JP2016207723A - 銅放熱材、銅放熱材用銅箔または銅合金箔、積層体、シールド材、電子機器及び銅放熱材の製造方法 - Google Patents

銅放熱材、銅放熱材用銅箔または銅合金箔、積層体、シールド材、電子機器及び銅放熱材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 良好な放熱性を有する銅放熱材を提供する。【解決手段】銅箔または銅合金箔上に厚みで2nm以上のグラフェン層が設けられ、レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面の面粗さSaが0.2μm以下である銅放熱材。【選択図】図2

Description

本発明は、銅放熱材、銅放熱材用銅箔または銅合金箔、積層体、シールド材、電子機器及び銅放熱材の製造方法に関する。
近年、電子機器の小型化、高精細化に伴い、使用される電子部品の発熱による故障等が問題となっている。特に、成長著しい電気自動車やハイブリッド電気自動車で用いられる電子部品には、バッテリー部のコネクタ等の著しく高い電流が流れる部品があり、通電時の電子部品の発熱が問題となっている。また、スマートフォンタブレットやタブレットPCの液晶には液晶フレームと呼ばれる放熱板が用いられている。この放熱板により、周辺に配置された液晶部品、ICチップ等からの熱を外部へ放出し、電子部品の故障等を抑制している。例えば、特許文献1には、リードフレームの放熱に接着剤付の銅条を貼り付けることが記載されている。また、特許文献2には、高分子フィルムを高温で熱処理して製造したグラファイトシートと金属薄板とをそれぞれ複数枚圧着、もしくは接着剤を使用して貼り合わせた放熱材が記載されている。
特開2001−237360号公報 特開2001−144237号公報
しかしながら、上述したような近年の電子機器の変化により、従来の液晶フレームでは、液晶部品、ICチップ等からの熱伝導による熱、輻射熱、対流熱等が籠もらないように外部へ良好に放出する機能について満足できなくなっている。これには電子機器の小型薄型化により、使用できる放熱材のサイズに制限を受けるようになった影響も大きい。
そこで、本発明は、良好な放熱性を有する銅放熱材を提供することを課題とする。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、面粗さを抑えた銅箔または銅合金箔表面に薄くグラフェンを形成することで、良好な放熱性を有する銅放熱材を提供することができることを見出した。
以上の知見を基礎として完成された本発明は一側面において、銅箔または銅合金箔上に厚みで2nm以上のグラフェン層が設けられ、レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面の面粗さSaが0.2μm以下である銅放熱材である。
本発明の銅放熱材は一実施形態において、導電率が80%IACS以上である。
本発明の銅放熱材は別の一実施形態において、引張強さが150MPa以上である。
本発明の銅放熱材は更に別の一実施形態において、引張強さが300MPa以上である。
本発明の銅放熱材は更に別の一実施形態において、厚みが35μm以下である。
本発明の銅放熱材は更に別の一実施形態において、前記銅箔または銅合金箔と前記グラフェン層との間に、アゾール類を有する表面処理層、シランカップリング処理層、及び、クロメート処理層のいずれか1種以上の表面処理層を有する。
本発明は別の一側面において、本発明の銅放熱材に用いる銅箔または銅合金箔であり、レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面の面粗さSaが0.2μm以下である銅放熱材用銅箔または銅合金箔である。
本発明の銅放熱材用銅箔または銅合金箔は一実施形態において、グラフェン層を塗布して乾燥させたときの熱伸縮が150ppm以下である。
本発明は更に別の一側面において、本発明の銅放熱材と、基板、筐体及び金属加工部材のいずれか一種との積層体である。
本発明は更に別の一側面において、本発明の積層体を備えたシールド材である。
本発明は更に別の一側面において、本発明の積層体または本発明のシールド材を用いて製造した電子部品、電子機器、液晶パネル、または、ディスプレイである。
本発明は更に別の一側面において、銅箔または銅合金箔の表面に、アゾール類を有する表面処理層、シランカップリング処理層、及び、クロメート処理層のいずれか1種以上の表面処理層を形成する工程と、前記銅箔または銅合金箔の表面に形成した表面処理層上に、グラフェン層を形成する工程とを含む銅放熱材の製造方法である。
本発明の銅放熱材の製造方法は一実施形態において、前記グラフェン層を、グラフェンが分散した液体を、前記銅箔または銅合金箔の表面に形成した表面処理層上に塗布し、乾燥することによって形成する。
本発明によれば、良好な放熱性を有する銅放熱材を提供することができる。
実施例の試料の上面模式図である。 実施例の試料の断面模式図である。
〔銅放熱材〕
本発明の銅放熱材は、銅箔または銅合金箔上に厚みで2nm以上のグラフェン層が設けられ、レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面の面粗さSa(表面の算術平均粗さ)が0.2μm以下である。ここで、本発明の銅放熱材に設けるグラフェン層は薄いものであるため、銅放熱材の表面粗さSaは、使用する銅箔または銅合金箔の表面粗さSaと同様であるとみなせる。そのため、表面のSaが0.2μmを超えるような銅放熱材を作製する場合、銅箔表面を覆うために必要なグラフェンが大量に必要となり製造コストが上昇するとともに、面内のグラフェン層の厚みが不均一となり、グラフェン層の厚みが極端に異なる境界付近で銅箔とグラフェン層との界面に空隙を生じやすくなり放熱性が低下するおそれがある。Saが0.15μm以下であればより好ましい。
本発明の銅放熱材は、導電率が80%IACS以上であるのが好ましい。導電率が80%IACS未満であると、銅放熱材の放熱性が不良となるおそれがある。銅放熱材の導電率は、より好ましくは85%IACS以上であり、更により好ましくは90%IACS以上である。
〔銅放熱材用銅箔または銅合金箔〕
本発明の銅放熱材用銅箔または銅合金箔に用いる銅または銅合金としては、典型的には、JIS H0500やJIS H3100に規定されるリン脱酸銅(JIS H3100 合金番号C1201、C1220、C1221)、無酸素銅(JIS H3100 合金番号C1020)及びタフピッチ銅(JIS H3100 合金番号C1100)、電解銅箔などの95質量%以上、より好ましくは99.90質量%以上の純度の銅が挙げられる。Sn、Ag、Au、Co、Cr、Fe、In、Ni、P、Si、Te、Ti、Zn、B、MnおよびZrの中の一種以上を合計で0.001〜4.0質量%含有する銅または銅合金とすることもできる。また、銅箔は圧延銅箔または電解銅箔のいずれでも良い。これ以降の説明において、銅箔は圧延銅箔、電解銅箔のいずれをも含み、銅箔、銅合金箔のいずれをも含むものとする。
銅箔の厚さについては特に制限はないが、例えば、用途別に適した厚さに適宜調節して用いることができる。例えば、1〜200μm程度あるいは2〜100μm程度とすることができる。特に回路を形成して使用する場合には35μm以下、電子機器内部のシールド材として用いる場合には70〜200μmといった厚い材料を使用したり、35μm以下の銅材を樹脂等の誘電体層を介して複数枚積層したものを適用することができ、特に上限の厚みを定めるわけではない。また、銅放熱材を使用する機器の軽量化や銅放熱材を成形することを考えた場合には、銅材の厚みは35μm以下とするのが好ましい。なお、シールド材は、それ単独でシールド用途に提供されるものであってもよく、他の部品と共に構成されることでシールド用途に提供されるシールド部品であってもよい。また、本発明のグラフェン層の厚みが非常に薄いため、上記銅箔の厚さはそのまま本発明の銅放熱材の厚さにも当てはまる。
本発明において使用する銅箔は、レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面粗さSa(表面の算術平均粗さ)が0.2μm以下であるのが好ましい。当該Saが0.2μmを超えると、銅箔表面を覆うために必要なグラフェンが大量に必要となり製造コストが上昇するとともに、面内のグラフェン層の厚みが不均一となり、グラフェン層の厚みが極端に異なる境界付近で銅箔とグラフェン層との界面に空隙を生じやすくなり放熱性が低下するおそれがある。Saが0.15μm以下であればより好ましい。
本発明において使用する銅箔の表面を所定のSaに制御するため、以下のように調整する。圧延銅箔の場合には、以下の式で表される油膜当量を制御して圧延されたものを用いる。
油膜当量={(圧延油粘度[cSt])×(通板速度[mpm]+ロール周速度[mpm])}/{(ロールの噛み込み角[rad])×(材料の降伏応力[kg/mm2])}
上記圧延油粘度[cSt]は40℃での動粘度である。
具体的には、最終冷間圧延の際の油膜当量を12000〜30000として圧延した圧延材を本発明の銅材として使用する。12000未満の場合、Saの値が小さくなりすぎる場合がある。30000超の場合はSaの値が大きくなりすぎる。
油膜当量を12000〜30000とするためには、低粘度の圧延油を用いたり、通板速度を遅くしたりする等、公知の方法を用いればよい。
また、電解銅箔の場合には以下の条件で製造することができる。
<電解液組成>
銅:90〜110g/L
硫酸:90〜110g/L
塩素:50〜100ppm
レべリング剤1(ビス(3スルホプロピル)ジスルフィド):10〜30ppm
レべリング剤2(アミン化合物):10〜30ppm
なお、本発明に用いられる電解、表面処理又はめっき等に用いられる処理液の残部は特に明記しない限り水である。
上記のアミン化合物には以下の化学式のアミン化合物を用いることができる。
(上記化学式中、R1及びR2はヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリール基、芳香族置換アルキル基、不飽和炭化水素基、アルキル基からなる一群から選ばれるものである。)
<製造条件>
電流密度:70〜100A/dm2
電解液温度:50〜60℃
電解液線速:3〜5m/sec
電解時間:0.5〜10分間
本発明において使用する銅箔は、グラフェン層を形成する際の乾燥で熱が加わるが、それによって強度が低下したとしてもハンドリング可能な強度、放熱板としての形状を維持できる強度を有していることが必要となる。具体的には、300℃で30分加熱した後の引張強さが150MPa以上あることが好ましい。150MPaを下回る場合、グラフェン層を形成する際に大きく変形したり、ハンドリングで折れたりする恐れがある。200MPa以上あればより好ましく、300MPa以上あれば更により好ましい。所定の強度に調整するには、圧延銅箔では合金元素の添加や結晶粒径の微細化、電解銅箔では添加剤の種類と量を調整すれば良い。また、グラフェン層を形成する際の乾燥で熱が加わるために、その加熱前後での寸法変化、すなわち熱伸縮率が適性値以下でなければならない。大きすぎると形成したグラフェンの熱伝導を低下させる。具体的には、銅箔にグラフェンの分散液を塗布して300℃で30分加熱することで乾燥させた場合において、箔製造工程における長手方向の熱伸縮率が150ppm以下であれば、グラフェン層を銅箔上に形成することによって放熱性が向上する。ここで熱伸縮率とは、加熱前の標点間距離をL、加熱後の同標点間距離をL’として、|L’-L|/Lで計算される値を言う。ここで、標点間距離とは、まず50mm離れた位置を目安に印(通常、硬さ計で打った微小の圧痕)をつけ、次に顕微鏡を備えた座標を測定できる装置で、2つの印の座標を1/1000mm単位まで測定して計算した2点間の距離である。
当該熱伸縮率は100ppm以下であればなお良い。所定の熱伸縮率に制御するため、圧延銅箔では被加工材が加熱と冷却される工程での張力を調整したり、最終的に熱を加えたりすれば良い。電解箔ではドラムから剥離する角度や剥離する際の張力を調整したり、圧延銅箔と同様に最終的に熱を加えれば良い。
本発明の銅放熱材は、銅箔または銅合金箔とグラフェン層との間に、アゾール類を有する表面処理層、シランカップリング処理層、及び、クロメート処理層のいずれか1種以上の表面処理層を有することが好ましい。
アゾール類を有する表面処理層を形成するための表面処理としては、アゾール類を含む窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物のいずれか1種以上を用いて処理することが好ましい。例えば、具体的な窒素含有有機化合物としては、置換基を有するトリアゾール化合物である1,2,3−ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H−1,2,4−トリアゾール及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等を用いることが好ましい。また、硫黄含有有機化合物には、メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム、チオシアヌル酸及び2−ベンズイミダゾールチオール等を用いることが好ましい。
シランカップリング処理層を形成するために用いるシランカップリング剤には、公知のシランカップリング剤を用いてよく、例えばアミノ系シランカップリング剤又はエポキシ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤を用いてよい。また、シランカップリング剤にはビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いてもよい。
シランカップリング処理層を形成するために用いるシランカップリング剤には、エポキシ系シラン、アミノ系シラン、メタクリロキシ系シラン、メルカプト系シランなどのシランカップリング剤などを使用してもよい。なお、このようなシランカップリング剤は、2種以上混合して使用してもよい。中でも、アミノ系シランカップリング剤又はエポキシ系シランカップリング剤を用いて形成したものであることが好ましい。
ここで言うアミノ系シランカップリング剤とは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル−3−アミノプロピル)トリス(2−エチルヘキソキシ)シラン、6−(アミノヘキシルアミノプロピル)トリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ω−アミノウンデシルトリメトキシシラン、3−(2−N−ベンジルアミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N,N−ジエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、(N,N−ジメチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択されるものであってもよい。
シランカップリング処理層は、ケイ素原子換算で、好ましくは0.05mg/m2〜200mg/m2、より好ましくは0.15mg/m2〜20mg/m2、更により好ましくは0.3mg/m2〜2.0mg/m2の範囲で設ける。前述の範囲の場合、銅放熱材に用いられる銅箔または銅合金箔とグラフェン層との密着性をより向上させることができる。
クロメート処理層とは、無水クロム酸、クロム酸、二クロム酸、クロム酸塩または二クロム酸塩を含む液で処理された層のことをいう。クロメート処理層はコバルト、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタン等の元素(金属、合金、酸化物、窒化物、硫化物等どのような形態でもよい)を含んでもよい。クロメート処理層の具体例としては、無水クロム酸または二クロム酸カリウム水溶液で処理したクロメート処理層や、無水クロム酸または二クロム酸カリウムおよび亜鉛を含む処理液で処理したクロメート処理層等が挙げられる。
アゾール類を有する表面処理層、シランカップリング処理層、及び、クロメート処理層は、いずれか1種以上が設けられていれば良いが、グラフェンを分散させた液体を塗布後に乾燥する温度において分解や蒸発が急激に起きないように設けることがより好ましい。
〔グラフェン層〕
本発明において使用するグラフェンは、人造黒鉛や天然黒鉛から剥離する方法、銅やニッケルなどの基板上に熱CVDで製造する方法、あるいは同じCVDでも基板を使用せずに気流中でグラフェンを合成する方法、更には人造黒鉛や天然黒鉛を強酸中で酸化させた酸化黒鉛を還元する方法等で製造することができる。得られたグラフェンは単層でも良く、数層からなる複層グラフェンでも良く、これらが混在するものでも良い。一方で、グラフェンはファンデルワールス力が大きいことから、容易に積層し黒鉛構造となり易い。従って、銅箔上或いは銅箔表面に形成した表面処理層上にグラフェン層を形成するときは、グラフェンを分散させて塗布することが重要である。グラフェンの分散液には界面活性剤を添加した水、ジメチルホルムアミド(DMF)、イソプロピルアルコール(IPA)、N−メチルピロリドン(NMP)、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などが好ましい。分散状態のグラフェンが10層以上に積層していないことが好ましい。このような状態を得るには、上述の分散液を使用する前に超音波洗浄機等にて凝集状態を破壊し、その状態を保ったままグラビア印刷やバーコーティング等で銅箔に塗布することができる。特にスプレーにて銅箔表面にコーティングすると銅箔の凹凸の影響を受け難く、表面プロファイルに沿って均一な厚みの塗布が可能である。そして、直ちに乾燥することがグラフェンの積層を抑える上で好ましい。形成されたグラフェン層の厚みは、2nm未満であれば放熱性の銅箔単体からの向上は小さく、一方、2nm以上になると放熱性の向上が大きくなる。この差の理由は不明であるが、グラフェン層の特定の厚み、つまり、特定のグラフェン層数によって当該層の熱伝導率が大きく変化すること、グラフェン層数が一定厚み以上になると輻射の観点で放熱性向上に寄与し始め、その境界厚みが2nmにあると考えられる。グラフェン層の厚みは、5nm以上であればより好ましく、10nm以上であれば更により好ましく、典型的には2〜2000nmである。グラフェン層の厚みは、数10nm以下であれば透過電子顕微鏡で測定することができ、それ以上の厚みであれば、走査型電子顕微鏡で観察した放熱材の断面像から求めることができる。
〔積層体、シールド材、電子機器等〕
本発明の銅放熱材を樹脂基板等の基板に貼り合わせてシールドテープをはじめとするシールド材、シールド部品等の積層体を製造することができる。また、必要であればさらに当該銅放熱材を加工して回路を形成することにより、プリント配線板等を製造することができる。樹脂基板としては、例えば、リジッドPWB用に紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂等を使用し、FPC用やテープ用としてポリエステルフィルムやポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)、PETフィルム等を使用する事ができる。また、本発明の銅放熱材を、基板、筐体(カバー、ケース、箱等)及び金属加工部材(構造板、補強材、カバー等)のいずれか一種と積層されて積層体を作製することができる。本発明の銅放熱材は発熱体からの熱の吸収性及び吸収した熱の放熱性が良好であるため、放熱用銅放熱材として非常に優れており、放熱板として用いることが特に好ましい。また、本発明の積層体を用いてシールド材を作製することができる。また、当該積層体または当該シールド材を用いて電子部品、電子機器、液晶パネル、または、ディスプレイを作製することができる。
・実施例1〜13、比較例3〜7
実施例1〜13、比較例3〜7として、表1及び2に記載の厚みを有する各種銅箔を表1及び2に記載の工程およびその際の特徴的な条件、並びに表1及び2に記載の表面処理を行い準備した。これらの銅箔の面粗さSa、導電率、300℃で30分加熱後の引張強さ、並びに熱伸縮率も表1及び2に記載する。なお、表面処理層及びグラフェン層は、銅箔に対して非常に薄いものであるため、銅箔の面粗さSa、導電率、300℃で30分加熱後の引張強さ、並びに熱伸縮率への影響は無視することができる。そのため、当該銅箔の各特性は、銅放熱材の各特性であるとみなすことができる。
ここで、表1及び2の各表面処理方法について以下に詳述する。
・条件1:下記(1)〜(4)をこの順で行う。
(1)銅箔酸洗(10体積%硫酸溶液)に30秒浸漬
(2)水洗
(3)0.5体積%酢酸水溶液に対して0.1質量%で3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを溶かした液に10秒浸漬
(4)80℃×30秒乾燥
・条件2::下記(1)〜(4)をこの順で行う。
(1)銅箔酸洗(10体積%硫酸溶液)に30秒浸漬
(2)水洗
(3)純水に対して、0.5質量%のカルボキシベンゾトリアゾールを溶かした液に10秒浸漬
(4)80℃×30秒乾燥
・条件3::下記(1)〜(4)をこの順で行う。
(1)銅箔酸洗(10体積%硫酸溶液)に30秒浸漬
(2)水洗
(3)純水に対して0.1質量%でN−2−(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランを溶かした液に10秒浸漬
(4)80℃×30秒乾燥
・条件4:以下の条件で電解クロメート処理を行う。
重クロム酸カリウム:1〜10g/L
pH:7〜10
液温:40〜60℃
電流密度:2A/dm2
次に、当該銅箔上にグラフェン層を形成した。グラフェンの合成方法、グラフェンの分散液、グラフェンの塗布方法、並びに電子顕微鏡観察結果から計算した乾燥後のグラフェン層の厚みも表1及び2に示す。グラフェン分散液において、NMPは、N-メチルピロリドンを示し、IPAはイソプロピルアルコールを示す。
ここで、表1及び2の各グラフェン合成方法について以下に詳述する。
・CVD:石英管中で触媒となる金属銅を加熱し、その中にメタンガスをキャリアとなる水素ガスとともに導入し、熱分解でグラフェンを合成する。
・剥離:NMP中に黒鉛粉を分散させ、超音波をかけてグラフェンを剥離、その後遠心分離によって残ったグラファイトを完全に分離する。この方法では溶媒を選択することでグラフェンが分散した液を直接得ることができる。
・黒鉛酸化:黒鉛粉を強酸である過マンガン酸カリウム液中で酸化し、水酸基を含む水溶性の酸化グラファイト/グラフェン(コロイド溶液)を合成し、これに還元剤となるヒドラジンを加えて還元する。
また、表1及び2のグラフェン層の形成方法について以下に詳述する。
・バーコート:ステンレス棒にステンレス線を巻いたウエット厚みが4μmとなるスパイラルバーコーターを使用してグラフェン分散液(0.1〜2.0mg/mlの濃度でグラフェンを含有)にバインダー成分(分散液が有機溶剤の場合は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、水の場合は、スチレン−ブタジエンゴム(SBR))を体積分率で1.0〜5.0%添加した混合液を銅箔上に薄く延ばし、分散液およびバインダーに適した所定の温度で乾燥する。
・スプレーコート:グラフェン分散液(0.1〜2.0mg/mlの濃度でグラフェンを含有)をそのまま薬液として、圧力調整したエアーで、塗布したい領域に合わせたノズル(例えば扇型、スリット型、コーン型等)で塗布後、分散液に適した所定の温度で乾燥した。グラフェン層の厚みは薬液の注入量、エアー圧力で調整する。
・CVD:グラフェンの合成方法で示したCVDと同様に実施する。グラフェン層の厚みは、触媒となる銅箔の温度、原料となるメタン等の炭化水素化合物やアルコール類のガスの濃度や合成時間で調整する。
・比較例1
比較例1は、表面処理層の形成までは実施例3と同じで、グラフェン層を形成せずに銅放熱材とした。
・比較例2
比較例2は、表面処理層の形成までは実施例6と同じで、グラフェン層を形成する手段として当該銅箔を基板としてチャンバー内で1000℃に加熱したところにメタンガスと水素との混合ガスを流し、ほぼ単層グラフェンからなるグラフェン層を形成し、そのまま銅放熱材とした。
・輻射率、放熱性の評価
以下の条件で、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により、銅放熱材表面の反射率スペクトルを測定し、輻射率を算出した。
(1)反射率測定
上記試料の光の波長ごとの反射率を以下の条件により測定した。測定は試料の測定面内で、測定する向きを90度変えて2回行った。
測定装置:IFS-66v(Bruker社製FT-IR、真空光学系)
光源:グローバー(SiC)
検知器:MCT(HgCdTe)
ビームスプリッター:Ge/KBr
測定条件:分解能=4cm-1
積算回数=512回
ゼロフィリング=2倍
アポダイゼーション=三角形
測定領域=5000〜715cm-1(光の波長:2〜14μm)
測定温度=25℃
付属装置:透過率・反射率測定用積分球
ポート径=φ10mm
繰り返し精度=約±1%
反射率測定
入射角:10度
参照試料:diffuse gold(Infragold-LF Assembly)
スペキュラーカップ(正反射成分除去装置)取り付けなし
(2)輻射率の計算方法
試料面に入射してきた光は、反射、透過するほか内部で吸収される。吸収率(α)(=輻射率(ε))、反射率(r)、透過率(t)には次の式が成り立つ。
ε+r+t=1(A)
輻射率(ε)は次式のように反射率、透過率から求めることができる。
ε=1−r−t(B)
試料が不透明である、厚くて透過が無視できるといった場合、t=0となり輻射率は反射率のみで求まる。
ε=1−r(C)
本試料では赤外光が透過しなかったため、(C)式を適応し、光の波長ごとの輻射率が算出される。
(3)FT-IRスペクトルからの輻射率の計算
2回測定を行った結果の平均値を、反射率スペクトルとした。なお、反射率スペクトルはdiffuse goldの反射率にて補正した(表示波長領域:2〜14μm)。
ここで、プランクの式より求めたある温度での黒体の放射エネルギー分布から、各波長λにおけるエネルギー強度をE、各波長λでの試料の輻射率をελとすると、試料の放射エネルギー強度Eは、E=ελ・Eで表される。本実施例では、当該式:E=ελ・Eで得られた25℃における各試料の放射エネルギー強度Eを求めた。
また、ある波長領域における黒体および試料の全エネルギーは、その波長範囲におけるE,Eの積分値で求められ、全輻射率εはその比で表される(下記式A)。本実施例では当該式を用いて25℃における波長領域2〜14μmでの各試料の全輻射率εを算出した。そして得られた全輻射率εを各試料の輻射率とした。
・放熱性の評価
図1及び図2に示すように、縦d2×横w2×厚みh2=50mm×100mm×0.2mmの基板(Mg合金ダイカスト)表面の中央に、縦d1×横w1×厚みh1=5mm×5mm×1mmの発熱体(電熱線を樹脂で固めた発熱体、ICチップに相当)を設けた。次に、基板の発熱体と反対側の表面に、接着剤層(縦d3×横w3×厚みh3=50mm×100mm×0.03mm)を設け、更に本実施例、比較例における銅放熱材(放熱箔とも言う:縦d4×横w4×厚みh4=50mm×100mm×表1及び2に記載の銅又は銅合金箔の厚み)をグラフェン層が形成されている面とは反対側の面側から前記接着剤層に貼り付けた。そして、発熱体の中央部と、銅放熱材の接着剤層と貼りついている面とは反対側の面も、発熱体の中央部に対応する箇所とに熱電対を設置した。図1に、当該試料の上面模式図を示す。図2に、当該試料の断面模式図を示す。
次に、発熱体に発熱量が0.5Wとなるように電流を流した。そして、発熱体の上面の中央部の温度が一定の値となるまで電流を流した。ここで、発熱体の上面の中央部の温度が10分間変化しなかった時点で、上面の中央部の温度が一定の値となったと判断した。なお、外部環境温度は20℃とした。そして、発熱体の上面の中央部の温度が一定の値となってから30分間保持後、上記銅放熱材に設置した熱電対の表示温度を測定した。そして、熱電対の表示温度が低い方が良好であると判定した。なお、前記銅放熱材の接着剤層と積層されている面とは反対側の面も、発熱体の中央部に対応する箇所が、銅放熱板において最も温度が高い箇所であった。
・グラフェン層の厚みの評価
グラフェン層の厚みは、数10nm以下のものは透過電子顕微鏡で測定し、それ以上の厚みのものは走査型電子顕微鏡で観察した放熱材の断面像から求めた。
・ハンドリング性の評価
グラフェン分散液を当該銅箔上に塗布し、乾燥した後の銅箔のオレやシワの有無、グラフェン層形成後の銅箔の取り扱いでオレやシワが生じるかによって、◎:軽微なシワも入り難いもの、〇:軽微なシワは入るが折れ難いもの、△:軽微なオレが入る場合があるもの、×:どのようにしてもオレやシワが強く入るものに分類した。
上記各試験の条件及び試験結果を表1及び2に示す。
(評価結果)
実施例1〜13は、いずれも放熱性が良好であった。ただし、実施例5は300℃で30分加熱後の引張強さが150MPaを若干下回っているため、グラフェンを形成する際や銅放熱板を電子機器に組み込む際のハンドリングに注意が必要となる。また、実施例12は、導電率が80%IACSを下回る銅合金をベースに用いるために厚みを厚くすることで放熱性が得られた。成形加工される用途には向かないことも考えられる。
比較例1〜3、6、7はグラフェン層の厚みが2nm以上の範囲外であり、実施例に比べて放熱性が不良であった。更に比較例2は銅箔を基板として高温CVDでグラフェンを合成したそのものを銅放熱材としたため、ハンドリング性も悪かった。
比較例4と5は、銅箔の面粗さSaが0.2μm以下の範囲外であり、実施例に比べて放熱性が不良であった。

Claims (13)

  1. 銅箔または銅合金箔上に厚みで2nm以上のグラフェン層が設けられ、レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面の面粗さSaが0.2μm以下である銅放熱材。
  2. 導電率が80%IACS以上である請求項1に記載の銅放熱材。
  3. 引張強さが150MPa以上である請求項1または2に記載の銅放熱材。
  4. 引張強さが300MPa以上である請求項3に記載の銅放熱材。
  5. 厚みが35μm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅放熱材。
  6. 前記銅箔または銅合金箔と前記グラフェン層との間に、アゾール類を有する表面処理層、シランカップリング処理層、及び、クロメート処理層のいずれか1種以上の表面処理層を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の銅放熱材。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の銅放熱材に用いる銅箔または銅合金箔であり、
    レーザー光の波長が405nmであるレーザー顕微鏡で測定した表面の面粗さSaが0.2μm以下である銅放熱材用銅箔または銅合金箔。
  8. グラフェン層を塗布して乾燥させたときの熱伸縮が150ppm以下である請求項7に記載の銅放熱材用銅箔または銅合金箔。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の銅放熱材と、基板、筐体及び金属加工部材のいずれか一種との積層体。
  10. 請求項9に記載の積層体を備えたシールド材。
  11. 請求項9に記載の積層体または請求項10のシールド材を用いて製造した電子部品、電子機器、液晶パネル、または、ディスプレイ。
  12. 銅箔または銅合金箔の表面に、アゾール類を有する表面処理層、シランカップリング処理層、及び、クロメート処理層のいずれか1種以上の表面処理層を形成する工程と、
    前記銅箔または銅合金箔の表面に形成した表面処理層上に、グラフェン層を形成する工程と、
    を含む銅放熱材の製造方法。
  13. 前記グラフェン層を、グラフェンが分散した液体を、前記銅箔または銅合金箔の表面に形成した表面処理層上に塗布し、乾燥することによって形成する請求項12に記載の銅放熱材の製造方法。
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