JP2016205827A - 癌を検出する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ムチン−1を修飾するO型糖鎖を用いて癌を検出する方法を提供する。【解決手段】試料中の癌関連構造の糖鎖を有するムチン−1の量を、癌関連構造の糖鎖(A)を認識する抗体及び癌関連構造の糖鎖(B)を認識する抗体を使用して測定し、早期膵臓癌を検出する。(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、Galβ1→3GalNAcα−、及びGalNAcα−からなる群より選択される1種以上;(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及びNeu5Acα2→6GalNAcα−からなる群より選択される1種以上【選択図】図8
Description
本発明は、糖タンパク質ムチンの中でも、修飾されている糖鎖の異なるムチン−1(Mucin−1、以下、「MUC1」とも称する)を測定することを特徴とする癌を検出する方法に関する。
ムチンの一種であるMUC1は、腫瘍関連抗原であり、多くの腺癌で発現する高分子量糖タンパク質である。この糖タンパク質は、膜糖タンパク質であり、細胞外ドメインには、セリン、トレオニンおよびプロリンに富む20個のアミノ酸コア配列(以下「リピート配列」とも称する:HGVTSAPDTRPAPGSTAPPA(配列番号1))の30〜90タンデム型反復から構成される領域が存在する。リピート配列の反復回数は、個体によって異なり、遺伝的に決定され、サイズ多型を生じる。リピート配列内にはO型糖鎖修飾可能なアミノ酸であるセリン、トレオニンが計5個あり、それぞれのアミノ酸にO型糖鎖が付加することは可能であるが、付加しているO型糖鎖の種類や、付加しているアミノ酸の部位は、癌の種類によって様々な組み合わせがあり、不均一であるといわれている。
一般的に、癌ではMUC1を修飾するO型糖鎖付加量が減少した結果としてペプチド骨格のコア配列が露出することが知られ、露出したペプチド骨格に対する抗体を用いた免疫診断が確立されている。特に、乳癌の腫瘍マーカーとして臨床利用されているCA15−3は、血流中のO型糖鎖付加量の減少したMUC1を測定する診断マーカーの一例である。しかしながら、CA15−3は、早期の乳癌では測定値が上がらないために、早期発見には適さないマーカーと見なされており、乳癌患者に対しては主に治療効果を判定する目的で利用されている。このことは、MUC1のO型糖鎖付加量の減少という変化は、癌の初期段階では顕著ではないことを示唆している。
一方で、癌細胞が癌特異的な糖鎖をもつ糖タンパク質を分泌するため、糖鎖の変化、即ち「癌特異的な糖鎖」を検出することで、癌の診断が可能であることは良く知られている。実際に臨床利用されている糖鎖の変化を利用したマーカーとして、CA19−9、SLX、CA74−2等が挙げられる。このような糖鎖の変化は、癌細胞において糖鎖の生合成に関わる糖転移酵素群の発現・活性調節の変化がおき、結果として健常者には発現しない糖鎖が血流中に出現すると考えられている。このような糖鎖の変化は、癌細胞の置かれている環境に影響を受けて生じる現象であることが強く示唆されており、比較的早期の癌細胞でも起きていると考えられているため、癌の早期発見診断マーカーとして注目されている。ムチンを修飾するO型糖鎖も同様に糖転移酵素の発現変化の結果、癌特異的な糖鎖へ変化することが知られ、一般的に健常者では嵩高い構造の糖鎖であるものが、癌患者では1〜3糖で構成される小型の構造の糖鎖となっていると考えられている。前述の糖鎖の変化を利用したマーカー、CA19−9、SLX、CA74−2等は、癌特異的な構造の糖鎖のみを認識する抗体を使用した免疫学的検出法である。従って、癌特異的な糖鎖が付加したタンパク質部分は多様であるため、臓器特異性の低さの一因となっている。
このように、癌の検出においてムチン特にMUC1の糖鎖に関連した変化を捉えるマーカーが実用化されているが、それぞれ欠点があるといえる。
これらの問題は、MUC1上の特定の糖鎖の変化を検出することで、改善する可能性がある。特許文献1にはこのような試みがなされ、MUC1の露出したペプチド骨格に対する抗体と、糖鎖に特異的な抗体を組み合わせることで胃癌及び肺癌が検出できるとされている。しかしながら、測定系に使われる一方の抗体は癌の早期には出現しないペプチド骨格が露出したMUC1を認識する抗体であるため、このような抗体の組み合わせでは早期癌を感度良く検出できないと推定される。
糖鎖を抗原認識部位の一部とするMUC1を特異的に認識する抗体としては、MY.1E12やKL6が知られている。さらに、特許文献2では、配列番号1で示されたMUC1のリピート配列中の9番目のトレオニンに特定の糖鎖が付加した場合に結合する、比較的特異性の高い抗体1B2が提供され、1B2−1B2サンドイッチイムノアッセイが行われている。一方、特許文献3では、配列番号1で示されたMUC1のリピート配列に特定の糖鎖が結合した場合に結合する比較的特異性の高い抗体12D10が提供され、12D10−12D10サンドイッチアッセイが行われている。しかしながらこれらの抗体を使用した癌の診断も、MUC1のコア構造を認識する抗体と同様に臓器特異性が低いという問題があり、糖鎖を抗原認識部位の一部とするMUC1認識抗体を使用した特定の癌に対する性能の良い診断方法は提供されていない。
非特許文献1によれば、膵臓癌もまたMUC1を発現していると報告がある癌の一つである。膵臓癌は、自覚症状の乏しい癌であるため早期発見の難しい癌の1つである。膵臓癌でよく利用されるCA19−9抗原もムチン類の糖鎖であると古くから認識されていたが、最近の研究では必ずしもムチン類に結合した構造のみを測定しているわけではないことが明らかとなっている。また膵臓癌は、血中のO型糖鎖付加量の減少したMUC1を測定するCA15−3では早期発見できないことも知られている。MUC1を修飾するO型糖鎖の変化を指標とした膵臓癌の診断技術、特に早期の膵臓癌を発見する方法は報告されていない。
British Journal of Cancer (2004)91,1633−1638
本発明は、MUC1を修飾するO型糖鎖を用いて癌を検出する方法を提供することを目的とする。
本発明者は上記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、以下の通りである。
(1)被検体由来の試料中に含まれる癌関連構造の糖鎖を有するMUC1の量を、癌関連構造の糖鎖(A)を認識する抗体及び癌関連構造の糖鎖(B)を認識する抗体を使用して測定することを特徴とする、癌の検出方法。
(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、
Galβ1→3GalNAcα−、及び
GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、
Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及び
Neu5Acα2→6GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(但し、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンを示す)
(2)癌関連構造の糖鎖がMUC1のリピート配列(配列番号1)に結合している、(1)に記載の方法。
(3)前記の癌が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記の癌が早期の膵臓癌である、(1)〜(3)いずれかに記載の方法。
(5)下記の癌関連構造の糖鎖(A)を有するMUC1を認識する抗体、及び下記の癌関連構造の糖鎖(B)を有するMUC1を認識する抗体を含有することを特徴とする、癌の検出キット。
(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、
Galβ1→3GalNAcα−、及び
GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、
Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及び
Neu5Acα2→6GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(但し、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンを示す)
(6)前記の癌が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌である、(5)に記載の癌の検出キット。
(7)前記の癌が早期の膵臓癌である、(5)又は(6)に記載の癌の検出キット。
(1)被検体由来の試料中に含まれる癌関連構造の糖鎖を有するMUC1の量を、癌関連構造の糖鎖(A)を認識する抗体及び癌関連構造の糖鎖(B)を認識する抗体を使用して測定することを特徴とする、癌の検出方法。
(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、
Galβ1→3GalNAcα−、及び
GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、
Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及び
Neu5Acα2→6GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(但し、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンを示す)
(2)癌関連構造の糖鎖がMUC1のリピート配列(配列番号1)に結合している、(1)に記載の方法。
(3)前記の癌が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記の癌が早期の膵臓癌である、(1)〜(3)いずれかに記載の方法。
(5)下記の癌関連構造の糖鎖(A)を有するMUC1を認識する抗体、及び下記の癌関連構造の糖鎖(B)を有するMUC1を認識する抗体を含有することを特徴とする、癌の検出キット。
(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、
Galβ1→3GalNAcα−、及び
GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、
Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及び
Neu5Acα2→6GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(但し、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンを示す)
(6)前記の癌が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌である、(5)に記載の癌の検出キット。
(7)前記の癌が早期の膵臓癌である、(5)又は(6)に記載の癌の検出キット。
本発明の方法により、癌を検出することができる。
以下に本発明を更に詳細に説明する。本発明の検出方法は、上述の方法により癌関連構造の糖鎖を有するMUC1を測定し、得られた値から癌を検出することを特徴とするものである。
ここで「癌関連構造の糖鎖を有するMUC1」とは、癌組織または癌細胞において高発現している構造の糖鎖を有するMUC1をいう。この構造は、正常組織や正常細胞において発現量が低いことが知られている。このような癌関連構造の糖鎖としては、例えば、Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、Galβ1→3GalNAcα−、GalNAcα−、Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及びNeu5Acα2→6GalNAcα−などを挙げることができる。
このとき、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸であり、Galはガラクトースであり、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンである。
さらに、本明細書において、糖鎖の結合様式について、Neu5Acα2→3Galは、Neu5Acの2位とGalの3位とがα−グリコシド結合することを示し、Galβ1→3GalNAcは、Galの1位とGalNAcの3位とがβ−グリコシド結合することを示し、Neu5Acα2→6GalNAcは、Neu5Acの2位とGalNAcの6位とがα−グリコシド結合することを示し、Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcは、Neu5Acの2位とGalNAcの6位がα−グリコシド結合したGalNAcの3位とGalの1位とがβ−グリコシド結合することを示す。
本発明において「癌関連構造の糖鎖を有するMUC1」として、より好ましくは、癌関連構造の糖鎖として(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、Galβ1→3GalNAcα−、及びGalNAcα−から選択される1種以上の糖鎖及び、癌関連構造の糖鎖として(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及びNeu5Acα2→6GalNAcα−から選択される1種以上の糖鎖のそれぞれを同一分子内に有するMUC1である。
このとき前記糖鎖(A)及び前記糖鎖(B)は、還元末端側のGalNAcを介してMUC1のアミノ酸残基に結合している。特に前記糖鎖(A)は、MUC1のリピート配列(配列番号1)に結合していることが好ましく、具体的にはリピート配列のセリン残基又はトレオニン残基に結合していることが好ましい。中でもリピート配列(配列番号1)の9番目のトレオニンに結合していることがさらに好ましい。また前記糖鎖(B)もMUC1のリピート配列(配列番号1)に結合していることが好ましい。
癌関連構造の糖鎖を有するMUC1の測定方法として、本発明では前記糖鎖(A)を認識する抗体及び前記糖鎖(B)を認識する抗体を組み合わせて用いる。但し、その2種類の抗体の少なくとも一方は、MUC1のアミノ酸をも認識する抗体を用いることができる。また両方の抗体がMUC1のアミノ酸配列をも認識してもよい。これにより前記糖鎖(A)及び前記糖鎖(B)を同一分子内に有するMUC1を確実に測定することができる。
このような2種類の抗体を用いた測定方法としては、例えば2種類の抗体を用いたサンドイッチ法や、一方の抗体で免疫沈降させ、次いで他方の抗体で免疫染色する免疫沈降/免疫染色法などをあげることができる。
ここで前記「サンドイッチ法」とは、抗原に対して特異的に結合する2つの抗体を抗原に反応させて抗原を追跡する方法である。例えば、使用される抗体の一方を担体に結合した状態にし、試料中の抗原と反応させて抗原を補足し、またもう一方の抗体も抗原に反応させて、抗原抗体複合体を形成する方法である。形成された抗原抗体複合体は、少なくとも1つの抗体を標識するか、または二次抗体を反応させることによって検出される。MUC1のように抗原エピトープが多価の分子を検出する場合は、同一の抗体を用いてサンドイッチすることも可能である。抗原に対して2つの抗体を同時に反応させる方法や、順次反応させる方法等があるが、順次反応させる方法の方が好ましい。
また前記「免疫沈降/免疫染色法」の「免疫沈降」法とは、抗体によって目的の抗原を、溶液中から特異的に沈降せしめる方法のことをいう。例えば、抗体をセファロースなどの高分子からなる粒子状の担体と結合して使用することで、容易に抗原を精製及び検出することができる方法である。また前記「免疫沈降/免疫染色法」の「免疫染色法」とは、タンパク質を電気泳動等によって分子量や等電点などのタンパク質の性質に応じて分離した後に、疎水性の高い膜に転写されたタンパク質を抗体によって検出する免疫学的手法のことをいう。本発明ではこれらの免疫沈降法と免疫染色法とを組み合わせて用いることができる。
本発明において、抗体とは、天然型の抗体、その断片、及び/又はその化学修飾誘導体を含むものである。
本発明に用いられる抗体は特に限定されるものではないが、公知の手法(例えば特許文献1,2に記載の方法)で作製することができる。中でも、MUC1のリピート配列(配列番号1)の9番目のトレオニンに前記糖鎖(A)が結合した構造を認識する抗体が好ましく、このような抗体の一例として、特許文献1に抗体1B2が記載されている。またMUC1のリピート配列(配列番号1)に前記糖鎖(B)が結合した構造を認識する抗体が好ましく、このような抗体の一例として特許文献2に抗体12D10が記載されている。
本発明に用いられる被検体由来の試料は特に限定されるものではないが、例えば血清、血漿、腹水、リンパ液、髄液等があげられるが、特に癌が疑われる患者の体液(血清、血漿等)が好ましい。
本発明の方法により、膵臓癌、胃癌、胆管癌、又は前立腺癌を検出することができる。例えば、予め算出されたカットオフ値よりも被検体の癌関連構造の糖鎖を有するMUC1量の値が大きいとき、被検体が膵臓癌、胃癌、胆管癌、前立腺癌のいずれかに罹患しているもしくはその可能性がある、と検出(又は決定)することができる。
より具体的には、被検体由来の試料中に含まれる癌関連構造の糖鎖を有するMUC1の量を、前記癌関連構造の糖鎖(A)を認識する抗体及び前記癌関連構造の糖鎖(B)を認識する抗体を使用して測定する工程およびその測定値がカットオフ値よりも大きい場合に前記試料が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌患者由来であるとする工程を含む、膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌の検出方法があげられる。ここで、前記のカットオフ値としては7.63U/mlを例示することができる。
特に膵臓癌に関しては、本発明の方法により早期の膵臓癌を検出することができる。また前立腺癌に関しても、本発明の方法により早期の前立腺癌を検出することができる。ここで、早期の膵臓癌とはステージ1の段階の膵臓癌を意味する。
本発明には前記糖鎖(A)を有するMUC1を認識する抗体、及び前記糖鎖(B)を有するMUC1を認識する抗体を含むキットも含まれる。本キットを用いることで癌の検出を容易に行うことが可能となる。
一般的に、腺癌といわれる癌を罹患した患者では、血液中のCA15−3抗原量が増加することが知られている。体外診断薬メーカーから市販されているCA15−3抗原の測定に利用される免疫診断試薬を構成する成分である抗CA15−3抗体の認識部位は、Tumour Biol.(1998)19,Suppl 1:1−20にまとめられている。この報文によれば、CA15−3の測定に利用される抗体の多くが、糖タンパク質MUC1の母核構造のペプチド部分を認識する抗体であるとされている。即ち、癌患者の血液中におけるCA15−3量増加のメカニズムは、癌組織の進展度に応じてMUC1を修飾するO型糖鎖の付加量が減少することにより、抗CA15−3抗体の認識エピトープつまりタンパク質母核構造部分が露出したMUC1が血液中に増加することである。CA15−3の測定値は、癌の早期には上昇しないことから、臨床的には治療効果のモニタリング用途として利用されることが多い。この事実は、早期の癌細胞が発現するMUC1のO型糖鎖付加量が「減少していない」状態であり、O型糖鎖不可量の減少はより進行した癌を持つ患者で起きる現象であるということが可能である。
一方で、組織の癌性変化に伴ってMUC1上のO型構造の糖鎖が変化していることも、良く知られている事実である。PNAS(2014)111、E4066−E4075によれば、癌の進展応じてMUC1のO型構造の糖鎖自体が、健常者もしくは正常な組織に発現するMUC1に比べて小型化している(Truncated)ということが知られている。即ち、健常者もしくは正常な組織に発現するMUC1のO型糖鎖は、コア2型構造をもつO型糖鎖に代表される分岐構造や伸長した嵩高い構造の糖鎖であるのに対し、癌患者では1から3糖程度で構成されたコア1型O型構造の糖鎖が増加すると広く知られている。この癌性変化の結果、MUC1上のO型構造の糖鎖は、一般的に癌関連構造の糖鎖として知られているSTn抗原やT抗原、Tn抗原となる。
以上の事実から、癌患者血液中のMUC1の糖鎖付加部位並びに糖鎖の構造およびその変化は、癌の進行過程において図1のように変化すると考えられている。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記実施形態にも下記実施例にも限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
実施例1 前立腺癌患者血清中のMUC1の糖鎖付加部位と糖鎖の変化に関する検討
図1の考え方の妥当性を確認するために、早期癌をとらえることが可能な前立腺癌患者血清検体を使用して検討を行った。検討用の試料として、トータルPSA値が3−10ng/mlの前立腺がん患者血清検体と、前立腺癌ではないことが確認されている健常者検体を使用した。試料中のCA15−3量の測定は、市販のCA15−3免疫測定試薬(東ソー(株)製)を使用した。癌関連構造の糖鎖をもつMUC1に特異的な測定は、MUC1上の特定の構造の糖鎖を特異的に認識して結合することが明らかとなっている1B2抗体(国際公開第2010/050528号パンフレット)と12D10抗体(国際公開第2011/135869号パンフレット)を使用して、以下の微粒子免疫測定方法を用いて測定した。
図1の考え方の妥当性を確認するために、早期癌をとらえることが可能な前立腺癌患者血清検体を使用して検討を行った。検討用の試料として、トータルPSA値が3−10ng/mlの前立腺がん患者血清検体と、前立腺癌ではないことが確認されている健常者検体を使用した。試料中のCA15−3量の測定は、市販のCA15−3免疫測定試薬(東ソー(株)製)を使用した。癌関連構造の糖鎖をもつMUC1に特異的な測定は、MUC1上の特定の構造の糖鎖を特異的に認識して結合することが明らかとなっている1B2抗体(国際公開第2010/050528号パンフレット)と12D10抗体(国際公開第2011/135869号パンフレット)を使用して、以下の微粒子免疫測定方法を用いて測定した。
[微粒子免疫測定方法]
以下に上記の抗体を固定化した磁性微粒子と磁性微粒子自動処理装置King Fisher Flex(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用した微粒子免疫測定方法と評価法を示す。1B2抗体固定化磁性微粒子は、JSR社製磁性微粒子(MK230/Carboxyl)1μg(乾燥重量)の表面に露出するカルボキシル基をEDCで活性化し、6ngの1B2抗体のアミノ基を介して共有結合することで調製した。磁性微粒子は抗体を固定化した後に、BSAを含む緩衝液(1%BSA、20mM Tris−HCl,150mM NaCl、pH7.4)に懸濁しブロッキングを行った。
以下に上記の抗体を固定化した磁性微粒子と磁性微粒子自動処理装置King Fisher Flex(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用した微粒子免疫測定方法と評価法を示す。1B2抗体固定化磁性微粒子は、JSR社製磁性微粒子(MK230/Carboxyl)1μg(乾燥重量)の表面に露出するカルボキシル基をEDCで活性化し、6ngの1B2抗体のアミノ基を介して共有結合することで調製した。磁性微粒子は抗体を固定化した後に、BSAを含む緩衝液(1%BSA、20mM Tris−HCl,150mM NaCl、pH7.4)に懸濁しブロッキングを行った。
調製した1B2抗体固定化磁性微粒子を、磁性微粒子換算で0.2μg(乾燥重量)相当を100μlの反応希釈液(1%BSA、20mM Tris−HCl,150mM NaCl、0.05%Tween−20、pH7.4)に懸濁して、専用の96穴マイクロタイタープレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に添加した。次に、そのプレートから磁性微粒子だけ磁石を使用して取り出し、測定試料を分注した96ウェルプレートの各ウェルに移動した。測定試料中で磁性微粒子を20分間懸濁して抗原抗体反応をした後に、磁性微粒子のみを200μlの洗浄液(20mM Tris−HCl,150mM NaCl、0.05%Tween−20、pH7.4)に移動し、1分間懸濁して磁性微粒子を洗浄した。
次に、磁性微粒子を200μlの検出抗体が含まれる反応希釈液中に移し、20分間懸濁することにより抗原抗体反応を行った。検出抗体として1B2抗体を使用する場合は、HPR標識1B2抗体を1ウェルあたり50ngになるように反応希釈液に添加して調製した。検出抗体として12D10抗体を使用する場合は、ビオチン化した12D10抗体を1ウェルあたり50ng、polyHRP80−ストレプトアビジン(ステレオスペシフィック デテクション テクノロジーズ社製)を1ウェルあたり20ngと混合して反応希釈液に添加して調製した。検出抗体と抗原抗体反応を行った磁性微粒子は、200μlの洗浄液(20mM Tris−HCl,150mM NaCl、0.05%Tween−20、pH7.4)に移動し洗浄した。
この洗浄操作を3回行った後に、洗浄された磁性微粒子は、100μlのテトラメチルベンジジン(TMB)溶液(KPL社製)中に移され、懸濁しながら5分間酵素反応した。酵素反応終了後、磁性微粒子はTMB溶液から除かれ、発色した反応液のうち50μlを当量の1Mのリン酸溶液に添加することで発色し、450nmにおける吸光度を測定した。
なお、この微粒子免疫測定方法において、1B2抗体と12D10抗体とを用いた測定系(1B2/12D10)での測定結果の単位は、以下の通り定義した。即ち、市販のCA15−3測定試薬の標準品(東ソー(株)製)に、1B2/12D10に反応するMUC1が含まれていることを確認した上で、この標準品のCA15−3抗原が1U/ml含まれる溶液を、上述の微粒子免疫測定方法で1B2/12D10測定系で測定した場合に得られる値を1U/mlと定義した。測定値の変換は、CA15−3抗原の希釈系列試料を同様に測定して得られる値から、検量線を作成して行った。
図2、3に示したように、前立腺癌患者血清では、CA15−3の値の分布は基準値に収まり、健常者の分布と区別することができなかった。一方で1B2と12D10抗体に反応するMUC1分子は、前立腺癌患者で健常者と明確に区別することが可能であることが分かる。
以上の結果は、比較的早期の癌状態であるとみなすことができる血清トータルPSA値の低い前立腺癌の患者血清では、CA15−3測定試薬でとらえることが可能な変化、即ち「MUC1のO型糖鎖付加量の減少」は検出することができないが、癌特異的糖鎖構造の増加は検出可能であることを示している。従って、前述のような癌の進行に伴う糖鎖付加量変化と糖鎖構造変化に関する説明(図1)の妥当性を示すデータであるといえる。
実施例2 CA15−3高値乳癌患者血清中でのMUC1分子種の検討
血中CA15−3が高値となる乳癌患者血清検体を使用して、血中のMUC1の糖鎖付加状態について検討を行った。健常者の血清と乳癌患者の血清から、MUC1のペプチド母核構造(配列番号1)のPDTRPAP(配列番号2)を認識することが明らかな抗MUC1ペプチド抗体(SM3,アブカム社)と、O型糖鎖修飾MUC1を認識する1B2抗体によってMUC1分子種を免疫沈降させ、ウェスタンブロット法で分析した。
血中CA15−3が高値となる乳癌患者血清検体を使用して、血中のMUC1の糖鎖付加状態について検討を行った。健常者の血清と乳癌患者の血清から、MUC1のペプチド母核構造(配列番号1)のPDTRPAP(配列番号2)を認識することが明らかな抗MUC1ペプチド抗体(SM3,アブカム社)と、O型糖鎖修飾MUC1を認識する1B2抗体によってMUC1分子種を免疫沈降させ、ウェスタンブロット法で分析した。
以下にウェスタンブロット法による検討方法を示す。健常者の血清と乳癌患者の血清10μlを希釈液(20mM Tris−HCl,150mM NaCl、0.05%Tween−20、pH7.4)で10倍に希釈したものを試料とし、磁性微粒子自動処理装置KingFisher Flexを使用して、抗MUC1ペプチド抗体または1B2抗体を固定化したJSR社製磁性微粒子(MK230/Carboxyl)によってそれぞれの抗体に結合するタンパク質を免疫沈降法により回収した。免疫沈降された抗原は、SDS−PAGEサンプルバッファーに懸濁して3分間加温(96℃)することにより、結合した抗原を微粒子から遊離させ、常法に従ってSDS−PAGEで分離し、PVDF膜に転写し、ウェスタンブロット法により解析した。検出にはビオチン標識した抗MUC1ペプチド抗体または1B2抗体を使用して検出した。
結果を図4に示す。乳癌患者血清を抗MUC1ペプチド抗体で免疫検出した結果からは、1B2抗体で免疫沈降した場合は高分子量のMUC1画分(高O型糖鎖修飾MUC1)が検出され、抗MUC1ペプチド抗体で免疫沈降した場合は低分子量のMUC1画分(低O型糖鎖修飾MUC1)が検出されたことから、乳癌患者血清には分子量的に区別可能な2種類のMUC1画分が存在し、免疫沈降に供する抗体によって分離されることが明らかとなった。また同じ試料を1B2抗体で免疫検出した結果からは、抗MUC1ペプチド抗体で免疫沈降されたMUC1、即ち低分子量のMUC1には、1B2抗体に反応する糖鎖構造が無いことが明らかとなった。
MUC1はタンデムリピートの繰り返し回数が人によって異なる遺伝的多型が確認されている分子であるが、本検討では個別の症例から得られた血清を使用しているため、SDS−PAGE上での分子量の大小は、母核構造(タンパク質部分)の差ではなく、糖鎖付加量の変化を反映していると考えられる。即ち、高分子量のMUC1と低分子量のMUC1の差は、糖鎖付加量の変化である。特に、MUC1のペプチド母核構造を認識する抗MUC1ペプチド抗体では、低O型糖鎖修飾MUC1が優先的に免疫沈降されてきていることが分かる。
表1に、本検討から明らかとなった高O型糖鎖修飾MUC1と低O型糖鎖修飾MUC1の諸性質をまとめた。
実施例3 膵臓癌患者の検出
膵臓癌は組織染色においてはMUC1分子を発現していることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、膵臓癌患者血清においてCA15−3値が基準値を超えることは少ないため、膵臓癌の診断、治療効果の確認等を目的として臨床的には使用されていない。
膵臓癌は組織染色においてはMUC1分子を発現していることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、膵臓癌患者血清においてCA15−3値が基準値を超えることは少ないため、膵臓癌の診断、治療効果の確認等を目的として臨床的には使用されていない。
実際に市販のCA15−3免疫測定試薬を使用して測定した膵臓癌患者の血清CA15−3値の分布を図5,6に示す。試料中のCA15−3量の測定は、市販のCA15−3免疫測定試薬(東ソー(株)製)を使用した。今回使用した検体群の間では有意差のある結果となったが、臨床現場で利用されている基準値(<25U/ml)をカットオフ値に採用すると膵臓癌の検出率が46%と低くなり、血清CA15−3値では膵臓癌患者を検出することができないことが確認できた。
次に、実施例1に記載した1B2抗体と12D10抗体を使用した微粒子免疫測定方法で測定した測定値の分布を図5,6に示す。この測定法で得られた値は、膵臓癌患者と健常者の間に有意な差が認められた。健常者分布から設定した基準値(カットオフ値)は、健常者平均値+2SDから7.63U/mlと算出された。また、図5,6に示した測定値からROC解析したところ、1B2抗体と12D10抗体を使用した微粒子免疫測定方法のAUCは0.882であったのに対して、CA15−3の測定では0.694であり、1B2抗体と12D10抗体を使用した微粒子免疫測定方法の診断性能がCA15−3の測定よりも高いことが確認された。以上の結果から、本発明の方法によれば、膵臓癌患者と健常者を識別可能であることが確認できた。
図8は、病期ステージ情報の付与された膵臓癌患者検体58検体を選択し、実施例1の1B2抗体と12D10抗体を使用した微粒子免疫測定方法の測定値とCA15−3測定値を、それぞれステージ別にプロットした図である。この結果から、癌関連構造の糖鎖を検出している1B2/12D10値は、早期癌(ステージ1)の段階から、健常者の分布から設定した基準値を大幅に上回る測定値の上昇がみられる。即ち、1B2/12D10測定系によって、早期膵臓癌を検出可能であることが示された。CA15−3測定値は、臨床基準値を超える検体数は早期膵臓癌では少ないことが確認された。
実施例4 膵臓癌、胃癌、胆管癌、前立腺癌の検出
実施例1に記載した1B2抗体と12D10抗体を使用した微粒子免疫測定方法で膵臓癌、胃癌、胆管癌、前立腺癌患者から得られた検体を測定した測定値の分布を図9に示す。この測定法で得られた値は、これらの癌患者は、健常者の分布に比べて有意に高く、これらの癌の診断にも有効な測定法であることが確認できた。
実施例1に記載した1B2抗体と12D10抗体を使用した微粒子免疫測定方法で膵臓癌、胃癌、胆管癌、前立腺癌患者から得られた検体を測定した測定値の分布を図9に示す。この測定法で得られた値は、これらの癌患者は、健常者の分布に比べて有意に高く、これらの癌の診断にも有効な測定法であることが確認できた。
図10は、膵臓癌および前立腺癌患者のCA15−3値及び1B2/2D10値の相関性をプロットした図である。両測定法はともに、血液中のMUC1分子を測定対象としているが、両者の値の変化には強い相関性が見られないことが分かる。即ち、癌の進行に関連したMUC1の2つのO型糖鎖に関する変化である「糖鎖付加部位の変化(母核構造の露出)」と「糖鎖の変化」には、密接な関連性はなく独立した事象であることが推定され、図1に示した模式図の妥当性が確認できた。
以上の結果から、MUC1を分泌するといわれている腺癌細胞の検出において、MUC1の糖鎖の変化を指標に検出することの有用性は高く、特に膵臓癌や前立腺癌では早期癌の検出が可能であることが示された。またMUC1の糖鎖の変化を免疫学的方法で検出する上では、MUC1の母核ペプチドに対する抗体を使用するよりは、癌関連構造の糖鎖で修飾されたMUC1を認識可能な抗体を使用することが、測定上有利となることが示された。
Claims (7)
- 被検体由来の試料中に含まれる癌関連構造の糖鎖を有するムチン−1の量を、癌関連構造の糖鎖(A)を認識する抗体及び癌関連構造の糖鎖(B)を認識する抗体を使用して測定することを特徴とする、癌の検出方法。
(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、
Galβ1→3GalNAcα−、及び
GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、
Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及び
Neu5Acα2→6GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(但し、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンを示す) - 癌関連構造の糖鎖がムチン−1のリピート配列(配列番号1)に結合している、請求項1に記載の方法。
- 前記の癌が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌である、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記の癌が早期の膵臓癌である、請求項1〜3いずれかに記載の方法。
- 下記の癌関連構造の糖鎖(A)を有するムチン−1を認識する抗体、及び下記の癌関連構造の糖鎖(B)を有するムチン−1を認識する抗体を含有することを特徴とする、癌の検出キット。
(A)Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcα−、
Galβ1→3GalNAcα−、及び
GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(B)Neu5Acα2→3Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、
Galβ1→3(Neu5Acα2→6)GalNAcα−、及び
Neu5Acα2→6GalNAcα−
からなる群より選択される1種以上;
(但し、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GalNAcはN−アセチルガラクトサミンを示す) - 前記の癌が膵臓癌、胃癌、胆管癌又は前立腺癌である、請求項5に記載の癌の検出キット。
- 前記の癌が早期の膵臓癌である、請求項5又は6に記載の癌の検出キット。
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---|---|---|---|
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---|---|---|---|---|
WO2018143336A1 (ja) * | 2017-02-03 | 2018-08-09 | 住友化学株式会社 | 膵臓癌の検査方法 |
JP2021505138A (ja) * | 2017-12-04 | 2021-02-18 | ヒート バイオロジクス,インコーポレイテッド | 細胞に基づくワクチンの製造 |
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2015
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