JP2016164552A - 濃度推定方法、データ解析装置およびプログラム - Google Patents

濃度推定方法、データ解析装置およびプログラム Download PDF

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啓和 高梨
岳彦 上田
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岳彦 上田
淳一 門川
Junichi Kadokawa
淳一 門川
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Abstract

【課題】クロマトグラフィー−タンデム質量分析法において、標準物質を使用せずに測定対象物質の試料中濃度を推定することができる濃度推定方法等を提供する。
【解決手段】イオン化された測定対象物質をLC/MS装置10で検出する。LC/MS/MS装置30でプロダクトイオンを検出する。データ解析装置50は、測定対象物質のイオン化における平衡定数を量子化学計算に基づいて算出し、平衡定数及びLC/MS/MS装置30で得られたピーク面積から測定対象物質の濃度とプリカーサーイオンの量との関係式を決定する。データ解析装置50は、LC/MS装置10で得られた測定対象物質のピーク面積とプロダクトイオンのピーク面積との比で、前記関係式を、濃度とプロダクトイオンのピーク面積との関係式に補正し、濃度とプロダクトイオンのピーク面積との関係式及びプロダクトイオンのピーク面積から試料における濃度を推定する。
【選択図】図1

Description

本発明は、濃度推定方法、データ解析装置およびプログラムに関する。
固定相を移動相が通過する過程で物質を時間方向に分離することができるクロマトグラフィーと、分離された物質をイオン化して質量を分析する質量分析法とを組み合わせたクロマトグラフィー−質量分析法が各種物質の分析に広く用いられている。例えば、特許文献1には、クロマトグラフィー−質量分析法による生体分子パターンのアノテーション法及びシステムが開示されている。また、特許文献2には、ガスクロマトグラフィーと質量分析装置とを組み合わせた分析装置が記載されている。
さらにイオン化された物質から所定の質量の物質をプリカーサーイオンとして選択し、プリカーサーイオンにエネルギーを与えて解離させたプロダクトイオンを選択して質量を分析するクロマトグラフィー−タンデム質量分析法が知られている。例えば、特許文献3には、生物の組織または細胞に存在する物質の化学構造を直接同定するための方法に関し、特に液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(以下、単に「LC/MS/MS」ともいう)法で分析する段階についての記載がある。
LC/MS/MSはノイズを低減させて高感度に物質を分析することができる。このため、試料中の測定対象物質の濃度の定量に、LC/MS/MSが利用される。LC/MS/MSで試料中の測定対象物質の濃度を定量する場合、測定対象物質ごとにイオン化効率が異なるため、イオン化効率を補正するための測定対象物質の標準物質が必要である。また、特定のプリカーサーイオン及びプロダクトイオンを連続的にモニタリングするための選択反応モニタリング条件を定めるためにも測定対象物質の標準物質が必要である。
特表2006−528339号公報 特開2006−322842号公報 特開2001−249125号公報
しかし、農薬の環境変化体に代表される環境中の汚染物質、あるいは生体内の代謝物等の中には、標準物質が市販されていない物質が少なくない。標準物質が入手できない場合、測定対象物質のイオン化効率を補正できず、選択反応モニタリング条件を定めることができない。したがって、標準物質が入手できない場合、現状では、測定対象物質の定量を断念せざるを得ない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、クロマトグラフィー−タンデム質量分析法において、標準物質を使用せずに測定対象物質の試料中濃度を推定することができる濃度推定方法、データ解析装置およびプログラムを提供することを目的とする。
本発明の第1の観点に係る濃度推定方法は、
クロマトグラフィーにより時間方向に分離された試料中の測定対象物質をイオン化し、イオン化された測定対象物質を検出する第1の分析ステップと、
クロマトグラフィーにより時間方向に分離された前記試料中の測定対象物質をイオン化し、イオン化された該測定対象物質を解離させたプロダクトイオンを検出する第2の分析ステップと、
前記測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する算出ステップと、
前記イオン化効率に関する値及び前記第2の分析ステップで得られたクロマトグラムにおける前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式を決定する決定ステップと、
前記第1の分析ステップで得られたクロマトグラムにおける前記測定対象物質のシグナル強度と前記プロダクトイオンのシグナル強度との比で、前記測定対象物質の濃度とイオン化された測定対象物質の量との関係式を、前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式に補正する補正ステップと、
前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式及び前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記試料における前記測定対象物質の濃度を推定する推定ステップと、
を含む。
この場合、前記イオン化効率に関する値は、
前記測定対象物質のイオン化における平衡定数である、
こととしてもよい。
また、前記決定ステップでは、
前記試料の希釈倍率に対する前記プロダクトイオンのシグナル強度から最小二乗法によって、前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式に規定された定数を演算する、
こととしてもよい。
また、前記クロマトグラフィーは、前記試料中の物質をカラムで分離し、
前記第2の分析ステップでは、
前記第1の分析ステップにおける前記測定対象物質のカラム保持時間に基づいて設定されたカラム保持時間で特定される前記プロダクトイオンを検出する、
こととしてもよい。
また、前記第2の分析ステップでは、
前記第1の分析ステップで特定されたイオン化された前記測定対象物質の質量に基づいて特定される前記プロダクトイオンを検出する、
こととしてもよい。
また、前記第1の分析ステップ及び前記第2の分析ステップにおける前記クロマトグラフィーは、移動相が複数種の溶媒を含み、前記溶媒の混合比を経時的に変化させる液体クロマトグラフィーであって、
前記第1の分析ステップ及び前記第2の分析ステップのイオン化の際には、前記溶媒の混合比が一定に維持される、
こととしてもよい。
本発明の第2の観点に係るデータ解析装置は、
測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する算出部と、
クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質を解離させたプロダクトイオンの検出で得られたクロマトグラムにおけるプロダクトイオンのシグナル強度から前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式を決定する決定部と、
クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質の検出で得られたクロマトグラムにおける前記測定対象物質のシグナル強度と前記プロダクトイオンのシグナル強度との比で、前記測定対象物質の濃度とイオン化された測定対象物質の量との関係式を、前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式に補正する補正部と、
前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式及び前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記試料における前記測定対象物質の濃度を推定する推定部と、
を備える。
本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する算出部、
クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質を解離させたプロダクトイオンの検出で得られたクロマトグラムにおけるプロダクトイオンのシグナル強度から前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式を決定する決定部、
クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質の検出で得られたクロマトグラムにおける前記測定対象物質のシグナル強度と前記プロダクトイオンのシグナル強度との比で、前記測定対象物質の濃度とイオン化された測定対象物質の量との関係式を、前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式に補正する補正部、
前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式及び前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記試料における前記測定対象物質の濃度を推定する推定部、
として機能させる。
本発明によれば、クロマトグラフィー−タンデム質量分析法において、標準物質を使用せずに測定対象物質の試料中濃度を推定することができる。
実施の形態1に係る濃度推定システムの構成を示す図である。 図1に示すLC/MS装置の構成を示す図である。 図1に示すデータ解析装置の構成を示す図である。 図1に示すLC/MS/MS装置の構成を示す図である。 エレクトロスプレーイオン化モデルを示す図である。 ピーク面積と試料希釈倍率との関係を示す図である。 濃度推定処理のフローチャートを示す図である。 実施の形態2に係るLC部の構成を示す図である。 ギブスの自由エネルギーが最も低かった立体配座を示す図である。aはイミダクロプリドである。bはイミダクロプリドのプロトン付加体である。 推定した濃度と推定したピーク面積との間の検量線及び実測した濃度と実測したピーク面積との間の検量線を示す図である。 実施例においてLC/MS装置で測定されたPTPW−a〜dの抽出イオンクロマトグラム(EIC)を示す図である。 実施例においてLC/MS/MS装置でSIM(Selected Ion Monitoring)法により測定されたPTPW−a〜dのクロマトグラムを示す図である。 実施例においてLC/MS/MS装置でSRM(Selected Reaction Monitoring)法により測定されたPTPW−a〜dのクロマトグラムを示す図である。
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態および図面によって限定されるものではない。
(実施の形態1)
実施の形態1について詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る濃度推定方法に使用される濃度推定システム100の構成を示す。濃度推定システム100は、液体クロマトグラフィー−質量分析装置(LC/MS装置)10と、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析装置(LC/MS/MS装置)30と、データ解析装置50と、を備える。
まず、LC/MS装置10について図2を参照して詳細に説明する。LC/MS装置10は、イオン源としてエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を用いる四重極質量分析を行う。図2は、LC/MS装置10の構成を示すブロック図である。LC/MS装置10は、液体クロマトグラフ(LC)部11と、質量分析(MS)部12と、A/D変換器13と、を備える。
LC部11は、移動相容器14と、移送ポンプ15と、インジェクタ16と、カラム17と、を備える。移動相容器14は、移動相を貯留する。移送ポンプ15は、移動相容器14に貯留された移動相を吸引し、インジェクタ16を通して、一定の流量で移動相をカラム17に供給する。インジェクタ16はオートサンプラを備え、あらかじめ調製された所定量の試料を移動相中に注入する。インジェクタ16によって移動相中に試料が注入されると、移動相とともに、試料はカラム17に導入される。
試料には、測定対象物質等の各種物質が含まれている。試料がカラム17を通過する間に、カラム17に充填された固定相及び移動相と試料中の物質との相互作用の差によって物質が分離される。分離された物質は、時間方向にずれてカラム17の出口から溶出する。すなわち、分離された物質ごとに、インジェクタ16によって試料が移動相中に注入されてからカラム17から溶出するまでの時間であるカラム保持時間が定まる。溶出液はMS部12に導入される。
MS部12は、ESIノズル18と、イオン化室19と、イオン光学系20と、分析室21と、を備える。LC部11から供給された溶出液がESIノズル18に達すると、高圧電源から印加されている直流高電圧により、溶出液に電荷が付与される。ESIノズル18は、溶出液を帯電した微小液滴としてイオン化室19内に噴霧する。
イオン化室19は、大気圧雰囲気に維持されている。帯電した微小液滴は大気由来のガス分子と衝突してさらに微細な液滴に粉砕され、速やかに脱溶媒化されて、試料分子が気化する。気化した試料分子はイオン蒸発反応によってイオン化される。イオンはRFレンズ等を備えるイオン光学系20で収束されて分析室21へ送られる。
分析室21は、ポンプにより高真空雰囲気に維持されている。分析室21は、四重極質量フィルタ22と、検出器23と、を備える。分析室21に送られたイオンは、四重極質量フィルタ22の長軸方向の空間に導入される。四重極質量フィルタ22には直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加されている。これにより、印加電圧に応じた質量数(質量/電荷、m/z)を有するイオンのみが四重極質量フィルタ22の長軸方向の空間を通過する。検出器23は、四重極質量フィルタ22を通過したイオンを検出する。検出器23による検出信号はA/D変換器13によりデータに変換されて、データ解析装置50に入力される。
次に、データ解析装置50について図3を参照して詳細に説明する。データ解析装置50は、コンピュータ51と、操作部52と、表示部53と、を備える。コンピュータ51は、CPU(Central Processing Unit)と、外部記憶装置と、RAM(Random Access Memory)と、を備える。データ解析装置50では、CPUが外部記憶装置に記憶されたソフトウェアプログラムをRAMに読み出して、ソフトウェアプログラムを実行制御することにより、通信可能に接続されたLC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30の動作を制御し、以下に説明する機能を実現する。
コンピュータ51は、LC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30に指示コマンド、測定条件及び各種パラメータ等に対応するデータを送信することで、LC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30を制御する。また、コンピュータ51は、LC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30からデータを受信し、データを解析する。
操作部52は、ユーザによって入力された指示コマンド、測定条件及び各種パラメータ等に対応するデータをコンピュータ51へ出力する。コンピュータ51は、操作部52を介してユーザが入力したデータに基づいて、LC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30を制御する。
コンピュータ51は、A/D変換器13から入力されたデータを記憶する。コンピュータ51は、記憶したデータを演算処理し、例えば、横軸にm/z、縦軸にシグナル強度を示したチャートであるマススペクトル、横軸に時間、縦軸にシグナル強度を示したチャートであるクロマトグラム、横軸に時間、縦軸にイオン源で生成した全てのイオンの総和を示したチャートであるトータルイオンクロマトグラム、又は横軸に時間、縦軸に特定のm/zのシグナル強度を示したチャートであるマスクロマトグラム等を作成する。コンピュータ51は、作成したマススペクトル等に対応するデータを表示部53へ出力する。表示部53は、入力されたデータに対応するマススペクトル等を表示する。
続いて、LC/MS/MS装置30について図4を参照して詳細に説明する。LC/MS/MS装置30は、イオン源としてのESIによってイオン化された測定対象物質(以下、「プリカーサーイオン」ともいう)を解離させたプロダクトイオンを検出する。LC/MS/MS装置30は、LC部31と、MS/MS部32と、A/D変換器33と、を備える。
LC部31は、移動相容器34と、移送ポンプ35と、インジェクタ36と、カラム37と、を備える。移動相容器34に貯留される移動相及び移送ポンプ35によるカラム37への移動相の流量等は、LC部11と同じである。LC部31は、上述のLC部11と同様に、試料中の各種物質を時間方向に分離する。
MS/MS部32は、ESIノズル38と、イオン化室39と、イオン光学系40と、分析室41と、を備える。ESIノズル38、イオン化室39及びイオン光学系40は、それぞれ上述のESIノズル18、イオン化室19及びイオン光学系20と同様である。以下、分析室41に関して、MS部12の分析室21と異なる点を中心に説明する。
分析室41は、四重極質量フィルタ42と、コリジョンセル43と、イオン光学系44と、四重極質量フィルタ45と、検出器46と、を備える。四重極質量フィルタ42を通過したプリカーサーイオンは、コリジョンセル43に送られる。コリジョンセル43には、ヘリウム、窒素又はアルゴン等の不活性ガスが供給されている。コリジョンセル43では、印加した電圧によって加速されたプリカーサーイオンが真空中で高い運動エネルギーを持つように励起され、不活性ガス分子に衝突する。衝突により運動エネルギーの一部が変換されて化学結合が切断される。これを、衝突誘起解離(collision−induced dissociation、CID)という。CIDにより、最終的にプリカーサーイオンはプリカーサーイオンよりも小さなプロダクトイオンになる。
CIDの態様はコリジョンエネルギーによって相違する。よって、コリジョンエネルギーに応じて、プリカーサーイオンから生じるプロダクトイオンが異なる。コリジョンエネルギーは、プリカーサーイオンに印加される電圧で決まるため、電圧を変化させることで、目的とするプロダクトイオンを生成させることができる。
プロダクトイオンは、四重極質量フィルタ45の長軸方向の空間に導かれる。四重極質量フィルタ45には直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加されている。これにより、印加電圧に応じたm/zを有するプロダクトイオンのみが四重極質量フィルタ45の長軸方向の空間を通過する。検出器46は、四重極質量フィルタ45を通過したイオンを検出する。検出器46による検出信号はA/D変換器33によりデータに変換されて、データ解析装置50に入力される。
図3に戻って、コンピュータ51は、LC/MS装置10と同じく、操作部52を介してユーザが入力したデータに基づいて、LC/MS/MS装置30の動作を制御する。また、コンピュータ51は、A/D変換器33によって入力されたデータに対して、所定の演算処理を行う。例えば、コンピュータ51は、プリカーサーイオンのm/z、プロダクトイオンのm/z、該プロダクトイオンに対応するコリジョンエネルギー等の予め設定された選択反応モニタリング条件に基づいて、目的とするプロダクトイオンに関して、クロマトグラム等を作成する。コンピュータ51は、表示部53を介して、作成したクロマトグラム等を表示する。
通常、LC/MS/MS装置30における測定対象物質に関するカラム保持時間及び選択反応モニタリング条件等は、測定対象物質の標準物質を測定することで決定される。これに対し、コンピュータ51は、標準物質を測定しなくても、LC/MS装置10で測定された測定対象物質のマススペクトル等から決定されるカラム保持時間及び選択反応モニタリング条件に従って、LC/MS/MS装置30の動作を以下のように制御することで、試料中の測定対象物質の濃度を推定する。
図4に戻って、MS/MS部32は、LC/MS装置10における測定対象物質のカラム保持時間に基づいて設定されたカラム保持時間で特定されるプロダクトイオンを検出する。より詳細には、特定のm/zのイオンについてのマスクロマトグラム(EIC)からLC/MS装置10における測定対象物質のカラム保持時間が特定される。LC部31における移動相の組成及び流量並びに固定相を、LC/MS装置10のLC部11で用いた移動相の組成及び流量並びに固定相と同一にすることで、LC部11におけるカラム保持時間で、LC部31においても測定対象物質がカラム37から溶出される。MS/MS部32は、該カラム保持時間付近に溶出されたプリカーサーイオンから解離したプロダクトイオンを検出する。
LC部11とLC部31との配管の長さ等が異なることでホールドアップ時間が異なることがある。ホールドアップ時間が異なる場合、カラム保持時間にずれが生じるため、MS/MS部32は、ホールドアップ時間のずれを補正して設定されたカラム保持時間付近に溶出されたプリカーサーイオンから解離したプロダクトイオンを検出すればよい。
MS/MS部32は、LC/MS装置10で特定されたイオン化された測定対象物質の質量に基づいて特定されるプロダクトイオンを検出してもよい。この場合、LC/MS装置10によって特定された質量を有するプリカーサーイオンに対して、コンピュータ51は、イオン光学系40、44及び四重極質量フィルタ42、45への印加電圧、並びにコリジョンエネルギー等を設定する。
また、標準物質を測定しない場合、LC/MS/MS装置30での測定対象物質の感度、具体的には測定対象物質の濃度と該測定対象物質を解離したプロダクトイオンのシグナル強度との関係式(検量線の勾配)が求められず、得られたシグナル強度から測定対象物質の濃度を算出できない。これに対し、コンピュータ51は、以下のように図3に示す算出部1、決定部2、補正部3及び推定部4として機能することで、シグナル強度としてのピーク面積から濃度を推定する。
測定対象物質ごとに感度が異なるのは、測定対象物質のイオン化効率が異なるためである。イオン化効率は、測定対象物質の量子化学的な性質に基づく。そこで、算出部1は、測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する。より具体的には、イオン化効率に関する値は、測定対象物質のイオン化における平衡定数である。測定対象物質の液相における平衡定数K及び真空中における平衡定数Kは、例えば、量子化学計算プログラムであるGaussian 09W及びGaussView 5.0.9等で得られる測定対象物質及びプロトン付加体(プリカーサーイオン)のエントロピー及びエンタルピーから推算されるギブスの自由エネルギーから求められる。
ここで、構築したエレクトロスプレーイオン化モデルを図5に示す。本モデルでは、移動相とともにESIノズル38から噴霧された測定対象物質分子(M)は、液相中でmodifierとしての酢酸/酢酸アンモニウム緩衝液から供給されるプロトンでプロトン化されて平衡状態にあると仮定した。
気相中の各成分の濃度は、Fennのモデル(John B. Fenn、「Ion formation from charged droplets: roles of geometry, energy, and time」、Journal of the American Society for Mass Spectrometry、1993年、Volume 4、p.524-535)に従ったfluxを採用した。さらに、気相でのプロトン化及び脱プロトン化過程の平衡を維持しながら、連続的に供給され、かつ排気により又は分析室41に送られて失われる各化学種の気相濃度が分析中に一定になるという定常状態近似を採用して、液相からのfluxとは別に、平衡反応を介して気相から供給されるプリカーサーイオンの寄与を算出した。分析室41に送られるプリカーサーイオンの総量は、液相から及び気相からの寄与の組み合わせにより表現した。気相における平衡反応は気相における自由エネルギー差に基づいてモデル化した。CIDによって分解されるプロダクトイオンの割合は、測定対象物質の種類によらず一定と仮定した。また、気相中の自由エネルギーは、真空中の自由エネルギーと同一と仮定した。
上記のエレクトロスプレーイオン化モデルに係る計算式を以下に示す。
MH+は、プリカーサーイオンであるMHイオンの総量を示す。a及びbはそれぞれ気化速度定数の関数、気相フラックス及び気相における平衡定数の関数を示す。λgasは、気相平衡の寄与の理論値を示す。a、bはLC/MS/MS装置30の機械的構造及び測定条件で定まる。[MH ]及びλgasは測定対象物質の濃度Mを変数とする関数である。したがって、上記式1は、測定対象物質の濃度とプリカーサーイオンの量との関係式である。ゆえに、上記式1におけるa、b及びMを推定すれば、プリカーサーイオンの量に相関するピーク面積と測定対象物質の濃度との間の検量線の勾配を決定できる。
決定部2は、平衡定数K、K及びLC/MS/MS装置30で得られたクロマトグラムにおけるプロダクトイオンのピーク面積から式1を決定する。詳細には、決定部2は、試料の希釈倍率に対するプロダクトイオンのピーク面積から最小二乗法によって、式1に規定された定数a、b及びMを演算する。例えば、決定部2は、図6に示すように、希釈倍率を3段階以上で変化させた試料をLC/MS/MS装置30で測定して得られたピーク面積と試料の希釈倍率との間の相対検量線を最小二乗法で求めることでa、b及びMを演算する。
上述のように、式1によれば測定対象物質のイオン化効率に基づいて、測定対象物質の濃度に対するプリカーサーイオンのピーク面積が推定される。しかし、LC/MS/MS装置30で測定されるピーク面積は、プロダクトイオンのピーク面積である。よって、補正部3は、LC/MS装置10で得られたクロマトグラムにおける測定対象物質のピーク面積とLC/MS/MS装置30で測定されるプロダクトイオンのピーク面積との比で式1を、測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との関係式に補正する。例えば、補正部3は、プリカーサーイオンのピーク面積に、プロダクトイオンのピーク面積/測定対象物質のピーク面積を乗じることで、測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との間の検量線の勾配を得る。
推定部4は、補正部3によって得られた測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との関係式及びプロダクトイオンのピーク面積から試料における測定対象物質の濃度を推定する。具体的には、推定部4は、上記の測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との間の検量線の式に、LC/MS/MS装置30で測定されるプロダクトイオンのピーク面積を代入することで測定対象物質の濃度を推定する。
次に、本実施の形態に係る濃度を推定するための処理を図7のフローチャートを参照して説明する。まず、LC/MS装置10は、イオン化された測定対象物質をMS部12で検出する(S1)。次に、LC/MS/MS装置30は、プロダクトイオンを検出する(S2)。続いて、算出部1は、測定対象物質のイオン化効率に関する値として平衡定数K、Kを量子化学計算に基づいて算出する(S3)。
次に、決定部2は、平衡定数K、K及びS2で得られたクロマトグラムにおけるプロダクトイオンのピーク面積からa、b及びMを演算し、測定対象物質の濃度とプリカーサーイオンのピーク面積との間の検量線の勾配を決定する(S4)。そして、補正部3は、S1で得られた測定対象物質のピーク面積とS2で得られたプロダクトイオンのピーク面積との比で、測定対象物質の濃度とプリカーサーイオンのピーク面積との間の検量線の勾配を、測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との間の検量線の勾配に補正する(S5)。最後に、推定部4は、測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との間の検量線の勾配から、実測したプロダクトイオンのピーク面積に対する測定対象物質の濃度を推定する(ステップS6)。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る濃度推定システム100によれば、測定対象物質の量子化学的な性質に基づくイオン化効率と、LC/MS/MS装置30の機械的構造および測定条件とに基づいて、測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との間の検量線の勾配を決める。このため、標準物質を使用せずに測定対象物質の試料中濃度を推定することができる。これにより、例えば、標準物質を使用せずに環境汚染物質の濃度測定、あるいは創薬研究における代謝物等の濃度測定が可能となる。
また、濃度推定システム100では、MS/MS部32が、LC/MS装置10における測定対象物質のカラム保持時間に基づいて設定されたカラム保持時間で特定されるプロダクトイオを検出するようにした。また、濃度推定システム100では、MS/MS部32が、LC/MS装置10で特定されたイオン化された測定対象物質の質量に基づいて特定されるプロダクトイオンを検出してもよいこととした。これにより、標準物質を用いることができなくても、LC/MS/MS装置30における選択反応モニタリング条件を定めることができる。
なお、決定部2は、最小二乗法によりa、b及びMを演算したが、最尤法等の他の統計手法でa、b及びMを求めてもよい。また、本実施の形態では、シグナル強度としてのピーク面積を用いたが、プロダクトイオンのピークの最大値等を用いてもよい。
また、本実施の形態では、試料中の測定対象物質を時間方向に分離するために液体クロマトグラフィーを用いたがこれに限らない。例えば、固定相として紙を用いるペーパークロマトグラフィー、板状の固定相を用いる薄層クロマトグラフィー等で測定対象物質を分離してもよい。また、測定対象物質の分離は、液体クロマトグラフィーに限らず、ガスクロマトグラフィーでもよい。また、MS/MS部32は、四重極質量フィルタ45でプロダクトイオンを選択するようにしたが、磁場型、イオントラップ型、飛行時間、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴及びフーリエ変換型オービトラップでプロダクトイオンを選択してもよい。
なお、本実施の形態では、LC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30は、イオン源としてESIを用いたが、電子イオン化法、化学イオン化法、電界脱離法、高速原子衝撃法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法及び大気圧化学イオン化法等の公知のイオン源を用いてもよい。この場合、使用するイオン源について構築したイオン化モデルについて、算出部1はイオン化効率に関する値を算出すればよい。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態に係る濃度推定システム200は、上記実施の形態1に係るLC/MS装置10のLC部11及びLC/MS/MS装置30のLC部31が、それぞれLC部61及びLC部81に置換される。以下、LC部61及びLC部81について、上記実施の形態1と異なる点について詳細に説明する。
LC部61は、移動相に含まれる複数種の溶媒の混合比を経時的に変化させる。例えば、LC部61は、移動相としての水に対する有機溶媒の体積比を経時的に増加させるグラジエント溶出を行う。グラジエント溶出によって、カラム保持時間に差がある多成分を一斉に分析できる。しかし、溶媒の混合比が経時的に変化するために、測定対象物質のイオン化効率がカラム保持時間に応じて変化してしまう。溶媒の混合比の変化による測定対象物質のイオン化効率に関する値K及びKへの影響を除くために、LC部61は、イオン化の際には、溶媒の混合比を一定に維持する。溶媒の混合比を一定に維持するために、LC部61は、例えばグラジエント溶出に逆グラジエント溶出を組み合わせて試料中の測定対象物質を分離する。
図8に示すように、LC部61は、移動相容器62〜65と、移送ポンプ66〜69と、ミキサー70、71と、インジェクタ72と、カラム73と、を備える。移動相容器62、64は、水である移動相Aを貯留する。移動相容器63、65は、有機溶媒である移動相Bを貯留する。移送ポンプ66は、移動相容器62から移動相Aを吸引してミキサー70に送る。移送ポンプ67は、移動相容器63から移動相Bを吸引してミキサー70に送る。移送ポンプ66、67は、コンピュータ51によって、グラジエント溶出用の移動相を供給するように制御される。すなわち、コンピュータ51は、移送ポンプ66による移動相Aの吸引量を所定の勾配gで経時的に減少させ、一方、移送ポンプ67による移動相Bの吸引量を移動相Aの吸引量の減少と同じ勾配gで経時的に増加させる。ミキサー70において移動相Aと移動相Bとが混合されて生じた移動相は、インジェクタ72を通して、一定の流量でカラム73に供給される。
移送ポンプ68は、移動相容器64から移動相Aを吸引してミキサー71に送る。移送ポンプ69は、移動相容器65から移動相Bを吸引してミキサー71に送る。移送ポンプ68、69は、コンピュータ51によって、逆グラジエント溶出用の移動相を供給するように制御される。すなわち、コンピュータ51は、移送ポンプ68による移動相Aの吸引量を所定の勾配gで経時的に増加させ、一方、移送ポンプ69による移動相Bの吸引量を勾配gで経時的に減少させる。
逆グラジエント溶出用の移動相A、Bは、カラム73から溶出された移動相とミキサー71において混合される。ミキサー71は、混合された移動相をESIノズル18に供給する。
さらに具体的にグラジエント溶出と逆グラジエント溶出を説明すると、例えば、カラム73に供給される移動相Aと移動相Bとの混合比90/10が、t秒後に50/50、さらにt秒後に10/90に変化する場合、コンピュータ51は、逆グラジエント溶出用の移動相Aと移動相Bとの混合比を、10/90からt秒後に50/50、さらにt秒後に90/10に変化させる。こうすることで、ESIノズル18によるイオン化の際には、移動相Aと移動相Bとの混合比が一定に維持される。
LC部81の構成は、上述のLC部61と同様である。LC部81もグラジエント溶出に逆グラジエント溶出を組み合わせて測定対象物質を分離することで、ESIノズル38におけるイオン化の際の溶媒の混合比が一定に維持される。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る濃度推定システム200によれば、液体クロマトグラフィーにおいて複数種の溶媒を含む移動相において溶媒の混合比を経時的に変化させる場合でも、測定対象物質のイオン化効率がカラム保持時間に依存しない。これにより、算出部1は、量子化学計算において、イオン化効率の変化を考慮せずにK及びKを算出できる。
なお、本実施の形態では、溶媒の混合比を経時的に変化させる方法として、グラジエント溶出を採用したが、これに限らない。例えば、LC部61は、ステップワイズ溶出で分離後のイオン化の際に、ステップワイズ溶出における移動相の溶媒の混合比を逆転させた混合比で溶媒が混合された移動相を、ステップワイズ溶出における移動相に加えてもよい。
なお、上記各実施の形態において、実行されるソフトウェアプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc Read−only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、MO(Magneto−Optical disc)などのコンピュータ51で読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、そのプログラムをインストールすることにより、上述の動作を実行するシステムを構成することとしてもよい。
また、上記各実施の形態では、データ解析装置50がLC/MS装置10及びLC/MS/MS装置30の動作を制御するようにしたがこれに限らない。例えば、LC/MS装置10で測定された測定対象物質のマススペクトル等から決定されるカラム保持時間及び選択反応モニタリング条件を、ユーザがLC/MS/MS装置30にカラム保持時間及び選択反応モニタリング条件を設定してもよい。
なお、別の実施の形態に係る濃度推定方法では、液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化法−三連四重極質量分析において、量子化学計算により検量線の勾配を推算することによって、測定対象物質の試料中濃度を推定してもよい。
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
(実施例1:農薬の環境変化体の濃度推定)
モデル物質として、ネオニコチノイド系農薬であるイミダクロプリド及びその環境変化体(Pesticide Transformation Products in Water environments、PTPWs)である1−((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)イミダゾリジン−2−イミン及び6−クロロニコチンアルデヒドを購入した。
また、E−1−((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)−2−ニトログアニジンを合成した。さらに、イミダクロプリドの5%メタノール水溶液に、290〜800nmの波長の光を透過させるロングパスフィルタ(WG295)を通したxenon short arc lamp光を照射し、PTPWsを生成させた。これらの物質を高分解能・高質量精度LC/MS装置であるProminence(島津製作所製)−LTQ Orbitrap XL(Thermo Fisher Scientific社製)及びLC/MS/MS装置であるUltiMate3000−TSQ Quantiva(Thermo Fisher Scientific社製)で測定した。その際、逆グラジエントプログラムを使用し、ESIでイオン化される際の移動相の混合比を水:メタノール=1:1(v/v)とした。固定相は、L−column2 ODS(i.d.2.1×l.75mm、dp=2μm、一般財団法人化学物質評価研究機構製)を用い、移動相流量は0.4mL/分とした。
測定した物質の液相、真空中におけるGibbsの自由エネルギーは、量子化学計算プログラムGaussian 09W及びGaussView 5.0.9(Gaussian)を用いて推算した。プロトン付加体についても同様に検討した。構造最適化はb3lyp/6−311+G(2d,p)、opt=verytight、int=ultrafine、振動計算はb3lyp/6−311+G(2d,p)、int=ultrafineで行った。真空中における自由エネルギーを計算する際には、freq=hinderedrotorで行った。
濃度推定の一例として、エレクトロスプレーイオン化モデルに係る上記式1に基づいて、測定対象物質としてのPTPWsである1−((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)イミダゾリジン−2−イミンの濃度を推定した。
上記で算出した1−((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)イミダゾリジン−2−イミンのGibbsの自由エネルギーから平衡定数K、Kを求めた。
続いて、平衡定数K、K及びプロダクトイオンのピーク面積から上記式1におけるa、b及びMを演算した。LC/MS装置で得られた1−((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)イミダゾリジン−2−イミンのピーク面積と、LC/MS/MS装置で得られたプロダクトイオンのピーク面積との比を、プリカーサーイオンのピーク面積に乗じて、測定対象物質の濃度とプロダクトイオンのピーク面積との間の検量線の勾配を求めた。
(結果)
量子化学計算として、解析対象物質のσ結合を回転させながら構造最適化計算を行った。その結果、すべての立体配座で計算結果が収束し、イミダクロプリドで6個、1−((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)イミダゾリジン−2−イミンで8個の立体配座が得られる等、1物質につき複数の最適立体配座が得られた。
得られた中性分子の立体配座のローンペアにプロトンを付加して構造最適化計算を行った。その結果、すべての立体配座で計算結果が収束した。得られた中性分子およびプロトン付加体に対して振動計算を行い、表1のようにエンタルピーおよびエントロピーを求め、Gibbsの自由エネルギーを算出した。
ギブスの自由エネルギーが最も低かったイミダクロプリド及びイミダクロプリドのプロトン付加体の立体配座の例を、それぞれ図9のa)及びb)に示す。
光照射によりイミダクロプリドから生成したPTPWsを高分解能・高質量精度LC/MS装置を用いて探索した。探索により発見されたPTPWsのうち、標準物質の市販が確認できない既知PTPWs及び報告例が発見できない新規PTPWsを対象に、LCカラムでのカラム保持時間及び付加イオンの種類を調査した。この際に用いたLCの条件と同一の条件でLC/MS/MS装置のシステムを構築し、同一サンプルを測定した。その結果、これらのPTPWsのコリジョンエネルギー、プロダクトイオンを定めることができ、プリカーサーイオンとプロダクトイオンとの組み合わせであるトランジションを定めることができた。
図10は、推定した濃度と推定したピーク面積との関係及び実測した濃度と実測したピーク面積との関係を示す。本実施例により、標準物質を測定しなくても高精度で試料中の測定対象物質の濃度を推定できることが示された。
(実施例2:カラム保持時間とトランジションの決定)
殺虫剤ジノテフランの水溶液から生成させた未知PTPWsを対象として、以下のようにトランジションを定めた。
和光純薬工業社製の殺虫剤ジノテフラン標準品(残留農薬試験用)で、1mMの水溶液を調整した。調整した水溶液に、ロングパスフィルタ(WG295)を通過したxenon short arc lamp光を52時間照射し、経時的にサンプルを採取した。その際の光強度は、50.1〜51.8W/mとした。
光照射したサンプルに含まれる未知PTPWsを高分解能・高質量精度LC/MS装置を用いて探索した。その際、LCの固定相にODSカラムであるL−columm2 ODS(2.1×75mm、2μm)、移動相Aに0.05%(v/v)のギ酸を含む水、移動相Bに0.05%(v/v)のギ酸を含むメタノールを用いた。分析は、isocratic測定で実施され、2%B、総流速を0.4mL/分とした。分離された分析化学種が、設定質量分解能を10万、イオン化方法をESI法、イオン化モードを陽イオンモード、ロックマスをm/z391.28429(フタル酸ジイソオクチル)として探索された。
探索により発見された未知PTPWsのトランジションを、LC/MS/MS装置を用いて検討した。コリジョンガスには、アルゴンを用いた。固定相、移動相A、移動相B及び分離条件は上記本実施例のLC/MS装置による探索と同一にすることで、測定対象物質のカラム保持時間を、LC/MS装置での測定とLC/MS/MS装置での測定とで一致するようにした。LC/MS装置による分析で、各測定対象物質の付加イオンの種類とカラム保持時間が特定されているため、これらの付加イオンのm/zとカラム保持時間に基づいてトランジションを決定した。
(結果)
光照射したサンプルに含まれる未知PTPWsをLC/MS装置で探索した結果、数多くの未知PTPWsが発見された。発見された未知PTPWsのうち、[M+H]=219.1088、分子式C14の物質に着目して以下の検討を行った。当該物質については、異性体がさらに3物質(以下、PTPWa〜dとする)発見された。光照射時間16時間のサンプルを例として、発見されたPTPWa〜dのEICを図11に示す。PTPWa〜dのカラム保持時間は、それぞれ1.51分、1.82分、2.28分、および2.60分であった。
PTPWa〜dについて、LC/MS/MS装置を用いた測定においても、同一のm/zと同一のカラム保持時間でクロマトグラムピークが得られるか否かを検討した。検討は、LC/MS/MS装置を用いたSIM法により実施した。実験に用いる機器が異なると、配管の長さなどが異なるためにホールドアップ時間が異なり、同一物質を同一条件で測定してもカラム保持時間が異なる。このため、機器によるホールドアップ時間の違いを補正する必要がある。本実施例では、0.8分の補正を行った。補正を実施した結果、図12に示すクロマトグラムが得られた。これにより、LC/MS装置を用いた測定とほぼ同じ結果が得られることが確認された。
PTPWa〜d各々について、プリカーサーイオンのm/zとカラム保持時間が確認されたため、LC/MS/MS装置を用いて、RFレンズの電圧、コリジョンエネルギー(CE)、プロダクトイオンを検討し、SRMトランジションを定めた。定められたトランジションを表2に示す。なお、表2中の「RT」はカラム保持時間を示す。
決定したトランジションを用いて取得したSRMクロマトグラムを図13に示す。図11及び図12とほぼ同じカラム保持時間のクロマトグラムを得ることができた。
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本発明は、環境調査等における標準物質が入手困難な農薬の環境変化体等の濃度推定に有用である。
1 算出部
2 決定部
3 補正部
4 推定部
10 LC/MS装置
11、31、61、81 LC部
12 MS部
13、33 A/D変換器
14、34、62〜65 移動相容器
15、35、66〜69 移送ポンプ
16、36、72 インジェクタ
17、37、73 カラム
18、38 ESIノズル
19、39 イオン化室
20、40、44 イオン光学系
21、41 分析室
22、42、45 四重極質量フィルタ
23、46 検出器
30 LC/MS/MS装置
32 MS/MS部
43 コリジョンセル
50 データ解析装置
51 コンピュータ
52 操作部
53 表示部
70、71 ミキサー
100、200 濃度推定システム

Claims (8)

  1. クロマトグラフィーにより時間方向に分離された試料中の測定対象物質をイオン化し、イオン化された測定対象物質を検出する第1の分析ステップと、
    クロマトグラフィーにより時間方向に分離された前記試料中の測定対象物質をイオン化し、イオン化された該測定対象物質を解離させたプロダクトイオンを検出する第2の分析ステップと、
    前記測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する算出ステップと、
    前記イオン化効率に関する値及び前記第2の分析ステップで得られたクロマトグラムにおける前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式を決定する決定ステップと、
    前記第1の分析ステップで得られたクロマトグラムにおける前記測定対象物質のシグナル強度と前記プロダクトイオンのシグナル強度との比で、前記測定対象物質の濃度とイオン化された測定対象物質の量との関係式を、前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式に補正する補正ステップと、
    前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式及び前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記試料における前記測定対象物質の濃度を推定する推定ステップと、
    を含む、濃度推定方法。
  2. 前記イオン化効率に関する値は、
    前記測定対象物質のイオン化における平衡定数である、
    請求項1に記載の濃度推定方法。
  3. 前記決定ステップでは、
    前記試料の希釈倍率に対する前記プロダクトイオンのシグナル強度から最小二乗法によって、前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式に規定された定数を演算する、
    請求項1又は2に記載の濃度推定方法。
  4. 前記クロマトグラフィーは、前記試料中の物質をカラムで分離し、
    前記第2の分析ステップでは、
    前記第1の分析ステップにおける前記測定対象物質のカラム保持時間に基づいて設定されたカラム保持時間で特定される前記プロダクトイオンを検出する、
    請求項1から3のいずれ一項に記載の濃度推定方法。
  5. 前記第2の分析ステップでは、
    前記第1の分析ステップで特定されたイオン化された前記測定対象物質の質量に基づいて特定される前記プロダクトイオンを検出する、
    請求項1から4のいずれか一項に記載の濃度推定方法。
  6. 前記第1の分析ステップ及び前記第2の分析ステップにおける前記クロマトグラフィーは、移動相が複数種の溶媒を含み、前記溶媒の混合比を経時的に変化させる液体クロマトグラフィーであって、
    前記第1の分析ステップ及び前記第2の分析ステップのイオン化の際には、前記溶媒の混合比が一定に維持される、
    請求項1から5のいずれか一項に記載の濃度推定方法。
  7. 測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する算出部と、
    クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質を解離させたプロダクトイオンの検出で得られたクロマトグラムにおけるプロダクトイオンのシグナル強度から前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式を決定する決定部と、
    クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質の検出で得られたクロマトグラムにおける前記測定対象物質のシグナル強度と前記プロダクトイオンのシグナル強度との比で、前記測定対象物質の濃度とイオン化された測定対象物質の量との関係式を、前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式に補正する補正部と、
    前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式及び前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記試料における前記測定対象物質の濃度を推定する推定部と、
    を備える、データ解析装置。
  8. コンピュータを、
    測定対象物質のイオン化効率に関する値を量子化学計算に基づいて算出する算出部、
    クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質を解離させたプロダクトイオンの検出で得られたクロマトグラムにおけるプロダクトイオンのシグナル強度から前記測定対象物質の濃度と前記イオン化された測定対象物質の量との関係式を決定する決定部、
    クロマトグラフィーにより時間方向に分離され、イオン化された試料中の測定対象物質の検出で得られたクロマトグラムにおける前記測定対象物質のシグナル強度と前記プロダクトイオンのシグナル強度との比で、前記測定対象物質の濃度とイオン化された測定対象物質の量との関係式を、前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式に補正する補正部、
    前記測定対象物質の濃度と前記プロダクトイオンの量との関係式及び前記プロダクトイオンのシグナル強度から前記試料における前記測定対象物質の濃度を推定する推定部、
    として機能させる、プログラム。
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