JP2016074932A - 硬質被膜およびその形成方法ならびに形成装置 - Google Patents

硬質被膜およびその形成方法ならびに形成装置 Download PDF

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【課題】 耐摩耗性および潤滑性の両方を兼ね備える硬質被膜を提供する。【解決手段】 本発明に係る硬質被膜としてのDLCナノ多層膜100は、母材110上に形成された中間層120と、この中間層120上に形成された傾斜層130と、この傾斜層130上に形成された被膜本体としてのDLCナノ多層140と、から成る。特に、DLCナノ多層140は、厚みDaがナノオーダのナノDLC層142と、厚みDbがナノオーダのナノSi−DLC層144と、が交互に積層された構成のものである。このような構成のDLCナノ多層膜110によれば、耐摩耗性および潤滑性の両方を兼ね備えることが、このたび、実験により確認された。【選択図】 図1

Description

本発明は、硬質被膜およびその形成方法ならびに形成装置に関し、特に、母材上に形成された非晶質の硬質被膜およびその形成方法ならびに形成装置に関する。
この種の硬質被膜として、例えばダイヤモンドライクカーボン(Diamond‐Like Carbon:以下、「DLC」と言う。)膜がある。特許文献1には、図11に示すように、金属製の母材(基板)210上に形成された中間層220と、この中間層220上に形成された傾斜層230と、この傾斜層230上に形成された被膜本体としてのDLC層240と、から成るDLC膜200が開示されている。ここで、中間層220は、母材210に対するDLC層240(厳密には傾斜層230)の密着性を向上させるためのものであり、当該母材210上にクロム(Cr)層222と窒化クロム(CrN)層224とクロム層226とがこの順番で形成されたものである。特に、窒化クロム層224が設けられることで、当該窒化クロム層224を含む下地の高硬度化が図られ、ひいてはDLC膜200全体としての耐摩耗性の向上が図られる。傾斜層230もまた、母材210(厳密には中間層220)に対するDLC層240の密着性を向上させるためのものである。この傾斜層230は、炭素(C)を主成分とし、シリコン(Si)を含む、言わばシリコン含有炭素層(SiCx)であり、母材210(中間層220)から離れるに従ってシリコンの含有率(含有量)が小さくなるように形成されている。
なお、中間層220は、スパッタ法によって形成され、とりわけ、窒化クロム層224は、反応ガスとして窒素(N)ガスを用いた反応性スパッタ法によって形成される。そして、傾斜層230は、材料ガスとしてアセチレン(C)ガスとTMS(Tetra-Methyl Silane;Si(CH)ガスとを用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成される。さらに、DLC層240は、材料ガスとしてアセチレンガスを用いたプラズマCVD法によって形成される。このアセチレンガスという炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によって形成されるDLC層240には、必ず水素(H)が含まれる。傾斜層230についても同様に、必ず水素が含まれる。
このような構成のDLC膜200は、極めて高い耐摩耗性を有する。ただし、このDLC膜200は、潤滑性(低摩耗性)の面で劣る。この潤滑性を補うために、被膜本体としてのDLC層240にシリコンが加えられることがある。即ち、図12に示すように、被膜本体としてシリコンを含むシリコン含有DLC(以下、「Si−DLC」と言う。)が採用された構成のSi−DLC膜200aがある。このSi−DLC膜200aによれば、極めて高い潤滑性が得られる。その一方で、当該Si−DLC膜200aは、上述のDLC膜200に比べて、耐摩耗性の面で劣る。従って、耐摩耗性が重視される用途では、DLC膜200が用いられ、潤滑性が重視される用途では、Si−DLC膜200aが用いられる。
(財)近畿高エネルギー加工技術研究所 ドライコーティング研究会編、「高機能化のためのDLC成膜技術」、初版、日刊工業新聞社、2007年9月28日、p.126−138
ところで近年、硬質被膜の市場において、耐摩耗性と潤滑性との両方が要求されることがある。しかしながら、上述のDLC膜200やSi−DLC膜200a等の従来の硬質被膜では、この要求に応えることができない。
そこで、本発明は、耐摩耗性と潤滑性との両方を兼ね備える硬質被膜を提供すること、および、当該硬質被膜の形成方法ならびに形成装置を提供すること、を目的とする。
この目的を達成するために、本発明は、硬質被膜そのものに係る第1発明と、当該硬質被膜の形成方法に係る第2発明と、当該硬質被膜の形成装置に係る第3発明と、を含む。
このうちの第1発明に係る硬質被膜は、厚みがナノオーダのDLC層と、厚みがナノオーダのSi−DLC層と、が交互に積層された構成のものである。ここで、DLC層(以下、図11に示した従来のDLC膜200におけるDLC層240と区別化するために「ナノDLC層」と言う。)は、炭素を主成分とする。そして、Si−DLC層(以下、図12に示した従来のSi−DLC膜200aにおけるSi−DLC層240aと区別化するために「ナノSi−DLC層」と言う。)は、炭素を主成分とし、併せてシリコンを含む。
このような構成の言わばDLCナノ多層膜によれば、耐摩耗性と潤滑性との両方を兼ね備えることが、このたび、実験により確認された。言い換えれば、従来のDLC膜(以下、本第1発明に係るDLCナノ多層膜と区別化するために「DLC単層膜」と言う。)200と同等の耐摩耗性を備え、かつ、従来のSi−DLC膜(以下、同様の理由により「Si−DLC単層膜」と言う。)200aと同等の潤滑性を備えた、当該DLCナノ多層膜という全く新規な硬質被膜を実現できることが、確認された。
なお、ナノDLC層は、材料ガスとして炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によって形成されてもよい。このようにして形成されたナノDLC層には、必ず水素が含まれる。このナノDLC層における水素の含有率は、当該ナノDLC層の形成時の条件(成膜条件)に依存する。また、このナノDLC層における水素の含有率は、当該ナノDLC層の硬度と、当該ナノDLC層の内部応力と、に関係する。例えば、このナノDLC層における水素の含有率が低いほど、当該ナノDLC層の硬度が高くなるが、その一方で、当該ナノDLC層の内部応力が大きくなり、密着力が下がる。これとは反対に、ナノDLC層における水素の含有率が高いほど、当該ナノDLC層の内部応力が小さくなり、密着力が上がるが、当該ナノDLC層の硬度が低くなる。これらのことから、ナノDLC層における水素の含有率は、原子数比で20%〜40%が適当である。
そして、ナノSi−DLC層は、材料ガスとして炭化水素系ガスとシリコン系ガスとを用いたプラズマCVD法によって形成されてもよい。このようにして形成されたナノSi−DLC層についても同様に、必ず水素が含まれる。このナノSi−DLC層における水素の含有率は、当該ナノSi−DLC層の形成時の条件に依存する。そして、このナノSi−DLC層における水素の含有率もまた、原子数比で20%〜40%が適当である。
さらに、ナノSi−DLC層は、上述の如くシリコンを含むが、このナノSi−DLC層におけるシリコンの含有率は、当該ナノSi−DLCの形成時の条件、主にシリコン系ガスの供給流量(厳密には当該シリコン系ガスの供給流量と炭化水素系ガスの供給流量との相対比)、に依存する。例えば、このナノSi−DLC層におけるシリコンの含有率が過度に高いと、DLCナノ多層膜全体としての耐摩耗性が極端に低下することが、このたびの実験により確認された。一方、当該ナノSi−DLC層におけるシリコンの含有率が過度に低いと、DLCナノ多層膜全体としての潤滑性が極端に低下することが、併せて確認された。これらのことから、ナノSi−DLC層におけるシリコンの含有率は、水素以外の成分のうち原子数で1%〜25%が適当である。
加えて、ナノDLC層の厚みは、1nm〜200nmが適当であることが、このたびの実験により確認された。また、ナノSi−DLC層の厚みも同様に、1nm〜200nmが適当である。
本第1発明に係るDLCナノ多層被膜においては、その最表面に、ナノSi−DLC層が形成されるのが、好ましい。この構成によれば、特に、初期摩耗係数(初期摩擦)の低減が図られる。
また、本第1発明に係るDLCナノ多層膜についても、従来のDLC単層膜200やSi−DLC単層膜200aと同様、母材に対する密着性を向上させるべく、中間層と傾斜層とが形成されてもよい。具体的には、母材上に、当該母材と密着性のある中間層が形成される。そして、この中間層上に、傾斜層が形成される。傾斜層は、炭素を主成分とし、併せてシリコンを含む、シリコン含有炭素層であり、中間層(母材)から離れるに従ってシリコンの含有率が低下するように形成されている。そして、この傾斜層上に、ナノDLC層とナノSi−DLC層とが交互に積層された構成とされてもよい。
第2発明は、第1発明に係るDLCナノ多層膜を形成する方法であって、プラズマ発生過程と、材料ガス供給過程と、を具備する。このうちのプラズマ発生過程は、母材が収容された真空槽内にプラズマを発生させる。そして、材料ガス供給過程は、このプラズマが発生している状態にある真空槽内に炭化水素系ガスを連続的に供給すると共に、当該真空槽内にシリコン系ガスを間欠的に供給する。ここで、真空槽内に炭化水素系ガスが供給されており、かつ、当該真空槽内にシリコン系ガスが供給されていないときに、DLCナノ多層膜の要素としてのナノDLC層が形成される。一方、真空槽内に炭化水素系ガスが供給されており、かつ、当該真空槽内にシリコン系ガスが供給されているときに、DLCナノ多層膜の要素としてのナノSi−DLC層が形成される。その上で、ガス供給制御過程が、さらに具備されている。このガス供給制御過程は、ナノDLC層とナノSi−DLC層とが交互に積層されることによってDLCナノ多層膜が形成されるように、材料ガス供給過程における真空槽内へのシリコン系ガスの間欠的な供給動作を制御する。
第3発明は、第1発明に係るDLCナノ多層膜を形成する装置であって、真空槽と、プラズマ発生手段と、材料ガス供給手段と、を具備する。このうちの真空槽の内部に、母材が収容される。そして、プラズマ発生手段は、この母材が収容された真空槽内にプラズマを発生させる。さらに、材料ガス供給手段は、このプラズマが発生している状態にある真空槽内に炭化水素系ガスを連続的に供給すると共に、当該真空槽内にシリコン系ガスを間欠的に供給する。ここで、真空槽内に炭化水素系ガスが供給されており、かつ、当該真空槽内にシリコン系ガスが供給されていないときに、DLCナノ多層膜の要素としてのナノDLC層が形成される。一方、真空槽内に炭化水素系ガスが供給されており、かつ、当該真空槽内にシリコン系ガスが供給されているときに、DLCナノ多層膜の要素としてのナノSi−DLC層が形成される。その上で、ガス供給制御手段が、さらに具備されている。このガス供給制御手段は、ナノDLC層とナノSi−DLC層とが交互に積層されることによってDLCナノ多層膜が形成されるように、材料ガス供給手段による真空槽内へのシリコン系ガスの間欠的な供給動作を制御する。
上述したように、本発明によれば、耐摩耗性と潤滑性との両方を兼ね備えるDLCナノ多層膜という全く新規な硬質被膜を実現することができる。従って、従来のDLC単層膜200やSi−DLC単層膜200では対応することができなかった用途への展開が期待される。
本発明の一実施形態に係るDLCナノ多層膜の構成を概略的に示す図解図である。 同実施形態に係るDLCナノ多層膜を形成するためのプラズマ表面処理装置の概略構成を示す図解図である。 同実施形態に係るDLCナノ多少膜を形成する際の材料ガスとしてのアセチレンガスおよびTMSガスの供給流量の遷移を従来のものと比較して示す図解図である。 同実施形態における第1の実験結果を示す一覧である。 同第1の実験結果をグラフで示す図解図である。 同実施形態における第2の実験結果を示す一覧である。 同第2の実験結果をグラフで示す図解図である。 同実施形態における第3の実験結果を示す一覧である。 同第3の実験結果をグラフで示す図解図である。 同実施形態に係るDLCナノ多層膜の特徴を従来のものと比較して説明するための図解図である。 従来のDLC単層膜の構成を概略的に示す図解図である。 従来のSi−DLC単層膜の構成を概略的に示す図解図である。
本発明の一実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
図1に、本実施形態に係る硬質被膜としてのDLCナノ多層膜100の構成を概略的に示す。この図1に示すように、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100は、金属製の母材110上に形成された中間層120と、この中間層120上に形成された傾斜層130と、この傾斜層130上に形成された被膜本体としてのDLCナノ多層140と、から成る。ここで、中間層120は、上述の従来のDLC単層膜200およびSi−DLC単層膜200aのものと同様、母材110に対するDLCナノ多層140(厳密には傾斜層130)の密着性を向上させるためのものであり、当該母材110上にクロム層122と窒化クロム層224とクロム層122とがこの順番で形成されたものである。そして、傾斜層130もまた、従来のDLC単層膜200およびSi−DLC単層膜200aのものと同様、母材110(厳密には中間層120)に対するDLCナノ多層140の密着性を向上させるためのものである。この傾斜層130は、炭素を主成分とし、併せてシリコンを含む、シリコン含有炭素層であり、母材110(中間層120)から離れるに従ってシリコンの含有率が低下するように形成されている。さらに、DLCナノ多層140は、厚みDaがナノオーダのDLC層、言わばナノDLC層(図1を含む関係各図においては便宜上、「nDLC層」と表現する。)142と、厚みDbがナノオーダのSi−DLC層、言わばナノSi−DLC層(図1を含む関係各図においては便宜上、「nSi−DLC」と表現する。)144と、が交互に積層された構成のものである。なお厳密に言えば、或る1つのナノDLC層142と、その上に形成された1つのナノSi−DLC層144と、が1つの組146を成しており、N(N;複数)個の当該組146が積層されることによって、DLCナノ多層140が構成されている。
このDLCナノ多層140を構成するそれぞれのナノDLC層142は、炭素を主成分とし、併せて水素を含む。このナノDLC層142における水素の含有率は、後述するように、当該ナノDLC層142の形成時の条件に依存する。また、このナノDLC層142における水素の含有率は、当該ナノDLC層142の硬度と、当該ナノDLC層142の内部応力と、に関係する。例えば、このナノDLC層142における水素の含有率が低いほど、当該ナノDLC層142の硬度が高くなるが、その一方で、当該ナノDLC層142の内部応力が大きくなり、剥離に弱くなる。これとは反対に、ナノDLC層142における水素の含有率が高いほど、当該ナノDLC層142の内部応力が小さくなり、剥離に強くなるが、当該ナノDLC層142の硬度が低くなる。このれらことから、ナノDLC層142における水素の含有率は、例えば原子数比で20%〜40%が適当であり、好ましくは25%〜35%が適当である。なお、このナノDLC層142における水素以外の成分は、(不純物を除いて)炭素である。
それぞれのナノSi−DLC層144もまた、炭素を主成分とし、併せて水素を含み、さらにシリコンを含む。そして、このSi−DLC層144における水素の含有率は、後述するように、当該ナノSi−DLC層144の形成時の条件に依存する。このナノSi−DLC層144における水素の含有率も同様に、原子数比で20%〜40%が適当であり、好ましくは25%〜35%が適当である。さらに、このナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiは、当該ナノSi−DLC層144の形成時の条件に依存し、主に後述するTMSガスの流量Qb(厳密にはTMSガスの流量Qbとアセチレンガスの流量Qaとの相対比)に依存する。そして例えば、このナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiが過度に高いと、DLCナノ多層膜100全体としての耐摩耗性が極端に低下することが、このたび、実験により確認された。一方、当該ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiが過度に低いと、DLCナノ多層膜100全体としての潤滑性が極端に低下することが、併せて確認された。これらのことから、ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiは、水素以外の成分のうち原子数で1%〜25%が適当であり、好ましくは1%〜5%が適当であり、より好ましくは1%〜2%が適当である。なお、このナノSi−DLC層144における水素およびシリコン以外の成分は、(不純物を除いて)炭素である。
ナノDLC層142の厚みDaは、上述の如くナノオーダであるが、詳しくは1nm〜200nmが適当であり、好ましくは5nm〜50nmが適当であることが、このたび、実験により確認された。そして、ナノSi−DLC層144の厚みDbは、1nm〜200nmが適当であり、好ましくは2.5nm〜25nmが適当である。さらに、ナノDLC層142の厚みDaは、ナノSi−DLC層144の厚みDbよりも大きいことが適当であり、好ましくは当該ナノSi−DLC層144の厚みDbの2倍〜10倍程度が適当である。
また、上述の組146の数Nは、ナノDLC層142の厚みDaとナノSi−DLC層144の厚みDbとにもよるが、例えば10〜400とされる。ここで、当該組146は、上述の如く1つのナノDLC層142と、その上に形成された1つのナノSi−DLC層144と、から成るので、DLCナノ多層140の最上層には、言い換えればDLCナノ多層膜100全体としての最表面には、ナノSi−DLC層144が位置することになる。これにより、DLCナノ多層膜100全体としての初期摩耗係数の低減が図られる。なお、DLCナノ多層140の最下層には、ナノDLC層142が位置することになる。
このような構成のDLCナノ多層膜100は、例えば図2に示すプラズマ表面処理装置10によって形成される。
このプラズマ表面処理装置10は、両端が閉鎖された概略円筒形の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該両端を上下に向けた状態で、つまり自身の中心軸を上下方向に延伸させた状態で、設置されている。なお、真空槽12の内径は、例えば約1100mmであり、当該真空槽12内の高さ寸法は、例えば約800mmである。また、真空槽12は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばステンレス鋼製、であり、その壁部は、基準電位としての接地電位に接続されている。
真空槽12の壁部の適宜位置(図2においては真空槽12の下面を成す壁部の適宜位置)には、排気口14が設けられている。そして、この排気口14には、真空槽12の外部において、図示しない排気用配管を介して、排気手段としての真空ポンプ16が結合されている。さらに、真空槽12の上部の略中央、つまり当該真空槽12の上面を成す壁部の略中央には、プラズマ発生手段としてのプラズマガン18が設けられている。
このプラズマガン18は、真空槽12よりも全体的に小さく、かつ、両端が閉鎖された概略円筒形の、筐体20を有している。この筐体20もまた、真空槽12と同様、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばステンレス鋼製、である。そして、この筐体20は、真空槽12の同心状に、つまり自身の中心軸を真空槽12の中心軸に一致させた状態で、当該真空槽12に結合されている。また、筐体20は、絶縁フランジ22を介して、真空槽12と結合されており、つまり当該真空槽12と電気的に絶縁された状態にあり、言わば絶縁電位(フローティング電位)とされた状態にある。さらに、筐体20の下面を成す壁部の中央には、両端が開口された概略円筒形のアパーチャ24が、自身の中心軸を当該筐体20(および真空槽12)の中心軸に一致させた状態で、設けられている。そして、このアパーチャ24を介して、筐体20内と真空槽12内とが互いに連通している。なお、筐体20の内径は、例えば約200mmであり、当該筐体20内の高さ寸法は、例えば約200mmである。そして、アパーチャ24の内径は、例えば約80mmであり、当該アパーチャ24の側面の高さ寸法は、例えば約80mmである。
プラズマガン18の筐体20内には、熱電子放出手段としての熱陰極26と、熱電子加速手段としての陽極28と、が設けられている。このうちの熱陰極26は、例えば直径が約1mmの直線状のタングステン(W)製フィラメントを有しており、筐体20の中心軸上において、この直線状のタングステン製フィラメントが当該筐体20の中心軸と直交するように、設けられている。そして、この熱陰極26は、筐体20(真空槽12)の外部において、カソード電力供給手段としての直流電源装置30に接続されており、当該直流電源装置30からカソード電力Ecとしての直流電力が供給されることで、2000℃以上に加熱され、ひいては熱電子を放出する。
一方、陽極28は、例えばモリブデン(Mo)製の扁平な環状体であり、熱陰極26とアパーチャ24との間の位置において、自身の中心軸をプラズマガン18の筐体20の中心軸に一致させた状態で、設けられている。そして、この陽極28は、筐体20の外部において、アノード電力供給手段としての直流電源装置32に接続されており、当該直流電源装置32からアノード電力Eaとして熱陰極26の電位を基準とする正電位の直流電力の供給を受ける。併せて、陽極28は、接地電位に接続されている。なお、この陽極28の中空部の直径(内径)は、例えばアパーチャ24の内径と略同じ約80mmである。また、プラズマガン18の筐体20の中心軸に沿う方向における熱陰極26と当該陽極28との間の距離は、例えば50mm〜100mmである。
さらに、プラズマガン18の筐体20の壁部の適宜位置(図2においては熱陰極26の近傍の位置)には、当該筐体20内に放電用ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを供給するための放電用ガス供給口34が設けられている。このため、当該放電用ガス供給口34には、筐体20の外部において、放電用ガス配管36を介して、図示しない放電用ガス供給源としてのアルゴンガス供給源が結合されている。また、放電用ガス配管36の途中には、当該放電用ガス配管36内を流れるアルゴンガスの流量を調整するための流量調整手段としてのマスフローコントローラ36aと、当該放電用ガス配管36内を開閉する開閉手段としての開閉バルブ36bと、が設けられている。併せて、放電用ガス供給口36には、筐体20の外部において、洗浄用ガスとしての水素ガスを流通させるための洗浄用ガス配管38を介して、図示しない洗浄用ガス供給源としての水素ガス供給源が結合されている。そして、この洗浄用ガス配管38の途中にも、マスフローコントローラ38aと、開閉バルブ36bと、が設けられている。さらに、放電用ガス供給口36には、筐体20の外部において、反応ガスとしての窒素ガスを流通させるための反応ガス配管40を介して、図示しない反応ガス供給源としての窒素ガス供給源が結合されている。そして、この反応ガス配管40の途中にも、マスフローコントローラ40aと、開閉バルブ40bと、が設けられている。なお、放電用ガスとしてのアルゴンガスは、後述するプラズマ40を発生させるためのものである。そして、洗浄用ガスとしての水素ガスは、後述する放電洗浄処理を行うためのものである。さらに、反応ガスとしての窒素ガスは、上述の中間層120を成す窒化クロム層124を形成するためのものである。これらのガスの使用要領については、後で順を追って説明する。
改めて真空槽12に注目して、その内部には、概略円板状の反射電極44が設けられている。この反射電極44は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばステンレス鋼製、であり、真空槽12内の下面近傍の中心軸上において、自身の中心軸を当該真空槽12の中心軸に一致させた状態にあり、言い換えればプラズマガン18と対向した状態にある。そして、この反射電極44は、プラズマガン18の筐体20と同様、電気的に絶縁電位とされている。なお、この反射電極44として、概略円皿状の金属製の収容器と、この収容器内に収容された金属製ウールと、から成るものが採用されてもよい。
さらに、真空槽12内の上面近傍には、プラズマ安定化手段としての円板状のプラズマ安定化電極46が、当該真空槽12内の上面を全体的に覆うように設けられている。ただし、このプラズマ安定化電極46は、アパーチャ24の開口部を塞がないように設けられており、そのために、当該プラズマ安定化電極46の中央部分には、アパーチャ24の開口部に対応する貫通孔46aが設けられている。このプラズマ安定化電極46は、耐食性および耐熱性の高い金属製とされており、併せて軽量化を図るべく、例えばチタン(Ti)製またはアルミニウム(Al)合金製とされている。また、このプラズマ安定化電極46も、電気的に絶縁電位とされている。
そして、真空槽12の中心軸を中心とする円の円周方向に沿って複数の母材(被処理物)110,110,…が配置される。それぞれの母材110は、保持手段としてのホルダ48によって保持されており、それぞれのホルダ48は、ギア機構50を介して、円盤状の公転台52の周縁部分に結合されている。そして、公転台52の中心には、回転軸54の一方端が固定されており、当該回転軸54の他方端は、真空槽12の外部において、回転駆動手段としてのモータ56のシャフト56aに結合されている。
即ち、モータ56のシャフト56aが例えば図2に矢印58で示す方向に回転すると、公転台52が同方向に回転する。これに伴って、それぞれの母材110が真空槽12の中心軸を中心として回転し、言わば公転する。併せて、それぞれのギア機構50による回転伝達作用によって、それぞれのホルダ48が自身を中心として図2に矢印60で示す方向に回転する。そして、このホルダ48自身の回転に伴って、それぞれの母材110自身も同方向に回転し、言わば自転する。なお、母材110の公転経路の直径(PCD;Pitch Circle Diameter)は、例えば約600mmである。そして、母材110(ホルダ48)の公転速度(公転台52の回転速度)は、例えば0.5rpm〜1rpmである。そして、当該母材110の自転速度(母材110自身の回転速度)は、例えば30rpm〜60rpmである。
加えて、それぞれの母材110には、ホルダ48,ギア機構50,公転台52および回転軸54を介して、真空槽12の外部にあるバイアス電力供給手段としてのパルス電源装置62からバイアス電力としての非対称パルス電力Ebが供給される。この非対称パルス電力Ebの電圧値は、+37Vのハイレベルと−37V以下のローレベルVLとに交互に遷移し、このうちのローレベル電圧値については、任意に調整可能とされている。また、この非対称パルス電力Ebの周波数およびデューティ比(1周期におけるハイレベル期間の比率)についても、任意に調整可能とされている。そして、この非対称パルス電力Ebのローレベル電圧値,周波数およびデューティ比によって、当該非対称パルス電力Ebの平均電圧値(直流換算値)Vbが任意に調整可能とされている。
また、真空槽12内の側壁の近傍であって、公転台52の外周縁(それぞれの母材110の公転経路)よりも外方の或る位置(図2において右側の位置)に、後述するマグネトロンスパッタ法(以下、単に「スパッタ法」と言う。)による中間層120の形成時に使用されるマグネトロンスパッタカソード64が配置されている。このマグネトロンスパッタカソード64は、真空槽12の中心軸に向けて配置された平板状のターゲット66と、このターゲット66の背面(真空槽12の外方に向いた面)に近接して設けられたマグネット68と、を有する。このうちのターゲット66は、例えば純度が99.9[%]以上のクロム製であり、その高さ寸法は700mm、幅寸法は140mm、厚さ寸法は10mmである。そして、このターゲット66には、真空槽12の外部にある図示しないスパッタ用電源装置からターゲット電力として負電位の直流電力が供給される。一方、マグネット68は、ターゲット66のスパッタ効率を向上させるためのものであり、詳しい図示は省略するが、永久磁石とヨークとが適宜に組み合わされたものである。
そして、真空槽12内の側壁の近傍であって、マグネトロンスパッタカソード64と対向する位置に、温度制御手段としての電熱ヒータ70が設けられている。この電熱ヒータ70は、それぞれの母材110を含む真空槽12内を加熱するためのものであり、その加熱温度は、真空槽12の外部にある図示しないヒータ用電源装置から供給されるヒータ加熱電力によって制御される。
さらに、真空槽12の壁部の適宜位置(図2においてはプラズマ安定化電極16の少し下方の位置)に、後述するプラズマCVD法による傾斜層130およびDLCナノ多層140の形成時に材料ガスとしてのアセチレンガスおよびTMSガスを当該真空槽12内に供給するための材料ガス供給口72が設けられている。このため、当該材料ガス供給口72には、真空槽12の外部において、アセチレンガス配管74を介して、図示しない炭化水素系ガス供給源としてのアセチレンガス供給源が結合されており、併せて、TMSガス配管76を介して、図示しないシリコン系ガス供給源としてのTMSガス供給源が結合されている。そして、アセチレンガス配管74の途中にも、上述の放電用ガス配管36に設けられているのと同様のマスフローコントローラ74aおよび開閉バルブ74bが設けられている。併せて、TMSガス配管76の途中にも、同様のマスフローコントローラ76aおよび開閉バルブ76bが設けられている。また特に、TMSガス配管76用のマスフローコントローラ76aに付随して、当該マスフローコントローラ76aの動作を制御するためのガス供給制御手段としての供給制御装置78が設けられている。なお、この供給制御装置78は、他の要素の制御をも司る図示しない制御装置に組み込まれており、例えばパーソナルコンピュータによって構成される。
さらに加えて、真空槽12の外部には、当該真空槽12の上面および下面のそれぞれの周縁に沿うように、一対の電磁コイル80および82が設けられている。この一対の電磁コイル80および82は、真空槽12の外部に設けられた磁界発生用電源装置から直流の磁界発生用電力EcaおよびEcbの供給を受けることによって、真空槽12内およびプラズマガン18の筐体20内にミラー磁場を形成し、詳しくは当該真空槽12および筐体20の中心軸に沿う磁界を発生させる。例えば、磁界発生電力EcaおよびEcbの供給により各電磁コイル80および82のそれぞれに10Aの電流IcaおよびIcbが流れると、真空槽12内の略中央の磁束密度は約60Gになる。
さて、このプラズマ表面処理装置10を用いて図1に示した構成のDLCナノ多層膜100が形成される際には、まず、母材110が真空槽12内に収容された上で、当該真空槽12内が真空ポンプ16によって排気され、例えば当該真空槽12内の圧力Pcが×10−3Pa程度になるまで排気される。そして、モータ56が駆動されることで、それぞれの母材110が自公転する。さらに、電熱ヒータ70にヒータ加熱電力が供給されることで、真空槽12内が例えば120℃程度にまで加熱される。これにより、それぞれの母材110の内部に含まれている不純物ガスが排出され、いわゆる脱ガス処理が行われる。
この脱ガス処理が所定期間にわたって行われた後、電熱ヒータ70へのヒータ加熱電力の供給が停止され、続いて、放電洗浄処理が行われる。即ち、放電洗浄処理においては、プラズマガン18の筐体20内にアルゴンガスおよび水素ガスが供給される。併せて、熱陰極26にカソード電力Ecが供給されると共に、陽極28にアノード電力Eaが供給される。さらに、それぞれの母材110にバイアス電力(非対称パルス電力)Ebが供給されると共に、各電磁コイル80および82に磁界発生用電力EcaおよびEcbが供給される。すると、熱陰極26が加熱されて、当該熱陰極26から熱電子が放出される。この熱電子は、陽極28に向かって加速されて、その過程で、アルゴンガスの粒子および水素ガスの粒子に衝突する。その際の衝撃によって、アルゴンガス粒子および水素ガス粒子が電離して、プラズマ42が発生する。併せて、プラズマガン18の筐体内20および真空槽12内には、上述のミラー磁場が形成されているので、熱電子は、このミラー磁場に沿って巻き付くように螺旋運動する。これにより、熱電子がアルゴンガス粒子および水素ガス粒子に衝突する回数および確率が増大して、プラズマ42の密度が向上する。そして、このプラズマ42は、アパーチャ24を介して、真空槽12内に供給される。
真空槽12内に供給されたプラズマ42は、反射電極44に向かって流れる。ただし、反射電極44は、上述の如く絶縁電位とされているので、プラズマ42内の電子は、この反射電極44によって反射されて、プラズマガン18に向かって折り返す。ところが、プラズマガン18の筐体20もまた、絶縁電位とされているので、プラズマ42内の電子は、当該プラズマガン18と反射電極44との間を往復し、いわゆる電界振動する。さらに、真空槽12内には、上述のミラー磁場が形成されているので、プラズマ42内の電子は、当該真空槽12の中心軸(およびその近傍)に集中するようにビーム状に閉じ込められる。これにより、プラズマ42の密度がさらに向上する。
それぞれの母材110は、ビーム状のプラズマ42の周囲を回転(公転)しながら、自身を中心として回転(自転)する。この過程で、プラズマ42内のアルゴンイオンおよび水素イオンがそれぞれの母材110の表面に衝突する。そして、アルゴンイオンによるスパッタ作用と、水素イオンによる化学反応作用と、によって、母材110の表面の不純物が取り除かれ、いわゆる放電洗浄処理が行われる。
なお、プラズマガン18の筐体20内にある陽極28は、上述の如く接地電位に接続されている。そして、この陽極28には、熱陰極26の電位を基準とする正電位の直流電力がアノード電力Eaとして供給されている。これにより、筐体20内の空間電位、つまりプラズマ42の電位は、接地電位を基準として安定化される。このプラズマ42の強さ、言い換えればプラズマガン18の出力Wgは、熱陰極26に供給されるカソード電力Ecの大きさ(つまり熱陰極26の加熱温度)と、陽極28に供給されるアノード電力Eaの大きさと、によって決まる。
また、プラズマガン18から真空槽12内に供給されたプラズマ42内の電子は、接地電位に接続された当該真空槽12の壁部に流れ込もうとし、とりわけ、プラズマガン18が結合されている上面部分に流れ込もうとする。ところが上述したように、真空槽12内の上面部分は絶縁電位とされたプラズマ安定化電極46によって覆われているので、プラズマ42内の電子がこの真空槽12内の上面部分に流れ込もうとしても、その進行は当該プラズマ安定化電極46によって阻止される。従って、当該上面部分を含む真空槽12の壁部が電極として作用することはなく、この結果、プラズマ42が安定化される。
放電洗浄処理が所定期間にわたって行われた後、水素ガスの供給が停止され、続いて、スパッタ法による中間層120の形成処理(成膜処理)が行われる。まず、マグネトロンスパッタカソード64のターゲット66にターゲット電力が供給される。すると、このターゲット66の表面にアルゴンイオンが衝突し、その衝撃によって当該ターゲット66からクロム粒子が叩き出される(スパッタされる)。そして、叩き出されたクロム粒子は、それぞれの母材110の表面に衝突して、堆積する。これにより、それぞれの母材110の表面にクロム層122が形成される。そして、必要な厚みの当該クロム層122が形成された後、プラズマガン18の筐体20内に窒素ガスが供給される。すると、この窒素ガスの粒子が電離されて、窒素イオンとなる。そして、この窒素イオンは、それぞれの母材110の表面に衝突し、厳密には先に形成されたクロム層120上に衝突する。この結果、当該クロム層120上に窒化クロム層124が形成される。そして、必要な厚みの当該窒化クロム層124が形成された後、窒素ガスの供給が停止される。これにより、窒化クロム層124上にクロム層126が形成される。そして、必要な厚みの当該クロム層126が形成されることで、中間層120が完成し、ターゲット66へのターゲット電力の供給が停止される。
続いて、プラズマCVD法による傾斜層130の形成処理が行われる。即ち、真空槽12内に材料ガスとしてのアセチレンガスおよびTMSガスが供給される。すると、これらアセチレンガスおよびTMSガスの粒子が電離されて、当該アセチレンガスに含まれる炭素と当該TMSガスに含まれるシリコンとが互いに反応し、その化合物であるシリコン含有炭素層がそれぞれの母材110の表面に形成され、厳密には中間層120上に形成される。このとき、アセチレンガスの流量Qaが時間tの経過に従って徐々に増大するように、アセチレンガス配管74用のマスフローコントローラ74aが制御される。併せて、TMSガスの流量Qbが時間tの経過に従って徐々に減少するように、TMSガス配管76用のマスフローコントローラ76aが制御される。このような制御が行われることによって、ここで言うシリコン含有炭素層におけるシリコンの含有量Csiが時間tの経過に従って徐々に減少し、つまり母材110(中間層120)から離れるに従って徐々に減少する。この結果、傾斜層120が形成される。なお、この傾斜層120の形成処理が終了する時点においては、シリコンガスの流量Qbはゼロまたは微少とされる。つまり、傾斜層120の最上部においては、シリコンの含有率Csiはゼロまたは微少とされる。
続いて、プラズマCVD法によるDLCナノ多層140の形成処理が行われる。まず、真空槽12内にアセチレンガスが供給され、かつ、当該真空槽12内にTMSガスが供給されない状態が、Toffという一定期間にわたって形成される。この状態にあるときに、つまり当該オフ期間Toff中に、ナノDLC層142が形成される。そして、このオフ期間Toffの経過後、真空槽内12にアセチレンガスが供給され、かつ、当該真空槽12内にTMSガスが供給される状態が、Tonという一定期間にわたって形成される。この状態にあるときに、つまり当該オン期間Ton中に、ナノSi−DLC層144が形成される。そして、この動作が上述した組146の数Nだけ繰り返される。言い換えれば、アセチレンガスについては、真空槽12内に連続的に供給される。一方、TMSガスについては、上述した供給制御装置78によるTMSガス配管76用のマスフローコントローラ76aの制御によって、まず、オフ期間Toffにわたって真空槽12内への供給が停止された後、オン期間Tonにわたって当該真空槽12内への供給が行われ、これがN回にわたって繰り返される。即ち、TMSガスについては、オフ期間Toffとオン期間TonとのN回にわたる繰り返しをもって、真空槽12内に間欠的に供給される。この状態を図示すると、例えば図3(a)のようになる。
この図3(a)は、プラズマCVD法による傾斜層130およびDLCナノ多層140の形成時における真空槽12内へのアセチレンガスおよびTMSガスの供給流量QaおよびQbの遷移を概略的に示すものである。この図3(a)に示すように、アセチレンガスの流量Qaは、傾斜層130の形成時においては、時間tの経過に従って徐々に増大し、DLCナノ多層140の形成時においては、或る一定の値とされる。一方、TMSガスの流量Qbは、傾斜層130の形成時においては、時間tの経過に従って徐々に減少し、DLCナノ多層140の形成時においては、まず、オフ期間Toffにわたってゼロとされた後、オン期間Tonにわたって或る一定の値とされ、これがN回にわたって周期的に繰り返される。
因みに、図11に示した従来のDLC単層膜200については、その傾斜層230およびDLC単層240の形成時におけるアセチレンガスおよびTMSガスの流量QaおよびQbは、図3(b)に示すように遷移する。即ち、アセチレンガスの流量Qaは、傾斜層230の形成時においては、時間tの経過に従って徐々に増大し、DLC単層240の形成時においては、或る一定の値とされ、つまり本実施形態におけるのと同様に推移する。一方、TMSガスの流量Qbは、傾斜層230の形成時においては、時間tの経過に従って徐々に減少し、DLC単層240の形成時においては、ゼロとされる。
また、図12に示した従来のSi−DLC単層膜200aについては、その傾斜層230およびSi−DLC単層240aの形成時におけるアセチレンガスおよびTMSガスの流量QaおよびQbは、図3(c)に示すように遷移する。即ち、アセチレンガスの流量Qaは、本実施形態(および従来のDLC単層膜200)におけるのと同様に推移する。一方、TMSガスの流量Qbは、傾斜層230の形成時においては、時間tの経過に従って徐々に減少し、Si−DLC単層140aの形成時においては、或る一定の値とされる。
改めて図3(a)を参照して、DLCナノ多層140の形成開始時から数えてN回目のオン期間Tonが終了すると、TMSガスの供給が停止されると共に、アセチレンガスの供給も停止される。併せて、アルゴンガスの供給が停止される。さらに、熱陰極26へのカソード電力Ecの供給が停止されると共に、陽極28へのアパーチャ電力Eaの供給が停止される。また、それぞれの母材110へのバイアス電力Ebの供給が停止されると共に、各電磁コイル80および82への磁界発生用電力EcaおよびEcbの供給が停止される。そして、真空槽12内の圧力が大気圧に近くまで徐々に戻されると共に、一定の冷却期間が置かれる。その後、真空槽12内から外部に母材110が取り出され、一連の表面処理が完了する。
このようにして形成された本実施形態に係るDLCナノ多層膜100は、その形成時の条件次第で、言い換えればDLCナノ多層140の構成次第で、耐摩耗性および潤滑性の両方を兼ね備えるという極めて優れた特性(トライボロジー特性)を示す。この特性を得るための条件を確認するべく、次のような第1〜第3の3段階の実験を行った。
なお、いずれの実験においても、DLCナノ多層140の形成時の条件のみを種々に変更して、それ以外の条件については共通とした。具体的には、母材110として、直径が30mmであり、厚さ寸法が3mmである、クロムモリブデン鋼(SCM415)製の円板状体を用いた。そして、上述の脱ガス処理において、真空槽12内の温度を120℃に加熱した状態で、当該脱ガス処理を30分間にわたって行った。続く放電洗浄処理においては、アルゴンガスの流量を50mL/minとすると共に、水素ガスの流量を50mL/minとし、真空槽12内の圧力Pcを約0.2Paに維持した。併せて、プラズマガン18の出力Wgを1kWとすると共に、各電磁コイル80および82に流れる電流IcaおよびIcbを10Aとし、つまり真空槽12内の略中央における磁束密度を約60Gとした。さらに、バイアス電力Ebの周波数を100kHzとすると共に、デューティ比を30%とし、その平均電圧値Vbを−600Vとした。この状態で、当該放電洗浄処理を20分間にわたって行った。
そして、中間層120の形成時においては、アルゴンガスの流量を200mL/minとし、真空槽12内の圧力Pcを0.5Paとした。併せて、プラズマガン出力Wgを2kWとすると共に、マグネトロンスパッタカソード64のターゲット66に8kWのターゲット電力を供給した。加えて、バイアス電力Ebの平均電圧値Vbを−100Vとした。この状態を10分間にわたって維持することによって、厚みが約0.15μmのクロム層122を形成した。その後、窒素ガスを50mL/minという流量で供給して、この状態を40分間にわたって維持することで、厚みが約0.7μmの窒化クロム層124を形成した。さらに、当該窒素ガスの供給を停止して、この状態を10分間にわたって維持することで、厚みが約0.15μmのクロム層126を形成した。これにより、クロム層122と窒化クロム層124とクロム層126とから成る厚みが約1μmの中間層120を形成した。
続く傾斜層130の形成時においては、アルゴンガスの流量を50mL/minとし、プラズマガン出力Wgを500Wとし、バイアス電力Ebの平均電圧値Vbを−600Vとした。併せて、アセチレンガスとTMSガスとを同時に供給し、このうちのアセチレンガスについては、その流量Qaを15分間という時間を掛けて150mL/minから300mL/minまで連続的に増大させ、一方、TMSガスについては、その流量Qbを当該15分間という同じ時間を掛けて60mL/minから25mL/minまで連続的に減少させる。この間、真空槽12内の圧力Pcを0.3Paに維持した。これにより、厚みが約0.3μmの傾斜層130を形成した。
その上で、DLCナノ多層140を種々の条件で形成した。ただし、このDLCナノ多層140の形成時においては、アルゴンガスの流量、アセチレンガスの流量Qa、真空槽12内の圧力Pc、プラズマガン出力Wg、各コイル電流IcaおよびIcb、ならびに、バイアス電力Ebの平均電圧値Vbについて、一定とした。具体的には、アルゴンガスの流量を50mL/minとし、アセチレンガスの流量Qaを250mL/minとし、真空槽12内の圧力Pcを0.3Paとした。併せて、プラズマガン出力Wgを1kWとし、各コイル電流IcaおよびIcbを10Aとし、バイアス電力Ebの平均電圧値Vbを−600Vとした。そして、成膜時間を60分間とすることにより、厚みが約3μmのDLCナノ多層140を形成した。即ち、当該DLCナノ多層140を含むDLCナノ多層膜100全体としての総膜厚を約4.3μmとした。この共通の条件に加えて、第1〜第3の実験において、他の条件を種々に変えてみた。
[第1の実験]
まず、第1の実験として、ナノDLC層142の厚みDaとナノSi−DLC層144の厚みDbとの相互比Da:Dbを2:1とし、併せてナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiを4.0at%とし、この条件下で、ナノDLC層142の厚みDaとナノSi−DLC層144の厚みDbとを種々に変えてみた。具体的には、図4に示すように、試料1−1〜1−8という8つの試料を作製した。このうちの試料1−1は、比較対象用であり、従来のDLC単層膜200である。そして、試料1−2もまた、比較対象用であり、従来のSi−DLC単層膜200aである。この試料1−2のSi−DLC単層240aにおけるシリコンの含有率は、水素以外の成分のうちの4.0at%(at%;原子数比の百分率)である。この4.0at%というシリコンの含有率は、TMSガスの流量Qbを25mL/minとすることによって実現される。そして、他の試料1−3〜1−8が、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100である。これらの試料1−3〜1−8については、ナノDLC層142の厚みDaを200nm,100nm,50nm,25nm,10nmおよび5nmとし、併せてナノSi−DLC層144の厚みDbを100nm,50nm,25nm,12.5nm,5nmおよび2.5nmとした。なお、これら各試料1−3〜1−8のいずれについても、TMSガスの(オン期間Tonにおける)流量Qbを25mL/minとすることによって、ナノSi−DLC層144のシリコンの含有率Csiを4.0at%としている。また、TMSガスのオフ期間ToffによってナノDLC層142の厚みDaを制御し、オン期間DbによってナノSi−DLC層144の厚みDbを制御している。さらに、ナノDLC層142の厚みDaおよびナノSi−DLC層144の厚みDbによって上述した組146の数Nが変わる。そして、詳しい説明は省略するが、試料1−1におけるDLC単層240,試料1−2におけるSi−DLC単層240a,試料1−3〜1−8のそれぞれにおけるナノDLC多層140(ナノDLC層142およびナノSi−DLC層144)の水素の含有率は、分析の結果、約35at%であった。この水素の含有率は主に、プラズマガン出力Wa,バイアス電力Ebおよびアセチレンガスの流量Qaによって決まる。この水素の含有率は、20%〜40%であれば、好ましくは25%〜35%であれば、被膜全体としての特性に大きな差異はない。
これらの各試料1−1〜1−8について、潤滑性および耐摩耗性を評価し、詳しくは摩擦係数μおよび比摩耗量Wsを測定した。この測定は、往復摺動試験機を用いて、大気中かつ無潤滑の環境下で行った。なお、往復摺動試験機のボールは、1/4インチのSUJ2製であり、当該ボールへの印加荷重は、1000gである。そして、摺動速度は、300mm/minであり、ストロークは、5mmである。また、サイクル数は、10000回であり、摺動時間は、6時間である。そして、摺動初期のヘルツの接触応力は、1.3GPaである。この結果を、上述の図4に併記すると共に、図5にグラフで示す。
この結果から、比較対象用としての試料1−1のDLC単層膜200については、比摩耗量Wsが0.118×10−6mm/(N・m)と極めて小さく、つまり極めて高い耐摩耗性を有することが分かる。ただし、この試料1−1の摩擦係数μは、0.151と比較的に大きく、つまり潤滑性の面で劣ることが分かる。そして、別の比較対象用としての試料1−2のSi−DLC単層膜200aについては、摩擦係数μが0.045と極めて小さく、つまり極めて高い潤滑性を有することが分かる。ただし、この試料1−2の比摩耗量Wsは、0.370×10−6mm/(N・m)と比較的に高く、つまり耐摩耗性の面で劣ることが分かる。これに対して、本実施形態に係る試料1−3〜1−8のDLCナノ多層膜100に注目すると、いずれも、摩擦係数μに関しては、試料1−1のDLC単層膜200よりも遥かに小さく、試料1−2のSi−DLC単層膜200aと同程度であり、つまり極めて高い潤滑性を有することが分かる。一方、当該試料1−3〜1−8の比摩耗量Wsに関しては、試料1−2よりは小さく、また、ナノDLC層142の厚みDaおよびナノSi−DLC層144の厚みDbが小さいほど小さいが、試料1−1よりも明らかに大きく、つまり耐摩耗性の面で劣ることが分かる。それでも敢えて、本実施形態に係る各試料1−3〜1−8の中から良好なものを選ぶとすると、例えば試料1−7および1−8が適当である。即ち、ナノDLC層142の厚みDaとナノSi−DLC層144の厚みDbとの相互比Da:Dbが2:1であり、併せてナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiが4.0at%である条件においては、ナノDLC層142の厚みDaが5nm〜10nmであり、ナノSi−DLC層144の厚みが2.5nm〜5nmであるのが適当である、と言える。
[第2の実験]
上述の第1の実験結果を踏まえた上で、第2の実験として、ナノDLC層142の厚みDaを10nmとし、併せてナノSi−DLC層144の厚みDbを5nmとし、この条件下で、ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiを種々に変えてみた。具体的には、図6に示すように、試料2−1〜2−10という10個の試料を作製した。このうちの試料2−1は、比較対象用であり、第1の実験における試料1−1と同じものである。そして、試料2−2もまた、比較対象用であり、第1の実験における試料1−2と同じものである。さらに、試料2−3もまた、比較対象用であり、従来のSi−DLC単層膜200aにおいて、Si−DLC単層240aにおけるシリコンの含有率を1.5at%としたものである。そして、他の試料2−4〜2−10が、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100である。これらの試料2−3〜2−10については、ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiを4.8at%,4.0at%,2.8at%,2.1at%,1.5at%,1.1at%および0.8at%とした。このシリコンの含有率Csiについては、TMSガスの(オン期間Tonにおける)流量Qbによって制御する。なお、試料2−5は、第1の実験における試料1−7と同じものである。
これらの各試料2−1〜2−10について、第1の実験と同じ要領で、摩擦係数μおよび比摩耗量Wsを測定した。この結果を、上述の図6に併記すると共に、図7にグラフで示す。
この結果から、新たな比較対象用としての試料2−3のSi−DLC単層膜200aについては、試料2−2に比べて、比摩耗量Wsが小さく、つまり耐摩耗性が高いことが分かる。これは、試料2−3におけるSi−DLC単層240の方が、試料2−2に比べて、シリコンの含有率が小さいことによるものであると推察される。そして、本実施形態に係る試料2−3〜2−10のDLCナノ多層膜100に注目すると、いずれも、比摩耗量Wsに関しては、試料2−3よりも小さく、また、ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiが小さいほど小さい。一方、当該試料2−3〜2−10の摩擦係数μに関しては、いずれも、試料2−1よりも小さいが、ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiが最小(0.8at%)である試料2−10の摩擦係数μは、少し大きい。この本実施形態に係る資料2−3〜2−10の中から良好なものを選ぶとすると、例えば試料2−8および2−9が適当である。即ち、ナノDLC層142の厚みDaが10nmであり、併せてナノSi−DLC層144の厚みDbが5nmである条件においては、当該ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率は1.1at%〜1.5at%が適当である、と言える。
[第3の実験]
上述の第2の実験結果をさらに踏まえた上で、第3の実験として、ナノSi−DLC層144の厚みDbを5nmとし、併せて当該ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiを1.5at%とし、この条件下で、ナノDLC層142の厚みDaを種々に変えてみた。具体的には、図8に示すように、試料3−1〜3−7という7つの試料を作製した。このうちの試料3−1は、比較対象用であり、第1の実験における試料1−1(および第2の実験における試料2−1)と同じものである。試料3−2もまた、比較対象用であり、第2の実験における試料2−3と同じものである。そして、他の試料3−3〜3−7が、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100である。これらの試料3−3〜3−7については、ナノDLC層142の厚みDaを10nm,20nm,30nm,40nmおよび50nmとした。なお、試料3−3は、第2の実験における試料2−8と同じものである。
これらの各試料3−1〜3−7について、第1の実験(および第2の実験)と同じ要領で、摩擦係数μおよび比摩耗量Wsを測定した。この結果を、上述の図8に併記すると共に、図9にグラフで示す。
この結果によれば、本実施形態に係る試料3−3〜3−7のDLCナノ多層膜100に注目すると、いずれも、比摩耗量Wsに関しては、比較対象用としての試料3−2のSi−DLC単層膜200aよりも小さく、また、ナノDLC層142の厚みDaが大きいほど(つまりDa:Dbが大きいほど)小さい。特に、試料3−3〜3−5については、比較対象用としての試料3−1のDLC単層膜200と同程度の比摩耗量Wsであり、つまり極めて高い耐摩耗性を有する。加えて、当該試料3−3〜3−5の摩擦係数μに関しては、比較対象用としての試料3−2と同程度であり、つまり極めて高い潤滑性を有する。即ち、ナノSi−DLC層144の厚みDbが5nmであり、併せて当該ナノSi−DLC層144におけるシリコンの含有率Csiが1.5at%である条件下においては、ナノDLC層142の厚みDaを30nm〜50nmとすることによって、潤滑性と耐摩耗性との両方を兼ね備えたDLCナノ多層膜100を形成することができる、と言える。
この第1〜第3の実験結果を含む各条件下で形成された本実施形態に係るDLCナノ多層膜100の摩擦係数μと比摩耗量Wsとを分布で表すと、図10のようになる。なお、この図10において、□印が、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100の分布である。そして、比較対象用としての従来のDLC単層膜200についても、種々の条件で形成し、それらの分布を、当該図10に×印で記した。併せて、比較対象用としての従来のSi−DLC単層膜200aについても、種々の条件で形成し、それらの分布を、当該図10に○印で記した。
この図10から分かるように、従来のDLC単層膜200(×印)については、その比摩耗量Wsが0.2×10−6mm/(N・m)以下であり、つまり極めて高い耐摩耗性を有するが、摩擦係数μが0.1よりも大きく、つまり潤滑性の面で劣ることが分かる。そして、従来のSi−DLC単層膜200a(○印)については、その摩耗係数μが概ね0.1以下であり、つまり極めて高い潤滑性を有するが、比摩耗量Wsが0.2×10−6mm/(N・m)よりも大きく、つまり耐摩耗性の面で劣ることが分かる。これに対して、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100によれば、その(DLCナノ多層140の)形成時の条件によって、摩耗係数μが0.1以下であり、かつ、比摩耗量Wsが0.2×10−6mm/(N・m)以下であり、つまり潤滑性と耐摩耗性との両方を兼ね備えた特性を示す。即ち、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100によれば、従来のDLC単層膜200やSi−DLC単層膜200aでは示し得ない図10に網掛模様が付された領域の特性を示す。
このように。本実施形態に係るDLCナノ多層膜100によれば、潤滑性と耐摩耗性との両方を兼ね備えた特性を示す。従って、従来のDLC単層膜200やSi−DLC単層膜200aでは対応することができなかった用途への展開が期待される。
なお、本実施形態においては、材料ガスとしてアセチレンガスおよびTMSガスを用いたが、これに限らない。例えば、アセチレンガスに代えて、これ以外の炭化水素系ガス、例えばメタン(CH)ガスやエチレン(C)ガス,ベンゼン(C)を用いてもよい。そして、TMSガスに代えて、他のシリコン系ガス、例えばシラン(SiH)ガスやメチルシラン(SiH(CH))を用いてもよい。
また、中間層120については、クロム層122と窒化クロム層124とクロム層126とがこの順番で形成された構成としたが、これに限らない。例えば、クロムに代えて、シリコンやゲルマニウム(Ge)等の半金属、または、チタン等の金属を用いてもよい。
さらに、傾斜層130については、これに含まれるシリコンの含有率Csiが母材110(中間層120)から離れるに従って連続的に減少するものとしたが、これに限らない。当該シリコンの含有率Csiは、母材110から離れるに従って段階的に減少するものとしてもよい。
そして、DLCナノ多層140については、1つのナノDLC層142とその上に形成された1つのナノSi−DLC144とが組146を成すものとしたが、これに限らない。即ち、当該組146とは無関係に、ナノDLC層142とナノSi−DLC144とが交互に積層されていればよい。言い換えれば、ナノDLC層142の数とナノSi−DLC層144の数とが異なっていてもよい。この場合、DLCナノ多層140の最下層にSi−DLC144が位置してもよい。
加えて、本実施形態に係るDLCナノ多層膜100は、図2に示したいわゆるPIG(Penning Ionization Gauge)方式のプラズマ表面処理装置10によって形成されるものとしたが、これに限らない。公知の直流方式や高周波方式,マイクロ波方式,ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式,パルス方式等の他の励起方式によるプラズマ表面処理装置によって、当該DLCナノ多層膜100が形成されてもよい。
100 DLCナノ多層膜
110 母材
120 中間層
130 傾斜層
140 DLCナノ多層
142 ナノDLC層
144 ナノSi−DLC層

Claims (7)

  1. 母材上に形成された非晶質の硬質被膜において、
    炭素を主成分とする厚みがナノオーダのDLC層と、
    炭素を主成分としシリコンを含む厚みがナノオーダのシリコン含有DLC層と、
    が交互に積層された構成であることを特徴とする、
    硬質被膜。
  2. 上記DLC層は原子数比で20%〜40%の水素を含み、
    上記シリコン含有DLC層は原子数比で20%〜40%の水素を含むと共に該水素以外の成分のうち原子数比で1%〜25%の上記シリコンを含む、
    請求項1に記載の硬質被膜。
  3. 上記DLC層の厚みは1nm〜200nmであり、
    上記シリコン含有DLCの厚みは1nm〜200nmである、
    請求項1または2に記載の硬質被膜。
  4. 最表面に上記シリコン含有DLC層が形成された、
    請求項1ないし3のいずれかに記載の硬質被膜。
  5. 上記母材上に形成されており該母材と密着性のある中間層と、
    上記中間層上に形成されており炭素を主成分としシリコンを含むと共に該中間層から離れるに従って該シリコンの含有率が低下する傾斜層と、
    をさらに備え、
    上記傾斜層上に上記DLC層と上記シリコン含有DLC層とが交互に積層された、
    請求項1ないし4のいずれかに記載の硬質被膜。
  6. 母材上に非晶質の硬質被膜を形成する方法において、
    上記母材が収容された真空槽内にプラズマを発生させるプラズマ発生過程と、
    上記プラズマが発生している状態にある上記真空槽内に炭化水素系ガスを連続的に供給すると共にシリコン系ガスを間欠的に供給する材料ガス供給過程と、
    を具備し、
    上記真空槽内に上記炭化水素系ガスが供給されており上記シリコン系ガスが非供給とされているときに炭素を主成分とするDLC層が上記硬質被膜の要素として形成され、
    上記真空槽内に上記炭化水素系ガスが供給されると共に上記シリコン系ガスが供給されているときに炭素を主成分としシリコンを含むシリコン含有DLC層が上記硬質被膜の要素として形成され、
    厚みがナノオーダの上記DLC層と厚みがナノオーダの上記シリコン含有DLC層とが交互に積層された構成の上記硬質被膜が形成されるように上記材料ガス供給過程における上記真空槽内への上記シリコン系ガスの間欠的な供給動作を制御するガス供給制御過程、をさらに具備することを特徴とする、
    硬質被膜の形成方法。
  7. 母材上に非晶質の硬質被膜を形成する装置において、
    内部に上記母材が収容される真空槽と、
    上記母材が収容された上記真空槽内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
    上記プラズマが発生している状態にある上記真空槽内に炭化水素系ガスを連続的に供給すると共にシリコン系ガスを間欠的に供給する材料ガス供給手段と、
    を具備し、
    上記真空槽内に上記炭化水素系ガスが供給されており上記シリコン系ガスが非供給とされているときに炭素を主成分とするDLC層が上記硬質被膜の要素として形成され、
    上記真空槽内に上記炭化水素系ガスが供給されると共に上記シリコン系ガスが供給されているときに炭素を主成分としシリコンを含むシリコン含有DLC層が上記硬質被膜の要素として形成され、
    厚みがナノオーダの上記DLC層と厚みがナノオーダの上記シリコン含有DLC層とが交互に積層された構成の上記硬質被膜が形成されるように上記材料ガス供給手段による上記真空槽内への上記シリコン系ガスの間欠的な供給動作を制御するガス供給制御手段、をさらに具備することを特徴とする、
    硬質被膜の形成装置。
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