JP2016196031A - 連続鋳造鋳片の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】表面割れの発生を抑制して、実質的にBを含有しない鋼の連続鋳造鋳片を製造することができる製造方法を提供する。【解決手段】湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて、鋼の連続鋳造鋳片を製造する方法であって、鋳型内に収容されB含有量が3ppm未満の溶鋼の上に、Bを含有するB供給源を投入する工程と、表面から内部へ5mmまでの表層のB含有量が3ppm以上に濃化された鋳片を、前記鋳型内で形成して、前記鋳型から引き抜く鋳造工程と、前記引き抜かれた鋳片の前記表層を、酸化スケールとして除去する工程と、を含む連続鋳造鋳片の製造方法。B供給源は、たとえば、B2O3を2〜12質量%含有するモールドフラックスであってもよい。【選択図】図3

Description

本発明は、連続鋳造鋳片の製造方法に関し、より詳しくは、湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて、鋼の連続鋳造鋳片を製造する方法に関する。
近年、厚鋼板等の鉄鋼材料として、機械特性向上のため、Ti、Nb、Ni、Cuなどの合金元素を含有する低合金鋼が製造されている。しかし、これら合金元素の添加に伴い、このような低合金鋼を連続鋳造によって製造する際、鋳片の表層に横ひび割れ、および表皮下割れといった欠陥が生じ、操業上および製品の品質上の問題となっている。
「横ひび割れ」とは、鋳片表面に発生する鉤状の割れである。「表皮下割れ」とは、鋳片の内部かつ表層で生じる割れである。横ひび割れと表皮下割れとを総称して、「表面割れ」、または、単に、「割れ」という。ここで、「表面」は鋳片の外面を意味し、「表層」は鋳片の外面から内部へ5mmまでの深さ領域を意味する。
表面割れが発生した鋳片を観察すると、表面割れは、鋳片表層において、旧オーステナイト粒界に沿って発生していることがわかる。表面割れは、AlN、NbC等の析出により脆化したオーステナイト粒界、および、オーステナイト粒界に沿って生成するフィルム状フェライトに矯正応力が集中することで発生すると考えられる。「矯正応力」とは、湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機における矯正点で付与される応力である。
オーステナイトの結晶径が大きいほど、その粒界に応力が集中する。C等量が0.1〜0.18質量%の亜包晶領域の鋼では、割れが生じやすい。これは、この組成の鋼で、オーステナイトの結晶粒が大きく成長するからである。これらの割れは、特に、オーステナイトからフィライトへの相変態領域近傍の温度域において発生しやすい。
したがって、割れの発生を抑制するために、通常は、矯正点での矯正は、鋳片表層の延性が低下する温度域(脆化温度域)を回避して行われる。しかし、鋳片の幅方向に関して表面温度のばらつきが生じるので、この方法では、矯正点で、鋳片の幅方向全域に渡って脆化温度を回避することは困難であり、必ずしも割れ発生を完全に防止することはできない。特に、Niを含有する鋼は、サブスケールの生成により表面温度のばらつきが大きくなる(非特許文献1参照)ため、冷却制御による割れ防止は困難である。
上述のように、表面割れの発生した粒界部にはAlN等の炭窒化物が析出しており、この炭窒化物の析出に伴う応力集中が、割れを助長すると考えられる。これに対して、鋼中のAlN等の析出を制御するために、Tiを添加しTiNを析出させることで、割れ防止効果が得られている。
しかし、材料特性上の理由からTiを添加できない鋼種があり、また、Tiを添加している鋼種であっても、たとえば、Ti脱酸鋼の鋳片などでは横ひび割れが発生している。このように、鋼種(鋼の成分)によっては、Tiを添加して割れを防止することに、限界がある。
特許文献1には、割れの起点となるAlNの粒界に沿った析出を防止する方法が開示されている。この方法では、鋳型から引き抜いた鋳片の表面温度が、Ar3点未満、かつオーステナイト相の変態が完了しない温度になるように、鋳片を冷却し、その後、950〜1200℃に復熱させて、矯正が行われる。
特許文献2には、鋳型内の溶鋼に合金成分を添加して、その合金成分が濃化した偏析帯を鋳片表層に形成させる複層鋳片の連続鋳造方法が開示されている。鋳片の表層は、偏析帯を形成することにより、割れ難くされる。
特開平11−33688号公報 特許第3456311号公報
加藤徹、外4名、「Ni含有鋼連鋳スラブの表面割れ発生機構」、鉄と鋼、日本鐡鋼協會、1998、第84巻、第12号、p.856−860
しかし、Niを含有する鋼は、上述の理由により、冷却時の鋳片表面温度のばらつきが大きい。このため、Niを含有する鋳片に対しては、鋳片全体が特許文献1に記載の温度履歴を有するように制御することは困難であり、現状では、たとえば、コーナー割れといった表面欠陥が生じる。
また、特許文献2の方法では、合金成分を含有する添加材を鋳型内の溶鋼に浸漬する必要がある。この添加材の浸漬は、鋳型内での溶鋼の流動に多大な影響を与え、モールドパウダーが、凝固シェルと鋳型との間に適切に供給されなくなり、縦割れ、およびブレークアウトが生じるおそれがある。
さらに、鋼材の特性上焼入れ性を必要としない場合、および焼入れ性の向上が悪影響となる場合等は、B(ホウ素)を実質的に含有しない(たとえば、B含有量が3質量ppm未満の)連続鋳造鋳片が必要とされることがある。このような用途の連続鋳造鋳片を製造する際に表面割れを抑制する有効な方法が求められている。
本発明は、表面割れの発生を抑制して、実質的にBを含有しない鋼の連続鋳造鋳片を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、下記の連続鋳造鋳片の製造方法を要旨とする。
湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて、鋼の連続鋳造鋳片を製造する方法であって、
鋳型内に収容されB含有量が3ppm未満の溶鋼の上に、Bを含有するB供給源を投入する工程と、
表面から内部へ5mmまでの表層のB含有量が3ppm以上に濃化された鋳片を、前記鋳型内で形成して、前記鋳型から引き抜く鋳造工程と、
前記引き抜かれた鋳片の前記表層を、酸化スケールとして除去する工程と、を含む連続鋳造鋳片の製造方法。
本発明の製造方法によれば、鋳型内の溶鋼上に投入されたB供給源から溶鋼のメニスカス部へとBが供給される。これにより、鋳型内で形成される鋳片の表層はBが濃化したものとなる。本発明では、鋳片の表層(表面から内部へ5mmまでの領域)のB含有量は、3ppm以上にされる。このような組成の表層には、表面割れが生じ難い。Bが濃化された表層は、酸化スケールとして除去されるので、鋳片は、B含有量が3ppm未満のものとなる。
したがって、この方法によれば、B含有量が3ppm未満、たとえば、Bを実質的に含有しない連続鋳造鋳片を、表面割れを抑制して製造することができる。
図1は、試験片のB含有量と高温引張試験による試験片の絞り値との関係を示す図である。 図2Aは、本発明の製造方法において鋳片を連続鋳造する際の鋳型を示す平面図である。 図2Bは、本発明の製造方法において鋳片を連続鋳造する際の鋳型を示す縦断面図である。 図3は、用いたモールドパウダーのB23含有量と鋳片表層のB含有量との関係を示す図である。 図4は、鋳片表面からの深さとB含有量との関係を示す図である。
本発明者らは、表面割れが発生するメカニズムを明らかにするために、以下の検討を行った。
鋼中で析出するAlN、NbC、BN等の炭窒化物は、鋳片の横ひび割れの形成に、大きな影響を与えることが知られている。この対策として、Tiを添加し、高い温度からTiNを析出させることで、炭窒化物の析出を抑制することが行われている。しかし、Niを添加した鋼種においては、TiNを形成するのに十分な量のTiを添加しても、高い頻度で横ひび割れが発生する。
本発明者は、高温引張試験により、鋼の高温特性の詳細な調査を行い、以下の知見を得た。
(イ) Niを含有する鋼の高温延性の低下は、粒界偏析したSおよび粒界析出した微細な炭窒化物(AlN、NbC、BN等)に起因する。
(ロ) 粒界強化元素であるBを添加すると、粒界偏析したSの影響が低減され、鋼の高温延性が著しく高くなる。
上記(ロ)の知見は、下記の高温引張試験を行うことにより得られた。表1に、試験に用いた試験片(鋼)の組成を示す。表1で、組成の単位は、質量%であり、残部は、Feおよび不純物からなる。
Figure 2016196031
鋼の連続鋳造時の条件に近づけるため、試験片を、溶融温度まで加熱し、その温度で120s(秒)以上保った後、0.4℃/sの冷却速度で試験温度まで冷却後、引張試験を行った。試験前後の試料について、試料の断面積を測定し、断面収縮率(絞り値)を求めた。
図1に、試験片のB含有量と絞り値との関係を、引張試験を実施した試験温度ごとに示す。図1より、B含有量が増加すると、Niを含有する鋼の高温延性が向上することがわかる。図1のデータを補間すると、鋼がBを3ppm以上含有すると、絞り値が明確に向上することが予想される。
さらに、試験後の試験片の詳細な調査を行った結果、実質的にBを含有しない試験片(鋼AおよびB)において、粒界にはSの粒界偏析が顕著に見られた。特許文献2では、Niを含有する鋼において、Sの粒界偏析によって粒界が脆化することを第一原理計算により明らかにしており、上記の引張試験においても同様の傾向が確認された。この脆化は、NiとSとが共存するときのみに起こり、Ni含有量が多くなるほど、また、S偏析量が多くなるほど、顕著になる。一方、Bを含有する試験片の粒界には、Bの偏析が顕著に見られ、Sの偏析が抑制されていることが明らかになった。したがって、高温延性を改善するためには、NiとSとによる粒界脆化の程度に応じて、Bを添加する必要がある。
ここで、Bの添加が鋼の延性に与える影響について説明する。従来、Bは脆化元素であり、Bの添加は横ひび割れを助長すると考えられてきた。しかし、本発明者らは、高温特性の詳細な調査から、Bによる脆化はBNの析出によって起こり、固溶したBは、逆に粒界を強化し、高温延性を改善する働きを有することを明らかにした。すなわち、鋼中のNをTi等で固定(NとTi等との化合物を形成)した上で、Bを添加することにより、鋳片の表面割れを防止することが可能である。
上述のように、横ひび割れは連続鋳造鋳片の表層、すなわち表面から内部へ5mmまでの深さ領域で発生する。このため、鋳片全体の平均化学組成とは別に、鋳片表層の化学組成を適正な範囲とすることで、成分規定上Bを含有しない鋼種について、鋼の特性に大きな影響を与えることなく、横ひび割れを防止することが可能であると考えられる。Bの添加は、10ppm程度の添加であっても、焼入れ性等の鋼の特性に大きな影響を与えるため、鋳片全体の平均化学組成として、成分規定上Bを含有しない鋼種が必要とされる場合がある。
本発明者らは、Niを含有しない鋼のみならず、Niを含有する鋼の連続鋳造においても、鋳片表層のB含有量を3ppm以上に濃化させ連続鋳造することで、高温延性の低下に起因する横ひび割れを防止できるとの着想を得た。本発明者らは、鋼の特性に影響が出ないように、鋳片表層だけにBを添加する手法として、B供給源を溶鋼の液面に投入することを考案した。B供給源としては、たとえば、B23を含有するモールドパウダー(モールドフラックス)を用いることができる。
本発明は、鋼の連続鋳造鋳片を、湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて製造する方法である。
図2A、および図2Bは、本発明の製造方法において鋳片を連続鋳造する際の鋳型を示す図である。図2Aは平面図であり、図2Bは縦断面図である。
鋳型1内には、溶鋼Mが収容されている。溶鋼Mには、浸漬ノズル3の下部が浸漬されている。溶鋼Mは、浸漬ノズル3の下部に形成された開口3aから、鋳型1内に供給される。溶鋼Mが鋳型1に接触する部分では、溶鋼Mが凝固してなる凝固シェル2が形成される。凝固シェル2は、鋳型1の下方ほど厚くなる。このようにして形成された鋳片(凝固シェル2、およびその内部の溶鋼M)は、鋳型1の下部に形成された開口を介して、下方へと引き抜かれる。
本発明の方法では、鋳型1内の溶鋼Mの上に、Bを含有するB供給源、たとえば、B23を含有するモールドフラックス4を供給する。モールドフラックス4を、パウダー5の形態で供給すると、溶鋼Mとの接触部近傍には、溶融層5が形成される。溶融層5は、鋳型1と凝固シェル2との間に流入し、凝固シェル2の鋳型1に対する摩擦を低減する。これにより、鋳片表層の縦割れ、およびブレークアウトが生じ難くなる。
溶融層5と溶鋼Mとの間では、酸化還元反応が進行する。より詳細には、溶鋼M中の合金元素(Al、Ti、Mn、Si等)であってB23よりも酸化物のギブス生成エネルギーが低いものと、B23との間で酸化還元反応が起こり、Bが溶鋼M中に容易に移動する。
これにより、鋳型1内で溶融層5と接触する溶鋼Mのメニスカス(湯面)部には、Bが濃化する。このBが濃化した溶鋼Mは、凝固シェル2の表層(鋳型1近傍部)を形成する。この凝固シェル2の表層は、鋳片の表層となる。このようにして、表層にBが濃化した鋳片を意図的に、かつ簡便に作り出すことが可能である。
モールドフラックスのB23含有量は、2〜12質量%であることが好ましい。B23含有量が2質量%未満であると、必要量のBを、溶鋼のメニスカス部に、したがって、鋳片の表層に供給できない可能性がある。B23はモールドフラックス(パウダー)の結晶化を阻害するため、B23含有量が12質量%より大きくなると、モールドフラックスの凝固点が、著しく低下し、たとえば、1050℃以下となる。この場合、鋳型1内での溶鋼Mの不均一凝固に起因した鋳片の縦割れが生じる可能性が高くなる。
B供給源として、B23を含有するモールドフラックスの代わりに、Bを含有する合金、たとえば、Fe−B系合金等を用いてもよい。Bを含有する合金は、顆粒、または整粒の形態であることが好ましい。また、B供給源がBを含有する合金である場合、Bを含有する合金は、下記(1)式を満たすように、鋳型1内の溶鋼M上に投入することが好ましい。
0.5≦3×XB×P/Q≦5 (1)
ただし、
P:Bを含有する合金の投入量(kg/min)
B:Bを含有する合金のB含有量(質量%)
Q:溶鋼のスループット(t/min)
0.5≦3×XB×P/Qを満たすことにより、適量のBを、溶鋼のメニスカス部に、したがって、鋳片の表層に供給でき、鋳片の表面割れの発生を抑制することができる。また、3×XB×P/Q≦5を満たすことにより、合金に含有されるBの大部分が溶鋼のメニスカス部(表面近傍)に供給され、それより深い部分まではBがほとんど供給されないようにすることができる。これにより、得られる鋳片において、表面から内部へ5mmより深い部分には、Bが実質的に存在しないようにすることができ、酸化スケールを除去した後の鋳片が、実質的にBを含有しないようにすることができる。
本発明の製造方法において、溶鋼Mのメニスカス部に、鋳型1の周方向の攪拌流を与えることが好ましい。このような攪拌流は、たとえば、公知の電磁撹拌装置によって与えることができる。図2Aに、このような攪拌流の方向の一例を、矢印で示す。このような攪拌流が生じることにより、後述の実施例で示すように、攪拌流が生じていない場合に比して、得られた鋳片表層のB含有量が増加する。その理由については不明であるが、モールドフラックスと接触するメニスカス部、すなわち、Bが濃化した溶鋼Mが、遠心力で鋳型1の内壁部に集積し易くなるためであることが考えられる。また、攪拌流を与えない場合に比して、溶鋼Mの流れが安定し、溶鋼Mの流れが安定せず不均一な場合に比して、溶鋼Mとモールドフラックスとの間の反応面積が大きくなっている可能性もある。
以上のようにして、表層のB含有量が3ppm以上に濃化された鋳片が、鋳型1内で形成され、鋳型1から引き抜かれた後、この鋳片の表層は、酸化スケールとして除去される。酸化スケールは、連続鋳造後の鋳片の表面酸化、または、加熱炉等での再加熱による酸化により形成される。この際、除去すべきBが濃化した層の厚さに比して、酸化スケールの厚さが同等以上になるように、加熱温度、加熱時間等を設定する。酸化スケールが除去されることにより、Bが鋼の特性に影響を与えることはない。酸化スケールは、たとえば、高温の鋳片に高圧水を吹き付ける等の公知の方法により除去することができる。
[鋼の化学組成]
本発明において、連続鋳造する鋼の化学組成は、B含有量を除き、特に限定されないが、好ましい化学組成の例として、下記のものを挙げることができる。以下、含有量についての「%」は、「質量%」を意味するものとする。
C:0.03〜0.2%
炭素(C)は、鋳造された鋳片である鋼、そして、これを素材として得られる鋼材(たとえば、鋼板)の強度を高める。C含有量が0.03%未満では、鋼材の十分な強度が得られない。一方、C含有量が0.2%を超えると、スポット溶接性が低下する。したがって、C含有量は、0.03〜0.2%であることが好ましい。鋼の高い強度を保ち、かつ良好な靱性および溶接性を確保するためには、C含有量は、より好ましくは、0.05〜0.15%である。
Mn:0.1〜3.0%
マンガン(Mn)は、鋼の強度を顕著に高める元素である。Mn含有量が1.0%未満では、鋼の強度が低下する。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、鋼の組織が低温変態相主体となるため、鋼の伸びが低下する。したがって、Mn含有量は、0.1〜3.0%であることが好ましい。鋼の高い強度を保ち、かつ靱性を確保するためには、Mn含有量は、より好ましくは、0.5〜2.5%である。
Ni:0.2〜2.0%
ニッケル(Ni)は、鋼の強度と低温靱性とを高めるのに重要な元素である。強度と低温靱性とはNi含有量が0.2%以上で顕著に上昇する。一方、Ni含有量が2.0%を超えると、溶接熱影響部の靭性を低下させる。したがって、Ni含有量は0.2〜2.0%であることが好ましい。鋼の高い強度を保ち、かつ高い靱性を確保するために、Ni含有量は、より好ましくは、0.5〜1.5%である。
Ti:0.005〜0.1%
チタン(Ti)は、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。Ti含有量が0.005%未満では、この効果が得られない。一方、Ti含有量が0.1%を超えると、生成するTiNやTiCが粗大となり、靭性および加工性が低下する。したがって、Ti含有量は0.005〜0.1%であることが好ましい。鋼の高い靱性および加工性を確保するために、Ti含有量は、より好ましくは、0.008〜0.05%である。
sol.Al:0.001〜0.05%
アルミニウム(Al)は、鋳造の際の脱酸元素として含有される。Al含有量が0.001%未満であると脱酸効果が不十分となる。一方、Al含有量が0.05%を超えると、粗大なAl酸化物が生成し、溶接熱影響部の靱性が低下する。したがって、Al含有量は、0.001〜0.05%であることが好ましい。本明細書では、「Al含有量」は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
以上の例の化学組成を有する鋼で、化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるものであって、製造対象とする鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
上記不純物の例として、P、S、N、およびBを挙げることができる。P、S、およびNの含有量は、たとえば、以下のとおりである。
P:0.04%以下
りん(P)は、不純物として鋼中に不可避的に含有される。しかし、鋼の強度上昇等を目的として、意図的に含有させてもよい。P含有量が0.04%を超えると、溶接性が著しく低下する。したがって、P含有量は0.04%以下であることが好ましい。Pを含有することによる鋼の強度上昇の効果は、P含有量が0.02%を超えると飽和する。このため、P含有量の上限は、好ましくは、0.02%である。
S:0.01%以下
硫黄(S)は、不純物として鋼中に不可避的に含有される。S含有量が0.01%を超えると、製品の加工性および溶接性が著しく低下し、さらに、高温延性にも影響を与え、鋳造時の表面割れを引き起こす。したがって、S含有量は、0.01%以下であることが好ましい。製品の加工性、および溶接性を高くするため、S含有量の上限は、より好ましくは、0.005%である。
N:0.01%以下
窒素(N)は、不純物として鋼中に不可避的に含有される。N含有量が0.01%を超えると、鋼の強度および伸びが著しく低下する。したがって、N含有量は、0.01%以下であることが好ましい。製品の強度および靱性確保のため、N含有量の上限は、より好ましくは、0.006%である。
B:0.0003%(3ppm)未満
ホウ素(B)は、不純物として鋼中に不可避的に含有される。B含有量が0.0003%を超えると、焼き入れ性が高くなり、鋼材の特性に多大な影響を与える。本発明では、鋼のB含有量は、0.0003%未満とする。
以上の化学組成について、Feの一部に代えて、Si、Cu、Nb、CrおよびMoからなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
Si:0〜0.5%
シリコン(Si)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。Siは、含有される場合、鋼の強度を高め伸び特性を向上させる。しかし、Si含有量が0.5%を超えると、製品表面にいわゆる「赤スケール」と呼ばれる外観の劣化が発生しやすくなり、鋼の化成処理性が顕著に低下する。したがって、Si含有量は0〜0.5%であることが好ましい。強度向上効果の飽和と赤スケール発生との観点から、Si含有量のより好ましい上限は、0.4%である。
Cu:0〜2.0%
銅(Cu)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。Cuは、含有される場合、鋼の強度および耐候性を高める。しかし、Cu含有量が2.0%を超えると、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は、0〜2.0%であることが好ましい。鋼の強度および耐候性向上の効果は、Cu含有量が、0.2%以上で顕著になり、1.5%以上ではほぼ飽和する。したがって、Cu含有量は、より好ましくは、0.2〜1.5%である。
Nb:0〜0.05%、
ニオブ(Nb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。Nbは、含有される場合、鋼の強度を高める。しかし、Nb含有量が0.05%を超えると、鋼の靱性が顕著に低下する。したがって、Nb含有量は、0〜0.05%であることが好ましい。強度向上の効果は、Nb含有量が0.005%以上で顕著になり、0.03%以上でほぼ飽和する。したがって、Nb含有量は、好ましくは、0.005〜0.03%である。
Cr:0〜0.1%、Mo:0〜0.1%
クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)は、いずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。CrおよびMoは、いずれも、含有される場合は、鋼の焼入れ性を高め、また、鋼の強度および靭性を高める。しかし、Cr含有量およびMo含有量の少なくとも一方が0.1%を超えると、鋼の溶接熱影響部の靭性を低下させる。したがって、Cr含有量は0〜0.1%であることが好ましく、Mo含有量は0〜0.1%であることが好ましい。鋼の強度および靱性を向上させる効果は、Cr含有量およびMo含有量のいずれか一方が0.01%以上で顕著になり、0.05%以上でほぼ飽和する。したがって、Cr含有量およびMo含有量は、より好ましくは、それぞれ、0.01〜0.05%である。
本発明の効果を確認するために、種々の条件により、連続鋳造を行い、得られた鋳片について、酸化スケールの除去を行った。
5点矯正型の垂直曲げ型連続鋳造機を使用し、幅2300mm、厚さ250mmのキャビティが形成された鋳型を用いて、スラブ鋳片を製造した。表2に、スラブ鋳片の製造条件を示す。
Figure 2016196031
表2で、溶鋼の化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。いずれの溶鋼のB含有量も、3ppm未満である。また、表2に「[B]0-5」と記したものは、連続鋳造により得られた鋳片について、酸化スケールを除去する前に、鋳片幅方向に関して端から幅の1/4の位置で、表面から内部へ5mmまでの深さ領域を切削して得た切り粉についてのB含有量の分析値である。
連続鋳造は、本発明例3を除き、電磁撹拌装置により、鋳型内の溶鋼のメニスカス部に、周方向の流動を与えながら行った。電磁撹拌装置に備えられたコイルに流す交流電流は、周波数を3Hz、電流値を600Aとした。鋳造速度は0.65〜1.2m/min、二次冷却の水量は0.7〜0.9L/kg−steelとした。
溶鋼の表面には、適宜、モールドフラックスとして、モールドパウダーを投入した。表2に示すとおり、本発明例では、いずれも、B23含有量が2質量%以上のモールドパウダーを用いたが、比較例では、いずれも、B23含有量が1質量%以下のモールドパウダーを用いた。モールドパウダーa〜eは、いずれも、凝固点が1200℃であり、1300℃における粘度の設計値が0.1Pa・sのものであった。
得られた鋳片のそれぞれについて、酸化スケールを除去する前に、上述のB含有量([B(%)]0-5)の測定とは別に、鋳片幅方向を10分割した位置の各々で、表面から内部へ5mmまでの領域を切削して得た切り子についてB含有量を測定し、最大値および最小値が平均値の±10%以内にあることを確認した。
また、得られた鋳片について、割れ(表面割れ)の発生状況を評価した。評価に際して、鋳片の2つの長辺面の各々に対して、グラインダー研削を1.0mmずつ行った後に、カラーチェックを行った。割れが見られた場合、割れがなくなるまでグラインダーで研削し、そのときの初期の表面からの深さ(研削厚さ)を測定した。ただし、観察された割れ個数が多い場合はカラーチェック後、その面の全面に対してグラインダー研削を、さらに2.0mm行い、計3.0mmのグラインダー研削を行った後、再びカラーチェックを行い、割れ状況を観察した。
以上の結果に基づき、割れの発生状況を「割れ指数」として表した。割れ指数は、0、1、2、および3の4段階とした。割れ指数0は、最初のカラーチェックにより割れが観察されなかったことを意味する。割れ指数1は、割れが、鋳片の表面から深さ2.0mm未満の領域に存在し、手入れによって容易に除去できる軽度なレベルであったことを意味する。割れ指数2は、割れが、表面から深さ4.0mm未満の領域に存在し、除去には重度の手入れが必要なレベルであったことを意味する。割れ指数3は、割れが、表面から深さ4mm以上の領域まで存在し、除去には重度の手入れが必要であり、かつ歩留まりの大幅な悪化を招くレベルであったことを意味する。表2に、得られた鋳片のそれぞれについて、割れ指数の値を示す。
図3に、用いたモールドパウダーのB23含有量と鋳片表層のB含有量との関係を示す。用いたモールドパウダーのB23含有量が大きくなるほど鋳片表層のB含有量が大きくなることがわかる。この結果から、連続鋳造時に、モールドパウダーの溶融層から溶鋼のメニスカス部へ、Bが供給されていることが推定される。
表2から、鋳片表層のB含有量が大きくなるほど、割れ指数が小さくなる、すなわち、割れが生じ難くなることがわかる。本発明例では、割れ指数は、いずれも、1以下であり、割れの程度は許容レベルであった。また、図3では、用いたモールドパウダーのB23含有量が大きくなるほど、割れ指数の値が小さくなっている。用いたモールドパウダーのB23含有量が2質量%以上のとき、割れ指数は1以下となっている。
一方、比較例1〜3の製造方法により得られた鋳片の割れ指数は、いずれも、2以上であり、重度の横ひび割れが発生していた。
比較例1の製造方法により得られた鋳片の割れ指数は2であり、割れは、鋳片の長辺面全体に渡って散見された。この鋳片から、割れ部を含む試料を切り出し、詳細な調査を行ったところ、割れは旧オーステナイト粒界に沿って発生しており、旧オーステナイト粒界には、偏析したSと、粒界析出物とが存在した。
比較例2および3の製造方法により得られた鋳片の割れ指数は3であった。これらの鋳片には、幅方向全域で重度の横ひび割れが発生しており、鋳片のコーナー部近傍で、割れが顕著であった。
本発明例2、本発明例3、および比較例2の製造方法の各々により得られた鋳片について、酸化スケールを除去する前に、鋳片の初期の表面から深さ方向のB含有量の分布を調査した。より詳細には、鋳片の幅方向中央部において、鋳片の表面より内部に0、5、10、15、20、25、30、35、40、60、80、100、120、および125mmの深さで、内部へ1mmまで切削し、得られた切り粉を採取し、化学分析に供した。
表2に示すように、本発明例2および3の製造方法で用いたモールドパウダーは、いずれも、B23を4質量%含有するのに対して、比較例2の製造方法で用いたモールドパウダーは、B23を実質的に含有していない。
図4に、鋳片の初期の表面からの深さとB含有量との関係を示す。本発明例2および3の製造方法により得られた鋳片では、いずれも、表面近傍(特に、表面から内部へ5mmまでの深さ領域)で、Bが顕著に濃化していた。比較例2の製造方法により得られた鋳片では、このようなBの濃化は認められなかった。また、本発明例2と本発明例3との対比から、溶鋼のメニスカス部に、鋳型の周方向の攪拌流を与えることにより、鋳片の最表層部でのB含有量が高くなることがわかる。
1:鋳型、 4:モールドパウダー、 M:溶鋼

Claims (4)

  1. 湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて、鋼の連続鋳造鋳片を製造する方法であって、
    鋳型内に収容されB含有量が3ppm未満の溶鋼の上に、Bを含有するB供給源を投入する工程と、
    表面から内部へ5mmまでの表層のB含有量が3ppm以上に濃化された鋳片を、前記鋳型内で形成して、前記鋳型から引き抜く鋳造工程と、
    前記引き抜かれた鋳片の前記表層を、酸化スケールとして除去する工程と、を含む連続鋳造鋳片の製造方法。
  2. 請求項1に記載の連続鋳造鋳片の製造方法であって、
    前記B供給源が、B23を2〜12質量%含有するモールドフラックスである、連続鋳造鋳片の製造方法。
  3. 請求項1に記載の連続鋳造鋳片の製造方法であって、
    前記B供給源が、Bを含有する合金であり、
    前記B供給源を投入する工程では、下記(1)式を満たすように、前記合金を投入する、連続鋳造鋳片の製造方法。
    0.5≦3×XB×P/Q≦5 (1)
    ただし、
    P:Bを含有する合金の投入量(kg/min)
    B:Bを含有する合金のB含有量(質量%)
    Q:溶鋼のスループット(t/min)
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の連続鋳造鋳片の製造方法であって、
    前記鋳造工程で、前記鋳型内の溶鋼のメニスカス部に、前記鋳型の周方向の流れを与える、連続鋳造鋳片の製造方法。
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