本発明は、刻印によって装飾されたガラス容器およびガラス容器の製造方法に関する。
ガラス瓶の外面に装飾を施す技術として、たとえば、エッチングやサンドブラストなどの手法によってガラス容器の外面を梨地面(細かい凹凸面)に加工し、この梨地面の上に文字や図柄などを印刷したあと、さらにその上に金属蒸着膜を形成する技術がある(特許文献1)。また、ガラス瓶の外面に薄膜層、色相塗料層、透明塗料層の順で形成したあと、当該色相塗料層を透過するレーザー光線を照射して当該薄膜層を破壊することによりガラス瓶にマーキングする技術もある(特許文献2)。さらに、ガラス容器の外面に金属層、塗膜層を形成したあと、当該金属層と反応するレーザーを照射することにより、当該金属層および当該塗膜層を除去する技術が開示されている(特許文献3)。
特許文献1記載の技術は、ガラス容器の外面を直接加工するものであるが(段落0008)、特許文献2および3記載の技術は、ガラス容器の外面に形成した金属膜等を除去するものであってガラス容器自体に加工を及ぼすものではない。特許文献1に係るガラス容器の加工は、エッチングやサンドブラストなどの手法を用いて行われるが、同文献に記載はないものの、これらの手法により文字や図柄等をガラス容器外面に形成しようとすると、加工しない部位をマスキングで覆い、これを加工したあとに剥離する作業が必要となるため上記手法は、たいへん手間のかかるとても面倒な加工方法である。さらに、たとえば、次の点から見ても、たいへん面倒な加工方法であることが分かる。つまり、マスキングを使わなければならないとすると、たとえば、アルファベットの「B」や漢字の「田」を形成しようとする場合に、前者では2カ所、後者では4箇所の中抜きシールがそれぞれ必要となり、中抜きシールの貼り付け位置の決定がたいへん難しい。また、微細で入り組んだ文様や図柄を作成するために微細なシールを作成し貼り付けなければならないとすると、気が遠くなるような細かな作業が必要となるので、現実性に乏しい。なお、特許文献2は、このマスキングの処理工程を省略するために最近はレーザー光線が利用されていることを併せて記述しているが(段落0003)、このレーザー光線はガラス容器を加工するためのものでないことは、上述したとおりである。
特開平9-255367号公報
特開平7-237350号公報
特開2012-153397号公報
手間がかかり面倒ではあるが、先の特許文献1記載のように、所望のマスキングしたあとサンドブラストの手法を用いてガラス容器に文字や図柄等の刻印を施すことはやろうと思えばできないことではない。この場合の刻印が形成された部位は梨地面となり、細かい凹凸が形成されることになる。しかし、繰り返しになるが梨地面は細かい凹凸によって形成され、いわゆる曇りガラスの状態である。何ら加工されていない曇りガラスに手垢・手油がつくと、その部分の凹凸がその油によって平滑化されて透けてくる(状態が変化する)。古い家屋の窓ガラスに手や指の跡がつくのは、そのためである。このままでは見た目がよくないので、最近は、サンドブラストしたあと、表面をさらにフッ化水素で化学処理(フロスト処理)し滑らかにすることで、手垢が付きにくくしたものがある。このフロスト処理を行わなければならないとすると、ただでさえマスキングが面倒なのに、これがさらに面倒なものとなってしまう。本発明が解決しようとする課題は、なるべく手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項記載の発明を説明するに当たり行う用語の定義等は、その記載順や発明のカテゴリーの違い等に関わらずその性質上可能な範囲において他の請求項記載の発明にも適用があるものとする。
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項1の容器」という。)は、外面を有するガラス容器であって、当該ガラス容器の外面には、CO2レーザー加工により形成された刻印が形成されていることを特徴とする。刻印は、文字、図形、記号、これらの組み合わせなど、どのようなものでもよい。また、1か所である必要はなく、複数個所に分散して形成されることを妨げない。
請求項1の容器は、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されている。サンドブラストやエッチング等と異なり、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングのような前処理やフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、マスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。さらに、後述するように、CO2レーザー加工を用いて刻印すると、ガラス容器の表面にハマ欠け群が形成され、ハマ欠けならではの装飾的特徴が得られる。なお、YAGレーザーやエキシマレーザーのようなCO2レーザー以外のレーザーは、対象外である。その理由は、後述する。
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項2の容器」という。)は、外面を有するガラス容器であって、当該ガラス容器の外面には、刻印が形成され、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。ハマ欠けとは、ガラス表面における貝殻状の欠け、のことをいう。ガラス表面にハマ欠けを形成するための加工方法としてCO2レーザーを用いた加工方法があるが、これ以外の加工方法を採用することを妨げるものではない。
請求項2の容器は、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されている。当該刻印が形成された部位には微小のハマ欠け群が形成されているため、サンドブラストやエッチングで加工された面に比べもともとの風合いを保ちやすい。このため、ガラス容器の原色に忠実な色合いを刻印が形成された部位に持たせることができる。つまり、サンドブラストやエッチングにより加工された場合の刻印が形成された部位は、細かい凹凸で形成されているので、凹部に手垢が入り込んで取れづらい。このため、窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるように、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれやすく、これによってガラス容器の風合いが変化してあからさまに使用感が見て取れるようになってしまうことが欠点であるが、これらの欠点を補うのがハマ欠けである。すなわち、ハマ欠けは、サンドブラストによって形成される微小な凹凸面とは異なり微小の光沢面を形成する。このため、凹凸面であればつきやすい手垢などがつきにくく、したがって、高い光透過性を保つことができるのである。
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項3の容器」という。)は、請求項1の容器であって、前記微小ハマ欠け群は、CO2レーザーの照射によって形成されたものであることを特徴とする。
請求項3の容器によれば、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングやフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、所望の形状にシールを形成すること、それらを貼り付けることの難しさゆえにマスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。なお、YAGレーザーやエキシマレーザーのようなCO2レーザー以外のレーザーは、対象外である。
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項4の容器」という。)は、請求項2または3の容器であって、前記ガラス容器の外面には、前記刻印を全方位的に囲む少なくとも1層(すなわち、単層もしくは複数層)の被覆層が形成されていることを特徴とする。
請求項4の容器によれば、被覆層が形成されることによりガラス容器を保護することが基本となるが、これ以外にも、たとえば、ガラス容器を飾るための加飾を施すことができる。被覆層の材質は、被覆する目的に応じて適切なもの自由に選択してよい。このとき、被覆層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、これにより、刻印と整合のとれた被覆層の加工が可能になる。
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項5の容器」という。)は、請求項4の容器であって、前記加飾層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むものであることを特徴とする。
請求項5の容器によれば、金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項6の方法」という。)は、外面を有するガラス容器を用意する容器用意工程と、当該ガラス容器の外面にコンピュータ制御されたCO2レーザーを照射して所望の刻印を形成する刻印工程と、を備えることを特徴とする。
請求項6の方法によれば、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されたガラス容器を容易に製造することができる。サンドブラストやエッチング等と異なり、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングのような前処理やフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、マスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項7の方法」という。)は、請求項6の方法であって、前記刻印工程の前に、前記ガラス容器外面の前記CO2レーザー照射領域を含めた領域に、少なくとも1層の被覆層を形成する蒸着層形成工程を備えることを特徴とする。
請求項7の方法によれば、被覆層を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時に金属蒸着層の削除を行うことができるので、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、切欠きを一気に行うことにより、刻印の形状と整合のとれた形状の被覆層を得ることができる。被覆層の材質や透明性などの性状は、その被覆層を設ける目的に応じて適切と思われるものを自由に選択することができる。
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項8の方法」という。)は、請求項7の方法であって、前記加飾層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むものであることを特徴とする。
請求項8の容器によれば、金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
本発明によれば、たとえば、マスキングのような手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器を提供することができる。さらに、レーザーの照射によって、微細な文字や図柄なども容易に刻印できるので、バリエーションのある図柄、繊細さのある文様等を備えたガラス容器の提供が実現できる。
第1の実施形態のガラス容器の正面図である。
CO2レーザー装置の概略を示すブロック図である。
CO2レーザーを照射して形成したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)→(c)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
第2の実施形態のガラス容器の正面図と、部分破断拡大図である。
第2の実施形態の変形例に係るガラス容器の正面図である。
以下、本発明の実施形態に係るガラス容器について図面を参照しながら説明する。
(ガラス容器の全体構成)
図1に示すガラス容器1は、内部に化粧液,乳液,医薬品,飲料などの液状、ゲル状又は固体状の内容物を収容する容器である。ガラス容器1は、全体がガラス製の容器本体3と、容器本体3の上にはめ込む合成樹脂製のキャップ5(2点鎖線で示す)と、からおおむね構成されている。容器本体3は、筒状の側壁部3aと側壁部3aの下部をふさぐ底部3cと、同じく上部をふさぐ肩部3bと、肩部3bの中央から突き出すネック部4と、ネック部4の外周にある螺旋状のネジ部4aと、から構成されている。ネック部4には、出荷前に内容物を充填し使用時に内容物を取り出すための開口4hが形成されている。ネジ部4aは、キャップ5をネジ固定する固定手段としての機能を有しているが、キャップ4との関係で様々な固定手段が考えられる。なお、開口4hには、開口径を小さくするための、たとえば合成樹脂製の径調整部材など(図示を省略)をはめ込んでもよい。また、使用時において、キャップ4の代わりに、使用者の操作によって内容物を外部へ取り出すためのポンプなど(図示を省略)を取付けられるようにすることもできる。
図1に示すガラス容器1には、背の高い容器であるが、背の低い容器や表面に凹凸のある容器なども含まれる。ガラス容器1の材質は問わないが、たとえば、熱膨張率が高いためCO2レーザー加工を行いやすいことからソーダガラスが一般的であるが、たとえば、出力を適当に選べば石英ガラスその他の熱膨張率が低いガラスであってもよい。ガラス容器1は、透明半透明を問わない。さらに、有色無色などの制限も一切ない。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る製造方法を説明する。まず、加飾を施していないガラス容器1を用意する(容器用意工程)。別の場所で予め製造された容器であってもよいし、後述する刻印する工程の直前に製造されたものであってもよい。ここでは、他の場所で予め製造された無色透明のソーダガラス製のガラス容器を搬入用意した。次に、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)を用いてガラス容器1の外面1aに刻印を形成する(刻印工程)。
CO2レーザー装置101は、図2に示すように、低圧の混合ガスを含んだパイレックス(登録商標)ガラス製の光共振器103と、光共振器103内で発生するレーザーをコンピュータ制御するための制御部105を備えている。CO2レーザー発生装置は、発生したレーザーを光共振器103内で反射させながら増幅し、所定出力に達したところで外部へ照射するようになっている。制御部105は、CO2レーザーの出力の制御のほか、プログラムに基づいた刻印を形成するための制御も行う。
レーザーには、CO2レーザーのほか、YAGレーザーやエキシマレーザーなどがある。しかし、CO2レーザーの波長は10.6μmであるのに対し、YAGレーザーの波長は1064nmでありエキシマレーザーの波長は193nmであってはるかに短い。このため、CO2レーザーはガラスに吸収され発熱するが、YAGレーザーとエキシマレーザーはガラスを透過してしまう。したがって、CO2レーザーはガラス外面に刻印するために使用できるが、YAGレーザーとエキシマレーザーは刻印には適さない。そこで、本実施形態では、CO2レーザーを使用する。
このCO2レーザーを照射してガラス容器1の外面1aに所望の刻印を形成する。刻印の形態は、文字、図形、記号、もしくはこれらの結合したものなど、自由に選択することができる。刻印の形態は、予めプログラムして制御部105にインストールしておく。文字を刻印するなら、たとえば商品名(たとえば、化粧品の名称「ABC」、図1参照)や内容物の名称(たとえば、化粧水を意味する「skin lotion」、乳液を意味する「milky lotion」)などが考えられる。サンドブラスト法などと異なり、マスキングが不要であるし、小さい文字も刻印できるので、使い勝手がよくたいへん便利である。これと同じ理由により、メーカーのロゴなども、たとえそれが複雑な文様等であっても、コンピュータ制御されたCO2レーザーであれば、手間をかけずに容易に刻印することができる。
ここで、ガラス容器1にCO2レーザー装置101(図2)を用いてCO2レーザーを照射して、その外面の様子を観察した(図3(a)(b)(c))。これと同じ素材でできた別のガラス容器の表面をサンドブラスト加工したもの(図4(a)(b))と、サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したもの(図5(a)(b)(c))を比較した。図3に示すように、CO2レーザーを照射したガラス容器の表面には、緩やかな規則性をもって並ぶ微小なハマ欠けK(ハマ欠け群K)とともに、同じく微小な溶融部位M(溶融部位群M)が観察された。CO2レーザーを吸収したガラス内部に熱が発生して膨張し、その応力によってガラス表面の一部が欠けた結果、ハマ欠け群Kができたものと思われる。一方で、ハマ欠けで一旦ガラスから離れた欠け片群は、それらがガラス表面に残っているときに、新たにCO2レーザーの照射を受けて溶融したのが、上記溶融部位群Mである。
一方、図4に示すサンドブラスト加工したガラス表面は、その加工方法が砂などの研磨剤を吹き付ける加工法であるから、同図に示すように、粉をふいて表面が細かい凹凸で形成された梨地のようにざらざらになる。したがって、微小のハマ欠けKの群れが含まれて形成されるCO2レーザーによる加工に比べ、透明度が低いことが分かる。サンドブラスト加工後にフロスト処理したもの(図5参照)も、透明度の点でCO2レーザー加工したものに及ばない。この結果、CO2レーザーによって形成した刻印は、ガラス容器の地肌の色(原色)をより忠実に再現する加工法といえる。違う観点で見れば、梨地のガラス面ではその凹部に手垢が入り込んで取れづらくなるが、ハマ欠け群が形成されたガラス面は、手垢が入り込みづらい。このため、CO2レーザーで加工したガラス容器であれば、あたかも窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるような、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれる恐れがきわめて少ないことが分かった。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、CO2レーザーによる刻印工程の前に、ガラス容器の表面を被覆するための被覆層を形成する。具体的には、用意したガラス容器の外面に、アンダーコート層を形成したのち、その上に金属蒸着層を形成する。そして、最後に金属蒸着層の上にトップコート層を形成する。つまり、第2の実施形態では、ガラス容器にアンダーコート層、金属蒸着層およびトップコート層の3層からなる被覆層を形成した。項を改めて詳細を説明する。
まず、図6に示すソーダガラス製のガラス容器51を用意し(容器用意工程)、その容器本体53の外周全体に、被覆層60を形成する。被覆層60の構成は、単層でも複層でもよく、ガラス容器51の形態や加飾方針にしたがって自由に選択できる。ここでは上述したように3層構成とし、アンダーコート層61(たとえば、厚さ11.90μm)を積層形成する。さらにその上に、たとえば、Al(アルミニウム)の金属蒸着層(加飾層)63(たとえば、厚さ0.05μm)を積層形成(蒸着層形成工程)し、さらに、無色透明のトップコート層65(たとえば、厚さ7.30μm)を積層する。金属蒸着層63とトップコート層65の間に、透明(半透明でもよい)のミドルコート層(たとえば、6.80μm前後、図示を省略)を形成することもできる。また、図示は省略するが、金属蒸着層63の代わりに塗装層や加飾シールなどによって加飾層を構成することも妨げない。
トップコート層65を無色透明としたので、金属蒸着層63のアルミニウムに由来する金属感が容器本体53の外部から観察できるようになっている。金属感の外部観察を邪魔しないためである。なお、図6の円内拡大図に示す各部位は模式的に表されており、実際の厚みの比率は異なる場合があることに留意されたい。
アンダーコート層61は、アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなるが、これに代えて、ウレタン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。そして、その厚みは、積層する素材にもよるが、本実施形態のように、10μm前後が好ましい。なお、主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合をも含む意味である。
さらに、トップコート層65は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層65を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すようにすることもできる。この場合、金属蒸着層63の金属感との組合せによって、よりデザイン、色調の幅が広がるようになる。また、トップコート層65は、金属蒸着層63の酸化防止、腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、容器本体53の耐久性向上を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、UVカット剤等を添加したものであってもよい。また、その厚みは一例として10μm前後にすることが好適である。
トップコート層65を形成した後、その上から容器本体53のガラス層55に刻印55Kを形成するようにコンピュータ制御されたCO2レーザー110を照射する(刻印工程)。ここでは、上記の刻印工程の前に、刻印のためのガラス容器51の外面のCO2レーザー110照射領域を含めた領域(すなわち、刻印のための照射領域)に、3層の加飾層60を形成する蒸着層形成工程を備えることになる。この方法によれば、アンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時にアンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65の削除を一気に行うことができる。ミドルコート層(図示を省略)を形成する場合も同時に削除ができる。このため、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。
(第2の実施形態の変形例)
図7を参照しながら、第2の実施形態の変形例(以下、「本変形例」という。)を説明する。本変形例のガラス容器51´は、先に説明したガラス容器51と基本的に同じ構造を有している。異なるのは、部分加飾層71と覗き窓73が形成されている点である。部分加飾層は、ガラス容器51´の加飾にバリエーションを付加するためのものであり、その形状や付加方法に制限はない。本変形例では楕円形上の模様を、たとえば、加飾層を構成する1層(図7では省略、図6に示す、たとえば金属蒸着層)の外面側に印刷により形成されている。この場合、刻印「MILK」を構成する文字「L」の刻印は、部分加飾層71によって部分的に横断され全方位的に囲まれていないが、文字「K」の刻印は部分加飾層71とともにそれ以外の層によって全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
また、覗き窓73は、ガラス容器51´に収容された内容物Cを、使用者が見られるようにするための窓である。このため、その部位の加飾層が、たとえば、ガラスに反応しないレーザー加工により取り除かれている。この場合、文字「MILK」の刻印を構成する文字「L」や「K」の刻印は加飾層によって全方位的に囲まれていないことになる一方、文字「M」や「「I」の刻印は全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
1 容器
1a 外面
3 容器本体
3a 側壁部
3b 肩部
3c 底部
4 ネック部
4a ネジ部
4h 開口
5 キャップ
51 ガラス容器
53 容器本体
55 ガラス層
55K 刻印
60 加飾層
61 アンダーコート層
63 金属蒸着層(加飾層)
65 トップコート層
71 部分加飾層
73 覗き窓
101 CO2レーザー装置
103 光共振器
105 制御部
110 CO2レーザー
C 内容物
K ハマ欠け
M 溶融部位
本発明は、刻印によって装飾されたガラス容器およびガラス容器の製造方法に関する。
ガラス瓶の外面に装飾を施す技術として、たとえば、エッチングやサンドブラストなどの手法によってガラス容器の外面を梨地面(細かい凹凸面)に加工し、この梨地面の上に文字や図柄などを印刷したあと、さらにその上に金属蒸着膜を形成する技術がある(特許文献1)。また、ガラス瓶の外面に薄膜層、色相塗料層、透明塗料層の順で形成したあと、当該色相塗料層を透過するレーザー光線を照射して当該薄膜層を破壊することによりガラス瓶にマーキングする技術もある(特許文献2)。さらに、ガラス容器の外面に金属層、塗膜層を形成したあと、当該金属層と反応するレーザーを照射することにより、当該金属層および当該塗膜層を除去する技術が開示されている(特許文献3)。
特許文献1記載の技術は、ガラス容器の外面を直接加工するものであるが(段落0008)、特許文献2および3記載の技術は、ガラス容器の外面に形成した金属膜等を除去するものであってガラス容器自体に加工を及ぼすものではない。特許文献1に係るガラス容器の加工は、エッチングやサンドブラストなどの手法を用いて行われるが、同文献に記載はないものの、これらの手法により文字や図柄等をガラス容器外面に形成しようとすると、加工しない部位をマスキングで覆い、これを加工したあとに剥離する作業が必要となるため上記手法は、たいへん手間のかかるとても面倒な加工方法である。さらに、たとえば、次の点から見ても、たいへん面倒な加工方法であることが分かる。つまり、マスキングを使わなければならないとすると、たとえば、アルファベットの「B」や漢字の「田」を形成しようとする場合に、前者では2カ所、後者では4箇所の中抜きシールがそれぞれ必要となり、中抜きシールの貼り付け位置の決定がたいへん難しい。また、微細で入り組んだ文様や図柄を作成するために微細なシールを作成し貼り付けなければならないとすると、気が遠くなるような細かな作業が必要となるので、現実性に乏しい。なお、特許文献2は、このマスキングの処理工程を省略するために最近はレーザー光線が利用されていることを併せて記述しているが(段落0003)、このレーザー光線はガラス容器を加工するためのものでないことは、上述したとおりである。
特開平9-255367号公報
特開平7-237350号公報
特開2012-153397号公報
手間がかかり面倒ではあるが、先の特許文献1記載のように、所望のマスキングしたあとサンドブラストの手法を用いてガラス容器に文字や図柄等の刻印を施すことはやろうと思えばできないことではない。この場合の刻印が形成された部位は梨地面となり、細かい凹凸が形成されることになる。しかし、繰り返しになるが梨地面は細かい凹凸によって形成され、いわゆる曇りガラスの状態である。何ら加工されていない曇りガラスに手垢・手油がつくと、その部分の凹凸がその油によって平滑化されて透けてくる(状態が変化する)。古い家屋の窓ガラスに手や指の跡がつくのは、そのためである。このままでは見た目がよくないので、最近は、サンドブラストしたあと、表面をさらにフッ化水素で化学処理(フロスト処理)し滑らかにすることで、手垢が付きにくくしたものがある。このフロスト処理を行わなければならないとすると、ただでさえマスキングが面倒なのに、これがさらに面倒なものとなってしまう。本発明が解決しようとする課題は、なるべく手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項記載の発明を説明するに当たり行う用語の定義等は、その記載順や発明のカテゴリーの違い等に関わらずその性質上可能な範囲において他の請求項記載の発明にも適用があるものとする。
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項1の容器」という。)は、 刻印が形成されたガラス容器であって、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。ハマ欠けとは、ガラス表面における貝殻状の欠け、のことをいう。ガラス表面にハマ欠けを形成するための加工方法としてCO2レーザーを用いた加工方法があるが、これ以外の加工方法を採用することを妨げるものではない。刻印は、文字、図形、記号、これらの組み合わせなど、どのようなものでもよい。また、1か所である必要はなく、複数個所に分散して形成されることを妨げない。
請求項1の容器は、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されている。当該刻印が形成された部位には微小のハマ欠け群が形成されているため、サンドブラストやエッチングで加工された面に比べもともとの風合いを保ちやすい。このため、ガラス容器の原色に忠実な色合いを刻印が形成された部位に持たせることができる。つまり、サンドブラストやエッチングにより加工された場合の刻印が形成された部位は、細かい凹凸で形成されているので、凹部に手垢が入り込んで取れづらい。このため、窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるように、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれやすく、これによってガラス容器の風合いが変化してあからさまに使用感が見て取れるようになってしまうことが欠点であるが、これらの欠点を補うのがハマ欠けである。すなわち、ハマ欠けは、サンドブラストによって形成される微小な凹凸面とは異なり微小の光沢面を形成する。このため、凹凸面であればつきやすい手垢などがつきにくく、したがって、高い光透過性を保つことができるのである。
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項2の容器」という。)は、請求項1の容器であって、前記微小ハマ欠け群は、CO2レーザーの照射によって形成されたものであることを特徴とする。
請求項2の容器によれば、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングやフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、所望の形状にシールを形成すること、それらを貼り付けることの難しさゆえにマスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。なお、YAGレーザーやエキシマレーザーのようなCO2レーザー以外のレーザーは、対象外である。
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項3の容器」という。)は、請求項1または2の容器であって、前記ガラス容器の外面には、前記刻印を全方位的に囲む少なくとも1層(すなわち、単層もしくは複数層)の被覆層が形成されていることを特徴とする。
請求項3の容器によれば、被覆層が形成されることによりガラス容器を保護することが基本となるが、これ以外にも、たとえば、ガラス容器を飾るための加飾を施すことができる。被覆層の材質は、被覆する目的に応じて適切なもの自由に選択してよい。このとき、被覆層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、これにより、刻印と整合のとれた被覆層の加工が可能になる。
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項4の容器」という。)は、請求項3の容器であって、前記被覆層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むものであることを特徴とする。
請求項4の容器によれば、金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項5の方法」という。)は、ガラス容器を用意する容器用意工程と、当該ガラス容器の外面にコンピュータ制御されたCO2レーザーを照射して所望の刻印を形成する刻印工程と、を備え、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。
請求項5の方法によれば、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されたガラス容器を容易に製造することができる。サンドブラストやエッチング等と異なり、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングのような前処理やフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、マスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項6の方法」という。)は、請求項5の方法であって、前記刻印工程の前に、前記ガラス容器外面の前記CO2レーザー照射領域を含めた領域に、少なくとも1層の被覆層を形成する蒸着層形成工程を備えることを特徴とする。
請求項6の方法によれば、被覆層を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時に金属蒸着層の削除を行うことができるので、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、切欠きを一気に行うことにより、刻印の形状と整合のとれた形状の被覆層を得ることができる。被覆層の材質や透明性などの性状は、その被覆層を設ける目的に応じて適切と思われるものを自由に選択することができる。
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項7の方法」という。)は、請求項6の方法であって、前記被覆層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むものであることを特徴とする。
請求項7の容器によれば、金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
本発明によれば、たとえば、マスキングのような手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器を提供することができる。さらに、レーザーの照射によって、微細な文字や図柄なども容易に刻印できるので、バリエーションのある図柄、繊細さのある文様等を備えたガラス容器の提供が実現できる。
第1の実施形態のガラス容器の正面図である。
CO2レーザー装置の概略を示すブロック図である。
CO2レーザーを照射して形成したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)→(c)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
第2の実施形態のガラス容器の正面図と、部分破断拡大図である。
第2の実施形態の変形例に係るガラス容器の正面図である。
以下、本発明の実施形態に係るガラス容器について図面を参照しながら説明する。
(ガラス容器の全体構成)
図1に示すガラス容器1は、内部に化粧液,乳液,医薬品,飲料などの液状、ゲル状又は固体状の内容物を収容する容器である。ガラス容器1は、全体がガラス製の容器本体3と、容器本体3の上にはめ込む合成樹脂製のキャップ5(2点鎖線で示す)と、からおおむね構成されている。容器本体3は、筒状の側壁部3aと側壁部3aの下部をふさぐ底部3cと、同じく上部をふさぐ肩部3bと、肩部3bの中央から突き出すネック部4と、ネック部4の外周にある螺旋状のネジ部4aと、から構成されている。ネック部4には、出荷前に内容物を充填し使用時に内容物を取り出すための開口4hが形成されている。ネジ部4aは、キャップ5をネジ固定する固定手段としての機能を有しているが、キャップ4との関係で様々な固定手段が考えられる。なお、開口4hには、開口径を小さくするための、たとえば合成樹脂製の径調整部材など(図示を省略)をはめ込んでもよい。また、使用時において、キャップ4の代わりに、使用者の操作によって内容物を外部へ取り出すためのポンプなど(図示を省略)を取付けられるようにすることもできる。
図1に示すガラス容器1には、背の高い容器であるが、背の低い容器や表面に凹凸のある容器なども含まれる。ガラス容器1の材質は問わないが、たとえば、熱膨張率が高いためCO2レーザー加工を行いやすいことからソーダガラスが一般的であるが、たとえば、出力を適当に選べば石英ガラスその他の熱膨張率が低いガラスであってもよい。ガラス容器1は、透明半透明を問わない。さらに、有色無色などの制限も一切ない。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る製造方法を説明する。まず、加飾を施していないガラス容器1を用意する(容器用意工程)。別の場所で予め製造された容器であってもよいし、後述する刻印する工程の直前に製造されたものであってもよい。ここでは、他の場所で予め製造された無色透明のソーダガラス製のガラス容器を搬入用意した。次に、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)を用いてガラス容器1の外面1aに刻印を形成する(刻印工程)。
CO2レーザー装置101は、図2に示すように、低圧の混合ガスを含んだパイレックス(登録商標)ガラス製の光共振器103と、光共振器103内で発生するレーザーをコンピュータ制御するための制御部105を備えている。CO2レーザー発生装置は、発生したレーザーを光共振器103内で反射させながら増幅し、所定出力に達したところで外部へ照射するようになっている。制御部105は、CO2レーザーの出力の制御のほか、プログラムに基づいた刻印を形成するための制御も行う。
レーザーには、CO2レーザーのほか、YAGレーザーやエキシマレーザーなどがある。しかし、CO2レーザーの波長は10.6μmであるのに対し、YAGレーザーの波長は1064nmでありエキシマレーザーの波長は193nmであってはるかに短い。このため、CO2レーザーはガラスに吸収され発熱するが、YAGレーザーとエキシマレーザーはガラスを透過してしまう。したがって、CO2レーザーはガラス外面に刻印するために使用できるが、YAGレーザーとエキシマレーザーは刻印には適さない。そこで、本実施形態では、CO2レーザーを使用する。
このCO2レーザーを照射してガラス容器1の外面1aに所望の刻印を形成する。刻印の形態は、文字、図形、記号、もしくはこれらの結合したものなど、自由に選択することができる。刻印の形態は、予めプログラムして制御部105にインストールしておく。文字を刻印するなら、たとえば商品名(たとえば、化粧品の名称「ABC」、図1参照)や内容物の名称(たとえば、化粧水を意味する「skin lotion」、乳液を意味する「milky lotion」)などが考えられる。サンドブラスト法などと異なり、マスキングが不要であるし、小さい文字も刻印できるので、使い勝手がよくたいへん便利である。これと同じ理由により、メーカーのロゴなども、たとえそれが複雑な文様等であっても、コンピュータ制御されたCO2レーザーであれば、手間をかけずに容易に刻印することができる。
ここで、ガラス容器1にCO2レーザー装置101(図2)を用いてCO2レーザーを照射して、その外面の様子を観察した(図3(a)(b)(c))。これと同じ素材でできた別のガラス容器の表面をサンドブラスト加工したもの(図4(a)(b))と、サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したもの(図5(a)(b)(c))を比較した。図3に示すように、CO2レーザーを照射したガラス容器の表面には、緩やかな規則性をもって並ぶ微小なハマ欠けK(ハマ欠け群K)とともに、同じく微小な溶融部位M(溶融部位群M)が観察された。CO2レーザーを吸収したガラス内部に熱が発生して膨張し、その応力によってガラス表面の一部が欠けた結果、ハマ欠け群Kができたものと思われる。一方で、ハマ欠けで一旦ガラスから離れた欠け片群は、それらがガラス表面に残っているときに、新たにCO2レーザーの照射を受けて溶融したのが、上記溶融部位群Mである。
一方、図4に示すサンドブラスト加工したガラス表面は、その加工方法が砂などの研磨剤を吹き付ける加工法であるから、同図に示すように、粉をふいて表面が細かい凹凸で形成された梨地のようにざらざらになる。したがって、微小のハマ欠けKの群れが含まれて形成されるCO2レーザーによる加工に比べ、透明度が低いことが分かる。サンドブラスト加工後にフロスト処理したもの(図5参照)も、透明度の点でCO2レーザー加工したものに及ばない。この結果、CO2レーザーによって形成した刻印は、ガラス容器の地肌の色(原色)をより忠実に再現する加工法といえる。違う観点で見れば、梨地のガラス面ではその凹部に手垢が入り込んで取れづらくなるが、ハマ欠け群が形成されたガラス面は、手垢が入り込みづらい。このため、CO2レーザーで加工したガラス容器であれば、あたかも窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるような、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれる恐れがきわめて少ないことが分かった。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、CO2レーザーによる刻印工程の前に、ガラス容器の表面を被覆するための被覆層を形成する。具体的には、用意したガラス容器の外面に、アンダーコート層を形成したのち、その上に金属蒸着層を形成する。そして、最後に金属蒸着層の上にトップコート層を形成する。つまり、第2の実施形態では、ガラス容器にアンダーコート層、金属蒸着層およびトップコート層の3層からなる被覆層を形成した。項を改めて詳細を説明する。
まず、図6に示すソーダガラス製のガラス容器51を用意し(容器用意工程)、その容器本体53の外周全体に、被覆層60を形成する。被覆層60の構成は、単層でも複層でもよく、ガラス容器51の形態や加飾方針にしたがって自由に選択できる。ここでは上述したように3層構成とし、アンダーコート層61(たとえば、厚さ11.90μm)を積層形成する。さらにその上に、たとえば、Al(アルミニウム)の金属蒸着層(被覆層)63(たとえば、厚さ0.05μm)を積層形成(蒸着層形成工程)し、さらに、無色透明のトップコート層65(たとえば、厚さ7.30μm)を積層する。金属蒸着層63とトップコート層65の間に、透明(半透明でもよい)のミドルコート層(たとえば、6.80μm前後、図示を省略)を形成することもできる。また、図示は省略するが、金属蒸着層63の代わりに塗装層や加飾シールなどによって被覆層を構成することも妨げない。
トップコート層65を無色透明としたので、金属蒸着層63のアルミニウムに由来する金属感が容器本体53の外部から観察できるようになっている。金属感の外部観察を邪魔しないためである。なお、図6の円内拡大図に示す各部位は模式的に表されており、実際の厚みの比率は異なる場合があることに留意されたい。
アンダーコート層61は、アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなるが、これに代えて、ウレタン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。そして、その厚みは、積層する素材にもよるが、本実施形態のように、10μm前後が好ましい。なお、主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合をも含む意味である。
さらに、トップコート層65は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層65を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すようにすることもできる。この場合、金属蒸着層63の金属感との組合せによって、よりデザイン、色調の幅が広がるようになる。また、トップコート層65は、金属蒸着層63の酸化防止、腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、容器本体53の耐久性向上を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、UVカット剤等を添加したものであってもよい。また、その厚みは一例として10μm前後にすることが好適である。
トップコート層65を形成した後、その上から容器本体53のガラス層55に刻印55Kを形成するようにコンピュータ制御されたCO2レーザー110を照射する(刻印工程)。ここでは、上記の刻印工程の前に、刻印のためのガラス容器51の外面のCO2レーザー110照射領域を含めた領域(すなわち、刻印のための照射領域)に、3層の被覆層60を形成する蒸着層形成工程を備えることになる。この方法によれば、アンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時にアンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65の削除を一気に行うことができる。ミドルコート層(図示を省略)を形成する場合も同時に削除ができる。このため、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。
(第2の実施形態の変形例)
図7を参照しながら、第2の実施形態の変形例(以下、「本変形例」という。)を説明する。本変形例のガラス容器51´は、先に説明したガラス容器51と基本的に同じ構造を有している。異なるのは、部分被覆層71と覗き窓73が形成されている点である。部分被覆層は、ガラス容器51´の加飾にバリエーションを付加するためのものであり、その形状や付加方法に制限はない。本変形例では楕円形上の模様を、たとえば、被覆層を構成する1層(図7では省略、図6に示す、たとえば金属蒸着層)の外面側に印刷により形成されている。この場合、刻印「MILK」を構成する文字「L」の刻印は、部分被覆層71によって部分的に横断され全方位的に囲まれていないが、文字「K」の刻印は部分被覆層71とともにそれ以外の層によって全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
また、覗き窓73は、ガラス容器51´に収容された内容物Cを、使用者が見られるようにするための窓である。このため、その部位の被覆層が、たとえば、ガラスに反応しないレーザー加工により取り除かれている。この場合、文字「MILK」の刻印を構成する文字「L」や「K」の刻印は被覆層によって全方位的に囲まれていないことになる一方、文字「M」や「「I」の刻印は全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
1 容器
1a 外面
3 容器本体
3a 側壁部
3b 肩部
3c 底部
4 ネック部
4a ネジ部
4h 開口
5 キャップ
51 ガラス容器
53 容器本体
55 ガラス層
55K 刻印
60 被覆層
61 アンダーコート層
63 金属蒸着層(被覆層)
65 トップコート層
71 部分被覆層
73 覗き窓
101 CO2レーザー装置
103 光共振器
105 制御部
110 CO2レーザー
C 内容物
K ハマ欠け
M 溶融部位
本発明は、刻印によって装飾されたガラス容器およびガラス容器の製造方法に関する。
ガラス瓶の外面に装飾を施す技術として、たとえば、エッチングやサンドブラストなどの手法によってガラス容器の外面を梨地面(細かい凹凸面)に加工し、この梨地面の上に文字や図柄などを印刷したあと、さらにその上に金属蒸着膜を形成する技術がある(特許文献1)。また、ガラス瓶の外面に薄膜層、色相塗料層、透明塗料層の順で形成したあと、当該色相塗料層を透過するレーザー光線を照射して当該薄膜層を破壊することによりガラス瓶にマーキングする技術もある(特許文献2)。さらに、ガラス容器の外面に金属層、塗膜層を形成したあと、当該金属層と反応するレーザーを照射することにより、当該金属層および当該塗膜層を除去する技術が開示されている(特許文献3)。
特許文献1記載の技術は、ガラス容器の外面を直接加工するものであるが(段落0008)、特許文献2および3記載の技術は、ガラス容器の外面に形成した金属膜等を除去するものであってガラス容器自体に加工を及ぼすものではない。特許文献1に係るガラス容器の加工は、エッチングやサンドブラストなどの手法を用いて行われるが、同文献に記載はないものの、これらの手法により文字や図柄等をガラス容器外面に形成しようとすると、加工しない部位をマスキングで覆い、これを加工したあとに剥離する作業が必要となるため上記手法は、たいへん手間のかかるとても面倒な加工方法である。さらに、たとえば、次の点から見ても、たいへん面倒な加工方法であることが分かる。つまり、マスキングを使わなければならないとすると、たとえば、アルファベットの「B」や漢字の「田」を形成しようとする場合に、前者では2カ所、後者では4箇所の中抜きシールがそれぞれ必要となり、中抜きシールの貼り付け位置の決定がたいへん難しい。また、微細で入り組んだ文様や図柄を作成するために微細なシールを作成し貼り付けなければならないとすると、気が遠くなるような細かな作業が必要となるので、現実性に乏しい。なお、特許文献2は、このマスキングの処理工程を省略するために最近はレーザー光線が利用されていることを併せて記述しているが(段落0003)、このレーザー光線はガラス容器を加工するためのものでないことは、上述したとおりである。
特開平9-255367号公報
特開平7-237350号公報
特開2012-153397号公報
手間がかかり面倒ではあるが、先の特許文献1記載のように、所望のマスキングしたあとサンドブラストの手法を用いてガラス容器に文字や図柄等の刻印を施すことはやろうと思えばできないことではない。この場合の刻印が形成された部位は梨地面となり、細かい凹凸が形成されることになる。しかし、繰り返しになるが梨地面は細かい凹凸によって形成され、いわゆる曇りガラスの状態である。何ら加工されていない曇りガラスに手垢・手油がつくと、その部分の凹凸がその油によって平滑化されて透けてくる(状態が変化する)。古い家屋の窓ガラスに手や指の跡がつくのは、そのためである。このままでは見た目がよくないので、最近は、サンドブラストしたあと、表面をさらにフッ化水素で化学処理(フロスト処理)し滑らかにすることで、手垢が付きにくくしたものがある。このフロスト処理を行わなければならないとすると、ただでさえマスキングが面倒なのに、これがさらに面倒なものとなってしまう。本発明が解決しようとする課題は、なるべく手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項記載の発明を説明するに当たり行う用語の定義等は、その記載順や発明のカテゴリーの違い等に関わらずその性質上可能な範囲において他の請求項記載の発明にも適用があるものとする。
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項1の容器」という。)は、無被覆状態の刻印が形成されたガラス容器であって、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。ハマ欠けとは、ガラス表面における貝殻状の欠け、のことをいう。ガラス表面にハマ欠けを形成するための加工方法としてCO2レーザーを用いた加工方法があるが、これ以外の加工方法を採用することを妨げるものではない。刻印は、文字、図形、記号、これらの組み合わせなど、どのようなものでもよい。また、1か所である必要はなく、複数個所に分散して形成されることを妨げない。
請求項1の容器は、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されている。当該刻印が形成された部位には微小のハマ欠け群が形成されているため、サンドブラストやエッチングで加工された面に比べもともとの風合いを保ちやすい。このため、ガラス容器の原色に忠実な色合いを刻印が形成された部位に持たせることができる。つまり、サンドブラストやエッチングにより加工された場合の刻印が形成された部位は、細かい凹凸で形成されているので、凹部に手垢が入り込んで取れづらい。このため、窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるように、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれやすく、これによってガラス容器の風合いが変化してあからさまに使用感が見て取れるようになってしまうことが欠点であるが、これらの欠点を補うのがハマ欠けである。すなわち、ハマ欠けは、サンドブラストによって形成される微小な凹凸面とは異なり微小の光沢面を形成する。このため、凹凸面であればつきやすい手垢などがつきにくく、したがって、高い光透過性を保つことができるのである。
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項2の容器」という。)は、加飾を施していない刻印が形成されたガラス容器であって、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。
請求項2の容器によれば、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されている。当該刻印が形成された部位には微小のハマ欠け群が形成されているため、サンドブラストやエッチングで加工された面に比べもともとの風合いを保ちやすい。このため、ガラス容器の原色に忠実な色合いを刻印が形成された部位に持たせることができる。つまり、サンドブラストやエッチングにより加工された場合の刻印が形成された部位は、細かい凹凸で形成されているので、凹部に手垢が入り込んで取れづらい。このため、窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるように、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれやすく、これによってガラス容器の風合いが変化してあからさまに使用感が見て取れるようになってしまうことが欠点であるが、これらの欠点を補うのがハマ欠けである。すなわち、ハマ欠けは、サンドブラストによって形成される微小な凹凸面とは異なり微小の光沢面を形成する。このため、凹凸面であればつきやすい手垢などがつきにくく、したがって、高い光透過性を保つことができるのである。
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項3の容器」という。)は、請求項1の容器であって、前記ガラス容器の外面には、前記刻印を全方位的に囲む少なくとも1層(すなわち、単層もしくは複数層)の被覆層が形成されていることを特徴とする。
請求項3の容器によれば、被覆層が形成されることによりガラス容器を保護することが基本となるが、これ以外にも、たとえば、ガラス容器を飾るための加飾を施すことができる。被覆層の材質は、被覆する目的に応じて適切なもの自由に選択してよい。このとき、被覆層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、これにより、刻印と整合のとれた被覆層の加工が可能になる。
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項4の容器」という。)は、請求項3の容器であって、前記被覆層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むものであることを特徴とする。
請求項4の容器によれば、金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項5の方法」という。)は、ガラス容器を用意する容器用意工程と、当該ガラス容器の外面にコンピュータ制御されたCO2レーザーを照射して所望の刻印を形成する刻印工程と、を備え、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。
請求項5の方法によれば、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されたガラス容器を容易に製造することができる。サンドブラストやエッチング等と異なり、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングのような前処理やフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、マスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項6の方法」という。)は、請求項5の方法であって、前記刻印工程の前に、前記ガラス容器外面の前記CO2レーザー照射領域を含めた領域に、少なくとも1層の被覆層を形成する被覆層形成工程を備えることを特徴とする。
請求項6の方法によれば、被覆層を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時に金属蒸着層の削除を行うことができるので、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、切欠きを一気に行うことにより、刻印の形状と整合のとれた形状の被覆層を得ることができる。被覆層の材質や透明性などの性状は、その被覆層を設ける目的に応じて適切と思われるものを自由に選択することができる。
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項7の方法」という。)は、請求項6の方法であって、前記被覆層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むものであることを特徴とする。
請求項7の容器によれば、金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
本発明によれば、たとえば、マスキングのような手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器を提供することができる。さらに、レーザーの照射によって、微細な文字や図柄なども容易に刻印できるので、バリエーションのある図柄、繊細さのある文様等を備えたガラス容器の提供が実現できる。
第1の実施形態のガラス容器の正面図である。
CO2レーザー装置の概略を示すブロック図である。
CO2レーザーを照射して形成したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)→(c)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
第2の実施形態のガラス容器の正面図と、部分破断拡大図である。
第2の実施形態の変形例に係るガラス容器の正面図である。
以下、本発明の実施形態に係るガラス容器について図面を参照しながら説明する。
(ガラス容器の全体構成)
図1に示すガラス容器1は、内部に化粧液,乳液,医薬品,飲料などの液状、ゲル状又は固体状の内容物を収容する容器である。ガラス容器1は、全体がガラス製の容器本体3と、容器本体3の上にはめ込む合成樹脂製のキャップ5(2点鎖線で示す)と、からおおむね構成されている。容器本体3は、筒状の側壁部3aと側壁部3aの下部をふさぐ底部3cと、同じく上部をふさぐ肩部3bと、肩部3bの中央から突き出すネック部4と、ネック部4の外周にある螺旋状のネジ部4aと、から構成されている。ネック部4には、出荷前に内容物を充填し使用時に内容物を取り出すための開口4hが形成されている。ネジ部4aは、キャップ5をネジ固定する固定手段としての機能を有しているが、キャップ4との関係で様々な固定手段が考えられる。なお、開口4hには、開口径を小さくするための、たとえば合成樹脂製の径調整部材など(図示を省略)をはめ込んでもよい。また、使用時において、キャップ4の代わりに、使用者の操作によって内容物を外部へ取り出すためのポンプなど(図示を省略)を取付けられるようにすることもできる。
図1に示すガラス容器1には、背の高い容器であるが、背の低い容器や表面に凹凸のある容器なども含まれる。ガラス容器1の材質は問わないが、たとえば、熱膨張率が高いためCO2レーザー加工を行いやすいことからソーダガラスが一般的であるが、たとえば、出力を適当に選べば石英ガラスその他の熱膨張率が低いガラスであってもよい。ガラス容器1は、透明半透明を問わない。さらに、有色無色などの制限も一切ない。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る製造方法を説明する。まず、加飾を施していないガラス容器1を用意する(容器用意工程)。別の場所で予め製造された容器であってもよいし、後述する刻印する工程の直前に製造されたものであってもよい。ここでは、他の場所で予め製造された無色透明のソーダガラス製のガラス容器を搬入用意した。次に、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)を用いてガラス容器1の外面1aに刻印を形成する(刻印工程)。
CO2レーザー装置101は、図2に示すように、低圧の混合ガスを含んだパイレックス(登録商標)ガラス製の光共振器103と、光共振器103内で発生するレーザーをコンピュータ制御するための制御部105を備えている。CO2レーザー発生装置は、発生したレーザーを光共振器103内で反射させながら増幅し、所定出力に達したところで外部へ照射するようになっている。制御部105は、CO2レーザーの出力の制御のほか、プログラムに基づいた刻印を形成するための制御も行う。
レーザーには、CO2レーザーのほか、YAGレーザーやエキシマレーザーなどがある。しかし、CO2レーザーの波長は10.6μmであるのに対し、YAGレーザーの波長は1064nmでありエキシマレーザーの波長は193nmであってはるかに短い。このため、CO2レーザーはガラスに吸収され発熱するが、YAGレーザーとエキシマレーザーはガラスを透過してしまう。したがって、CO2レーザーはガラス外面に刻印するために使用できるが、YAGレーザーとエキシマレーザーは刻印には適さない。そこで、本実施形態では、CO2レーザーを使用する。
このCO2レーザーを照射してガラス容器1の外面1aに所望の刻印を形成する。刻印の形態は、文字、図形、記号、もしくはこれらの結合したものなど、自由に選択することができる。刻印の形態は、予めプログラムして制御部105にインストールしておく。文字を刻印するなら、たとえば商品名(たとえば、化粧品の名称「ABC」、図1参照)や内容物の名称(たとえば、化粧水を意味する「skin lotion」、乳液を意味する「milky lotion」)などが考えられる。サンドブラスト法などと異なり、マスキングが不要であるし、小さい文字も刻印できるので、使い勝手がよくたいへん便利である。これと同じ理由により、メーカーのロゴなども、たとえそれが複雑な文様等であっても、コンピュータ制御されたCO2レーザーであれば、手間をかけずに容易に刻印することができる。
ここで、ガラス容器1にCO2レーザー装置101(図2)を用いてCO2レーザーを照射して、その外面の様子を観察した(図3(a)(b)(c))。これと同じ素材でできた別のガラス容器の表面をサンドブラスト加工したもの(図4(a)(b))と、サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したもの(図5(a)(b)(c))を比較した。図3に示すように、CO2レーザーを照射したガラス容器の表面には、緩やかな規則性をもって並ぶ微小なハマ欠けK(ハマ欠け群K)とともに、同じく微小な溶融部位M(溶融部位群M)が観察された。CO2レーザーを吸収したガラス内部に熱が発生して膨張し、その応力によってガラス表面の一部が欠けた結果、ハマ欠け群Kができたものと思われる。一方で、ハマ欠けで一旦ガラスから離れた欠け片群は、それらがガラス表面に残っているときに、新たにCO2レーザーの照射を受けて溶融したのが、上記溶融部位群Mである。
一方、図4に示すサンドブラスト加工したガラス表面は、その加工方法が砂などの研磨剤を吹き付ける加工法であるから、同図に示すように、粉をふいて表面が細かい凹凸で形成された梨地のようにざらざらになる。したがって、微小のハマ欠けKの群れが含まれて形成されるCO2レーザーによる加工に比べ、透明度が低いことが分かる。サンドブラスト加工後にフロスト処理したもの(図5参照)も、透明度の点でCO2レーザー加工したものに及ばない。この結果、CO2レーザーによって形成した刻印は、ガラス容器の地肌の色(原色)をより忠実に再現する加工法といえる。違う観点で見れば、梨地のガラス面ではその凹部に手垢が入り込んで取れづらくなるが、ハマ欠け群が形成されたガラス面は、手垢が入り込みづらい。このため、CO2レーザーで加工したガラス容器であれば、あたかも窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるような、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれる恐れがきわめて少ないことが分かった。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、CO2レーザーによる刻印工程の前に、ガラス容器の表面を被覆するための被覆層を形成する。具体的には、用意したガラス容器の外面に、アンダーコート層を形成したのち、その上に金属蒸着層を形成する。そして、最後に金属蒸着層の上にトップコート層を形成する。つまり、第2の実施形態では、ガラス容器にアンダーコート層、金属蒸着層およびトップコート層の3層からなる被覆層を形成した。項を改めて詳細を説明する。
まず、図6に示すソーダガラス製のガラス容器51を用意し(容器用意工程)、その容器本体53の外周全体に、被覆層60を形成する。被覆層60の構成は、単層でも複層でもよく、ガラス容器51の形態や加飾方針にしたがって自由に選択できる。ここでは上述したように3層構成とし、アンダーコート層61(たとえば、厚さ11.90μm)を積層形成する。さらにその上に、たとえば、Al(アルミニウム)の金属蒸着層(被覆層)63(たとえば、厚さ0.05μm)を積層形成(蒸着層形成工程)し、さらに、無色透明のトップコート層65(たとえば、厚さ7.30μm)を積層する。金属蒸着層63とトップコート層65の間に、透明(半透明でもよい)のミドルコート層(たとえば、6.80μm前後、図示を省略)を形成することもできる。また、図示は省略するが、金属蒸着層63の代わりに塗装層や加飾シールなどによって被覆層を構成することも妨げない。
トップコート層65を無色透明としたので、金属蒸着層63のアルミニウムに由来する金属感が容器本体53の外部から観察できるようになっている。金属感の外部観察を邪魔しないためである。なお、図6の円内拡大図に示す各部位は模式的に表されており、実際の厚みの比率は異なる場合があることに留意されたい。
アンダーコート層61は、アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなるが、これに代えて、ウレタン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。そして、その厚みは、積層する素材にもよるが、本実施形態のように、10μm前後が好ましい。なお、主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合をも含む意味である。
さらに、トップコート層65は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層65を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すようにすることもできる。この場合、金属蒸着層63の金属感との組合せによって、よりデザイン、色調の幅が広がるようになる。また、トップコート層65は、金属蒸着層63の酸化防止、腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、容器本体53の耐久性向上を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、UVカット剤等を添加したものであってもよい。また、その厚みは一例として10μm前後にすることが好適である。
トップコート層65を形成した後、その上から容器本体53のガラス層55に刻印55Kを形成するようにコンピュータ制御されたCO2レーザー110を照射する(刻印工程)。ここでは、上記の刻印工程の前に、刻印のためのガラス容器51の外面のCO2レーザー110照射領域を含めた領域(すなわち、刻印のための照射領域)に、3層の被覆層60を形成する被覆層形成工程を備えることになる。この方法によれば、アンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時にアンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65の削除を一気に行うことができる。したがって、刻印は無被覆のむき出し状態にある(図6参照)。ミドルコート層(図示を省略)を形成する場合も同時に削除ができる。このため、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。
(第2の実施形態の変形例)
図7を参照しながら、第2の実施形態の変形例(以下、「本変形例」という。)を説明する。本変形例のガラス容器51´は、先に説明したガラス容器51と基本的に同じ構造を有している。異なるのは、部分被覆層71と覗き窓73が形成されている点である。部分被覆層は、ガラス容器51´の加飾にバリエーションを付加するためのものであり、その形状や付加方法に制限はない。本変形例では楕円形上の模様を、たとえば、被覆層を構成する1層(図7では省略、図6に示す、たとえば金属蒸着層)の外面側に印刷により形成されている。この場合、刻印「MILK」を構成する文字「L」の刻印は、部分被覆層71によって部分的に横断され全方位的に囲まれていないが、文字「K」の刻印は部分被覆層71とともにそれ以外の層によって全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
また、覗き窓73は、ガラス容器51´に収容された内容物Cを、使用者が見られるようにするための窓である。このため、その部位の被覆層が、たとえば、ガラスに反応しないレーザー加工により取り除かれている。この場合、文字「MILK」の刻印を構成する文字「L」や「K」の刻印は被覆層によって全方位的に囲まれていないことになる一方、文字「M」や「「I」の刻印は全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
1 容器
1a 外面
3 容器本体
3a 側壁部
3b 肩部
3c 底部
4 ネック部
4a ネジ部
4h 開口
5 キャップ
51 ガラス容器
53 容器本体
55 ガラス層
55K 刻印
60 被覆層
61 アンダーコート層
63 金属蒸着層(被覆層)
65 トップコート層
71 部分被覆層
73 覗き窓
101 CO2レーザー装置
103 光共振器
105 制御部
110 CO2レーザー
C 内容物
K ハマ欠け
M 溶融部位
本発明は、刻印によって装飾されたガラス容器およびガラス容器の製造方法に関する。
ガラス瓶の外面に装飾を施す技術として、たとえば、エッチングやサンドブラストなどの手法によってガラス容器の外面を梨地面(細かい凹凸面)に加工し、この梨地面の上に文字や図柄などを印刷したあと、さらにその上に金属蒸着膜を形成する技術がある(特許文献1)。また、ガラス瓶の外面に薄膜層、色相塗料層、透明塗料層の順で形成したあと、当該色相塗料層を透過するレーザー光線を照射して当該薄膜層を破壊することによりガラス瓶にマーキングする技術もある(特許文献2)。さらに、ガラス容器の外面に金属層、塗膜層を形成したあと、当該金属層と反応するレーザーを照射することにより、当該金属層および当該塗膜層を除去する技術が開示されている(特許文献3)。
特許文献1記載の技術は、ガラス容器の外面を直接加工するものであるが(段落0008)、特許文献2および3記載の技術は、ガラス容器の外面に形成した金属膜等を除去するものであってガラス容器自体に加工を及ぼすものではない。特許文献1に係るガラス容器の加工は、エッチングやサンドブラストなどの手法を用いて行われるが、同文献に記載はないものの、これらの手法により文字や図柄等をガラス容器外面に形成しようとすると、加工しない部位をマスキングで覆い、これを加工したあとに剥離する作業が必要となるため上記手法は、たいへん手間のかかるとても面倒な加工方法である。さらに、たとえば、次の点から見ても、たいへん面倒な加工方法であることが分かる。つまり、マスキングを使わなければならないとすると、たとえば、アルファベットの「B」や漢字の「田」を形成しようとする場合に、前者では2カ所、後者では4箇所の中抜きシールがそれぞれ必要となり、中抜きシールの貼り付け位置の決定がたいへん難しい。また、微細で入り組んだ文様や図柄を作成するために微細なシールを作成し貼り付けなければならないとすると、気が遠くなるような細かな作業が必要となるので、現実性に乏しい。なお、特許文献2は、このマスキングの処理工程を省略するために最近はレーザー光線が利用されていることを併せて記述しているが(段落0003)、このレーザー光線はガラス容器を加工するためのものでないことは、上述したとおりである。
特開平9-255367号公報
特開平7-237350号公報
特開2012-153397号公報
手間がかかり面倒ではあるが、先の特許文献1記載のように、所望のマスキングしたあとサンドブラストの手法を用いてガラス容器に文字や図柄等の刻印を施すことはやろうと思えばできないことではない。この場合の刻印が形成された部位は梨地面となり、細かい凹凸が形成されることになる。しかし、繰り返しになるが梨地面は細かい凹凸によって形成され、いわゆる曇りガラスの状態である。何ら加工されていない曇りガラスに手垢・手油がつくと、その部分の凹凸がその油によって平滑化されて透けてくる(状態が変化する)。古い家屋の窓ガラスに手や指の跡がつくのは、そのためである。このままでは見た目がよくないので、最近は、サンドブラストしたあと、表面をさらにフッ化水素で化学処理(フロスト処理)し滑らかにすることで、手垢が付きにくくしたものがある。このフロスト処理を行わなければならないとすると、ただでさえマスキングが面倒なのに、これがさらに面倒なものとなってしまう。本発明が解決しようとする課題は、なるべく手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項記載の発明を説明するに当たり行う用語の定義等は、その記載順や発明のカテゴリーの違い等に関わらずその性質上可能な範囲において他の請求項記載の発明にも適用があるものとする。
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るガラス容器(以下、請求項1の容器」という。)は、無被覆状態の刻印が形成されたガラス容器であって、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成され、前記ガラス容器の外面には、前記刻印を全方位的に囲む少なくとも1層(すなわち、単層もしくは複数層)の被覆層が形成され、前記被覆層は、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含むことを特徴とする。
ハマ欠けとは、ガラス表面における貝殻状の欠け、のことをいう。ガラス表面にハマ欠けを形成するための加工方法としてCO2レーザーを用いた加工方法があるが、これ以外の加工方法を採用することを妨げるものではない。刻印は、文字、図形、記号、これらの組み合わせなど、どのようなものでもよい。また、1か所である必要はなく、複数個所に分散して形成されることを妨げない。
請求項1の容器は、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されている。当該刻印が形成された部位には微小のハマ欠け群が形成されているため、サンドブラストやエッチングで加工された面に比べもともとの風合いを保ちやすい。このため、ガラス容器の原色に忠実な色合いを刻印が形成された部位に持たせることができる。つまり、サンドブラストやエッチングにより加工された場合の刻印が形成された部位は、細かい凹凸で形成されているので、凹部に手垢が入り込んで取れづらい。このため、窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるように、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれやすく、これによってガラス容器の風合いが変化してあからさまに使用感が見て取れるようになってしまうことが欠点であるが、これらの欠点を補うのがハマ欠けである。すなわち、ハマ欠けは、サンドブラストによって形成される微小な凹凸面とは異なり微小の光沢面を形成する。このため、凹凸面であればつきやすい手垢などがつきにくく、したがって、高い光透過性を保つことができるのである。
請求項1の容器に関し、さらに被覆層が形成されることによりガラス容器を保護することが基本となるが、これ以外にも、たとえば、ガラス容器を飾るための加飾を施すことができる。被覆層の材質は、被覆する目的に応じて適切なもの自由に選択してよい。このとき、被覆層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、これにより、刻印と整合のとれた被覆層の加工が可能になる。
請求項1の容器に関し、さらに金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るガラス容器の製造方法(以下、請求項2の方法」という。)は、ガラス容器を用意する容器用意工程と、前記ガラス容器外面の前記CO2レーザー照射領域を含めた領域に、金属蒸着層のみ、もしくは、金属蒸着層と他の被覆層を含む少なくとも1層の被覆層を形成する被覆層形成工程と、当該ガラス容器の外面にコンピュータ制御されたCO2レーザーを照射して所望の刻印を形成する刻印工程と、を備え、当該刻印が形成された部位には、微小ハマ欠け群が形成されていることを特徴とする。
請求項2の方法によれば、刻印によって内容物に関する表示や加飾等が施されたガラス容器を容易に製造することができる。サンドブラストやエッチング等と異なり、刻印は、CO2レーザー加工により形成されているので、その形成過程においてマスキングのような前処理やフロストのような後処理が不要である。このため、加工に際して手間がかからず、したがってコスト的にも有利なガラス容器を提供することができる。また、マスキングでは実現しづらい細かな模様等でも、CO2レーザー加工であれば簡単に形成することができる。
請求項2の方法によれば、さらに被覆層を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時に金属蒸着層の削除を行うことができるので、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。つまり、刻印の形状に合わせるための被覆層の切欠きを不要とし、CO2レーザー加工によるガラス容器の加工とともに被覆層の切欠きを一気に行うことができる。また、切欠きを一気に行うことにより、刻印の形状と整合のとれた形状の被覆層を得ることができる。被覆層の材質や透明性などの性状は、その被覆層を設ける目的に応じて適切と思われるものを自由に選択することができる。
請求項2の容器によれば、さらに金属蒸着層を含む被覆層が形成されることによりガラス容器に金属性の光沢を持たせることができる。このとき、金属蒸着層も刻印の外形と同じ形に切り欠かれた状態になる。金属蒸着層の上または下(ガラス容器の外面との間)に、他の層(たとえば、トップコート層、ミドルコート層、さらにアンダーコート層)を設けることを妨げない。金属蒸着層の光沢を損ねないように、トップコート層を設けるのであれば、それは透明もしくは半透明であることが好ましいことは容易に理解されよう。
本発明によれば、たとえば、マスキングのような手間をかけずにガラス容器に文字や図柄等の刻印を形成し、その刻印が手垢等によって汚れづらいガラス容器およびガラス容器を提供することができる。さらに、レーザーの照射によって、微細な文字や図柄なども容易に刻印できるので、バリエーションのある図柄、繊細さのある文様等を備えたガラス容器の提供が実現できる。
第1の実施形態のガラス容器の正面図である。
CO2レーザー装置の概略を示すブロック図である。
CO2レーザーを照射して形成したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)→(c)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したガラス容器の刻印が形成された部位の拡大図である((a)→(b)の順で倍率向上)。
第2の実施形態のガラス容器の正面図と、部分破断拡大図である。
第2の実施形態の変形例に係るガラス容器の正面図である。
以下、本発明の実施形態に係るガラス容器について図面を参照しながら説明する。
(ガラス容器の全体構成)
図1に示すガラス容器1は、内部に化粧液,乳液,医薬品,飲料などの液状、ゲル状又は固体状の内容物を収容する容器である。ガラス容器1は、全体がガラス製の容器本体3と、容器本体3の上にはめ込む合成樹脂製のキャップ5(2点鎖線で示す)と、からおおむね構成されている。容器本体3は、筒状の側壁部3aと側壁部3aの下部をふさぐ底部3cと、同じく上部をふさぐ肩部3bと、肩部3bの中央から突き出すネック部4と、ネック部4の外周にある螺旋状のネジ部4aと、から構成されている。ネック部4には、出荷前に内容物を充填し使用時に内容物を取り出すための開口4hが形成されている。ネジ部4aは、キャップ5をネジ固定する固定手段としての機能を有しているが、キャップ4との関係で様々な固定手段が考えられる。なお、開口4hには、開口径を小さくするための、たとえば合成樹脂製の径調整部材など(図示を省略)をはめ込んでもよい。また、使用時において、キャップ4の代わりに、使用者の操作によって内容物を外部へ取り出すためのポンプなど(図示を省略)を取付けられるようにすることもできる。
図1に示すガラス容器1には、背の高い容器であるが、背の低い容器や表面に凹凸のある容器なども含まれる。ガラス容器1の材質は問わないが、たとえば、熱膨張率が高いためCO2レーザー加工を行いやすいことからソーダガラスが一般的であるが、たとえば、出力を適当に選べば石英ガラスその他の熱膨張率が低いガラスであってもよい。ガラス容器1は、透明半透明を問わない。さらに、有色無色などの制限も一切ない。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る製造方法を説明する。まず、加飾を施していないガラス容器1を用意する(容器用意工程)。別の場所で予め製造された容器であってもよいし、後述する刻印する工程の直前に製造されたものであってもよい。ここでは、他の場所で予め製造された無色透明のソーダガラス製のガラス容器を搬入用意した。次に、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)を用いてガラス容器1の外面1aに刻印を形成する(刻印工程)。
CO2レーザー装置101は、図2に示すように、低圧の混合ガスを含んだパイレックス(登録商標)ガラス製の光共振器103と、光共振器103内で発生するレーザーをコンピュータ制御するための制御部105を備えている。CO2レーザー発生装置は、発生したレーザーを光共振器103内で反射させながら増幅し、所定出力に達したところで外部へ照射するようになっている。制御部105は、CO2レーザーの出力の制御のほか、プログラムに基づいた刻印を形成するための制御も行う。
レーザーには、CO2レーザーのほか、YAGレーザーやエキシマレーザーなどがある。しかし、CO2レーザーの波長は10.6μmであるのに対し、YAGレーザーの波長は1064nmでありエキシマレーザーの波長は193nmであってはるかに短い。このため、CO2レーザーはガラスに吸収され発熱するが、YAGレーザーとエキシマレーザーはガラスを透過してしまう。したがって、CO2レーザーはガラス外面に刻印するために使用できるが、YAGレーザーとエキシマレーザーは刻印には適さない。そこで、本実施形態では、CO2レーザーを使用する。
このCO2レーザーを照射してガラス容器1の外面1aに所望の刻印を形成する。刻印の形態は、文字、図形、記号、もしくはこれらの結合したものなど、自由に選択することができる。刻印の形態は、予めプログラムして制御部105にインストールしておく。文字を刻印するなら、たとえば商品名(たとえば、化粧品の名称「ABC」、図1参照)や内容物の名称(たとえば、化粧水を意味する「skin lotion」、乳液を意味する「milky lotion」)などが考えられる。サンドブラスト法などと異なり、マスキングが不要であるし、小さい文字も刻印できるので、使い勝手がよくたいへん便利である。これと同じ理由により、メーカーのロゴなども、たとえそれが複雑な文様等であっても、コンピュータ制御されたCO2レーザーであれば、手間をかけずに容易に刻印することができる。
ここで、ガラス容器1にCO2レーザー装置101(図2)を用いてCO2レーザーを照射して、その外面の様子を観察した(図3(a)(b)(c))。これと同じ素材でできた別のガラス容器の表面をサンドブラスト加工したもの(図4(a)(b))と、サンドブラスト加工したあとにフロスト加工したもの(図5(a)(b)(c))を比較した。図3に示すように、CO2レーザーを照射したガラス容器の表面には、緩やかな規則性をもって並ぶ微小なハマ欠けK(ハマ欠け群K)とともに、同じく微小な溶融部位M(溶融部位群M)が観察された。CO2レーザーを吸収したガラス内部に熱が発生して膨張し、その応力によってガラス表面の一部が欠けた結果、ハマ欠け群Kができたものと思われる。一方で、ハマ欠けで一旦ガラスから離れた欠け片群は、それらがガラス表面に残っているときに、新たにCO2レーザーの照射を受けて溶融したのが、上記溶融部位群Mである。
一方、図4に示すサンドブラスト加工したガラス表面は、その加工方法が砂などの研磨剤を吹き付ける加工法であるから、同図に示すように、粉をふいて表面が細かい凹凸で形成された梨地のようにざらざらになる。したがって、微小のハマ欠けKの群れが含まれて形成されるCO2レーザーによる加工に比べ、透明度が低いことが分かる。サンドブラスト加工後にフロスト処理したもの(図5参照)も、透明度の点でCO2レーザー加工したものに及ばない。この結果、CO2レーザーによって形成した刻印は、ガラス容器の地肌の色(原色)をより忠実に再現する加工法といえる。違う観点で見れば、梨地のガラス面ではその凹部に手垢が入り込んで取れづらくなるが、ハマ欠け群が形成されたガラス面は、手垢が入り込みづらい。このため、CO2レーザーで加工したガラス容器であれば、あたかも窓の曇りガラスに手垢がつくと半透明となるような、手垢がつくことによってガラス容器が持つ風合いが損なわれる恐れがきわめて少ないことが分かった。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、CO2レーザーによる刻印工程の前に、ガラス容器の表面を被覆するための被覆層を形成する。具体的には、用意したガラス容器の外面に、アンダーコート層を形成したのち、その上に金属蒸着層を形成する。そして、最後に金属蒸着層の上にトップコート層を形成する。つまり、第2の実施形態では、ガラス容器にアンダーコート層、金属蒸着層およびトップコート層の3層からなる被覆層を形成した。項を改めて詳細を説明する。
まず、図6に示すソーダガラス製のガラス容器51を用意し(容器用意工程)、その容器本体53の外周全体に、被覆層60を形成する。被覆層60の構成は、単層でも複層でもよく、ガラス容器51の形態や加飾方針にしたがって自由に選択できる。ここでは上述したように3層構成とし、アンダーコート層61(たとえば、厚さ11.90μm)を積層形成する。さらにその上に、たとえば、Al(アルミニウム)の金属蒸着層(被覆層)63(たとえば、厚さ0.05μm)を積層形成(蒸着層形成工程)し、さらに、無色透明のトップコート層65(たとえば、厚さ7.30μm)を積層する。金属蒸着層63とトップコート層65の間に、透明(半透明でもよい)のミドルコート層(たとえば、6.80μm前後、図示を省略)を形成することもできる。また、図示は省略するが、金属蒸着層63の代わりに塗装層や加飾シールなどによって被覆層を構成することも妨げない。
トップコート層65を無色透明としたので、金属蒸着層63のアルミニウムに由来する金属感が容器本体53の外部から観察できるようになっている。金属感の外部観察を邪魔しないためである。なお、図6の円内拡大図に示す各部位は模式的に表されており、実際の厚みの比率は異なる場合があることに留意されたい。
アンダーコート層61は、アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなるが、これに代えて、ウレタン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。そして、その厚みは、積層する素材にもよるが、本実施形態のように、10μm前後が好ましい。なお、主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合をも含む意味である。
さらに、トップコート層65は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層65を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すようにすることもできる。この場合、金属蒸着層63の金属感との組合せによって、よりデザイン、色調の幅が広がるようになる。また、トップコート層65は、金属蒸着層63の酸化防止、腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、容器本体53の耐久性向上を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、UVカット剤等を添加したものであってもよい。また、その厚みは一例として10μm前後にすることが好適である。
トップコート層65を形成した後、その上から容器本体53のガラス層55に刻印55Kを形成するようにコンピュータ制御されたCO2レーザー110を照射する(刻印工程)。ここでは、上記の刻印工程の前に、刻印のためのガラス容器51の外面のCO2レーザー110照射領域を含めた領域(すなわち、刻印のための照射領域)に、3層の被覆層60を形成する被覆層形成工程を備えることになる。この方法によれば、アンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65を形成したあとにCO2レーザー加工を行うので、刻印を形成すると同時にアンダーコート層61、金属蒸着層63及びトップコート層65の削除を一気に行うことができる。したがって、刻印は無被覆のむき出し状態にある(図6参照)。ミドルコート層(図示を省略)を形成する場合も同時に削除ができる。このため、たいへん効率的であり、削除部位と刻印との間の形状の同一性を簡単に保つことができる。
(第2の実施形態の変形例)
図7を参照しながら、第2の実施形態の変形例(以下、「本変形例」という。)を説明する。本変形例のガラス容器51´は、先に説明したガラス容器51と基本的に同じ構造を有している。異なるのは、部分被覆層71と覗き窓73が形成されている点である。部分被覆層は、ガラス容器51´の加飾にバリエーションを付加するためのものであり、その形状や付加方法に制限はない。本変形例では楕円形上の模様を、たとえば、被覆層を構成する1層(図7では省略、図6に示す、たとえば金属蒸着層)の外面側に印刷により形成されている。この場合、刻印「MILK」を構成する文字「L」の刻印は、部分被覆層71によって部分的に横断され全方位的に囲まれていないが、文字「K」の刻印は部分被覆層71とともにそれ以外の層によって全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
また、覗き窓73は、ガラス容器51´に収容された内容物Cを、使用者が見られるようにするための窓である。このため、その部位の被覆層が、たとえば、ガラスに反応しないレーザー加工により取り除かれている。この場合、文字「MILK」の刻印を構成する文字「L」や「K」の刻印は被覆層によって全方位的に囲まれていないことになる一方、文字「M」や「「I」の刻印は全方位的に囲まれている。このため、本発明の射程内に含まれる。
1 容器
1a 外面
3 容器本体
3a 側壁部
3b 肩部
3c 底部
4 ネック部
4a ネジ部
4h 開口
5 キャップ
51 ガラス容器
53 容器本体
55 ガラス層
55K 刻印
60 被覆層
61 アンダーコート層
63 金属蒸着層(被覆層)
65 トップコート層
71 部分被覆層
73 覗き窓
101 CO2レーザー装置
103 光共振器
105 制御部
110 CO2レーザー
C 内容物
K ハマ欠け
M 溶融部位