本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願、公開された出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。
本発明の一側面は、凍結した細胞を解凍するステップ、および、解凍した細胞を用いてシート状細胞培養物を形成するステップを含む、シート状細胞培養物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)に関する。本発明の製造方法は、凍結した細胞を解凍するステップの前に、細胞を凍結するステップを含んでもよい。特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明の製造方法において、凍結した細胞を解凍することにより、活性の弱い細胞が脱落する一方、活性の強い細胞が残存し、シート状細胞培養物全体としての活性が高まると考えられる。
本発明の製造方法における細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。本発明の製造方法における細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。
本発明のシート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、好ましくは、シート状細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
本発明における細胞は、シート状細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギなどが含まれる。
シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。また、生体から単離して得た細胞などにおいては、細胞が複数種の細胞を含むことが多く、全ての細胞種を特定することが困難である場合があるため、細胞種への言及は、ある細胞集団における最も比率の多い細胞のみにとどめることがある。例えば、ある細胞集団が所定の比率の細胞Aと、細胞A以外の1種または2種以上の細胞を含み、細胞Aの比率が最も多い場合、当該細胞集団を便宜的に細胞Aと称し、当該細胞集団で構成されるシート状細胞培養物を、「細胞Aで構成されるシート状細胞培養物」と称することがある。本発明の好ましい態様において、シート状細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、シート化培養開始時、または、シート状細胞培養物製造終了時において、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約75%以上である。
細胞は異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。ここで「異種由来細胞」は、シート状細胞培養物が移植に用いられる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、サルやブタに由来する細胞などが異種由来細胞に該当する。また、「同種由来細胞」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト細胞が同種由来細胞に該当する。同種由来細胞は、自己由来細胞(自己細胞または自家細胞ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する細胞と、同種非自己由来細胞(他家細胞ともいう)を含む。自己由来細胞は、移植しても拒絶反応が生じないため、本発明においては好ましい。しかしながら、異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用することも可能である。異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用する場合は、拒絶反応を抑制するため、免疫抑制処置が必要となることがある。なお、本明細書中で、自己由来細胞以外の細胞、すなわち、異種由来細胞と同種非自己由来細胞を非自己由来細胞と総称することもある。本発明の一態様において、細胞は自家細胞または他家細胞である。本発明の一態様において、細胞は自家細胞である。本発明の別の態様において、細胞は他家細胞である。
本発明の製造方法における、細胞を凍結するステップは、既知の任意の手法により行うことができる。かかる手法としては、限定されずに、例えば、容器内の細胞を、凍結手段、例えば、フリーザー、ディープフリーザー、低温の媒体(例えば、液体窒素等)に供することなどが挙げられる。凍結手段の温度は、容器内の細胞集団の一部、好ましくは全体を凍結させ得る温度であれば特に限定されないが、典型的には約0℃以下、好ましくは約−20℃以下、より好ましくは約−40℃以下、さらに好ましくは約−80℃以下である。また、凍結操作における冷却速度は、凍結解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には4℃から冷却を始めて約−80℃に達するまで約1時間〜約5時間、好ましくは約2時間〜約4時間、特に約3時間かける程度の冷却速度である。具体的には、例えば、約0.46℃/分の速度で冷却することができる。かかる冷却速度は、所望の温度に設定した凍結手段に、細胞を含む容器を直接、または、凍結処理容器に収容して供することにより達成することができる。凍結処理容器は、容器内の温度の下降速度を所定の速度に制御する機能を有していてもよい。かかる凍結処理容器としては、既知の任意のもの、例えば、BICELL(R)(日本フリーザー)などを用いることができる。
凍結操作は、細胞を培養液や生理緩衝液などに浸漬させたまま行ってもよいが、細胞を凍結・解凍操作から保護するための凍結保護剤を培養液に加えたり、培養液を凍結保護剤を含む凍結保存液と置換するなどの処理を施したうえで行ってもよい。したがって、本発明の製造方法は、培養液に凍結保護剤を添加するステップ、または、培養液を凍結保存液に置換するステップをさらに含んでもよい。培養液を凍結保存液に置換する場合、凍結時に細胞が浸漬している液に有効濃度の凍結保護剤が含まれていれば、培養液を実質的に全て除去してから凍結保存液を添加しても、培養液を一部残したまま凍結保存液を添加してもよい。ここで、「有効濃度」とは、凍結保護剤が、毒性を示すことなく、凍結保護効果、例えば、凍結保護剤を用いない場合と比べた、凍結解凍後の細胞の生存率、活力、機能などの低下抑制効果を示す濃度を意味する。かかる濃度は当業者に知られているか、ルーチンの実験などにより適宜決定することができる。
本発明の製造方法に用いる凍結保護剤は、細胞に対して凍結保護作用を示すものであれば特に限定されずに、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セリシン、プロパンジオール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルデンプン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、アドニトール、ペルセイトール、ラフィノース、ラクトース、トレハロース、スクロース、マンニトールなどを含む。凍結保護剤は、単独で用いても、2種または3種以上を組み合わせて用いてもよい。
培養液への凍結保護剤の添加濃度、または、凍結保存液中の凍結保護剤の濃度は、上記で定義した有効濃度であれば特に限定されず、典型的には、例えば、培養液または凍結保存液全体に対して約2%〜約20%(v/v)である。しかしながら、この濃度範囲からは外れるが、それぞれの凍結保護剤について知られているか、実験的に決定した代替的な使用濃度を採用することもでき、かかる濃度も本発明の範囲内である。
本発明の製造方法における、凍結した細胞を解凍するステップは、既知の任意の細胞解凍手法により行うことができ、典型的には、例えば、凍結した細胞を、解凍手段、例えば、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器などに供したり、または、凍結した細胞を、凍結温度より高い温度の媒体(例えば、培養液)で浸漬することにより達成されるが、これに限定されない。解凍手段または浸漬媒体の温度は、細胞を所望の時間内に解凍できる温度であれば特に限定されないが、典型的には約4℃〜約50℃、好ましくは約30℃〜約40℃、より好ましくは約36℃〜約38℃である。また、解凍時間は、解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には約2分以内であり、特に約20秒以内とすることで生存率の低下を大幅に抑制することができる。解凍時間は、例えば、解凍手段または浸漬媒体の温度、凍結時の培養液または凍結保存液の容量もしくは組成などを変化させて調節することができる。凍結した細胞は、任意の手法により凍結させた細胞を含み、その非限定例としては、例えば、上記の細胞を凍結するステップにより凍結された細胞などが挙げられる。一態様において、凍結した細胞は、凍結保護剤の存在下で凍結された細胞である。一態様において、凍結した細胞は、本発明の製造方法に用いるためのものである。
本発明の製造方法は、凍結した細胞を解凍するステップの後、かつ、シート状細胞培養物を形成するステップの前に、細胞を洗浄するステップを含んでいてもよい。細胞の洗浄は、既知の任意の手法により行うことができ、典型的には、例えば、細胞を洗浄液(例えば、血清や血清成分(血清アルブミンなど)を含むもしくは含まない、培養液(例えば、培地等)または生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)など)に懸濁し、遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿した細胞を回収することにより達成されるが、これに限定されない。細胞を洗浄するステップにおいては、かかる懸濁、遠心分離、回収のサイクルを1回または複数回(例えば、2、3、4、5回など)行ってもよい。本発明の一態様において、細胞を洗浄するステップは、凍結した細胞を解凍するステップの直後に行われる。
本発明の製造方法における、シート状細胞培養物を形成するステップは、既知の任意の手法により行うことができる。かかる手法としては、限定されずに、例えば、特許文献1、4、5などに記載されたものが挙げられる。シート状細胞培養物を形成するステップは、培養基材上で行うことができる。また、シート状細胞培養物を形成するステップは、細胞を培養基材上に播種するステップ、および、播種した細胞をシート化するステップを含んでもよい。一態様において、本発明の製造方法は、細胞を解凍するステップとシート状細胞培養物を形成するステップとの間に、細胞を増殖させるステップを含まない。
培養基材は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corningなど)。
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、CellSeed Inc.のUpCell(R))、これらを本発明の製造方法に使用することができる。
上記培養基材は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、典型的には、約1cm2〜約200cm2、好ましくは約2cm2〜約100cm2、より好ましくは約3cm2〜約50cm2である。
培養基材は血清でコート(被覆またはコーティング)されていてもよい。血清でコートされた培養基材を用いることにより、より高密度のシート状細胞培養物を形成することができる。「血清でコートされている」とは、培養基材の表面に血清成分が付着している状態を意味する。かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血清で処理することにより得ることができる。血清による処理は、血清を培養基材に接触させること、および、必要に応じて所定期間インキュベートすることを含む。
血清としては、異種血清および同種血清を用いることができる。異種血清は、シート状細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清(自家血清ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する血清、およびレシピエント以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。
培養基材をコートするための血清は、市販されているか、または、所望の生物から採取した血液から定法により調製することができる。具体的には、例えば、採取した血液を室温で約20分〜約60分程度放置して凝固させ、これを約1000×g〜約1200×g程度で遠心分離し、上清を採取する方法などが挙げられる。
培養基材上でインキュベートする場合、血清は原液で用いても、希釈して用いてもよい。希釈は、任意の媒体、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12など)等で行うことができる。希釈濃度は、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0.5%〜約100%(v/v)、好ましくは約1%〜約60%(v/v)、より好ましくは約5%〜約40%(v/v)である。
インキュベート時間も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約1時間〜約72時間、好ましくは約4時間〜約48時間、より好ましくは約5時間〜約24時間、さらに好ましくは約6時間〜約12時間である。インキュベート温度も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0℃〜約60℃、好ましくは約4℃〜約45℃、より好ましくは室温〜約40℃である。
インキュベート後に血清を廃棄してもよい。血清の廃棄手法としては、ピペットなどによる吸引や、デカンテーションなどの慣用の液体廃棄手法を用いることができる。本発明の好ましい態様においては、血清廃棄後に、培養基材を無血清洗浄液で洗浄してもよい。無血清洗浄液としては、血清を含まず、培養基材に付着した血清成分に悪影響を与えない液体媒体であれば特に限定されず、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7など)等で行うことができる。洗浄手法としては、慣用の培養基材洗浄手法、例えば、限定することなく、培養基材上に無血清洗浄液を加えて所定時間(例えば、約5秒〜約60秒間)撹拌後、廃棄する手法などを用いることができる。
本発明において、培養基材を、成長因子でコートしてもよい。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。成長因子による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、例えば、約0.0001μg/mL〜約1μg/mL、好ましくは約0.0005μg/mL〜約0.05μg/mL、より好ましくは約0.001μg/mL〜約0.01μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
本発明において、培養基材を、ステロイド剤でコートしてもよい。ここで「ステロイド剤」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。ステロイド剤による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、デキサメタゾンとして、例えば、約0.1μg/mL〜約100μg/mL、好ましくは約0.4μg/mL〜約40μg/mL、より好ましくは約1μg/mL〜約10μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
培養基材は、血清、成長因子およびステロイド剤のいずれか1つでコートしても、これらの任意の組合わせ、すなわち、血清と成長因子、血清とステロイド剤、血清と成長因子とステロイド剤、または、成長因子とステロイド剤の組合わせでコートしてもよい。複数の成分でコートする場合、これらの成分を混合して同時にコートしてもよいし、別々のステップでコートしてもよい。
培養基材は、血清等でコートした後直ちに細胞を播種してもよいし、コートした後に保存しておき、その後細胞を播種することもできる。コートした基材は、例えば約4℃以下、好ましくは約−20℃以下、より好ましくは約−80℃以下に保つことにより長期間保存することができる。
培養基材への細胞の播種は、既知の任意の手法および条件で行うことができる。培養基材への細胞の播種は、例えば、細胞を培養液に懸濁した細胞懸濁液を培養基材(培養容器)に注入することにより行ってもよい。細胞懸濁液の注入には、スポイトやピペットなど、細胞懸濁液の注入操作に適した器具を用いることができる。
本発明の好ましい態様において、播種は、細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で行われる。「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を実質的に含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。例えば、骨格筋芽細胞の場合、成長因子を含む培養液を用いる方法では、シート状細胞培養物を形成するために、細胞を約6,500個/cm2の密度で培養基材に播種するが(例えば、特許文献1参照)、かかる密度の細胞を、成長因子を含まない培養液で培養してもシート状の細胞培養物を形成しない。したがって、本態様における播種密度は、成長因子を含む培養液を用いる手法におけるものよりも高いものである。かかる密度は、具体的には、例えば、骨格筋芽細胞について典型的には約1.0×105個/cm2以上である。播種密度の上限は、シート状細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、骨格筋芽細胞については、約3.4×106個/cm2未満である。
したがって、骨格筋芽細胞における「実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」は、ある態様では約1.0×105〜約3.4×106個/cm2、別の態様では約3.0×105〜約3.4×106個/cm2、さらに別の態様では約3.5×105〜約3.4×106個/cm2、さらに別の態様では約1.0×106〜約3.4×106個/cm2、さらに別の態様では約3.0×105〜約1.7×106個/cm2、別の態様では約3.5×105〜約1.7×106個/cm2、さらに別の態様では約1.0×106〜約1.7×106個/cm2である。上記範囲は、上限が約3.4×106個/cm2未満である限り、上限および下限の両方、または、そのいずれか一方を含んでもよい。したがって、上記密度は、例えば、約3.0×105個/cm2以上かつ約3.4×106個/cm2未満(下限を含み、上限は含まない)、約3.5×105個/cm2以上かつ約3.4×106個/cm2未満(下限を含み、上限は含まない)、約1.0×106個/cm2以上かつ約3.4×106個/cm2未満(下限を含み、上限は含まない)、約1.0×106個/cm2超かつ約3.4×106個/cm2未満(下限も上限も含まない)、約1.0×106個/cm2超かつ約1.7×106個/cm2以下(下限は含まないが、上限は含む)であってもよい。当業者であれば、骨格筋芽細胞以外の細胞について、本発明に適した細胞密度を、本明細書の教示に従い、実験により適宜決定することができる。一態様において、「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」は、細胞がコンフルエントに達する密度もしくはそれ以上、または、コンフルエント密度以上である。
播種した細胞をシート化するステップも、既知の任意の手法および条件で行うことができる。かかる手法の非限定例は、例えば、特許文献1、4、5などに記載されている。細胞のシート化は、細胞同士が接着分子や、細胞外マトリックスなどの細胞間接着機構を介して互いに接着することにより達成されると考えられている。したがって、播種した細胞をシート化するステップは、例えば、細胞を、細胞間接着を形成する条件下で培養することにより達成することができる。かかる条件は、細胞間接着を形成することができればいかなるものであってもよいが、通常は一般的な細胞培養条件と同様の条件であれば細胞間接着を形成することができる。かかる条件としては、例えば、約37℃、5%CO2での培養が挙げられる。また、培養は通常の圧力下(大気圧下、非加圧下)で行うことができる。当業者であれば、播種する細胞の種類に応じて最適な条件を選択することができる。本明細書において、播種した細胞をシート化するための培養を、「シート化培養」と称することもある。
本発明の一態様において、細胞の培養は、所定の期間内、好ましくは、細胞が分化に移行しない期間内に行われる。したがって、この態様において、細胞は、培養期間中、未分化の状態に維持される。細胞の分化への移行は、当業者に知られた任意の方法で評価することができる。例えば、骨格筋芽細胞の場合は、MHCの発現、クレアチンキナーゼ(CK)活性、細胞の多核化、筋管の形成などを分化の指標とすることができる。本発明の好ましい態様において、培養期間は約48時間以内、より好ましくは約40時間以内、さらに好ましくは約24時間以内である。
培養に用いる細胞培養液(単に「培養液」もしくは「培地」と称することもある)は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本発明の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。
基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
基礎培地に含まれるアミノ酸としては、限定されずに、例えば、L−アルギニン、L−シスチン、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリンなどが、ビタミン類としては、限定されずに、例えば、D−パントテン酸カルシウム、塩化コリン、葉酸、i−イノシトール、ナイアシンアミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ビオチン、リポ酸、ビタミンB12、アデニン、チミジンなどが、そして、電解質としては、限定されずに、例えば、CaCl2、KCl、MgSO4、NaCl、NaH2PO4、NaHCO3、Fe(NO3)3、FeSO4、CuSO4、MnSO4、Na2SiO3、(NH4)6Mo7O24、NaVO3、NiCl2、ZnSO4などがそれぞれ含まれる。基礎培地には、これらの成分のほか、D−グルコースなどの糖類、ピルビン酸ナトリウム、フェノールレッドなどのpH指示薬、プトレシンなどを含んでもよい。
本発明の一態様において、基礎培地に含まれるアミノ酸の濃度は、L−アルギニン:約63.2mg/L〜約84mg/L、L−シスチン:約35mg/L〜約63mg/L、L−グルタミン:約4.4mg/L〜約584mg/L、グリシン:約2.3mg/L〜約30mg/L、L−ヒスチジン:約42mg/L、L−イソロイシン:約66mg/L〜約105mg/L、L−ロイシン:約105mg/L〜約131mg/L、L−リジン:約146mg/L〜約182mg/L、L−メチオニン:約15mg/L〜約30mg/L、L−フェニルアラニン:約33mg/L〜約66mg/L、L−セリン:約32mg/L〜約42mg/L、L−トレオニン:約12mg/L〜約95mg/L、L−トリプトファン:約4.1mg/L〜約16mg/L、L−チロシン:約18.1mg/L〜約104mg/L、L−バリン:約94mg/L〜約117mg/Lである。
また、本発明の一態様において、基礎培地に含まれるビタミン剤の濃度は、D−パントテン酸カルシウム:約4mg/L〜約12mg/L、塩化コリン:約4mg/L〜約14mg/L、葉酸:約0.6mg/L〜約4mg/L、i−イノシトール:約7.2mg/L、ナイアシンアミド:約4mg/L〜約6.1mg/L、リボフラビン:約0.0038mg/L〜約0.4mg/L、チアミン:約3.4mg/L〜約4mg/L、ピリドキシン:約2.1mg/L〜約4mg/Lである。
細胞培養液は、上記のほか、血清、成長因子、ステロイド剤成分、セレン成分などの1種または2種以上の添加物を含んでもよい。しかし、これらの成分が自己由来のものではない場合は、臨床においてはレシピエントに対するアナフィラキシーショック等の副作用要因となり得ることが否定できない製造工程由来不純物となり得るため、臨床への適用にあたってはかかる非自己由来成分を排除することが望ましい。したがって、本発明の好ましい態様において、細胞培養液は、これらの非自己由来の添加物の少なくとも1種の有効量を含まない。また、本発明のより好ましい態様において、細胞培養液は、これらの非自己由来の添加物の少なくとも1種を実質的に含まない。さらに、本発明の特に好ましい態様において、細胞培養液は、非自己由来の添加物を実質的に含まない。一態様において、細胞培養液は、基礎培地のみを含んでもよい。
本発明の一態様において、細胞培養液は血清を実質的に含まない。血清を実質的に含まない細胞培養液のことを、本明細書中で「無血清培地」と呼ぶこともある。ここで、「血清を実質的に含まない」とは、培養液における血清の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度(例えば、シート状細胞培養物中の血清アルブミン含量が約50ng未満となる量)であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないことを意味する。本発明においては、移植時の副作用を回避するために、細胞培養液は異種血清を実質的に含まないことが好ましく、非自己血清を実質的に含まないことがさらに好ましい。
本発明の一態様において、細胞培養液は血清を含む。血清は、同種血清であっても異種血清であってもよい。特定の態様において、細胞培養液は自己血清を含む。血清でコートされた培養基材上で細胞を培養する場合、細胞培養液に含まれる血清(細胞の培養に用いる血清)は、培養基材をコートするために用いる血清と同じであっても異なってもよい。一態様において、細胞培養液に含まれる血清は、培養基材をコートするために用いる血清と同一であり、特定の態様において、該血清は自己血清である。血清は、本発明の製造方法に用いるためのものであってもよい。例えば、血清は、細胞の培養に用いるためのものであっても、培養基材をコートするためのものであってもよい。
本発明の一態様において、細胞培養液は有効量の成長因子を含まない。ここで、「有効量の成長因子」とは、細胞の増殖を、成長因子がない場合に比べて、有意に促進する成長因子の量、または、便宜的に、当該技術分野において細胞の増殖を目的として通常添加する量を意味する。細胞増殖促進の有意性は、例えば、当該技術分野で知られた任意の統計学的手法、例えば、t検定などにより適宜評価することができ、また、通常の添加量は当該技術分野の種々の公知文献から知ることができる。具体的には、細胞培養におけるEGFの有効量は、例えば約0.005μg/mL以上である。
したがって、「有効量の成長因子を含まない」とは、本発明における培養液における成長因子の濃度がかかる有効量未満であることを意味する。例えば、細胞培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは約0.005μg/mL未満、より好ましくは約0.001μg/mL未満である。本発明の好ましい態様においては、培養液における成長因子の濃度は、生体における通常の濃度未満である。かかる態様においては、例えば、細胞培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは約5.5ng/mL未満、より好ましくは約1.3ng/mL未満、さらに好ましくは、約0.5ng/mL未満である。さらに好ましい態様において、本発明における培養液は、成長因子を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、培養液中の成長因子の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液に成長因子を積極的に添加しないことを意味する。したがって、この態様においては、培養液は、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度の成長因子を含まない。
本発明の一態様において、細胞培養液は、ステロイド剤成分を実質的に含まない。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。したがって、「ステロイド剤成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの化合物の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの化合物を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のステロイド剤成分を含まないことを意味する。
本発明の一態様において、細胞培養液は、セレン成分を実質的に含まない。ここで「セレン成分」は、セレン分子、およびセレン含有化合物、特に、生体内でセレン分子を遊離し得るセレン含有化合物、例えば、亜セレン酸などを含む。したがって、「セレン成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの物質の含量が、シート状細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のセレン成分を含まないことを意味する。具体的には、例えば、ヒトの場合、培養液中のセレン濃度は、ヒト血清中の正常値(例えば、10.6μg/dL〜17.4μg/dL)に、培地中に含まれるヒト血清の割合を乗じた値よりも低い(すなわち、ヒト血清の含量が約10%であれば、セレン濃度は、例えば、約1.0μg/dL〜約1.7μg/dL未満である)。
本発明の上記好ましい態様においては、生体に適用する細胞培養物を作製する場合に従来必要であった、成長因子、ステロイド剤成分、異種血清成分などの製造工程由来不純物を、洗浄などにより除去するステップが不要となる。したがって、本発明の方法の一態様は、この製造工程由来不純物を除去するステップを含まない。
ここで、「製造工程由来不純物」とは、典型的には、製造各工程に由来する以下に列挙するものが含まれる。すなわち、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来タンパク質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものなどである(例えば、医薬審発第571号参照)。
細胞の培養は、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的な培養条件としては、約37℃、5%CO2での培養が挙げられる。また、培養は通常の圧力下(大気圧下、非加圧下)で行うことができる。培養期間は、シート状細胞培養物の十分な形成、および、細胞分化防止の観点から、好ましくは約48時間以内、より好ましくは約40時間以内、さらに好ましくは約24時間以内である。培養は任意の大きさおよび形状の容器で行うことができる。シート状細胞培養物の大きさや形状は、培養容器の細胞付着面の大きさ・形状を調整すること、または、培養容器の細胞付着面に、所望の大きさ・形状の型枠を設置し、その内部で細胞を培養することなどにより任意に調節することができる。
本発明の製造方法の一態様においては、細胞を解凍するステップの後、細胞を実質的に増殖させずに、シート状細胞培養物を形成する。この手順により、シート状細胞培養物の活性をさらに高めることができる。
細胞を「実質的に増殖させない」とは、細胞を計測誤差の範囲を超えて増殖させないことを意味し、細胞が増殖したか否かは、例えば、播種時の細胞数と、シート状細胞培養物形成後の細胞数とを比較することにより評価することができる。本発明において、シート状細胞培養物形成後の細胞数は、典型的には播種時の細胞数の約300%以下、好ましくは約200%以下、より好ましくは約150%以下、さらに好ましくは約125%以下、特に好ましくは約100%以下である。
細胞の増殖は、様々な条件、例えば播種細胞数(播種細胞密度)、培養環境(例えば、培養時間、培養温度など)、培地の組成などにより左右されるため、これらの条件を調節することにより、細胞を実質的に増殖させないことができる。これらの条件のうち、播種細胞密度を高めることにより、細胞の増殖を抑えながら、比較的短時間でシート状細胞培養物を得ることができるため、本発明においては播種細胞密度により増殖をコントロールすることが好ましい。細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度については、すでに上記したとおりである。
したがって、本態様においては、細胞を解凍するステップの後、さらなる細胞増殖ステップを経ることなく、細胞を実質的に増殖させない条件下で、シート化培養を行う。また、本態様においては、細胞を解凍するステップの後、シート化培養までの間に、細胞増殖を伴わないステップ、例えば、細胞を洗浄するステップなどを行うことができる。
本発明の製造方法は、シート状細胞培養物を形成するステップの後に、形成されたシート状細胞培養物を回収するステップをさらに含んでもよい。シート状細胞培養物の回収は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている培養基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養基材上で培養して細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。
例えば、細胞を温度応答性培養皿で培養して細胞培養物を形成した場合には、温度を温度応答性材料の水に対する下限臨界溶液温度(LCST)以下または上限臨界溶液温度(UCST)以上とする温度処理により、シート状細胞培養物を非酵素的に遊離することができる。かかる温度処理は、限定されずに、例えば、形成されたシート状細胞培養物が付着した培養基材を、LCSTより高い温度の培養環境(例えば、約37℃の温度のインキュベーター内など)から、LCST以下の環境(例えば、インキュベーター外の室温環境など)に移行させることなどにより達成することができる。LCST以下の環境への移行は、限定されずに、例えば、形成されたシート状細胞培養物が存在するLCSTより高い温度の培養液を、LCST以下の温度の媒体(例えば、緩衝液(PBS、HBSS等)や、培養液などの液体等)に置換することなどにより達成することができる。したがって、上記緩衝液等の媒体は、本発明の製造方法において、シート状細胞培養物を培養基材から非酵素的に遊離するために用いることができる。
本発明の製造方法の一態様は、シート状細胞培養物を形成するステップの後に、シート状細胞培養物を回収するステップをさらに含み、細胞を解凍するステップが、シート状細胞培養物を回収するステップの約48時間以内前に行われる。細胞を解凍するステップと、シート状細胞培養物を回収するステップとの間の時間を約48時間以下、好ましくは約36時間以下、より好ましくは約24時間以下とすることにより、シート状細胞培養物の活性をさらに高めることができる。
本発明の製造方法は、細胞を凍結するステップの前に、細胞を増殖させるステップをさらに含んでもよい。細胞を増殖させるステップは、既知の任意の手法で行ってもよく、当業者は各種細胞の増殖に適した培養条件に精通している。本発明の製造方法において、細胞を解凍するステップの後、細胞を実質的に増殖させずに、シート状細胞培養物を形成する場合、または、細胞を解凍するステップを、シート状細胞培養物を回収するステップの約48時間以内前に行う場合、所望の細胞数を得るために、細胞を凍結するステップの前に、細胞を増殖させるステップを行うことは有用である。
一態様において、本発明の製造方法は、細胞に遺伝子を導入するステップを含まない。別の態様において、本発明の製造方法は、細胞に遺伝子を導入するステップを含む。導入する遺伝子は、対象とする疾患の処置に有用なものであれば特に限定されず、例えば、HGF、VEGFなどのサイトカインであってもよい。遺伝子の導入は、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、超音波導入法、電気穿孔法、パーティクルガン法、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクター利用する方法、マイクロインジェクション法などの既知の任意の方法を用いて行うことができる。細胞への遺伝子の導入は、限定されずに、例えば、細胞を凍結するステップの前に行うことができる。
本発明の製造方法により得られるシート状細胞培養物は、細胞を凍結するステップと、凍結した細胞を解凍するステップとを含まない以外は本発明の製造方法と同じ方法により製造されたシート状細胞培養物(以下、非凍結・解凍対照シート状細胞培養物と称することがある)より活性が高い。また、凍結した細胞を解凍するステップとシート状細胞培養物を形成するステップとを含む本発明の製造方法において、凍結した細胞を解凍するステップと、シート状細胞培養物を形成するステップとの間に細胞を増殖させるステップを含まない態様で製造されたシート状細胞培養物は、増殖させるステップを含む態様で製造されたシート状細胞培養物(以下、増殖対照シート状細胞培養物と称することがある)より活性が高い。かかる活性としては、限定されずに、例えば、サイトカイン産生能、生着能、血管誘導能および組織再生能などが挙げられる。ここで、活性が高いとは、非凍結・解凍および/または増殖対照シート状細胞培養物(以下、単に「対照シート状細胞培養物」と称することがある)の活性を基準として、限定されずに、例えば、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上または約100%以上、活性が高いことを意味する。
本発明において、サイトカインとは、細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子を意味する。したがって、本発明におけるサイトカインは、免疫細胞から放出されるものに限られない。本発明の一態様において、サイトカインは、シート状細胞培養物の移植先の組織への生着に有益なものである。本発明の一態様において、サイトカインは、血管新生に有益なものである。本発明の一態様において、サイトカインは、組織の再生に有益なものである。このようなサイトカインは当該技術分野において知られており、当業者は既知の情報をもとに、適切なサイトカインを決定することができる。本発明の一態様において、サイトカインは成長因子を含む。本発明の一態様において、サイトカインはHGFおよびVEGFからなる群から選択される。したがって、本発明の一態様において、サイトカイン産生能は、成長因子の産生能である。また、本発明の一態様において、サイトカイン産生能は、HGFおよびVEGFからなる群から選択される成長因子の産生能である。
シート状細胞培養物の活性は種々の手法を用いて定量化することができる。活性がサイトカイン産生能であれば、例えば、シート状細胞培養物を培養液中で所定時間培養し、培養液に分泌されたサイトカインの量を測定したり、シート状細胞培養物に発現されたサイトカイン遺伝子の量を測定することなどにより、サイトカイン産生能を定量化できる。特定のタンパク質の量や遺伝子発現のレベルを測定する手法は、当該技術分野において周知であり、タンパク質の量を測定する手法としては、限定されずに、例えば、電気泳動法、ウェスタンブロッティング法、質量分析法、EIA(例えば、ELISAなど)、RIA、免疫組織化学法、免疫細胞化学法などが、遺伝子発現のレベルを測定する手法としては、限定されずに、例えば、ノーザンブロッティング法、サザンブロッティング法、DNAマイクロアレイ解析、RNaseプロテクションアッセイ、RT−PCR、リアルタイムPCR等のPCR法、in situハイブリダイゼーション法などが、それぞれ挙げられる。
活性が生着能である場合は、シート状細胞培養物を組織に適用し、所定時間経過後に適用されたシート状細胞培養物の状態、例えば、組織への接着、残存するシート状細胞培養物のサイズ、色、形態などを観察し、これらをスコア化することなどにより、生着能を定量化できる。活性が血管誘導能である場合は、シート状細胞培養物を組織に適用し、所定時間経過後に適用されたシート状細胞培養物および適用部位の組織の状態、例えば、血管新生の有無などを観察し、これらをスコア化することなどにより、血管誘導能を定量化できる。また、活性が組織再生能である場合は、シート状細胞培養物を組織に適用し、所定時間経過後に、適用部位(移植先)の組織の状態、例えば、組織のサイズ、組織の微細構造、損傷組織と正常組織との割合、組織の機能などを観察し、これらをスコア化することなどにより、組織再生能を定量化できる。
一態様において、本発明の製造方法はその全ステップがin vitroで行われる。別の態様において、本発明の製造方法は、in vivoで行われるステップ、限定されずに、例えば、対象から細胞または細胞の給源となる組織を採取するステップを含む。一態様において、本発明の製造方法はその全ステップが無菌条件下で行われる。一態様において、本発明の製造方法は、最終的に得られるシート状細胞培養物が実質的に無菌となるように行われる。一態様において、本発明の製造方法は、最終的に得られるシート状細胞培養物が無菌となるように行われる。
本発明の別の側面は、本発明の製造方法により製造されたシート状細胞培養物に関する。本発明のシート状細胞培養物は、対照シート状細胞培養物より活性が高いことを特徴とする。活性の高さに関する詳細については上述のとおりである。一態様において、本発明のシート状細胞培養物は、サイトカイン産生能、生着能、血管誘導能および組織再生能からなる群から選択される活性が対照シート状細胞培養物のものより高い。また、一態様において、本発明のシート状細胞培養物は、HGFおよびVEGFからなる群から選択されるサイトカインの産生能が対照シート状細胞培養物のものより高い。本発明のシート状細胞培養物は、高い活性を有するため、種々の治療用途において、対照シート状細胞培養物よりも優れた効果を示す。特に、HGFおよび/またはVEGFの産生能が高いと、組織への生着や血管誘導、組織再生が促進され、シート状細胞培養物が長期間、持続的に機能し、治療効果を高めることが可能となる。
本発明のシート状細胞培養物は、組織の異常に関連する種々の疾患の処置に有用である。したがって、一態様において、本発明のシート状細胞培養物は、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。本発明のシート状細胞培養物は、従来のシート状細胞培養物に比べて高い活性を有する以外は、これと同様の構成細胞固有の性質を有しているため、少なくとも従来のシート状細胞培養物による処置が可能な組織や疾患に適用することができる。処置の対象となる組織としては、限定されずに、例えば、心筋、角膜、網膜、食道、皮膚、関節、軟骨、肝臓、膵臓、歯肉、腎臓、甲状腺、骨格筋、中耳などが挙げられる。また、処置の対象となる疾患としては、限定されずに、例えば、心疾患(例えば、心筋傷害(心筋梗塞、心外傷)、心筋症など)、角膜疾患(例えば、角膜上皮幹細胞疲弊症、角膜損傷(熱・化学腐食)、角膜潰瘍、角膜混濁、角膜穿孔、角膜瘢痕、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡など)、網膜疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症など)、食道疾患(例えば、食道手術(食道ガン除去)後の食道の炎症・狭窄の予防など)、皮膚疾患(例えば、皮膚損傷(外傷、熱傷)など)、関節疾患(例えば、変形性関節炎など)、軟骨疾患(例えば、軟骨の損傷など)、肝疾患(例えば、慢性肝疾患など)、膵臓疾患(例えば、糖尿病など)、歯科疾患(例えば、歯周病など)、腎臓疾患(例えば、腎不全、腎性貧血、腎性骨異栄養症など)、甲状腺疾患(例えば、甲状腺機能低下症など)、筋疾患(例えば、筋損傷、筋炎など)、中耳疾患(例えば、中耳炎など)が挙げられる。
本発明のシート状細胞培養物が上記疾患に有用であることは、例えば、特許文献1、非特許文献1、Arauchi et al., Tissue Eng Part A. 2009 Dec;15(12):3943-9、Ito et al., Tissue Eng. 2005 Mar-Apr;11(3-4):489-96、Yaji et al., Biomaterials. 2009 Feb;30(5):797-803、Yaguchi et al., Acta Otolaryngol. 2007 Oct;127(10):1038-44、Watanabe et al., Transplantation. 2011 Apr 15;91(7):700-6、Shimizu et al., Biomaterials. 2009 Oct;30(30):5943-9、Ebihara et al., Biomaterials. 2012 May;33(15):3846-51、Takagi et al., World J Gastroenterol. 2012 Oct 7;18(37):5145-50などに記載されている。
本発明のシート状細胞培養物は、処置の対象となる組織に適用し、これを修復、再生するために使用することもできるが、ホルモンなどの生理活性物質の給源として、処置の対象となる組織以外の部位(例えば、皮下組織など)に移植することもできる(例えば、Arauchi et al., Tissue Eng Part A. 2009 Dec;15(12):3943-9、Shimizu et al., Biomaterials. 2009 Oct;30(30):5943-9など)。また、シート状細胞培養物を注射可能な大きさに断片化し、これを処置が必要な部位に注射することで、単細胞懸濁液による注射よりも高い効果を得ることもできる(Wang et al., Cardiovasc Res. 2008 Feb 1;77(3):515-24)。したがって、本発明のシート状細胞培養物についても、このような利用法が可能である。
一態様において、本発明のシート状細胞培養物は実質的に無菌である。一態様において、本発明のシート状細胞培養物は無菌である。一態様において、本発明のシート状細胞培養物は、遺伝子操作されていない。別の態様において、本発明のシート状細胞培養物は、遺伝子操作されたものである。遺伝子操作は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物の生存性、生着能、機能などを高める遺伝子、および/または、疾患の治療に有用な遺伝子の導入を含む。導入される遺伝子としては、限定されずに、例えば、HGF遺伝子、VEGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子が挙げられる。
本発明の別の側面は、本発明のシート状細胞培養物を含む、組成物(例えば、医薬組成物等)、移植片および医療製品など(以下、「組成物等」と総称することがある)に関する。
本発明の組成物等は、本発明のシート状細胞培養物に加えて、種々の追加成分、例えば、薬学的に許容し得る担体や、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを含んでいてもよい。かかる追加成分としては、既知の任意のものを使用することができ、当業者はこれらの追加成分について精通している。また、本発明の組成物等は、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などと併用することができる。一態様において、本発明の組成物等は、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。処置の対象となる組織や疾患は、本発明のシート状細胞培養物について上記したとおりである。
本発明の別の側面は、対象において組織の異常に関連する疾患を処置する方法であって、本発明のシート状細胞培養物または組成物等の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する(以下、「本発明の処置方法」と称することがある)。本発明の処置方法の対象となる組織や疾患は、本発明のシート状細胞培養物について上記したとおりである。また、本発明の処置方法においては、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、本発明のシート状細胞培養物または組成物等と併用することができる。
本発明の処置方法は、本発明の製造方法に従って、シート状細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよい。本発明の処置方法は、シート状細胞培養物を製造するステップの前に、対象からシート状細胞培養物を製造するための細胞または細胞の給源となる組織を採取するステップをさらに含んでもよい。一態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象と同一の個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象とは異種の個体である。
本発明において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、組織の異常に関連する疾患の処置が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
本発明において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、シート状細胞培養物のサイズや重量、枚数など)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
投与方法としては、典型的には組織への直接的な適用が挙げられるが、シート状細胞培養物の断片を用いる場合には、注射による投与が可能な種々の経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、局所、動脈内、門脈内、心室内、腹腔内等の経路から投与してもよい。
投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
例1
凍結保存されたヒト骨格筋芽細胞(ヒト骨格筋試料由来)を37℃で解凍し、0.5%血清アルブミンを含む緩衝液を用いて2回洗浄した。5×106〜5×107個の細胞を20%血清含有培地に懸濁し、フラスコに播種した後、2日〜3日間培養した。
UpCell(R)(3.5cmディッシュまたは24穴マルチウェル、CellSeed Inc.)に、培養表面が全て覆われる程度の20%血清含有培地を添加し、37℃、5%CO2、通常の気圧(大気圧)の環境で3時間〜3日間処理した。処理後、添加した培地は廃棄した。
培養した細胞を回収し、20%血清含有培地に懸濁し、処理済みUpCell(R)に2×105〜20×105個/cm2の密度で播種し、37℃、5%CO2の環境で約1日間、シート化培養を行った。
例2
5×106〜5×107個のヒト骨格筋芽細胞(ヒト骨格筋試料由来)を20%血清含有培地に懸濁し、フラスコに播種した後、2日〜3日間培養した。培養した細胞を回収した後、1×107〜5×107個/mLの濃度で細胞凍結用保存液(10%DMSO含有基礎培地)に懸濁し、液体窒素タンク内で凍結保存した。
UpCell(R)(3.5cmディッシュまたは24穴マルチウェル、CellSeed Inc.)に、培養表面が全て覆われる程度の20%血清含有培地を添加し、37℃、5%CO2、通常の気圧(大気圧)の環境で3時間〜3日間処理を行った。処理後、添加した培地は廃棄した。
凍結保存した骨格筋芽細胞を37℃で解凍し、0.5%血清アルブミンを含む緩衝液を用いて2回洗浄した。洗浄した細胞を20%血清含有培地に懸濁し、処理済みUpCell(R)に2×105〜20×105個/cm2の密度で播種し、37℃、5%CO2の環境で約1日間、シート化培養を行った。
例3
上記例1または例2におけるシート化培養後に培養上清を全て回収し、ELISA法により培養上清中に産生されたサイトカイン(VEGFおよびHGF)の濃度を測定した(n=3)。測定は、Human VEGF Quantikine ELISA Kit(R&D systems、カタログ番号DVE00)およびRayBio(R) Human HGF ELISA Kit(RayBiotech, Inc.、カタログ番号ELH-HGF-001)を用い、製造者のマニュアルに従って行った。図1に示す結果から、例1および2のいずれの製造方法においても、シート化培養中にVEGFおよびHGFが産生されることがわかる。また、産生量は、例2の製造方法の方が多かった。
例4
例1または例2の方法に従い、UpCell(R)(24穴マルチウェル、CellSeed Inc.)内でシート化したシート状細胞培養物を温度処理により剥離し、HBSS(+)で洗浄した後、2.5%FBS含有MCDB培地を400μLずつ各ウェルに加えて、CO2インキュベーター内で約24時間培養した。培養後、上清を全て回収し、例3と同様にELISA法により培養上清中に産生されたサイトカイン(VEGFおよびHGF)の濃度を測定した。上清を回収したウェルに、再び2.5%FBS含有MCDB培地を400μLずつ添加し、CO2インキュベーター内で48時間培養した。培養後、上清を全て回収し、例3と同様にELISA法によって培養上清中に産生されたサイトカイン(VEGFおよびHGF)の濃度を測定した。図2〜3に示す結果から、例1および2のいずれの製造方法で作製したシート状細胞培養物もVEGFおよびHGFを産生すること、および、産生が96時間もの長期にわたって持続することがわかる。また、産生量は、例2の製造方法で作製したシート状細胞培養物の方が多かった。
例5
1×106〜3×107個のヒト間葉系幹細胞(ヒト骨髄由来)を血清含有培地に懸濁し、フラスコに播種した後、2日〜3日間培養した。培養した細胞を回収した後、1×106〜5×106個/mLの濃度で細胞凍結用保存液(10%DMSO含有基礎培地)に懸濁し、液体窒素タンク内で凍結保存した。
UpCell(R)(48穴マルチウェル、CellSeed Inc.)に、培養表面が全て覆われる程度の血清含有培地を添加し、37℃、5%CO2、通常の気圧(大気圧)の環境で3時間〜3日間処理を行った。処理後、添加した培地は廃棄した。
凍結保存した細胞を37℃で解凍し、0.5%血清アルブミンを含む緩衝液を用いて2回洗浄した。洗浄した細胞を血清含有培地に懸濁し、処理済みUpCell(R)に2×105〜20×105個/cm2の密度で播種し、37℃、5%CO2、通常の気圧(大気圧)の環境で約1日間シート化培養を行った。
図4に示すとおり、シート状細胞培養物が形成された。得られたシート状細胞培養物は均質な白色を呈しており、外観検査上欠陥は認められなかった。また、間葉系幹細胞はVEGFおよびHGFを産生することが知られているところ(例えば、Nakagami et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2005 Dec;25(12):2542-7、Francois et al., Biomed Res Int. 2013;2013:151679、Yamahara et al., PLoS One. 2014 Feb 14;9(2):e88319など参照)、上記シート状間葉系幹細胞培養物も、例2のシート状骨格筋芽細胞培養物と同様、凍結した細胞を解凍するステップと、シート状細胞培養物を形成するステップとの間に細胞を増殖させるステップを含む方法で製造されたシート状間葉系幹細胞培養物より、VEGFおよびHGFの産生能が高いと考えられる。
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。