以下、本実施形態を図1乃至図7に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本ディスクブレーキ1には、車両の回転部に取り付けられたディスクロータDを挟んで軸方向両側に配置された一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とが設けられている。本ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されている。なお、一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とは、車両のナックル等の非回転部に固定されたブラケット5にディスクロータDの軸方向へ移動可能に支持されている。なお、以下の説明において、説明の便宜上、図1の右方を一端側として、左方を他端側として適宜説明する。
図1及び図4に示すように、キャリパ4の主体であるキャリパ本体6は、車両内側のインナブレーキパッド2に対向する基端側に配置されるシリンダ部7と、車両外側のアウタブレーキパッド3に対向する先端側に配置される爪部8とを有している。シリンダ部7には、インナブレーキパッド2側が開口される大径開口部9Aとなり、その反対側が孔部10を有する底壁11により閉じられた有底のシリンダ15が形成されている。該シリンダ15内の底壁11側には、大径開口部9Aと連設され該大径開口部9Aよりも小径となる小径開口部9Bが形成される。シリンダ15は、その大径開口部9Aの内周面にピストンシール16が配置されている。
ピストン18は、底部19と円筒部20とからなる有底のカップ状に形成される。該ピストン18は、その底部19がインナブレーキパッド2に対向するようにシリンダ15内に収められている。ピストン18は、ピストンシール16に接触した状態で軸方向に移動可能にシリンダ15の大径開口部9Aに内装されている。このピストン18とシリンダ15の底壁11との間は、液圧室21としてピストンシール16により画成されている。この液圧室21には、シリンダ部7に設けた図示しないポートを通じて、マスタシリンダや液圧制御ユニットなどの図示しない液圧源から液圧が供給されるようになっている。
ピストン18の内周面には、周方向に沿って複数の回転規制用縦溝22(図4参照)が形成される。ピストン18の底部19の、インナブレーキパッド2に対向する他端面の外周側に凹部25が設けられている。この凹部25は、インナブレーキパッド2の背面に形成されている凸部26と係合している。この係合によってピストン18は、シリンダ15、ひいてはキャリパ本体6に対して相対回転不能に規制される。また、ピストン18の底部19側の外周面と、シリンダ15の大径開口部9Aの内周面との間には、該シリンダ15内への異物の進入を防ぐダストブーツ27が介装されている。
図1〜図3に示すように、キャリパ本体6のシリンダ15の底壁11側には、内部にモータギヤアッシ29が収容されるハウジング30が取り付けられている。ハウジング30の一端には、開口部30Aが設けられる。開口部30Aには、気密的に閉塞するカバー36が取り付けられている。言い換えれば、ハウジング30の開口部30Aは、カバー36で閉塞されている。ハウジング30とシリンダ部7との間にはシール部材37が設けられている。ハウジング30内は、このシール部材37によって気密性が保持されている。ハウジング30は、シリンダ15の底壁11の外周を覆うようにして、後述する平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45を収容する第1ハウジング部31と、第1ハウジング部31から一体的に有底円筒状に突設され、モータ200を収容する第2ハウジング部32とから構成されている。このように、ハウジング30は、有底円筒状の第2ハウジング部32によって、キャリパ本体6と並ぶように配置したモータ200を収容するように構成される。第1ハウジング部31は、後述する平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45を収容する収容室31Eをカバー36と共に囲む外壁部31F及び底面部31Gと、シリンダ15の底壁11の一部を収容し、後述する回転直動変換機構43のベースナット75の多角形軸部81が挿通される取付開口部31Aと、取付開口部31Aの周りに突設される内側環状壁部31Bと、該内側環状壁部31Bから径方向外側に間隔を置いて突設される外側環状壁部31Cと、該外側環状壁部31Cの周方向に間隔を置いて複数形成される係合溝31Dとを有している。
図1に示すように、キャリパ本体6には、モータ200による駆動力を増強する平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45と、ピストン18を推進すると共にピストン18を制動位置に保持する回転直動変換機構43とが備えられている。平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45は、ハウジング30の第1ハウジング部31内となる収容室31Eに収容されている。
図1〜図3に示すように、平歯多段減速機構44は、ピニオンギヤ46と、第1減速歯車47と、非減速平歯車48、第2減速歯車49とを有している。第1減速歯車47、非減速平歯車48及び第2減速歯車49は、金属、あるいは、繊維強化樹脂等の樹脂である。
ピニオンギヤ46は、筒状に形成されて、モータ200の回転軸201に圧入固定される孔部50と、外周に形成される歯車51とを有している。第1減速歯車47は、ピニオンギヤ46の歯車51に噛合する大径の大歯車53と、大歯車53から軸方向に延出して形成される小径の小歯車54とが一体的に形成されている。第1減速歯車47はシャフト52により後述する支持プレート59及びホルダ205に対して回転自在に支持される。該シャフト52は、その一端がカバー36に近接した支持プレート59に支持され、その他端がホルダ205に支持される。
第1減速歯車47の小歯車54は非減速平歯車48と噛合している。該非減速平歯車48はシャフト55(図2参照)により支持プレート59及びホルダ205に対して回転自在に支持される。該シャフト55は、その一端がカバー36に近接した支持プレート59に支持され、その他端がホルダ205に支持される。第2減速歯車49は、非減速平歯車48に噛合する大径の大歯車56と、大歯車56から軸方向に延出して形成される小径のサンギヤ57とが一体的に形成されている。サンギヤ57は、後述する遊星歯車減速機構45の一部として構成される。第2減速機構49には、その中心に孔49Aが形成され、シャフト58が挿通される。シャフト58は、一端がカバー36に近接して設けた支持プレート59に圧入固定される。第2減速歯車49は、シャフト58により回転自在に支持される。また、第2減速歯車49の大歯車56の円環状壁部には、遊星歯車減速機構45側に突出する環状のストッパ部56Aが形成されている。
遊星歯車減速機構45は、第2減速歯車49のサンギヤ57と、複数個(本実施形態では4個)のプラネタリギヤ60と、インターナルギヤ61と、キャリア62とを有する。各プラネタリギヤ60は、第2減速歯車49のサンギヤ57に噛合される歯車63と、キャリア62から立設されるピン65が回転自在に挿通される孔部64とを有している。各プラネタリギヤ60は、キャリア62の円周上に等間隔に配置される。各プラネタリギヤ60の他端側には、円環状プレート66が配置される。
キャリア62は、円板状に形成され、径方向略中央に多角形孔68が形成される。該キャリア62の外径は、各プラネタリギヤ60の公転軌跡の外径と略同一である。キャリア62の外周側には、周方向に沿って間隔を置いて複数のピン用孔部69が形成されている。各ピン用孔部69にピン65がそれぞれ圧入固定されている。各ピン65は、各プラネタリギヤ60の孔部64に回転自在にそれぞれ挿通されている。そして、キャリア62の多角形孔68と、後述する回転直動変換機構43のベースナット75の多角形軸部81とが嵌合することで、キャリア62とベースナット75とで互いに回転トルクを伝達できるようになっている。
インターナルギヤ61は、各プラネタリギヤ60の歯車63がそれぞれ噛合される内歯71と、該内歯71のカバー36側の一端から連続して径方向に延び各プラネタリギヤ60の軸方向の移動を規制する環状壁部72と、内歯71からシリンダ15の底壁11に向かって延びる筒状壁部73とを備えている。インターナルギヤ61は、筒状壁部73が第1ハウジング部31の内側環状壁部31Bと外側環状壁部31Cとの間の環状空間に挿通されることで、ハウジング30に固定される。インターナルギヤ61内に円環状プレート66が配置される。円環状プレート66は、インターナルギヤ61の内歯71の端面と第1ハウジング部31の内側環状壁部31Bとの間に挟持される。これにより、各プラネタリギヤ60は、インターナルギヤ61の環状壁部72と円環状プレート66との間に配置され、軸方向の移動が規制される。
また、インターナルギヤ61の外周面の他端側には、周方向に間隔を置いて配置された複数の突起部74が突設される。該各突起部74は外方に向かって突設されており、第1ハウジング部31に設けた各係合溝31Dに係合される。インターナルギヤ61は、その各突起部74を第1ハウジング部31の各係合溝31Dに挿入係合することで、回転不能に第1ハウジング部31内に支持される。さらに、インターナルギヤ61は、その環状壁部72のカバー36側に、第2減速歯車49の大歯車56に設けた環状のストッパ部56Aが配置されているために、軸方向へも移動不能に第1ハウジング部31内に支持される。
モータ200は、そのフランジ部202上に配置されたホルダ205により支持される。ホルダ205は、モータ支持部206とリング状支持部207とが一体的に接続されて構成される。モータ支持部206は、第1減速歯車47及び非減速平歯車48とモータ200のフランジ部202との間に配置されてモータ200を支持する構成である。リング状支持部207は、遊星歯車減速機構45のインターナルギヤ61の周りに該インターナルギヤ61を囲むように配置される。モータ支持部206には、モータ200の回転軸201に圧入固定されたピニオンギヤ46が挿通される回転軸用挿通孔208が形成される。該回転軸用挿通孔208の周りには、モータ200の各モータ端子203が挿通される端子用挿通孔が2箇所形成される。各端子用挿通孔は回転軸用挿通孔208の径方向両側に一対形成される。モータ200の各モータ端子203にそれぞれハーネス250、251が接続される。
ホルダ205のモータ支持部206には、回転軸用挿通孔208の周りで遊星歯車減速機構45側とは反対側に、ホルダ側第1凸部211、ホルダ側第2凸部212及びホルダ側第3凸部213が互いに間隔を置いてそれぞれ形成される。これらホルダ側第1凸部211、ホルダ側第2凸部212及びホルダ側第3凸部213は、円柱状でカバー36側に向かって突設される。モータ支持部206には締結孔216が2箇所形成される。各取付ボルト215が、モータ200のフランジ部202の各貫通孔202Aを介してモータ支持部206の締結孔216に締結される。この締結によって、モータ200が、ホルダ205のモータ支持部206に支持される。リング状支持部207は、遊星歯車減速機構45のインターナルギヤ61の外周面に当接するようにして、各突起部74の上方に配置される。
ホルダ205には、モータ支持部206とリング状支持部207との間に円筒状支持部217、217が間隔を置いて2箇所一体的に形成される。各円筒状支持部217上に支持プレート59が配置されて、各取付ボルト218が支持プレート59を介してホルダ205の各円筒状支持部217に締結されることで支持プレート59がホルダ205上に間隔を置いて支持されるようになる。
また、図1〜図3に示すように、カバー36の内面には、カバー側第1円筒状部221、カバー側第2凸部222及びカバー側第3凸部223が互いに間隔を置いてそれぞれ突設される。これらカバー側第1円筒状部221、カバー側第2凸部222及びカバー側第3凸部223は、ホルダ205に設けたホルダ側第1凸部211、ホルダ側第2凸部212及びホルダ側第3凸部213と対向する位置にそれぞれ形成される。そして、カバー36の、カバー側第1円筒状部221、カバー側第2凸部222及びカバー側第3凸部223と、ホルダ205の、ホルダ側第1凸部211、ホルダ側第2凸部212及びホルダ側第3凸部213との間には、弾性部材であるラバー230が介装される。
ラバー230は、第1カップ部231と、第2カップ部232と、第3カップ部233と、これら第1カップ部231、第2カップ部232及び第3カップ部233の開口側端部を一体的に接続する板状のベース部234とから構成される。
そして、ラバー230の第1カップ部231をホルダ205のホルダ側第1凸部211に嵌合し、ラバー230の第2カップ部232をホルダ205のホルダ側第2凸部212に嵌合し、ラバー230の第3カップ部233をホルダ205のホルダ側第3凸部213に嵌合して、ラバー230をホルダ205にユニット化した状態とする。その後、カバー36のカバー側第1円筒状部221を、ラバー230の第1カップ部231に嵌合して、またカバー36のカバー側第2凸部222を、ラバー230の第2カップ部232に当接させ、さらにカバー36のカバー側第3凸部223を、ラバー230の第3カップ部233に当接するようにして、カバー36を被せるようになる。ラバー230のベース部234上に沿って、モータ200の各モータ端子203から延びるハーネス250、251が配置される。
また、図2に示すように、本実施形態では、ハウジング30内に、上述のラバー230とは別の複数種類のラバー281、282、283が設けられている。ホルダ205のモータ支持部206側の端部に断面コ字状支持部280が形成されており、その内部に断面コ字状ラバー281が一体的に配置される。ホルダ205のリング状支持部207で、各円筒状支持部217に近接する位置の外周面と第1ハウジング部31の内壁面との間にブロック状ラバー282がそれぞれ配置される。モータ200の本体側端部と第2ハウジング部32の底壁部との間に円筒状ラバー283が配置されている。
このように、モータ200、平歯多段減速機構44、遊星歯車減速機構45、ラバー230,281,282,283がホルダ205及び支持プレート59に組み付けられることでモータギヤアッシー29を構成する。モータギヤアッシー29は、ラバー230,281,282,283によってハウジング30及びカバー36に対して宙吊り状態、いわゆるフローティング状態で取り付けられる。言い換えれば、モータギヤアッシー29は、ホルダ205がハウジング30及びカバー36に当接することなく、ラバー230,281,282,283を介してハウジング30及びカバー36に固定されている。このように、モータギヤアッシー29がラバー230,281,282,283を介してハウジング30及びカバー36に固定されることで、モータ200、平歯多段減速機構44、及び遊星歯車減速機構45で発生する振動をハウジング30またはカバー36に伝達することが抑制され、振動に伴う音の発生を抑制することができる。
なお、本実施形態では、ピストン25を推進する回転力を得るために、モータ200による駆動力を増強する減速機構としての平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45を採用したが、遊星歯車減速機構45だけで構成しても良い。また、サイクロイド減速機構や波動減速機等、他の公知技術による減速機を遊星歯車減速機構45と組み合せても良い。
次に、回転直動変換機構43を、図1、図4〜図7に基づいて具体的に説明する。なお、以下の説明において、説明の便宜上、図1及び図4の右方を一端側として、左方を他端側として適宜説明する。
該回転直動変換機構43は、平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45からの回転運動、すなわちモータ200の回転を直線方向の運動(以下、便宜上直動という)に変換し、ピストン18に推力を付与して、該ピストン18を制動位置で保持するものである。該回転直動変換機構43は、平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45からの回転運動が伝達されて回転自在に支持される、回転伝達部材であるベースナット75と、該ベースナット75の雌ねじ部97にねじ嵌合され、ベースナット75の回転によって回転可能に、且つ直動可能に支持される、シャフト部材であるプッシュロッド102と、該プッシュロッド102にねじ嵌合されて、該プッシュロッド102の回転によってピストン18へ軸方向への推力を付与するボールアンドランプ機構127とを備えている。該回転直動変換機構43は、キャリパ本体6のシリンダ15とピストン18との間に収容される。
図4及び図5に示すように、ベースナット75は、円柱部76と、該円柱部76の他端部に一体的に設けられるナット部77とから構成される。シリンダ15の底壁11には、ワッシャ80が当接するように配置されている。ベースナット75の円柱部76は、ワッシャ80の挿通孔80A及びシリンダ15の底壁11に設けた孔部10のそれぞれに挿通される。該円柱部76の先端には、多角形軸部81が一体的に接続されている。該多角形軸部81が、第1ハウジング部31の取付開口部31Aを挿通してキャリア62の多角形孔68に嵌合される。ベースナット75のナット部77は有底円筒状に形成される。該ナット部77は、円形状壁部82と、該円形状壁部82の他端面から一体的に突設される円筒部83とから構成される。円形状壁部82の外周面が、シリンダ15の小径開口部9Bの内壁面に近接する。円形状壁部82の一端面の径方向中央部から小径円形状壁部84が突設される。該小径円形状壁部84の一端面から円柱部76が一端側に向かって突設される。円柱部76の外径は、ナット部77の円筒部83の外径よりも小径に形成される。
ベースナット75のナット部77に設けた小径円形状壁部84周りの円形状壁部82と、ワッシャ80との間にスラストベアリング87が配置される。そして、ベースナット75は、スラストベアリング87により回転自在にシリンダ15の底壁11に支持される。ベースナット75の円柱部76の外周面と、シリンダ15の底壁11の孔部10との間には、シール部材88及びスリーブ89がそれぞれ設けられる。これにより、液圧室21の液密性が保持される。ベースナット75の円柱部76と、多角形軸部81との間に設けた環状溝に、止め輪90が装着されている。該止め輪90により、ベースナット75は、軸方向への移動が規制される。
ベースナット75のナット部77の円筒部83は、一端側に配置される大径円筒部91と、他端側に配置される小径円筒部92とから構成される。大径円筒部91の一端が、円形状壁部82に一体的に接続される。大径円筒部91の周壁部には、径方向に延びる貫通孔95が複数形成される。貫通孔95は周方向に間隔を置いて複数形成される。ナット部77の小径円筒部92の内周面に雌ねじ部97が形成される。小径円筒部92の周壁部の他端面には、周方向に間隔を置いて複数の係止溝98がそれぞれ形成される。本実施形態では、係止溝98は4箇所形成される。
ベースナット75の小径円筒部92の各係止溝98のいずれかに、一方向へ回転に対して回転抵抗を付与する、一方向クラッチとしての第1スプリングクラッチ100の先端部100Aが嵌合される。該第1スプリングクラッチ100は、径方向外方に向いた先端部100Aと、該先端部100から連続して一重に巻かれたコイル部100Bとから構成される。そして、第1スプリングクラッチ100の先端部100Aが、ベースナット75の小径円筒部92の各係止溝98のいずれかに嵌合される。図6及び図7も参照して、第1スプリングクラッチ100のコイル部100Bは、後で詳述するプッシュロッド102の雄ねじ部103の他端側のねじ溝103Aに巻き付けられる。該第1スプリングクラッチ100は、プッシュロッド102がベースナット75に対してシリンダ15の底壁11側へ移動するときの回転方向(リリース時の回転方向)に対して回転抵抗トルクを付与する一方、プッシュロッド102がベースナット75に対してピストン18の底部19側に移動するときの回転方向(アプライ時の回転方向)への回転は許容するように構成されている。
ベースナット75のナット部77内に、プッシュロッド102の一端側が挿入される。プッシュロッド102の一端側には、ベースナット75の小径円筒部92の雌ねじ部97にねじ嵌合される雄ねじ部103が形成される。該プッシュロッド102の雄ねじ部103と、ベースナット75の小径円筒部92の雌ねじ部97との間の第1のねじ嵌合部105は、ピストン18からプッシュロッド102への軸方向荷重によってベースナット75が回転しないように、その逆効率が0以下になるように、すなわち、不可逆性が大きなねじ嵌合部として構成されている。また、図4から解るように、プッシュロッド102の、ベースナット75との第1のねじ嵌合部105から他端側の雄ねじ部103のねじ溝103A(図6及び図7参照)に、第1スプリングクラッチ100のコイル部103Aが巻き付けられている。
一方、プッシュロッド102の他端側には、後述するボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151に設けた雌ねじ部162にねじ嵌合する雄ねじ部104が形成される。ここでも、プッシュロッド102の雄ねじ部104と、回転直動ランプ151に設けた雌ねじ部162との間の第2のねじ嵌合部106は、ピストン18から回転直動ランプ151への軸方向荷重によってプッシュロッド102が回転しないように、その逆効率が0以下になるように、すなわち、不可逆性が大きなねじ嵌合部として構成されている。
プッシュロッド102には、一端側の雄ねじ部103と他端側の雄ねじ部104との間にスプライン軸108が設けられる。一端側の雄ねじ部103の外径は、他端側の雄ねじ部104の外径よりも大径に形成される。一端側の雄ねじ部103の外径は、スプライン軸108の外径よりも大径に形成される。プッシュロッド102の雄ねじ部104から他端側には、小径の円柱部107が連続して形成される。該円柱部107の外周面には、ローレット加工が施されている。該プッシュロッド102の円柱部107に、ストッパ部材172が圧入により一体的に固定される。該ストッパ部材172により、回転直動ランプ151のプッシュロッド102に対する相対回転範囲を定めるようにしている。プッシュロッド102の円柱部107の他端面が、ピストン18の底部19に対向する。
ベースナット75のナット部77を構成する円筒部84の小径円筒部92の外周面と、ピストン18の円筒部20の内周面との間に、リテーナ110が軸方向に移動自在に支持される。リテーナ110は、一端側に円環状壁部111を有し、全体が略円筒状に構成される。リテーナ110の外周壁には複数の貫通孔114、115が形成される。
リテーナ110内には、一端側から順に、一端側ワッシャ120、コイルばね121、他端側ワッシャ122、支持プレート123、第2スプリングクラッチ124、回転部材125、スラストベアリング126、ボールアンドランプ機構127、スラストベアリング128及び環状押圧プレート129が配置されている。一端側ワッシャ120は、リテーナ110の円環状壁部111の他端面に当接するように配置される。
一端側ワッシャ120と、他端側ワッシャ122との間に、コイルばね121が介装される。該コイルばね121は、一端側ワッシャ120と他端側ワッシャ122とを離間させる方向に付勢している。リテーナ110の周壁部の他端面には、所定深さの係止溝132が周方向に間隔を置いて複数形成される。各係止溝132は、一端側に位置する幅狭係止溝133と、他端側に位置する幅広係止溝134とが連続して構成される。係止溝132は、本実施形態では3箇所形成される。リテーナ110の他端部には、ピストン18の底部19に向かう複数のツメ部136が形成されている。リテーナ110内に、一端側ワッシャ120、コイルばね121、他端側ワッシャ122、支持プレート123、第2スプリングクラッチ124、回転部材125、スラストベアリング126、ボールアンドランプ機構127、スラストベアリング128及び環状押圧プレート129を収容した後、リテーナ110の各ツメ部136を、後述する環状押圧プレート129の収容凹部171に向かって折り込むことで、上述した多数の構成部材をリテーナ110内に一体的に配置してアッシ化することができる。
他端側ワッシャ122の他端面に、環状の支持プレート123が当接するように配置される。該支持プレート123の外周面には、周方向に沿って間隔を置いて複数の突起片137が設けられる。本実施形態では、突起片137は3箇所形成される。該支持プレート123の各突起片137が、リテーナ110の各幅狭係止溝133及びピストン18の内周面に設けた各回転規制用縦溝22にそれぞれ嵌合される。この結果、リテーナ110は、一端側ワッシャ120、コイルばね121、他端側ワッシャ122及び支持プレート123と共に、ピストン18に対して相対回転不能に、且つ軸方向へ相対移動可能に支持される。
リテーナ110内において、支持プレート123の他端側には、回転部材125が回転自在に支持される。該回転部材125は、スプライン孔140を有する大径円環状部141と、大径円環状部141の一端面から一体的に突設される小径円筒状部142とから構成される。小径円筒状部142の一端部が、支持プレート123の他端面に当接される。回転部材125内にプッシュロッド102が挿通されて、回転部材125の大径円環状部141のスプライン孔140と、プッシュロッド102のスプライン軸108とがスプライン結合される。これにより、回転部材125とプッシュロッド102とは、相互の回転トルクが伝達されるようになる。
回転部材125の小径円筒状部142の外周面に、一方向の回転に対して回転抵抗を付与する第2スプリングクラッチ124が巻回される。該第2スプリングクラッチ124は、第1スプリングクラッチ100と同様に、径方向外方に向いた先端部124Aと、該先端部124Aから連続して一重に巻かれたコイル部124Bとから構成される。そして、第2スプリングクラッチ124の先端部124Aが、リテーナ110の各幅狭係止溝133のいずれかに嵌合され、コイル部124Bが回転部材125の小径円筒状部142の外周面に巻き付けられる。該第2スプリングクラッチ124は、回転部材125(プッシュロッド102)がリテーナ110に対してピストン18の底部19側へ移動するときの回転方向(アプライ時の回転方向)に対して回転抵抗トルクを付与する一方、シリンダ15の底壁11側に移動するときの回転方向(リリース時の回転方向)への回転は許容するように構成されている。
なお、第2スプリングクラッチ124のアプライ時における回転抵抗トルクは、プッシュロッド102の雄ねじ部103と、ベースナット75の雌ねじ部97との間の第1のねじ嵌合部105の回転抵抗トルクよりも大きくなるように設定される。該回転部材125の他端側には、スラストベアリング126を介してボールアンドランプ機構127が配置される。該回転部材125は、ボールアンドランプ機構127に対してスラストベアリング126を介して回転自在に支持される。
ボールアンドランプ機構127は、固定ランプ150と、回転直動ランプ151と、固定ランプ150と回転直動ランプ151との間に介装される各ボール152とを備えている。固定ランプ150は、回転部材125の他端側にスラストベアリング126を介して配置される。固定ランプ150は、円板状の固定プレート154と、該固定プレート154の外周面から周方向に沿って間隔を置いて複数突設された凸部155とから構成される。本実施形態では、凸部155は3箇所形成される。固定プレート154の径方向中央には、プッシュロッド102が挿通される挿通孔156が形成される。固定ランプ150は、その各凸部155が、リテーナ110の各幅広係止溝134に嵌合されると共にピストン18の内周面に設けた各回転規制用縦溝22に嵌合することで、ピストン18に対して相対回転不能に、且つ軸方向に移動自在に支持される。固定プレート154の他端面には、周方向に沿って所定の傾斜角を有して円弧状に延びるとともに径方向において円弧状断面を有する複数、本実施形態においては3つのボール溝157が形成されている。
回転直動ランプ151は、円環状の回転直動プレート160と、該回転直動プレート160の他端面の径方向中央部分から一体的に突設される円筒部161とから構成される。回転直動プレート160から円筒部161に至る内周面には、プッシュロッド102の雄ねじ部104がねじ嵌合される雌ねじ部162が形成される。回転直動プレート160の、固定ランプ150の固定プレート154との対向面には、周方向に沿って所定の傾斜角を有して円弧状に延びるとともに径方向において円弧状断面を有する複数、本実施形態においては3つのボール溝163が形成されている。なお、固定ランプ150の各ボール溝157及び回転直動ランプ151の各ボール溝163は、周方向に沿った傾斜の途中に窪みを付けたり、傾斜を途中で変化させて構成するようにしても良い。
図4及び図5に示すように、ボール152は、回転直動ランプ151(回転直動プレート160)の各ボール溝163と、固定ランプ150(固定プレート154)の各ボール溝157との間にそれぞれ介装されている。そして、回転直動ランプ151に回転トルクを加えると、回転直動プレート160の各ボール溝163と固定プレート154の各ボール溝157との間の各ボール152が転動することで、回転直動プレート160と固定プレート154との間の回転差により、回転直動プレート160と固定プレート154との間の軸方向の相対距離が変動するようになっている。
回転直動プレート160の円筒部161周りの他端面には、スラストベアリング128を介して環状押圧プレート129が配置される。環状押圧プレート129の外周面には、周方向に沿って間隔を置いて複数の凸部168が突設される。本実施形態では、凸部168は3箇所形成される。環状押圧プレート129は、その各凸部168が、リテーナ110の各幅広係止溝134に嵌合されると共にピストン18の内周面に設けた各回転規制用縦溝22に嵌合することでピストン18に対して相対回転不能に、且つ軸方向に移動自在に支持される。
ボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151は、スラストベアリング128を介して回転自在に環状押圧プレート129により支持される。環状押圧プレート129の他端面が、ピストン18の底部19に当接することで、ピストン18を押圧するようになる。環状押圧プレート129の他端面には、各凸部168間の外周部に、リテーナ110の、内方に折り込まれた各ツメ部136を収容する収容凹部171がそれぞれ形成される。
さらに、図1に示すように、モータ200には、該モータ200を駆動制御する電子制御装置からなるECU175が電気的に接続されている。ECU175には、駐車ブレーキの作動・解除を指示すべく操作されるパーキングスイッチ176が接続されている。また、ECU175には、図示しない車両側からの信号に基づきパーキングスイッチ176の操作によらずに作動することもできる。
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1の作用を説明する。
まず、ブレーキペダル(図示略)の操作による通常の液圧ブレーキとしてのディスクブレーキ1の制動時における作用を説明する。
運転者によりブレーキペダルが踏み込まれると、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧がマスタシリンダから液圧回路(共に図示略)を経てキャリパ4内の液圧室21に供給される。これにより、ピストン18がピストンシール16を弾性変形させながら非制動時の原位置から前進(図1の左方向に移動)して、インナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付ける。そして、キャリパ本体6は、ピストン18の押圧力の反力により、ブラケット5に対して図1における右方向に移動して、爪部8に取り付けられたアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押し付ける。この結果、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両の制動力が発生することになる。
そして、運転者がブレーキペダルを解放すると、マスタシリンダからの液圧の供給が途絶えて液圧室21内の液圧が低下する。これにより、ピストン18は、ピストンシール16の弾性変形の復元力によって原位置まで後退して、制動力が解除される。ちなみに、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の摩耗に伴いピストン18の移動量が増大して、ピストンシール16の弾性変形の限界を越えると、ピストン18とピストンシール16との間に滑りが生じる。この滑りによってキャリパ本体6に対するピストン18の原位置が移動して、パッドクリアランスが一定に調整されるようになっている。
次に、車両の停止状態を維持するための作用の一例である駐車ブレーキとしての作用を説明する。
まず、駐車ブレーキの解除状態からパーキングスイッチ176が操作されて駐車ブレーキを作動(アプライ)させる際に、ECU175は、モータ200を駆動して、平歯多段減速機構44を介して遊星歯車減速機構45のサンギヤ57を回転させる。このサンギヤ57の回転により、各プラネタリギヤ60を介してキャリア62が回転する。そして、キャリア62からの回転トルクがベースナット75に伝達される。
次に、第2スプリングクラッチ124による回転部材125(プッシュロッド102)のリテーナ110(ピストン18)に対するアプライ方向への回転抵抗トルクが、プッシュロッド102とベースナット75との間の第1のねじ嵌合部105による回転抵抗トルクよりも大きくなるように設定されている。これにより、第1スプリングクラッチ100による、プッシュロッド102のベースナット75に対するアプライ方向への回転が許容される。このため、ベースナット75のアプライ方向への回転により、第1のねじ嵌合部105が相対的に回転、すなわちベースナット75だけがアプライ方向に回転する一方、プッシュロッド102が軸方向に沿ってピストン18の底部19側に向かって前進する。
その結果、プッシュロッド102と共にリテーナ110を含むリテーナ110内の一端側ワッシャ120、コイルばね121、他端側ワッシャ122、支持プレート123、第2スプリングクラッチ124、回転部材125、スラストベアリング126、ボールアンドランプ機構127、スラストベアリング128及び環状押圧プレート129の各構成部材が一体となって軸方向に沿ってピストン18の底部19側に向かって前進する。これら構成部品の前進によって、環状押圧プレート129がピストン18の底部19に当接して、ピストン18が前進してピストン18の底部19の一端面がインナブレーキパッド2に当接する。
さらにモータ200のアプライ方向への回転駆動が継続されると、ピストン18は、プッシュロッド102の移動によりインナ及びアウタブレーキパッド2、3を介してディスクロータDを押圧し始める。この押圧力が発生し始めると、今度は、その押圧力に対する反力となる軸力によって、プッシュロッド102とベースナット75との間の第1のねじ嵌合部105における回転抵抗トルクが増大して、第2スプリングクラッチ124の回転抵抗トルクよりも大きくなる。この結果、ベースナット75の回転に伴ってプッシュロッド102が、回転部材125と共にアプライ方向へ回転し始める。すると、ディスクロータDの押圧力からの反力によりプッシュロッド102とボールアンドランプ機構127との間の第2のねじ嵌合部106における回転抵抗トルクもディスクロータDの押圧力の反力により増大しているために、プッシュロッド102のアプライ方向への回転トルクが、第2のねじ嵌合部106を介してボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151に伝達される。
このとき、プッシュロッド102のアプライ方向への回転トルクは、第2のねじ嵌合部106にて相対回転差(回転直動ランプ151が、プッシュロッド102よりも若干遅れて回転する)を生じながら、ボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151に伝達されるようになる。そして、ボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151が、アプライ方向に回転しつつ各ボール152が転動して、回転直動ランプ151と固定ランプ150とが、コイルばね121の付勢力に抗して離間することで、環状押圧プレート129が、ピストン18の底部19をさらに押圧する。これによって、インナ及びアウタブレーキパッド2、3によるディスクロータDを押圧力が増大する。
なお、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、最初に、プッシュロッド102とベースナット75との間の第1のねじ嵌合部105が相対回転して、プッシュロッド102が前進し、ピストン18を前進させてディスクロータDへの押圧力を得る。このため、第1のねじ嵌合部105の作動により、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の経時的な摩耗によって変化するピストン18に対するプッシュロッド102の原位置を調整することができる。
そして、ECU175は、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3からディスクロータDへの押圧力が所定値に到達するまで、例えば、モータ200の電流値が所定値に達するまでモータ200を駆動する。その後、ECU175は、ディスクロータDへの押圧力が所定値に到達したことをモータ200の電流値が所定値に達したことによって検出すると、モータ200への通電を停止する。すると、ボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151の回転に伴う直動が停止される。
最終的に、回転直動ランプ151に対して、ディスクロータDからの押圧力の反力が作用するが、プッシュロッド102とボールアンドランプ機構127との間の第2のねじ嵌合部106は、互いに逆作動しないねじ嵌合部として構成され、また、プッシュロッド102とベースナット75との間の第1のねじ嵌合部105も、互いに逆作動しないねじ嵌合部で構成され、さらには、第1スプリングクラッチ100により、プッシュロッド102にはベースナット75に対してリリース方向への回転抵抗トルクが付与されているので、ピストン18が制動位置に保持される。これにより、制動力の保持がなされて駐車ブレーキの作動が完了する。
次に、駐車ブレーキを解除(リリース)する際には、パーキングスイッチ176のパーキング解除操作に基づいて、ECU175により、モータ200がピストン18をディスクロータDから離間させるリリース方向に回転駆動される。これにより、平歯多段減速機構44及び遊星歯車減速機構45が、ピストン18を戻すリリース方向へ回転駆動して、キャリア62を介してベースナット75へそのリリース方向への回転駆動が伝達される。
このとき、プッシュロッド102には、ディスクロータDからの押圧力の反力が作用している、言い換えれば、プッシュロッド102には、プッシュロッド102とボールアンドランプ機構127との間の第2のねじ嵌合部106の回転抵抗トルクと、プッシュロッド102とベースナット75との間の第1のねじ嵌合部105の回転抵抗トルクと、第1スプリングクラッチ100による、プッシュロッド102のベースナット75に対するリリース方向への回転抵抗トルクとが付与されている。このため、ベースナット75からのリリース方向の回転トルクは、プッシュロッド102(回転部材125含む)に伝達されると共にボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151に伝達される。その結果、回転直動ランプ151はリリース方向に回転だけして、回転方向の初期位置まで戻る。
次に、プッシュロッド102への反力が減少して、プッシュロッド102とボールアンドランプ機構127との間の第2のねじ嵌合部106の回転抵抗トルクが、第1スプリングクラッチ100によるベースナット75に対するプッシュロッド102のリリース方向への回転抵抗トルクに、プッシュロッド102とベースナット75との間の第1のねじ嵌合部105の回転抵抗トルクを加えた回転抵抗よりも小さくなり、回転直動ランプ151はこれ以上リリース方向には回転できないために、第2のねじ嵌合部106だけが相対回転して、ボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151が、リテーナ110と共に軸方向に沿ってシリンダ15の底壁11側(リリース方向)に移動して軸方向の初期位置に戻る。
さらにモータ200がリリース方向へ回転駆動されて、ベースナット75のリリース方向への回転が継続されると、ボールアンドランプ機構127の回転直動ランプ151が軸方向の初期位置に戻りつつ、プッシュロッド102とボールアンドランプ機構127との間の第2のねじ嵌合部106が初期の螺合位置まで戻り、プッシュロッド102のリリース方向への回転が停止される。
さらにベースナット75のリリース方向への回転が継続されると、プッシュロッド102が、第1スプリングクラッチ100によるベースナット75に対するプッシュロッド102のリリース方向への回転抵抗トルクに抗して、軸方向に沿ってシリンダ15の底壁11側(リリース方向)に向かって後退する。その結果、プッシュロッド102と共にリテーナ110を含むリテーナ110内の一端側ワッシャ120、コイルばね121、他端側ワッシャ122、支持プレート123、第2スプリングクラッチ124、回転部材125、スラストベアリング126、ボールアンドランプ機構127、スラストベアリング128及び環状押圧プレート129の各構成部材が一体となって軸方向に沿ってシリンダ15の底壁11側(リリース方向)に向かって後退する。そして、ピストン18は、ピストンシール16の弾性変形の復元力によって原位置まで後退して制動力が完全に解除される。
尚、パッド交換モードの場合、プッシュロッド102は通常時よりも後退し、フルリリース状態となる。この際、ECU175は、プッシュロッド102の端部がシャフト部材75(アジャスタ)の底に接触した時のモータ電流を検知して、モータを停止させる。モータ電流を停止した後でもモータが慣性で回転し、プッシュロッド102の端部がシャフト部材75の底に噛み込む。そうすると、次にアプライを行う際、高トルクでモータを回転させる必要が生じ、ひいては、他の部品を破損させるおそれがある。
そこで、パッド交換モードでしか使用されないねじストローク位置(スプライン軸108付近のねじ切り開始部周辺)の表面粗さを大きくする。該表面粗さの部分に第1スプリングクラッチ100が摺動することにより発生トルクを大きくできる。また、これにより、モータ電流が上昇するため、該電流が上昇した時点で(プッシュロッド102の端部がシャフト部材75に噛み込む前に)電流を停止する、という制御を行うことができる。従って、フルリリース状態において、パッドを交換する為のクリアランスを確保することができる。尚、該表面粗さの大きさを調整することにより、発生トルクの大きさも調整することができる。
以上のように、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、第1スプリングクラッチ100のコイル部100Bが、プッシュロッド102の雄ねじ部103のねじ溝103Aに巻き付けられているので、プッシュロッド102にコイル部100Bを巻き付けるためのスペースを確保する必要がなく、構造をコンパクトにできる。しかも、リリース時、プッシュロッド102へ回転抵抗トルクを付与する際、第1スプリングクラッチ100のコイル部100Bが、ねじ溝103Aの両壁2面に接触する為、接触面積が大きくなって回転抵抗トルクを大きくできる。よって、第1スプリングクラッチ100の巻き数を減少させても、必要な抵抗トルクを保持することができる。
また、第1スプリングクラッチ100がねじ溝103Aに沿って移動し、第1スプリングクラッチ100の先端部100Aとベースナットの係止溝98の位置関係が変化しない為、係止溝98を短く設定でき省スペース化できる。
また、第1スプリングクラッチ100がねじ溝103Aに沿って移動する為、摺動部が一カ所に集中せず分散できるため、摺動部の耐久性が向上する。
また、第1スプリングクラッチ100を雄ねじ部103に組付ける際、ねじ溝103Aに沿って回し入れる事が出来るため、第1スプリングクラッチ100の拡張量や変形量を抑える事ができる。
また、摺動部が一か所に集中しない為、ねじ溝103Aの摺動位置によって表面粗さ、形状を変化させれば、ストローク位置に対する発生トルクを調整することができる。