそれぞれ機能が異なる4種のKASが存在することが知られている。このうち、KAS IIIは鎖長伸長反応の開始段階で働き、炭素数2のアセチル−ACPを炭素数4のアシル−ACPに伸長する。それ以降の伸長反応には、KAS I、KAS II、及びKAS IVが関与する。KAS Iは主に炭素数16のパルミトイル−ACPまでの伸長反応に関与し、KAS IIは主に炭素数18のステアロイルACPまでの伸長反応に関与する。一方、KAS IVは炭素数6〜14の中鎖アシル−ACPまでの伸長反応に関与するといわれている。KAS IVについては、植物でもあまり知見が得られておらず、クフェア(Cuphea)などの中鎖脂肪酸を蓄積する植物に特有のKASとされている(特許文献1、及び非特許文献1参照)。
国際公開第98/46776号パンフレット
Dehesh K.et al.,The Plant Journal,1998,vol.15(3),p.383-390
本発明は、特定の炭素数の脂肪酸、又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させる、脂質の製造方法を提供することを課題とする。
また本発明は、特定の炭素数の脂肪酸、又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させた形質転換体を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、カリフォルニアベイ(Umbellularia californica)及びクスノキ(Cinnamomum camphora)からそれぞれ新たな植物由来のKASを同定した。そして、これらを用いて宿主を形質転換したところ、形質転換体では特定の炭素数の脂肪酸の生産性が向上することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明は、下記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主に導入して得た形質転換体を培養して脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法に関する。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性(以下、「KAS活性」ともいう)を有するタンパク質
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質
また本発明は、宿主に前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を導入して得られた形質転換体に関する。
また本発明は、前記タンパク質(a)〜(f)に関する。
さらに本発明は、前記タンパク質(a)〜(f)のいずれか1つをコードする遺伝子に関する。
本発明の脂質の製造方法によれば、特定の炭素数の脂肪酸、又はこれを構成成分とする脂質の生産性を向上させることができる。
また本発明の形質転換体は、特定の炭素数の脂肪酸、又はこれを構成成分とする脂質の生産性に優れる。
本明細書における「脂質」は、中性脂肪、ろう、セラミド等の単純脂質;リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質;及びこれらの脂質から誘導される、脂肪酸、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質を包含するものである。
また本明細書において、脂肪酸や脂肪酸を構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数xで二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数xの脂肪酸やアシル基を表す。
さらに本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
本発明の形質転換体は、下記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子(以下、「KAS遺伝子」ともいう)で形質転換されている。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質(前記タンパク質(a)と機能的に均等なタンパク質)
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質(前記タンパク質(c)と機能的に均等なタンパク質)
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質(前記タンパク質(e)と機能的に均等なタンパク質)
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質は、アメリカのSierra Seed Supply社より入手したカリフォルニアベイの種子由来のKAS(以下、「BKAS431」ともいう)である。配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質は、アメリカのSierra Seed Supply社より入手したカリフォルニアベイの種子由来のKAS(以下、「BKAS1082」ともいう)である。配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質は、花王和歌山工場内より採取したクスノキの種子由来のKAS(以下、「KKAS250」ともいう)である。
KASは、脂肪酸合成経路においてアシル基の鎖長制御に関与する酵素である。植物の脂肪酸合成経路は葉緑体に局在する。葉緑体では、アセチル−ACPを出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素数16又は18のアシル−ACPが合成される。次いで、アシル−ACPチオエステラーゼ(以下、「TE」ともいう)の作用によってアシル−ACPのチオエステル結合が加水分解され、遊離の脂肪酸が生成する。
脂肪酸合成の第一段階では、アセチル−ACPとマロニルACPとの縮合反応により、アセトアセチルACPが生成する。この反応をKASが触媒する。次いで、β−ケトアシル−ACPレダクターゼによりアセトアセチルACPのケト基が還元されてヒドロキシブチリルACPが生成する。続いて、β−ヒドロキシアシル−ACPデヒドラーゼによりヒドロキシブチリルACPが脱水され、クロトニルACPが生成する。最後に、エノイル−ACPレダクターゼによりクロトニルACPが還元されて、ブチリルACPが生成する。これら一連の反応により、アセチル−ACPからアシル基の炭素鎖が2個伸長されたブチリルACPが生成する。以下、同様の反応を繰り返すことで、アシル−ACPの炭素鎖が伸長し、最終的に炭素数16又は18のアシル−ACPが合成される。
本明細書において「KAS活性」とは、アセチル−ACPやアシル−ACPと、マロニルACPとの縮合反応を触媒する活性を意味する。
タンパク質がKAS活性を有することは、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結した融合遺伝子を、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結した融合遺伝子を宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、各種アシル−ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
KASはその基質特異性によってKAS I、KAS II、KAS III、又はKAS IVに分類される。KAS IIIは、炭素数2のアセチル−ACPを基質とし、炭素数2から4の伸長反応を触媒する。KAS Iは、主に炭素数4から16の伸長反応を触媒し、炭素数16のパルミトイル−ACPを合成する。KAS IIは、主に炭素数16から18の伸長反応を触媒し、炭素数18のステアロイルACPを合成する。KAS IVは炭素数6から14の伸長反応を触媒し、中鎖アシル−ACPを合成する。
後述の実施例で示すように、前記タンパク質(a)(BKAS431)は、炭素数16の脂肪酸に対する基質特異性を有し、これを選択的に合成する。よって前記タンパク質(a)及び(b)は、KAS Iであると考えられる。
また、前記タンパク質(c)(BKAS1082)及びタンパク質(e)(KKAS250)は後述の実施例で示すように、中鎖アシル−ACPに対する基質特異性を有する。よって前記タンパク質(c)〜(f)は、KAS IVであると考えられる。ここで前記タンパク質(c)のアミノ酸配列は、前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と98.7%の同一性を有する。なお本明細書において「中鎖アシル−ACPに対する基質特異性」とは、KASが、主に炭素数4〜12のアシルACPを基質とし、炭素数14までの中鎖アシルACP合成の伸長反応を触媒することをいう。また本明細書において「中鎖」とは、アシル基の炭素数が6以上14以下であることをいう。
KASの基質特異性については、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結した融合遺伝子を、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。また、上記の系に後述するTEを共発現させ、TE単独を発現させた場合の脂肪酸組成と比較することにより確認できる。また、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結した融合遺伝子を、宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
前記タンパク質(b)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(a)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(b)として、前記タンパク質(a)のアミノ酸配列に、1又は数個(例えば1個以上73個以下、好ましくは1個以上49個以下、より好ましくは1個以上25個以下、さらに好ましくは1個以上10個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(d)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(c)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(d)として、前記タンパク質(c)のアミノ酸配列に、1又は数個(例えば1個以上86個以下、好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上29個以下、さらに好ましくは1個以上12個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(f)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(e)のアミノ酸配列との同一性は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(f)として、前記タンパク質(e)のアミノ酸配列に、1又は数個(例えば1個以上86個以下、好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上29個以下、さらに好ましくは1個以上12個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、Splicing overlap extension(SOE)-PCR反応を利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(商品名、タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(商品名、Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
前記KAS遺伝子の一例として、下記DNA(g)〜(l)のいずれかからなる遺伝子が挙げられる。

(g)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(h)前記DNA(g)の塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA
(i)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
(j)前記DNA(i)の塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA
(k)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA
(l)前記DNA(k)の塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号2の塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列である。配列番号4の塩基配列は、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列である。配列番号6の塩基配列は、配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列である。
前記DNA(h)において、KAS活性の点から、前記DNA(g)の塩基配列との同一性は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。また前記DNA(h)として、配列番号2で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上218個以下、好ましくは1個以上145個以下、より好ましくは1個以上73個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
前記DNA(j)において、KAS活性の点から、前記DNA(i)の塩基配列との同一性は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。また前記DNA(j)として、配列番号4で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上256個以下、好ましくは1個以上171個以下、より好ましくは1個以上86個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
前記DNA(l)において、KAS活性の点から、前記DNA(k)の塩基配列との同一性は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。また前記DNA(l)として、配列番号6で表される塩基配列において1又は数個(例えば1個以上256個以下、好ましくは1個以上171個以下、より好ましくは1個以上86個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
KAS遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1、3又は5に示すアミノ酸配列又は配列番号2、4又は6に示す塩基配列に基づいて、KAS遺伝子を人工的に合成できる。KAS遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、カリフォルニアベイやクスノキのゲノムからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。
本発明の形質転換体は、前記KAS遺伝子に加えて、TEをコードする遺伝子(以下、「TE遺伝子」ともいう)を宿主に導入してなるものが好ましい。
TEは、KAS等の脂肪酸合成酵素によって合成されたアシル−ACPのチオエステル結合を加水分解し、遊離の脂肪酸を生成する酵素である。TEの作用によってACP上での脂肪酸合成が終了し、切り出された脂肪酸はトリアシルグリセロール等の合成に供される。そのため、宿主にKAS遺伝子とTE遺伝子を共導入することで、形質転換体の脂質の生産性、特に脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
本発明で用いることができるTEは、アシル−ACPチオエステラーゼ活性(以下、「TE活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「TE活性」とは、アシル−ACPのチオエステル結合を加水分解する活性をいう。
TEは、基質であるアシル−ACPを構成するアシル基(脂肪酸残基)の炭素原子数や不飽和結合数によって異なる反応特異性を示す複数のTEが存在していることが知られている。よってTEは、生体内での脂肪酸組成を決定する重要なファクターであると考えられている。また、TEをコードする遺伝子を元来有していない宿主を形質転換に用いる場合、TEをコードする遺伝子、好ましくは中鎖アシル−ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子の共導入が効果的である。このような遺伝子を共導入することで、脂肪酸の生産性を一層向上させることができる。
本発明で用いることができるTEは、通常のTEや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。
具体的には、Umbellularia californicaのTE(GenBank AAA34215.1);Cuphea calophylla subsp.mesostemonのTE(GenBank ABB71581);Cinnamomum camphoraのTE(GenBank AAC49151.1);Myristica fragransのTE(GenBank AAB71729);Myristica fragransのTE(GenBank AAB71730);Cuphea lanceolataのTE(GenBank CAA54060);Cuphea hookerianaのTE(GenBank Q39513);Ulumus americanaのTE(GenBank AAB71731);Sorghum bicolorのTE(GenBank EER87824);Sorghum bicolorのTE(GenBank EER88593);Cocos nuciferaのTE(CnFatB1:Jing et al.BMC Biochemistry 2011,12:44参照);Cocos nuciferaのTE(CnFatB2:Jing et al.BMC Biochemistry 2011,12:44参照);Cuphea viscosissimaのTE(CvFatB1:Jing et al.BMC Biochemistry 2011,12:44参照);Cuphea viscosissimaのTE(CvFatB2:Jing et al.BMC Biochemistry 2011,12:44参照);Cuphea viscosissimaのTE(CvFatB3:Jing et al.BMC Biochemistry 2011,12:44参照);Elaeis guineensisのTE(GenBank AAD42220);Desulfovibrio vulgarisのTE(GenBank ACL08376);Bacteriodes fragilisのTE(GenBank CAH09236);Parabacteriodes distasonisのTE(GenBank ABR43801);Bacteroides thetaiotaomicronのTE(GenBank AAO77182);Clostridium asparagiformeのTE(GenBank EEG55387);Bryanthella formatexigensのTE(GenBank EET61113);Geobacillus sp.のTE(GenBank EDV77528);Streptococcus dysgalactiaeのTE(GenBank BAH81730);Lactobacillus brevisのTE(GenBank ABJ63754);Lactobacillus plantarumのTE(GenBank CAD63310);Anaerococcus tetradiusのTE(GenBank EEI82564);Bdellovibrio bacteriovorusのTE(GenBank CAE80300);Clostridium thermocellumのTE(GenBank ABN54268);Cocos nuciferaのTE(CnFatB3:Jing et al.BMC Biochemistry 2011,12:44参照、配列番号7、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号8);Nannochloropsis oculataのTE(配列番号9、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号10);Nannochloropsis gaditanaのTE(配列番号11、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号12);Nannochloropsis granulataのTE(配列番号13、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号14);Symbiodinium microadriaticumのTE(配列番号15、これをコードする遺伝子の塩基配列:配列番号16)、等が挙げられる。また、これらと機能的に均等なタンパク質として、上述したいずれかのTEのアミノ酸配列と50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質も用いることができる。あるいは、上述したいずれかのTEのアミノ酸配列に1又は数個(例えば1個以上147個以下、好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上59個以下、さらに好ましくは1個以上30個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、かつTE活性を有するたタンパク質も用いることができる。
前記TEの中でも、Umbellularia californicaのTE、Cocos nuciferaのTE、Cinnamonum camphorumのTE、Elaeis guineensisのTE、Cuphea種のTE、Nannochloropsis oculataのTE、Nannochloropsis gaditanaのTE、Nannochloropsis granulataのTE、Symbiodinium microadriaticumのTE、これらのTEのアミノ酸配列と50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質、又はこれらのTEのアミノ酸配列に1又は数個(例えば1個以上147個以下、好ましくは1個以上119個以下、より好ましくは1個以上59個以下、さらに好ましくは1個以上30個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、かつTE活性を有するタンパク質が好ましい。
これらのTE及びそれらをコードする遺伝子の配列情報等は、例えば、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information,NCBI)などから入手することができる。
TEは、基質となるアシル−ACPの脂肪酸鎖長及び不飽和度に対して特異性を有する。したがって、導入するTEの種類を変えることによって、シアノバクテリアに所望の鎖長や不飽和度の遊離脂肪酸を生産させることができる。
例えば、Umbellularia californica由来のTEは炭素数12のアシル基に基質特異性を有し、生成する遊離脂肪酸は主にラウリン酸(C12:0)などの炭素数12の遊離脂肪酸である。また、Cinnamonum camphorum及びCocos nuciferaのTEは炭素数14のアシル基に基質特異性を有し、生成する遊離脂肪酸は主にミリスチン酸(C14:0)などの炭素数14の遊離脂肪酸である。また、Escherichia coli K-12株のTEは、炭素数16又は18のアシル基に基質特異性を有し、生成する遊離脂肪酸は主にパルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)などの炭素数16又は18の遊離脂肪酸である。
本発明においてTE活性は、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結した融合遺伝子を、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件下で細胞を培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結した融合遺伝子を宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、Yuanらの方法(Yuan L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,vol.92(23),p.10639-10643)に従い各種アシル−ACPを基質とした反応を行うことにより確認できる。
本発明の形質転換体は、宿主に前記KAS遺伝子を導入して得られる。当該形質転換体は、宿主自体に比べ、特定の炭素数の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質の生産性が有意に向上する。また、当該形質転換体では、脂質中の脂肪酸組成が宿主に比べ改変される。なお、宿主や形質転換体の脂肪酸及び脂質の生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
本発明の形質転換体は、前記KAS遺伝子を常法により前記宿主に導入することで得られる。具体的には、前記KAS遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる発現用ベクターを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製できる。
前記KAS遺伝子に加えて前記TE遺伝子も導入した形質転換体も、常法により作製できる。
形質転換体の宿主としては通常用いられるものより適宜選択することができる。本発明で用いることができる宿主としては、微生物、藻類、微細藻類、植物体、及び動物体が挙げられる。製造効率及び得られた脂質の利用性の点から、宿主は微生物又は植物体であることが好ましく、植物であることがより好ましい。
前記微生物は原核生物、真核生物のいずれであってもよく、エシェリキア(Escherichia)属の微生物やバシラス(Bacillus)属の微生物等の原核生物、酵母や糸状菌等の真核微生物を用いることができる。なかでも、脂肪酸の生産性の観点から、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、赤色酵母(Rhodosporidium toruloides)、又はモルチエレラ・エスピー(Mortierella sp.)が好ましく、大腸菌がより好ましい。
前記微細藻類としては、遺伝子組換え手法が確立している観点から、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類、クロレラ(Chlorella)属の藻類、ファエオダクティラム(Phaeodactylum)属の藻類、又はナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の藻類が好ましく、ナンノクロロプシス属の藻類がより好ましい。
前記植物体としては、種子に脂質を高含有する観点から、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、西洋アブラナ(Brassica napus)、アブラナ(Brassica rapa)、ココヤシ(Cocos nucifera)、パーム(Elaeis guineensis)、クフェア、ダイズ(Glycine max)、トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、クスノキ(Cinnamomum camphora)、又はヤトロファ(Jatropha curcas)が好ましく、シロイヌナズナがより好ましい。
遺伝子発現用プラスミドベクターの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で当該遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、導入する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
本発明で好ましく用いることができる発現用ベクターとしては、pUC系ベクター(タカラバイオ社製)、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,(1986),Plasmid 15(2);p.93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、pMW218/219(ニッポンジーン社製)、pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、IN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)、pUC19(タカラバイオ社製)、P66(Chlamydomonas Center)、P-322(Chlamydomonas Center)、pPha-T1(Yangmin Gong,Xiaojing Guo,Xia Wan,Zhuo Liang,Mulan Jiang,“Characterization of a novel thioesterase(PtTE)from Phaeodactylum tricornutum”,Journal of Basic Microbiology,2011 December,Volume 51,p.666-672.参照)、及びpJET1(コスモ・バイオ社製)が挙げられる。本発明において、宿主としてシロイヌナズナを用いる場合、pRI系ベクター又はpBI系ベクターが好ましく用いられる。
また、前記発現ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、Rubiscoオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質(psaAB)、PSIIのD1タンパク質(psbA)、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター(例えば、チューブリンプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター等)、西洋アブラナ又はアブラナ由来Napin遺伝子プロモーター、植物由来Rubiscoプロモーター、及びナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーターが挙げられる。本発明で宿主としてシロイヌナズナを用いる場合、西洋アブラナ又はアブラナ由来Napin遺伝子プロモーターを好ましく用いることができる。
また、目的のタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。
目的のタンパク質をコードする遺伝子の前記ベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
また、形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。形質転換方法としては、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法等が挙げられる。
本発明の形質転換体は、特定の炭素数の脂肪酸及びこれを構成成分とする脂質の生産性が宿主と比較して向上している。したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養し、次いで得られた培養物又は生育物から脂質を回収すれば、効率のよく脂質を製造することができる。ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいい、「生育物」とは生育した後の形質転換体をいう。
本発明の形質転換体の培養条件は、形質転換体の宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培養条件を使用できる。また脂肪酸の生産効率の点から、培地中に、例えば脂肪酸生合成系に関与する前駆物質としてグリセロール、酢酸、又はマロン酸等を添加してもよい。
大腸菌を宿主として用いる場合、形質転換体の培養は、例えば、LB培地又はOvernight Express Instant TB Medium(Novagen社)で、30〜37℃、0.5〜1日間培養することができる。
また、シロイヌナズナを宿主として用いる場合、形質転換体の培養は、例えば、土壌で温度条件20〜25℃、白色光を連続照射又は明期16時間・暗期8時間等の光条件下で1〜2か月間栽培することができる。
藻類を宿主として用いる場合、培地は天然海水又は人工海水をベースにしたものを使用してもよいし、市販の培養培地を使用してもよい。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上のため、培地に、窒素源、リン源、金属塩、ビタミン類、微量金属等を適宜添加することができる。培地に接種する形質転換体の量は適宜選択することができ、生育性の点から培地当り1〜50%(vol/vol)が好ましい。培養温度は、藻類の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、通常、5〜40℃の範囲である。また藻類の培養は、光合成ができるよう光照射下で行うことが好ましい。また藻類の培養は、光合成ができるように二酸化炭素を含む気体の存在下、又は炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を含む培地で行うことが好ましい。なお形質転換体の培養は、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養のいずれでもよく、通気性の向上の観点から、振とう培養が好ましい。
形質転換体が生産した脂質を回収する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前述の培養物、生育物又は形質転換体から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、又はエタノール抽出法等により脂質成分を単離、回収することができる。より大規模な培養を行った場合は、培養物、生育物又は形質転換体より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、脂質を得ることができる。このように脂質成分を単離した後、単離した脂質を加水分解することで脂肪酸を得ることができる。脂質成分から脂肪酸を単離する方法としては、例えば、アルカリ溶液中で70℃程度の高温で処理をする方法、リパーゼ処理をする方法、又は高圧熱水を用いて分解する方法等が挙げられる。
本発明の製造方法により得られる脂質は、その利用性の点から、単純脂質及び誘導脂質から選ばれる1種以上を含んでいることが好ましく、誘導脂質を含んでいることがより好ましく、脂肪酸又はそのエステルを含んでいることがさらに好ましく、脂肪酸又はそのエステルであることがよりさらに好ましい。
本発明の製造方法により得られる脂質は、食用として用いる他、化粧品等の乳化剤、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、毛髪リンス剤、又は殺菌剤や防腐剤として利用することができる。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の脂質の製造方法、形質転換体、形質転換体の製造方法、タンパク質、遺伝子、及び脂質生産性の向上方法を開示する。
<1>下記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主に導入して得た形質転換体を培養して脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質
<2>前記タンパク質(b)が、前記タンパク質(a)のアミノ酸配列に、1又は数個、好ましくは1個以上73個以下、より好ましくは1個以上49個以下、さらに好ましくは1個以上25個以下、特に好ましくは1個以上10個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<1>項記載の方法。
<3>前記タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子が、下記DNA(g)又は(h)からなる遺伝子である、前記<1>又は<2>項記載の方法。
(g)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(h)前記DNA(g)の塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、の同一性を有する塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA
<4>前記タンパク質(a)及び(b)がKAS Iである、前記<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法。
<5>前記タンパク質(d)が、前記タンパク質(c)のアミノ酸配列に、1又は数個、好ましくは1個以上86個以下、より好ましくは1個以上57個以下、さらに好ましくは1個以上29個以下、特に好ましくは1個以上12個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<1>項記載の方法。
<6>前記タンパク質(c)又は(d)をコードする遺伝子が、下記DNA(i)又は(j)からなる遺伝子である、前記<1>又は<5>項記載の方法。
(i)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
(j)前記DNA(i)の塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、の同一性を有する塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA
<7>前記タンパク質(c)及び(d)がKAS IVである、前記<1>、<5>及び<6>のいずれか1項記載の方法。
<8>前記タンパク質(f)が、前記タンパク質(e)のアミノ酸配列に、1又は数個、好ましくは1個以上86個以下、より好ましくは1個以上57個以下、さらに好ましくは1個以上29個以下、特に好ましくは1個以上12個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<1>項記載の方法。
<9>前記タンパク質(e)又は(f)をコードする遺伝子が、下記DNA(k)又は(l)からなる遺伝子である、前記<1>又は<8>項記載の方法。
(k)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA
(l)前記DNA(i)の塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、の同一性を有する塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA
<10>前記タンパク質(e)及び(f)がKAS IVである、前記<1>、<8>及び<9>のいずれか1項記載の方法。
<11>前記宿主が微生物又は植物、好ましくはシロイヌナズナ、である、前記<1>〜<10>のいずれか1項記載の方法。
<12>アグロバクテリウムを用いて前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主としてのシロイヌナズナに導入し、前記形質転換体を作製した、前記<11>項記載の方法。
<13>形質転換体が生産した脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質をシロイヌナズナの種子から採取する、前記<12>項記載の方法。
<14>TEをコードする遺伝子、好ましくは中鎖アシル−ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子、が前記宿主にさらに導入されている、前記<1>〜<13>のいずれか1項記載の方法。
<15>前記TEが、Umbellularia californicaのTE、Cocos nuciferaのTE、Cinnamonum camphorumのTE、Elaeis guineensisのTE、Cuphea種のTE、Nannochloropsis oculataのTE、Nannochloropsis gaditanaのTE、Nannochloropsis granulataのTE、及びSymbiodinium microadriaticumのTEからなる群より選ばれる少なくとも1種のTEである、前記<14>項記載の方法。
<16>宿主に前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を導入して得られた形質転換体。
<17>宿主に前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を導入する、形質転換体の製造方法。
<18>前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主に導入し、得られた形質転換体の脂質の生産性を向上させる、宿主の脂質生産性の向上方法。
<19>前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主に導入し、得られた形質転換体が生産する脂質中の脂肪酸組成を改変する、宿主が生産する脂質中の脂肪酸組成を改変する方法。
<20>前記タンパク質(b)が、前記タンパク質(a)のアミノ酸配列に、1又は数個、好ましくは1個以上73個以下、より好ましくは1個以上49個以下、さらに好ましくは1個以上25個以下、特に好ましくは1個以上10個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<16>〜<19>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<21>前記タンパク質(a)又は(b)をコードする遺伝子が、前記DNA(g)又は(h)からなる遺伝子である、前記<16>〜<20>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<22>前記タンパク質(a)及び(b)がKAS Iである、前記<16>〜<21>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<23>前記タンパク質(d)が、前記タンパク質(c)のアミノ酸配列に、1又は数個、好ましくは1個以上86個以下、より好ましくは1個以上57個以下、さらに好ましくは1個以上29個以下、特に好ましくは1個以上12個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<16>〜<19>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<24>前記タンパク質(c)又は(d)をコードする遺伝子が、前記DNA(i)又は(j)からなる遺伝子である、前記<16>〜<19>及び<23>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法前記<1>又は<5>項記載の方法。
<25>前記タンパク質(c)及び(d)がKAS IVである、前記<16>〜<19>、<23>及び<24>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<26>前記タンパク質(f)が、前記タンパク質(e)のアミノ酸配列に、1又は数個、好ましくは1個以上86個以下、より好ましくは1個以上57個以下、さらに好ましくは1個以上29個以下、特に好ましくは1個以上12個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<16>〜<19>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<27>前記タンパク質(e)又は(f)をコードする遺伝子が、前記DNA(k)又は(l)からなる遺伝子である、前記<16>〜<19>及び<26>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<28>前記タンパク質(e)及び(f)がKAS IVである、前記<16>〜<19>、<26>及び<27>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<29>前記宿主が微生物又は植物、好ましくはシロイヌナズナ、である、前記<16>〜<28>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<30>アグロバクテリウムを用いて前記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主としてのシロイヌナズナに導入し、前記形質転換体を作製した、前記<29>項記載の形質転換体又は方法。
<31>TEをコードする遺伝子、好ましくは中鎖アシル−ACPに対する基質特異性を有するTEをコードする遺伝子、が前記宿主にさらに導入されている、前記<16>〜<30>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<32>前記TEが、Umbellularia californicaのTE、Cocos nuciferaのTE、Cinnamonum camphorumのTE、Elaeis guineensisのTE、Cuphea種のTE、Nannochloropsis oculataのTE、Nannochloropsis gaditanaのTE、Nannochloropsis granulataのTE、及びSymbiodinium microadriaticumのTEからなる群より選ばれる少なくとも1種のTEである、前記<31>のいずれか1項記載の形質転換体又は方法。
<33>前記タンパク質(a)〜(f)。
<34>前記<33>項記載のタンパク質のいずれか1つをコードする遺伝子。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ここで、本実施例で用いるプライマーの塩基配列を表1に示す。
Figure 2016214183
(調製例1)ココヤシのcDNAの調製
ココヤシ固形胚乳を液体窒素で凍結した後、マルチビーズショッカー(安井器械製)を用いて破砕した。破砕した固形胚乳にフェノール/クロロホルム、及び50mM Tris-HCl(pH9)を添加して混合し、7500rpmで10分間遠心操作を行い、上清を回収した。回収した上清に再度同様のフェノール/クロロホルム処理を行った。上層を回収し、これに対してエタノール沈殿操作を行い、そこに含まれる核酸成分を精製した。
RNA成分の精製のために、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen,Valencia,California製)を用いた。エタノール沈殿後の核酸ペレットに、1M DTTを1/100容量添加したRLT Bufferを加えてボルテックスしたものを、QIA shredder spin columnにアプライした。以降はキット添付のマニュアルに従って操作を行い、最終的に脱イオン水(dH2O)でココヤシ由来のtotal RNAを溶出した。
得られたRNA溶液に対し、DNaseI(サーモサイエンティフィック社製)をバッファーとともに添加し、1時間37℃にて処理を行った。その後、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿処理を行い、ココヤシ胚乳由来RNA溶液を調製した。
続いて、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて、得られたRNAからココヤシのcDNAを調製した。
(調製例2)カリフォルニアベイのcDNAの調製
アメリカのSierra Seed Supply社より入手したカリフォルニアベイの種子を液体窒素で凍結した後、乳鉢と乳房を用いて破砕した。破砕した組織からFruit Mate(商品名、タカラバイオ社製)及びNucleoSpin RNA plant(商品名、タカラバイオ社製)を用いてRNAを抽出した。
続いて、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて、得られたRNAからカリフォルニアベイのcDNAを調製した。
(調製例3)クスノキのcDNAの調製
花王和歌山工場内より採取したクスノキの種子を液体窒素で凍結した後、乳鉢と乳房を用いて破砕した。破砕した組織からFruit Mate(商品名、タカラバイオ社製)及びNucleoSpin RNA plant(商品名、タカラバイオ社製)を用いてRNAを抽出した。
続いて、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて、得られたRNAからクスノキのcDNAを調製した。
(調製例4)ココヤシ由来のTE遺伝子発現用プラスミドの構築
PowerPlant DNA Isolation Kit(商品名、MO BIO Laboratories社製,USA)を用いて、茨城県潮来市で採取したアブラナ及び栃木県益子町で採取したアブラナからそれぞれゲノムDNAを抽出した。
茨城県潮来市で採取したアブラナのゲノムDNAをテンプレートとし、DNAポリメラーゼPrimeSTAR(商品名、タカラバイオ社製)、並びに表1に示すプライマーNo.1(配列番号22)及びプライマーNo.2(配列番号23)を用いてPCRを行い、Napin遺伝子のプロモーターを増幅した。
また、栃木県益子町で採取したアブラナのゲノムDNAをテンプレートとし、DNAポリメラーゼPrimeSTAR(商品名、タカラバイオ社製)、並びに表1に示すプライマーNo.3(配列番号24)及びプライマーNo.4(配列番号25)を用いてPCRを行い、Napin遺伝子のターミネーターを増幅した。
増幅を確認したPCR産物をテンプレートとし、Napin遺伝子のプロモーターは表1に示すプライマーNo.5(配列番号26)及びプライマーNo.6(配列番号27)を、Napin遺伝子のターミネーターは表1に示すプライマーNo.3(配列番号24)及びプライマーNo.7(配列番号28)を用いて、それぞれ再度PCRを行った。このようにして、Napin遺伝子のプロモーター配列の断片(配列番号17)と、Napin遺伝子のターミネーター配列の断片(配列番号18)をそれぞれ作製した。
増幅したこれらの遺伝子断片をそれぞれMighty TA-cloning Kit(商品名、タカラバイオ社製)で処理した後、pMD20-Tベクター(商品名、タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入した。このようにして、Napin遺伝子のプロモーター領域を導入したプラスミドpPNapin1、及びNapin遺伝子のターミネーター領域を導入したpTNapin1をそれぞれ構築した。
前記プラスミドpPNapin1をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマーNo.8(配列番号29)及びプライマーNo.9(配列番号30)を用いてPCRを行い、両末端に制限酵素認識配列を付加したプロモーター配列を増幅した。また、前記プラスミドpTNapin1をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマーNo.10(配列番号31)及びプライマーNo.11(配列番号32)を用いてPCR反応を行い、ターミネーター配列を増幅した。
増幅したPCR産物は、Mighty TA-cloning Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて処理した後、pMD20-Tベクターにライゲーション反応により挿入し、プラスミドpPNapin2及びプラスミドpTNapin2をそれぞれ構築した。プラスミドpPNapin2を制限酵素SalIとNotIで、プラスミドpTNapin2を制限酵素SmaIとNotIでそれぞれ処理し、SalIとSmaIで処理したpRI909ベクター(タカラバイオ社製)にライゲーション反応で連結し、プラスミドp909PTnapinを構築した。
次に、カリフォルニア・ベイ由来のTE(以下、BTEとも略記する)遺伝子の葉緑体移行シグナルペプチドをコードする遺伝子(配列番号19)を、Invitrogen社(Carlsbad,California)の提供する受託合成サービスを利用して取得した。取得した遺伝子配列を含むプラスミドをテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマーNo.12(配列番号33)及びプライマーNo.13(配列番号34)を用いてPCRを行い、シグナルペプチドをコードする遺伝子断片を増幅した。Mighty TA-cloning Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いて、増幅した遺伝子断片の両末端にデオキシアデニン(dA)を付加した後、pMD20-Tベクター(タカラバイオ社製)にライゲーション反応により挿入し、プラスミドpSignalを構築した。構築したプラスミドpSignalを制限酵素NotIで処理し、プラスミドp909PTnapinのNotIサイトにライゲーション反応で連結し、プラスミドp909PTnapin-Sを得た。
調製例1で調製したココヤシ胚乳由来のcDNAをテンプレートとし、制限酵素PrimeSTAR MAX(商品名、タカラバイオ社製)、並びに表1に示すプライマーNo.14(配列番号35)及びプライマーNo.15(配列番号36)を用いてPCRを行い、ココヤシ由来のTE(以下、CTEとも略記する)をコードする遺伝子断片(配列番号8)を増幅した。
また、前記p909PTnapin-Sをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.16(配列番号37)及びプライマーNo.17(配列番号38)を用いて、p909PTnapin-Sの直鎖状断片を増幅した。
前記CTE遺伝子断片と前記の直鎖状p909PTnapin-S断片とを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(商品名、クロンテック社製)を用いてIn-fusion反応により連結し、プラスミドp909CTEを構築した。当該プラスミドp909CTEは、CTE遺伝子の発現がアブラナ由来のNapin遺伝子のプロモーターにより制御され、発現したCTE遺伝子がBTE遺伝子由来の葉緑体移行シグナルペプチドによって葉緑体へと移行するよう設計されている。
(調製例5)KAS遺伝子発現用プラスミドの構築
NCBIのGene Bankで開示された形質転換用ベクターpYW310(ACCESSION NO.DQ469641)の配列を参考に、Streptomyces hygroscopicus由来のホスフィノトリシンアセチル転移酵素をコードするビアラフォス耐性遺伝子(Bar遺伝子、配列番号20)をGene Script社の提供する受託合成サービスを利用して取得した。
合成したBar遺伝子をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマーNo.18(配列番号39)及びプライマーNo.19(配列番号40)を用いてPCRを行い、Bar遺伝子を増幅した。一方、pRI909をテンプレートとし、PrimeSTAR、並びに表1に示すプライマーNo.20(配列番号41)及びプライマーNo.21(配列番号42)を用いてPCR反応を行い、pRI909ベクターからカナマイシン耐性遺伝子を除いた領域を増幅した。これらの遺伝子断片断片をNdeI及びSpeIで処理し、ライゲーション反応で連結して、ベクターpRI909が本来保持するカナマイシン耐性遺伝子をBar遺伝子に置換したプラスミドpRI909Barを構築した。
NCBIのGene Bankに開示されたBrassica napus napin Promoter(ACCESSION NO.EU416279)の配列を参考に、西洋アブラナの種子で発現するNapinプロモーター(配列番号21)をGene Script社の提供する受託合成サービスを利用して取得した。
合成したNapinプロモーターをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.22(配列番号43)及びプライマーNo.23(配列番号44)を用いてPCRを行い、Napinプロモーターを増幅した。また、プラスミドpRI909Barをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.24(配列番号45)及びプライマーNo.25(配列番号46)を用いてPCRを行い、pRI909Barの直鎖状断片を増幅した。さらに、プラスミドp909CTEをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.26(配列番号47)及びプライマーNo.27(配列番号48)を用いてPCRを行い、CTE-Tnapin配列を増幅した。これらの遺伝子断片を、調製例4と同様にIn-fusion反応を行い、プラスミドp909Pnapus-CTE-Tnapinを構築した。
前記プラスミドp909Pnapus-CTE-Tnapinをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.28(配列番号49)及びプライマーNo.29(配列番号50)を用いてPCRを行い、遺伝子断片を増幅した。また、カリフォルニアベイの種子由来cDNAをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.30(配列番号51)及びプライマーNo.31(配列番号52)を用いてPCRを行い、BKAS431をコードする遺伝子断片(配列番号2)を増幅した。これらの遺伝子断片をIn-fusion反応により連結し、p909Pnapus-BKAS431-Tnapinを構築した。
同様に、表1に示すプライマーNo.32(配列番号53)とプライマーNo.33(配列番号54)を用いてBKAS1082をコードする遺伝子断片(配列番号4)を増幅し、p909Pnapus-BKAS431-TnapinのBKAS431遺伝子をBKAS1082遺伝子に代えた、p909Pnapus-BKAS1082-TnapinをIn-fusion反応により構築した。
さらに、クスノキ種子由来cDNAをテンプレートとし、表1に示すプライマーNo.34(配列番号55)とプライマーNo.35(配列番号56)を用いてPCRを行い、KKAS250をコードする遺伝子断片(配列番号6)を増幅した。そして、p909Pnapus-BKAS431-TnapinのBKAS431遺伝子をKKAS250遺伝子に代えた、p909Pnapus-KKAS250-TnapinをIn-fusion反応により構築した。
(調製例6)形質転換体の作製
、インプランタイノベーションズ社によるシロイヌナズナの形質転換受託サービスにより、前記プラスミドp909CTEを用いて、CTE遺伝子を導入したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana,Colombia株)の形質転換体を得た。得られたシロイヌナズナの形質転換体(WT::CTE)、及び野生型シロイヌナズナ(WT)を、22℃、蛍光灯照明を用いて明期24時間(約4000ルクス)の条件で育成した。約2ヶ月の栽培の後、種子を収穫した。
このようにして得られたp909CTEを導入したシロイヌナズナWT::CTEを親株として、以降の形質転換実験を行った。
前記プラスミドp909Pnapus-BKAS431-Tnapin、p909Pnapus-BKAS1082-Tnapin、及びp909Pnapus-KKAS250-Tnapinを導入したアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)GV3101株を用い、p909CTEを導入したシロイヌナズナWT::CTEに対して形質転換操作を行った。播種後1.5ヶ月程度育成したシロイヌナズナの花序を切除後6-7日間育成して再形成された花序に各プラスミドを導入したアグロバクテリウムを感染させた。
アグロバクテリウム感染処理後1-2か月程度育成して得られた種子を、MS寒天培地(100μg/mLクラフォラン、7μg/mLビアラフォスを含む)に播種し、形質転換体(WT::CTE::BKAS431、WT::CTE::BKAS1082、WT::CTE::KKAS250)を選抜した。選抜した形質転換体を22℃、蛍光灯照明を用いて明期24時間の条件で育成し、約2ヶ月の栽培の後、種子を収穫した。
(試験例1)シロイヌナズナの種子からの脂質の抽出、及び脂質のメチルエステル化
得られた各シロイヌナズナ種子を、マルチビーズショッカー(安井器械社製)で粉砕した。この粉砕物に、7-ペンタデカノン(0.5mg/mLメタノール)20μL(内部標準)と酢酸20μLを添加したクロロホルム0.25mL、及びメタノール0.5mlを加え、十分に攪拌し、15分間静置した。さらに、1.5%KCl 0.25mLとクロロホルム0.25mLを添加して十分に攪拌し、15分間静置した。室温、1500rpmで5分間遠心分離を行った後、下層部分を採取し、窒素ガスで乾燥した。
乾燥したサンプルに、0.5N水酸化カリウム−メタノール溶液100μLを加え、70℃で30分間恒温することによりトリアシルグリセロールを加水分解した。さらに、3‐フッ化ホウ素メタノール錯体溶液を0.3mL添加して乾燥物を溶解し、80℃で10分間恒温することにより脂肪酸のメチルエステル化処理を行った。その後、飽和食塩水0.2mLとヘキサン0.3mLを添加して十分に攪拌し、30分間静置した。脂肪酸のメチルエステルが含まれるヘキサン層(上層部分)を採取し、下記条件のガスクロマトグラフィ(GC)分析に供した。
<ガスクロマトグラフィ(GC)条件>
カラム:DB1-MS(J&W Scientific,Folsom,California)
分析装置:6890(Agilent technology,Santa Clara,California)
カラムオーブン温度:150℃保持0.5分→150〜320℃(20℃/分昇温)→320℃保持2分
注入口検出器温度:300℃
注入法:スプリットモード(スプリット比=75:1)
サンプル注入量:5μL
カラム流速:0.3ml/min コンスタント
検出器:FID
キャリアガス:水素
メイクアップガス:ヘリウム
GC解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。なお、種子中の各脂質に対応するGCのピークは、各脂肪酸の標準品のメチルエステルの保持時間により同定した。また、各ピーク面積を内部標準である7-ペンタデカノンのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、解析に供した全種子中に含まれる全脂肪酸量に対する各脂肪酸量の割合を算出した。その結果を表2に示す。なお、表2において、野生型及については1ラインの値を、その他については独立した3ラインの平均値を示した。
Figure 2016214183
表2に示すように、野生型の種子に比べ、CTE遺伝子のみを導入した形質転換体WT::CTEの種子ではC12:0脂肪酸量が約3%、C14:0脂肪酸量が約13%、C16:0脂肪酸量が約15%増加した。
一方、CTE遺伝子とBKAS431遺伝子を導入した形質転換体WT::CTE::BKAS431では、形質転換体WT::CTEと比べて、C16:0脂肪酸量とC18:n脂肪酸量が増加した。しかし、C12:0脂肪酸量とC14:0脂肪酸量が減少した。
さらに、CTE遺伝子とBKAS1082遺伝子を導入した形質転換体WT::CTE::BKAS1082、並びにCTE遺伝子とKKAS250遺伝子を導入した形質転換体WT::CTE::KKAS250では、形質転換体WT::CTEと比べて、C12:0脂肪酸量が増加し、C16:0脂肪酸量が減少した。
以上のように、本発明で規定するKAS遺伝子を宿主に導入することで、特定の炭素数の脂肪酸の生産性を向上させた形質転換体を作製することができる。そしてこの形質転換体を培養することで、特定の脂肪酸の生産性を向上させることができる。
(試験例2)BKAS431、BKAS1082及びKKAS250の同定
BLASTプログラム(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)によるホモロジーサーチを用いて、前記BKAS431、BKAS1082及びKKAS250の同定を行った。
その結果、BKAS431はKAS Iとしてアノテーションされた。前述のように、KAS Iはアシル−ACPを炭素数16まで伸長させる。これは、前記表2に示した、BKAS431遺伝子を導入することでC16:0脂肪酸量が増加した結果と一致する。
一方、BKAS1082及びKKAS250はKAS IIとしてアノテーションされた。なお、前述のように、KAS IIは炭素数16のアシル−ACPを炭素数18のアシル−ACPへ変換する反応を触媒する酵素である。しかしこのアノテーションの結果は、BKAS1082遺伝子又はKKAS250遺伝子を導入することでC12:0などの中鎖脂肪酸量が増加するという、前記表2に示す結果とは一致しない。これらの結果は、植物のKASについての従来の知見が不十分であり、中鎖脂肪酸の生成に関与するKAS IV遺伝子がほとんど同定されていないためと考えられる。

Claims (10)

  1. 下記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を宿主に導入して得た形質転換体を培養して脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させる、脂質の製造方法。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
    (e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
  2. アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が前記宿主にさらに導入されている、請求項1記載の製造方法。
  3. 前記宿主が植物である、請求項1又は2記載の製造方法
  4. 前記宿主がシロイヌナズナである、請求項3記載の製造方法。
  5. 宿主に下記タンパク質(a)〜(f)のいずれかをコードする遺伝子を導入して得られた形質転換体。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
    (e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
  6. アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が前記宿主にさらに導入されている、請求項5記載の形質転換体。
  7. 前記宿主が植物である、請求項5又は6記載の形質転換体
  8. 前記宿主がシロイヌナズナである、請求項7記載の形質転換体。
  9. 下記タンパク質(a)〜(f)。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)前記タンパク質(a)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (d)前記タンパク質(c)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
    (e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (f)前記タンパク質(e)のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ−ケトアシル−ACPシンターゼ活性を有するタンパク質
  10. 請求項9記載のタンパク質のいずれか1つをコードする遺伝子。



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