以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の実施形態では、核酸検査装置内の特徴的な構成および動作を中心に説明するが、核酸検査装置には以下の説明で省略した構成および動作が存在しうる。ただし、これらの省略した構成および動作も本実施形態の範囲に含まれるものである。
(全体構成)
図1(a)は本実施形態による核酸検査装置を備えた核酸検査システムの外観図、図1(b)は核酸検査装置のユニット構成図、図1(c)は核酸検査装置に設けられるトレイの開閉を示す図である。図1(a)に示すように、核酸検査システム100は、核酸検査装置110と情報処理装置150とを備えている。核酸検査装置110は、後述するように、検体サンプルに含まれる核酸を検査するためのものである。情報処理装置150は、核酸検査装置110に対して検査条件や検査開始を指示したり、核酸検査装置110による検査結果の分析や表示を行うものである。
本実施形態による核酸検査装置110は、複数の検体サンプルを一度に検査できることを特徴としている。図1(b)の例では、4種類の検体サンプルを一度に検査できるように、4つの検査ユニット1,2,3,4と、制御基板15と、を備えている。各検査ユニット1,2,3,4は個別独立に制御基板15の制御に基づいて動作し、各検査ユニット1,2,3,4ではそれぞれ別個の検体サンプルの核酸検査を別個のタイミングで行うことができる。
個々の検体サンプルは、後述するように、着脱可能な核酸検査カード(核酸検出デバイス)700に入れられた状態で、開閉口101,102,103,104を介して核酸検査装置110から出し入れされる。出し入れを容易にするために、図1(c)に示すようなトレイ114(装着部)を検査ユニット1,2,3,4ごとに設けており、これらのトレイ111,112,113、114に核酸検査カード700をそれぞれ置くと、後は自動的に核酸増幅と核酸検査を行うことができる。
本実施形態による核酸検査装置110は、それ自体では、設定入力機能と表示機能を持たない。よって、核酸検査装置110の小型化と装置コストの削減を図ることができる。核酸検査装置110に対する設定入力と核酸検査結果の分析等は、核酸検査装置110に接続される情報処理装置150で行う。情報処理装置150は、市販のPCなどの汎用的なコンピュータで構成可能なため、安価なコストで導入可能であり、また保守費用もそれほどかからない。核酸検査装置110と情報処理装置150とは、例えばUSB(Universal Serial Bus)などの汎用的な通信インタフェースで各種情報の送受を行う。このように、核酸検査装置110と情報処理装置150とで核酸検査システムを構築することで、核酸検査装置110の保守管理を容易にするとともに、核酸検査装置110への設定入力と検査結果の分析および表示とを行いやすくしている。
図2は情報処理装置150の表示画面に表示されるGUI画面の一例を示す図である。図2のGUI画面201、202,203、204には、4つの検査ユニットの設定入力項目がそれぞれ表示されている。このGUI画面201、202,203、204に従って、各検査ユニット1,2,3,4ごとに、各検体サンプルに関する各種情報を入力することができる。入力した各種情報は、必要に応じて、情報処理装置150から核酸検査装置110に伝送されて、核酸検査装置110内に設定される。例えば、このGUI画面内201、202,203、204には、各検査ユニット1,2,3,4を使用して核酸検査を行うときに選択する選択ボタン211,212,213、214と、検査開始を指示する検査開始ボタン221,222、223、224と、核酸検査装置110での検査の進捗状況を表示する表示領域231,232、233、234とが設けられている。情報処理装置150と核酸検査装置110は、有線または無線により、各種情報の送受を行っており、選択ボタン211,212,213、214や検査開始ボタン221,222、223、224を選択した情報は瞬時に核酸検査装置110に送信され、核酸検査装置110での検査進捗情報は定期的に核酸検査装置110から情報処理装置150に送信される。
情報処理装置150の表示画面に表示されるGUI画面201、202,203、204は、ソフトウェアにより任意に変更可能である。よって、図2のGUI画面201、202,203、204は、一例に過ぎない。ソフトウェアの更新により、ユーザにとって使いやすいGUI画面を提供できるとともに、新たな種類の核酸検査にも容易に対応可能となる。
(核酸検査の基本原理)
本実施形態による核酸検査装置110について詳細に説明する前に、本実施形態が採用する核酸検査の基本原理について説明する。
DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4つの塩基の配列からなる鎖が2つ結合した二本鎖構造である。二本鎖構造では、塩基Aと塩基T、および塩基Gと塩基Cという特定の組み合わせで結合する。DNAの断片は簡単に合成できるので、DNAチップ500では、配列がわかっている一本鎖の塩基配列をプローブとして電極上に固定する。検体サンプルのDNAも一本鎖にし、電極上に固定されたDNAプローブと反応させる。検体サンプルのDNAの配列がDNAプローブの配列と相補的であれば、結合して二本鎖になる。例えば、図3(a)に示すようにDNAプローブがTAGACの順序で配列されているときに、検体サンプルのDNAがATCTGの順序で配列されていれば(図3(b))、配列は互いに相補的であるため、図3(c)に示すこれらの一本鎖のDNAが結合して二本鎖になる。このように、検体サンプルの塩基配列が、相補的なDNAプローブの塩基配列と結合して二本鎖になることをハイブリダイゼーションという。
図4(a)に示すように、DNAチップ500は、例えばガラスまたはシリコンからなる基板510上に複数の電極520を離間して配置し、各電極520上に異なる配列のDNAプローブ530を固定したものである。このDNAチップ500上に、核酸増幅した検体サンプルを流す。このとき、検体サンプル中の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAプローブ530がDNAチップ500上に存在すれば、両者は結合してハイブリダイゼーションが生じ、二本鎖DNAが生成される(図4(b)、(c))。一方、検体サンプル中の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAプローブが存在しない場合は、ハイブリダイゼーションは生じない。その後、DNAチップ500を洗浄し、挿入剤550を含む試薬(溶液)をDNAチップ500上に流す。すると、ハイブリダイゼーションが生じた二本鎖のDNAプローブ530に挿入剤550が結合する。この状態でDNAチップ500に電圧を印加すると、ハイブリダイゼーションが生じた二本鎖のDNAプローブ530が固定された電極520に、挿入剤550の酸化電流が流れる(図4(d))。
この酸化電流、すなわちハイブリダイゼーションが生じた電極からの信号の一例を図5(a)に示し、ハイブリダイゼーションが生じない電極からの信号の一例を図5(b)に示す。図5(a)からわかるように、DNAチップ500に印加する電圧を増加していくと、500mV程度の電圧で酸化電流が急に大きく上昇している。これに対して、ハイブリダイゼーションが生じない電極からの信号値は、DNAチップ500に印加する電圧が500mV程度になると若干上昇するが、図5(a)に示す場合に比べて上昇度は小さい。このように、どの電極から電流が検出されたかを判別することにより、検体サンプルのDNAの配列を把握できる。
本実施形態による核酸検査装置110は、上述した基本原理に従って、DNAチップ500上の電極に流れる酸化電流の有無を検出し、検体サンプルのDNAを検査する。
なお、本実施形態が対象とする検体サンプルの核酸検査は、必ずしもDNA(デオキシリボ核酸)だけには限定されない。RNA(リボ核酸)、その他のオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドなどの種々の核酸の検査にも適用可能である。ただし、以下の説明では、検体サンプル中のDNAを検査する例を説明する。
(核酸検査カード)
本実施形態による核酸検査装置110では、着脱可能な核酸検査カード700の中に検体サンプルを入れて、核酸検査装置110で検査を行う。
図6は核酸検査カード700の外観図である。核酸検査カード700は、着脱可能な薄型の矩形体であり、キャップ750と、カバー740と、上プレート730と、パッキン720と、DNAチップ500と、下プレート710とで構成されている。このうち、キャップ750、カバー740、上プレート730および下プレート710は、PC(ポリカーボネート)等の硬質の樹脂部材で形成され、パッキン720はエラストマ等の弾力性のある樹脂部材で形成され、DNAチップ500はガラス等の透明基材で形成されている。
このように、わずか6部品で核酸検査カード700を構成できるため、材料費と組立工数を削減でき、核酸検査カード700を安価に提供できる。特に、本実施形態による核酸検査カード700は、使い捨てを前提としているため、低価格で提供できることは大きな利点である。
図7は核酸検査カード700の組立手順を説明する図である。下プレート710の上にDNAチップ500が配置され、その上にパッキン720が配置される。下プレート710には、図8(a)に示すように4つのシリンジの場所に対応づけて4つの凹部711C1、711C2、711C3、711C4が一体成形されており、また、パッキン720には、図8(b)に示すように4つのシリンジの場所に対応づけて4つのドーム状の凸部721C1、721C2、721C3、721C4が一体成形されている。下プレート710の上にパッキン720を取り付けると、図8(c)に示すように、凹部と凸部が対向配置されて、保存部としての4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4が形成される。これらシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4には、後述するように、検体サンプルや洗浄液等が個別に収納される。
また、下プレート710には、図7および図8(a)に示すように、シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4からDNAチップ500の方向に、液体が流れる流路となる溝が形成されている。また、パッキン720にも、下プレート710の溝位置に合わせて、溝が形成されている。よって、下プレート710にパッキン720を取り付けると、対向配置された溝同士によって、流路が形成される。また、下プレート710に取り付けられるDNAチップ500の上面は平坦面であるが、パッキン720のDNAチップ500との対向位置には、溝が形成されており、下プレート710にパッキン720を取り付けると、DNAチップ500上に検査流路(検査部)712が形成される。この検査流路712は、下プレート710の溝とパッキン720の溝とで形成される流路と繋がるようになっている。
次に、下プレート710の上に上プレート730が取り付けられる。上プレート730の一部は、核酸検査カード700の外側表面となる。図6及ぶ図7に示すように上プレート730には、DNAチップ500の電極の位置に合わせて、2つの貫通孔771,772が設けられている。これら貫通孔771,772は、電流プローブ186を上方から挿入して、DNAチップ500上の電極に接触させるために用いられる。
また、上プレート730には、核酸検査カード700の増幅流路(増幅部)710fをそれに繋がる流路から遮断するためのNO(Normally Open)バルブ710a1、710a2用の2つの貫通孔761,762が設けられている。これら貫通孔761,762は、NOVロッド24の第3ロッド241(第3開閉部),243(第2開閉部)を挿入して、NOバルブ710a1、710a2の開閉を行うために用いられる。
次に、上プレート730の一部を覆うようにカバー740が取り付けられる。図6及ぶ図7に示すように上プレート730とカバー740には、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4の位置に合わせて、4つの貫通孔781,782,783、784が設けられている。これら貫通孔781,782,783、784は、上方からシリンジロッド20の第1ロッド201,202,203,204を挿入して、シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4内の液体を流路に押し出すために用いられる。
また、上プレート730とカバー740には、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4の注入口の位置に合わせて、4つの貫通孔720d1、720d2、720d3、720d4が設けられている。これら貫通孔720d1、720d2、720d3、720d4を介して、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4に液体が注入される。より具体的には、検体サンプルと、第1洗浄液と、挿入剤、第2洗浄液と、とがそれぞれ別個の注入口710d1、710d2、710d3、710d4を介して各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4に注入される。ここで、検体サンプルは、例えば、酵素、デオキシリボヌクレオチド3リン酸(dNTP)、界面活性剤、塩化マグネシウム、硫酸アンモニウムのいずれか一つを含む液体である。また、洗浄液1は、例えば、クエン酸ナトリウム、又は塩化ナトリウムを含む液体である。また、挿入剤は、例えば、ヘキスト33258(Hoechst33258)を含む液体である。また、洗浄液2は、例えば、クエン酸ナトリウム、又は塩化ナトリウムを含む液体である。
さらに、上プレート730とカバー740には、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4と、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4に繋がる流路とを遮断する4つのNC(Normally Close)バルブ710v1、710v2、710v3、710V4用の貫通孔710h1、710h2、710h3、710h4が設けられている。これら貫通孔710h1、710h2、710h3、710h4は、NCVロッド23の第2ロッド221(第1開閉部),222(第4開閉部),223(第5開閉部),224(第6開閉部)を挿入して、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4の開閉を行うために用いられる。
次に、カバー740の切り欠き部にキャップ750がヒンジにより取り付けられ、これにより核酸検査カード700が完成する。キャップ750を設けたのは、検体サンプルをユーザ自身で注入口710d1から入れられるようにしたためである。検体サンプル以外の第1洗浄液、第2洗浄液および挿入剤は、予め核酸検査カード700を製造する段階で対応するシリンジに注入されており、ユーザが事後的に注入するのは検体サンプルだけである。よって、検体サンプルの注入口710d1を覆うキャップ750が設けられている。
このように、本実施形態による核酸検査カード700は、検体サンプルなどを個別に収納する複数のシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4と、核酸増幅を行う増幅流路710fと、DNA検査を行う検査流路712とを備えており、検体サンプルや試薬等を移し替えなくても、一つのカードで、核酸増幅とDNA検査を行うことができることから、DNA検査の自動化が可能となる。
図9は核酸検査カード700からキャップ、カバー740および上プレート730を外した状態を示す平面図である。図9に示すように、矩形状の核酸検査カード700の長手方向片側に、短手方向に沿って4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4が配置されている。左端のシリンジ(第1保存室)710C1は検体サンプルを収納する。左端から2番目のシリンジ(第2保存室)710C2は第1洗浄液を収納する。右端から2番目のシリンジ(第4保存室)710C3は挿入剤を収納する。右端のシリンジ(第3保存室)710C4は第2洗浄液を収納する。
各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4の脇には、各シリンジ内710C1、710C2、710C3、710C4に液体を注入するための注入口710d1、710d2、710d3、710d4と、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4内の空気を排気するための排気孔710e1、710e2、710e3、710e4とが設けられている。
核酸検査カード700の長手方向中央部には、検体サンプル内の核酸を増幅させるための増幅流路710fが設けられている。増幅流路710fと検体サンプルを収納するシリンジ(710C1)とは、流路(第1流路)で繋がっている。この流路は途中で分岐しており、分岐した流路(第3流路)には第1洗浄液を収納するシリンジ(710C2)が繋がっている。また、増幅流路710fとDNAチップ500内の検査流路712とは流路(第2流路)でつながっている。 よって、増幅流路710fで核酸増幅した検体サンプルを、第1洗浄液により押し出すことができ、複雑なバルブ制御なしで、検体サンプルをDNAチップ500上の検査流路712まで移動させることができる。
また、第2流路は途中で分岐しており、この分岐した流路(第4流路)には、第2洗浄液を収納するシリンジ(710C4)が繋がっている。また、この流路(第4流路)は途中で分岐しており、この分岐した流路(第5流路)には挿入剤を収納するシリンジ(710C3)が繋がっている。 よって、検査流路712に溜まっている第2洗浄液を、挿入剤によって押し出すことができる。
増幅流路710fの両端には、NOバルブ720a1、7120a2が設けられている。NOバルブ720a1、7120a2は、通常は開いており、増幅流路710fにつながる流路と増幅流路710fとの間を液体は自由に流れることができるようになっている。NOバルブ720a1、7120a2を閉じると、増幅流路710fと、それに繋がる流路とが遮断され、増幅流路710f内の液体が流路を通ってシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4に逆流したり、DNAチップ500の検査流路712に流れるおそれがなくなる。本実施形態では、増幅流路710fで核酸増幅を行う最中は、NOバルブ720a1、720a2を閉じるようにしている。これにより、核酸増幅した検体サンプルが、シリンジ(710C1)内の検体サンプルと混じり合わなくなる。
図10はNOバルブの構造を示す模式的な断面図である。下プレート710上に配置されるパッキン720は、NOバルブ720a1の形成箇所がドーム状の凸部になっており、凸部の内部に流路が形成されている。この凸部を上方からシリンジロッド251で押しつけると、流路が閉じるようになっている。NOバルブ720a2も同様に形成されている。
図9に戻って、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4と流路との接続箇所の近傍には、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4が設けられている。4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4があるため、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4も4つ設けられている。NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4は、通常は閉じており、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4と、それに繋がる流路とは遮断している。NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4が開くと、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4と流路とが繋がり、開いたNCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4に対応するシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4内の液体が、それに繋がる流路に流れるようになる。
図11はNCバルブの構造を示す図であり、図11(a)は斜視図、図11(b)は図11(a)のA−A線断面図である。NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4は、カバー740で形成された片持ち梁であり、この片持ち梁の基端部はカバー740に支持され、片持ち梁の先端部は上下に可動可能となっており、かつ先端部は流路を閉じる方向に付勢されている。よって、通常は、流路は閉じている。この片持ち梁の先端部付近を下方から、NCVロッド23の先端側のフォーク部231,232,233,224で押し上げることで、片持ち梁の先端部が持ち上がり、流路を開くことができる。
図9に戻って、核酸検査カード700の増幅流路710fを挟んで、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4が配置された側と反対側には、短手方向に沿って、廃液タンク711g1と、DNAチップ500と、廃液タンク711g2とが配置されている。増幅流路710fで核酸増幅された検体サンプルは、流路を通って、DNAチップ500上の検査流路712に流れ込む。その後、検査流路712には第1洗浄液が流れ込むとともに、検査流路712の検体サンプルは廃液タンクに移動する。次に、第2洗浄液が検査流路712に流れ込むと、第1洗浄液は廃液タンクに移動し、さらに次に、挿入剤が検査流路712に流れ込むと、第2洗浄液は廃液タンクに移動する。
図12は核酸検査カード700の流路モデルを示す図である。検体サンプル、第1洗浄液、挿入剤および第2洗浄液はそれぞれ、注入口710d1、710d2、710d3、710d4から注入されて、シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4に収納される。NCバルブ710v1が開くと、シリンジ(710C1)に収納されている検体サンプルは、流路を通って、増幅流路710fに到達する。ここで、NOバルブ720a1、7120a2を閉じて、核酸増幅が行われる。その後、NCバルブ710v2とNOバルブ720a1、7120a2が開くと、シリンジ(710C2)に収納されている第1洗浄液は、増幅流路710fに到達する。今まで増幅流路710fに留まっていた検体サンプルは、第1洗浄液に押し出されるようにして、流路を通ってDNAチップ500上の検査流路712に到達する。その後、NCバルブ710v4が開くと、シリンジ(710C4)に収納されていた第2洗浄液は、流路を通ってDNAチップ500上の検査流路712に到達する。今まで、検査流路712に留まっていた検体サンプルは、廃液タンク711g1,711g2に移動する。その後、NCバルブ710v3が開くと、シリンジ710C3に収納されていた挿入剤は、流路を通ってDNAチップ500上の検査流路712に到達する。今まで、検査流路712に留まっていた第2洗浄液は、廃液タンク711g1,711g2に移動する。
図13は増幅流路710fの詳細な構造を示す平面図である。図13に示すように、増幅流路710fは、液体がゆっくりと流れるように、蛇行している。核酸増幅には、例えばLAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法が用いられる。増幅流路710fには、予め検体サンプル中の核酸の一部分に結合して増幅するプライマが配置されている。増幅流路710fに検体サンプルを流し込んで、所定の温度に加熱すると、わずか数十分で、核酸増幅を完了させることができる。核酸増幅による増幅産物の中には、DNAの二本鎖だけでなく、一本鎖も含まれている。後述するDNAチップ500上の検査流路712では、核酸増幅で生成された一本鎖を用いて、電流検出を行う。
なお、本実施形態による核酸増幅の手法は必ずしもLAMP法には限定されない。PCR(Polymerase Chain Reaction)法などの種々の核酸増幅手法を用いてもよい。
増幅流路710fには、等間隔で液体が一時的に溜まるウェルが複数設けられている。本発明者は、このような複数のウェルを設けることで、異なる複数のDNAを増幅するマルチ増幅を行うことができることを初めて見出した。なお、本発明者が検討したところ、ウェル間の間隔は流路に沿って4mm以上が望ましいことがわかった。
図14はDNAチップの詳細な構造を示す平面図である。図14に示すDNAチップ500は、固相基板510上に、40組の作用電極群5201〜52040と、カウンタ電極522a、522bと、参照電極524とを備えている。カウンタ電極522a、522bはそれぞれ図面上でCEと表示され、参照電極524はREと表示されている。固相基板510は、例えば、ガラス基板またはシリコン基板などである。
40組の作用電極群5201〜52040は、第1乃至第4の部分に分けられて配列される。第1の部分は10組の作用電極群5201〜52010からなり、図面上で左から右に向かって配列される。第2の部分は、10組の作用電極群52011〜52020からなり、図面上で第1の部分の下方に配置されるとともに図面上で右から左に向かって配列される。第3の部分は、10組の作用電極群52021〜52030からなり、図面上で第2の部分の下方に配置されるとともに図面上で左から右に向かって配列される。第4の部分は、10組の作用電極群52031〜52040からなり、図面上で第3の部分の下方に配置されるとともに図面上で右から左に向かって配列される。
各作用電極群520i(i=1,・・・,40)は、離間して設けられる3つの作用電極を有しこれら作用電極には、同一のDNA配列を有するDNAプローブが固定される。各作用電極は例えば金から形成される。
カウンタ電極522aはU字形状を有しており、このU字形状の一端が第1の部分の作用電極群52010に近接して配置され、U字形状の他端が第2の部分の作用電極群52011に近接して配置される。カウンタ電極522bはU字形状を有しており、このU字形状の一端が第3の部分の作用電極群52030に近接して配置され、U字形状の他端が第4の部分の作用電極群52031に近接して配置される。
参照電極524は、U字形状を有しており、U字形状の一端が第2の部分の作用電極群52020に近接して配置され、U字形状の他端が第3の部分の作用電極群52021に近接して配置される。
また、基板510には、各作用電極群520i(i=1,・・・,40)の作用電極にそれぞれ電気的に接続される端子Wが設けられている。これら端子Wには、電流プローブ186が接触される。
また、基板510には、C端子523a、523bと、R端子525a、525bと、X端子526と、Y端子528a、528bと、複数の導通検出端子58が更に設けられている。C端子523aはカウンタ電極522aに電気的に接続され、C端子523bはカウンタ電極522bに電気的に接続される。R端子525a、525bはそれぞれ参照電極524に接続される。X端子526a、526bはDNAチップ500の両端に設けられ、これらの端子526a、526b間に電圧を印加し、DNAチップ500が導通しているか否かを検出する端子である。また、同様にY端子528a、528bはDNAチップ500の両端に設けられ、これらの端子528a、528b間に電圧を印加し、DNAチップ500が導通しているか否かを検出する端子である。複数の導通検出端子580は、作用電極群5201〜52040の作用電極に対応して設けられ、各導通検出端子580は、対応する作用電極に接続され、対応する作用電極に電気的に接続される端子Wとの間に電圧を印加することにより、上記対応する作用電極と上記端子Wとの間が導通するか否かを検出する。上記端子は、図6に示すように、作用電極群520i(i=1,・・・,40)を挟むように、図面上で上下の組みに分かれて設けられる。
DNAチップ500は核酸検査カード700に装着される。装着された場合、作用電極群5201から作用電極52010に向かって挿入剤を含む試薬が流れるように、第1の部分上に流路が形成される。また、カウンタ電極522a上にも、作用電極群52010から作用電極52011に向かって上記試薬が流れるように流路が形成される。作用電極群52011から作用電極52020に向かって上記試薬が流れるように、第2の部分上に流路が形成される。また、参照電極524上にも、作用電極群52020から作用電極52021に向かって上記試薬が流れるように流路が形成される。作用電極群52021から作用電極52030に向かって上記試薬が流れるように、第3の部分上に流路が形成される。また、カウンタ電極522b上にも、作用電極群52030から作用電極52031に向かって上記試薬が流れるように流路が形成される。作用電極群52031から作用電極52040に向かって上記試薬が流れるように、第4の部分上に流路が形成される。これらの流路は、DNAチップ500と、核酸検査カード700のパッキン720とによって形成される。
挿入剤を含む試薬は、第1の部分上の流路、カウンタ電極522a上の流路、第2の部分上の流路、参照電極524上の流路、第3の部分上の流路、カウンタ電極522b上の流路、および第4の部分上の流路をこの順序で通過する。
(核酸検査装置の構成および動作)
図15は本実施形態による核酸検査装置110の制御系のブロック図である。図15に示すように、核酸検査装置110の制御系は、制御部151と、通信部152と、トレイ有無センサ153と、カード有無センサ154と、筐体ファン155と、ブザー156と、LED157と、電流プローブ制御部158と、モータ群159と、フォトセンサ160と、温度センサ161と、温度調整部162と、電源供給部163とを備えている。
通信部152は、情報処理装置150と制御部151との間で、データ通信を行う。例えば、通信部152は、情報処理装置150の画面に表示されるGUI画面201、202,203、204で設定された情報を、情報処理装置150から受け取って制御部151に伝送する。また、通信部152は、DNAチップ500の電極に流れる電流の検出結果を制御部151から情報処理装置150に伝送するとともに、制御部151で検出された異常を制御部151から情報処理装置150に伝送する。通信部152の通信インタフェースは、例えばUSBを用いることができるが、具体的な通信インタフェースは問わない。また、通信部152は、必ずしも有線である必要はなく、無線でデータ通信を行ってもよい。
トレイ有無センサ153は、トレイ111,112,113、114の開閉を検出し、その検出結果を制御部151に伝送する。トレイ有無センサ153は、トレイ111,112,113、114の開閉を例えば機械的または光学的に検出する。
カード有無センサ154は、トレイ111,112,113、114に核酸検査カード700が置かれたか否かを検出し、その検出結果を制御部151に伝送する。トレイ111,112,113、114に核酸検査カード700が置かれたか否かの検出は、例えば、核酸検査カード700の有無を機械的または光学的に検出するセンサにて行うことが可能である。
筐体ファン155は、例えば図16に示すように、設置面から鉛直(上下)方向に置かれた筐体の背面側に、上下方向に沿って2個設けられている。また、筐体の正面下側には、空気流入口が設けられている。筐体ファン155の回転/停止は、制御部151により制御される。制御部151が筐体ファン155を回すと、空気流入口から外気が筐体に取り込まれて、筐体内で循環された後、筐体ファン155から排気される。これにより、筐体の内部全体が冷却されるようにしている。なお、筐体ファン155の数や設置場所については、筐体のサイズや形状などにより、任意に変更すればよい。
ブザー156とLED157は、例えば核酸検査装置110内に何らかの異常が生じたときにオンする。異常の種類によって、ブザー156の鳴動状態やLED157の点灯形態を切り替えてもよい。ブザー156とLED157のオン/オフは、制御部151が行う。
電流プローブ制御部158は、DNAチップ500の複数の電極に接触される複数の電流プローブ186に流れる電流を検出する。各電流プローブ186に流れる電流はわずかであるため、電流プローブ制御部158は、各電流プローブ186に流れる電流を、ノイズを除去して増幅して電圧に変換する処理を行う。
モータ群159は、5つのモータ181,182,183,184,185を有する。これらモータのうち、シリンジ軸モータ184は、各シリンジ内の液体を流路に移動させるシリンジロッド201,202,203,204の駆動を制御する。NOV軸モータ181は、NOバルブ710a1、710a2の開閉を行うNOVロッド24の駆動を制御する。NCV軸モータ185は、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4の開閉を行うNCロッド20の駆動を制御する。ヒータ・ペルチェ軸モータ183は、ヒータ170およびペルチェ素子171が載置された温調支持体25の駆動を制御する。プローブ軸モータ182は、電流プローブ186が取り付けられたプローブ支持体26の駆動を制御する。
上述した5つのモータ181,182,183,184,185の近傍には、それぞれフォトセンサ160が配置されている。各モータに対応するフォトセンサ160は、各モータの動作原点位置を光学的に検出して、各モータを動作原点位置に復帰させる動作を行う。
温度調整部162は、図17に示すように、ヒータ170とペルチェ素子171の近傍にそれぞれ設けられた温度センサ161a,161bの温度検出結果に基づいて、ヒータ170とペルチェ素子171の温度をそれぞれ別個に調整する。また、これら温度センサ161a,161bとは別個に、筐体内の温度を測定する温度センサ161cも設けられており、温度調整部162は、筐体内の温度に基づいて、筐体ファン155の強弱やオン/オフを制御部151に対して指示する。
電源供給部163は、核酸検査装置110内の各部で使用する複数の直流電源電圧を生成して、各部に供給する。電源供給部163は、商用電源から複数の電源電圧を生成するAC/DCコンバータを有する。
図18は上述した5つのモータ181,182,183,184,185とこれらモータにより駆動されるシリンジロッド20、NCVロッド23,NOVロッド24,温調支持体25,プローブ支持体26との配置場所を示す平面図である。図18は、核酸検査装置110の側面から見た平面図であり、図示の右側が正面、左側が背面である。図18に示すように、鉛直(上下)方向に延びる支持板180に、上から下に向かって順に、NOV軸モータ181、プローブ軸モータ182およびヒータ・ペルチェ軸モータ183が支持されている。また、正面側の上方には、シリンジ軸モータ184を支持する支持板191が鉛直方向に配置されている。さらに、正面側の下方には、NCV軸モータ185を支持する支持板192が鉛直方向に配置されている。これら5つのモータの回転軸はいずれも、水平方向に配置されている。これら回転軸のギア14cには、図19に示すようなラックギア14dが噛み合っており、回転軸12cの回転が鉛直方向の直線運動に変換されて、各モータに対応するロッドが鉛直方向に移動する。また、各モータの回転軸の回転方向を切り替えることで、対応するロッドが上方または下方に移動する。
図20はシリンジ軸モータ184により駆動されるシリンジロッド20を示す平面図である。シリンジロッド20は、核酸検査カード700内の4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4に接触する4本の第1ロッド201,202,203,204を有する。これら4本の第1ロッド201,202,203,204は、筐体の上方から下方に向かって延びており、各第1ロッドの先端部の高さは、それぞれ相違している。より具体的には、左端の第1ロッド201が最も先端部が低い位置にあり、次に左端から二番目の第1ロッド202の先端位置が低く、次に右端の第1ロッド204の先端位置が低く、右端から二番目の第1ロッド203の先端位置が最も高い。これら4本の第1ロッド201,202,203,204は、共通の支持板205により支持されており、この支持板205は、シリンジ軸モータ184の回転軸の回転に伴って上下する。よって、4本の第1ロッド201,202,203,204は同期して上下する。
4本の第1ロッド201,202,203,204の先端部には、弾力性のあるポンチ211,212,213,214が取り付けられている。
図21はポンチ213の斜視図である。ポンチ213は、シリンジの形状に合わせて細長い形状であり、シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4を構成するドーム状のパッキン720の上面を上方から押しつけて、シリンジ内の液体を対応する流路に押し出す。
本発明者は、ポンチの形状を特定するに当たって、幅が異なる2種類のポンチを用意し、ポンチでシリンジを押しつけたときに、シリンジ内に液残りが生じるか否かを検討した。図22(a)は幅の広いポンチ213aをシリンジ710c3に押しつけた例、図22(b)は幅の狭いポンチ213bをシリンジ710c3に押しつけた例を示している。また、図23は、ポンチ213bがシリンジ710c3を押しつける位置がずれた場合のシリンジ710c3の液量を図22(a)の場合、ポンチ213aをシリンジ710c3に押しつけたときに、シリンジ710c3のパッキン720が図示のようにM字状に変形し、パッキン同士で大きなズリ荷重が発生してシリンジ内に液残りが生じた。これに対して、図22(b)の場合、ポンチ213bとシリンジ710c3との接触面積が小さいことから、シリンジ710c3の中央部に応力が集中し、シリンジ710c3内に液残りが生じないことがわかった。より具体的には、ポンチの短手方向の幅をシリンジ710c3の短手方向の幅よりも0.3mm以上小さくするのが望ましいことがわかった。
また、図23に示すように、シリンジ710Cの中央からずれた場所をシリンジロッド251で押した場合、シリンジ710Cを十分に押し込めないことから、十分な送液量が確保できない。そこで、図24に示すように、ロッドガイド252に沿って上下するシリンジロッド251の先端よりも上部の核酸検査カード500に触れない場所をテーパー構造253にして、核酸検査カード700に対して位置合わせができるようにしてもよい。この構造により、シリンジロッド251がシリンジ710Cを押す位置がずれることによって送液量が減少することを避けられるため、適切な送液量を実現できる。
4本の第1ロッド201,202,203,204は、バネ等の弾力性のある部材で形成されており、その先端部にポンチ211,212,213,214が取り付けられている。各第1ロッドは、通常の状態では、下方に付勢力が働いており、図20に示すように、先端部の高さがそれぞれ異なっている。支持板を下降させると、先端部が最も低い位置にある第1ロッドのポンチ211が一番先に対応するシリンジ(710C1)の上面に押しつけられて、第1ロッド201が収縮する。支持板205が下降するほど、ポンチ211は強くシリンジ710C1に押しつけられることになり、シリンジ710C1内部の液体がすべて対応する流路に押し出される。
4本の第1ロッド201,202,203,204の先端部の高さはそれぞれ異なるため、まず、左端の第1ロッド201がシリンジ710C1に接触し、次に左から二番目の第1ロッド202がシリンジ710C2に接触し、次に右端の第1ロッド204がシリンジ710C4に接触し、最後に右端から二番目の第1ロッド203がシリンジ710C3に接触する。ポンチがシリンジの上面に接触した順に、シリンジから対応する流路にシリンジ内の液体が押し出される。
上述したように、本実施形態の核酸検査カード700では、検体サンプル、第1洗浄液、第2洗浄液、および挿入剤の順に、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4から対応する流路に移動させる必要がある。そこで、図20では、各シリンジ710C1、710C2、710C3、710C4から対応する流路に液体を送り出す順序に従って、4本の第1ロッドの先端部の高さを相違させており、これにより、支持板を上方から下方に一回移動させるだけで、これらシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4内の液体を予め定めた順に各流路に移動させることができ、シリンジロッドの駆動制御が容易になる。
図25はNCV軸モータ184により駆動されるNCVロッド23を示す平面図である。NCVロッド23は、核酸検査カード700内の4つのNCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4を開閉する4本の第2ロッド221,222,223,224を有する。これら4本の第2ロッドは、筐体の下方から上方に向けて延びており、各第2ロッド221,222,223,224の先端側には二股に分かれたフォーク部231,232,233,234が設けられている。これら4本の第2ロッドのフォーク部231,232,233,234の高さはそれぞれ異なっており、各第2ロッド221,222,223,224は、左端221、左端から2番目222、右端224、右端から2番目223の順に高さが低くなる。
また、第2ロッドのフォーク部231,232,233,234の先端は、図26(a)または図26(b)のような曲面形状(R面形状)か、図26(c)のようなテーパー形状(C面形状)になっていることが好ましい。このような先端形状にすることにより、核酸検査カード700内の各NCバルブの位置と多少ずれていても、各NCバルブの開閉を行うことができる。
NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4は、図11で説明したように、片持ち梁の構造になっており、片持ち梁の先端部は、流路を閉じる方向に付勢力が働いている。第2ロッドの先端側のフォーク部231,232,233,234が片持ち梁の先端部を両側から上方に持ち上げることで、流路を開くことができる。
4本の第2ロッド221,222,223,224は、共通の支持板230により支持されており、この支持板230は、NCV軸モータ184の回転軸の回転に伴って上下する。よって、4本の第2ロッド221,222,223,224は同期して上下する。これら第2ロッド221,222,223,224は、下方から上方に移動するため、各第2ロッドのフォーク部231,232,233,234は、対応するNCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4の片持ち梁に下方から接触して、容保貼りを上方に持ち上げて、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4を開状態にする。第2ロッドが上方から下方に移動し、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4に接触しなくなると、NCバルブは元の閉状態に復帰する。
4本の第2ロッド221,222,223,224は、バネ等の弾力性のある部材で形成されており、その先端部がNCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4に接触すると、第2ロッド221,222,223,224が収縮し、その先端部がNCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4から離れると、付勢力により図25に示す初期位置に復帰する。
NCV軸モータ184を回転させて支持板230を上方に移動させると、まずは左端の第2ロッド221が対応するNCバルブ710v1を開き、検体サンプルが増幅流路710fに流れ込む。さらに支持板230を上昇させると、左端から2番目の第2ロッド222が対応するNCバルブ710v2を開き、第1洗浄液が増幅流路710fに流れ込む。さらに支持板230を上昇させると、右端の第2ロッド224が対応するNCバルブ710V4を開き、第2洗浄液が流路を通って、DNAチップ500上の検査流路712に流れ込む。さらに支持板230を上昇させると、右端から2番目の第2ロッド223が対応するNCバルブ710v3を開き、挿入剤が流路を通ってDNAチップ500上の検査流路712に流れ込む。
このように、4本の第2ロッド221,222,223,224は、先端部の高さがそれぞれ異なる状態で、共通の支持板230に支持されて上下されるため、支持板230の一回の上方移動で、4つのNCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4を順に開けることができ、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4内の液体を順に対応する流路に移動させることができる。よって、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4の開閉制御を容易に行うことができる。
図27はNOV軸モータ181により駆動されるNOVロッド24を示す平面図である。NOVロッド24は、核酸検査カード700内の2つのNOバルブ710a1、710a2を開閉する二本の第3ロッド241,243と、位置決め用の第3ロッド242とを有する。これら3本の第3ロッド241,242,243は、筐体の上方から下方に向けて延びており、3本のうち中央の位置決め用の第3ロッド242は、残り2本241,243よりも若干、先端部の高さが高くなっている。
これら第3ロッド241,242,243は、共通の支持板240により支持されており、この支持板240は、NOV軸モータ181の回転軸の回転に伴って上下する。よって、3本の第3ロッド241,242,243は同期して上下する。
支持板240を下降させると、3本のうち中央の第3ロッド242がまず最初に核酸検査カード700の上面に接触して位置決めを行う。残り2本の第3ロッド241,243は、図6で示したように、パッキン720のチューブ構造を上方から押しつけて、流路を閉じる。
図27に示すように、位置決め用の第3ロッド242は、残り二本の第3ロッド241,243よりも、先端位置が高くなっているが、これら二本の第3ロッド241,243は、核酸検査カード700の上面よりも下方にあるパッキン720に接触されるため、これら二本の第3ロッド241,243よりも先に、位置決め用の第3ロッド242が核酸検査カード700の上面に接触されて、位置決めが行われる。
図9で説明したように、2個のNOバルブ710a1、710a2は、核酸検査カード700上の増幅流路710fの出入り口に設けられており、これらのNOバルブ710a1、710a2を第3ロッド241,243で同時に閉じることで、増幅流路710f内の液体がシリンジに逆流したり、DNAチップ500側に流れることを防止できる。本実施形態では、NOバルブ710a1、710a2を閉じた状態で、増幅流路710fを加熱して核酸増幅が行われる。
図28(a)はヒータ・ペルチェ軸モータ183により駆動される温調支持体25を示す平面図、図28(b)は温調支持体25の斜視図である。温調支持体25は、ヒータ170を支持する第1支持板174と、ペルチェ素子171を支持する第2支持板175と、第1支持板174および第2支持板175と第3支持板176との間に配置されるバネ等の伸縮部材とを有する。第1支持板174と第2支持板175は、伸縮部材が付勢されていない状態では、ほぼ同じ高さに配置されている。第3支持板176は、ヒータ・ペルチェ軸モータの回転183により上下移動し、これに伴って、第1支持板174と第2支持板175も同期して上下する。
第1支持板174の上面に配置されるヒータ170は矩形状であり、第2支持板175の上面に配置されるペルチェ素子171も矩形状である。第3支持板176が上方に移動すると、核酸検査カード700の裏面側に設けられた一方の凹部にヒータ170が収納されるとともに、他方の凹部にペルチェ素子171が収納される。核酸検査カード700の裏面側の凹部は、ヒータ170とペルチェ素子171の外形に合わせた大きさであり、これら凹部にヒータ170とペルチェ素子171が収納されることで、ヒータ170とペルチェ素子171の正確な位置決めが行われる。核酸検査カード700におけるヒータ用の凹部は、増幅流路710fの直下に設けられており、ペルチェ素子用の凹部は、DNAチップ500上の検査流路712の直下に設けられている。これにより、ヒータ170は増幅流路710fを加熱することができ、ペルチェ素子171は検査流路712を加熱冷却することができる。
このように、ヒータ170とペルチェ素子171は、ほぼ同時に核酸検査カード700に接触することになるが、ヒータ170の加熱制御とペルチェ素子171の温調制御とは、個別に行うことができる。本実施形態では、核酸検査カード700で核酸増幅を開始する前に、温調支持体25を上方に移動させて、ヒータ170とペルチェ素子171を核酸検査カード700に接触させ、その後にシリンジ内の検体サンプルを増幅流路710fに移動させて、ヒータで加熱しながら核酸増幅を行う。その後、核酸増幅した検体サンプルがDNAチップ500上の検査流路712に移動すると、ペルチェ素子で検査流路712を加熱冷却する。温調支持体25は、DNAチップ500にプローブを接触させて電流検出を行うまで、上方に移動させたままにしておく。
図29(a)はプローブ軸モータ182により駆動されるプローブ支持体26を示す平面図、図29(b)はプローブ支持体26の斜視図である。プローブ支持体26は、核酸検査カード700の上方に配置されている。プローブ支持体26は、電流プローブ186を支持する支持板197を有する。この支持板197は、プローブ軸モータ182の回転軸の回転に応じて上下に移動する。支持板197の裏面側には、電流プローブ186と、電流プローブ186の位置決め用のピン261,262とが設けられている。尚、当該電流プローブ186には、図30に示すように、スプリング263が内蔵された構造になっている。ピン261,262の押込み圧力が少ない場合、接触抵抗により導通が取れなくなる可能性があるが、スプリング263を設けることで、プローブピン261,262の押込み圧力を、核酸検査カード700に対して導通が可能な押し込み応力にすることができる。尚、本実施形態では、スプリング263を内蔵する構造としたが、スプリング263以外の弾性体も適宜採用することができる。
電流プローブ186は、DNAチップ500上の電極の数だけ設けられており、支持板197には、各電流プローブ186を流れる電流を検出するための配線パターンが形成されている。プローブ軸モータ182を駆動すると、電流プローブ186は上方から徐々に下降していき、まず、位置決め用のピン261,262が核酸検査カード700上の孔部に嵌めこまれて位置決めされ、その後に電流プローブ186がDNAチップ500上の各電極に接触する。位置決め用のピン261,262で先に位置決めを行うため、多数の電流プローブ186が正確に、対応するDNAチップ500上の電極に接触する。
図31は制御部151による各モータの駆動シーケンスの一例を示すフローチャート、図32は核酸検査カード700上の液体の移動状態を示す図である。以下、これらの図に基づいて、核酸検査の処理手順を説明する。
プローブ軸モータ182を駆動して、プローブ支持体26を下降させる。そして、電流プローブ186を位置決めした状態で、核酸検査カード700に装着されたDNAチップ500上の各電極に電流プローブ186を接触させる(ステップS1)。
NOV軸モータ181を駆動して、NOVロッド24の位置決め用の第3ロッド242を核酸検査カード700の所定位置に接触させて位置決めを行う(ステップS2)。
ヒータ・ペルチェ軸モータ183を駆動して、温調支持体25を上方に移動させ、ヒータ170とペルチェ素子171をともに核酸検査カード700の裏面側の凹部に収納させて位置決めを行う(ステップS3)。この状態では、NCバルブ710v1、710v2、710v3、710V4はすべて閉じているため、図32(a)に示すように、4つのシリンジ710C1、710C2、710C3、710C4内の液体は、流路には流れない。
NCバルブ軸モータ185を駆動してNCVロッド23を上昇させ、先端部が一番高い位置にあった第2ロッド221の先端部にて、対応する片持ち梁を持ち上げて、検体サンプル用のシリンジの出口にあるNCバルブ710v1を開ける(ステップS4)。
シリンジ軸モータ187を駆動して、シリンジロッド20を下降させ、先端部が一番低い位置にあった第1ロッド201を検体サンプル用のシリンジ710C1の上面に押しつけて、検体サンプルを流路に押し出す(ステップS5)。これにより、図32(b)に示すように、検体サンプル用のシリンジ710C1内の検体サンプルが流路を通って、増幅流路710fに流れる。
NOV軸モータ181を駆動して、NOVロッド24の二本の第3ロッド241,243をNOバルブのパッキン720に接触させて、NOバルブ710a1、710a2を閉じるとともに、ヒータ170にて増幅流路710fを加熱する(ステップS6)。この加熱により、増幅流路710f内で、検体サンプルに含まれる核酸の増幅が行われる。核酸の増幅が終わると、ヒータ170による加熱が停止される。ヒータ170は、特に冷却機能を持たないため、自然冷却される。
ステップS6とは逆方向にNOV軸モータ181を駆動し、NOバルブ710a1、710a2を開く(ステップS7)。
NCバルブ軸モータ185をステップS4と同じ方向に駆動して、NCVロッド23をさらに上昇させ、先端部が二番目に高い位置にあった第2ロッド222の先端部にて、対応する片持ち梁を持ち上げて、第1洗浄液用のシリンジ710C2の出口にあるNCバルブ710v2を開ける(ステップS8)。
シリンジ軸モータ187をステップS5と同じ方向に駆動して、シリンジロッド20をさらに下降させ、先端部が二番目に低い位置にあった第1ロッド202を第1洗浄液用のシリンジ710C2の上面に押しつけて、第1洗浄液を増幅流路710fに押し出す(ステップS9)。これにより、図32(c)に示すように、増幅流路710fには第1洗浄液が入り、増幅流路710fで核酸増幅された検体サンプルは、DNAチップ500内の検出流路に押し出される。
ステップS6と同様に、NOV軸モータ181を駆動して、NOVロッド24の二本の第3ロッド241,243をNOバルブのパッキン720に再度接触させて、NOバルブ710a1、710a2を閉じる。これに並行して、ペルチェ素子171にて、DNAチップ500を加熱する(ステップS10)。
次に、NCバルブ軸モータ185をステップS4,S8と同じ方向に駆動して、NCVロッド23をさらに上昇させ、先端部が三番目に高い位置にあった第2ロッド224の先端部にて、対応する片持ち梁を持ち上げて、第2洗浄液用のシリンジ710C4の出口にあるNCバルブ710v4を開ける(ステップS11)。
次に、シリンジ軸モータ184をステップS5,S9と同じ方向に駆動して、シリンジロッド20をさらに下降させ、先端部が三番目に低い位置にあった第1ロッド204を第2洗浄液用のシリンジ710C4の上面に押しつけて、第2洗浄液をDNAチップ500に繋がる流路に押し出す(ステップS12)。これにより、図32(d)に示すように、第2洗浄液はDNAチップ500上の検査流路712に移動し、それまで検査流路712に溜まっていた検体サンプルは、廃液タンク711g1,711g2に押し出される。
次に、NCバルブ軸モータ185をステップS4,S8,S11と同じ方向に駆動して、第2ロッドをさらに上昇させ、先端部が一番低い位置にあった第2ロッド223の先端部にて、対応する片持ち梁を持ち上げて、挿入剤用のシリンジ710C3の出口にあるNCバルブ710v3を開ける(ステップS13)。
次に、シリンジ軸モータ187をステップS5,S9,S12と同じ方向に駆動して、シリンジロッド20をさらに下降させ、先端部が一番高い位置にあった第1ロッド203を挿入剤用のシリンジ710C3の上面に押しつけて、挿入剤をDNAチップ500に繋がる流路に押し出す(ステップS14)。これにより、図32(e)に示すように、挿入剤はDNAチップ500上の検査流路712に移動し、それまで検査流路712に溜まっていた第2洗浄液は廃液タンクに押し出される。その後、DNAチップ500の電極に接触している電流プローブ186にて、電極に流れる電流を検出する。
このように、本実施形態による核酸検査装置110は、核酸増幅と核酸検査をともに行える核酸検査カード700をユーザが核酸検査装置110のトレイに置くだけで、後は自動的に核酸増幅と核酸検査を行うため、核酸検査の手間を省いて利便性を向上できることに加えて、核酸検査結果が得られるまでの時間も大幅に削減できる。
また、一つの核酸検査カード700に、検体サンプルや必要な試薬等をすべて収納でき、また、核酸増幅も核酸検査もこのカード内で行えるため、使用する試薬等の量も削減でき、核酸検査に要する部材コストを大幅に削減できる。
尚、より精度の高い位置決めを行うために、図31におけるS1「電流プローブ186を降ろして位置決め」の前工程として、以下の工程を追加してもよい。
(1)先ず、核酸検査カード700とプローブ支持体26との大まかな位置決めを行うために、プローブ軸モータ182を駆動して、プローブ支持体26を下降させ、図30に示すように、位置決め用のピン261,262を核酸検査カード700の位置決め用穴に挿入し、電流プローブ186が対応する電極に接触する前に、プローブ支持体26を停止させる。
(2)次に、さらに位置決めを行うために、NCバルブ軸モータ185を駆動して、NCVロッド23を上昇させ、先端部が一番高い位置にあった第2ロッド221の先端部が対応する片持ち梁に接触する前にNCバルブ軸モータ185を停止させる。
以上の前工程を追加することにより、より精度の高い位置決めを実現することができる。
核酸検査装置110は、図18に示すように小スペースの筐体の中に必要なモータ等をコンパクトにまとめてあり、また、図16に示すように排熱にも配慮しているため、小型化が実現でき、また消費電力も抑制できる。
上述した実施形態で説明した核酸検査装置110の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、核酸検査装置110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
また、核酸検査装置110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。