JP2016060913A - 熱硬化型バインダー組成物及びこれを用いた無機繊維製品 - Google Patents
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Abstract
Description
無機繊維製品は、一般的に、無機繊維にバインダーを付着させ、集積して目的の無機繊維製品の形状の集積体とした後、加熱し、バインダーを硬化することにより製造されている。バインダーとしては、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られるフェノール樹脂を主成分としたもの(以下、フェノール樹脂系バインダーということがある。)が、比較的安価で、機械的強度等の性能に優れた製品が得られることから汎用されている。
該改正建築基準法においては、ホルムアルデヒド放散量が、JIS A1901により測定されるホルムアルデヒド放散速度として5μg/m2・h以下のもの、又は原料にホルムアルデヒドを使用していないものは規制対象となっていない。そのため、バインダーとしても、ホルムアルデヒド放散速度が5μg/m2・h以下のもの、又は原料にホルムアルデヒドを使用していないものが要望される。
したがって、ノンホルムアルデヒドタイプのバインダー組成物であって、フェノール樹脂系バインダーと同等かそれ以上の優れたバインダー性能を発揮し得るものが求められる。
[1]糖質又は糖質とフェノール類との混合物である第1成分と、アンモニウム塩と、界面活性剤とを含有する熱硬化型バインダー組成物。
[2]ホルムアルデヒドを実質的に含まない[1]に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[3]前記糖質が、グルコース、フルクトース及びショ糖からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[1]又は[2]に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[4]前記アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[3]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[5]前記界面活性剤が、イオン系界面活性剤を含む[1]〜[4]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[6]前記界面活性剤が、アニオン界面活性剤を含む[1]〜[5]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[7]前記界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのいずれか一方又は両方を含む[1]〜[6]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[8]前記第1成分が、糖質とフェノール類との混合物であり、
前記フェノール類が、多価フェノール類である[1]〜[7]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[9]前記多価フェノール類が、レゾルシノール、タンニン、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール及びリグニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[8]に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[10]前記第1成分に対する前記アンモニウム塩の割合が1〜30質量%である[1]〜[9]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[11]前記第1成分と前記アンモニウム塩との合計に対する前記界面活性剤の割合が0.01〜1.0質量%である[1]〜[10]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[12]前記第1成分が、糖質とフェノール類との混合物であり、
前記糖質に対する前記フェノール類の割合が0.1〜30質量%である[1]〜[11]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[13]シランカップリング剤、撥水剤及、発塵防止オイル、硬化調整剤、硬化促進剤及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する[1]〜[12]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[14]シランカップリング剤を含有し、
前記シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、メタクリロイル基含有シランカップリング剤、アクリロイル基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤及びイソシアネート基含有シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である[13]に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[15]硬化調整剤を含有し、
前記硬化調整剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、平均分子量160〜500のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン及びジグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である[13]又は[14]に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[16]前記シランカップリング剤及び前記硬化調整剤の両方を含有する[13]〜[15]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
[17][1]〜[16]のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物を用いて無機繊維を成形してなる成形体を備える無機繊維製品。
[18]前記無機繊維が、グラスウール又はロックウールである[17]に記載の無機繊維製品。
第1成分は、糖質であるか、又は糖質とフェノール類との混合物である。
本発明のバインダー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、糖質、フェノール類、アンモニウム塩及び界面活性剤以外の他の成分をさらに含有してもよい。
糖質としては、例えば単糖、オリゴ糖、多糖、それらの誘導体等が挙げられる。
本発明において、「オリゴ糖」は2以上10以下の単糖が結合したものとし、「多糖」は11以上の単糖が結合したものとする。
オリゴ糖としては、例えばショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトース等の二糖;マルトトリオース、ラフィノース等の三糖;マルトオリゴ糖;イソマルトオリゴ糖;フラクトオリゴ糖;マンノオリゴ糖;ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。
多糖としては、例えばデンプン、プルラン、デキストリン、ポリデキストロース等が挙げられる。
単糖、オリゴ糖又は多糖の誘導体としては、例えば、配糖体、加工デンプン等が挙げられる。
これらの糖質はいずれか1種を単独で用いても2種以上併用してもよい。上記の中でも単糖が好ましい。
本明細書では、水分と糖質を含み液体状になっている原料を液状糖質原料という。
フェノール類としては、植物原料由来系フェノール類、化石燃料系フェノール類等が挙げられる。
植物原料由来系フェノール類としては、例えばフラボノイド系のタンニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、イソフラボン、フェノール酸系のクロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン、リグニン等のポリフェノール、カルダノール、カシューナッツシェルリキッド等が挙げられる。
化石燃料系フェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、トリメチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。
これらのフェノール類はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
水溶性のフェノール類とは、20℃の水への溶解度が2g/100mL以上のフェノール類を示す。
水溶性のフェノール類としては、例えばタンニン、フェノール、クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。
多価フェノール類としては、レゾルシノール、タンニン、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール及びリグニンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、レゾルシノール及びタンニンのいずれか一方又は両方が特に好ましい。
アンモニウム塩としては、無機系のアンモニウム塩、有機系のアンモニウム塩等が挙げられる。
無機系のアンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
有機系のアンモニウム塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等が挙げられる。
これらのアンモニウム塩はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、本発明の効果に優れる点から、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。
これらの界面活性剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
アルキル硫酸エステルナトリウムとしては、アルキル基の炭素数が8〜24であるものが好ましく、該炭素数が10〜18であるものがより好ましく、ドデシル硫酸ナトリウムが特に好ましい。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとしては、直鎖アルキル基の炭素数が8〜24であるものが好ましく、該炭素数が10〜18であるものがより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
他の成分は、糖質、フェノール類、アンモニウム塩及び界面活性剤以外の成分である。
他の成分としては、無機繊維製品等の製造に用いられる熱硬化型バインダー組成物に配合しうる成分として公知の各種成分のなかから適宜選択して使用できる。例えば、シランカップリング剤、撥水剤、発塵防止オイル、硬化調整剤、硬化促進剤、尿素、メラミン、フルフラール、フルフリルアルコール、アンモニア、水等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。典型的には、シランカップリング剤、撥水剤、発塵防止オイル、硬化調整剤、硬化促進剤及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種が、必要に応じて適切量添加される。
なお、シランカップリング剤は、無機繊維とバインダー組成物との間の接着強度を高めることで強度等の特性を向上させると考えられる。硬化調整剤は、バインダー組成物の流動性を高め、無機繊維間の接着効率を高めることで強度等の特性を向上させると考えられる。シランカップリング剤と硬化調整剤との組み合わせは、それぞれの作用を阻害しにくい。
アミノ基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするアミノ基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えばN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。
ビニル基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするビニル基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えばビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
メタクリロイル基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするメタクリロイル基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えば3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
アクリロイル基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするアクリロイル基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えば3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするエポキシ基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えば2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
ウレイド基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするウレイド基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えば3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
イソシアネート基含有シランカップリング剤は、加水分解してシラノール基を生成し、無機成分との結合を強固にするアルコキシ基と、有機成分との結合を強固にするイソシアネート基とを同一分子内に持つ炭化ケイ素化合物の総称であり、例えば3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらのシランカップリング剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。上記の中でも、無機繊維製品の強度等の特性がより優れる点で、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、イソシアネート基含有シランカップリング剤が好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤がより好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤が特に好ましい。
これらの硬化調整剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。上記の中でも、無機繊維製品の強度等の特性がより優れる点で、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、平均分子量160〜500のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン及びジグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、グリセリンが特に好ましい。
発塵防止オイルとしては、鉱物油ベースのオイルエマルション等が挙げられる。
硬化促進剤としては、リン酸化合物が好ましい。リン酸化合物としては、例えば、アルカリ金属の次亜リン酸塩、アルカリ金属の亜リン酸塩、アルカリ金属のポリリン酸塩、アルカリ金属のリン酸水素塩、アルキルリン酸塩等が挙げられる。前記アルカリ金属塩は、ナトリウム塩又はカリウム塩等が好ましく、例えば次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
水を含有させる場合、本発明のバインダー組成物の固形分濃度は50.0〜80.0質量%が好ましく、60.0〜70.0質量%がより好ましい。
本発明における固形分とは、水分以外の成分の合計である。例えば、糖質源として粉末状の糖質を用いた場合はその全てを固形分として取扱い、液状糖質原料のような、有効成分と水分とを含む原料を用いた場合は、それを固形分(糖質)と水分とに分けて取扱う。
固形分濃度とは、{(全体質量−水分質量)/全体質量}×100(質量%)で算出される値である。
ここで、「ホルムアルデヒドを実質的に含まない」とは、当該バインダー組成物の調製に際してホルムアルデヒド、又はホルムアルデヒドを含む原料(例えばフェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られるフェノール樹脂)が配合されていないことを示す。
本発明のバインダー組成物において、第1成分の含有量は、バインダー組成物の固形分全体を100質量%とした場合に、70.0〜97.5質量%が好ましい。該含有量の下限は、75.0質量%以上がより好ましく、77.5質量%以上がさらに好ましく、80.0質量%以上が特に好ましい。該含有量の上限は、95.0質量%以下がより好ましく、92.5質量%以下が特に好ましい。
第1成分は、硬化物の骨格を形成する成分であり、第1成分の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、バインダー性能が効率よく発揮され、得られる無機繊維製品の強度等の特性が良好である。一方、第1成分の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、無機繊維製品の成形を行う際に、所定の成形条件内(温度、時間)で硬化を完了させ、要求される性能を発現させやすい。
フェノール類の割合が前記範囲の下限値以上であれば、バインダー性能がより優れ、得られる無機繊維製品の強度等の特性がより優れる。一方、フェノール類の割合が前記範囲の上限値以下であれば、無機繊維製品の強度等の特性をより良好に維持でき、また、より経済的なコストでバインダー組成物及び無機繊維製品を製造できる。
バインダー組成物の硬化反応については後で詳細に説明するが、アンモニウム塩は、バインダー組成物の硬化反応において、糖質と反応するアンモニアの供給源、およびその後の反応で触媒として機能する酸性物質の供給源として機能する。
アンモニウム塩の割合が前記範囲の下限値以上であれば、無機繊維製品の成形を行う際に、所定の成形条件内(温度、時間)で硬化を完了させ、要求される性能を発現させやすい。一方、アンモニウム塩の割合が前記範囲の上限値以下であれば、バインダー性能が効率よく発揮され、得られる無機繊維製品の強度等の特性が良好である。
界面活性剤は、バインダー組成物の無機繊維への濡れ性を良くし、無機繊維間の接着性を高め、無機繊維製品の強度等の物性を高める効果がある。
界面活性剤の割合が前記範囲の下限値以上であれば、無機繊維製品の成形を行う際に、前記の界面活性剤による効果が充分に発揮され、要求される性能を発現させやすい。一方、界面活性剤の割合が前記範囲の上限値以下であれば、バインダー性能が効率よく発揮され、得られる無機繊維製品の強度等の特性が良好である。
本発明のバインダー組成物が発塵防止オイルを含有する場合、発塵防止オイルの含有量は、第1成分とアンモニウム塩との合計(100質量%)に対し、0.05〜10.0質量%が好ましい。
本発明のバインダー組成物が硬促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、第1成分とアンモニウム塩との合計(100質量%)に対し、0.50〜20.0質量%が好ましい。
本発明のバインダー組成物は、第1成分(糖質、又は糖質とフェノール類)と、アンモニウム塩と、界面活性剤と、必要に応じて他の成分と、を混合することにより調製できる。
本発明のバインダー組成物の熱硬化機構としては、カラメル化と類似した機構が考えられる。本発明のバインダー組成物を加熱すると、まず、5又は6員環構造を有する糖質が、アンモニウム塩由来のアンモニアと反応してグルコシルアミンとなり、次いで、開環を伴って1−アミノ−1−デオキシー2−ケトースを形成する。これは一般的にはアマドリ転移と言われるものである。引き続き、アンモニウム塩由来の酸性物質と加熱の影響で、脱水を伴いながら閉環し、ヒドロキシメチルフルフラール(以下、HMFという。)を生成する。HMFは熱的に不安定な化合物であり、生成したHMFは、連続的な加熱下のもと更に脱水を伴いながら他のHMFや予め配合されたフェノール類と反応する。この反応の進行に伴い硬化が進行し、やがて完結する。生じる硬化物は、カラメル様の構造又はその一部にフェノール類の骨格が導入された構造を有するものと推測される。
本発明のバインダー組成物は、無機繊維製品の製造用として有用である。ただし本発明のバインダー組成物の用途はこれに限定されるものではなく、従来、フェノール樹脂系バインダー等の熱硬化型バインダーが使用されている各種用途に使用できる。例えば鋳造用、摩擦材用、砥石用、ろ紙用、成形材料用、合板加工用、化粧板用、積層板用等が挙げられる。
本発明の無機繊維製品は、本発明のバインダー組成物を用いて無機繊維を成形してなる成形体を備えるものである。
無機繊維としては、特に限定されず、例えばグラスウール、ロックウール、セラミック繊維等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。無機繊維としては、汎用性、断熱性能の点で、グラスウール又はロックウールが好ましい。
本態様の無機繊維製品は、前記成形体からなるものでもよく、前記成形体以外の他の部材をさらに備えるものであってもよい。該他の部材としては、例えば梱包のための表皮材等が挙げられる。
本態様の無機繊維製品は、例えば断熱材、吸音材、その他各種成型品(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)等として利用できる。
本発明の無機繊維製品の製造方法としては、バインダーとして本発明のバインダー組成物を用いる以外は、従来、無機繊維製品の製造に用いられている公知の方法が利用できる。一例として、無機繊維に本発明のバインダー組成物を付着させる工程(以下、付着工程)、前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、製造しようとする無機繊維製品に対応した形状の集積体とした後、前記集積体を加熱し、前記バインダー組成物を硬化させて成形体を得る工程(以下、成形工程)、を順次行う方法が挙げられる。以下、各工程についてより詳細に説明する。
付着工程で使用する無機繊維としては、前記と同様のものが挙げられる。
無機繊維の繊維長や繊維径は、製造しようとする無機繊維製品に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、繊維径が3〜10μmの範囲内のものが用いられる。
無機繊維は、市販のものを用いてもよく、公知の方法により製造したものをそのまま用いてもよい。無機繊維は、一般的には、原料(廃ガラス、玄武岩、鉄炉スラグ等)を繊維化することにより製造され、繊維化方法としては、火炎法、遠心法等が挙げられる。これらの各種方法による繊維化は、対応する繊維化装置を用いて実施できる。
無機繊維に付着させるバインダー組成物の量は、特に限定されないが、通常、無機繊維(100質量%)に対し、バインダー組成物の不揮発分として、0.5〜20質量%の範囲内である。このバインダー組成物の量は、得られる成形体の物性(機械的強度等)に影響し、例えば付着させるバインダー組成物の量が多いほど、得られる成形体の機械的強度が高くなる傾向がある。
本発明において「不揮発分」とは、JIS K6910の5.6の規定に準じて測定される値を示す。
次に、前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、製造しようとする無機繊維製品に対応した形状の集積体とした後、前記集積体を加熱し、前記バインダー組成物を硬化させる。
成形工程は、公知の方法により実施できる。例えば、無機繊維製品として板状のものを製造する場合を例に挙げると、コンベア上に無機繊維を堆積し、この堆積物を、コンベアの上下方向から押圧して圧縮して集積体とし、これを加熱炉(硬化炉)に送り、加熱して前記バインダー組成物を硬化させることにより板状の成形体が得られる。
無機繊維の使用量(コンベア上に堆積させる無機繊維の量)や圧縮条件は、製造しようとする無機繊維製品の厚さ、嵩密度等に応じて設定される。
集積体の加熱条件(加熱温度、加熱時間)は、集積体中のバインダー組成物が硬化する範囲内であれば特に限定されないが、加熱温度は、180〜270℃の範囲内が好ましい。180℃未満であると、硬化が不充分となり機械的強度が不充分となるおそれがある。270℃を超えると、バインダー組成物の分解と、それに伴う歩留りの低下及び機械的強度の低下を招くおそれがある。加熱時間は、集積体の大きさ、加熱温度等によって異なり、特に限定されない。
以下の各例において「部」、「%」は、それぞれ、特に限定のない場合は「質量部」、「質量%」を示す。
各例で用いた材料を以下に示す。
グルコース:サンエイ糖化社製。
フルクトース:試薬、和光純薬工業社製。
75FG:異性化糖(グルコース、フルクトース等を含有)、固形分濃度75%、糖質全体に対してグルコースを45%、フルクトースを42%含有、群栄化学工業社製。
レゾルシノール:住友化学工業社製。
タンニン:MIMOZA、タンザニア産。
硫酸アンモニウム:宇部ケミカル社製。
リン酸アンモニウム:試薬、和光純薬工業社製。
クエン酸アンモニウム:試薬、和光純薬工業社製。
シュウ酸アンモニウム:試薬、和光純薬工業社製。
〔アニオン界面活性剤〕
ドデシル硫酸ナトリウム:試薬、和光純薬工業社製。
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:試薬、関東化学社製。
ステアリン酸カリウム:試薬、関東化学社製。
n−オクタデシルアミン塩酸塩:試薬、関東化学社製。
〔両性界面活性剤〕
ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン:ニッサンアノンBL、日油社製。
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート:試薬、和光純薬工業社製。
ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル:エマルゲン109P、花王社製。
ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル:ICN Biomedicals社製。
デシルグルコシド:群栄化学工業社製。
なお、「ポリオキシエチレン」の後の括弧内の数値は、オキシエチレン基の平均繰り返し数を示す。
シランカップリング剤1:KBM−602(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤2:KBM−903(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤3:KBE−903(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤4:KBM−573(N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤5:KBE−1003(ビニルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤6:KBM−503(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤7:KBE−403(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤8:KBE−585(3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製。
シランカップリング剤9:KBE−9007(3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製。
撥水剤:POLON−MF−33A、信越化学工業社製。
発塵防止オイル:マルレックス69、モービル社製。
硬化調整剤1:エチレングリコール、試薬、関東化学社製。
硬化調整剤2:ジエチレングリコール:試薬、関東化学社製。
硬化調整剤3:トリエチレングリコール:試薬、関東化学社製。
硬化調整剤4:ポリエチレングリコール200:試薬、関東化学社製。
硬化調整剤5:ポリエチレングリコール400:試薬、関東化学社製。
硬化調整剤6:プロピレングリコール:試薬、関東化学社製。
硬化調整剤7:1,4−ブチレングリコール:試薬、関東化学社製。
硬化調整剤8:グリセリン、試薬、関東化学社製。
硬化調整剤9:ジグリセリン(ジグリセロール):試薬、関東化学社製。
表1〜19にそれぞれ種類と配合量(部)を示した成分と、シランカップリング剤3と、撥水剤と、発塵防止オイルとを混合して、実施例1〜27及び比較例1〜19のバインダー組成物を調製した。
シランカップリング剤3の配合量は、バインダー組成物の固形分のうち0.3%、第1成分とアンモニウム塩との合計に対して0.15%になる量とした。撥水剤の配合量は、バインダー組成物の固形分のうち0.5%、第1成分とアンモニウム塩との合計に対して3.5%になる量とした。発塵防止オイルの配合量は、バインダー組成物の固形分のうち2%、第1成分とアンモニウム塩との合計に対して3.5%になる量とした。
各バインダー組成物は、固形分濃度65%の水溶液である。
各バインダー組成物は、固形分濃度65%の水溶液である。
ガラス繊維フィルター(ワットマン社製、グレードGF/A、角形460mm×570mm)を130mm×200mmに切出し、バインダー組成物60gにイオン交換水90gを添加したバインダー液に含浸させた。過剰のバインダー液を除去した後、90℃で3分間予備乾燥し、更に190℃で3分間加熱することによりバインダー液中のバインダー組成物を硬化させて成形体を得た。この成形体を100質量%としたとき、バインダー組成物の硬化物の割合は60質量%であった。
得られた成形体から25mm×100mmの試験片を10本切出し、固定ギャップは50mm、引張速度は3mm/分で引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定した。10本の試験片それぞれの測定値のうち、最大値と最小値を除いた8つの試験片の測定値の平均値を各例における引張強度とした。
なお、ガラス繊維フィルターは、評価を簡便に行うために無機繊維の代替品として使用したものであり、グラスウール等の無機繊維を用いた場合の結果と同様の傾向を示すと推定される。
なお、上記の測定方法においては、測定時の気温や湿度によって引張強度の測定値に若干の変動が見られる。そのため、対比を正確に行うために、同じ表に示した例(例えば表1の場合は実施例1及び比較例1)は、ほぼ同じタイミングで測定を行った。
バインダー性能の指標として、市販の無機繊維製品用のフェノール樹脂系バインダー(群栄化学工業社製、商品名:PL−6757)を用意し、これを参考例Aのバインダーとした。
バインダー組成物の代わりにこのバインダーを用いた以外は前記と同様にして、成形体の作製及び引張強度の測定を行った。その結果、引張強度は5.84MPaであった。
実施例28、38、49、59、69にシランカップリング剤及び硬化調整剤のいずれか一方又は両方を加えた実施例29〜37、39〜48、50〜58、60〜68、70〜72における引張強度はそれぞれ、実施例28、38、49、59、69よりもさらに高かった。
また、実施例1〜72における引張強度は、現在汎用に使用されているフェノール系バインダーの性能(参考例A)と比較しても遜色ない優れたものであった。
界面活性剤の含有量のみ異なる実施例4〜8の結果から、該含有量が、糖質とアンモニウム塩との合計84.7部に対して0.1〜0.3部の実施例5〜7の結果が特に優れていた。同様に、実施例15〜19の結果から、該含有量が、糖質とフェノール類とアンモニウム塩との合計82.7部に対して0.1〜0.3部の実施例16〜18の結果が特に優れていた。
シランカップリング剤の種類のみ異なる実施例29〜37の結果から、シランカップリング剤の中でもアミノ基含有シランカップリング剤を用いた場合に引張強度の向上効果が優れることが確認された。
硬化調整剤の種類のみ異なる実施例50〜58の結果から、硬化調整剤の中でもグリセリンを用いた場合に引張強度の向上効果が優れることが確認された。
実施例70〜72の対比から、シランカップリング剤及び硬化調整剤の両方を併用すると、いずれか一方を用いる場合に比べて、引張強度の向上効果が優れることが確認された。
Claims (18)
- 糖質又は糖質とフェノール類との混合物である第1成分と、アンモニウム塩と、界面活性剤とを含有する熱硬化型バインダー組成物。
- ホルムアルデヒドを実質的に含まない、請求項1に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記糖質が、グルコース、フルクトース及びショ糖からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記界面活性剤が、イオン系界面活性剤を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記界面活性剤が、アニオン界面活性剤を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのいずれか一方又は両方を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記第1成分が、糖質とフェノール類との混合物であり、
前記フェノール類が、多価フェノール類である請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。 - 前記多価フェノール類が、レゾルシノール、タンニン、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール及びリグニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項8に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記第1成分に対する前記アンモニウム塩の割合が1〜30質量%である請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記第1成分と前記アンモニウム塩との合計に対する前記界面活性剤の割合が0.01〜1.0質量%である請求項1〜10のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 前記第1成分が、糖質とフェノール類との混合物であり、
前記糖質に対する前記フェノール類の割合が0.1〜30質量%である請求項1〜11のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。 - シランカップリング剤、撥水剤及、発塵防止オイル、硬化調整剤、硬化促進剤及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1〜12のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- シランカップリング剤を含有し、
前記シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、メタクリロイル基含有シランカップリング剤、アクリロイル基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤及びイソシアネート基含有シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項13に記載の熱硬化型バインダー組成物。 - 硬化調整剤を含有し、
前記硬化調整剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、平均分子量160〜500のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン及びジグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項13又は14に記載の熱硬化型バインダー組成物。 - 前記シランカップリング剤及び前記硬化調整剤の両方を含有する請求項13〜15のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物。
- 請求項1〜16のいずれか一項に記載の熱硬化型バインダー組成物を用いて無機繊維を成形してなる成形体を備える無機繊維製品。
- 前記無機繊維が、グラスウール又はロックウールである請求項17に記載の無機繊維製品。
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