JP2016150611A - インホイールモータ駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 軸心給油構造をなす潤滑機構に簡便な手段を付加することにより、モータ効率の向上を図ると共に、減速機部の冷却性能の向上を図る。【解決手段】 モータ部Aと、減速機部Bと、車輪用軸受部Cと、モータ部Aおよび減速機部Bを収容するケーシング22と、回転ポンプ51によりケーシング22の油路22aからモータ部Aを経由して減速機部Bへ潤滑油を供給する軸芯給油構造をなす潤滑機構とを備えたインホイールモータ駆動装置であって、潤滑機構に、ケーシング22の油路22aから分岐して減速機部Bへ直通する分岐油路22gを付加し、その分岐油路22gに、回転ポンプ51から吐出する潤滑油量による潤滑油の圧力変化に応じて開閉量が調整可能なリリーフ弁61を設ける。【選択図】 図1
Description
本発明は、例えば、電動モータの出力軸と車輪用軸受とを減速機を介して連結したインホイールモータ駆動装置に関する。
従来のインホイールモータ駆動装置は、例えば、特許文献1に開示された構造のものがある。この特許文献1のインホイールモータ駆動装置は、駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪用軸受部と、モータ部と車輪用軸受部との間に配置され、モータ部の回転を減速して車輪用軸受部に伝達する減速機部とを備えている。モータ部および減速機部はケーシングに収容されている。
前述の構成からなるインホイールモータ駆動装置において、装置のコンパクト化の観点から、モータ部には低トルクで高回転の小型モータが採用されている。一方、車輪用軸受部で車輪を駆動するために大きなトルクが必要となることから、減速機部には、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機が採用されている。
このインホイールモータ駆動装置では、モータ部および減速機部に潤滑油を供給する潤滑機構が設けられている。潤滑機構は、モータ部に設けられ、潤滑油を圧送する回転ポンプと、ケーシングの下部に設けられ、潤滑油を一時的に貯溜する油タンクと、モータ部および減速機部に設けられた油路とを備え、潤滑油がモータ部および減速機部を循環する構造を有する。
この潤滑機構は、回転ポンプによりケーシングの油路からモータ部のモータ回転軸の油路を経由してモータ部に潤滑油を供給すると共に、モータ回転軸の油路と連通する減速機部の減速機入力軸の油路を経由して減速機部に潤滑油を供給する軸心給油構造を採用している。
この軸芯給油構造では、モータ回転に伴うポンプ圧力および遠心力によって、モータ回転軸の油路を経由して供給された潤滑油をモータ部で吐出させることにより、モータ部の冷却が行われる。また、減速機入力軸の油路を経由して供給された潤滑油を減速機部で吐出させることにより、減速機部の冷却および潤滑が行われる。
ところで、前述した従来のインホイールモータ駆動装置に内蔵された回転ポンプは、減速機部の減速機出力軸と同期して回転する。そのため、モータ起動後、モータ回転速度の増加と共に回転ポンプの回転速度も増加し、回転ポンプから吐出する潤滑油量も増加する。従って、モータ起動直後は、モータ部に適正な潤滑油量が回転ポンプから供給されるが、モータ高速回転時には、回転ポンプからモータ部へ必要量以上の潤滑油が供給されることになる。
このモータ高速回転時に、モータ部に必要量以上の潤滑油が存在すると、高速回転のモータ部に接触する潤滑油量が増加すると共に、潤滑油の粘性によりモータ部と潤滑油との間に作用する荷重も増加するため、潤滑油の撹拌抵抗が増加する。このように、潤滑油の撹拌抵抗が増加すると、モータ効率が低下することになる。
一方、インホイールモータ駆動装置の潤滑機構は、回転ポンプによりケーシングの油路からモータ部のモータ回転軸の油路を経由してモータ部に潤滑油を供給すると共に、そのモータ回転軸の油路と連通する減速機部の減速機入力軸の油路を経由して減速機部に潤滑油を供給する軸心給油構造となっている。
このように、潤滑機構が軸芯給油構造をなすことから、減速機部に供給される潤滑油が不足すると、モータ高速回転時に発生する減速機部の発熱を抑制することが困難となる。これは、インホイールモータ駆動装置の連続運転時に顕著な問題となる。
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、軸心給油構造をなす潤滑機構に簡便な手段を付加することにより、モータ効率の向上を図ると共に、減速機部の冷却性能の向上を図り得るインホイールモータ駆動装置を提供することにある。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、モータ部と、減速機部と、車輪用軸受部と、モータ部および減速機部を収容するケーシングと、回転ポンプによりケーシングの油路からモータ部を経由して減速機部へ潤滑油を供給する軸芯給油構造をなす潤滑機構とを備えたインホイールモータ駆動装置であって、潤滑機構に、ケーシングの油路から分岐して減速機部へ直通する分岐油路を付加し、その分岐油路に、回転ポンプから吐出する潤滑油量による潤滑油の圧力変化に応じて開閉量が調整可能な弁を設けたことを特徴とする。なお、前述の弁は、分岐油路を機械的に開閉する機械式弁、あるいは、分岐油路を電気的に開閉する電磁制御弁のいずれであってもよい。
本発明の潤滑機構では、ケーシングの油路から分岐して減速機部へ直通する分岐油路に、回転ポンプから吐出する潤滑油量による潤滑油の圧力変化に応じて開閉量が調整可能な弁を設けたことにより、モータ高速回転時、高速回転する回転ポンプから吐出する潤滑油量の増加により潤滑油の圧力が上昇することで弁を開く。
このように、モータ高速回転時に弁を開くことにより、回転ポンプからモータ部へ供給される潤滑油の一部を分岐油路により減速機部へ逃がすことができる。その結果、モータ部に必要量以上の潤滑油が供給されることを抑制でき、潤滑油の撹拌抵抗が増加することを抑制できるので、モータ効率を向上させることが容易となる。
また、軸心給油構造をなす潤滑機構に付加した分岐油路により、潤滑油が減速機部へ直接的に供給される。そのため、軸心給油構造における減速機部の油路から供給される潤滑油に加えて、分岐油路から供給される潤滑油により、減速機部に供給される潤滑油を補充することができる。その結果、モータ高速回転時に発生する減速機部の発熱を容易に抑制することができ、減速機部の冷却性能を向上させることが容易となる。
本発明によれば、ケーシングの油路から分岐して減速機部へ直通する分岐油路に、回転ポンプから吐出する潤滑油量による潤滑油の圧力変化に応じて開閉量が調整可能な弁を設けたことにより、モータ高速回転時、モータ部に必要量以上の潤滑油が供給されることを抑制できる。その結果、潤滑油の撹拌抵抗が増加することを抑制できるので、モータ効率の向上が図れる。
また、軸心給油構造における減速機部の油路から供給される潤滑油に加えて、分岐油路から直接的に供給される潤滑油により、減速機部に供給される潤滑油を補充することができる。その結果、モータ高速回転時に発生する減速機部の発熱を容易に抑制することができるので、減速機の冷却性能向上が図れる。
本発明に係るインホイールモータ駆動装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。
図9は、インホイールモータ駆動装置21を搭載した電気自動車11の概略平面図、図10は、電気自動車11を後方から見た概略断面図である。図9に示すように、電気自動車11は、シャシー12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、後輪14に駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを装備する。図10に示すように、後輪14は、シャシー12のホイールハウジング12aの内部に収容され、懸架装置(サスペンション)12bを介してシャシー12の下部に固定されている。
懸架装置12bは、左右に延びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットによって、後輪14が地面から受ける振動を吸収してシャシー12の振動を抑制する。さらに、左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時などの車体の傾きを抑制するスタビライザが設けられている。懸架装置12bは、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させることができる独立懸架式としている。
電気自動車11は、ホイールハウジング12aの内部に、左右それぞれの後輪14を駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャシー12上にモータ、ドライブシャフトおよびデファレンシャルギヤ機構などを設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を有する。電気自動車11の走行安定性およびNVH特性を向上させるためにばね下重量を抑える必要があり、さらに、広い客室スペースを確保するためにインホイールモータ駆動装置21の小型化が求められる。
そこで、この実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、以下の構造を具備する。図1はインホイールモータ駆動装置21の概略構成を示す縦断面図、図2は図1のP−P線に沿う断面図、図3は減速機部Bを示す拡大断面図、図4は曲線板26aに作用する荷重を示す説明図、図5は回転ポンプ51を示す横断面図である。なお、この実施形態の特徴的な構成を説明する前にインホイールモータ駆動装置21の全体構成を説明する。
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速機部Bと、減速機部Bからの出力を駆動輪としての後輪14(図9および図10参照)に伝達する車輪用軸受部Cとを備え、モータ部Aと減速機部Bはケーシング22に収納されて、電気自動車11のホイールハウジング12a(図10参照)内に取り付けられる。ケーシング22は、モータ部Aが収容されたモータハウジングと減速機部Bが収容された減速機ハウジングとからなる分割構造で、ボルトにより締結一体化されている。
モータ部Aは、ケーシング22に固定されたステータ23aと、ステータ23aの径方向内側に隙間をもって対向するように配置されたロータ23bと、ロータ23bの径方向内側に配置されてロータ23bと一体回転するモータ回転軸24とを備えたラジアルギャップモータである。ステータ23aは磁性体コア23cの外周にコイル23dを巻回することによって構成され、ロータ23bは永久磁石または磁性体で構成されている。
モータ回転軸24は、径方向外側へ一体的に延びるホルダ部24dによりロータ23bが保持されている。このホルダ部24dは、ロータ23bが嵌め込み固定された凹溝を環状に形成した構成としている。モータ回転軸24は、その軸方向一方側端部(図1の右側)が転がり軸受36aに、軸方向他方側端部(図1の左側)が転がり軸受36bによって、ケーシング22に対して回転自在に支持されている。
減速機入力軸25は、その軸方向一方側略中央部(図1の右側)が転がり軸受37aに、軸方向他方側端部(図1の左側)が転がり軸受37bによって、減速機出力軸28に対して回転自在に支持されている。この減速機入力軸25は、減速機部B内に偏心部25a,25bを有する。2つの偏心部25a,25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180°位相をずらして設けられている。減速機入力軸25と前述のモータ回転軸24とは、スプライン嵌合(セレーション嵌合も含む。以下、同じ)によって連結されてモータ部Aの駆動力が減速機部Bに伝達される。
減速機部Bは、減速機入力軸25の偏心部25a,25bに回転自在に保持される曲線板26a,26bと、その曲線板26a,26bの外周部に係合する複数の外ピン27と、曲線板26a,26bの自転運動を減速機出力軸28に伝達する運動変換機構と、偏心部25a,25bに隣接して減速機入力軸25に設けられたカウンタウェイト29とを備えたサイクロイド減速機である。
減速機出力軸28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aには、減速機出力軸28の回転軸心を中心とする円周上に複数の内ピン31が等間隔に固定されている。また、軸部28bは車輪用軸受部Cの内方部材としてのハブ輪33aにスプライン嵌合によってトルク伝達可能に連結され、減速機部Bの出力を後輪14(図9および図10参照)に伝達する。この減速機出力軸28は、転がり軸受46bによって外ピンハウジング60に回転自在に支持されている。
図2および図3に示すように、曲線板26a,26bは、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する貫通孔30a,30bを有する。貫通孔30aは、曲線板26a,26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、前述の内ピン31を受け入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26a,26bの中心に設けられており、偏心部25a,25bに嵌合する。曲線板26a,26bは、転がり軸受41によって偏心部25a,25bに対して回転自在に支持されている。
外ピン27は、減速機入力軸25の回転軸心を中心とする円周上に等間隔に設けられている。曲線板26a,26bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。外ピン27は、針状ころ軸受27aによって外ピンハウジング60に回転自在に保持され、この外ピンハウジング60がケーシング22に回り止めされ、フローティング状態で支持されている。
カウンタウェイト29は、略扇形状で、減速機入力軸25と嵌合する貫通孔を有し、曲線板26a,26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、偏心部25a,25bと隣接する位置に偏心部25a,25bと180°位相をずらして配置される。2枚の曲線板26a,26b間の回転軸心方向の中心点をG(図3参照)とすると、その中心点Gの右側について、中心点Gと曲線板26aの中心との距離をL1、曲線板26a、転がり軸受41および偏心部25aの質量の和をm1、曲線板26aの重心の回転軸心からの偏心量をε1とし、中心点Gとカウンタウェイト29との距離をL2、カウンタウェイト29の質量をm2、カウンタウェイト29の重心の回転軸心からの偏心量をε2とすると、L1×m1×ε1=L2×m2×ε2を満たす関係となっている。L1×m1×ε1=L2×m2×ε2の関係は、不可避的に生じる誤差を許容する。中心点Gの左側の曲線板26bとカウンタウェイト29との間にも同様の関係が成立する。
運動変換機構は、減速機出力軸28に保持されて軸方向に延びる複数の内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成されている。内ピン31は、減速機出力軸28の回転軸心を中心とする円周上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が減速機出力軸28のフランジ28aに固定されている。また、曲線板26a,26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a,26bの貫通孔30aの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受31aが設けられている。貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(針状ころ軸受31aを含む最大外径)より所定寸法大きく設定されている。
内ピン31の軸方向他方側端部には、減速機出力軸28の一部を構成するスタビライザ32が設けられている。スタビライザ32は、外ピンハウジング60に転がり軸受46aによって回転自在に支持された円環部32aと、その円環部32aの内周面から軸方向に延びる円筒部32bとからなる。複数の内ピン31の軸方向他方側端部は、円環部32aに固定されている。曲線板26a,26bから一部の内ピン31に負荷される荷重はフランジ部28aおよびスタビライザ32を介して全ての内ピン31によって支持されるため、内ピン31に作用する応力を低減させ、耐久性を向上させることができる。
曲線板26a,26bに作用する荷重の状態を図4に基づいて説明する。偏心部25aの軸心O2は減速機入力軸25の軸心Oから偏心量eだけ偏心している。偏心部25aの外周には、曲線板26aが取り付けられ、偏心部25aは曲線板26aを回転自在に支持するので、軸心O2は曲線板26aの軸心でもある。曲線板26aの外周は波形曲線で形成され、径方向に窪んだ波形の凹部26cを周方向等間隔に有する。曲線板26aの周囲には、凹部26cと係合する外ピン27が、軸心Oを中心として周方向に複数配設されている。
図4において、減速機入力軸25と共に偏心部25aが紙面上で反時計周りに回転すると、偏心部25aは軸心Oを中心とする公転運動を行うので、曲線板26aの凹部26cが、外ピン27と周方向に順次当接する。この結果、矢印で示すように、曲線板26aは、複数の外ピン27から荷重Fiを受けて、時計回りに自転する。
また、曲線板26aには貫通孔30aが軸心O2を中心として周方向に複数配設されている。各貫通孔30aには、軸心Oと同軸に配置された減速機出力軸28と結合する内ピン31が挿通する。貫通孔30aの内径は、内ピン31の外径よりも所定寸法大きいため、内ピン31は曲線板26aの公転運動の障害とはならず、内ピン31は曲線板26aの自転運動を取り出して減速機出力軸28を回転させる。このとき、減速機出力軸28は、減速機入力軸25よりも高トルクかつ低回転数になり、図4に矢印で示すように、曲線板26aは、複数の内ピン31から荷重Fjを受ける。これら複数の荷重Fi,Fjの合力Fsが減速機入力軸25にかかる。
合力Fsの方向は、曲線板26aの波形形状、凹部26cの数などの幾何学的条件や遠心力の影響により変化する。具体的には、自転軸心O2と軸心Oとを結ぶ直線Yと直角であって自転軸心O2を通過する基準線Xと、合力Fsとの角度αは概ね30°〜60°で変動する。複数の荷重Fi、Fjは、減速機入力軸25が1回転(360°)する間に荷重の方向や大きさが変り、その結果、減速機入力軸25に作用する合力Fsも荷重の方向や大きさが変動する。減速機入力軸25が反時計周りに1回転すると、曲線板26aの波形の凹部26cが減速されて1ピッチ時計回りに回転して図4の状態になり、これを繰り返す。
図1に示すように、車輪用軸受部Cの車輪用軸受33は、減速機出力軸28にトルク伝達可能に連結されたハブ輪33aと、ハブ輪33aの外周面に嵌合された内輪33bと、ケーシング22に嵌合固定された外輪33cと、ハブ輪33aおよび内輪33bと外輪33cとの間に配置された複数の玉33dと、複数の玉33dを保持する保持器33eとを備えた複列アンギュラ玉軸受である。車輪用軸受33の軸方向両端部には、泥水などの侵入を防止するシール部材33fが設けられている。この車輪用軸受33のハブ輪33aにボルト34で後輪14(図9および図10参照)が連結される。
次に、全体的な潤滑機構を説明する。この潤滑機構は、モータ部Aを冷却するためにモータ部Aに潤滑油を供給すると共に、減速機部Bを冷却および潤滑するために潤滑油を供給するものである。
潤滑機構は、図1に示すように、回転ポンプ51と、ケーシング22に配設された油路22aと、モータ回転軸24に配設された油路24a,24bおよび油孔24cと、減速機入力軸25に配設された油路25cおよび油孔25e,25fと、ケーシング22の下方に配置された油タンク22dとを主な構成としている。回転ポンプ51の吸入口55および吐出口56は、ケーシング22のモータハウジングに設けられている。また、そのケーシング22の減速機ハウジングに油タンク22dが一体的に設けられている。
油路22aは、回転ポンプ51から径方向外側へ延びて屈曲した上で軸方向に延び、さらに屈曲した上で径方向内側へ延びて油路24aに接続される。油路24aは、モータ回転軸24の内部を軸線方向に沿って延びて油路25cに接続される。油路24bは、軸線方向に沿って延びる油路24aと連通し、径方向外側に位置するホルダ部24dに向かって延びて油孔24cと連通する。油孔24cは、ホルダ部24dのインボード側およびアウトボード側の端面に開口する。
モータ回転軸24の油路24aと連通する油路25cは、減速機入力軸25の内部を軸線方向に沿って延びている。また、減速機入力軸25の偏心部25a,25bに設けられた油孔25eは、油路25cと連通し、減速機入力軸25の外周面に開口する。さらに、減速機入力軸25の先端部に設けられた油孔25fは、油路25cと連通し、減速機入力軸25の軸端面に開口する。
モータ部Aのケーシング22の底部には、潤滑油を油タンク22dに排出するための排油孔22bが設けられ、減速機部Bのケーシング22の底部には、潤滑油を油タンク22dに排出するための排油孔22fが設けられている。また、油タンク22dから回転ポンプ51へ潤滑油を還流させるための油路22eがケーシング22に設けられている。潤滑油を強制的に循環させるための回転ポンプ51は、ケーシング22の油路22eと油路22aとの間に設けられている。
図5に示すように、回転ポンプ51は、減速機出力軸28(図1参照)の回転を利用して回転するインナロータ52と、インナロータ52の回転に伴って従動回転するアウタロータ53と、ポンプ室54と、油路22eに連通する吸入口55と、油路22aに連通する吐出口56とを備えるサイクロイドポンプである。この回転ポンプ51をケーシング22内に配置することによって、インホイールモータ駆動装置21の大型化を防止することができる。
インナロータ52は、外周面にサイクロイド曲線で構成された歯形を有する。具体的には、歯先部分52aの形状がエピサイクロイド曲線、歯溝部分52bの形状がハイポサイクロイド曲線となっている。インナロータ52は、スタビライザ32の円筒部32b(図1および図3参照)の外周面に嵌合して減速機出力軸28と一体回転する。アウタロータ53は、内周面にサイクロイド曲線で構成された歯形を有する。具体的には、歯先部分53aの形状がハイポサイクロイド曲線、歯溝部分53bの形状がエピサイクロイド曲線となっている。アウタロータ53は、ケーシング22に回転自在に支持されている。
インナロータ52は、回転中心c1を中心として回転し、一方、アウタロータ53は、回転中心c2を中心として回転する。インナロータ52およびアウタロータ53はそれぞれ異なる回転中心c1,c2を中心として回転するので、ポンプ室54の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口55から流入した潤滑油が吐出口56から油路22aに圧送される。また、インナロータ52の歯数をnとすると、アウタロータ53の歯数は(n+1)となる。なお、この実施形態においては、n=5としている。
前述した構成の潤滑機構による潤滑油の流れを説明する。図1において、潤滑機構内に付した白抜き矢印は潤滑油の流れを示す。モータ部Aの冷却として、回転ポンプ51から圧送された潤滑油は油路22a,24aを経由し、その一部がモータ回転軸24の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって油路24bを経てロータ23bを冷却する。さらに、ホルダ部24dの油孔24cから潤滑油が吐出されてステータ23aを冷却する。このようにして、モータ部Aの冷却が行われる。
一方、減速機部Bの冷却および潤滑として、回転ポンプ51から圧送された潤滑油は油路22a,24a,25cを経由し、その一部が減速機入力軸25の回転に伴う遠心力およびポンプ圧力によって油孔25e,25fから吐出する。油孔25eから吐出した潤滑油は、曲線板26a,26bを支持する転がり軸受41に供給される。さらに、油孔25fから吐出した潤滑油は、減速機入力軸25を支持する転がり軸受37bなどに供給される。これらの潤滑油は、内ピン31の針状ころ軸受31aおよび外ピン27の針状ころ軸受27aに供給されながら、外ピンハウジング60内を径方向外側へ移動する。このようにして、減速機部Bの冷却および潤滑が行われる。
モータ部Aの冷却、減速機部Bの冷却および潤滑を行った潤滑油は、ケーシング22の内壁面を伝って重力により下部へ移動する。モータ部Aの下部へ移動した潤滑油は、排油孔22bから排出されて油タンク22dに一時的に貯溜される。減速機部Bの下部へ移動した潤滑油は、外ピンハウジング60に設けられた油孔60aを経由して排油孔22fから排出されて油タンク22dに一時的に貯溜される。このように、油タンク22dが設けられているので、回転ポンプ51によって排出しきれない潤滑油が一時的に発生しても、油タンク22dに貯溜しておくことができる。
この実施形態におけるインホイールモータ駆動装置21の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成を以下に詳述する。なお、図6および図7において、分岐油路22g内に付した白抜き矢印は潤滑油の流れを示す。
インホイールモータ駆動装置21に内蔵された回転ポンプ51は、減速機部Bの減速機出力軸28と同期して回転する。そのため、モータ起動後、モータ回転速度の増加と共に回転ポンプ51の回転速度も増加し、回転ポンプ51から吐出する潤滑油量も増加する。従って、モータ起動直後は、ケーシング22の油路22aおよびモータ回転軸24の油路24aを経由してモータ部Aに適正な潤滑油量が供給されるが、モータ高速回転時には、回転ポンプ51から吐出する潤滑油量が増加することから、モータ部Aへ必要量以上の潤滑油が供給されることになる。
一方、インホイールモータ駆動装置21の潤滑機構は、回転ポンプ51によりケーシング22の油路22aからモータ回転軸24の油路24aを経由してモータ部Aに潤滑油を供給すると共に、そのモータ回転軸24の油路24aと連通する減速機入力軸25の油路25cを経由して減速機部Bに潤滑油を供給する軸心給油構造となっている。このような軸芯給油構造では、モータ高速回転時に、モータ部Aへ必要量以上の潤滑油が供給されると、減速機部Bに供給される潤滑油が不足することになる。
この実施形態のインホイールモータ駆動装置21では、軸心給油構造をなす潤滑機構に簡便な手段を付加することにより、モータ高速回転時であっても、モータ部Aに供給される潤滑油が必要量以上になることを抑制し、また、減速機部Bに供給される潤滑油が不足することを防止するようにしている。
その簡便な手段として、図1に示すように、潤滑機構に、ケーシング22の油路22aから分岐して減速機部Bへ直通する分岐油路22gを付加し、その分岐油路22gに、回転ポンプ51から吐出する潤滑油量による潤滑油の圧力変化に応じて開閉量が調整可能な弁61を設けている。この実施形態では、分岐油路22gを機械的に開閉する機械式弁であるリリーフ弁61を例示しているが、分岐油路22gを電気的に開閉する電磁制御弁を使用することも可能である。
分岐油路22gは、回転ポンプ51から径方向外側へ延びる油路22aが屈曲して軸方向インボード側へ延びる部位でその油路22aと連通する。分岐油路22gは、油路22aとの連通部分から軸方向アウトボード側へ延び、その端部に拡径部22hが形成され、その拡径部22hから径方向内側へ延びて減速機部Bで開口する。この分岐油路22gの拡径部22hにリリーフ弁61が配設されている。なお、分岐油路22gの開口部に対応させて、減速機部Bの外ピンハウジング60に油孔60bが設けられている。
リリーフ弁61は、図6に示すように、分岐油路22gを開閉する弁体61aと、その弁体61aを軸方向インボード側へ弾性的に付勢するばね61bとで構成されている。この弁体61aは、軸方向インボード側の先端部に円錐状のテーパ面61cを持つ円柱状部材であり、拡径部22h内で軸方向に移動可能に配置されている。一方、軸方向に延びる分岐油路22gと拡径部22hとの間には、弁体61aのテーパ面61cと当接可能なテーパ面22iが形成されている。また、ばね61bは、弁体61aとケーシング22の減速機ハウジングとの間に張設されている。
この潤滑機構では、モータ起動直後、回転ポンプ51によりケーシング22の油路22aおよびモータ回転軸24の油路24aを経由する軸芯給油構造でもってモータ部Aに適正な潤滑油量が供給される。この時、ケーシング22の油路22aから分岐油路22gへ流入する潤滑油の圧力によりリリーフ弁61の弁体61aを軸方向アウトボード側へ押圧する力が、ばね61bの弾性力によりリリーフ弁61の弁体61aを軸方向インボード側へ押圧する力よりも小さい。その結果、図6に示すように、ばね61bの弾性力により弁体61aのテーパ面61cが分岐油路22gのテーパ面22iに圧接されることにより、リリーフ弁61は分岐油路22gを閉じる状態となる。
一方、モータ高速回転時には、回転ポンプ51から吐出する潤滑油量の増加により潤滑油の圧力が上昇する。そのため、ケーシング22の油路22aから分岐油路22gへ流入する潤滑油の高圧力によりリリーフ弁61の弁体61aを軸方向アウトボード側へ押圧する力が、ばね61bの弾性力によりリリーフ弁61の弁体61aを軸方向インボード側へ押圧する力よりも大きくなる。その結果、図7に示すように、リリーフ弁61は、潤滑油の高圧力により、ばね61bの弾性力に抗して弁体61aが軸方向アウトボード側へ移動し、弁体61aのテーパ面61cが分岐油路22gのテーパ面22iから離脱することで分岐油路22gを開く状態となる。
このように、モータ高速回転時にリリーフ弁61を開くことにより、回転ポンプ51からモータ部Aへ供給される潤滑油の一部を減速機部Bへ逃がすようにしている。つまり、図8に示すように、回転ポンプ51から供給される総潤滑油量S1に対して、軸心給油構造によりモータ部Aと減速機部Bに軸心から供給される潤滑油量S2を減少させることができる。その結果、モータ部Aに必要量以上の潤滑油が供給されることを抑制でき、粘性を有する潤滑油の撹拌抵抗が増加することを抑制でき、モータ効率を向上させることが容易となる。
また、減速機部Bへ逃がした潤滑油が分岐油路22gから外ピンハウジング60の油孔60bを経由してサイクロイド減速機の内部へ直接的に吐出される。軸心給油構造により減速機入力軸25の油路25cを経由して油孔25e,25fから吐出される潤滑油に加えて、分岐油路22gから吐出される潤滑油により、減速機部Bに供給される潤滑油を補充する。つまり、図8に示すように、分岐油路22gから吐出される潤滑油量S3の増加により減速機部Bに供給される潤滑油量を増加させることができる。その結果、モータ高速回転時に発生する減速機部Bの発熱を抑制することができ、インホイールモータ駆動装置21の連続運転時においても、減速機部Bの冷却性能を向上させることが容易となる。
なお、減速機入力軸25の下側に位置する外ピン27については、減速機入力軸25の下側へ向けて吐出される潤滑油と、減速機入力軸25の上側へ向けて吐出された後に重力により下側へ移動する潤滑油とでもって潤滑される。一方、減速機入力軸25の上側に位置する外ピン27については、減速機入力軸25の上側へ向けて吐出された潤滑油で潤滑され難い懸念があるが、この実施形態では、分岐油路22gから外ピンハウジング60の油孔60bを経由して外ピン27に潤滑油が吐出されるので、この分岐油路22gから吐出される潤滑油により、減速機入力軸25の上側に位置する外ピン27を十分に潤滑することができる。
最後に、この実施形態におけるインホイールモータ駆動装置21の全体的な作動原理を説明する。
図1〜図3に示すように、モータ部Aは、例えば、ステータ23aのコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石又は磁性体によって構成されるロータ23bが回転する。これにより、モータ回転軸24に連結された減速機入力軸25が回転すると、曲線板26a,26bは減速機入力軸25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a,26bの曲線形状の波形と係合して、曲線板26a,26bを減速機入力軸25の回転とは逆向きに自転回転させる。
貫通孔30aに挿通する内ピン31は、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの内壁面と当接する。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが減速機出力軸28を介して車輪用軸受部Cに伝達される。このとき、減速機入力軸25の回転が減速機部Bによって減速されて減速機出力軸28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、後輪14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
この減速機部Bの減速比は、外ピン27の数をZA、曲線板26a,26bの波形の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図2に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と非常に大きな減速比を得ることができる。このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速機部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27および内ピン31に針状ころ軸受27a,31a(図3参照)を設けたことにより、曲線板26a,26bとの間の摩擦抵抗が低減されるので、減速機部Bの伝達効率が向上する。
この実施形態においては、油路24bをモータ回転軸24に設け、油孔25eを偏心部25a,25bに設け、油孔25fを減速機入力軸25の軸端に設けた場合を例示したが、モータ回転軸24や減速機入力軸25の任意の位置に設けることができる。また、回転ポンプ51としてサイクロイドポンプの例を示したが、減速機出力軸28の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。
減速機部Bの曲線板26a,26bを180°位相をずらして2枚設けた例を示したが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120°位相をずらして設けるとよい。運動変換機構は、減速機出力軸28に固定された内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成された例を示したが、減速機部Bの回転をハブ輪33aに伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板26a,26bに固定された内ピンと減速機出力軸28に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。この実施形態のインホイールモータ駆動装置21においては、サイクロイド式の減速機を採用した例を示したが、遊星減速機、2軸並行減速機、その他の減速機であってもよい。
この実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから後輪14に伝達される。従って、前述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。また、モータ部Aに電力を供給してモータ部を駆動させ、モータ部Aからの動力を後輪14に伝達させる場合を示したが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、後輪14側からの動力を減速機部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器などの作動に用いてもよい。
この実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、任意の構成のモータを適用可能である。例えば、ケーシングに固定されるステータと、ステータの内側の軸方向の隙間を開けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシャルギャップモータであってもよい。さらに、図9および図10に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等も含むものである。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
21 インホイールモータ駆動装置
22 ケーシング
22a 油路
22g 分岐油路
51 回転ポンプ
61 弁(リリーフ弁)
A モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
22 ケーシング
22a 油路
22g 分岐油路
51 回転ポンプ
61 弁(リリーフ弁)
A モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
Claims (3)
- モータ部と、減速機部と、車輪用軸受部と、前記モータ部および減速機部を収容するケーシングと、回転ポンプにより前記ケーシングの油路からモータ部を経由して減速機部へ潤滑油を供給する軸芯給油構造をなす潤滑機構とを備えたインホイールモータ駆動装置であって、
前記潤滑機構に、ケーシングの油路から分岐して減速機部へ直通する分岐油路を付加し、前記分岐油路に、回転ポンプから吐出する潤滑油量による潤滑油の圧力変化に応じて開閉量が調整可能な弁を設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。 - 前記弁は、分岐油路を機械的に開閉する機械式弁である請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
- 前記弁は、分岐油路を電気的に開閉する電磁制御弁である請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
Priority Applications (1)
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JP2015027691A JP2016150611A (ja) | 2015-02-16 | 2015-02-16 | インホイールモータ駆動装置 |
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- 2015-02-16 JP JP2015027691A patent/JP2016150611A/ja active Pending
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