JP2016087642A - 金属薄板のせん断加工型、その設計方法、及び、その加工型を備えるせん断装置 - Google Patents

金属薄板のせん断加工型、その設計方法、及び、その加工型を備えるせん断装置 Download PDF

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Abstract

【課題】金属薄板をせん断加工する際、パンチとダイのクリアランスを均等でないクリアランスとして伸びフランジ性の高いせん断加工面を得る。
【解決手段】パンチとダイを備えるせん断加工型において、(i)打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いとシミュレーションで判定した、せん断加工面の危険部位から、せん断加工面の稜線方向に、略円弧形状の円近似半径、略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスが、危険部位のせん断加工面をせん断加工する時のパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍であり、かつ、(ii)危険部位からせん断加工面の稜線方向に、0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスが連続的に徐々に大きくなることを特徴とするせん断加工型。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車、家電製品、建築構造物、船舶、橋梁、建設機械、各種プラント等で用いられる鉄、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、チタン、マグネシウム、又は、それぞれを基とする合金からなる金属薄板のせん断加工型、その設計方法、及び、その加工型を備えるせん断装置に関するものである。特に、金属薄板のせん断加工面の伸びフランジ性を向上させることのできる“せん断加工型のダイとポンチに所定のクリアランスを有するせん断加工型”、その設計方法、及び、その加工型を備えるせん断加工装置に関するものである。
パンチ及びダイを用いたプレスカットによる金属薄板の打抜きや穴抜きによって形成される“せん断加工面”(以下、単に「せん断加工面」という。)は、生産効率が高く、また、加工コストが安価であることから、電子機器や自動車用部品などの加工に広く用いられている。
ただし、上記せん断加工は、加工プロセス中に、せん断加工面に加工硬化が発生し易く、非特許文献1が示すように、後の成形工程における伸びフランジ性を低下させるという問題を抱えている。
なお、本明細書において、金属薄板とは、プレスによる打抜き又は穴抜きのせん断加工を行った後、せん断部の穴拡げ加工又はフランジアップ成形加工の対象となる、冷間圧延板又は厚さ3.0mm以下の金属板であって、鉄、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、チタン、マグネシウム、又は、それぞれを基とする合金からなる金属板を指す。
せん断加工が施された後の被加工材のせん断加工面は、(a)被加工材がパンチにより押し込まれて形成される“ダレ”、(b)被加工材がパンチとダイのクリアランス内に引き込まれ局所的に引き延ばされて形成される“せん断面”、(c)被加工材がせん断面形成途中に破断して形成される“破断面”、及び、(d)被加工材のせん断加工裏面に発生する“バリ”によって構成される。
通常、上記のせん断加工面におけるダレ((a))、せん断面((b))、破断面((c))、及び、バリ((d))の発生量を所望の値にすることや、伸びフランジ性、疲労特性、及び、水素脆化特性等、加工後のせん断加工面における特性を向上させることを狙って、クリアランスや工具形状の調整を行う。
例えば、パンチ傾斜角度、及び、パンチとダイのクリアランスを、応力危険部位の周囲の応力三軸度が最大となるように設定して、伸びフランジ性の向上を図る手法が、特許文献1に記載されている。
クリアランスを均一に設定することを前提とする場合、伸びフランジ性が最大となるクリアランス値は、鋼板の特性や形状に応じて決まる。一方、後の成形中のせん断加工面の変形挙動は必ずしも一様でなく、変形の厳しい部位と、そうでない部位が存在する。
そのため、変形が厳しい部位の変形を優先させて不均一なクリアランスを設定すると、均一なクリアランスを設定した場合と比較して、せん断加工面における特性の向上が期待できると考えられる。
不均一なクリアランスを設定してせん断加工面の特性を向上させる手法として、バリを低減する手法がいくつか提案されている。例えば、特許文献2には、角穴のせん断加工において、ストレート部とコーナーアール部で異なるクリアランスを設定して、バリを低減するせん断加工法法が記載されている。
上記せん断加工方法は、コーナーアール部とストレート部の繋ぎ部のせん断面と破断面の割合が大きく変化している部分でバリが多く発生することに注目し、ストレート部とコーナーアール部のせん断面割合が同程度になるようにクリアランスを調整し、バリの低減を狙ったものである。
特許文献3には、フィルムを打ち抜いて、直線部、及び、該直線部に直交又は所定の角度を有して設けられた微小な凸部を有するフィルムを形成し、リードフレームに貼り付ける、パンチとダイを有する装置において、凸部において発生するバリを低減する加工法が記載されている。
上記加工法は、凸部においては、直線部に比べ、せん断加工時の圧縮破壊によりバリが発生し易いため、凸部におけるクリアランスを広くとることで、フィルム基材の圧縮破壊を防止し、凸部におけるバリの発生を抑制するものである。
特開2011−088152号公報 特開2011−073012号公報 特開平07−161914号公報
「プレス絞り加工」、(社)日本金属プレス工業協会編、日刊工業新聞社刊、中村・桑原著、91〜94項 Journal of the JSTP vol.54 no.632 (2013-9) p41
パンチ及びダイを用いたプレスカットによる金属薄板の打抜きや穴抜きにおいて、せん断加工を制御して、せん断加工面の変形能を向上させることができれば、せん断加工面が引き延ばされる伸びフランジ成形の限界を向上させることができる(例えば、特許文献1、参照)。
しかし、特許文献1〜3に記載される、均一なせん断加工面性状を有するせん断加工面には難点がある。即ち、せん断加工面の性状が均一になるように、均一なクリアランスを設定した場合、伸びフランジ成形の厳しい部位で割れが発生し、せん断加工面の変形能の平均値が伸びフランジ変形限界を支配し、伸びフランジ成形限界が低く制限されてしまうという問題点がある。
一方、厳しい変形を受ける部位を特定した後、その部位での変形能を優先して高くするように、せん断加工条件を制御した場合、他の部位で変形能が低下したとしても、クリアランスを一定とした場合以上の伸びフランジ性が得られる可能性がある。
そこで、本発明は、伸びフランジ成形時に厳しい変形を受ける部位の変形能を重視して、金属薄板を所要の形状にせん断加工する際、パンチとダイのクリアランスを均等でないクリアランスとすることで、伸びフランジ性の高いせん断加工面を得ることを課題とし、該課題を解決する金属薄板のせん断加工型、その設計方法、及び、その加工型を用いるせん断装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、次の知見を得るに至った。
「伸びフランジ成形時に厳しい変形を受けるせん断部位(危険部位)を、フランジアップ成形加工時の各部位における歪分布を数値計算して特定し、危険部位での変形能を優先して高くするようにせん断加工条件を制御するため、危険部位をせん断加工するパンチとダイのクリアランスを、破断面近傍の加工硬化を抑え得る適度な値(通常は、金属薄板の板厚の10〜20%であるが、金属薄板の材質により変動する。)として、伸びフランジ成形時のせん断加工面の稜線方向の引張応力による伸びの確保に有利としたうえで、危険部位から外れるにしたがい、パンチとダイのクリアランスが連続的に大きくなるように、該クリアランスを設定すれば、危険部位から外れた部位のせん断加工時の材料の引込みによる応力状態に起因して、危険部位には、せん断加工時に、せん断加工面の稜線方向に引張応力が加わり、加工硬化がさらに抑制される。」
即ち、本発明者らは、フランジアップ成形加工時、せん断加工面の危険部位には、せん断加工面の稜線方向に引張応力が加わるが、上記危険部位において、加工硬化が抑制されていれば、せん断加工面の危険部位における伸びの裕度を確保することができ、より厳しいフランジアップ成形加工に対し有利に作用することを見いだした。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下の通りである。
(1)金属薄板に、略円弧形状、略楕円弧形状、又は、略楕円抜き形状の打抜きせん断加工又は穴抜きせん断加工によりせん断加工面を形成するパンチとダイを備えるせん断加工型において、
(i)上記打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いと、数値シミュレーションで判定した、上記せん断加工面の危険部位から、該せん断加工面の稜線方向に、上記略円弧形状の円近似半径、上記略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、上記略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスが、上記危険部位のせん断加工面をせん断加工する時のパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍であり、かつ、
(ii)上記危険部位からせん断加工面の稜線方向に、上記0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスが連続的に徐々に大きくなる
ことを特徴とするせん断加工型。
(2)金属薄板に、略円弧形状、略楕円弧形状、又は、略楕円抜き形状の打抜きせん断加工又は穴抜きせん断加工によりせん断加工面を形成するパンチとダイを備えるせん断加工型を設計する設計方法であって、
(i)上記打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いと、数値シミュレーションで判定した、上記せん断加工面の危険部位から、該せん断加工面の稜線方向に、上記略円弧形状の円近似半径、上記略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、上記略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスを、上記危険部位のせん断加工面をせん断加工するときのパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍にし、かつ、
(ii)上記危険部位からせん断加工面の稜線方向に、上記0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスを連続的に徐々に大きくする
ことを特徴とするせん断加工型の設計方法。
(3)前記(1)に記載のせん断加工型を備えることを特徴とするせん断装置。
なお、前記(1)及び(2)において、せん断加工後のせん断加工部近傍をフランジアップ成形加工する伸びフランジ成形の数値シミュレーションを行い、せん断加工面のうち最も成形時のひずみが高くなる伸びフランジ割れ危険部位を特定する。
本発明によれば、被加工品の伸びフランジ性を向上させることができるので、フランジアップ成形加工中、即ち、伸びフランジ成形中のせん断加工面における割れを抑制することができる。その結果、せん断加工面に対してより厳しい条件の伸びフランジ成形加工が必要な被加工品を、歩留りよく製造することができる。
本発明のせん断加工型の一態様を示す図である。(a)は、せん断加工型の断面態様((b)のA−A断面)を示し、(b)は、せん断加工型の上面態様を示す。 鞍型伸びフランジ試験の態様を示す図である。 高さHの伸びフランジ面を有する伸びフランジ成形品を示す図である。
本発明のせん断加工型(以下「本発明加工型」ということがある。)は、金属薄板に、略円弧形状、略楕円弧形状、又は、略楕円抜き形状の打抜きせん断加工又は穴抜きせん断加工によりせん断加工面を形成するパンチとダイを備えるせん断加工型において、
(i)上記打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いと、数値シミュレーションで判定した、上記せん断加工面の危険部位から、該せん断加工面の稜線方向に、上記略円弧形状の円近似半径、上記略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、上記略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスが、上記危険部位のせん断加工面をせん断加工する時のパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍であり、かつ、
(ii)上記危険部位からせん断加工面の稜線方向に、上記0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスが連続的に徐々に大きくなる
ことを特徴とする。
本発明のせん断加工型の設計方法(以下「本発明設計方法」ということがある。)は、金属薄板に、略円弧形状、略楕円弧形状、又は、略楕円抜き形状の打抜きせん断加工又は穴抜きせん断加工によりせん断加工面を形成するパンチとダイを備えるせん断加工型を設計する設計方法であって、
(i)上記打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いと、数値シミュレーションで判定した、上記せん断加工面の危険部位から、該せん断加工面の稜線方向に、上記略円弧形状の円近似半径、上記略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、上記略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスを、上記危険部位のせん断加工面をせん断加工するときのパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍にし、かつ、
(ii)上記危険部位からせん断加工面の稜線方向に、上記0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスを連続的に徐々に大きくする
ことを特徴とする。
本発明のせん断装置(以下「本発明装置」ということがある。)は、本発明加工型を備えることを特徴とする。
本発明加工型及び本発明設計方法について図面に基づいて説明する。
図1に、本発明のせん断加工型の一態様を示す。図1(a)に、せん断加工型の断面態様(図1(b)のA−A断面)を示し、図1(b)に、せん断加工型の上面態様を示す。図1に示すせん断加工型は、金属薄板1に、略半円形状の打抜きせん断加工によるせん断加工面を形成するためのパンチ2とダイ3と、必要に応じて使用する板押え4を備えている。
図1に示すせん断加工型は、ダイ3上に置いた金属薄板1を板押え4で押え、ダイ3と同軸上に配置したパンチ2を、金属薄板1の板厚方向に加圧して、金属薄板1に略半円形状のせん断加工面を形成する。
図1に示すせん断加工型において、パンチ2とダイ3は、所定のクリアランス、即ち、伸びフランジ割れし易い危険部位をせん断加工する位置でクリアランスCc(図1(b)、参照)を保有し、かつ、危険部位から切断稜線方向における略円弧形状の円近似半径(r)の0.5π倍の距離(=πr/2)の位置でクリアランスCeを保有している。
また、パンチとダイのクリアランスは、伸びフランジ割れし易い危険部位のクリアランスCcの位置から、切断稜線方向における略半円形状の円近似半径の0.5π倍の距離のクリアランスCeの位置まで、連続的に徐々に大きくなるように設定されている。即ち、クリアランスCcを、切断稜線方向に沿って連続的に徐々に大きくし、切断稜線方向における略半円形状の円近似半径の0.5π倍の距離の位置でクリアランスCeとする。
クリアランスCeとクリアランスCcは、下記式を満たすことが重要である。
1.2≦Ce/Cc≦4.0
即ち、クリアランスCcを、切断稜線方向に沿って連続的に徐々に大きくし、切断稜線方向における略半円形状の円近似半径の0.5π倍の距離の位置でのクリアランスCeを、1.2≦Ce/Cc≦4.0を満たす型設計をする。
クリアランスCeが1.2×Cc未満であると、伸びフランジ成形時、伸びフランジ割れ危険部位のせん断加工において、せん断加工面の加工硬化で、伸びフランジ割れが発生する可能性があるので、せん断加工面の加工硬化を抑制するため、クリアランスCeは1.2×Cc以上とする。
一方、クリアランスCeが4.0×Ccを超えると、せん断加工面全体の寸法精度が低下し、また、ダレが多く発生し、被加工品の品質を保持できないので、クリアランスCeは4.0×Cc以下とする。好ましくは3.0×Cc以下である。
そして、クリアランスCcを、切断稜線方向に沿って連続的に徐々に大きくし、切断稜線方向における略半円形状の円近似半径の0.5π倍の距離の位置でのクリアランスCeを、(1.2〜4.0)×Ccとする型設計をすることにより、伸びフランジ割れし易い危険部位に、切断稜線方向の引張応力を作用させ、静水圧応力の高い状態でせん断加工を行い、割れが発生し易い略円形形状の中央近傍において、せん断加工時に生じる加工硬化を抑制することができる。
伸びフランジ割れし易い危険部位は、汎用ソフトウェアを用いて、伸びフランジ加工の有限要素法によるシミュレーションを行い、せん断加工面の歪量が大きい部位を伸びフランジ割れし易い危険部位として特定する。なお、汎用ソフトウェアとして、LS-DYNA、Abaqus、Marc、Nastran、Permas、Deform、Pam-Crash、Ansys、CATIA Analysis、Solidworks Simulationを用いることができる。
せん断加工面の歪量が大きく、伸びフランジ割れし易い危険部位の特定は、例えば、予め、歪量の閾値を設定し、閾値を超える歪量を有する部位を“歪量が大きい部位”として特定することで行うことができる。
歪量の閾値は、基礎的な試験(例えば、孔広げ試験)において、伸びフランジ割れが生じた歪量を閾値としてもよく、また、教科書に記載されている破壊の条件式を用いて計算してもよい。
破壊の条件式を用いる場合、例えば、下記(1)式で表示されるJeongの延性破壊条件式を用いることが考えられる。この場合、下記(1)式で計算された延性破壊のパラメータDの最大値を、歪量の閾値とすることができる。
Figure 2016087642
図1には、略半円形状の打抜きせん断加工を示したが、打抜き形状は、略半円形状に限られない。略半円形状の他、略円弧形状、略楕円弧形状、及び、略楕円抜き形状のせん断加工が可能である。略楕円弧形状、及び、略楕円抜き形状の場合、長軸の長さと短軸の長さの比が1/20〜20であればよい。
長軸の長さと短軸の長さの比が1/20未満であると、伸びフランジ割れし易い危険部位が広がって、該危険部位の特定が曖昧となるうえ、伸びフランジ変形の割合が減り、伸びフランジ割れが頻発する。長軸の長さと短軸の長さの比が20を超えると、クリアランスを調整しただけでは、伸びフランジ割れを抑制できない場合がある。
本発明加工型は冷間せん断加工を対象とする加工型で、本発明加工型に供する金属薄板は、冷間せん断加工が可能で、本発明加工型の効果を享受できる厚さの金属薄板であればよく、特定の厚さの金属薄板に限定されないが、加工品の寸法精度を保つ観点から、金属薄板の厚さは3.0mm以下が好ましい。特に、加工品に高い寸法精度が要求される場合、金属薄板の厚さは2.0mm以下がより好ましい。
一方、金属薄板の厚さが非常に薄くなると、伸びフランジ割れに及ぼすせん断加工面の性状の影響が相対的に小さくなり、別の要因で、伸びフランジ割れが生じるので、金属薄板の厚さは0.1mm以上が好ましい。
また、金属薄板は、薄鋼板に限らず、例えば、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、チタン、マグネシウム、及び、それらを基とする合金からなる薄板でもよい。
本発明装置は、本発明加工型を備えることを特徴とし、さらに、本発明加工型の作動に必要な機具を備えるものである。本発明装置を使用することにより、せん断加工面に対しより厳しい条件の伸びフランジ成形加工が必要な被加工品を、歩留りよく製造することができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
図1に示すせん断加工型を用い、板厚1.6mmの590MPa級鋼板にせん断加工を施した。パンチ寸法はφ30mm、ダイ寸法は、φ30mm+クリアランスである。パンチ速度は、サーボプレス機を用いて100mm/secとした。
伸びフランジ割れし易い危険部位のクリアランスCcは、板厚の10%(=0.16mm)(以下、単に「%」で表示する。)とし、危険部位から切断稜線方向に略円形状の円近似半径の0.5π倍の位置のクリアランスCeを、Ce=10%、15%、20%、40%、50%とした。
即ち、Ce/Cc=1、1.5、2、4、5であり、Ce=10%と、Ce=50%以外は、1.2≦Ce/Cc≦4.0(本発明の範囲)を満たす形設計である。
伸びフランジ性の評価は、図2に示す鞍型伸びフランジ試験(非特許文献2、参照)で行った。鞍型伸びフランジ試験では、図2に示すように、パンチ2、ダイ3、及び、パッド5を配置し、せん断加工面1bのバリがパンチ2の側となるように、せん断加工した金属薄板1aを配置して、図3に示すような、高さHの伸びフランジ面1cを有する伸びフランジ成形品6を作製する。
鞍型伸びフランジ試験では、Ce/Cc=1.0、1.5、2.0、4.0、及び、5.0でせん断加工した試験片について、H=8mm〜16mmの範囲で、2mm間隔で成形高さHを変えて、伸びフランジ面を成形し、伸びフランジ面における割れの有無を観察して、伸びフランジ成形性を評価した。評価結果を表1に示す。
Figure 2016087642
表1中「○」は、所定の成形高さHまで伸びフランジ成形した際に、せん断加工面に割れがない場合を示し、「×」は、せん断加工面に割れが1つ以上ある場合を示している。なお、割れの有無の判定は、2名以上の観察者が、目視で、板厚方向に貫通する亀裂の有無を観察して行なった。
表1に示すように、Ce/Ccが1.0と5.0との場合、H>10mmで「×」である。Hが10mmを超える伸びフランジ成形が必要な場合もあるので、パンチとダイのクリアランスは、1.2≦Ce/Cc≦4.0とした。
表1に示すように、パンチとダイのクリアランスを、1.2≦Ce/Cc≦4.0を満たすように設計したせん断加工型を用いて、金属薄板をせん断加工すれば、せん断加工後の伸びフランジ成形において、伸びフランジ性に優れ割れが生じないせん断加工面を形成することができる。
前述したように、本発明によれば、被加工品の伸びフランジ性を向上させることができるので、フランジアップ成形加工中、即ち、伸びフランジ成形中のせん断加工面における割れを抑制することができる。その結果、せん断加工面に対しより厳しい条件の伸びフランジ成形加工が必要な被加工品を、歩留りよく製造することができる。よって、本発明は、金属加工産業において利用可能性が高いものである。
1 金属薄板
1a せん断加工した金属薄板
1b せん断加工面
1c 伸びフランジ面
2 パンチ
3 ダイ
4 板押え
5 パッド
6 伸びフランジ成形品

Claims (3)

  1. 金属薄板に、略円弧形状、略楕円弧形状、又は、略楕円抜き形状の打抜きせん断加工又は穴抜きせん断加工によりせん断加工面を形成するパンチとダイを備えるせん断加工型において、
    (i)上記打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いと、数値シミュレーションで判定した、上記せん断加工面の危険部位から、該せん断加工面の稜線方向に、上記略円弧形状の円近似半径、上記略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、上記略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスが、上記危険部位のせん断加工面をせん断加工する時のパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍であり、かつ、
    (ii)上記危険部位からせん断加工面の稜線方向に、上記0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスが連続的に徐々に大きくなる
    ことを特徴とするせん断加工型。
  2. 金属薄板に、略円弧形状、略楕円弧形状、又は、略楕円抜き形状の打抜きせん断加工又は穴抜きせん断加工によりせん断加工面を形成するパンチとダイを備えるせん断加工型を設計する設計方法であって、
    (i)上記打抜きせん断加工後又は穴抜きせん断加工後のせん断加工面の近傍をフランジアップ成形加工するとき、伸びフランジ割れが最もし易いと、数値シミュレーションで判定した、上記せん断加工面の危険部位から、該せん断加工面の稜線方向に、上記略円弧形状の円近似半径、上記略楕円弧形状の楕円近似長径、又は、上記略楕円抜き形状の楕円近似長径の0.5π倍の距離におけるパンチとダイのクリアランスを、上記危険部位のせん断加工面をせん断加工するときのパンチとダイの正のクリアランスの1.2〜4.0倍にし、かつ、
    (ii)上記危険部位からせん断加工面の稜線方向に、上記0.5π倍の距離の位置にかけて、パンチとダイのクリアランスを連続的に徐々に大きくする
    ことを特徴とするせん断加工型の設計方法。
  3. 請求項1に記載のせん断加工型を備えることを特徴とするせん断装置。
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