以下、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に自動変速機1について、図1〜図3を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る自動変速機1が備えるクラッチ、例えばクラッチ50の周辺部分の構造を示す水平断面図である。なお、図1は、クラッチ50の周辺部分のうち、自動変速機1の変速機ケース11の軸心Lに対して一方側部分のみを拡大して示している。図2は、シールリング装着部周辺における図1と異なる位相での断面図である。
図1に示すように、自動変速機1の変速機ケース11には、支持壁21が一体的に設けられており、該支持壁21は、径方向内方に延設する縦壁部21aと、該縦壁部21aの内縁部から軸方向の駆動源側(図1の左方)に延設する円筒部21bと、を有している。
縦壁部21aには、径方向に延びる径方向油路21cが形成されている。また、円筒部21bの駆動源側には、軸方向に延びる軸方向油路21dと、該軸方向油路21dから径方向内方に延びて円筒部21bの内周面に開口する連通路21eと、が形成されている。これら油路21c、21d、21eは、支持壁21の内部で互いに接続されている。なお、軸方向油路21dは、支持壁21に対して駆動源側から穴開け加工することで形成されるため、穴開け加工時にできた軸方向油路21dの駆動源側の開口部には、栓部材22が圧入されている。
図2に示すように、上述の油路21c、21d、21eと異なる位相において、縦壁部21aには、径方向に延びる径方向油路21gが形成されており、円筒部21bの駆動源側には、軸方向に延びる軸方向油路21hと、該軸方向油路21hから径方向内方に延びて円筒部21bの内周面に開口する連通路21i、21jと、が形成されている。これら油路21g、21h、21i、21jは、支持壁21の内部で互いに接続されている。
前記径方向油路21gの上流には、締結圧供給油路15が油圧保持バルブ16を介して接続されている。締結圧供給油路15は、クラッチ50の締結時に、ライン圧を元圧として、図示しないソレノイドバルブ等によって、後述するリターンスプリング57の付勢力に抗してクラッチ50を締結できる程度の油圧に制御された締結圧を下流へ供給する。
ここで、クラッチ50解放時には、締結圧供給油路15からの締結圧の供給が停止されるが、このクラッチ50解放時も、油圧保持バルブ16によって、その下流の油圧を、後述するシールリング42a〜42dがシール性を発揮するのに必要な所定圧以上に保持することができる。より具体的には、油圧保持バルブ16は、互いに並列に接続された逆止弁16aとリリーフ弁16bを有する。逆止弁16aは、その上流が下流よりも高圧時にのみ開弁されるように構成されており、リリーフ弁16bは、その下流が上流よりも所定圧以上高圧時にのみ、閉弁方向に付勢する付勢手段の付勢力に抗して開弁されるように構成されている。
この支持壁21の反駆動源側には、後述する遠心バランス室56への油圧供給源であるオイル貯留部31が設けられている。
図3は、図1における軸方向の反駆動源側(図の右側)から見た自動変速機1のオイル貯留部31の周辺を概略的に示す縦断面図である。図3に示すように、オイル貯留部31は、変速機ケース11の内部において、クラッチ50のドラム部材52の側方に、その下端部が軸心Lと略同一高さとなるように設けられている。
本実施形態の場合、オイル貯留部31は、後述するクラッチ50のドラム部材52の外周面に沿って上方に向かって広がり、その内部にオイルを貯留するための内部空間を有する容器状の本体部31aと、該本体部31aの底部から略水平方向に駆動源側へ突出し、本体部31aに貯められたオイルをその外部に供給するための円筒状の供給部31bと、本体部31aの上面部に形成され、本体部31aの内部空間をその外部へ開口する開口部31cと、を有する。本体部31aは、その内部に貯められたオイルが自重で遠心バランス室56まで流れるように、遠心バランス室56に対して高い位置に配置されている。
上述のオイル貯留部31の供給部31bは、支持壁21の縦壁部21aの反駆動源側に形成され、径方向油路21cに開口する嵌合部21fに嵌合するように設けられている。
これにより、このオイル貯留部31は、変速機ケース11の天井面から滴下し、上方の開口部31cから本体部31aの内部に貯められたオイルが自重で下方の供給部31bを通って縦壁部21aの径方向油路21cに流れるように構成されている。なお、オイル貯留部31は、密閉された容器であってもよく、この場合、開口部31cの代わりにその内部へオイルを導入するための導入口を設けてもよい。
また、この支持壁21の反駆動源側には、支持壁21の円筒部21bに対して回動自在に設けられ回転部材41が設けられている。
回転部材41は、支持壁21の円筒部21bの内側に嵌合された円筒状の嵌合部41aと、該嵌合部41aから反駆動源側に延設する延設部41bと、嵌合部41aの反駆動源側から径方向外方に向かって延設する縦面部41cと、該縦面部41cの径方向外方から軸方向の駆動源側に延設する周面部41dと、該周面部41dの駆動源側から径方向外方であって反駆動源側に傾斜して延びるフランジ部41eと、を有している。回転部材41は、断面略コ字状に並んだ嵌合部41aと縦面部41cと周面部41dによって、支持壁21の反駆動源側に突出して設けられた突出部21fを覆うように設けられている。突出部21fの内周面と回転部材41の嵌合部41aとの間には、ラジアルベアリング等の軸受24が設けられると共に、突出部21fの反駆動源側の端面と回転部材41の縦面部41cとの間には、スラストベアリング等の軸受23が設けられている。これによって、回転部材41は、その嵌合部41aが軸受24を介して突出部21fの内周面上に支持されている。
回転部材41は、支持壁21の円筒部21bに対して回動自在となるように、回転部材41の嵌合部41aの外径が円筒部21bの内径よりも僅かに小径に形成され、嵌合部41aの外周面と円筒部21bの内周面との間に僅かな隙間を設けた状態で、嵌合部41aが円筒部21bに対して回転可能に嵌合されるように構成されている。
なお、回転部材41は、支持壁21の縦壁部21aと軸方向にオーバーラップするように設けられている。また、支持壁21の縦壁部21aの反駆動側の端面と回転部材41の周面部41dの駆動源側の端部は、互いに離間して対向し、支持壁21の突出部21fの外周部と回転部材41の周面部41dの内周部は、互いに離間して対向している。
この回転部材41には、支持壁21からクラッチ50の締結油圧室55及び遠心バランス室56に連通する以下の油路が形成されている。
図1、図2に示すように、回転部材41の嵌合部41aの内部には、回転部材41の軸方向に延びる複数の軸方向油路41f1、41f2が軸心Lを中心として異なる位相に形成されている。なお、軸方向油路41f1、41f2は、回転部材41に対して駆動源側から穴開け加工することで形成されるため、穴開け加工時にできた軸方向油路41f1、41f2の駆動源側の開口部には、栓部材43、43がそれぞれ圧入されている。
図1に示すように、回転部材41の延設部41bには、第1軸方向油路41f1から径方向外方に延びて遠心バランス室56に開口する油路41gが形成されている。
また、図2に示すように、回転部材41の縦面部41cには、第2軸方向油路41f2から径方向外方に延びる油路41rが形成され、周面部41dには、油路41rの径方向外方から駆動源側に延びる軸方向油路41sと、該軸方向油路41sの駆動源側から径方向外方に延びて締結油圧室55に開口する油路41tと、が形成されている。
嵌合部41aの外周面上には、軸方向に第1周溝41i及び第2周溝41jが駆動源側から順に設けられている。図1に示すように、第1周溝41iは、嵌合部41aの外周面上において支持壁21の連通路21eに対向する軸方向の位置に設けられ、径方向に伸びる連通路41hを介して上述の第1軸方向油路41f1と連通している。また、図2に示すように、第2周溝41jは、嵌合部41aの外周面上において支持壁21の連通路21iに対向する軸方向の位置に設けられ、径方向に伸びる連通路41kを介して上述の第2軸方向油路41f2と連通している。
このように回転部材41に形成された油路41i、41h、41f1、41gは、円筒部21bの内周面と嵌合部41aの外周面を介して、円筒部21bに形成された油路21d、21eから遠心バランス室56まで連通している。同様に、回転部材41に形成された油路41j、41k、41f2、41r、41jは、円筒部21bの内周面と嵌合部41aの外周面を介して、円筒部21bに形成された径方向油路21g、21hから締結油圧室55まで連通している。
ここで、本実施形態では、円筒部21bと嵌合部41a間からのオイルリークを防ぐために、嵌合部41aの外周面上に複数のシールリング42a、42b、42c及び42dが装着されている。各シールリング42a、42b、42c及び42dは、嵌合部41aの外周面上に形成された複数のシールリング用周溝41m、41n、41p及び41qにそれぞれ装着されている。
嵌合部41aにおける第1周溝41iの駆動源側には、第1シールリング用周溝41mと第2シールリング用周溝41nが軸方向に所定間隔を設けて形成されており、これら第1シールリング用周溝41mと第2シールリング用周溝41nには、第1シールリング42aと第2シールリング42bがそれぞれ装着されている。また、嵌合部41aにおける第1周溝41iと第2周溝41jの間には、第3シールリング用周溝41pが形成されており、該第3シールリング用周溝41pには、第3シールリング42cが装着されている。さらに、嵌合部41aにおける第2周溝41jの駆動源側には、第4シールリング用周溝41qが形成されており、該第4シールリング用周溝41qには、第4シールリング42dが装着されている。
すなわち、図1に示すように、円筒部21bの内周面に開口された連通路21eは、円筒部21bと嵌合部41a間に介装された一対のシールリング42b、42cによってその軸方向の両側がシールされた第1周溝41iに連通している。また、図2に示すように、連通路21iは、一対のシールリング42c、42dによってその軸方向の両側がシールされた第2周溝41jに連通しており、連通路21jは、円筒部21bの内周面と嵌合部41aの外周面の間であって、一対のシールリング42a、42bによってその軸方向の両側が挟まれると共に、連通路21jに対向する隙間41lに連通している。なお、シールリング42a、42bにシール性を発揮させるのに必要な密封油圧は、締結油圧室55に供給される締結用油圧よりも低圧であるので、この隙間41lに連通する連通路21jは、締結油圧室55に連通する連通路21iよりも流路面積が小さくてもよい。
上述の回転部材41の径方向外方には、クラッチ50が設けられている。
クラッチ50は、ハブ部材51とドラム部材52との間に配置された複数の摩擦板53と、複数の摩擦板53を押圧するピストン54と、ピストン54を駆動源側から摩擦板方向に付勢する油圧が供給される締結油圧室55と、を有している。
また、クラッチ50は、ピストン54を挟んで締結油圧室55の反対側にピストン54を反摩擦板方向に付勢するためのオイルが供給される遠心バランス室56を有し、該遠心バランス室56には、ピストン54を反摩擦板方向に付勢するリターンスプリング57が配設されている。
ハブ部材51は、回転部材41の延設部41bの外側に嵌合され、径方向外方に延設する縦面部51aと、該縦面部51aの径方向外方から軸方向の駆動源側に延設し、摩擦板53が係合されるスプライン部51bと、該スプライン部51bの反駆動源側から径方向外方に延設する受圧部51cと、が設けられている。
なお、縦面部51aの反駆動源側には、第1ギヤセットPG1のキャリヤCが結合されている。ハブ部材51には、摩擦板53に潤滑油を供給するために、縦面部51aの反駆動源側とスプライン部51bの径方向外方とを連通する油路51dが形成されている。この構成によれば、キャリヤCの潤滑に用いられた潤滑油を油路51dを介して摩擦板53に供給することができる。
ピストン54は、軸方向の反駆動源側に延設する内周面部54aと、該内周面部54aの反駆動源側から径方向外方であって駆動源側に傾斜した方向に延設する中間面部54bと、該中間面部54bから軸方向の駆動源側に延設する外周面部54cと、該外周面部54cから径方向外方に延設し、摩擦板53を押圧する押圧部54dと、を有している。
回転部材41とハブ部材51は、ハブ部材51の縦面部51aを回転部材41の延設部41bの外側に嵌合し、回転部材41の延設部41bの外周面の反駆動源側に設けられた凹溝にスナップリング等の止め輪47を嵌着させることにより、リターンスプリング57の付勢力と遠心バランス室56内の油圧による反駆動源側の力に抗して、ハブ部材51が回転部材41から軸方向に抜けないように構成されている。
以上の構成により、クラッチ50の締結油圧室55は、ハブ部材51の径方向内方に回転部材41とピストン54によって形成される。すなわち、回転部材41のフランジ部41e、ピストン54の内周面部54a、中間面部54b及び外周面部54cによって囲まれた空間が締結油圧室55となる。
この締結油圧室55は、オイルリークを防ぐために、フランジ部41eの端部に設けられたシール部材44によって、フランジ部41eと外周面部54c間がシールされると共に、周面部41dの径方向外方に設けられたシール部材45によって、内周面部54aと周面部41d間がシールされている。
また、遠心バランス室56は、回転部材41、ハブ部材51及びピストン54によって形成される。すなわち、回転部材41の縦面部41c、ハブ部材51の縦面部51a及びフランジ部51b、及び、ピストン54の中間面部54b及び内周面部54aによって囲まれた空間が遠心バランス室56となる。
この遠心バランス室56は、オイルリークを防ぐために、延設部41bの径方向外方に設けられたシール部材46によって、延設部41bと縦面部51a間がシールされ、中間面部54bの径方向外方に設けられたシール部材58によって、中間面部54bとスプライン部51bとの間がシールされ、周面部41dの径方向外方に設けられたシール部材45によって、内周面部54aと周面部41d間がシールされている。
次に、クラッチ50の締結油圧室55、遠心バランス室56等への油圧の供給について説明する。
図1に示すように、オイル貯留部31と遠心バランス室56との高低差により発生したヘッド油圧によって支持壁21の径方向油路21cに供給されたオイルは、円筒部21bの軸方向油路21dを駆動源側に流れて、円筒部21bの内周面に開口された連通路21eに供給され、回転部材41の周溝41iに供給される。周溝41iに供給されたオイルは、周溝41iに接続された連通路41hを介して第1軸方向油路41f1に供給され、該第1軸方向油路41f1を反駆動源側に流れて、油路41gを介して遠心バランス室56に供給されてその内部に貯えられる。
ここで、クラッチ締結時は、図2に示すように、締結圧供給油路15から供給された締結圧は、逆止弁16aを介して支持壁21の径方向油路21gに供給されると、軸方向油路21hを駆動源側に流れて円筒部21bの内周面に開口された連通路21i、21jに供給される。連通路21i、21jに供給された締結圧は、回転部材41の嵌合部41aの周溝41jと隙間41lにそれぞれ供給される。
次に、周溝41jに供給された油圧は、連通路41kを介して第2軸方向油路41f2に供給される。第2軸方向油路41f2に供給された油圧は反駆動源側に流れて、油路41r、41s、41tを介して締結油圧室55に供給される。また、周溝41jに供給された油圧は、その両側に装着された一対のシールリング42c、42dを、第3シールリング用周溝41pと第4シールリング用周溝41qの内部において、その両外側に向かってそれぞれ押圧する。その結果、シールリング42c、42dにおいてシール性が発揮され、周溝41iの反駆動源側がシールリング42cによってシールされると共に、周溝41jの駆動源側と反駆動源側がシールリング42c、42dによってそれぞれシールされる。
また、隙間41lに供給された油圧は、その両側に装着された一対のシールリング42a、42bを、第1シールリング用周溝41mと第2シールリング用周溝41nの内部において、その両外側に向かってそれぞれ押圧する。その結果、シールリング42a、42bにおいてシール性が発揮され、周溝41iの駆動源側がシールリング42a、42bによってシールされる。
従って、クラッチ締結時は、遠心バランス室56に連通する周溝41iの軸方向の両側に介装された一対のシールリング42b、42cに対して、その両外側に設けられた周溝41jと隙間41lから締結圧が供給され、周溝41iからのオイルリークが防止される。
一方で、クラッチ解放時は、締結圧供給油路15からの締結圧の供給が停止され、下流側のオイルがリリーフ弁16bを介して上流側に流れてドレインされるが、油圧保持バルブによって下流側の油圧は、シール性を確保できる所定圧に保持される。従って、クラッチ解放時も、一対のシールリング42b、42cに対して、その両外側に設けられた周溝41jと隙間41lからシール性を確保できる所定圧が供給されるので、周溝41iからのオイル漏れが防止され、遠心バランス室56が有効に機能する。その結果、締結油圧室55に残ったオイルに作用する遠心力により生じる遠心油圧は、遠心バランス室56に貯えられたオイルに作用する遠心力に生じる遠心油圧によって打ち消される。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に自動変速機1について、図4を参照しながら説明する。図4(a)、図4(b)は、本発明の第2実施形態に係る自動変速機1が備えるシールリング装着部周辺において異なる位相での断面図である。なお、第2実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、説明を省略すると共に、図面に同一の符号を付している。
図4(a)に示すように、第2実施形態は、嵌合部41aの周溝41iと周溝41jとの間に、2組のシールリング42c1、42c2と、これらが装着されるシールリング用周溝41p1、41p2とが設けられている。円筒部21bの内周面と嵌合部41aの外周面の間であって、これらシールリング42c1、42c2によってその軸方向の両側が挟まれた隙間41l2には、ライン圧供給油路17から減圧弁18及び油圧保持バルブ16を順に介して所定圧以上に保持された状態で供給される密封油圧が支持壁21に形成された専用径方向油路21g1、21h1、21j2を介して供給される。
また、第1実施形態と同様に、嵌合部41aにおける第1周溝41iの駆動源側には、第1シールリング用周溝41mと第2シールリング用周溝41nが軸方向に所定間隔を設けて形成されており、これら第1シールリング用周溝41mと第2シールリング用周溝41nには、第1シールリング42aと第2シールリング42bがそれぞれ装着されている。連通路21j1は、円筒部21bの内周面と嵌合部41aの外周面の間であって、一対のシールリング42a、42bによってその軸方向の両側が挟まれた隙間41l1に連通している。よって、隙間41l1には、締結圧供給油路15から油圧保持バルブ16を介して所定圧以上に保持された状態で供給される密封油圧が支持壁21に形成された専用径方向油路21g1、21h1、21j1を介して供給される。
図4(b)に示すように、第1実施形態と同様に、一対のシールリング42c、42dによってその軸方向の両側がシールされ、締結油圧室55に連通する第2周溝41jには、連通路21iが連通している。この連通路21iには、支持壁21において上述の専用径方向油路21g1、21h1、21j1とは異なる位相に形成された径方向油路21g2、21h2を介して締結用油圧が供給される。
以上の構成により、第2実施形態では、専用径方向油路21g1、21h1、21j1、21j2を介して隙間41l1、41l2に密封油圧が供給されることにより、エンジン停止時にも、周溝41iの駆動源側と反駆動源側がシールリング42b、42c1によってシールされる。
なお、本実施形態の場合、減圧弁18によって、シール性を発揮できる範囲でシールリング42b、42c1に供給される油圧を減圧することができるので、エンジンが回転時にシールリング42b、42c1における回転抵抗を低減することができる。その結果、燃費性能の向上に寄与することができる。
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態に係る自動変速機101が備えるクラッチ、例えばクラッチ150の周辺部分の構造を示す断面図である。図5を参照しながら、自動変速機101について詳細に説明する。なお、第3実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、説明を省略すると共に、図面に対応する符号(例えば、支持壁には「21」に対応する「121」)を付している。
図5に示すように、自動変速機101の変速機ケース111には、支持壁121が一体的に設けられており、該支持壁121は、径方向内方に延設する縦壁部121aと、該縦壁部121aの内縁部から軸方向の反駆動源側(図5の右方)に向かって延設する嵌合部121bと、を有している。
縦壁部121aには、径方向に延びる径方向油路121cと駆動源側に傾いて延びる油路121dとが形成されている。また、円筒部121bには、軸方向に延びる軸方向油路121eと、該軸方向油路121eから径方向内方に延びて嵌合部121bの内周面に開口する連通路121fと、が形成されている。これら油路121c、121d、121e、121fは、支持壁121の内部で互いに接続されている。なお、軸方向油路121eは、支持壁121に対して駆動源側から穴開け加工することで形成されるため、穴開け加工時にできた軸方向油路121eの駆動源側の開口部には、栓部材122が圧入されている。
図6に示すように、上述の油路121c、121d、121e、121fと異なる位相において、縦壁部121aには、径方向に延びる油路121iが形成されており、嵌合部121bには、軸方向に延びる油路121jと、該油路121jから径方向内方に延びて嵌合部121bの内周面に開口する連通路121g、121hと、が形成されている。これら油路121g、121h、121i、121jは、支持壁121の内部で互いに接続されている。
この油路121iの上流には、第1実施形態と同様の構成を有する油圧供給源115と油圧保持バルブ116が接続されている。また、この支持壁121の反駆動源側には、第1実施形態と同様の構成を有するオイル貯留部131が設けられている。
また、第3実施形態の場合、支持壁121の嵌合部121bの反駆動源側の外周には、アルミニウムよりも高強度の金属材料から形成された、円筒状の補強部材161が一体的に嵌合されている。
また、この支持壁121の反駆動源側には、支持壁121の嵌合部121bに対して回動自在に設けられ回転部材141が設けられている。
回転部材141は、支持壁121の嵌合部121bの外側に嵌合された本体部141aと、該本体部141aから反駆動源側に延設する第1延設部141bと、本体部141aから駆動源側に延設する第2延接部141cと、本体部141aの外周面の駆動源側から径方向外方であって反駆動源側に傾斜して延びるフランジ部141dと、を有している。
回転部材141は、支持壁121の嵌合部121bと該嵌合部121bに一体的に嵌合された補強部材161に対して回動自在となるように、回転部材141の本体部141a及び第1延接部141bの内径が補強部材161の外径よりも僅かに大径に形成され、本体部141a及び第1延接部141bの内周面が嵌合部121bの外周面と摺接するように構成されている。また、回転部材141は、第2延設部141cがラジアルベアリング等の軸受124を介して嵌合部121bの外周面上に支持され、本体部141aと縦壁部121aの反駆動源側の端面との間にスラストベアリング等の軸受123が設けられている。
この回転部材141には、支持壁121からクラッチ150の締結油圧室155及び遠心バランス室156等に連通する以下の油路が形成されている。
図5に示すように、回転部材141の本体部141aの内部には、駆動源側に傾いて径方向外方に延びて締結油圧室155に開口する油路141fが形成されている。また、回転部材41の延設部41bには、径方向外方に延びて遠心バランス室156に開口する油路141eが形成されている。
補強部材161の外周面上には、軸方向に第1周溝161b及び第2周溝161dが駆動源側から順に設けられている。図6に示すように、第1周溝161bは、径方向に伸びる連通路161gを介して上述の油路121g、121jと連通している。また、図5に示すように、第2周溝161dは、径方向に伸びる連通路161jを介して上述の油路121f、121eと連通している。
このように回転部材141に形成された油路141eは、嵌合部121bの外周面と本体部141aの内周面を介して、嵌合部121bに形成された油路121e、121fから遠心バランス室156まで連通している。同様に、回転部材141に形成された油路141fは、嵌合部121bの外周面と本体部141aの外周面を介して、嵌合部121bに形成された油路121j、121gから締結油圧室155まで連通している。
ここで、本実施形態では、補強部材161と回転部材141間からのオイルリークを防ぐために、補強部材161の外周面上に複数のシールリング162a、162b、162c及び162dが装着されている。各シールリング162a、162b、162c及び162dは、補強部材161の外周面上に形成された複数のシールリング用周溝161a、161c、161e及び161fにそれぞれ装着されている。
第1周溝161bの駆動源側には、第1周溝161aが形成されており、該第1周溝161aには、第1シールリング162aが装着されている。また、第1周溝161bと第2周溝161dの間には、第2周溝161cが形成されており、該第2周溝161cには、第2シールリング162bが装着されている。さらに、第2周溝41jの反駆動源側には、第3周溝161e、第4周溝161fが軸方向に所定の間隔を設けて形成されており、これら第3周溝161e、第4周溝161fには、第3シールリング162c、第4シールリング162dが装着されている。
すなわち、図6に示すように、嵌合部121bの連通路121g及び補強部材161の連通路161gは、補強部材161と回転部材141間に介装された一対のシールリング162a、162bによってその軸方向の両側がシールされた第1周溝161bに連通しており、連通路121hは、補強部材161の外周面と回転部材141の内周面の間であって、一対のシールリング162c、162dによってその軸方向の両側が挟まれた隙間161lに連通している。また、図5に示すように、連通路121fは、一対のシールリング162b、162cよってその軸方向の両側がシールされた第2周溝161dに連通している。なお、第1実施形態と同様に、隙間161lに連通する連通路121hは、締結油圧室155に連通する連通路121gよりも流路面積が小さくてもよい。
上述の回転部材141の径方向外方には、第1実施形態と同様の構成を有するクラッチ150が設けられている。
以上の構成により、第3実施形態では、油路121i、121j、121g、121hを介して第1周溝161bと隙間161lに油圧が供給されることにより、第2周溝161dの駆動源側と反駆動源側がシールリング162b、162cによってシールされる。
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態に係る自動変速機101が備えるクラッチ、例えばクラッチ150の周辺部分の構造を示す断面図である。図7を参照しながら、第4実施形態に自動変速機101について詳細に説明する。なお、第4実施形態において、第3実施形態と共通する構成については、説明を省略すると共に、図面に同一の符号を付している。
図7(a)に示すように、第4実施形態は、第1周溝161bと第2周溝161dとの間に、2組のシールリング162b1、162b2と、これらが装着される周溝161c1、161c2とが設けられている。補強部材161の外周面と回転部材141の内周面の間であって、これらシールリング162b1、162b2によってその軸方向の両側が挟まれた隙間161l2には、油圧供給源115から油圧保持バルブ116を介して所定圧以上に保持された状態で供給される密封油圧が支持壁121に形成された専用油路121i1、121j1、121h2を介して供給される。
また、第3実施形態と同様に、第1周溝161bの反駆動源側には、第4周溝161eと第5周溝161fが軸方向に所定間隔を設けて形成されており、これら第3周溝161eと第4周溝161fには、第4シールリング162cと第5シールリング162dがそれぞれ装着されている。連通路121h1は、補強部材161の外周面と回転部材141の内周面の間であって、一対のシールリング162c、162dによってその軸方向の両側が挟まれた隙間161l1に連通している。よって、隙間161l1には、油圧供給源115から油圧保持バルブ116を介して所定圧以上に保持された状態で供給される密封油圧が支持壁121に形成された専用油路121i1、121j1、121h1を介して供給される。
図7(b)に示すように、第3実施形態と同様に、一対のシールリング162a、162bによってその軸方向の両側がシールされ、締結油圧室155に連通する第1周溝161bには、連通路121gが連通している。この連通路121gには、支持壁121において上述の専用油路121i1、121j1とは異なる位相に形成された油路121i2、121j2を介して締結用油圧が供給される。
以上の構成により、第4実施形態では、専用油路121i1、121j1、121h1、121h2を介して隙間161l1、161l2に密封油圧が供給されることにより、周溝161dの駆動源側と反駆動源側がシールリング162b2、162cによってシールされる。
以上のように、本実施形態によれば、一対のシールリング42b、42c、162b、162cの両外側には、各シールリング42b、42c、162b、162cに密封油圧を供給するための第1油路(周溝21i、161c)及び第2油路(周溝21j、161e)をそれぞれ備え、これら第1油路及び第2油路の上流には、所定圧以上に密封油圧を保持するための油圧保持バルブ16、116を備えるので、オイル貯留部31、131をより低い位置に配置した場合にも、第1油路と第2油路に所定圧以上の密封油圧が付加されることで、一対のシールリング42b、42c、162b、162cのシール性を確保することができる。その結果、オイル貯留部31、131を高い位置に配置する必要がないので、シール性を確保しながら自動変速機1、101におけるオイル貯留部31、131のレイアウト性を向上させることができる。
また、本実施形態によれば、第1油路(周溝21i、161c)がクラッチ50、150に締結用油圧を供給するための締結油路であり、第2油路(周溝21j、161e)が締結油路上の油圧保持バルブ16、116の下流から分岐した分岐油路であるので、第1油路と第2油路で締結用油圧を元圧として油圧保圧バルブ16、116を共用できる。また、第1油路と第2油路はその分岐点の上流で油路を共有できる。その結果、異なる油圧供給源から各シールリング42b、42c、162b、162cに油圧を供給する場合に比べて、自動変速機1、101の構造を簡素化することができる。
さらに、本実施形態によれば、第1油路及び第2油路は、ライン圧を元圧として一対のシールリング42b、42c、162b、162cに供給される油圧を調圧するための油圧保持バルブ16、116を共用するので、異なる油圧供給源から油圧を供給する場合に比べて、自動変速機1、101の構造を簡素化することができる。また、ライン圧は調圧弁等を用いて減圧することができ、このライン圧を締結用油圧よりも低圧に減圧して供給すれば、締結用油圧を元圧とする場合に比べて、円筒部21bと嵌合部41a間に介装されたシールリング42b、42c、162b、162cにおける回転抵抗を低減することができる。その結果、燃費性能の向上に寄与することができる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
なお、第2、第4実施形態では、第1連通溝と第2連通溝との間に2つのシールリングを設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、1つのシールリングを設けてもよい。この場合、締結油圧室に連通する第1連通溝に所定圧以上の油圧が供給されるように、油圧保持バルブを介して油圧供給源の油圧を供給することが望ましい。
また、本実施形態では、当該変速機構に設けられた複数のクラッチのうち、所定のクラッチ50に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、変速機ケース11と一体的に設けられた支持壁に隣接している、他のクラッチに適用してもよい。
また、本実施形態では、油圧保持バルブ16、116の上流側に減圧弁18、118を設ける場合について説明したが、シールリング42b、42c、162b(162b2)、162cにおける回転抵抗が許容できる程度に十分に小さい場合には、この減圧弁18、118は設けなくてもよい。