JP2016150867A - コンクリート構造物の補修材料及びコンクリート構造物の補修方法 - Google Patents

コンクリート構造物の補修材料及びコンクリート構造物の補修方法 Download PDF

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Abstract

【課題】簡便かつ確実にコンクリートの剥落を防止することができ、耐火構造物にも使用可能であり、耐水性能を兼ね備えた補修材料及び補修方法を提供することを目的とする。
【解決手段】既設のコンクリート構造物の補修に用いられる補修材料であって、珪酸ナトリウム及び/又は珪酸リチウム、フィラー及び硬化剤を含む組成物と、複数のシート状部材を積層した積層体とを備え、前記シート状部材は、いずれもガラス繊維を含んで構成され、前記複数のシート状部材のうちのひとつが、他のシート部材よりも引張強度が大きいことを特徴とするコンクリート構造物の補修材料。
【選択図】図1

Description

本開示は、コンクリート構造物の補修材料及びそれを用いたコンクリート構造物の補修方法に関する。
コンクリート構造物は、高強度で施工性に優れ、安価であるというメリットがある。そのため、日本では高度成長期を中心に、多くのコンクリート建造物が作られてきた。コンクリート建造物は、耐久性に優れるが、長年の使用で大気中の二酸化炭素が水分とともに浸透することによって中性化が引き起こされたり、海風及び/又は凍結防止剤飛沫に含まれる塩化物イオンが浸透することによって腐食膨張したりして、ヒビ割れが生じることがある。そして、そのヒビ割れを起点として又はコンクリートに染み込んだ水分の凍結等が原因となり、コンクリート片が剥落することがある。コンクリート片の剥落は、特に、コンクリート建造物の下面が道路として使われている場合に人命を脅かすほど危険な事故となる。
このようなコンクリートの剥落を防止する試みとして、ヒビの部分をドリルで穿孔して空隙を形成し、その空隙にエポキシ樹脂等の接着剤を注入する技術が開示されている(特許文献1)。
別の解決手段として、剥落が懸念されるコンクリートの表面に多軸の繊維織物を接着することにより、剥落を防止する技術が開示されている(特許文献2)。
しかし、穿孔へのエポキシ樹脂注入の手法は、コンクリートの穿孔時に剥離が進行しやすいこと、空隙の最深部に接着剤が到達しているかを確認し難いこと等の問題がある。
また、繊維織物接着の手法は、コンクリート表面の洗浄及び乾燥、プライマーの塗布及び乾燥、紫外線又は酸化による劣化を防ぐための上塗り層の塗装及び乾燥等の作業が必要なため、作業が煩雑である。
さらに、これらの手法はいずれも、樹脂を用いた補修方法であるため、火災が起こると樹脂が膨張してコンクリート片の剥離を促進したり、延焼を引き起こしたりする可能性が危惧される。そのため、耐火構造物に対しては、これらの手法を使用できないという問題がある。
特開2009−30244号 特開2013−19146号
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡便かつ確実にコンクリートの剥落を防止することができ、耐火構造物にも使用可能であり、耐水性能を兼ね備えた補修材料及び補修方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、コンクリート構造物の劣化を補修する手法として、無機成分を主成分とする枚葉状の補修シートをコンクリート構造物に貼り合わせて固着させるという着想を得、この着想に基づいて、補修シートを積層構造とすることにより、コンクリート構造物への密着性及び剥落防止性、耐火性能を両立させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本開示は以下の発明を含む。
(1)既設のコンクリート構造物の補修に用いられる補修材料であって、
珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物と、フィラーと、硬化剤とを含む組成物と、
複数のシート状部材を積層した積層体を備え、
前記シート状部材は、いずれもガラス繊維を含んで構成され、前記複数のシート状部材のうちのひとつが、他のシート部材よりも引張強度が大きいことを特徴とするコンクリート構造物の補修材料。
(2)前記引張強度が大きいシート状部材は、ガラス長繊維の織物によって構成され、
該ガラス長繊維の織物は、目間隔が5mm以上の2軸織物又は同等開口率の多軸織物であり、かつ目付量が50g/mm2以上である上記のコンクリート構造物の補修材料。
(3)前記硬化剤が、有機酸エステル、ジアルデヒド、無機酸エステル、有機酸金属塩、無機酸金属塩、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む上記のコンクリート構造物の補修材料。
(4)前記硬化剤が、有機酸エステルを含む上記のコンクリート構造物の補修材料。
(5)前記フィラーは、75μmふるいを通過する鉱物質微粉末である上記のコンクリート構造物の補修材料。
(6)前記鉱物質微粉末は、嵩比重が0.6g/ml以下である上記のコンクリート構造物の補修材料。
(7)前記鉱物質粉末が、合成炭酸カルシウムである上記のコンクリート構造物の補修材料。
(8)前記フィラーが、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の40質量%換算の水溶液100質量部に対して、5〜20質量部で含有される上記のコンクリート構造物の補修材料。
(9)上記のコンクリート構造物の補修材料を用いた既設コンクリート構造物を補修する補修方法であって、
組成物を積層体に含浸させる含浸工程と、
前記組成物が含浸された前記積層体を、コンクリート構造物に貼り付ける貼付工程と、
前記組成物が含浸された前記積層体を硬化させる硬化工程とを含み、
前記積層体において引張強度が高いシート状部材を、コンクリートに接触するように前記コンクリート構造物に貼り付けることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
(10)前記積層体を、前記コンクリート構造物側から第一層及び第二層としてコンクリート構造物に貼り付ける場合に、前記第一層を、前記第二層よりも高い引張強度とする上記のコンクリート構造物の補修方法。
(11)前記積層体を、前記コンクリート構造物側から第三層、第一層及び第二層としてコンクリート構造物に貼り付けた場合に、前記第一層を、前記第二層及び第三層よりも高い引張強度にする上記のコンクリート構造物の補修方法。
本開示のコンクリート構造物の補修材料は、高い強度を有することによって、より簡便かつ確実にコンクリートの剥落を防止することができる。また、耐火構造物にも好適に使用することができ、かつ耐水性能を兼ね備えている。
このような補修材料を用いることにより、作業性を損ねることなく、簡便かつ確実にコンクリートを補修することが可能となる。
本開示のコンクリート構造物の補修材料を用いたコンクリート構造物の補修形態の一例を示す模式的断面図である。 本発明の別のコンクリート構造物の補修材料を用いたコンクリート構造物の補修形態の一例を示す模式的断面図である。
<コンクリート構造物の補修材料>
本開示の補修材料は、主として、補修用の組成物と、複数のシート状部材を積層した積層体とを備える。組成物と積層体とは、別個に存在させてもよいが、補修の際に、後述するように組成物を積層体に含浸させた状態とすることが好ましい。このような形態によって、コンクリート構造物に強固に密着させることができ、コンクリート片の剥離等を有効に防止するようにコンクリート構造物を良好に補修することができる。積層体への組成物の含浸量は特に限定するものではなく、積層体の全体にわたって均一に組成物が保持され、組成物の硬化によって積層体の全体が強固に一体化させることができるように調整することが好ましい。例えば、積層体:組成物の質量比は、1:2〜1:10程度であることが好ましく、1:3.5〜1:8であることがより好ましい。なお、組成物の積層体への含浸を均一に行うとともに、組成物の調製の容易性等から、組成物は水等の液体を含有するものが好ましく、この場合の積層体:組成物(液体含有)の質量比は、1:4〜1:12程度であることが好ましく、1:4〜1:10程度であることがより好ましい。
〔組成物〕
組成物は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物と、フィラーと、硬化剤とを含む。組成物は、これらの成分を同時に又は任意の順序で混合することにより調製することができる。なお、組成物を均一に調製するため又は原料の入手の容易さから、組成物には、水等の液体を含有していることが好ましい。
この組成物を、後述する積層体に含浸させて硬化させることにより、コンクリート構造物に補修材料を密着させることができる。これによって、コンクリート構造物のヒビ割れの際に発生するコンクリート片の剥落を有効に防止することができる。
組成物においては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の硬化は、脱水反応を誘起し、Si−O結合を形成することによって行なわれる。脱水反応はpHを中性付近に移動させることにより促進させることができる。また、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物のアルカリ金属を硬化剤により二価以上の金属と置き換えることによってSi−O−金属−O−Siの結合を形成して硬化を促進することも可能である。
このような組成物では、Si−O結合を効率的に形成させるために、SiO2換算で、組成物の全質量の15〜50質量%のSiO2成分を含むことが好ましく、20〜40質量%のSiO2成分を含むことがより好ましい。このような割合でSiO2を含むことにより、補修材料とコンクリート構造物とを強固に密着させ、固着させることができる。ここで、「SiO2換算で20質量%のSiO2成分を含む」とは、組成物100gを硬化させたときに20g相当のSiO2が形成されることを意味する。
(珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物)
珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物は、コンクリート構造物と補修材料とを固着させる成分として組成物に含まれている。
珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物は、組成物において、いずれか1成分が含有されていればよく、3成分が含有されていてもよい。なかでも、価格及び入手の容易さの観点から、珪酸ナトリウムが含有されていることが好ましい。補修材料に耐水性が要求される場合は、珪酸リチウムが含有されていることが好ましい。珪酸リチウムが固化したものは難水溶性であるため、コンクリート構造物の表面を緻密化して保護層を形成することができる。
珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物、つまり、アルカリ金属珪酸塩は一般にM2O・nSiO2・mH2Oの分子式で表され、nが0.5〜4.0の範囲にある組成物及びこれらの混合物を意味する。
珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物は、通常、その取り扱いの容易さから水溶液等の溶液の形態のものを用いてもよい。この場合の珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の濃度は、例えば、20〜60質量%程度が挙げられる。このような形態のものとして、例えば、市販されている水ガラス、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物を用いることができる。特に、JIS規格(K1408)の1〜3号珪酸ソーダ、4号珪酸ソーダ、メタ珪酸ナトリウム1種、2種を用いることが好ましく、3号珪酸ソーダがより好ましい。なお、溶液には、水以外にも水性有機溶媒等が含有されていてもよい。
珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物は、組成物の全体を100質量部とした場合、水溶液等の溶液の形態では、例えば、50〜97質量部含有されていてもよく、50〜95質量部含有されることがより好ましい。また別の観点から、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物は、組成物の全質量に対して、SiO2換算で10〜60質量%のSiO2成分を含むような量で含有されていることが好ましい。
(フィラー)
フィラーは、高物性や高機能、コストダウンを目的として添加される。フィラーとしては、一般に充填剤として使用されるもののいずれであってもよい。例えば、有機フィラー(例えば、セルロース等)及び無機フィラー(例えば、カーボン、鉱物質微粉末、合成された無機質結晶粉末等)等が挙げられる。
一般的な有機フィラーは、いわゆる水ガラスよりも比重が軽く、一方、一般的な無機フィラーは、水ガラスよりも比重が重い。そのため、無機フィラーは、組成物に混合した後すぐに浮遊又は沈殿が生じ始める。よって、無機フィラーの比重を組成物のそれに近づけるためには、無機フィラーの粒子内にまで、水ガラスを浸透させることが有効となる。よって、無機フィラーの場合は、嵩比重が0.6g/ml以下であることが好ましく、0.4g/ml以下であることがより好ましい。
フィラーとしては、無機フィラーが好ましく、なかでも、鉱物質微粉末が好ましい。ここでの微粉末とは、75μmの篩を通過するものであることが好ましい。
鉱物質微粉末としては、フライアッシュ、スラグ粉末、硬砂岩粉末、石灰石粉末、ケイ砂粉末、ゼオライト、アルミナ、ジルコニア、シリカ、合成炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム)等の粉末等が挙げられる。なかでも、本開示の組成物溶液が高アルカリ性であること、価格面等から、合成炭酸カルシウムが好ましい。
フィラーは、例えば、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の40質量%の水溶液100質量部に対して、5〜30質量部で含有されることが好ましい。この含有量は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物を40質量%水溶液に換算した場合の含有量とすることができる。また別の観点から、組成物におけるSiO2換算でのSiO2成分100質量部に対して、1.25〜15質量部で含有されることが好ましい。さらに別の観点から、組成物の全質量に対して、5〜30質量%で含有されることが好ましい。
この範囲に設定することにより、硬化した組成物の強度を顕著に向上させることができる。また、組成物自体の粘度を過度に増大させることなく、組成物を十分に積層体に含浸させることができる。
(硬化剤)
硬化剤は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の硬化を促進するための成分である。硬化剤は、上述したように、脱水反応を促進させるために、pH中性付近に調整するものが好ましい。また、Si−O−金属−O−Siの結合を形成して硬化を促進するために、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物中のアルカリ金属を二価以上の金属と置き換えることができるものが好ましい。硬化剤としては、有機酸エステル、ジアルデヒド、無機酸エステル、有機酸金属塩、無機酸金属塩、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、有機酸エステル、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される1種以上の化合物を用いることがより好ましい。
有機酸エステルは、水溶液中で酸を発生させることによりSi−O結合の形成を促進することができるという利点がある。有機酸エステルとしては、例えば、炭酸エステル、酢酸エステル等が挙げられる。なかでも、トリアセチンが好ましい。
無機酸エステルとしては、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸等のエステル、例えば、燐酸トリメチル等が挙げられる。
有機酸金属塩としては、蟻酸、酢酸、マロン酸、炭酸等のアルカリ金属、アルカリ土類金属塩、例えば、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
無機酸金属塩としては、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸等のアルカリ金属、アルカリ土類金属塩、例えば、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
金属酸化物及び金属水酸化物は、金属イオンが溶け出すことにより、Si−O−金属−O−Si結合を形成し、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物を硬化させることができる。金属酸化物及び金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
硬化剤として、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を用いる場合、組成物中での硬化剤の沈降を防止するという観点及びガラス繊維に含浸させやすいという観点から、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムの粒子径が3〜20μmであることが好ましい。なお、炭酸マグネシウムは、水酸化マグネシウムとの組成物である塩基性炭酸マグネシウムとして通常販売されている。
硬化剤は、組成物の全体を100質量部としたときに、2〜30質量部で配合されていることが好ましく、3〜20質量部がより好ましい。この範囲に設定することにより、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の硬化促進に十分に寄与することができる。また、硬化剤として液状有機物を用いる場合においても、Si−O結合の中に取り込まれる硬化剤成分を維持して、十分な硬化を導くことができる。さらに、硬化剤として粉体無機物を用いる場合においても、組成物の粘度を過度に増大させることなく、組成物を十分に積層体に含浸させることができる。
(その他の成分)
組成物は、上記成分に加えて、上述したように水又は水性有機溶媒等の溶媒、当該分野で公知の添加剤を含んでいてもよい。例えば、アルキルシリコネート、顔料、酸化防止剤等が挙げられる。これらは特に限定されず、公知のものを利用することができる。
アルキルシリコネートは、アルキル基と、少なくとも1つのシリコネート基[−SiO-+(式中、M+は1価の陽イオンを形成しうる基を示す)]とを有する。アルキルシリコネートとしては、例えば、炭素数1〜3のモノ、ジ、トリアルキルシリコネート又はそれらのアルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、ナトリウムヘキシルシリコネート、ナトリウムプロピルシリコネート、ナトリウムビニルシリコネート、ナトリウムジメチルシリコネート、ナトリウムメチルシリコネート、カリウムジメチルシリコネート、カリウムメチルシリコネートが挙げられる。
(積層体)
積層体は、複数のシート状部材を積層して構成されている。シート状部材は、2層であってもよいし、3層以上であってもよい。
シート状部材は、いずれもガラス繊維を含んで構成されており、ガラス繊維のみで構成されていることが好ましい。ガラス繊維のみで構成される場合には、紫外線、酸化等による劣化を低減して、長期間にわたって良好な耐候性等を表す。また、樹脂等の有機物を含まないために、その熱膨張等に起因する剥離の促進、延焼等を回避することができる。
ガラス繊維としては、特に限定されるものではなく、公知のもののいずれを用いてもよい。ガラス繊維は、珪酸塩によるアルカリ腐食を防止するため、ZrO2含有量が、5〜25質量%であるものが好ましく、8〜20質量%であるものがより好ましく、10〜18質量%であるものがさらに好ましい。ガラス繊維のアルカリ腐食を防止することにより、補修材料の強度を維持することができる。
ガラス繊維は、表面処理されたものであってもよい。なかでも、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物との付着性を向上する観点から、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、エポキシシラン等の極性の高い表面処理剤を用いたものが好ましい。表面処理したガラス繊維を用いることにより、組成物とガラス繊維との相溶性が高められ、強固に固着させることができる。また、ヒートクリーニングにより表面処理を除去したものを用いてもよい。
シート状部材は、不織布、織物等のいずれによって構成されていてもよい。
不織布は、組成物との相溶性に優れるため、組成物が浸透しやすく、組成物を硬化させたときに補修材料をコンクリート構造物に強固に固着させることができる。不織布としては、例えば、チョップドストランドマット、ガラスペーパー、フェルト等が挙げられる。
織物は、短繊維、長繊維のいずれによって形成されていてもよい。なかでも、ガラス長繊維によるものが好ましい。ガラス長繊維を用いることにより、強度の高いシート状部材を得ることができる。
織物としては、ガラスヤーンクロス、ロービングクロス等が挙げられる。ガラスヤーンクロスは、ガラスヤーンを織ったものであり、ロービングクロスは、ガラス繊維を束ねたロービングを織ったものである。織物は、平織り、綾織り、絡み織り等のいずれでもよい。なかでも、強度が高いという観点から、平織りが好ましい。織物は、直交する二軸又はそれ以上の多軸の織物であってもよい。
シート状部材は、目付け量が、10〜2000g/mm2であることが好ましく、20〜1000g/mm2であることがより好ましい。
シート状部材は、目間隔が、5mm以上であることが好ましく、5〜30mmであることがより好ましく、5〜20mmであることがさらに好ましい。不織布、多軸織物においては、この範囲の目間隔に相当する開口率を有するものが好ましい。
シート状部材は、厚みが0.1〜1.5mmであることが好ましく、0.2〜0.8mmであることがより好ましい。このような範囲に設定することにより、補修材料の強度が確保されるとともに、補修材料のコンクリート構造物への密着性をも向上させることができる。
積層体を構成するシート状部材は、そのうちの1つシート状部材が、他のシート部材よりも引張強度が大きいことが好ましい。引張強度が大きいシート部材の積層体での位置は、特に限定されず、シート状部材の積層数等によって適宜設定することができる。
積層体におけるシート状部材の積層状態は、特に限定されるものではなく、単に重ねるのみでもよいし、一体化させたものでもよい。一体化の方法としては、シート状部材を重ねた後、各層を結合させるために、上下から押圧してもよいし、バインダーによる接着加工、ニードルパンチ加工を行ってもよい。
一実施形態において、図1に示すように、積層体5が、第一層2及び第二層3の2層構造のシート状部材によって構成される場合には、コンクリート構造物1側に第一層2が配置されるものとして、第一層2は、第二層3よりも引張強度が大きいものが好ましい。これにより、第二層3が第一層2に追従しやすくなり、第一層2のコンクリート構造物への密着性を高めることができる。さらに、補修材料全層を強固に一体化させることができる。
別の実施形態において、図2に示すように、積層体8が、第一層2、第二層3及び第三層4の3層構造のシート状部材によって構成される場合には、コンクリート構造物1側から、第三層4、第一層2、第二層3がこの順に配置されるものとして、第一層2は、第二層3及び第三層4の双方よりも引張強度が大きいものが好ましい。ここで、第三層4の引張強度が、第一層2の引張強度よりも低いことにより、コンクリート構造物の凹凸への追従性、さらには密着性をより良好なものとすることができる。そして、引張強度の高い第一層2を積層体の内部に設けることにより、補修材料を貼り付けたコンクリート構造物からのコンクリート片の剥落を有効に防止することができる。つまり、追従しやすい性質を有する第三層4によってコンクリート構造物への密着性を高めるとともに、引張強度の高い第一層2によって、補修材料を貼り付けたコンクリート構造物へ剥落防止性能を付与することができる。
また、第二層3が第一層2よりも引張強度が低いことにより、第一層2に追従しやすくなり、第一層2のコンクリート構造物又は第三層4への密着性を高めることができる。さらに、補修材料全層を強固に一体化させることができる。
なお、第二層3の引張強度は、第三層4の引張強度よりも大きくてもよいし、小さくてもよいし、同等でもよい。
他の実施形態において、積層体が4層以上のシート状部材で構成されている場合には、上述した第一層の配置及び第三層の配置等に準じて、それらシート状部材の厚み、種類等により、コンクリート構造物への追従性及び密着性、補修材料全層の強固な一体化、コンクリート片剥落の防止等のバランスを図り、全てを良好に機能させる構造、配置等に調整することが好ましい。
例えば、コンクリート構造物と接する側から数えて最外層に配置される層は引張強度の低い層であることが好ましい。このようなに配置することにより、補修材料の強度とコンクリート構造物への密着性を両立することができる。
上記の実施形態のいずれの構造においても、第二層3及び第三層4の引張強度は、5〜150N/25mmであることが好ましく、10〜100N/25mmであることがより好ましい。
第一層2の引張強度は、300N/25mm以上であることが好ましく、より好ましくは400N/25mm以上である。第一層2の引張強度をこのような範囲とすることにより、補修材料の強度を向上させることができる。
引張強度は、25mm幅に切断したサンプルを万能試験機により引張試験を行った時の破断強度とする。
また、第二層3及び第三層4は、ガラス不織布で構成されることが好ましい。
第一層2は、ガラス長繊維からなることが好ましい。第一層2にガラス長繊維を用いることにより、第二層3の強度不足を補うことができる。第一層は、50g/mm2以上の目付量であることが好ましく、60g/mm以上がより好ましく、75g/mm2以上がさらに好ましい。第一層は、5mm以上の目間隔の二軸織物であることが好ましく、5mm以上の目間隔で、50g/mm2以上の目付量の二軸織物であることがより好ましい。また、このような目付量の二軸織物と同等の開口率を有する多軸織物であってもよい。
第三層の厚みをT3とし、第二層の厚みをT2とすると、T3/T2は、0.05〜3が好ましく、0.1〜1.5がより好ましい。このような厚みの関係を有する積層体は、補修材料の強度とコンクリート表面への密着性を両立することができる。
第一層の第二層及び第三層に対する厚みは特に限定されず、求める補修特性を考慮して適宜設定することができる。なかでも、第一層の厚みをT1とすると、T1>T2、T1>T3のいずれか一方を満たすものが好ましく、双方を満たすものがより好ましい。
<コンクリート構造物の補修方法>
本開示のコンクリート構造物の補修方法は、上述した組成物を積層体に含浸させる含浸工程と、得られた積層体(つまり、補修材料)をコンクリート構造物に貼り付ける貼付工程と、補修材料における組成物を硬化させる硬化工程とを含む。このような補修方法によれば、従来のようにプライマー及び上塗り等の塗装及び乾燥等が必要もないことから、作業性にも優れる。
(含浸工程)
含浸方法は、特に限定されない。例えば、組成物を含浸させる方法としては、ロールでの塗布、噴霧、浸漬、圧入、減圧注入等種々の方法を利用することができる。また、その前又は後に、金型により、圧力調整により、ロールにより、積層体の厚みを規定/調整することが好ましい。具体的には、(1)金型により積層体の厚みを規定した後に、圧入によって組成物を積層体に含浸させる方法、(2)減圧により積層体の厚みを規定した後、減圧注入によって組成物を積層体に含浸させる方法、(3)積層体を組成物に浸漬させて積層体に組成物を含浸させた後に、ロールによって積層体の厚みを規定する方法、等が挙げられる。含浸時の作業性を上げるため、また含浸シートへのゴミの付着、含浸シート同士の付着を防止するため、含浸後の積層体の表裏面を樹脂製の保護フィルムでカバーしてもよい。この保護フィルムはコンクリート構造物に貼り付ける際に除去される。
なお、含浸のタイミングとして、積層体を形成してから組成物を含浸させてもよいし、組成物を含浸させてから積層体を形成してもよいし、積層体を形成しながら組成物を含浸させてもよい。また、組成物は、含浸直前にその場で調製してもよい。その場で又は予め水溶液の形態に調製することが好ましい。
(貼付工程)
積層体に組成物を含浸させることにより得られた補修材料6、7を、図1及び図2に示すように、コンクリート構造物1に貼り付ける。この際、図1に示すように、2層構造の積層体5を用いた場合には、第一層2をコンクリート構造物1に接触するように貼り付ける。また、図2に示すように、3層構造の積層体8を用いた場合には、第三層4をコンクリート構造物1に接触するように貼り付ける。
貼り付けの際には、適度に押圧することが好ましい。また、補修材料とコンクリート構造物の表面の間に入り込んだ気泡を取り除くことが好ましい。これにより、補修材料とコンクリート構造物の表面との密着性を高めることができる。気泡除去の方法としては、ロール、金べら等を使って気泡を補修材料の外側に追い出すことが好ましい。
(硬化工程)
補修材料に含浸された組成物の硬化は、コンクリート構造物に補修材料5を密着させた状態で維持することによって行なわれる。コンクリート構造物の表面に、組成物を含浸させる時間を確保するという観点から、組成物の硬化時間は30〜180分が好ましく、45〜120分がより好ましい。硬化時間は、組成物の酸生成速度、金属塩の溶解速度、周辺温度等によって調整することができる。組成物の硬化が完了すると、コンクリート構造物に補修材料が強固に固着されて、コンクリート構造物の補修が完了する。硬化のために補修材料を加熱してもよいが、周辺温度で維持してもよい。
以下、本開示の補修材料及び補修方法を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
ガラス長繊維の織物(目付量125g/m2、目間隔10mm、平織り、厚み0.49mm、引張強度500N/25mm)からなるガラスロービングの二軸ネットを、ガラス不織布a(目付量25g/m2、厚み0.2mm、引張強度45N/25mm)及びガラス不織布b(目付量50g/m2、厚み0.4mm、引張強度90N/25mm)と積層することにより、二層のシート状部材を積層したガラス繊維シート積層体を作製した。
ガラスロービングの二軸ネットが「第一層」(図2中、2)に相当し、ガラス不織布aが「第二層」(図2中、3)、ガラス不織布bが「第三層」(図2中、4)に相当する。
300gの珪酸ナトリウム水溶液と、30gのナトリウム型Y型ゼオライト(嵩比重0.55g/ml、SiO2/Al23=1)、15gのトリアセチン(東京化成工業株式会社製)からなる硬化剤とを混合することにより、組成物を調製した。珪酸ナトリウム水溶液は、JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液(SiO2換算で29質量%のSiO2成分を含む)を用いた。
上記で作製したガラス繊維シート積層体400mm×400mmに、組成物を280g含浸させることにより、実施例1のコンクリート構造物の補修材料を作製した。
(実施例2)
300gの珪酸ナトリウム水溶液と、45gの合成炭酸カルシウム(嵩比重0.37g/ml)、15gのトリアセチン(東京化成工業株式会社製)からなる硬化剤とを混合することにより、組成物を調製した。珪酸ナトリウム水溶液は、JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液(SiO2換算で29質量%のSiO2成分を含む)を用いた。
実施例1で作製したガラス繊維シート積層体400mm×400mmに、組成物を含浸させることにより、実施例2のコンクリート構造物の補修材料を作製した。
(比較例1)
300gの珪酸ナトリウム水溶液と、15gのトリアセチン(東京化成工業株式会社製)からなる硬化剤とを混合することにより、混合物を作製した。珪酸ナトリウム水溶液は、JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液(SiO2換算で29質量%のSiO2成分を含む)を用いた。
実施例1で作製したガラス繊維シート積層体400mm×400mmに、組成物を含浸させることにより、比較例1のコンクリート構造物の補修材料を作製した。
(比較例2)
300gの珪酸ナトリウム水溶液と、45gの重質炭酸カルシウム(嵩比重1.0g/ml)、を混合することにより、組成物を作製した。
<性能評価>
実施例及び比較例のコンクリート構造物の補修材料のコンクリートへの密着性を、NEXCO試験方法734「トンネルはく落防止用繊維シート接着工の押し抜き試験方法」に準じて評価した。具体的には、図2に示すように、実施例及び比較例で作製した補修材料7を、コンクリート構造物1の試験体に貼り付けた後、標準条件(温度23℃、相対湿度50%)下で2日間養生し、試験体に張り付けた補修材料に対して押し抜き試験を行なうことにより、変位10mm〜50mmにおける最大荷重を測定した。その結果を表1に示す。表1中「最大荷重」の値は、3回測定した値の平均を記している。
また、分散性の評価のため、硬化剤のトリアセチンを含まない混合液を調製し、1時間静置後の分離状態を目視で確認した。フィラーの沈降が起こっていないものを○、沈降が起こり分離しているものを×とした。
Figure 2016150867
実施例及び比較例の補修材料の作製及び押し抜き試験評価の結果から、本実施例のコンクリートの補修材料は、その強度が高く、コンクリートに対する密着性に優れていることが明らかとなった。また、含浸から硬化に至る作業性も良好であった。
本開示の補修材料及び補修方法によれば、効率的な作業性を確保しながら、コンクリート構造物の寿命を延命することができる。
1 コンクリート構造物
2 第一層
3 第二層
4 第三層
5、8 積層体
6、7 補修材料

Claims (11)

  1. 既設のコンクリート構造物の補修に用いられる補修材料であって、
    珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物と、フィラーと、硬化剤とを含む組成物と、
    複数のシート状部材を積層した積層体を備え、
    前記シート状部材は、いずれもガラス繊維を含んで構成され、前記複数のシート状部材のうちのひとつが、他のシート部材よりも引張強度が大きいことを特徴とするコンクリート構造物の補修材料。
  2. 前記引張強度が大きいシート状部材は、ガラス長繊維の織物によって構成され、
    該ガラス長繊維の織物は、目間隔が5mm以上の2軸織物又は同等開口率の多軸織物であり、かつ目付量が50g/mm2以上である請求項1に記載のコンクリート構造物の補修材料。
  3. 前記硬化剤が、有機酸エステル、ジアルデヒド、無機酸エステル、有機酸金属塩、無機酸金属塩、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の補修材料。
  4. 前記硬化剤が、有機酸エステルを含む請求項3に記載のコンクリート構造物の補修材料。
  5. 前記フィラーは、75μmふるいを通過する鉱物質微粉末である請求項1〜4のいずれか1つに記載のコンクリート構造物の補修材料。
  6. 前記鉱物質微粉末は、嵩比重が0.6g/ml以下である請求項5に記載のコンクリート構造物の補修材料。
  7. 前記鉱物質粉末が、合成炭酸カルシウムである請求項5又は6に記載のコンクリート構造物の補修材料。
  8. 前記フィラーが、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の40質量%換算の水溶液100質量部に対して、5〜20質量部で含有される請求項1〜7のいずれか1つに記載のコンクリート構造物の補修材料。
  9. 請求項1〜8のいずれか1つに記載のコンクリート構造物の補修材料を用いた既設コンクリート構造物を補修する補修方法であって、
    組成物を積層体に含浸させる含浸工程と、
    前記組成物が含浸された前記積層体を、コンクリート構造物に貼り付ける貼付工程と、
    前記組成物が含浸された前記積層体を硬化させる硬化工程とを含み、
    前記積層体において引張強度が高いシート状部材を、コンクリートに接触するように前記コンクリート構造物に貼り付けることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
  10. 前記積層体を、前記コンクリート構造物側から第一層及び第二層としてコンクリート構造物に貼り付ける場合に、前記第一層を、前記第二層よりも高い引張強度とする請求項9に記載のコンクリート構造物の補修方法。
  11. 前記積層体を、前記コンクリート構造物側から第三層、第一層及び第二層としてコンクリート構造物に貼り付けた場合に、前記第一層を、前記第二層及び第三層よりも高い引張強度にする請求項9に記載のコンクリート構造物の補修方法。
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