以下、本発明の詳細を説明する。
本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法は、以下の工程を備える。
黒鉛または一次薄片化黒鉛と、ポリマーとを含み、該ポリマーが黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている組成物を用意する工程。
上記組成物中に含まれるポリマーを、酸素濃度が、2.5%以上、15%以下の雰囲気下で熱分解することにより、ポリマーの一部を残存させながら、黒鉛または一次薄片化黒鉛を剥離する工程。
以下、本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料を先に説明し、次に本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法の詳細を説明する。
[薄片化黒鉛・樹脂複合材料]
本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、薄片化黒鉛と、樹脂とを含む。より具体的には、薄片化黒鉛とポリマーである樹脂とが複合化したものである。
薄片化黒鉛・樹脂複合材料に含まれる薄片化黒鉛は、原料である黒鉛、または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の層間の少なくとも一部が剥離されたものである。また、原料である黒鉛または一次薄片化黒鉛の、グラフェン間の層間距離が広げられたものである。
黒鉛は、複数のグラフェン層の積層体であり、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などである。原料として用いられる黒鉛としては、膨張黒鉛が好ましい。
膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層の層間が大きいため、容易に剥離され得る。そのため、黒鉛として膨張黒鉛を用いることにより、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を容易に製造することができる。
一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛である。一次薄片化黒鉛は、本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料のほか、例えば、電気化学的処理による黒鉛の薄片化方法、あるいは吸着−熱分解法などの各種方法によって黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
なお、黒鉛では、グラフェンの積層数は10万層以上〜100万層程度であり、BETによる比表面積は22m2/g以下の値を有する。
本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料に含まれる薄片化黒鉛は、グラフェンの積層数が3000層以下のものをいう。
本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料のBET比表面積は、100m2/g以上であることが好ましく、150m2/g以上であることがより好ましく、200m2/g以上であることがさらに好ましい。薄片化黒鉛・樹脂複合材料のBET比表面積が、上記下限以上である場合、薄片化黒鉛・樹脂複合材料の他の樹脂材料中における分散度をより一層高めることができる。なお、本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料のBET比表面積の上限値は、特に限定されないが、材料の特性上、2500m2/g以下とすることが好ましい。
本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料では、グラフェン層間が広げられているだけでなく、樹脂が薄片化黒鉛に複合している。そのため、他の樹脂材料に添加した場合の分散性に優れている。
ここで、他の樹脂材料は、薄片化黒鉛・樹脂複合材料中に含まれる樹脂と同種の樹脂であってもよく、他の種類の樹脂であってもよい。他の樹脂材料が、本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料に含まれる樹脂との親和性が高い樹脂材料である場合、薄片化黒鉛・樹脂複合材料の他の樹脂材料中への分散性が、より一層高められる。
さらに、他の樹脂材料に添加する際には、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を有機溶剤に分散させた分散液の状態で添加することが望ましい。分散液においては、グラフェン間が広がっており、凝集を抑制することができる。よって、薄片化黒鉛・樹脂複合材料の添加量を少なくした場合であっても、他の樹脂材料中により一層均一に分散させることができる。
加えて、分散液や溶液中において沈殿し難いため、分散液や溶液のポットライフすなわち使用可能時間を長くすることも可能となる。よって、好ましくは、本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、有機溶剤に分散もしくは溶解させた分散液もしくは溶液として調製することが望ましい。
薄片化黒鉛・樹脂複合材料に含まれる樹脂としては、ラジカル重合性モノマーの重合体であることが好ましい。樹脂は、複数種類のラジカル重合性モノマーの共重合体であってもよいし、1種類のラジカル重合性モノマーの単重合体であってもよい。
ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性の官能基を有するモノマーである限り特に限定されない。ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−エチルアクリル酸メチル、α−ベンジルアクリル酸メチル、α−[2,2−ビス(カルボメトキシ)エチル]アクリル酸メチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジシクロヘキシル、α−メチレン−δ−バレロラクトン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレンからなるα−置換アクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどのグリシジル基や水酸基を持つビニルモノマー;アリルアミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノ基を有するビニルモノマー;メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−メタクリロイルオキシエチルサクシネート、2−メタクリロイロキシエチルフタル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ユニケミカル社製、ホスマーM、ホスマーCL、ホスマーPE、ホスマーMH、ホスマーPPなどのリン酸基を有するモノマー;ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマー;アルキル基やベンジル基などを有する(メタ)アクリレート系モノマーなどが挙げられる。好ましいラジカル重合性モノマーとしては、ビニル系モノマーが挙げられる。より好ましくは、安価なスチレンモノマーが望ましい。
薄片化黒鉛・樹脂複合材料中における樹脂の含有量は、特に限定されないが、1重量%〜80重量%であることが好ましい。それによって、樹脂の複合化により、マトリックス樹脂などへの分散性をより一層高め、かつエッジ部分のグラフェン間をより確実に広げることができる。樹脂の含有量のより好ましい範囲は、樹脂の種類によって異なるが、例えば、樹脂がグリシジルメタクリレートの場合は、樹脂の含有量は、10重量%〜75重量%であることがより好ましく、20重量%〜70重量%であることがさらに好ましい。また、樹脂がポリプロピレングリコールの場合は、樹脂の含有量は、2重量%〜40重量%であることがより好ましく、3重量%〜30重量%であることがさらに好ましい。
本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、比較的飛散し難いという特徴を有する。これは、後述の通り、上記ラジカル重合性モノマーが重合してなるポリマーが熱分解工程において、完全に分解されず残存しているためと考えられる。
言い換えれば、薄片化黒鉛におけるグラフェン層間に挟まれている部分に位置しているポリマーは、両側のグラフェンに挟まれているため、熱分解温度付近では完全に分解しないと考えられる。そのため、本発明の薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、取り扱いが容易である。
本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、上記のように、グラフェン間の層間距離が広げられており、比表面積が大きい。また、本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、中心部分がグラファイト構造を有し、エッジ部分が薄片化している構造であってもよい。この場合、従来の薄片化黒鉛と比べて、取り扱いがより一層容易である。
このような薄片化黒鉛・樹脂複合材料は、以下の製造方法により製造することができる。
[薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法]
(原料組成物を用意する工程)
本発明に係る薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法では、上記の黒鉛または一次薄片化黒鉛と、上記のポリマーとを含み、ポリマーが黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている組成物をまず用意する。
この組成物を用意する工程は、当然に、既に存在する上記組成物を次工程に用いることも含まれる他、例えば、ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化することにより、ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定する以下の第1及び第2の方法や、ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛を吸着させることにより、ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定する以下の第3の方法により上記組成物を製造することができる。
第1の方法;
第1の方法では、まず、原料として、上述の黒鉛または一次薄片化黒鉛と、上述のラジカル重合性モノマーとを含む混合物を用意する。
次に、混合物に含まれているラジカル重合性モノマーを重合することにより、混合物中に上記ラジカル重合性モノマーが重合しているポリマーを生成させるとともに、該ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化させる。
黒鉛または一次薄片化黒鉛と、ラジカル重合性モノマーとの配合割合は特に限定されないが、質量比で1:1〜1:100の割合とすることが望ましい。
配合割合を上記範囲とすることで、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料をより一層効果的に得ることができる。
上記組成物を用意する工程では、好ましくは、熱分解する際にガスを発生する熱分解性発泡剤をさらに含む組成物を用意する。その場合には、後述する加熱により黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離することができる。
上記熱分解性発泡剤としては、加熱により自発的に分解し、分解時にガスを発生する化合物である限り、特に限定されない。
上記熱分解性発泡剤としては、例えば、分解時に窒素ガスを発生するアゾカルボン酸系、ジアゾアセトアミド系、アゾニトリル化合物系、ベンゼンスルホヒドラジン系またはニトロソ化合物系等の発泡剤や、分解時に一酸化炭素、二酸化炭素、メタンまたはアルデヒド等を発生する発泡剤などを用いることができる。上記熱分解性発泡剤は単独で用いてもよく、複数の種類の熱分解性発泡剤を組み合わせて用いてもよい。
好ましくは、上記熱分解性発泡剤として、下記の式(1)に示される構造を有するアゾジカルボンアミド(ADCA)や、下記の式(2)〜(4)に示される構造を有する加熱発泡剤を用いることができる。これらの発泡剤は、加熱により自発的に分解し、分解時に窒素ガスを発生する。
なお、上記熱分解性発泡剤の熱分解温度は特に限定されず、上記ラジカル重合性モノマーが自発的に重合を開始する温度より低くてもよく、高くてもよい。
例えば、上記式(1)に示される構造を有するADCAの熱分解温度は210℃であり、上記ラジカル重合性モノマーがスチレンの場合には、スチレンが自発的に重合を開始する温度150℃よりも高い温度である。
上記式(2)〜(4)に示される構造を有する熱分解性発泡剤の熱分解開始温度は順に88℃、96℃、110℃であり、これらはスチレンが自発的に重合を開始する温度150℃よりも低い温度である。
上記黒鉛または一次薄片化黒鉛と上記熱分解性発泡剤との配合割合は特に限定されないが、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛100重量部に対し、上記熱分解性発泡剤を100重量部〜300重量部配合することが好ましい。上記熱分解性発泡剤の配合量を上記範囲とすることで、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料をより一層効果的に得ることができる。
上記組成物を用意する方法は特に限定されないが、例えば、上記ラジカル重合性モノマーを分散媒として使用し、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛を上記ラジカル重合性モノマー中に分散させる方法などが挙げられる。また、上記熱分解性発泡剤をさらに含む上記組成物は、上記ラジカル重合性モノマーに上記熱分解性発泡剤を溶解または分散することにより用意することができる。
次に、上記組成物に含まれる上記ラジカル重合性モノマーを重合することにより、上記組成物中に上記ラジカル重合性モノマーが重合しているポリマーを生成する工程を行う。
このとき、上記ラジカル重合性モノマーはフリーラジカルを生成し、それによって上記ラジカル重合性モノマーがラジカル重合することにより、上記ラジカル重合性モノマーが重合しているポリマーが生成する。
一方、上記組成物中に含まれる黒鉛は、複数のグラフェン層の積層体であるため、ラジカルトラップ性を有する。そのため、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛を含む上記組成物中において上記ラジカル重合性モノマーを共存重合させると、上記フリーラジカルが上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の端部及び表面に吸着される。従って、重合時に生じた上記フリーラジカルを有する上記ポリマーまたは上記ラジカル重合性モノマーが、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の端部及び表面にグラフト化する。
上記組成物に含まれる上記ラジカル重合性モノマーを重合する方法としては、例えば、上記ラジカル重合性モノマーが自発的に重合を開始する温度以上に上記組成物を加熱する方法が上げられる。上記組成物を上記温度以上に加熱することによって、上記組成物に含まれる上記ラジカル重合性モノマーにフリーラジカルを生成することができる。それによって、上述の重合及びグラフト化を行うことができる。
上記のように、加熱により上記ラジカル重合性モノマーを重合する場合には、上記組成物を加熱するだけで、上記ラジカル重合性モノマーの重合及び後述する上記ポリマーの熱分解の両方を行うことができる。従って、黒鉛または一次薄片化黒鉛の剥離がより一層容易となる。
上記加熱方法としては、上記組成物を上記温度以上に加熱できる方法であれば特に限定されず、適宜の方法及び装置により上記組成物を加熱することができる。また、上記加熱の際には、密閉することなく、すなわち常圧下で加熱してもよい。
また、上記ラジカル重合性モノマーを確実に重合させるために、上記ラジカル重合性モノマーが自発的に重合を開始する温度以上の温度まで加熱した後、上記温度をさらに一定時間維持してもよい。上記温度付近に維持する時間は、使用するラジカル重合性モノマーの種類及び量にもよるが、好ましくは0.5〜5時間の範囲である。
また、上記ポリマーを生成する工程において、加熱により上記ラジカル重合性モノマーを重合させる場合には、上記ポリマーを生成する工程における加熱処理と、後述する上記ポリマーを熱分解する工程における加熱処理とを、同一の方法及び装置により連続して行ってもよい。
あるいは、上記ポリマーを生成する工程の後に、上記組成物を上記ポリマーの熱分解温度まで加熱することにより、ポリマーの一部を残存させながら、上記ポリマーを熱分解する工程を行う。
それによって、上記組成物に含まれる上記ポリマー及び上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の端部及び表面にグラフト化している上記ポリマー等が熱分解する。なお、本発明において、上記ポリマーの熱分解温度とは、TGA測定依存の分解終点温度をいう。
このとき、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の端部及び表面にグラフト化している上記ポリマー等が熱分解する際に、上記グラフェン層間に剥離力が生じる。従って、上記ポリマー等を熱分解することによって、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層間を剥離し、薄片化黒鉛を得ることができる。
本発明では、上記ラジカル重合性モノマー及び/または上記ポリマーと上記熱分解性発泡剤を併用することによって、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離し得る。このような方法により黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離し得る理由については定かではないが、以下の理由が考えられる。
上述のように、上記ラジカル重合性モノマーがフリーラジカルを生成した場合、重合時に生じた上記フリーラジカルを有する上記ポリマーまたは上記ラジカル重合性モノマーが、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の端部及び表面にグラフト化する。そのため、上記フリーラジカルは上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層にトラップされる。
一方、上記熱分解性発泡剤はラジカルと親和性が高いという性質を有するため、上記組成物中において上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層にトラップされたフリーラジカルに引き寄せられる。従って、上記熱分解性発泡剤は黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェンシート積層面付近において熱分解し易くなる。よって、後述する熱分解性発泡剤の熱分解により、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層間に効果的に剥離力を与えることができる。
なお、上記熱分解性発泡剤の熱分解は、必ずしも後述するポリマーを熱分解する工程において行わずともよい。例えば、上記熱分解性発泡剤の熱分解温度が、上記ラジカル重合性モノマーが自発的に重合を開始する温度より低い場合には、上記ポリマーを生成する工程において、加熱により上記ラジカル重合性モノマーを重合させる際に、上記熱分解性発泡剤を熱分解してもよい。また、上記熱分解性発泡剤の熱分解は、ラジカル重合性モノマーの重合前でもよく、重合後でもよく、重合と同時でもよい。
また、上記熱分解性発泡剤を確実に熱分解させるために、上記熱分解性発泡剤の熱分解温度以上の温度まで加熱した後、上記温度をさらに一定時間維持してもよい。上記温度付近に維持する時間は、使用する熱分解性発泡剤の種類及び量にもよるが、好ましくは0.5〜5時間の範囲である。
第2の方法;
第2の方法では、黒鉛または一次薄片化黒鉛と、ラジカル重合性モノマーが重合しているポリマーとを含み、ポリマーが黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化している組成物を用意する工程において、ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛の存在下で、50℃以上、400℃以下の温度範囲の温度に加熱することにより、ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化させる。
すなわち、第1の方法では、黒鉛または一次薄片化黒の存在下でラジカル重合性モノマーを重合してポリマーを生成するとともにポリマーの黒鉛または一次薄片化黒鉛へのグラフト化が図られていたが、これに対して、第2の方法では、予め得られたポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛の存在下で上記特定の温度範囲に加熱することにより、ポリマーを熱分解することにより生成したポリマーラジカルを直接黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化させることができる。
第2の方法のポリマーとしては、適宜の熱分解ラジカル生成ポリマーを用いることができる。
ほとんどの有機ポリマーが分解温度でラジカルを発生する。従って、上記分解温度付近でラジカルを形成するポリマーとしては多くの有機ポリマーを用いることができる。もっとも、好ましくは、ビニル系モノマーなどのラジカル重合性モノマーの重合体が好適に用いられる。
このようなビニル系モノマー、すなわちビニル基含有モノマーとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートまたはベンジルアクリレートなどのモノマーが挙げられる。
好ましくは、スチレンやグリシジルメタクリレートが挙げられる。また、上記ビニル基含有モノマーを重合してなるポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ポリプロピレン、ポリビニルフェノール、ポリフェニレンサルファイドまたはポリフェニレンエーテルなどを挙げることができる。
また、ポリ塩化ビニル、塩素化塩化ビニル樹脂、フッ化エチレン樹脂やフッ化ビニリデン樹脂、塩化ビニリデン樹脂などの、塩素などのハロゲン元素を含有するポリマーなども使用可能である。エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドンやそれらの共重合体も、使用可能である。ポリイソブチレンやポリアルキレンエーテルなどのカチオン重合によって得られたポリマーも使用可能である。
オリゴマーを架橋してなる、ポリウレタン、エポキシ樹脂、変性シリコーン樹脂やシリコーン樹脂なども使用可能である。
ポリアリルアミンを用いてもよく、その場合には黒鉛または一次薄片化黒鉛にアミノ基をグラフト化することができる。ポリビニルフェノールやポリフェノール類を用いてもよく、その場合には、フェノール性OHを黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化することができる。また、リン酸基を有するポリマーを用いると、リン酸基をグラフト化することができる。
また、ポリエステル、ポリアミドなどの縮合系ポリマーを用いてもよい。その場合には、分解温度で得られるラジカル濃度は低いけれども、分解物がグラフト化される。
予め用意した上記ポリマーとして、グリシジルメタクリレートのホモポリマー、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピレングリコールまたはポリブチラールなどが好適に用いられる。これらのポリマーを用いることにより、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離することができる。
第2の方法において、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛と上記ポリマーとの配合割合は特に限定されないが、重量比で1:5〜1:20の割合とすることが望ましい。配合割合をこの範囲内とすることにより、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料をより一層効果的に得ることができる。
第2の方法においても、第1の方法の場合と同様に、組成物を用意する工程において、好ましくは、熱分解性発泡剤をさらに組成物に含有させることが望ましい。第1の方法の場合と同様に、後述するポリマーの熱分解を引き起こす加熱により、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離することができる。
使用し得る熱分解性発泡剤としては、第1の方法の場合と同様である。従って、好ましくは、前述した式(1)〜(4)で示される構造を有する加熱発泡剤を用いることが望ましい。
第2の方法においても、黒鉛または一次薄片化黒鉛と熱分解性発泡剤との配合割合は特に限定されないが、黒鉛または一次薄片化黒鉛100重量部に対し、熱分解性発泡剤は50〜300重量部の割合で配合することが好ましい。この範囲内であれば、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離することができる。
第2の方法においても、組成物を用意する具体的な方法は限定されないが、例えば、上記ポリマーと黒鉛または一次薄片化黒鉛とを適宜の溶媒もしくは分散媒中に投入し、加熱する方法が挙げられる。
上記加熱によりポリマーが黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化される。この加熱温度については、50℃以上かつ400℃以下の範囲とすることが望ましい。この温度範囲内とすることにより、ポリマーをより一層黒鉛に効果的にグラフト化させることができる。それによって、黒鉛または一次薄片化黒鉛をより一層効果的に剥離することができる。この理由については、以下の通りと考えられる。
上記ラジカル重合性モノマーを重合して得られたポリマーを加熱することにより、ポリマーの一部が分解し、黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層にラジカルトラップされる。従って、ポリマーが黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化されることになる。
そして、後述する加熱工程においてポリマーを分解し、焼成すると、ポリマーの黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化されているグラフト面に大きな応力が加わる。そのため、剥離力がグラフト面を起点として作用し、グラフェン層間が効果的に広げられることになると考えられる。
第3の方法;
第3の方法としては、上記黒鉛と、上記ポリマーとを適宜の溶媒に溶解もしくは分散させる方法を挙げることができる。このような溶媒としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、トルエンまたは酢酸エチルなどを用いることができる。
また、熱分解性発泡剤を用いる場合には、上記溶媒中に熱分解性発泡剤をさらに添加し分散もしくは溶解させればよい。
また、第3の方法では、上記組成物として、溶媒中において、ポリマーが黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛に吸着されている組成物を用意する。ポリマーを黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛に吸着させる方法は特に限定されない。ポリマーが黒鉛に対して吸着性を有するため、上記の溶媒中において、黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛をポリマーと混合する方法を用いることができる。
好ましくは、ポリマーに黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛をより一層効果的に吸着させるために、超音波処理を実施することが望ましい。超音波処理方法は特に限定されない。例えば、適宜の超音波処理装置を用いて、100W、発振周波数28kHz程度の超音波を照射する方法を用いることができる。
また、超音波処理時間についても特に限定されず、ポリマーが黒鉛に吸着するのに必要な時間以上であればよい。例えば、ポリ酢酸ビニルを黒鉛に吸着させるには、好ましくは30分、より好ましくは60分、さらに好ましくは120分程度維持すればよい。
ポリマーの吸着は、黒鉛の表面エネルギーとポリマーとの相互作用によると考えられる。
また、第3の方法で用いられるポリマーとしても、黒鉛または一次薄片化黒鉛に吸着させることができるポリマーであれば特に限定されない。例えば、グリシジルメタクリレートのホモポリマー、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピレングリコール、ポリブチラール、メチルメタクリレートのホモポリマー、ポリエチレングリコール又はこれらの共重合体などが好適に用いられる。上記共重合体としては、例えば、メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
(ポリマーの熱分解による黒鉛または一次薄片化黒鉛の剥離工程)
上記第1の方法、第2の方法、及び第3の方法のいずれにおいても、上記のようにして組成物を用意したのち、組成物中に含まれるポリマーを、酸素濃度が、2.5%以上、15%以下の雰囲気下で熱分解する。
より具体的には、上記組成物に含まれる上記ポリマー及び上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層の端部や表面にグラフト化している上記ポリマー等を、酸素濃度が、2.5%以上、15%以下の雰囲気下で熱分解する。
それによって、上記グラフェン層間に剥離力が生じるため、ポリマーの一部を残存させながら、黒鉛または一次薄片化黒鉛が剥離され、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ることができる。
この場合のポリマーの熱分解を果たすために、上記組成物をポリマーの熱分解温度以上に加熱すればよい。より具体的には、ポリマーの熱分解温度以上に加熱し、さらにポリマーを焼成する。このとき、組成物中にポリマーが残存する程度に焼成する。それによって、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ることができる。
なお、本発明において、上記ポリマーの熱分解温度とは、TGA測定依存の分解終点温度をいう。例えば、ポリスチレンの熱分解温度は、380℃〜450℃程度であり、ポリグリシジルメタクリレートの熱分解温度は400℃〜500℃程度であり、ポリブチラールの熱分解温度は大気中で550℃〜600℃程度である。
また、本発明においては、上記のように、ポリマーの熱分解の際には、酸素濃度が、2.5%以上、15%以下の雰囲気下で熱分解する。それによって、所望の剥離度の薄片化黒鉛を安定して得ることができる。
酸素濃度は、ジルコニア素子を用いる方法など一般的に実施されている方法により測定することができる。
酸素濃度を上記範囲内に調整する方法としては、特に限定されない。所望の剥離度の薄片化黒鉛をより一層安定して得る観点からは、窒素又は過熱水蒸気により調整することが好ましく、ポリマーの熱分解により発生する物質をより一層効果的に取り除く観点からは、過熱水蒸気により調整することがより好ましい。
また、所望の剥離度の薄片化黒鉛をより一層安定的に得る観点から、ポリマーの熱分解に際し、酸素濃度が、5%以上、12.5%以下の雰囲気下で熱分解することが好ましい。
上記ポリマーの熱分解により、黒鉛又は一次薄片化黒鉛が剥離されるのは、黒鉛又は一次薄片化黒鉛の端部や表面にグラフト化しているポリマーが熱分解すると、グラフト点に大きな応力が作用し、それによってグラフェン層間の距離が広がるためと考えられる。
また、この熱分解によっても、一部のポリマーは組成物中に残存している。そして、熱分解によって得られる薄片化黒鉛・樹脂複合材料における樹脂の熱分解開始温度及び熱分解終了温度は、それぞれ、複合化前の樹脂の熱分解開始温度及び熱分解終了温度よりも高くなる。
なお、本発明では、薄片化黒鉛とは、元の黒鉛または一次薄片化黒鉛を剥離処理して得られる剥離後のグラフェン積層体であり、元の上記黒鉛または一次薄片化黒鉛よりも比表面積の大きいグラフェン積層体または元の黒鉛または一次薄片化黒鉛の分解終点が低温化へシフトしたグラフェン積層体をいう。
上記熱分解のための加熱方法としては、上記ポリマーの熱分解温度まで加熱できる方法であれば特に限定されず、適宜の方法及び装置により上記組成物を加熱することができる。また、上記加熱の際には、密閉して加熱してもよいし、密閉することなく、すなわち常圧下で加熱してもよい。
従って、安価にかつ容易に薄片化黒鉛を製造することができる。樹脂を残存させるように熱分解させるには、加熱時間を調整することにより達成することができる。すなわち、加熱時間を短くすることにより残存樹脂量を多くすることができる。また、加熱温度を低めることにより残存樹脂量を増加させることもできる。
上記ポリマーの一部を組成物中に残存させつつ、ポリマーの一部が残存するようにしてポリマーを熱分解させることができれば、上記ポリマーの熱分解温度以上の温度まで加熱した後、上記温度をさらに一定時間維持してもよい。
上記温度付近に維持する時間は、使用するラジカル重合性モノマーまたはポリマーの種類及び量にもよるが、好ましくは0.5〜5時間の範囲である。なお、この場合においても、酸素濃度を、2.5%以上、15%以下に維持することが望ましい。
上記加熱の際、上記組成物が熱分解性発泡剤をさらに含む場合には、上記組成物を上記熱分解性発泡剤の熱分解温度まで加熱すると、上記熱分解性発泡剤が上記組成物中で熱分解する。一方、上記熱分解性発泡剤は、熱分解時にはガスを発生して発泡する。
このとき、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛のグラフェン層間付近で上記熱分解性発泡剤が熱分解すると、上記グラフェン層間に上記熱分解により発生した上記ガスが入り込み、上記グラフェン層の間隔が広げられる。それによって、上記グラフェン層間に剥離力が生じるため、上記黒鉛または一次薄片化黒鉛をさらに剥離することができる。従って、上記熱分解性発泡剤を用いることによって、得られる薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
第1の方法では、ラジカル重合性モノマーを重合するための加熱と、上記ポリマーの熱分解とを同じ加熱工程において連続的に実施してもよい旨を説明したが、第2の方法においても、上記ポリマーを黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト化させるための加熱工程と、上記ポリマーを熱分解する加熱工程とを連続的に実施してもよい。
さらに、第1の方法及び第2の方法のいずれにおいても、複数回実施することが望ましい。例えば、第1の方法により組成物を用意したのち、ポリマーを熱分解して、実質的にポリマーが含まれない薄片化黒鉛を得た後に、該薄片化黒鉛を第1の方法の原料の一次薄片化黒鉛として用い、さらに第1の方法を1回以上繰り返すことにより、より一層比表面積の大きい薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得てもよい。
同様に、第2の方法により組成物を用意した後に、ポリマーを熱分解して、実質的にポリマーが含まれない薄片化黒鉛を得た後に、得られた薄片化黒鉛を第2の方法における原料の一次薄片化黒鉛として、さらに第2の方法及びポリマーの熱分解を実施し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得てもよい。この場合においても、より一層比表面積の大きな薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ることができる。
なお、例えば、第1の方法により組成物を用意したのち、ポリマーを熱分解して、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た後に、該薄片化黒鉛・樹脂複合材料を第1の方法の原料の一次薄片化黒鉛として用い、さらに第1の方法を1回以上繰り返すことにより、より一層比表面積の大きい薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得てもよい。
同様に、第2の方法により組成物を用意した後に、ポリマーを熱分解して、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た後に、得られた薄片化黒鉛・樹脂複合材料を第2の方法における原料の一次薄片化黒鉛として、さらに第2の方法及びポリマーの熱分解を実施し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得てもよい。
さらに、第1の方法により用意された組成物を加熱して、実質的にポリマーが含まれない薄片化黒鉛を得た後に、該薄片化黒鉛を第2の方法の原料としての一次薄片化黒鉛として、以下第2の方法と同様にして薄片化黒鉛を得てもよい。
逆に、第2の方法で得られた組成物を加熱し、実質的にポリマーが含まれない薄片化黒鉛を得た後に、該薄片化黒鉛を第1の方法の原料の一次薄片化黒鉛として、以下第1の方法と同様にして、組成物を用意し、さらに加熱によりポリマーを熱分解し、薄片化黒鉛を得てもよい。
このように、上記の熱分解によって得られる実質的にポリマーが含まれない薄片化黒鉛を、さらに原料としての一次薄片化黒鉛として用い、本発明の製造方法による薄片化を1回以上繰り返すことにより、より一層比表面積の大きい薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ることができる。
なお、第1の方法により用意された組成物を加熱して、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た後に、該薄片化黒鉛・樹脂複合材料を第2の方法の原料としての一次薄片化黒鉛として、以下第2の方法と同様にして薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得てもよい。
逆に、第2の方法で得られた組成物を加熱し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た後に、該薄片化黒鉛・樹脂複合材料を第1の方法の原料の一次薄片化黒鉛として、以下第1の方法と同様にして、組成物を用意し、さらに加熱によりポリマーを熱分解し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得てもよい。
このように、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を、さらに原料としての一次薄片化黒鉛として用い、本発明の製造方法による薄片化を1回以上繰り返すことにより、より一層比表面積の大きい薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ることができる。
以下、本発明を具体的に実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
(実施例1)
メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体(日本油脂社製、品番:G−2050M、重量平均分子量=25万、熱分解温度=350℃)50gをテトラヒドロフラン450gに溶解し、メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体の10重量%溶液を得た。
このメタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体溶液に、膨張化黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)2.5g、熱分解性発泡剤として上記式(1)に示される構造を有するアゾジカルボンアミド(永和化成工業社製、商品名「ビニホールAC#R−K3」)5gを添加し混合物とした。
次に、上記混合物に対し、超音波処理装置(本多電子社製)を用い、100W、発信周波数28kHzで300分間、超音波を照射した。この組成物を150℃の温度で4時間加熱して乾燥させることで、上記膨張化黒鉛と熱分解性発泡剤がメタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体溶液中に分散している組成物を得た。
次に、上記組成物を230℃の温度となるまで加熱し、2時間維持した。それにより、上記組成物中において上記アゾジカルボンアミドを熱分解し、発泡させた。
次に、発泡後の上記組成物を窒素により、ジルコニア式酸素濃度計により測定した酸素濃度を2.5%に調整し、酸素濃度2.5%かつ430℃の温度で0.5時間維持する加熱工程を実施した。それによって、上記メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体を一部残存させながら、熱分解し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た。
(実施例2〜4及び比較例1〜2)
酸素濃度を下記表1に示すように設定したことを除いては、実施例1と同様にして、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た。
(実施例5〜7及び比較例3)
過熱水蒸気により酸素濃度を下記表1に示すように設定したことを除いては、実施例1と同様にして、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た。
(比較例4)
窒素を用いて酸素濃度を調整しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ようと試みた。しかしながら、比較例4では、薄片化黒鉛・樹脂複合材料が燃焼することが多く、安定して薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得ることができなかった。比較例4では、下記表1に示すように、ジルコニア式酸素濃度計により測定した酸素濃度が21%であるためであると考えられる。
(実施例8)
膨張化黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)10gと、熱分解性発泡剤として上記式(1)に示される構造を有するアゾジカルボンアミド(永和化成工業社製、商品名「ビニホールAC#R−K3」)20gと、ポリプロピレングリコール(三洋化成社製、品番「サンニックスGP−3000」、数平均分子量=3000)200gと、溶剤としてのテトラヒドロフラン200gとを混合し、原料組成物を用意した。
次に、用意した原料組成物に、超音波処理装置(本多電子社製)を用いて、100W、発振周波数28kHzで300時間超音波を照射した。この超音波処理により、ポリプロピレングリコールを膨張化黒鉛に吸着させた。このようにして、ポリプロピレングリコールが膨張化黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
この組成物を150℃の温度で4時間加熱して乾燥させることで、上記膨張化黒鉛と熱分解性発泡剤がポリプロピレングリコール中に分散している組成物を得た。
次に、上記組成物を230℃の温度となるまで加熱し、2時間維持した。それにより、上記組成物中において上記アゾジカルボンアミドを熱分解し、発泡させた。
次に、窒素により、ジルコニア式酸素濃度計により測定した酸素濃度を5.0%に調整し、組成物に酸素濃度5.0%かつ温度450℃の雰囲気下で0.5時間維持する加熱工程を実施した。それによって、上記ポリプロピレングリコールの一部を熱分解し、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た。
(実施例9〜10及び比較例5)
酸素濃度を下記表2に示すように設定したことを除いては、実施例8と同様にして、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た。
(実施例11)
窒素の代わりに過熱水蒸気により酸素濃度を調整したことを除いては、実施例8と同様にして、薄片化黒鉛・樹脂複合材料を得た。
(評価)
BET比表面積の測定
実施例1〜11及び比較例1〜5により得られた薄片化黒鉛・樹脂複合材料を、島津製作所社製、比表面積測定装置ASAP−2000で窒素ガスを用い、BET比表面積を測定した。結果を下記の表1及び表2に示す。
表1及び表2に示すように、実施例1〜11の薄片化黒鉛・樹脂複合材料では、BET比表面積が、100〜300m2/gの薄片化黒鉛を安定して製造できることを確認できた。