JP2016109442A - セシウムイオン吸着用繊維構造物 - Google Patents

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健太郎 三谷
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富也 橋本
耕二 吉田
Koji Yoshida
耕二 吉田
眞矢 樋口
Shinya Higuchi
眞矢 樋口
優子 秋川
Yuko Akigawa
優子 秋川
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Kiyoshi Nakagawa
清 中川
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Abstract

【課題】セシウムイオン吸着剤を強固に固着し、脱落が非常に少なく優れたセシウムイオン吸着能を有する繊維構造物およびその製造方法を提供する。【解決手段】30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物であって、セシウムイオン吸着剤が前記繊維の低融点成分及びバインダーで固着されていることを特徴とするセシウムイオン吸着用繊維構造物。【選択図】なし

Description

本発明は、セシウムイオン吸着剤の脱落の少ないセシウムイオン吸着用繊維構造物に関するものである。
ゼオライト、プルシアンブルーは、放射性元素であるセシウムイオンの吸着能が優れていることが知られている。東北地方太平洋沖地震に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、その性能からセシウムイオン吸着剤として非常に注目されてきており、現在、その放射能の除染事業が進む中、繊維素材にこれらを担持させた吸着材料としてのニーズが高まっている。
繊維素材に各種吸着剤を担持させる方法としては、各種吸着剤をそのまま付加した後に圧延して担持させる圧延方法、各種吸着剤に一次結合剤(バインダー)と併用して担持させる粘着法、噴霧乾燥法などが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、担持した吸着剤の脱落を防止するために、吸着剤担持後に、二次結合剤として、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリル酸エステルなどの接着性バインダーを処理して繊維素材の表面を覆う方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、前記圧延方法、粘着法、噴霧乾燥法などでは、得られる繊維素材の表面における吸着剤濃度を高濃度にできない又は該吸着剤がバインダーに覆われているために目標とする吸着性能が得られないなどの問題があった。さらには、担持されている吸着剤が脱落することにより、環境汚染が拡大する恐れがあった。特にセシウムイオン吸着用繊維構造体においては、該繊維構造体より放射性セシウムを高濃度に吸着した吸着剤が脱落するとさらなる環境汚染を起こす為、深刻な事態となりうるとの問題があった。このような脱落防止のためにセシウムイオン吸着能の更なる低下があるにも関わらず、やむなく一次結合剤、二次結合剤の目的で使用されるバインダーの固着量をセシウムイオン吸着剤の固着量以上に固着しなければならないのが現状である。
特表2000−506827号公報 特開2001−164326号公報 特開2000−237604号公報
本発明の課題は、上記のような従来技術の欠点を解消することであり、本発明はセシウムイオン吸着剤を強固に固着し、脱落が非常に少なく優れたセシウムイオン吸着能を有する繊維構造物を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セシウムイオン吸着剤を繊維構造物に固着させるに際し、特定の繊維素材及びバインダーを用い、好ましくは特定のセシウムイオン吸着剤、特定のバインダー、特定の温度で熱融着処理することにより、セシウムイオン吸着能に優れ、且つ、吸着剤の脱落が非常に少ない繊維構造物となることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の(1)〜(8)を要旨とするものである。
(1)30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物であって、セシウムイオン吸着剤が前記繊維の低融点成分及びバインダーで固着されていることを特徴とするセシウム吸着用繊維構造物。
(2)前記セシウムイオン吸着剤がプルシアンブルー型錯体であることを特徴とする(1)記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(3)前記バインダーがポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂からなる群より選択された1種以上の樹脂で構成されていることを特徴とする(1)に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(4)前記バインダーの固着量がセシウムイオン吸着剤100質量部に対して10〜100質量部であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(5)前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維が、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ乳酸系繊維からなる群より選択された1またはそれ以上の繊維で構成されていることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(6)前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点成分が、5質量%以上含まれていることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(7)前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点成分の融点が、110〜190℃であることを特徴とする(1)〜(6)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(8)前記セシウムイオン吸着用繊維構造物がセシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート又はセシウムイオン吸着用キャッピングシートであることを特徴とする(1)〜(7)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物に、セシウムイオン吸着剤及びバインダーを付与してから特定の熱融着処理を行うことにより、熱融着性繊維等とバインダーの相乗効果でセシウムイオン吸着剤を強固に固着するので、少ないバインダー量でセシウム吸着性能に優れた吸着材の脱落が非常に少ない繊維構造物を提供することが可能となる。さらには、例えば、透湿防水フィルムの両面に、ニードルパンチ法などに得られる後述する不織布を積層することにより、セシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート、セシウムイオン吸着用キャッピングシートを提供することが可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維構造物は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含むことが必要である。
30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の組み合わせは特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸繊維などの融点の異なるポリエステル繊維、ポリアミド6とポリアミド66などの融点の異なるポリアミド繊維、ポリエステル繊維とポリエチレン繊維、ポリエステル繊維とポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維とポリエチレン繊維、ポリアミド繊維とポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維と第三成分を共重合し低融点化したポリエステル繊維、熱可塑性繊維とセルロース系繊維や動物性繊維などの天然繊維、熱可塑性繊維と活性炭繊維、または上記繊維を構成する複数のポリマーをサイドバイサイド、芯鞘構造等の複合構造とした繊維、上記天然繊維などを1種または2種以上複合したものなどが挙げられる。本発明においては、後述するように低融点側の繊維または低融点側のポリマーを含む繊維を熱融着性繊維と呼ぶことがある。
なお、30℃以上の融点差とは、2種以上の繊維の場合はその2種以上の樹脂の融点差をいい、融点が異なる樹脂からなる複合構造とした繊維の場合はその異なる樹脂の融点差をいい、単一樹脂からなる繊維及び/又は融点が異なる樹脂からなる複合構造とした繊維の組み合わせの場合は、最も高い融点と最も低い融点との差をいう。
30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物に、後述するセシウムイオン吸着剤及びバインダーを付与した後、所定の熱融着温度に加熱することで、低融点側の繊維若しくはポリマー(以下、低融点成分と呼ぶことがある。)が軟化による融着性とバインダーとの相乗効果により、少ないバインダー量でセシウムイオン吸着性能に優れた吸着材の脱落が非常に少ない繊維構造物を提供することが可能となる。
該融点差が30℃未満であると、温度差が少ないために、加工温度のブレにより低融点側の繊維または低融点側のポリマーが融着時に繊維構造を保持するための非融着性繊維も溶解し、セシウムイオンを含む処理水との接触面積が減少するため吸着能が低下するので好ましくない。
なお、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維などにおいては、セシウムイオン吸着剤の固着性の観点から、表面をレーザー処理、紫外線照射、プラズマ処理、電子線処理などにより、水酸基、硫酸基などの官能基を導入したものが好ましい。
本発明における30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の形態は特に限定されないが、長繊維、短繊維、仮撚加工糸、紡績糸、スリットヤーンなどが挙げられる。
さらに、30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点成分の融点は、110〜190℃が好ましい。後述するように、本発明の繊維構造物にセシウムイオン吸着剤を固着する際に熱融着処理する必要があるため、該低融点成分の融点を110〜190℃とすることで、該熱融着処理においても繊維構造物が形態をより良好に保持できるとともに、保管時の熱安定性がより高く好ましい。
30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点側の繊維及び低融点側のポリマーの混率は、繊維構造物のうち5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、10〜90質量%がさらに好ましく、20〜80質量%がいっそう好ましい。該混率を5質量%以上とすることで、低融点成分によるセシウムイオン吸着剤の接着力が適度なものとなるとともに、セシウムイオン吸着剤付与処理時に繊維構造物の空隙を良好に保持することが可能であり、さらには低融点成分の溶解時に繊維構造物の空隙を閉塞させたり、セシウムイオンを含む処理水との接触面積が減少することが少なく好ましい。
本発明の繊維構造物は、繊維からなる構造物であれば特に限定されないが、例えば、綿からなる成形品、糸、織編物、不織布、紙等の形態が挙げられる。さらには、前記形態の構造物を含む、セシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート、セシウムイオン吸着用キャッピングシートが挙げられる。これらのうち、繊維構造物の高い空隙によりセシウムイオン吸着剤を良好に保持するとの観点から、不織布または不織布を含む繊維構造物が特に好ましい。
本発明のセシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート、セシウムイオン吸着用キャッピングシートとしては、例えば、透湿防水フィルムの両面に、ニードルパンチ法などで得られる前記不織布等を積層した、セシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート、セシウムイオン吸着用キャッピングシートが挙げられる。前記遮水シート用保護シート、前記キャッピングシートは、通常は廃棄物処理場等において投棄された大量の廃棄物に由来する汚染水の漏水をふせぐものである。本発明のセシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート、セシウムイオン吸着用キャッピングシートにおいては、それらに加え、ニードルパンチ不織布等のある程度の厚みかつ空隙を多く有している繊維構造物であって、セシウムイオン吸着剤を強固に固着した繊維構造物を含むので、特に、東北地方太平洋沖地震に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故後に、福島県及びその周辺地域で発生した瓦礫を処理する廃棄物処分場等においては、漏水により廃棄物中の放射性セシウムが土壌を汚染するとの疑念や、廃棄物中に放射性セシウムが含まれている場合の実際の土壌汚染対策に対処することができ好ましい。
不織布は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維、すなわち低融点成分および高融点成分からなる繊維ウェブから公知の方法にて製造することができる。例えば、繊維ウェブの作成方法は、湿式でも乾式でも構わず、たとえば、カード方式、エアレイド方式、水流交絡方式、ニードルパンチ方式など、公知の繊維ウェブ作成方法のいずれでも適用できる。なお、水に溶解しているセシウムイオンを効率良く吸着するために、空隙率の高い短繊維不織布が好ましい。
本発明で用いられる繊維構造物を構成する繊維の単繊維繊度は特に限定されないが、セシウムイオン吸着剤の固着性の観点から、3dtex以下が好ましく、2dtex以下がより好ましい。単繊維繊度の繊度を3dtex以下とすることにより、繊維構造物の空隙を含めた表面積がより向上するため、セシウムイオン吸着剤の担持率がより向上すると推測される。
本発明のセシウムイオン吸着剤とは、セシウムイオンを吸着するものであれば特に限定されないが、例えば、セシウムイオン吸着性錯体、ゼオライト等が挙げられる。セシウムイオン吸着性錯体とは、例えば、プルシアンブルー型錯体、フタロシアニン型錯体などが挙げられる。
プルシアンブルー型錯体は、一般式AM[Fe(CN)]y・zHO(但し、式
中、Aは陽イオン、Mは金属原子を示す)で表される錯体である。Aの陽イオンとしては、アンモニウムイオンなどが挙げられる。Mの金属原子としては、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子が挙げられる。前述の組み合わせの中でも、セシウムイオンの吸着能及び挟雑物共存状態におけるセシウムイオンの選択性の観点から、Fe[Fe(CN)]、FeNH[Fe(CN)
]が特に好ましい。
プルシアンブルー型錯体の平均一次粒子径は特に限定されないが、セシウムイオン吸着能及び加工適正の観点から、0.001〜100μmが好ましく、0.001〜10μmがより好ましく、0.001〜1μmがさらに好ましく、0.001〜0.05μmがいっそう好ましい。
フタロシアニン型錯体としては、銅フタロシアニン、塩素化銅フタロシアニン、臭素化塩素化銅フタロシアニン、アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。より具体的には、銅フタロシアニンとしては、例えば、Pigment Blue15,Pigment Blue15:3,Pigment Blue76、Ingrain Blue1,Direct Blue86が挙げられる。塩素化銅フタロシアニンとしては、例えば、Pigment Green7が挙げられる。臭素化塩素化銅フタロシアニンとしては、Pigment Green58が挙げられる。
ゼオライトは、アルミノケイ酸塩のなかで結晶構造中に比較的大きな空隙を持つものの総称であり特に限定されないが、例えば、結晶性アルミノシリケート、メタロシリケート、アルミノホスフェート、シリカアルミノホスフェート等が挙げられる。
ゼオライトの平均一次粒子径は特に限定されないが、セシウムイオン吸着能及び加工適正の観点から、0.1〜100μmが好ましく、1.0〜50μmがより好ましく、1.0〜30μmがさらに好ましい。
本発明のセシウムイオン吸着剤の固着量は、セシウムイオン吸着剤の脱落低減の観点から、繊維構造物を構成する繊維材料に対して0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
本発明のバインダーは、繊維構造物へセシウムイオン吸着剤を固着するものであれば特に限定されないが、繊維材料とセシウムイオン吸着剤双方への接着性の観点から、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂からなる群より選択された1種以上の樹脂が好ましく、中でも水に分散し乳化重合法で粒子径0.05〜1.0μm程度の微粒子としたエマルジョン樹脂が好ましい。
本発明のバインダー固着量は、セシウムイオン吸着量の向上及びセシウムイオン吸着剤の脱落の低減の観点から、セシウムイオン吸着剤100質量部に対し10〜100質量部であることが好ましく、20〜95質量部がより好ましく、25〜60質量部がいっそう好ましい。
本発明の繊維構造物においては、セシウムイオン吸着剤を熱融着性繊維等を含む繊維構造物に固着することによって、従来の粘着法などに比べバインダーの固着量を低減することが可能となるので、セシウムイオン吸着剤の脱落を防止しながら、優れたセシウムイオン吸着能を発揮することができる。
本発明のセシウムイオン吸着量は、放射性廃棄物の減容化の観点から、繊維構造物1g当たり0.5mg/g以上であることが好ましく、0.7mg/gがより好ましく、1.0mg/gがいっそう好ましく、1.2mg/gが特に好ましい。
本発明のセシウムイオン吸着剤の固着量は、変退色・液汚染の低減の観点から、繊維構造物を構成する繊維材料に対して0.1〜10質量%が好ましく、セシウムイオン吸着後の吸着材の放射線量の抑制の観点から0.1〜4質量%がより好ましい。
本発明における繊維構造物からのセシウムイオン吸着剤の脱落量は、25ppm以下が好ましく、15ppm以下がより好ましく、5ppm以下がいっそう好ましく、3ppm以下が特に好ましい。上記脱落率を25ppm以下とすることにより、本発明の繊維構造物からのセシウムイオンを吸着した吸着剤の脱落が極めて少なくなるため、吸着された放射性セシウムイオンが環境に流出・拡散する2次的な汚染が拡大する恐れを防止することができる。
以下に、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物の製造方法について、不織布を例に挙げて説明する。
本発明の繊維構造物(不織布)の製造方法は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を混合し、前述のカード方式、エアレイド方式、水流交絡方式、ニードルパンチ方式など、公知の繊維ウェブ作成方法で不織布とする。
次に、上記不織布に、セシウムイオン吸着剤及びバインダーを分散した分散液を付与した後、130〜200℃の熱融着処理を施す。
上記セシウムイオン吸着剤とバインダーを分散した分散液は、所定量のセシウムイオン吸着剤とバインダーを水に分散させたものが好ましい。さらに、セシウムイオン吸着剤、特にプルシアンブルー型錯体の構造を好適に保つ観点から、該水分散液のpHを7以下とすることが好ましい。加えて、セシウムイオン吸着剤及びバインダーの凝集を防ぐために、該分散液は分散剤として界面活性剤を併用することが好ましい。
分散液の付与・熱融着処理方法は、繊維構造物を上記分散液に浸漬してからマングルで絞った後にテンター等で拡布状にて熱融着処理を行うパッド−熱処理法、分散液を噴霧してから上記同様に熱処理を行うスプレー―熱融着処理法、分散液を増粘してプリントあるいはコーティングしてから上記同様に熱融着処理を行うプリント―熱処理法、コーティング―熱処理法などの公知の方法を適宜選択することができる。
熱融着処理温度は、130〜200℃が必要であり、これらの温度範囲の中でも繊維構造物を構成する繊維材料の低融点成分の融点に対して20℃以上を選択することがより好ましい。130〜200℃とすることにより、セシウムイオン吸着剤の固着が十分になるとともに、分散液の急激な温度上昇による突沸などによる不均一な被膜形成を抑えることができ好ましい。
本発明においては、セシウムイオン吸着剤の脱落防止の観点から、セシウムイオン吸着剤およびバインダーの付与処理後に界面活性剤によるソーピング処理や水洗処理などを行なうことが好ましい。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、本発明は以下に示す実施例には限定されない。
実施例、比較例における本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物の評価方法は、下記の通りである。
1.セシウムイオン吸着剤の担持率
セシウムイオン吸着剤を固着した繊維構造物を600℃、30分間の灰化処理後、王水で完全に溶解し、該水溶液中の鉄量をICP発光分光分析法にて定量し繊維構造物単位質量当たりの担持率(%)を求めた。なお、本実施例、比較例において、鉄量からセシウムイオン吸着剤量の換算は、下記分子式1に基づいて換算した。
Fe[Fe(CN)]・・・・・・・・・(分子式1)
セシウムイオン吸着剤の担持率(%)=(担持されたセシウムイオン吸着剤(g)/繊維構造物量(g))×100
2.バインダー固着率(%)
105℃、2時間の条件で乾燥した後の10cm×10cmのセシウムイオン吸着剤及びバインダー付与処理後の繊維構造物(加工後)、同処理前繊維構造物(加工前)の質量差及び上記セシウムイオン吸着剤担持量を用い、下記式により計算した。
バインダー固着率(%)=((加工後質量(g)−加工前質量(g)−セシウムイオン吸着剤担持量(g))/加工後質量(g))×100
3.バインダー/セシウムイオン吸着剤の固着比
上記1、2で算出した固着率を用いて下記式から算出した。
固着比=バインダー固着率(%)/セシウムイオン吸着剤の担持率(%)
4.セシウムイオン吸着量
120mlのバイアル瓶に、セシウムイオン濃度10ppmの塩化セシウム水溶液100ml、繊維構造物0.2gを投入し(固液比(固:液)=1:500)、振とう装置(タイテック株式会社製 バイオシェーカーBR−300L)を用い、25℃、120rpmで24時間振とう処理を行った。振とう処理前後の処理液中のセシウムイオン濃度をICP−MS(JIS K 01025.5(2008年)及びJIS K 0133(2000年)に準拠して測定した)にて定量し、繊維構造物1g当たりのセシウムイオン吸着量(mg)を計算した。なお、セシウムイオンの吸着量は0.5mg/g以上を合格とした。
5.セシウムイオン吸着剤の脱落量
120mlのバイアル瓶に、セシウムイオン濃度10ppmの塩化セシウム水溶液100ml、繊維構造体5gを投入し(固液比(固:液)=1:20)、振とう装置(タイテック株式会社製 バイオシェーカーBR−300L)を用い、25℃、120rpmで24時間振とう処理を行った後の処理液中のシアン化合物量をJIS K0102 38.1.2及び38.3(2008年)の方法にて定量し、前述の分子式1に基づいて処理液中の脱落したセシウムイオン吸着剤量(ppm)を計算した。なお、脱落率は25ppm以下を合格とした。
実施例1
熱融着性繊維として、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「メルティー4080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)20質量%、非融着性繊維としてポリエチレンテレフタレート単一繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「ユニチカエステル」、融点255℃、繊度2.2dtex、繊維長51mm)80質量%を混合し均一に混綿し、パラレルカードウェブとした。前記ウェブを公知の方法でクロスラッパーを用いて積層し、ドラフターでドラフト後にニードルパンチ処理を行い目付200g/m2の不織布を得た。
次に、この不織布を下記処方1からなる分散液にてパディング処理を行いウェットピックアップ150質量%となるようにマングルで絞りピンテンターにて温度130℃、6分間の条件で付与・熱融着処理を行い本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方1)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe[Fe(CN)]、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 100g/Lアクリルバインダー(高松油脂(株)社製 ハイレジンTS1686 固形分25質量%) 40g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)製 アクチノールR100) 2g/L
実施例2
実施例1の処方1を下記処方2に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方2)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe[Fe(CN)]、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 100g/Lアクリルバインダー(高松油脂(株)社製 ハイレジンTS1686 固形分25質量%) 14g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)製 アクチノールR100) 2g/L
実施例3
実施例1の熱融着性繊維と非融着性繊維の比率を90:10に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
実施例4
実施例1の熱融着性繊維をポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエチレンテレフタレート芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「キャスベン7080」、芯融点255℃、鞘融点160℃、繊度2.2dtex、繊維長51mm)に変更し、さらに熱融着処理条件を温度180℃、4分間に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
実施例5
実施例1の熱融着性繊維をポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン芯鞘複合繊維(
ユニチカ株式会社製 商品名「メルティ6080」、芯融点255℃、鞘融点130℃、繊度2.2dtex、繊維長51mm)に変更し、さらに熱融着処理条件を温度150℃、5分間に変更した以外は、実施例1と同様にして本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
実施例6
実施例1において、非融着性繊維を使用しない以外は、実施例1と同様にして本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
実施例7
実施例1の処方1を下記処方3に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方3)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe[Fe(CN)]、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 100g/Lアクリルバインダー(高松油脂(株)社製 ハイレジンTS1686 固形分25質量%) 60g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)製 アクチノールR100) 2g/L
実施例8
実施例1の処方1を下記処方4に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方4)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe[Fe(CN)]、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 100g/Lアクリルバインダー(高松油脂(株)社製 ハイレジンTS1686 固形分25質量%) 8g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)製 アクチノールR100) 2g/L
実施例9
実施例1において、熱融着処理条件を温度110℃、8分間に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
実施例10
実施例4において、熱融着処理条件を温度210℃、3分間に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
実施例11
実施例1の処方1を下記処方5に変更する以外は実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方5)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe[Fe(CN)]、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 100g/Lメラミンバインダー(三木理研(株)社製 ベッカミンPM60 固形分60質量%)
18g/L触媒(三木理研(株)社製 キャタリスト376 純分40質量%) 2g/Lノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)製 アクチノールR100) 2g/L
比較例1
熱融着性繊維を使用しない以外は実施例1と同様にして、セシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
比較例2
バインダーを使用しない以外は実施例2と同様にして、セシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
上記実施例、比較例にて得られたセシウムイオン吸着用繊維構造物の評価結果を表1に示す。
Figure 2016109442
表1から明らかなように、実施例1〜11の本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物は、熱融着性繊維が含まれた不織布にセシウムイオン吸着剤およびバインダーを付与した後に特定の熱融着処理を行ったため、熱融着性繊維とバインダーの相乗効果にてセシウムイオン吸着剤が強固に固着され、バインダー固着量が抑えられてセシウムイオン吸着能に優れ、且つ、吸着剤の脱落が非常に少ない繊維構造物となった。特に、バインダー種及び量、熱融着処理条件などが最適化された実施例1〜6は、吸着剤の担持量に比べセシウムイオン吸着量が高く、該吸着剤の脱落量も極めて少ないものであった。なお、実施例7は吸着剤に対するバインダー量が比較的多かった為、セシウムイオン吸着能が一定レベルのものであった。実施例8は吸着剤に対するバインダー量が比較的少なかったためセシウムイオン吸着能は十分であったものの吸着剤の脱落量は一定程度であった。実施例9は、熱融着処理温度が熱融着性繊維の融点と同一であったため吸着剤の脱落量が一定程度であり、実施例10は熱融着処理温度が熱融着性繊維の融点を大きく上回っていた為、不均一な被膜形成などにより、セシウムイオン吸着能が一定レベルのものとなった。実施例11は、バインダーとしてメラミンを用いたため、繊維材料とセシウムイオン吸着剤双方への接着性のバランスの観点から、セシウムイオン吸着能が一定レベルのものとなった。一方、比較例1は熱融着性繊維を用いなかった為、比較例2はバインダーを付与しなかったため、セシウムイオン吸着剤の脱落防止等を満足するものではなかった。

Claims (8)

  1. 30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物であって、セシウムイオン吸着剤が前記繊維の低融点成分及びバインダーで固着されていることを特徴とするセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  2. 前記セシウムイオン吸着剤がプルシアンブルー型錯体であることを特徴とする請求項1記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  3. 前記バインダーがポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂からなる群より選択された1種以上の樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  4. 前記バインダーの固着量がセシウムイオン吸着剤100質量部に対して10〜100質量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  5. 前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維が、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ乳酸系繊維からなる群より選択された1またはそれ以上の繊維で構成されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  6. 前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点成分が、5質量%以上含まれていることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  7. 前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点成分の融点が、110〜190℃であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
  8. 前記セシウムイオン吸着用繊維構造物がセシウムイオン吸着用遮水シート用保護シート又はセシウムイオン吸着用キャッピングシートであることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2016133324A (ja) * 2015-01-16 2016-07-25 国立研究開発法人産業技術総合研究所 放射性物質吸着材、放射性物質吸着カートリッジ及び放射性物質のモニタリング装置

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