JP2016151321A - インホイールモータ駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 給油プレートを安価に製作することが可能で、その給油プレートを減速機出力軸に確実に固定する。【解決手段】 モータ部Aと、減速機部Bと、車輪用軸受部Cと、モータ部Aおよび減速機部Bを収容するケーシング22とを備え、モータ部Aが減速機入力軸25を回転駆動し、減速機部Bのサイクロイド減速機が減速機入力軸25の回転を減速して減速機出力軸28に伝達するインホイールモータ駆動装置21であって、サイクロイド減速機は、ケーシング22にフローティング状態で支持された外ピンハウジング60に固定され、スタビライザ32を回転自在に保持する転がり軸受46aと、スタビライザ32に固定され、減速機入力軸25に回転自在に保持された曲線板26,26bに係合する内ピン31とを備え、転がり軸受46aと内ピン31との間に、板金加工によりリング状に成形された給油プレート61を転がり軸受46aおよび内ピン31の対向する両端面に密着させた状態で固定配置する。【選択図】 図1
Description
本発明は、例えば、電動モータの出力軸と車輪用軸受とを減速機を介して連結したインホイールモータ駆動装置に関する。
従来のインホイールモータ駆動装置は、例えば、特許文献1に開示された構造のものがある。この特許文献1のインホイールモータ駆動装置は、駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪用軸受部と、モータ部と車輪用軸受部との間に配置され、モータ部の回転を減速して車輪用軸受部に伝達する減速機部とを備えている。モータ部および減速機部はケーシングに収容されている。
前述の構成からなるインホイールモータ駆動装置において、装置のコンパクト化の観点から、モータ部には低トルクで高回転の小型モータが採用されている。一方、車輪用軸受部で車輪を駆動するために大きなトルクが必要となることから、減速機部には、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機が採用されている。
このサイクロイド減速機を採用した減速機部は、一対の偏心部を有し、モータ部により回転駆動される減速機入力軸と、減速機入力軸の偏心部の外周に回転自在に支持された一対の曲線板と、曲線板の外周面に係合して曲線板に自転運動を生じさせる外ピンと、外ピンおよび減速機出力軸を回転自在に支持する外ピンハウジングと、減速機出力軸に固定されて曲線板の貫通孔に軸受を介して係合する内ピンとで主要部が構成されている。
このインホイールモータ駆動装置では、モータ部および減速機部に潤滑油を供給する潤滑機構が設けられている。潤滑機構は、モータ部に設けられ、潤滑油を圧送する回転ポンプと、ケーシングの下部に設けられ、潤滑油を貯溜する油タンクと、モータ部、減速機部およびケーシングに設けられた油路とを備え、潤滑油がモータ部および減速機部の内部を循環する構造を有する。
減速機部における潤滑機構では、減速機入力軸の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって、減速機入力軸の内部に形成された油路から、減速機部の内部に向けて潤滑油が吐出される。この潤滑油は、減速機出力軸の内部に形成された油路を経由し、その減速機出力軸に固定された内ピンに供給される。この内ピンの内部には、減速機出力軸の油路と連通する油路が形成されている。内ピンに供給された潤滑油は、内ピンの油路から減速機部の内部に吐出される。このようにして、内ピンへの潤滑油の供給が行われる。
ここで、減速機部における曲線板は偏心しながら回転しているため、その曲線板の貫通孔に接触する内ピンの軸受は、大きな変動荷重を受けている。そのため、内ピンの軸受の転動疲労寿命を長くするには、内ピンへの十分な潤滑油の供給が必要となる。
そこで、特許文献1のインホイールモータ駆動装置では、減速機出力軸の内部に形成された油路と、内ピンの内部に形成された油路とを繋ぐ給油プレートを設けている。このような給油プレートを設けることにより、減速機出力軸の油路と内ピンの油路とを容易に接続することができ、内ピンの円滑な潤滑を実現するようにしている。
ところで、前述した従来のインホイールモータ駆動装置では、内ピンへの十分な潤滑油の供給を実現するため、減速機出力軸の油路と内ピンの油路とを接続する給油プレートを設けている。この給油プレートは、ボルトを利用することにより減速機出力軸に固定した構造をなしている(特許文献1の図3参照)。
ボルトによる給油プレートの取り付け構造では、給油プレートを減速機出力軸に確実に固定することができるが、ボルトを螺合させるためのタップを減速機出力軸に形成しなければならず、減速機出力軸に加工を施す必要がある。また、給油プレートを取り付けるためのボルトにより部品点数の増加を招くことになる。
さらに、内ピンの油路と減速機出力軸の油路とを接続するためのリング空間を給油プレートにより確保するためには、ある程度の厚みを有する給油プレートを製作しなければならず、そのリング空間を形成するための削りだしにより加工が必要となって給油プレートの製作費が嵩むことになる。
一方、特許文献1では、安価な製作が可能なプレス加工などの板金加工によりリング状に成形した給油プレートも開示している(特許文献1の図7および図11参照)。この給油プレートは、その軸方向に延びる円筒部を減速機出力軸に嵌合させるのみで減速機出力軸に取り付けられている。
このような給油プレートの取り付け構造では、給油プレートを減速機出力軸に確実に固定することが困難であり、給油プレートが減速機出力軸から脱落するおそれがある。このように、給油プレートが減速機出力軸に確実に固定されていないと、減速機出力軸の油路と内ピンの油路とを接続するリング空間を確保することも困難となる。
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、給油プレートを安価に製作することが可能で、その給油プレートを減速機出力軸に確実に固定し得る構造を具備したインホイールモータ駆動装置を提供することにある。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、モータ部と、減速機部と、車輪用軸受部と、モータ部および減速機部を収容するケーシングとを備え、モータ部が減速機入力軸を回転駆動し、減速機部のサイクロイド減速機が減速機入力軸の回転を減速して減速機出力軸に伝達するインホイールモータ駆動装置であって、サイクロイド減速機は、減速機出力軸を回転自在に保持する転がり軸受と、減速機出力軸に固定され、減速機入力軸に回転自在に保持された曲線板に係合する内ピンとを備え、転がり軸受と内ピンとの間に、板金加工によりリング状に成形された給油プレートを転がり軸受および内ピンの対向する両端面に密着させた状態で固定配置したことを特徴とする。
本発明では、板金加工によりリング状に成形された給油プレートを使用することにより、その給油プレートを安価に製作することができ、コスト低減が図れる。また、給油プレートを転がり軸受および内ピンの対向する両端面に密着させた状態で転がり軸受と内ピンとの間に固定配置した構造を採用したことにより、給油プレートを確実に固定することができるので、内ピンの油路と減速機出力軸の油路とを接続するリング空間を容易に確保することができる。
本発明における給油プレートは、組み込み前の軸方向寸法が転がり軸受と内ピンとの間の軸方向離間寸法よりも大きく設定されていることが望ましい。このようにすれば、給油プレートを弾性変形させた状態で転がり軸受と内ピンとの間に固定配置することができるので、給油プレートをより一層確実に固定することができる。
本発明において、減速機出力軸の転がり軸受と接する部位に、給油プレートの内周端部が嵌まり込む凹段部を形成した構造とすることが望ましい。このようにすれば、給油プレートを減速機出力軸に位置決め状態で固定することができるので、給油プレートをより一層確実に固定することができる。
本発明によれば、板金加工によりリング状に成形された給油プレートを使用することにより、その給油プレートを安価に製作することができ、インホイールモータ駆動装置のコスト低減が図れる。また、給油プレートを転がり軸受および内ピンの対向する両端面に密着させた状態で転がり軸受と内ピンとの間に固定配置したことにより、給油プレートを確実に固定することができるので、内ピンの油路と減速機出力軸の油路とを接続するリング空間を容易に確保することができる。その結果、減速機部において良好な潤滑性能を発揮し得る安価なインホイールモータ駆動装置を実現することができる。
本発明に係るインホイールモータ駆動装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。
図9は、インホイールモータ駆動装置21を搭載した電気自動車11の概略平面図、図10は、電気自動車11を後方から見た概略断面図である。図9に示すように、電気自動車11は、シャシー12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、後輪14に駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを装備する。図10に示すように、後輪14は、シャシー12のホイールハウジング12aの内部に収容され、懸架装置(サスペンション)12bを介してシャシー12の下部に固定されている。
懸架装置12bは、左右に延びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットによって、後輪14が地面から受ける振動を吸収してシャシー12の振動を抑制する。さらに、左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時などの車体の傾きを抑制するスタビライザが設けられている。懸架装置12bは、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させることができる独立懸架式としている。
電気自動車11は、ホイールハウジング12aの内部に、左右それぞれの後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャシー12上にモータ、ドライブシャフトおよびデファレンシャルギヤ機構などを設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を有する。電気自動車11の走行安定性およびNVH特性を向上させるためにばね下重量を抑える必要があり、さらに、広い客室スペースを確保するためにインホイールモータ駆動装置21の小型化が求められる。
そこで、この実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、以下の構造を具備する。図1はインホイールモータ駆動装置21の概略構成を示す縦断面図、図2は図1のP−P線に沿う断面図、図3は減速機部Bを示す拡大断面図、図4は曲線板26aに作用する荷重を示す説明図、図5は回転ポンプ51を示す横断面図である。なお、この実施形態の特徴的な構成を説明する前にインホイールモータ駆動装置21の全体構成を説明する。
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速機部Bと、減速機部Bからの出力を駆動輪としての後輪14(図9および図10参照)に伝達する車輪用軸受部Cとを備え、モータ部Aと減速機部Bはケーシング22に収納されて、電気自動車11のホイールハウジング12a(図10参照)内に取り付けられる。ケーシング22は、モータ部Aが収容されたモータハウジングと減速機部Bが収容された減速機ハウジングとからなる分割構造で、ボルトにより締結一体化されている。
モータ部Aは、ケーシング22に固定されたステータ23aと、ステータ23aの径方向内側に隙間をもって対向するように配置されたロータ23bと、ロータ23bの径方向内側に配置されてロータ23bと一体回転するモータ回転軸24とを備えたラジアルギャップモータである。ステータ23aは磁性体コア23cの外周にコイル23dを巻回することによって構成され、ロータ23bは永久磁石または磁性体で構成されている。また、減速機部Bは、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機である。
モータ回転軸24は、径方向外側へ一体的に延びるホルダ部24dによりロータ23bが保持されている。このホルダ部24dは、ロータ23bが嵌め込み固定された凹溝を環状に形成した構成としている。モータ回転軸24は、その軸方向一方側端部(図1の右側)が転がり軸受36aに、軸方向他方側端部(図1の左側)が転がり軸受36bによって、ケーシング22に対して回転自在に支持されている。
減速機入力軸25は、その軸方向一方側略中央部(図1の右側)が転がり軸受37aに、軸方向他方側端部(図1の左側)が転がり軸受37bによって、減速機出力軸28に対して回転自在に支持されている。この減速機入力軸25は、減速機部B内に偏心部25a,25bを有する。2つの偏心部25a,25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180°位相をずらして設けられている。減速機入力軸25と前述のモータ回転軸24とは、スプライン嵌合(セレーション嵌合も含む。以下、同じ)によって連結されてモータ部Aの駆動力が減速機部Bに伝達される。
減速機部Bのサイクロイド減速機は、減速機入力軸25の偏心部25a,25bに回転自在に保持される曲線板26a,26bと、その曲線板26a,26bの外周部に係合する複数の外ピン27と、曲線板26a,26bの自転運動を減速機出力軸28に伝達する運動変換機構と、偏心部25a,25bに隣接して減速機入力軸25に設けられたカウンタウェイト29とを備える。
減速機出力軸28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aには、減速機出力軸28の回転軸心を中心とする円周上に複数の内ピン31が等間隔に固定されている。また、軸部28bは車輪用軸受部Cの内方部材としてのハブ輪33aにスプライン嵌合によってトルク伝達可能に連結され、減速機部Bの出力を後輪14(図9および図10参照)に伝達する。この減速機出力軸28は、転がり軸受46bによって外ピンハウジング60に回転自在に支持されている。
図2および図3に示すように、曲線板26a,26bは、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する貫通孔30a,30bを有する。貫通孔30aは、曲線板26a,26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、前述の内ピン31を受け入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26a,26bの中心に設けられており、偏心部25a,25bに嵌合する。曲線板26a,26bは、転がり軸受41によって偏心部25a,25bに対して回転自在に支持されている。
外ピン27は、減速機入力軸25の回転軸心を中心とする円周上に等間隔に設けられている。曲線板26a,26bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。外ピン27は、針状ころ軸受27aによって外ピンハウジング60に回転自在に保持され、この外ピンハウジング60がケーシング22に回り止めされ、フローティング状態で支持されている。
カウンタウェイト29は、略扇形状で、減速機入力軸25と嵌合する貫通孔を有し、曲線板26a,26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、偏心部25a,25bと隣接する位置に偏心部25a,25bと180°位相をずらして配置される。2枚の曲線板26a,26b間の回転軸心方向の中心点をG(図3参照)とすると、その中心点Gの右側について、中心点Gと曲線板26aの中心との距離をL1、曲線板26a、転がり軸受41および偏心部25aの質量の和をm1、曲線板26aの重心の回転軸心からの偏心量をε1とし、中心点Gとカウンタウェイト29との距離をL2、カウンタウェイト29の質量をm2、カウンタウェイト29の重心の回転軸心からの偏心量をε2とすると、L1×m1×ε1=L2×m2×ε2を満たす関係となっている。L1×m1×ε1=L2×m2×ε2の関係は、不可避的に生じる誤差を許容する。中心点Gの左側の曲線板26bとカウンタウェイト29との間にも同様の関係が成立する。
運動変換機構は、減速機出力軸28に保持されて軸方向に延びる複数の内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成されている。内ピン31は、減速機出力軸28の回転軸心を中心とする円周上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が減速機出力軸28のフランジ28aに固定されている。また、曲線板26a,26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a,26bの貫通孔30aの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受31aが設けられている。貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(針状ころ軸受31aを含む最大外径)より所定寸法大きく設定されている。
内ピン31の軸方向他方側端部には、減速機出力軸28の一部を構成するスタビライザ32が設けられている。スタビライザ32は、外ピンハウジング60に転がり軸受46aによって回転自在に支持された円環部32aと、その円環部32aのインボード側端部にボルト止めされて軸方向に延びる円筒部32bとからなる分割構造をなす。複数の内ピン31の軸方向他方側端部は、円環部32aに固定されている。曲線板26a,26bから一部の内ピン31に負荷される荷重はフランジ部28aおよびスタビライザ32を介して全ての内ピン31によって支持されるため、内ピン31に作用する応力を低減させ、耐久性を向上させることができる。
曲線板26a,26bに作用する荷重の状態を図4に基づいて説明する。偏心部25aの軸心O2は減速機入力軸25の軸心Oから偏心量eだけ偏心している。偏心部25aの外周には、曲線板26aが取り付けられ、偏心部25aは曲線板26aを回転自在に支持するので、軸心O2は曲線板26aの軸心でもある。曲線板26aの外周は波形曲線で形成され、径方向に窪んだ波形の凹部26cを周方向等間隔に有する。曲線板26aの周囲には、凹部26cと係合する外ピン27が、軸心Oを中心として周方向に複数配設されている。
図4において、減速機入力軸25と共に偏心部25aが紙面上で反時計周りに回転すると、偏心部25aは軸心Oを中心とする公転運動を行うので、曲線板26aの凹部26cが、外ピン27と周方向に順次当接する。この結果、矢印で示すように、曲線板26aは、複数の外ピン27から荷重Fiを受けて、時計回りに自転する。
また、曲線板26aには貫通孔30aが軸心O2を中心として周方向に複数配設されている。各貫通孔30aには、軸心Oと同軸に配置された減速機出力軸28と結合する内ピン31が挿通する。貫通孔30aの内径は、内ピン31の外径(針状ころ軸受31aを含む最大外径)よりも所定寸法大きいため、内ピン31は曲線板26aの公転運動の障害とはならず、内ピン31は曲線板26aの自転運動を取り出して減速機出力軸28を回転させる。このとき、減速機出力軸28は、減速機入力軸25よりも高トルクかつ低回転数になり、図4に矢印で示すように、曲線板26aは、複数の内ピン31から荷重Fjを受ける。これら複数の荷重Fi,Fjの合力Fsが減速機入力軸25にかかる。
合力Fsの方向は、曲線板26aの波形形状、凹部26cの数などの幾何学的条件や遠心力の影響により変化する。具体的には、自転軸心O2と軸心Oとを結ぶ直線Yと直角であって自転軸心O2を通過する基準線Xと、合力Fsとの角度αは概ね30°〜60°で変動する。複数の荷重Fi、Fjは、減速機入力軸25が1回転(360°)する間に荷重の方向や大きさが変り、その結果、減速機入力軸25に作用する合力Fsも荷重の方向や大きさが変動する。減速機入力軸25が反時計周りに1回転すると、曲線板26aの波形の凹部26cが減速されて1ピッチ時計回りに回転して図4の状態になり、これを繰り返す。
図1に示すように、車輪用軸受部Cの車輪用軸受33は、減速機出力軸28にトルク伝達可能に連結されたハブ輪33aと、ハブ輪33aの外周面に嵌合された内輪33bと、ケーシング22に嵌合固定された外輪33cと、ハブ輪33aおよび内輪33bと外輪33cとの間に配置された複数の玉33dと、複数の玉33dを保持する保持器33eとを備えた複列アンギュラ玉軸受である。車輪用軸受33の軸方向両端部には、泥水などの侵入防止のためにシール部材33fが設けられている。この車輪用軸受33のハブ輪33aにボルト34で後輪14(図9および図10参照)が連結される。
次に、全体的な潤滑機構を説明する。この潤滑機構は、モータ部Aを冷却するためにモータ部Aに潤滑油を供給すると共に減速機部Bに潤滑油を供給するものである。潤滑機構は、図1に示すように、回転ポンプ51と、モータ部Aに配設された油路22a,24a,24bおよび油孔24cと、減速機部Bに配設された油路25cおよび油孔25d,25e,25fと、ケーシング22の下方に配置された油タンク22dとを主な構成としている。前述した回転ポンプ51の吸入口55および吐出口56は、ケーシング22のモータハウジングに設けられている。また、そのケーシング22の減速機ハウジングに油タンク22dが一体的に設けられている。
ケーシング22に設けられた油路22aは、回転ポンプ51から径方向外側へ延びて屈曲した上で軸方向に延び、さらに屈曲した上で径方向内側へ延びて油路24aに接続される。油路24aは、モータ回転軸24の内部を軸線方向に沿って延びて油路25cに接続される。モータ回転軸24の油路24bは、軸線方向に沿って延びる油路24aと連通し、径方向外側に位置するホルダ部24dに向かって延びて油孔24cと連通する。油孔24cは、ホルダ部24dのインボード側およびアウトボード側の端面に開口する。
油路25cは、減速機入力軸25の内部を軸線方向に沿って延びている。また、油孔25d,25eは、油路25cと連通し、軸方向の三箇所で半径方向に向かって延びて減速機入力軸25の外周面に開口する。さらに、油孔25fは、油路25cと連通し、減速機入力軸25の軸端面に開口する。
モータ部Aのケーシング22の底部には、潤滑油を油タンク22dに排出するための排油孔22bが設けられ、減速機部Bのケーシング22の底部には、潤滑油を油タンク22dに排出するための排油孔22fが設けられている。また、油タンク22dから回転ポンプ51へ潤滑油を還流させるための油路22eがケーシング22に設けられている。潤滑油を強制的に循環させるための回転ポンプ51は、ケーシング22の油路22eと油路22aとの間に設けられている。
図5に示すように、回転ポンプ51は、減速機出力軸28(図1参照)の回転を利用して回転するインナロータ52と、インナロータ52の回転に伴って従動回転するアウタロータ53と、ポンプ室54と、油路22eに連通する吸入口55と、油路22aに連通する吐出口56とを備えるサイクロイドポンプである。この回転ポンプ51をケーシング22内に配置することによって、インホイールモータ駆動装置21の大型化を防止することができる。
インナロータ52は、外周面にサイクロイド曲線で構成された歯形を有する。具体的には、歯先部分52aの形状がエピサイクロイド曲線、歯溝部分52bの形状がハイポサイクロイド曲線となっている。インナロータ52は、スタビライザ32の円筒部32b(図1および図3参照)の外周面に嵌合して減速機出力軸28と一体回転する。アウタロータ53は、内周面にサイクロイド曲線で構成された歯形を有する。具体的には、歯先部分53aの形状がハイポサイクロイド曲線、歯溝部分53bの形状がエピサイクロイド曲線となっている。アウタロータ53は、ケーシング22に回転自在に支持されている。
インナロータ52は、回転中心c1を中心として回転し、一方、アウタロータ53は、回転中心c2を中心として回転する。インナロータ52およびアウタロータ53はそれぞれ異なる回転中心c1,c2を中心として回転するので、ポンプ室54の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口55から流入した潤滑油が吐出口56から油路22aに圧送される。
前述した構成の潤滑機構による潤滑油の流れを説明する。図1において、潤滑機構内に付した白抜き矢印は潤滑油の流れを示す。モータ部Aの冷却として、回転ポンプ51から圧送された潤滑油は油路22a,24aを経由し、その一部がモータ回転軸24の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって油路24bを経てロータ23bを冷却する。さらに、ホルダ部24dの油孔24cから潤滑油が吐出されてステータ23aを冷却する。このようにして、モータ部Aの冷却が行われる。
一方、減速機部Bの潤滑として、回転ポンプ51から圧送された潤滑油は油路22a,24a,25cを経由し、その一部が減速機入力軸25の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって油孔25d,25e,25fから減速機部Bの内部に吐出する。油孔25dから吐出した潤滑油は、内ピン31が固定されたスタビライザ32に供給される。また、油孔25eから吐出した潤滑油は、曲線板26a,26bを支持する転がり軸受41の内部へ供給される。さらに、油孔25fから吐出した潤滑油は、減速機入力軸25を支持する転がり軸受37bなどに供給される。これらの潤滑油は、曲線板26a,26bと内ピン31および外ピン27との当接部分などを潤滑しながら、外ピンハウジング60内を径方向外側へ移動する。このようにして、減速機部Bの潤滑が行われる。
モータ部Aの冷却および減速機部Bの潤滑を行った潤滑油は、ケーシング22の内壁面を伝って重力により下部へ移動する。モータ部Aの下部へ移動した潤滑油は、排油孔22bから排出されて油タンク22dに一時的に貯溜される。減速機部Bの下部へ移動した潤滑油は、外ピンハウジング60に設けられた油孔60aを経由して排油孔22fから排出されて油タンク22dに一時的に貯溜される。このように、油タンク22dが設けられているので、回転ポンプ51によって排出しきれない潤滑油が一時的に発生しても、油タンク22dに貯溜しておくことができる。
この実施形態におけるインホイールモータ駆動装置21の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成を以下に詳述する。
このインホイールモータ駆動装置21では、内ピン31に十分な潤滑油を供給する潤滑機構として、減速機出力軸28およびスタビライザ32に固定された内ピン31の内部に油路31bおよび油孔31cを形成している。油路31bは、内ピン31の内部を軸線方向に沿って延び、内ピン31のインボード側端面に開口している。また、油孔31cは、油路31bと連通し、軸線方向の二箇所で半径方向に向かって延び、内ピン31の外周面に開口している(図1参照)。
一方、外ピンハウジング60に転がり軸受46aによって回転自在に支持されたスタビライザ32の内部に油路32cを形成している。このスタビライザ32は、前述したように、転がり軸受46aによって回転自在に支持された円環部32a〔図6(A)(B)参照〕と、その円環部32aのインボード側端部にボルト止めされた円筒部32b(図3参照)とからなる分割構造をなす。
このような分割構造としたことにより、スタビライザ32の内部に油路32cを容易に形成することができる。油路32cは、転がり軸受46aと内ピン31との間の隙間でスタビライザ32の外周面に開口すると共に、減速機入力軸25の油孔25dと対応する位置でスタビライザ32の内周面に開口する。なお、図示の油路32cは、円環部32aの周方向一箇所に形成しているが、周方向二箇所以上に形成してもよく、その数は任意である。
なお、図6に示す実施形態では、油路32cをクランク状に形成するため、円環部32aと円筒部32bは分割構造として油路の加工を容易にしているが、例えば、油路25cからリング空間61cまで直線的に油路を加工できるように転がり軸受37aあるいは転がり軸受46aを配置すれば、円環部32aと円筒部32bは一体構造でもよい。
この転がり軸受46aと内ピン31との間に、スタビライザ32の油路32cと内ピン31の油路31bとを接続する給油プレート61を固定配置する。この給油プレート61は、プレス加工などの板金加工によりリング状に成形されたもので、図7(A)(B)に示すように、リング状の円板部61aの外周を軸方向に屈曲させた上で、さらに径方向外側に屈曲させて鍔部61bを形成した皿状部材である。このように、板金加工により成形された給油プレート61を使用することにより、その給油プレート61を安価に製作することができ、コスト低減が図れる。
この給油プレート61を転がり軸受46aと内ピン31との間に固定配置するに際して、図8に示すように、給油プレート61の円板部61aを転がり軸受46aの内輪に密着させると共に給油プレート61の鍔部61bを内ピン31のインボード側端面に密着させる。給油プレート61は、組み込み前の軸方向寸法S1〔図7(A)参照〕が転がり軸受46aと内ピン31との間の軸方向離間寸法S2(図8参照)よりも若干大きく設定されている(S1>S2)。これにより、給油プレート61を弾性変形させた状態で転がり軸受46と内ピン31との間に配置することができ、給油プレート61を確実に固定することができる。
また、スタビライザ32の外周面で転がり軸受46aと接する部位、つまり、図8に示すように、転がり軸受46aが嵌合するスタビライザ32の円環部32aの外周面の肩部32dに、給油プレート61の円板部61aの内周端部が嵌まり込む環状の凹段部32eを形成している。このように、給油プレート61の円板部61aの内周端部をスタビライザ32の凹段部32eに嵌め込むことにより、給油プレート61をスタビライザ32に位置決め状態で固定することができる。
以上のようにして、転がり軸受46aと内ピン31との間に固定配置された給油プレート61により形成されたリング空間61c(図8参照)には、スタビライザ32の油路32cが開口すると共に内ピン31の油路31bが開口する。給油プレート61の円板部61aを転がり軸受46aの内輪に密着させると共に給油プレート61の鍔部61bを内ピン31のインボード側端面に密着させた構造としたことにより、固定用のボルトを使用することなく、脱落や周方向の回転が生じることもなく、給油プレート61を確実に固定することができる。その結果、スタビライザ32の油路32cと内ピン31の油路31bとを接続するリング空間61cを容易に確保することができる。
その結果、減速機入力軸25の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によってその減速機入力軸25の油孔25dから吐出した潤滑油は、スタビライザ32の油路32cおよび給油プレート61のリング空間61cを経由し、内ピン31の内部に供給される。内ピン31の油路31bに流入した潤滑油は、その油路31bと連通する油孔31cから吐出され、針状ころ軸受31aに供給される。このようにして、針状ころ軸受31aへの十分な潤滑油の供給が円滑に行われる。
なお、この実施形態では、内ピン31のインボード側端面に油路31bが開口していることから、この内ピン31のインボード側端面と、内ピン31のインボード側に位置する転がり軸受46aの端面との間に給油プレート61を配設した場合を例示している。内ピン31のアウトボード側端面に油路31bが開口している構造の場合には、その内ピン31のアウトボード側端面と、内ピン31のアウトボード側に位置する転がり軸受46b(図1参照)の端面との間に給油プレート61を配設し、減速機出力軸28のフランジ部28aに油路を形成すればよい。
最後に、この実施形態におけるインホイールモータ駆動装置21の全体的な作動原理を説明する。
図1〜図3に示すように、モータ部Aは、例えば、ステータ23aのコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石又は磁性体によって構成されるロータ23bが回転する。これにより、モータ回転軸24に連結された減速機入力軸25が回転すると、曲線板26a,26bは減速機入力軸25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a,26bの曲線形状の波形と係合して、曲線板26a,26bを減速機入力軸25の回転とは逆向きに自転回転させる。
貫通孔30aに挿通する内ピン31は、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの内壁面と当接する。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが減速機出力軸28を介して車輪用軸受部Cに伝達される。このとき、減速機入力軸25の回転が減速機部Bによって減速されて減速機出力軸28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、後輪14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
この減速機部Bの減速比は、外ピン27の数をZA、曲線板26a,26bの波形の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図2に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と非常に大きな減速比を得ることができる。このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速機部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27および内ピン31に針状ころ軸受27a,31a(図3参照)を設けたことにより、曲線板26a,26bとの間の摩擦抵抗が低減されるので、減速機部Bの伝達効率が向上する。
この実施形態においては、油路24bをモータ回転軸24に設け、油孔25eを偏心部25a,25bに設け、油孔25fを減速機入力軸25の軸端に設けた場合を例示したが、これに限ることなく、モータ回転軸24や減速機入力軸25の任意の位置に設けることができる。また、回転ポンプ51としてサイクロイドポンプの例を示したが、これに限ることなく、減速機出力軸28の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。さらに、回転ポンプ51を省略して、遠心力のみによって潤滑油を循環させるようにしてもよい。
減速機部Bの曲線板26a,26bを180°位相をずらして2枚設けた例を示したが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120°位相をずらして設けるとよい。運動変換機構は、減速機出力軸28に固定された内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成された例を示したが、これに限ることなく、減速機部Bの回転をハブ輪33aに伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板26a,26bに固定された内ピンと減速機出力軸28に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
この実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから後輪14に伝達される。したがって、前述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。また、モータ部Aに電力を供給してモータ部を駆動させ、モータ部Aからの動力を後輪14に伝達させる場合を示したが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、後輪14側からの動力を減速機部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器などの作動に用いてもよい。
この実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えば、ケーシングに固定されるステータと、ステータの内側の軸方向の隙間を開けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシャルギャップモータであってもよい。さらに、図9および図10に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、これに限ることなく、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含むものとして理解すべきである。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
21 インホイールモータ駆動装置
22 ケーシング
25 減速機入力軸
26a,26b 曲線板
31 内ピン
32 減速機出力軸(スタビライザ)
32e 凹段部
46a 転がり軸受
60 ハウジング(外ピンハウジング)
61 給油プレート
A モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
22 ケーシング
25 減速機入力軸
26a,26b 曲線板
31 内ピン
32 減速機出力軸(スタビライザ)
32e 凹段部
46a 転がり軸受
60 ハウジング(外ピンハウジング)
61 給油プレート
A モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
Claims (3)
- モータ部と、減速機部と、車輪用軸受部と、モータ部および減速機部を収容するケーシングとを備え、前記モータ部が減速機入力軸を回転駆動し、前記減速機部のサイクロイド減速機が前記減速機入力軸の回転を減速して減速機出力軸に伝達するインホイールモータ駆動装置であって、
前記サイクロイド減速機は、前記減速機出力軸を回転自在に保持する転がり軸受と、前記減速機出力軸に固定され、前記減速機入力軸に回転自在に保持された曲線板に係合する内ピンとを備え、前記転がり軸受と前記内ピンとの間に、板金加工によりリング状に成形された給油プレートを前記転がり軸受および内ピンの対向する両端面に密着させた状態で固定配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。 - 前記給油プレートは、組み込み前の軸方向寸法が前記転がり軸受と前記内ピンとの間の軸方向離間寸法よりも大きく設定されている請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
- 前記減速機出力軸の転がり軸受と接する部位に、前記給油プレートの内周端部が嵌まり込む凹段部を形成した請求項1又は2に記載のインホイールモータ駆動装置。
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CN108916246A (zh) * | 2018-09-20 | 2018-11-30 | 镇江大力液压马达股份有限公司 | 一种摆线液压马达的输出支撑装置 |
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-
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