以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1は、本発明の一実施形態による車両110及び車両110を制御する電子制御ユニット200の概略構成図である。
本実施形態による車両110は、内燃機関100と、動力分割機構40と、第1回転電機50と、第2回転電機60と、バッテリ70と、昇圧コンバータ81と、第1インバータ82と、第2インバータ83と、を備え、内燃機関100及び第2回転電機60の2つの動力源の一方又は双方の動力を、最終減速装置111を介して車輪駆動軸112に伝達することができるように構成されたハイブリッド車両である。なお、車両110はハイブリッド車両に限られるものではなく、動力源として内燃機関100のみを備えた通常車両であっても良い。
内燃機関100は、機関本体1と、吸気装置20と、排気装置30と、を備え、機関本体1のクランクシャフト(図示せず)と連結された出力軸113を回転させるための動力を発生させる。以下、図2も参照して内燃機関100の詳細な構成について説明する。
図2に示すように、機関本体1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に固定されたシリンダヘッド3と、を備える。
シリンダブロック2には、複数のシリンダ4が形成される。シリンダ4の内部には、燃焼圧力を受けてシリンダ4の内部を往復運動するピストン5が収められる。ピストン5は、コンロッドを介してクランクシャフトと連結されており、クランクシャフトによってピストン5の往復運動が回転運動に変換される。シリンダヘッド3の内壁面、シリンダ4の内壁面及びピストン冠面によって区画された空間が燃焼室6となる。
シリンダヘッド3には、シリンダヘッド3の一方の側面に開口すると共に燃焼室6に開口する吸気ポート7と、シリンダヘッド3の他方の側面に開口すると共に燃焼室6に開口する排気ポート8と、が形成される。
またシリンダヘッド3には、燃焼室6と吸気ポート7との開口を開閉するための吸気弁9と、燃焼室6と排気ポート8との開口を開閉するための排気弁10と、吸気弁9を開閉駆動する吸気カムシャフト11と、排気弁10を開閉駆動する排気カムシャフト12と、が取り付けられる。吸気カムシャフト11の一端には、吸気弁9の開閉時期を任意の時期に設定することができる油圧式の可変動弁機構(図示せず)が設けられる。
さらにシリンダヘッド3には、燃焼室6内に燃料を噴射するための燃料噴射弁13と、燃料噴射弁13から噴射された燃料と空気との混合気を燃焼室6内で点火するための点火プラグ14と、が取り付けられる。なお、燃料噴射弁13は、吸気ポート7内に燃料を噴射するように取り付けてもよい。
吸気装置20は、吸気ポート7を介してシリンダ4内に空気を導くための装置であって、エアクリーナ21と、吸気管22と、吸気マニホールド23と、エアフローメータ211と、電子制御式のスロットル弁24と、を備える。
エアクリーナ21は、空気中に含まれる砂などの異物を除去する。
吸気管22は、一端がエアクリーナ21に連結され、他端が吸気マニホールド23のサージタンク23aに連結される。吸気管22によって、エアクリーナ21を介して吸気管22内に流入してきた空気(吸気)が吸気マニホールド23のサージタンク23aに導かれる。
吸気マニホールド23は、サージタンク23aと、サージタンク23aから分岐してシリンダヘッド側面に形成されている各吸気ポート7の開口に連結される複数の吸気枝管23bと、を備える。サージタンク23aに導かれた空気は、吸気枝管23bを介して各シリンダ4内に均等に分配される。このように、吸気管22、吸気マニホールド23及び吸気ポート7が、各シリンダ4内に空気を導くための吸気通路を形成する。
エアフローメータ211は、吸気管22内に設けられる。エアフローメータ211は、吸気管22内を流れる空気の流量(以下「吸気量」という。)を検出する。
スロットル弁24は、エアフローメータ211よりも下流側の吸気管22内に設けられる。スロットル弁24は、スロットルアクチュエータ25によって駆動され、吸気管22の通路断面積を連続的又は段階的に変化させる。スロットルアクチュエータ25によってスロットル弁24の開度(以下「スロットル開度」という。)の調整することで、各シリンダ4内に吸入される吸気量が調整される。スロットル開度は、スロットルセンサ212によって検出される。
排気装置30は、燃焼室6内で生じた燃焼ガス(以下「排気」という。)を浄化して外気に排出するための装置であって、排気マニホールド31と、排気管32と、排気温度センサ213と、電気加熱式の触媒装置33と、を備える。
排気マニホールド31は、シリンダヘッド側面に形成されている各排気ポート8の開口と連結される複数の排気枝管31aと、排気枝管31aを集合させて1本にまとめた集合管31bと、を備える。
排気管32は、一端が排気マニホールド31の集合管31bに連結され、他端が外気に開口している。各シリンダ4から排気ポート8を介して排気マニホールド31に排出された排気は、排気管32を流れて外気に排出される。
排気温度センサ213は、触媒装置33よりも上流側の排気管32に設けられ、触媒装置33に流入する排気の温度を検出する。
電気加熱式の触媒装置33は、排気管32に取り付けられた外筒34と、導電性担体35と、保持マット36と、一対の電極37と、担体温度センサ214と、備える。
外筒34は、その内部に導電性担体35を収容するための部品であって、典型的にはステンレス等の金属又はセラミック等の非金属によって構成されたケースである。
導電性担体35は、例えば炭化ケイ素(SiC)や二珪化モリブデン(MoSi2)などの通電されることにより発熱する材料によって形成された担体である。本実施形態による導電性担体35は、排気の流れ方向に沿って複数の排気流通路が形成されたいわゆるハニカム型の担体であり、各排気流通路の表面に触媒が担持されている。本実施形態では導電性担体35に三元触媒を担持させているが、導電性担体35に担持させる触媒の種類は特に限られるものではなく、種々の触媒の中から所望の排気浄化性能を得るために必要な触媒を適宜選択して担持させることができる。
保持マット36は、外筒34と導電性担体35との間の隙間を埋めるように、外筒34と導電性担体35との間に設けられ、導電性担体35を外筒34内の所定位置に保持するための部品である。保持マット36は、例えばアルミナ(Al2O3)などの電気絶縁性の材料によって形成されている。
一対の電極37は、導電性担体35に電圧を印加するための部品であり、それぞれ外筒34に対して電気的に絶縁された状態で導電性担体35に電気的に接続されると共に、図1に示すように導電性担体35に印加する電圧を調整するための電圧調整回路38を介してバッテリ70に接続される。一対の電極37を介して導電性担体35に電圧を印加して導電性担体35に電力を供給することで、導電性担体35に電流が流れて導電性担体35が発熱し、導電性担体35に担持された触媒が加熱される。一対の電極37によって導電性担体35に印加する電圧は、電子制御ユニット200によって電圧調整回路38を制御することで調整可能であり、例えばバッテリ70の電圧をそのまま印加することも、バッテリ70の電圧を任意の電圧に調整して印加することも可能である。
担体温度センサ214は、導電性担体35の近傍、かつ、導電性担体35よりも下流側の外筒34に設けられ、導電性担体35の温度を検出する。
このように、排気ポート8、排気マニホールド31、排気管32及び外筒34が、各シリンダ4から排出された排気が流れる排気通路を形成する。
なお、本実施形態では内燃機関100の一例として、上記のような無過給ガソリンエンジンを例示して説明したが、上記の構成に限られるものではなく、燃焼態様や気筒配列、燃料の噴射態様、吸排気系の構成、動弁機構の構成、過給器の有無、過給態様等が、上記の構成と異なるものであっても良い。
図1に戻り、動力分割機構40は、内燃機関100の動力を、車輪駆動軸112を回転させるための動力と、第1回転電機50を回生駆動させるための動力と、の2系統に分割するための遊星歯車であって、サンギヤ41と、リングギヤ42と、ピニオンギヤ43と、プラネタリキャリア44と、を備える。
サンギヤ41は外歯歯車であり、動力分割機構40の中央に配置される。サンギヤ41は、第1回転電機50の回転軸53と連結されている。
リングギヤ42は内歯歯車であり、サンギヤ41と同心円上となるように、サンギヤ41の周囲に配置される。リングギヤ42は、第2回転電機60の回転軸63と連結される。また、リングギヤ42には、車輪駆動軸112に対して最終減速装置111を介してリングギヤ42の回転を伝達するためのドライブギヤ114が一体化されて取り付けられている。
ピニオンギヤ43は外歯歯車であり、サンギヤ41及びリングギヤ42と噛み合うように、サンギヤ41とリングギヤ42との間に複数個配置される。
プラネタリキャリア44は、内燃機関100の出力軸113に連結されており、出力軸113を中心にして回転する。またプラネタリキャリア44は、プラネタリキャリア44が回転したときに、各ピニオンギヤ43が個々に回転(自転)しながらサンギヤ41の周囲を回転(公転)することができるように、各ピニオンギヤ43にも連結されている。
第1回転電機50は、例えば三相の交流同期型のモータジュネレータであり、サンギヤ41に連結された回転軸53の外周に取り付けられて複数の永久磁石が外周部に埋設されたロータ51と、回転磁界を発生させる励磁コイルが巻き付けられたステータ52と、を備える。第1回転電機50は、バッテリ70からの電力供給を受けて力行駆動する電動機としての機能と、内燃機関100の動力を受けて回生駆動する発電機としての機能と、を有する。
本実施形態では、第1回転電機50は主に発電機として使用される。そして、内燃機関100の始動時に出力軸113を回転させてクランキングを行うときに電動機として使用され、スタータとしての役割を果たす。
第2回転電機60は、例えば三相の交流同期型のモータジュネレータであり、リングギヤ42に連結された回転軸53の外周に取り付けられて複数の永久磁石が外周部に埋設されたロータ61と、回転磁界を発生させる励磁コイルが巻き付けられたステータ62と、を備える。第2回転電機60は、バッテリ70からの電力供給を受けて力行駆動する電動機としての機能と、車両110の減速時などに車輪駆動軸112からの動力を受けて回生駆動する発電機としての機能と、を有する。
バッテリ70は、例えばニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル・水素蓄電池、リチウムイオン電池などの充放電可能な二次電池である。本実施形態では、バッテリ70として、定格電圧が200V程度のリチウムイオン二次電池を使用している。バッテリ70は、バッテリ70の充電電力を第1回転電機50及び第2回転電機60に供給してそれらを力行駆動することができるように、また、第1回転電機50及び第2回転電機60の発電電力をバッテリ70に充電できるように、昇圧コンバータ81等を介して第1回転電機50及び第2回転電機60に電気的に接続される。またバッテリ70は、バッテリ70の充電電力を導電性担体35に供給して導電性担体35を加熱することができるように、電圧調整回路38及び一対の電極37を介して導電性担体35にも電気的に接続される。
さらにバッテリ70は、例えば家庭用コンセントなどの外部電源からの充電が可能なように、充電制御回路71及び充電リッド72を介して外部電源と電気的に接続可能に構成されている。充電制御回路71は、電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて、外部電源から供給される交流電流を直流電流に変換し、入力電圧をバッテリ電圧まで昇圧して外部電源の電力をバッテリ70に充電することが可能な電気回路である。なおバッテリ70は、必ずしも外部電源からの充電が可能なように構成されている必要はない。
昇圧コンバータ81は、電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて一次側端子の端子間電圧を昇圧して二次側端子から出力し、逆に電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて二次側端子の端子間電圧を降圧して一次側端子から出力することが可能な電気回路を備える。昇圧コンバータ81の一次側端子はバッテリ70の出力端子に接続され、二次側端子は第1インバータ82及び第2インバータ83の直流側端子に接続される。
第1インバータ82及び第2インバータ83は、電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて直流側端子から入力された直流電流を交流電流(本実施形態では三相交流電流)に変換して交流側端子から出力し、逆に電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて交流側端子から入力された交流電流を直流電流に変換して直流側端子から出力することが可能な電気回路をそれぞれ備える。第1インバータ82の直流側端子は昇圧コンバータ81の二次側端子に接続され、第1インバータ82の交流側端子は第1回転電機50の入出力端子に接続される。第2インバータ83の直流側端子は昇圧コンバータ81の二次側端子に接続され、第2インバータ83の交流側端子は第2回転電機60の入出力端子に接続される。
電子制御ユニット200は、デジタルコンピュータから構成され、双方性バス201によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)202、RAM(ランダムアクセスメモリ)203、CPU(マイクロプロセッサ)204、入力ポート205及び出力ポート206を備える。
入力ポート205には、前述したエアフローメータ211やスロットルセンサ212、排気温度センサ213、担体温度センサ214の他にも、車速を検出するための車速センサ215やバッテリ充電量を検出するためのSOCセンサ216などの出力信号が、対応する各AD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、アクセルペダル220の踏み込み量(以下「アクセル踏込量」という。)に比例した出力電圧を発生する負荷センサ217の出力電圧が、対応するAD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、機関回転速度を算出するための信号として、機関本体1のクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ218の出力信号が入力される。このように入力ポート205には、車両110を制御するために必要な各種センサの出力信号が入力される。
出力ポート206には、対応する駆動回路208を介して燃料噴射弁13や点火プラグ14、スロットルアクチュエータ25、電圧調整回路38、充電制御回路71、昇圧コンバータ81、第1インバータ82、第2インバータ83などの各制御部品が電気的に接続される。
電子制御ユニット200は、入力ポート205に入力された各種センサの出力信号に基づいて、各制御部品を制御するための制御信号を出力ポート206から出力して車両110を制御する。以下、電子制御ユニット200が実施する車両110の制御について説明する。
電子制御ユニット200は、バッテリ充電量に基づいて、車両110の走行モードを設定する。具体的には、電子制御ユニット200は、バッテリ充電量が所定のモード切替充電量(例えば満充電量の25%)よりも大きいときは、車両110の走行モードをCD(Charge Depleting;充電消耗)モードに設定する。CDモードは、EV(Electric Vehicle)モードと称される場合もある。
車両110の走行モードがCDモードに設定されているときは、電子制御ユニット200は、基本的に内燃機関100を停止させた状態でバッテリ70の充電電力を使用して第2回転電機60を力行駆動させ、第2回転電機60の動力のみにより車輪駆動軸112を回転させる。そして電子制御ユニット200は、所定の機関運転条件が成立しているときには例外的に内燃機関100を運転させ、内燃機関100及び第2回転電機60の双方の動力で車輪駆動軸112を回転させる。
CDモード中における機関運転条件は、車両110の走行性能確保や部品保護の観点から設定されるもので、例えば車速が所定車速(例えば100km/h)以上になっているときや、アクセル踏込量が増大してアクセル踏込量及び車速に基づいて設定される車両要求出力が所定出力以上になっているとき(急加速要求時)、バッテリ温度が所定温度(例えば−10℃)以下になっているときなどが挙げられる。
このようにCDモードは、バッテリ70の充電電力を優先的に利用して第2回転電機60を力行駆動させ、少なくとも第2回転電機60の動力を車輪駆動軸112に伝達して車両110を走行させるモードである。
一方で電子制御ユニット200は、バッテリ充電量がモード切替充電量以下のときは、車両110の走行モードをCS(Charge Sustaining;充電維持)モードに設定する。CSモードは、HV(Hybrid Vehicle)モードと称される場合もある。
車両110の走行モードがCSモードに設定されているときは、電子制御ユニット200は、内燃機関100の動力を動力分割機構40によって2系統に分割し、分割した内燃機関100の一方の動力を車輪駆動軸112に伝達すると共に、他方の動力によって第1回転電機50を回生駆動する。そして、基本的に第1回転電機50の発電電力によって第2回転電機60を力行駆動し、内燃機関100の一方の動力に加えて第2回転電機60の動力を車輪駆動軸112に伝達する。例外的に、例えばアクセル踏込量が増大して車両要求出力が所定出力以上になっているときなどは、車両110の走行性能確保のために第1回転電機50の発電電力とバッテリ70の充電電力によって第2回転電機60を力行駆動し、内燃機関100及び第2回転電機60の双方の動力を車輪駆動軸112に伝達する。
このようにCSモードは、内燃機関100を運転させると共に第1回転電機50の発電電力を優先的に利用して第2回転電機60を力行駆動させ、内燃機関100及び第2回転電機60の双方の動力を車輪駆動軸112に伝達して車両110を走行させるモードである。
このようにハイブリッド車両では、基本的に走行モードがCDモードからCSモードに切り替わったときに内燃機関100が始動されることになる。そしてCDモードからCSモードへの切り替わりは、基本的にバッテリ充電量に依存する。
触媒装置33が所望の排気浄化性能を発揮するには、導電性担体35に担持させた触媒を活性温度まで昇温させて、触媒を活性させる必要がある。そのため、機関始動後の排気エミッションの悪化を抑制するには、CDモード中に導電性担体35に対する通電を開始して触媒装置33の暖機を開始し、CSモードに切り替わる前に触媒装置33の暖機を完了させておくことが望ましい。そこで本実施形態では、CDモード中にバッテリ充電量がモード切替充電量よりも大きい暖機開始充電量まで低下したら、導電性担体35に対する通電を開始して触媒装置33を暖機するようにしている。
しかしながら前述したように、CDモード中であっても内燃機関100が始動される場合があり、バッテリ充電量が暖機開始充電量まで低下する前や、バッテリ充電量が暖機開始充電量まで低下した後、モード切替充電量まで低下する前に、内燃機関100が始動される場合がある。すなわち、導電性担体35に対する通電を開始する前や、通電を実施している途中に内燃機関100が始動される場合がある。
ここで、例えばCDモード中に急加速要求があり、アクセル踏込量が増大して車両要求出力が所定出力以上になったために内燃機関100が始動された場合は、内燃機関100に対する要求出力(以下「機関要求出力」という。)も高くなり、排気温も高温となる。したがってこのような場合は、導電性担体35に対して通電を行わなくても、排気熱によって触媒を早期に活性温度まで昇温させることができる。そのため、排気熱によって触媒を早期に活性温度まで昇温させることができる場合に、導電性担体35に対する通電を行って電力を無駄に消費する必要はない。
また、ハイブリッド車両ではない通常車両の場合でも、機関始動直後に急加速要求があったときは、同様に導電性担体35に対して通電を行わなくても、排気熱によって触媒を早期に活性温度まで昇温させることができる。
そして、このように排気熱によって触媒の活性を行う場合、導電性担体35に対して通電を行わなくても、導電性担体35の温度は導電性担体35が排気熱によって加熱されることで上昇する。しかしながら、導電性担体35に対する通電を行わずに排気熱によって触媒の活性を行う場合は、以下のような問題が生じる。
図3は、導電性担体35に対する通電を行わずに排気熱によって触媒の活性を行う場合に生じる問題について説明する図である。
図3(a)は、触媒装置33を排気流れ方向と垂直に交わる方向で切断した場合の触媒装置33の断面図である。図3(b)は、導電性担体35を外気温相当の初期温度から活性温度に向けて昇温させているときの、導電性担体35の各部位の温度の推移を示す図である。図3(b)の実線は、導電性担体35の中心部の温度の推移を示す。図3(b)の一点鎖線は、保持マット36と接触している導電性担体35の外周面の温度の推移を示す。図3(b)の破線は、外周面よりもやや内側(外周面から5mm程度)の外周近傍部の温度の推移を示す。図3(c)は、導電性担体35の外周面と外周近傍部との温度差(以下「内部温度差」という。)ΔTの推移を示す図である。
図3(b)に示すように、導電性担体35の熱は、その外周面から放熱されるため、導電性担体35の外周面の温度は、導電性担体35の中心部の温度よりも低くなり、特に発熱体の外周面から外周面近傍部までの偏った領域(外周領域)において大きな温度差(温度勾配)が生じる。導電性担体35は排気通路内に保持されており自由に膨張できないため、導電性担体35の内部で大きな温度差が生じると、それに伴って大きな熱応力が生じて導電性担体35にクラックが生じるおそれがある。
そして図3(c)に示すように、導電性担体35の外周領域における内部温度差ΔTは、導電性担体35を活性温度に向けて昇温させている途中で最大となり、それ以降は徐々に小さくなっていく。そして、この内部温度差ΔTは、導電性担体35の初期温度が低いほど(初期温度と活性温度との差が大きいほど)、また、導電性担体35の昇温速度が速くなるほど大きくなる傾向にある。
したがって、内部温度差ΔTが過大になることに起因するクラックを抑制するには、導電性担体35の昇温速度を制御することが有効である。
ここで、導電性担体35に通電して導電性担体35の温度を昇温させる場合であれば、通電量を制御することで、導電性担体35にクラックが生じないように導電性担体35の昇温速度を制御することができる。しかしながら、導電性担体35に対する通電を行わずに排気熱によって触媒の活性を行う場合は、導電性担体35の昇温速度が機関要求出力に依存してしまうため、導電性担体35の昇温速度を制御できずに導電性担体35にクラックが生じるおそれがある。
そこで、例えば機関要求出力が所定の閾値を超えた場合に、吸入吸気量を減量するか、又は、吸入吸気量を減量せずに燃料を余分に噴射して空燃比を低下させることで、機関本体から排出される排気の温度を低下させて、導電性担体35にクラックが生じるのを抑制することが考えられる。しかしながら、機関要求出力が大きい場合に吸入吸気量を減量させて排気温を低下させると、機関出力を機関要求出力にすることができずに加速性能が低下するおそれがある。
一方、空燃比を低下させて排気温を低下させた場合は、このような加速性能の低下については抑制できるが、適切な時期に空燃比をもとに戻さないと、以下のような問題が生じる。すなわち、前述したように、導電性担体35の外周領域における内部温度差ΔTは、導電性担体35の温度を活性温度に向けて昇温させている途中で最大となり、それ以降は徐々に小さくなっていく。そのため、内部温度差ΔTが最大となる時期を過ぎた後、すなわち導電性担体35の中心温度が、内部温度差ΔTが最大になる温度(以下「ピーク温度」という。)よりも高くなった後も空燃比を低下させて排気温を低下させていたのでは、無駄に燃料を消費することになって燃費が悪化すると共に、触媒を活性させるまでの時間も長くなるので排気エミッションも悪化する。
そこで本実施形態では、触媒が活性していない状態で内燃機関100が始動され、導電性担体35に対する通電を行わずに排気熱によって触媒の活性を行う場合は、加速性能、燃費及び排気エミッションの悪化を抑制しつつ、内部温度差ΔTが過大になることに起因する発熱体のクラックを抑制できるように、内燃機関100を制御する。以下、この触媒が活性していない状態で内燃機関100が始動されたとき(以下「冷間始動時」という。)の内燃機関100の制御について説明する。
図4は、電子制御ユニット200が実施する本実施形態による冷間始動時の内燃機関100の制御について説明するフローチャートである。
ステップS1において、電子制御ユニット200は、機関始動時の導電性担体35の温度(以下「初期担体温度」という。)に基づいて、触媒暖機要求の有無を判定する。機関始動時は、触媒装置33に排気がまだ流入していないので、導電性担体35の近傍に設けられた担体温度センサ214によって検出された温度を、担体温度とみなしても問題ない。そこで本実施形態では、機関始動時に担体温度センサ214で検出された温度を、初期担体温度としている。電子制御ユニット200は、初期担体温度が活性温度未満であれば、触媒暖機要求が有ると判定してステップS2の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、初期担体温度が触媒活性温度以上であれば、触媒暖機要求が無いと判定して処理を終了する。
ステップS2において、電子制御ユニット200は、初期担体温度が、所定の排温低下要求温度以下か否かを判定する。排温低下要求温度は、ピーク温度(導電性担体35の外周領域における内部温度差ΔTが最大となる担体温度)よりも高い任意の温度に設定される。このような判定を行うのは、初期担体温度が既にピーク温度よりも高ければ、排気熱によって導電性担体35の昇温が行われても導電性担体35でクラックが生じることはないからである。電子制御ユニット200は、初期担体温度が排気低下要求温度以下であれば、ステップS3の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、初期担体温度が排気低下要求温度よりも高ければステップS9の処理に進む。
ステップS3において、電子制御ユニット200は、図5のテーブルを参照し、初期担体温度に基づいて、排温低下要求出力を算出する。排温低下要求出力は、予め実験等によって設定される。機関要求出力が排温低下要求出力よりも大きくなると、排気熱によって導電性担体35が加熱されたときに、内部温度差ΔTが過大となって導電性担体35にクラックが生じるおそれがある。図5に示すように、初期担体温度が低いほど、排温低下要求出力が小さくなっているのは、導電性担体35を昇温させているときの内部温度差ΔTは、初期担体温度が低いときほど(初期担体温度と活性温度との差が大きいほど)大きくなるためである。
ステップS4において、電子制御ユニット200は、機関要求出力が排温低下要求出力以上か否かを判定する。電子制御ユニット200は、機関要求出力が排温低下要求出力以上であればステップS5の処理に進む。機関要求出力が排温低下要求出力以上の場合は、排気温が十分高温であり、排気熱によって触媒を早期に活性させることができるので、導電性担体35に対する通電は実施されない。一方で電子制御ユニット200は、機関要求出力が排温低下要求出力未満であれば、排気温を低下させなくても導電性担体35でクラックが生じるおそれがないので、ステップS9の処理に進む。
ステップS5において、電子制御ユニット200は、吸気量が機関要求出力に基づいて設定される目標吸気量まで増加しているか否かを判定する。電子制御ユニット200は、具体的にはエアフローメータ211で検出した吸気量が目標吸気量以上であればステップS6の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、エアフローメータ211で検出した吸気量が目標吸気量未満であればステップS9の処理に進む。
機関要求出力が変動したときは、機関要求出力に基づいて設定される目標吸気量に向けて吸気量を制御するために、スロットル弁24や可変動弁機構が駆動される。このとき、スロットル弁24や可変動弁機構には作動遅れがあるため、吸気量が目標吸気量となるまでにはタイムラグが生じる。したがって、吸気量が目標吸気量まで増加していないにもかかわらず、後述するステップS7に進んで排気温を低下させるための余分な燃料を噴射してしまうと、必要以上に燃料を噴射してしまうことになり、燃費及び排気エミッションが悪化する。そこで本実施形態では、ステップS5において吸気量が目標吸気量まで増加しているか否かを判定し、吸気量が目標吸気量まで増加していなければステップS9の処理に進むことにしたのである。
このようにステップS5では、吸気系の応答遅れが解消したか否かを判定し、特に本実施形態では吸気系の応答遅れが完全に解消してか否かを判定しているが、吸気系の応答遅れがある程度解消された時点、例えばエアフローメータ211で検出した吸気量が目標吸気量よりもやや小さい所定の吸気量まで増加しているか否かを判定するようにしても良い。
ステップS6において、電子制御ユニット200は、担体温度が、導電性担体35の外周領域における内部温度差ΔTが最大となるピーク温度を超えているかを判定する。電子制御ユニット200は、具体的には、機関要求出力が排温低下要求出力以上となってからの吸気量の積算値GAsumが、所定のピーク温度判定閾値GApeak以下か否かを判定する。
前述したように、触媒装置33に排気がまだ流入していない機関始動時は、担体温度センサ214によって担体温度を精度良く検出することができるが、排気の流入後は担体温度センサ214によって担体温度を精度良く検出することができなくなる。そこで本実施形態では、排気が導電性担体35に加えた熱量を代表するパラメータとして吸気量の積算値GAsumを用い、吸気量の積算値GAsumがピーク温度判定閾値GApeakよりも大きくなったときに、担体温度がピーク温度を超えていると判定することとしたのである。なお、本実施形態ではピーク温度判定閾値GApeakを一定値としているが、例えば排気温度センサで検出された排気温に基づいて、例えば排気温が高くなるほどピーク温度判定閾値GApeakが小さくなるように補正しても良い。
電子制御ユニット200は、吸気量の積算値GAsumがピーク温度判定閾値GApeak以下であれば、担体温度がピーク温度を超えていないと判定し、ステップS7の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、吸気量の積算値GAsumがピーク温度判定閾値GApeakを超えていれば、担体温度がピーク温度を超えていると判定し、ステップS8の処理に進む。
ステップS7において、電子制御ユニット200は、内部温度差ΔTが過大になることに起因するクラックの発生を抑制するための燃料噴射量増量補正を実施して、内燃機関100を運転させる。すなわち電子制御ユニット200は、排気温を低下させるための燃料を余分に噴射して内燃機関100を運転させる。電子制御ユニット200は、具体的には、機関要求出力に基づいて目標吸気量を設定し、目標吸気量に基づいて基本燃料噴射量(噴射時間)を設定する。そして、基本燃料噴射量に、目標吸気量に基づいて設定される排気温低下のための追加燃料噴射量を加えた値を目標燃料噴射量として設定し、燃料噴射量が目標燃料噴射量となるように燃料噴射弁13を制御する。これにより、加速性能を損なうことなく、機関本体1から排出される排気の温度を低下させることができる。なお、本実施形態では基本燃料噴射量を空燃比が理論空燃比となる噴射量に設定しているが、必ずしも理論空燃比となる噴射量に設定する必要はない。
ステップS8において、電子制御ユニット200は、内部温度差ΔTが過大になることに起因するクラックの発生を抑制するための燃料噴射量増量補正については少なくとも実施せずに、内燃機関100を運転させる。したがって、基本的には基本燃料噴射量が目標燃料噴射量として設定されるが、必要に応じてクラックの発生を抑制するための燃料噴射量増量補正以外の補正が基本燃料噴射量に対して施される場合がある。
ステップS9において、電子制御ユニット200は、触媒の暖機が完了したか否かを判定する。触媒の暖機が完了したか否かは、例えば排気温度センサ213や担体温度センサ214の検出した温度が活性温度以上になっている時間が所定時間以上になっているか等によって判定することができる。電子制御ユニット200は、触媒の暖機が完了していれば処理を終了し、完了していればステップS4の処理に戻る。
図6は、本実施形態による冷間始動時の内燃機関100の制御の動作について説明するタイムチャートである。
時刻t1で、CDモード中にアクセル踏込量が最大踏込量まで増加し、導電性担体35に対して通電を開始する前に内燃機関100が始動されたとする。そうすると、電子制御ユニット200は、初期担体温度に基づいて排温低下要求出力を設定し、機関要求出力が排温低下要求出力以上か否かを判定する。
時刻t1から時刻t2までの間は、機関要求出力は排温低下要求出力以上になっているものの、吸気系の応答遅れのために吸気量が目標吸気量に達していないので、電子制御ユニット200は、内部温度差ΔTが過大になることに起因するクラックの発生を抑制するための燃料噴射量増量補正、すなわち排気温を低下させるための燃料噴射量増量補正については少なくとも実施せずに、内燃機関100を運転させる。
時刻t2で吸気量が目標吸気量に達すると、電子制御ユニット200は、吸気量の積算値GAsumがピーク温度判定閾値GApeakを超える時刻3まで、内部温度差ΔTが過大になることに起因するクラックの発生を抑制するための燃料噴射量増量補正を実施して、内燃機関100を運転させる。すなわち、排気温を低下させるための燃料を余分に噴射して内燃機関100を運転させる。
そして時刻t3以降は、触媒の暖機が完了するまでは少なくとも排気温を低下させるための燃料噴射量増量補正については実施せずに、内燃機関100の運転が行われる。
以上説明した本実施形態によれば、車両110を制御する電子制御ユニット200が、機関始動時の導電性担体35の温度(初期担体温度)に基づいて、触媒を活性させるための暖機要求があるか否かを判定し、暖機要求がある場合において、機関要求出力が機関始動時の導電性担体35の温度に基づいて定まる排気温低下要求出力以上のときは、導電性担体35に対する通電を実施せずに排気熱によって触媒を加熱すると共に、排気熱によって触媒と共に加熱される導電性担体35の温度が、導電性担体35の外周部と当該外周部よりも内側の外周近傍部との温度差ΔTが最大となる温度(ピーク温度)を超えるまで、排気温を低下させるための燃料を余分に噴射して内燃機関100を運転させる。
このように、排気温を低下させるための燃料を余分に噴射して内燃機関100を運転させるのを、導電性担体35の温度がピーク温度を超えるまでとすることで、導電性担体35の外周領域おける内部温度差ΔTが最大となる時期を過ぎて導電性担体35にクラックが発生するおそれがなくなった後に、排気温を低下させるための燃料を無駄に噴射してしまうのを抑制できると共に、触媒を活性させるまでの時間も短くすることができる。よって、車両110の加速性能を悪化させることなく燃費及び排気エミッションの悪化を抑制しつつ、導電性担体35の外周領域おける内部温度差ΔTが過大になることに起因するクラックを抑制することができる。
また本実施形態による電子制御ユニット200は、吸気系の応答遅れを考慮して、吸気量が機関要求出力に基づいて設定される目標吸気量になった後に、排気温を低下させるための燃料を余分に噴射して内燃機関100を運転させる。
排気温を低下させるために余分に噴射される燃料量は、目標吸気量に基づいて設定されるため、吸気量が目標吸気量まで増加していないにもかかわらず、排気温を低下させるための余分な燃料を噴射してしまうと、必要以上に燃料が噴射されて燃費及び排気エミッションが悪化する。したがって、吸気量が目標吸気量になった後に、排気温を低下させるための燃料を余分に噴射して内燃機関100を運転させることで、燃費及び排気エミッションが悪化をさらに抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば上記実施形態では、図4のステップS5において、吸気量が目標吸気量まで増加しているか否かを、エアフローメータ211で検出した吸気量が目標吸気量以上になっているか否かで判定していたが、このような方法に限らず、例えば以下のように変更しても良い。すなわち、機関要求出力が排温低下要求出力よりも大きくなってからの経過時間が予め設定された所定時間以上となったときに、吸気量が目標吸気量まで増加していると判定するように変更しても良い。また、吸気量の積算値GAsumが、ピーク温度判定閾値GApeakよりも小さい所定の閾値以上になったときに、吸気量が目標吸気量まで増加していると判定するように変更しても良い。このように、機関要求出力が変動したときの吸気系の応答遅れが解消したかを判定することができる種々の判定方法に変更することができる。