本発明は筋分化促進のための組成物に関し、詳細にはビオチンを含有する筋分化促進のための組成物に関する。本発明はまた、筋量増加、筋力増強および筋萎縮抑制のための組成物に関する。
骨格筋は同化(合成)と異化(分解)のバランスにより一定に保たれており、何らかの原因で骨格筋が減少あるいは損傷した場合でも異化に対して同化が優勢となり、損傷した骨格筋が修復されると考えられている。
近年、老化や様々な疾患によりこのバランスが崩れ、骨格筋量が進行的に減少することが報告されている。骨格筋量の進行的な低下は体力や身体機能の深刻な低下に結びつき、運動障害や転倒・骨折の危険性が増大する。このような症候群としてサルコペニアが知られている。
サルコペニアは1989年Rosenbergによって提唱された概念であり、加齢に伴って筋肉が減少する病態をいい、握力や歩行速度の低下など機能的な側面をも含めた概念である。サルコペニアが進行すると転倒、活動度低下が生じやすく、フレイルが進行して要介護状態につながる可能性が高くなり、高齢者の運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを低下させてしまうことから、対策の必要性が求められている。また、日本整形外科学会では、運動器障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態を表す新しい言葉として「ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)」(運動器症候群)を提唱し、ロコモティブシンドロームの予防・啓発を推進している。
このような背景のもと、骨格筋量の減少を抑制すること、あるいは骨格筋の損傷を回復させることを目的として例えば、カカオマスやその加工物を利用する技術(特許文献1)が提案されており、この技術以外にもロイシンやロイシン代謝物を利用する技術(特許文献2および非特許文献1)やGABAを利用する技術(特許文献3)が提案されている。
特開2006−282573号公報
特開2012−131819号公報
特開2008−156294号公報
Alessio Molfino et.al., Amino Acids,45,1273-1292,2013
本発明は、低用量で有効である筋分化促進剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、ビタミンの一種であるビオチンが筋分化促進作用を有するとともに、筋量増加作用および筋力増強作用を有することを見出した。本発明者らはまた、ビオチンが実験モデル動物において筋萎縮を抑制するとともにサルコペニアを抑制することを見出した。本発明者らはさらにまた、ビオチンとβ―ヒドロキシβ―メチル酪酸の組合せが実験モデル動物において筋萎縮を抑制するとともにサルコペニアを抑制することも見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)ビオチンを有効成分として含んでなる、筋分化促進、筋量増加、筋力増強、筋萎縮抑制および/または筋繊維肥大化促進のための組成物。
(2)β―ヒドロキシβ―メチル酪酸を有効成分としてさらに含んでなる、上記(1)に記載の組成物。
(3)筋分化促進のための、上記(1)または(2)に記載の組成物。
(4)筋分化促進がその治療または予防に有効である疾患または症状の治療または予防に用いるための、上記(3)に記載の組成物。
(5)前記疾患および症状が、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、筋ジストロフィー、ガン、メタボリックアシドーシス、脱神経、AIDS、心疾患、糖尿病、敗血症、火傷、甲状腺機能亢進症、糖質コルチコイド過剰症、ミオパチー(炎症性ミオパチー、筋ジストロフィーを含む)、筋側索硬化症(ALS)、不動により生じた筋萎縮および低重力環境に滞在することにより生じる筋萎縮からなる群から選択される1種または2種以上である、上記(4)に記載の組成物。
本発明によれば、低用量で有効であり、結果として安価な筋分化促進のための組成物が提供される。本発明の有効成分であるビオチンはこれまでヒトの食用に供されてきた食品素材に含まれており、しかも水溶性であることから飲用できる形態で提供することも可能であることから、本発明の筋分化促進のための組成物は安心して手軽に利用できる点で有利である。
ビオチンによる遅筋型骨格筋の筋分化促進効果を示した図である。図中、CTLはビオチン非添加のコントロールを示す。添加濃度の単位はμg/mLである。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs CTL。
ビオチンによる筋芽細胞の増殖促進効果を示した図である。図中、CTLはビオチン非添加のコントロールを示す。添加濃度の単位はμg/mLである。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs CTL。
ビオチンによる速筋型骨格筋の筋分化促進効果を示した図である。図中、CTLはビオチン非添加のコントロールを示す。添加濃度の単位はμg/mLである。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs CTL。
ビオチンによる筋芽細胞の増殖促進効果を示した図である。図中、CTLはビオチン非添加のコントロールを示す。添加濃度の単位はμg/mLである。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs CTL。
ビオチン以外の物質(ロイシンおよびHMB)による筋分化への影響を示した図である。図中、CTLは被験物質非添加のコントロールを示す。HMBはβ―ヒドロキシβ―メチル酪酸添加群を示す。
ビオチン以外の物質(GABA)による筋分化への影響を示した図である。図中、CTLは被験物質非添加のコントロールを示す。添加濃度の単位はμg/mLである。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs CTL。
ビオチンによる筋収縮力の増強効果を示した図である。図中、CTLはビオチン非添加のコントロールを示す。添加濃度の単位はμg/mLである。マンホイットニーのU検定、*:p<0.05 vs CTL。
デキサメタゾン投与による筋萎縮モデルマウスにおけるビオチンの筋萎縮抑制効果を示した図である。図8Aは腓腹筋(GA)についての結果を、図8Bはヒラメ筋(SO)に関する結果をそれぞれ示す。CTL:デキサメタゾン非投与コントロール群、CTL(Dex):デキサメタゾン投与コントロール群、Biotin(Dex):デキサメタゾン投与ビオチン群。t検定、*:p<0.05 vs CTL、##:p<0.01 vs CTL(Dex)
自然加齢マウスにおけるビオチンの筋力低下抑制効果を示した図である。図中、○は老齢ビオチン群を、□は老齢コントロール群を、■は若齢コントロール群を示す。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs 老齢コントロール群。
自然加齢マウスにおけるビオチンの筋肉量低下抑制効果を示した図である。図10Aは腓腹筋、図10Bは前脛骨筋、図10Cは長趾伸筋、図10Dはヒラメ筋に関する結果である。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs 老齢コントロール群。
デキサメタゾン投与による筋萎縮モデルマウスにおける低用量のビオチンと低用量HMBとの組み合わせの筋力低下抑制効果を示した図である。CTL:デキサメタゾン非投与コントロール群、CTL(Dex):デキサメタゾン投与コントロール群、Bio+HMB(Dex):デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群、HMB(Dex):デキサメタゾン投与HMB群。t検定、*:p<0.05 vs CTL、**:p<0.01 vs CTL、#:p<0.05 vs CTL(Dex)
デキサメタゾン投与による筋萎縮モデルマウスにおける低用量のビオチンと低用量のHMBとの組み合わせの筋肉量低下抑制効果を示した図である。CTL:デキサメタゾン非投与コントロール群、CTL(Dex):デキサメタゾン投与コントロール群、Bio+HMB(Dex):デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群、HMB(Dex):デキサメタゾン投与HMB群。t検定、*:p<0.05 vs CTL
自然加齢マウスにおける低用量のビオチンと低用量のHMBとの組み合わせの筋力低下抑制効果を示した図である。図中、○は老齢ビオチン+HMB群、□は老齢コントロール群を、■若齢コントロール群を示す。t検定、*:p<0.05、**:p<0.01 vs 老齢コントロール群。
自然加齢マウスにおける低用量のビオチンと低用量のHMBとの組み合わせの筋肉量低下抑制効果を示した図である。図14Aは腓腹筋、図14Bは前脛骨筋、図14Cは長趾伸筋、図14Dはヒラメ筋に関する結果である。
発明の具体的説明
本発明で有効成分として用いられるビオチンは、ビタミンH、ビタミンB7あるいは補酵素Rとして知られる水溶性ビタミンである。ビオチンは、卵黄、ウシレバー、豆類・穀物類(例えば大豆)などの食品素材に存在することから、該素材をそのままあるいは加工して使用するか、該素材から精製あるいは粗精製したものを本発明に使用することができる。本発明では遺伝子工学的な発酵法や化学合成法によって調製したビオチンを使用することもできる。
後記実施例に示されるように、ビオチンは筋分化促進作用を有する。従って、ビオチンは筋分化促進のための組成物として使用することができるとともに、筋分化促進方法に使用することができる。
ここで、「筋分化促進」とは筋芽細胞から筋管細胞への分化促進を意味し、分化培地で筋芽細胞を培養したときの筋管細胞の面積を指標にして筋分化促進の程度を評価することができる(実施例1〜3参照)。
また、筋分化は、分化シグナルを受けた筋芽細胞が増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て最終的に収縮能力を有する筋管細胞に分化することにより進行することから、分化培地で筋芽細胞を培養したときの筋芽細胞および筋管細胞の核数を指標にして筋分化促進の程度を評価してもよい(実施例1〜3参照)。
後記実施例によると、ビオチンは筋分化作用を通じて筋肉量を増加させることができる。従って、ビオチンは筋量増加のための組成物として使用することができるとともに、筋量増加方法に使用することができる。また、ビオチンは筋量増加効果を期待できる筋分化促進のための組成物として使用することができるとともに、筋量増加効果を期待できる筋分化促進方法に使用することができる。ここで、「筋量増加」は「筋量低下抑制」を含む意味で用いられるものとする。
後記実施例によると、ビオチンは筋収縮力を増強することができる。従って、ビオチンは筋力増強のための組成物として使用することができるとともに、筋力増強方法に使用することができる。また、ビオチンは筋力増強効果を期待できる筋分化促進のための組成物として使用することができるとともに、筋力増強効果を期待できる筋分化促進方法に使用することができる。ここで、「筋力増強」は「筋力低下抑制」を含む意味で用いられるものとする。
後記実施例によると、ビオチンは筋萎縮を抑制することができる。従って、ビオチンは筋萎縮抑制のための組成物として使用することができるとともに、筋萎縮抑制方法に使用することができる。また、ビオチンは筋萎縮抑制効果を期待できる筋分化促進のための組成物として使用することができるとともに、筋萎縮抑制効果を期待できる筋分化促進方法に使用することができる。ここで、「筋萎縮」とは筋肉における同化と異化のバランスが崩れ、筋タンパク質の分解が筋タンパクの合成を上回り、筋タンパク質が減少し、それにより筋重量が減少する現象を意味する。
筋芽細胞は分化シグナルを受けて増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て最終的に収縮能力を有する筋管細胞へ分化するが、後記実施例によると、ビオチンは少なくとも増殖に作用して筋分化を促進する。多核細胞後の細胞肥大過程は、個体では筋繊維肥大さらには筋組織肥大の過程に相当すると考えられるからビオチンを筋芽細胞に作用させることにより筋繊維や筋組織を肥大化させることができる。すなわち、ビオチンは筋繊維肥大化促進のための組成物として使用することができるとともに、筋繊維肥大化促進方法に使用することができる。また、ビオチンは筋繊維肥大化効果を期待できる筋分化促進のための組成物として使用することができるとともに、筋繊維肥大化効果を期待できる筋分化促進方法に使用することができる。ここで、「筋繊維肥大化」は「筋組織肥大化」を含む意味で用いられるものとする。
上記の本発明の筋分化促進方法、筋量増加方法、筋力増強方法および筋萎縮抑制方法は、有効量のビオチンをヒトまたは非ヒト動物に投与するか、あるいは摂取させることにより実施することができる。また、本発明の筋分化促進方法、筋量増加方法、筋力増強方法および筋萎縮抑制方法は、有効量のビオチンをヒトまたは非ヒト動物から得た試料(例えば、筋肉組織、筋芽細胞、筋サテライト細胞、筋繊維など)に接触させることにより実施することができる。
なお、本発明におけるビオチンの使用はヒトおよび非ヒト動物並びにこれらに由来する試料における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。ここで、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
本発明の好ましい態様では筋分化促進がその治療または予防に有効である疾患および症状の治療または予防にビオチンを使用することができる。
筋分化促進がその治療または予防に有効である疾患および症状としてはサルコペニアが挙げられる。サルコペニアは、身体的な障害や生活の質の低下、および死などの有害な転帰リスクを伴う症候群であって、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群を意味し、筋肉量の低下と筋肉機能(筋力または身体能力)の低下の双方を確認することがサルコペニアの診断に求められている(Cruz-Jentoft A J et al., Age Ageing 39: 412-23,2010)。後記実施例に示される通り、ビオチンは筋分化促進作用を通じて、筋肉量を増加させるとともに、筋力を増強することができ、さらに、筋萎縮やサルコペニアを抑制することができる。従って、ビオチンはサルコペニアの治療剤および予防剤として使用できるとともに、サルコペニアの治療方法および予防方法に使用することができる。
また、筋分化促進がその治療または予防に有効である疾患および症状としてはロコモティブシンドローム(運動器症候群)が挙げられる。ロコモティブシンドロームとは、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板などの運動器のいずれかまたは複数の障害のために歩行などの移動機能に何らかの障害をきたした状態をいう。ロコモティブシンドロームのうち加齢に伴う筋量・筋力の低下状態である「加齢性筋肉減少症」とはサルコペニアの邦訳である(日本整形外科学会ウェブページhttps://locomo-joa.jp/locomo/01.html参照)。また、不動により生じた筋萎縮は筋肉の同化と異化のバランスが崩れることに起因する疾患ではあるが、筋肉障害により歩行などの移動機能に障害をきたした状態であり、ロコモティブシンドロームの一例といえる。後記実施例に示される通り、ビオチンは筋分化促進作用を通じて、筋肉量を増加させるとともに、筋力を増強することができ、さらに、筋萎縮を抑制することができるから、ビオチンはロコモティブシンドローム(特に、ロコモティブシンドロームのうち筋肉の障害に起因するもの)の治療剤および予防剤として使用できるとともに、ロコモティブシンドロームの治療方法および予防方法に使用することができる。
筋分化促進がその治療または予防に有効である疾患および症状としてはまた、筋肉の同化と異化のバランスが崩れることに起因する疾患および症状が挙げられ、このような疾患としては、例えば、筋ジストロフフィー、ガン、メタボリックアシドーシス、脱神経、AIDS、心疾患、糖尿病、敗血症、火傷、甲状腺機能亢進症、糖質コルチコイド過剰症、ミオパチー(炎症性ミオパチー、筋ジストロフィーを含む)、筋側索硬化症(ALS)、低重力空間に滞在することによって生じる筋萎縮状態が挙げられる。これらの疾患および状態では同化に対して異化が優勢になり、筋萎縮や筋肉の消耗が症状の一つとして発現するが、後記実施例に示される通りビオチンは筋分化促進作用を通じて、筋肉量を増加させるとともに、筋力を増強することができ、さらには、筋萎縮を抑制することができる。従って、ビオチンがこれらの疾患の治療剤および予防剤として使用できるとともに、これらの疾患の治療方法および予防方法に使用できることは当業者に自明であろう。
本発明の筋分化促進、筋量増加、筋力増強および/または筋萎縮抑制のための組成物並びに本発明の治療剤および予防剤は医薬品、医薬部外品、飲食品、飼料などの形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。また本発明の筋分化促進方法、筋量増加方法、筋力増強方法および筋萎縮抑制方法並びに本発明の治療方法および予防方法は下記の記載に従って実施することができる。
本発明の有効成分であるビオチンはヒトおよび非ヒト動物に経口投与または非経口投与することができ、好ましくは経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバターを担体として使用できる。
経口剤は、有効成分に賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)および/または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)などの製剤用添加剤を配合して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社)などを用いることができる。
非経口剤のうち注射剤は、有効成分を分散剤(例えば、Tween80(アトラスパウダー社))、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などの製剤用添加剤と共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
本発明の有効成分であるビオチンはヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させることができる。ビオチンを経口摂取させる場合にはビオチンは単離、精製または粗精製された形態のものであっても、ビオチンを含む食品あるいは食品の原料の形態であってもよい。
本発明の有効成分であるビオチンを食品として提供する場合には、ビオチンをそのまま食品に含有させることができ、該食品はビオチンを有効量含有した食品である。ここで、ビオチンを「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲でビオチンが摂取されるような含有量をいう。また、ビオチンを他の成分と併用して食品として提供する場合には、他の成分はそのまま食品に含有させることができ、該食品は他の成分を有効量含有した食品である。ここで、他の成分を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で他の成分が摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)を含む意味で用いられる。「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態であってもよい。
本発明で提供される食品としては、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、その他雑酒、酎ハイなどのアルコール飲料;果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、ドリンクタイプのゼリー、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、スポーツ飲料、ミネラルウォーターなどの非アルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
茶飲料としては、例えば、紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー茶、ローズ茶、キク茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)が挙げられる。
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、およびウメが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ、およびスイカが挙げられる。
ビオチンは筋分化促進作用など各種筋機能改善作用を有するため、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する食品に含有させて提供することができる。また、上記以外にも、健康食品および機能性食品、好適には筋量や筋力の増加・増強を意図した高タンパク質食品、プロテインサプリメント、アミノ酸含有食品、ロイシン含有食品、β―ヒドロキシβ―メチル酪酸(HMB)等のロイシン代謝物含有食品、ウルソール酸含有食品等にさらにビオチンを含有させることができ、該食品は、健康の維持・増進に役立つ食品、具体的には、筋機能改善作用や筋機能強化作用といった機能を併せ持つ食品として提供することができる。すなわち、本発明の食品およびサプリメントは、筋機能の低下が気になる消費者や筋機能を強化しようとする消費者に適した食品、特に保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、としても提供することができる。
ここで、筋量や筋力の増加・増強を意図した高タンパク質食品、プロテインサプリメント、アミノ酸含有食品、ロイシン含有食品、β―ヒドロキシβ―メチル酪酸(HMB)等のロイシン代謝物含有食品、ウルソール酸含有食品等にビオチンを含有させた場合、該食品等の摂取時の筋量や筋力の増加ないし増強効果は、ビオチン含有前よりビオチン含有後において少なくとも相加的に増強されうる。また、該食品から筋量や筋力の増加・増強効果の期待される成分の含有量を減じて、減量した分の筋量や筋力の増加・増強効果を、ビオチン含有により代替することもできる。これらの作用・効果は、好ましくは、ビオチンを特定量含有させたHMB含有食品において発揮させることができる。実際後記実施例に示される通り、ビオチンとHMBの組合せは筋萎縮とサルコペニアを抑制することができる。
上記で言及したHMBは、ロイシンの代謝産物であり、筋肉におけるたんぱく質合成を誘導する重要な働きをすると想定され(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年度版)策定検討会報告書」)、サルコペニアおよびロコモティブシンドロームの治療剤・予防剤としての使用が期待されている。HMBを食品等に含有させる際には、食品にすでに含まれていたもの、動植物からの抽出等により生産されたもの、微生物による発酵法にて生産されたもの、酵素的に生産されたもの、化学的に合成されたものなどいかなる方法により生産されたものであってもよく、さらには薬理学的に認容されるいかなる塩を形成しているものを用いてもよい。
本発明の医薬品および食品は人類が食品として長年摂取してきた牛レバー、卵黄、大豆などの豆・穀類等に含まれるビオチンを利用することから、毒性も低く、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いることができる。ビオチンの投与量または摂取量は、受容者の性別、年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与経路並びに組み合わせる薬剤等に依存して決定できる。例えば、ビオチンを医薬として経口投与する場合、成人1日当たり、0.0001〜1mg/kg体重、好ましくは0.0005〜0.2mg/kg体重の範囲となるように、非経口投与する場合は0.00005〜0.5mg/kg体重、好ましくは0.00025〜0.1mg/kg体重の範囲となるように、1日1回または数回に分けて投与することができる。ビオチンと組み合わせて用いる他の有効成分(例えば、ミオスタチンアゴニスト、ミオスタチンレセプターアンタゴニスト、PPARアゴニスト、ユビキチンリガーゼ、加味四物湯、HMB)も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜決定できる。また、ビオチンを食品として摂取させる場合には、成人1日当たり、0.0001〜1mg/kg体重の範囲、好ましくは、0.0005〜0.2mg/kg体重の範囲、より好ましくは0.01〜0.2mg/kg体重の範囲の摂取量となるようビオチンを摂取させることができる。ビオチンと組み合わせて用いる他の成分(例えば、ミオスタチンアゴニスト、ミオスタチンレセプターアンタゴニスト、PPARアゴニスト、ユビキチンリガーゼ、加味四物湯、HMB)も、それぞれ食品として摂取できる量を基準として適宜決定できる。ビオチンは低用量で有効であることから、ビオチンを食品に配合しても食品の風味はほとんど影響を受けない。
本発明の組成物を飲料として提供する場合、該飲料中のビオチンの含有量は0.1〜60000μg/100mLとすることができ、好ましくは0.5〜12000μg/100mLである。
本発明では、ビオチンと1種または2種以上の他の有効成分とを併用することができる。ビオチンとともに他の有効成分としてHMBを経口投与する場合、成人1日当たり、0.25〜250mg/kg体重、好ましくは2.5〜25mg/kg体重の範囲となるように、非経口投与する場合は0.125〜125mg/kg体重、好ましくは1.25〜12.5mg/kg体重の範囲となるように、1日1回または数回に分けてHMBを投与することができる。また、ビオチンとともに他の成分としてHMBを食品として摂取させる場合には、成人1日当たり、0.25〜250mg/kg体重、好ましくは、2.5〜100mg/kg体重の範囲の摂取量となるようHMBを摂取させることができる。
ビオチンと他の有効成分を併用して投与する場合、これらの投与時期は限定されず、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、投与対象に対して、ビオチンと他の有効成分とを別々の製剤として投与してもよく、あるいは、ビオチンと他の有効成分とを含む単一の製剤として投与してもよい。
また、ビオチンと他の成分を併用して摂取させる場合、これらの摂取時期は限定されず、摂取対象に対し、同時に摂取させてもよいし、時間差をおいて摂取させてもよい。また、摂取対象に対して、ビオチンと他の成分とを別々の食品として摂取させてもよく、あるいは、ビオチンと他の成分とを含む単一の食品として摂取させてもよい。
本発明の組成物を、ビオチンとHMBを併用した飲料の形態で提供する場合、該飲料中のHMBの含有量は3〜15000mg/100mLとすることができ、好ましくは30〜6000mg/100mLである。
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の例において濃度などの含有割合(%)は特に断りがない限り重量(質量)%を表す。
例1:
筋芽細胞は、分化培地で培養することにより、増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て最終的に収縮能力を有する筋管細胞に分化する。本例では、最終的に到達する筋管細胞の面積を指標にすることにより、ビオチン添加による筋分化促進効果を、以下のように評価した。
(1)筋芽細胞の分化培養
対象とする筋芽細胞として、ATCC(American Type Culture Collection)のマウス由来筋芽細胞(C2C12)を用いた。培地は、インビトロジェン社製のDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)を用いた。
6×103個細胞/cm2の濃度で前記筋芽細胞を1mLの増殖培地(10%FBS(ウシ胎児血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を添加した12ウェル・プレートに播種後、37℃、5%CO2下で3日間培養した。
アスピレーターにより増殖培地を吸引して抜き取り、0、0.001、0.01、0.1、1、10または100μg/mLの濃度になるようにビオチン(和光純薬社製)を加えた分化培地(0.2%HS(馬血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を1mL加え、37℃、5%CO2下でさらに2日間培養した。
アスピレーターにより分化培地を吸引して抜き取り、0、0.001、0.01、0.1、1、10または100μg/mLの濃度になるようにビオチンを加えた分化培地(0.2%HS(馬血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を1mL加え、37℃、5%CO2下でさらに2日間培養した。
アスピレーターにより分化培地を吸引して抜き取り、各ウェルを500μLのPBSで2回洗浄し、1mLの冷却したメタノールを加え2分間処理し筋管細胞を固定化した後、500μLのPBSで2回洗浄した。各ウェルに500μLの3%BSAを添加したPBS(3%BSA−PBS)を加え1時間室温でブロッキングした後、500μLの1次抗体液(抗遅筋型ミオシン重鎖抗体(NOQ7.5.4.D)を添加した3%BSA−PBS)を加え2時間室温で反応させた。
1次抗体液を取り除き、各ウェルを500μLのPBSで3回洗浄した後、500μLの2次抗体液(Alexa Fluor 488で標識したヤギ抗マウス抗体とDAPIを添加した3%BSA−PBS)を加え1時間反応させた。2次抗体液を取り除き、各ウェルを500μLのPBSで2回洗浄した後、2mLのPBSを加えた。
(2)遅筋型ミオシン鎖ポジティブな筋管細胞面積の測定
In Cell Analyzer(GE Healthcare社)を用いて、488nMで励起した蛍光を検出することにより遅筋型ミオシン鎖ポジティブな筋管細胞の面積を算出した。各ウェル25領域の筋管細胞面積を測定し、その総和を各ウェルの筋管細胞面積とした。各濃度3ウェルずつ調査し、ビオチン非添加培地の3ウェルの筋管細胞面積の平均値を1(基準)として、ビオチン添加培地での筋管細胞面積の比を求めビオチン非添加培地と比較することで筋管細胞面積の増減を評価するとともに、t検定によりビオチン非添加培地と比較した統計解析を行った。結果は図1に示される通りであった。
図1に示されるように、ビオチン非添加培地と比較して、0.001μg/mLから筋管細胞面積の増加が確認され、0.01および0.1μg/mLで危険率5%未満の有意な筋管細胞面積の増加が確認され(図1A)、1、10および100μg/mLで危険率1%未満の有意な筋管細胞面積の増加が確認された(図1B)。本結果により、ビオチンにより筋分化が促進され、筋管細胞面積が増加すること、すなわち、筋組織の量的増加が起こることが示された。
(3)核数の測定
In Cell Analyzer(GE Healthcare社)を用いて、364nMで励起した蛍光を検出することにより核数を算出した。各ウェル25領域の核数を測定し、その総和を各ウェルの核数とした。各濃度3ウェルずつ調査し、ビオチン非添加培地の3ウェルの核数の平均値を1(基準)として、ビオチン添加培地での核数の比を求めビオチン非添加培地と比較することで核数の増減を評価するとともに、t検定によりビオチン非添加培地と比較した統計解析を行った。結果は図2に示される通りであった。
図2AおよびBに示されるように、ビオチン非添加培地と比較して、0.001、1および10μg/mLで危険率5%未満の有意な核数の増加が確認され、0.01、0.1および100μg/mLで危険率1%未満の有意な核数の増加が確認された。本結果により、ビオチンにより核数が増加すること、すなわち、筋芽細胞の増殖が促進されることが示された。筋芽細胞は分化シグナルを受けて増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て最終的に収縮能力を有する筋管細胞に分化するが、ビオチンは少なくとも増殖に作用して筋分化を促進することが明らかになった。
例2:
筋芽細胞は、分化培地で培養することにより、増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て最終的に収縮能力を有する筋管細胞に分化する。本例では、最終的に到達する筋管細胞の面積を抗速筋型ミオシン重鎖で検出することにより、ビオチン添加による筋分化促進効果を評価した。
(1)筋芽細胞の分化培養
対象とする筋芽細胞として、ATCC(American Type Culture Collection)のマウス由来筋芽細胞(C2C12)を用いた。培地は、インビトロジェン社製のDMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)を用いた。
6×103個細胞/cm2の濃度で前記筋芽細胞を1mLの増殖培地(10%FBS(ウシ胎児血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を添加した12ウェル・プレートに播種後、37℃、5%CO2下で3日間培養した。
アスピレーターにより増殖培地を吸引して抜き取り、0、0.1、1または10μg/mLの濃度になるようにビオチン(和光純薬社製)を加えた分化培地(0.2%HS(馬血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を1mL加え、37℃、5%CO2下でさらに2日間培養した。
アスピレーターにより分化培地を吸引して抜き取り、0、0.1、1または10μg/mLの濃度になるようにビオチンを加えた分化培地(0.2%HS(馬血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を1mL加え、37℃、5%CO2下でさらに2日間培養した。
アスピレーターにより分化培地を吸引して抜き取り、各ウェルを500μLのPBSで2回洗浄し、1mLの冷却したメタノールを加え2分間処理し筋管細胞を固定化した後、500μLのPBSで2回洗浄した。各ウェルに500μLの3%BSAを添加したPBS(3%BSA−PBS)を加え1時間室温でブロッキングした後、500μLの1次抗体液(抗速筋型ミオシン重鎖抗体(MY−32)を添加した3%BSA−PBS)を加え2時間室温で反応させた。
1次抗体液を取り除き、各ウェルを500μLのPBSで3回洗浄した後、500μLの2次抗体液(Alexa Fluor 488で標識したヤギ抗マウス抗体とDAPIを添加した3%BSA−PBS)を加え1時間反応させた。2次抗体液を取り除き、各ウェルを500μLのPBSで2回洗浄した後、2mLのPBSを加えた。
(2)速筋型ミオシン鎖ポジティブな筋管細胞面積の測定
In Cell Analyzer(GE Healthcare社)を用いて、488nMで励起した蛍光を検出することにより速筋型ミオシン鎖ポジティブな筋管細胞の面積を算出した。各ウェル25領域の筋管細胞面積を測定し、その総和を各ウェルの筋管細胞面積とした。各濃度3ウェルずつ調査し、ビオチン非添加培地の3ウェルの筋管細胞面積の平均値を1(基準)として、ビオチン添加培地での筋管細胞面積の比を求めビオチン非添加培地と比較することで筋管細胞面積の増減を評価するとともに、t検定によりビオチン非添加培地と比較した統計解析を行った。結果は図3に示される通りであった。
図3に示されるように、ビオチン非添加培地と比較して、0.1μg/mLにおいて危険率5%未満、1および10μg/mLで危険率1%未満の有意な筋管細胞面積の増加が確認された。本結果により、ビオチンにより筋分化が促進され、筋管細胞面積が増加すること、すなわち、筋組織の量的増加が起こることが示された。
骨格筋は、速筋型と遅筋型のふたつのタイプに大別される。例1および例2の結果から、ビオチンは骨格筋のタイプを限定することなく、筋分化を促進させることが明らかとなった。
(3)核数の増加
In Cell Analyzer(GE Healthcare社)を用いて、364nMで励起した蛍光を検出することにより核数を算出した。各ウェル25領域の核数を測定し、その総和を各ウェルの核数とした。各濃度3ウェルずつ調査し、ビオチン非添加培地の3ウェルの核数の平均値を1(基準)として、ビオチン添加培地での核数の比を求めビオチン非添加培地と比較することで核数の増減を評価するとともに、t検定によりビオチン非添加培地と比較した統計解析を行った。結果は図4に示される通りであった。
図4に示されるように、ビオチン非添加培地と比較して、0.1、1および10μg/mLで危険率1%未満の有意な核数の増加が確認された。本結果により、ビオチンにより核数が増加すること、すなわち、筋芽細胞の増殖が促進されることが示された。筋芽細胞は分化シグナルを受けて増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て最終的に筋管細胞に分化するが、ビオチンは少なくとも増殖に作用して筋分化を促進することが明らかになった。
例3:
例1と同様の方法で、筋増強作用、筋萎縮抑制作用あるいは筋芽細胞増殖促進効果がある物質として報告されているβ―ヒドロキシβ―メチル酪酸(HMB)、ロイシンおよびGABAの筋分化促進効果について評価した。
(1)筋芽細胞の分化培養
対象とする筋芽細胞として、ATCC(American Type Culture Collection)のマウス由来筋芽細胞(C2C12)を用いた。培地は、インビトロジェン社製のDMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium)を用いた。
6×103個細胞/cm2の濃度で前記筋芽細胞を1mLの増殖培地(10%FBS(ウシ胎児血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)を添加した12ウェル・プレートに播種後、37℃、5%CO2下で3日間培養した。
アスピレーターにより増殖培地を吸引して抜き取り、β―ヒドロキシβ―メチル酪酸のカルシウム塩(HMB−Ca、小林香料社製)またはロイシン(和光純薬社製)を、100μg/mLの濃度になるように加えた分化培地(0.2%HS(馬血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)あるいは0.01、0.1、1、10または100μg/mLの濃度になるようにGABAを加えた分化培地を1mL加え、37℃、5%CO2下でさらに2日間培養した。
アスピレーターにより分化培地を吸引して抜き取り、HMB−Caまたはロイシンを100μg/mLの濃度になるように加えた分化培地、あるいは0.1、1、10または100μg/mLの濃度になるようにGABAを加えた分化培地を1mL加え、37℃、5%CO2下でさらに2日間培養した。
アスピレーターにより分化培地を吸引して抜き取り、各ウェルを500μLのPBSで2回洗浄し、1mLの冷却したメタノールを加え2分間処理し筋管細胞を固定化した後、500μLのPBSで2回洗浄した。各ウェルに500μLの3%BSAを添加したPBS(3%BSA−PBS)を加え1時間室温でブロッキングした後、500μLの1次抗体液(抗遅筋型ミオシン重鎖抗体(NOQ7.5.4.D)を添加した3%BSA−PBS)を加え2時間室温で反応させた。
1次抗体液を取り除き、各ウェルを500μLのPBSで3回洗浄した後、500μLの2次抗体液(Alexa Fluor 488で標識したヤギ抗マウス抗体とDAPIを添加した3%BSA−PBS)を加え1時間反応させた。2次抗体液を取り除き、各ウェルを500μLのPBSで2回洗浄した後、2mLのPBSを加えた。
(2)筋管細胞面積の測定
In Cell Analyzer(GE Healthcare社)を用いて、488nMで励起した蛍光を検出することにより遅筋型ミオシン鎖ポジティブな筋管細胞の面積を算出した。各ウェル25領域の筋管細胞面積を測定し、被験物質非添加培地の1領域の筋管細胞面積の平均値を1(基準)として、HMB−Caまたはロイシン添加培地での筋管細胞面積の比を求め、被験物質非添加培地と比較することで筋管細胞面積の増減を評価するとともに、t検定により被験物質非添加培地と比較した統計解析を行った。一方、GABAについては、実施例1および2と同じ解析方法により評価した。結果は図5および6に示される通りであった。
図5に示されるように、HMBおよびロイシンには筋管細胞面積の有意な増加は確認されなかった。すなわち、HMBとロイシンには100μg/mLの濃度においては筋分化促進効果がないことが明らかとなった。また、図6に示されるように、GABAは、ビオチンの最小有効濃度(0.001μg/mL)の10000倍の濃度である100μg/mLでのみ筋管細胞面積の有意な増加が確認された。
例4:
筋芽細胞は、分化培地で培養することにより、増殖・細胞融合を経て多核細胞となり、細胞肥大過程を経て筋管細胞に分化し、筋組織の特徴である物理的に収縮する能力を獲得する。本例ではインビトロ(in vitro)で作成した筋管細胞からなる人工筋組織の筋収縮力を測定することにより、ビオチン添加による筋収縮力増強効果を評価した。本評価は、Y. Yamamoto et al., J. Biosci. Bioeng.,108,538(2009)およびY. Yamamoto et al., Tissue Eng. Part A., 17, 107(2011)に記載された手順に従って行った。具体的には以下のように実施した。
C2C12細胞を1.5×105個細胞/10cmディッシュの濃度で増殖培地(10%FBS(ウシ胎児血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)に播種し、37℃、5%CO2下で3日間培養した。
80%コンフルエントになったC2C12細胞に、100pg/細胞の濃度になるように調製した、正電荷リポソームで磁性ナノ粒子(Fe3O4)を包埋した、機能性磁性ナノ粒子(magnetite cationic liposome、MCL)を含有させた培地に交換し、37℃、5%CO2下で4時間培養し、C2C12細胞を磁気標識した。
磁気標識したC2C12細胞を回収し、1.0×106個細胞/50μLの濃度になるように10%FBS含有DMEM培地に懸濁し、細胞懸濁液を作製した。この細胞懸濁液と、3%TypeIコラーゲン(新田ゼラチン)、5×DMEM、再構成用緩衝液(0.05N 水酸化ナトリウム溶液100 mL中に、2.2gの炭酸水素ナトリウムと4.77g のHEPESを溶解させた緩衝液)、マトリゲル(BD Biosciences)、FCSを、それぞれ50:56:7:7:15:15の割合で混合し、混合溶液を調製した。
各ウェルの中心に直径12mmのポリカーボネート栓を接着させた、超低接着性24ウェル培養プレート(Corning)を、4000ガウスの磁石の上に設置し、ウェル内のポリカーボネート栓の周りにできた隙間に、調整した混合溶液を1ウェル当たり150μLずつ播種し、増殖培地で、37℃、5%CO2下で12時間培養し、環状筋組織を作製した。
環状筋組織を取り外し、35mmディッシュもしくは6ウェル・プレートのウェル内に接着させたシリコンラバーシート上に、8mmの間隔で設置した2本の虫ピンに環状筋組織を引っ掛け、0、0.01、0.1または1μg/mLのビオチンを添加した分化誘導培地(0.4%UltroserG.(Pall社製)を含むDMEM(25mM HEPES含有、ピルビン酸ナトリウム非含有)で、37℃、5%CO2下で7日間、分化誘導培地を毎日交換しながら培養し、人工筋組織を作成した。
4ウェル・プレートの側面に20mmの間隔で炭素電極を設置し、分化誘導培地を入れ、炭素電極間に作成した人工筋組織を張力変換器の先に設置した虫ピンに固定した。そして、印加電圧15V、パルス幅10m秒の電気パルスを与え、LabViewを用いて人工筋組織の筋収縮応答を解析した。各ビオチン濃度つき、3本の人工筋組織の筋収縮力を測定し、マンホイットニーのU検定によりビオチン非添加培地で作成した人工筋組織と比較した統計解析(WinSTATにより実施)を行った。結果は図7に示される通りであった。
図7に示されるように、ビオチン非添加培地と比較して、0.01、0.1および1μg/mLで危険率5%未満の有意な筋収縮力の増強が確認された。本結果により、筋組織の量的な増加効果に加えて(例1および2)、筋組織の質的な特徴である筋収縮力の増強効果が確認された。
例5:
ビオチンの筋萎縮抑制効果を確認するために、デキサメタゾン投与による筋萎縮モデルマウスを用いて以下のような評価を行った。なお、デキサメタゾン投与により作成するモデルマウスは、一般的な筋萎縮モデルとして広く使用されるものである。
10週齢のC57BL/6Jの雄マウス(日本チャールズリバー)をAIN93M(オリエンタル酵母)で1週間馴化し、デキサメタゾン非投与コントロール群(n=7)、デキサメタゾン投与コントロール群(n=8)、デキサメタゾン投与ビオチン群(n=6)に分けた。
馴化後、デキサメタゾン非投与コントロール群とデキサメタゾン投与コントロール群にはAIN93Mを、デキサメタゾン投与ビオチン群にはビオチンを0.01%添加したAIN93Mを、それぞれ自由摂餌させ、1週間飼育した。試験飼料摂取期間中、デキサメタゾン非投与コントロール群には1%エタノール添加生理食塩水を、デキサメタゾン投与コントロール群とデキサメタゾン投与ビオチン群には1%エタノール添加生理食塩水に溶解したデキサメタゾン(SIGMA社製)を、デキサメタゾンとして0.8mg/kg体重の用量で毎日腹腔内投与した。
1週間後、混合筋の腓腹筋および遅筋のヒラメ筋を摘出し、筋重量を測定した。そして、それぞれの組織の体重あたりの筋重量(左右の筋重量の和(mg)÷体重(g))を求め、群間で比較し、t検定により統計解析を行った。結果は図8に示される通りであった。
図8に示されるように、評価した全ての筋組織で観察されたデキサメタゾン投与による体重あたりの筋重量の低下が、ビオチン摂取で抑制されることが明らかとなった。特に、腓腹筋に関しては、デキサメタゾン投与により危険率5%未満の筋重量の有意な低下が観察されたが、ビオチン摂取によって有意差が消失した(図8A)。またヒラメ筋では、デキサメタゾン非投与コントロール群やデキサメタゾン投与コントロール群と比較して、デキサメタゾン投与ビオチン群でそれぞれ危険率5%未満、危険率1%未満の有意な筋重量の増加が観察された(図8B)。
以上の結果から、インビボ(in vivo)におけるビオチンの筋萎縮抑制効果が明らかとなった。
例6:
加齢による筋肉量および筋力の低下、つまり、サルコペニアをビオチンが抑制する効果を確認するために、自然加齢マウスを用いて以下のような評価を行った。
25ヶ月齢(老齢)と5ヶ月齢(若齢)のC57BL/6Jの雄マウス(日本チャールズリバー)をAIN93M(オリエンタル酵母)で2週間馴化し、老齢ビオチン群(n=9)、老齢コントロール群(n=8)、若齢コントロール群(n=5)に分けた。
馴化後、老齢コントロール群および若齢コントロール群にはビオチン濃度を0.000004%に調整したAIN93Mを、老齢ビオチン群にはビオチン濃度を0.01%に調整したAIN93Mを、それぞれ自由摂餌させ、8週間飼育した。
混餌開始0、2、4、6、8週でマウス用握力測定装置(コロンバス社製)を用いて、四肢の握力(筋力)を測定した。
また、8週間後に、混合筋の腓腹筋、速筋の前脛骨筋および長趾伸筋ならびに遅筋のヒラメ筋を摘出し、筋重量を測定した。
死亡もしくは著しく削痩した個体を除いた、老齢ビオチン群(n=4)と老齢コントロール群(n=4)と若齢コントロール群(n=5)について四肢の握力(筋力)および筋重量について群間比較し、t検定により統計解析を行った。結果は図9および図10に示される通りであった。
図9に示されるように、摂取期間中を通じ、四肢の握力(筋力)の平均値は老齢ビオチン群が老齢コントロール群より高く維持され、摂取開始2週目および8週目においては群間の有意差(危険率5%)が認められた。
なお、若齢コントロール群は、老齢コントロール群と比較して、摂取開始2週目以降いずれの測定点でも危険率5%もしくは1%未満で有意に四肢の筋力が高いことが確認されている。
図10に示されるように、全ての筋組織で筋重量の平均値は老齢コントロール群よりも老齢ビオチン群の方が高く(図10A〜D)、特に、腓腹筋については、危険率5%未満の有意差が観察された(図10A)。
なお、若齢コントロール群は、老齢コントロール群と比較して、いずれの筋組織においても、危険率5%もしくは1%未満で有意に筋重量が高いことが確認されている。
以上の結果から、ビオチンは、加齢による筋肉量および筋力の低下、つまり、サルコペニアを抑制することが明らかとなった。
例7:
ビオチンとHMBとの組み合わせによる筋萎縮抑制効果を確認するために、デキサメタゾン投与による筋萎縮モデルマウスを用いて以下のような評価を行った。
10週齢のC57BL/6Jの雄マウス(日本チャールズリバー)をAIN93M(オリエンタル酵母)で1週間馴化し、デキサメタゾン非投与コントロール群(n=8)、デキサメタゾン投与コントロール群(n=8)、デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群(n=8)、デキサメタゾン投与HMB群(n=8)に分けた。
馴化後、デキサメタゾン非投与コントロール群とデキサメタゾン投与コントロール群にはAIN93Mを、デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群にはビオチンを0.0001%とHMBを0.12%(低用量のビオチンと低用量のHMB)となるように添加したAIN93Mを、デキサメタゾン投与HMB群にはHMBを0.6%(高用量のHMB)となるように添加したAIN93Mを、それぞれ自由摂餌させ、4週間飼育した。
試験飼料摂取期間中、デキサメタゾン非投与コントロール群には0.5%エタノール添加生理食塩水を、デキサメタゾン投与コントロール群とデキサメタゾン投与ビオチン+HMB群とデキサメタゾン投与HMB群には、0.5%エタノール添加生理食塩水に溶解したデキサメタゾン(SIGMA社製)を、デキメタゾンとして0.2mg/kg体重の用量で毎日腹腔内投与した。
混餌開始4週後に、マウス用握力測定装置(コロンバス社製)を用いて、四肢の握力(筋力)を測定した。統計解析はt検定により行った。結果は図11に示される通りであった。
また、混合筋である腓腹筋を摘出し、筋重量を測定した。体重あたりの筋重量(左右の筋重量の和(mg)÷体重(g))を求め、群間で比較し、t検定により統計解析を行った。結果は図12に示される通りであった。
図11に示されるように、デキサメタゾン非投与コントロール群と比較して、デキサメタゾン投与コントロール群およびデキサメタゾン投与HMB群で、それぞれ危険率1%および5%未満で有意に四肢の握力(筋力)が低下していることが観察されたのに対し、デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群では有意な低下は観察されなかった。
また、デキサメタゾン投与コントロール群とデキサメタゾン投与ビオチン+HMB群を比較したところ、デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群の四肢の握力(筋力)が危険率5%未満で有意に高いことが観察された。
他方、図12に示されるように、体重あたりの腓腹筋量に関しては、デキサメタゾン非投与コントロール群と比較して、デキサメタゾン投与コントロール群で危険率5%未満の有意な低下が観察されたのに対し、デキサメタゾン投与ビオチン+HMB群、デキサメタゾン投与HMB群ともに、有意な低下は観察されなかった。
以上の結果から、低用量のビオチンと低用量のHMBとを組み合わせることにより、筋萎縮が抑制されることがわかった。特に、筋萎縮に起因する筋力低下の抑制に関しては、低用量のビオチンと低用量のHMBとの組み合わせによる効果は、高用量のHMB単独の効果と比較して高いことがわかった。
例8:
加齢による筋肉量および筋力の低下、つまり、サルコペニアが、ビオチンとHMBの組み合わせ摂取により抑制されるか確認するために、自然加齢マウスを用いて以下のような評価を行った。
21ヶ月齢(老齢)と4ヶ月齢(若齢)のC57BL/6Jの雄マウス(日本チャールズリバー)をAIN93M(オリエンタル酵母)で2週間馴化し、老齢ビオチン+HMB群(n=20)、老齢コントロール群(n=18)、若齢コントロール群(n=10)に分けた。
馴化後、老齢コントロール群と若齢コントロール群にはビオチン濃度を0.000004%に調整したAIN93Mを、老齢ビオチン+HMB群には、ビオチン濃度を0.0001%(低用量ビオチン)に、HMB濃度を0.12%(低用量HMB)に調整したAIN93Mを、それぞれ自由摂餌させ、18週間飼育した。
混餌開始から18週まで2週間おきに、マウス用握力測定装置(コロンバス社製)を用いて、四肢の握力(筋力)を測定した。
また、18週間後、混合筋の腓腹筋、速筋の前脛骨筋および長趾伸筋ならびに遅筋のヒラメ筋を摘出し、筋重量を測定した。
死亡もしくは安定的な握力測定が出来なかった個体を除いた、老齢ビオチン+HMB群(n=10)と老齢コントロール群(n=10)と若齢コントロール群(n=10)の間で、四肢の握力(筋力)および筋重量について群間比較し、t検定により統計解析を行った。結果は図13および図14に示される通りであった。
図13に示されるように、摂取期間中を通じ、四肢の握力(筋力)の平均値は老齢ビオチン+HMB群が老齢コントロール群より高く維持され、摂取開始14週目および18週目においては群間の有意差(危険率5%)が認められた。
なお、若齢コントロール群は、老齢コントロール群と比較して、摂取開始4週目以降、8週目を除いたすべての測定点で危険率5%もしくは1%未満で有意に四肢の握力(筋力)が高いことが確認されている。
図14に示されるように、老齢コントロール群と老齢ビオチン+HMB群の間で有意な差は確認されなかったが、全ての筋組織で筋重量の平均値は老齢コントロール群より老齢ビオチン+HMB群の方が高かった。
なお、若齢コントロール群は、老齢コントロール群と比較して、いずれの筋組織においても、平均の筋重量が高く、腓腹筋と長趾伸筋については、それぞれ危険率1%および5%未満で群間の有意差が確認されている。
以上の結果から、低用量のビオチンと低用量のHMBとを組み合わせて摂取することにより、加齢による筋肉量および筋力の低下、つまり、サルコペニアが抑制されることが明らかとなった。